【安価】世界を救うらしい (35)


退廃した現代の世界で男の娘がガチャをしてファンタジーな冒険して女の子とイチャコラするスレ(予定)

※主役級のキャラは名前など>>1が作成
 ある程度話が進んだら安価をとったりとらなかったり


 とある国のとある場所。
 暗い室内の中央で輝く水晶を怪しい男が見つめていた。

占い師「…ふむ」

 いわゆる魔法使いのような格好をした怪しい男、占い師。水晶を覗き込む彼の顔は険しい。

男「いかがですか?」

占い師「見えた。世界を救うであろう人物が」

男「本当ですか! その人物とは一体…」

占い師「まあ待て。今深く見てみよう」


 1 メイド衣装
 2 制服
 3 普通な私服
 4 普通な私服(男)
 5 着物
 6 ドレス
 7 魔法使い
 8 巫女さん
 9 ゴスロリ
 0 お姫様

 ↓1 主人公(男)の衣装をコンマで判定

占い師「制服…どこかの学校の物か。少女のようだ」

男「少女? 少女が世界を?」

占い師「では、次は…」



↓1 主人公の容姿をコンマで判定 00~99で、数が大きいほど大人っぽく。実年齢は15

【96 身長大きめ。髪は長く、すらっとした大人っぽい女性(男)】

占い師「…ふむ。大人っぽくは見える」

占い師「が、年齢は若い。まだまだ子供だ」

男「…? よく意味が分からないですけど」

占い師「茶色の長髪、学校の制服、体つきはすらっとしている。後は今後の活躍で嫌でも目立つだろう」

男「それはそうですけど…」

占い師「仕方ない。もう少し深く見てみよう」



 体力(0で戦闘不能)
 精神力(スキルを使用する際に消費する数値)
 力(武器による攻撃力)
 知恵(魔法の攻撃力、防御力)
 防御(物理攻撃への耐性)
 素早さ(行動順。数値が高いほど早く行動ができ、回避の可能性が上がる)


 それぞれの能力値を↓1~6でコンマで判定 00は100とする

 主人公初期ステータス

体力 34
精神力 40
力 59
知恵 82
防御 48
素早さ 59


占い師「ステータスを見るに…魔法が得意なタイプらしい」

男「…いや、それが分かっても探し出すには大変ですよね」

占い師「分かっている。ではもっと深く、生活に係る力を見よう」


 料理(料理の上手さ)
 器用さ(手先の器用さ)
 運(運の良さ)
 性力(夜のあれこれの技巧)

 ↓1~4 順番にコンマ判定 条件はさっきのと同じ

料理 66
器用さ 74
運 76
性力 95


占い師「人間的なステータスは優秀だ」

占い師「全体的に強い人間だ。選ばれた人間ならばすぐ見つかるレベルだろう」

占い師「…では最後に」

 1 剣
 2 槍
 3 大剣
 4 斧
 5 杖
 6 短剣
 7 手甲
 8 弓
 9 銃
 0 魔法だけ

 ↓1 使用する武器をコンマ判定

占い師「手甲。己の拳で戦う戦法のようだ」

占い師「…いや、言いたいことは分かる。『魔法の適正が高いのに格闘?』と」

占い師「しかしそうなのだから仕方ない」

男「――誰に言ってるんです?」

占い師「ちょっとした言い訳だ」

占い師「とにかく、分かるのはここまでだ。居場所とかは分からん」

男「抽象的な占いですね…」

占い師「占いだからな」

 正論をキッパリと口にし、占い師は口を閉じる。
 話はそれで終わりだと言うように彼の前の水晶が光るのを止めた。

男「世界を救う英雄…重要さは分かりますよね?」

占い師「ああ。私も王に仕える人間だ。当然だろう」

男「なら――」

占い師「分かっているからこそ私は焦っていない。ここへたどり着く前に命を落とすような英雄ならば世界など救えやしないだろう」

男「…」

 占い師の真剣な眼差しに男は何も言わない。いや、言えなかった。

男「…明かり、ないんですか?」

占い師「ない」

 水晶が輝くのを止めた部屋は真っ暗だったから。




 世界は壊れた。
 人々は街を捨てて家を捨てて、それまでの暮らしを捨てて――科学は衰退の一途をたどる。
 後に残ったのは原始的な世界。力と権力が支配する剣と魔法のファンタジー世界。
 みんなが夢見ていた希望に溢れた創作物みたいな世の中。

