世にも奇妙な346プロ (326)
これはモバマスssです
オムニバス形式で投下していくので、書きたいと言う方がいらっしゃれば、是非投下して下さい
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486200104
杏「テレビにDVD、パソコン、スマホ、ゲーム」
杏「杏達が便利でらくーな生活を送れるのって、電気のおかげだよね」
杏「だから人間は地球の色んな資源を利用して、電気を作ってるんだし」
杏「電気の無い生活なんて考えられないからね」
杏「でもさー、石炭とか石油とか、そーゆー資源って」
杏「いつか必ず、無くなるときがくるんだよね」
杏「そんな時、一番身近で数が多くて、これからも増やし続けられる、資源になりそうなものって」
杏「ねぇ、なんだと思う?」
「地球に優しく人に厳しく」
ある日突然、電気が消えた。
最初はブレーカーが落ちたのかな?って思ったよね。
だって部屋の電気が消えた時、一番最初に思い浮かぶのってブレーカーだし。
とことこ歩いてブレーカーを見たけど、ちゃんとオンになってる。
じゃあ停電かな?なんてツイッターを開いたら、TLは停電の会話で持ちきりだった。
あー、どっかにおっきな雷でもおちたのかな。
いやいやいや、全員が同じ地域に住んでる訳じゃないんだしありえないでしょ。
テレビをつけてニュースを見ようにも、電気が切れててつかない。
ニュースサイトはまだ更新してないし、しばらくはツイッターで情報を集めようかな。
停電の影響で、各地で交通事故が起きてるっぽい。
電車も止まっちゃってるみたいだし、今から帰宅しようとしてた人は大変だね。
杏は家で良かったよ。
暗い部屋の窓を開けて外を眺めても、町中が真っ暗だった。
月の光が不気味に明るく街を照らす。
まぁ1、2時間もすれば元に戻るでしょ。
そしたらまたいつも通りの日常だよ。
そう、この時は思っていた。
翌日、テレビを付ける時までは。
翌朝起きて冷蔵庫を開ければ、内側から冷たい空気が溢れ出した。
おー、やっぱり電気復旧したんだね。
なんてお茶を飲みながら、テレビを付ける。
ニュースを見て、昨日の停電の原因を知りたいから。
『地球の資源は、もう底を尽きかけている。それによって昨晩、日本中で大規模な停電がーー』
難しい話はおいておいて、電気の供給が追いつかず、なおかつもうエネルギー資源がなくなりかけているらしい。
なんで今までそんな重要な事を言ってこなかったのか文句の一つも言いたくなるけど、だからって何が出来る訳でもないね。
まぁこれからは計画停電とかでなんとかやりくりしてくのかな。
『よって、我々人類は新たな資源の確保と活用の為ーー』
なんて能天気にチャンネルを変えようとした瞬間。
とんでもない言葉が飛び出した。
『人類の存続を図る為、安定した生活を継続する為。新世代の燃料として、人間を活用してゆく』
事務所へ着くと、今朝のニュースの話題で皆混乱してた。
そりゃーそうだよね。
人間を資源として活用?は?意味わかんないし。
倫理的にどうなのさ、とかどうやって活用するのさ、とか色々あるけど。
まぁきっとそれに関しては、公表されてないブラックな技術があるんだろうね。
いやいやいや、だって人間だよ?
資源として活用って、完全に死ぬか眠り続けるやつじゃん。
普通はみんなそんなの御免だし、杏だって嫌だからね。
「杏ちゃん…あの、朝のニュース見た…?」
「見た見た、なんなんだろうねアレ。批判ばっかりだったし」
「お菓子じゃダメなのかな?」
「無理があると思うよ」
不安に飲まれそうなユニットの二人と話しながら、のんびり着替えてレッスンを受けた。
まだこの時は現実味がなさ過ぎたんだよね。
ありえなさ過ぎて、ついていけてなかった。
考えたくなかったからってのもあるけどね。
レッスンを終えて部屋に戻り、テレビをつけてニュースのチャンネルに合わせようとする。
そんな事しなくても、どのチャンネルもニュースしかやってなかった。
『まず資源として、犯罪者と高齢者からーー』
真面目にありえない話をされると、ほんとに頭に入ってこないね。
淡々とし過ぎてて、坦々と話されててむしろ怖いよ。
ニュースキャスターも、これほんとに読んでいいの?みたいな表情してるし。
まとめると、これからは人間を資源として発電等のエネルギーにしていく。
まずは、犯罪者と高齢者とホームレスらしい。
もちろん、各地で批判やデモ活動はあったらしい。
けれどそれに参加していた人達は全員、行方不明になっているとか。
それはニュースからじゃなく、ツイッターで入手した情報だから正確性は確かじゃないし。
そして、そのツイートはもう消されているけど。
不穏な空気の中、落ち着かない雰囲気の中。
それでも、生活はいつも通りに続いていった。
それから2ヶ月。
街を歩いていても、全くお年寄りの人を見なくなった。
世界中で犯罪率は劇的に下がったらしい。
前は橋の下によくダンボールが敷いてあったりしたのに、それももうめっきり見なくなった。
公園のベンチでずっと寝ていた人達も見なくなった。
もちろん、いい意味ではなく。
帰ってゲームしよっかなーなんて思っていたあの頃が懐かしい。
今では、電気を使うのが怖くなってきた。
だって、この電気の燃料になってるのは…
頭を振って、嫌な事を思考の外に追い出す。
もう誰も、あの件についての報道はなくなっていた。
TLにも、その関連の呟きはあがらない。
暗黙の了解ってわけじゃなく、口に出して自分がそうなってしまうのが怖いから。
中世の魔女狩りじゃないけど、誰が何処で何を聞いてるかわからないからね。
なーんて家に帰って電気をつけようとして。
かち、かち。
…あれ?つかない。
ブレーカーが落ちたかな?停電かな?
そう思って、また。
2ヶ月前の夜の事を思い出した。
…まさか!
嫌な考えが頭をよぎった。
前回の停電の理由は、一瞬とはいえ資源が完全に尽きかけたから。
…今回も、同じ理由かもしれない。
だとしたら、次は。
どんな人が、資源にされちゃうんだろう。
翌日起きても、まだ電気は復旧してなかった。
仕方がないからのんびり歩いて事務所を目指す。
行き交う人々の顔には不安が溢れていて。
街全体が、恐怖に埋まっていた。
「おはよー、かな子ちゃん」
「あ…おはよう、杏ちゃん…」
「あれ?智絵里ちゃんは?」
「まだ来てないの…何時もだったら、もう来てておかしくないのに…」
昨日の停電のせいで、また怖くなっちゃったのかな。
直ぐに立ち直ってくれるといいんだけど…
なんて考えていると、事務所に電気が灯った。
「お、復旧したみたいだね。ニュース見よっか」
「そうだね、今は色々と情報を集めないと…」
ぴっ、と電源を入れる。
チャンネルを変えるまでもなくニュースをやっていた。
多分また、全番組ニュースなんじゃないかな。
『昨晩の時点で、犯罪者・ホームレス・高齢者のストックが尽きました』
「す、ストックなんて…みんな人間なのに」
「変な事は言わない方がいいよ。今は杏しかいないから大丈夫だけど、外だと誰が聞いて何言われるかわからないし」
なんて落ち着いた感じを装っているけれど。
内心、ものすごく不安になってた。
だって、一回尽きたのにまた電気がついたって事は…
『よって次は、ニート・無職者・そして労働意識の低い者となります』
…まずい!
智絵里ちゃんがこのニュースを見て早く事務所に来てくれるといいんだけど。
もし引きこもって外からの情報を遮断してしまっていた場合。
最悪の事態になりかねない。
智絵里ちゃんにラインや電話を飛ばすけど、既読はつかないし繋がらない。
プロデューサーに相談しておこう。
親御さんの方に連絡して貰って…親御さんがもう説得しようとしてる筈だよね。
杏達が今できるのは、いつも通りに働いて智絵里が戻ってきやすい環境を維持する事かな。
なんて考えていると、プロデューサーが現れた。
少し肩で息をしているところを見ると、走って探してたっぽい。
どうしたんだろ?
「杏…言いづらいんだけど、今後あんずのうたを歌うのは禁止だ」
「え?いやいやいや、なんで?持ち歌だよ?」
「あんずのうたの内容を思い出してみろ。今この状況で、働かないなんて歌を歌うのは自殺行為だ。下手したら観客ごと…」
…そうだ、あんずのうたは働きたくない人の歌。
そんなのをみんなの前で歌うなんて、不労働を促していると受け取られてもおかしくない。
そんな歌にコールなんていれられてしまうと、ファンの人達まで…
「…分かったよ、うん」
「悪いが、杏の為なんだ…」
結局それから、智絵里ちゃんが事務所に来る事はなかった。
なんど電話を掛けても、この電話番号は現在使われておりませんの通知しかない。
変なことを考えついちゃうのも嫌だから、もう考えるのはやめた。
きっといつか戻ってきてくれるよ、うん。
全国の色々なお店に、アルバイトの面接を求める電話が殺到したらしい。
各地では、自主的に節電をしている人や企業もあるとか。
おっきなビルの液晶パネルは、長らくついているのを見ていない。
電車の本数も、以前の半分以下になっていた。
自分が資源にされてしまうのを恐れ、自分が選定されてしまうのを少しでも伸ばすために、密告紛いの行為も横行している。
少しでも疲れたと言おうものなら、瞬時に通報されてしまう。
そのあと通報した人の姿を見た者もいないらしいけど。
駅前では宗教紛いの演説をしている人もいた。
何処からともなく現れた沢山のバスに乗せられ、直ぐさまいなくなってしまったけれど。
寒いのに暖房をつけているのを見られるとアウトな世界にまでなっちゃうなんて思わなかった。
おちおち外でスマホなんて使えない。
ライブは、一応開催しても大丈夫なものらしい。
疲弊した人達の心の癒しになるからーとかなんとか。
嬉しい事である筈なのに、全く楽しくない。
そりゃもう、持ち歌を歌うなだなんて、ね。
布団に包まって、TLを覗く。
呟くことはしないよ、何言われるかわからないからね。
TLを埋めるツイートは、以前の1割にも満たなくなっていて。
ほんとうに、つまらない世界になったなぁ。
翌日事務所に行くと、プロデューサーがソファに沈み込んでいた。
何か嫌な予感がする。
最近の雰囲気のせいですり減り切ってる心に、これ以上ダメージを受けたくないんだけどなぁ。
かと言って、聞かない訳にもいかないし。
「…どうしたの?プロデューサー」
「…かな子の親御さんから連絡があってな。夜中にひっそりとスイーツを作っていたら、隣の家の人に通報されたらしい」
「…ウソでしょ?」
「こんな事でウソをつける訳ないだろ…」
お互い、かなり疲れきってるみたいだね。
本来なら杏はもっと取り乱してただろーし、プロデューサーは怒鳴っててもおかしくなかった。
それよりも脳内には、今週末のライブどうしようなんて考えしかなくて。
それに気付いてしまった時、尚更悲しくなった。
トボトボ歩いて家に帰る。
なんだかもー、色々とどうでもよくなってきちゃったな。
何をしようにもしちゃダメ、したら通報みたいな世界で。
これからの人生、きっと楽しい事なんて残されてないだろうしね。
家のベッドでゴロンと転がり、スマホの写真フォルダを開く。
ユニットを組んだ頃の写真。
初めてのライブの写真。
アニバーサリーライブの写真。
どれもこれも、みんな笑顔で。
泣きそうだけど、とっても楽しそうで。
もう戻れないあの頃を思い浮かべていると、涙腺は仕事を放棄した。
…もう、いいよね。
だって、何もないんだし。
暖房をつけてテレビをつけて。
ゲームをセットしてコップにコーラと氷を入れて。
夜通し、ひたすら涙を流しながら遊んだ。
「…いいのか?杏」
「お願い、プロデューサー」
週末のライブ直前。
私はプロデューサーに、一つお願いをした。
正直断られると思ってたけど、プロデューサーは力強く頷いてくれて。
「杏はやるよ。杏は、歌うんだ。本当にごめんね、プロデューサー」
ステージが始まる。
会場には、サイリウムを両手に握りしめたファンのみんな。
持って来てくれる人は少ないだろうなって思って、事務所が用意したものだ。
照明の強さを、最大限まで上げて貰って。
泣きそうな気持ちを押し殺して、杏は叫んだ。
私達の、正義の為に。
全力で、ダッシュ。
「い、いやだっ!私は働かないぞっ!」
ザワザワと会場がざわめく。
一部の人から、怒号が飛ぶ。
でも、そんなの関係ない。
この歌は、自由の歌なんだから。
スタッフの人達がざわめく中、プロデューサーだけは多分笑ってくれている筈。
ひたすら叫ぶ。
涙を流しならが、それでも届ける。
やりたい事が出来ないなんで、やりたくない事しか出来ないなんて。
そんな人生、こっちが願い下げだ。
少しずつ、サイリウムが振られだす。
最初はなかったコールが、少しずつ入りだす。
途中で音楽が止まったが、そんなの関係ない。
「我々は絶対働かないぞー!」
「「「働かないぞー!!!」」」
会場と一体になって、声を上げる。
言いたい事を言って何が悪い。
願いを叫んで何が悪い。
ずっと心の底から求めてきたこの歌なんだ。
曲が流れない程度で、涙が流れてる程度で、私を止められる筈がない。
「働いたら、やっぱ負けだよねーー!!!!!」
うぉー!と言う歓声とともに、バタンと音を立てて会場のドアが開かれた。
黒い服を着た集団が、杏に向かって走ってくる。
でも、もう遅いよ。
杏は、歌いきったんだから。
「…とゆー夢を見たんだ」
あぁ、どうせなら。
本当に夢なら良かったのに。
終わり
こんな感じで投下していきます
大丈夫だと信じて、参加型でいきたいと思います
一応1レス目にそのような事を明言したつもりなので
次行きます。
>>1とは別の者です。
その場の思い付きですが、どうぞよろしくお願いします。
法子「人はみんな、色んな命を奪って生きてるって言うよね!」
法子「牛さんや豚さんだったり、魚とか、鳥とか!」
法子「目の前のご飯がいろんな動物の命から来てる。その命を使って、人間は生きてる」
法子「だから、人は食べる『命』に感謝して『いただきます』って言うんだよ」
法子「それはあたしもおんなじ!」
「ドーナツがいた教室」
これはアイドルのお仕事がだんだん増えて行って、あたしの大好きなドーナツもたくさん買えるようになった頃の話だよ!
ある日、あたしはいつもみたいに美味しいドーナツを頬張ってたの。
するとね。プロデューサーがやって来て、こんなお話をしてくれたんだ。
P「ドーナツがどうやって出来るか知ってるか?」って。
それで、
法子「知ってるよ! 小麦粉と牛乳と玉子とお砂糖を練った生地の真ん中をくり抜いて、油で揚げてるんでしょ?」
って言ったら、
P「それは迷信だ」
って言われたの。
え? どういうこと? って聞いたらね。
プロデューサーが教えてくれたことに、あたしすっごくびっくりしちゃった!
なんとなんとー……
P「実はな。ドーナツは元々生き物なんだ」
P「お前が今食べているドーナツは、立派な動物のお肉なんだぞ」
えええええええっ!?
それからプロデューサーが教えてくれたお話によると、ドーナツって言うのは
「スイーツ類フラワー科シュガー目ドーナツ」
って種類の動物なんだって。
そして元々ドーナツに穴は無くて、口や内臓が入ってる真ん中をくり抜いて揚げたものが、
今あたしが食べてるドーナツだってことも教えてくれたよ。
でも、お話だけじゃドーナツが動物だなんて実感わかないなーって思って、
それを正直にプロデューサーに言ったらね……
「そこで、法子にこんな仕事を持ってきたんだ」
「……法子」
「1からドーナツを育ててみないか?」
ドーナツと言えばあたし。あたしと言えばドーナツ。
そんなイメージが定着してるあたしだからこそ、この仕事を受ければテレビを通じてみんながドーナツの真実に気付いてくれる。
そしたら今食べてるドーナツに命が通ってることを知って、もっとドーナツを大切に食べてくれるかもしれない。
あたしにこのお仕事が来たのは、そういう狙いがあるんだって、プロデューサーは教えてくれた。
それならやるに決まってるよね! ってことで、あたしはドーナツを育てることにしたよ。
そしてOKを出してすぐ、ドーナツの雛が事務所まで届いたんだ!
ドーナツは人間と同じ「胎生」で、お母さんから産まれた子供のドーナツを専門の業者さんが売ってるんだって。
プロデューサーは「合鴨みたいなもの」って言ってたよ。あたしはカモのことはよく知らないから、あんまりピンとこなかったけど。
そんなことよりドーナツの話に戻ろっか。
事務所に届いた箱は時々「がさっ」て揺れて、「ドナー」って鳴き声も聞こえてきたんだ。
あたしは生きたドーナツってどんな姿なんだろーってワクワクしながら箱を開けたよ。
するとね、するとね! ほんとに穴が開いてなかったんだ!
箱の中には10円玉くらいのちっちゃいドーナツの雛がいてね!
穴があるはずの場所にはまたちっちゃい口と、キラキラした目があったんだ!
身体の色はうすい黄色で、クリッとした目であたしを見て「ドナー♪」って鳴くの!
すっっっっっごく可愛い!
もうメロメロになっちゃって、柔らかい身体をぷにぷにつつきながら頬ずりしちゃった!
ついでに「ドナ吉」って名前もつけたよ!
そんな出会いを経て、あたし椎名法子はドーナツの子供を育て始めたのです!
育成期間は1ヶ月。
ご飯は1日5回。朝、昼、おやつの時間、夜、そして夜食。
主なエサは牛乳と玉子と、あとはたまにお砂糖をあげる!
お風呂は1日1回。
動物なんだからちゃんとウンチの世話もしなきゃダメ。
スイーツ類はすっごく繊細で、エサはグラム単位できっちり量ってあげなきゃいけないし、
お風呂もお湯につける秒数をきっちり数えて、ウンチも素早く処理しなきゃいけない。
そうしないと、ちゃんと育たないんだって。
エサやお風呂の時間を測るのはすっごく気を遣うし、
ウンチは夜もするからあんまり寝ることも出来なかった。
正直、1ヶ月だけでもドーナツを育てるのは疲れるって思った。
でも……
法子「ドナ吉! ごはんだよー♪」
ドナ吉「ドナ! ドナー♪」
日がたつごとに大きくなってくドナ吉は、その分あたしに懐いてくれるの!
ご飯を持ってくと嬉しそうに鳴いて、あたしの指にすりすり甘えてくる。
もう本当にかわいいよ!
ドーナツがこんなにかわいい生き物だったなんて!
でも……お別れの日は、絶対に来ちゃうんだ。
当然だよね。だって食べるために育てたんだもん。
約束の1ヶ月後、業者の人がドナ吉を迎えに来た。
ドナ吉を箱に入れて、持っていこうとしたんだ。
その時のドナ吉の戸惑った顔が忘れられなくて、泣いて抵抗したよ。ドナ吉を連れて行かないでって。
……でもね。その時のプロデューサーの言葉が、あたしを大人しくさせちゃった。
P「法子がいつも食べてるドーナツは、みんなドナ吉みたいに愛情をこめて育てられるんだ」
法子「……!」
そっか。
やっと分かったよ、プロデューサー。
あたしは「命」を食べてたんだ。
命を奪って、あたしは生きてるんだ……
ドナ吉が連れていかれてしばらくして、あたしのところに一つのドーナツが届いた。
何も言われなくても分かったよ。
これ、ドナ吉だ。
ドーナツは、苦しくないように電気で気絶させてから真ん中をくり抜く。
そして食べられる外側を油で揚げて、あたしの知ってるドーナツになる。
チョコやクリームをトッピングされたドナ吉。
ゆっくり口に含むと、確かにあたしが今まで食べたドーナツの味がした。
……でも、今までで一番おいしかった。
ドナ吉。
あたし、これからはドーナツに感謝して食べるよ。
一つ一つの命をいただいてるって自覚して、ドーナツを食べるよ。
本当はドナ吉だって、他にあたしが食べたドーナツだって、もっと生きたかったもんね。
それを奪って、あたしは生きてるんだもんね。
ありがとう、ドナ吉。
ありがとう、ドーナツのみんな。
いただきます。
終わり。とりあえず便乗させていただきました。
こんな感じでいいのでしょうか?
ドナドナどーなー(ry
>>48
その発想はなかった
タイトル「ドナドナ」にすりゃよかったかな
読んでくださりありがとうございましたm(__)m
悠貴「女の子なら誰でも、きっと可愛さに憧れると思うんですっ」
悠貴「……なんて、ちょっと子どもっぽかったかな?」
悠貴「でも私は女の子らしく可愛くなりたくって、だからおまじないをしてみましたっ」
悠貴「おまじないは大成功っ!」
悠貴「みんなが可愛いって褒めてくれるようになりましたっ」
悠貴「だけど」
悠貴「可愛さを褒めるのって、人を褒めることなんでしょうか」
悠貴「あ」
悠貴「あなたのコーディネート、可愛いですねっ」
「絶対賛賞」
1.
