【ポケモン】リーリエ「母さま……どうして……?」【サンムーン】 (207)

ルザミーネ「どうかしら リーリエ」


その日、母さまはいつもと違う格好をしていました。
長い髪を一つにまとめて、動きやすそうな服装で。


リーリエ「ステキです! フォルム……イメージチェンジですね!」

ルザミーネ「ふふ、ありがと」


半袖にパンツルック。年齢を感じさないスタイルの良さ。
わたしにはない 格好良さと美しさがあります。


でも どうして急に?


ルザミーネ「あなたを見習ったの……私も、ゼンリョクを出したいことが見つかったから」


リーリエ「え……それって」


ルザミーネ「あぁ、安心してちょうだい。前みたいに キケンなことではないから」

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ルザミーネ「もう、ヒドイことはしないから。あなたはイイコにして……いえ」


母さまは やさしく微笑むと わたしを抱き寄せて。
おデコに キスをしてくれました。


ルザミーネ「あなたは あなたの好きにしなさい」

リーリエ「はい!」

ルザミーネ「ふふ。それじゃあ、行ってくるわね」


母さまはとてもイキイキしていて。
なんだかわたしも嬉しくなって 笑顔で見送りました。

ステキなことがありそうだと 胸を弾ませて。



その夜 母さまは 帰ってきませんでした。


リーリエ「……んぅ?」


まだ、オニスズメたちも眠っている明け方。
ドアの開くような音で、ぼんやりと目が覚めました。

母さまが 大分遅く……朝になって 帰ってきたのです。


ルザミーネ「ふぅ……」


寝ぼけた目で見る母さまは、なんだかとても疲れているようで。
それでも、とても楽しそうに見えました。


リーリエ「かぁ……さま……」


それなら 良かったと。
まだとても眠かったわたしは 眠気に抗うことなく意識を手放しました。


行きと帰りで 母さまの服装が変わっていたこと。
その事に気が付いたのは 今より ずっと後でした。

「行っておいで! マッシブーン!」


ウルトラボールから繰り出される、筋骨隆々の異形。
トレーナーの掛け声に応じるように、筋肉を強調するポーズを見せ付ける。

赤い巨躯に虫の翅、長い口吻とアローラ地方のポケモンとは全く違う特徴を持つ生き物。

その名をウルトラビースト・マッシブーン――異次元から来た、ポケモンの1種である。


「マッシブーン! ストーンエッジ!」


そして、マッシブーンに指示を出す少年こそアローラ地方・初代チャンピオン。

最強の座を狙い各地からやって来るトレーナー相手に、日夜戦いを繰り広げているのである。

「……」


バトルは、少年の勝利で終わった。
マッシブーンの見た目に違わぬ剛力と、少年の適切な指示。
そして何より、お互いの間にある絆が、防衛戦を成功させた。

挑戦者は強力なドラゴン使いだったが――少年を倒すまでは至らなかった。


「……」


バトルが終わり、挑戦者も帰ればポケリフレの時間。
砂埃で汚れてしまったマッシブーンの体を、ブラシで綺麗にしてあげる。
ガンバったご褒美として、ポケマメをあげる事も忘れない。


「――♪」


少年の手から与えられるポケマメをちゅうちゅうと吸うマッシブーン。
バトルで活躍し、褒められたマッシブーンはとても喜んでいるようだ。
鳴き声をあげながら、いつもよりキレの良い動きでポージングをしている。


「……」


当然だが、マッシブーンは喋れないし見た目も他のポケモンとは大きく変わっている。
それでも、心は通じ合っていると、少年は信じていた。

ルザミーネ「お疲れさま 今日も大活躍ね」


ポケモンたちの手入れを終えて、一息つく少年に差し出されるおいしい水。
ありがとう、とペットボトルを受け取ると一息に飲み干す。


ルザミーネ「ふふふ……やっぱり、あなたはステキなトレーナーね」


目を細めてクスクスと笑うルザミーネ。
少年とウルトラビーストたちを見守るその笑みに、以前のような執着はない。
ただ純粋に、一人の女性として、微笑みを浮かべていた。