サヤ「…」

 なんてことはなく。

無法者1「へっへっへ…」

無法者2「まさかこんな場所に女が一人で来るなんてな」

 国の領土を出た私は怪しい男たちに囲まれていた。
 彼らの手には剣や棍棒や斧。何年か前の日本ではこんな物持っていたら即通報で御用だ。
 身なりの汚い、欲望むき出しな顔をした男性たち。力のない人が私の状況に立ったらどうなるのか。火を見るよりも明らかだろう。

 国から出れば徒歩5分でこんな連中が出るような世界に希望なんてものは溢れていない。
 ファンタジーはファンタジーだけど世紀末的としか言い様がなく。

サヤ「…はぁ」

 憂鬱だ。少年時代は廃墟になった街で小悪党どもに囲まれるなんて想像もしなかった。
 自分と世界の現状。その二つに心の中で嘆きつつ私は視線を周囲に巡らせる。

 私たちが住んでいる国のすぐ近く。街の廃墟はご覧の通り無法者らが集まる隠れ蓑と化しているようだ。まぁ何もない場所だし、こういうごろつきが集まるのも理解できる。そこへのこのこ歩いて行った私が馬鹿なだけで。

サヤ「…」チラッ

眼鏡をかけた男「…」グッ

 ――ま、今のところ全部計画の内なんだけど。


 魔法に戦いに風化に、ボロボロになった街だけどただ住む人がいなくなっただけで建物自体は無事なものが殆ど。待ち伏せするのにはうってつけだろう。無法者らは囮役の私に釘付けだし、順調順調。

無法者3「へへへ…でかいリュックもそうだが――」

無法者4「これだけの上玉だ。楽しめそうだぜ」

 …嗚呼、これが日本。悪寒がする視線に思わず黄昏れたくなっちゃう。
 というかこの人達怪しいと思わないのだろうか。こんな場所に一人で、たいそうな荷物を背負った制服着た女の子が来るなんて。学校なんて今の世界にほぼないのに。それに囮を使って屋上からの奇襲って単純な戦法がこうも簡単にはまるなんて。

サヤ「くっ、下品な…っ」

無法者1「ヒューッ!」

無法者2「いいねぇ盛り上がるねぇ!」

 気持ちは分からなくはないけど、男って…。
 ああもう、囮はいいでしょ。いい加減囲まれてジロジロ見られたりするのは限界だ。
 呆れ顔で私は片手を挙げ、合図を出した。

眼鏡をかけた男「了解!」

いかつい男「任せろ」

 すると即座に屋上で待機していた仲間が二人、無法者の左右を挟むように降りてくる。
 4階ほどの高さから颯爽と着地。見栄えのいいシーンだけど力がない頃だったら間違いなく骨折だ。

無法者4「なっ!? なんだ!?」

無法者2「参加希望者か?」

無法者1「あ、なるほど」

サヤ「私の仲間です」

無法者3「な、なんだって!?」

無法者1「美人局か!」

無法者5「詐欺師め!」

 突然の展開に混乱している様子の無法者達。犯罪者然とした男たちが揃って私のことを詐欺扱いする光景は中々に奇妙である。

 一気に混沌と化した場で私は淡々と武器である手甲――革のグローブをはめる。
 さぁ戦闘だ、と気合いを入れた瞬間、遅れて屋上から一人の少女が降りてきた。


 00~20 ツンデレ系
 21~40 ヤンデレ系
 41~60 優等生系
 61~80 クーデレ系
 91~99 色々問題あり


 ↓1 コンマ判定で主人公の幼馴染、その性格を決定
 ↓2 スタイル云々の指定(平均的身長とスタイルだとかぺったんこだとか、ロリ巨乳だとか。無理だと思ったら>>1が勝手に)

