高垣楓「夢見る人形」 (82)
――――春、大阪、ファッション、南船場、A/Wコレクションの終わり、ショーの終わり、華やかな終わり
<・・・やはりヴァンアッシュはディオールオムからの重圧に解放されたときの・・・
・・・むしろピラーティ時代のYSLのほうがソリッドな方向性を・・・>
<・・・今年もドメブラ勢は、奇抜なコートに個性を託しているだけね・・・
・・・記事としては上等なものができるんじゃない?適当に叩いておけば・・・>
<・・・その友だちが船場のほうにセレクトショップオープンしたんだけど・・・
・・・そのフラッグシップが青山にできたらしくて、東京の事務所の友だちも・・・>
<・・・つーか円安でハイブラ売れねーしホント刹那的業界っつか・・・
・・・このあとクラブいこうよー。薬?たぶんねーけど、まあさあ・・・>
<・・・今年だけで友だち一人コークで死んだし、一人は草で逮捕されたし・・・
・・・クラブの出会いとかないわー。セフレ目的ならありだけどさー・・・>
<・・・キメてからヤるのってマジやばいんでしょ?あ、あたしモヒートが・・・
・・・要するにみんな文明が悪いんだよ、一度オーガニックなピースの時代に・・・>
<・・・あのバンドマジクソ。聞いてるヤツもクソ。え?お前聞いてたの?冗談だから気に・・・
・・・あ、マルメンちょうだーい・・・>
<・・・パーティ行こうよ・・・
・・・こないだ京大で社長の息子つかまえてさ・・・>
<・・・ ・・・>
高垣楓(・・・私にはあわない・・・)
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楓(なんの考えも無しに和歌山を出た。なんの考えも無しに大阪の大学に通った)
楓(なんの考えも無しにスカウトされた私は、なんの考えも無しにモデルになった)
楓(・・・二十歳の頃だったかな)
楓(よく続けている・・・というか続いているのかしら・・・)
楓(・・・本当になんの考えも無しに、流されるままに生きているのよね・・・)
楓(けれど私は同時に、自分を我慢強いとも思う。温泉卵にも勝ったしね。ふふっ)
楓(これって矛盾、してるのかな・・・)
楓(この業界、修行かい?・・・ふふっ)
楓(・・・温泉行きたいな)
楓(想像してたのより少しだけ大きくなった体を・・・ちょっと癒してあげなくちゃ)
楓(私の体はもう高垣楓のモノではなくて・・・もっと大きな人たちのもの・・・)
楓(私がはじめて撮影のお仕事をしたとき、なんの考えも無しにとった表情が、カメラさんにとても怒られた)
楓(・・・だから私は、表情を浮かべるのをやめた)
楓(私がはじめてブランドのパーティーにお呼ばれしたとき、偉い社長さんにとても誉められて、とても嬉しくなった)
楓(私がなんの考えも無しに先輩にそのことを言うと、先輩は『そんなものは社交辞令よ』と言った)
楓(・・・だから私は、あまり喋らないことにした)
楓(なんの考えも無しに入った業界は、よくわからない専門用語が多すぎた)
楓(・・・そして先輩は専門用語を教えるのと同じ口調で、社交辞令にも、一攫千金を狙う山師の嘘にも、気をつけなさいと言った)
楓(なんの考えも無しに生きてきた私には、相手が嘘をついているかとか、どういう気持ちなのかがわからなかった)
楓(私自身は人を見るのが好きだったから、じっとその人を見ているのだけど、決まって相手は首をかしげる)
楓(・・・さすがにそれが、困惑の表れであることくらいは知識として知っていた)
楓(・・・だから私は、耳をそっと閉ざすことにした)
楓(・・・今日はカレーもいいな。ちょっと自由軒風に生卵を加えたりして・・・)
楓(我慢強い、か)
楓(・・・温泉卵は、私にはちょっと剥きづらい)
楓(生卵なら、どんな人でも簡単に壊してしまえる)
楓(何も見えない。何も聞こえない。何も歌えない。そんな雛たちが、どうしてあたたかい卵の殻を破ろうとするのかしら・・・)
楓(・・・私はそのままなんの考えも無しに大学を出て、言われるがままに、大阪にある今のモデル事務所に入った。どこかの関連会社らしい)
楓(・・・よくわらかないけどね)
楓(そして雑誌のお仕事やショーのお仕事をしたりして、一人暮らしができるくらいのお給料はもらった)
楓(そして、大好きな日本酒や温泉旅行ができるくらいにはいただいてるし、別になんの考えも無しにお仕事は続けていった)
楓(東京や福岡にもよく行ったな。ときどきは飛行機にのってゆらゆらと振られつつ海外にも行ったかしら)
楓(海外といえば、私には好きなモデルさんがいる。イギリスのツィギーという目の大きな女の子で、私にも負けないくらいのやせっぽちよ)
楓(・・・けれど彼女は50年前の女の子。写真の中にあるとてもとおい国にいつまでも住んでいる女の子)
楓(いや、まだ本人はご存命らしいけど、私には関係ないの・・・)
楓(ここは写真の中。ずっと笑いもしないで、泣きもしないで、喋りもせず、耳を閉ざして・・・)
楓(こんなのは私ではないのかも知れないけど。私にあった仕事ではないのかも知れないけど。それでもここはずっと写真の中)
楓(・・・だから私は人形になった)
楓(私は事務所のほうでもだいぶ年長になって、後輩も増えてきた。世話をする立場なのかもしれない。相談にのってあげる立場かもしれない)
楓(そんなこと、人形にはよくわからない)
楓(私になにか言ってくる男の人も増えた。後輩のBさんが騒いでいたから、なにやら、意味のあるらしいプレゼントもいただいた)
楓(でもごめんなさい。私は人形だから、あなたがなにを言っているのか本当にわからないの)
楓(だから私はみなさんに、何を意味するかわからないさよならを言って、そして私はさよならの意味を知らなかった)
楓(もうその人たちは、人形を見に来たりしない。見られなければ人形は・・・意味がないのに)
楓(わるい人形で、ごめんなさいね)
楓(でも、それなりに人形として時間が経った私は、カメラさんに言われたような表情をとることもできるようになった)
楓(・・・けれど、まるでそれはパーツをつけかえるかのようなことで、私はその表情の意味を知らない)
楓(だから私のとても意味のわからない、笑みを浮かべた写真が一枚があって。それが採用されることはなかった)
楓(そうして家に帰って、お酒を飲んで、バラエティー番組を見て、お風呂に入る。休日には温泉に行って、お酒を飲んで、バラエティー番組を見る)
楓(そういう時の私は、とてもふにゃふにゃになっている)
楓(そしてお仕事のある日には、すっと私はまっすぐなお人形となりにゆく)
楓(人形には服のことなんかよくわからない)
楓(着せ替えられているお洋服の中から、それでも私はたまに気に入るモノがある)
楓(そういう時はスタイリストさんに頼んで、買い取りでいただいている。自分の私服はもうそれだけね)
楓(人形には化粧のことなんかよくわからない)
楓(塗り替えられている時はメイクさんまかせだけれども、私もちょっとそれを見習ったりしてる)
楓(・・・それで、事務所と契約している化粧品を安く買ったり、試供品をもらうのだけど・・・それだけ)
楓(・・・50年前の女の子は、今でも立派に人形をしているけれど。私はずっと人形であることができるのかしら)
楓(・・・同じくらい昔に、人形が夢を見る歌がフランスにあったかしらね)
楓(人形が、夢を見てはいけないの?)