「悠貴ちゃんって、シュッとしててかっこいいよね!」
「あ、うん……」
かっこいい。
私はよくそう言って褒めてもらえます。
今はやめちゃったけどジュニアモデルをやってた頃も、そう褒めてもらって、かっこいい衣装を着てましたっ。
今年から新しくクラスメイトになった女の子にも、そう褒めてもらえます。
だけど。
私は女の子らしく……可愛くなりたいんです。
だからかな。
その子に返す言葉もちょっと暗くなってしまったかもしれません。もちろん、悪気はないってわかってますっ。
だから私は笑って。
「あはは……ありがとっ」
「どうかしたの?」
「ううん。……あ、私部活行かなきゃ」
「? 行ってらっしゃい」
うーん。
可愛くなる方法、どこかにないかなぁ……。
2.
私は陸上部に入ってます。
学校に行く前に毎朝家の近くをランニングして自主トレーニングだって欠かしませんっ!
「乙倉、お前は短距離の才能あるな」
顧問の先生の言葉ですっ。
「ほんとですかっ!?」
「ああ、乙倉は足が長いからなぁ。一歩が大きいのは有利だぞ」
「あっ、そうですよね……」
教室でしたのと同じ笑みがこぼれました。
--足が長くてカッコいいね!
モデル時代、カメラマンさんにそう言ってもらえて、その後「表情が固いよー」とリテイクされてしまったことを思い出してしまいます。
「あの、私、もう一回走りますねっ」
その日は、新記録が出ませんでした。
3.
「ねえ、悠貴ちゃん、なにか悩みごと?」
「え?」
部活の終わり、更衣室で着替えていたら、同じ一年生の子がそんな風に話かけてきました。
悩みがばれちゃったのかとちょっぴりびっくりして振り返ると、その子は表情は独特で。
お泊まりの夜のナイショ話みたいな顔でした。
「もし、なにかあるんだったらあの『おまじない』やってみたら?」
「『おまじない』って?」
「あれ、悠貴ちゃん知らない? ……えっとね」
4.
深夜11時30分、玄関のカギを閉めましたっ。
こんな時間に出かけるなんて、ってお母さんは心配そうだったけど、そこは部活の自主トレのためにランニングと言ってなんとかごませたかな?
お母さんをだますみたいなちょっと心苦しさと、こんな遅くに家を抜け出すなんてちょっぴり悪いことしてるみたいなドキドキがまざった、不思議な気持ちですっ。
軽いジョギングのスピードで家から約10分、なぜだか部活で走るよりも息が上がっていました。
ちょっとはやく着きすぎちゃったから、今日聞いた話を思い出しながら『おまじない』の準備を進めようっ。
「夜の12時12分にね、あそこの駅に向かうの」
「でもそんな遅い時間に行くなんて……」
「だからこそ意味があるんだって! それでね?」
「う、うん……」
「もし駅に人がいなかったらほぼ成功! 後は、右から二列目の一番上のコインロッカーを開けて閉じるの」
「え、閉じちゃうの?」
「そう! それで後ろを振り返ると……」
あ。
いけない、いけない。
思い出すのに夢中になってたら、もうこんな時間っ! そろそろ準備しないと……。
(えーっと……右から二列目の一番上だから……)
伸ばした指の先に、取っ手のひやりとした感覚が伝わります。
可愛くなるための『おまじない』。
そのために高い身長が役に立つなんて、なんだか変な気分。
コインロッカーを開きます。
ぎぃ、という金属のきしむ音がして。
限界まで扉を引いたら、今度はゆっくりと閉じました。
がちゃん、という扉の閉まる音が誰もいない駅に響いたら、後ろを振り替えって。
そして……。
――振り返ると、真っ黒い服の『紳士さん』がいるんだって……!
5.
「初めまして乙倉様。この度はご利用頂き、誠にありがとうございます」
「あ、あの……えっと」
「乙倉様は初めてのご利用との事で、僭越ながら先ずは私の方から説明させて頂きます」
黒い服の『紳士さん』。
あの子はそう言っていたけど、本当に会ってみるとまさにその通りでした。
黒いスーツ……なのかな? あんまりにも真っ黒で、夜の暗さに溶け込んでいるように見えてしまいます。
そんな私の驚いた姿を見たのか『紳士さん』はつぶやきました。
服と同じように黒い帽子から少しだけのぞく口を開いて。
「とは言え乙倉様が心配される必要はございません。手順は非常に単純明快であると自負しております」
「は、はあ……」
「乙倉様の要望を『ご注文』頂ければ、たとえ如何なる無理難題であろうとも、こちらの技術の粋を以ってご用意致します」
「そのっ、本当に……なんでもですか……?」
「ええ。何でもです」
中学生のおまじない。
そんな感覚でやったらまさか本当に叶うなんて思わなくって、言葉がつまってしまいます。
だけど……『なんでも』。
普通に考えれば信じられないけど、でもそれを言うならこの『紳士さん』だって……。
私の、お願いは……、
「あ、あのっ……!」
「はい」
「みんなに、可愛いって言ってもらいたいんですっ……!」
私が言い終えると『紳士さん』は首を縦に振って、
「承りました」
と言いました。
「あの、それで私はなにをしたら……?」
「いいえ。何もされる必要はございません。乙倉様の『ご注文』は既に履行されております」
「え……あの、本当に……?」
「はい。それでは私は失礼致します」
「あ……」
『紳士さん』はそう言うと。
まばたきもしていないのに、いつの間にか消えてしまっていました。まるであの黒い服が本当に夜の暗闇だったみたいに。
「……」
私には、見てわかるような変わったところはありません。
これで……本当に……?
もしかして、今まで見ていたのはぜんぶ夢だったんじゃなかったのかなって、思ってしまいます。
時間を確認するとびっくりするくらい経っていて。
時計の針は、1時1分。
6.
次の日になりましたっ。
あの後、帰る頃にはもうずいぶんと遅くなっていて、こっそりと帰らなきゃいけないのが大変でしたっ。こんなに遅くにシャワーを浴びることなんて初めてだったから、明日のランニングは中止にしなくっちゃ。
あの『おまじない』は夢かもしれないけど、だけど信じたいからっ、いつもより念入りに髪や体を洗いますっ。
そして学校に行ったら……。
「悠貴ちゃん、今日も可愛いね!」
「えっ! ホントにっ……!?」
「うん、いっつも可愛くてうらやましいなぁ……」
「えへへ……ありがとうっ!!」
(いっつもって……!)
昨日までは「かっこいい」だったのに……やっぱりあの『おまじない』は、夢じゃなかったのかもっ!
もうちょっと話していたかったけど、先生が来ちゃったから、席に着かないとっ。
自分の姿がうつる窓ガラスを見つめてみても、今朝顔を洗ったときと同じで、いつも通りにしか見えません。
うーん……、本当に効果、あるのかなぁ?
7.
振り返ってみると、その日は一日中「可愛い」の連続でしたっ!
食べ方が可愛いね、とかっ。
走る姿が可愛いね、とかっ。
笑った顔が可愛いね、とかっ。
他にもいっぱい、とにかくいっぱい「可愛い」って褒めてもらえましたっ!
そのことがすっごく嬉しくて口元が緩んじゃったけど、そんな表情も「可愛い」って言ってもらるんですっ。
「えへへー、うれしいなっ」
「(悠貴ちゃん、今授業中だよ……っ)」
「(あっ、そうだった……えへへっ)」
「(あ、今の顔すっごく可愛い!)」
家に帰ってからも『おまじない』は続いていて、ご飯を食べるときやテレビを見てるとき、寝る前にもお母さんとお父さんに褒めてもらえましたっ。
実はこれはぜんぶ夢で、寝て起きたら元に戻っちゃうんじゃないかってちょっぴり心配だったけど、そんなことはなくって、次の日もその次の日もたくさん「可愛い」って言葉を聞けましたっ。
ありがとう『紳士さん』。
私、今、とっても幸せですっ!!
8.
普通どんなことでもずっと続けばあきちゃうはずですけど、でも「可愛い」って褒めてもらえるのだけはなんど聞いてもうれしくなっちゃいますっ!
女の子のお友達はたくさんそう言ってくれて、男の子からは、その……恥ずかしいんですけどっ、告白してもらったりもしました。
もちろん、髪や服装に気を使うのも忘れませんっ! そうしてがんばったことを見てくれる人がいて、ちゃんと褒めてくれるんですっ。
そんな生活がしばらくの間続いて、カレンダーは六月になりました。
中学校に入ってから初めての試験の季節ですっ。
9.
この時期は試験勉強のために、部活は中止になります。
だけど、私は日課のランニングはやめませんっ。だって走ることが好きだからっ!
……とは言っても、やっぱり勉強と運動の両方は大変で、ついつい夜遅くになっちゃうこともありますっ。
そんなある日のことです。
「わああ、もうこんな時間っ!」
昨日は遅くまで勉強をしていたせいか、いつもの時間に起きられませんでした……。
どうしよう、急がないと遅刻しちゃうっ……だけど。
窓の外を見れば六月らしく雨が降っていて、湿度が高く、髪はぼさぼさです。
「~~っ!!」
「可愛い」って言ってほしいのにっ!
こんなぼさぼさの頭じゃ、今日はあきらめるしかなさそうです……。
スニーカーをはいて玄関のドアを開け、傘をさして走ります。
どんなに気をつけても、やっぱり服はぬれちゃったけど。
10.
走ったおかげで学校にはなんとか遅刻せずに着きましたっ。
チャイムが鳴る二分前。先生はまだ来ていません。
息を整えてから自分の席に着くと、ななめ前のお友達からあいさつの言葉が。
「おはよう!」
「あっ、う、うん……」
こんな髪を見られちゃうのが恥ずかしいっ、手で抑えなきゃ!
そのときです。
その子が口を開いて、
「悠貴ちゃんのその髪型、可愛いね!」
「え?」
「可愛い」?
え? だって、今の私の髪はぼさぼさなんだから「可愛い」はずなんて……。
「それに制服も可愛いよね~、同じ服なのに悠貴ちゃんが着るとそれだけで可愛いもん」
「ちょっとまってっ。その、ぬれちゃってるんだよ……?」
「うん! だから可愛いよね!」
どういう、こと……?
ぼさぼさの髪はもしかしたらなにかの偶然で、たまたま「可愛い」ようになっているかもしれないけど……だけど。
ぬれて端がびしょびしょになっちゃった服が「可愛い」っていうのは、どう考えても普通じゃないよね……?
もしかしたら風邪でもひいてるのかもしれないと思ったけど、その子はいつもとなんにも変わらない調子です。
「……」
「? どうかしたの?」
「……えっと」
口を開こうとしたとき、ちょうどチャイムが鳴って、教室の前のドアから先生が入ってきました。
「ほらお前らー、席に着けー」
言いたいことはあるけど、さすがに先生の前でおしゃべりするわけにはいきません。
仕方ない、ホームルームの後で話そう。
そんな風に思っていたら、先生が教卓に封筒を取り出して、こう言いました。
「先週のテストが返ってきたから、名前を呼ばれたら取りに来てくれー」
あ! あのテストのこと、すっかり忘れちゃってた……。あんまり出来なかったから見たくないなぁ。
何人かのクラスメイトが先生に呼ばれるのを見ながら、どうか一問でも多く当たっていますようにっ、
と心の中でお祈りをしていました。
「次、乙倉」
「は、はいっ」
席を立ち上がって、先生からプリントを受け取ります。
点数は……うぅ、五十七点。この範囲は苦手だなぁ……。
わかってはいてもこうやって点数になって返ってくると、やっぱりがっくりしちゃいます。
とぼとぼと席に戻ると、ななめ前から声がして。
「(悠貴ちゃん、何点だった?)」
「(……笑わない?)」
「(そんなことしないって!)」
「(えっとね、五十七点……)」
ううぅ、やっぱり恥ずかしいっ。教えなければよかったかなぁ……。
そう考えながら、もじもじとしていたそのとき私は知らなかったのです。
もしそうしていれば、どれだけよかったのかを。
そしてその子はこう褒めました。
「(うん! やっぱりそれも、可愛いね!)」
11.
なにかがおかしい。
一度そう思ってしまうと、他のおかしさも次から次へと見つかります。
お弁当箱の開け方が可愛いね、とか。
靴のはき方が可愛いね、とか。
私のなんてことのない仕草を、みんなは「可愛い」って褒めてくれるけど、私がどんなにがんばっていても「可愛い」としか言ってくれないんです。
成功しても「可愛い」し、失敗しても「可愛い」。
いいことをしても「可愛い」し、悪いことをしても「可愛い」。
なにをしても「可愛い」し、なにもしなくても「可愛い」。
それなら、私はなんのためにいるんだろう。
みんな私を見てくれます。「可愛い」って褒めてくれます。
だけど、私がどんな外見なのか、私がなにをしているのか、考えてくれる人は誰もいません。
ただそこにいるだけで可愛くて、ただそれだけ。
そこにいるだけで可愛くて、そこにいるだけでいい。
そんなの怖くないはずがありません。悲しくないはずがありません。
みんなに褒めてもらった笑顔が、どんどんなくなっちゃうのが自分でもわかるけど、だけど誰かが言ってくれました。
――その表情も可愛いね。
12.
夜の12時、私はまたあの駅にいました。
前みたいなドキドキはこれっぽちもありませんでした。
こっそり家を出るような心の余裕も必要も。
だってお母さんとお父さんは、そんな姿も「可愛い」って言うのですから。
私はたしかに「可愛い」って言ってもらほしかったけど、それは褒めてほしいっって意味だったんです。ワガママだってわかってるけど、ちゃんと見てほしい。
きっと、これはバチ。
自分でがんばらないで、簡単に「可愛い」って言われようとしたバチ。
だから。
今日は『おまじない』を解いてもらうために、ここに来ました。
時間まで残り12分、一秒一秒がこんなに長く感じるのは初めてです。
「お久し振りでございます乙倉様。以後の調子は如何でしょうか」
前と同じように。
同じ時間に同じ手順をしたら、同じように『紳士さん』はあらわれました。
やっぱり真っ黒な格好で。
「あ、あのっ……! 私、今日はお願いがあって来たんですっ」
「はい。手続きの方法は前回ご説明致しました為、恐縮でございますが今回は省略させて頂いても宜しいでしょうか」
「私にかかった『おまじない』を解いてくださいっ! 私を、元に戻してっ……!」
ごめんなさい『紳士さん』今の私には会話をできるだけの余裕がないんです。
それと、勝手なお願いをしていることも。
「前回の『ご注文』をキャンセルされる、との事ですね?」
「はいっ、お願いしますっ……」
「差し出がましいのですが、理由をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか」
「誰も、私を見てくれないんです……。「可愛い」って言ってくれるけど、「可愛い」としか言ってくれないんです」
「成る程、成る程……」
「ごめんなさいっ、私……もう逃げたりしません。自分で、がんばりますからっ……!」
「そういう事でしたら承知致しました。……ご安心下さい、乙倉様」
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ」
『紳士さん』は優しくそう言ってくれました。
はあ、よかったぁ……。
怖かったです。悲しかったです。苦しくって嫌でした。
だけど、だけどこれで全部……!
「そんな悩みも、可愛いですよ」
以上です、ありがとうごさいました
速報への投下は初めてだったのですが、難しいですね
二つも投下されていて凄く嬉しいです
では、書き上がったので投下します
文香「最近は…日本どこでも電気が通っているので、あまりお世話になる事は少ないと思いますが…」
文香「オイルランプと言うのは、心に安らぎを与えてくれるものです」
文香「ランプの起源は、遡れば古代から…長くなってしまうので、今回は止めておきましょうか」
文香「時折、夜中に本を読むとき…私は、電球ではなくランプを灯します」
文香「明るいランプを持って、夜道を散歩したくなったりもします」
文香「小さく灯るランプの光は、優しくて、暖かくて」
文香「…ですが、光源が小さければ。光が弱ければ」
文香「それだけ、影が深く見えてしまいますね」
文香「照らされていない場所が、むしろ目立って見えてしまう」
文香「普段は見えないものが、見たくないものが…ランプの影によって浮かび上がってくるんです」
文香「…少し、暗くなってきましたね」
文香「ランプ…灯しましょうか?」
逆行ランプ
ふぅ…と大きく息を吐きながら、私はソファに座り込みました。
ダンスレッスンを終えて家に着く頃には、私はくたくたになっていて。
本を開くも読む気力がなく栞を挟んで閉じ。
のんびりと、夕陽を眺めて微睡んでいました。
昨日のライブの失敗が心を沈め。
気分を変えようにも何かをするは気力が起きず。
きっと今の私にはあれが限界なんだろう、などと。
勝手に納得し、思考の外に追いやりました。
沈みゆく太陽に染められる街は、とても綺麗で。
少しずつ住宅に電気が灯っていく光景は、とても素敵で。
自然の灯りが人工の灯りに代わってゆく瞬間が心地良くて。
ありふれた景色に包まれて、なんとなく幸せでした。
ふと、その時。
視界の中に、珍しい物を見つけました。
これは…オイルランプ、でしょうか?
何故こんな物が私の部屋に…
私はオイルランプなんて、買った記憶がありません。
ファンの方からの応援とも思えませんし、叔父か誰かが忘れて行ったのでしょうか?
とは言え、丁度いいですね。
折角ですから、灯してみましょうか。
燃料は入っているようです。
カーテンを閉め、部屋の電気を消し。
引出しからマッチを取り出し着火。
音もなく、少しずつ火は大きくなります。
…心地良いですね。
ゆらゆらと揺れる炎は、私の心を照らし暖めてくれるようで。
深呼吸しながら、ゆったりと。
暖かい空間の中に静かに溶け込んでゆきました。
どうせなら、紅茶でも淹れましょうか。
そう思い、振り返り。
私は、信じられない光景を目にしました。
ランプによって作られた、私の影に。
本棚しかなかった筈の空間に。
私一人しかいなかったこの部屋に。
ステージで踊る、私がいました。
「…え?」
何が起こっているのか、自分でも分かりません。
実際に目にしている私が一番信じられないのですから。
けれど、間違いなく。
影に映ったのは、私でした。
先日私が上手くいかなかったライブ。
あの日の衣装を着た私が、マイクを握り締めて精一杯歌っています。
その表情はとてもキラキラとしていて。
私なのに、私が見ているのはとても辛くて。
急いで、ランプを消しました。
「…ふー…」
暗くなった部屋の中、私は脱力して崩れ落ちました。
今のは、一体…?
疲れて脳がおかしくなってしまったのでしょうか?
そこまで疲れきっているつもりはありませんが…
今日のダンスレッスンも、あまりうまくいきませんでしたし…
もしかしたら、本当に疲れて幻覚を見てしまったのかもしれません。
それに、もう一度起こるかどうかも確かめたいですし。
そう思い、私は再びオイルランプに火を灯しました。
少しずつ、火は大きくなってきて。
ゆらゆらと揺れながら、影を濃くします。
すぅー…と大きく息を吸い。
私は、覚悟を決めて振り返りました。
…やはり、私がいました。
けれど先程とは違い、トレーニングウェアの姿で。
今日私が上手く踊れなかったダンスを、キビキビとした動きでこなしています。
もちろん、笑顔を絶やすことなく。
…見ていて、悔しいですね。
自分が上手く出来なかったからこそ、上手くいっている自分を見せられると言うのは。
ですが…これは、自分の為になります。
こうしてみていると、自分が出来ていなかったところがよく分かりますから。
ここの次のステップで、この様に右足をだせば…
この時、右手を伸ばせば綺麗に見える…
夢中になって上手な自分を見続けていると。
しゅん、と、私の姿が消えてしまいました。
部屋がまた暗くなった。
つまり、ランプのオイルが切れてしまった様です。
結構な量入っていたのに…いえ、この不思議なランプに常識は通用しませんね。
一度落ち着いて考えをまとめてみます。
ランプをつければ、思い浮かべた失敗を、上手く成功させた私が映る。
けれどその代わり、オイルの消費がとてつもなく早い。
冷静になってみれば、なんて事はありません。
…いやいや、何を私は…
非日常的過ぎるにも程があります。
ですが、実際に二度も目にしているのですから…
けれど、実際。
有効活用は出来そうですね。
それから私は、何かが上手くいかなかった日は家に帰るとオイルランプを灯しました。
人と上手く対話出来なかった日。
プロデューサーさんの目を見て話せなかった日。
オーディションの結果発表で落ちてしまった日。
なるほど、この様に繋げば次のトークを…
プロデューサーさんと目を見て話せている私は、幸せそうですね。
…ここは、こう言っておくべきでしたか…
もちろん、辛くはあります。
けれどそれによって、次は成功できる様にと。
それに、上手くいっている自分を見るのも幸せですから。
まるで自分が物語の主人公になったお話を読んでいるような、そんな感覚。
失敗も成功も、その両方を見てきた私だからこそ。
その次は、少なくとも以前よりは上手く出来る。
このランプさえあれば。
最悪の話、自分が現実では上手くいかなくても。
成功した私を見る事が出来るから…
ここまで語れば、物語の真意を見抜けたと思っているかもしれませんね。
きっとあなたはこう考えている筈です。
きっとその不思議なランプに依存してしまい。
現実と理想の区別が付かず、ずっと成功した自分を見続ける。
…ふふっ。
もし本当にそうでしたら。
私は今こうやって、あなたに語ってはいませんよ?
