【モバマス×龍虎の拳】リョウ・サカザキ「俺がアイドルのプロデューサー?」 (1000)



リョウ「すまんロバート、お前とは付き合いも長いが、言ってる意味がわからん」

ロバート「まぁ聞けやリョウ。実はワイは以前から密かにアイドル事務所を作ってみたかったんや」

リョウ「そうなのか、初耳だな」

ロバート「誰にも言ってなかったからな」



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ロバート「それでやな、こないだのガルシア財団の定例会で思い切ってこの案をぶち上げたんや。日本でアイドル事務所を設立してみてはどうかっ!てな」

リョウ「ほう」

ロバート「幹部全員猛反対。親父なんかワイのことアホ呼ばわりやで」

リョウ「まぁしょうがないんじゃないか」

ロバート「まぁそれでもワイも男やからな。ほんならエエわい!ワイが勝手にやったるわって啖呵切ってもうたんや」



リョウ「……それで?」

ロバート「まぁそういうわけで財団からのバックアップは一切なし。それでワイは自分のポケットマネーでプロダクションを設立したんや」

リョウ「それいくらかかるんだ……」

ロバート「聞きたいか?まず東京の都心に土地買って、ハコを作って……」

リョウ「いや、もういい」

ロバート「やから、基本的に予算がない。他所からプロデューサーも雇えんほどにな。そしてワイは社長として経営の方に専念せなアカンから動けない」

リョウ「……それで俺か?」

ロバート「そういう事や。いやでも全部お前にやらせる訳やないで?限られた資金の中から優秀な事務員も雇ったから、経理とか総務とかその辺はワイとその人に任せればエエ」


ロバート「せやから、お前に任せたいのはアイドルの女の子に付いてもらって送迎やらスケジュール管理やら心のケアやら、ようはお世話や」

リョウ「待て。……そこだ。ご存知の通り俺は今まで空手しかやってこなかった男だぞ?そんな男に年頃の女の子の世話が出来る訳ねぇだろう」

ロバート「いやいや。リョウ、お前はかつて師匠が失踪した後、状況がそうさせたとは言え、妹のユリちゃんを立派に育て上げたやろ。まぁ元々ユリちゃんは超絶可愛かったけど、それでもお前が育てたあの娘は今まさに世界の至宝とも言うべき可愛さを誇っとる。ワイの未来の嫁や」


ロバート「それはつまり、お前にはプロデューサーの才能があるっちゅうこっちゃ!」


リョウ「俺はただ、せめてユリには不幸な暮らしをさせたくなかっただけだ……」

リョウ「それに年頃の女の子なんてどう接すればいいのかわからん」


ロバート「何を言うてんねん、お前はキングに、それにあの藤堂の娘と、意外と女っ気があるやろ」



ロバート「それになんや、ワイにはお前が違う時空で乙女ゲーに攻略対象として出演しとるような気さえするんや……このワイを差し置いて」



リョウ「何を訳わからない事を言ってんだお前は……それにキングとはお互いにいいライバルというだけだし、藤堂のはあっちが俺を恨んでいるだけだ」


リョウ「それに俺はこう見えて親父から道場を任された身だぞ?日本に行って道場を空ける訳にはいかんだろ」

ロバート「おお、その件やったら師匠からはもう了解を得とるで」

リョウ「な、なんだと!?親父が!?」

ロバート「ああ……」



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前日、道場にて


タクマ「ならん!!」

タクマ「道場が代替わりしてこれからという時に、日本に行って、その、アイドルの、プロ……なんとかだと?」

タクマ「せめて武者修行にでも行くというなら考えてやっても良かったものの……アイドルだと!?」

タクマ「軟弱という他はない!!」

ロバート「まぁまぁ師匠、これはワイだけやなくて極限流全体に取っても有益な話でっせ?」

タクマ「……む?」

ロバート「まず、この事業で出た利益の5%は極限流に収めます」

タクマ「……」

ロバート「次に、極限流をスポンサー企業として、アイドルが露出した際には衣装に文字を入れたりして極限流をPRさせていただきます。いずれ日本で道場を開く時にはもう知名度抜群で入門希望者が後を絶たんでしょうなぁ」

タクマ「……」

ロバート「更に3つ目、これが重要。リョウを日本で事務所の経営に関わらせる事によって、将来の道場経営を盤石にさせます」

ロバート「これまでは極限流は師匠の卓越した!天才的な!経営戦略眼によってここまで成長した訳やけど、リョウはズブの素人や。そんな素人が訳も分からんまま経営に乗り出したところで生き残れる訳あらへん。いくら本人の空手の腕が立っても、今の時代、そんな甘くありまへん」

タクマ「……うむ」

ロバート「そこで、お勉強が必要なわけです。偉大なる師匠に一歩でも近づくために」

タクマ「うむ」


ロバート「……それに、あまり大きな声では言えまへんけど、日本でリョウのええ相手でも見つかれば、それは……」

タクマ「……極限流の世継ぎの誕生という訳か」

ロバート「さっすが師匠!理解がはようて助かりますわ!」

ロバート「極限流への収入と未来への開拓!まさに一挙両得ゆうヤツですわ!」

ロバート「さて。師匠、改めてこの、話……どないでっか?」

タクマ「……」

ロバート「……」

タクマ「ええい!ロバート、何を悠長にしておる!早く準備をせんか!」

ロバート「よっしゃ!」
ガッツポ



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ロバート「師匠は「リョウ、何事も経験だ!道場は儂に任せて日本に行ってくるが良い!」って言うとったで」

リョウ(親父……騙されやがったな……)

ロバート「ほらほらぁ、師匠の了承まで得とんのやからはよ決めてまえや~」

リョウ「う~ん……しかしだなぁ……」

ロバート(意外と粘りよるな……ほなホンマはこの手は使いたくなかったけどしゃーない)

ロバート「……はぁ、お前が手を貸してくれへんなら、もうユリちゃんの手を借りるしかないなぁ」

リョウ「……なに?」

ロバート「なんせユリちゃんはあの可愛さや。日本でアイドルやればもう人気爆発!ファン激増やろなぁ」

リョウ「おい、待て」

ロバート「そうなるとユリちゃんに言い寄るヤツも大勢現れて、業腹ながらこのワイから誰か得体の知れないバカみたいなヤツがユリちゃんを奪っていってしまうかも。ワイは社長業で忙しい訳やし」

リョウ「おい。こら」

ロバート「あぁ、悲しいなぁ、でも他に手は無いんやしな~誰かがプロデューサーになってくれればユリちゃんに頼まんでもええんやけど」
チラッチラッ

リョウ「くっ……」

リョウ「わかった!良いだろう!ロバート、極限流に不可能は無い!」

ロバート「よっしゃ!お前ならそう言ってくれると思っとったで!」
ガッツポ

リョウ「だが、いくつか条件がある。それは飲んでもらうぜ?」

ロバート「よっしゃ、ワイも男や、可能な範囲なら条件、飲ませてもらうで」


ロバート「それなら早速準備して日本に発つで。目指すは超一流プロダクション、そして財団のアホ幹部と親父に目にもの見せてくれるんや!」


リョウ「俺はそっちはどうでも良い」

リョウ・サカザキ
(ロバートに)人質に取られた妹を守るため 危険な業界
芸能界に乗りこむ・・・・


ロバート・ガルシア
リョウの親友、そして雇い主
リョウと共に(無理矢理)芸能界へ

芸能界で彼らを待ち受ける者は・・・


ART OF PRODUCE
龍虎のP

今日はここまで

東京

ロバート「……ここを曲がったところや」

リョウ「……ここか」

ロバート「そう、ここが今日からのワイらの城、ロバートプロダクション」


ロバート「通称6810プロや!」

リョウ「……なんだその、6810ってのは」

ロバート「そらお前6(ロ)8(バー)10(ト)やがな」

リョウ「いや、なんで数字にするんだ」

ロバート「なんか業界のお約束らしい」

ロバートプロダクション・事務所

リョウ「さすがに新築だけあって中は綺麗だな」

ロバート「あったり前やんけ!なんせここに女の子を、アイドル達を迎えるんや、小汚い事務所なんか流行らんで!」

ガチャ
???「失礼します」

ロバート「おっ、もう来とったか、ほれ、リョウ、挨拶や」

リョウ「どうも……ロバート、彼女は?」

ロバート「ほら、話とった事務員、千川ちひろさんや」

ちひろ「ロバート社長からお話しは伺ってます、事務員の千川ちひろです。これからよろしくお願いしますね、プロデューサーさん?」
ペコッ

リョウ「ああ、これはご丁寧に……リョウ・サカザキです。俺もロバートからお話しは伺ってます。大変優秀な方だと」

ちひろ「ふふ、ありがとうございます。ご期待に添えるように頑張りますね」

ロバート「まぁ話とった通り、大体の事務作業や経理業務なんかはこのちひろさんを頼らせてもらうことになるから、お前にはアイドルのプロデュースの方に専念してもらうで」

リョウ「千川さん、よろしく頼みます。……それでロバート、そのアイドルとも今日顔合わせするのか?」

ロバート「え?」

リョウ「ん?」

ロバート「いや、おらんで?」

リョウ「そうか、じゃあいつ顔合わせするんだ?」

ロバート「え?」

リョウ「は?」

ロバート「ウチのプロ、まだアイドル一人もおらんで?」

リョウ「いや、お前は一体何を言っているんだ」

ロバート「いやいや、別に一言も言うてないやろ、所属アイドルがおるなんて」

リョウ「いやいやいや、本当に何を言ってるんだお前は、アイドルいないのにプロダクション作ってどうする気なんだお前は」

ロバート「いやいやいやいや、そんなんスカウトしてきたらエエがな」



リョウ「スカウト?」

ロバート「せや、ここは日本の中枢都市東京。人は、女の子は星の数ほどおる」

ロバート「その中からこれぞ!って女の子を説得して6810プロに連れてくるんや」

リョウ「誰が?」

ロバート「そんなんお前に決まっとるがな」

リョウ「いやいやいやいやいや」

リョウ「そんなの無理に決まってるだろ!それこそお前がやるべきだろそれは!」

ロバート「何言うてんねん、アイドル発掘もプロデューサーの重要な仕事の一つやで?」

ロバート「それにワイはこれでもガルシア財団の次期当主なんや。街中で女の子に声かけてる所パパラッチに抜かれてみぃ、面白おかしく記事書かれて全部終わりやでホンマ」

ロバート「大丈夫やって、道場に人勧誘してきたことあったやろ?あんな感じやから大体」

リョウ「お前……覚えてろよ……」

ロバート「あっ、こんな話しとる場合やなかった。ちょっとこれから色々手続きがあるから、リョウ、お前は早速街でナンパ……もとい、スカウトをしてきてくれ!」

リョウ「マジでどうなっても知らねえからな」

ロバート「ほんなら夜になったらまた事務所に集合や!頼んだで!」
ダッ


リョウ「はぁ……」

ちひろ「ふふふ……大丈夫ですよプロデューサーさん」

リョウ「え?」

ちひろ「ロバート社長はああ見えてすごくプロデューサーさんの人を見る目に期待してるみたいですよ?「リョウが選んでくる娘なら多分間違いないやろ」って仰ってました」

ちひろ「それに、私もまだ少ししかお話ししてないですけど、プロデューサーさんの誠実そうな人柄、伝わりますよ」


リョウ「買いかぶりですよ……ですが、期待を受けているなら応えざるを得ない」

ちひろ「あっ、それと、社長からこれを渡すように言われてます……はい」
スッ

リョウ「これは……スーツ?オレンジの……」

ちひろ「ものすごく目立ちますけど、思い入れのある色だって聞いてます。だから、社長が特別に用意させたみたいで……」

リョウ「あいつ……」

リョウ「……」



リョウ「いやしかし目立ちすぎるだろこれは……」

いったんここまで

リョウ「それじゃあ行ってきます」

ちひろ「ふふ、スーツ、お似合いですよ。それと、人が沢山通るところだったら、駅前が効率がいいと思います」

リョウ「ああ、何から何までありがとうございます……駅前か、行ってみよう」


駅前広場
ワイワイガヤガヤ



リョウ(ここが駅前か……確かに人が沢山いるな……)

リョウ(女の子もたくさんいるが、手当たり次第に、という訳にはいかんだろう、これぞ!って言ってたしな)

リョウ(……ううむ、しかし俺にはどの娘にアイドルの才能があるかなんて全然わからん……どうしたものか)

リョウ(……)




~回想~


ロバート「大丈夫やって、道場に人勧誘してきたことあったやろ?あんな感じやから大体」


~回想終わり~

リョウ「……よし、これで行くか」

リョウ「……」
ジー

リョウ「……」
ジー

リョウ「……」
ジー




リョウ「……」

夜・事務所


ガチャ
ロバート「おう、お疲れリョウ!スーツ似合っとるやないか(笑)首尾はどうやった?」

リョウ「ダメだな、てんでなっちゃいない」

ロバート「お?なんやなんや、エラい気合い入っとるやないか、声かけたんか?」

リョウ「声をかけるまでにもいってない。それとも手当たり次第、声をかけた方がいいか?」

ロバート「お、おお?いや、誰でも良い訳やないからな、お前が納得するような娘に声かけてくれたらエエで」


リョウ「そうか……まったく、最近の若い娘というのは全然なってない」

ロバート「……ちなみに声をかける判断基準はどんなや?」

リョウ「体幹、歩き方、上半身・下半身の筋肉の総量……」

ロバート「待たんかい」

ロバート「なんやねん!?お前は空手家をスカウトしようとしてたんか?」

リョウ「いや、しかしお前が道場に勧誘する時と同じようにしろと……」

ロバート「勧誘の手段の話や!誰が勧誘の基準を空手に合わせろ言うたんや!アホ!」

リョウ「だ、だめか……」

翌日

ロバート「ええか、リョウ。スカウトするのは空手家候補やなくてアイドル候補や。判断基準も強くなりそうか、やなくて人気が出そうかやで。頼むでホンマ」

リョウ「わかった、わかった、何度も聞いた。行ってくる」


駅前広場
ワイワイガヤガヤ

リョウ(……)

リョウ(むぅ、ロバートはああ言ってはいたが、筋肉はともかく、歩き方や体幹は重要だと思うんだがな)

リョウ(アイドルも結局人に見られる仕事なんだから、顔とかだけでなく、雰囲気というか、動きが綺麗かどうかは大事なはずだ)

ワイワイガヤガヤ

リョウ(……中々いないもんだな、そんな女の子は)



???「……」
スタスタ

リョウ(むっ?今のは……)

リョウ「ちょっとすまない、そこの君、髪の長い……」

???「……はい?私ですか……?」

ピピー
警察「はい、そこの人ー、ちょっとごめんなさいね、あんたこのお嬢さんの知り合い?」

リョウ「え?いや、俺は……」

警察「お嬢さん、この人知り合い?」

???「え?いえ、今初めて会ったばかりで……」

警察「なに、お兄さん知らない女の子に話しかけてなにしようっての?近くに交番あるから、ちょっと一緒に来てくれる?」

リョウ「ま、待ってくれ、俺は……」

リョウ「……」



リョウ(そういえば俺、事務所のプロデューサーと証明できるもの持ってないぞ)

夜 事務所


ロバート「いや~すまんすまん。そういえばお前に名刺も携帯も持たせてなかったな」

リョウ「全く……千川さんが迎えに来てくれるまでずっと俺は交番内で針の筵だったんだぞ」

リョウ「終いには不法入国者じゃないのか、パスポートを出せと言われるしな」

ロバート「やからすまんって……せやけど、オレンジのスーツに金髪のあんちゃんが若い女の子に話しかけてたら、そら人さらいかなんかかと思うわな」

ロバート「まぁでも名刺も急いで作らせたし、携帯も持たせるから明日からは大丈夫や。操作方法は教えてもらったか?」

リョウ「正直よくわからんが電話の掛け方は覚えたぞ」

ちひろ「ええ、メールはまだ難しいかも知れませんが、電話はもう大丈夫だと思います」

ロバート「よっしゃ、これからはなんかあったらワイか千川さんに連絡するんやで」



リョウ「まるで子供の使いだな……」

リョウ「そういえば今日警察に捕まる前、綺麗な娘がいた」

ロバート「お?……いや、綺麗ってあれか?拳筋が綺麗とか上腕二頭筋が綺麗とかそういう話やないよな?」

リョウ「違う違う……歩き方が綺麗だった。ありゃきっと何かスポーツやってる」

ロバート「そ、そうか……で、顔は?」

リョウ「美人だった」


ロバート「そ、そうか!それなら明日はその娘がいたらまた勧誘を続けるんや。もちろん他に逸材がいたらそっちも忘れずにな」

とりあえずここまで

翌日

駅前広場
ワイワイガヤガヤ

リョウ(さて、昨日の娘には今日も会えるだろうか)

2時間後

リョウ(……!)

???「……」
スタスタ

リョウ(居た。歩き方ですぐにわかるな)

リョウ「……(よし、昨日の警察はいないな)」
キョロキョロ


リョウ「もしもし、すまない、そこの君、髪の長い」

???「あっ、あなたは、昨日の……」

リョウ「ああ、昨日は申し訳ない。ちょっと警察にな……」


???「あの、私に何の御用でしょうか?その……いかがわしい勧誘でしたら、お断りします」


リョウ「いや、違うんだ、きみ……」


リョウ「極限流に入門しないか?」


???「きょくげん……え?」



リョウ「……コホン。間違えた」

リョウ「改めて、アイドルをやってみないか?」
スッ

???「あ、アイドル?あっ、お名刺、ご丁寧にありがとうございます……」


???「ロバートプロダクション、プロデューサー、坂崎……亮、さん」

???「えっ、じゃあ本当に芸能関係の方なんですか?」

???(てっきり怖い仕事関係の方かと……)

リョウ(名刺良く見てなかったが何で日本名表記なんだ?)


リョウ「ああ、出来たばかりの事務所なんだがな」

リョウ「きみ、名前はなんて言うんだい?」

???「あっ……すみません、失礼しました」


美波「私、新田美波といいます。大学生です」


リョウ「美波さんか。いい名前だ」

リョウ「立ち話もなんだし、そこいらの……喫茶店にでも入って話をさせてくれないか?」

喫茶店

リョウ「すみません、緑茶を2つ……置いてない?じゃあ、ホットコーヒーを2つ」

美波「あ、ありがとうございます……えっと、坂崎さんはどうして私に声をかけてくれたんですか?」


リョウ「ああ……君、何かスポーツやってるだろう?しかも結構ハードなヤツだ」

美波「は、はい……大学でラクロスサークルに入ってます。でもどうしてそれを?」

リョウ「歩き方が美しかった。体幹がしっかりしてる証拠だな。それに動きに無駄もない。美しく歩けるってことはそれだけで人を惹きつける素質があるってことだよ」

リョウ(本当に極限流に勧誘したいくらいだ)

美波「あ、ありがとうございます……なんだかまっすぐ目を見てそんなこと言われると、照れちゃいますね」


リョウ「……だが、正直に話すとウチはまだ出来たばかりで所属アイドルがまだ一人もいない」


リョウ「つまり、これから本当に手探りの挑戦が始まる訳だ」

美波「そう、なんですか……」


リョウ「美波さん、きみは今幾つだ?」

美波「あ、19歳です。……もう、坂崎さん、いきなり年齢を尋ねるのは……」

リョウ「!?……ああ、失礼だったな、すまない。どうも俺はやっぱり女性の扱いというものを心得てないらしい」

リョウ「だが、さっきも言った通り本当に先行き不透明な事務所だ。しかも君も未成年なんだし、親御さんにも相談した方が良い」

リョウ「まぁそれも、今の時点で君が少しでもアイドルって仕事に興味を持っててくれれば、の話だけどな」


美波「……」

美波「わかりました。私、ぜひアイドルのお仕事、挑戦してみたいです!」

リョウ「!良いのか?即答してくれなくても、ご両親にも相談した方が……」


美波「もちろん、両親にも相談はしますけど、私、挑戦したいってお願いするつもりです」


リョウ「そうか、それはこちらも願ったり叶ったりだが……元々アイドルに興味があったのかい?」


美波「いえ、今まで考えたこともありませんでした」

美波「だけど私、今は色んなことに挑戦したいんです。さっき坂崎さんが正直に話してくれた、挑戦のお話し……それで私の可能性を見てみたくなったんです」

リョウ「そうか……自分の可能性を知るために挑戦、求道者なんだな、君は」

美波「……それに、坂崎さん、少し怖い人かと思ったけど、話してみるとすごく真面目そうな感じですし……」

美波「ですから、私、アイドル挑戦してみたいですっ!」





リョウ「じゃあ、ご両親に話して、もしOKならその名刺の番号にかけてくれ。もしくは事務所の住所に来てくれても良い」


美波「はい、今日はお話し聞かせてもらえて良かったです。ありがとうございました」

リョウ「こちらこそ……あ、美波さんは先に出ていてくれ、ここは俺が払うから」


美波「えっ……じゃあお言葉に甘えちゃおっかな、ご馳走様です、坂崎さん」

リョウ「なに、たかだかコーヒーの一杯……」

店員「ホットコーヒー2杯で、2,160円になります」

リョウ「……なんだって?」

リョウ「こ、コーヒー2杯で、2,160円!?」

リョウ「じゃ、じゃあ一杯で1,000円てことか!?そ、そんな馬鹿な……」

美波「あ、あの、坂崎さん?だ、大丈夫ですか?」

リョウ「だ、大丈夫……大丈夫だ……」
ガサガサ

リョウ「……」
プルルル
リョウ「……」

リョウ(ロバートにも千川さんにも繋がらない……!)

店員「あ、あの、お客様?」

リョウ「……」

リョウ「……すまない、美波さん」

美波「は、はい?」


リョウ「お金貸してくれないか……?」


美波(……や、やっぱり大丈夫かなこの事務所……?)

いったんここまで

夜 事務所

ロバート「はぁ……」

ちひろ「ふぅ……」

リョウ「……」

ロバート「喫茶店に連れ込んだまでは褒めといてやるわ。まるで熟練のナンパ師のようや。流石乙女ゲー経験者や」

リョウ「だからなんなんだその乙女ゲーってのは……し、しかし誰も電話に出てくれないから……」

ロバート「けどお前、スカウト中の女の子に借金てお前……情けなさ過ぎて涙出るでホンマ」

ちひろ「さすがにちょっと……」

リョウ「だ、だが!コーヒー一杯で1,000円もするんだぞ!?確かにちゃんと値段を確かめてなかった俺が悪いが、1,000円だぞ!?信じられるか!?豪勢なメシが食えるぞ!」


ロバート「東京やったら大体そんなもんやろ……まぁサウスタウンの片田舎でタダ同然のやっすいコーヒーしか飲んだことないリョウには信じられへんか」

リョウ「そもそも喫茶店でコーヒーを飲むことが殆どない」

ロバート「はいはい……田舎モンのリョウが頑張って女の子の前でナウでヤングなシティー派を気取った結果やんなこれは。はいはい、よう頑張りました」

ちひろ(ナウでヤング……死語?)

ロバート「はぁ……けどその女の子……美波ちゃんやっけ?連絡かけて来いひんやろな……契約前にプロデューサーが借金頼んでくるとか、どんな事務所やねんって話やで」

ロバート「それで来てくれたらその娘は菩薩か慈愛の母神かなんかやで」

リョウ「ううむ……」

ロバート「まぁ過ぎたモンはしゃーない、明日からは一応接待費を少し持たしたる
から、それでスカウト続けてくれや。……もう、ほんと頼むで」


リョウ(最初から持たしてくれてれば良かったんじゃないか……)

翌日

リョウ「名刺、持った、電話、持った、サイフ、持った」

ちひろ「あっ、プロデューサーさん、ネクタイ曲がってますよ……これで良し、と」
キュッ

リョウ「ああ、すまない千川さん」

ちひろ「いえいえ……あれ?事務所の前に女の子が立ってますよ?」

ロバート「なに?どれどれ……ほほー、エラい別嬪さんやん!リョウ、この際や、スカウトしてまえ!いや、リョウには荷が重いか、ワイ直々に口説き落として……」

リョウ「あれは……美波さん?」

ロバート「え?」
ちひろ「え?」

夜 事務所


ロバート「オホン、あー。えー」
ロバート「それでは記念すべき我が6810プロ、アイドル一期生誕生を祝しまして……カンパーイ!」

リョウ・ちひろ・美波「かんぱーい」

ロバート「いや~それにしてもホンマ仰天したで!まさかあの流れでウチの事務所に来てくれるとは!」

美波「結局、パパを説得するのに時間かかっちゃいましたけど……最後は私が押し切っちゃいました」

リョウ「……勧誘した俺が言うのもなんだが……本当に良かったのかい?」


美波「ええ、良いんです!た、確かにお金の事は驚きましたけど……坂崎さんのお話しを聞いたときの胸の高鳴り、坂崎さんに感じた誠実さ……嘘じゃないって、胸を張れますから!」

ロバート「ホンマになぁ……いきなり借金せびってくるようなヤクザみたいな男にこれだけ信頼を置いてくれるなんて、美波ちゃんは女神……そう!6810プロの女神や!」

美波「も、もう……そんな、やめてください」///

ロバート「くっあーーーーーーーっ!!この初々しい反応!めっちゃテンションあがってきた!」

ロバート「こんなエエ娘をスカウトしてこれるとは、これはリョウに任せたワイの慧眼やろなぁ」

ロバート「よっしゃ、今夜は飲むでぇ!もしもし、カーマンか?大至急事務所にあの秘蔵ワイン持ってきてや!」


リョウ「俺はそんなに飲めんぞ……」

美波「あの、私未成年ですので……」

ロバート「ええええ!?そないな悲しいことあるかぁ……?ちひろさんは!?ちひろさんは付き合ってくれるよなぁ!?な!?」

ちひろ「もう、しょうがないですね……程々にですよ、社長?」



ロバート「よっしゃ!!ほんなら今夜はワイの奢りや!飲んで食って、派手にやったるで!」

今日はここまで




ロバート「う~ん……ユリちゃん……ユリちゃん……」
グター

ちひろ「ああ、社長……もうこんなになるまで飲んで……」

リョウ(……千川さんも同じくらい飲んでなかったか?)


