幼馴染「好きだよ、女ちゃん」 (90)

※百合エロ注意

幼馴染「ふふっ、そうなんだ」




いつからだろう。




幼「あ、わかるー! でも、それって……」




こうして……遠巻きにしか、彼女を見られなくなってしまったのは。

女「はぁ……」




昔は、あんなに楽しくお喋りできたのに。
昔は、たくさん遊んでいたのに。
今は……同じクラスなのに、挨拶を交わすことすら滅多にない。
当たり前だ。
この状況を作ったのは、あたしなんだから。




女「はぁ……帰ろ」




カバンを掴んで、友達にまた明日ねと別れを告げて教室を出る。
彼女は……別にいい。
楽しくお喋りしてるんだし、あたしが、あたしなんかが横槍を入れる訳にはいかないから。




幼「あ……」

「ん、どしたの?」

幼「……ううん、なんでもない」

―――――――――――――――――――――――




あたしと幼ちゃん……幼馴染さんは、産まれた日も病院も同じで、家もすごく近くに住んでいて、姉妹みたいに育った。
ずっと仲良しで、喧嘩なんてしなくて。
公園は近くにないから、家の前の道路で遊んだり、お互いの家に遊びに行ったりしていた。
小学校では、6年間ずっと同じクラスだった。
やっぱり、ずっと一緒にいた。
でも……中学生になってからは、クラスが別になってしまって。
それから、色々あって。
高校生になった今では、あたしと幼馴染さんの関係は、ただのご近所さんってだけ。




女「ただいまー」

妹「あ、おかえりー」




家に帰ると、制服姿の妹が迎えてくれた。
あたしより結構年下で、まだ中学生になったばかり。




女「……ぷっ、やっぱまだ制服に着せられてるなぁ」

妹「むっ! 幼お姉ちゃんは可愛いって褒めてくれたよ!!」




あたしと同様、昔から幼馴染さんと仲が良かった妹は、今でも幼馴染さんと仲が良い。
それが少し……羨ましく感じることもある。

女「会ったの?」

妹「うん。 今朝、家の前で」

女「ふうん……」

妹「たまに、だけど……朝にいるよ。 家の前に」

女「……」




知ってる。
彼女が家の前で待っている日は、何となく胸の中がもやもやしたような感覚があって。
その時に部屋の窓から外を眺めると、決まって家の前に彼女がいたから。
それで、いつもいつも、遅刻ギリギリの時間に家を出てしまう。
その頃にはもう、家の前に彼女はいなくて。
学校に着いて、教室に入ると……決まって彼女は、ほんの一瞬だけ、寂しそうな表情であたしを見る。




妹「お姉ちゃ……わぅ」




何かを言おうとした妹の頭に手を乗せて、そっと撫でる。




女「……むずかしーんだよ、高校生って。 妹は、こうなっちゃダメだからね」

妹「ん?……」




まだ何か言いたげな表情をする妹だけど。
あたしはその表情が見ていられなくて、その場から逃げ出すように自分の部屋に向かった。

>>6
文字化けしてしまったので修正します




女「会ったの?」

妹「うん。 今朝、家の前で」

女「ふうん……」

妹「たまに、だけど……朝にいるよ。 家の前に」

女「……」




知ってる。
彼女が家の前で待っている日は、何となく胸の中がもやもやしたような感覚があって。
その時に部屋の窓から外を眺めると、決まって家の前に彼女がいたから。
それで、いつもいつも、遅刻ギリギリの時間に家を出てしまう。
その頃にはもう、家の前に彼女はいなくて。
学校に着いて、教室に入ると……決まって彼女は、ほんの一瞬だけ、寂しそうな表情であたしを見る。




妹「お姉ちゃ……わぅ」




何かを言おうとした妹の頭に手を乗せて、そっと撫でる。




女「……むずかしーんだよ、高校生って。 妹は、こうなっちゃダメだからね」

妹「ん~……」




まだ何か言いたげな表情をする妹だけど。
あたしはその表情が見ていられなくて、その場から逃げ出すように自分の部屋に向かった。

―――――――――――――――――――――――




先生「おはようございます、皆さん。 一ヶ月後には修学旅行ですね。 高校生らしい振る舞いを心がけるよう、今から心の準備をしてくださいね?」

女「修学旅行、かぁ……」




思い出すのは、小学生の頃の修学旅行。
本当に楽しかった。
幼馴染さんの家族とウチの家族で一緒に旅行、というのは何回もあったけど、二人きりで見て回ることってなかなか無かった。
でも、そのときの修学旅行中は、自由行動の時に二人きりで見て回ることができた。
川が流れているだけとか、花が咲いているだけとか、チョウチョが飛んでいるだけとか、そんな些細なことでも、二人きりで見ると宝物みたいにキラキラ輝いて見えた。
今でも……その思い出は、あたしの宝物。




女「あの子は……覚えてないだろうなぁ」




ちらりと、窓際の席にいる彼女に視線を向ける。




幼「……」




真剣な表情で、先生の話を聞いている。
さすが、真面目だなぁ。
品行方正、穏やかな性格で、成績も良い。
まさに優等生を絵に描いたような女の子。
そのくせ外見は可愛らしくて、男子の話によると少なくとも学年ナンバーワンの逸材らしい。

女「……アホらし」




男子の話はアホらしいものばかり。
でも……学年ナンバーワン、というのは頷ける。
だって、あたしも憧れているから。
絵に描いたような優等生と女の子らしさを持つ、彼女に。
でも……あたしには、何もない。
カオは普通だし、彼女みたいにスタイルも良くない。
嫉妬してるわけじゃない。
ただ……あたしじゃ、彼女と釣り合わない。
だから、彼女から離れた。
それが間違いだったのかどうかなんて、わからない。
でも、そのほうが彼女の為になるはずだからって、信じて。




「あ、あの……」

女「ん? あ……」




机に伏せていた顔を上げると、彼女がいた。
いつの間にか、朝のホームルームが終わっていたようだ。
彼女を前にすると、思わず身構えてしまう。




幼「先生が、女ちゃんを呼んでたよ? 職員室に来いって」

女「うげ、なんか出し忘れた課題とかあったかな!? ごめんね、ありがと、……『幼馴染さん』」

幼「あ…………ううん、女、さん……」




最初に変えたのは、呼び方だった。
ずっと幼ちゃん幼ちゃんって呼んでいたのを、高校生になってから『幼馴染さん』に変えた。
初めてそう呼んだとき……彼女は、傷ついたような表情をしていた。
今でもあたしがそう呼ぶと、同じ表情をする。
そしてそれに合わせてか、彼女もあたしの呼び方を『女ちゃん』から『女さん』に変えた。
それでも、たまに……あたしのことを、昔のように女ちゃんと呼ぶ。
まるで昔の、仲が良かった時代を取り戻そうとするかのように。
でも、もう、あの頃には戻れない。
だってそれは、彼女の為にならないから。
どんなに彼女が辛そうな表情をしても。
あたしが、辛くても。