さて、では。
物語の、次のページに向かいましょうか。
はい、ご想像の通り。
最初は完全に依存しきっていました。
ですが、経験を重ねていくうちに。
そもそも、あまり失敗しなくなったんです。
そこに至るまでに、数々の失敗と長い時間はかかりましたが。
と、言うよりも。
ランプに頼るまでもなく。
プロデューサーさんが、私を支えて下さいましたから。
上手くいかずに沈んでいる私を励ましてくれて。
上手くいかなかったときに改善点と解決案を示してくれて。
上手くいかないと思っていた部分が出来る様になって。
私は、成長出来ました。
もちろん時たま、私はあの不思議なランプをつけました。
ですがそれは、仕事に関してではなく…秘密ですよ?秘密です。
それに、やっぱりオイルランプの灯りは優しくて。
心が温まりますから。
はてさて、そんな私の悩み。
それは、既に起こった過去ではなく今の事。
それは、今はまだ知る事の出来ない未来の事。
ずっと私を支えてくれた人に。
一緒に歩いて進んでくれた人に。
私が想いを寄せる人に。
私の想いを伝えるには、どうすればいいか。
こればかりは、この不思議なランプでもどうしようもなく。
普段相談に乗って下さっている方に相談するわけにもいかず。
上の空でパラパラと本のページを捲りながら。
夕方の窓辺で、夕日と苦悩に包まれていました。
きっと今の私なら、上手くいくかもしれません。
そうであって欲しいですし、そうでないと辛いですし。
ですが、そんな簡単に伝えられるのなら。
私はここまで悩んでいません。
最近は上手くいっていたからこそ。
尚更、失敗してしまった時が怖い。
成功に慣れてしまったからこそ、成功した自分を見てきたからこそ。
余計に、不安は募りました。
ふぅ…と大きくため息をつくも、高い空へと吸い込まれてゆきます。
途中で何かにぶつかる事も、それが誰かへ届く事もなく。
何かをする訳でもなく、何かを出来る訳でもなく。
ただひたすらに、部屋の外を眺めていました。
沈みゆく太陽に染められる街は、とても綺麗で。
少しずつ住宅に電気が灯っていく光景は、とても素敵で。
自然の灯りが人工の灯りに代わってゆく瞬間が心地良くて。
ありふれた景色に包まれて、なんとなく幸せでした。
…そう言えば。
あのランプは、オイルさえあればずっと。
成功した私を見続ける事が出来ます。
で、あれば。
もし私の告白が上手くいかなかったとして。
果たして、何の問題があるんでしょうか?
それに気付いた途端。
先程までの悩みが、すべて阿保らしく思えてしまいました。
あのランプがある限り、別段私が成功する必要は無いんですから。
ずっと、上手く生き続ける私を眺める事が出来るのですから。
…そうと決まれば。
大きく息を吸い込み。
今までの彼とのやりとりを思い出し。
何があっても支えて下さったこれまでを思い出し。
現実に、彼と向き合って話し合った日々を思い出し。
理想で留まっていた私を現実にしてくれた彼を思い出し。
失敗も成功も受け入れてくれた彼の笑顔を思い出し。
そんな時、私がどれ程幸せだったか思い出し。
私は思い切り、ランプを床に叩きつけました
…私の物語は、これでおしまいです。
ご静聴、ありがとうございました。
そして、これからは…
私とあなたの物語なのですから
終わりです。
よろしければ、気が乗った方は是非投下して下さい
書き終わったので投下します
肇「畳って、いいですよね」
肇「夏は冷たくて、冬は暖かくて」
肇「和室自体、アパートは難しいですがやっぱり素晴らしいものです」
肇「そう言えば、昔中学生の頃。体育で柔道をする時、体育館に畳を敷いてやっていたんですよ」
肇「でも時たま、ふざけた男子が畳を高く積み重ねて遊んでいて」
肇「不安定だったからか、倒れてぶつかって怪我をしている人もいました」
肇「そう。畳は敷いてあるもの、なんて一般常識ですが」
肇「そんな固定概念が、ひっくり返る事もあるんです」
肇「…空、雲ってきましたね」
肇「傘、差しましょうか」
肇「降ってくるものが、雨とは限りませんが」
「畳返しの天気予報」
人間誰しも、行き詰まりを感じることはあると思います。
学力の伸び悩みや短距離走のタイムの伸び悩み。
絵を描こうにも、文章を書こうにも、どうにも筆が進まなかったり。
気分的な問題だったり、どうしようもない問題だったりと色々ありますが。
兎にも角にも、前へ進めない事がありますよね?
そう言えば、短距離走だったりのタイムって、実際は縮むな筈なのに伸ばすと言いますよね。
いえ、あれはきちんとした理由が…っと。
話が逸れましたね。
私の趣味は陶芸で。
私は今、アイドルをやっています。
ですがその両方で、行き詰まりを感じていたのです。
どうにも、思った通りの器が出来上がらない。
どうにも、満足のいくパフォーマンスが出来ない。
どうにも、納得いく形に仕上がらない。
上手くいかないのが悔しくて挑んで、また失敗の繰り返し。
何度も何度と失敗を積み重ねて、その先に成功がある事は知っています。
けれど、ただひたすらに同じ事を繰り返すだけでは。
きっと前へは進めない。
その為に何か、きっかけが欲しかったんです。
ですが、私個人が願ったところでこの世界が何か変わる訳もなく。
朝起きてレッスンを受けて夜眠り。
特異な事が起きる事も特になく、日常はいつも通りに前だけに進み。
私一人だけ、取り残されてしまった様な感覚になりました。
何か、特別な事が起きないかな。
何か、日常に変化があれば。
何か、普段とは違う日を過ごせたなら。
疲れて畳の上で寝転がり。
そんな事を考えているうちに、私は眠りに落ちていました。
「…はっ…寝てしまいましたか…」
畳の心地良さは、もはや魔力ですね。
まだ重い瞼を擦り、ゆっくりと身体を起こします。
そのままルーチンワークになっている、テレビをつけて天気予報の確認。
雨がふるのであれば、洗濯物を取り込んでおいたり早めに出なければいけませんから。
その時、ふと。
何か、違和感を覚えました。
なんとなくですが、床が硬いんです。
いえ、柔らかい床ってどうなんだ?と言われたらそれまでですが。
テレビの起床予報士は、いつも日本地図の前で低気圧の移動や温度の変化を解説しています。
今日の東京の天気は…
『今日は全国各地で畳です。みなさん、ご注意下さい』
「…は?」
辛辣というか、間の抜けた声が出てしまうのも仕方ありません。
今日は、全国各地で…畳?
何を言っているのか分かりません。
畳なんて天気は、当たり前ながら聞いた事がありませんでしたから。
え?畳?
畳を干す絶好の日和と言う事でしょうか?
これを機に畳を買い換えようと言う、畳屋の宣伝でしょうか?
それとも本当に、畳が降ってくるんですか?
意味がわからず、息を吐きながら顔を上へとむけました。
情報を整理しようとして、思考を回そうとして。
そして、私は。
天井に張り付いている、床に敷かれていた筈の畳を目にしました。
慌てて外に出るも、他の人たちが慌てふためいている様子はありません。
誰もが当たり前の様に、買い物袋やスマートフォンを片手に歩いています。
一体、なんだったんでしょう…?
首を傾げていると、フレデリカさんが此方へやってきました。
「へーい肇ちゃん!げんきー?現金?現役?」
「私は現役でアイドルですが、元気とは言い難いですね…それと現金ではありません」
「あれー?肇ちゃんなら畳くらいぶつかっても返せそうだけど、どこか怪我しちゃった?」
「畳が飛んできたら、普通誰でも大怪我しますからね?…え?」
畳がぶつかっても、と言ったという事は。
畳に関して、何か知っているんでしょうか?
フレデリカさんの事だから、てきとう言っているという可能性もありますが。
「畳って、畳に何かあったんですか?」
「えー、肇ちゃん天気予報みてないの?そんなんじゃパリジェンヌになれないよー?」
「なろうとも思わないので結構です。それで、本当に畳がどうなっているんですか?!」
「だからさー、今日は畳だよ?畳が飛んでっちゃうんだから、肇ちゃんは怪我してないかなーって」
フレデリカさんの話を、ようやく要約出来ました。
つまるところ、今日は畳が空へと飛んで行ってしまう日だという事。
天気予報でもやっていたように、雨や雪が降るではなく床に敷いてあった畳が空へと浮かび上がっていく。
そんな天気の日なのだ、という事。
…意味がわかりません。
当然、最初はフレデリカさんを疑いました。
けれど、今朝の光景を思い出し。
そして…
「みてみてーほら、スタイリッシュ畳返しみたい!」
フレデリカさんの指差す方を見れば、中学校か高校の体育館の窓から大量の畳が飛び出して行きました。
おそらく、柔道用に体育館の床に敷く畳なんでしょう。
それが、まるで風船の様にぶわぁっと空へ空へと浮かび上がってゆきます。
もう、私の脳がオーバーフローしそうでした。
まるで意味がわかりません。
ですが、周りの人達は誰一人として驚いておらず。
まるでそれが当たり前の光景の様に、いつも通りの行動をしており。
私は、難しい事を考えるのはやめました。
レッスンを終え家えと帰ると、畳は未だに天井にはりついていました。
天気と言えば空から何か降ってくるものだとばかり思っていましたが。
そんな常識が、まるで畳の様にひっくり返ってしまった世界へと迷い込んでしまったのでしょう。
この世界では、きっと空へ向かって飛んでいくものを天気と言うのでしょう。
確かにまだ不安はありますが。
けれど、それよりもむくむくと楽しみが湧き上がっていました。
今まで見た事のない現象を目にしている。
ありえなかった筈の、常識外れな光景。
それは私にとって、大きな変化をもたらしてくれる筈です。
常識にとらわれず。
いつまでも同じ事を繰り返すだけの日々から抜け出し。
違った観点や価値観や概念を手に入れる事で。
きっと、新しい自分を見つけられる筈です。
ドキドキしながら、テレビをつけて。
明日の天気予報を確認します。
『明日は、全国各地でチラシとゴミ袋です』
「…ふふっ…すごい、すごいです!」
ワクワクしながら、明日の天気を楽しみにしました。
一体、どんな光景が見られるんでしょうか。
気になって気にって、仕方がありません。
全てが新しいこの環境が面白くて、私は気分を冷ます為に窓を開けました。
ガサゴソ、ガサゴソ
外から、ビニール袋の音が聞こえました。
一体なんでしょう?
気になって外を覗くと、沢山の人がビニール袋を抱えて歩いていました。
そしてそれを、近くの電信柱の元に投げ捨てて帰って行くのです。
…不法投棄、ではないですよね?
見れば、近所の殆どの人がやっていますし。
と、そこで。
先程の天気予報を思い出しました。
明日は、チラシとゴミ袋。
つまり、外にゴミ袋を出しておけば。
勝手に空へと飛んで行ってくれるのです。
逆に、家の中に置いておくと、今の私部屋の畳の様に天井に張り付いてしまいますから。
天井の高い家でそうなってしまっては、取れなくて大変ですからね。
成る程、こんな常識外れの世界だからそ。
普通ではありえない事が、常識になっている、と。
ならば私もこうしてはいられません。
早く、ゴミを纏めて外に捨てなければ。
翌日起きれば、外に捨てたゴミ袋がなくなっていました。
周りを見渡せば、空へと浮かび上がっていくゴミ袋と路上に落ちていたチラシ。
汚い筈なのに、とても綺麗に写って。
思わず写真を撮りたくなってしまいました。
その日のダンスレッスンは、とても上手くいきました。
新しい事満載な世界で、楽しさが心を渦巻き。
おかげでモチベーションとテンションが高く、終始笑顔で。
時間がかなり余ったので陶芸教室にも行ってきました。
少し形は崩れてしまいましたが、なかなかの出来ではないでしょうか。
普段よりも上手いとは言い難いですが、やはり楽しいと言う思いは器にこもるみたいです。
満足げに家へと帰ると、天井に張り付いた畳がお迎えしてくれました。
『明日は、カーペットです』
『明日は、すのこです』
毎日が新鮮で、少し不便になる事もあるけれど楽しい日々。
ですが、そんな非日常な世界で。
その世界でも更に非日常な事が来た時、私はとんでもない世界に来てしまったのだ、と。
改めて、気付かされてしまいました。
明日は、どんな天気かな。
ピッ、と。
テレビをつけました。
チャンネルをニュースに合わせて…
そんな事をしなくても、つけたチャンネルはニュースをやっていました。
ですが、気象予報士の人の顔は、何処か曇っています。
一体、何かあったんでしょうか。
『…明日は、線路と電車です。みなさん御注意下さい』
…え?線路と、電車…?
テレビの端に映った速報をみれば、既に全国各地の電車は運行を中止し。
線路の近くの住人は避難を開始しているとの事。
おそらく、これはこっちの世界の天気による災害なのでしょう。
雪や台風はない代わりに、電車と線路が飛んで行ってしまうなんて。
下手したら、いえ、下手しなくても。
世界が大変な事になってしまいます。
ですが、私が何かを出来るわけも無く。
不安に溺れ、眠りにつきました。
翌日起きてすぐテレビをつけました。
どのチャンネルも、同じニュースで持ちきりです。
電車が浮かび上がっていってしまった事による、渋滞や事故。
浮かび上がっていく途中に電線を巻き込んでしまい火災や停電。
慌ただしく、ニュースキャスターが次々と舞い込んでくるニュースを呪文の様に唱えていました。
事務所へ行こうにも、電車がないのでどうしようもありません。
おそらくこんな日にタクシーが捕まるともおもえませんし、下手したら事務所へ来ている人の方が少ないでしょう。
仕方がないので、家でニュースを見ていました。
こんな時、一人で家にいなければいけないなんて。
知らない世界で慣れない事故の情報を見続けるのが怖くなり、私はテレビを消しました。
天井では、畳が私を笑うかの様に張り付いてしまいた。
…んん…
気付けば、もう夜になっていました。
寝てしまっていた様ですね。
目が覚めた時、最初にこの世界へ迷い込んできて時の事を思い出しました。
…私が、非日常を望んでしまったから。
特別な何かがおこらないかな、なんて思ってしまったから。
こんな世界になってしまったんでしょうか?
だとしたら…
なんとなく、テレビをつけました。
明日の天気を確認しないと…
下手したら、怪我では済みませんから。
ニュースキャスターから気象予報士へと画面が移り変わります。
そんな気象予報士の顔は。
昨日よりも、ずっと曇っていて…
『明日は、土や泥です。みなさん、十分に御注意下さい』
…え?
泥が、土が、なくなる?
そんな事になったら…
恐怖と不安と焦りが渦を巻き、私はパニックに陥りそうでした。
テレビのリモコンを持った私の手が震えます。
うそ…うそ!
土が、泥がなくなってしまったら…!
嫌です!嫌です!そんなのいやだ!
叫んだところで、誰も反応してくれません。
それどころか、外では部屋に置いていたであろう植木鉢を外に捨てている人がいて。
それが当たり前の世界が認められなくなって。
ごめんなさい!私がこんな世界を望まなければ!
こんな事には…ならなかったんですよね!
回線が潰れているからか、誰にも連絡は通じません。
誰にも相談できません。
誰にも不安と悩みを打ち明けられません。
怖くて、辛くて、苦しくて。
ごめんなさい!ごめんなさい!
そう連呼し、叫び、涙を流し。
その瞬間。
頭に何かがぶつかり、私は意識を失いました。
目をさますと、当然ながら私の家でした。
見慣れた天井に、見慣れた壁。
…へ?天井?
ばんっ!と飛び起きると、やはり天井は天井でした。
つまり。
昨日まで天井に張り付いていた畳が、剥がれている事になります。
ぐるぐると部屋を見回すと、畳が落ちていました。
「…ふふっ…ふふふふふっ…!」
別に、頭をうっておかしくなったわけではありません。
畳が部屋に落ちているのがおかしくて。
戻ってこれたのが嬉しくて。
土や泥が飛んでいかないのが嬉しくて。
一人、大笑いしてしまいました。
「なんて不思議な事があったんです」
「ふーん、フレちゃんも空飛んでみたかったなー」
「もう、あんな世界は御免です…」
レッスンを終えて、一息つき。
今まで私が体験してきた世界のことを、フレデリカさんに話してみました。
あれはもしかしたら、夢だったのかもしれません。
それでも、人に話すことでさらに安心しました。
外では雨が降っています。
そんな当たり前の天気が嬉しくて。
ステップを踏む様に、傘をさしてスキップしていました。
「でもさー、怖いよねー」
「もちろん怖かったです。だって、電車が飛んで行ったり
「そうじゃなくってさー」
ぺた、と。
私のビニール傘に、何かが張り付きました。
何処かから飛んできたのでしょうか?
これは…チラシ?
遠くで、ガサッ、と。
ビニール袋が落ちた音がしました。
「だって、もしかしたら降ってくるかもしれないでしょー?」
終わり
文香の話は、途中と最後の語りをしている文香がどちらなのか、を考えてみると面白いかもしれません
どちらとも取れるからこそ面白いものですからね
和久井留美「あら、文香ちゃん。その本って…」
留美「懐かしいわね、私も学生のころ読んだわ。そう、図書館で借りたのね?」
留美「あらっ。そのページ、所々に線が引かれてる。…そうそう、図書館で借りた本って、時たまそういう風に線引きされてたり文字書いてたりするのよねぇ」
留美「…」
留美「あっ、ごめんなさい。つい昔のことを思い出してね」
留美「何の話かって?」
留美「うーん…あんまり気持ちのいい話でもないけど、いいかしら?」
「図書の落書き」
あれは私が高校生の時だったかしら。そうそう、私が広島にいたときの話ね。
当時の私は、街の図書館で本をよく借りていたの。
それである日、シリーズものの小説を借りて読んでいたわ。
『△△』って。知ってる?流石、文香ちゃんなら知ってたか。
最終巻でいよいよ佳境ってときに、ページに書き込みがあったの。
せっかく集中して読んでいたのに、って腹が立ったわ。
…一体、何が書いていたのか、って?
ふふっ、それがこのお話の始まりよ。
「悔恨」って二文字と、数字とカタカナの羅列だったわ。
熟語はともかく、後の方の意味、文香ちゃんなら分かるんじゃない?
…そう、正解。図書館に入ってる本の請求記号ね。
図書館で本の検索した時に、「ここにありますよ」って教えてくれる本の住所みたいなもの。
最初は、私の前にこの本を借りた人が、他に借りたい本をリストアップした落書きなのかなって思ったわ。
でも、その書き込みが私の頭の中に焼き付いたように残ったのよね。落書きを無視してその本を読み終えたけど、本の内容以上に落書きのことが気になったの。
次の日の放課後、私は図書館に行ったわ。物好きかもしれないけど、請求記号に書かれた本の正体を知りたくて。
私もおそらく同じようにしていた?…ふふっ、文香ちゃんありがと。
話を戻さないとね。
その番号のところを探したら、意外と簡単に見つかったわ。何の本だったと思う?
哲学よ。誰だったか忘れたけど、ニーチェかヘーゲルか、ヨーロッパの哲学者の著作集。
でも、全く「悔恨」とは関係のないタイトルだったわね。
手に取って最初の数ページ読むけどチンプンカンプン!
