柑奈「かんなつき!」夏樹「ロックだな……!」 (26)


前作はこちらです。

仁奈「になかなたーりあ!」加奈「今日からお仲間!」
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……歓迎会の数日前、第7部署……


ガチャッ

夏樹「はよーっす」

柑奈「あっ、おはようございます夏樹ちゃん♪」ポロローン

夏樹「おはよ。アタシが言えたことじゃないけどやけに早いな……仕事でも入ってるのか?」

柑奈「いえ、ちょっとギターの自主練習に……夏樹ちゃんは何でこんな早くに?」

夏樹「アタシはレッスン。とは言え、まだレッスンが始まるまで1時間以上あるけどな。かなり早いけど、ひょっとしたら誰かいるかと思って来ちまったよ」

柑奈「今日は運良く私がいましたね♪」

夏樹「朝の7時だし、正直期待はしてなかったけどな……それにしたって水臭いじゃないか、呼んでくれれば一緒に練習したのに」

柑奈「流石に早朝すぎて躊躇いが……」ハハハ


柑奈「それに、私は逆に誰もいないと思って早く来た口ですから」

夏樹「?」

柑奈「今日はレッスンルームが終日満室なので……」

夏樹「……ああ、なるほど。ここで練習するつもりだったのか」

柑奈「寮はそこまで壁が厚くないので気軽に練習できないんですよねー、特にこれだと」

夏樹「エレキだったらやりようは幾らかあるけど、アコギはどうしようもなく響いちゃうからな」

柑奈「なので、レッスンルームが満室の時はこうやって事務所をお借りして練習させてもらってるんです」ポロローン

夏樹「柑奈の自主練習か……ちょっと興味あるな。見ててもいいか?」

柑奈「良いですけど、面白いかどうか……」

夏樹「仲間がギター弄ってるのを見て面白くないわけないさ。それに柑奈の腕前は知ってるし安心できる」

柑奈「そ、そうですか……ちょっと照れちゃいますね///」


柑奈「それじゃあ早速やってみようと思うんですけど……」

夏樹「けど?」

柑奈「歌わなくて良いですか?」

夏樹「あれ、柑奈は弾き語りが専門じゃなかったか?」

柑奈「練習はあくまでギターのテクニック向上が目的なので……運指とか」

夏樹「なるほどな。勿論構わないよ」

柑奈「ありがとうございます……それにしても、誰かに練習を見られるのはちょっと恥ずかしいですね」

夏樹「あー、何となくわかるぜ。見られることを想定したもんじゃないからな」

柑奈「スカウト前は路上ライブばっかりだったので他人に見られることには慣れてるんですが、こればっかりは勝手が違いますね……」エヘヘ


柑奈「~♪」ポーンポーン

夏樹(流石にチューニングは手馴れてるな……)

柑奈「はい、それじゃあ始めますね」

夏樹「どうやるんだ?」

柑奈「アコースティックギターが上手い人の真似をしたり、運指を鍛えるならこれだ! ってフレーズを弾いたり……今日はまずそのフレーズを引いていこうかと!」

夏樹「……楽譜は?」

柑奈「頭の中に!」

夏樹「おっ、やるじゃん!」

柑奈「何回も弾いてますからね♪ タイトルにも「愛を込めて」って入ってるからお気に入りなんですよー」

夏樹「へぇ……」


柑奈「それじゃあいきますねー」ジャラーン

夏樹「おう」

夏樹(しかし、愛を込めたフレーズねぇ……)

夏樹(フレーズ……「愛を込めて」……)

夏樹「……ん?」

柑奈「ワン……ツー……ワン、ツー、スリ、フォー」トントン


※参考映像
http://www.youtube.com/watch?v=p766bEWdt5k


夏樹「地獄じゃねーか!!」


柑奈「……」デレレデレレデレレデレレ

夏樹(ええ……出だし完璧……)