モデルB「おっすかえっち!まーたずーっとぼーっと考え事して、相変わらず変わった子だなあ」
モデルA「高垣さん。タチの悪い男もいますから、あんまりフラフラしていると危ないですからね。気をつけて下さい」
楓(・・・夢の終わり)
B「ショーも終わったのにさあ・・・たまにかえっちそういうモードはいるよね」
B「でも!今日のランウェイでのかえっち、ホントすごかったよ!さすがウチのエース!」
A「・・・高垣さんは私達の事務所の誇りです」
楓「ありがとうございます・・・。Aさんに、Bさん・・・」
B「もー!かえっちはあたしの自慢の先輩なんだから、もっと偉そうでもいいのに!ホントいい子だね!」
A「・・・なら後輩としてちゃんと敬語を使いなさいよ、B」
B「えー。だってそれは、かえっちだし。かえっちは友だちだもん!」
楓「あの・・・私のことで、ケンカをするのはやめて下さいね・・・?」
A「いや、これはBが・・・本当にごめんなさい」
B「ホントにかえっちは、その瞳で何を見てるんだろうねー・・・いっつも何を考えてるんだろう」
B「それを聞いたらかえっちってば、天然な言葉かえしてくるし・・・マジいい友だちもったなって!」
楓「ありがとうございます・・・?」
A「とにかく今日はもう解散ですから、早めにお気をつけてお帰り下さいね?高垣さん」
――――大阪市内、某所、スタジオ、桜咲く、お洒落なカフェつき
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
楓(いい友だちをもったな・・・)
(いい友だち、いいとも、笑っていいとも・・・ふふっ)
(笑ってるといえば、カメラさん唇かさかさだな)
(潤いが足りない人生かあ)
(きっとみんなが愛にうえてる)
(あいうえおかきくけこ)
(『柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺』)
(カキフライ食べたいな・・・)
(タルタルってなんなのかしら)
(タルタルしてるからなのかな?)
(でもカキフライって洋食だしな・・・)
(あれ、でもカキって和食じゃないのかな)
(日本酒飲みたいな・・・)
カメラマン(相変わらず、神秘的な人だなあ・・・)
(きっとボクなんかには想像も付かないことを考えているはず・・・)
記者「・・・さて、今回は我が誌が独占インタビューさせて頂くということで」
楓「よろしくお願いします」
記者「で、『神秘のクールビューティー』ともあだ名される高垣さんですが・・・」
楓「・・・そんなこと、ありませんよ」
記者「失礼ですが、神秘の源ともいわれるそのオッドアイ、カラコンなのですか?」
楓「いいえ。生まれつきですから・・・特にはなにも思いません」
記者「そうですか・・・美の秘訣などは何かありますか?」
楓「会社から言われていることを・・・そのまましているだけですね」
記者「はあ。・・・ふだんお召しになっているものは?」
楓「好きなものです。ブランドは特に知りません」
記者「なるほど・・・。モデルとして心がけていることって、なにかあります?」
楓「そうですね・・・。私って、モデル向いてないんじゃないかなって思います」
――――大阪、桜満開、堀江、ヘアサロン
美容師「ですからー。いや、ほんまに楓さんって面白い・・・」
楓(ここは・・・私が大学時代にスカウトされた時から通っている美容室)
楓(事務所と契約しているから、すごく安く切ってもらえるの)
楓(最初に来た時は、なんの考えもなく『おまかせ』にして・・・)
楓(仮にもモデルがそれでは困ると言うから、ヘアカタログの中から適当に選んだ)
楓(そしてそれが・・・いまでも私の髪型。手入れもしやすいしかわいいし、とても気に入っているのね)
楓(だから美容師さんもその時と一緒。私は彼をとてもいい人だと思ってるの)
楓(マットグリーンとかアッシュグレーとか、よくわからないことを最初は言ってきて、私はとりあえず『うん』と言うのだけど)
楓(無口な私にも積極的に話しかけてくれて、笑わせようとしてくれる。とてもいい人だ)
楓(あっ、また面白いこといった)フフッ
美容師(え?今笑いどころちゃうやん?)?
楓(あれっ、なんで不満そうなんだろう。面白くて笑っちゃったのに)プクー
美容師(あ、かわええ・・・)
――――大阪、市内、モデル事務所、桜散る
楓(さて・・・お手洗いが済んだら、ちょっとおやつを買いに行こうかな)
楓(あれ・・・お手洗いの中から、AさんとBさんの声がする・・・)
楓(・・・ちょっと聞き耳立ててみようかな・・・なんかスパイみたいで楽しい)フフッ
――
A『ねえ、今週のアレ読んだ?高垣さんのヤツ』
B『かえっちのー?独占インタビューとグラビアでしょ?読んだよ?』
A『あれはさすがに・・・調子に乗り過ぎだと思わない?』
B『あははっ、ちょっとナマイキだったかもねー』
A『ちょっとクールで売れてるからって・・・頭おかしいんじゃないの?』
B『あははっ、ぶっちゃけかえっちのクールキャラって、ぶっちゃけ作ってるからねー』
――
楓(!?)
タッタッタ
楓(あの二人の後輩は・・・信用してたのに)
タッタッタ
楓(Bさんは私を、友だちだなんていってくれたのに)
タッタッタ
楓(それを、陰口だなんて・・・)
タッタッタ
楓(私が思ってた本当は、私のいないところでは嘘で)
タッタッタ
楓(私が言った本当は、私がいないところでは嘘で)
タッタッタ
楓(確かに私は人に何かを伝えるのは苦手だけど・・・そんな・・・)
タッタッタ
楓(そんなの、人形の・・・私の心が耐えられない)
タッタッタ
ガチャ
楓「・・・社長、お話が」
楓「あの・・・もう私・・・モデルは向いてないと思うんです」
社長「・・・ほう?」
楓「だから、その、モデルはもういいかなと。・・・潮時だなと思うんです」
社長「・・・それで?」
楓「私・・・今の環境から、・・・着せ替え人形から変わりたくて・・・」
社長「ふむ」
楓「ですので、モデルをやめましてですね」
社長「・・・その後は?」
楓「えっと、事務所を・・・その・・・辞めてですね」
社長「ちょうどよかった!」
楓「!?」
社長「今、業界全体を上げてのアイドル発掘プロジェクトが進行しているのは知ってるかね?」
楓「・・・はあ」
社長「ウチの本体の事務所も、それに参入していて・・・我が事務所からも、誰かを転籍させようという話になっていたのだよ」
社長「だが・・・あまりモデルからアイドルに転身しようとする子はいないだろうから、選考が難航していてね・・・」
楓「・・・どういうことでしょう?」
社長「高垣くん、つまりはもうきみがモデルとして自己表現出来ることはない、ということだろう?」
楓「はい。そうですが・・・」
社長「うむ。さすがは我が事務所のクールなトップモデルらしい発言だ。」
社長「そして環境を変えたい・・・モデルを辞めて、着せ替え人形から生まれ変わって・・・新たな自己表現をしたいのだろう?」
楓「・・・へ?」
社長「よし決めた!君が我が社からモデルに転身する第一号だ!君はモデルとしての地位も確立しているし、話題性は抜群だ」
社長「なに、心配はいらない。普通事務所を移籍すると活動するまでに半年かかるのが通例だが、今回は関連会社への出向だからな」
社長「むしろ・・・君のような事務所トップの人材を提供することによって、さらなる厚遇が本社から得られるだろう!」
楓「え、すいません、あの・・・」
社長「・・・どうしたのかね?」
楓「いえ、なんでもありません・・・」
楓(こうして、人形であることに限界を感じて)
楓(本当と嘘の違いがわからずに苦労して)
楓(人に自分の意志を伝えるのが下手だった私は)
楓(・・・以上三つの理由によってですね。アイドル、つまり・・・)
楓(より豪勢で華美な人形に、なってしまうようなのです・・・)
その1おわり
トライアドのPの説教は臭かったけど今回のPも説教臭くなるのかな?
