うまる「彼氏ができた」 (62)
うまる「ってお兄ちゃんに言う(①)」
うまる「お兄ちゃん、慌てる(②)」
うまる「お兄ちゃん、うまるの心が離れていくのをおそれてうまるの言うことを何でも聞く(③)」
うまる「ぬふふふ……この3ステップでもってお兄ちゃんはうまるの思い通り」
うまる「いやぁ、我ながら完璧な作戦だよ。最近ますます厳しくなってきてるからね」
うまる「ここいらでちょっと妹恋しさを取り戻して、もっと甘やかしてもらわないと」
うまる「さーて、お兄ちゃん早く帰って来ないかな~♪」ワクワク
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会社の昼休み
ぼんば「はぁー…」
タイヘイ「どうした? なんか今日朝からずっとテンション低いけど」
ぼんば「タイヘイ~~聞いてくれよぉ~!!」ガバッ
タイヘイ「うわっ! 急に大声出すなよ」
ぼんば「すまん、けど俺もう気になって気になって仕事が手に付かねぇんだ」
タイヘイ「何かあったのか?」
ぼんば「実は……我が妹のことなんだが」
タイヘイ「きりえちゃん?」
タイヘイ「…は? 彼氏?」
ぼんば「ああ。あのきりえにもついに出来ちまったんだ」
タイヘイ「はぁ」
タイヘイ(きりえちゃん本人からそういうことをぼんばに言うとは思えないな)
タイヘイ「それ、きりえちゃんが話したのか?」
ぼんば「いいや?」
タイヘイ「ならデート現場でも目撃したのか?」
ぼんば「んにゃ違う」
タイヘイ(んん? じゃあなんでだ?)
タイヘイ「まさか、直接家に連れてきて紹介されたとか」
ぼんば「んなことされたらその場でその男をちぎっちまうだろうが!」
タイヘイ「ちぎるってなんだよ…」
ぼんば「まぁ、かもしれねぇって話なんだがな」
タイヘイ「なんだそりゃ」
ぼんば「だってよ、最近きりえのやつ何の連絡もなく帰りが遅くなることが急に増えたし」
タイヘイ「えっ、そうなのか?」
ぼんば「どこ行ってたのか聞いても、慌てた感じで俺には関係ないって言うし」
タイヘイ「それは確かに…」
タイヘイ(ん? 待てよ?)
タイヘイ(それってもしや、うまると遊びにうちに来てるやつじゃないか?)
ぼんば「それに俺に隠してせっせと何か書いてたりすんだよ。文通だぜあれは」
タイヘイ「古風だな今時」
タイヘイ(うーん、たぶん絵本だろうな)
タイヘイ(確証は無いけど、ぼんばの勘違いかもしれないってことだけ伝えてやるか)
ぼんば「ってな感じでさぁ。タイヘイも怪しいと思うだろ?」
タイヘイ「ぼんば、たぶん違うぞ」
ぼんば「え? 違う?」
タイヘイ「ああ。だってそれは…」
タイヘイ(あ、でも隠してるってことは、うまると遊んでることもきりえちゃんとしては知られたくないことなのか?)
ぼんば「なんだよ勿体ぶるなよ」
タイヘイ「あー、その、なんとなくな」
ぼんば「えぇー…なんとなくってお前…」ガクッ
タイヘイ「だいたい、彼氏とかそんなのまだ早いだろ」
ぼんば「そうは言ってもタイヘイよ、華の女子高生だぞ?」
タイヘイ「いや女子高生だけど。それが?」
ぼんば「だーかーら、そういう浮いた話の一つや二つあって普通だっつの。きりえもお前の妹もな」
タイヘイ「そ、そんなもんなのか? 今の時代は」
ぼんば「今も昔も変わんねぇよー。つーかまだ時代語るほど俺ら老けちゃいねぇだろうよ」
タイヘイ「高校の頃は勉強ばっかりだったからなぁ」
ぼんば「わっはっは! ま、確かに俺らにゃ縁のない話だったな! 俺もお前も、それに叶もーー」
叶「ア・フ・ロ くーん?」ヌルゥ
ぼんば「おわぁっ!?」
叶「なーんのお話をしているのかしら?」ヌルポ
ぼんば「えっ? あーいやいや、なんでもないっすよ課長! なぁタイヘイ?」
タイヘイ(……高校生なら浮いた話があるのが普通、か)
ぼんば「あれ? タイヘイ? 聞いてる?」
タイヘイ(もしかして、うまるもそうだったりするんだろうか?)