ちひろ「プロデューサーさん、社長は私がお世話しておきますから、美波ちゃんを駅まで送ってきてくれませんか?」

リョウ「そうだな、これ以上は時間が遅くなってしまう」


美波「あ、でもまだお片付けが……」

ちひろ「美波ちゃん、大丈夫ですよ。後は私がやっておきますから」

美波「でも……悪いですそんな」

リョウ「美波さん、大丈夫だ。君を送った後で俺も手伝うから」

美波「……それじゃあ、すみません、よろしくお願いします」



ロバート「う~ん、お尻は……お尻はアカンユリちゃん……」

路上

リョウ「美波さん、今日は急に悪かった。ロバートがどうしてもパーティ開きたいって聞かなくてな」

美波「いえ、とっても楽しかったです。みなさん本当に良い人たちで……坂崎さんと社長さんはもうお付き合い長いんですか?」

リョウ「ああ、もうガキの頃からの付き合いだよ」

美波「やっぱりそうなんですか。ふふ、なんだか親友って感じでとても良かったです」

リョウ「……そうかい?まぁ確かにあいつはあの通りお調子者な所はあるが、信頼してる。それに、お互い刺激しあえる良いライバルだ」

美波「親友であり、ライバルですか。……とっても素敵だと思います、そういうの」



チンピラ「はいはいはい!そこまで!お二人さん、男女仲良くご帰宅中かい!?」
パンパンパン

チンピラB「か~っ!良いなぁオイ、俺たちゃこの通り野郎3人でむさ苦しくてしゃーないんだよ!野郎伝説ってか!アハハ!」

チンピラC「そういうわけだからさぁ、お姉ちゃん、この寂しい野郎たちを慰めてくんない?」


リョウ「……」

美波「な、なんですか?大きな声を出しますよ……!」
ビク

チンピラ「……お?暗くてよく見えなかったけど、お姉ちゃん激マブくね?」

チンピラB「おお、ホントだすげえ!こりゃツイてるぜ!」

チンピラC「おう、男の方は痛い目見たくなけりゃさっさと帰れや」
シッシッシ


リョウ「帰るのはお前たちの方だ。今なら聞かなかったことにしとくぜ?」

美波(さ、坂崎さん!?)

チンピラ「んだ、コイツ?おい、もうめんどくせぇからやっちまおうぜ」

チンピラB「そうだな……女の前でカッコつけたかったんだろうが、バカなやつだな、おめぇ!」
バッ

美波「!!」



チンピラB「……」
フラッドサッ

チンピラ「……あん?」

チンピラC「おい、何ふざけてんだよ急に倒れて」

リョウ「なんだか知らんが、そいつは気分が悪いんじゃないか?病院に連れて行ってやったらどうだ」

チンピラ「なんだコラ、てめえ何かしやがったのか、こら……」
ドサッ

チンピラC「な、ななな、なんだこりゃあ!」



美波「……!!」

リョウ「お前ら飲みすぎだよ。お前、元気なら2人の面倒みてやれ」

チンピラC「は、はひ……」

リョウ「行こう」

美波「は、はい」





リョウ「夜の東京ってのは俺が思ってたより危険みたいだな」

美波「あ、あの、坂崎さん、ありがとうございます」

リョウ「ん?いや、さっきのはあいつらが勝手に酔いが回ってきて潰れただけだろう、礼を言われるようなことはしていないよ」


リョウ「それより、駅まで着いたが、本当にここまでで良いのか?家まで付いてた方が……」

美波「いえ、住んでいるところは駅から降りてすぐなので……坂崎さん、本当に今日はありがとうございました。……それと、美波で、良いですよ」


リョウ「ん?」

美波「呼び方。さん付けは、なんだか他人行儀みたいですし」

リョウ「そ、そうか。じゃあ、美波。おやすみ」

美波「はい。おやすみなさい、坂崎さん」





美波「……」

美波(さっき、ちょっとだけ見えちゃった……坂崎さんの手が怖い人たちの顎にほんの少しだけ触れるの)

美波(あの人……ホントはすごい人なのかも……)

事務所

ガチャ
リョウ「戻ったぞ……ん?」

ロバート「……ほんでな、ユリちゃんの素晴らしいところその221なんやけどぉ…」
グビグビ
ちひろ「……は、はい……」
ゲッソリ


リョウ「どういう状況なんだこれは……」

翌日

ガチャ
ロバート「お~~~っす……はぁ、頭いったいわ……」
ガンガン


ちひろ「おはようございます……昨夜は社長、お楽しみでしたので」


リョウ「おはよう……ったく、飲みすぎだぞロバート。あの後も大変だったんだからな、千川さんに礼言っとけよ」

ロバート「ちひろさん、えろう、すんまへん!」


ロバート「あっ、それはそうとなリョウ。昨日の晩、美波ちゃん送っていく時なんやチンピラに絡まれたらしいな?」

リョウ「お前、ちゃんと聞いてたのか……あんなぐでんぐでんだったのに……」

ロバート「アホ、社長いうのはな、どんな状況にあっても大事な情報は聞き逃さない、忘れないヤツがなれるんや」

ロバート「……せやけどな、リョウ。まぁ当たり前の話やけど、今後お前は一切喧嘩禁止や」

リョウ「……だが、ロバート、昨日の晩は」

ロバート「あ~わかっとるわかっとる。大方チンピラ共が一方的に美波ちゃんを狙ってカラんできたんやろ?別嬪さんやしな、あの娘」


ロバート「せやけど、お前は今はプロデューサーや。もし相手が100%悪いとしても、それをお前が殴り倒したなんて話が業界に知れ渡ったら、それで迷惑が掛かるのは美波ちゃんたちお前の担当アイドル達や」

リョウ「……」

ロバート「それでなくてもお前はそんな風貌なんやから……とにかく外聞には気を遣え。ええな?」

リョウ「……ああ」

ロバート「そんで、まぁ昨日の夜みたいな事が起こった時の事やけど、今後は夜アイドル達が外出る時にはカーマンを護衛に就ける」

リョウ「……いいのか?確か財団の力は今回使えないはずじゃなかったか」

ロバート「そこは問題あらへん。カーマンは現在の肩書上はワイ個人の直属や。まぁ、といっても本人も親父への報告もあるやろうからなんでも頼み放題という訳にはアカンけど、有事の護衛くらいは大目に見られるやろ」

ロバート「ほんで、カーマンがいない時にカラまれたら、基本的には逃げるか、警察を頼れ。もう身分証明できるものを持ってて、契約したアイドルと一緒にいる以上、流石にいきなり連行されることはないやろ」


リョウ「わかった。そうしよう」


ロバート「ああ。……おっと、リョウ、見損なうなよ?ワイもお前がそんな自分勝手に喧嘩して回るような奴とは思ってへん。あくまで、アイドル達のためや」

リョウ「ああ、わかってる。今日も引き続き街でアイドルをスカウトって事で良いのか?」


ロバート「ああ、そうやな。とりあえずプロダクションとしてはあと4名……計5名のアイドルを抱えたいと思っとる。そのための人員確保、頼んだで、リョウ」

いったんここまで

駅前広場


リョウ「ちょっとそこの君……アイドルに興味は無いか?」

女の子「ごめんなさい、急いでるので」


リョウ「ちょっとそこの君……アイドルに興味ないか?」

女の子「ナンパならどっか行ってよ。アイドル?私にはそんなの無理だから……」



リョウ「そこの君……アイドルになってみないか?」

女の子「ヤダー、なにそれナンパ?俺だけのアイドルになってくれないかってか?キモーイ」

リョウ「そこのお嬢さん……アイドルに……」

女の子「ひぃ……やめてくださいごめんなさい!!」
ダッ


リョウ「……」



リョウ「極限流に入門しないか!?」

女の子「キャアアアア」

リョウ「……だ、だめだ……誰も話をロクに聞いてくれない……」

リョウ「やはり美波をスカウト出来たのは奇跡だったのか……」




???「……おい?あの金髪ヤロー……」

???「ああ、あのド派手なオレンジスーツ……間違いねーよ」

リョウ(う~ん……どうしたものか……)

チンピラ「おい!そこのオレンジヤロー!」
ブルンブルン

リョウ「!!……お前らは……」

リョウ(バイクで……)

チンピラB「昨日の夜はズイブン世話になっちまったなァ……あぁん!?」
ボボボボ


リョウ(なんてこった……ついてないな……)

リョウ「あ~……何かな?初対面じゃないかな?」

チンピラC「てめェ、自分の恰好見てとぼけろや!てめェみてーのが2人も3人もいてたまるか!」
ブルンブルン

チンピラ「昨日の夜のねえちゃんはいねえみてぇだな……残念だがまぁとりあえずお前をぶちのめせればそれで良い」

チンピラ「アニキ!やっちまってください!」



アニキ「俺の可愛い後輩たちが世話になったみたいだな」
ボボボボ

リョウ(でかいな)

リョウ「おい、こんなしょうもない事やってないで、極限流に入門しないか?」

チンピラ「は?」
チンピラB「なに訳わからないこと言ってんだこいつ」

アニキ「なにをいってんのかわからないが、俺にボコボコにされるか、有り金全部出すか、昨晩一緒にいたっていう女を呼べ」

リョウ(なるほどな……これはロバートの言うとおりだ……俺が迂闊だったな)

リョウ(……美波たちに迷惑をかけちまう)

チンピラC「言っとくがこっちはバイクだ!逃げられるなんざ思わねぇことだな!」

リョウ(……しょうがねぇな)

リョウ「金は出せないし、あの娘を呼ぶこともできない」

アニキ「ほう……じゃあ俺様のサンドバッグになるってことで良いんだな……良い度胸だコラァ!!」
ドゴッ
リョウ「!」

チンピラ「ヒュー!決まったぁ!アニキの即殺ボディブローだーーー!」

チンピラB「はい死んだ!死んだよこれ!」

アニキ「……!!!」

アニキ(か、かてえ……!)

アニキ「て、てめえら!ボサッと見てねえで全員でシメちまうぞ!」
チンピラC「!?……は、はいアニキ!」

ボコッガッドカッ

アニキ「ゼー、こ、この野郎、ゼハー、ヒュー……」

リョウ「……」
ペッ

チンピラB「か、かてぇ……なんだこいつは……砂鉄かなんかで出来てんのか」
ゼーハー

アニキ「ち、ちくしょう、いい加減[ピーーー]やコラァ!」
グワ

ブブブブ
???「おう、いい加減その辺にしときな!」
ザッ

チンピラC「な、なんだテメェは!?」

???「ハッ、てめえらみたいな無抵抗の一人を寄ってたかってフクロにするようなクソヤロー共に名乗る名なんて無ぇよ」

アニキ「おうお嬢ちゃん……無関係なんだから首を突っ込んでくんなよ……!」

???「確かに無関係だよ。だがよ、コイツがオメーらになにしたか知らねえが、ヤキなら十分入れたはずだ。お前らがコイツをフクロにするとこ、ずっと見てたんだぜ?」

アニキ「お嬢ちゃんいい加減に……」

アニキ「……よく見てみたら、可愛い顔してんじゃねえか。どうだ?コイツを許す代わりに俺の女になるってのは……」
スッ

???「ハッ……」

???「ナメんじゃねぇ!!」
ズゴッ

アニキ「-----------!!!」

チンピラ「き、金的ーーー!」
チンピラB「あ、アニキーーー!!」

拓海「この向井拓海、テメエみてぇなクソのスケになるほど墜ちちゃいねえ!いっぺんタマァ潰して出直してきやがれ!」

アニキ「」

チンピラC「け、結局名乗ってんじゃねえか!」

チンピラ「ちきしょう、引き上げだ!!向井拓海、そのツラと名前覚えたぞコラァ!」

チンピラB「俺たちゃ泣く子も黙る最凶グループ、腐礼最愛(ぷれいもあ)の一員だぜ!終わったなお前らぁ!」
ブブブブブ

拓海「ケッ、去り際までうるせえ奴らだ」

リョウ「すまない、ええっと向井さん?助けられちまったな」

拓海「……あん?別にあんたを助けたわけじゃねえよ。あいつらがただ目障りだっただけだ……ていうかあんたそもそも全然堪えてねぇじゃねえか」

リョウ「もしそうだとしても、助かった。ありがとう」
スッ

拓海「……なんだこりゃ、名刺……?」

拓海「……ふーん、あんた、アイドル事務所のプロデューサーやってんのか。その厳つ過ぎる風貌でどんな仕事やってんのかと思えば」

リョウ「ああ、助けてもらっていうことでもないが、君、アイドルに興味は無いか?」

拓海「へっ……そんなもんに興味があるように見えるかよ?今のアタシはコイツ(バイク)と、喧嘩……それにしか興味はねえよ」

拓海「喧嘩は良い。相手をぶちのめしてる間は、嫌な事を全部忘れさせてくれる……」


リョウ「……改めて、助けてもらって言う事じゃないが、誰彼構わず喧嘩を仕掛けるのは関心しないな?……憎しみを相手にぶつけるだけの拳は、いずれ自分も周りも傷つける」

拓海「あぁ!?テメェも周りの大人達と同じこと言うのかよ!あんだけ殴られてお返しの1発も返せねぇ腰抜けが!!」

拓海「良いか!?拳ってのは殴るより殴られる方が痛ぇんだ。それでも喧嘩してんだから、余計な事を言うんじゃねぇよ!」


リョウ「それは違う。君はまだ殴る本当の痛みを知らないだけだ。君は喧嘩が強いのかもしれないが、それは本当の強さじゃない。殴る方と殴られる方、両方の、その本当の痛みを知らないうちは、な」


拓海「なんだよ、それ……なんだよ殴る方の痛みって……訳わかんねーよあんた……」

拓海「……なぁ、あんた。本当はさっきの奴らなんて、何とも無かったんだろ?アタシだって、長い事喧嘩やってんだから、わかる。あんた、相当強えんだろ。なんでやり返さなかったんだ?」

リョウ「大事なものを守るためだ」

拓海「大事なものを……守る……?」

拓海「その大事なモンってのはてめーの身や面子よりも大切だってのか……なんなんだよそりゃ……」

リョウ「それが知りたければウチの事務所を一回見に来い。すぐにわかる」

拓海「……ケッ、誰が見に行くか、そんなもん!」
バッ

拓海「あいつら……紅蓮合理(ぐれごりー)とか言ってたか、あいつらの仲間がまだ近くにいるかも知れねぇ。このまま殴り返さねえつもりなら、せいぜい死なねぇよう気をつけろよオレンジ野郎!」
ブルルルルル

リョウ「……行っちまったか。なんだかんだ言ったって優しいじゃねえか。だったら判ってるはずだ、殴る方の痛みも、殴られる方の痛みも」

夜・事務所

ちひろ「……はい、これで手当て終わりましたよ」

リョウ「すみません、千川さん」

ロバート「全くいつの時代のチンピラやっちゅうねん。まさか日本に来てまでジャックみたいな奴らの話を聞かされるとは思わんかったわ」

リョウ「ロバート、それは違うぞ。今日の連中は信念も何もない唯の無法者だったが、ジャックには誇りがあった。どちらかというと、向井拓海、彼女の方がジャックに近いだろう」

ロバート「へいへい、そらすんまへん」

ロバート「しかし、そのプリキュア?クレイモア?やっけ、そんな奴らが居るならしばらくは街中でのスカウトは避けた方がエエかもな」

ロバート「それと、軽傷とはいえお前もケガしてるし、美波ちゃんもしばらく試験期間で事務所に出て来れんらしいし、明日はオフにしたるわ」


リョウ「良いのか?俺は別にこんなケガはケガの内に入らないぜ」

ロバート「こっち(東京)に来てからずっと働き詰めやったし、いくら体力バカのお前でもボチボチ疲れも溜まっとるやろ。エエから気にせんと明日は休めや」

リョウ「しかし、アイドルの人員数が……」

ロバート「ああ、それやけどな。スカウト以外でもアイドルを雇う計画を進めとる。それは決まったらまた連絡するわ」

ロバート「まぁとにかく休めるうちに休んどいた方がええで。今後はもっと忙しくなるんやからな」

今日はここまで

翌日

事務所内 
レッスンルーム

リョウ「……」
コホー

リョウ「……」


リョウ「破ッ!」
ズン

リョウ「……」
コホー

リョウ「……千川さん、どうぞ」

ちひろ「……気付いていらしたんですね、すみません、お邪魔してしまって」

リョウ「いや、良いんです。千川さんも今日は非番でしょう?何かありましたか?」

ちひろ「ええ、少し整理しておきたい書類がありましたので」



ちひろ「それよりもプロデューサーさんはわざわざ鍛錬される為に休日に事務所まで?」

リョウ「ああ、いや、俺ここに住んでるんですよ」

ちひろ「え?」

リョウ「おや?言ってなかったっけな、ここの仮眠室で普段寝泊まりしてます」

ちひろ「そ、そうだったんですか」


ちひろ(道理で朝事務所に行くと必ずプロデューサーさんが一番乗りな訳ですね……住んでるんですもの……)


ちひろ「……あれ?そういえばこのレッスンルームの端の方って……何か床が違いますね」


リョウ「ええ、この部分だけ、空手道場と同じ物を使ってます」

リョウ「ロバートにプロデューサーになるのを請われた時、幾つかの条件を出しました。これがそのうちのひとつです」

リョウ「プロデューサーになったとはいえ、鍛錬を欠かす事は出来ません。なので朝起きた後と夜寝る前……一日最低2回はここで鍛錬です」

ちひろ「プロデューサー業務に加えて鍛錬ですか……す、すごくハードですね……」

リョウ「むしろ全然足りないくらいです。時間が限られている分、集中して質を上げなきゃならない」

ちひろ「……あっ、じゃあ事務所の前に停めてある大型バイク、あれも」


リョウ「ええ、あっちからの持ち込みです。あれがロバートに出した条件のふたつ目」

夕方



ブルルルルルルル
リョウ(久方ぶりのバイクだな。どこも悪くなっていないようで良かった)


ブルンブルン
リョウ(ん?後ろから、バイクの集団が……)
リョウ(やる気か、面白い……相手になってやるぜ!)

ボボボボボボ
ブルンブルン

???A「な、なんだぁあのアメリカン!はええ!」

???B「アメリカンの癖に曲がり良すぎだろ!フツー擦るだろ!」

???C「こ、これじゃあ張り合えんのはウチじゃあ……」

ブルンブルン
???「面白え!アタシがブチ抜いてやるよ!」

???A・B・C「そう、姉御だけ!」

ブルンブルンブルンブルン
リョウ(なんだ?一台だけ突出してきて……!?)


???「うぉりゃあああああ!!」
ギャギャギャギャ

リョウ「バカな!死ぬぞ、無茶だ!」

???「……んりゃあああああ!!!」
ズギャアアアアア

???A「……倒れない!」

???B「出たぁ!姉御の超必殺技、『ほぼ直角爆裂ドリフト』だあああ」

???C「ブチ抜いたーーーー!!姉御の勝ちだーーー!!」

???「イィーーーーヤッハァァァーーー!!」
ズギャアン

リョウ「なんて奴だ……」
ブロロロ


???「……よう、アタシには及ばないものの、中々いい走りだったぜアメリカン」

リョウ「ああ、負けたよ」
リョウ(女性だったのか……というより凄い恰好だな)

???「ああ、熱い勝負だったぜ……よっと」
バサッ

拓海「あ~~あっちぃ」
パタパタ

リョウ「き、君は……!」

拓海「あん?」

リョウ「……」
カポ

拓海「……!!て、てめェは!昨日のオレンジ野郎!」

子分A「姉御、知り合いっすか」



拓海「……まさかアンタもバイク乗りだったなんてな。言えよ」

リョウ「ああ……君はこの、レディース?のリーダーを務めてるのか」

拓海「ああ、改めて自己紹介するぜ、特攻隊長向井拓海だ」

リョウ「ああ、改めて、俺は極限りゅ……ロバートプロダクション所属プロデューサーのリョウ・サカザキだ」


拓海「……?何で名前と苗字逆に言うんだ?芸名か?胡散くせーの」


リョウ(……なるほど、そういう事か)

拓海「それにしてもマブいバイクだな。アメリカンは詳しくねぇけど、手が込んでるってのだけは理解(わか)る」

リョウ「……そ、そうか!?実はなこのバイク、昔捨ててあったのを拾って少しずつレストアしていってだな……!」

拓海「マジかよ!?それどんだけ手が込んでんだよ」
ワイワイ

子分B「……なんだか気が合うみてーだな」

子分C「だな」



拓海「……っとずいぶん話し込んじまったな、もう夜だぜ」

リョウ「おっとそうだな、すまない、つい熱が入っちまった」

拓海「気にすんなよ。アタシたちはもう熱い勝負をした仲だろ?まぁ……ダチってヤツだ!バイク乗りに根っから悪いヤツはいねぇしな!」ニカッ


リョウ「!……この流れで言うのは気が引けるが、昨日渡した、名刺の件……ちょっと考えてみてくれないか?」

拓海「あー……アイドルか。……わりいけどやっぱ遠慮しとくよ。まぁアンタがそんなに熱心に誘ってくるんだ、興味が全く無い訳じゃねえんだけどさ……でもやっぱ、今のアタシは、こいつらと一緒に走るのが一番楽しいんだよ」

リョウ「……そうか、野暮言ったな。だが、名刺は取っておいてくれ。そして……いつか話だけでも聞きたくなったら、連絡をくれ」

拓海「ああ、そうさせてもらうぜ……ん?なんだありゃ?」

ブンブンブンブンブンブン
リョウ「大量の……バイクの集団?」

今日はここまで

ブンブンブンブンブンブン
キキッ

アニキ「……」

拓海「てめえは、昨日の!」

アニキ「探したぜ……向井拓海さんよぉ」

拓海「……ずいぶんお早い再登場じゃねぇか。こんなに人数引き連れてもうお礼参りに来たのかよ」

アニキ「ケッ……昨日のあの不意打ちで勝った気になってんのか。……だが、この人数差でお前らフクロにしたところで何も面白くねぇ」

拓海「なんだと……」

アニキ「そこで、だ。改めて向井、テメェにタイマンを申し込む……今度は不意打ちなしの正々堂々、だ……そうすりゃ本当はどっちが強ぇのか解るだろう」

拓海「!?」

リョウ「!」

子分A「う、嘘だ!てめぇらタイマンとか言っといて、私らフクロにする気だろうが!」

チンピラ「ウチのアニキがそんな姑息な手使うワケねーだろうが!」

チンピラB「そうだ、黙ってろドブスが!」


子分A「ど、ドブ……」

アニキ「ああ、もちろん怖いなら断ってくれても良いんだぜ?……そうすりゃ今後テメェはタイマンから逃げたチキンとして、二度とでけえ顔出来なくなるだけだ」

拓海「……」

拓海「……誰が逃げっかよ。タイマン上等だコラァ!買ってやるよ、その喧嘩!」

子分B「あ、姉御!?」

子分C「絶対罠ですぜこりゃあ!」

アニキ「おいお前ら聞いたか!?今受けると言ったな!?間違いなく!」


うおおおおお!聞いた!間違いなく!

やっちまえ!やっちまえ!やっちまえ!