――――大阪市内、深緑、新緑、高垣家、眠りの前で
楓(あのあとはまるであらかじめ仕組まれていたかのように、トントン拍子に話が進んでいった)
楓(そうよね。社長は準備していた、なんて言っていたもの)
楓(その歯車を私が止める術はもう、なかった)
楓(東京で私が住む家まで用意されていて・・・)
楓(いよいよ明日は事務所主催の送別会らしい)
楓(・・・まあ今にして思えばね)
楓(あの場の勢いでモデルを辞めてしまっていても、その後のあてはなかったと思う)
楓(この年で再就職は難しいし。今更和歌山に帰るのも視線が痛いし)
楓(・・・これが現実か・・・)
楓(だからって、アイドルになるのもどうなのかな)
楓(私は人並みの幸せが欲しいだけなのに)
楓(まあいいや、もうなるようにしかならない)
楓(今日はもう寝よう。夢の中に帰ろう・・・)
――
――――大阪市内、事務所近くのシダックス、新緑、けばけばしい店内
社長「これより、我が事務所の誇り・高垣楓くんがアイドルへ華麗なる転身を遂げることを祝して」
社長「ささやかながら、ここに祝宴を執り行いたいと思う」
B「しゃちょー!カラオケじゃホントにささやかすぎるよー!」
社長「・・・こほん。ではみんな、大いに盛り上がっていこう!」
一同「おーーーー!!!!!」
楓「・・・いいのかしら」
B「そうだよー!今日はかえっちが主役なんだから全然遠慮することないってー!」
楓(・・・)
社長「そうだねBくん。今日は高垣くんの今後の幸せを願って集まった会なのだから、何も遠慮することはない」
楓(・・・幸せ、か)
社長「今日はわたしのおごりだ!高垣くんは食べたいものをじゃんじゃん頼みたまえ!」
楓「・・・わかりました。じゃあ日本酒を一献、熱燗で」
一同「てんやわんやてんやわんや」
楓「・・・なんか私をそっちのけにして、みんなで勝手に盛り上がってる気がします・・・」
B「あはは、関西人のノリだからねー。そりゃしょうがないよ」
B「・・・でもかえっちにこんな夢があったって意外だな。正直ホントビックリしてるし」
楓(・・・)
B「Aちゃんなんか未だに困惑してるみたいだしね・・・あ、そだ。はい、マイク」
楓「・・・え?」
B「今日はかえっちが主役で、ここはカラオケだよ?」
B「あたしもかえっちとは友だちだけど、歌は聴いたことなかったし。是非とも聞いてみたいなーなんて!」
楓(・・・)
楓「わかりましたよ、Bさん。・・・歌ってみますね」
~♪~
楓(人前で歌うのなんて、中学校の合唱コンクール以来なのだけど・・・)
演奏停止 ピッ
一同「シーン」
楓(これはどうなのかしら・・・?)
一同「ウッ・・・」
一同「ウオーーーーーーーー!!!!!!」
B「かえっちホント歌うまかったんだね!マジびっくりした!」
楓(・・・本当?・・・私にはそんなことわからないから・・・)
B「こんな武器持ってるなら、アイドルになるのもマジ納得だよ!」
B「・・・これからどうなるんだろうね?やっぱクールアイドル系で行くのかな」
楓「それは、まだ・・・」
楓(『クールキャラ、作ってるから』だっけ)
楓(・・・きっとそうなんだろう。この事務所でもそうだったし)
楓(次の人形屋さんでも、それはきっとおなじ)
――
「楓先輩!アイドルになっても頑張って下さい!私応援してます!」
楓「・・・ありがとうございます」
美容師「頑張ってな、楓さん。俺もいつか東京に出る野望、叶えてみせますわ。その時は同じ東京で・・・」
楓「・・・ありがとうございます」
社長「我々としてもできるだけの援助はする。アイドルとして頑張ってくれたまえ」
楓「・・・ありがとうございます」
A「高垣さん。今までモデルとしてお世話になりました。それでは」
楓「・・・え?」
B「あはっ、Aちゃんはプロモデルという職業に誇りを持ってる子だからねー」
B「・・・それでかえっちのことも尊敬してたんだし、ああいう態度になるのもしょうがないかも・・・」
楓(・・・)
B「それでも!あたしはかえっちを応援するから!ずっと応援するから!」
B「・・・今更生活を捨てて夢を追うなんて私にはできっこないよ。だからマジ尊敬する!」
B「なにがあっても、あたしはかえっちの味方だから!離れていても、それは変わらないから!」
B「絶対CDも買うよ!ライブだって行く!なんだったら東京にだって行くよ!」
B「信じて!かえっちはあたしの、本当の、本物の、一生の友だちだからね!」
楓「・・・・・・ありがとうございます、ね」
――――はつ夏、前、東京、渋谷、CGプロ
楓「高垣楓です…、私、自己紹介とかってあまり、得意じゃなくて・・・こんな時、何を話せばいいのか・・・」
楓「あの、頑張りますのでプロデュースよろしくお願いします」
モバP「あ、はい。よろしくお願いします。あの、僕も新入りなんで、その・・・」
楓「・・・」
P「・・・」
楓「・・・」
P「・・・」
楓「・・・喋りましょうよ」
P「すみません。僕、口べたなもので・・・」
楓(ふふっ。面白そうな人)ジッ
楓(・・・あ、新人さんだからかな。寝癖付いてる。かわいいな)ニコッ
P「・・・あ、思いつきました。宣材写真を撮りに行きましょう」
楓「モデル時代のじゃダメなんですか、プロデューサー?」
P「・・・心機一転ってヤツです。スタジオも衣装もこのビル内にあるので、早速・・・」
――
楓「こんな・・・アイドルって感じの衣装で撮るんですか?」
P「・・・すいません。高垣さんの身長に合うあり合わせのモノが、これくらいしか・・・」
P「ご不満でしたらもう一度探してきましょうか?」
楓「・・・いいです。私も緑色、好きですから」ムゥー・・・
P「・・・いや、これで行きましょう。絶対これで行きましょう」
楓「でもちょっと、年相応の衣装じゃないかも知れませんが・・・」クビカシゲ
P「いいんです・・・これくらいしたほうが、アイドルとしての実感も湧きやすいでしょうし」
P「・・・それに、モデルではないアイドルとしての新しい高垣楓の宣材としては・・・ぴったりで」
P「・・・インパクトもあるんじゃないかと・・・・・・高垣さんご本人としても」
楓(『かえっち』『高垣さん』・・・)
楓「・・・ごめんなさい。高垣さんって呼ぶの辞めて下さい。なんか、いやなんです」
P「・・・わかりました、楓さん」
P「あなたのそういう感情は・・・絶対に尊重したいと思うので」
楓「・・・?」
P「では、この小道具も携えて・・・すいませーん!楓さん入られまーす!」