ぼんば「ちょっタイヘイ!? お前まさか無関係決め込む気か!?」
叶「なんの話かって聞いてるのよ? ア・フ・ロ?」
ぼんば「いやほんと課長には関係ないっつーか彼氏彼女とかの話なんで、へへっ、もはや無縁っつーか……あっ」
叶「……」
ぼんば「ちょっ、今の無」ガッ
タイヘイ(外向けのうまるは男子の目に留まるだろうからな。告白なんかもされてておかしくはない)
タイヘイ(うまるからそんな話は聞いたことないけど、別に俺に教える義務もないわけだし)
タイヘイ「なぁぼんば、もしきりえちゃんに…」
タイヘイ「あれ? ぼんばのやつどこ行ったんだ?」
自宅
うまる「……」ゴロゴロ
うまる(お兄ちゃん、今日はちょっと遅いなぁ)
うまる(それとも長く感じるだけ? 緊張してるのかな…)
うまる(いやいや! きっと作戦は成功するからゲームもおやつも好き放題、楽しみで待ち遠しいだけだね!)
ガチャン
うまる(きたっ!)
タイヘイ「ただいまー」
うまる「お、おかえり! お仕事おつかれさま!」
タイヘイ「遅くなってごめんな。スーパーでタイムセールやるっていうから少し待ってたんだ」
うまる「そうなんだ」
タイヘイ「腹減っただろ? すぐ晩ごはん作るからな」
うまる「あ、うん」
タイヘイ「今日は冷凍のごはんを炒飯にして、それから…」ガサ
うまる「あ、あのさお兄ちゃん」
タイヘイ「じゃーん!」
うまる「へ?」
タイヘイ「見ろうまる、タイムセールで獲得した道産牛! なにやら発注の手違いがあったとかで特別にいつもの4割引でさ」
うまる「へ、へえー」
タイヘイ「これを使って今日は……」
タイヘイ「あれ? うまる?」
うまる「え、なに?」
タイヘイ「いや、あんま喜んでないなと思って。牛だぞ? 牛祭りだぞ?」
うまる「あ、ああ! 牛祭りね! いやいやサイコーだよ牛祭り! さすがお兄ちゃんだね!」
タイヘイ「…?」
ジュー…
うまる(まずいなあ、完全にタイミング逃しちゃったよ)
タイヘイ「よし! できたぞーうまる」
うまる「はーい」
タイヘイ「いただきます」
うまる「いただきまーす」
パクッ
タイヘイ「!」
うまる「!!」
タイヘイ・うまる「「うまあぁぁぁ……!」」ジュワァ…
うまる「なにこれお兄ちゃん!? すんごいおいしいんだけど!」
タイヘイ「弾力というかもはや肉が口の中で溶けてくな。やっぱ素材が良いと違うもんだ」
うまる「チャーハンがうす味でご飯が進むね! おかわり!」
タイヘイ「はいはい」
うまる「ぷはー、食べすぎて食後のポテイトも入りそうにないよ」
タイヘイ「はは。なら部屋の片付けでもして運動したらどうだ?」ジャー
うまる「んーーーそだねーー前向きに考えとくよ」
タイヘイ「絶対やる気ないだろ…」
うまる(ふう。あとはスタミナ残ってるゲーム消化して、来期アニメの更新情報見て寝るだけ…)
うまる「ってちがあああああう!!」ヌワッ
タイヘイ「!?」
うまる(作戦だよ作戦! 牛のおいしさで危うく忘れるところだったよまったく)
タイヘイ「うまる? どうした…?」
うまる「えっ!? あー、いやー、そのー」
タイヘイ「…?」
タイヘイ(やっぱり今日のうまるは変だな。食べてる時は気のせいかと思ったけど)
タイヘイ(変といえば、今日のぼんばの話で……まさかな)
うまる「え、えーっとね」
うまる(美妹モードで言ったほうが効果高いよね! ようし!)
うまるーん
うまる「実は、お兄ちゃんに大事なカミングアウトがあるの」モジ
タイヘイ(っ! 今までにない雰囲気…これは…)
タイヘイ「な、なんだ?」
うまる「あのね、私………彼氏ができたんだけど」
タイヘイ「…………」
タイヘイ(まじかあああああああっ!!?)
タイヘイ(うわああ……嘘だろ、どんだけタイムリーなんだ)ズーン
うまる「……」チラ
うまる(固まってる! これはけっこう効き目アリかな?)
うまる「…お兄ちゃん?」
タイヘイ「あ、ああ。悪い。あまりのショックで放心してた」
うまる「イェッス!」グッ
タイヘイ「え?」
うまる「えっ!? な、なんでもないよ! あはは!」
タイヘイ「はあ」
シュルシュルシュル
うまる(よしよしつかみはバッチリだね。あとは『うまる~行かないでくれぇ~』状態にさせるのみ!)