ヤンデレ系 好感度高め


メイ「悪党成敗の時間ね…」

 着地から抜剣。赤くうっすら光を放つ剣を手に、少女が笑みを浮かべる。
 紺色の髪をツインテールにしている身長の高い少女。凛とした女性人気が高そうな顔立ちの彼女は、私の幼馴染であるメイ。
 ファンタジーの冒険者よろしくシャツにスカート、マントを身に着けツインテールを結う紐には宝石の付いた髪飾り。へそが出ていたり肩や胸元が露出しているけれど、不思議とだらしない印象はなくとても彼女に似合っている。
 歳相応の女の子らしいスタイルと、高い身長。女性の可愛らしさと美しさを併せ持つ彼女は、まさに正反対と言うべき無法者らの中で一際輝きを放っていた。

メイ「サヤをあんな目で見た罰、受けてもらわないと」

 ――あれ、なんだろう。すごく黒い光が。

無法者1「くそっ、やられてたまるか! お前ら、やれ!」

 囲まれてはいるけど少人数。常識的に考えて突破できなくはない隙間が広い包囲網だ。
 4人と20人近くという人数差もあり無法者らはまだまだ強気だ。混乱しつつも彼らは武器を手に取り手近な敵へと向かっていく。
 ここで一点集中して包囲を抜け出す、という選択もあるだろうが――人数差による油断か。
 今の時代、人数なんて要素はそれほどあてにならないのに。
 ふぅと息を吐いて集中。私へ向かってくる男らを見やる。作戦開始だ。

サヤ「一人も逃さないようにしてください!」

眼鏡をかけた男「当然!」

無法者1「はっ、まず勝てるかを心配げふっ!?」

無法者3「た、大将!」

 まず一人、近づいてきた男を殴り飛ばす。
 武器を振ろうとしたいた男へ踏み込み、小さくアッパー。それだけで面白いくらい男が吹っ飛んだ。流石は人間。伊達に力を得てはいない。

サヤ「よっし。やりました」

無法者6「な、なんだと…」

無法者2「ひ、怯むな! 囲んで一斉に攻撃すれば――」

 いきなり大将格をやられた奴らへ動揺が走る。が、そこは曲がりなりにも修羅場を超えてきた無法者。私のことを囲もうと指示を出す。

無法者7「ぎゃ、あああ!?」

 けれどその直後、聞こえてきた悲鳴に彼らは固まる。
 まるで拷問でも受けているかのような絶叫。無法者達だけでなく、その敵である私達もほぼ同時に全員が声の方向へ振り向いた。

メイ「はーい。次は目をいくわよ?」

無法者7「や、やだ! た助けて!」

 仰向けに倒された無法者に脚をのっけて抑えつけているメイ。
 中々良いアングルなのだろうけどそんなドキドキ感はない。大の大人が泣きわめいている時点で分かるだろう。あれはただ、無力化した敵を拷問しているだけだ。
 剣の切っ先を無法者に向けているメイの目がすごく怖い。楽しんでいるわけでもなく、ただただ真顔なのが怖い。

いかつい男「おい、メイ! 痛めつけるのはほどほどにしとけ」

メイ「――分かったわ。運が良かったわね」ヒュッ

無法者7「がぁああ!?」

 突きつけていた剣を軽く振るい、男の喉を斬る彼女。
 あっさりと行われた殺害に無法者達はどよめくが、斬られた男に傷はない。
 …メイの武器で斬れれても直接的なダメージはない。体力が奪われ、痛みを与えるだけ。
 だからこそ彼女に負けるということはとてつもなく恐ろしいことで。

サヤ「…投降するのをおすすめしますけど」

無法者2「ぐっ…今更止まれるか!」

 あれだけ恐ろしい光景を見せられたというのに根性がある人達だ。
 指示から素早く私を囲う。各個撃破を狙っているのだろう。

サヤ「…手早く済ませてあげます」

 悪人とはいえ拷問されるのは見過ごせない。使う気はなかったけど、メイの毒牙にかかる前に戦闘不能になってもらおう。
 集中をはじめる。魔力を練り上げ、小声で呪文を唱える。一言二言、短い詠唱を終え私は手を前にかざした。