―――――――――――――――――――――――




「じゃねー、女ー!」

女「おー、部活頑張ってー!」




昇降口で、ジャージ姿の友だちと別れる。
いいなあ、何かに打ち込めるって。
あたしにはそんなに熱中できるものがないから、羨ましい。




女「……ん?」




校門付近まで歩いていくと、ふと、校門に寄りかかっている女の子に気が付いた。
……彼女だ。
幼馴染さんが、校門を出ていく生徒たちをぼんやりと眺めていた。

幼「あ……っ」




その彼女と、目が合う。
彼女の顔がぱっと明るくなって、慌てたように駆け寄ってきた。




女「あれ、まだ帰ってなかったんだ」

幼「あ、うん……えへへ。 ちょっと、人を待ってて」




はにかみながら、彼女が言う。
本当に、こういう表情が人の心を鷲掴みにするのだろう。




女「そか、早く来るといいね。 幼馴染さんを待たせるなんてって感じだし。 それじゃ、また明日」

幼「あっ、待って待って! あのっ、待ってたのっ、女ちゃんのことだからっ!」

女「……え? あたし? なんで?」

幼「その……今帰るところ、だよね? 一緒に帰っても……いい?」

女「……」




これは……初めてだ。
少なくとも高校生になってからは、一緒に帰ろうなんて言われたことないし、言ったこともない。

女「……ごめん、ちょっと用事があって。 寄らなきゃ行けないところがあるんだ」




嘘、本当は用事なんてない。




幼「あ……」

女「ごめんね、また次の機会に」

幼「そっか……そうだよね。 うん、私もごめんね、無理言っちゃって」

女「ううん、気にしないで。 また明日、幼馴染さん」

幼「うん……またね、女さん……」




逃げるように、足早に校門を出る。
……決して振り返らずに。
去り際に見えた彼女の表情を再び見るのが、あまりにも辛すぎて。
今振り向いたら、やっぱり一緒に帰ろうって、言い出してしまいそうな自分がいて。
それは、まだ一緒に帰ろうって言ってくれることが、嬉しいからで。
それら全てを振り切って、あたしは走り出した。

―――――――――――――――――――――――




女「ただいまー」

妹「おかえり。 ……遅かったね?」

女「ん……まあね」

妹「……幼お姉ちゃんは、一緒じゃなかったんだね」

女「ん? なんで?」

妹「幼お姉ちゃんが言ってたから。 今日、一緒に帰ろうって言ってみるって。 わたし、よく幼お姉ちゃんの相談にのってるから」

女「……」

妹「幼お姉ちゃん、お姉ちゃんと仲直りしたがってるよ。 不安がってるよ。 幼お姉ちゃんが、お姉ちゃんに何かしちゃったんじゃないかって。 お姉ちゃん、怒ってるんじゃないかって」

女「あはは、そんなことあるわけないのに」

妹「じゃあ、どうして?」

女「……」




あたしだって、昔みたいに仲良くしたい。
ずっと一緒に笑っていたい。
でも……。

女「あたしじゃ……ダメだから」

妹「それってどういう……んぅ」




妹の頭に手を乗せて、撫でる。




女「ごめんね、板挟みにしちゃって」

妹「……気にしないで。 わたしも、昔に戻りたいだけだから」

女「……そっか」

―――――――――――――――――――――――




あたしには、大切にしてる写真がある。
写真立てに入れて、机の上に立てて、時折眺めてる。
それは、中学校の入学式のときの写真。
あたしと彼女が着慣れない制服を着て、中学校の校門をバックに並んで立っている写真。
彼女との写真はたくさんあるけれど、その中でなぜこれを選んだのかはわからない。
わからないけど、たぶん……彼女と写っている写真は、これが最後だから。
彼女との、最後の思い出だから。




女「……行ってきます」




毎朝それに声をかけて、あたしは部屋を出ている。
彼女と話さなくなってから、ずっと。




女「おっ、おはようねぼすけ」




玄関に行くためにリビングを通ると、眠そうな表情の妹が朝食を食べていた。

妹「おはよお……ちょっと夜更かししちゃって」

女「こらこら、夜更かしは肌の大敵だぞ?」

妹「うえっ、用心します……」

女「んじゃ、あたし行くから」

妹「行ってらっしゃーい」




家を出て、学校に向かう。
今日はいい天気だ。
夏が近づいてきてるから、少し暑いけど。




女「少しっつーか、フツーに暑いんですけど……」




ぱたぱたと手で顔を仰ぎながら、通学路を歩く。
しばらくすると、結構先の方に、見慣れた後ろ姿を見つけた。




女「あ……」




肩にかかるくらいの、黒くて綺麗な髪。
姿勢よく、穏やかに歩く姿。
……彼女だ。

女「どこで見ても、キッチリしてるなあ」




学校内でも外でも、相変わらず彼女は優等生のままだ。
あたしなんかとは違う。




女「……バレてないうちに、別の道から行こう」




一緒に登校するくらい、別にいいじゃん。
昨日だって、一緒に帰るくらい、別によかったじゃん。
そんな気持ちを抑えて、あたしは別の道から学校へ行くことにした。

―――――――――――――――――――――――




女「ふえ~、もう下校時刻間近だし!」




放課後。
友だちと喋っていたら、下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。
部活があるその子は慌てて部活に向かったけど、部活に入っていないあたしはさっさと下校しないといけない。




女「下校時刻なのに、まだ外は明るいなあ」




そんなことを言いながら、校門に向かう。
すると……。




幼「……」

女「あ……」




……昨日と同じように、彼女が校門に寄りかかっていた。




幼「あ……」




彼女はあたしに気がつくと、弱々しく微笑んで、近づいてきた。

幼「今、帰るところ?」

女「うん、まぁ……」

幼「今日は……一緒に帰っても、いいかな……?」




縋るような目で、あたしを見上げる。




女「っ……ごめん、今日も、ちょっと用事があって」




その目を見ていられなくて、駆け出そうとする。




幼「ま、待ってっ!」




しかし、彼女に手首を掴まれ、阻まれてしまった。

幼「あのっ、その用事って、私が付いていっちゃだめかな……?」

女「え……」

幼「無理を言ってるのはわかってる……途中まででもいいの。 私……女ちゃんと、お話したくて……」

女「……」

幼「お願い……」




ここまで食い下がってくる彼女は、初めてだ。
今まで何度もあたしは彼女の前から逃げ出してきたけど、彼女はあたしを追いかけなかったし、止めるようなこともしなかった。




幼「……私のことを怒ってないなら、一緒に帰ろう?」




彼女にはわかっているのだろう。
わかっていたのだろう。
今日も、昨日も、用事なんてなかったことが。
ただ、どうして昨日は引き下がって、今日は食い下がるのかが、あたしにはわからなかった。




女「……わかった。 行こ」

幼「……! うんっ」




彼女が微笑んだ。
本当に、嬉しそうに。
胸が痛んだ。

幼「……久しぶりだよね、一緒に帰るの」




彼女と並んで、帰り道を歩く。




女「そだね。 中学校の時以来じゃないかな」

幼「うん、それくらい……だね」

女「……」

幼「……」




それきり、しばらくあたしと彼女は黙り込む。
でも、彼女の表情は嬉しそうだった。




幼「……ね、女ちゃん」

女「うん?」

幼「女ちゃんじゃダメ、って……どういうこと?」

女「……」




妹から聞いたのだろう。
答えようかどうか迷ったけれど、答えることにした。

女「……そのまんまの意味だよ」

幼「それじゃ、わかんないよ」

女「だから、あたしなんかじゃダメなの。 ……幼馴染さんの側にはいられない」

幼「どうして?」

女「ほら、あたし、幼馴染さんみたいに可愛くないし。 成績も良くないし、なんにもない。 釣り合わないもん、一緒にいると」

幼「……誰かに、そう言われたの?」

女「それもある……よ。 でも……」




中学生のころ、さんざん言われた。
どうしてあんな普通な子が、幼馴染さんといつも一緒にいるのかって。
男子からも、女子からも。
それだけなら、別にいい。
でも……ある日、見てしまった。
放課後に、別のクラスの教室で。
幼馴染さんと女子生徒が、口論しているところを。
内容は、あたしについて。
女子生徒のほうは、あたし……女ちゃんなんかといるのはやめろって言っていた。
それに対して、幼馴染さんは、いろいろ言い返していた。
その光景を見て、思ってしまった。 考えてしまった。
あたしといると、彼女は孤立してしまうって。