うまる(ぬっはっは! お兄ちゃんも案外チョロいね!)
続きはWEBで
じゃなくて後で
うまる「それよりほら、どう?」ドヤァ
タイヘイ「どう っていうと?」
うまる「やだなぁーお兄ちゃん、愛する妹に彼氏ができたんだよ? 何か言うことない?」
タイヘイ「えっ!?」
タイヘイ「いや、あまりに突然すぎて…ちょっとだけ考えさせてくれ」
うまる(うひょー、これは予想以上に戸惑ってると見たね。ソフトどころか念願のVRその他もろもろゲットできちゃうかも!?)
タイヘイ(でもなんだろう、タイムリーなだけに心の準備は少し出来てたというか、考えるだけの余裕はあるな)
うまる(まずは手始めにポテイトとコーラを各段ボール10箱ってとこかな?)
タイヘイ「うまる」
うまる「はいはい、なにかなお兄ちゃん?」
タイヘイ「その……どんなやつなんだ?」
うまる「へ?」
タイヘイ「彼氏だよ。同じ高校か?」
うまる「えっ!? えー、あー…」
うまる(なんにも考えてなかったぁー! だよね、ふつう聞くよね)
タイヘイ「あれ? 違うのか?」
うまる「お、おおお兄ちゃんには関係ないんじゃないかな?」
タイヘイ「関係ないって…うまるが言い出したんだろ」
うまる「そうじゃなくてー、彼氏がどんな人とかの前にほら、まず言うべきことがさ!」
タイヘイ「えっ? ……あ、そうだな」
うまる(ほっ、そうだよお兄ちゃん。まず妹を引き止めるところから)
タイヘイ「おめでとう、うまる」
うまる「ちがあああああああう!!」ズサー
タイヘイ「えぇ!?」
うまる「いや、違くはないか……ありがとお兄ちゃん」
タイヘイ「お、おう」
うまる「で? それから?」
タイヘイ「ん? ああ、だからその彼氏がどんなやつか…」
うまる「ええぇぇーー」ズーン
タイヘイ「なんだよ!」
うまる「いや、だって、ねぇ?」
タイヘイ「はあ…?」
うまる(ぬぬぬぬ、こうなったら路線変更)
うまる(とりあえず彼氏像はテキトーに造って乗り切って、それから妹を失う不安をあおる戦略でいくよ!)
うまる「お兄ちゃんー、うまるの彼氏がそんなに気になるの?」
タイヘイ「そりゃ気になるだろ」
タイヘイ(でも話した途端あんまり突っ込まれるってのも嫌だよな)
タイヘイ「…せめて同じ高校かどうかだけ教えてくれないか?」
うまる「え? そこそんな重要?」
タイヘイ「うまる外見は良いからさ、街で声かけられた可能性もあると思って」
うまる「外見は って失礼な… そーだねー、まあ同じ学年…かな?」
タイヘイ「そうか! ならよかった!」
うまる「えっ!?」
タイヘイ「いやぁ見知らぬ大人とかだったらどうしようかと思ったけど……そうか同じ高校か、それ聞いて少し安心し」
うまる「あああああちょっと待って! やっぱり知らない人! 全然知らない人だった!」
タイヘイ「はあっ!?」
うまる(あっぶなー! 安心なんかされちゃ引き止めてもらえなくなっちゃうじゃん!)
タイヘイ「お、おいうまる? どういうことだ、全然知らない人って!」
うまる「えっ? そのままの意味だよ?」
タイヘイ「いやでもさっき同じ学年って言ってただろ」
うまる「そ、それはー…」
うまる「年齢の話だよ。相手も同じ学年ってだけで、高校は同じじゃないんだよね」
タイヘイ「……そういうことか」
うまる(これはあれだね、できる限り危険な彼氏にしていったほうがよさそうだよ)
タイヘイ「え? じゃあどこの高校なんだ?」
うまる「えーっと、どこだったかなぁ…忘れちゃった」
タイヘイ「忘れたってお前な…それ本当に高校生か? 実は危ない組織の人とかなんじゃ…」
うまる「そう! 危ない感じの人!」
タイヘイ「ええええ!?」
タイヘイ「あ、危ない感じなのか!?」
うまる「そーだね…あれは日頃から何人もヤッちゃってる感じだとうまるの直感がそう言っているよ」←キル的な意味で
タイヘイ「ヤッちゃってる!? 何人も!?」←レイプ的な意味で
うまる「まあでもたぶん大丈夫だよ」
タイヘイ「いやいやいや! 大丈夫じゃないだろそれ!」
うまる(おっ、食いついてきたねお兄ちゃん!)