アニキ「はっはっはっは!ここで受けると宣言しちまったから……もう逃げられねぇだろ?お前にも面子があるもんなぁ、特攻隊長?」

拓海「ただ、テメー、正々堂々のタイマンって約束は守れよ。族(ゾク)を名乗ってる以上はな……!」

アニキ「へっ……安心しろよ、お前と俺のタイマンには手を出させねぇ……約束は守るぜ」

アニキ「場所を変えるぜ。ここは他のライダーの目についちまう……もっと人目のつかない場所によぉ」

拓海「上等だコラァ!」

リョウ「待て!……もともとこの件は俺とあんた達の問題だったはずだ。彼女たちは関係ないだろう」

アニキ「……テメェは昨日の……!だが、もうてめぇに用は無ぇ、部外者は帰んな」

リョウ「部外者だと……!?」

拓海「……そうだぜ。腰抜けは大人しく帰んな」

リョウ「拓海……!?」

拓海「これはアタシが受けたタイマンだぜ?……邪魔するってんなら、今、この場でアタシがアンタをぶちのめすぞ」

リョウ「お前……」



拓海「……結局さ、アタシらはバカなんだよ。ブレーキってモンを知らず、言葉ってモンを知らず、面子が何より大事で、拳でしか話せねぇ」

リョウ「……」

拓海「だが、アンタは違うんだろ?守るべきモンがあるんだろ?……だったら、やっぱりハナからアタシみてぇなモンと関わったらいけなかったんだよ」

リョウ「……」

アニキ「おう、いつまで待たせやがる!まさか怖気づいたか!」
ブルンブルン

拓海「うるせえ!言われなくとも今から行ってやるよ!……じゃあな、サカザキさんつったか、もう会うことも無ぇだろうが……声かけてくれて、嬉しかったよ」

リョウ「拓海……!」

拓海「おう!待たせたな!さっさと案内しやがれ、テメェの墓場によ!」

アニキ「へっへっへっへ、案内する、俺たちの後についてきな!」
ブンブンブンブンブンブン
ブンブンブンブンブンブン

街中

リョウ「……はぁ……」
ショボーン

チャラ男「アレ?お前今日こっちに顔出していいの?……プリクラ……だっけ?あっちの方でなんか楽しい集会があるって言ってたじゃん」

ヤンキー「腐礼最愛(ぷれいもあ)だよ!」

リョウ「!」

チャラ男「そう!それそれ、なんか今日一大イベントっつってたじゃん」

ヤンキー「そうそう、なんかウチのボスが昨日女に不意打ちでやられたらしいんだけどよ、もう大激怒!人気の無ぇとこに腐礼最愛総勢30人以上で連れ込んで、めちゃくちゃにしてやるつもりらしい」

リョウ「……!!!」
ギリギリギリ

チャラ男「ヒエ~!こええなお前んとこのボス!けどなんでお前参加しねぇの?」

ヤンキー「ああ、その女なんだがよ、かなりマブいらしくてさ、どうせぶちのめした後はボスが独占しそうなんだよ。それだったら、こっちの合コンの方がまだ俺にはチャンスがありそうだよな~!」

チャラ男「ギャハハハ!お前、利口だな~!……ん?なんだアンタ」

リョウ「……」

ヤンキー「んだテメェ、俺らになんか用……うっ!?」
ガシッ

リョウ「……どこだ!」

ブーンブーン
ロバート「ん?着信……リョウからか……もしもし、ワイや」
ピッ

リョウ『ロバート……カーマンは何処にいる?』

ロバート「カーマン?親父への報告の為にイタリアに戻っとるが」

リョウ『そうか……ならしょうがない。切るぞ』

ロバート「ちょ、待てぇや!その感じ……揉め事やな?」

リョウ『……向井拓海が危ない』

ロバート「向井って……あのお前を助けたヤンキー娘か。警察は?」

リョウ『警察はだめだ。下手すりゃ彼女も捕まっちまう』

リョウ『俺のせいで彼女が危険だ。乗り込んで助ける』

ロバート「待て待て待て、落ち着け!お前今どこや?」

リョウ『街外れだ。場所は聞き出した、止めても行くぞ』

ロバート「……誰も行くなとは言っとらん。本当はむしろ急かしたいくらいやけど、しかし今、ワイは社長で、お前はプロデューサーや。お前、美波ちゃんの信頼を裏切るんか?」


リョウ「……ッ、だが、俺は……!」


ロバート「……冗談や。まぁどうせお前は止めても行くやろうし……リョウ、今からすぐにそっちに向かう。……ほんで、渡すもんがある」

リョウ『……渡すもの……?』

街外れ
廃工場

拓海「はぁ、はぁ、はぁ」

アニキ「ぜぇ、ぜぇ、このアマ……!」

チンピラA「……マジかよ。あの女、タイマンでアニキと互角にやりあってやがる」

アニキ「……おい!お前ら!アレだ!!」

拓海「!!」

チンピラB「へいアニキ!」
ザッ
チンピラC~G「へっへっへ」
ザザッ
子分A、B、C「あ、姉御~!」

拓海「てめぇ!子分たちを囲ませて……!」

拓海「どういうつもりだ!絶対に手は出させねぇ約束だろうが!」

アニキ「ああ、だからあいつらに俺たちのタイマンには手を出させてねぇ……アレはあくまでタイマンとは無関係に、俺の後輩たちがお前の子分たちと喧嘩を始めただけなんだよ!」

アニキ「可哀想にな?あの人数差だったら、あいつらフクロだ。二度と表歩けねぇ顔になるぜ……だが、俺がお前を華麗に圧倒していたら、あいつら俺を注目して手が止まるかもな?」

拓海「こんの……クソヤローがぁ!!」
グワ

アニキ「おっと、こいつはまだまだ苦戦しそうだ……おいお前ら!しばらくは見ていてあんまり面白くねぇぞ!自分の喧嘩に集中しな!」

チンピラたち「へい!アニキ!」

拓海「ま、待て!クッソ……!」
スッ

アニキ「へっ……やっと大人しくなったか……オラ!」
ブン
拓海「ぐっ……」
ガッ

拓海「……」

~~~~~~~~~~~~~

『憎しみを相手にぶつけるだけの拳は、いずれ自分も周りも傷つける』

『君はまだ殴る本当の痛みを知らないだけだ。君は喧嘩が強いのかもしれないが、それは本当の強さじゃない。殴る方と殴られる方、両方の、その本当の痛みを知らないうちは、な』

~~~~~~~~~~~~~


拓海(……よくわかんねーが……アイツの言う通りってことだったのか?)
ガッ

子分A「姉御~!アタシらに構わず、そいつらを~!」

チンピラA「るせぇ!黙ってみてろ、テメェらの姉御がテメェらの為にやられるのをな!」

アニキ「へっへ、大分弱ってきたな。安心しろよ、この後はゆっくり可愛がってやる……」

拓海(ここまでか……アタシもヤキが回ったな……)

子分B「アネゴ~~~~~~!!!」

チンピラB「へっ、いくら叫んでもこんなとこ誰も来やしねえよ……」

ブルンブルン
キキッ

チンピラC「……!?アニキ、誰か来やした!」

アニキ「なんだとぉ!?」

拓海「……!?」

カラーン

カラーン

???「お前たちは、バイク乗りの風上にも置けないな」

チンピラA「な、なんだこの音?あ、アイツ、下駄履いてやがんのか?」

カラーン

カラーン

???「大人数で女を囲って、卑怯三昧」

チンピラ「下駄の上に……ライダースーツ……そんで……」

カラーン

カッ
???「もはや見逃せない。お前たちの根性を叩き直してやる」

拓海「天狗の……面?」

アニキ「頭のおかしいトチ狂った恰好をしやがって!何モンだてめぇは!」

???「俺は……」

???「……」

Mr.BAIKU「俺の名は!Mr.BAIKU!」
ザッ

チンピラ「み、みすたー……」

拓海「バイクだと……?」

Mr.BAIKU(言っちまった……もう親父の事を言えねえなこれは……)

Mr.BAIKU「爆音あるところに闘争あり!闘争あるところに闇があり!」

Mr.BAIKU「すべての闇と卑怯を制圧する、俺はバイクの守護者(ガーディアン)!」

Mr.BAIKU「無法者たち!この天狗の面を恐れぬのなら、かかってきやがれ!」



Mr.BAIKU(ちなみにバイクは英語でBAIKU……ではもちろんなく、motorcycleだ。bikeでもないぞ!)

本編は今日はここまで、ちょっと番外編を

クリスマス番外編
6810プロのクリスマス

リョウ「せっかくのクリスマスだからパーティを開きたいとロバートが言って聞かないので俺、ロバート、千川さん、美波の4人で事務所でささやかなパーティを開くことになった」


「メリークリスマース!」

ロバート「いや~食った飲んだ!それにしてもごめんな美波ちゃん?せっかくのクリスマスやったのに誘ってもうて……先約とかなかったか?……彼氏とか」

美波「か、彼氏はいません!もう!……毎年クリスマスは家族と過ごすんですけど、今年は家族パーティは一日ずらすから行ってきなさいって母に言ってもらえたので」

ロバート「そうなんか!いやあ美波ちゃんとちひろさんのおかげで今年のクリスマスは楽しいでホンマ!リョウもそう思うやろ?」

リョウ「そうだな、例年通りだったら親父が「クリスマスなど我が家には無関係!」って言うせいでユリと隠れてチキン食うくらいだからな。今年は実に賑やかでいい」

ロバート「せやせや……おっと、もうこんな時間か。それじゃあボチボチ、今回のメインイベント、プレゼント交換に入るで~!」

ちひろ「はい、それではルール説明をします。現在、テーブルの上にはみなさんそれぞれお持ち寄り頂いたプレゼントの箱、人数分の4つが置いてあります」

ちひろ「プレゼントの箱にはそれぞれ番号が振ってあり、くじを引いてその番号に対応するプレゼントを受け取るという流れになります」


ロバート「はい、ちひろさんごくろうさまやで!それでは早速クジ引いてみよー!」

ロバート(大丈夫……リョウの奴以外は最悪自分のを引いても当たりや……つまり確率は75%……大丈夫……大丈夫や……)

美波「わ、私のプレゼントはあまり面白くないですから引いた人はごめんなさい!」

リョウ「いやいや、そんなことないだろう。ちなみに俺のも良いものだぞ」

ちひろ「楽しみですね♪」

ロバート「……よし、みんな引いたな。それじゃあ、まず1番引いた人!だ~れや!」

リョウ「俺だな」

ロバート「ってお前かいな!まぁエエ……、1番の箱を開けるんや」

リョウ「……お、これは……万年筆?」

美波「あ……それ、私のです、ごめんなさい……誰が引くかわからないから、誰でも使える物が良いと思って……」

リョウ「いや、すごく良いものだ。ありがとう美波」

ちひろ「プロデューサーさん、このタイプ確か結構高価だったはずですよ……大切にしてくださいね」

リョウ「そ、そうなのか!?参ったな、貰いっぱなしは悪いから、美波が俺の箱引いてくれてたら良いんだが……」

美波「い、いえいえ!本当に気にしないでください!喜んでもらえたのなら、それが一番ですから」

ロバート(い、いきなり確率が減りよった……し、しかしそれでもまだ確率は66%、こっちが有利なはずや!)

ロバート「じゃあ、次、2番!引いたのだ~れや?」

ちひろ「あ、私ですね。これは……コイン?見たことない柄……」

ロバート「!それはワイの奴やな!」

リョウ「これってお前がいつも勝負の時に投げるやつか?家を出たときお前の親父さんに貰ったっていう……」

ロバート「あぁ、まぁ正確にはそのレプリカやな。本物はさすがに渡せんけど、それでも特別に作らせたものやから時価総額でウン十万はするはずや」

ちひろ「!社長!本当にありがとうございます!大事にしますね!」
キラキラ


ロバート(ま、まぁエライ喜んでもらえたから良かったけど、これで残るは……)

リョウ「これでまだプレゼント貰ってないのは……ロバートと美波か」

美波「はい、そしてまだプレゼント当てられてないのは坂崎さんとちひろさんですね!」

ロバート「ほんじゃ、3番!当てたのだ~れや?」

美波「あっ、私ですね」

ロバート(確率は2分の1……美波ちゃん、リョウのを当ててくれ!ワイはリョウのはいやや、ワイはリョウのはいやや、ワイはリョウのはいやや……)

美波「……あっこれってお菓子?すごいです、これ雑誌で見たことある、すごい有名なところのものですよね!?」

ちひろ「それは私のプレゼントですね!しかも美味しいだけじゃない、食べると体力と攻コスト・防コストが全回復しますよ、美波ちゃん♪」

美波「(コスト?)ありがとうございます、ちひろさん!」

リョウ「……ってことは、ロバート、お前は俺のプレゼントだな」

ロバート「……」
ゲンナリ

リョウ「な、なんだその反応は!良いものだぞ!」

ロバート「いや~……もう最悪……今までの楽しかった時間が嘘のようや……」

美波「社長さん、一体何が入ってるんです?気になります」

ロバート「ええ~……多分どうせロクでもない物やで……なにこれ重っ」
ズシ

リョウ「良いから早く開けてみろ!絶対良いものだから!」



ロバート「……」ガサガサ

ロバート「……」

美波「……」

ちひろ「……」

リョウ「どうだ!?」
フフン

ロバート「……おい、なんやこれは」

リョウ「見ればわかるだろう、鉄ゲタだ」
ドヤ

ちひろ「て……」

美波「鉄ゲタ……」

リョウ「こいつとは俺も長い付き合いでな、雨の日も、風の日も、雷の日もこれを履いて走ったものだ。ロバート、お前も身体が鈍っている頃だろう、丁度いい、これを履いて走ればすぐに体のキレを……ロバート?聞いてるか?」

ロバート「……ぬぅあああああああああ!!!」


美波「そのあと、お二人の怒声と叫び声と共に、ロバートプロダクションの聖夜は更けていくのでした……」

番外編 6810プロのクリスマス
おしまい

今日はここまで

アニキ「へっ……もしかしてポリが嗅ぎ付けてきやがったかと思ったが、出てきたのは変態一人か」

アニキ「だが、変態一人と言えどもここを見られたからにゃあ生かして返さん。野郎ども!構うこたねえ!殺っちまえ!」

チンピラたち「ウオオオオオオオ!!」


Mr.BAIKU「来い!」

拓海「む、無茶だ!30人以上いるんだぞ!」

チンピラ「もう遅え!食らえやオラ……へぶっ」
ズバン

Mr.BAIKU「踏み込みが甘い!次!」

チンピラB「ドラァ!……ごはぁ!」
グシャ

Mr.BAIKU「そんな大振りが当たるか!次!」

チンピラC「な、なんだぁこいつはぁ!……ぎゃあ!」
ガン

Mr.BAIKU「腰が引けてるぞ!論外だ!次!」

な、なんだコイツは!つ、強え!化け物か!?

アニキ「な、なにやってんだお前ら!一斉にかからねえか!一斉に!」

チンピラたち「う、うおおおお!」
ドドドドド

Mr.BAIKU「固まってきたか!ならば!」

ドドドドド

Mr.BAIKU「極限流!暫烈拳!」
ズドドドドド

チンピラたち「うぎゃああああ!」

Mr.BAIKU「飛燕疾風脚!」
ズババ

チンピラたち「ああああああ!」

拓海「す、すげえ……大量のチンピラたちがどんどんボロ雑巾に……!あれは!」

ブルンブルン
ボボボボボボ

チンピラZ「くたばれやコラァアアア!!」
ギャギャギャ

拓海「野郎!バイクで突撃するつもりか!」

アニキ「いいぞ!やれ!」

Mr.BAIKU「……」
フゥ

Mr.BAIKU「来い!」

拓海「あ、あいつ!正面から迎え撃つ気か!?ぜってー死ぬぞ!」

チンピラZ「しぃねえええええええ!!」
ギャギャギャ

Mr.BAIKU「……」
コホー
Mr.BAIKU「見切った!」

Mr.BAIKU「破ッ!」
ズドン!

グッシャアアン
チンピラZ「ぎゃああああああ!」

アニキ「馬鹿なああ!走ってくるバイクを正面から殴ってぶっ飛ばすだとぉ!!あり得ねぇぇ!!」

Mr.BAIKU「皆伝、無頼岩!」

Mr.BAIKU(ぶっつけだったが成功して良かったぜ)



アニキ「あ……あ……」

Mr.BAIKU「これであとはお前だけだ。覚悟は良いな」
ザッザッザ

アニキ「ち、ちくしょう!」
グイッ

拓海「いてッ……」

アニキ「テメェ!それ以上近づくな!このナイフが見えねえか!この女がどうなっても良いのか!」
チャキ

Mr.BAIKU「……!」

拓海「テメェ……どこまで腐ってやがる……!おい、天狗マン!アタシに構うこたぁねえ!やっちま……」

Mr.BAIKU「お前。それ(ナイフ)を出すことがどういう意味かわかってるのか」

アニキ「なんだと……?」


Mr.BAIKU「武器を持った奴が相手なら俺もそれなりの対応をせざるを得ない、と言ってるんだ」

アニキ「訳の分かんねえことを……!人質がどうなっても良いのか!」
グイ
拓海「クッ……!良い!やれ!足手まといは御免だ……!」

Mr.BAIKU「……。やれるものならやってみろ。もうこの間合いだったら俺の拳の方が速い」
スッ

アニキ「言ったなこの野郎がああああ!」
グワ
拓海「……!」

Mr.BAIKU「虎 煌 拳!」
ドン

ズドォン!

アニキ「ぎゃああああ!!」

アニキ(バカな……あの……距離から……)
ズシィィィン

アニキ「……」
ピク……ピク

Mr.BAIKU「安心しろ、加減しておいた。お前のような奴に全力で撃ったら、本当に死にかねないからな」



Mr.BAIKU「大丈夫か拓海?ケガは?」

拓海「!あ、ああ、大したことねーよ……それよりあんた……」

Mr.BAIKU「動けるならすぐに逃げた方が良い。もうじきここに警察が来る」

拓海「!!」

子分A「あ、姉御!そりゃやべえですぜ!早くずらからねえとアタシらもパクられちまう!」

拓海「わ、わかってるよ!その前に、ひとつだけ聞かせてくれ。あんたの言う……本当の強さって……一体何なんだ?」


Mr.BAIKU「……俺はそんな話君にした覚えはないが……君はもう、本当の強さが何か、わかっているよ」

拓海「……え?」

Mr.BAIKU「君は今回の件……ある男を助けるために行動した。連中が復讐に来た時も、彼を巻き込むまいとした。そしてさっきも君は仲間を守るために自分を犠牲にした」

拓海「……」

Mr.BAIKU「本当の強さとは、傷つけたいものを傷つける力ではない。守りたいものを守る力だ。それは殴る痛みを理解したときに初めてわかる。そして、殴られた痛みを知る者にしか、本当の殴る痛みはわからないんだ」

拓海「……!」

Mr.BAIKU「……っと、なんだか説教臭くなっちまったな。拓海、君はもう大丈夫だ。今後も自分の信念を貫け。……ただ、喧嘩は程々にな?」
バッ
ブロロロロロ

拓海「……アタシゃ天狗マンに名前を教えた覚えはねーよ。……あれでバレてねぇと思ってんだからなぁ……バカだよなぁ……はは」

子分B「姉御!早く!」

いったんここまで

数日後


ロバート「お、こないだの件記事になっとるで。『大型珍走団グループメンバー一斉検挙、廃工場内にいたところを通報を受けた警察が検挙、恐らくグループ内で抗争中だったと見られる。」

ロバート「リーダー格と見られる男は凶器も所持しており、余罪を追及する方針。逮捕されたメンバーの一部は「天狗の仕業だ」などと意味不明な言動を繰り返しており、何らかの薬物を使用しているのではないかとして……』」

美波「あ、それ大学の方でも少し噂になってました。謎の天狗マンが怖い暴走族のグループを壊滅させたって」

リョウ「へ、へ~、そんなこともあるんだな」

リョウ(おいロバート!だから俺は変装はヘルメットだけで良いと言っただろうが)
ヒソヒソ

ロバート(わかってへんなぁ、お前は元々が目立ちまくりやったんやぞ?やからそれ以上の存在感で上塗りする事によってお前の正体を隠したんや)
ヒソヒソ

美波「……?」

ロバート「さっ!そんなんどうでもええからお仕事お仕事!そうや、美波ちゃん、今度の水曜なんやけど宣材写真の撮影が入って……」

ガチャ
ちひろ「プロデューサーさん!いますか!?」

リョウ「千川さん?そんなに慌ててどうしました」

ちひろ「いえ、あの、事務所の前に停めてあるプロデューサーさんのバイクを凝視……と言うより睨み付けている女の子が居まして……」

リョウ「……まさか……」

ロバート「例の娘か?」

リョウ「おそらくは。ちょっと話をしてくる」

拓海「……」
ジロジロ

リョウ「やっぱり君か。もうケガの具合は良いのか?」

拓海「ほ~?アンタはあの日峠で別れたのにアタシがケガしたの知ってんのか?なんでだろうな~?」

リョウ「……いや、噂……噂で聞いたんだ……」

拓海「……まぁいいや。ケガは大丈夫だよ。ていうかあんなもんケガの内に入んねえ」

リョウ「そうか。それじゃあ今日は何の用だ?」

拓海「……え~っとさ、あれ……アレだよアレ」

リョウ「わからん」

拓海「……ああもう!わかれよ馬鹿野郎が!」

拓海「こないださ、言ったじゃねえか、本当の強さがわかってないって。その後、本当はわかってるて言われたけどさ……まだ、イマイチ理解できてねーんだよ」

リョウ「……」

拓海「だからさ、その……頼む!アタシにその本当の強さってのを教えてくれ!この通りだ!」
バッ

リョウ「そ、それはアイドルになりたいって事か?それとも極限流ににゅうも」

ロバート「そこまでや。話は聞かせてもらったで」
ザッ

拓海「……ああ?誰だよおっさん」

ロバート「だ、誰がおっさんや!まだまだ24歳のピチピチのヤングタイガーじゃアホ!」

拓海「なんだよピチピチって。言葉のセンスがおっさんじゃねえか」

ロバート「グッ……」

ロバート「まぁエエ……落ち着け。ほんでな、拓海ちゃん」

拓海「誰が拓海ちゃんだ!馴れ馴れしく呼んでんじゃねーぞぶっ飛ばすぞ!」


ロバート「ああもう黙って話聞けや!!進まんやないかい!!」







ロバート「……という訳でや。その本当の強さってのを学ぶにはな。コイツ(リョウ)の下でやるのが一番や」

拓海「……面白えじゃねえか。良いぜ、その本当の強さってのをサカザキ、アンタから盗んでやる。その為なら何だってやってやるぜ!」

リョウ「拓海……」


ロバート「そうかい!ええ心掛けやな!ほんならちょっとここの書類に名前書いて、印鑑……母印でええわ」

拓海「ん?こ、こうか?」

リョウ「……」


都内の焼肉屋

拓海「か~ッ!!肉美味えええええ!」
ジュウウウ


ちひろ「あ、そこのお肉焼けてますよ」

拓海「お!悪いなちひろさん!……美味えええ!華瑠火(カルビ)最高おおおおお!!」

ロバート「契約決まって早々『おい!契約祝いに肉食わせろよ!あんた社長だろうが!』やからな……厚かましいにも程があるで……」

美波「……すみません、社長さん。私までご一緒させて頂いてしまって……」

ロバート「ああ~!いや!良いんや!美波ちゃんは良いんや!どんどん食うたって!きっと肉たちもその方が幸せや!」

リョウ「おい、ロバート。そこの肉焼けてるが食わないなら俺が食うぞ」
モグモグ

ロバート「お前ももうちょっと遠慮せんかい!」
スパン

拓海「……それにしてもほんとアンタ美人だよな。サラッサラの長い髪!色白の肌!男どもが放っとかねーだろ?」
モグモグ

美波「いや、そ、そんなこと……」///
カーッ

ロバート「フゥーーー!!出ました!美波ちゃんの女神反応(ヴィーナスリアクション)!!これだけで肉なしでもご飯何杯でもイケるわ!!」
ガツガツ

拓海「そうか、ならもうアンタは一生白飯だけ食ってろよ」



リョウ「……それにしても拓海。本当に良いのか?チームの方は……仲間たちには話したのか?」

拓海「ん?ああ、もちろん話してきたよ。そしたらあいつら、『ウチら、どこまでも姉御の応援します!ファンクラブ会員第1号です!』だってよ」

リョウ「……そうか。良い仲間だな、彼女たちは」

拓海「ああ。……まぁその後誰が会員1号かで殴り合いの喧嘩になってたけどな」

拓海「……まぁとにかくだ。アタシもやるからにはハンパはあり得ねえ。頂点(てっぺん)目指して走り抜けてやるぜ!夜露死苦ゥ!」

リョウ「……ああ、拓海。よろしく頼むぜ」

美波「よろしくね、拓海ちゃん」

ちひろ「拓海ちゃん、よろしくお願いしますね」

ロバート「6810プロの女神に続き、特攻隊長誕生か……ってどんな組織やねん」


拓海「なんか言ったか?」

いったんここまで
あとちょっと書き溜めあるから後でもう少し更新します

翌日


ガチャ
リョウ「美波、拓海とランニングから戻ったぞ」

美波「はぁ……はぁ……」

拓海「ゼー……ヒュー……き、キツ過ぎる……なんだこいつ……体に発電機かなんか入ってんじゃねェのか……」

ロバート「おうお疲れ……ってなんやその有様!どんだけ走ったらそんななるねん!」

リョウ「その辺を軽く20㎞くらいだ」

ロバート「ドアホ!軽ないわ!ハードワークにも程があるわ!自分基準で考えるな!」

ちひろ「ちょ、ちょっと水を持ってきますね」


リョウ「だが、やはり良いぞ二人とも。基本的に体力はあるし、俺についてこようという根性もあった。逸材だ」

リョウ「それはそうとロバート、近くの体育館で空手の大会をやっていた。丁度午前中のトレーニングも終わったし、メシを食ったらみんなで見に行かないか?」

ロバート「20㎞も走らせといて午前中もクソもあるかいな!今日はもう終わりや!」

美波「……あ、あの……ご一緒したいのはやまやまなんですけど……」

拓海「しばらく……動けねぇ……」

体育館

リョウ「……これから女子の部の決勝か。やはり日本の空手は学生の部でもかなりハイレベルだな」


ロバート「せやな。みんな基本がしっかりしとる。指導者が良えんやろ」

リョウ「ああ……極限流道場日本支部を設立するのが今から楽しみだな」

ロバート「ほんで決勝の組み合わせは……あちゃあ、こらまた極端な組み合わせやなぁ。右の方の子、180㎝くらいあるんちゃうんか?」

リョウ「左の方の子は……150あるか無いか、くらいか。だが決勝に来るくらいだからどちらも実力は確かなはずだ」

ロバート「せやな……それに、こんだけ身長差があれば一概に大きい方が有利とも言い切れへんしな。それに小さい方……けっこうカワイイ顔立ちしてはるで」

リョウ「神誠道場……名前は、中野、有香か」



有香「……押忍!行きます!」

同じ頃
ロバートプロダクション

拓海「ああ~つっかれた。サカザキの野郎、トレーニング初日になんて事させやがる」

美波「そうだね……でも坂崎さんすっごく張り切ってたね?『久々の合同ランニングだ!』って」

拓海「ああ……詳しくは聞いてねえけど、あいつどっかで格闘技の指導でもやってたんだろ?」

美波「うん、私も詳しくは聞いてないけど……あと社長さんも、多分同門ってことなのかな」

拓海「正直サカザキはともかくあの社長が真面目に格闘技やってんの想像つかねぇよな。まぁ一緒に空手見に行くぐらいだからやっぱり関心はあんのか」

ピンポーン

ちひろ「あら、お客さんみたいですね。はい、どちら様でしょう?」

???「突然で申し訳ない。ここは極限流の……じゃない、ロバートプロダクションの事務所で間違いないでしょうか」

ちひろ「はい、そうですけど……貴方は?」


???「単刀直入に言います。リョウ・サカザキは今どこに?」


美波「可愛い娘だね。坂崎さんがスカウトしてきた娘なのかな?」

拓海「どうだろうな……アタシにはな~んかどうも違う臭いがすんな……」


ちひろ「あの、あなたはプロデユーサーさんとどういう――」

???「ええい、まどろっこしい!リョウ・サカザキ!いるのはわかっているんだ。出てこい!」

???「再戦の約束、忘れたとは言わせないぞ!それとも――」



香澄「藤堂流――――この藤堂香澄に怖気づいたか!」

今日はここまで

美波「と、藤堂流……」

拓海「藤堂香澄だと――――!?」

拓海「……んで、結局お前は何しに来たんだよ」


香澄「むっ……知れたこと!2年前グラスヒル・バレーで交わした再戦の約束を果たしに来たんだ!というか、日本に来ていたのならまずは私との約束を果たしにそちらから来るのが筋というものだろう!どうなっているんだ、極限流は!」


拓海「いや、こっちは事情を知らねえのに捲し立てられても訳わかんねーよ……」



香澄「良いから、リョウ・サカザキを出せ!隠し立てしてもあなたたちの得にはならないぞ!」

香澄「それとも、極限流は負けを認めて我が藤堂流が最強である事を認めるということか!それなら仕方ないな!」

拓海「最強……?」
ピクッ

美波「……拓海ちゃん?」

拓海「おう、お嬢ちゃん……そいつは聞き捨てならねえな。藤堂流だかランランルーだか知らねえが、今ここではアタシがサカザキの……まぁ……一番弟子?みたいなもんだ。いや、別に弟子になった覚えはねえが」

香澄「誰がお嬢ちゃんですか!私はもう18です!」

拓海(た、タメ(同い年)じゃねえか……)

拓海「と、とにかく!そのアタシを倒さずして最強を名乗るのは気が早え!そこのレッスンルームに来な!アタシがアイツの代わりに相手になってやるぜ!」

美波「た、拓海ちゃん!?ダメだよ!」

香澄「ふん、何を言い出すかと思えば……見たところあなたは素人丸出しではないですか。素人相手に振るう拳など藤堂流にはありません!」

拓海「んだぁ?さっきあれだけデケー事吐いてたくせにビビってんのかぁ?それならサカザキが相手するまでもねぇ、とっと帰んな!軟弱なランランルー!」

香澄「むっ……貴様!黙って聞いていれば!藤堂流を愚弄するものは例え素人でも許しません!良いでしょう、その『れっすんるーむ』とやらに案内しなさい!身の程を教えてあげます」

拓海「上等だコラァ!こっちだ、ついてこい!」

美波「ま、待って!二人とも落ち着いて!……坂崎さん、早く帰ってきてください~……」

レッスンルーム

香澄「……それでは、始めましょう。あなたは私に1発でも攻撃を当てられれば勝ち。私はあなたに『参った』と言わせれば勝ち。それで良いですね」

拓海「ああん……?えらくアタシに有利じゃねえかそれ?舐めてんのか?」

香澄「これくらいの『はんでぃきゃっぷ』でやっと勝負になると言ってるんです。……まぁそれでもあなたの攻撃は私には当たらないでしょうけど」

拓海「どこまでも舐め腐りやがって……後悔しても遅えぞオラァァァァ!」
ブチブチィ

美波「た、拓海ちゃん!アイドル!一応私たちアイドル候補生だから!」

香澄「それでは……」
スッ

香澄「お願いします」
ザッ

美波(……!?あの娘、雰囲気が……)

拓海「ッシャア!行くぞオラァァ!」
ドドドド

拓海(決めた!泣かす!ぜってー泣かす!!幸いにもタメ(同い年)だ、遠慮するこたぁねー!)