幼「でも……なに?」




だから……離れた。
唯一無二の親友から。




女「……あはは、あたし自身もそう思うし。 釣り合わないよねーって」

幼「そんなこと……」

女「ううん、あるの。 だからさ、あたしなんか放っとけばいいよ」

幼「どうして……どうして、そんなこと言うの……?」

女「ほら、幼馴染さんには友だちがたくさんいるし。 みんな良いひとたちじゃん」

幼「そう、だけど。 でも、でも……!」

女「えへへ……だから、ごめんね。 あたし、先帰るね。 ……サヨナラ」

幼「! ま、待ってよっ!!」




あたしが駆け出すと、幼ちゃんもあたしを追いかけようとして駆け出す。
……あたしは、昔から運動神経にだけは自信がある。
だから、足の速さで幼ちゃんがあたしに敵うはずもなくて。
ぐんぐんと、あたしと幼ちゃんの距離が離れていく。

幼「女ちゃ……あうっ!」

女「!!」




突然、幼馴染さんが盛大にすっころんだ。




女「幼ちゃんっ!!」




慌てて駆け寄って、幼ちゃんを抱き起こす。




幼「はあっ……はあっ……やっぱり女ちゃん、足速いね……?」




弱々しく、幼ちゃんが微笑む。




女「うわ……膝、擦りむいてる。 痛くない?」

幼「ちょっと痛いかも……」

女「ちょっと歩けば公衆トイレがあるから、そこで傷口洗おう。 幼ちゃん、そこまで歩ける?」

幼「あ……幼ちゃんって……」

女「あ……」




慌ててしまって、昔の呼び方に戻ってしまった。
でも今は、それどころじゃない。

女「そんなことより、歩ける? 歩けない?」

幼「……歩けないって言ったら?」

女「ん。 乗って」




幼ちゃんに背を向けて、しゃがんで背を差し出す。




幼「……ん」




手を肩に乗せて、幼ちゃんがあたしに負ぶさる。
幼ちゃんの膝裏を抱えて立ち上がって、あたしは歩き出した。

幼「……重くない?」

女「全然。 ちゃんと食べてる?」

幼「ちゃんと三食食べてるよ。 たまに甘いものも食べちゃうけど」

女「ぷっ……甘いもの大好きだもんね」

幼「ん……♪」




すりすりと、幼ちゃんがあたしの後頭部に頬を擦り付けた。




幼「女ちゃん、やっぱり変わってない……優しくて、カッコよくて……」

女「……」

幼「今なら、逃げられないよね? さっきの話の続き、してもいい?」

女「……幼ちゃんを置いてくことだって、できるかもよ?」

幼「ううん、女ちゃんにそんなこと、できるわけないよ。 だって、優しいもん」

女「……わかった、降参。 でもその前に、ひとつだけ聞かせて」

幼「うん?」

女「わざと転んだ?」

幼「……バレちゃった?」

女「こうやってあたしが逃げられないようにするためか……そんなことで、綺麗な足を傷付けて。 割に合わないでしょ」

幼「……女ちゃんとお話できるなら、なんだってするよ」

女「何言ってんの。 だいたい、あたしが見捨ててたらどーするのさ」

幼「それを確かめたかったの、嫌われてるのかもって思ってたから。 妹ちゃんから嫌ってないって聞いたけど、本当はどうかわからないし……」

女「……結果は?」

幼「嫌ってたら、こんなことしてくれないもんね? ……はっ、もしかして、誰にでもこんなことしちゃう!?」

女「……しないよ。 幼ちゃんだけ」

幼「ふふ……♪」




思えば、昔から幼ちゃんは策士なところがある。
あたしを困らせて、あたしに恥ずかしい思いをさせることがとにかく得意なのだ。
今みたいに。

幼「こんなに女ちゃんにくっついたの、本当に久しぶり……」

女「……」

幼「ねえ……釣り合わないなんて言わないで、昔みたいに側にいてよ。 確かに友だちはたくさんできたし、そのひとたちは本当に良いひとたちだけど……私にとって女ちゃんは、かけがえのない存在なんだよ。 唯一の、存在なんだよ」

女「……着いたよ」

幼「ん……」




女ちゃんを降ろして、公衆トイレに入る。
ハンカチを水道で濡らして、幼ちゃんの患部を軽く擦って汚れを落としていく。




幼「んっ……」

女「……あたしもね、昔みたいになれたらいいなって思うよ」

幼「……え?」

女「取り敢えず、今はこんなものかな。 帰ろっか」

幼「あ、うん……」

女「まだ歩けない?」

幼「ううん……でも、支えてくれると嬉しいな」

女「……うん、いいよ」




公衆トイレを出ると、幼ちゃんがあたしの片腕に両腕を絡めてくる。

女「……これはちょっと、恥ずかしいんだけど?」

幼「おんぶよりはマシじゃない?」

女「……確かに、今考えると相当恥ずかしいことしたねあたし」

幼「ふふふっ」




あたしが歩き出すと、幼ちゃんもひょこひょこと足を庇うように歩き始める。




女「……ごめんね。 あたしのせいで、怪我させちゃって」

幼「私のわざとなのに、どうして謝ってくれるの?」

女「あたしが逃げなければ、怪我することもなかったでしょ」

幼「……うん、そだね。 女ちゃんのせいだ」

女「うん、ごめん」

幼「だから、これからは側にいてよ。 昔みたいに、いっぱいいっぱいお喋りして、いっぱいいっぱい遊ぼうよ」




懇願するように、幼ちゃんが言った。
思わず顔を逸らしてしまう。




女「……それは無理、かな」

幼「どうして?」

女「……見ちゃったんだよね、幼ちゃんが喧嘩してるところ」

幼「喧嘩?」

女「うん。 中学生のとき……」

幼「……ああ、聞いてたんだ」

女「それを聞いて……あたしといると幼ちゃんがハブられるんじゃないかって、怖くなっちゃったの。 だから、幼ちゃんから離れた」

幼「……そうだったんだ」

女「ほら、みんなから言われてたし。 幼ちゃんも言われたでしょ? どうしてあんなのといるのって」

幼「……うん」

女「だからね、これからは一緒にいられないなって思った。 あたし一人のせいで、幼ちゃんのこれからを滅茶苦茶にするわけにはいかないから」

女「だから……ごめん」

幼「……そ、っか……」




それきりお互いに黙ったまま、あたしたちの家の前に着いた。

女「……今日はごめんね」

幼「……ううん、私もごめんね」




辛かった。
幼ちゃんの顔を見るのも、声を聞くのも。




幼「……もう、戻れないのかな」

女「……いいんじゃない? それでも。 人生に別れは付き物でしょ?」

幼「どうして、女ちゃんは平気でいられるの?」

女「そうしなきゃいけないから、だよ。 もう、何年も前に諦めてる。 だから……バイバイ、幼馴染さん」

幼「あ……女ちゃん!」




幼ちゃん……幼馴染さんの制止の声を振り切って、家に駆け込む。
結局、最後まで逃げっぱなしだった。
でも、伝えたいことは伝えられた。
だから……。

女「これで……いいんだ……」




玄関のドアに背を預けて、閉じた目に手の甲を当てる。




妹「……お姉ちゃん」

女「ん……妹……」




すると、心配そうな表情をした妹が、リビングから顔を出した。




妹「……幼お姉ちゃんと一緒に帰ってきたんだ」

女「……うん。 やっぱ……うまくいかないね」

妹「お姉ちゃん……」

―――――――――――――――――――――――




翌日、彼女は学校を休んだ。
原因はきっと、昨日のことだろうな。
以前も……彼女を『幼馴染さん』と初めて呼んだときの次の日も、彼女は学校を休んでいた記憶がある。
でも、伝えるべきことは伝えたから。
あとは……彼女がわかってくれることを、待つしかない。