ルザミーネ「ところで なんだけど」


ルザミーネ「ステキなレストランの予約が取れたんだけど 今夜 どうかしら?」


ルザミーネ「きっと マッシブーンたちも 喜ぶと思うわ」



少年は、その言葉に悩む事なく頷いた。

ハノハノリゾートホテル・最上階。
アローラ最大のリゾート地であり、予約は一年先まで埋まっているという。

ルザミーネに誘われた少年は、何とも幸運なことに予約無しで宿泊することになった。


「……」


アローラの島々を巡り、トレーナーたちの頂点に立つ少年だが、こういった場所には縁がなかった。
自宅のものよりも遥かに質の良いカーペットやフカフカのソファ。
伝説のポケモンを前にしても怯まなかった心が、妙に浮き足立って落ち着かない。


ルザミーネ「ふふ……こういうトコロは はじめてかしら?」


ちなみにマッシブーンは下のビーチでナマコブシ投げに興じており、その他のポケモンは別室で寛いでいる。

バルコニーから覗くアローラの夜景は美しく、ホテルの快適さは素晴らしい。
自然の美しさと人工的な快適さが両立されている。
一年先まで予約が埋まっているというのも頷ける話だ。


ルザミーネ「気に入って もらえたかしら?」


ルザミーネの言葉に、何度も首を振って頷く。
マッシブーンたちも楽しめたようだし、サービスも良かった。
食事も美味しかったし、ルザミーネに感謝を伝えるのに躊躇いはない――が。