タイヘイ「うまるは!? うまるはまだやられてないんだろうな!?」
うまる「? まだって、やられてないからここにいるんだけど」
タイヘイ「そうかよかった…」
タイヘイ「いや、でもうまる、そんな人と付き合ってるのか?」
うまる「まーね」
タイヘイ「さすがにそれは…」
タイヘイ「……考え直してくれないか?」
うまる(キターーーーーーーーーー(。A。)ーーーーーーーーーー!!!!)
うまる(見事なフィーッシュ! そのセリフを待っていたんだよ!!)
うまる「ええー、そう言われてもなぁー」
タイヘイ「話聞いただけだけど、いくらなんでもそういう人はマズイと思うんだよ」
うまる「けどもう付き合っちゃってるし、今さら別れるなんて言ったらどうなると思う?」
タイヘイ(た、たしかに。ヤバい人達なら勝手に別れてさようならとはいかないかも知れない)
うまる(ふっふっふ。そろそろいいかな?)
うまる「まあでもアレかな。もしお兄ちゃんがうまるのーー」
タイヘイ「うまる」
うまる「ん?」
タイヘイ「同じ高校じゃないってことは相手の名前と連絡先は分かるんだよな?」
うまる「? ま、まあ分かるけど…」
タイヘイ「よし。ちょっとそれ出す準備しててくれ」スッ
うまる「へっ? お兄ちゃん何を」
タイヘイ「もしもし警察ですか!? ちょっとうちの家族が反社会組織らしき人と接触を…」
うまる「うわああああああああ待ってお兄ちゃん待って待って!!!」
後半少しだけ勢い失ってシリアルになる
読みにくかったらごめん
書きためてくる
うまる「はあっ、はあっ……やめてよほんと」
タイヘイ「すまん……焦りからちょっと我を忘れかけた」
うまる(うう、こりゃ危険な人作戦はナシだね)
タイヘイ「で、本当にそういう人じゃないんだな?」
うまる「うん、盛りすぎたよ。実際はちょっとワルいってくらい」
うまる(どうしようかな、他にお兄ちゃんが引き止めてくれそうな彼氏…)
タイヘイ「ちょいワルか……なんだかイメージが一気におっさん化したな」
うまる「おっさんじゃないよ。同じ学年だもん」
うまる(そうだ! お兄ちゃんよりめちゃくちゃハイスペックな人ってことにしたらどうだろう?)
うまる(うまるがゾッコンってことにして、そしたらお兄ちゃんが嫉妬して…)
うまる(うわこれ閃いちゃったよ! さすがうまるは天才だね!)
うまる「あーでも、ある意味おっさんみたいかもね。その人学生とは思えないくらいお金持ってるし」
タイヘイ「え? そうなのか?」
うまる「うまるの欲しいもの何でも買ってくれて、好きなところに連れてってくれるんだよ」
タイヘイ「へぇ。例えば?」
うまる(外向きのうまるっぽくしたほうがリアルだよね)
うまる「スイーツのおいしいレストランに連れてってくれてー」
うまる「あと服とか、アクセサリーも。なんだっけ、クロエーとかそういう高級なやつ」
タイヘイ「……そんなのウチに無いぞ?」
うまる「あっ」
うまる「そ、それはほら、帰りに回収されちゃうから! 袖を通すのは一度でいいとか言って毎回新しいの買ってくれるんだよ」
タイヘイ「嘘だろ!?」
うまる「車も執事が運転してて、ドライブし放題でー」
タイヘイ「そりゃすごいな…」
タイヘイ(おぼっちゃんなのか? ちょいワルのボンボン……ううむ、想像がつかない)
うまる「ね? すごいでしょ?」
タイヘイ「ああ…なんというか、そんな人本当にいるんだな」
うまる「うまるも驚いたよ。で、それから?」
タイヘイ「ん?」
うまる(ぬっ、まだ足りないのかな…)
うまる「もちろんお金持ちなのはポイント高いんだけど、それだけじゃなくて」
うまる「見た目はワルなのにすっごい優しくて、気遣ってくれて」
うまる「武道とか学問とかもいろいろがんばってて頼りになるし」
タイヘイ「へ、へぇー」
うまる「えーっと、それから…」
うまる「とにかく、とにかくね」
うまる「ほんっとに素敵な人なんだよ!」
タイヘイ「…!」
タイヘイ(そうか、うまるは……)
うまる(ふうー。ここまで言えばさすがのお兄ちゃんも嫉妬に狂うこと必至だよね)
うまる(さあお兄ちゃん、今こそ『俺のほうがー!!』ってムキになるところだよ! カモンカモン!)