―――――――――――――――――――――――




その翌日、幼馴染さんはちゃんと登校してきた。
みんなには風邪を引いちゃってたと笑っているが、ずっと彼女を見てきたあたしには、それが取り繕った笑顔であることがよくわかる。
でも、それに気付かないフリをして、いつも通り、彼女と関わることなく時間は過ぎていった。

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




そして、修学旅行が近くなってきたある日のこと。




先生「今日はこの時間を使って、修学旅行のグループ分けや部屋割りを決めたいと思います」




その日の最後の授業は、グループ分けと部屋割りを決めることになった。




先生「グループ分けは問題ないのですが、部屋割りのほうは部屋に入ることのできる人数の都合上、一部屋だけ女子が二人だけの部屋になってしまうことに注意してください。 さて、グループなどの決め方ですが……」

「はいっ! 好きな人となれるようにしたほうが良いと思いますっ!」




男子の一人が、元気よく発言した。
他のクラスメイトたちも、そうだそうだと賛成の声を上げる。




女「好きな人と、か……」




小学生の頃のグループ分けとかは、同じく好きな人と集まる方式で。
もちろんあたしと彼女は、真っ先に一緒になった。
懐かしいな……。

女「……ん?」




ふと、窓際の席にいる彼女が視線に留まる。
珍しく、俯いていた。




女「……?」




妙に気になって、じっと見ていると……。




女「……!」




ぽたり、と。
彼女の机に、雫がこぼれ落ちた。




女「え……泣いて……?」




よく見ると、微かに肩が震えている。
彼女の周囲にいたクラスメイトたちもそれに気が付き、慌てたように彼女を気遣い始めた。

「ど、どうしたの幼馴染ちゃん!?」

「何か辛いことでもあったの?」

幼「いや……ううん、大丈夫、大丈夫だから……」




大丈夫と言いながらも、溢れる涙は止まらない。




先生「……幼馴染さん、少し保健室で休んでいなさい。 とはいえ、一人で向かわせるのも心配ですね。 ええと、保健委員は……」




げっ。
なんとも都合の悪いことに、あたしが保健委員だった。




「はいはいはいっ!! 俺です!! 俺保健委員ですっ!!」

「うわ……あいつ、保健委員とかめんどくせーとか言ってたくせに、こういうときだけこれだよ」




もう一人の保健委員(男子)が、元気よく名乗り出た。
よし、君が行け。

先生「いえ、ここは女子に連れて行ってもらいましょう。 女さん、お願いします」

女「……はい」




……ですよね。
渋々立ち上がって、彼女のもとに向かう。




女「……歩ける?」

幼「……うん」

女「じゃ、行こっか」




彼女の手を取って、教室を出た。




女「大丈夫?」

幼「っ……うん。 少し……昔を思い出しちゃって」

女「……そっか」




今度は、わざととかではなさそうだ。
そのまま何事もなく保健室に辿り着いて、中に入る。

女「失礼しまーす……って、あれ?」




いるはずの保健室の先生がおらず、中はがらんとしている。
ドアを見ると、外出中の壁掛けが。




女「うわ……まあ、ベッド借りるくらいならいっか。 ほら、横になって」

幼「ん……」




あたしに言われた通り、彼女が横になる。
あたしに背を向けて。




女「取りあえず、先生が来るまではここにいるから。 教室に戻れるようになったらいつでも言って」

幼「ん……」

女「……」

幼「……」




授業中の時間帯だからか、保健室内はとても静かだった。
時折彼女が鼻をすする音が響く以外は。

幼「……小学生のときの修学旅行のことを、思い出しちゃって」




急に、彼女が静寂を破った。




幼「あのとき……グループ分けするとき、真っ先に一緒になったよね」

女「……そだね」




覚えてたんだ、彼女も。




幼「修学旅行のとき……すごかった。 初めて二人きりでいろんなところに行って、初めて二人きりでいろんなものを見て。 女ちゃんと一緒なら、なんだってキラキラしてた」

女「……」

幼「でももう、あの頃には戻れないんだなって。 そう思ったら、勝手に涙が出てきちゃって……情けないよね……」

女「……そんなことないよ」

幼「女ちゃんは、ずっと我慢してたんだもんね。 何年も、辛い思いをしたまま」

女「……」

幼「でも……でも、やっぱり……」




ずっと背を向けていた彼女が、あたしのほうに向き直った。
その顔は、涙で濡れていた。

幼「やっぱり、無理だよ……サヨナラなんて、バイバイなんて、言わないでよ……っ」

女「っ……」

幼「女ちゃんの気持ち、嬉しかった……辛い思いをしてまで私のためにって。 でも……女ちゃんは、優しすぎるよ」




彼女が手を伸ばして、あたしの両手を包み込んだ。




幼「あなたは、昔からそう。 自分のことは後回しで、いつも私のことばかり。 お菓子を選ぶときも、おもちゃを選ぶときも、ヒーローショーの握手会の順番だって、次が最後なのに私に譲ってくれた」