拓海「ウラァァァ!喰らえや、愛怒流旋風脚ーー!」

香澄「……!」

ドタン

拓海「……え?」

香澄「……」

美波「……!!」

拓海(な、なんだ?今投げられた……ていうかひっくり返されたのか?アタシは?)

香澄「……ふぅ、受け身もまともに取らないなんて、本当に素人なんですねあなたは」

美波「……き、綺麗……」

拓海「……いや!たまたまだ!マグレだ!アタシは全然参ってねー!」

香澄「良いでしょう、いくらでもかかってきなさい!何度やっても無駄ですけど!」

拓海「うおおおお!」
ドドドド

拓海(まぐれだ!次こそは……)
拓海「喰らえええ!愛怒流爆裂拳ーー!」

ドタン

拓海「……」
拓海(またかよおおおお!!)

香澄「あなたの動きには無駄が多すぎます」

拓海「まだまだァァァァ!うがああああ!!」

ドドドドド
ドタン
ドドドドドド
ドタン
ドドドドド
ドタン

拓海「ゼヘー、ゼー、なんでだ……なんべんやっても触れさえしねー……」

香澄「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あなたの体力と根性だけは……認めます……」

拓海「ああもう!負けだ!アタシの負けだ!参ったよ!」

香澄「……よ、よし!藤堂流の勝利だ!あっはっはっはっはっは!……へっくしゅっ……ふぅ……」

美波「よ、良かった……どっちもケガがないみたいで……」

拓海「はぁ……参ったよ……アンタ、香澄っつったか?藤堂流だっけ、バカにして悪かったな」

香澄「わかってもらえれば良いのです……して、リョウ・サカザキは?」

美波「坂崎さんなら本当に外出中なの……多分近くの体育館にいると思うんだけど」


香澄「そうなのですか!?どうやらご無礼を働いてしまったのはこちらの方だったようです、申し訳ない……あ……」
グ~


美波「……ふふっ、たくさん運動してお腹空いたんだね。何か食べて行きますか?」





路上


ロバート「……いやあ、ホンマレベル高かったな。がっつり型の試合まで見てもうたわ」

リョウ「ああ、やはり空手はこの国で生まれた、というのが実感出来るようだった。俺たち極限流も負けていられないな」

ロバート「おいおい、燃えるのはわかるが、今はプロデューサーの方忘れたらアカンで?」

リョウ「わかっている。そういえば、あの女子学生の部の決勝の娘……」

ロバート「ああ、中野有香ちゃんな。彼女、惜しかったな。エエとこまで行ったんやけど、最後はリーチ差にやられてもうた感じやったな」

リョウ「だが、紙一重だった。それに見ているこっちの心が滾ってくるような熱い試合だった。……よし、ロバート!事務所に戻ったら久々に組手に付き合え!」

ロバート「よっしゃ、ええやろ!やけど、その後は書類仕事が残っとるからな?」

リョウ「うぐっ……わ、わかってるさ……ん?……なに!?」

ロバート「どした、リョウ……ん?何か向こうの方から女の子がお前の方睨み付けながらズンズン歩いてくるで」


リョウ「な、なんでここに……いや、ここは日本だから別におかしくはないのか……」

香澄「見つけたぞリョウ・サカザキ!ここで会ったが100年目!2年前の再戦の約束を今ここに!覚悟……よろしいな」
ザッ

リョウ「待て待て!藤堂の!」

ロバート「藤堂の?……ほーん、今まで話には聞いとったけど、この娘が竜白のおっさんの……あのおっさんに似ずけっこう可愛いやんけ」

香澄「お前!父様をバカにしたな!丁度良い、二人まとめてかかってこい!」


リョウ「……お前、口の周りに何か付いてるぞ」


香澄「……ハッ、これは先ほど事務所で美波さんに作っていただいたナポリタンの……大変美味しかった……じゃない!」

香澄「おのれリョウ・サカザキ!そうやって精神的な揺さぶりをかけて来るか!もう戦いは始まっているということか!」

リョウ「なにを言ってんだお前は……」

ロバート「ていうか美波ちゃんに作ってもらった?ウチの事務所でメシ食ってきたんか?」

香澄「あっ……それは……おのれ極限流!小賢しい揺さぶりばかりかけてこないで、正々堂々勝負をしろ!」


ロバート「……なんか聞いてた以上にアレな娘やな……」

???「待ちなさい!」
ダッ
リョウ「ん?」

有香「そこの人たち!良い大人が二人掛かりで女の子ひとり相手に喧嘩など、恥ずかしくないんですか!この中野有香、助太刀します!押忍!」

香澄「え。いや、私は……」

リョウ「事態は混迷を極めてきたな……」

ロバート「アタマ痛なってきた……」



有香「……え?」

今日はここまで

事務所

有香「この度はあたしの勘違いで本当にご迷惑をお掛けしました!」
ペッコー

リョウ「いや、別に俺たちは君にまだ何をされたわけでもない。頭を上げてくれ」

有香「ですが!あたしの早とちりと思い込みのせいで何の云われもない方々に蛮勇を振るいかけてしまうなんて……ああ……」

ロバート「……今時珍しいかったい娘やなぁ」

リョウ「それだけご両親や師匠の教育がしっかりしてるんだろう」

拓海「……もう色々ありすぎて訳わかんなくなってきたんだけどよ、結局香澄とサカザキはどういう関係なんだ?」

リョウ「ああ、2年前グラスヒル・バレーって所に用事があったんだがな、その時にちょっと手合わせした事があったんだ。何でも失踪した親父さんの行方を俺が知ってるって思い込んでたみたいでな」

拓海「……思い込みで闘うって、もう完全に今日と流れが同じじゃねえか……」

美波「い、いや、今日のは拓海ちゃんもちょっと悪いと思うよ?」

リョウ「そういえばあれから結局、竜白のおっさんには会えたのか?」

香澄「あれからも父様は帰ってこない……母様は『心配要りません、どこかで元気にやっています』と言うんだが……」

美波「香澄ちゃんはお父さん子だったんだね?」

香澄「父様は偉大な藤堂流を生み出し、人格的にも優れた本当に立派な方でしたので!……なのに、3年前、サウスタウンでそこの極限流……リョウ・サカザキに敗れてから、失踪してしまった……」

拓海「マジかよ……サカザキ、お前のせいじゃねーか」

リョウ「いや、本当に俺は何も……ううむ、しかしこれは俺のせいということになるのか……」

香澄「……だが!今回の件は父様とは無関係!私は一武道家として2年前の再戦の約束を果たしに来たんだ!」

香澄「さぁ、もう十分お喋りは済んだだろう!覚悟、よろしいな」

リョウ「まぁ別に相手するのは構わんが、今は中野さん、君の事だ。確かにさっきも傍から見れば俺たちが藤堂のに絡んでるように見られても仕方なかった。ここはお互い事情を知らなかったって事でこの一件は水に流そうぜ?」

有香「で、ですが……」

拓海「そうだぜ、有香つったか?こいつらの厳つい風貌見りゃ誰だって勘違いするぜ。これでアイドル事務所の社長とプロデューサーってんだから笑わせるよな」

美波「そ、そんなことな……い……う~ん……」

リョウ「……美波、無理にフォローしようとしてくれなくても良いぞ」

有香「……アイドル?ここはアイドルの事務所だったんですか?」

ロバート「そう!ここはロバートプロダクション!今はまだアイドル2人だけやけどいずれは超一流プロダクションになる予定や」

有香「……アイドル……アイドルですか……」
ポー

ロバート「……!」
キュピーン

ロバート「……で、やな、有香ちゃん。実はワイと、このプロデューサーのリョウはさっき体育館でやってた空手大会を見てたんや。まぁ君の決勝からやけどな」

有香「……!」

ロバート「惜しくも敗れはしたが、いや、ごっつエエ試合やった!あの体格差がある相手に、勝ってもおかしなかったわ。それに、君の試合はなんていうか、人を惹きつける何かが……」

有香「……そうでした」

ロバート「へ?」

有香「あたしは、敗れたばかりなのでした……お見苦しい試合をお見せしました。道場に戻って、師匠と反省点を見直さなければ……」
スクッ

ロバート「い、いや、有香ちゃん、待ってえな!見苦しい試合なんてそんな……ひいては君にウチのアイドルになってもらいたいんやけど……」

有香「……お誘い頂いてありがとうございます……ですが、先ほど『勝ってもおかしくなかった』と仰られましたが、それでは何故勝てなかったのか。それは、単純に相手より鍛錬が足りなかったからです」

リョウ「……」

有香「そんな未熟者のあたしが、今空手以外の事を考えるだなんて、空手に対しての冒涜以外の何物でもありません。……失礼します、本当にこの度はご無礼致しました」

拓海「本当、かってぇな」

美波「それだけ空手に真剣なんだと思う、きっと……」

ロバート「……なんや、誰かさんみたいやな」

リョウ「……否定はしないが、それでも彼女は少し力が入り過ぎているように見えるな」

リョウ「それよりロバート、どうする?彼女の意志は固そうだが、スカウトは諦めるのか?」

ロバート「まぁ気長にやるしかないやろなぁ……別に最初の5人に間に合わなくとも、ゆくゆくはもっとアイドルも増やしてかなアカンのやし。彼女自身も元々アイドルには興味津々って感じではあったし」

香澄「……」

数日後
神誠道場

師匠「……よし、今日はここまで!大柄な相手だからといって、自分の間合いに持っていこうと性急に距離を詰めすぎるな。切れる相手ならそこに1つも2つも罠を張ってあるからな」

有香「はぁ、はぁ……はい!ありがとうございました!」

師匠「……ところで、この前大会が終わった後、近くのアイドル事務所の方に行っていたみたいだな?」

有香「!!す、すみません!負けた後なのに早々に道場に戻らず……」

師匠「いや、別に咎めている訳じゃあない。そこで何かいい話でも聞けたか?」

有香「……アイドルにならないか、とお誘い頂きました。しかし、こんな未熟な私が空手とアイドルの二足の草鞋など……考えられません……」


師匠「……有香、お前がこの道場に来てから大分経った。お前は人よりも小さな身体ながら、人一倍努力して、黒帯を取った。強さだってウチの道場で指折りだ。嬉しく思うよ」

有香「……」

師匠「だがな、有香。人生というのは長い。お前の倍以上生きてる私が言うのだから、間違いはない。その中で、空手以外の選択肢というのも若いお前にはある。進む価値のある、別の道が」

有香「……師匠は、あたしに空手を辞めろ、と仰るのですか?」

師匠「そうではない。私は、可能性を閉ざしてほしくないだけだ。お前の空手愛は師として嬉しい限りだが、それが全てじゃない。……アイドル雑誌、お前が毎月買ってるのは知ってるぞ?」

有香「……!!?ち、ちが……これは空手の月刊誌と間違えて……!」

師匠「別に隠さなくても良い。何にも興味があるのは良い事だ。そんな折に、たまたま近くにアイドル事務所が出来て、しかも向こうからアイドルにならないか、と誘いを受けてるんだぞ?このチャンス、物にしないで如何とする」

有香「……ですが……私は……」

師匠「……ははは、まぁ私も別に無理強いするつもりはない。こういう選択肢もあるぞ、とお前に伝えたかっただけだ。いずれにしても、後悔だけはせんようにな。今日はもう帰って良し!」

有香「……押忍。ありがとうございました……」

師匠「声が小さァい!もう一回!」

有香「……!押忍!!ありがとうございました!!!」

有香自宅

有香「……はぁ……」


有香(アイドル……あたしの知らない、華やかな世界……)

有香(興味はある……というより興味津々……)

有香(けど、踏み出せないのは、きっと怖いからなんだ)

有香(憧れはある。幸運にも機会も与えられている)

有香(だけど、怖い。知らない世界だからってだけじゃない)

有香(どっちつかずになるのが怖いんだ。アイドルと空手。どちらか片方だけでも大変なのに、両方をやれる器量が私にあるなんて思えない)

有香(だからといって、空手を捨てるなんてあり得ない。……だけど……アイドルもやってみたい……)

『後悔だけはせんようにな』

有香「……」

有香「あ~!どうしたら良いのかわからない~!!」
ジタバタ

翌日
路上

有香「……」
テクテク

香澄「おや、あなたは先日の!」

有香「あなたは、香澄ちゃん!その折は本当にご迷惑を……」

香澄「いえ、それはもう終わったこと!それよりお散歩ですか?」

有香「ええ、色々と頭が整理出来なくて……」

香澄「ああ、昨日のアイドルの話ですか」

有香「ええ……やってみたい気持ちはあるのですが……どうにも踏み出せなくて」

香澄「……?やってみたいのならやってみれば良いじゃないですか?」

有香「そ、そう簡単に言いますが……」

香澄「簡単ではないですか。アイドルをやりたくないんじゃくてやりたいんでしょう?」

有香「……!」

香澄「やりたくない事をやらなくていい方法で悩んでるのなら私にはどうしようもありませんが……むしろ教えてほしいくらいです。母様のお稽古……うう、いやだ……」

香澄「けど、やりたいことがやれる環境があるならばやってみれば良いじゃないですか。もしかして失敗したらどうしようとか考えてますか?」

有香「……そう、ですね。空手とアイドル、両立なんて私に……」

香澄「迷ったらとりあえずやれば良いんです!とりあえずぶつかってみて、ダメかどうかはその後判断すればいいんです!それに、全力をぶつけてみる相手としては極限流は最適です。……認めたくはないですが、あのリョウ・サカザキという男はその程度の器量はあると私が保証しましょう」

有香「……!」

香澄「それに、武芸百般と言いますか、多芸は身を助くと言いますか……私が尊敬する父様の藤堂流も、元々様々な古武術や他流武術を取り入れて完成されたもの。ただ一つに邁進するのもけっこうですが、他流を知るのも無駄にはならないと思いますよ」

有香「……香澄ちゃんはすごいですね」

香澄「いえ、凄いのは私では無く父様と、藤堂流です!……あ!有香ちゃん、お腹は空いてますか?」

有香「え?そういえば少し……」

香澄「だったら、ついてきてください!良いところにご案内します!」



公園
有香「……美味しいです!」

香澄「そうでしょうとも!あそこの肉屋さんのコロッケは絶品!私もしばしば学校帰りに買って食べるものです」

拓海「ゼヘ、ゼヘ……あ、あれ?あそこの公園にいるの、有香と香澄じゃねえか……?なんか食ってやがる……」
ヒィヒィ

美波「あれ、本当だ……二人とも、お友達になったのかな……?」
ハァハァ


リョウ「……二人とも、もう少しで事務所だ。ラストスパート行くぞ!」
ドン

拓海「はぁああああああ!?またスピード上げんのかよ!ふざけんなこのやろおおお!!」

美波(ふたりともすごく良い顔で笑ってる……良い事、あったのかな?)

夕方
事務所

ロバート「ほんじゃ、ストレッチしたら今日は終わりや。お疲れさん」

拓海「あ~……相変わらず死ぬほどキツいけど、いい加減ちょっと身体が慣れてきたな」

美波「そうだね……坂崎さん、私たちちょっとは体力がついてきましたか?」

リョウ「そうだな。元々ふたりとも基礎体力はあったみたいだから、同じ距離をずっと続けていれば慣れてもくるさ。よし、次からは距離を30㎞に……」

拓海「ざけんな!」

リョウ「そういえばロバート。彼女たちのアイドルとしての鍛錬はどうするんだ?俺がしてやれるのは体力づくりくらいで、演技や歌唱といったところは全く手つかずだぞ?」

ロバート「ああ、その件やがな、今トレーナーと交渉しとる。なんでもアメリカ帰りらしくてな、契約がまとまり次第、来てもらうことになる。それまでは体力づくりや」

美波「そうですね。体力づくりも大事ですけど、せっかくアイドルになったんだから、色々なレッスン受けてみたいです!」

ガチャ
ちひろ「社長、プロデューサーさん。お客様です」

ロバート「ん?誰や?」

有香「失礼します!押忍!」

リョウ「中野さん」

ロバート「事務所に来てくれたってことは……まさか?」

有香「その事なんですが……一度頂いたお誘いをお断りしておきながら厚かましいとは思いますが、この中野有香、テストをして頂きたく参りました!」

ロバート「エエで、エエで!そんなんテストなんかいらん、大歓迎や!そしたらこの契約書にサインを……」

有香「いえ!待ってください!」

ロバート「え?」

有香「今まで数日間、悩みました。ですが、師匠が、そして香澄さんが、あたしの背を押してくれました」

有香「ですがあたしは未だ迷っています。どっちかだけを選ぶことなんてできない!」


有香「だから、見極めてほしいんです!本当にあたしがスカウトされるに足る人間なのか、最強のアイドルを目指すに足る人間なのかを!」

有香「聞けばプロデューサーの坂崎さん、ですか?あなたは極限流という空手の達人だと、香澄ちゃんから伺いました」

リョウ(絶対あいつはそんな風に俺を紹介しないと思うがな……)

有香「空手の達人であり、プロデューサーでもある坂崎さんに、あたしがこの世界で闘っていけるか、判断をしてほしいんです!」

リョウ「具体的には……?」

有香「私と、組手をお願いします!」

リョウ「!」

ちひろ「?」

美波「!?」

拓海「!!?」

ロバート「!!!!!!!??????」

今日はここまで

有香「その中で、私の中に可能性を感じて頂かなければ、アタシは大人しく空手に邁進します」

リョウ「……一つだけ聞かせてくれ。こう言っちゃあなんだが、どうしてそんな遠回りをするんだ?君は今一言なりたいと言えばアイドルになれるんだぞ」

有香「若輩者のあたしが生意気なようですが……こういう生き方しか知らないからです!」



リョウ「……よし、わかった。道着は持ってきてるな?着替えたらレッスンルームに来てくれ」

ロバート「ちょちょちょ!リョウ!どうする気なんや!」

リョウ「どうするも何も、彼女が望んだことだ。俺は応えるだけだ」

ロバート「……手を抜く気は……」

リョウ「ない。……だが、普通に組手をするのも違うような気はする」

ロバート「……わかった。もう任せるで……」



拓海「……なんか大変な事になっちまったな」

美波「どうしてこんなことに……」

レッスンルーム

有香「……」

拓海「……ずいぶん落ち着いてるように見えんな」

美波「場慣れしてるのかな……」

ガチャ
リョウ「待たせたな」

有香「……押忍!よろしくお願いします!」

拓海(……そういえば空手着着てんのを見るのは初めてか?ド派手なオレンジの道着だが……)

美波(……普段は頼れるけど少し抜けてる所もあるお兄さんって感じだったけど……)

美波(なんだか……雰囲気が……)

ロバート(アカン……完全に道場モードや……)

リョウ「始める前に確認だが、今回の組手は、俺からは一切手を出さない。防御に徹する。3分間の間で俺に中野さんの力を見せてくれ」

有香「……!押忍!」

美波「……これで有香ちゃんがケガすることはなさそうだけど……」

拓海「防御に徹するって……あいつ身体が鉄で出来てるってもっぱらの評判だぞ……」


リョウ「……じゃあロバート、開始の合図は任せる」

有香「……」

ロバート「……それでは、はじめ!!」


有香「押忍!行きます!」
ザッ

リョウ「……」
スッ

ロバート(構えはお互いオーソドックス……しかし……リョウからは手を出さないと宣言していたものの……)

有香「……!……!!」

ロバート(恐らくはもう有香ちゃんも感じているはずや……ちゃんと実力があるが故に……!)

リョウ「……」
ズ

有香(……打ち込むスキが!全く無い!)

有香(そして無言で構えているだけなのにこの……圧迫感……)

有香(強い……たぶん今まで見てきた人達の誰よりも……!)

拓海「なんでドンドン打ち込んで行かねーんだ……と言いてえトコだが……こいつは……」

有香「っぐ……」
ジリジリ

リョウ「……打ち込んでこないのか。その臆病さじゃあとても合格点はやれない」

有香「……!くっ……」

リョウ「……」
スッ

リョウ「オラオラァ!」
クイクイ

拓海(挑発!?)


有香「……ッ覇ァ!」
ブオ
リョウ「……」
スッ

有香(躱された!……まだまだ!)

有香「せい!やっ!はーーー!」
スバババババ

リョウ「甘い!」
パパパパパ

美波「全部、捌かれてる……!」

拓海「あ、当たらねえ!身体に……甘い攻撃にゃ見えねえぞ……!」

有香「はぁ……はぁ……!」
有香(キツい……!今まで延長闘ったってこんなに疲れたことは無かったのに……)

有香(時間は……まずい!もう1分を切る!)

有香(いやだ!アイドルを……諦めたくない!あたしの空手を……何も出せてない!)

有香「うあああああああ!」
ブオ

リョウ(そんな雑念の多い蹴りが……!)

リョウ「見切った!破ァ!」
ドン


拓海「ちょっ」

美波「有香ちゃん!」

ロバート「リョオオオオオオ!!!」

リョウ「……寸止めだ、当ててはいない」

有香「……!あ……!」
ヨロ ペタン


ロバート「リョウ!お前、自分から手は出さへん言うたやろが!」

リョウ「だから今のはカウンターだし、攻撃を当ててもいない」

ロバート「んな屁理屈を!もうええ!ここまでや!後はワイがお前の相手したる!」

リョウ「中野さん。君は普段の試合の時からそんなに雑念に塗れた状態で闘っているのか?」

有香「……!」

リョウ「こないだの大会の時の君はそんな風には見えなかった。大柄な相手を如何に攻略するか。その一点に研ぎ澄まされていた。だからこそあそこまで善戦したのだし、俺たちも胸を打たれた」

有香「……」

リョウ「だが、今の君はどうだ?確かに状況的には気が逸ってしまうのも仕方ないのかもしれない。だが、集中できていない、何の意図もない、魂の宿らない拳を何十、何百打たれようとも俺には絶対に届かない」

有香「……」

香澄「全く、偉そうな講釈を垂れているな極限流。いや、狂言流」

拓海「……おわ!お前いつの間に!」

香澄「有香ちゃんの様子が心配なので身に来ました。こうなったのは私のせいもあるので……」


リョウ「中野さん。いや、有香。まだ闘えるか。いや、闘いたいか?」

有香「……ぃたいです」

リョウ「聴こえないな」

有香「……闘いたい!アイドル、諦めたくないです!!」

リョウ「よし。ならひとまずそのアイドルへの思いも、一旦捨てろ!そして、一撃だ。ただ一撃、拳を打つことにのみ集中しろ!それを俺は受ける。合否はそれで判断する」

有香「!」

リョウ「わかりやすくていいだろう。お前の魂の拳が、俺の魂に響けば合格。そうじゃなけりゃ不合格だ」

リョウ「立てるか?」

有香「……はい!」
スク

リョウ「……よし。ならお前の覚悟が決まった時に、拳を俺の腹に打ち込んで来い」

有香「……押忍!」

有香(集中、集中、集中……!アイドルへの思い、私を鍛えてくれた師匠への思い、そして、こうしてチャンスをくれた坂崎さんへの感謝の思い……全部捨てて……いや!全部を乗せて!それくらいの重さがないと、私の拳は届かない!)

有香「……!覇ァァァァア!!」

ズドン

ロバート「……!!」

香澄「……!!」

リョウ「……」

有香「……!ッハァ、ハァ……」
ガク

美波「有香ちゃん!」
拓海「有香!」

有香「待ってください、お二人とも……坂崎さん、どうですか……?」

リョウ「……お前の魂の拳、伝わった。俺は全部捨てろと言ったが、まさかひっくるめて乗せてくるとはな。恐れ入ったぜ、一本取られた」

有香「そ、それじゃあ……!」

リョウ「ああ、文句なし、合格だ。この一撃が撃てるなら、君はきっと最強のアイドルを目指せるよ」

有香「……!やった!ありがとうございました!押忍!」

ロバート(いやまぁ、正直今の一連の流れのどこにアイドル要素が?とは思うけどな……まぁ合格ならエエわ……しかし……さっきの一撃……)

拓海「有香!やったな!」

美波「おめでとう!有香ちゃん!」

有香「拓海ちゃん、美波さん!ありがとうございます!」

有香「香澄ちゃん!あたし、やりましたよ!」

香澄「ええ!お見事な一撃でした!本当に、驚くほどに……」


有香「……?」

拓海「っしゃあ、早速契約祝いの打ち上げ行こうぜ社長!肉!肉!」

ロバート「獣か!……今日は皆疲れとるやろ、正式契約も祝いもまた後日や。今日のところは解散や解散!ワイもこの後トレーナーとの交渉の詰めがあるからな」

拓海「チェッ……まぁしゃーねーか」


ロバート「……それとリョウ。ちゃんとケアしとけよ?」

リョウ「ああ」

路上

拓海「……いやあ、一時はどうなることかと思ったけど、決まってよかったな」

有香「ありがとうございます!……それにしても坂崎プロデューサー……あの人は並大抵の使い手ではありませんよ。さぞかし著名な空手家なのかと思いましたが、極限流空手……お恥ずかしながらあたしは聞いた事がありません」

美波「サウスタウンから来たって言ってたから、海外じゃあ有名なのかも?」

拓海「……ってなると、今まで地味に謎だったあいつらの過去が少しわかってきたな……」

美波「元々サウスタウンで空手……極限流空手っていうのかな?その先生をやっていて、それで同門で親友のロバート社長が日本でプロダクションを作るから、プロデューサーとしてお手伝いするために一緒に日本に来た……ってことなのかな」

拓海「……冷静にまとめると『なんで?』って感じの流れだな……」

美波「……ん、あれ?」

拓海「ん?どうした美波?」

美波「ごめんなさい、ちょっと事務所に忘れ物したみたい。取りに戻るから、ふたりは先に帰ってて?」

有香「あ、それでしたらあたしも師匠に報告をしに道場に行かなければいけません」

拓海「なんだよ、そうなのか……んじゃあ、今日はここで解散にすっか」

美波「うん、そうだね。それじゃあ、拓海ちゃん、有香ちゃん!またね!」

拓海「おう、またな」

有香「これからよろしくお願いします!押忍!それでは失礼します!」

事務所


美波「ええと、ロッカールームロッカールーム……」
スタスタ

リョウ「……藤堂の、色々有香に世話焼いてくれたみたいだな。すまない」

香澄「私は別に何もしていないし、友達の有香さんとお喋りしただけの事だ。お前に礼を言われる筋合いはない」

美波(坂崎さんと香澄ちゃん……?あっ……そういえば香澄ちゃんは元々坂崎さんと手合わせしに事務所に来たんだった……!)

