終章のネタバレがあるような気がします
捏造全開の5年後ぐらい
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エルメロイ教室は魔術教会時計塔、現代魔術科に所属する教室である。
教え子を放置する魔術師も少なくない中で、実践的で分かりやすい授業に、様々な講師を招くことで若い魔術師達からの支持を受けている。
多くのOBが『色位』『典位』などの階位を持ち、在学生にも階位持ちがいる……ことで有名、らしい。
溜息一つ、深呼吸二つ。
……物々しい扉を前に、緊張していることが自分自身よく分かる。
しかし、このまま突っ立っている訳にもいかず。
覚悟を決め、ノックしようと拳を上げた、その時。
開いた。
扉が。
「……何をしているんだ? 君は」
「あはは……何だか、緊張っていうか……ここ、全体的に圧迫感がありません?」
「やれやれ……数多の死闘を潜り抜けた男の言うことか。それぐらい、早く慣れて貰わなくては困る」
「すみません」
「謝ることも無いが……まぁ、いい。よく来たな、私の教室へ。名乗りは必要か? 現代魔術論科学部長、ロード・エルメロイ二世だ。物分かりと筋の良い生徒しか歓迎はしないのだが……君の素質については、今更言うこともあるまい。君を歓迎しよう――」
「……新しい所長が来る、ですか?」
私ことマシュ・キリエライトがカルデアの所長代理となって、早数年……いえ、もう10年近く。
世界が平和になってから、それだけの時間が流れたことになる。
マイ・マスターは腕を磨いてくる、と言い残し時計塔へ向けて旅立って行き……最近では、あまり連絡が来ない。
風の噂で聞いたところでは、向こうでも何やらトラブルに巻き込まれているようだ。
少し寂しくもあるけれど……先輩らしくて、安心する。
「あぁ、そうらしいよ。何でも、今回はバリバリの武闘派の、若い男らしいけどね」
「ですが、この椅子をそう簡単に渡すことは出来ません。そうでしょう、ダヴィンチちゃん?」
「……そうだね」
私のような存在が所長代理を務めていること自体おかしいのだけど……ドクター・ロマニ・アーキマンを始めとするスタッフ達が守り抜いたこの場所を、権力で腐った魔術教会の道具にさせるつもりはない。
権力に溺れた魔術師達を追い帰し続ける事……何回になるだろうか。
最近では諦めたのかめっきりそういうこともなくなっていたのだが。
今回もいつも通り、お引き取り願おう。
決意を新たにするという訳でも無く、ただぼんやりそう考えていると、ダヴィンチちゃんはふっと顔を上げた。
「……来たみたいだね。これは早いご到着だ」
「そんなことも分かるのですか?」
「勿論さ。何故なら私は」
「万能の天才、ですからね」
「その通り」
感心こそすれど、驚きはしない。
何故なら、ダヴィンチちゃんは言葉通りの天才であることを私は誰よりも知っているのだから。
「ふむ……突然の来訪ではあるが、出迎えが無いのも失礼か。私が行ってくるよ」
「いいのですか?」
その言葉には少し驚いた。
ダヴィンチちゃんが会いもしていない人に興味を示すのは珍しい。
「うん、なんだか……予感がする。まさか、というような予感がね。口に出すのはまだ早いから、直接確かめてくるよ」
言うが早いか、ダヴィンチちゃんはひらひらと手を振って部屋から出て行ってしまった。
ダヴィンチちゃんの感じた予感……一体、何だろう。
とはいえ、私にはまだ業務が残っている。
まだ早い、とも言っていたので、その時期が来れば教えてくれるのだろう。
業務に戻ろう。
カルデアスの整備改善案。
シバの観測精度向上、燃費改善の為の改造案。
目を通さなくてはならない資料は山積みなのだから。
……コンコン、と扉がノックされた。
資料読みに集中していたので、どれくらい時間が経ったのかはわからないが……例の新局長がやってきたのだろう。
気は進まない、が。
資料を机の上に置き、どうぞ、と答える。
私の心を知る訳も無く、扉は軽快な動きで開かれた。
「お初にお目にかかります、ミス・キリエライト。私はロマニ・アニムスフィア。人呼んでロード・ロマン。魔術教会は時計塔、天体科の君主。魔術教会の命により、このカルデアの局長として赴任致しました」
それはいかにも魔術師らしい、黒のローブで顔を隠した男だった。
いかにも、というよりは……古めかし過ぎて、わざとらしい感じがある。
それに、そもそもこの声は。
「……先輩?」
「うん、まぁ、分かるか。久しぶり、マシュ」
ロード・ロマンと名乗った男はあっさりとフードを取り払って見せた。
その下から現れた顔は……幼さが抜け落ち、男性としての色気を身に着けていようと。
見間違えるはずも無く、マイ・マスターその人である。
「……お久しぶりです。先輩。187日振り、です。直接顔を合わせるのは2年103日振りです」
「拗ねてる?」
「拗ねてません」
「暫く連絡しなかったから」
「拗ねてません」
「そっか」
「はい。拗ねてません」
拗ねてません。
連絡が無かった位で寂しがるほど子供ではありません。
「ごめん。言い訳するつもりじゃ……いや、言い訳だな。色々あったんだ、ここ2年ぐらい……うん、色々。アニムスフィア家の再興を手伝おうとしたら、お家騒動に巻き込まれちゃって……部外者なんだけど、オルガマリー所長との縁もあるしさ。首突っ込んでたら、俺がロードになっちゃった」