P「・・・お疲れ様でした、楓さん。さすがですね」
楓「ふふっ、慣れたものです」
P「・・・あなたはアイドルなんですよ」
P「・・・では、パソコンのモニター前に来て下さい」
楓「写真のチェックですね。知ってますよ」
――
P「・・・この一枚、どうしたんですか?」
楓「・・・あ、それはちょっと・・・私のミスで・・・」
P「どうしたんですか?この一枚だけ、すこし笑っていて・・・」
楓「感情と表情をコントロールできなくて・・・あの」
楓「笑わないって、約束してくれますか?」
P「・・・はい」
楓「・・・このステッキ、とても素敵・・・だと思ったんです」
P「・・・」
楓「・・・」
P「あの・・・」
楓「・・・はい?」プクー
P「・・・笑わなくて、いいんですか?」
楓「・・・え?」
P「いや、だって・・・シャレでしょう?」
楓「・・・そうですけど、そんなことで表情をコントロールできないなんて・・・」
P「いいんです・・・そういうの、どんどん出していきましょう」
P「先ほども言いましたが、楓さんの感情はなるべく尊重していきたいんです」
P「シャレは人を笑わせるためのモノ・・・楓さんのその気持ちに笑ったら、いけませんかね?」
楓「ふふっ、ありがとうございます・・・でもこの写真はボツですよね?」
P「・・・いいえ、これを採用します」
楓「えっ・・・どういうことですか」
楓「仮にも元モデルとして・・・この写真には満足出来ていません」
楓「表情をコントロールできずに・・・なにか納得のいく説明が欲しいです」
P「先ほども言いましたが・・・あなたはアイドルなんです。もう、モデルではなく」
P「僕は思うんです・・・アイドルって」
P「顔でも表情でもスタイルでもなく、アイドルが・・・本人がアイドルの主役なんじゃないかなと」
P「見たところ・・・『ナマ』のあなたが出ている写真・・・」
P「・・・いわば楓さんが漏れている写真は、これ一枚しかなかったんです」
P「そういう・・・プロデューサー判断です」
楓「・・・わかりました、プロデューサー」ニコッ
――――レッスン室
P「・・・次は、歌のチェックです。この課題曲を歌っていただけますか?」
楓「・・・わかりました」
~♪~
P「・・・素晴らしいです。あなたには天性の才能があります」
P「でも今度は・・・さっきのその、感情と表情のコントロール・・・」
P「それを意識して、もう一度歌って頂けますか?」
楓「・・・はい」
~♪~
P「・・・完璧です。もう言うことはないでしょう。次はダンスのレッスンですが・・・」
楓(ダンスか。人形は動くことはないから、踊れない)
楓(でも動ける人形、踊る人形もいる。けれど・・・踊る人形が踊っていない時、踊る人形を見る人はいない)
P「やっぱり、あんまり慣れていませんね・・・」
楓「ごめんなさい。運動自体が不得手で・・・」
P「いや、大丈夫です。最低限のものにしますから・・・それに」
P「アイドルですから、楽しそうに踊ってくれれば一番です」
楓「わかりました・・・やってみます」
P「あ、いや・・・楓さんだったら『楽しそう』に踊るのは簡単だと思います」
P「そうじゃなくて・・・さっきみたいに、ダジャレを考えたり、面白いことを考えたりして・・・」
P「実際に楽しくなりながら、楽しいことを考えながら・・・歌って踊ってみて下さい」
楓「・・・プロデューサー、あなた、さっきの歌の時と矛盾していませんか?」
P「いいんです。人の心はめちゃくちゃですから・・・それに」
P「・・・アイドル高垣楓が漏れ出ている方が、やっぱりいいと思うんです」
P「結局、歌うのも踊るのも楓さんですから・・・」
楓「・・・そうですか。じゃあさっきのじゃやっぱりだめなんですね」シューン
P「いやそうじゃなくて・・・今みたいな感じです。もう一度やってみましょう」
――――はつ夏、東京、あいさつ回り
P「・・・最近だいぶ、楓さんもらしさが出てきましたね」
楓「はい。最近ようやく慣れてきたというか・・・開き直れたというか・・・」
P「ははっ、それでいいんです。でも営業ははじめてですよね。緊張しますか?」
楓「・・・当たり前じゃないですか。こんなのはじめてなんですよ?」
楓「最近あなた、私の感情を出すことにつけこんで・・・」
楓「私をからかうのが趣味になってませんか?プロデューサー」プクー
P「いやいや、そんなことないですって・・・」
楓「私一応、あなたより年上なんですよ?めっ」
P「あいたっ、すみません・・・」
P「ま、頑張りましょう・・・デビュー曲を出せるか出せないかの、だいじな営業ですから・・・」
――
楓「うぅ・・・」シューン
P「どうしました?」
楓「私ってやっぱり、東京では無名の女にすぎなかったんだなって」ショボーン
P「はは・・・分野、領域が違いますからね・・・仕方ないでしょう」
P「でも・・・どうやらこれで新曲はちゃんと出せそうですね」
楓「本当ですか!?」パァァァァ
P「本当ですか?って・・・気付かなかったんですか?完全に言下にそうやって仄めかしていたじゃないですか・・・」
楓「ごめんなさい。・・・私、人の嘘とか本当とか、そういうのを判断するのが苦手で・・・」
P「・・・そうでしたね」
楓「・・・プロデューサーの言葉は、信頼しても大丈夫なんですか?」
P「僕はまあ、無口ですからね・・・嘘を言う暇なんてありません」
P「本当のことくらいしか、しゃべれないだけなんですよ・・・」
楓「・・・そういうものかしら」
P「楓さんも無口な方ですから・・・だから、本当の感情が武器になるんです」
楓「・・・正直者って、無口な人に向くちから、なんですね?ふふっ」
P「ええ、僕もそう思いますよ」マガオ
楓「むぅ・・・まったく、プロデューサーは・・・」
楓「きみはほんとに・・・意地悪なひとですっ」プイッ
――――新曲、レコーディング、東京、スタジオ、終了、カラオケ用宣材映像撮影、梅雨前線
楓「私のデビューシングル、『こいかぜ』、是非お買い求め下さいね」
ナレーション「――高い歌唱力を誇るクールビューティー・高垣楓さん。その魅力とは?」
楓「魅力?自己紹介ってことでいいですかね・・・そうですね。出身は梅とラーメンでおなじみの和歌山県です」
楓「和歌山は素敵なところですから、是非いちど遊びに来て下さいね。それと・・・」
楓「血液型はAB型で、好きな食べ物はエビです」
監督「カーット!」
監督「だめですよこれじゃあ。せっかくのクールビューティーな見た目から・・・」
