ボクが如何にして美穂さんのお腹に堕ちたのか(デレマスSS) (31)


※独自設定、キャラ崩れ有り




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 輿水幸子にとっての小日向美穂という存在を、はたして幸子はどう思っているのかと言われると答えを窮することになる。しかしその理由はけっしてネガティブな意味合いとしてのものではなくて、むしろ大きくポジティブに寄っていると言っても過言ではない。

 曰く、いつも優しい人であり。
 曰く、ボクに負けないくらいにカワイイ人であり。
 曰く、頼れる人である。

 それらを合計して考えてみたところで漸く幸子にとっての小日向美穂という存在を、ひとつの言葉で言い表すことができるかもしれないと思い付いた。

 輿水幸子にとっての小日向美穂は──
 姉のような人、かもしれない。

「──だから、だからです」

 だから、そう。姉のようにも思える人が無防備にお腹を出して寝ていたとしてもそれに対してやましい気持ちを抱くなどということはありえないわけでして。

「ま、まったく美穂さんはボクの部屋に遊びに来たと思ったらうっかり寝てしまうなんて、いけませんね!」

 シャツの裾がめぐり上がりこんにちはしている無防備なお腹を見て、ごくりと生唾を飲み込む。普段から陽に当たることのない場所であるので当然であるが日焼けをしていない綺麗な白い肌である。
 綺麗と言えばお臍も綺麗だ。アイドルなので当たり前ではあるのだけれど綺麗に手入れされている。なだらかな無駄なものがついていないお腹に小さくある凹みは、何故だかいけない気持ちになる。


 ……いや、いやいやいや。

 何を考えているのだ輿水幸子。寝ている美穂のお臍に──まさか指をいれてみたいなどとか、そんなことは考えるだけでもいけないことではないのか。
 自分を信頼しているからこそのこの無防備な姿である。その信頼を裏切るということは許されることのない罪だ。
 だがしかし──仮にである。これがわざとだったとしたらどうだろうか。噂に聞く誘い受けというものであるとするならば、この躊躇いは意味のない堂々巡りなのではないだろうか。

 もちろん、幸子とて浮かれたそのような考え方が荒唐無稽なものであるということは重々承知しているけれども、然りとて数多全ての可能性を考慮するということはけっして無駄にはならないことであり、無意味であったとしても無意義ではないのではないのだと言いたい。

 とどのつまりお腹を触りたかった。

「いやいや、このボクともあろう者が、まさかそんなわけがないでしょう」

 ……ないですよね? ないない。そんな、まさかどこかのミツボシじゃあるまいし、そんな鬱屈を溜め込んだ結果ひねくれた性癖を抱え込んだりはしない。
 誰に対するわけでもない言い訳を口にするが、そんな言い訳は意味もなく虚しくあたりへと霧散するだけだった。

「落ち着きましょう。まずボクがすべきことをよく考えるんです。カワイイボクならきっと正しい答えが見つかるはず」

 冷静に状況を振り返ってみる。美穂が無防備にお腹を出したまま寝ている。ヤバい。いや違う。美穂が眠っているのは幸子のベッドだ。掛け布団は畳まれた状態であり、マットレスに寝転がった状態で眠ってしまったようである。
 そもそもベッドに腰を掛けて本を読んでいたはずで、そのあいだ幸子はノートの清書をしていた。たまに思い付いたように会話を挟むこともあったが、基本的には静かな時間を過ごしていたはずだ。

 というのも、美穂が幸子の部屋にやってきてゆっくりとするということは何も珍しいことではない。放っておけばひとりで過ごしがちになる幸子の様子を見にやってくることがよくあるのだ。
 今でこそKBYD(カワイイボクと野球どすえ)や142,sなど、仲の良い仲間、友人が出来た幸子ではあるのだけれども、しかし、最初はそうでもなかったのだ。

 セルフプロデュースでアイドルをしていた幸子は埼玉で行われたライブバトルに負けて以来押し掛けるように現在の事務所へ所属したのだけれど、その所属過程がゆえに最初は事務所内でも浮きがちだった──というよりは馴染もうとすることがなかなかできなかった。
 元来幸子はプライドが高く、また自分本意とも受け取られかねない誤解の受けやすい言葉遣いをしているという自覚も相俟って、新たな事務所でコミュニケーションを取ることが難しかった。

 そんな幸子のことを人一倍気に掛けていたのが──小日向美穂である。
 美穂が生来より持つ他者への慈愛の心、聖母マリアのような慈しみと優しさが一人寂しくしている幸子を放っておけなかったのである。

『幸子ちゃん、一緒にご飯行かない?』

 初めはそんな他愛もない一言だった。
 話にしてみれば重要なエピソードがあったわけでもなく、特別な出来事があったわけでもない。他愛のない一言、そんなものの積み重ねこそが幸子を事務所へと溶け込ませる方法だったのだ。


 閑話休題。

 自分がノートの清書という極めてカワイイ趣味をしている間に美穂が眠ってしまったのだろう、放っておけばどこでも眠ることができるどこかの猫型ロボットが介護している少年のようなところのある美穂であればおかしなことではない。
 それこそ何も今に始まったことでもない。美穂が眠ってしまい、幸子が仕方ないですねえと言いながら布団をかけるそんな流れはいつものような日常である。
 いつもと違うとすれば、それは美穂の服装だろう──短いふわふわのショートパンツに可愛らしいグラフィックプリントのタンクトップ、美穂にしては珍しい露出過多な格好であり、その服装につい幸子は意識が引っ張られている。
 つまりは思春期としての意識だ。