サヤ「ライトニング!」

 初級の魔法。私の周囲に小さな雷が放たれる。範囲は中程度。味方もいたけど彼らはうまく防御してくれたようだ。

サヤ「畳み掛けてください!」

メイ「さすがサヤ。ふふ、加減はしてあげるから大人しくなさい」

眼鏡をかけた男「僕までしびれると思ったけどね」

いかつい男「ここからは俺たちの仕事だな」

 魔法で怯んだ敵をあっという間に仲間達が倒していく。
 元々実力差があるのだ。つけ入る隙があれば簡単に片が付く。

サヤ「――これで最後ですか?」

 結局、10分もしない内に全員を倒しきってしまった。負傷もなにもなく無傷で。

いかつい男「いやぁ、簡単だったな」

眼鏡をかけた男「僕らならこれくらいは当然さ」

メイ「縛り上げて――馬車よね? さ、男二人は頑張って」

いかつい男「へいへい。ほれ、歩け」

眼鏡をかけた男「分かりましたよと」

サヤ「あのー私も男なんですけど」

 縄で手を縛った男達を連行していく仲間二人。彼らとメイについていきながらそんなことを私は言うけれど、

メイ「ふふ、かわいい」

 まったく聞いてない。

 まぁ彼らが私のことを女扱いするのは定番の流れだし、別に今更気にすることでもないか。
 苦笑を一つ。行列の最後尾をメイと一緒に歩き、廃墟の外に停めておいた馬車を目指す。

眼鏡をかけた男「僕らもようやく仕事が板についてきたんじゃない?」

 そんな折、無法者の後ろ、縄を持つ男――私らのグループの司令塔、ナオトが口を開く。
 眼鏡をかけた平均的な、平凡とも言える見た目の彼は弓や魔法による遠距離からの攻撃を得意とする。目立たない見た目と同じく地味な戦い方だがその実力は中々のものだ。
 身長は平均的。体格も特徴はなく。顔立ちは悪くはなく、むしろいいのだが印象が薄い。冒険者風の服装に黒いコートを羽織、弓を背負った後姿はとてもかっこいいんだけど不思議なものだ。

いかつい男「まだまだだ。俺らは実力も経験も実績もない」

 と、真面目な返答をするのはユースケ。男性の平均より身長が高めな私やメイを越す巨漢で、筋肉質な体つきが目を引く男の中の男である。
 戦い方も見た目通りパワフルで、斧やら拳やら落ちているものを使って戦ったりと接近戦、特に乱戦で右に出るものはいない。短所といえば魔法に弱いくらいか。
 シャツにズボン、その辺りは平凡な冒険者の装いだが、大きな斧を背負うためのホルダーを身につけ、手には金属製のガントレット。そこにこの体格で威圧感が凄まじい。
 けど性格はそんなことなく、明るく、話していて楽しい友人である。

 私とナオト、ユースケに紅一点のメイ。
 世界ががらっと変わっていく中、自然と私達は一緒にいて、生活をともにしていた。仲間というよりは家族と言った方がしっくりくるかもしれない。

サヤ「ですね。認められるにはもっと頑張らないと」

 彼らと暮らしていくためにも、評価をある程度は稼がなくてはならない。私たちがいる街はそういう場所だから。

メイ「早いものよね。世界が変わってから」

ナオト「英雄と魔王に魔物――魔の者の出現、『異界化』。人間に力が目覚めた『覚醒』。よくもこう目まぐるしく変わったものだよね」

 異界化。
 まず世界に訪れた異変。感じでなんとなくどんなことが起きたのか分かるだろう。

 異界化では大まかに分けて二種類の別世界の存在が、私たちの世界へとやってきた。

 一つ目。英雄と呼ばれる別世界の超人的な力を持つ人間や、その他の種族のヒーロー、有名人。
 この世界に元々住んでいた人間、つまり私たちみたいな『地人』が力を得ても尚、圧倒的な力を誇る存在であり、その目的は人それぞれ。
 彼らに一貫して言えるのは、死後この世界へ喚ばれている、ということ。
 別世界で生きていた記憶はあるようで、各々もう一つの人生を楽しんだり、平和のために敵と戦ったり、英雄によっては暴力や殺戮を楽しんだり――と本当に好き勝手している。
 その点は人間と何ら変わりない。けれどいかんせん力が強すぎるから厄介なものだ。