ルザミーネ「? どうかした?」


ルザミーネの言葉によると『ステキなレストラン』という話だった。
もちろん、ココに文句があるわけではないが……。


ルザミーネ「ああ、そんなことね」

ルザミーネ「予定を変更したの。疲れていたみたいだし、こっちの方が安らげると思って」

ルザミーネ「元々予約していたレストランの方には、代わりに行ってもらってるコがいるから、気にしないでいいわ」


そういうことなら、と少年は納得して頷く。


ルザミーネ「それに」

「……?」


ルザミーネ「ここなら……あなたと、二人だけですもの」

ルザミーネが身を屈めて、少年と目線を合わせる。
二人の距離は睫毛が触れるほどに近く、互いの匂いと温もりを感じ取れる。


「……!」


少年は、「オトナの女性」を此処まで近くに感じた事はない。
自分より年上で異性の知人は、ルザミーネを除くとライチやバーネットくらいのもの。

頰が熱く、こそばゆい。
バトルや冒険とは違った意味で、胸が高鳴るのを感じた。


「ふふ……だめ、よ?」


思わず後退りした少年の肩を、ルザミーネの白い手が抱き寄せる。
品の良い、香水らしき匂いが少年の鼻をくすぐった。

ルザミーネ「こういうトコロ はじめてでしょう?」

ルザミーネ「あなたは アローラ初のチャンピオン」

ルザミーネ「これからも 多くの体験をするでしょう」


ルザミーネ「そういう時のために」



ルザミーネ「私が イロイロ」



ルザミーネ「教えてあげる」



ルザミーネと 長い夜を 過ごした



リーリエ「最近 かあさまの帰りが遅いような……」

前よりも 楽しそうで。
前よりも 優しくて。
母親としても トレーナーとしても。

私にイロイロと教えてくれるようになった母さま。


身体を蝕んでいたからは解き放たれて、カラダは健康なハズ。
前みたいに、自分勝手で、おかしなコトもしない。


そんな母さまが、楽しそうに夢中になっていること。

きっと 悪いコトではないハズなのに……。


リーリエ「どうして……落ち着かないんだろ……」


ぎゅっと、コスモッグの形をしたクッションを抱き締めます。
フカフカの感触が、胸の不安を和らげてくれるように……。

――。


ルザミーネ「ただいまー……あら?」

リーリエ「zzz……zzz……」

ルザミーネ「まったくもう……」


クッションを抱いて眠る愛娘。
仕方ない、と微笑ましげにタオルケットをかけてあげるその姿は、誰から見ても優しい母親の姿そのもので。


ルザミーネ「せっかく、良い知らせがあるのにねぇ」

ルザミーネ「……くすっ」

ハウ「えぇっ!? みんなでカントーに行っちゃうのー!?」


真昼間のカンタイシティにハウのさけび声が響く。
その反応を予想していたククイは苦笑いしながら事情を説明する。


ククイ「リーリエとルザミーネはオーキド博士の研究に協力……で、彼はアローラ初代チャンピオンとしてカントーのポケモンリーグに招かれているんだ」

ハウ「ちぇー。せっかくとっておきの技をアシレーヌに覚えさせたのにー」

ククイ「まあまあ。彼が戻って来た時に驚かせてやろうぜ」

ハウ「うー……」

ククイ(きっと、彼もカントーで一回り成長して帰ってくるだろうし)


ククイ「それに、お土産も期待できるだろうし。楽しみに待ってようじゃないか」

期待で笑みを浮かべ、ククイが視線を向けたずっとその先――遥か海の彼方に浮かぶサント・アンヌ号。


世界でも屈指の豪華客船の甲板で、子供たちが手を取り合ってはしゃいでいた。


リーリエ「案内は任せてください! この船は前に隅々まで探険したんですよ!」


リーリエが少年の手を取って、楽しそうに駆けて行く。
少年と一緒に、ということもあるが、自分が彼をリードしているという状況を喜んでいるようだ。


ルザミーネ「ふふ……」


その様子を、微笑みながら見守る母親。
大きくなって、成長しても子どもは子ども。
どことなく危なっかしいところがある。


ルザミーネ「でも……あの子と一緒なら、きっと大丈夫ね」

ルザミーネ「ふふっ」



きっと、楽しい旅路になるだろう。
ルザミーネは、娘以上にワクワクしていることを自覚して、鼻歌を口ずさみながら自分の客室に向かった。

とまぁ、探険気分でサント・アンヌ号を歩き回る子どもたちであるが。
一つ、忘れている事がある。

この客船の乗客は殆どがトレーナーであり――


ジェントルマン「行け! マニューラ!」

マダム「行け! ストライク!」


――トレーナーにとって、目が合うという事はバトルの開始ということである。

たとえそれが、客船の廊下だろうと例外ではない。


「行っておいで! マッシブーン!」


意気揚々とバトルに応じる少年。
ウルトラボールから放たれたマッシブーンも気合は十分。


そして。

リーリエ「……」


彼女は、ただ一人緊張した面持ちでボールを構える。
彼の隣で一緒に戦えることと、トレーナーとして初めて挑むタッグバトル。


リーリエ「……お願い! トゲチック!」


期待、喜び、不安。
色んな気持ちで浮き足立つ心を何とか抑え、彼女はポケモンを繰り出した。

ジェントルマン「マニューラ! トゲチックに冷凍パンチ!」


一番最初に動いたのはジェントルマン。
人生経験とバトル経験の長い彼はリーリエの緊張を見抜いていた。


リーリエ「っ! トゲチック!! かわし――」


遅れて、指示を出すが間に合わない。
トゲチックが自分の判断で技を繰り出すよりも速く、マニューラが間合いを詰め飛びかかる。

その勢いのままに、氷塊を纏った鋭い爪を容赦無くトゲチックの頭部に振り下ろし――


マッシブーン「――」


――庇うように割り込んできたマッシブーンの大胸筋に、受け止められた。

赤い身体は鎧のように攻撃を受け止め、冷凍パンチを砕く。
微塵も揺るがぬその巨体に、マニューラの動きが止まる。


「マッシブーン!」


そして、その隙を逃す少年とマッシブーンではない。
赤い豪腕がマニューラの胴体を掴み、振り上げる。


「アームハンマー!」


少年の声に応えるように、振り上げた豪腕が更に膨張。
逃れようと足掻くマニューラの抵抗を物ともせず、そのまま鉄槌のように床に向けて振り下ろされた。

マダム「ストライク! つばめがえし!」


一息つく間もなく、ストライクの鋭い鎌がマッシブーンに襲いかかる。
アームハンマーで腕を膨張させたマッシブーンは素早さがダウンしているため、その動きには対応できない。
いかにマッシブーンといえども、ひこうタイプの技を受ければ大ダメージは免れない。


