【男・幼馴染】一年遅れの願い事【初詣】(18)


カラカラカラッ……パンッパンッ──


「──おさななじみ、なに おねがい したの?」

「しょうがっこう で、おともだち いっぱい できますように って。おとこ は?」

「ないしょー」エヘヘ

「ずるい」ムムッ


………



「かえろ、おさななじみ」

「……うん」グスッ

「また いじわる された?」

「だいじょうぶ」

「おなじ クラス、なれたら よかったのになぁ」

「……だいじょうぶ」


……………
………



カラカラカラッ……パンッパンッ──


「──おさななじみ、なに おねがい した?」

「二年生では、男と おなじ クラス に なれますように って。男は?」

「ないしょー」

「えー またー?」


………



「おさななじみ の クラス、帰りの会 長かったね」

「ゆうや くん が ひっこす みたいで、先生の お話が あったの」


「今日は ウチくる?」

「ごめん、今日は ハナちゃん と あそぶ やくそく したの」

「そかそか」

「明日は いつも見てる アニメあるし、男の へや 行くね」

「うん、いいよ」


「じゃあ また明日! いってきます!」

「いってらー」


……………
………



カラカラカラッ……パンッパンッ──


「──おさななじみ、何て おねがい した?」

「バドミントンで、てい学年 だん体せん の メンバー に 入れますようにって。男は?」

「ん、内しょー」

「いっつも言わないんだから…」


………



「また来年がんばればいいわよ、元気出しなさいな?」

「うっ……えぇぇん……」ポロポロ

「個人戦では二回戦まで勝てたじゃない? 貴女は精一杯やってた。お母さん、ちゃんと見てたからね」ナデナデ


「……はつもうで で、おねがい したのに」グスッ

「ああ……町内の神社、毎年お隣の男君と二人で行ってたわね」

「…………」コクン

「仲良しさんが近くにいてくれて良かったわ、二年ではクラスも同じになったんでしょ?」

「うん」


「そうね……せっかく二人で行ってるなら、あの神社のジンクスを試せればいいんだけど」

「じんくす って 何?」キョトン

「でも、男君だって自分のお願い事あるでしょうしね──」クスクス


……………
………



カラカラカラッ……パンッパンッ──


「──幼馴染、何て願ったんだ?」

「そりゃもう来年は高校受験だもん、その合格祈願よ」フンス


「お前も俺と同じ高校志望だったっけ」

「うん、だからちゃんと『二人で合格できますように』って願っといたからね。男は? 何て願った?」

「ん、内緒にしとく」

「毎年そうじゃない、もしかしてえっちぃコト願ってるんじゃないのー?」ニヤニヤ

「健全な男子中学生ですしー」


………



「勉強、捗ってるか?」

「お父さん、どしたの?」

「どうしたという事は無いけどな、ほら」スッ

「あ、ココア……ありがと」

「あんまり根詰め過ぎるなよ」


(……きっと大丈夫、初詣でお願いしたもの)

(昔からなんでか一年遅れで願いを叶えてくれる、あの神社)

(だからこそ、来年の事を今年願ったんだから)

(でも、受験ばかりは神頼みだけじゃどうにもならないもん。やるべき事はやらなきゃね──)


……………
………



カラカラカラッ……パンッパンッ──


「──幼馴染ちゃん、何て願った?」

「あと5cm身長が伸びますように……って」フッ…

「ぶはっ、女子高生らしからぬ願いだった」


「こっちは真剣なの! じゃあ、ハナは何て願ったのよ?」

「んー? そういえば、何を願っただろ…?」

「は? 覚えてないってどういう事よ」

「この神社だし、あんまり真面目に願っても……ねぇ?」クスクス


「えー、ここ願い事よく叶うのに……一年遅れだけど」

「ジンクス通りにやれば叶うって評判だけどねぇ、今年は何にも打ち合わせしてないじゃん」


「……ジンクス? 打ち合わせ?」

「へ? ……まさか、幼馴染ちゃん知らないの? ここ、地元じゃ『お二人様祈願』の神社として通ってるでしょ」

「知らない……けど、そういえば昔お母さんもジンクスがどうとか言ってたような」

「二人組でお参りして、同じ事を願えば必ず叶うってね。正確には例え時間差があっても、願い事が揃えば叶うって言われてるんだよ?」

「時間差があっても……?」


「うん……同じ二人が揃ってお参りして」

(私の願いが叶うのは……)

「年は別々でも同じ事を願えばね」

(……いつも一年遅れ──)


……………
………



「この神社に二人で参るのも、最後かな」

「……正月には戻るから」

「お正月だけみたいに言わないでよ」

「うん」


「昔からね……私のお願い事、一年遅れで叶ってきたんだ」

「そうなんだ?」

「知ってたくせに」

「……うん」


「いつも男は、自分の願い事は内緒にしてばかり」

「だったっけね」

「小芝居はいいってば」

「うん」


「今年は?」

「ん? なにが?」

「今年は、男は何を願うの?」

「四月から上京して本社勤務だから、上手く部署に馴染めますように……かな?」



カラカラカラッ……パンッパンッ──



(──ごめんね、男。同じ事、願ってあげられなかった)

(一人だけが願ったって、叶わないかもしれないのに……それでも)

(私は──)


………



「──元気でね」

「うん」

「時間ができたら、帰ってきてよ」

「うん」

「……待ってるからね」


《間も無く14番線に、こだま644号東京行きが到着致します──》


「……幼馴染、本当に……本当に待っててくれよな」

「うん?」

「必ず、迎えに来るから」ゴソゴソ

「迎え…って──」


「──幼馴染……これ、受け取ってくれ」パカッ

「え? えっ…?」

「仕事が落ち着いたら、迎えに来る」


「嘘……私しか願ってないのに」

「初詣での願い事か?」

「うん、男に…連れていって欲しいって」

「じゃあ、揃ったんだ」

「願いごと、仕事のことじゃなかったの?」

「今年はな、そうだった。でも──」


『──おさななじみ、なに おねがい したの?』

『しょうがっこう で、おともだち いっぱい できますように って。おとこ は──?』


「──ずっと昔に、願ったよ」


【おわり】

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