 そして二つ目。魔の者。
 魔王と呼ばれる恐ろしい力を持つ何者か。魔物と呼ばれる異形のもの。それら二つを総括して魔の者と呼ぶ。
 彼らは英雄、地人の共通の敵であり見境なしに襲ってくる野蛮な存在だ。

 と、異界化について説明すれば分かるだろう。世界は魔の者と英雄、超常的な力を持つ者たちの争いに巻き込まれ、一変した。
 魔の者に手当たり次第に襲撃され、科学なんてものは魔法の前に無力化。人口なんてどれだけ減ったのかも分からない。
 生き残った者にも勿論科学に通ずる知識人がいるだろうけど――英雄らは必要としていないようだ。

 で、もう一つの大きな出来事、覚醒。

 無力だった人間が力を持つようになった不思議な現象である。
 魔法を使えるようになったのは勿論、英雄と協力関係になりその力を得る契約『従者契約』もその頃発見されたらしい。
 やられるだけ、巻き込まれるだけの存在だった私たちに抵抗する力が身についた。と聞けばいいことのように聞こえるが、この出来事により世界はより大きな混沌に包まれた。
 平和のために戦う英雄と協力した従者。思うままに暴れる英雄と意気投合し力を得た従者。
 十人十色な英雄に様々な地人が味方につき従者になり、そこに魔の者らも加わり――それはもうひどい有様だった。
 それから世界の崩壊は順調に早まり、現在に至る。
 今日本には英雄が治める三つの国が北、中央、南に存在し、そしてその他集落が各地に点在する、ものすごく寂しい状態になってしまっている。
 地図にしたら凄まじい変化だろう。国と街、村の隙間がどれだけ空いていることか。県と市、街で埋め尽くされていた日本はもうどこにもない。誰にも治められていいない地が存在する――その違和感は今も受け入れられない。

ユースケ「こうなるともう文句も言ってられないな。嫌なもんだ」

ナオト「生きていくためには仕方ないさ」

サヤ「…」

 仕方ない。確かにそうなのだろう。
 でもこうなったのも英雄や魔の者、地人の悪人が大きな原因で…。

メイ「サヤ、どうしたの?」

サヤ「あ。なんでもないです。気にしないで」

 いけない。今は仕事中なのにぼんやりして。
 集中しないと――あれ?

サヤ「何か光っ――」

 廃墟群を抜けて木がちらほらと見えてきた草原。そのとある一本の木から微かな光が放たれた。
 ほんの数秒の出来事。違和感に呟いた刹那、強い風が吹いた。


全員『!?』

 多分、この場にいる全員が不意をつかれただろう。
 接近してくる風に反応することができず、顔を下に向け風がおさまるのを待つ。
 そして目を開き、顔を上げると――

小さな女の子「まったくだらしない奴らだ」

 見知らない女の子が私たちの中心にいた。緑色のショートヘアに盗賊みたいな露出度が高い服装。腰には短剣を差していて、その雰囲気ですぐ分かった。

ナオト「英雄!?」

メイ「そ、そんなどうして…!?」

小さな女の子「なんだ知らないのか」

 可愛らしい少女はその見た目に似合わない偉そうな口調で言い、平らな胸を張る。

 やはり、英雄。目に見える魔力は勿論、あんな容姿なのに強者であることが見ているだけでひしひしと伝わってくる。
 年齢は12くらい、だろうか。緑色の瞳をきらきらと輝かせ彼女は私たちのことを順番に眺める。
 …すごく可愛い。敵でなければぜひ頭とか撫でて愛でたいくらいだ。
 武器に手をかける私たちを見て、英雄はにやりと笑う。敵に囲まれてこの余裕。流石英雄。彼女もさぞかし名のある人――