タイヘイ「……」
うまる「あれ?」
うまる(お兄ちゃん…?)
タイヘイ「うまるはさ」
うまる「!」
うまる「うん、なになに?」
タイヘイ「その人のことどう思ってるんだ?」
うまる「え? だから、今めっちゃ言ったじゃん」
タイヘイ「いや、そういうことじゃなくて」
タイヘイ「その人のこと……好きなのか?」
うまる「……へ?」
うまる「な、なにお兄ちゃん? いきなり」
タイヘイ「いきなりじゃないだろ、彼氏なんだし」
うまる「うっ… そうだけど」
うまる(好きかなんて聞かれてもなぁ~。そんなことよりお兄ちゃんに妬いてもらわないと困るんだけど)
うまる(でもゾッコンアピールしないと説得力ないし。しかたないや)
うまる「んー……そりゃもちろん、好きだよ」
タイヘイ「どのくらい?」
うまる「ええっ? ど、どのくらいー?」
うまる「分かんないけど……大好き…かな、とりあえず」
タイヘイ「はは、なんだよとりあえずって」
うまる(なんか恥ずかしいんだけど…!!)カァー
タイヘイ「……ぷっ」
うまる「ん? どしたのお兄ちゃん、笑いこらえて」
タイヘイ「いや……くくっ…うまる、お前顔真っ赤だぞ」
うまる「なあーーっ!?」
うまる「お、お兄ちゃん!? こーいうの羞恥プレイって言うの知ってる!?」
タイヘイ「悪い悪い、そんなつもりじゃなかったんだ」
うまる「もう、妹じゃなかったら下手すりゃタイーホだよまったく!」
タイヘイ「まあでもこれで分かったよ」
うまる「ん? なにが?」
タイヘイ「うまるの彼氏のことだよ」
タイヘイ「なんていうかさ、俺が心配するようなことじゃなかったんだなって」
うまる「……」
うまる「え」
うまる「えぇーーー!?!?」
うまる「ど、どどどーいうこと!? 心配ないって!?」
タイヘイ「いや、今の話聞いてさ」
うまる「いやいやいや、え? それだけ?」
タイヘイ「それだけってなんだ?」
うまる「お兄ちゃん他に何か感じないの? くやしいー!! とか」
タイヘイ「悔しい…?」
うまる「そんな男ダメだー!! とか」
タイヘイ「なんで? 素敵な人なんだろ?」
うまる「ぬああもう! そうじゃなくて!」
タイヘイ「な、なに怒ってんだよ」
うまる(こりゃマズいよ! なんとかしてお兄ちゃんに引き止めさせないと)
うまる「いいお兄ちゃん、うまるに彼氏ができたんだよ? それがどーいうことかよく考えてみなよ」
タイヘイ「はあ」
うまる「むうう…」
うまる「手塩にかけて育ててきた最愛の妹がだよ?」
うまる「どこの馬の骨とも知らない男にあっさり取られるだなんて、これいかに!」
タイヘイ(自分で言うのかよってツッコミが2回必要だな…)
うまる「ほらほら、悔しさなり寂しさなり怒りなり込みあげてくるものがあるでしょ!?」
タイヘイ「あー、あー…?」
うまる(もおおお何してんのお兄ちゃん、カオナシみたいな声出してる場合じゃないってのに!)
タイヘイ「うまる、ひょっとしてお前……俺に嫉妬してほしいのか?」
うまる「……!!」パァァ
うまる「そう! その通り! やっと気づいてくれたねお兄ちゃん」
タイヘイ「そ、そうか」
タイヘイ(え? うまるのやつやけにあっさり認めたけど、ほんとにそう思ってるのか…?)
うまる「あんなにべったりだった妹がとうとう兄離れ。静寂が寂しさに変わりー、やかましく感じていた宴の声も今や恋しく」
タイヘイ(なんか始まった)
うまる「ああ行かないでくれ我が妹よー、これからはポテイトもコーラも食べ飲み放題、ゲームもマンガも好きなだけ買ってあげるからぁー!」
タイヘイ(えぇー…なんでそうなる)
うまる「もーしょうがないなぁお兄ちゃん、そこまで言うなら考え直してあげなくもないかな?」
タイヘイ(そんなので考え直しちゃうのか)
うまる「……しめしめ、これで再びうまるの天下。ちょっと彼氏がいるって言っただけでこの待遇、まったくお兄ちゃんはチョロインだね!」
タイヘイ「……」
うまる「……はっ!!」
うまる(しまった、調子に乗って余計なところまで…)
タイヘイ「なあうまる……今のはなんだ?」ピキピキ
うまる(んぎゃあああああああ!!)