幼「私、ずっとあなたの優しさに甘えてた。 ずっと、あなたを頼ってた。 でも……あなたのワガママを聞いたことはなかった」

幼「ねえ……いいんだよ? 少しくらい、ワガママを言ってくれたって。 私が一番じゃなくて、自分が一番だって。 ……自分が一緒にいたいから、私と一緒にいるんだって」




……そうだ。
あたしの中で、幼ちゃんはいつも一番だった。
一番仲が良くて、一番大切な女の子。
だから、いつも幼ちゃんを守っていた。

女「……それは、できないよ。 幼ちゃんのこれからを、壊したくない」

幼「……ばか」

女「わっ!?」




幼ちゃんがあたしの手首を掴んで、ベッドに引きずり込んだ。




幼「……一緒に寝転んだのって、いつぶりだろうね」

女「……それは覚えてないや」

幼「私も……」




こつん、と、幼ちゃんがあたしの額に額を当ててくる。




幼「……優しいね、本当に。 でも、その優しさは間違ってる」

女「え? んっ、むっ……!?」




突然、唇に柔らかい感触が。
それが幼ちゃんの唇だって気が付くのに、時間はかからなかった。

幼「ん……これが、私が女ちゃんと一緒にいたい理由だよ」

女「冗談、だよね……?」

幼「……もう一回すれば、本気だって信じてくれるかな?」

女「えっ、いやっちょっ、ん、んんっ……!」




再び、幼ちゃんにキスをされる。
女の子同士なのに、こんな。
……そう思いつつ、なぜか嫌がっていないあたしがいる。




幼「ん……ちゅ……」

女「ちゅ……んむ……」

幼「ん、ふは……」

女「ぷは……」

幼「……冗談じゃないって、わかった?」

女「……」




十分、伝わってきた。
涙に濡れているけど、瞳を見ても本気だってわかる。
でも。

女「……まだ、わかんない」

幼「……」




あたしがそう言うと、幼ちゃんはきょとんとした顔をして。




幼「……くすっ。 なら、わかってくれるまでしちゃうから」

女「ん……」




そう言ってあたしに覆い被さって、またキスをしてくる。
両手の指と指とを絡めて、ぎゅっと握ってきて。
あたしも、握り返す。

幼「んちゅ、ちゅ……ん、わかってよぉ……」

女「んむ、はぁっ……わかんない、ぜんぜんわかんない……」

幼「女ちゃんのいじわる……ちゅ、ちゅ……」

女「んっ、ちゅ、ちゅぅっ……」




……どうしよう、気持ちいい。
気持ち良くて、心地良い。
女の子とキスをするのが、幼ちゃんとキスをするのが全然嫌じゃない。




幼「ん……え、わっ」




ごろんと転がって、今度はあたしが上になる。

幼「あ、ん……ちゅ、ちゅむ……」

女「ちゅっ……んちゅ……」

幼「んぅ……だめだよ、わかってくれるまで私がするんだから……」




ごろんと転がって、再び幼ちゃんが上に。




女「ん、だめ……もっと教えてほしいからっ……ん、む……」

幼「や……私がするからっ……ん、ちゅ……」




キスをしながら、ベッドの上をごろんごろんと転がる。
落ちないようにこそ気を配っていたけれど、そもそも狭いベッドの上だし、だんだんヒートアップしてきてしまって。




女「ん、んぅっ……? わぅっ!?」

幼「あぅっ!?」




結局、ベッドの上から転がり落ちました。

女「い、いたた……幼ちゃん、大丈夫……?」

幼「いたた……う、うん、平気……」




隣で悶絶する幼ちゃんと、目が合う。
そうしたら、なんだかおかしくなってきてしまって。




女「……ぷっ」

幼「ふふっ……」

女&幼「 「あははははっ!」 」




笑いがこみ上げてきて、幼ちゃんと一緒にしばらく笑い合った。
久しぶりだった。
心の底から、こんなに笑ったのは。




女「あっはは……ひー、ひー……何してんだろね、あたしたち」

幼「ふふふっ、ほんとにね」

女「……そろそろ戻ろっか、教室に」

幼「……うん」




最後にもう一度、キスをして。
ベッドを整えてから、手を繋いで、あたしたちは保健室を出た。

―――――――――――――――――――――――




先生「幼馴染さん、もう大丈夫ですか?」

幼「はい」




幼ちゃんが席に着くのを見送ってから、あたしも席に着いた。




先生「すみませんが、グループ分けや部屋割りはもう決めてしまいました。 結局公平になるようくじ引きにし、幼馴染さんと女さんのぶんは私が引きましたが……」




黒板を見ると、確かにグループや部屋に名前が書かれている。
ふーん……あたしのグループはそこか。
幼ちゃんとは別なんだ。
部屋は…………ん?




先生「幼馴染さんと女さんが、ちょうど二人部屋のところになってしまったのですが……大丈夫でしょうか?」

女「……」

幼「……」




席は遠いけど、思わず顔を見合わせる。




幼「……はい、大丈夫です。 公平にくじ引きで決めたことですし」




幼ちゃんは、そう毅然と答えたけれど。
耳まで赤くなっていることに、果たして気が付いているだろうか。

―――――――――――――――――――――――




その日から、あたしたちの関係は変わった。
学校でも、学校の外でも一緒にいるようになって。
一緒に、登下校するようにもなって。
でも、昔と違うのは……。




女「お、おはよ……幼ちゃん」

幼「あ、う、うん……おはよ……」

女「……」

幼「……」

女「……行こっか」

幼「……うん」




あのとき……保健室での一件が、あたしたちの頭の中を支配していて。
気恥ずかしさと気まずさから、あまり話せなくなってしまって。
でも、一緒にいたくて。
一緒にいるけど、話さない、何をするわけでもない。
修学旅行に行くまでは、こんな中途半端な関係が続いた。

―――――――――――――――――――――――




女「ぶぁー! おなかいっぱいー!」




ばふんと、ふかふかのベッドに飛び込む。
やってきました、修学旅行当日。
いろいろな行程を終え、初日最後の行事である夕食も終えて、もはや後に残るは自由時間と消灯の時間だけになった。