リーリエ「トゲチック! エアスラッシュ!」


だが、これはダブルバトルである。
マッシブーンの背後からトゲチックが飛び出し、振り下ろされる鎌を迎え討つ。
完全に不意を打って放たれた真空の刃に、ストライクはその身を怯ませてしまった。

言うまでもなく、この局面においてその一瞬は致命的な隙である。


「マッシブーン! かみなりパンチ!」


電撃を纏った右ストレート。
ビーストブーストで強化されたその一撃は、勝負を決める一手となった。

――勝負が終わり、賞金を受け取った後。


私たちは、ポケリフレでトゲチックとマッシブーンのお手入れをしています。
トゲチックの翼をブラッシングしている私の隣では、彼がマッシブーンにポケマメをあげています。


リーリエ「あ、あの」


彼に、謝らないと。
最初のマッシブーンの援護がなければ、私のトゲチックはマニューラに倒されていました。
そうしたら、2対1の戦いで……それでもこの人は勝ってしまうのでしょうけど……。


「……」


けれど、そんな私に。
この人は優しく、「さっきはありがとう」と笑いかけてくれました。


リーリエ「え、えっと」


トゲチックのエアスラッシュがなかったらマッシブーンは倒れていた。
……確かに、むし・かくとうタイプのマッシブーンにひこうタイプの技は天敵と言えます。
でも……それを言ったら、最初の私だって。


マッシブーン「――♪」


そんな私の心を知ってか知らずか、マッシブーンは自分の頑強さをアピールするように胸板を強調するポーズを取りました。
それはまるで、「あの程度のパンチなら何回受けてもヘッチャラだ」と主張しているようで、とても頼もしく見えます。

私がそのポーズの名前を「サイドトライセップス」と知るのは、ずっと後のことでした。

「次も よろしく!」

リーリエ「あ……」


そう言って、お日様みたいに笑う彼。
その笑顔は、私の胸の中のモヤモヤをキレイに晴らして。

やっぱり、私は。


リーリエ「はい!」


この人のことが、大好きです!

……それから。


私たちは何度もダブルバトルをして、何度も勝ちました!
彼と一緒のバトルは学べることがとても多くて、トゲチックもとても楽しそう。

サント・アンヌ号の探検とポケモンバトル。
カントーに着くまではまだまだ長いですが、とても楽しい時間が過ごせました。



そして、1日の終わり。


リーリエ「とても……キレイですね」

「……」


水平線の彼方に沈んでいく夕陽を、二人で甲板のチェアに座りながら眺めます。
オレンジ色に染まる空と、静かな海面。
この景色を、この人と一緒に眺めていることが私にはとても価値のある宝物に思えて……。


「……zzz」

リーリエ「あら……」


そんな風に感動していた私に、彼が寄りかかってきました。
きっと、疲れていたのでしょう。
私は、肩に彼の重みを感じて、彼のぬくもりに触れながら、暫くここで夕陽を眺めることにしました。

お夕飯までは、まだまだ時間がありますし……。

できれば、ずっとこうしていたい。
そんな気持ちになりますが――もちろん、そうはいかないです。


リーリエ「あ」


ドサリ、と彼のカバンが椅子から落ちてしまいました。
幸い中身が散らばることはありませんでしたが、大切なものポケットのファスナーが開いちゃってます。
うっかりだいじなものを失くしたらタイヘン。