うまる「お、鬼、お兄ちゃん? 今のはあれだよ? 放送事故的な…」
タイヘイ「つまり事実なんだな?」
うまる「うそうそうそだから! あわよくばそうなればいいなっていうただの願望だから!」
タイヘイ「……」
うまる(やばいやばい、いったん欲は捨てて身を守る方向にシフトしなくちゃ!)
タイヘイ「はあ… それで結局、彼氏がいるってのもウソなのか?」
うまる(ぐっ、そこを否定しては今回の作戦は失敗も同然)
うまる「彼氏は……いるよ」
タイヘイ(目を合わせない……怪しいな)
うまる(考えなきゃ、ここからどうすれば逆転サヨナラお兄ちゃんサイーフオープンできるかを!)
タイヘイ「なら嫉妬がどうのってのは?」
うまる「ん、それもウソじゃないよ」
うまる(本当に求めてるのはその先なんだけど)
タイヘイ「……」
タイヘイ(ただしそれが目的じゃない って顔してるな。やっぱりおねだりがしたいだけなんじゃないか?)
うまる(そうだ! 彼氏にプレゼントしたいけどお金が無いって言えば…)
うまる(ってさすがにそれはダメだよね。バレたときも怖いし)
タイヘイ(でもまあ……)
うまる(うーむ)
タイヘイ「……」フッ
タイヘイ「うまる」
うまる「ん?」
タイヘイ「お前が何企んでるかはこの際置いておくとして、今までの話の通りだと思って話すけど」
うまる(ぎくっ! ……あー、こりゃもう潮時かなぁ)
タイヘイ「まず、うまるに彼氏ができたっていうのは驚きだ。今までそんなこと考えたこともなかった」
タイヘイ「けどうまるだって華の女子高生。そういう話の一つや二つあって当たり前なんだ」
うまる「え? そなの?」
タイヘイ「…っていうのはぼんばの受け売りだけどな」
うまる「あーなるほどね。なんかお兄ちゃんっぽくないと思ったよ」
タイヘイ「それから俺が彼氏に嫉妬するかってやつだけど、正直まだ分からない」
うまる「ええー? 分からないの?」
タイヘイ「急な話だし、そもそもうまるの話の男が現実離れしすぎてて俺と比較するって発想が持てない」
うまる(ぐへぇ、お兄ちゃんを超えるハイスペックを意識して盛りすぎたのがアダになったよ…)
タイヘイ「ただまあ、悔しいとかダメだとかはともかく」
タイヘイ「もしもうまるが俺のもとから離れてそいつについて行くってなったら、ものすごく寂しくなる……とは思う」
うまる「…えっ」
タイヘイ「……こういうのは重いからあんまり言いたくないんだけど」
タイヘイ「どんだけグータラでわがままで、世話するのに骨が折れたとしても、うまるはたった一人の妹でさ」
タイヘイ「あまり兄らしいことはしてやれなかったけど、それでもうまるはずっと俺のもとに居てくれただろ」
うまる「そりゃ、家族だし」
タイヘイ「家族でもだよ」
うまる「…?」
タイヘイ「俺が仕事や家事をどうにかこなしていけるのは、うまるがいるからなんだ」
うまる「うまるがいるから…?」
タイヘイ「ああ」
うまる「うまる、料理もお掃除も洗濯もニガテなんだけど?」
タイヘイ「ま、まあそれはそうなんだけど」
タイヘイ「少しだけ暗い話から入ると」
タイヘイ「社会っていうのは、時に愉快で、時に不条理なもので。波はあれど、長い目で見て平均するとだいたい良いことと悪いことが同じくらいになるんだよ」
うまる「ふぅん…」
タイヘイ「でも同じくらいだからいつもバランスが取れるかっていうと、そうじゃない」
タイヘイ「それはたぶん、悪いことのほうが少しだけ深く心に刻まれるようにできてるからだ」
タイヘイ「どうしてこんな思いをしてまで会社を回すのかなって、世の中のために自分がここまで苦しまなくてもいいだろって、たまに自棄になりそうなこともある」
うまる(うわあ、やっぱ大変なんだ)
タイヘイ「で、そうやって疲れて帰ってきた瞬間に、やれお菓子くれだのゲームやろうだの、うまるからの追い討ちがかかるわけだ」
うまる「うげっ! だ、だってー…」
タイヘイ「でもその前に、うまるがいつも言ってくれるだろ」
うまる「うん?」
タイヘイ「『お兄ちゃんおかえり!』」
タイヘイ「『お仕事おつかれさま!』」
うまる「……」
タイヘイ「…ってさ」