幼「いっぱい食べてたもんねぇ」




ベッドにうつ伏せになるあたしの横に、幼ちゃんが腰掛けた。




女「バイキングってヤバイね……食べすぎるー」




体を起こして、幼ちゃんと並んで座る。

幼「今日の行程……楽しかった。 でも、女ちゃんがいなかったから……」

女「あ、あはは……あたしも楽しかったけど、できれば幼ちゃんと一緒が良かったなぁ」

幼「ねー……」

女「うん……」

幼「……ね、女ちゃん。 確か、この自由時間でどっか行くって友だちと約束してなかったっけ?」

女「幼ちゃんこそ、誰かの部屋に遊びに行くんじゃなかった?」

幼「……」

女「……」




シーツに置かれたあたしの指と幼ちゃんの指が、絡む。




幼「……たまには、サボっちゃおうかなって」

女「……あたしも、かも」

幼「ん……ね、女ちゃん……」

女「うん……?」




幼ちゃんがぐっと距離を詰めてきて、顔と顔が近づく。
……あのときのように。

幼「……キス、しちゃったよね」

女「……うん」

幼「私たちの関係って、なんだろうね……?」

女「……」




昔は、仲の良い幼馴染だった。
ちょっと前までは、ただのクラスメイトだった。
でも、今は……。




女「……わかんないけど。 恋人……ってやつなのかな?」

幼「……ふふっ」

女「な、なんで笑うのさ」

幼「ううん……やっぱりわかってくれてたんだね、私の気持ち」

女「う」

幼「ね……じゃあ、どうしてあのとき、わからないフリをしてたの?」

女「……わかってるくせに」

幼「んー? わかんないなぁ……♪」




そんなことを言いながら、肩に頭を乗せてくる。

幼「なんでだろー……?」

女「~~~~っ……」




本当に、幼ちゃんはあたしを困らせるのが得意だ。
でも、それは。




幼「なんでかなぁ……♪」

女「……幼ちゃんと、もっとキスがしたいって思っちゃったからだよ」




いつもいつもあたしが折れるのが早すぎるからじゃないかって、今思った。

幼「えっ、そうなの? 気づかなかったなぁ」

女「まったく、白々しい……」

幼「じゃあ……どうして、キスを受け入れてくれたのかな?」

女「……それは、幼ちゃんもまだ言ってないよね。 あたしにどうしてキスしたのかって」

幼「ちゃ、ちゃんと私の気持ちって言ったし」

女「キスの気持ちってなに? わかんないなぁ」

幼「なっ、お、女ちゃんだっておんなじ気持ちでしょっ!」

女「え? わかんないよ? 違うかもしれないし」

幼「な、な……」

女「やっぱり、幼ちゃんが先に言うべきじゃないかなぁ」

幼「なっ……わ、わたしっ、私はっ、女ちゃんにほっとかれてずっと寂しい思いをしてたんですけど!? してたんですけど!!」

女「ぐっ、そ、それは今関係ないでしょ!!」

幼「あるもん! だから、女ちゃんが先に言ってくれないと私ずっと寂しい!!」

女「な、なら、あたしだってたまにはワガママ言いたいんだし! ずっと甘やかしてきてあげたんだから、たまにはあたしのワガママを聞いてくれてもいいんじゃないの!?」

幼「そ、そんなことでワガママ言うって恥ずかしいと思わないの!?」

女「幼ちゃんだって言ってることはワガママそのものだからね!?」

幼「しょっ、しょうがないじゃん! だって、だって、好きな人には私より先に好きって言ってほしいんだもん!」

女「あたしだって、好きな人から先に好きって言われたいよ!」

幼「う……うう~~……っ」

女「ぐぬぬ……」

幼「……」

女「……」

顔を真っ赤にして、見つめ合う。
……でも。
結局先に折れるのは、いつも……




幼「好きだよ、女ちゃん」

女「……へっ?」

幼「ほ、ほら! 私は言ったよ! 次は女ちゃんの番だからね!!」




いつも、あたしのはずなのに。

女「ご、ごめん! ちょっと聞こえなかった! もっかい言って!?」

幼「なっ、何言ってんの!? 次は女ちゃんの番だし!!」

女「聞こえなかったからノーカン! ノーカンだから!」

幼「ばかばかっ、言わないっ!! ぜったい言わないっ!!」

女「言ってってばっ、このっ!」

幼「きゃ……!?」




幼ちゃんの手首を掴んで、押し倒す。




幼「やっ……言わないっ……!」

女「もう一回言ってくれないと……んっ!」

幼「んぅっ!?」

女「は……キス、するから」

幼「やだ……女ちゃんが言ってくれるまで、キスもしないもん」

女「ん……」

幼「ん、んぅ……」

女「ん、ちゅ……ほら、してるよ……? キス……」

幼「ん、ふ……こんなの、キスじゃないし……んむ……」

女「……屁理屈ばっかり。 口開けて」

幼「へ?」

女「ん」

幼「んむっ!?」




少し開いた幼ちゃんの唇の間に、舌を挿し込んだ。

幼「ん、んんっ! んーっ!」

女「んっ、れろっ……れろれろっ……」

幼「は、ぁ……ふぁむっ、あ……れろ……」




幼ちゃんの舌に舌を絡ませると、ぴくぴくと幼ちゃんの身体が震えた。




幼「ん……ちゅむ、ちゅるるっ……くちゅっ……んぷぁぁ……」

女「んちゅ、れるっ……んぁ……」




唇と舌が、唾液の糸を引いて離れる。




幼「……女ちゃん、強引すぎだよ」

女「幼ちゃんほどじゃないよ」

幼「……もう」




幼ちゃんが、抱きしめてくる。
あたしも、抱きしめ返す。




幼「……大好き、女ちゃん」

女「あたしも大好きだよ、幼ちゃん」




微笑み合ってから、お互いに吸い寄せられるようにキスをする。

幼「ん……しゅき……んっ、ちゅ……」

女「んぅ……すき、ようちゃ……んっ、ちゅるっ……」

幼「んぁ……おんな、ひゃ……ちゅくちゅくっ、んんっ……」

女「ちゅるるっ……はぷっ、すき、ひゅきっ……ちゅっ、んっ……」

幼「んんっ、あ……すき、らいすきっ……ちゅっ、ちゅぷっ、れろぉっ……」




何度も何度も、想いを伝え合いながらキスをする。
頭が真っ白になるくらい、気持ちいい。
というかもう、頭が真っ白になっている。
ただ、とにかく幼ちゃんが欲しい。




女「ちゅぷっ……んっ、は、あっ……!?」

幼「あ……やわらかい……ん、ちゅ……」




幼ちゃんの手があたしの上着の中に侵入してきて、直接あたしの胸に触れた。
それだけで、身体が反応してしまう。

女「幼ちゃんののほうがやわらかいよ、ほら……」

幼「はぅっ……! ん、んむぅっ……!」




あたしも幼ちゃんの上着の中に手を突っ込んで、ブラをずらして直接胸に触れた。
キスをしながらむにむにとお互いの乳房を揉み合って、時折固くなった乳首を引っ掻いたり、摘んだりとかして。