柑奈「……」デレレデレレデレレデレレ

夏樹「ちょ、ちょっと待って」

柑奈「……」ジャージャジャッジャッジャッジャーン

夏樹「待てって!!」

柑奈「はい?」ティーン

夏樹「おっ、ハーモニクス綺麗だな……じゃなくて!!」


夏樹「なんでエレキのフレーズやってんだよ! しかもよりにもよってメタル!!」

柑奈「えっ、これエレキギターのフレーズだったんですか?」

夏樹「エレキじゃなきゃできない部分があるだろ!! フレット数とか作りから考えろ!!」

柑奈「そのあたりはほら、こうやってアレンジしてますから」ドゥルルルルルルルル↑↑ドゥーン↓↓

夏樹「急にオクターブ下がったから気味悪いわ!! すげぇテクだけどな!!」

柑奈「今更なんですけど、これどこのフレーズ引いてるか伝わるんですか?」デレレデレレデレレデレレ

夏樹「突然メタい発言をするな!!」

柑奈「メタルだけにメタ……」テロレロレロレロテロレロレロレロ

夏樹「やかましい!! タッピングやめろ!!」


柑奈「確かに何かおかしいと思ってたんですよね。音が出せないようなところありましたし」

夏樹「そりゃそうだよ……いや、技術的には文句なかったんだけどな……」

柑奈「ラブ&ピース的にはピッタリの曲名だと思ったんですけど」

夏樹「「地獄より愛を込めて」が!?」

柑奈「例え死んでも受け取った愛を忘れない……平和をあの世から願ってくれているようじゃないですか!」

夏樹「う、うーん……そう、か……?」

柑奈「とは言え、夏樹ちゃんからするとこれはちょっと無謀な練習なんですかね?」

夏樹「ちょっとと言うかかなりと言うか、アコギで早弾きなんて使う場面が限られてるって感じもあるし……そもそもどうしてこのフレーズに行き着いたのかを疑問に思うレベルだぞ」

柑奈「家を飛び出す直前に父ちゃんの部屋から見つけました!」

夏樹(柑奈が父ちゃんとあんま上手くいってなかった原因って、ひょっとして音楽性の違いもあるんじゃないか……?)


夏樹「と、ともかく! もう少し別の練習をした方がいいと思うな! エレキギター触る練習する訳でもないしな!」

柑奈「これじゃダメですか?」デレレデレレデレレデレレ

夏樹「それをラブ&ピースに活かした未来がアタシには見えなくてね」

柑奈「そうですか……」シュン…

夏樹「ほ、他はどうなんだ? 練習方法はこれだけじゃないだろ?」

柑奈「は、はい! ちゃんとアコースティックギター奏者のものを参考にしてるので……」

夏樹「おっ、それはいいな。耳コピか?」

柑奈「耳コピ頑張りました! どこを叩けばいいか何回も見返して……」

夏樹「そうかそうか……ん?」


夏樹「ちょっと待て、今叩くって言ったか?」

柑奈「はい♪」

夏樹(……いや、叩くくらいはよくあるよくある。タッピングだって端的に言えば叩いてるし、今時ソロギターでタッピングすることなんて珍しいもんじゃない……考えすぎだよ考えすぎ)

柑奈「それじゃあいきますよー♪」

夏樹「待て待て、なんでギターを琴みたいに横にし」


※参考映像
http://www.youtube.com/watch?v=aqp8j4ghhgg


夏樹「エリック・モングレインじゃねーか!!」


柑奈「……」デーッデーッデーッデーッ

夏樹(ええ……なんでそのタッピング奏法を簡単にやってんだ……)