P「いや・・・ごめんなさい。このカットを採用でお願いします」
監督「・・・でももっと、そのミステリアスな魅力を引き出すような」
P「いいんです。ミステリアス成分は見た目でもう十分ですよ」
P「・・・今のはそうではない、『らしさ』が出まくってましたから」
P「・・・プロデューサー権限で、これを採用します」
楓「・・・今の撮影は、なんだったんですか?」
P「・・・カラオケで曲間にかかる、アーティストの宣伝映像ですよ。見たことありません?」
P「しばらくだれも歌わないでいると、新人ミュージシャンが自己PRしたりする・・・」
楓「・・・ごめんなさい。私はきみと違って、あまりカラオケに行ったことがありませんから・・・」
P「・・・そうですか。では事務所のほかの子でも誘ってあげて下さい。きっと大喜びですよ」
楓「・・・で、それだけの映像なんですか?」
P「いや、せっかくですし、テレビやラジオの各局にも、プロモーション映像として送ろうかなと・・・」
楓「なるほど。『カウントダウンTVをご覧の皆様、はじめまして。高垣楓です』ってことですね」ドヤッ
P「いや、アレはあっちからオファーが来るものですから・・・。・・・というか楓さんの好物って、本当にエビでしたっけ?」
楓「あ、そうだ!今日は一発OKだったんですから、ご褒美として焼き鳥食べにいきましょうよ!銀杏・枝豆、今から楽しみだなぁ・・・」キラキラ
P「まったく、この人は・・・」
――――中野サンプラザ、デビューライブ、盛夏、熱狂、終了
P「お疲れ様です、楓さん」
楓「・・・私、未だに実感がちょっと湧いていません。こんなにも早く、こんなにも大勢の人たちが・・・」
P「・・・そうですね。こいかぜも初登場5位、スマッシュヒットして。こんなに早く、こんなにも大きな箱でやれるなんて・・・」
楓「・・・嘘みたいです。信じられません」
P「僕は最初から、楓さんを信じていましたよ。言ったでしょう?あなたには天性があると・・・」
楓「・・・じゃあ私も、きみを信じていましたよ。プロデューサー。ふふっ」
P「じゃあ、って・・・」
楓「私、決めました・・・今・・・私、必ずトップアイドルになります」
P「今、ですか・・・」
楓「今です。・・・私は、大勢の前で歌って踊るのがこんなに楽しいだなんて、思ってもみませんでした」
楓「私は今、とても自由で・・・本当にとても楽しいんです」
P「・・・モデルをしていた時だって、同じような経験はあったでしょう」
楓「いいえ・・・昔の私じゃ・・・考えられない・・・」
楓「ただただ着せ替えられて塗り替えられるだけ。そんなモデルの頃とは大違いです」
P「そんな・・・そこまで否定しなくても・・・」
楓「・・・深い意味はありません。・・・ただただアイドルが楽しい、ということです」
楓「私って・・・とっても負けず嫌いなんです・・・本当は、モデルの頃から・・・」
楓「改めて今、それを自覚しました・・・」
P「そうですか・・・。じゃあ僕も、その夢を応援しますよ」
楓「夢ですか・・・。ふふっ。じゃあプロデューサーも、かならずそこにいて下さいね?」
楓「きみがあっての私です。ここまで一緒にのぼってきて、夢を見させてくれたのも、プロデューサーです」
楓「有名になる夢、叶えましょうね?ふふっ」
P「そこでもダジャレですか・・・まあ、らしいですけど・・・」
P「・・・あなたの感情を尊重するといいました。」
P「僕もその夢、同じです。絶対に叶えさせてみせますよ」
楓「そこでなんですが・・・プロデューサー、ひとつワガママがあるんです」
P「なんですか・・・なるべくいつも聞いているつもりですが」
楓「いつもそんなつもりで接してたんですか?まったく・・・」プクー
楓「そうじゃなくって!・・・私もひとの夢を引きあげたい、そんな風に思ったんです」
楓「これは少し前から・・・思ってて・・・調べてもいたんですが・・・」
P「と、言いますと?」
楓「ひと月半に一回、私が大阪に帰ってるのご存じですよね?プロデューサー」
P「ああ、髪型を維持するために、とかいう・・・」
楓「そうです。でもアレなかなか大変なんですよ。だから・・・」
P「・・・だから?」
楓「・・・その美容師さんを東京に連れてきてもいいですか?CGプロのお力で」
――――西へ、堀江、大阪、盛夏、ヘアサロン、閑散
『Bだよー!
今日かえっちが東京でライブやってるの知ってる?行かないの?』
美容師「ったく、仕事あんのに行けるわけないやろ」
美容師「自分らみたいな自由業じゃあるまいし、と。送信」ピッ
美容師「ん?知らんアドレスからメール・・・」
『件名:高垣楓です
お久しぶりです。Bさんからしばらく前にアドレスはうかがっていたのですが、なかなかメールを送る機会がありませんでした。
今ライブ終わりの楽屋です。いらっしゃってくれましたか?』
美容師「だから行けるわけないって・・・。ま、Bの名前出しとるし、いたずらメールではなさそうやな・・・」
『本題に入ります。・・・私を頼って、東京に来ませんか?野望、だとおっしゃってましたもんね?
・・・幸い同じ系列店が東京にもあるそうですし。・・・事務所と提携してるのも同じですから、私のプロダクションの力でどうにかなると思います。
なによりも・・・プロデューサーが、約束してくれましたし。・・・私の夢は、少し叶いましたから。』
美容師「・・・専属美容師を地元から呼び出すって、アーセナルに来た時のアルシャーヴィンかい」
美容師「・・・でも人気急上昇中の高垣楓の専属美容師!これは名前を売るチャンス!」
美容師「そして東京進出して・・・独立して・・・一攫千金のチャンスや!」
美容師「・・・あんまりがっつくのもアレやな、了解とだけ返事しとこ」
美容師「・・・ん?今度はBからメール・・・」
『えー、せっかく楽しかったし!かえっちにも会えるチャンスなのに!』
――――東へ、東京へ、中野サンプラザに戻って
楓「・・・了解、とだけ来ました」
P「静かな闘志を燃やすタイプなんですね。・・・なるほど楓さんとは合いそうですね」
楓「・・・そーゆー関係じゃありませんっ」プイッ
楓「というかいつもは饒舌なひとなんですけどね、メールだと変わるんでしょうか・・・」
P「そういうタイプの方もいますね・・・」
楓「あれ、Bさんからメールだ・・・」
P「Bさん?」
楓「モデル時代の・・・知り合いです」
『差出人:Bさん
件名:きたよー!
やっほー!約束通り東京までライブ見に来たよー!