女「あっ……! つよいっ、よぉっ……ちゅっ、ぢゅるっ……!」

幼「やっ、あっ……! 女ちゃんがっ、つよくするからっ……ひゃふっ、んふ、れるっ……!」




誰かに触られるのなんて、初めてで。




女「あ、あ……! だめ、だめっ……!」

幼「ふぁっ、あ……! びりびりきちゃうっ、びりびりきちゃうぅっ……!」

女&幼「 「~~~~~~っっ!!!!」 」




身体中がびりびりして、勝手に身体が震えて、言うことを聞かない。
一人でしたとき、こんなことになったことない。

女「あっ、はっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

幼「は、はぁっ……はーっ、はぁっ、はぁっ……」

女「はぁっ、はぁっ、幼、ちゃんっ……」

幼「女ちゃんっ……んちゅ、ぢゅるっ……」




あんなに気持ちよくなっても、まだ身体の熱が収まらない。
求め合うようにキスをしながら、お互いのアソコに手を伸ばした。




幼「んちゅ、あ……女ちゃんのココ、すごいことになってる……」

女「はんっ……幼ちゃんのココだって……」

幼「あっ……! ふっ、ちゅぅっ……」




幼ちゃんのアソコは、熱くて、すごくぬるぬるしていて。
すごく興奮してるんだなって、わかる。

女「あっあ……! ココ弄られるの、おっぱいよりきもちいいっ……!」

幼「あっ、ふぁっ! わ、私もっ……ひゃあんっ!」

女「やっ、あっ、あーっ! んぅぅっ!」

幼「はぅっ、あっ、あ……んんんっ!」




幼ちゃんの指が、ぬるぬる擦ってきて。
あたしの指が、幼ちゃんのをぬるぬる擦って。
指まで気持ちよくなっているような感じがする。




幼「だめっ……いっちゃうっ……もういっちゃうっ……!」




ぷるぷると震えながら、幼ちゃんが言う。




女「あたしもっ、いきそうっ……! 幼ちゃんに弄られてっ、ふぁあっ!」

幼「あっ……いくっ……! はっ、あっ、あっ……っっ!!」

女「あっ、んっ、くぅぅ……っっ!!」




さっきよりも強烈な快感が、あたしの身体と意識を襲う。
もがくように、幼ちゃんと強く抱き合った。
意識がぼんやりしてきて、しかし身体の熱はまだ残っている。

女「はあ……はあ……」

幼「はあっ……はあっ……」




拙い動きであたしと幼ちゃんは服を脱ぎ捨て、裸になって抱き合った。




幼「ん……これ、すごい……」

女「あったかくて、安心する……」

幼「うん、でも……」

女「ん、あ……っ」

幼「あ、は……っ」




ぎゅっと抱き合うと、あたしの胸と幼ちゃんの胸が押し潰し合って。
乳首と乳首が触れ合って、絡み合って。




幼「あっあっ、これっ、気持ちいいっ……♪」

女「乳首っ、擦れあってるっ……! ふぁ……♪」




胸だけでなく身体全体を擦りあわせるように、幼ちゃんが身体を動かす。
あたしもそれに合わせて、交互に動く。




幼「は、は……っ、ね、女ちゃん……」

女「はあっ、はあっ……なに……?」

幼「ココ……擦り合わせたら、どうなるのかな……?」

女「んっ……!」




濡れそぼったあたしのアソコに触れて、幼ちゃんが囁く。

幼「ココとココ、くっつけると……女の子同士でも、赤ちゃんできちゃわないかな……?」

女「はあっ、はあっ……できないよ、女の子同士だもん……」

幼「ん……そうかな……」




幼ちゃんが起き上がって、あたしの足を腕に抱える。
そのまま足を絡めてきて、あたしのアソコと幼ちゃんのアソコが……。




幼「んっ!」

女「あ……!」




にゅるにゅると、あたしのアソコと幼ちゃんのアソコが絡み合う。
ぬるっとしていて、融けそうなくらい熱い。

幼「はあっ、はあっ……これ、赤ちゃんできちゃいそう……」

女「そんなわけ……んっ!」




幼ちゃんが、少し腰を捻るように動かした。
ぬち、って音を立てて、擦れ合った。




幼「んぅっ! ちょっと擦れるだけで、きもちいい……! ね、女ちゃん……?」

女「な、なに……?」

幼「私たち、こんな……修学旅行先のホテルで、女の子同士でこんなことして……変態かな……?」

女「……今の幼ちゃん、えっちすぎるよ。 赤ちゃんとか、変態とか……んっ! あっ、ちょっ、うごかっ、んっ、あっ!」




急に、幼ちゃんの腰があたしのと擦り合わせるように動き始めた。




幼「ふぁっ、あっ! そうっ、なのっ! わたしっ、えっちなのっ! ずっとずっと、女ちゃんのこと考えてっ、ふぁっ! ひと、りでっ……んんぅっ!」

女「幼ちゃんっ……あっ、やっ! すごいっ、熱いっ……!」

幼「ほらっ、ほらぁっ……! こんなにぐちゅぐちゅでっ、見てないとどこからが女ちゃんなのかわかんないくらいでっ、赤ちゃん、できそうだよっ……?」

女「だから、女の子同士じゃ……んっ! なんでそんなに、赤ちゃんにこだわるのっ……!」

幼「だって……あっ! んっ……はぁっ、女ちゃんに、私の赤ちゃんっ……んんっ! うんで、ほしいからっ……!」

女「っ!? ……~~~~っっ!!」



幼ちゃんの言葉を聞いた瞬間。
頭の中で何かがはじけて、一瞬で何も考えられなくなった。

幼「あ……今、イッた……? イッちゃった? 私の赤ちゃん産んでほしいって聞いて、イッちゃった……?」

女「っ……はあっ、はあっ……うん……」

幼「いいよ……いっぱい、イこ? いっぱいイッて、いっぱい、私の赤ちゃんっ、孕んでっ……!」

女「ふぁああっ!? あーっ!!」




幼ちゃんの動きが激しくなって、ぐちゅぐちゅと擦れる音が大きくなる。




幼「あっ、あっ! 孕んでっ、私の赤ちゃんっ! はっ、んあっ! あーっ!」

女「ちょうだいっ、幼ちゃんのっ、幼ちゃんの赤ちゃんっ! んあっ、ふああっ!」

幼「はあっ、はあっ、女ちゃんっ、女ちゃんっ!」

女「はっ、はっ、幼ちゃんっ、幼ちゃんっ!」

女&幼「 「んぁあっ! ああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーっっ!!」 」

―――――――――――――――――――――――




幼「お背中流しまーす♪」

女「うう……一人で洗えるのにぃ……」




あのあと、5分くらいあたしたちは気絶してしまって。
目が覚めて、お互いの身体がどろどろになってることに気が付いて。
部屋に備え付けてあるお風呂に、あたしたちは入っていた。




女「うぅ……なんか、すごいこと言っちゃった気がする……」

幼「気がする、じゃなくて、言ってたよ。 私の赤ちゃんちょうだいって……んっ!」

女「言わないで……って、何してんの!?」

幼「何って……女ちゃんの背中を洗ってるとこだけど?」

女「いやいや、おっぱい擦り付けてるだけじゃん!? タオル使おうよ!」

幼「タオルなんかに女ちゃんの肌を任せられるわけないでしょ! 私が洗うの! ほら、次は前!」

女「いやいやっ、前はいいから! 自分で洗うから!」

幼「女ちゃんに女ちゃんの肌を任せられるわけないでしょっ! 私が洗うのっ!!」

女「言ってることメチャクチャだよ幼ちゃん!?」

幼「いいから前っ……んっ!」

女「ふぁんっ!」




ボディソープまみれの幼ちゃんの胸が、あたしの胸を押し潰す。
固くなった乳首と乳首が強くキスして、弾き合う。




幼「んぁ、あ……こら、なんで乳首固くしてるの……」

女「はっ、んっ……! 幼ちゃんだって、固いよ……」

幼「これは、体洗ってるだけなんだから……そんなえっちな声出しちゃっ、ふあぁっ♪」

女「えっちな声だしてるの、幼ちゃんのほうじゃんっ……っ、んんぅっ♪」

幼「やっ、だって……きもちいいよぉっ……!」

女「あっ、あふっ……すごい、にゅるにゅる、乳首がっ、んあぁっ!」




胸と胸とを激しく擦り合わせるたび、泡が立ってあたしと幼ちゃんの間を白く埋める。
視覚的にも、感覚的にも幼ちゃんとひとつになってしまったみたいで、おかしくなりそう。

幼「はあっ、はあっ……あ……にゅるにゅるが、無くなってきちゃったね……」

女「あ……う、うん……」




ボディソープがほとんど泡になってしまったのか、最初のようなぬめりがかなり弱まってしまった。




幼「……もっと、使っちゃおっか」

女「あ……待って」

幼「え?」

女「座ったままだと、しにくいから……あたしが下になるから、幼ちゃんが上に乗っかって」

幼「え……下、タイルだよ? それなら私が下になるよ」

女「ううん、大丈夫だから。 あたしが下になるよ」

幼「だから、女ちゃんは優しすぎるんだってば。 たまには私に甘えてよ」

女「今まで通り、幼ちゃんがあたしに甘えてよ。 ずっと……放っておいた責任が、あたしにあるんでしょ?」

幼「それは……」

女「気にしないで、あたしが下になる。 それより……一緒に、気持ちよくなろう?」

幼「……っ! 女ちゃんだって、えっちすぎるよっ……♡」

―――――――――――――――――――――――




女「……」

幼「……」




結局お風呂場でも、近くにいても離れ離れだった三年間くらいを埋め合うようにお互いを求め合ってしまった。
それでようやく、コトを終えて。
あたしたちは、二人並んで一つのベッドでうつ伏せに倒れ込んでいた。
もう一つのベッドは、荷物置きにしてある。




幼「備え付けのせっけん、ぜんぶつかっちゃったね……」

女「幼ちゃん、ボディソープがなくなったからって、シャンプーとかコンディショナーとか、固形石鹸まで持ってきたもんね……」

幼「ホテルの人に怒られるかな……」

女「盛り上がりすぎだよ……」

幼「だって、女ちゃんもえっちなんだもん……止めてくれる人がいないと、歯止めが効かないよ……」

女「明日どうしよ……体動くかな……」

幼「んうう……ちからはいらない……」

女「あたしも……」




ふう……と、二人同時に大きなため息を吐きだした。

幼「初めてだったのに……女ちゃんの気持ちいいとこ、ぜんぶわかっちゃうような感じがしちゃって」

女「わかる……あたしも、幼ちゃんが気持ちいいとこ、わかるような気がしてた」




顔を見合わせて、笑い合う。




幼「……相性良すぎだね」

女「……ずっと一緒だったもんね」

幼「でも、最近は一緒にいてくれなかったじゃん。 三年間くらい」

女「う。 でも、一緒にいたときのほうが長いでしょ」

幼「関係ないよ。 私怒ってるんだからね」

女「ごめんなさい……」

幼「……嘘。 私のためだったんだもんね。 ちょっと独りよがりだけど」

女「うう……」

幼「でも……そうやって私のことを真っ先に考えてくれる、優しい女ちゃん。 私は大好きだよ」

女「幼ちゃん……」

幼「……ん、んんー……」




もぞもぞと、幼ちゃんが一人で身悶えてる。




幼「キスしたいんだけど、体動かない……」

女「キスは、もういつでもできるからいいんじゃないかな……さっきもいっぱいしたし……」

幼「……そうだよね」

女「これからは、ずっと一緒だからね」

幼「うん」

女「……おやすみ、幼ちゃん。 大好きだよ」

幼「おやすみなさい、女ちゃん。 私も大好き」

―――――――――――――――――――――――




それから、修学旅行はつつがなく終わって。
あたしと幼ちゃんの関係は、もとに戻った……というよりもむしろ戻ることはなく、いろいろすっ飛ばしてもはや別の領域になってしまった。