「えぇ……?」
いまいち理解しがたいことをカラカラと笑いながら言いのけてしまう。
世界を救った男。
世界で一番サーヴァントの事を知るマスター。
……肩書通り、やはりスケールの大きい人だ。
「ロード・エルメロイ2世とか、遠坂家当主、そのボーイフレンドにも手を貸して貰って、なんとかかんとかやってたんだけど……多分、皆が裏で手を回してくれてたんだと思う。じゃないと俺がロードなんておかしいしね」
「ですが……ロードになったということは、時計塔での業務があるのでは?」
「そこはまぁ、肩書に無理言ってさ。元々カルデアはアニムスフィア家の管理する機関だから、何とかなったよ」
先輩は昔と同じ穏やかな笑みを浮かべて、近寄ってくる。
私も思わず立ち上がり、一歩近づいた。
向かい合う二人。
先輩は……少しだけ、背が高くなったかもしれない。
昔の私なら、きっと何の躊躇いも無く再会を喜び、肌が振れる距離まで近づいただろう。
だけど。
もう一歩が踏み出せない。
空白の時間と、照れと……少しばかりの拗ねた私が、最後のを一歩を止める。
「話は聞いてるよ。権力と地位狙いの奴らが天下りみたいなことしてたんでしょ? 俺もホントはもっと早く帰ってくるつもりだったんだけど、そう聞いたらそうもいかなくてさ。カルデアの権利諸々、掻っ攫ってきたよ」
「……え?」
「ドクターや所長達のカルデアを好き勝手させたくはないからね。でももう大丈夫。ロードの名に懸けて、手出しはさせない。これからは俺も、皆と一緒にカルデアを守るよ。勿論……その、マシュの事も。嫌じゃなければだけど……」
最後の言葉は語気が弱まり、目を逸らして、頭を掻きながら呟くように。
私の頭は活動停止。
頭の中で足をとどめていたもの全てが消えてなくなり、ずっと心の奥底に仕舞っていたものが爆発する。
「……先輩っ!」
広くなった胸の中へ。
飛び込む。
抱きしめる。
そこにいる事を、確かめるように。
私がここにいる事を、分からせるように。
「……寂しかったです」
「ごめん」
「私はどこまでもついていくと言ったじゃないですか……一人で戦えるほど、私は強くはないんです。それでも、ここで頑張ってこられたのは、いつか先輩が帰ってくると信じていたからなんですよ?」
「俺もだよ。マシュがカルデアを守る為に頑張ってるって分かってたから……俺も向こうで頑張れた。早く会いに行くために……これでも、結構頑張ったんだ」
「……ずるいです、先輩。そう言われたら、私はこれ以上何も言えません」
先輩の腕が私の背に回される。
温かい。
「……ごめん」
「謝ればいいと言うことではありませんからね、先輩」
胸の中で顔を上げ、ムッとした顔を作り抗議する。
「約束してください、もう置いて行かないと。もう私は我慢の限界です。次置いて行かれた場合は絶対に、地球の果てまででも追いかけていきますが……後々のトラブルを避ける為に。私を連れていくと約束してください」
「ああ、約束する。もうマシュを置いて、どこにもいかないよ。これからは、出来る限り、ずっと一緒に居たい」
頬が緩む。
先輩に抱きしめられている多幸感の中で不機嫌そうな顔を作るだけで難易度が高かったというのに、そこに私が欲しい言葉全てをくれたのだから。
「マシュ」
「はい?」
「髪、伸びたね」
「……遅いですよ、先輩」
「ごめ……じゃなくて、分かった。次からはすぐに言うよ」
「はい、お願いします。女性は繊細なんですよ?」
昔の私なら言わなかったような言葉が次々に口から溢れてくる。
何年も何年も我慢したのだから、もっと先輩に私を見てほしいという思いが止まらない。
顔は立派な大人の男性になっているのに、困った顔は昔のまま。
走馬灯のように、先輩と二人世界を駆けた記憶が蘇ってくる。
……私は腕を先輩の背から頭へと回し、引き寄せるようにして……唇を重ねた。
「……っ!?」
「すみません、こちらも我慢の限界でした」
目を見開き、顔を真っ赤にする先輩が愛おしくて仕方がない。
もう一度、今度は深く唇を重ねよう……そう思った瞬間。
「きゃっ!?」
足が地面から離れた。
膝の裏に腕を差し込まれ、体を持ち上げられてしまった。
私からは何の補助もしていないと言うのに、軽々と。
先輩はその瞳でジッと私を見つめている。
これまでは何とも無かったのに、カアッと頬が熱を産み、心臓が早鐘を打つ。
けれど……先輩の瞳から、目を逸らせない。
「今ので……俺も我慢の限界」
「は、はい」
「マシュ。もう……我慢しないけど、いいよね?」
「……はい」
私が頷くと、先輩は微笑み、そして、私を抱き構えたまま歩き出してしまった。
その首に手を回す。
あぁ、私はこれから、どうなってしまうのでしょうか。
その答えは、獣の様な笑みを浮かべる先輩だけが知っています。
あぁ、私はこれから、どうなってしまうのでしょうか――
終わりです
読んでくださった方がおられましたらありがとうございました
ガバガバだとは思うけどゆるして
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