てゆーか久しぶりにかえっちの顔間近で見たいし、楽屋に招待してもらってもいい?』
楓(・・・どういう魂胆なのかしら、・・・芸能関係者に接触して、そのお金を・・・)
『・・・それとね、Aちゃんも来てるんだよ』
楓「・・・プロデューサー。楽屋に呼んでも構いませんか?」
B「かえっちー!ひさしぶりー!」
楓「・・・お久しぶりです。Bさん」
P「・・・とてもじゃないけど楓さんより年上には見えませんけど・・・」
B「・・・あなたは?」
P「あ、CGプロのPと申します。高垣楓のプロデューサーをしているものです」
B「へー、こちらこそかえっちがお世話になってます」
P「こちらこそ・・・?」
A「あの、高垣さん・・・」
楓「どうしました?Aさん・・・お久しぶりで」
A「やはり私は、モデルという職業に誇りを持っています。・・・そこで頂点を極めたいとも思っています」
A「過日は、失礼な態度をとって申し訳ありませんでした。・・・やはり、あなたは私の尊敬するお方にかわりはありません」
A「今日のライブ、感動しました・・・。それでは私は、忙しいので」
楓「あ、さようなら・・・?」
P「一方的にまくし立てていきましたね・・・」
B「ねーねー、Aちゃんの公認ももらったし、ふたりでごはん食べに行かない?」
楓「・・・公認?」
――――中野周辺、夜深く、中華系居酒屋、個室
B「わー!あたし完全個室の居酒屋ってはじめてー!」
楓「私も立場がありますからね・・・何か話があるんですか?」
B「いやーかえっちはやっぱりあたしの見込んだ通りの逸材だったよ!あたしがファン第一号だからね!」
楓「ありがとうございます・・・。それで・・・?」
B「かえっちは・・・子どもだからさ。Aちゃんの名前を出せば、すぐに入れてくれると思ったんだ」
楓「・・・どういうことですか?」
B「・・・あの送別会で、Aちゃんがあんな風に帰っちゃった時、なんでもないみたいな顔してたけど・・・」
B「あたしにはわかるんだ。かえっちが感情のおさえた時の顔。あれは、『納得いかない』って感情を抑えてた顔だった」
B「『どうしてそんなこというの、説明してよ?』って顔。・・・それが向けられてたの」
B「・・・あたしにもだけど」
楓「・・・!?」
B「あたしはファン第一号って言ったでしょ?なぜかってかえっち、あたしより年上なのにすっごく純粋な子どもなんだもん」
B「でも、あたしがはいってきたときからかえっちは自分の感情をいつも抑えこもうとしてた・・・」
B「だからせめてあたしが友だちになって、素直なかわいい表情を取り戻そうと思ったんだよ?・・・あたしには無理だったみただけど」
楓「そうですか・・・」
B「かえっちは素直すぎる。Aちゃんは素直じゃなさすぎる。お互いのことに納得出来なかったら、知りたくなるのは当然のこと・・・」
B「だからAちゃんはここまでやってきて、かえっちはあたしたちを楽屋に入れてくれた」
B「Aちゃん素直じゃないし、モデル忙しいからすぐに帰っちゃったけど・・・あたしはひまだからさ」
楓「・・・そうなんですか。Bさんは私をよく見てたんですね、私がクールな女じゃないってこと・・・」
B「そ。結局かえっちも関西人だしねー・・・。で。本題なんだけど」
楓「・・・なんですか?」
B「あたしも、かえっちと同じで今から夢を追ってみる。モデルを辞めてタレントになる」
楓「・・・どうしてですか?」
B「あたし、今のままじゃ元気だけがとりえの暇なモデルだからねー。かえっちを見てたら、このまま終わるのはイヤだ・・・」
B「かえっちはもう夢をほとんどつかみかけてて、今日それがいっそう確信にかわったんだよ?だってかえっちのアイドルは天職だもん」
B「あのAちゃんまで素直に感動してたし・・・。そしてAちゃんに、あたしのこの夢を納得してもらうのが連れてきたもうひとつの理由」
B「Aちゃんはかえっちのことを認めた。だからあたしの夢も認める。これがさっきの『公認』ね」
楓「そうなんですか・・・ありがとうございます。でもやはり、どうして・・・」
B「だってあたしにAちゃんと同じ目を向けてたでしょ!」
B「なにが原因は知らない。友だち面や理解者面がいやなのか、なにか苦々しいことがあったのかとか知らない」
B「・・・でも純粋なかえっちが、傷ついてた顔してたのは事実だった!あたしはそれがいや!」
B「・・・だからかえっちと同じ夢を追って、同じ立場になって、・・・ちゃんと友だちになって、それでちゃんと謝る」
B「あたしはかえっちがすっごく輝くのをみて、そう決めたの」
楓「・・・そう。ありがとう、Bちゃん。いまの・・・すっごく嬉しい」
B「!?」
楓「・・・だってBちゃんにはもう、私がいろいろ我慢してたの知ってたんでしょう?」
楓「それで大きな夢を持って、私と同じ立場になろうとするんでしょう?」
B「そうだね・・・。もう隠し事はだめだよ?純粋なおこちゃまかえっちの考えなんて、あたしにはお見通しなんだから」
楓「・・・でもBちゃんは、結局私がどうして傷ついたのか知らないでしょ?」
B「・・・うん。ごめんね」
楓「私が傷ついたのは・・・私のインタビュー記事で、AさんとBちゃんが私の陰口を言ってたからなんだよ?」
B「・・・えっ」
楓「『調子に乗りすぎ』『ナマイキ』『頭おかしい』『キャラ作ってる』・・・そういうことを言ってたの、覚えてない?」
B「・・・覚えてる。ごめん。でも聞いて?」
B「あたしもすっごい悪いけど・・・原因はAちゃんの負けず嫌いと、かえっちの素直さなんだよ?」
楓「・・・どういうこと?私はとても傷ついたんだけど・・・」
B「かえっちは子どもで純粋だからさ。インタビューの質問にすごく正直に答えてた。」
B「・・・でもそんな拍子抜けするぶっきらぼうな答え方じゃ、読者は満足しないし生意気にも見られちゃう」
B「プロのモデルなんだから、いかなる時も自分を飾り立てないといけない・・・これがAちゃんの考え方だね」
B「でもAちゃんはそれがクールなキャラを『気取ってる』からだと思ってた」
B「あたしはそれを『作ってる』って言ったけど・・・それは似てるようで全然違う意味」
B「かえっちは聞いてなかったと思うけどね、あたしはその後Aちゃんにちゃんと説明したの」
B「かえっちはすごく純粋ですごく正直に質問に答えてるだけ」
B「クールに見えるのは、純粋さのせいで傷つきやすくて・・・自分を押さえ込んでるからだって」
楓「そう。そうなのね。ちゃんと最後まで聞いてればよかったわ・・・」
B「・・・ちゃんと最後まで聞いてたら、かえっちはモデル続けてた?」
楓「・・・そうだと思うわ」
B「じゃあ、・・・結局アイドルは夢じゃなかったの?」
楓「そうなるわね。でも今は違う。私の今の夢はトップアイドルになること」
楓「もう今更後戻りなんかできない。私は自分の楽しさがアイドルにあるって確信したの」
楓「・・・モデルは向いてないって最初から思ってたから、いつかは中途半端な時にやめてたわよ・・・」
B「そう。じゃあよかった。あたしも純粋に売れっこタレントの夢を目指すね」
楓「うん。そうして・・・同じモデル出身で夢を追うもの同士、頑張りましょう?」