そのまま棚に戻そうかと思ったけど、何かまた書いているかもしれないと思ったから、ページをめくり続けたわ。
そうしたらね、また落書きを見つけたわ。
思わず心の中で「よしっ」って叫んで...。
次は「贖罪」って文字と、これまた請求記号。
「贖罪」って文字にかなり興味を持ったわ。何の罪なんだ、何を償いたいんだ、って。
それから、その本に書かれた本を探して、ページをめくって次の本の手掛かりを探すっていう、奇妙な遊びが始まったの。
二冊目以降、探すの本当に苦労したわ。
請求記号の番号からして、私は一度も行ったことのない分野の本ばかりだったし。経済や物理の専門書とか。
それにようやく見つけたと思ったら本棚の一番上や下にあったりあるのよ?面倒ったらありゃしない。
中には書庫に保存している本もあって、司書さんにお願いして取り出してもらったこともあって…
戦中に書かれた本だったみたいで、「何で女子高生がこんな本を?」ってすごい怪訝な顔されたわ。
私だって、何のためにこんなことしてるのかしらって思ったわ。
でも、無性に気になってたからやめられなかった。
確か7、8冊目だったかしら?一種の作業のようになり始めたときに、また書き込みがあったわ。
でも、今回は少し具合が違った。
これまで熟語だった文字が、今回は「本当にすまないと思ってる」って文章になっていた。
そして、本の請求番号じゃなくて、「広毎新聞、197X年10月4日」って書かれてたわ。
分かると思うけど、次は新聞記事を見なさいってこと。
新聞の縮刷版でその日の新聞を開いたら、すぐに分かったわ。
一面の大見出しの記事に大きく鉛筆で丸を書いてるもの。
どうやら、広島市内で殺人事件があったらしいのよ。殺されたのは40代の男性。
年の割に、かなりのお金持ちだったそうよ。
仕事だったか金銭だったかトラブルがあったみたいで、包丁で滅多刺し。
でも、おかしなところがあって、市内の河川敷で見つかったのだけど、相当に刺されたのにほとんど血痕が無かったらしいのね。
だから、この人の亡くなった場所は違う場所かもしれない。
そして、亡骸を遺棄するには一人じゃ無理な体形だって。
地元で起きた事件だし、当時かなり話題だったみたいで、しばらくの間、新聞の一面には事件のことが取り上げられていたわ。
でも、時間が経っても犯人は見つからなかったみたいよ。
…ん?ええ、そうね。これまでの流れで、当時の私も察したわ。
本に落書きしてたのは、この事件のことを知っている人なのではないかってね。
そして、その記事があったページの上の方に、また請求記号が書かれていたわ。
ええ、請求記号だけ。
あの頃の私は、かなり興奮してたわね。次で、いよいよ何か真実が分かるんじゃないかって。
すぐに書かれていた記号の本を見つけたの。
誰も見なさそうな、分厚くて古い百科事典。
どかりと置いて、一心不乱にページをめくったわ。
そうしたらね、一枚の紙がはさまってた。読んでみたら驚いたわよ。
だって、遺書だったもの。
「この紙を読んでいるということは、私が書いた本の落書きをたどったからでしょう」って書かれてたり、
「あの記事を読んで察していることでしょう。あの事件で、彼を殺したのは私です」とか…。
事件のことのあらまし、殺された彼とは長年の友人だったこと、一時の過ちで殺してしまったことの後悔、…事細かに書かれていたわ。
そして、「あの日から25年が経ち、時効となったが、今でも後悔が絶えない。もう限界なのです。馬鹿々々しいかもしれないが、今日僕は、彼をうち捨てた場所で死ぬことに決めたのです。」って。
逃げ切ったら逃げ切ったで、さらに自責の念が強くなったみたいね。
「最後に、一番始めに落書きした本である『〇〇』は、彼が好きだった作家の本です。もしあなたが良ければ、供養代わりに読んでください。199Y年10月6日」って書いて、締めくくっていたの。
もしかしたらと思って、9Y年10月の新聞記事を探したわ。
そうしたら、河川敷で60代の男性が亡くなっていたっていう小さな記事が、10月8日の新聞で見つけた。自殺だったそうよ。
…ふふっ、気が付いた?そう、私が最初にその落書きに気づいた本は『△△』。違ったの。
あまり聞いたことのない作家だったけど、『〇〇』って本を探したらすぐに見つかったわ。
「懺悔」って二文字と請求番号が書かれてたわ。その次の本が、『△△』だった。
その本を棚にしまって、この話はおしまい。
…ってならなかったのよね。
本をしまう前に、何気なく一番最後のページに書いてる発行日を見てみたの。
そうしたら、『〇〇』の発行日は199Y年10月15日。
彼は遅くとも8日に亡くなっているのに、どうして15日に印刷された本に落書きできるのかしらね?
警察に行って、話したわ。70年代の殺人事件のこと、百科事典にはさまってた遺書のこと、そして、日付のズレも。
でも、あまりに証拠が少ないこと、そして199Y年に、10年以上も前に亡くなった男性について残念だけど調べようがないということを伝えられた。
…私も、これ以上深く考えるのはよそうって、そう思ったわ。
おわり
1990年代までは、時効って15年だったね。つい間違えて25年って書いてしまいました。
はじめまして、次は自分が投下させてもらいます。
お付き合いいただけると幸いです。
早苗「あら?もう1ヶ月も前になっちゃうのかしら。一月の九日。」
早苗「何の日か分かるかしら?」
早苗「そうよ。成人の日よ。」
早苗「この日は一般的には大人になるめでたい日って言われてるわね。」
早苗「けどそれに乗じて成人式暴走する輩も出てきたりして、ニュースになったりするじゃない。」
早苗「警官だった頃はそりゃもう成人式の時は大変だったわよ。」
早苗「私の場合は地元が地元だったっていうのもあったけどね。」
早苗「そりゃ車社会だからね、なにがめでたい日よ!やってることはまだ子供じゃないの!って何度思ったことかしら。」
早苗「まぁいいわ、始めましょうか。お説教じみた話になっちゃうかもしれないけど許してちょうだい。」
「子供のままのオトナ達」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さっきも言ったけど、成人式で大騒ぎをする人たちっているじゃない。
大人になるっていう日なのにどうしてそんなことするのかしらね。
ま、いいわ。とりあえずはうちの事務所は年齢層も豊富だし、色んな子達に大人について聞いてみようかしらね。
まずは誰に…机の下に突入しようかしら、誰かかしらいるでしょうし。
ハロー乃々ちゃん。ちょっとお話いいかしら。あぁ、安心して。お説教とかじゃないから。
乃々ちゃんは大人になるってどういうことだと思う?
"おとなですか……?…その…もりくぼはじぶんの意見を言える人がおとなだと思います……もりくぼにはむーーーりぃ……"
乃々ちゃんはちゃんとノーと言えるじゃない、はっきりと拒否することも大事な意思表示よ。けどポジティブに意見を言うことも大事よ。
聞きたいことそれだけだから。乃々ちゃんありがとうね。
そうね、乃々ちゃんの言ってることは…ってまぁいいか。あとでまとめるわね。次の子行くわよ!次!
乃々ちゃんは中学生だったから次はもっとちっちゃい子行ってみましょうかしら。
よしっ!あそこにいるありすちゃん捕まえるわよ!
ありすちゃん今時間大丈夫かしら?
ありがと。ちょっと聞きたいことがあるのよね。そうねぇ…雑談だと思ってお話ししてくれるといいわ。
ありすちゃんにとって大人ってどういうものかしら?
"そうですね、わたしは自分のやったことに責任を持つことだと思います。自分の行動の対価としてお金をもらってるので当然です!"
流石、ありすちゃんはしっかりしてるわね。ありすちゃんのプロ意識にも繋がってるのかしら。
あぁ、聞きたいことはそれだけよ。
ありがとうありすちゃん。
乃々ちゃん、ありすちゃんと来たから、次は高校生の子に聞きたいわね。
そうねぇ……この後事務所に来る子たちは…っと。
ニュージネレーションの子たちがもうすぐ帰って来るわね。あの子たちに聞いてみましょうかしら。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3人ともレッスンお疲れ〜。
この後暇かしら?お姉さんとちょっとお話に付き合ってくれない?
あぁ疲れてるでしょ。飲み物持って来てあげるわ、ソファーにでも座っててちょうだいな。
よしっ、ちょっとお姉さんの話に付き合ってくれない?
……どーしてみんなわたしが話そうとすると身を縮こまらせるのかしら?
そんなにいつも怒ってはないわよね…Pくんにじゃあるまいし怒らないわよ。
みんなは大人についてどう思うかしら?それぞれ答えてくれる?
"はいはーい!未央ちゃんはお酒が飲めたり、煙草を吸えたり、車の運転ができるって感じかな〜!車の運転は18歳だったけ?あっ、あと選挙!"
そうね。未央ちゃんがいう通り、大人になると許されることが増えるわ。他にもパチンコとか競馬とかもあるわね。
わたしがダメっていうわけにはいかないんだけど、みんなそれらに溺れちゃダメよ。
"私は自分で問題を解決できる、って感じかな。大人になったら一人で暮らしてる人とか多いよね。そういう大人の人ってカッコいいって思うな。"
そうね、なんでもかんでも人に頼ったらダメよ。かといって全く人に頼らずに抱え込むのもよくないけどね。
まぁあんた達は心配する必要はなさそうね。何か問題に遭遇したらどうするべきか考えることが大事よ、人生の先輩からのアドバイスよ。
"わたしはどんなことでも頑張ってやってる人たちが大人だと思います!プロデューサーさんやパパを見てるといつも大変なんだなぁ。って思います!"
そうよ〜。上司からの無茶な仕事を頼まれてもやらないといけないし、職種によってはかなり乱雑な勤務時間だったりするから大変よ。
まぁ私たちはアイドルだからそういうことはないんだろうけど、アイドルもアイドルで大変よねぇ。楽しいからいいんだけどね。
あぁ、3人ともありがとうね。聞きたかったのはこれだけよ。レッスン終わりに時間拘束しちゃって悪かったわね。
一気に3人に聞いたからこれで5人か。
最後に一人聞こうかしら。そうねぇ……友紀ちゃんにでも聞いてみようかしら。
あらどうしたの?そんなに落ち込んで。野球はオフシーズンじゃないの?
え?大谷がWBC辞退するから?アンタ、キャッツだけじゃなかったのね。初めて知ったわ。
まぁいいわ。ちょっとお話ししましょ?
飲んでないよ!って当たり前でしょ。
ちょっと待ちなさいアンタ!アルコール臭いわよ、何飲んでるのよ!
もう全く…あとでプロデューサーくんに報告しとくわね。縋ってもダメよ。大人なんだから。
全くありすちゃんの方がしっかりしてるんじゃないかしら…
とりあえずお話しよ。アンタにとって大人ってどういうことか教えてちょうだい。
"大人についてかー。そだねー、ハタチなってからお酒飲めるようになったのがやっぱり大きいかな!けどお酒飲むにしても、わたしがアイドルってのもあって、迷惑はかけられないし、ちゃんと自分のことを見てなきゃいけないから大人って大変だなって思ったよ!だからこそ頑張らないとね!"
あら、アンタにしてはちゃんと考えてるじゃない。なら事務所で飲むのはちっちゃい子もいるしやめなさいよ。
そうよ。アンタも大人だから子供達のお手本になるってことを忘れちゃダメよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
よし。これで6人の意見が聞けたわね。もう十分かしらね。
そろそろシメにかかりましょうか。
大人になるっていうのは、ただ時が過ぎれば大人になるってわけじゃないの。
そうよ、成人式を迎えた翌日からただ、大人の仲間入りっていうことにはならないのよ。わかるでしょ?
ある意味で成人式は社会がこの時期までには大人にならなくちゃいけないって示してる期限みたいなものとも取れるわね。
ならどうやって大人になればいいのかしら?
そうね、凛ちゃんの言ってることを考えて見ましょうか。
自分で問題を解決できる、そのためにはどうすればいいかわかる?
自分の直面している問題がどういうものか自分で考えて、そしてどのような解決策があるかを考える、そしてその解決策をとったら何が起きるか、そこまできちんと考えるのよ。
みんなの意見をまとめていくわね。
乃々ちゃんが言ってたことは第一段階にあたるわね。考えてるからこそ問題に対して意見が言えるわ。
次はありすちゃんね。ありすちゃんの言ってることは、わかるでしょうけど第三段階よ。
未央ちゃんもありすちゃんと同じね。
凛ちゃんのは第二段階ね。人に言われるがままでは永遠に自分で物事は解決できないわ。
ひとつ変わり種なのが卯月ちゃんのやつね。凛ちゃんので言われるがままはよくないっていったけど、言われたことをキチンとこなすのはそもそも大人として前提条件よ。
言われたことをこなせるからこそ信用が生まれるのよ。
最後は友紀ちゃんね。
意外なようであの子はちゃんと大人なのね。あの子の意見は総まとめみたいなものよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
長々と話してきたけど、大人であるとはどういうことであるか、それを理解することは本当に大事よ。
そしてそれを実践することもね。
時が経てば大人になるなんてことはありえないわ。
周りをご覧なさい、自分のことなのにあたかも自分とは関係ないかのように振舞ってる大人みたいな子供たちがたくさんいるでしょう?
自分で意識しない限りは絶対に変われないわ。
〜〜
あら仁奈ちゃんじゃないの。
そういえば仁奈ちゃん、今日が誕生日だったわよね。誕生日おめでと!
そうねぇ…仁奈ちゃんは将来どんな人になりたいかしら?
"かっこよくてかわいくてげんきなおとなになりてーです!!"
以上になります。
それと、仁奈ちゃんお誕生日おめでとう。
俺はいわゆる方向音痴。
決めた目的地に地力のみでたどり着くことはまず無い。
目的地を新宿にすると着くのは高崎。
目的地を渋谷にすると着くのは仙台。
我ながら毎度毎度意味がわからない。
前職場はそれが原因でクビになったようなものだ。
取引先との重要な会議を、やらかしと度重なる不運で俺にフイにされた果てに上司が無表情に放った
「あのね、もう無理。本当に。こっちがもたない」
という一言は未だに忘れられない。
同じ轍を踏むわけにはいかないので、新しい職場への通勤路では地図アプリを表示したスマホが手放せなくなった。
音声案内を聞き逃せないからイヤホンも必携だ。
徒歩にすれば職場と自宅は10分圏内なのだが、これがないと朝に出てつくのは夕方ということがありえてしまう。
「歩きスマホは良くないですよ、プロデューサーさん」
「Pくんマナーわるーい!やめなよー!」
「あの……それ、却って危ないのでは……?」
「いい大人なんですから、そういう行為は厳に謹んでください」
「人とぶつかったらどうするのよ!?」
「お前なぁ……いや、何でもないよ……」
「40代のおっさんのやることじゃねえよなぁ……それ」
アイドルに付いたばかりの頃はこのような事を散々々々言われてきた。
そう言われても地図から目を離したら俺は終わってしまうのだ。
終わると言っても『詰められ』だけで済めば話は単純だ。
しかしこれで『和了って』しまうとおそらくこの歳でもう三度目はありえない。
俺の話はどうでもいい。
これは俺が新しい職場、アイドルプロダクションに勤め始めて5、6週間の出来事だ。
アイドルのロッカー、それも内履きやスリッパなどの私物の中から『針』が出てきた。
刺されば当然危険だ。これはすぐに問題になった。
「最先端」
事の発覚は怯えた様子の市原からの申告だった。
「ぷ、プロデューサー、ちょっといいですか……?」
土曜日曜祝日は学生組のアイドルが多く入る傾向にある。
市原もその例に漏れず、土曜の今日は朝9時からの収録と午後のトレーニングを入れていた。
どことなく、居心地が悪そうではあった以外、何の変化も認められなかった。
時刻は5時。
毎月最後の土曜は母親との時間を作る約束をしているらしく、レッスンでも収録でも、
その日の仕事が全部終わればいの一番に事務所を上がっているらしい市原が、
この時間まで事務所に残っているのは何か特別な事情があるのだろうと思った。
「どうしたの?」
「これが、ロッカーに……」
「……」
市原が手に持っていたのは折り紙ケース……の、中身。
その異様さに俺は目を瞠る。
十数枚の折り紙の上に、それを覆い尽くしそうなばかりの、目視で30か40本はあろうか。
『針』があった。
「……ロッカーのどこに?」
「靴の、中です……」
「……いつから?」
「先々週くらい、から……」
まさか。目の前の事実を受け入れるのに時間がかかった。
いやしかしそんな。そんな事をする奴がアイドルの中に?
なぜこんな事を?どうして?どうやって?
考えたくはなかったが、そのような考えは嫌でも浮かんでしまった。
「誰かに相談した?」
「……」
市原は無言で首を振るばかりだった。
やがて目を真っ赤にして、静かに涙を流し始めた。
しゃくりあげる声が泣き声になるのにそう時間は要さなかった。
人が来たらこりゃ色々とまずいなと思ったが、彼女の今の心情を思うととてもそうは言ってられなかった。
「よく相談してくれたね。辛かったろう」
「……うっ、うぅ、ひっく……」
落ち着くのを待って、帰宅が遅れる旨を市原の母親に連絡しようとした。
ギョッとした市原に
「い、今言ったこと!ぜっっっってーに言わねーでくだせー!!」
と叫ばれて、その剣幕に少し驚いた。
しばらく話して、母親から「仁奈に変わっていただけますか?」と言われ
電話を市原に渡してからの市原の変わりようにもまた驚かされた。
さっきまで泣いてたとは思えないほど明るい声で、母親と通話する姿。
電話を切るとまた、さっきのような表情に戻る。
……母親には絶対に知られたくないのだろう。
「今日は、ありがとうごぜーました」
そう言って帰ろうとする市原に「暗いから送ってこうか」と俺。
数瞬置いて市原は「……だいじょーぶですよ」と返すだけだった。
いつもなら「プロデューサーと一緒に帰ったら夜が明けちめーます」なんて返してくるのに。
千川さんに付き添いをお願いして、市原を帰した。
~~~~~
その日から俺の脳内は『事務所のアイドルのロッカーから針』というわかりやすい内部の問題にほぼ占拠されてしまった。
以降俺は市原に対して重点的に気をかけるようになった。
城ヶ崎の妹の方に「Pくん最近仁奈ちゃんにばっかり贔屓してない?」と言われた。
これでは逆に市原を悪目立ちさせてしまい、
(いないと願いたいが)犯人の行為をエスカレートさせかねないと判断した俺は小・中学生組の仕事の管理を多く請け負うことになった。
事態は目に見えて悪化していた。それがさらに俺を悩ませた。
翌週土曜、佐々木が市原を伴って俺の前に現れたときは嫌な予感がした。それが的中してしまった。
「私、上履きに針が入れられてたんです」
「結構長い間、入れられ続けましたけど、私もう我慢できません」
そう言って俺の目の前に、市原の時と同じような形の針が入った内履きを差し出す佐々木。
その表情は困惑とも悲哀とも憤然とも取れぬ様子であった。
「仁奈ちゃんも確かに見てます。今日確かに見ました。これ、どう思いますか……?」
俺は頭を抱えんばかりだった。対応を誤ったか?犯人は誰なんだ?どうしてこんな事をするんだ?
そればかりが渦巻いていた。
市原に目配せして、それとなく水を向けてみた。
それをいち早く察して佐々木は「仁奈ちゃんも入れられたって、言ってます」と差し込んで来た。
そして「ごめんね、仁奈ちゃん。でもプロデューサーさんには黙っておけないよ」と市原に向かって釈明をする。
驚いた様子の市原は「プロデューサーは知ってるですよ」と返す。
佐々木もまた驚いた様子で「そうだったんだ……」とこぼした。
「……黙ってて、ごめんなさい」
「ううん、責めてないよ。仁奈ちゃんも、つらかったよね。……気づけなくてごめんね」
「……」
このままでは3人目4人目と被害者が増えるかもしれない。
ただでさえ市原は先週から辛そうにしていたのに、
同じような思いを他のアイドルにまでさせるわけにはいかない。
苦渋の決断だがやむを得ないと思った。
「ふたりとも、よく聞いて」
2人は真剣に俺の話に耳を傾けてくれた。
「このことを第三芸能課のプロデューサーに伝える」
「えっ!」「ええっ!」
「俺1人でどうこうできる問題じゃないと思ったから。あの人は秘密を守る人だと思うから、それに俺は賭けたい」
「親御さんや他のみんなにはまだ言わない。それは守る」
ふたりとも不承々々と言った感じでその提案を受け入れた。
実際問題、対策や監視など俺1人でどうこうできる範疇はとっくに超えていた。
その助けを彼女らに近い位置にいる人間に求めるのはそう悪いことではないと思えた。
第三芸能課は12歳以下の主に小学生組がうちの部署らと兼任で所属している部署だ。
「課」と名前に着いてはいるものの、小学生組に実質仕事を取ってきているのはそこのプロデューサーである宇治原くんが取ってくるものが9割を占める。
俺は(第三芸能課からの仕事に限らないが)その管理やスケジュールを組むことが多い。実績や実力では入ったばかりの俺より当然彼の方が上なわけである。
それは取りも直さず、彼女らとともにしてきた時間も彼の方が長いわけで、そう言った意味でも彼に情報を提供しない手はなかった。
なぜ彼にではなく俺に最初に相談したのかも、彼に相談すると俺が提案した時に2人が難色を示したのかもそれで説明がつく。
余計な心配を彼にさせたくなかったのだろう。仕事以外のことで悩ませたくなかった。
しかしそれは俺が彼女らに抱くものと変わらない。
そもそもこんなことはあってはならないことなのだから。
~~~~~~
「ええーっ!?上履きに針が!?」
声こそ限りなく控えめに抑えてはいたが、宇治原くんの驚きは相当のものだった。
予想通り彼女らは宇治原くんに何も伝えていなかったみたいだった。
「彼女らも相当悩んでいたみたいでした」
「で、犯人も動機も方法も不明と」
「ええ、そうなんです」
事実、市原のみを特に注視してた時でさえ犯人の尻尾どころか、どのタイミングで針がぶち込まれたのかも正確に把握することができなかった。
俺が帰宅して事務所にたどり着く間のどこかのタイミングで仕込まれたとしか思えない。
休みの日を除いた連勤の日などにも行われたことを考えると犯人は夜に活動しているだろうと思われた。
それはアイドルがそんな事をするわけがない、という俺の思いを補強するものだった。
その自信もあって今回宇治原くんの耳に入れることができた、というのもある。
「うーむ……とりあえず今日からちょっと手荷物検査とか、私物の持ち込み禁止令とか敷いてみます」
「お願いします」
「あとそれとなくみんなの様子を見ておきますね」
「ありがとうございます、助かります」
「いいんですよ、これ、全く気づかなかったオレの責任もありますから」
「申し訳ないです……」
「だから、いいですって」
宇治原くんが敷いた令はすぐに行き渡ったという。
~~~~~~
俺の頭は痛くなっていくばかりだ。
今度はアイドル以外の人間にすら被害が及んだ。
宇治原くん、千川さん、それとうちの部署ではあまり聞かない部署の部長3人のロッカーに針。
さらには机の中にまで針が仕込まれていたそうだ。
「昨日の今日だからね、ビビりましたよ」
「心中お察しします」
「◯◯さんは何もなかったですか?」
「ええ、俺は特に何も」
「……そうですか」
「アイドルたちの様子はどうですか?」
「変わりなしって感じですね。私物の持ち込み禁止を言ってから的場さんと結城さんの機嫌が悪い時が増えたくらい?」
「あぁ……」
「まぁ、事情説明してないしね。◯◯さんに相談とかは行ってないですか?」
「相変わらず針は出続けているそうで」
「んんー……そっかぁダメかぁ……」
「スタッフにまで及び始めたというのが気がかりです」
「一回外部の人間の仕業かなって思ったけど……
知ってる人じゃないとこんな事できないし、そもそも部外者がこのビルに入るのも一苦労ですからねぇ」
「だとしてもわざわざこんな事する理由がわからない」
「うーん……」
「片桐さんと三船さんも被害に遭われたそうだよ」
「えぇ!?早苗さんと美優さんにも!?犯人許せねえ!!」
「抑えて、抑えて……」
「ち、ちくしょう……!!」
「……私はこれで。宇治原くんも気をつけて」
「え、あぁ……はい」
終始俺を訝しむ目をしていたことを、俺は見逃さなかった。
宇治原くんの第三芸能課。
奥で結城と的場の声がする。2人とも相当怒っていることが伺える。
「だーかーら!あたしじゃないって言ってるでしょ!!大体あんたが私物持ち込み禁止を破るから!」
「うるせーなカバンの中にミントガムくらい入れたって構いやしねーだろ!!