「──少しだけなら」

 少しだけなら、いいのではないのでしょうか?
 悪魔の囁きのような言葉が脳に過る。
 目の前には無防備に眠る美穂。まるで悪戯をしてくださいとばかりの肌面積の広い服装のせいで歪んだ美観が幸子の理性をゆるりと変化させていた。
 少しだけなら──少しだけだし。
 それは砂糖のように甘く優しい言葉である。しかしその実態は麻薬のように一時の快楽と激しい後悔をもたらす破滅の感情だ。一度手を染めてしまえば歯止めが効かなくなるのは必然であり、一度犯した過ちは二度とは取り戻せない。

 カワイイボクは明日からイヤラシイボクに変更です、なんてことになる。
 いけない冷静になれ。クールになれボク。あまりにもあんまりな称号を思い茹だった頭が多少なりと落ち着いた。
 確かに美穂のお腹が魅力的であることは間違いない、自分が言うのだからどんなアイドルが保証するよりも確かなことだ。ことお腹に関してはまず自分の右に出るものはいないと自負している。
 お腹フェチの幸子とはボクのことです。
 違う。
 ボクの性癖はそんなのじゃない!!
 落ち着いたとは言え一度沸騰したものはまだまだ茹だったままである。

「──ま、まあ? 触るのはともかくとしてもこのままお腹を出したままにしていると美穂さんのお腹が冷えてしまいますからね。これは直してあげないといけませんよね。シャツの裾を伸ばしてあげるだけです。凄く当然のことです」

 別にシャツに、美穂の身体に近い場所に触れなくてもそこに掛け布団があるのだけれども、思春期を真っ当に過ごしている幸子はそこまで頭が回ってもいなければ、そもそも掛け布団というものが見えていない。
 幸子の視点は1カメが出演者をクローズアップするときのように美穂のお腹、とりわけ臍のあたりにだけ向いておりズームアップされてしまっている。
 幸子はごくりと生唾を飲み込み──さあいざいかん、と手を出そうとした。

 ──もぞもぞ。

「はいおはようございます美穂さん何もしてませんよ何も! まだ!!」

「……ふぁ?」

 幸子の犯行は、未遂で終わった。

「あ、あはは、いつの間に寝ちゃってたみたい。おはよう、幸子ちゃん」

 シャッキリと目の覚めた美穂は少し誤魔化すように笑って、挨拶をする。
 彼女としてはわざわざ幸子の部屋にやってきたというのに寝てしまうなんてと思っているのだろう。

「お、おはようございます……ふぅ、危うく一線越えるところでした……」

「幸子ちゃん?」

「い、いえなんでもないです大丈夫です気のせいですので!」

 どうしたんだろう、といつにない反応をする幸子に美穂は首を傾げるが、しかしその理由がまさか自分のお腹を触ろうと葛藤していた幸子の罪悪感からだとはよもや想像もできないことだろう。
 できるわけがない。できるか普通。
 幸子にとって美穂が姉のようにも思える人であるように、美穂にとっての幸子は或いは妹がいればこんな感じなのかなあと思える子であり、まさかお臍に指を入れて弄びたいなどという思春期一直線な感情を向けられるとは思っていない。

 だから、なんとなく様子がおかしいなと思った美穂は少しだけふむと考えてから、何かを思いついたのかぱっと笑顔を弾けさせてから、両手を広げた。

「おいで、幸子ちゃん」

 美穂は優しく聖母のように微笑んで、両手を広げる。受け入れようとする。

 幸子はきっと、何か思い悩むことがあるのだろう。焦点の定まらないぼうっとした瞳と小さな溜め息。頭を抱えるような仕草がそれを如実に表している。
 それが自分が眠っている間に何かがあったことなのか、或いは元々何かを抱え込んでいたものなのか、幸子の悩みがどんなものかはわからないけれども、それでも何かをしてあげたいなと思った。
 けれどもそんなにいい方法なんてものは簡単には思いつかなくて。
 こんなことしか思いつかなかった。
 ハグしてあげる。

 ──もちろん、幸子にとって追い討ちであることは言うまでもない。

「…………ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 笑う幸子。堤防の決壊した川のように溢れ出す笑い声に、おやおやと美穂も背筋が何故か寒くなる。
 あれ何か間違えたかな、みたいな。
 何か間違えたというか、おおよそ間違っていた。

「つまりこれは合法的にいただいてもいい、ということなんですよね?」

 何をって。そりゃ決まってる。




 後日談。或いはオチ。

「フヒ……胞子を吸い込むだけで理性が溶けやすくなるきのこ……どこに置いてきたんだっけ……確かこないだ幸子ちゃんの部屋に持っていってそれから……」

「(なんなんですかそれ)」

「(知るかウチに聞くな)」

「(プロデューサーさんと二人っきりのときに使えば……うふふ)」



おわり

小日向ちゃんのイラストって意外とお臍が見えていることが多いよねということを考えていたら何故かこんなことに。
おかしい、こんなはずじゃなかった。
それでは

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