うまる「お兄ちゃん……」
うまる「うまるの声真似ヘタだね…」
タイヘイ「それは後にしような…」
タイヘイ「それを言ってもらえたときに感じるんだよ。いま俺が踏ん張るのは会社とか世の中のためなんかじゃない」
タイヘイ「うまるのため。うまるが一人前に成長していくため。そのためなんだって」
タイヘイ「そうやって過ごしてきたもんだから、俺のほうがうまるを拠り所にしちゃってるんだ」
うまる「……」
タイヘイ「つまりさ」
タイヘイ「うまるがいなくなると、心にぽっかり穴が開くみたいになるだろ?」
タイヘイ「それがたぶん寂しいってことなんだろうなって思ってる」
うまる「…そっか」
うまる「ならお兄ちゃんはさ」
タイヘイ「ん?」
うまる「引き止めないの? うまるのこと」
タイヘイ「うーん、引き止めない…と今は思ってる」
うまる「ええー? さっきの感動的な話は? お涙ちょうだい的な語りはどこいったのさ」
タイヘイ「別にそんなつもりじゃ…」
タイヘイ「そりゃまあ、引き止めたくないって言ったら嘘になる。ただそれは俺の勝手な都合でするべきことじゃないと思うんだよ」
うまる「ううーん、そっかぁー」
タイヘイ「うまるこそなんで浮かない顔なんだ? 付き合いを止められるほうが嫌じゃないか?」
うまる「んー…」
うまる「だって、なんか自己犠牲っぽいんだもん。お兄ちゃんだけガマンして損しちゃってるじゃん」
タイヘイ「え?」
うまる「そーいうのはイヤだな。いかにも嫉妬ー!って感じならニヤケちゃうけど」
うまる「今のお兄ちゃんみたいに、本当の気持ちを押し殺して仕方なくーみたいなのだとちょっとね」
タイヘイ(うまる…)
タイヘイ「うまるはそう言うけど、何もガマンしてばかりじゃないんだぞ」
うまる「ん?そーなの?」
タイヘイ「兄離れっていうのはただ寂しいだけじゃない。一種の自立だと思ってる」
タイヘイ「俺が頑張るのはうまるが一人前に成長していくためって言っただろ? 自立することは成長することでもある。それに他人に好意を持つことだって心の成長だしさ」
うまる「……」
タイヘイ「だから、うまるが誰かを好きになってその人のもとへ行くって言うなら、俺はそれが嬉しい。誇らしいんだ」
うまる「…お兄ちゃんはほんとにそれでいいの?」
タイヘイ「いいさ」
うまる「急にうまるがいなくなっても?」
タイヘイ「まあ。あ、でも出来れば急にじゃなくてあらかじめ言っといてくれると助かるかな…」
うまる「ふーん… たとえ相手がどんな人でも?」
タイヘイ「そうだなぁ。警察を呼ばなきゃいけないような事態になるのはごめんだぞ」
うまる「そんなの分かってるよ」
タイヘイ「はは」
タイヘイ「まあ相手に関しては心配してないよ。してないというか、さっき気づいたんだけど」
うまる「さっき?」
タイヘイ「彼氏についていろいろ聞いてたときだよ」
タイヘイ「うまる大絶賛だっただろ? なんでも叶えてくれるーとか、優しくて素敵な人だーとか」
うまる「あ、ああー」
うまる(無駄にハイスペックにしちゃった彼氏かぁ。そりゃ将来安泰だもん、お兄ちゃんも安心するよね)
タイヘイ「けどそういうことは実はなんでもいいんだよ」
うまる「えっ?」
タイヘイ「うまるが一生懸命その人の良いところを話してる時に分かったんだ」
タイヘイ「大事なのは、うまるがその人を選んだってこと」
タイヘイ「それ以外無い。うまるが選んだんだから、それでいいんだって」
うまる「うまるが…選んだから?」
タイヘイ「そう。うまるは俺の妹。それも自慢の妹だから」
タイヘイ「その妹が選んだ人だぞ? 俺が自信を持てないわけがないだろ」
うまる「……!」
タイヘイ「そのことに気がついた。何も心配することはない。だからどんな人でもいいんだ」
うまる「お兄ちゃん…」
うまる(うまるのことを信じてるから……)
うまる(そっか。そうなんだね)
タイヘイ「っと、話しすぎたな」
タイヘイ(うまるがしんみりしてしまった。気分を変えなくちゃな)
タイヘイ「うまる、コーヒーでも飲むか?」
うまる「うんー? うんー…」
タイヘイ「え、コーヒーだぞ? いいのか?」
うまる「んー、えっ? コーヒー? そんなの飲めないよ」