B「うん。でもかえっちさ・・・ひとつだけ。女友だち同士の陰口を真に受けてたら、いつかどうにかなっちゃうよ?」
楓「ええ。それはわかってるけど・・・いざ聞いてしまうと、どうしても傷ついてしまうの。・・・あのときも、もう壊れそうだったし」
B「だから聞いて。あたしは思うの。女の子は外では顔で嘘をついて、内では口で嘘をつく生き物なんだよ?」
B「あの素直じゃないAちゃんも本心はぜったい違うところにあるから・・・いつか許してあげてね?」
――――東京、秋、お台場、CX、いわゆるフジテレビ、バラエティー番組、収録現場
P「楓さんは・・・まあいつものキャラが受けてるんですから、リラックスして下さいね」
楓「ふふっ。大丈夫です。私は素直な子どもですから」
P「たしかに、ネットでは『25歳児』なんて呼ばれてますけど・・・くれぐれも粗相がないようにお願いしますね」
楓「本当の子ども扱いしないで下さいっ」プクー
P「ま、いつもどおり、訳のわからないタイミングで訳のわからない笑いをして、訳のわからないつっこみをいれたり」
P「・・・文脈になんの関係もないダジャレをぶっこんでおけば、あとは周りのプロの芸人さんたちがうまく拾ってくれますから・・・」
楓「プロデューサー。きみはいつの間にか、すっごく私に遠慮がなくなっていますよ?」
P「いえ・・・そんなこと・・・」
楓「遠慮と燃料がなくなってしまうと、落ちていってしまうだけですからね?ふふっ」
P「いつも通りでなによりです。・・・それでは頑張って下さい、全国レギュラーの第一回なんですから・・・」
楓「はい、飛行機楓号、行ってきます・・・プロデューサー」
P「・・・まあ本当の子どもではないけど・・・予想もしない・・・いろんな方向に伸びていったものだなあ・・・」
――――秋深し、東京某所、スタジオで
楓「今回のグラビアのテーマは・・・とらわれのお姫様なんですか?」
P「そうです・・・楓さんのルックスはやはりとても神秘的ですからね。ぴったりのシチュエーションでしょう」
P「・・・僕がない知恵を絞って考え出したシチュエーションです」
楓「この鳥たちも・・・とらわれたものの現れ・・・ですかね?」
P「・・・そうですね。そしてそれらを写すカメラ・・・つまり我々の視点はいわば」
P「そのとらわれのお姫様を解放しに来た王子様、ってところなわけです」
楓「ふふっ・・・。この仕事、なんだかわーくわくしてきました・・・」
P「何度目ですか、そのダジャレは・・・」
楓「この仕事のあとは・・・秋の露天風呂ロケ・・・紅葉の楽しみ方はこうよ・・・」
P「はあ・・・もうめちゃくちゃだ・・・はやく神秘のお姫様に戻ってくださいよ・・・」
楓「神秘・・・私ってまだやはり、何かを秘めているんですか?」
P「そんなの・・・僕に聞かれてもわかりません・・・」
楓「それとも私が・・・何かに秘められているんですか?」
P「あなたをつつむベールが・・・まだ存在すると?」
楓「いいえ・・・私はもう何かを秘める必要も、秘められる必要もありません」
楓「私が作っていたすべての殻を破ったのは・・・プロデューサー、きみなんですよ?」
P「・・・僕は・・・あなたがあなたの感情に自信を持てるよう・・・すこしお手伝いをしただけです」
楓「私・・・こういう写真はモデルの頃にもよく撮られていたんです・・・」
楓「けれどそれは・・・籠の中に鳥を収めて満足するような・・・カメラマンさんの作品でしかなかった」
楓「私は・・・その舞台装置にすぎなかったんですよ?ずっと・・・この鳥たちのように・・・」
P「・・・そうですか」
楓「けれど今回・・・プロデューサーが決めたのは・・・写真の向こうのきみが私を解放する・・・」
楓「そして写真の中から自由になる・・・そんなシチュエーションです」
楓「私のことを子ども扱いして・・・まだきみは、私を助け出したいんですか?」
P「・・・たしかまだなんとなく、ぬぐい去れてない過去があったような・・・そんな気がして・・・」
楓「大丈夫です。とらわれの姫はもう、過去から飛びだったんです」
楓「そして何も知らない、自由になった私に・・・新しいことを教えて下さい」
P「・・・わかりましたよ・・・」
楓「私はそれをすぐに学んで・・・素直に人に伝えますから」
楓「鳥たちが安全な殻を破るのは・・・好きなところで好きな姿で、好きなように歌いたいからだと思います」
P「・・・了解です・・・でも僕は、楓さんをなるべく守るつもりですよ?」
楓「ふふっ。王子様、だからですか?・・・っていうかプロデューサー」
P「・・・なんでしょうか?」
楓「このスカート、あしもとがすかすかっとしますね」ブルブル
P「たしかに話し込んでたら寒いですよね!はやく撮影しましょう!」
楓「この衣装、胸元がキャベツみたいで・・・鳥・・・焼き鳥食べたい・・・」
P「・・・ああ・・・また雰囲気が・・・」
――――冬、全国ツアー途中、大阪城ホール、ライブ終了
P「・・・見事な凱旋でしたね」
楓「・・・ええ、嬉しい限りです」
P「やはり大阪は・・・思い出深いですか?」
楓「・・・そうですね。七年ほどを過ごした土地ですから・・・感慨もひとしおです」
P「・・・それにしては、開演前から何かを気にする様子でしたが・・・」
楓「えっと、携帯見てもいいですか?」
P「ええ・・・構いませんが・・・」
『差出人:Bちゃん
件名:ごめん!
今日収録でいけなかったー!ごめんね!急に入ったもんだからあらかじめ伝えられなかったよー!
かえっちも全国バラエティーのレギュラーだし、大阪城ホールでライブもするし!
もうホントに大きくなっちゃって、夢のスターの仲間入りだね!
あたしの収録は今日も大阪ローカルだけど、すぐに追いつくつもりだから待っててね!』
楓「・・・うん・・・」
P「・・・どうしましたか?・・・急に・・・夢をつかんで・・・名実ともにトップアイドルになったことを・・・実感したんですか・・・?」
楓「いいえ・・・なんでも・・・ないんです・・・嬉しくて・・・楽しみで・・・悲しくて・・・これは私の・・・知らない涙なんです・・・」ボロボロ
――――春、東京、スタジオ、人、人、人
蘭子P「えーとですね。今回は押しも押されもせぬトップアイドル5人を集めてですね」
蘭子P「世界の恵まれない子どもたちのためにチャリティーソングを作ろうと」
蘭子P「・・・そういう企画な訳です」
凛P「その名も『輝く世界の魔法』。ユニット名はシンデレラガールズ!」
凛P「お前たちの輝きで世界を明るく照らすように!それぞれの幸せを示すように!」
凛P「お前たちはシンデレラだ!至って普通の女の子が、とてつもない夢と幸せを手に入れた!」
凛P「それを世界に示して分け与えるんだ!愛と夢と希望と幸せ!それと魔法だ!」
P「ようは・・・We Are The Worldの日本版みたいなものですね・・・」
P「皆さんも・・・音楽の教科書などで・・・それは知ってると思いますが・・・」
渋谷凛「うん。知ってる。ていうかそんなにおどおどしないでよ?」
神崎蘭子「汝れよ!地獄の竈を天界に堕としてはならぬ!」
(渋谷さん!そんな失礼な言い方はやめたほうがいいですよ!)