リア「リア。伝説の盗賊団の頭領――の左腕。覚えておくがいい!」

 ――でもないみたいだ。微妙な立ち位置である。

サヤ「えっと…その英雄が何故ここへ?」

リア「ふっ。そいつらを見れば分かるだろう?」

無法者1「頭(かしら)!」

無法者3「流石頭! 俺らを見捨てなかった!」

ユースケ「そういうことか…まったく。英雄がついてるなんて聞いてないぞ」

 どうやらこの無法者を助けに来たらしい。
 悪い英雄か……これ依頼主に報酬追加してもらわないと。

ナオト「どどど、どうしよう!?」

メイ「落ち着いて。この人数よ?」

ユースケ「格上には盛大に狼狽えるよな、お前」

 ロープ片手に慌てるナオト。対してメイとユースケの二人は冷静に武器を抜き、構える。

サヤ「捕まえたのはどうします?」

ユースケ「ナオトに任せとけ。実力差はそいつらも分かってるだろ。魔法があれば捕縛も楽だ」

ユースケ「ほれ、縛っといたから押えとけ」

ナオト「え? あ、ええ!?」

 ユースケが持っていた縄の先を木に縛りつけ、全員が戦闘準備を完了。
 私も手甲を身につけ警戒。なにしろ英雄との戦いだ。

リア「英雄を前に冷静なものだ。面白い」

 組織のナンバー3でも実力は未知数。あの速度で動けるにも係わらず不意打ちをせず堂々と私たちの前に現れたのだ。
 油断すればあっという間にやられてしまうだろう。

メイ「どうってことないわ。従者があんな実力なんだから、英雄だってたかが知れてるし」

リア「従者? ああ、従者は私の仲間にはいない。面倒だからな」

ユースケ「面倒って…」

無法者4「頭ぁ! 頑張ってください!」

無法者2「俺ら応援してますから!」

無法者5「プリティお頭ぁ!」

リア「うっさい!」

サヤ「…なんとなく分かりました」

 調子が狂うというか、なんというか…。

サヤ「頭、ということはあなたも犯罪者。大人しく出頭してもらいます」

リア「いいだろう。地人が英雄に勝つことができるなら、な」

 楽しげに笑う彼女。武器である短剣を抜き、逆手に持つ。
 英雄との戦いは初めてではない。仲間のみんなも経験はある。が、こうして何の準備もなく遭遇するのは初めてだ。

リア「この世界にも退屈していた頃だ。さぁ、楽しませてくれ」

 英雄が動く。予備動作一つなく、前へ。驚く間もなくユースケへ肉薄する。

ユースケ「うおっ!? くそっ」ブンッ

リア「残念外れだ」

 接近に気づき振られた斧を、まるで予想していたかのように最低限の動きでリアが回避する。

サヤ「メイ!」

メイ「任せて」

 大振りの攻撃を避けられ隙だらけのユースケをサポートするべく、魔法を発動。それと同時に駆け出す。
 魔力を一点に集中させただけの攻撃だけど、注意を引くだけならこれで十分だ。
 魔力の弾はまっすぐリアへ。ユースケへ反撃しようとしていた彼女はそれを短剣で切り、いとも簡単に消滅させてしまう。あっさり防がれたがこれで良し。その間に接近したメイが決めてくれれば――

リア「遅い!」

メイ「えっ…」

 完全に命中するタイミングで突き出された剣を、リアがこれまた簡単に防いでしまう。
 魔力の弾を防いで振り上げた手を目にも止まらない速度で切り返し、剣の切っ先を逸らす。無駄のない動きに思わず感心してしまうほどだ。
 驚きに目を見開くメイはそのまま勢いを殺せずリアの横を通りすぎ、

ユースケ「よくもやったな、この――いってええ!?」

メイ「あ、ごめ――えぐっ!?」

 彼女の後ろに立つユースケを思い切りぶっ刺した。そこへリアがメイの背中へ蹴りを入れ、二人して転倒。
 人数はそれほど重要じゃないと言ったけどここまで華麗に倒されてしまうものか。

リア「次はお前だ」

サヤ「――っ」

 気づかれてた。二人がやられてる間に不意をつこうと近づいてたのに。
 拳を振り上げる私へと振り向き、不敵な笑みを見せる彼女。直後振られる短剣を、なんとか後ろへ下がって避ける。