柑奈「……」デードッデードッデードタラロラターン

夏樹(うわ……そのラップタッピングでどうやったらそんな響きが……)ハッ

夏樹「じゃねーよ!! ストップストップ!!」

柑奈「あれ、またダメでした?」パラポロポーン

夏樹「ダメって言いたくないんだけどな!! ギタリストとしてはな!!」

柑奈「結構練習したんですが……」

夏樹「弾き語りがメインのアイドルが超絶技巧を習得する必要はないんだって!! そもそもなんでこれをやろうと思ったんだ!!」


ガチャ

比奈「おはようござ」

柑奈「比奈ちゃんがこの人の動画を見せてくれて」

夏樹「お前かぁ!!」

比奈「何がっスか!?」


夏樹「お前なぁ! 普通のギターの弾き方を忘れちゃうような奏法教えてどうする!?」

比奈「ぎ、ギター……?」

夏樹「エリック・モングレインだよ! それをお前が知ってることが驚きだけどな!」

比奈「エリック……ああ! あのえげつない奏法のことっスか! あれを再現できる柑奈ちゃんのギターテクニックすごいでしょ?」

夏樹「スゴイのは認めるけどこればっかやってもしょうがないだろ!」

比奈「だって……柑奈ちゃんはその人が弾いてるところを見たら、時間の差はあれど何でもコピーできるんスよ? 色々やってみて欲しいじゃないっスか」

夏樹「……なん、でも……?」

比奈「何でも」

夏樹「…………ラップタッピングの神、エリック・モングレインのみならずか?」

比奈「今のところ、ギターのスペック的に音が出せないとかいう物理的な問題がなければ」


夏樹「……何をやってもらった」

比奈「へっ?」

夏樹「今まで柑奈に誰の演奏をコピーしてもらった!?」

比奈「えっ、えーと……アンディー・マッキーと」

夏樹「アンディー・マッキー」

比奈「ジョン・ゴムと」

夏樹「ジョン・ゴム」

比奈「プレストン・リードっス」

夏樹「アコースティックギター界の大物ばっかりじゃねーか!!」

比奈「まあにわかでスし……」


比奈「だから今日はジャスティン・キングをお願いしようかなって……」

夏樹「……比奈、お前知ってたな? 柑奈が朝練習してるの」

比奈「え、ええまあ……」

夏樹「隠すことないだろ!!」

比奈「別に隠したつもりはこれっぽっちもないんスけど!?」

夏樹「ずるいぞ!! アタシだってジョン・ゴムのpassionflower弾いてるところを見たかったのに!!」

比奈「よ、よくpassionflowerだってわかりましたね……」


夏樹「というかなんで比奈がそんなにギターに詳しいんだよ! 聞いてないぞ!」

比奈「うえっ!? あ、あー……それはそのー……」

夏樹「……?」

比奈「あ、アコギの曲って心地よくて作業用のBGMに最適なんスよ。それで適当にネット漁ってる内に詳しくなりまして、漫画の資料にもなりまスし」

夏樹「……なるほどな」

比奈(昔、夏樹ちゃんや柑奈ちゃんとの話題を増やそうと思ってギターの動画を漁っていた、なんて……とてもじゃないけど恥ずかしくて言えないっスね)