それより俺のカバン開けてミントガムにいたずらしたのはお前しかありえねーんだよ!!」
「はぁあ!?なんであたしがそんなことしなきゃいけないわけ!?」
「もう少しで歯が砕けるところだったぞ!ガムもアレも青い粒だから混ぜりゃわかんねーと思ったんだろうな!?
でもそうはいかねーんだよ!!味がしないから吐いてみりゃBB弾みたいのが出て来やがった!!悪質にもほどがある!!」
「聞いてたらさっきから何を訳のわからないことを言ってんの!?大体アンタだってね……」
「おい!!ちょっとそこの2人!!」
宇治原くんらしくない怒声を最後に2人の口論はピタッと止まった。
~~~~
昼頃、事務所の多くのアイドルたちが俺のデスクに詰めかけた。
嫌な予感が拭えない。大方針の件だろう。
「プロデューサー、いい?」
渋谷はそう言って俺の前に歩み出た。感情の読めない声をしていた。
淡々と渋谷は続ける。
「『針』の件……知ってたんだってね」
「……まあ」
「仁奈と千枝だけじゃないよ。ここにいる人、みーんな入れられてる。私もそう」
……いよいよもってわけがわからなくなって来た。
早いうちに警察に相談しなかったことを悔やむ。
「晴、梨沙、かな子、みちる、法子、時子さんは針だけじゃなくて自分の持ち物に『青い粒』を入れられてるって言ってた。
晴と梨沙は今朝それで喧嘩になったみたいだね」
……青い粒?なんだ、それは。初耳だ。
「……」
「針が入ってた事件からずっと事務所に来てないアイドルがいるんだけど、プロデューサー知ってる?」
「いや、見当がつかない」
「そっか……来たばかりだもんね」
「すまない……」
「杏だよ、知ってるでしょ」
「まあ……え?」
双葉。ニートアイドルで売っている、この事務所でもトップに近い人気を誇るアイドル。
確かに最近見ないと思ったが……何を言いたい?
「双葉が犯人だと思っているのか?」
無理だ。双葉の自宅を知らないが、おそらく事務所から距離があるだろう。
事務所に来るだけでも面倒臭がる双葉が、何の利益にもならない行為のためにその寸暇を惜しむだろうか。ありえない。
それに……動機がない。上から数えた方が早い成績の人間がわざわざこんな大人数相手に嫌がらせをするのは不自然だろう。
「……それはないんじゃないかな。彼女は考えづらい」
「そうだね。杏には絶対無理。やろうとも思わないだろうね……だから」
渋谷の口から発せられたのは。
「プロデューサー。私たちは、あんたがこの事件の真犯人だと思ってる」
俺が犯人だ、という疑いだった。
「……は?」
「プロデューサーが犯人。私たちはそう思ってるよ」
「いや、嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。でも、正直私も信じたくない」
思いもよらぬ展開に冷や汗が吹き出る。
同時に、俺を陥れた真犯人に対する憤りが俄かに湧き出て来た。
「でもね……プロデューサーしかありえないんだ」
「何故だ」
「プロデューサーが連休を取った日は誰も針を入れられてないんだ」
そんな。だからって。
「外回りしてた時も出なかったよ」
「事務所内で部署から出てる時もでした」
「それに、針が出はじめたのもあんたがここに来てからなんだよ」
渋谷の隣に歩み出るのは本田と島村。渋谷とユニットを組む、この事務所トップクラスのアイドルだ。
本田たちが前に出たのを皮切りに、アイドルたちが次々と俺ににじり寄る。
悲哀と困惑と憤怒、不信。
どうして。
どうして、こんなことに。
「まーまーみんな、落ち着きなよ♪」
「彼の犯行とは一概に言えないかもしれないぞ」
「犯行どころか、『犯人がいない』かもしれないねー♪」
俺を囲むアイドルたちの後ろから2人の声がした。
光明が差したようにすら思えた。
一ノ瀬と池袋。この事務所きっての頭脳派で、一ノ瀬は研究者とアイドルの二足の草鞋を履く。
2人のいきなりの登場に渋谷が何か言おうとしたのを池袋が遮る。一ノ瀬がそれに続く。
「ルミノール、指紋、DNA……どんな方法で調べてみても彼の痕跡は仁奈と千枝のものからしか出てこなかった」
「千枝ちゃんのは指紋すら出てこなかったから、きっとどこかで『近くにいた』だけなんだにゃー」
「針に付着したと見られる、呼気や皮膚からの気体代謝物に含まれる生物学的痕跡から、彼がどの針に干渉したのかは大体わかった」
「でも結論『無理』だねー。針を仕込むのにしたったってここまで完璧に痕跡を小さくするのは……
手間と時間とお金がかかる。一晩でここにいる全員のロッカーに十分な針を仕込むのは時間の制約上物理的に絶対無理♪」
「さらに面白いことに、針が何処で製造されたのかを針の成分を見て推測したのだが……」
「どれもこれも『つい最近に出来たばかり』だったよ。『作られた』んじゃなくて『出来た』ね。これすっごいんだよー♪」
「数年の誤差はあっても、ほぼ全てが物性的に同じ性質を示すとなると話は別だ。これは『人為的に再現不可能な現象』だと言える」
ぽかんとした俺らを尻目に一ノ瀬は
「と、いうわけで飽きたからシキちゃん達帰るねー♪」
と言って足早にこの場を離れた。
「あっ、おい志希!」
嵐のように現れて嵐のように去っていった2人の背中を俺らの目線が追う。
入れ替わるように現れたのは。
「……私だ。◯◯はいるか?」
専務だった。
~~~~~
ついぞ、彼女たちに「俺も自宅に針が出ている」ことを伝える機会は無かった。
無理もない。あの状況では『俺が犯人です』と白状することに等しかった。
池袋と一ノ瀬の言うことが真ならば……何がどうやってあの結果に至ったのか。
俺はもう何も考えることができなかった。
「単刀直入に言おう。あなたと関わったことのある、アイドル以外のスタッフは全員あなたを疑っている」
専務室で彼女から突きつけられたのは単刀直入に過ぎる文言だった。
加えて。
「警察には4週間前から毎週のように通報しているが、一向に取り合わない」
最後の希望も潰えた。
「私はあなたを疑いたくはないが……市ノ瀬と池袋の"検証結果"を差っ引いたとしてもやはり腑に落ちない」
「……」
専務は続ける。
「双葉に当たってみたい。彼女に会いに行って欲しい」
予想した展開である。専務としては藁にもすがる思いなのだろう。
俺とて全く納得できない状況であるし、疑われたのだって不本意にもほどがある。
アイドルを疑うなど言語道断。
しかし、それでもやはり双葉を犯人と思うしかない状況があったのだ。
「構いませんが……誰か2人ほど付き添いをつけてもらうことは可能でしょうか」
「つけたいのは山々だが……あいにく今日は誰も空けることができない。1人で行ってはもらえまいか」
顔が思わず渋くなる。
「でしたら、住所がわからないとわたくしにはなんとも致しかねます」
「いいだろう。口頭で伝える。東京都△△区●●2-7-45だ」
「……ありがとうございます。早速行ってきます」
「気をつけて」
「あと電話番号もいいですか?」
「070……」
「ありがとうございます、では」
アイドルの自宅なぞここに入って数週も経たない俺には把握しようとも思えない情報だ。
そんなところに単身赴くからにはこの地図アプリと住所は欠かせないだろう。
双葉にとってはおっさんのノンアポ突撃なんぞいい迷惑だろうが……我慢してもらうしかない。
アプリに道が表示されたのを確認し、保存してから双葉に電話をかけた。
5コールほどで出た。
「……もしもし、双葉さん?」
「あ、◯◯プロデューサー。おはよ。なんか大変だったらしいね?」
「知ってるのか」
「そりゃもう」
「今からそっちに行くけど大丈夫?」
「あー……」
「たった今、上の階の床突き破って杏の布団にどでかい『虫ピン』が突き刺さったから無理。腰抜けちゃった。だから今日はプロダクション行けないや。おやすみー」
通話画面が消え、地図アプリの画面に戻った。
電話はそれで切れた。
了
元ネタはかなり昔のJAのCMで「少年が地図の上に赤鉛筆を落としたら父親の職場にどでかい赤鉛筆が突き刺さった」という演出。
これを地図アプリで再現したら絶対ヤバいだろと思い、ウミガメにしようとしたところこのスレが目に止まってこのスレ用に改変。
後半駆け足になってしまった。
泣く仁奈ちゃんが書きたくてついうっかり書いた
U149Pの名前はいうまでもなく捏造
中途採用40代の悲愴と哀愁が書けてたら幸い
ありがとうございました。
小梅「スクエアって都市伝説……知ってる?」
小梅「『山小屋の1夜』とか、名前もいろいろあるんだけど」
小梅「4人が真っ暗な部屋の隅に立って、1人目が壁沿いに進んだ先にいる人の肩を叩く」
小梅「叩かれた人はまた壁沿いに進んで……そうやってグルグル部屋を回るの」
小梅「えっ? うん、そうだよ……4人目が進む先には誰も立ってないから、回るなんてありえないんだ……」
小梅「だから……いなかった筈の5人目が現れるんだよ……えへへ」
「しかく」
いま、みんなで乃々ちゃんのお部屋に集まってお喋りしてるんだ。
幸子ちゃん、美玲ちゃん、輝子ちゃん、乃々ちゃん。そして私。
いつも賑やかで、楽しくて。こんな時間がずっと続けばいいな。
そう、ずっと……だけど。
「あの、何かおかしくないですか……」
乃々ちゃんのその一言が、始まりで、終わりだった。
そういえば、ここに来るまでの記憶があやふやだってことを、ふと思った。
今日はみんなで集まるって決めて……ここにいてお喋りしてる。
そもそも、そんな約束いつしたんだろう。
みんなが顔を見ると、同じ違和感に気付いたみたい。
私たちみんな……いつの間に集まったんだっけ?
ひ、ひとまず外に出よう……あれ?
私は廊下に続くドアを開けようとしたけど、ノブが下がるだけでビクともしない。
押しても。引いても。叩いても。体当たりしてみても。
鍵がかかってるのかと思ったけど、ドアには鍵自体が付いていなかった。
ダメ……開かない……。
「ふぎゃー! 何故ですか!」
「フヒ、つまり閉じ込められた……」
「む、むーりぃー!」
「みんな落ち着け! まずは状況を整理しよう!」
美玲ちゃんが叫んで、部屋がしんと静まり返った。
よくみると、美玲ちゃんの手は服の裾をぎゅっと握りしめて小さく震えてる。
怖いのは、みんな一緒。ひとりじゃない。
みんなで話していくうちにわかったことは、
今日はこの5人で集まる予定だったが、いつ決めたかなどは覚えていないこと。
ここに来るまでの記憶が曖昧なこと。
携帯がなくなっていること。
この3つが全員共通のことだった。
「な、なにか思い出せませんか……どうやってここまで来たとか、何でもいいんで……」
乃々ちゃんの言葉に、みんながまた黙り込む。
私も一所懸命に思い出そうとするけど……みんなに会うためにここに来た、それ以外のことが出てこない。
頭にモヤがかかったみたいで、まるで霧の中のよう。
「……スクエア」
「えっ?」
「スクエア、です。なぜかこの言葉が出てきました」
幸子ちゃんの言ったその単語に、ほかのみんなも反応する。
「確かに、何か引っかかるな……」
「もりくぼもです……そ、そのスクエアっていうのが関係してるんですか?」
「そもそもスクエアってなんだ? 四角のこと?」
た、たぶん……都市伝説のことだと、思うよ……。
スクエア。
4人が真っ暗な部屋の隅に立ち、1人目が壁沿いに進み先にいる人の肩を叩く。
叩かれた人はまた壁沿いに進み……という具合に部屋をグルグル回る。
「待ってください、順番に回ったら4人目の先には誰もいないじゃないですか」
だから、いつの間にか5人目が増えてるんだよ……一種の降霊術、だね。
「ひぃぃ!! おかるとなんてむりくぼですなんけど……!」
「でも、いまの状況とスクエアに何の関係が?」
そういえば。
スクエアを行う条件は、『外部と連絡不可能な密室であること』だった気がするけど……。
その瞬間、誰かの着信メロディがドアの向こう側から流れた。
「これはボクの着メロです! このドアのすぐ先にあるんですよ!」
幸子ちゃん……でも、そのドアは開かなかったよ……。
そう声を掛けると、幸子ちゃんは一瞬はっとして、
「わ、わかってます……他のみなさんの携帯もまとめてドアの向こうなんでしょうか……」
そう言ってペタリと座り込んだ。
「……なぁ、今日はウチら5人で集まる予定だったよな」
「美玲さん、何を言ってるんですか? さっき確認までしたじゃないですか」
「じゃあなんでマグカップが4つしか出てないんだ?」
カップだけじゃないみたい。
よくよく見ると、クッションも4つ。
それは、始めから4人の集まりだったみたいに。
閉じ込められた部屋。携帯は部屋の外。スクエア。
つまり、それって……。
このなかの誰かが、5人目……?
スクエアで出てくる5人目は、幽霊とか悪魔だって聞いたことがある。
でも、ここにいるみんなはずっと知ってる事務所のみんな。
知ってるはずの……記憶が間違いじゃなければ。
「記憶に間違いって……ど、どういうことだ、小梅ちゃん?」
つまり、私たちの誰か4人でスクエアをして……5人目の『同じ事務所の友達』を呼び寄せたんだよ。
私たちだけの、私たちしか知らない、架空の友達として。
「なに言ってんだよ……ついこないだも、この5人でステージに立ったじゃないか!」
だから、そう思ってるだけ、なんだよ……本当は、4人しかいないのに。
みんな、同じ嘘の記憶を刷り込まれてるってことだと思う……。
「あの、理解が追い付かないんですけど……つまり、この中のいる5人目が閉じ込めてるんですか……?」
それは……わからない。
なんでスクエアを始めたのかも覚えてないし……でも、その5人目が関係してるのは、たぶん合ってるのかな?
「小梅、その5人目の見分け方は何かあるのか?」
スクエアで降霊されたものは、その空間から出られない……。
つまり、その部屋内でしか使役できない降霊術だったと思う。
でも、みんな部屋から出られないから……見分けがつかないね。
「小梅さん、その、幽霊とかならわかるんじゃないですか?」
ごめん……。幽霊じゃなくて、悪魔かもしれないし……悪魔は会ったことないから……。
とにかく何でもやってみようと、お互いに質問したり、念仏を唱えてみたり……。
だけど、状況はなにも変わらない。
「なぁ小梅。スクエアって、どっち回りでやるんだ?」
え? うーんと、時計回りだったと思うよ。
「じゃあさ、試しに左回りでやってみよう。逆のことすれば消えるかもしれないだろ」
突拍子もない提案だったけど、他にできることもないし……。
みんなで、逆回りのスクエアをしてみることにしたんだ。
部屋の電気を消すと、近くにいる人影が何とかわかるくらいだった。
そこからみんなが4隅に立って……私は、1人目の美玲ちゃんと一緒の隅にいる。
美玲ちゃんの形をした黒い塊はゆっくりと進んで、すぐに暗闇に溶けて見えなくなった。
私はそのまま同じ場所でじっと待つ。
暗闇の奥から足音だけがわずかに聞こえて、その音のする角度が少しずつ移動してるのがわかった。
そのままじっとしてたら、足音が近くなってきて……肩をポンと、叩かれた。
たしか4人目の位置は輝子ちゃんだと思うけど、やっぱり人の形をした黒い塊としかわからなかった。
私は壁に手をついて、ゆっくりと暗闇を進む。
暗い、暗い、どこまでも真っ暗な、その先へ。
先にいる筈の美玲ちゃんの元へ。
もし、美玲ちゃんが5人目だったら……。
そう思うと、怖くて……いますようにって、お祈りしながら進んだ。
5人目をいなくさせようとしてるのに。
誰も消えてほしくないって、思っちゃったんだ。
例え嘘だとしても、いまの私たちには本当の記憶になってて、私たち5人は仲良しの友達だもん。
進んだ先には、黒い塊が震えていた。
美玲ちゃん……なんだよね?
その後も部屋をグルグル回るだけで、消えた様子はないみたい。
何周かしたところで、「もう止めましょう」と暗闇から声が聞こえた。
電気をつけたら、みんなのつかれた顔が見れて、すごくほっとした。
誰も消えていないことが、いけないことかもしれないけど、嬉しかった。
幸子ちゃんと乃々ちゃんは涙目になってて、輝子ちゃんとまゆさんがそれをなだめてる。
美玲さんが頭をかきながら話しかけてきた。
「消えなかったな……ほんとにこの6人の中に幽霊だか悪魔がいるのか?」
終わりです。誰が5人目かはわかるようになってる……はず。
やだ……怖い……
乙でした
推敲がまだできるとは思うのですが、これ以上やってもきりがないので一作投げさせていただきます。
紗南「シミュレーションゲームって、選択肢の中から物語が進むよね」
紗南「それって、人生も同じだと思うんだ。選択肢が極端に多いだけで」
紗南「じゃあ、人生の選択肢が極端に少なかったら、どうなるんだろう?」
紗南「それに、その選択から逃れられないとしたら?」
「1分のN」
投げといて間違えた…
タイトル、「1/N」です。
私は同じ事務所の友達とファミレスに来ていたんだ。
メンバーは、美玲、ライラ、杏さん、それからあたしの4人だ。
ゲームを協力プレーするにはもってこいの人数だね!
でも今日のメインはは友達と雑談するだけ。たまにはこんなのもいいよね。
まあ、ゲームやらないって言ったらうそになるけど。
ってことで、これまで一緒にお仕事したことがあって、たまたま今日オフだった人で集まったんだ。
店は結構混んでたけど、思ってたよりすんなり入れたよ。
窓際だからちょっと心配だけど、通り道だからじろじろ見ていく人もいないよね。
ライラ「おー、メニューがいろいろあって迷ってしまいますねー」
美玲「ライラ、好きなもの頼んでいいんだぞ!ウチはメロンソーダな!」
杏「杏はなんでもいーよー。ゲームやってると手が離せないしー」
美玲「そうだ杏!このゲーム操作教えてくれよ!」
杏「お、おう。(杏このメンバーで最年長なんだけどなー…)」
ライラ「おー、画がとってもきれいですねー」
うん、みんなが楽しそうで何よりだ。
「ご注文お決まりでしょうか」
ウェイターさんがテーブルに来た。
しまった!あたし注文するもの決めてなかった!