幼「お邪魔しまーす……」

女「どうぞー……あれ、妹はまだ帰ってきてないや」




そんなある日。
一緒に下校中に、幼ちゃんが久しぶりにあたしの家に行きたいと言い出して、こうして家に連れてきたわけで。




幼「……あんまり変わってないね」

女「リフォームとかしてないしね。 あたしの部屋、こっち」

幼「うん、覚えてる」




階段を上って、あたしの部屋に向かう。
それだけで、幼ちゃんはすごく懐かしんでいる。

幼「まさか、また女ちゃんの部屋に入れるなんて、思ってもなかったなぁ」

女「……ごめんね」

幼「あっ、ううん! 私もごめんっ、すぐこんなこと言っちゃって。 それに、私も女ちゃんも悪くないって、結論づけたでしょ?」




修学旅行のあと。
これまでの三年間くらいについて、さんざん謝ったり謝られたりして。
あたしたちが謝り合ってもどうしようもないって、気が付いた。




女「それでも、突き放したのはあたしだし」

幼「もう。 ほんと……ばか」

女「ん、んむ……」

幼「ん……ほら、そのおかげで、今があるから。 壁を乗り越えたらもう、あとは幸せしかないよ?」

女「……そだね。 いい加減、入ろっか」

幼「うん」




ドアを開けて、幼ちゃんをあたしの部屋に招き入れる。




幼「あ……家具、変わってる。 でも、配置は変わってないんだね」

女「うん。 やっぱり、同じところに同じものがないと落ち着かなくて」

幼「ふふ、女ちゃんらしいね」




そう言って、幼ちゃんはぐるりと部屋を見回して、机の上にあるものに目を留めた。

幼「……これ……」




幼ちゃんが手に取ったのは、あの写真。
あたしたちの、中学校の入学式のときの写真。




女「その写真がどうかしたの?」

幼「……私もね、これを机の上に飾ってるの」

女「え」

幼「だって、この写真が最新で……最後だったんだもん」

女「……幼ちゃん」




あたしは無意識で選んだものだった。
でもたぶん、そういうことを感じて選んだんじゃないかなって後になって思っていた。




幼「でも……これからは、いっぱいいっぱい、撮れるよね」

女「うん。 二人で一緒に」

幼「えへへ……嬉しいな」




幼ちゃんがベッドの縁に腰掛けた。
あたしもその隣に腰掛ける。

女「……幼ちゃん。 あたしが突き放しても、あたしのことを覚えててくれてありがとね」

幼「当たり前だよ。 ずっと好きだったんだから」

女「うん、じゃあ……ずっと好きでいてくれて、ありがとう」

幼「うん……これからも、ずっと好きでいるよ」

女「幼ちゃん……あたしも、これからはずっと、幼ちゃんのことが好きでいるよ……」

幼「女ちゃん……」

女「幼ちゃん……」




あたしたちの顔が、近付いていく。
あと一ミリで唇と唇が触れ合うところで。

幼「……ちょっと待って」

女「……ん、え?」




すんでのところで、幼ちゃんが顔を離した。
……すごく怖い顔をして。




幼「これから『は』って……どういうこと?」

女「えっ?」

幼「これから『も』じゃないの?」

女「えっ……あ、えーと……」




……細かい、鋭い。
ヘタに嘘をついても、結局後になってバレることは目に見えている。
それなら今包み隠さず白状した方がいいと、一瞬で頭の中で考えた。

女「そ、それは……今までは、幼ちゃんのこと、恋愛感情をもって見てなかったというか……」

幼「私以外に好きな人がいたことがあるってこと?」




……鋭い。




女「じ、実は、お、男の子と付き合ったことが一回だけあって!」

幼「……へえー?」




幼ちゃんの目が、一瞬で濁った。




女「あ、あの! 違うの! き、キスまでしかしてないし! まだ処女だから!」

幼「ふーん……ファーストキス、私じゃないんだ……」

女「ち、小さい頃、結構キスしたよね!?」

幼「恋人としてのファーストキスは、私じゃないんだね……」

女「そ、それは……そのう……あっ、でも! あんまり合わなくて、すぐ別れたから!」

幼「……女ちゃんのビッチ」

女「き、キスまでしかしてないよ!? それにその人が最初で最後だよ!?」

幼「もういい、何も言わないで」

女「えっ、あのっ? ちょっ、なんで服を脱がそうとするの?」

幼「身体に直接聞くから」

女「そういう言葉どこから仕入れてくるの!?」

幼「あと、私以外で染められた身体、ぜんぶ私で染めるから」

女「たぶんこないだの修学旅行で十分染められたよ!?」

幼「いいから黙ってて。 全部女ちゃんの身体に聞くから。 どれだけその人のことが好きだったのか、どれだけドキドキしたのか、私のことひとりぼっちにさせたくせに、自分は恋なんてしちゃってどれだけ鼻の下伸ばしてたのか」

女「ご、ごめんなさい……本当にごめんなさい……」

幼「ううん、許さない」

女「あっ、やっ、ちょおおっ!!」

妹「幼お姉ちゃんいるのっ!?」バターン




服を全て脱がされかけたところで、突如あたしの部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
そこにいたのは、妹。

女「あ……」

幼「あ……」

妹「あ……」




数秒……いや、数十秒?
場の空気が固まる。




幼「……いや、あの、そのね? えっと……」

妹「……うん、いや、うん。 わかった、なんか納得できた」

女「納得って……」

妹「幼お姉ちゃん……わたしが相談を受けたとき、どうしてお姉ちゃんと仲直りしたいのって聞いたの覚えてる?」

幼「え、うん……」

妹「そのとき、お姉ちゃんのことが好きだからって言ってたよね」

幼「あ……うん」

女「なぬ?」

妹「それ……そういうことだったんだね」

幼「……うん」

妹「ふーん……そっかそっか、うん、わかった。 期待以上というか、斜め上の結果になったけど、二人が仲直りしたんなら、それでいいよ。 ……おかえり、幼お姉ちゃん」

幼「……うん、ただいま」

妹「じゃ、ごゆっくり……と、この家でするのは勘弁してね? 壁薄いから結構聞こえるよ」

女「しっししししないしっ!!」

妹「ふふっ、それじゃね」




妹が部屋から出ていく。
まさか、早々と妹バレするとは……。

幼「……なんか大人だね、妹ちゃん」

女「……そだね」

幼「よかったよ。 私たちのこと認めてくれたし」

女「うん……」

幼「というわけで、続きしよっか? 許してないからね? 無しになってないからね? うやむやになんてなってないからね?」

女「いやいや、今ここじゃするなって言われたよね!?」

幼「ここじゃなければいいんでしょ? 私の部屋に行こ? 今両親いないし、いっぱい声出せるよ?」

女「いっ、いやいやっ……」

幼「私がいなかった三年間、何をしてたのか……ぜーんぶ、教えてもらうからね♪」

女「許してー!!」

おわりです、ありがとうございました。

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