リョウ「友達、か。これからも有香とはいい友人でいてくれ」

香澄「何度も言うが、勘違いするな。私は、この事務所の皆さんとは友好を結んだが、極限流と慣れあう気は一切ない」

リョウ「全く、ツレないな。じゃあ、今から一戦やる気か?」

美波(……!や、やっぱり……)

香澄「……見くびるな、リョウ・サカザキ!私が万全ではないお前に勝って喜ぶような卑怯者に見えるか!」

美波(……え?)

リョウ「……気づかれてたか」

香澄「気を扱う者なら、当然だ。恐らくロバート・ガルシアも気づいていただろう。さっきの有香ちゃんの最後の一撃……」

リョウ「……ああ、稚拙ではあるが……確かに、気を纏っていた」

美波(気……?)

リョウ「だが、いくら稚拙ではあっても、全く気を受ける準備をしていなかった身体には殊の外響いた……いつ、何時にあっても、油断大敵。俺もいい勉強になった」

香澄「ふん……自分からあんなに有香ちゃんを煽っておいて、思いのほか大きなダメージを喰らってしまうとは、情けないものだな極限流!」

リョウ「そう言われてしまうと返す言葉もないが……有香は鍛えれば空手の方もまだまだ伸びる。逸材だよ」

香澄「ふん……まぁそういう訳だ。お前が万全になった時、その時改めて再戦を申し込む。……あの時渡した鉢巻はちゃんと持っているな?」

リョウ「ああ、ちゃんとこっちにも持ってきてるよ」

香澄「よろしい……ならば次に会うときはその鉢巻を忘れずに持ってこい。良いか?絶対だぞ!絶対の絶対だぞ!」

リョウ「わかってるよ……約束だからな」

香澄「なら、いい。失礼する」
スタスタ

リョウ「……ああ見えて、義理堅いというか、真面目というか……あいててて……」

ガチャ
美波「……」


リョウ「……ん?美波、どうした?忘れ物か?」

美波「ええ……坂崎さん、上、脱いでください」

リョウ「お、おいおいどうしたんだ急に……いてて」

美波「じっとしててください……手当しますから」

リョウ(……参ったな、聞かれてたのか今の話……)

美波「……」
クルクル

リョウ「……美波」

美波「……はい?」
チョキチョキ

リョウ「……すまないな」

美波「……私には気というものが何なのかは分からないですし、坂崎さんが物凄く強い人だっていうのは分かりますけど」

美波「……あまり、無理はしないでくださいね」

リョウ「ああ……気を付けるよ」

今日はここまで
ていうか年末年始はリアル仕事が修羅に入るので次回更新(予定)は1月4日になります。
ここまで読んでくれてる方は率直な感想とか頂けたら幸いです。

数日後


有香「……あった!ここです!ここのお肉屋さんですよ!」

拓海「……まぁ肉は肉だけどよ~」

美波「まぁまぁ拓海ちゃん……有香ちゃんたっての希望だし、香澄ちゃんのお墨付きだし、ね?」

ロバート「せっかくの契約祝いを街角の肉屋のコロッケが良いとは……無欲というか、庶民的というか……」

リョウ「良いんじゃないか、たまにはこういうのも」

公園
有香「ささ!みなさん、冷めないうちに食べましょう!」

拓海「……じゃあ食ってみるか……確かにいい匂いはするが……」
パクッ

拓海「……」
サクモグモグ

拓海「うめええええ!なんだこりゃあああ!」

美波「……美味しい!」

ちひろ「うん、油がしつこくなくて、お肉も香りがよくて美味しいですね」

ロバート「……こ、これが肉屋のコロッケちゅうもんか……なんや舐めとったわ……」

リョウ「文句なしにうまい」

有香「……!やりましたよ!お肉屋さん!香澄ちゃん」

有香「……改めまして、中野有香です!これから最強のアイドルを目指して頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!押忍!」


拓海「体育会系だなオイ」

美波「有香ちゃんらしいね」

ロバート「よし、恒例の二つ名発表やけど、ほんなら有香ちゃんは6810プロの黒帯やな」

リョウ「恒例なのか……」

有香「……!その名を汚さぬよう、一層精進します!押忍!」

拓海「真面目か!」

夕方・解散後
事務所

リョウ「……みんな帰ったか」

ちひろ「……プロデューサーさん、お客様がいらっしゃってます」

リョウ「なに?参ったな、ロバートはもう帰っちまったが……」


ちひろ「それが、神誠道場というところのご師範だそうで、ご挨拶がしたいそうです」

リョウ「神誠道場?有香の?……わかりました、俺が会います」

師匠「どうも。この近くで神誠道場という小さな道場をやっている者です」

リョウ「初めまして、ロバートプロダクションでプロデューサーをやってます、リョ……坂崎亮です」

師匠「初めまして……なのですが、私はあなたの……あなた方の事を存じております。極限流の『無敵の龍』殿」

リョウ「……これは恐れ入ります。どこかで、極限流と?」

師匠「いえ、直にお目にかかるのはこれで2回目……1回目はこの前の空手大会の体育館です」

リョウ「それは……とんだ無礼を」

師匠「いえいえ……私とて空手家の端くれ、遥かサウスタウンからであってもその武名は我々空手家の元には聞こえております」

師匠「なので、先日の大会の時もあなた方が体育館を訪れた時、一方的に見ていただけです。噂の極限流の『龍虎』がどんな人物なのかと」

リョウ「……それは、どうも」

師匠「そして恐らく、それは私だけではない。日本の武道会は今密かに騒がしくなっていますよ。極限流が突如日本に来た、とね」

リョウ「……」

師匠「しかし、驚きました。ウチの道場からさほど離れていないところに、アイドルの事務所が出来たと。そしてそこで活動してるのはなんとあの極限流の二枚看板らしいと」

リョウ「……まぁ色々事情がありまして」

師匠「ええ、それはこちらも同じこと。私も心配していたのです。……ウチの大事な愛弟子を、素人が気まぐれに手を出したプロダクションに託して良いのか、と」


リョウ「……!」

師匠「……」

ピシ
ちひろ(か、カップに急にひびが……)

リョウ「……師範どの、俺たちは……」

師匠「……ええ。ですがそれは私の杞憂だったようだ。どうやらあなた方は本気でいらっしゃるようだ。それならば、同業者という点で、かえって安心して有香を送り出せる」

師匠「……坂崎殿。どうか、有香を、何卒……!何卒宜しくお頼みします……!」
ザッ

リョウ「師範殿……確かに、承りました。こちらの方こそ、有香を、大事なお弟子さんを、お預かりさせて頂きます」
ザッ

師匠「……ところで坂崎殿。有香は一体いつ頃デビュー出来る予定なのですかな?」

リョウ「え?い、いや、現時点ではまだなんとも……」

師匠「左様ですか……それでは!もし有香のデビューが決まったならば!すぐにお知らせを!すぐにですからな!」

リョウ「え、は、はい。え?」

師匠「ふふふ……楽しみだなぁ……それではこれで失礼します、坂崎殿」



リョウ(まさかここ(応接室)で一戦やる羽目になるかと思ったが……食えねえ人だなあの御仁は)

東京・某所

???「フッ……極限流、日本まで来て何をやっているかと思えば、まさかアイドル事務所とはな」

???「大方、ロバート・ガルシアの気まぐれだろうが、随分と呑気なものだ」

???「……ハハハ、しかしアイドルか。なるほど、それもまた一興か。ハハハハハハ!」

いったんここまで

翌日
事務所

ガチャ
ロバート「おう、おはようさん!リョウ、おるか!?」

リョウ「おはよう、ロバート。そりゃいるよ。住んでるんだからな」

ちひろ「おはようございます、社長」

ロバート「ちひろさんもおはようさん!……それより、覚えてるか?以前話した、スカウト以外でのアイドルを雇う計画……」

リョウ「ああ、聞いたな。……まさか?」

ロバート「せや!実はこっそり裏で進めとったんや。ロバートプロダクションアイドル募集企画!」

ロバート「ネットの芸能事務所の求人サイトとかで募集をかけててな……まぁ出来たばかりの無名振興事務所やから、めちゃくちゃ応募があったわけやないが、それなりの数の応募はあった。改めて、この国ではアイドルになりたいと願う女の子はたくさんおるっちゅうこっちゃな」

リョウ「いつの間に……」

ロバート「ワイもただフラフラしとっただけやないっちゅうことや!送られてきた履歴書と写真でワイの方で大方の一次審査は済ませてある」


ロバート「2次審査……ていうか最終審査の面接に残ったのが5名……ほんで、今の6810プロはすでに3名のアイドルが所属……当初の計画として5名のアイドルを揃えて活動を始める予定やから、この5名の中から出来れば2名、最低でも1名は採用したいところやな」



ロバート「とは言っても一次審査の時点でワイの目によるある程度のビジュアル面での基準はクリアしとる娘ばかりや。なんで、後は実際の面接でその娘がやっていけるかを見極めることになる。そんで、その面接にはリョウ、お前も当然参加してもらう」


リョウ「面接か……限られた時間の中で、ほとんど知らない相手の人となりを判断するのはかなり難しいな……拳を交えれば一発なんだが」


ロバート「アホ!全員と組手する気か!……まぁそれはそうやけど、面接にはワイも参加する。そんで、二人で話し合って合否は決めたらエエ」

リョウ「そうか……で、面接はいつなんだ?」

ロバート「今日の午後からや。やから、それまでにこの5人の履歴書に目を通しとってくれや」
スッ

リョウ「今日なのかよ!急だな!ったく……」
ペラ

ロバート「どうせ期間空けたって別にお前の判断基準は変わらんやろ……それにこの募集費用やらなんやらでプロダクションの資金もかなり厳しくなってきとる。もうあまりゆっくり動いてもいられんのや」

リョウ「そういうことなら仕方ないな……」

ロバート「まぁこれも慣れへん仕事やろうけど、美波ちゃんも言うてたやろ、挑戦や挑戦」

午後
会議室
ロバート「それでは、自己紹介と自己PRを」

女の子A「はい!○○といいます!趣味は料理で、特技は日本舞踊です!」

リョウ「日本舞踊?」

女の子A「はい、幼いころから仕込まれてますので……」



ロバート「それでは、志望動機を」

女の子B「志望動機?実は募集を見て、勝手に親が応募して~」

女の子B「けど~、テレビで出てる女の子って~、ぶっちゃけアタシよりカワイイ娘いないし絶対イケるなって思って~」

リョウ「大した自信だな」

女の子B「は?」

ロバート「どうぞ」


女の子C「実はあたしモデルの経験あって、ルックスには自信あるんですよ」

女の子C「それにスタイルの維持にも普段から気を使っていますし、今朝も朝食はスープだけです」

リョウ「大丈夫か……もっとしっかり朝飯食って来いよ」

女の子C「スタイル維持の方が大事なんです!」


女の子D「テレビで見たアイドルの人が、観客の人をみんな笑顔にしてて……私もあんなふうになれたらなって憧れてっ!」

リョウ「憧れだけで出来る仕事じゃないかも知れないぞ」

女の子D「やっぱり、私みたいな子どもじゃ難しいですか……?」

リョウ「年齢は関係ないと思うぞ」

リョウ(しかし細いなこの子は……)

女の子E「どんな厳しいレッスンにも耐えられます!体力には自信がありますから!」

リョウ「おっ、元気良いな。普段から運動してるのかい?」

女の子E「はい!色々なスポーツをやってます!バスケにサッカー、野球にアメフト……」

リョウ「幅広いな」



リョウ(……わからん!)

ロバート「……はい、今日はおおきに。すぐに合否を発表するんで、30分ほど応接室で待っとってや」




リョウ「……ロバート、こういっちゃあなんだが全然わからなかったぞ」

ロバート「ルックスはワイが直々に写真を審査しただけあって皆カワいかったな。実物見ると印象ちがうのもおったが」

ロバート「ただまぁ、面接やからそんな自分にマイナスな事言う娘はそうそうおらんわな」

リョウ「しかし、ほとんどの娘とはちゃんと会話を出来た感じがなかったな……それは質問をする俺の方の技量不足のせいなんだろうが……」

ロバート「正直ワイも判断しかねるんやが、フィーリングやフィーリング……ん?電話か?」
プルプル

ロバート「はい、もしもし、ロバート・ガルシアですが……え?今からすぐでっか?……わかりました、向かいます」
ピッ

ロバート「……すまんリョウ、急用や。待たしとる子らには悪いけど、後日結果を連絡するからってんで今日のところは帰しといてくれ」

リョウ「お、おいロバート」

ロバート「詳しい事は帰ってから伝えるわ。ほなとにかく頼んだで!」
バタバタ


リョウ「……急に帰せって言われてもな……」

リョウ「……そうだ、せっかくだし少しくらいならいいだろう……」

応接室
ガチャ

リョウ「みんな待たせてすまないな」


女の子A「!いえ、結果が出たのですか!」

女の子B「ならさっさと発表して欲しいんですけど~」

リョウ「それなんだが、すまない。選考が難航しててな。結果は後日改めて連絡させてもらうことになる」

女の子C「ええ……じゃあ今日はこのまま解散ですか?」

リョウ「ああ、それなんだが……せっかく来てくれたのにこのまま帰すのは悪い。なんで、今日はうちのレッスンを少し体験してもらおうと思う」

女の子E「!本当ですか!?レッスンはダンスですか、ボイスですか?」


リョウ「ああ……とりあえず事務所に貸し出し用のジャージがある。それにみんな着替えてくれ」

都内某所


ロバート「……そんな、余りにも急すぎるんとちゃいます?交渉も複数回重ねてて、もう最後の詰めの段階だったはずやで」

???「だから先ほどから何度も謝罪しているだろう……本当に申し訳ない」

ロバート「そんないくら口先で謝られても、ずっと交渉してきたウチを蹴って、後から交渉してきたプロダクションの方に行くなんて納得できへんわ」


ロバート「それもまぁ契約ごとやからしゃーないっちゃあしゃーないけど……一体ナンボ積まれたんです?」

???「契約内容の事は向こうとのこともある。当然明かすことはできない」

???「……だが、君の所のプロダクションに私が不義理を働いたのも事実だ」

???「信じてもらえないかもしれないが、金額で向こうに決めたわけではない、とだけ言っておく」

ロバート「はっ、どうだか……何にせよウチのボイストレーナー探しはまたイチからや。もうあまり時間もあらへんのに……」

???「それについても、私のツテを当たってみて、もし紹介できそうな者がいれば連絡させてもらう」

ロバート「……もう部外者のアンタにそこまでしてもらう義理はないけど、今のウチは藁にも縋りたい状況や。期待せんで待たしてもらいまっせ。ほな」


事務所
ロバート「……戻ったで~……全く由々しき事態やで……」

ちひろ「おかえりなさい、ロバート社長」

ロバート「……あれ?リョウは?」

ちひろ「プロデューサーさんなら、少し前にランニングに出られました。受験者の子たちと一緒に、体験レッスンだと言って」

ロバート「なん……やと……」
フラッ

ロバート「アカン!ちひろさん、なんで止めんやったんや!アイツはアホやぞ!そんな事したら、女の子全員……ハッ、携帯!まだ間に合う!連絡を……」
ピッ
プルルル

机の上の携帯「プルルルル」

ロバート「……」

ロバート「携帯しとらーーーーん!あのアホ、置いて行っとるーーーー!!!」

ロバート「ああ……もうダメやぁ……おしまいやぁ……」


ちひろ「あっ、社長、事務所の前にタクシーが停まりましたよ……」

ロバート「……まさか」

ガチャ
ツカツカ
女の子A「……」

女の子B「マジあり得ないしこの事務所」

女の子C「私はアイドルになりに来たんです。オリンピック選手なら他を当たってほしいです」

女の子E「アタシスポーツは観る専だし」
ゾロゾロ

ロバート(やっぱりーーーーー!!)

女の子A「あ、社長さん。丁度いいです、今回のお話、無かったことにさせて頂きます」

女の子B「アイツマジヤバくね?ていうかこの事務所あり得無くね?」

ロバート「あ、あ~、あのアホがなんかとんでもない事してしもたみたいやけど、ほんと普段はこんなことない……」

女の子E「ウソだ!あのプロデューサー、『今日はお試しだからいつもの半分の速さで走ろう』とか言ってたぞ!つまり普段はあの2倍の速さで延々走らされるんだ!ふざけんな!」

女の子C「とにかく、これはタクシー代の請求書です。払わないとは言わせませんよ?プロデューサーの方が『タクシー代は社長に請求してくれ』って言って私たちを乗せたんですから」

ロバート「おお……」
ヨロヨロ

女の子A「それではごきげんよう。2度と来ることはないでしょう」

女の子B「バーカ!一生流行んねーよこんな事務所!」

ロバート「……」

リョウ「……そうか、背の高さがコンプレックス……」
タッタッタ

女の子D「コンプレックスっていう程じゃないんですけど……私、可愛くなりたいんですっ。けど、背が高い子って可愛くないんじゃないかって」
タッタッタ

リョウ「女の子だもんな、俺たち男にはわからん、そういう悩みもあるだろうが……別に可愛い可愛くないに身長は関係ないだろう?本人の愛想の問題だと思うが」
タッタッタ

女の子D「はいっ、実は最近見たテレビに出てた、私よりも身長の高いアイドルの人が、すっごく可愛くってっ!可愛いに身長は関係ないんだ、私もあんな風になりたいって!」
タッタッタ

リョウ「さっきの面接でも話してたな……というより、君がこんなに体力があるのに驚きだ。面接では話さなかっただろう?」

女の子D「実は、背の高さでちょっと不安だったんですけど、そのうえいっつも陸上部で走ってばっかりって知られたら、あんまり可愛いって思ってもらえないかもしれないと思って……」

リョウ「そりゃ困る。こっちはただでさえ面接の経験不足で、しかもあの短時間で君たちの人となりを見なきゃいけないんだ。その上隠し事までされたんじゃ、もう俺にはどうしようもないぞ」

女の子D「あっ……ごめんなさい……」
シュン

リョウ「それに、陸上やランニングは君が普段から本気で取り組んでることだろう?なんであれ、本気でやってることをマイナスに捉えるような奴はウチにはいないさ」

女の子D「……!」

リョウ「……それに、君がこうして一緒に走ってくれたおかげで、しっかり話が出来た。少しだが、君の……乙倉悠貴さんだったかな?ユウキさんの人となりを知ることが出来たよ」


リョウ「他の娘たちは残念ながら早々にリタイアしてしまったから、イマイチ人となりを知ることが出来なかったが、後はロバートと話しをして合否を決めるしかないな」



リョウ「……それより、君について、身長よりも気になってたことがあるんだが……」

女の子D「はいっ?なんでしょう?」

リョウ「……その、君は、しっかりメシを食ってるか?」

悠貴「え?」

リョウ「ユウキさん。事務所に帰る前に、メシ食っていこう。俺の奢りだ」

悠貴「???は、はいっ!ありがとうございますっ!」


悠貴「それと、悠貴って呼び捨てで良いですよっ!さん付けなんて、慣れてなくって、なんだか照れちゃいますっ!」

リョウ「そうか、じゃあユウキ!そこのファミレス寄って帰るぞ!」

悠貴「はいっ!」

今日はここまで

今日はちょっと残業になりそうなので、次の更新は明日の夜になります

ファミレス

リョウ「思うに、君は良く走っているんだろう?それに対して食べる量が少ないと思うんだ」

リョウ「ユリが……妹が言っていたんだが、消費するカロリーに対して摂取するカロリーが少ないと人はどんどん痩せていくと」

悠貴「そうですね……他の友達の子たちと比べても食べる量は普通か、ちょっと少ないくらいかもしれませんっ!」

リョウ「そうだろう?……まぁ、君は格闘家やプロスポーツ選手になりたい訳ではないだろうから無理して詰め込む必要はないが、ユウキは今13歳か?まだまだ育ち盛りなんだから、沢山食べるに越したことはない」

リョウ「それでも、沢山食べるのにはそれなりに訓練が必要だから、まずは好きな物でもいいから、食べる量を増やしていこう……と料理が来たな……む」

悠貴「?プロデューサーさん、どうしましたっ?」

リョウ「……いや、なんでもない。ユウキが頼んだのはハンバーグセットか。好きなのか?」

悠貴「はいっ、というより大体のものは好物なんですけど……ただ……」

リョウ「ただ?」

悠貴「生野菜だけはちょっとニガテで……えへへっ」

リョウ「……本当なら好き嫌いなく食べるんだ!と言いたいところなんだが……それに関しては、俺もちょっとな」

悠貴「えっ、プロデューサーさんにもニガテな物があるんですかっ?大人なのにっ」

リョウ「ぐっ……まぁ、俺は漬物全般がちょっとな……あの独特の臭みというか、後味というか……」

悠貴「……あっ!付け合わせのお漬物!だからさっき微妙なお顔したんですねっ!」

リョウ「び、微妙な顔なんてしてないぞ!……いや、したかもな」

リョウ「よし!それなら俺はこの付け合わせの漬物。ユウキは付け合わせの生野菜サラダ。お互いちゃんと残さずに食べること!」

悠貴「は、はいっ!でも、もしどうしても食べられなかったら……」

リョウ「食べる前から食べられなかったときのことなんか考えるな!だが……」

リョウ「……その時は、行儀は悪いがサラダと漬物を交換だ。内緒だぞ」

悠貴「は、はいっ!」

事務所
リョウ「戻ったぞ……。じゃあユウキ、シャワーを浴びたら着替えて、今日のところは解散だ。合否は改めて連絡するk」

ロバート「いや!悠貴ちゃん!待たすまでもない、君は合格や!おめでとう!」
ズイ

悠貴「えっ!?社長さんっ!?ホントですかっ!?」

リョウ「ロバート?合否はごじ」

ロバート「ああ!合格や!実は今のランニング、これが最終試験やったんや!だから、リタイアしてしまった他の娘は残念やけど不合格や」

リョウ「そ、そうなのか?俺はなにm」

ロバート「けど、見事悠貴ちゃんはやりきった!お見事!君こそウチのプロダクションにふさわしい!というわけで、ウチの事務所に入ってくれるよな!?な!?」
ズズイ

悠貴「(しゃ、社長さん、ちょっと怖いですっ)は、はいっ!ぜひともよろしくお願いしますっ!」

ロバート「よっしゃ、今日はもう疲れたやろ、シャワー浴びて、後日正式契約や」

悠貴「はいっ!ありがとうございましたっ!プロデューサーさんも、ごちそうさまでしたっ!」
ペコ

リョウ「あ、ああ」

リョウ「おいロバート、さっきの話、俺は聞いてないぞ。どういう……ロバート?」

ロバート「聞いてへんはこっちのセリフやぁ……!お前、どういうつもりやねん!なんで勝手にランニングに!今日は帰せ言うたやろが!」


リョウ「ああ、それなんだがな。やはりさっきの面接だけでは彼女たちの人柄を知るのに不十分だと思ってな。かといって、組手をやるわけにもいかんから、とりあえず軽くランニングにしたんだ」

ロバート「や・か・ら!!軽ぅない!軽ぅないんやお前の軽くは!お前、たまたま今集まっとる女の子たちがみんな基礎体力があったからって、世の女の子みんなそうやと思うなや!あの悠貴ちゃん以外はみんな怒って帰ってもうたわ!こんな訳わからんシゴキやってられへんって!」

リョウ「な、なんだって……?じゃあさっきのユウキ以外不合格ってのは……」

ロバート「あっちの方からお断りされたって話や!不合格はどっちかというとこっちの方じゃ!ドアホ!」

リョウ「そうか……残念だ……」

ロバート「残念どころの話やないで……今回の募集で2名獲得できればプロダクションとして本格的に始動できたのに……」

ロバート「せめて一人は絶対に逃がすまいと悠貴ちゃんには即合格を伝えたけど、もし彼女がダメやったらもう終わりやで……」

リョウ「……今回の件に関しては俺の勇み足だった。それは謝る」

リョウ「だが、ユウキに関しては、間違いない人選だと断言できる。あいつは間違いなく伸びる」

ロバート「……ほう?まぁあの子に関しては面接でも光るものはワイも感じ取ったが、お前がそこまで言い切る根拠はなんや?まさかお前のランニングに付いて来れたから、なんて言うつもりやないやろなぁ?」

リョウ「まぁ体力もそうだが、性格の問題だ。さっき少し話しただけだが、彼女は本当に素直だぞ。それに向上心があるし、努力を厭わない。そういうやつは絶対に伸びる。それはもちろん導いていく俺たちが間違えなければ、だが」

ロバート「……まぁお前がそこまで言うなら悠貴ちゃんの素質は確かなんやろ。やけど、5人目などうするんや。当然もう一回募集をかけて、なんてのは時間的にも資金的にも無理やぞ。……それに、よくないニュースもあるしな」

リョウ「よくないニュース?」

ロバート「以前話しとったアメリカ帰りのトレーナー。別のプロに横取りされた。トレーナー探しはまたイチからや」

リョウ「なんだって!?……じゃあ、まだレッスンは始められないのか……」

ロバート「ワイも急いで代わりを探しとるけど、ボイストレーナーかダンストレーナー、せめてどっちかは早急に決めたいところや……」

ロバート「……まぁトレーナーの方はワイの方でなんとかする。リョウの方は最後の5人目、これはもうお前になんとかスカウトしてきてもらうしかない」

リョウ「……それについてだが、5人目にぜひ誘いたい娘がいる」

ロバート「なに……?お前にこっちでツテがあるんか?まさか藤堂の娘か……?」

リョウ「いや、違う。それに別にツテって程のものじゃない。前に街中で一回声掛けて断られたことがあるだけだ」

ロバート「なんじゃそりゃ?ホンマに全然ツテやないやんけ、それに断られたって……こんな緊急の時に、そんなじっくり勧誘するヒマはないで。それとも、そんな食い下がりたいほどの逸材やったんか?」

リョウ「……どうだろうな。容姿は優れていたと思うが、それよりも彼女のあの眼……そればかりが思い浮かぶ。なんというか、あのまま放っておくことが、俺には出来ない。そんな眼をしていた」

ロバート「よくわからんけど……まぁスカウトに関してはもうお前に一任しとる。けど、あんまり入れ込みすぎたらアカンで?もし見込みがなさそうやったら次に切り替えていくんや」

リョウ「ああ、わかった」

数日後
都内・バイキング

リョウ「さあ!着いたぞユウキ!ここは時間内ならどれだけ食ってもタダだ!沢山食べるんだ!」

悠貴「はいっ!たくさん食べられるように頑張りますっ!」

拓海「いや、ハズいテンションだな!……まぁ食い放題だからな、気持ちはわかる」

美波「社長さん、今回の契約お祝いがバイキングなのは悠貴ちゃんの希望なんですか?」

ロバート「いや、なんかリョウが……とにかく腹一杯食える処が良いだろうって……まぁ確かに細いなぁとは思うけどな……」

有香「でも、悠貴ちゃんここに来る前のランニングでは一番坂崎プロデューサーについていけてました!その体力、私も負けていられません!」

リョウ「よし、ユウキ!とりあえず俺が食い物を皿に盛る!好きな物を言うんだユウキ!」

悠貴「あ、ありがとうございますっ!何があるか一緒に見に行きましょう!」

拓海「……なぁ、なんかサカザキのヤツ、妙に悠貴には構うというか……世話を焼くというか……そんな感じしねぇ?」

美波「そ、そうかな?でも悠貴ちゃん、ちょっと話したけどすっごく素直で可愛くて、世話焼きたくなるのもわかるかな……」

悠貴「戻りましたっ!はい、みなさん、お飲み物ですっ!」

拓海「おっ!気が利くじゃねえか……ん?なんだこのジュース……」

有香「美味しいですが、飲んだことありませんね?」

悠貴「ここのドリンクバー、色々種類があってっ!それでちょっと混ぜて作ってみましたっ!どうですかっ?」

美波「うん、美味しいよ、悠貴ちゃん!」

リョウ「待たせたな」
ドンッ

拓海「いや、盛りすぎだろ!それ全部悠貴に食わす気か!?」

リョウ「そ、そうか?育ち盛りだからこれくらいイケるかと思ったが……」

悠貴「いえっ!プロデューサーさんにせっかくよそってもらいましたからっ!いただきますっ!」
パクパク

悠貴「うんっ!おいしいですっ!」
ニコッ

リョウ「……っ」

ロバート「……!」

美波「……っ」
キュン

悠貴「あ、ちひろさん、拓海さん、飲み物無くなってますよっ!注いできますね!」

ちひろ「あっ、悠貴ちゃん!今日の主役は貴方なんだから、そんなの気にしなくていいのに」

悠貴「良いんですっ!何か飲み物リクエストありますかっ?」

拓海「いや、特にねーよ。また悠貴ミックスで頼むぜ」

悠貴「はいっ!任せてくださいっ!」
パタパタ

拓海「なぁサカザキ……お前なんか悠貴に甘くねーか?いや、甘やかしたい気持ちはわかるけどよ。ロリコンなのか?」

リョウ「……!?そ、そうか!?そんなこと……ないだろう……」

リョウ「……ただ……まぁ……確かにユウキと話してると、ユリの……一番素直な頃の妹と話してるみたいな気持ちになってくるような……いや、いかんいかん……まだ修業が足りねぇな俺も……」

美波「わかります……素直な年下の兄弟って、ほんとに可愛くて……」

ロバート(リョウはまぁシスコン気味やからわかるけど……このワイも不意に胸をときめかされるとは……悠貴ちゃん、恐ろしい娘……!)

