カラカラカラッ……パンッパンッ──
「──おさななじみ、なに おねがい したの?」
「しょうがっこう で、おともだち いっぱい できますように って。おとこ は?」
「ないしょー」エヘヘ
「ずるい」ムムッ
………
…
「かえろ、おさななじみ」
「……うん」グスッ
「また いじわる された?」
「だいじょうぶ」
「おなじ クラス、なれたら よかったのになぁ」
「……だいじょうぶ」
……………
………
…
カラカラカラッ……パンッパンッ──
「──おさななじみ、なに おねがい した?」
「二年生では、男と おなじ クラス に なれますように って。男は?」
「ないしょー」
「えー またー?」
………
…
「おさななじみ の クラス、帰りの会 長かったね」
「ゆうや くん が ひっこす みたいで、先生の お話が あったの」
「今日は ウチくる?」
「ごめん、今日は ハナちゃん と あそぶ やくそく したの」
「そかそか」
「明日は いつも見てる アニメあるし、男の へや 行くね」
「うん、いいよ」
「じゃあ また明日! いってきます!」
「いってらー」
……………
………
…
カラカラカラッ……パンッパンッ──
「──おさななじみ、何て おねがい した?」
「バドミントンで、てい学年 だん体せん の メンバー に 入れますようにって。男は?」
「ん、内しょー」
「いっつも言わないんだから…」
………
…
「また来年がんばればいいわよ、元気出しなさいな?」
「うっ……えぇぇん……」ポロポロ
「個人戦では二回戦まで勝てたじゃない? 貴女は精一杯やってた。お母さん、ちゃんと見てたからね」ナデナデ
「……はつもうで で、おねがい したのに」グスッ
「ああ……町内の神社、毎年お隣の男君と二人で行ってたわね」
「…………」コクン
「仲良しさんが近くにいてくれて良かったわ、二年ではクラスも同じになったんでしょ?」
「うん」
「そうね……せっかく二人で行ってるなら、あの神社のジンクスを試せればいいんだけど」
「じんくす って 何?」キョトン
「でも、男君だって自分のお願い事あるでしょうしね──」クスクス
……………
………
…
カラカラカラッ……パンッパンッ──
「──幼馴染、何て願ったんだ?」
「そりゃもう来年は高校受験だもん、その合格祈願よ」フンス
「お前も俺と同じ高校志望だったっけ」
「うん、だからちゃんと『二人で合格できますように』って願っといたからね。男は? 何て願った?」
「ん、内緒にしとく」
「毎年そうじゃない、もしかしてえっちぃコト願ってるんじゃないのー?」ニヤニヤ
「健全な男子中学生ですしー」
………
…
「勉強、捗ってるか?」
「お父さん、どしたの?」
「どうしたという事は無いけどな、ほら」スッ
「あ、ココア……ありがと」
「あんまり根詰め過ぎるなよ」
(……きっと大丈夫、初詣でお願いしたもの)
(昔からなんでか一年遅れで願いを叶えてくれる、あの神社)
(だからこそ、来年の事を今年願ったんだから)
(でも、受験ばかりは神頼みだけじゃどうにもならないもん。やるべき事はやらなきゃね──)
……………
………
…
カラカラカラッ……パンッパンッ──
「──幼馴染ちゃん、何て願った?」
「あと5cm身長が伸びますように……って」フッ…
「ぶはっ、女子高生らしからぬ願いだった」
「こっちは真剣なの! じゃあ、ハナは何て願ったのよ?」
「んー? そういえば、何を願っただろ…?」
「は? 覚えてないってどういう事よ」
「この神社だし、あんまり真面目に願っても……ねぇ?」クスクス
「えー、ここ願い事よく叶うのに……一年遅れだけど」
「ジンクス通りにやれば叶うって評判だけどねぇ、今年は何にも打ち合わせしてないじゃん」
「……ジンクス? 打ち合わせ?」
「へ? ……まさか、幼馴染ちゃん知らないの? ここ、地元じゃ『お二人様祈願』の神社として通ってるでしょ」
「知らない……けど、そういえば昔お母さんもジンクスがどうとか言ってたような」
「二人組でお参りして、同じ事を願えば必ず叶うってね。正確には例え時間差があっても、願い事が揃えば叶うって言われてるんだよ?」
「時間差があっても……?」
「うん……同じ二人が揃ってお参りして」
(私の願いが叶うのは……)
「年は別々でも同じ事を願えばね」
(……いつも一年遅れ──)
……………
………
…
「この神社に二人で参るのも、最後かな」
「……正月には戻るから」
「お正月だけみたいに言わないでよ」
「うん」
「昔からね……私のお願い事、一年遅れで叶ってきたんだ」
「そうなんだ?」
「知ってたくせに」
「……うん」
「いつも男は、自分の願い事は内緒にしてばかり」
「だったっけね」
「小芝居はいいってば」
「うん」
「今年は?」
「ん? なにが?」
「今年は、男は何を願うの?」
「四月から上京して本社勤務だから、上手く部署に馴染めますように……かな?」
カラカラカラッ……パンッパンッ──
(──ごめんね、男。同じ事、願ってあげられなかった)
(一人だけが願ったって、叶わないかもしれないのに……それでも)
(私は──)
………
…
「──元気でね」
「うん」
「時間ができたら、帰ってきてよ」
「うん」
「……待ってるからね」
《間も無く14番線に、こだま644号東京行きが到着致します──》
「……幼馴染、本当に……本当に待っててくれよな」
「うん?」
「必ず、迎えに来るから」ゴソゴソ
「迎え…って──」
「──幼馴染……これ、受け取ってくれ」パカッ
「え? えっ…?」
「仕事が落ち着いたら、迎えに来る」
「嘘……私しか願ってないのに」
「初詣での願い事か?」
「うん、男に…連れていって欲しいって」
「じゃあ、揃ったんだ」
「願いごと、仕事のことじゃなかったの?」
「今年はな、そうだった。でも──」
『──おさななじみ、なに おねがい したの?』
『しょうがっこう で、おともだち いっぱい できますように って。おとこ は──?』
「──ずっと昔に、願ったよ」
【おわり】
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