私は、彼を起こさないようにゆっくりと椅子から降りて、カバンに手を伸ばし……。


リーリエ「あれ……」

リーリエ「この ハンカチは……」



リーリエ「かあさま……の?」



優しい爽やかな風が、頰を撫でて。
私の髪と、手の中のハンカチが、そよそよと揺れました。

――夕食・船内レストラン



……ただの、ハンカチ。
だけどアレは、かあさまのこだわりのブランド品。
この人が持っているわけ、ありません。


リーリエ「……」


なら、普通にプレゼントされただけ。
それだけの、特に気にすることはない、ハズです。

なのに……。


ルザミーネ「リーリエ? どうしたの?」

リーリエ「あ、は! はい、なんでもありません!!」


どうして、こんなに胸がザワザワするんだろう。
せっかくの美味しい食事に、なかなか集中できません。

ちらっと彼の方を見ても、いつもと変わりはありません。
レストランの人に貰った高級ポケマメを、マッシブーンやフェローチェにあげています。

……あたりまえ ですね。

わたしが、勝手にドキドキしているだけですから。


ルザミーネ「リーリエ」

リーリエ「あ、はい」

ルザミーネ「大活躍みたいだったじゃない」

リーリエ「え?」

ルザミーネ「その子と一緒に、たくさんバトルをしたんでしょう?」

リーリエ「! そうです! たくさん 勝ちました!」

ルザミーネ「ふふっ」

ルザミーネ「なら 聞かせてくれる?」

ルザミーネ「はじめての ダブルバトルの感想」

リーリエ「もちろん! えっと――」


……それから。

たくさんのバトルのお話を、かあさまに話しました。
微笑みながら、頷いて聞いてくれるかあさま。
わたしが感じていたモヤモヤはいつの間にか忘れていました。

それほどまでに、彼とのバトルは楽しかったんです!