リア「避けるか。――ふむ。お前は中々面白そうだ」

 メイとユースケは大丈夫だろう。ユースケ叫んでるけど。
 今は目の前の敵――この英雄をどう倒すか。

 ……正直、勝てないと思うんだけどそんなこと言ってられないよね。

 結果だけ伝えよう。
 仕事は成功した。仕事は。

サヤ「…」
メイ「…」
ユースケ「…」

ナオト「あ、あの…みんな。そんなに気にすることはないんじゃないかな。ほら、仕事うまくいったし」

 英雄に襲撃されて見事こてんぱんにされて帰りの馬車。その座席の空気は重苦しかった。
 荷台には捕まえた無法者たちがいる。中央国に帰れば依頼された分の報酬は支払われるだろう。
 けど、それは運が良かったからだ。普通ならばあそこで皆殺しにされていてもおかしくはなかった。

 英雄が私を叩きのめして、仲間を見捨てて去って…そんなことがなければ、歯医者はただ全てを奪われるだけ。簡単な現代のルールだ。

 そう。だから三人でかかって英雄に負けるなんて事実は私たちに重くのしかかった。

 世間では地人が英雄に勝つなんて有り得ないと思われているけど、私達は地人だけで仕事をしているのだ。あのレベルの英雄にすら勝てないのでは、今回みたいにいとも簡単に負けて最悪殺されてしまう。殺されずともひどい目にあうのは逃れられないだろう。メイは女の子だし尚更私たちがなんとかしないといけないのに。

メイ「英雄、あんなに強かったのね」

ユースケ「怪盗のナンバー3があそこまでやるもんかね」

サヤ「自信なくなってきました…」

ナオト「それは…そうだけどさ」

 励まそうとしてくれていたナオトも暗い顔をして考えこんでしまう。仕事をしなくちゃいけない。なのに実力が足りない。
 国にいるだけでも家賃、食材もそれ以外の金もかかるし、これでは私たちも盗賊をせざるを得ない状態に追い込まれてしまう。


ユースケ「…なぁ」

サヤ「どうしました?」

 手詰まり状態。沈黙に包まれていた車内で、ユースケが下を向いていた顔を上げた。

ユースケ「俺らも英雄と協力できないのか?」

 当然の応え。英雄に勝てないなら英雄と協力すればいい。
 平和を志す英雄とならば私たちもうまくやっていけるはずなのだ。でも。

メイ「そのために私たちは仕事してるのよね…」

ナオト「そうなんだよね…」

 英雄と協力するにはそれなりな評価が必要。今の私たちはただの国民と大差ないのだ。英雄の眼中にはないだろう。
 国で暮らすために仕事をする。仕事の危機を減らすためには英雄との協力が不可欠。その英雄に知り合うためには経験と実績、実力が必要で、そのためには仕事をしなくちゃいけなくて…どん詰まり。

ユースケ「けどなぁ、こう低難易度の仕事で英雄に出くわして戦って…今まで策で勝ってきたが…」

サヤ「正面からじゃ勝てないってことですよね」

ユースケ「ああ。手も足も出ない。これじゃ運任せだ」

メイ「そうよね…。悪い英雄を放ってはおけないし、サヤだって危険な目にあっちゃう」

ナオト「なんにせよ対策は必要だよね」

サヤ「我らが軍師さんがもう少し冷静だと助かるんですけどね」

ナオト「あはは…善処するよ。それは本当に」

サヤ「と、ナオトのせいにするのはあれですし――本格的に何か戦力の増強を考えないといけませんね」

メイ「そうね。帰ったらお店に行ってみる?」

ユースケ「武器の新調か? サヤなら武器より魔法の気がするが」

メイ「ええ分かってるわ。この間良さそうな魔法のお店を見つけたの。皆で行ってみない?」

 にっこりと笑い、さっきまでの暗い雰囲気はどこかに、機嫌よさそうにメイが問う。みんなとの買い物が楽しみらしい。女の子だなぁなんて和みつつ。

サヤ「いいですね。なにか手立てが見つかるかも」

ナオト「うーん、僕らは仕事の報告をしようかな」チラッ

ユースケ「だなぁ。人を荷台に置きっぱなしってわけにはいかんし」コクッ

メイ「え? 報告はみんなでしないの?」

ユースケ「いいっていいって。時間は有効に使わないとな。二人で見てこいよ」

メイ「そう? なら、お言葉に甘えて」

 意味深に目配せをして頷き合う二人。メイが渋々といった感じで頷くと、彼らはいい笑顔で私へと親指を立てた。
 …なんだろう。この、私に気を遣いましたみたいな。

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