悠貴「それでは改めましてっ、乙倉悠貴ですっ!社長さんっ!ちひろさんっ!先輩のみなさんっ!そしてリョウさ……いえっプロデューサーさんっ!よろしくお願いしますねっ!」

有香「はい!よろしくお願いします!悠貴ちゃん!」

拓海「おう!よろしく!悠貴!」

美波「よろしくね、悠貴ちゃん」

ちひろ「悠貴ちゃん、よろしくお願いしますね」

ロバート「おう!ほんで、恒例の二つ名は……6810プロの『恐るべき13歳』やな」

悠貴「お、恐るべきっ!?私って、こ、怖いですかっ!?」

リョウ「いや、気にしなくていい……よろしくな、ユウキ」


リョウ(これでアイドルが4人……アイツはまだ、街にいるだろうか?)

今日はここまで

翌日
駅前広場

リョウ「ここ数日は姿を確認できなかった。もうこの街を離れた、なんてことはないだろうが……」

数時間後

リョウ「……」

リョウ(いないな……)


???「……」
コソッ

翌日
駅前広場

リョウ「……」

???(あの人……今日もいる……誰に声をかけるでもなく……誰かを探してる?……まさか……いや、そんなはずないよね……学校行かなきゃ……)

数時間後

リョウ「……」

???(うわ……まだいる……もう諦めればいいのに)
コソッ

???(早く諦めちゃえば、楽なのに)

リョウ「……」

リョウ「……」
フゥ
スタスタ

???(あっ、帰った)

???(……)

事務所
リョウ「……戻った」

ロバート「おう、お疲れ、リョウ。首尾は?」

リョウ「……ここ数日、姿さえ見えない。引っ越した、なんてことはないとは思うんだが……」

ロバート「……なぁリョウ。スカウトをお前に任せたのはワイやし、お前の意向は反映させてやりたい。やけど、姿も見えないし、挙句一回断られて、会えたとしてもスカウトできる保証もないんやろ?……だったら、その娘は一旦保留してくれ、とお前に言わざるを得んわ」

リョウ「……」

ロバート「お前がスカウトに行ってる間も、今事務所にいる娘は自主的にお前と普段走ってるコースをランニングしてくれてる。けど、もうじきそれも終わりや」

リョウ「……なに?」

ロバート「実は、今日、以前交渉していた例のアメリカ帰りのトレーナー、彼女から連絡があってな。彼女の友人が、ダンスの専門家でこそないけど、ダンスレッスンを見てくれるらしい。ウチのアイドル達はみんなまだダンス経験ゼロやからな。お願いすることにした」

リョウ「!」

ロバート「その友人はもうすぐこっちに来てくれるらしい。……来てくれたら、それはつまり活動の本格的なスタートを意味しとる」


リョウ「……つまり、5人目を決めるのに、いよいよ時間がないってわけか」

ロバート「そういうことや。やから、本当はこんな事言いたないけど、もうハードルは落としてもいい。とにかく1人確保してもらいたいんや」

リョウ「……ロバート、あと一日。一日だけ俺にくれ。もし明日ダメだったら、お前の言う通りにする」

ロバート「……わかった。お前がそんなに入れ込むんはどんな娘か、ワイも興味あるしな。けど、明日一日だけやで」

リョウ「ああ、ありがとうロバート」

翌日
駅前広場

リョウ「……」
キョロキョロ

???(今日もいる……やっぱり誰か探してる……)

???(……学校いこ)

数時間後


???(今日は遅くなっちゃった……あの人はもう流石に帰ったかな)


リョウ「……」

???(……まだいる!)

???(……もう!)

リョウ(結局、いない、か)

???「ねぇ、アンタさぁ……毎日毎日誰を探してんの?」

リョウ「……いるんじゃねぇか」

???「……え?」

リョウ「君を探してた。もう一度話したくてな」

???(やっぱり……私を……)

???「……話って?アイドルの件ならもう断ったけど?」

リョウ「その件だ。改めて、アイドルに興味はないか?」

???「……しつこいな。嫌って言ったら嫌なんだってば!アイドルなんて、なれるわけないでしょ!?アタシはそんな人間じゃないんだから……」

リョウ「どうしてなれるわけないんだ?現に今君はスカウトを受けているじゃないか」

???「……アタシ、小さい頃から病弱でさ。長く入院してたし、学校も休んでばっかで、友達も少なかったし。何かにまじめに取り組んだこともなかった……」

???「アイドルになるなんて、テレビの中だけの夢物語。報われない努力なんて、するだけ無駄でしょ。それに、アタシはその価値も素質も、何もないから……」

リョウ「……本当に、そう思うのか?」

???「え……?」

リョウ「少なくとも俺には、君は燻っているように見える。言葉では何もかも諦めているようなことを言っているが、君は自分を諦めきれていないはずだ」

???「アタシの事、何も知らないくせに、随分知ったようなこと言ってくれるんだね。『自分の価値を自分で勝手に決めつけるな』ってやつ?」

リョウ「ああ、俺は君の事を何も知らない。だからこその、客観的な視点ってやつだ。俺は全然化粧とかに詳しいわけじゃないが、君のその爪も、髪型も、自暴自棄になってるやつのものではないと思うんだがな?」

???「……っ、別に勝手でしょ、アタシがどんな格好したって……」

リョウ「そうだな、すまん。俺はよく女心がわからないと言われるからな、許してほしい」

リョウ「だが、女心はわからずとも、それなりの数の人間と会ってきたんだ。その人間の心に火が点いてるのか、燻っているのか、それとも完全に消えているのか。それくらいはわかるつもりだ」


???「……」

???「……わかった、わかったよ。でもアタシさぁ、さっきも言った通り病弱だったから体力ないし、努力とか練習とか、気合と根性!とかそういうキャラじゃないんだよね。それでも良い?」

リョウ「こちらから誘っておいてなんだが、努力できない奴を置いておく余裕はウチのプロダクションには無いし、俺も一緒にやるつもりはない。それなら他を当たる」

???「ええっ!?」

リョウ「だが、君は今まで入院ばかりだと言っていたな?だったら、それは努力できないんじゃない、努力の仕方を知らないだけだ。だったら大丈夫だ。俺は歩く気のない奴を待つほど気は長くないが、歩みの遅さが気になるほど短気じゃない」

リョウ「歩こうという意思がある限り、俺は君の背中を押し続けてやれる」

???「……厳しいんだか、優しいんだか……」

???「……でも、アンタ今までアタシの周りにはいなかったタイプの大人だね。わかった、良いよ。アンタに言いくるめられてあげる。えっと……」

リョウ「改めて名刺を渡しておく。この前は返されたからな」
スッ

???「坂崎さん、ね」

加蓮「アタシは加蓮。北条加蓮。とりあえずよろしくって言っておくね、プロデューサーさん?」

リョウ「ああ、よろしく、北条さん」

今日はここまで

事務所
リョウ「ここがウチの事務所だ。で、そこに座っているのが事務員の千川ちひろさん」

ちひろ「どうも、よろしくお願いします。プロデューサーさん、その娘が?」

リョウ「ええ、話していた娘です。名前は」

加蓮「北条加蓮。……どうも」

ロバート「ほ~、その娘がお前がどうしてもって譲らんかった娘か。よろしくな加蓮ちゃん」

加蓮(譲らなかった……?)

加蓮「……誰?この人……」

リョウ「ああ、このロバートプロダクションの社長をやっている、ロバート・ガルシアだ」

加蓮「社長!?……正直、全然見えなかった。軽そうだし」

ロバート「……いきなりご挨拶やな」

加蓮「それで、契約書は?今日はもう疲れたし、用事終わらせてさっさと帰りたいんだけど」

ロバート「お、おう」



加蓮「……はい、これでいいんだね?じゃあもう帰るよ」

ロバート「あ、ちょい待ってや。ウチのプロでは伝統的に契約祝いとメンバーの親睦を深めるために歓迎会を開催するんや。で、新メンバーの希望で場所は決めるんやけど、どこがエエ?なんか食いたいモンがあるなら、それで……」

加蓮「別にいらない」

リョウ「……え?」

加蓮「アタシはそこのプロデューサーがアイドルにしてくれるって言うから来たの。別に他の人たちと馴れ合う気もないし、必要もない」

ロバート「……おいおい、随分突っ張るやんけ。他のメンバーに顔見せだけでもしとこうと思わんか?これから一緒にやっていく仲間やで」

加蓮「別に顔見せならこの事務所でやれば済む話でしょ?どうしても何か開きたいならアタシ抜きでやってよ。んで、そこでアタシの紹介しとけばいいでしょ」

リョウ「……」

加蓮「もういいでしょ?じゃあ帰るから」

ロバート「……今日はもう暗い。車で送っていかせるから、少し待ってや」

加蓮「へぇ?一応そういう気遣いもできる事務所なんだ、ここ。じゃあ、それにはお言葉に甘えようかな」

ロバート「……もしもし、カーマンか?送迎頼むわ」





ロバート「……リョウ、ホンマにあの娘がお前が入れ込んでた娘なんか?」

リョウ「なにか誤解を招きそうな言い方はやめろ……そうだ」

ロバート「なんや、今までの娘……特に直前が悠貴ちゃんだっただけに、とんでもなく毛色が違って感じるんやが……」


リョウ「俺も深く話したわけではないから確実なことは言えないが……情熱はあると思う」

ロバート「……まぁ今更言うてももう契約したし、時間もないし、あの娘はお前に任せる。くれぐれも、他の娘たちとトラブルにならんようにな……」

翌日
事務所

リョウ「……というわけで、新しく加入した北条加蓮だ」

加蓮「……どうも」

拓海「……不愛想だな。なんかこう、自己紹介のひとつもねえのかよ」

加蓮「……なに?悪いけど先輩風吹かせないでくれる?」

拓海「……ああ?」

リョウ「おい」

加蓮「だってそうでしょ。事務所に入ったのはほんの少しそっちが先かもしれないけど、聞けばデビューどころか、走ってばっかりでまともなレッスンも受けてないっていうじゃん」

美波「……」

加蓮「だったら、別にアタシと立場は変わんないんだし、先輩でもなんでもないし。あ、もしかして年上だからって威張るタイプ?怖いなー」

拓海「テメェ……!」

リョウ「拓海、落ち着け。レッスンを受けさせられてない件に関しては俺とロバートの力不足だ。本当に申し訳ない」

ロバート「やけど、もうすぐダンスのトレーナーが来てくれる予定や。それまでは今まで通りランニングメインでこなしつつ、トレーナーが来たらそっちに移行していくことになる」

美波「えっ、トレーナーさんが?本当ですか!?」

ロバート「ああ、前交渉してた別のトレーナーのツテでな。ダンスの専門家じゃないしらしいけど、練習は見れるらしい」

ロバート「まぁちゃんとした専門のトレーナーじゃないのは申し訳ないけどな。専門のトレーナーもボイストレーナーもそのうちちゃんと引っ張ってくるから安心してや」

悠貴「そんなのっ、全然っ!」

有香「じゃあメンバーも揃って遂に本格始動というわけですね!押忍!」


加蓮「はぁ……ランニングにダンス……体力使うことばっかりだね。……まぁアタシは親にも無理するなって言われてるし、アタシのペースでやらせてもらうから」


拓海「……ちっ」

ロバート(案の定いきなり雰囲気最悪やんけ)

リョウ「……」

路上

拓海「……」
タッタッタ

美波「……」
タッタッタ

有香「……」
タッタッタ

悠貴「……」
タッタッタ

加蓮「はぁ、はぁ、もう、ダメ……」
ガク

リョウ「……美波、みんなと一緒にいつものコースを走って事務所に戻ってくれ。俺たちも後から行く」

美波「……加蓮ちゃん、大丈夫ですか?」


加蓮「見たらわかるでしょ、大丈夫じゃないよ……はぁ、はぁ」

悠貴「加蓮さんっ……あの、このドリンク、飲んでくださいっ」
スッ

加蓮「……ん、ありがと。けど、みんなしてあんまり見ないで。さっさと行って……」

拓海「……おい、美波。先行こうぜ」

美波「……」

リョウ「美波、良い。行ってくれ」

美波「……はい。坂崎さん、加蓮ちゃんのことよろしくお願いしますね」

拓海「……なぁ美波。アイツのこと、どう思うよ」


美波「加蓮ちゃんのこと?……さっき、坂崎さんから少し聞いてたんだけど、加蓮ちゃん、小さい頃病弱で、ずっと入院してたからあまり他人との付き合い方が得意じゃないかもって……」

拓海「……だから勘弁しろってか?ソレとコレとは話が別だぜ。体力がねぇのはこれから改善できたとしても、アイツがずっとあんな態度だったらアタシはぜってー仲良くできねーよ」

有香「でも、加蓮ちゃん、根っから悪い子のような気はしませんが……さっき悠貴ちゃんからドリンクもらった時もちゃんとお礼言ってましたし……」

拓海「お礼言えたら良いヤツってハードル低すぎだろ!障害物なし競争か!」

加蓮「はぁ……しんど……ねぇプロデューサー、今日はもう帰っていい?」

リョウ「ダメだ。歩いてでも良いからとりあえずコースを回って事務所に帰るぞ」

加蓮「ええ~……きっつ……アタシ体力ないって言ってんのに……」

リョウ「まぁ安心しろ。もしお前がぶっ倒れたら俺が担いで連れて帰るから」

加蓮「そんな恥ずかしいマネできるわけないでしょ……まったく……」

事務所
美波「ただいま戻りました……」

有香「あれ?お客さんでしょうか?」

美波(すごく綺麗な人に、可愛らしい女の子?)

ロバート「しかしまさかお前があのトレーナーの知り合いやったとはな」

女性「ああ、マナミはサウスタウンに仕事で来たときによくウチの店で飲んでくれたのさ。私と気も合ったしね」

女の子「へぇ~、でも綺麗な事務所だね。ロバートさん、けっこうお金かかってるんじゃないの?」

ロバート「そりゃあもう……もしこの事務所がピンチになったらユリちゃんにアイドルになって助けてもらおかな?ハッハッハ!」

女の子「もう、ロバートさんったら!」

女性「……ん?ロバート、あの娘たちがリョウのスカウトしてきたアイドル達かい?」


ロバート「ん?おお!みんな帰ってきとったか!……アレ?リョウと加蓮ちゃんは?」

美波「えっと、坂崎さんと加蓮ちゃんは後で遅れて帰ってきます」

女性「……ふ~ん」
ジロジロ

美波「え?あ、あの……」

女性「へぇ……あの朴念仁、こういう娘がタイプなのか……」
ジロジロ

美波「え?」

拓海「お、おい、アンタ」


女性「かと思いきや……こっちはまた全然タイプが違うね。気合が入ってる」

拓海「は、はぁ?」

女性「……と、こっちは……また別の方向で気合が入ってるね」

有香「!?……なんだかわかりませんが、光栄です!押忍!」

女性「……少しリョウに似てるね。で、アンタは……」

悠貴「あっ、あのっ!初めましてっ!乙倉悠貴って言いますっ!」

女性「アハハハ!これはまた素直そうで可愛い娘だ!ウチに持って帰りたいくらいさ」
ナデナデ

悠貴「っ……」
///

美波「あ、あの、貴女たちは?社長さんや坂崎さんのお知り合いなんですか?」

女性「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね」

キング「私はキング。今度からあんた達のダンスをちょっとだけ見ることになった。で、こっちの娘が……」

ユリ「私はユリ。ユリ・サカザキ!あなたたちのプロデューサーのリョウお兄ちゃんの妹だよ」

美波「い……」

拓海「妹だとぉぉぉぉ!!」

今日はここまで

ロバート「う~ん、拓海、エエリアクションや。なんかひな壇の仕事探して来ようかいな」

拓海「アンタは黙ってろ!……いや、しかし全然似てなくね……アタシはもっとこう厳つい感じかと……」

悠貴「?そうですかっ?私は似てると思いますっ」

ユリ「ちなみに今年でハタチでーす!よろしくね!」

有香「……と」

美波(年上……!?)

ガチャ
リョウ「戻ったぞ……ん?客か?」

加蓮「はぁ……はぁ……」

ユリ「あ!おかえり!そして久しぶり!お兄ちゃん!」

リョウ「……ユリ!?」

キング「フフ……やってるようだね、リョウ」

リョウ「キ、キング!どうしてお前たちが……?」

リョウ「……なるほどな。アメリカ帰りのトレーナーの知り合いがキング、お前だったとは……しかしダンスを踊れるとはな?知らなかったぜ」

キング「まぁ昔ちょっとだけね……本来人に教えられるような大したモンじゃないけど、マナミがどうしてもって頼んでくるからさ……それに」

キング「教えるプロダクションがあんた達のところって聞いたからさ……それなら別に良いかってね」

リョウ「いや、本当にすまないなキング……またお前に借りを作っちまった」

キング「ふん、まぁ今回貸しを作ったのはあんた達にじゃなくて、マナミの方にさ。なんでも最初はロバート、あんたと交渉してたのに別のところに持っていかれたんだって?」

ロバート「ああ、なんや金額じゃない理由で行くとかなんとか……お前さんはその辺なんか聞いてないか?」

キング「私も契約内容については何も……ただ、申し訳なさそうだったけどね。私の我が儘で本当に迷惑を掛けた、なんとか穴埋めがしたいって」

キング「私も本当は乗り気じゃなかったけど、マナミがあんまり必死に頼み込んでくるからさ。私の店にまた飲みに来るって約束で今回の話を引き受けたよ」

リョウ「……で、ユリ。お前は何しに日本へ?」

ユリ「もう!お兄ちゃん何その言い方!可愛い妹がはるばる会いに来たのに!」

キング「ああ、ユリはこの話をしたら『私もついてく!』って聞かなくてね。私は断ったんだが、しまいには泣かれたもんで、仕方なく連れてきたんだ」

リョウ「……重ね重ねすまないな、キング……しかしユリ。この話親父は知ってるのか?もし知らなかったら、今頃カンカンだぞ」

ユリ「まさか!知ってるわけないじゃない、知ってたら絶対反対されるもん!……けど、お兄ちゃん達が日本に行ってからお父さん物足りないのか知らないけど、シゴキがきつくなって……」

ロバート「ほんで逃げてきたんか……ごめんなユリちゃん」

ユリ「それに、東京も見て回ってみたかったし!まぁちょっとした旅行ってことで、お父さんも許してくれるよ!」

リョウ「俺は知らねえぞ……」

キング「それにしてもさっきアイドル達の顔をちょっと見せてもらったけど、みんないい顔してるね。アンタがスカウトしてきたって聞いてたからもっとゴリゴリの格闘家みたいなやつが揃ってると思ってた」

リョウ「どういう意味だそれは……」

キング「別に?アンタもこっちに来てちょっとはその辺の感性が研ぎ澄まされたんじゃないかって思ったのさ」

リョウ「……??」

キング「……ダメそうだねこれは」

ロバート「ダメみたいやな」

ユリ「ダメだね」

リョウ「な、なんだなんだお前ら!よくわからんが失礼だろうが!」

翌日
レッスンルーム


キング「さ、というわけで改めて、臨時ダンストレーナーのキングだ。あんた達のことは概ね聞いた。みんなほとんどダンス経験が無いんだってね」

美波「はい、基本的にランニングしかやってませんから技術的なところは全く……」

キング「よしよし、まぁ基礎体力があるなら上等さ。多少厳しくやっても耐えられるってことだからね」

拓海「マジかよ……サカザキの知り合いだろ……一体どんな地獄のシゴキが……」
ブルッ

キング「……苦労してるんだねあんた達も。まぁアイツよりは常識を弁えてるよ。安心しな」



キング「拓海!ステップ幅が大雑把すぎる!もうちょっと繊細さを意識しな!」

拓海「うげっ」

キング「有香!動きが硬い!というより武道みたいになってるよ!柔らかく!」

有香「お、押忍!」

キング「美波!あんたは形を気にしすぎだ、もうちょっと自由に踊ってみな」

美波「はい!」

キング「悠貴、なんだか縮こまってないかい?伸び伸びやりな、伸び伸びと」

悠貴「は、はいっ!」

キング「……加蓮、もう動けないのかい?」

加蓮「……だから……私は、はぁ、体力ないんだって……はぁ……」

キング「しょうがないね。隅っこの方で休んでな」

キング「ほかの子たちはあと3セット!それが終われば15分休憩!」



拓海(や、やっぱりとんでもなく厳しんじゃねえか!)