杏「ドリンクバー4つとー、山盛りポテトと」
ライラ「ライラさん、この『イチゴパフェ』、食べたいですねー」
美玲「じゃあ、ウチは『メロンシャーベット』!」
杏「メロン好きだねぇ」
美玲「いいだろ!紗南はどうする?」
えーっと…どうしようかな… どれもおいしそうで目移りするんだよなぁ…
メニューを見て迷っていると急に店内が静まり返った。
さっきまで騒がしかった店内からは何の音も聞こえない。
というか、止まっている。グラスに注ぐ水も、外を走る子供も、目の前にいる友達も。
コツーン…
あたしが戸惑っていると靴の音が聞こえた。
周りが止まっていて何も聞こえないはずなのに、その足音だけが聞こえた。
明らかに店舗の大きさとは不釣り合いな反響音が聞こえる。
コツーン…
足音が近づいてくる。誰だろう…周りが静止したこの状況で動けるってことは普通じゃない。
コツーン…
ようやく足音の主が見えた。中年の男性だ。あたしはこの男を知らない。
身の丈は180センチくらい…かな。年齢は30から40歳あたりだと思う。
スーツを身に着け、シルクハットをかぶっている。アフロヘアーなのか、ハットの隅から髪が飛び出ている。
変な笑みを浮かべたうさん臭い男は、あたしにサイコロを渡してきた。
何の変哲もないサイコロ。これを振ればいいのか?
男のほうを見ると、今度はフリップを掲げてこっちに見せてきた。
1:無難に ショートケーキ
2:ちょっぴり大人 ガトーショコラ
3:甘々 メープルパンケーキ
4:激甘 クリーム白玉ぜんざい
5:リッチ気分で スペシャルパフェ
6:何も頼まない
サイコロの目で注文を決めるってこと?面白そうではあるけど知らないおじさんが渡してきたサイコロで決めるのはなあ…
でも振らないとたぶん状況は好転しそうにないな…それに6を除けばそんなに悪い条件じゃないし。
じゃあ振ってみよう!あたしは手渡されたダイスを思い切り振った。
出た目は…1!
男がサイコロを拾うとにやりと笑って指をぱちんと鳴らした。
するとサイコロが光ってはじけた。眩しさに目を閉じると、さっきの店の賑やかな音が戻ってきた。
美玲「紗南、どうしたんだ?」
ライラ「紗南さん、ぼーっとしていますよー。考えごとでございますかー?」4
さっきまで止まっていたみんなも普通だ。何事もなかったように日常が流れている。
紗南「いや、なんでもないよ!それより注文は?」
杏「さっきしてたじゃん。ショートケーキ、注文したでしょ?」
そういうことになってたのかな。サイコロを振った時点で選択肢が決まった…みたいな?
とりあえずその場は何とかごまかした。変な男のことを聞くべきか考えたけど、あの時みんな止まってたから聞いてもダメだろうなって思って聞くのをやめた。
まあ、悪くはなかったよ。ショートケーキもおいしかったし。
紗南「腹ごなしも済んだし、ゲームやろう!」
杏「うん、初心者二人をガチ勢二人でサポートしようじゃないか。」
ライラ「おー、よろしくお願いしますですよ。」
美玲「うー、この装備、どれ選べばいいんだ?」
杏「初心者なら、ガードできる武器がいいんじゃないかなー。あとは好みだね。」
紗南「あたしは何にしよっかなー。どの武器もやりこんでるからどれでも行けるよー…あれ?」
ゲーム画面が動かなくなる。周りの人も、音も止まる。あたし以外のすべてが止まって、あの男が来る。
今度はカードを3枚持ってきた。フリップは…
1:裸一貫!片手剣
2:大砲は浪漫!ガンランス
3:乱舞!双剣
4:矢なし!弓
5:残弾ゼロ!ボウガン
おお…1、4、5が地雷じゃん。これ引かなきゃいいけど…
いや、大丈夫だ!あたしは運がいいんだ!引いたカードは…
やった!3だ!
男がにやりとわらって指を鳴らす。カードが光ってあたしが目をとじる。
目を開けるとゲームが始まっていた。装備は…双剣。
結局この日は、4人で2時間ぐらいゲームして遊んだ。装備選択を迷うたびにあの男が現れてはサイコロ振ったりカード引いたりめんどくさかったけど、それでもみんなと遊べて楽しかった。
次の日、プロデューサに呼び出された。
紗南「プロデューサー、話って何?仕事お話?」
P「おう。ただ、ダブルブッキングしているからどっちかを選んでほしい」
紗南「へー、何の仕事?」
P「一つはクイズ番組、もう一つはラジオ番組のゲストだ。」
…ということは、ここで時間が止まってあの男が来るんだな?
あたしの予想通り、今度はコインをもって男が来た。
表ならテレビ、裏ならラジオの仕事らしい。あたし的にはテレビの方が魅力的なんだけど…
男がコインをトスしてキャッチする。コインは…裏だ。
時間が動き始める。プロディーサーが電話をしている。できれば両方に出たかったんだけど、こればっかりは仕方ないよねー。あたしには決められなかったし、ちょうどいいや。
こうして、気が付くと何かの選択を迫られて、自分で決めかねていると、その男が出てくることが当たり前になっていた。
お昼ごはんに迷ったらカードを引き、買うゲームに迷ったらサイコロ、10面ダイスを振ることもあったね。
基本そんなにめちゃくちゃな選択肢はなかったよ。たまに引いたらまずい選択肢とかもあったけどね。「昼食なし」とか。
そんなわけで、あたしはこの奇妙なシステムに完全に依存していたんだ。
さらに翌日
今日はラジオ収録。ゲストってことで招かれたよ。
案の定、ゲストトークの話題を決めるときに例の男が出てきた。
やけに大きなサイコロと話題の書かれたフリップをもって、いつの間にかブースにいた。
いつものようにサイコロを振ってそのお題でトーク、といっても、パーソナリティから見たらあたしがテーマ決めてるようにしか見えないけどね。
結果は…今回はいまいちだったかな。そりゃあ「最近あった女子力高い話」なんて、あたしにはレベルが高すぎたんだ。
今度あの男が出てきたら文句言ってやる。
軽く落ち込んでいると杏さんから電話が来た。
杏「紗南、大丈夫?落ち込んでない?」
紗南「杏さん、そうなんだよねー。トークテーマの選択肢ミスったっぽくてさー」
杏「たまにはそんなこともあるさー。気晴らしに家来てゲームする?」
紗南「お!いいね!じゃあそっちに……」
そういえばゲーム機、カバンに入れたかな…
カバンの中を探してみると、やっぱりない。
たしか楽屋で遊んでて、ロッカーの中に入れたからそこにあるはずだ。
紗南「じゃあ、あとで杏さんの家に行くね!」
杏「おー、ゆっくりおいでよー。またあとでねー」
電話を切って急いで戻る。まだあるよね?大丈夫だよね?
あたしは急いで横断歩道を渡った。
……あれ?
横断歩道の途中で体が動かなくなった。というか走っている状態のままだから浮いている。
なんで?また何か変なことが……
あたりを見て愕然とした。すぐ横までワゴン車が迫っていた。
焦っていて気付かなかった。ああ、あたしはここで死んでしまうんだ…
でも、なんで周りとあたしの時間が止まっているんだろう…もしかして…
そんなことを考えているとあの男が来た。
あたしの手にまたサイコロを渡してきた。冗談じゃない。あたしの死因をサイコロで決めろってこと?
またあのフリップだ!今までと同じ、1から6までの選択肢。やっぱりサイコロを振って[ピーーー]ってこと?
これは優柔不断で物事を決められなかったあたしへの報いなのか…?
だとしても、どうしたいかを自分で決められないなんておかしい!
よくよく考えてみたらサイコロやコイントスで人生が決まってしまうなんて馬鹿げてる!
あたしはこのサイコロで生き死にが決められることに腹を立てて、サイコロをその男に投げ返した!
サイコロが光るかと思ったら男のほうが光ってはじけた。
だんだん いし き が とお く …
……な…
誰かの声がする
美玲「紗南!」
紗南「うわぁ!?」
ゴツン
頭を美玲にぶつけてしまった。
ということは、ここは…?
ライラ「紗南さん、おつかれですか?メニュー持ったまま寝てたですよ?」
紗南「えっ?」
スマホで日にちを確認すると、4人でファミレスに行った日だ。
ということは今までのは夢だったのか…
紗南「ごめんごめん、最近徹夜でゲームばっかりしてたから疲れてたみたい。」
杏「ゲームが楽しいのはわかるけどさー、やりすぎはよくないよ?アイドルなんだし。」
紗南「それ、杏さんが言う?昨晩一緒に徹夜狩猟してたじゃん」
杏「そうだっけ?」
美玲とライラが笑っている。よかった。夢だったのか…
ふと、窓の外を見る。
そこには、スーツ姿の男がフリップをもって立っていた。
1:意識不明の重体 1年休み
2:複雑骨折で後遺症 引退
3:四肢切断の大けが 引退
4:出血多量で一気にゴール
5:頭を強打して一気にゴール
6:ふりだしにもどる
以上です。お付き合いありがとうございました。
投下しまー!
レナ「ここに3つの白い曇りガラスの瓶があるわね」
ありす「ありますね」
仁奈「ごぜーます」
レナ「この3つの瓶の中のうち1つだけに……」
レナ「この通り、イチゴを入れたわ」
ありす「なんと!ありがとうございます。いただきますね」
仁奈「えー!ありすちゃんだけずりーです!」
レナ「待ちなさいまだダメよ」
ありす「えっ」
仁奈「えーっ」
レナ「えーじゃありません」
ありす「B」
レナ「Aじゃない」
仁奈「て」
レナ「いろは唄の後半までよく覚えてるわね」
ありす「ツッコミはいいんで本題行ってもらえませんか」
仁奈「そーですよ」
レナ(えぇ……)
レナ「今から3つある瓶の中から1つだけ、選んでもらうわ」
レナ「この三つのうち、どれか一つにイチゴが入ってるとすると……」
ありす「なるほど、実は入ってないとおっしゃるのですね?」
レナ「人の話は最後まで聞いて欲しいわね」
仁奈「すげー!さっき入れたのに消えるんでごぜーますか?手品ですね!!」
レナ「置いてかないで」
ありす「タネも仕掛けもありませんでしたね」
レナ「あなた達ねえ、お願いだから話の腰を折らないで」
仁奈「になたちは真剣に聞いてるですよ」
ありす「そうですよ」
レナ「……」
「よ~く見ると奇妙でもなんでもないけどパッと見奇妙なお話」
その1「変えたほうがお得?お得じゃない?どっち?」
~~~~~~~~
レナ「この3つのうちにどれか1つにだけイチゴが入ってるとすると、テキトーに選んだ1つの瓶の中にイチゴが入ってる確率はいくらかしら?」
仁奈「『入ってる』か『入ってない』かの二択でごぜーますから、二分の一じゃねーですかね?」
レナ「なるほどね」
ありす「『3つのうちの1つ』ですから三分の一ですね」
レナ「そうね。この場合はありすちゃんが正解ね。仁奈ちゃんの言ったことも間違いではないのだけど『3つある瓶の中どれか1つだけにイチゴが入っている』『その中から1つだけ選ぶ』という条件があるから、この場合はありすちゃんが正解」
仁奈「にゃーん」
ありす「にゃーん」
レナ「にゃーん」
みく「にゃにゃにゃ?」
仁奈「みゃみゃ!」
みく「みゃみゃみゃみゃみゃみゃ!」
(中略)
仁奈「ねこになちゃた!ww」
ありす「なってません」
レナ「続き行くわよ。いま二人に選んでもらった瓶をAとしましょう。ここで私がBとCのどちらか一つを開けるわ」
キュッポ
レナ「この通り、空ね」
ありす「からですね」
仁奈「からっぽだー」
レナ「ここで問題」
レナ「二人は『瓶を変えるべきか?』」
ありす「どういうことでしょうか」
レナ「私がここで空の瓶を2人に見せた後に、2人にまた瓶の選択をしてもらうわ」
仁奈「変えた方がいいのかそのままの方がいいのかということでごぜーますかね」
レナ「その通り」
ありす「ある種の心理戦ですね」
レナ「ちなみに『私は3つのうちどれがいちご入り瓶なのか知っている』し『誰に対しても同じ提案をする』こととします。『間違ってあたりを開けちゃうこともない』から心理戦ということはないわ」
ありす「ふむ……」
仁奈「んー……さっきありすちゃんが言った『3つのうち1つだから三分の一』というのを使うと、『2つのうち1つだから二分の一』になる気がするですよ」
ありす「普通に考えればそうですけど、かと言って瓶が持っている確率が変動するということは考えづらいのですが」
レナ「2人ともいい線行ってるわよ」
仁奈「になたちが選んだ瓶の中にいちごが入っているかもしれねーじゃねーですか?になはあんまり変えたくねーですよ」
ありす「しかし私たちの選んだ瓶の中にいちごが入っている確率は『依然として三分の一のはず』ですよ?『結局私たちにはどれがいちご入り瓶なのかわかってない』のですから」
仁奈「でも今は『瓶は2つ』しかねーのですよ?」
ありす「それは選んだ後にレナさんがはずれの瓶を一つ除いたからですよ。その操作によって『選んだ瓶の確率が二分の一に変動することはない』はずです」
レナ「うふふ、正解に近づいてるわよ」
仁奈「じゃあ変えた方がいいってことですか?」
ありす「なぜ変えた方がいいのか……ですね」
仁奈「レナおねーさん!質問です!」
レナ「はい、なにかしら?」
仁奈「『選んだ瓶も選ばなかった瓶もいちごが入ってる確率はどれも同じ三分の一なんですか?』」
レナ「『どれも同じ三分の一』よ。いいところに気づいたわね」
ありす「なら『変えた方が得』ですね」
レナ「説明できるかしら?」
解説
ありす「まず瓶を『選んだもの』と『選ばなかったもの』の二つのグループに分けるとします」
ありす「この時『グループごとにいちごが入っている確率』を求めると、『選んだもの』は三分の一、『選ばなかったもの』は三分の二となります」
仁奈「ここまではわかるですよ。『選ばれなかったものは二つの瓶の分だけ確率が足される』ですから、三分の一×2で三分の二です」
レナ「ここまでは問題ないわね」
ありす「ここからですね。『レナさんがハズレの瓶を開封する際、確実にハズレだけを開ける』なら『選ばれなかったもの』の2つの瓶が1つに減るわけです」
仁奈「あ!……え?」
ありす「どうしました」
仁奈「レナおねーさんがハズレの瓶を開けても『『選ばれなかったもの』グループの確率は三分の二のまま』ってことですか?どーしてですか?」
ありす「『レナさんがあたりの瓶を開けることはありえない』からです」
ありす「レナさんが必ずハズレの瓶を引くからこそ……『選ばれなかったもの』グループの確率は三分の二のままなんです」
ありす「レナさんがハズレを開ける前の『選ばれなかったもの』グループの1つの瓶ずつの確率は三分の一ですよね?」
仁奈「そーですね」
ありす「そこでレナさんがハズレの瓶を開けたとしましょうか。『残った1つの瓶にいちごが入ってる確率』はいくらでしょうか?」
仁奈「?……???」
仁奈「あーーーーー!!!!!!!」
仁奈「『レナおねーさんが選んだ瓶がハズレ』だったから、『その瓶があたりである確率はゼロ』なんですね!」
ありす「そういうことです」
ありす「もしこれが『レナさんがあたりの瓶を開けるかもしれない可能性』があったり、『私たちの選んだ瓶によってレナさんが行動を変えるかもしれない可能性』があったりすると話は変わります」
仁奈「なんだこれー!わかんねー!わかったけどわかんねー!」
レナ「ほとんど正解ね。さすがありすちゃん」
仁奈「でもどうして『になたちが選んだ瓶は確率が変わらない』んでごぜーますかね?」
ありす「『レナさんが私たちの選んだ瓶を開けることがない』からでしょう。もしこれで私たちの選んだ瓶もレナさんが開けることがあった場合、そして開けた時に中身がハズレだったとしたら……確率は二分の一になるでしょうね」
レナ「というわけで正解は『変えた方がいい』でした」
ありす「ありがとうございました」
仁奈「ごぜーました!」
了
ここの>>1が過去に量子力学スレ立ててたからなんか数学か物理かで奇妙っぽいネタを探してたらモンティ・ホール問題にぶち当たった。これすき。
ちなみに『ありになが瓶を選んだ後、レナが残りの二つのうちハズレの方を一つ解放することが決められている』というルールがないと必ずしも変えた方が得とはならない。
例えば『レナもあたり入り瓶がどれかわからない』なら確率は変わらない。
それと『レナがハズレを開封した後に事情を知らない早苗さんに残りの瓶のうちどっちか1つ選ばせる』ことをしてもらうと早苗さんはどっちを選んでも確率は変わらない。
こういう立場とか条件とか次第で確率が変わるのってめっちゃ面白いなと思った。実際の問題でも条件の解釈で答えが割れたらしい。
モンティ・ホール問題の変形はいろいろあるらしいので興味ある人はぐぐってみて。
読んでいただいてありがとうございました。
輝子「キノコーキノコーボッチノコー」
輝子「…あ、み、見てたのか…?」
輝子「トモダチに霧吹きしてたんだ」
輝子「ほ、ほら…こうやって小まめに水分を与えないとな」
輝子「前よりも、沢山生えてるだろ?」
輝子「ま、まぁ…沢山いるから良いって訳じゃないけど」
輝子「と、トモダチは…大切にな?」
「禁しられたメール」
「……ふ、フヒ…なにが友達百人出来るかな、だ…」
今日の仕事は、みんなの歌だった。
私達五人のユニットで呼ばれ、歌ったのは一年生になったなら。
周りのみんなは、楽しそうに歌っていた。
きっと小学生だったころの自分を思い浮かべでいたんだろう。
…こ、心がシンドイ…わ、私だって、トモダチなら沢山…
そう思って、キノコの原木を見て気付いた。
百人もいない、と。
しまった…こないだのホームパーティで、トモダチが減ってる…
別段だからと言って何か困る訳でもないけれど。
少し、なんとなく。
ほんのちょっぴっとだけ、悔しかった。
私にだって、トモダチは沢山いるんだ、と。
そう、心を勇気付けたくて。
ぶーん、ぶーん
そんな折、一通のメールが届いた。
今時メールなんて珍しいな。
そもそも前からメールなんてこなかったけど。
…自分で考えてて哀しくなるな。
「…なになに?トモダチメール?」
なんだこれ。
トモダチメール?
意味が分からないぞ…
あ、あれか?ネット上でトモダチを作ろうみたいなやつか?
内容は、凄く簡潔的だった。
『お望みのトモダチ内容を入力して下さい。翌日お届け致します』
な、なんだ?余計に意味が分からないぞ。
これはあれか?
ネットの通販みたいなものなのか?
莫大な請求金額さえこなければ多分払えるし…
そ、それじゃあ…
『身長8cmくらいのシイタケ君を…』
送信。
…私は、何をやってるんだ。
完全に通販じゃないか。
そんな事したって何があるわけじゃないのに。
うん、疲れてるんだな。
寝よう。
ピンポーン
…朝か。
日光が眩しいな…
なんで世界はこんなに明るいんだ…
おっと、お客さんが来てるみたいだな。
こんな朝早くに私の家に誰が…って、宅急便か。
そう思って覗き穴を覗く。
…誰もいないぞ?
ガチャ
ドアを開ける。
誰もいない。
…こ、こどものイタズラか?
こどもは朝から元気だな…
…ん?
足元に、段ボールが開けて置いてあった。
そしてその中には、10cm弱くらいのシイタケ。
…なんでシイタケ?
イタズラか?
…あ、そうだ。
昨日、なんか怪しいメールに返信したんだった。
あれ、本物なんだな。
通販みたいだ…。
あれ、お金とかいいのかな。
…まぁ、いいか。
後から何か言われても、シイタケの代金ならそんなに高くないだろうし。
今日も明日も休みだし、家でトモダチの世話をするとしよう。
新しいトモダチが来たから、みんなに紹介しないと。
ほ、ほら、みんな…転入生だぞ。
と、トモダチになってあげるんだ。
霧吹きを使って、ばい木に水を吹きかける。
…ふ、フフフ…トモダチが増えたぞ…
…あ、もう抜かれてるから育たないな、こいつは。
仕方ない…朝ごはんに頂こう。
…よし。
昨日は本数や状態を指定しなかったからいけなかったんだな。
なら、今日は…
『シイタケ君を10本くらい、まだ育てられる状態で』
送信。
よ、よし。
明日の朝が楽しみだな。
ピンポーン
…届いたのかな。
眠い目を擦りながらドアを開けると…
よ、よし!
トモダチが…沢山…
まだ育てられる。
原木には10本くらいのシイタケ君。
これは…トモダチ百人も夢じゃないな。
いける…いけるぞ。
ふふふ…私は幸せだな…
取り敢えず、日陰に置いて霧吹きをして…
あ、どうせなら…
これを機会に…よし。
タケノコ君とも、トモダチになってみよう。
メールは…夜でいいか。
どうせ届くのは明日だからな。
ピンポーン
お、きたきた。
ドアを開けると…おお、デカイ。
立派なタケノコだ。
しかも、要望通り植木鉢ごときたな。
さて、こいつは…だめだ。
シイタケ君の隣に置いといたら喧嘩しちゃうか。
タケノコ君は…日光に当てなきゃいけないんだったな。
こいつはベランダに置いておこう。
…ふ、ふひっ…
明日は午後から、街で食レポか…
つ、つらいな…
やりますよ?私はちゃんとやりますよー
あ、そうだ。
それなら、午前中は空いてるし。
食レポ得意そうなトモダチを作るのもいいかもしれないな。
…本当に届くかどうか、まだ分からないけど。
『食レポが得意なトモダチ』
よし、送信。
…ほんとに、これ来るのか?