ルザミーネ「……うふふ」

夜、みんなが寝静まった頃。

環境の違いのせいか、ふと目が覚めた少年は、一人で甲板へと出向いた。

甲板の手摺に寄りかかり見上げた空には、大きな丸い月が輝いていた。


ルザミーネ「眠れないの?」


背後から、よく聞きなれた声。

振り向く前に、肩越しに伸ばされた白い腕が少年を抱き締めた。


ルザミーネ「ふふ、あすなろ抱きって言うのだけれど」

「……」


少年にとっては初めて聞く言葉。

だが、ルザミーネの香りと体温に包まれる感覚は、悪くないと思った。

ルザミーネ「寝付けないのよね?」


少年は、コクリと小さく頷く。


ルザミーネ「それじゃあ……私の部屋に、くる?」

「……?」

ルザミーネ「いくらあなたでも、夜更かしはあまり良くないもの」

「……」

ルザミーネ「あなたが、元気で明日を迎えられるように……私が、癒してあげる」

「……」

ルザミーネ「……それじゃあ 決まりね」


手を繋いで、彼女の部屋に入る二つの影。

それを見守っていたのは、空に浮かぶお月様と――



リーリエ「……」



もうすぐこのssも終わると思いますがそしたらアセロラヒロインかカプ・テテフヒロイン(not擬人化・not人間語)のss書くと思います

……翌朝。

朝食は船内バイキングでとる事になっていたが、リーリエが部屋から出て来ない。

未だに寝ているのなら、起こしに行く必要があるが……。


ルザミーネ「いって あげたら?」


ルザミーネがパンやフルーツを皿に盛り立てながらそう言った。


ルザミーネ「朝起きて、あなたの顔があったら」

ルザミーネ「きっと、あの子も喜ぶわ」

ルザミーネ「ポケモンたちの朝ごはんは任せて。私がポケマメをあげておくから」


その言葉に頷き、ポケモンたちをルザミーネに任せると少年はバイキングを後にした。

その後ろ姿を、口角を上げたルザミーネとフロントダブルバイセップスをきめたマッシブーンが見送った。

リーリエの部屋をノックするも、返事はない。


「……」


少しだけ悩んで、少年はドアノブに手をかけた。

施錠はされていなかったらしく、扉はあっさりと開いた。


「……?」


室内は朝だというのに不自然な程に暗く、目が慣れるのに少し時間がかかった。

何度か瞬きをして目を凝らすと――ベッドに眠るリーリエのシルエットが見つかる。


「……」


耳を澄ませば小さな寝息が聞こえる。

こういう寝坊助さんを起こすには朝の日差しを浴びせるのが一番。

自分の経験からそう結論付けて、少年は窓際のカーテンに手をかける。


起きろ! 朝だ!と室内に朝日を招くべく、少年は勢いよくカーテンを開き――



「マヒナペーア!」


リーリエ「ありがとう ほしぐもちゃん」

「マヒナペィーア」


私は、協力してくれたほしぐもちゃんの頭を撫でて、虹色ポケマメをひとつあげました。

ほしぐもちゃんは満足気に一鳴きすると自分からボールに戻っていって……まるで、頑張れと応援されているような気分です。

……今から、私はちょっと悪い子になるのにね。


「zzz……zzz……」


ほしぐもちゃんのさいみんじゅつで、私のベッドに眠る彼。

何度か深呼吸をして自分を落ち着かせると……私は、彼の隣に寝転がりました。


リーリエ「……えい……」


ぎゅっと、抱き枕にするみたいに。

眠る彼に、抱き付いてみます。

彼の体は、お日様みたいにあたたかくて、安心できます。

さっき起きたばかりなのに、また眠くなってきそう……。


リーリエ「ふぁ……」


ダブルバトルで戦った時よりも近く。

一緒に旅をしていた時よりも、彼を感じる距離。

ああ、やっぱり。

彼は、私の元気の源で。





かあさまの、においがしました。





ルザミーネ「……あら やっときたのね」


ルザミーネ「どうしたの? コワイかおをして」


ルザミーネ「カレ あたたかかったでしょう?」


ルザミーネ「あなたにとって 悪くない時間だったと思うのだけれど」


リーリエ「……て」


ルザミーネ「……?」




リーリエ「母さま……どうして……?」


深夜の甲板で、母と娘が対峙する。

よく似た容姿の二人だが、その態度は対照的だ。

ルザミーネは余裕をもって腕を組み、その唇は弧を描く。

対して、リーリエはマトモに向き合う事も出来ず、俯いて膝の辺りをぎゅっと掴んでいる。


リーリエ「……母さまはとても優しくて キレイで」

ルザミーネ「……」

リーリエ「だから……新しい恋を……するなら……お、応援しました……っ」

ルザミーネ「……ふぅん?」

リーリエ「なのに……、どうして……っ!?」