夏樹「…………なあ柑奈。ちょっと聞きたいんだけど……」

柑奈「は、はい」

夏樹「トミー・エマニュエルのGuitar Boogieって知ってる?」

柑奈「ああ、それなら弾けますよ♪」

ひなつき「「弾ける!?」」

柑奈「?」

夏樹「なんでお前も驚いてんだよ」

比奈「いや、知ってて弾けるってパターンは初めてでしてね……しかもトミー・エマニュエル……」

夏樹「まあ確かに……アコースティックギターの神の曲をあっさり弾けると言ってのけたのには驚きだぜ……」

柑奈「これはじっちゃんに教えてもらって……」

夏樹「マジかよ」


※参考映像
http://www.youtube.com/watch?v=sV1e-iSo5As


柑奈「~♪」デレッデッデッデッデレッデッデッ

夏樹「うおお……そらでこれを弾けるアイドルに会える日が来るとはな……」

比奈「こうなるまで仕込んだじっちゃんは何者なんでしょうね……」

柑奈「~♪」デレッデレッデッデッデーン

夏樹「見ろよ……トミエマ並のノリの良さを披露してるぜ……」

比奈「首がすわってないっスね」

柑奈「フェッヘッヘッヘッ……イェッヘーイ」テレレレレレレレレレ

夏樹「怖ぇよ!! そこまで真似なくていいよ!!」


柑奈「どうでしたか?」

夏樹「感動した」

柑奈「それはよかっ」

夏樹「提案があるんだけど」ズイッ

柑奈「は、はい?」

夏樹「アタシとバンド組もうぜ!」

比奈「ちょ」

柑奈「え……?」

夏樹「惚れ込んじまった……一緒にアイドル界のエアロスミス目指そうぜ! 歓迎会限りじゃ勿体ない!!」

比奈「エアロスミスを目指すには人数足りなくないでスか?」

夏樹「例えだよ例え!」


柑奈「え、えっと……エアロスミスってロックバンドですよね……?」

夏樹「ああ。ハードでロックなレジェンドだ」

柑奈「ごめんなさい……ハードロックはラブ&ピース的にちょっと……」

夏樹「地獄弾いてたじゃないか!」

柑奈「あれは練習に良いって聞いただけでして……」

夏樹「そんな事言わずに……まず1曲! ちょっとエレキギター持ってみてくれ!」

柑奈「私、アコースティックギターより重いもの持てないんで……」

比奈「結構いろいろ持てまスね」

夏樹「あと1、2kgくらい頑張ってくれよ!!」

比奈「必死」

夏樹「どうしてもダメか?」

柑奈「流石にこのギターを手放してロックに走るのは……じっちゃんにも、何よりも父ちゃんに示しがつかないです」

夏樹「くうう……ロックな信念がロックを阻んでくるとはな……」

比奈「何言ってんスか?」


夏樹「何とかならないものか……うーん……」

比奈「夏樹ちゃんがアコギ持ってデュオデビューしたり、とか?」ハハハ

夏樹「それだ!」

比奈「へ?」

夏樹「そうだよな……エレキに縛られてちゃそれこそロックじゃない……! ちょっと行ってくる!」

比奈「へっ? どこへ?」

夏樹「統括室さ……柑奈とユニット組めるか相談してくるんだよ!」ダッ

比奈「まだ柑奈ちゃんは了承してないんスけど!?」

柑奈「ユニット組む分ならOKですよ~♪」ポロローン

比奈「いいんスか」


……歓迎会の数日後、荒木比奈の自宅……


春菜「……それがこれですか?」ピッ

テレビ『今日のエンタメのトップはこれ! 今話題のアイドルユニット、L.R.Sの特集です!』

テレビ『フォーピースという即興ガールズバンド企画でアイドル界に旋風を巻き起こした346プロダクションから、今度は磨き抜かれたテクニックを持った2人組がデビュー!』

テレビ『本当にアコースティックギター1本で弾いているのか? そう疑わせるほど多彩な音色を披露する有浦柑奈さんと、ロックアイドルとしては既にトップクラスの実力を持っている木村夏樹さんのコンビ!』

テレビ『我々取材班は、このコンビを結成したきっかけを知る人物、346プロダクションでL.R.Sと同じ部署に所属している荒木比奈さんのインタビューに成功しました!』

比奈『最初は柑奈ちゃんがギターの練習をしてる所から始まったんスけど、偶然そこに夏樹ちゃんが――――』

春菜「何してるんですか」

比奈「仲人みたいで楽しかったっス」

春菜「仲人って」


以上です。
学生時代に地獄をどこまでアコギで弾けるかって遊びしてましたが、そう簡単にできるもんじゃありませんでしたね。
柑奈ちゃんはきっとどこまでも何でも弾けるのであれくらい簡単でしょうね。

おつ


われこういうのすき

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