ピンポーン
「…はーい…今開けますよー」
ガチャ
「おはよう!輝子ちゃん!会えてよかった!」
…なんだ?何が起こってるんだ?
目の前にはとっても元気そうな女の子がいて。
私に向かって、元気よく挨拶してきてる。
なんだろう…あ、そうか、夢か。
「今日は一緒に食レポごっこするんでしょ?」
「…あ、そ、そうだったな…ちょっと待っててくれ…」
ほっぺたをつねる…い、痛いぞ。
夢じゃないのかこれ…
…あ、そうだ。
昨日の夜、トモダチメールを送ったんだったな。
だとしたら、これは凄いぞ…
希望通りのトモダチが、沢山手に入るじゃないか…
急いで顔を洗って着替えて。
午後の撮影用の荷物をカバンに詰め込み、玄関へ。
届いたトモダチの女の子は、ニコニコして待っててくれた。
…な、なんだか眩しいな…
「よ、よし…い、行こうか…」
「うんっ!」
人が沢山いるデパートのレストランフロアで。
私達は、のんびりご飯を食べていた。
「うわぁ、このエビプリプリ!キノコの食感とマッチしてて凄く美味しいね!」
「お、おおう…凄いな、そんなに直ぐに言葉が続けられるなんて…」
これは、見習わないとな…
今日の午後に向けて、色々と参考にしよう。
そのまま色んなお店で、少しずつ一品ずつ料理を食べて。
毎回彼女は、多種多様の表現を用いてレビューしてた。
よ、よし。
こういう時は、こう言えばいいのか…
苦手な食べ物っぽいな、それ。
…おお、好きな人には堪らないでしょうね、って言えばいいのか…
勉強になるな。
…おっと。
そろそろ一回事務所に行かないと。
「わ、悪いけど…私は次の用事があるから…」
「え…じゃ、じゃあまた明日か近いうちにまた一緒にご飯食べようね!」
「そ、それじゃ…」
「あ、連絡先交換しない?」
「ご、ごめん…職業上、人にはあんまり連絡先教えられないんだ…」
「そ、それじゃ私の連絡先だけ渡しておくから!」
そんな時、私は目を少し伏せていたから。
彼女の表情を、見れていなかった。
この時少しでも、本当のトモダチみたいにきちんと目を見て話していたら…
撮影は、なかなか上手くいった…と思う。
直前に上手い人と一緒にいたからな。
うん、持つべきは優秀なトモダチだな。
さて…と。
明日は午後からラジオの収録か…
どうせなら、トークが上手い人とトモダチになっておきたいな。
午前中はそのトモダチとおしゃべりして。
そうすれば、ラジオの収録も上手く話せるかもしれない。
『トークが上手い人』
送信。
これでよし。
…あれ、ベランダに置いておいたタケノコ君がいない。
そういえば、その前日に届いたシイタケ君達もいない…
なんでだ?
ドロボウなんて事もないだろうし…
ま、まさか…
ベランダに置いておいたから、カラスに持ってかれちゃったのか…?
オォォォーマイガァァァァァ!!
あ、すみません五月蝿いですね…ふ、ふひっ。
ピンポーン
「はいはーい。星の輝子の家ですよー」
ガチャ
「おはようございます、輝子さん。今日はとってもいい天気ですね、風も心地よいですよ」
「そ、そうだな…洗濯物がよく乾きそうだ」
おお、これまた凄いな。
お互い初対面の筈なのに、会話が続けられそうだぞ。
トークが上手い人って、相手が返しやすい事を言うのか。
これは…いいな、勉強だ。
喫茶店で、カフェオレを飲みながらのんびり会話する。
常に相手の女の子は笑顔で頷いて、私が続けやすいように話題を振ってくる。
「それで、輝子ちゃんはシイタケがトモダチなんだ!」
「う、うん…お、おかしいか?」
「ううん。私だってぬいぐるみに名前つけてたし、別段変じゃないと思うよ?休日はその子達と遊んでるの?」
凄いな、ほんとに。
会話が弾む…そ、そうか。
会話の最後に相手に対する質問や同意を求めればいいんだな。
そうすれば、次の会話が生まれるんだ。
今日のラジオ収録、上手くいきそうだな。
…お、そろそろ時間だ。
「ご、ごめん…そろそろ、次の用事があるから…」
「そ、そっか。また一緒にお話ししようね?」
「そ、そうだな…あ、悪いんだけど連絡先教えて貰っていいか?」
「はい、これ私の電話番号。何時でも掛けていいからね?」
それから、私は仕事の前日や午前中はトモダチを作って色々と学んでいた。
野菜収穫の撮影の時は農家の娘さん。
スポーツ番組の前には体育会系の女の子。
バラエティ番組の前日にはクラスの人気者っぽい子。
毎日が、上手くいっていた。
私も、色んな人と会話して成長できた…と思う。
メールをすれば、新しいトモダチが出来る。
トモダチ百人も全然夢じゃない。
そう言えば、明日はまた食レポか。
一番最初に一緒にご飯食べた子に連絡してみようかな。
折角連絡先教えて貰ったし。
ぷるるるる、ぷるるるる
…あれ?出ないぞ?
お掛けになった電話番号は、現在利用されておりません?
おかしいな…ま、まさか。
私に、適当な番号を…
いや、もしかしたら私が番号を間違えてただけかもしれないな。
もう一回確認してかけ直してみよう…
…ダメだ、繋がらない。
まぁ、いいか…
それならそれで、新しいトモダチを…
『食レポが得意なトモダチ』
送信。
…あれ?出来ないぞ?
なんでだ?もしかしたら電波が悪いのか回線がパンクしてるのかな。
ぶーん、ぶーん
…お、メールだ。
なんだ…?
『ご利用のトモダチ人数が上限に達しました。以降は、あなたがトモダチとなる番です』
…え?どういう事だ?
回数制限があったって事か?
も、もっと考えてからメールするべきだったかな…
そう思いながら、メールをスクロールして。
私は、息が止まりそうになった。
『あなたには、他の方の希望通りのトモダチとなって頂きます。容姿は相手の要望通りのものとなります。相手が次のトモダチをメールで要求した時点で、あなたはいなくなります』
う、うそだろ…?
な、なんだこれ…
いなくなる…え?
急いで今までに貰った連絡先に片っ端から電話を掛けるもの、誰にも繋がらない。
メールの通りだとすると、既に…
…って、ことは…容姿も変わるってことは、もしかして…
最初に送られてきたシイタケ君やタケノコ君は…
う、うわぁぁぁぁぁぁぁ
うう、嘘だ…そんな事…
もしそうだとしたら…
ぶーん、ぶーん
め、メールだ…
ドッキリ大成功とか、そんな内容であってくれ…
『相手:○○ ○○○さん。住所:○○県○○市○○。希望:少し暗くて、少し歌の上手い女の子』
翌日朝、私は始発に乗ってその女の子の家に向かった。
そこまで遠くない、電車で30分もあればつく家に。
それでも、もし私が相手の要望に応えられず。
ほかのトモダチを求めてメールを送ってしまったら…
そう考えると、動かずにはいられず。
彼女が起きて少しくらいのタイミングでインターフォンを押せるように、近くでスタンバッテいた。
部屋の電気がついた。
よ、よし…
大丈夫だ、会話も少しは上手くなったし…
もともと、相手は少し暗めの女の子を要望してるくらいだ。
…ふー…
い、いくか…
ピンポーン。
勇気を振り絞って、インターフォンを押す。
ガクガクと足が震えそうになる。
それでも、不安を相手に察される訳にはいかない。
ガチャ
「お、おはよう…○○ちゃん。きょ、今日は…曇ってるけどいい天気だな」
少し暗い女の子を要望しただけあって、相手の○○ちゃんも少し暗めの子だった。
だからこそ、私なら大丈夫だ…多分。
話のテンポはそんなに良くないけど、ちゃんと続いてる。
上手く、相手の期待通りのトモダチになれてる…
「ね、ねぇ輝子ちゃん。良かったらカラオケにでもいかない?」
「か、カラオケか…あ、あんまり行った事なかったけど、行ってみようかな」
彼女はあまりトモダチがいないらしく、だからこそカラオケに行ってみたかったらしい。
私もあまりカラオケに行った経験はないけれど、大丈夫だろう。
むしろ、カラオケに行きたかったからこそ少し歌の上手い女の子を要望したのかもしれない。
わ、私で大丈夫かな…
お互いオドオドしながら受付を済ませ、カラオケルームに入る。
カラオケあるある…なのか分からないけど、お互い一曲目を入れられない。
少し、沈黙が続く。
こ、これは…まずいな。
し、仕方がない。
私が一曲目を入れよう。
「そ、それじゃあ…わ、私が先に歌っても大丈夫か?」
「お、お願いしていい?カラオケって流れでなんとかなると思ってたけど、最初に曲いれるの緊張しちゃうね」
「そ、そうだな…」
一曲目、どうしようか…
下手過ぎると、相手の気を損ねちゃうかもしれないし…
歌い慣れてて、有名な紅にしよう…
ピッ
「へー、輝子ちゃんってこういう曲歌えるんだ」
「ま、まぁな…」
イントロが流れ出す。
私はマイクを握り締め、大きく息を吸った。
聞き苦しい歌は聞かせられない。
だから…全力で。
「…ふ、ふぅ…大声で歌うって、楽しいな…」
「そーだね。うん。凄く上手かったと思うよ」
よ、よかった…
○○ちゃんは満足してくれたみたいだな。
これなら、あとは流れでなんとかなって…
「…少し上手い、って希望出したのに。上手過ぎて私が歌いづらいじゃん」
「…え?」
う、うそだろ…?
待ってくれよ、私は頑張って歌ったじゃないか。
「次は、普通くらいって希望出さなきゃ」
「ま、待ってくれ…い、いまのは歌い慣れてて…」
「いいや…今のうちにメールだしちゃお」
彼女の指がスッスッと動く。
待って、待ってくれ。
頑張ったじゃないか。
私は、○○ちゃんと気が合ったじゃないか。
「送信、っと」
「私達は、トモダチになれ
投稿終わりです
既に沢山のお話が投稿されていて喜ばしい限りです
是非とも、気が乗った方は参加してみて下さい
モバP「社会生活、もとい人付き合いってのは、気疲れの連続だ」
モバP「波風を立たせないために本音を押し殺さなきゃいけない」
モバP「番組やライブのスタッフ、スポンサー……そして何よりも事務所のアイドルたち」
モバP「表ではニコニコしていても、腹に一物抱えてるのが人間だからなぁ」
モバP「なんて、うちの事務所のみんなは仲が良いから心配してないけど」
「正直者」
「プロデューサー、ずいぶんのんびりしているねぇ」
「もうすぐ打ち合わせだから急いでるくらいだっての……ん、その手に持ってるの何だ?」
「これ? 何でも正直に話しちゃう薬だよ」
事務所の廊下で出くわした志希がこんなことをいうものだから、思わず足を止めてしまう。
いままでも気分が高ぶる香水だとか、妙なものを作ってきてはいたが。
正直にねぇ……俗っぽい言い方をすると自白剤ってやつか。
どんな仕組みかは気になるが、俺の頭じゃ理解できる気がしないので聞かないでおく。
コルク栓をした試験管を突き出すように持ちながらにゃははと笑う志希は、新しいおもちゃを自慢する子供そのものだ。
彼女が笑うと試験管の中の液体が波打つ。色は透明で、見た目はただの水にしか見えない。
「で、それがどうした。まさか俺にくれるのか?」
「もちろん、キミのために作ったんだから好きにしちゃってー」
「冗談で言ってみただけなのに、なぜ俺のため……あ、やべ、時間が!」
思わず試験管をひったくるように受け取ると、小走りでその場を後にした。
向かう途中、気になって栓を抜き嗅いでみるが、刺激臭は一切しない。完全な無臭だ。
眉唾ものだが、口にすること自体が危険なものを悪戯に渡す奴でもないだろう。
俺をからかうためにただの水を入れたのなら、それはそれで構わないわけで。
これからニュージェネレーションの3人と打ち合わせの予定だ。
騙されたと思ってちょっと使ってみるか。
再び栓を閉め直したそれをスーツの内ポケットに滑り込ませてから、応接室のドアを開いた。
………
……
…
「――さて、話すことはこんなもんか。ところで、3人ともこの後の予定は?」
「えっと、特にないですけど……」
「だから終わったらみんなでご飯食べに行こうって思ってたよ?」
「で、その言い方は何かあるんだ」
「いや、ちょっとした面談がしたくて。ひとりずつがいいから、そのぶんそんなに時間もかけるつもりじゃない」
多感な年ごろの少女たちがユニットを組むことは、可能性とともに危険性もまた孕む。
不仲で裏では足の引っ張り合いをしたり、個人の人気の差から上下関係が生まれていじめに発展したり……。
内部の人間関係の軋轢が原因で解散するアイドルユニットというのも、この業界にいて聞かないわけじゃない。
とはいえ、この3人の仲が悪いとは到底思えないが。
今後からかうネタのひとつでも出たらいいと、その程度の気持ちだ。
そもそも薬が本当に効くのかも怪しいしな。
「おっと、これは緊張してしまいますなぁ」
「改めて面談なんて言われると……な、なにかあるんですか?」
「今後のプロデュースの参考する簡単なアンケートだと思ってくれれば」
「ふぅん、そっか。じゃあ早くやって終わらせようよ」
「それじゃあ卯月、凛、未央の順で。2人はちょっと席を外してくれ」
「コーヒー淹れてきたから飲んで。打ち合わせから続いてだから疲れたろ?」
「あ、はい。いただきます」
例の薬を盛ったコーヒーは傍目ではまったく区別がつかない。
味を知ることはできないが、口を付けた卯月の顔に変化はないので問題なかったのだろう。
どれくらいで効き始めるのかもわからないので、切り出すタイミングに困る。
適当な質問と雑談を交わして様子をみよう。
「人気も出て忙しくなってきたが、無理してない?」
「無理してますよ、もう頑張りたくないです!」
「え?」
予想外すぎる返答に、開いた口がふさがらない。
対する卯月はなぜ驚いているんだろうとでも言いたげに、きょとんとしている。
言った本人はおかしいと思ってない?
薬が効いている?
いや、そんなことよりも、これが卯月の本音なのか?
「あー、卯月は……疲れてるのか?」
「疲れてますよ? 事務所のみんなといるの、嫌ですから」
まただ。それはあまりに突拍子もなくて、笑顔で話す表情との差がありすぎて理解が追い付かない。
頑張り屋で、周りをよく見て、周りを明るくさせているあの卯月が。
その明るい笑顔と声のトーンはそのままに、拒絶の言葉をはっきりと口にした。
さきほどまでは賑やかで狭く感じた応接室なのに、テーブルを挟んで座る卯月がいやに遠くに感じる。
いつも見せる笑顔の裏にそんな気持ちを覗かせている瞬間がはたしてあったのだろうか。
背中に冷たい汗。
気取られてはいけない。これが卯月の本心というなら、聞いておかないと。
対策を練る必要があるかもしれない。
そのためにも、いまは情報が欲しい。
「……凛や未央のことは、正直どう思ってる?」
「凛ちゃんも未央ちゃんも馴れ馴れしく私にべったりしてきて、ウザいですね」
卯月は照れくさそうに笑って答える。
「そうか……ここだけの話にする。他に、密かに思うことがある人は事務所にいるか?」
「……プロデューサーさんだけですよ、私のことをちゃんとわかってくれるのは」
「卯月?」
「真剣に仕事に打ち込む姿、前からいいなって見てました……だから私、プロデューサーさんのことが好き、です」
なんでも正直に話されるのも、また問題が起こるものだ。
それを痛感した瞬間だった。
……
…
「卯月も未央もそこまで好きじゃないかな。でも、ユニット組んでるし仕方なく、ね?」
「2人とも自分ことばかり考えてるし。自分勝手で押しつけがましいって思う」
「あ、でもプロデューサーは違うよ。期待してるから」
……
…
「しまむーにしぶりん? うーん、あんまり仲良くないよー」
「楽屋とかずっと無言だし。って、プロデューサーだって知らないよね」
「プロデューサーはいつも爽やかで明るいし、話も弾むからずっと話してたいなー、なんて!」
3人との面談を終わらせてからしばらくの間、デスクで頭を抱えている。
つまり、俺は何もわかっていなかったのだ。
あの3人のユニットは軌道に乗ってるし、解散させるわけにはいかない。
だが内部事情を知ったいま、このまま続けることができるだろうか。
前と変わらずプロデュースができる自信がない。
さらに問題なのは、3人とも俺に明確な好意を抱いていることだ。
素直に悪い気はしないが、ユニットメンバー全員が同じ相手を好いているというこの状況は、あまりにも危険な気がする。
俺への心象を良くしようと、俺の前では仲良しを演じていたのか。
女ってのは本当に怖い。
「あ、戻って来てるね。もしかして、あの薬使っちゃった?」
「志希か……いや、使ってないよ。誰かに悪用されるかもしれないし、責任もって俺が処分しとく」
とっさに嘘をついてしまうが、黙っていた方がいいだろう。
それを聞いた志希はまた朝のように、にゃははと笑いながら、ならよかったと呟いく。
安堵したような、そんな志希らしくなく分かりやすい反応だった。
よかったって、どういうことだ?
「あの薬、何でも素直に、でも天邪鬼に答えるようになる薬なんだよね。私もテストで服用してたからさ、あげるつもりはなかったんだにゃー」
終わりです。
勢いのままに書いたので誤字等ありましたら脳内補完していただけると助かります。
茄子「人生における運の量は決まってると言われています」
茄子「運には大きく分けて2つ、幸運と不運があります」
茄子「この2つの運はちゃんと釣り合いが取れるようになっているんです」
茄子「例えば」
茄子「宝くじが当選したと思ったら、その宝くじを無くしてしまったり」
茄子「道端で転んだおかげで、交通事故を回避したり」
茄子「皆さんも似たような経験があるのではないですか?」
茄子「……運は有限ですから」
茄子「使いすぎには気を付けて下さいね♪」
『運の絶対量』
私は生まれつき運がいい子供でした。
幸運体質と言うべきなんでしょうか。
トランプ、花札、双六………
運要素の強いゲームに関しては一位以外になったことがないぐらい私は運がいいんです。
ある日のことです。
朝、学校に行く準備をしている時に祖父にこんなことを言われました。
「あまり、使いすぎてはいけないよ」
なんのことを言ってるのかさっぱりわかりませんでした。
私は祖父の「使いすぎてはいけない」という言葉から、お小遣いのことについて言ったのだと推測して学校に向かいました。
その数日後でしょうか。
突然、誰も私と遊んでくれなくなってしまいました。
理由は簡単、私の運が良すぎたせいです。
………そうですよね。
いつも一位になる私は楽しくても、周りの子達は面白くないですもんね。
でも、当時の私はわからなかったんです。
どうして誰も遊びに入れてくれないのか、昨日まで仲間に入れてくれてたのに、とーーーーー
夜になり、時計の二つの針が上を向いた頃、祖父が私の部屋を訪ねてきた。
「茄子ちゃん」
祖父は静かに語り始めました。
「鷹富士家の人間には不思議な力があってね」
「幸運を前借りすることができるんだ」
「でもね、運にも限度ってものがあるから」
「使いすぎるともちろん無くなってしまう」
「運には幸運と同じだけの不運があるから、後には不運しか残らなくなってしまう」
「それだけは絶対に避けなくてはいけないんだ」
「少し難しかったかな?」
そう言って祖父は私の頭を撫でて、私の部屋を後にしました。
私はうつらうつらしながら聞いていたので、大半の話は覚えていませんでしたが、運を使いすぎてはいけないということだけはわかりました。
次の日から私は運を使わないように努めました。
運要素のあるトランプ、花札、双六、じゃんけんでさえも避けるようになりました。
唯一、運を使っているのは正月におみくじを引くことぐらいでしょうか。
これぐらいなら許してくれますよね?