タイヘイ「冗談だよ。ミルクティーでいいよな。ケーキ買ってあるんだ」
うまる「えっ、ケーキ!? 食べたい! なんで!?」
タイヘイ「お腹いっぱいじゃなかったのか?」
うまる「やだなぁ~ケーキは別腹だよお兄ちゃん。なんか手伝う!?」
タイヘイ「いいよ。大人しく座ってろ」
タイヘイ(ぼんばの話を聞いてどうにも落ち着かず買ってしまったケーキなんけど……なんというか皮肉だなぁ)
うまる「ぬっはっはー、ケーキ! ケーキ!」カチャカチャ
タイヘイ(ま、いいか)
パク
うまる「んんんーーーうまああぁぁ…!!」
タイヘイ「うまいな。クリームの質といいスポンジのほのかな酸味といい」
うまる「だねー。お肉もそうだけど、お兄ちゃんなんかいいことあったの?」
タイヘイ「えっ!? あ、いやー…」
うまる「おっ?」
うまる「どうしたのお兄ちゃん、自慢の妹に隠しごとー?」ニヤニヤ
タイヘイ「それいま言うなよ…」
タイヘイ「あ、そうだ。うまるに彼氏ができた祝いってことでどうだ?」
うまる「ごっふ!! ごっふごふごふっ!!」
タイヘイ「だ、大丈夫かうまる?」
うまる(うはぁ、早くもそういう設定だったの忘れかけてたよ)ズビビ
タイヘイ「大丈夫か?」
うまる「だ、大丈夫~、100人乗れるよ」
うまる(どうしようかなぁ。もう彼氏ができたってことじゃお兄ちゃんに甘やかしてもらえそうにないし)
うまる(それに今うまるが一番ほしいのは……)
タイヘイ「まあでもさ、いつかは会わせてくれよ?」
うまる「ん?」
タイヘイ「うまるの彼氏だよ。やっぱり気にはなるし」
うまる「……」
タイヘイ「あ、でももちろん信用してるってのは本当だからな! すぐじゃなくていいんだ」
うまる「いいよ。今からでも」
タイヘイ「そうか、よかった」
タイヘイ「……今から?」
うまる「うん。今から会わせてあげるよ」
タイヘイ「えっ!? ちょ、ちょっと待て! ウチに来るのか!?」
うまる「今呼び出すからちょっと待ってて」
タイヘイ「ま、待てうまる、やっぱり心の準備が……」
カタカタ ッターーン
翌日の会社
タイヘイ「……ってことだったんだよ…」
ぼんば「わっはっはっは! まじかよそれ!」
タイヘイ「……」
ぼんば「乙女ゲーの彼氏ってお前……わっはっはっは腹いてえー!!」
タイヘイ「笑いすぎだ! あまりに脱力しすぎてほとんど寝れなかったんだぞ」
ぼんば「そりゃ同情するけどよぉ」
ぼんば「冷静に考えてみろよタイヘイ。どうやったらタヌキチがリアルな街でそんなちょいワル金持ちと恋に落ちる状況になるんだっての」
タイヘイ「後からそう思ったよ! なるほどゲームなら納得だって……ああくそ」
ぼんば「でもあれだ、ある意味勉強になったんじゃねーの」
タイヘイ「まあ…確かにな」
ぼんば「もしも妹に彼氏ができたら自分はどうすべきか。そんな時の心情を身をもって知れたわけだよ、俺もお前も」
タイヘイ「そういやぼんばのほうはどうなんだ?」
ぼんば「ん? ああきりえな! いやー思い切って昨日聞いてみたんだよ、彼氏できたのかって」
タイヘイ「きりえちゃんはなんて?」
ぼんば「『友達も少ないのに彼氏なんかいるわけないだろバカ兄貴!』だとよ。まあそうだよなー、いやぁ安心した」
タイヘイ(それ喜ぶ以外にあるだろ、心配してあげることが)
ぼんば「にしてもタイヘイ、ゲームて……ぶははははは!!」
タイヘイ「うるせーよ! いつまで笑ってんだ!」
ぼんば「だってよぉケッサクすぎんだろ! こりゃ次の飲み会でーっぷううーーー!!」
タイヘイ(こいつ…)ブー ブー
タイヘイ「なんだ? うまるから連絡?」
ぼんば「ひー、まじ腹いてぇ、リアルじゃなくてゲームの彼氏に焦るタイヘイ……」
タイヘイ「……」
タイヘイ「『お兄ちゃん大変! きりえちゃんが』」
ぼんば「ん? きりえ?」
タイヘイ「『彼氏いるのが兄にバレそうって真剣に相談されたんだけど、どうすればいいかな?』」
ぼんば「……」
ぼんば「ファッ?」
ぼんば爆発オチおわり
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