リーリエ「どうして……あの人なんですか……っ!!」

リーリエ「もうわかってます! 全部!!」

リーリエ「あの人がもってたハンカチもっ!! かあさまが朝帰りをした日のことも!!」

リーリエ「ぜんぶ――ぜんぶ、わかっちゃいましたからっ!!」


感情に任せて叫ぶリーリエの頰を、ポロポロと涙が伝う。

怒っているのか、悲しんでいるのか、彼女自身判別がつかない。

激情を持て余す彼女には、何をどうしたいのかすら、まったくわからなかった。


ルザミーネ「……」

リーリエ「なんで……どうして……」


自分の方が、先に彼と出会ったのに。

自分の方が、彼と長く一緒にいたのに。


そんな想いが胸の中を駆け巡り――しかし、リーリエに出来る事はルザミーネを問い質すことだけだった。

リーリエという少女は、優し過ぎた。

ウツロイドの毒に侵されていた時の母親のようには振る舞えない。

自分の方が――だなんて言葉は、恋愛において意味をなさないという事を、彼女は理解してしまっている。

先に出会った、長くいた――それが、どうしたというのだ。

自分は彼と結ばれなかった。彼にとっては母親の方が魅力的だった。

それだけの、話だ。


リーリエ「うぅ、うぅぅ……」


……でも。

そうやって割り切れるほど、リーリエは大人じゃない。

母親を、ルザミーネを攻めることはできない。

だからといって、割り切ることもできない。

自分の感情に板挟みになって、泣き喚くリーリエ。


ルザミーネ「……」


そんな愛娘に、ルザミーネは歩み寄って目線を合わせた。

幼子の癇癪をあやすような、柔らかな笑みを浮かべて。


ルザミーネ「やっぱり……まだまだ、子どもなのね」

ルザミーネ「ねぇ、リーリエ……覚えてる?」

リーリエ「……」

ルザミーネ「あの日、私はなんて言ったかしら」

リーリエ「え……と」


――あなたは あなたの好きにしなさい。


リーリエ「……あ、う、うん……」

ルザミーネ「ふふ……ねぇ」


ルザミーネは、リーリエをぎゅっと抱き締めた。

ぽんぽんと背中を撫でてやり、その耳元に囁く。


ルザミーネ「私は、彼のことが好きよ。そして、あなたも愛している」

リーリエ「……ならっ」

ルザミーネ「リーリエ。あなたはどうかしら?」

リーリエ「……」

ルザミーネ「私のことは、すき?」

リーリエ「……はい」

ルザミーネ「なら、彼のことは?」

リーリエ「……」

ルザミーネ「彼のことは、好き?」

リーリエ「……はい」


ルザミーネ「うふふ……そうよね」

ルザミーネ「あなたは彼が好きで、私も好き」

ルザミーネ「私も彼が好きで、あなたを好き」

リーリエ「……」

ルザミーネ「ねぇ、リーリエ」


ルザミーネ「コレって――ぶつかる、ことかしら?」

リーリエ「そんな、それは……っ!」

ルザミーネ「普通じゃないこと……そうね」

ルザミーネ「彼は、普通じゃないもの」

リーリエ「何を言って……」

ルザミーネ「彼の周りには、たくさんのモノが集まっている」

ルザミーネ「カプたち、UBたち、伝説のポケモン――それに」


ルザミーネ「多くの、女性たち」


リーリエ「っ!?」

ルザミーネ「知ってるわよね。私よりも」

リーリエ「……」

ルザミーネ「……ねぇ リーリエ」

ルザミーネ「私は彼が好き。あなたも、彼が好き」




ルザミーネ「みんなで しあわせに なりましょう?」



太陽がちょうど真ん中に昇る頃、クチバの港にサント・アンヌ号が到着する。

ぞろぞろと港に降りていく乗客たちに混ざって、ルザミーネたちもカントーの地に降り立つ。

はぐれないようにと、少年を真ん中にして3人で手を繋いで。


「おお! よく来てくれたのう!」


そんな3人に、声をかける白髪の男性。

彼こそが、ルザミーネたちをカントーに招いたポケモン研究家……オーキド・ユキナリである。


ルザミーネ「お久しぶりです。オーキド博士」

オーキド「うむ。リーリエも久しぶりじゃのう」

リーリエ「はい! お久しぶりです!!」

オーキド「元気な挨拶じゃな。孫にも見習わせたいわい……ふむ、それでは」


オーキドは真ん中の少年と目線を合わせると、納得したように頷く。


オーキド「キミが、アローラ初代チャンピオンの」

リーリエ「はい! 私の自慢の人です!」

オーキド「おお! そうかそうか……」

オーキド「ふむふむ。それでは キミのポケモンを見せてもらっても良いかな?」


オーキドの言葉に頷いた少年は、手を解いて一歩前に出るとウルトラボールを構える。

堂々としたフォームから繰り出されるポケモンは、もちろん――


マッシブーン「――!!」