それから10年。
私は今、アイドルをやっています。
アイドルは楽しいですね♪
何かを頑張ることがこんなにも楽しいことだったなんて、私知りませんでした。
初めての体験ばかりです。
歌って、踊って、ファンの方達に応援してもらって、お友達も出来て、そしてーーーーー
好きな人も出来ました。
その人は私をこの道に誘ってくれた方で、私を含めて150人以上のアイドルをプロデュースしているすごい人なんです。
それなのに気取ってなくて、何事にも一生懸命に取り組んで、たまにお茶目な所を見せてくれたりーーーー
自然と惹かれていったんです。
今日は珍しくプロデューサーが車で迎えに来てくれました。
ついでにと言って杏ちゃんやきらりちゃんも拾おうとしたらしいんですけど、撮影が押しているそうなので私だけ事務所まで送ってもらうことになりました。
車の中でプロデューサーと二人きりの時間。
何気無い話でも私にとっては特別な時間。
このまま事務所に着かなければいいのに。
そんなことを思ってしまうんです。
幸せな時間というのは過ぎるのが早いですね。
もう事務所の駐車場に着いてしまいました………
次に会えるのはいつになるのか、そんなことを考えているとーーーー
「あの、か、茄子さんっ!」
「は、はいっ!」
緊張した面持ちでプロデューサーが話しかけてきました。
「こんな所で言うようなことではないと思ったんですけど、今じゃないと二人きりで中々会えないと思ったので」
そう前置きをして、何かを決意したように真っ直ぐ私を見つめる。
「結婚を前提に、僕とお付き合いしてくれませんか」
夢なのではないかと思いました。
まさかプロデューサーと両想いだったなんて………!!
事務所のアイドル、ほぼ全員に慕われているプロデューサー。
私なんかより魅力的な子はたくさんいて、きっとこの恋は実らないのだろう、そう思っていました。
でも、プロデューサーは私を選んでくれた。
なんて幸運なんでしょうか。
これ以上の幸運なんてない。
これ以上の幸せなんてない。
怖いくらいに嬉しいんです。
まるで一生分の幸運を使い果たしたようなーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
「あれ?」
さっきまで私はプロデューサーの車の中にいたはずなのに………
今は………事務所の、中?
「どうかしましたか?」
ちひろさんが不思議そうな顔で私を見る。
「あ、えっと、私なんでここに……?」
自分の声に違和感があった。
「覚えてないんですか?」
「は、はい……」
「まぁ、無理もないですね。今日のレッスンはマストレさんが担当でしたから」
どうしよう……レッスンした記憶もない。
「確か、レッスン帰りにここに寄ってプロデューサーさんを待ってたんですよ」
プロデューサーを待っていた……?
と言うことはプロデューサーから告白されたのは、夢………?
「……プロデューサーは今どこに?」
何故かわからないが私の心は不安でいっぱいでした。
何かが私の中から無くなってしまったような、そんな気持ちでいっぱいだったんです。
この不安な気持ちはプロデューサーに会えば無くなるのだろうか。
早くプロデューサーに会いたい……!!
「プロデューサーさんですか?」
「予定ではもう少しで帰ってくるはずですけど………」
ガチャッ
「あ、帰ってきましたね」
「ただいま戻りました~」
「プロデューサー!」
プロデューサー、私の好きな人。
早く会いたい。会って私を安心させて欲しい。
私はプロデューサーに駆け寄ろうとした
が、隣に立っている女性を見て動きが止まる。
「な、なんで………!?」
Pさんとその女性は不思議そうな顔で私を見る。
なんで………
なんで私が目の前にいるんですか!?
「どうしたほたる?」
………ほたる?
プロデューサーは私に向かってほたると言った?
なんで?どうして?
私は混乱した。目の前の出来事が本当に現実のものなのかわからなくなってしまった。
テーブルの上に小さい鏡が置いてあるのに気がついた。
それを手に取り、自分の顔を覗き込むと、いつも見ている自分の顔ではなく、事務所のアイドル仲間である白菊ほたるの顔がそこにはあった。
「茄子さん、ですよね?」
私は今、事務所の屋上にいる。
あの後、取り乱した私をほたるちゃんが連れ出したのだ。
屋上は柵が古くなっているらしくて、直すまでは立ち入り禁止になってはいますが、今の状況ならむしろ好都合、誰にも聞かれずに話すことができる。
目の前には私の身体になっているほたるちゃんがいる。
「ほたるちゃん、よね?」
「………はい」
どうやら、私とほたるちゃんは入れ替わってしまったみたいです。
「どうやったら元に戻るのかしら」
「………私はこのままでもいいです」
「え?」
信じられない言葉が聞こえた。
「このままでもいいって………」
「だって、プロデューサーさんの恋人になれたんですよ?なら、このままの方が私はいいです」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「プロデューサーと恋人になってるのは私の身体、鷹富士茄子なんですよ!?」
「そんなのほたるちゃんだってーーー」
「それでもっ!!」
「っ!?」
「それでも、私はプロデューサーさんと一緒になりたいんです」
「茄子さん、本当にありがとうございます」
「今まで不幸なことばかりでしたけど、私、やっと幸せになれるんです!」
そう言ってほたるちゃんは屋上から出て行った。
「待って!」
ガチャガチャッ!!
「なんで!?」
不幸なことに、屋上の出入口のドアが開きません。どうやら鍵が壊れているみたい。
この事務所は7階建て、屋上から助けを呼べば誰か来てくれるはず………!
そう思って屋上の柵に少し体重をかけて下を見たその時ーーーー
バキッ!!
「え?」
突然の浮遊感、とっさに逃げることも出来ず屋上から下に落ちていく。
ーーあぁ、あの時に使い切ってしまったんでしょう。
ーーーー無意識のうちに、一生分の幸運を前借りしてプロデューサーに選んでもらった。
ーーーーーーー幸運が無くなれば後に残るのは一生分の不運だけ。
ーーーーーーーーーーーでも、無意識だとしても使っちゃいますよね。
ーーーーーーーーーーーーーーーだって
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー好きなんですもん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーグシャアッッ!!!!!
終わりです。ありがとうございました。
こんな内容でも某映画風にアレンジしたら…
ほたる「もしかして…」
茄子「私たち、身体が…」
2人 「入れ替わってる〜!?」
4月から社会人だから今のうちに投下します
モバP「僕はアイドル全員を愛している」
モバP「183人全員の姿を、表情を、仕草を、長所を、短所を、声を愛している」
モバP「だから、全員を平等に愛するための世界を探して旅に出た」
「ボイス」
モバP「アイドルマスターシンデレラガールズ、サービス開始から5年」
モバP「アイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ、サービス開始から1年」
千川ちひろ「皆さんのご愛顧と課金のおかげですね!」
モバP「ボイス付きアイドル64人...ボイス無しアイドル119人...」
モバP「5年かけても声がついたのが全体の約3分の1なんですよ...」
ちひろ「全員にボイスがつくまであと10年は課金が必要な計算ですね」
モバP「ああああああもう!!10年なんて待てませんよ!ちひろさん!!」
ちひろ「そんな時の課金ですよ。たくさん課金すればその10年を縮められるかもしれませんよ?」
モバP「バカにしないでください!声優を探すのにどれだけ手間と資金が掛かるかくらい予想は付きますよ!」
モバP「だからやっぱり既存の声付きの人気アイドルが優先されちゃうんでしょ!?」
ちひろ「アイドルも慈善事業じゃありませんからねえ...人気と課金は切れない縁と言いますか...」
ちひろ「ボイスなしのアイドルに脚光を浴びさせたいなら、その娘が出るイベントで全力課金ですよ」
ちひろ「で?...モバPさんはどの子に課金......もとい、ボイスが欲しいんですか?」
モバP「119人全員ですよ!!!でも、どれだけ課金しても全員に行き渡るわけじゃない!それが歯がゆいんです!」
ちひろ「それでも課金するんですよ。この世界は課金が全てです、課金しなければどんな可能性も0のままですよ?」
ちひろ「というか最近183人のサインがお披露目できたじゃないですか、大躍進ですよ」
モバP「んんんんんん!!だったら旅に出ます!183人全員にボイスの付いた世界を探して!!」
ちひろ「はい?」
モバP「そして僕はその世界で課金します!!全員に!平等に!」
ちひろ「いや、何を......って、どこ行くんですか!?」
こうしてモバPは旅に出ました
手荷物は換えのスーツと課金するための資金
しかし今の彼に課金を行う気はありません
それはいずれ来るべき時に課金するためのものです
なので彼は最低限の食事と交通費にのみ、切り崩した資金を使いました
見慣れた街を離れ、見慣れない街に踏み入りました
街頭の巨大モニターには彼がプロデュースしたアイドルが歌う姿がありました
しかし、彼は立ち止まってはいられません、ボイスの付いていないアイドルのためにも
「あー、この曲、フリスクにカバーさせてみたいなぁ」
そう呟きながら、また別の街へと向かいました
「この映画...ヒーローバーサスに主題歌を歌わせたら合うだろうなぁ」
「ここのトークイベント...GIRLS BEに任せたら...」
「こういったCMソングだとブリアントノワールが向いてるんじゃないか...?」
やがて彼は開けた野原に辿り着きました
晴れ渡る空、可愛らしい小さな花、野を駆ける小動物、暖かな風が疲れを癒していく気がしました
ひとつ不自然な点があるとすれば丘の上に建った一軒の建物
そこから出てきた人物はとても見覚えのある人物でした
千川ちひろ「あら、プロデューサーさん?」
モバP「げぇっ!ちひろさん!......ちひろさん?」
顔なじみの黄緑の事務員です
啖呵を切って別れた手前、やや気まずい思いが脳裏をよぎりかけ、彼は気づきました
モバP「あれ?ちひろさん、三つ編み伸びました?」
彼の見知ったちひろは三つ編みを肩にかかる程度にしか伸ばしていませんでした
しかし今、彼の目の前にいるちひろのは三つ編みは胸の下にまで垂れ下がっています
ちひろ「はい?私は五年間この長さですけど...」
モバP「............」
彼の頭にある可能性が宿ります
それを確かめるためにある質問をしました
モバP「ちひろさん」
ちひろ「はい、なんでしょう?」
モバP「あなたの所のボイス付きアイドルって何人くらいいましたっけ?」
ちひろ「......ええーっと、大体70人くらいですね」
モバP「!!」
そうです、彼はついに別の世界にたどり着いたのです
ちひろ「少なくとも小学生組には全員ボイスがついてますよ」
衝撃の事実です、三つ編みの微妙な長さなど頭から消し飛びました
モバP「そうなんですか、ということは...ビートシューターも...」
ちひろ「ビートシューター、梨沙ちゃんと晴ちゃんのユニットならこの前CDが出たところですよ」
モバP「ひつじさんとうさぎさんは?」
ちひろ「晴ちゃんと小春ちゃんのユニットも直に出ますよ」
モバP「......おお...直に...っていうのは?」
ちひろ「ええ、先にU149のアニメ化の企画が押してますので」
モバP「おおおお!!」
ちひろ「さぁ、行きましょうか。お仕事が待ってますよ?午後からはL.M.G.Bの付き添いですよ」
モバP「いえ、行けません」
彼はきっぱりと拒絶の意を示しました
ちひろ「はいぃ?」
事務員が首をかしげると、三つ編みが大げさなほどに揺れました
彼はそれに触れず淡々と言葉を述べます
モバP「だってボイスが揃っているのは小学生組だけなんでしょう?」
モバP「L.M.G.Bには成人である若葉さんもいるんですから、小学生組だけじゃダメなんですよ」
ちひろ「あらら...」
そういうとモバPはまた歩き始めました
次の世界を求めて
やがて彼はまた、どこともしれない道を歩き、山を越え、海を渡りました
そして次にたどり着いたのはどこかの商店街でした
ゲームセンター、ゴスロリショップ、ドーナツ屋、ぬいぐるみ屋、PCショップ
統一感のない店が隣あい、重なり合ってどこまでも続いています
様々な色合いの看板が不規則に並ぶ中、なんの看板も掲げていないシンプルな建物を見つけました
やはり、そこは事務所です
中からは見覚えのある女性がでてきました
千川ちひろ「プロデューサーさん?」
彼の知るちひろとの違いとしては三つ編みの長さが膝まであることでしょうか
モバP「雪乃さんみたいだなそれ...」
ちひろ「はい?雪乃ちゃんがどうかしましたか?」
モバP「いえ、何でもないです...ところでこの事務所のボイス付きアイドルって何人くらいですかね?」
ちひろ「最近90人を越えましたね、小学生と中学生の子は全員CDデビューまで目処が立ったことになりますから」
モバP「そうなんですか!中学生組もですか!」
ちひろ「え、ええはい」
ちひろ「え、ええはい」
モバP「ヒーローバーサスやワンステップスにもですか!」
ちひろ「そうですね麗奈ちゃんも光ちゃんもほたるちゃんも裕美ちゃんも、ソロはまだですがユニットCDは出ますよ」
モバP「おお...ところでBBチームは...」
ちひろ「くるみちゃんと雫ちゃんは今ロケ中ですね」
モバP「ひょおおおおおおお!」
ちひろ「で、お疲れのようですが、お仕事前に仮眠室で一休みします?」
モバP「いえ、次の世界へ向かいます」
ちひろ「あら...いいんですか?」
モバP「ええ、中学生組をフルコンプするだけじゃダメなんですよ」
モバP「ワンステップス全員が声付きだとしても、GIRLS BE ONE STEPSには泰葉がいますから、このままじゃバランスが悪いんですよ」
ちひろ「あぁ、泰葉ちゃんはボイスが付いてないからですね」
モバP「それにほたるにボイスが付いていても茄子に付いていないとミスフォーチュンが揃いません」
ちひろ「そうですか...それでは」
モバP「はい、さようなら」
ちひろ「次の事務所はそう遠くないはずですよ」
モバP「ありがとうございます」
上下左右に入り組んだ店の裏道を進むと今までの窮屈な店並びとは一転、
バリエーション豊かな学生街が彼を待っていました
公園、美術館、アニメショップ、古本屋、楽器屋が軒を連ねます
そしてやはり彼女はそんな風景の中でもなお埋もれることはありません
今度の三つ編みは膝から脛を越え、くるぶしにまで届く長さです
千川ちひろ「15歳って、正直のところ中学生か高校生なのか分からない子とかいますよね」
モバP「いきなりですね」
ちひろ「そうですかね、ただの雑談なんですけど」
モバP「ところでこのあたりに事務所はありますか?」
ちひろ「ありますよ?ちなみに今は休憩時間です」
モバP「その事務所、ボイス付きアイドルは何人くらいですか?」
ちひろ「120人くらいですね。少なくとも18歳までのアイドルは全員、何かしらCDかトークイベントに関わりましたから」
モバP「ということはディティクティブバーサスにも...」
ちひろ「都ちゃんと頼子ちゃんにもですよ」
モバP「かな☆かな☆ファンシーにも...?」
ちひろ「もちろんですよ」
モバP「フリルドスクエアにも...!?」
ちひろ「彼女たちの曲はデレステのイベント曲として出ましたね」
モバP「感無量です...」
ちひろ「で、どうします?課金していきますか?」
モバP「いえ、まだ僕の財布の紐は緩みません」
ちひろ「と、いいますと?」
モバP「まだ不十分なんです、18歳までしかボイスが付いていないとなると」
モバP「ハートウォーマーだとボイス付きは海しか該当しませんし、ホットアートジャンピンも不揃いのままです」
ちひろ「そうですか、残念です。皆さんもプロデューサーさんを待っていたんですが」
モバP「すいません、それでは」
こうして彼はまた旅を再開しました
やがてたどり着いたのは
これ以上ないほどに色鮮やかな大都市でした
今までに見た店に加え、ジャズバー、神社、大型書店、劇場、ライブハウス、etc、etc...
視界に広がる光景の中には、存在しないものは無いかのような勢いです
ならばここにもきっとあるのでしょう。この世界の事務所が
見慣れた、そして初めて見ることになる事務所を探し初めて間もなく
千川ちひろ「おやおや、随分とくたびれたスーツですね」
今度の事務員は正真正銘、三つ編みを地面に引きずっていました
モバP「こんにちはちひろさん、いきなりで悪いんですが、この事務所のボイス付きアイドルって何人くらいですかね」
ちひろ「183人全員ですよ」
モバP「.......そうなんですか!」
こともなげに言う黄緑の事務員でしたが、対する彼のテンションは鰻のぼりでした
モバP「全員に声がついたということは...唯ちなコンビも...」
ちひろ「さくらブロッサムですね、勿論ボイス付きですよ」
モバP「セーラーマリナーも...ガールズパワーも...」
ちひろ「サイバーグラスもレディビーストもです」
モバP「フランメルージュもレッドバラードも...」
ちひろ「サンセットノスタルジーや、ようせいさんとおねえさんもです」
モバP「全員ユニットデビューですか...」
ちひろ「ええはい、その予定です」
モバP「予定...ということはまだCDやソロを経験していない組み合せもいるんですね?」
ちひろ「そうですね___それはプロデューサーさんの働き次第です♪」
ちひろ「どうします?ここで課金していきますか?」
モバP「もちろんです!!」
そうして彼の新たな人生が始まりました
全てのアイドル、全てのユニットが歌い、会話し、時に語りかけてくる世界で
長い時間を経て、数々のイベントが企画され、開催されていきました
やがて183人分のソロCD、二人から五人で構成されたユニットの全てにCDが出揃い
イベント限定ユニットの中から人気の高かったものに再びスポットライトを当てようか、
などと考え始めた頃、彼はふとあることに思い至りました
モバP「すいませんちひろさん」
ちひろ「なんでしょうか?」
モバP「一度自宅に帰っていいですか?家財を売って課金に充てたいので」
ちひろ「いいですよ。でも、どうせ遠出をするならついでに宣伝も頼めますか?」
モバP「宣伝...ですか?」
ちひろ「はい、ちょうど今下に宣伝用のクルマが停まってますので、それで自宅に向かってください」
モバP「ああ、あのかぼちゃの馬車風の車ですか......わかりました」
ちひろ「それと、他所の事務所から難癖を付けられたら面倒なので___」
「途中で下車しないで下さいね?」
こうして彼は元来た道を戻り始めました
大都市を通過し、以前来た学生街を通りかかりました
しかしそこは以前より寂れており、明らかに課金が足りていなかったことを伺わせました
モバP「この街には大人の魅力が足りてなかったんだな」
彼は、色褪せた看板に巻き付いた三つ編みを横目にアクセルを踏みました
行きと違って車を利用しているためか、長いと思っていた道のりもあっという間です
以前来た商店街の入口もあっという間に見えてきました
車で進入するわけにもいかず、入口を素通りするだけでしたがどの店もシャッターが閉じられているのは見えました
モバP「女子中学生は繊細だからな......事情が少し変わればこうもなる」
閉じたシャッターと地面に挟まれた三つ編みに気付くことなく彼はハンドルを動かしました
かぼちゃの馬車に似た車がガタガタと揺れ始めました
タイヤが舗装された地面を抜け、柔らかな土を踏み始めたからです
彼の車は、いつか見た野原を横切っていました、
その世界の事務所へ続く道は伸び放題に伸びた花草に埋め尽くされています
丘の上に見えた、唯一の人工物らしき建物の影は崩折れてくすんで見えました
モバP「小学生はあっという間に成長し、去っていく。あそこにはもう誰もいないんだな...」
いつのまにかフロントガラスに貼り付いていた誰かの茶髪が風に剥がされ散っていきました
ついに、待ちに待った我が家です。彼の家はごく普通のアパートです
変わったところといえば、これまでの野原や商店街や学生街のようにひどく寂れていたことでしょうか
彼は感動も感慨もなく手早く車から降りると部屋の整理を始めました
大きめの使い古した家具はそのままに、残っていた小銭とてっとり早く換金できそうなものを車に詰め
部屋の解約を電話で済ませると元来た世界に向かって車を走らせました
モバP「しかしここまで長かった...ちょっと運転に疲れてきたかもしれん」
彼はそう言うと運転を注意深く慎重なものにしました
だからでしょうか、彼は道端のドリンク販売所を目敏く見つけました
ですが、その山のように積み上げられたドリンク瓶は注意していなくても見つけられたかもしれません
売り子は茶色の服を着た長髪の老婆です
車を止めた彼は開いたパワーウインドウ越しに老婆に話しかけます
モバP「随分たくさんのドリンクがあるけど、どうしたのこれ?」
「売れ残りなんですよ、誰も買わないから」
モバP「そうなんだ、んじゃスタドリを1ダースお願い」
彼はそう言って財布から料金の金額分を掴んで車を降りました
「やっとこっちに来ましたね」
がしりと、
ドリンクを受け取った彼の手を、
老婆の手が更に上から握りました
「このドリンクは貴方の為の物なんですよ」
「でも貴方が課金しなかったからほら、こんなに貯まっちゃいました」
「私だってほら、三つ編みもぼさぼさに伸びきって、事務服もすっかり汚れちゃいました」
彼の手を掴んだのは、かつての彼が別れを告げた事務員でした
モバP「ちっ、ちひろさん!?」
ちひろ「そうですよ、プロデューサーさん」
「貴方がどこに行こうとアカウントの所在は変わりません」
「だから他の世界に課金することに意味なんてないんですよ?それなのに貴方と来たら...」
「おかげでこっちの世界は散々です」
「折角の貴方のための世界だというのに...」
「これはしっかり補填していただかないといけませんね...」
「早速ですが課金して逝きませんか?」
彼の行方は誰も知らない
おしまい
なんだこれ
あとGIRLS BEのとこで千鶴ちゃんの名前抜けてたごめんなさい
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