凛「えっと・・・よろしくね、蘭子」
蘭子「嗚呼!我がエニグマは未だ焚書にありてか!されど精々、我に力を捧げるがいい!」
(ああ、ぜんぜん伝わってないよー!・・・でも渋谷さん、こちらこそよろしくお願いしますね。)
輿水幸子「ふふーん!これだけのトップアイドルが勢揃いしても、やはりボクが一番カワイイですね!」
楓「・・・」ヨシヨシナデナデ
幸子「な、なでないでください!高いところから、慈しまないで下さい!」
アナスタシア「ミール・・・、平和、ですね・・・ん・・・」
蘭子P「渋谷さん。蘭子は楓Pさんに失礼な言い方をしないで下さい、っていったんですよ・・・」
凛「あ、そうですね・・・すみません」
P「いや・・・気にしてないよ・・・実際緊張してるし・・・神崎さんは地獄とか言い出すし・・・」
蘭子「其が禁忌の泥濘に立ち入るなかれ!」
蘭子P「そのままの意味じゃありません!・・・だそうです」
P「わかってます・・・ははは・・・」
幸子P「さちこー。高垣さんになでられる気分はどうだー。また背が縮んだかー」
幸子「わかってるなら助けて下さいよ!」
楓「しかし・・・ジャニーズにもこんな企画ありましたよね?」
アイドル一同「・・・?」
楓「やっぱり世代が違う・・・」シクシク
アーニャP「では・・・そろそろ収録するといたしましょうか」
――――五月下旬、高垣家、ワードローブを整理しながら
楓(ふふーん♪)
楓(・・・幸子ちゃんがうつっちゃったかしら)
楓(いい思い出だなあ、『輝く世界の魔法』。ちょっとプレッシャーだったけど・・・)
楓(いっぱい売れてくれてよかったなあ・・・これで世界の恵まれない子どもたちにお金がいって)
楓(服を手に入れて・・・食べ物を手に入れて・・・お水を飲んで・・・)
楓(そして立ち上がって・・・みんな自由に飛び立っていくんだ・・・)
楓(そうやって・・・全世界の人に幸せになるチャンスが巡ってくる)
楓(そう・・・今は私が世界に・・・自由の種を蒔く番なんだ・・・)
楓(あの美容師さん・・・ついに独立したって言うし・・・はやく行かなきゃな、ふふっ)
楓(・・・もう一年になるのかぁ・・・)
楓(・・・勘違いでモデルを辞めて・・・勘違いでアイドルになって・・・)
楓(それでも私はそこに幸せを見つけて・・・幸せになって・・・)
楓(それは絶対に・・・モデルのままでは見つけられないモノだった・・・)
楓(私だけの・・・かけがえのない幸せ)
楓(アイドルとしての私は、そのかけらを踊って歌って振りまいて)
楓(みんなを少しずつ幸せにしていくの)
楓(本当に・・・私の運命だったんだなぁ、アイドルは・・・)
楓(想像もしてなかったところで見つけた、たった一つの幸せ)
楓(・・・もともとなんの考えもなく生きてた私が、自分で考えて)
楓(そして自分でつかみ取った幸せなの。・・・大事に育てていかないとね)
楓(ん?電話・・・Bちゃんからだ・・・あの子は最近どう夢に向かって頑張っているのかしら)
楓「Bちゃん?どうしたの電話なんて、久しぶりね?」
B『かえっち・・・ごめんね・・・あたし・・・』
楓「・・・何があったの?」
B『あたし・・・夢を諦めることにした』
楓「・・・!?」
B『ちょっと元気で・・・ちょっとキレイなだけじゃ・・・売れっ子タレントなんて無理だったんだよ・・・』
楓「そんなことないわよ・・・Bちゃんの笑顔と言葉と元気は何度も私の力になったんだよ?」
B『説得ありがとね・・・慰めてくれてるんじゃなくて、本気なのもわかってるんだけど・・・』
B『子どもなのはかえっちだけじゃなくて・・・あたしもだったみたい・・・』
楓「そんなこと・・・」
B『かえっちにはプロデューサーさんがいてくれたけど、あたしには自分を守ってくれる人なんていなかったから・・・』
楓「・・・」
B『でもね・・・あたしがタレントを諦める理由はそれだけじゃないんだ・・・諦めないかえっちも見てきたもの』
楓「そうよ・・・Bちゃんはとても強い子よ?」
B『違うの・・・あたし・・・結婚するんだ』
楓「・・・え!?」
B『局の関係で出会ってさ・・・そのまま運命感じちゃって・・・あたしの相談にも親身に乗ってくれて・・・』
楓「・・・そんなこと、言ってたっけ?」
B『ううん。その時は売れなくって苦しくて、その人に逃げてるだけだなって思ってたから。かえっちにはあえて言ってなかったの』
楓「・・・そう」
B『でももうあたし・・・気付いちゃったんだ・・・かえっちが偶然アイドルになって、偶然アイドルが自分の幸せだと気付いたのと・・・』
B『全く同じように・・・あたしもあの人と結ばれるのが一番幸せだって、気付いたの』
楓「そっか。それがBちゃんが見つけた・・・Bちゃんだけの大切な幸せなのね・・・」
B『そう・・・あたしの「夢」は・・・かえっちの輝きで目がくらんだあたしのマボロシで・・・』
B『ホントの夢は・・・子どもの頃からずっと抱いてた夢は・・・普通の、お嫁さんになることだったんだよ』
楓「そう・・・。本当に、おめでとね!」
B『うん・・・。そう、それでね。もうひとつ気付いた幸せがあってね・・・』
楓「どうしたの・・・?おめでたとか?」
B『ううん・・・。その辺あたししっかりしてるから・・・あのさ・・・Aちゃんにはこれすっごく怒られちゃったんだけど・・・』
B『結局祝ってくれてね・・・その時気付いたんだ』
B『自分だけの幸せを共有できるひとがいることも、あたしの夢だったんだなって』
楓「そう・・・。だから私にも、電話をくれたのね?ってことは、まだ籍は入れてないの?」
B『うん。プロポーズされただけ・・・返事もまだしてない・・・けどすっごく愛されてるの感じてて・・・』
B『私はすっごい、幸せなの』
B『・・・この上なく、幸せなの』
楓「・・・そ。」
楓(私は未だにきれいな人形で、未だにきれいな夢を見ているのかも知れない)
楓(そんな夢を見ている内に気付いたの。夢にはいろんな幸せが散らばっているんだなって)
楓(ツモリチサトのミュール。私のお気に入り。マルニのバッグ。私のお気に入り。そのほかいっぱいクローゼットにつまってる)
楓(幸せと夢を思いこんでる内に、私はいろんなもののことを知ることができた)
楓(私の幸せは一つだけじゃなかった・・・常に幸せに囲まれていた)
楓(すごく小さな・・・私だけの幸せ。Bちゃんだけの幸せだってそう。私だけの小さな幸せのひとつ)
楓(幸せの形は・・・本当に色々あって、・・・きっとそれを探すのも幸せの一つ・・・それを夢って呼ぶのかも知れない)
楓(結局、人形の幸せってなんなのかしら・・・自由になること?ちゃんと見てもらえること?)
楓(なんだろう・・・人形のことはわからない)
楓(でもそういえばあのフランスの古い歌は、人形が恋をする歌だったのよね)
楓(今思いだしたの・・・そう・・・今・・・)
楓(新しく知ったことを、子どもの私は素直にすぐ伝えなければいけないの)
――――楓「高垣楓は、きみが好きです。ふふっ」
楓(でしょう?プロデューサー)
その2おわり
SSおしまい
SS三回目書きました
こわかったです
>>22
あれは、ライトノベルがしたかったんです。ごめんなさい
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