オーキド「おおお!! これがウルトラビーストか! こうして目の前に見るとスゴイ迫力じゃな!!」


初めて訪れた異国の土地でもペースを乱す事なく、モスト・マスキュラーを決めるマッシブーン。

資料で見るよりも遥かに凄まじい迫力に、オーキド博士も大興奮だ。


オーキド「よく育ってるし、よく懐いておるな! キミへの信頼が伝わってくるようじゃ」

ルザミーネ「博士、立ち話もなんですしそろそろ……」

オーキド「おお、そうじゃな。それでは……」

リーリエ「それじゃあ! ここからもまた私が案内しますね!」


ルザミーネとオーキドを残して、街を駆けていくリーリエと少年。

その手はかたく繋がれており、ちょっとやそっとじゃ離れないだろう。


ルザミーネ「ちゃんと時間には集合場所に来るのよー」

オーキド「あっという間に行ってしまいましたなあ。風の子とはよく言ったものじゃ」

ルザミーネ「まったく、まだまだ子どもなんだから……」

オーキド「微笑ましいのう」


オーキドが好々爺然とした笑みを浮かべる。

リーリエと少年の態度から、ある程度までは二人の関係を察しているのだろう。


オーキド「本当に! 将来が楽しみな二人じゃ!」

ルザミーネ「ええ。本当に……」


ルザミーネ「自慢の 家族 ですもの」

・エピローグ

バトルツリーの頂点で、4人のトレーナーが向かい合う。


「行っておいで! マッシブーン!」


一番最初に姿を見せたのは、赤いウルトラビースト。

挑戦者たちに己が存在を見せ付けるが如く、バックダブルバイセップスを決めてみせる。

全身の至る所にある無数の小さな傷跡は、己が歴戦の猛者であることの証明。

全身を膨張させ、全力で自分という存在をアピールしている。


「お願い! トゲキッス!」


続いてボールから繰り出された、美しい毛並みとキラキラ輝く白い翼が特徴的なポケモン。

一目見ただけで、トレーナーの愛情が伝わってくる美しさを誇っていた。


「行け! リザードン!」

「行け! カメックス!」


遅れて、挑戦者たちがポケモンを繰り出す。

全世界の猛者が集うバトルツリーで、一つの頂点を決めるバトルが始まろうとしていた。

……バトル、終了後。

激戦を終えてポケリフレでマッシブーンたちの手入れをする二人に、茶髪の青年が声をかける。


グリーン「よ、お疲れさん」

リーリエ「あ、お疲れさまです!」


今回のダブルバトルはバトルレジェンドチーム――リーリエたちに軍配が上がった。

攻撃役として圧倒的なパワーを叩き込むマッシブーンと的確なサポートを飛ばすトゲキッスのコンビネーションに、挑戦者たちが付け入る隙はなかったのである。


グリーン「……で、このあとヒマか?」

「……?」

グリーン「いやまぁ、アイツが久しぶりにお前らと戦いたいらしくてな」

グリーン「オレも、お前らにリベンジを――」



「パパー!」

「ママー!」


ポニーテールの少女と、ストレートロングの少女。

二人とも母親譲りの金髪で、双子のように似通っていた。


グリーン「おー、そうか。そういやそうだったな」


ポニーテールの少女をリーリエが抱き締め、ロングヘアの少女を青年が抱っこする。


グリーン「姉妹か。美人さんだなぁ」

リーリエ「うふふ……娘と、妹です♪」


「ママーおなかすいたー」


リーリエ「あらあら。このこったら……グリーンさん、そういうわけなので……」

グリーン「わかったよ、そういうことならな……」

リーリエ「ゴメンなさいね」

グリーン「いいって。アイツにも伝えとくわ」

夕陽の沈む帰り道を、4人で歩いて帰る。


それは誰から見ても仲睦まじい家族の様子。


だから、この物語はここでおしまい。


これ以上は特に語る事もない、当たり前にみんなで幸せを掴んだ彼女たちの物語が続いていくだけだ。

「ばーさまがレンショーきねんでゴチソーにするって!」


リーリエ「あらあら。かあさまったらこの前も張り切ってたのに……」


「う? かあさま? ばーさま?」


「……」


リーリエ「ふふ……そうね。そうなるのかな」


「う? むー?」


リーリエ「うふふふ」




「かーさま……? どーして……?」






コテンと、ロングヘアの少女が小首を傾げた。


おしまい

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リーリエヒロインのss2つとルザミーネヒロインのssを書いたので
次はアセロラヒロインかカプ・テテフヒロインで書きます

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