加蓮「……」

ユリ「やっ!おとなり、座ってもいいかな?」

加蓮「……勝手に座れば良いんじゃないの……」

ユリ「それじゃ、お邪魔しまーす」
ペタン

加蓮「……」

ユリ「いやあ、キングさん張り切ってるね~」

加蓮「……張り切られすぎてもこっちは迷惑なんだけど」

ユリ「ね、ところでさ、あなたはお兄ちゃんになんて声かけられてアイドルになったの?」

加蓮「……え?」

ユリ「ウチのお兄ちゃんってさ、本当に鈍感ていうか、口下手なんだ。そんなお兄ちゃんが、いったいどんな言葉で若い女の子たちをスカウトしたのかなって」

加蓮「……俺は女心はわからない……云々……」

ユリ「うわ~!自覚はあったんだ!ていうかもはやスカウトの言葉じゃないし!」

加蓮「……あと、歩こうという意思がある限り、俺は君の背中を押し続けてやれる……とか」

ユリ「うわ、くっさ~!……けどお兄ちゃんらしいな」

ユリ「お兄ちゃんってさ、本当昔から口下手で、不器用で、損な性格だったんだ。だから今回いきなりプロデューサーの仕事やるって聞いたとき、本当に心配だったんだ」

加蓮「……」

ユリ「だけど、昨日久々に会ったときお兄ちゃん、楽しそうだった。スカウトとかなんだとか、たぶんお兄ちゃん苦手なんだろうけど、それでも精一杯やってるんだって。苦手なことほど努力して、それが上手くいったらそんなに嬉しいことはないよね」

加蓮「……!」

ユリ「加蓮ちゃん、だっけ?お兄ちゃんのスカウト受けてくれて本当にありがとう!お陰でお兄ちゃん、楽しそうだよ!……またお話し聞かせてね!」
タッ



加蓮「……ほかの娘たちも、プロデューサーも、眩しすぎるよ」

加蓮「……やっぱりアタシなんかじゃ場違いだったのかなぁ……」

今日はここまで



リョウ「お疲れ、キング。あいつらのダンスはどうだった?」

キング「ああ……みんな経験はないけど、体力はあるし、身体も良く動くね。悪くないよ」

リョウ「そりゃよかった」


キング「ただ、加蓮はまだ体力が追い付いてないね。少し時間がかかると思う」

リョウ「ああ、それはある程度織り込み済みだ。加蓮に関しては締めすぎず、緩めすぎず見てやってくれ」

翌朝

リョウ(今日は天気がいいな。絶好の早朝ランニング日和だ)
タッタッタ

悠貴「あれっ?プロデューサーさん?おはようございますっ」
タッタッタ

リョウ「ん?おお、ユウキか。おはよう。ユウキも早朝ランニングか?」

悠貴「はいっ!私もたまにここのコース走るんですけど、会ったの初めてですねっ」

リョウ「ああ、俺も毎朝同じところを走ってる訳じゃないからな」

悠貴「いつも朝のランニングはひとりでしたけど、一緒に走ってくれる人がいるともっと楽しいですよねっ!」

リョウ「ああ、そうだな。せっかくだし今日は一緒に走ろうか」

悠貴「はいっ!ありがとうございますっ!」

リョウ「……初レッスンはどうだった、ユウキ」
タッタッタ

悠貴「はいっ、トレーナーさんにはもっと身体を大きく使うようにって言われましたっ!その方が映えるって!」
タッタッタ

リョウ「そうか。まぁ俺はそっちの方は全くアドバイス出来ないからな、キングのいうことをよく聞いて、鍛えていってくれ」

悠貴「はいっ……あれ?あの前で走ってる人って、加蓮さんじゃないですかっ?今日は髪下してますけど」

リョウ「……どうやらそうみたいだな。おーい!加蓮!」

加蓮「……!!」
チラッ

加蓮「……」
ダッ

悠貴「あっ!加蓮さん!……加蓮さんでしたよねっ?」

リョウ「一瞬見えた顔は間違いなく加蓮だったはずだが……」

夕方
事務所

リョウ「なぁ、加蓮。お前、今日朝ランニングしてなかったか?ホラ、あそこの公園前の所を……」

加蓮「……知らない。人違いでしょ。それに体力ないアタシが朝からランニングなんてそんなきついことするわけないでしょ」

リョウ「いや、だからこそだな……んん……?」

加蓮「……」


ロバート「……というわけで、メンバーも揃ったから、これからはレッスンとアイドルとしての仕事、両方をこなしてってもらうことになる」

有香「アイドルとしてのお仕事……ですか」

ロバート「そうや。例えば握手会であったり、依頼があればグラビアの撮影であったり、時にはこっちからオーディションを受けに行くこともある」

悠貴「撮影ですかっ?それなら少しだけジュニアモデルの時に経験ありますっ!」

拓海「……モデル?お前、モデルだったのか!?」

悠貴「ジュニアモデルを少しだけですけどっ」

有香「それなら撮影の時のコツとか心構えとか色々教えてください!」



ロバート「……ほんで、さっそくやけど今度美波ちゃんと拓海にグラビアの仕事が入っとる」

美波「ほ、本当ですか?アイドルとしての宣材写真撮影依頼のお仕事、頑張らないと!」

拓海「……おい、グラビア撮影ってどんな写真撮るんだ?」

ロバート「さぁな~?先方の希望次第やと思うわ~」

拓海(嫌な予感がするぜ……)

撮影当日

美波「やっぱり宣材写真の撮影とは段違いの難しさですね……ですけどっみなみ、やりますっ!」

美波「————」
パシャ

美波「————」
パシャ

リョウ(……やはり最初に見た時に感じた、立ち振る舞いの美しさは間違いなかったな。なんというか、人に魅せるということを美波は本能的に知っているような気がする)

リョウ「……」

美波「————」
パシャ

リョウ「……しかし器用だな。なんでもそつなくこなしてる……」

リョウ(昔の、道場でのロバートを思い出すな。あいつは覚えが良くてどんどん技を覚えていって……)

カメラマン「それじゃあ、最後のショット撮影行きますので着替えおねがいしまーす」

美波「……ええ?け、けっこう露出が多い衣装ですね……」

リョウ「どうした?」

美波「あ、坂崎さん……い、いえ、なんでもありません。ちょっと着替えてきますね」


美波「……」
///

カメラマン「おおー!良いっすねー!」

リョウ「ほう……」

カメラマン「それじゃあその衣装で町を歩いてくださーい」

美波「……」
スタスタ

カメラマン「はいOK!ありがとうございましたー!」

リョウ「お疲れ、美波……どうした?」

美波「……あの、坂崎さん。私のお仕事ってこれからもこういう露出の多い衣装を着ることが多くなるんでしょうか?」

リョウ「どうだろうな。それを求める人が多くなればそういう事になるんだろうが……嫌か?」

美波「少し恥ずかしいのは、確かですけど……それ以上にこんな簡単な事で良いのかなって……」

リョウ「……そうだな。最初にスカウトした時も色々な事に挑戦したいって言ってたもんな」

美波「あっ、ごめんなさい……生意気言っちゃって……私なんてほんとに駆け出しなのに……」

リョウ「君はなんでもそつなくこなせるみたいだからな。単純に物足りなさも感じるんだろう」

美波「……」

リョウ「ただ……美波がさっき言った通り、俺たちはまだまだ駆け出しだ。はじめの内は来た仕事を全力でこなして、周囲に実力を認めさせていくしかないだろうな」

リョウ「それに、もし今後もこういった仕事が沢山入ってきたとしたら、それは美波がそれだけ魅力的だったって事だしな。それだけ求められてるってことだよ」

美波「……!」

リョウ「俺も実際良かったと思うぞ?さすが普段から鍛えてるだけあって、無駄のない良い身体だった。どこに見せたって恥ずかしくなんかないぞ」

美波「……もうっ、坂崎さん……!///……けど、なんだか、複雑です……」

リョウ「そ、そうか?俺は称賛してたつもりなんだが……」



美波(純粋に褒めてくれてるのはわかるんだけど、なんか坂崎さんの場合ニュアンスが……)

リョウ(女心ってのはやっぱり難しいな……)

美波「……でも、確かに人に求められるっていうのはすごく嬉しいです。……だから、私……これからももっと頑張りますね!」

リョウ「おう!そうして周りに認められていけば、色んな仕事ができるようになるさ!」

美波「……ただ、あんまり露出が多すぎるお仕事は……パパが怒りますので……」

リョウ「……それは要相談だな」

同じころ
別の場所

拓海「……なんでアタシの付き添いはアンタなんだよ」

ロバート「しゃーないやろ、美波ちゃんの方と時間被ったんやから……どっちかというとワイも美波ちゃんの方の撮影見たかったわ」

拓海「んだテメェコラァ!それが社長のいう事かコラァ!」

ロバート「そっちこそそれが社長に対して言う事かいなホンマ……」

ロバート(まぁそんなこと言いつつも実は今回の撮影楽しみや……良い物見れそうやし)
ウププ

拓海「なにニヤニヤしてんだ……ったく……気色わりーな……」

カメラマン「君が拓海ちゃん?写真で見たより……こう……すごいね」
チラチラッ

拓海「……ああ?どこ見てんだてめ……」

ロバート「はい、そこまでや!拓海、早速やけどこれに着替えてくれや」
スッ

拓海「……なんだこの衣装はァ!む、む、胸が、で、で、出そうじゃねーかァ!」


ロバート「うむ。お前のまず第一の武器はその胸や。これを生かさん手はないで」

拓海「ふ、ふざけんなコラァ!こ、こんな恥ずかしい衣装着れるかオラァ!」

ロバート「甘ったれるな!お前はまだまだこの業界ペーペーや!そんなお前がこれからのし上がっていくのに、最大の武器を使わんでどないするねん!!!」

拓海「う、うぐぅ……わ、わかったよ!着ればいいんだろ着ればァ!」

ロバート「よっしゃ!」
ガッツポ

カメラマン「もっと表情柔らかくお願いしまーす」

拓海「や、やってんだろコラァ!」
ピクピク

カメラマン「もっと大胆なポーズお願いしまーす」

拓海「こ、これ以上のポーズが出来るかオラァ!」
プルプル


ロバート「……しかし不器用やなこの娘は……来る要求全部に文句つけて……」

ロバート(……なんか方向性は違えど、リョウ見てるみたいやわ。不器用ながらも、自分に出来る事を必死にやろうとして……)


カメラマン「はい、じゃあ次でラストでーす。最後これに着替えてくださーい」


拓海「……ざっけんなコラァァァ!いくらなんでも、これは許容できねーぞ!!」

ロバート「なんやなんや、何を騒いどるんや」

拓海「オイ社長さんよ……このフリフリついた衣装もアンタの差し金かよ」

ロバート「おう!今や世間はギャップ萌え……それを求めとる。普段あのクールなあの人が実はこんなに情熱的だったのー!とか、普段あんなにツンツンしてたあの娘が、こんなに可愛いところもあったなんてー!みたいな」

拓海「帰る。さっきのセクシ-衣装は10億歩譲って着てやったけど、こんなフリフリなの、アタシの矜持が許さねぇ。アンタの横暴にそこまで付き合ってやれるか」

ロバート「……どうしてもダメか?」

拓海「断る。んなモン着るくらいなら死んだ方がマシだ」

ロバート「……絶対絶対絶対に、ダメか?」

拓海「しつけーな!着ねぇモンはぜってーに着ねぇ!」

ロバート「……ほうか。今回は嫌な衣装なのに無理やり着せて悪かったな……」

拓海「……おう。反省しろ反省」

拓海(なんだ?急にしおらしくなりやがって……)





カメラマン「……困りますよ、6810プロさん……こっちもこのために撮影場所抑えて、時間とってやってるんですから」

ロバート「すんまへん……えろうすんまへん……」
ペコペコ

拓海(……!!)

カメラマン「いくら謝られたってね……それに、そちらの事務所、できたばっかりでしょ?それなのにこんないい加減な事されたら、もう今後そっちの事務所さんと仕事するところ無くなりますよ?」

ロバート「……!?そ、それはなんとか!今回の件はワイが拓海との事前の確認不足のせいやったんや!アイドルは何も悪ぅない、堪忍したってや……!後生やから……」
ペコペコ

拓海(……アタシが仕事を投げ出したせいで、社長の野郎にも、サカザキにも、そして事務所の他の奴らにも迷惑がかかる……)

拓海(だけど……あの衣装は……)

拓海(……だーっ!!クソっ!!)
ダッ

ロバート「すんまへん……すんまへん……」
ペコペコ

拓海「……おい。待たせたな」

ロバート「……おおっ!」

カメラマン「……おおっ!」


拓海「ちょ、ちょっと着替えに手間取っちまったが、この通り着てやったぜ!あとはもう煮るなり焼くなり、好きにしやがれ!」

カメラマン「なんですか、着替えてるんじゃないですかー!じゃあ撮りますよ、満面の笑みで!」

ロバート「ほら、拓海!たくみんスマーイルッってやってみ!たくみんスマーイルッて!」

拓海「た、たくみんスマーイルッ!」
パシャ

拓海「って、なにやらせんだオラァァァァ!!」

カメラマン「はい、本日の撮影これで終了でーす!お疲れ様でしたー!」

拓海「うう……もう表歩けねぇ……」

ロバート「お疲れ!拓海!最高の1枚撮れてるで!」

拓海「嬉しくねぇよ!もう二度とこんな衣装着ねぇからな!絶対だからなァァァ!」

ロバート「あ、もしもし?カーマンか?ワイやけど、この後焼肉屋の席予約しとってや。ああ、2名分でエエわ」

拓海「肉で買収してもダメだァァ!肉は食うけど!!」





カメラマン「……それにしても、6810プロさん。さっきの芝居、あんなに上手くいくなんて凄いですね」

ロバート「ああ、カメラマンさんも小芝居に付き合ってもらってスマンかったな」

カメラマン「いえいえ!最高の1枚を撮るためですから!それにしても本当によかったんですか?」

ロバート「ああ、拓海はアレで義理人情に篤いからな……そこを利用するのは心苦しかったけど、後で機嫌は取っておくわ」



ロバート(……まぁこういう腹芸はリョウには出来んからな……今日はワイが拓海について正解やったやろ)

ロバート(我ながらロクでもない手を使ってるのはわかってる。せやけど、ワイはお前らをビッグにするためには多少の手段は選ばんで。痛い目見るなら、後でワイがいくらでも見たるわ)

ロバート(せやから、堪忍な、拓海。堪忍な……)

今日はここまで

数日後

リョウ(さて、今日も早朝ランニングを……あれは?)

加蓮「……」
タッタッタ

リョウ(加蓮?……しかしこないだは違うとはっきり否定されたが……)

リョウ「おーい!加蓮!」
タッタッタ

加蓮「……!?」


加蓮「……!!」
ダッ

リョウ(やっぱりあれは加蓮だ!間違いない!)

リョウ「加蓮!」
ドンッ

加蓮「!?は、はや……」



加蓮「はぁはぁ、なんで……この前とは違う道走ってたのに……」
ゼェゼェ

リョウ「俺も毎朝違うコースを走ってるからな……それより加蓮、別に逃げるこたないだろ……最近は毎朝走ってるのか?」

加蓮「……だって、悔しいじゃん。アタシだけ体力ないからって、ダンスレッスンも別メニューで……他の子はもう仕事もこなし始めてるのに……」

リョウ「……驚いたな。君がそんなに負けず嫌いだったとは……」

加蓮「……別に、もう始めちゃったんだから、中途半端になるのがダサいって思っただけ。どうせやるなら、精一杯あがいてやろうって」

リョウ「……ははは!」

加蓮「……なに。私がこんなこと言うのが、そんなにおかしい?どうせみっともないって自分でも思ってるよ」

リョウ「いや。みっともなくなんかないさ。俺は今すごく嬉しいんだ。やっぱりお前は俺が見込んだ通り、いや、それ以上の熱い心を持ってるんだってな」

加蓮「……よくわかんないけど、他の子にはアタシが朝走ってるって言わないでよ。普段あんな感じなのに、実は隠れて必死に走ってます、とか、ダサすぎる……」

リョウ「全くダサくなんかないと思うんだがな……まぁお前がそう言うんなら黙っておこう。それより、明日からは俺が一緒に走ってやろうか?その方がお前も……」

加蓮「絶対イヤ。絶対だんだんあり得ない距離走らされるんだから」

リョウ「そ、そうか……残念だな……」

ロバート「……というわけで、ついに今日から専門のトレーナーさんの登場や!ものトレーナーさんには主にボイストレーニングと、演技や表情なんかのビジュアルレッスンを見てもらうで」

トレーナー「新しく着任しました!みんな、宜しくお願いしますね!」

一同「宜しくおねがいします!」

リョウ「ついに専門のトレーナーに来てもらえたか……だが、ダンスは?」

ロバート「ああ、ダンスは引き続きキングに見てもらう。最初はつなぎのつもりやったけど、予想以上に現場からの評判も良いしな」

キング「ふん……ご挨拶だけど、光栄だ。任された以上は私もしっかり面倒見させてもらう」

リョウ「ああ、頼むぜキング」


レッスンルーム

キング「1、2、3、4、そこでターン!」

加蓮「……はっ!」
バッ

キング「よし!良いじゃないか、加蓮!上達してるよ!」

加蓮「ふふっ……よしっ」

キング「なんだか前より体力もついてきたんじゃないかい?」

加蓮「そうですかー?私にはわかりませんけどー♪」

拓海「……へぇ……」

トレーナー「……はい、じゃあ、悲しい!」

加蓮「……っ」
フッ

拓海「……!」
クワッ

トレーナー「じゃあ、楽しい!」

加蓮「……!」
フワッ

拓海「……っ!!」
クワワッ

トレーナー「最後、怒ったように!」

加蓮「……!」
キッ

拓海「……ああん!?」
ギロリ

トレーナー「それまで!……拓海ちゃん、全部の表情怒ってる風に見えましたよ……最後に至っては声出てましたし……」

拓海「あ、アレ?っかしいなぁ……」
ポリポリ

トレーナー「加蓮ちゃんの方は、すごく筋がいいですよ!まだちょっと表情が固いところもありますけど、これから続けていけばもっと伸びると思います!」

加蓮「……ふふっ」
フフン

拓海「ぐぬぬ……普段は不愛想のくせして……」
ギリギリ


美波「最近、加蓮ちゃんすごく生き生きしてるね!ビジュアルレッスンもトレーナーさんに褒められてたし!」

加蓮「別にー?一緒にやってた誰かさんがアレ過ぎて相対的に良く見えただけなんじゃないのー?」

拓海「ほ、ほっとけコラァ!」

有香「でも、加蓮ちゃんの表情、本当に良かったです!是非コツを教えてください!」

加蓮「ふふ……どうしよっかな~」


ロバート「……おいリョウ。なんや加蓮ちゃん、最近エラいやる気やんけ。なんかあったんか?」

リョウ「さあな。本人に何か思うところがあったんだろう。俺は知らないぞ」

ロバート「まぁやる気になってるなら良かったわ。……せや、それならこのオーディション、受けさせてみたらどうや?リョウ?」

リョウ「これは……」

加蓮「ドラマの主演のオーディション?」

リョウ「ああ、来週末にあるんだが……」

ロバート「深夜枠のドラマとはいえ、連ドラの主演や。もしこの役勝ち取れたら、6810プロとしては最初の大きな仕事になる」

加蓮「……やる。絶対その役、アタシが勝ち取って見せる」

加蓮「はぁっ……はっ」
バッ

キング「加蓮!少し動きが雑になってきてるよ!一旦落ち着きな!」

加蓮「……!」

トレーナー「……加蓮ちゃん、表情がまたちょっと表情が固くなってきてますよ」

加蓮「……」


北条家

加蓮(朝のランニングだけじゃ、足りない……アタシは他の娘より体力無いんだから、他の娘の2倍走らないと……)
キュッ

加連母「……加蓮、あなたこんな時間から走りに行くの?ただでさえ最近朝も走って、学校行って、夕方はレッスン受けて……そんなんじゃ身体が持たないわよ……」

加蓮「……今度、絶対に取りたい役のオーディションがあるの。役を取る為にはもっとレッスンしなきゃいけない。その為には体力が足りないの。だから、もっと鍛えなきゃ……」

加蓮母「……お母さんね、最近加蓮が一生懸命アイドル活動に取り組んでるの、すごく嬉しい。ちょっと前までは加蓮、何をしてても楽しくなさそうだったから」

加蓮「……」

加蓮母「だけどね、無理はしすぎて欲しくない。やっと最近、病気も治って健康になったのに、無理して倒れられでもしたら……お母さん……」

加蓮「うん……わかってる。自分の身体の事は自分が一番わかってるから、無理なんてしないよお母さん」

加蓮「だけど、今回のチャンスはアタシ逃したくない。こんな気持ちになったの初めてなんだ。だから、あと少しだけ見逃して、お母さん」

数日後
事務所

加蓮「……おつかれー」
フラフラ

リョウ「……おい、オーディションまでもう日にちもないし、気合が入ってるのもわかるが、無理だけはするなよ?加蓮」

加蓮「無理なんかしてないっての。アタシは元からそんなキャラじゃないし」

リョウ「……」



加蓮「はぁ……はぁ……」
タッタッタ

加蓮(オーディションまであと2日……時間がない……)

ゴロツキ「へいへいへい!そこのお嬢ちゃん!危機管理がなってないねー!」

ゴロツキ2「ほんとだぜ!お嬢ちゃんみたいな若い女の子がこんな夜に一人でランニングなんて……俺たちみたいのに襲ってくれって言ってるようなもんだぜ!」

加蓮「……!」

加連(うそ……!最悪……)

ゴロツキ「お?どうしたどうした?怖くて声も出ねぇか?けどもう遅い……」

カッカッカッカッカ

ゴロツキ2「ん?なんだこの音」

???「夜の闇に走るのは、何もランナーだけじゃない。街に巣食う悪・悪・悪……夜に紛れて闇に奔る……」

カッカッカ

ゴロツキ「な、なんか変な奴が走ってきた!」

ゴロツキ2「く、黒いランニングシャツに……鉄ゲタ?そ、それに、天狗の面!」


???「そんな悪から走者を守る、俺はランナーの守護者(ガーディアン)!」

Mr.RUNNING「俺の名はMr.RUNNING!ケガをしたくねぇなら、とっとと帰れ!小悪党ども!」

ゴロツキ「う、うわあああああ!へ、変態だああああ!!」

ゴロツキ2「お、おい!コイツ最近都市伝説になってる天狗マンじゃねえか!?なんでもデタラメ強えっていう……」

ゴロツキ「い、色んな意味でやべええ!!逃げろおおお!!」
ダダダダ

Mr.RUNNING「……ふぅ。とりあえず天狗の面を常備しといて良かったぜ……」
カポ

リョウ「大丈夫か、加蓮?」

加蓮「……」

加蓮「……こ……」

リョウ「こ?」

加蓮「腰が……抜けて……」
プルプル

公園

加蓮「……普段からあんな恰好して夜走ってんの?」

リョウ「ふ、普段は面は付けてないぞ!馬鹿にするな!」

加蓮(鉄ゲタはいつもなんだ……)

リョウ「……俺の事よりも加蓮、お前のことだ。ただでさえ女の子が夜一人でランニングなんて、危険極まりない。その上夕方にも言ったが、明らかにオーバーワークだ。キャラじゃないんじゃなかったのか?」

加蓮「……ねぇプロデューサーさん。真面目な話だからちゃんと聞いてほしい」

加蓮「アタシは今まで、色んな事を諦めながら生きてきた。小さい頃から入院ばっかりで友達も作れなかったし、運動だって出来なかった」

加蓮「そんな中で唯一楽しみだったのが、テレビに出てたアイドルの活躍だった」

加蓮「憧れだった……歌って、踊って、お芝居して。キラキラに輝いてて、眩しかった」

加蓮「それに対してアタシの世界は狭い病室と、小さな窓からの外の風景だけ」

加蓮「それは病気が治ってからも変わらない。退院しても、結局アタシの心はあの狭い病室の中に閉じ込められてた」



加蓮「だけど……そんなアタシの病室に知らない面会者がやってきた」

加蓮「その人は、一回断ったのに、しつこくアタシの病室にやってくる。そしてアタシに言うんだ、『その病室を出てアイドルになれ』って」

加蓮「そんなの無理だって、アタシにはそんな資格ないって言うんだけど……ホントは飛び上がりたいくらい嬉しかった」

加蓮「で、アイドルになってみたけどやっぱりそこは厳しい現実。アタシは体力不足で、他の娘たちからずっと遅れてた。まぁわかってたことだけどね」

加蓮「正直、もう辞めようかなとも思った。だけど……昔病室で見た憧れを思い出すと、どうしても諦めきれなかった。だから生まれて初めて慣れない努力もした」

加蓮「そんな中で、舞い込んできた今回のチャンス。アタシは……何が何でもモノにしたい。こんなに何かを達成したいって気持ち、多分生まれて初めてだから」

リョウ「……」

加蓮「だから……オーディションまでの残り2日……何も言わずに見ててほしい。もしオーディションに受かれたら。きっとアタシ、変われると思うから」

リョウ「……ビジュアルレッスンだ」

加蓮「……え?」

リョウ「残りの時間は全部ビジュアルレッスンに当てるんだ。走り込みもダンスもオーディションまではやらなくていい。少しでも身体を休めて、ビジュアルレッスンに全力だ。その方が質も上がる。ロバートやキングたちには俺から言っておく」


加蓮「……うん、わかった」

オーディション当日


リョウ「今日は雨か……加蓮、準備はいいな?」

加蓮「……うん」

リョウ「……体調は大丈夫か?」

加蓮「大丈夫だってば、心配性だなぁ」

ロバート「いよいよやな……加蓮ちゃんの努力はここの事務所全員が知っとる。全力出し切ってきてや」

美波「加蓮ちゃん……がんばって!」

有香「ファイトです!気合です!押忍!」

悠貴「頑張ってくださいっ加蓮さん!」

拓海「……まぁせいぜい頑張れよ」

加蓮「ふふ……まぁ見ててよ。一番遅れてこの事務所に来たアタシが一番最初に大きな仕事取ってきて見せるから」

拓海「……ちっ」

会場

リョウ「ここの会議室、だな。……しかし建物に入った瞬間なんだか温度が極端に上がったような……?闘気!?」

???「全く思いもよらぬところで会うものだな、リョウ・サカザキ」

加蓮「……!?きゃああああ!!」

リョウ「……お前は!確か……不破!不破刃!」

不破「久しいな……2年前のグラスヒル・バレー以来か。……しかしそこな娘。拙を見ていきなり叫ぶとは、些か礼儀がなっておらぬのではないか」

加蓮「だ、だって……半裸で……頭巾被ってて……マッチョで……」

不破「……失敬な。拙とて場は弁えている。ちゃんとネクタイを締めているだろう」

加蓮「完全に変態でしょ……」

リョウ「それより……お前はなぜこんなところに?」

不破「ふん、ここはオーディション会場だぞ?ならば、目的は貴様と同じよ」

加蓮「え、ええ!?オーディション受けるの!?女の子の役なのに!?」

不破「……拙がではない。来い!茜!」

茜「はい!!!呼びましたか不破プロデューサー!!」

リョウ「プ、プロデューサーだと……」

不破「そうだ。今の拙はどこに所属しているわけでもないが、この日野茜のプロデュースをしておる。この娘は素晴らしい、まさに不破流の全てを込めてプロデュース出来る逸材だ」

茜「え、ええっ!!!てっててて、照れますよ不破プロデューサー!!ボンバーーーーーーーーー!!!!」

不破「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

ビリビリビリ
グラグラグラ

ナ、ナンダナンダ、ジシンカ!?
ザワザワ

加蓮「うるさい!」

リョウ「なんで二人して叫ぶんだ!」

不破「ふん……戦いの前の鬨の声のようなものよ……悪いがリョウ、そしてそこな娘……今回のオーディションは不破流とこの茜が頂く」

茜「よろしくお願いしますね!!!」

リョウ「……こいつはとんでもない強敵だぜ……」

加蓮「……」

いったんここまで

リョウ「……大丈夫か加蓮」

加蓮(……大丈夫、大丈夫……負けられない……)

リョウ「……加蓮……」





審査員「……はい、それではみなさん自己紹介の後、こちらから提示した演技をやってもらいます」

加蓮(……演技の実技……!受かって見せる……!)

審査員「……それでは次の人、どうぞ」

加蓮「はい、ロバートプロダクション所属、北条加蓮です。よろしくお願いします」

審査員「はい、では演技は……『数年ぶりに再開した友人に初恋の相手の死を告げられた』シーンでお願いします」


加蓮「はい!」



加蓮「うそ……!すっごい久しぶり!元気にしてた!?もう、全然連絡ないから心配してたんだよ!」

加蓮「……え?嘘……、だよね?だって、彼は今夢を叶えて……幸せだって……」

加蓮「嘘……お願いだから、嘘だって、言ってよぉ……」

審査員「ふむ……はい、北条さん、ありがとうございました」

加蓮「……はい!ありがとうございました……!」

加蓮(出し切った……!これなら……)

審査員「……はい、では最後の方、お願いします」

茜「はい!!!日野茜です!!!よろしくお願いします!!」

審査員「はい、では演技は……同じく、『数年ぶりに再開した友人に初恋の相手の死を告げられた』シーンでお願いします」

加蓮「……!」

茜「おお!!久しぶりですね!!会いたかったです!!」
グワ

茜「……え?あのひとが、亡くなった……?」

茜「嘘だ!!!そんな訳ない!!だって、だってあのひとは!!!」

茜「……う、あ、あああ……」

茜「うわあああああああああああああ!!!」

審査員「……はい、ありがとうございました。これで全員の審査が終わりましたので、ロビーでお待ちください。結果を発表します」

リョウ「……お疲れ、加蓮」

加蓮「……出来は聞かないの?」

リョウ「実際に見てないからな。見られないものの出来を聞いてもしょうがないだろう。……待つだけだ」

加蓮「……うん」

審査員「それではみなさん、お待たせしました。審査結果を発表します」

加蓮「……!」

リョウ「……」

審査員「今回の合格者は……」



審査員「11番、日野茜さん。日野茜さんです」

加蓮「!!」

リョウ「……!」

茜「やったーーーー!!やりました!!不破プロデューサー!!!」

不破「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

審査員「(うるさっ)え~、結果に関してですが、今回の主役の役柄が、元気で活発な女の子というところで、日野さんはその声量や動きの活発さで役柄に非常にマッチする、と判断しました」

審査員「残念ながら今回は落選となってしまった方たちも素晴らしい素質をお持ちです。また是非当社のオーディションを受けに来てください。本日は本当にお疲れ様でした」


不破「ふふ……茜、よくぞやった。やはりお主は……すごい漢だ」

茜「はい!!!ありがとうございます不破プロデューサー!!!私は女ですが!!!」

不破「リョウ・サカザキ。今回は拙らの勝ちだ……貴様らもまた鍛え直してくるがいい……往くぞ!!茜!!!」
シュババ

茜「おお!!!プロデューサー、忍隠れですね!」

不破『うむ。先日は道を歩いていただけで逮捕されかけたからな。故に移動時はこのように姿を消さねばな』


茜「ですが、声のおかげで何処にいるかすぐにわかりますね!!!さすがは不破プロデューサーです!!!!!」



リョウ「加蓮……」

加蓮「……ははは。今回の役柄は元気で活発な女の子だから落選って……。なにそれ……じゃあこんな実技とかやらせないで、すぐにあの茜って娘に決めれば良かったじゃん」

リョウ「……今回は役柄に合わなかっただけだ。また次が……」

加蓮「次?次っていつ!?アタシは、アタシはこのオーディションに懸けてたのに!!どうせまた次も役柄に合わないとかで落とされるんでしょ!」

リョウ「……加蓮」

加蓮「意味なかった……アタシの努力なんて、無駄だった!演技の練習も、走り込みも!ただ声が大きいだけの子に負けるようなくだらないものだった!!」

リョウ「……相手を悪く言うな。彼女は彼女で、不破と血の滲むような努力をしていたんだろう。今回は相手が一枚上手だった。それ以上もそれ以下もないだろうが」

加蓮「……何それ。あんた他所のアイドルの肩もつの。そりゃそうだよね。アタシみたいな捻くれたのより、さっきの茜って子や事務所の他の娘たちみたいな、素直な娘の方がかわいいもんね!」

リョウ「加蓮!」

加蓮「……短い間だったけど、お世話になりました。もう、事務所、来ないから」
ダッ

リョウ「!?お、おい!」
プルルル

リョウ「ちっ……なんだ!」
ピッ

ロバート『なんや、大声出して……オーディションどやった?』

リョウ「またかけ直す!」
ピッ

リョウ「くそっ……外は雨だぞ!あいつ、傘も持たずに!!」

ザー
リョウ「雨ひどくなってんじゃねえか!!加蓮、どっちに行った!」
ダッ

リョウ「おい!今女の子を見なかったか!?傘は差してないはずだ!」

通行人「え?ああ、それなら……あっちの方に走っていったよ」

リョウ「そうか!すまない!」
ダッ

ザー
加蓮「……」
パチャ……パチャ


「おいおい……あの子傘も差さずにどうしたんだ……?」

「お前声かけてこいよ……」

「で、でもなんか……近寄りがたくね?」

加蓮(びしょ濡れだ……)

加蓮(……でも、どうでも良いや、もう……このまま歩いて帰ろう……)

ゴロツキ「おいおいおい、お嬢さん、そんなに濡れちゃ風邪ひくぜ?」

ゴロツキ2「そうだぜ、ちょうどそこにホテルあるからさぁ……ちょっと休んでいこうや?」

加蓮(……)

ゴロツキ「んん?おいおいシカトかよ嬢ちゃん……まっ、いいや」
ガシ

加蓮「……」

ゴロツキ2「お?抵抗しねえのか?それじゃあ合意の上ということで早速……」

リョウ「どこだ……どこだ加蓮!!」
バシャ バシャッ


通行人「さっきの女の子、やばそうだったな……」

通行人2「ああ、雰囲気もやばそうだったけど、タチの悪そうな奴らに……ホテルとか言ってたな……警察に通報した方が良いんじゃね……?」

リョウ「……!?」

ゴロツキ「へへへ……ずいぶんおとなしいじゃねえかお嬢ちゃん……実はこういうの待ってたとかか?」

ゴロツキ2「だとしたら、見事チャンスをものにしたなお嬢ちゃん……しっかり可愛がってやるぜ」

加蓮「……チャンス?……チャンスを、アタシは逃がしたんだ……」

ゴロツキ「あ?」

加蓮「アイドルも辞めて……アタシには……もう、何もない……!」

ゴロツキ2「?まぁいいや、さっさとホテル入ろうぜ……ん?」
ガシ
ゴシャッ

リョウ「……」

ゴロツキ「んな!?な、なんだてめ」
ズバン

加蓮「……あ、プロ……いや、坂崎さん……え?」
ガシ

リョウ「……」
グイ

加蓮「いたっ……手、引っ張らないで……!」
バシッ

リョウ「……さっさとどこか軒下に入るぞ……傘も持たず走り出しやがって」

加蓮「……もう、ほっといてよ……アタシはもうさっき事務所辞めるって言ったでしょ……」

リョウ「……加蓮、すまねえな。俺がもっとしっかりしてりゃ、ちゃんとしたプロデューサーだったら、もっとお前にアドバイスや良い言葉をかけてやれたかもしれないのに……」

加蓮「……坂崎さん……」

加蓮「あなたのせいなんかじゃ、ないよ……ないけど……」

加蓮「……ねえ、悔しいよ。あんなに練習したのに……いっぱい、走ったのに……!」

加蓮「ううん、わかってる……!アタシなんて、頑張り始めたのは最近からで、あの茜って子も、他の子も、アタシよりずっと前からもっともっと努力してたのなんて、わかってる……!」

加蓮「……だけど……悔しいよ……!悲しいよ……!結局、アタシなんかが今更あがいたって、どんなに強く思ったって、他の子たちに敵わない……!どうにもならないのが……悔しいよ……!」
ポロポロ


リョウ「……!」

~~~~~~~~~~~~
十数年前

バシッ

リョウ(少年)「うわあ!」
ドタッ

タクマ「どうしたリョウ!立て!!」

リョウ「……もういやだ、こんな修行耐えられないよ……もう……他人を殴るのは嫌だよ、父さん……!」

タクマ「私の身体が動くうちに極限流の全てをお前に伝えねばならん」

タクマ「それに、この世の中、自分の力で成功を勝ち取らない限り、誰もお前を助けてはくれないんだぞ」

リョウ「……」

ユリ「お兄ちゃん、パパ、ママ、遅いね……せっかくのお兄ちゃんの誕生日なのに……」

リョウ「もしかしたら、俺のプレゼントを買いに遠くに行ってるのかも……ん、電話?」

リョウ「はい、もしもし、サカザキですが……え……?事故……!?」

ユリ「……!!?」




ユリ「パパ!ママ!あああああああん!」

医者「……お母さんは、即死、お父さんの方は強靭な肉体のお陰で一命は取り止めたが、重傷だ……」

リョウ「……ユリ、もう泣くなよ……俺がついてるじゃないか」
ギュッ

ユリ「お兄ちゃん……」

警察「……それにしても、この事故は不審な点が多すぎるな……本当に事故かどうか怪しいもんだが……」

リョウ「……」





『リョウへ
ユリのことを頼む
  父』

リョウ「とうさん……!一体、何が……?」





ユリ「おかえり、お兄ちゃん……今日もお仕事お疲れさま」

リョウ「ただいま、ユリ……お腹空いてるだろ?ご飯にしよう」



リョウ「……ユリ、どうして俺にばかりご飯をつぐんだ?お前もお腹減ってるだろ?」

ユリ「ううん、お兄ちゃんは私のために1日中働いてくれてるんだから、絶対にお兄ちゃんの方がおなか減ってるもん。……それに私、今ダイエット中だし!……えへへ……」

リョウ「……」

リョウ「どうすればいいんだ……1日中働いても、この稼ぎじゃあユリに満足に飯も食わせてやれない……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

タクマ『この世の中、自分の力で成功を勝ち取らない限り、誰もお前を助けてはくれないんだぞ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

リョウ「……」

リョウ「自分の力で、勝ち取る……」 

荒くれ「さあさあ!ストリートファイトの始まりだあ!勝ち抜いた奴には賞金がでるぜえ!」

リョウ「……なぁ、このストリートファイト、俺も参加させてくれないか……」

荒くれ「ああ?テメエみたいなガキが?勝手にしろ、だが死んでも誰も知らねえぞ」






リョウ「……ただいま……ユリ……くっ」

ユリ「……!!どうしたのお兄ちゃん!ひどい……傷だらけだよ!」

リョウ「ちょっと派手に転んじゃってさ……大丈夫だから、ご飯食べよう……」

ユリ「お兄ちゃん……」

リョウ(くそっ……勝てない……!あんなに空手の鍛錬をしてきたのに、相手が大人だからって理由で、全然勝てない……!)

リョウ(だが、勝たなければユリは……!ユリはどうなる!?満足に飯も食えず、スクールにも行かせてやれない……!嫌だ……!勝ちたい……勝たなきゃ!)


荒くれ「ああん?ガキ、また来たのか。あんだけ殴られて、懲りねえ野郎だぜ」

リョウ「勝つ……勝つ!勝つんだ!うわあああああ!!」

ユリ(お兄ちゃん、転んだって言ってたけど、絶対何か隠してるよ。様子を見に……)

「おいおい、サンドバッグじゃねえか。あのガキ今度こそ死ぬんじゃねえか?」

「まっ、死んだところでこの肥溜めみてえな街じゃだれも気にしねえけどな」

ユリ「……!!!」


荒くれ「オラ!くたばれやガキィ!!」
ドゴッ

リョウ「ぐ、はぁ……!か、勝つんだ……!」

荒くれ「しぶてえな……ドオラァ!!」
ズガン

リョウ「……!」
カハッ

ユリ「お兄ちゃん!!お願い!やめてェ!!」
ダッ

荒くれ「お?なんだ、家族がいたのかよ……へっ、妹が止めてくれたお陰で命拾いしたな」

ユリ「うっ……うっ……」
ギュッ

リョウ「……泣か……ないでくれ、ユリ……お前に……泣かれたら……俺は……悲しい……」

ユリ「お願い……こんなこともうやめて!……私、贅沢なんてしなくていい……今のままで、お兄ちゃんさえいれば幸せだもん……だから……」
ポロポロ

リョウ「いいんだ、ユリ……」

リョウ(勝てない……どんなにユリの事を思っても……あんな修行の日々を送っても……悔しい……)

リョウ(悔しい……!)



~~~~~~~~~~~~



リョウ「加蓮……」

加蓮「うっ……うっ……」
グスグス

リョウ「……加蓮……!」
ギュッ

加蓮「……!?さ、坂崎さん……」
グス

リョウ「……悔しいよなぁ……悲しいよなぁ……つらいよなぁ……!」

リョウ「わかる。なんでこんなに頑張ってるのに、必死でやってるのに、上手くいかねえんだって」

加蓮「さか……」


リョウ「だけどな、加蓮。だけど……お前の流した涙や汗、血……努力が、全部無駄だなんて、意味がないなんてことは絶対にない」

リョウ「例え今結果が出なくても、お前が一体どれだけ頑張ってるのかは俺が、ロバートが、事務所のみんなが……俺たちみんなが知ってる」

リョウ「もしその努力を無駄だなんて、無意味なんて言うヤツは俺が許さない。それが例え加蓮、お前自身であってもだ」

リョウ「だから、加蓮。お前は、お前自身を諦めないでくれ」

加蓮「……なにそれ……意味わかんないよ……」

リョウ「今はまだわからくても良い。だが……お前の努力が報われる時が絶対に来る。そういう奴を一人、俺は良く知ってる。だから嘘なんかじゃない、無駄なんかじゃないさ……」

加蓮「……坂崎さん……」

リョウ「……おい!?加蓮!?すごい熱だぞ!おい!加蓮!」

加蓮「……」
グッタリ

リョウ「……これだけ雨に打たれてりゃ当たり前か!くそ、待ってろ!近くに病院は……!」

ブブーン
キキッ

ロバート「はよ乗れ!」

リョウ「ロバート!?どうして……!」

ロバート「電話であんな声聞かされたらそらなんかあったと思うわ!話は後や、はよ車に乗せえ!」

リョウ「すまない!ロバート!」

今日はここまで

数日後

住宅街
リョウ「住所は……ここか」

ピンポーン

加蓮母「……はい」

リョウ「……連絡していた坂崎というものです。娘さんの見舞いに来ました」

加蓮母「あなたが、プロデューサーさんですか。どうぞお上がりください」

加蓮母「……もうだいぶ熱も下がったみたいです。しばらく無理をしていたところに雨に濡れて風邪をひいたみたいで」

リョウ「この度は本当に申し訳ありませんでした。俺が傍についていながら、こんな事に……」

加蓮母「いえ、あの子が無理をしているのがわかっていて止められなかったのは私も同じですから……それに」

加蓮母「あの子、最近本当に充実してるみたいなんです。長い入院から退院しても、毎日無気力そうに過ごしてて……」

加蓮母「けれど、私たちは心を閉ざしていたあの子に強く言って何かをさせることなんて出来なかった……そっとしておくことが、あの子の心にとって一番の薬だと思っていたから……」

加蓮母「でも、あなたにスカウトされてからあの子は少しずつ変わっていって……そしてこの前のオーディション……結果は残念だったみたいだけど、あんなに何かに打ち込む加蓮、久しぶり……いえ、生まれて初めて見たかもしれません」

リョウ「……」

加蓮母「だから、あなたには感謝しているんです。あの子の心を解かしてくれて、本当にありがとうございます」

リョウ「……俺じゃあないですよ」

加蓮母「え?」

リョウ「加蓮の心にはもともと火は灯っていた。それが長い入院生活で消えかけてしまっていたのかもしれませんが……燻ってました」

リョウ「そして、その心に再び火を点けたのは事務所の他のアイドル達……そして、何より彼女自身です。彼女たちくらいの歳の子たちはお互い競い合い、そして成長していく」

リョウ「俺はただのきっかけに過ぎません。だから……元気になったら、彼女を褒めてやってください。彼女はもっと成長できる」

加蓮母「……あの子が突然アイドルになるって言いだした時、不安でした。けど……良かった。あの子をあなたたちの事務所に預けて……」

コンコン
加蓮母「加蓮?プロデューサーさんがお見舞いに来てくれたわ。開けるよ?」

加蓮『プロ……ええ!?ちょ、ちょっと待って!10分……い、いや5分!5分でいいから!』
バタバタ

加蓮母「そんなにお待たせ出来るわけないでしょ……3分で支度なさい」

加蓮『~~~~~~ッ!!!』
バタバタ

加蓮母「うふふ……少し待ってあげてくださいね?」

リョウ「なんだか良くわからんが元気そうで良かったですよ」

加蓮の部屋


リョウ「……よう。身体の方は大丈夫か?」

加蓮「……う、うん……」

リョウ「……まだ顔が赤いな。熱はだいぶ下がったって聞いてたが」

加蓮「それは……髪もぐしゃぐしゃだし、パジャマだし……こんなところ見られたら、恥ずかしいに決まってるでしょ……」

リョウ「ん?風邪ひいたらそりゃ普通はこんな格好だろ?」

加蓮「……もう……」

リョウ「……?」

加蓮「……そういえばさ、この前はそれどころじゃなかったから聞きそびれたけど……坂崎さんって、強いよね。何か格闘技とかやってるの?」

リョウ「ああ、そういえばお前には言ってなかったっけな……俺は元々アメリカのサウスタウンって所で、親父の作った極限流空手って道場の師範代をやってた。ロバートも同門だ。で……日本にはロバートの頼みでな、慣れないプロデューサーをやってる」

加蓮「……空手の先生やってたってこと?」

リョウ「まぁそういうことだな……」

加蓮「そっかぁ……だからあんなに強いんだ。そりゃあんな不良じゃ敵うわけないよね」

リョウ「……だが、俺は本来は空手は向いてなかったみたいでな……後から入門してきたロバートにもあっという間に抜かれた」

加蓮「え?」

リョウ「元々俺は荒事は好きじゃなかった。殴られるのも嫌だったが、それ以上に人を殴るのが嫌だった」

加蓮「……じゃあなんで続けたの?」

リョウ「親父が厳しかったのもあるな。極限流の創始者として、一人息子の俺になんとしても跡を継がせたかったんだろう」

リョウ「だが、それ以上に……この空手は俺と親父との、唯一の絆でもあった」

リョウ「親父は元来頑固で無口な方だったが、この空手以外ワシがお前に与えられるものはない!なんて言うくらいだったからな……」

リョウ「それでも当時はつらかったぜ……辞められるもんならすぐにでも辞めたいと思ってた」

加蓮「……それでも続けたのは」

リョウ「ああ、ある時……まぁ詳しくは言わないが、続けざるを得ない状況になった。来る日も来る日も戦い続ける毎日……相手は……まぁ事情あって屈強なファイターばかり。殴られ、蹴られ、連戦連敗。本当に死にかけたこともあった」

加蓮「なんで逃げなかったの?」

リョウ「守らなきゃいけないものがあったからだ。俺が逃げりゃ、俺の手の中に残った唯一の大切なものまで失くすことになる。そう思うと、殴られる痛みも、他人を殴る辛さも、逃げる理由にはならなかった」

加蓮「……」

リョウ「まぁそんな生活を続けて……ぼちぼち勝てるようになったのが17,8歳頃くらいからかな。んで、そこからもう1,2年くらい経ったころには、俺はその辺りじゃ誰にも負けなくなってた。こう見えても『無敵の龍』なんて呼ばれてたんだぜ、俺は」

加蓮「……じゃあこの前話してた、努力が報われた人っていうのは、やっぱり……」

リョウ「ああ……まぁ、恥ずかしながら俺のことだ。実際の証人が目の前にいるんだから、加蓮も俺の話を信じられるだろ?」

リョウ「まぁ何が言いたいかって言うとだな……人間、遅すぎることはないってことだ。俺が勝てるようになってきたのが17,8歳。加蓮はまだ16歳だろ?全然、まだこれからだ!」

加蓮「坂崎さんは……後悔とか、お父さんに対しての恨み言とかは無いの?」

リョウ「ん?後悔か。それはどうだろうな。今は考え付かないが……まぁ死ぬ前にでも考えてみるさ」

リョウ「あと、親父に対する恨み言……これは無い。断言できる。結局、俺はあの幼いころのシゴキがあったから……あの人が与えてくれた拳があったから、最後に残った大切なものを守ることが出来た」

リョウ「それで、大切なものを守るために時には力が必要だと知ることが出来た。今では、この極限流空手は俺のかけがえのない宝物のひとつだ」

加蓮「そう、なんだ」


リョウ「……いや、待てよ。そう言えばひとつだけあった」

加蓮「……なに?」




リョウ「親父の打つ蕎麦は不味い!」

リョウ「……っと、もうこんな時間か。そろそろ俺は事務所に戻るぜ。加蓮、身体をしっかり治せよ。無理はするな」

加蓮「うん……けど、きっと明日は来て見せるよ。この数日休んだ遅れを取り戻したいしさ」

リョウ「ふっ……その意気だ」



加蓮「……ねぇ坂崎さん。帰る前に最後にひとつだけ良いかな?」

リョウ「ん?なんだ?」

加蓮「……坂崎さんは、アメリカからこっちに来てプロデューサーをやってるんだよね。ってことは、いつかアメリカの道場に帰っちゃうの?ずっとこっちで、私の……私たちのプロデューサーは続けられないの?」


リョウ「……っ!!……それは……」


加蓮「……なーんてね。ごめんね、いじわるな質問しちゃって」

加蓮「わかってるよ。さっき聞いたんだもん、坂崎さんにとって、空手がどんなに大切なものか……今の、この状態の方が特別なんだってこと。わかってて、聞いたんだ。ごめんね」

リョウ「……加蓮、すまない。だが、俺は中途半端な状態を放り出して帰るつもりはない。お前、美波、拓海、有香、悠貴……みんな一人前になるまでは、ちゃんとここで仕事をするつもりだ」

加蓮「うん、わかってるよ……ふわぁ、なんだか眠くなってきちゃった。ちょっと寝るから、また明日事務所で会おうね、プロデューサーさん」
パタン

リョウ「……ああ、お休み加蓮。また明日」
ガチャ パタン

加蓮「……」

加蓮「うっ……」
グスッ



リョウ「……」

リョウ(……俺は……)

リョウ(俺は一体、どうしたいんだ?)

今日はここまで

加蓮「……」

コンコン
加蓮母「加蓮、今度はお友達が来てくれたよ。開けるよ?」

加蓮(友達?……誰?)

ガチャ

美波「失礼しまーす……加蓮ちゃん、起きてる?」

加蓮「……!あ……」

有香「お見舞いに来ました!加蓮ちゃん!」

悠貴「大丈夫ですかっ!?加蓮さんっ!」

拓海「……んだよ、思ったより元気そうじゃねぇか」

加蓮「み、みんな……どうして……」

美波(ん?加蓮ちゃん……泣いてたのかな……?涙の跡が……)

拓海「どうしてって……そりゃお前……こいつらが見舞いに行こう行こうってうるせぇから……」

有香「……と言いつつも、一番お見舞いに行くときに気合を入れてたのは拓海ちゃんですよ!」

悠貴「毎日事務所に来るたびに加蓮さんの事気にしてましたっ!」


拓海「あっ!!おい、お前ら!黙ってろ!」

美波「これ、はい、お見舞いの品……かなりの部分拓海ちゃんのチョイスだけど」
ガサッ

拓海「……ああー、まぁな。最近お前が気合入ってたのはわかってたし……ムカつくけど、いねぇと張り合いないっつうか……」
ゴニョゴニョ

加蓮「……みんな、ありがとう……ありがとうっ……!」
ポロポロ

拓海「!?お、おい」

加蓮「私、もう独りじゃなかったんだ……!」
ポロポロ

有香「だ、だだだだ大丈夫ですか加蓮ちゃん!ど、どこか痛いんですか!?」

加蓮「あー、もうホント、かっこ悪いな……最近、泣いてばかりだ、私」
ポロポロ

悠貴「な、何か悲しいことがっ?」


加蓮「……いや、大丈夫、大丈夫だよ……でも、みんなにも話しといた方が良いかもしれない。さっき坂崎さんと話したこと」

美波「坂崎さんと話したこと……?」





拓海「……まぁサカザキが極限流って空手の師範やってたってのはアタシらも聞いてたけど……そういう重そうな過去があるってのは聞いてなかったな」

美波「他人を殴るのが嫌だった坂崎さんが毎日毎日戦い続けなければいけない程の事情って……一体どれほどの……」

有香「……となると、坂崎プロデューサーの空手は私のように道場だけでなく、実戦で鍛えられたものというわけですね」


悠貴「プロデューサーさん、空手の先生だったんですねっ!道理でお話しが胸に響くというかっ、説得力があるっていうかっ!」

拓海「だけどよ……サカザキも言ってた通り、もしアメリカに帰るとしてもよ、そんなすぐの話じゃねえんだろ?最近やっとアタシら仕事をこなし始めたばかりだし、それこそ一人前になるのなんざ、あとどんだけかかるかわかんねえくらいだぜ」

拓海「それによ、そんだけ長くこっちで過ごしてりゃサカザキの心境に変化があったり、状況が変わったりするかもしれねえ」

拓海「なんにせよ、今からアタシらが心配するような問題じゃねえだろ?」

加蓮「……そうだね。言われてみればそうなのかも。拓海は強いんだね」

拓海「!?お、おい、どうしたんだお前がアタシの事褒めるなんてよ……まだ熱があるんじゃねえか?」

加蓮「ふふ……大丈夫だよ、明日には復帰してみせるから」

美波「……じゃあ、私たちそろそろ失礼するね。加蓮ちゃん、無理はしないで、しっかり身体治してね」

加蓮「ふふ……もう、わかってるって……それさっき全く同じこと坂崎さんに言われたんだから」

美波「……なんだか恥ずかしい……」

拓海「それじゃな、加蓮」

ガチャ パタン


加蓮「……それは今私たちが心配することじゃない、か」

加蓮「そうだね。今はしっかり目の前の事、頑張らなきゃ」

翌日

加蓮「……おはようございます」

ちひろ「あっ!加蓮ちゃん!おはようございます!」

ちひろ「みなさん!加蓮ちゃんが来ましたよ!」

ドタドタ

ユリ「加蓮ちゃん!!もう風邪大丈夫なの!?も~心配したんだから!」
ギュ~

加蓮「ゆ、ユリさん!?」

キング「その感じだともう大丈夫そうだね……心なしか前より良い表情になってるんじゃないかい?」

トレーナー「そうですね……前見た時はオーディション前で張りつめてましたから」

加蓮「……みなさん、本当に心配かけました。もうこの通り、身体は大丈夫なんで」



ロバート「それは何よりや。全く、あんな雨に打たれりゃそら風邪ひくで。風邪ひかんのはどっかのアホくらいや」

リョウ「……俺の事か?」

加蓮「社長も……車で私を運んでくれたんですよね?ありがとうございました……ほとんど覚えてないけど……」

ロバート「ああ、ええねんええねん!それよりも、リョウがあのまま加蓮ちゃんを抱きかかえとる状態を放置しとった方が絶対にやばかったしな!完全に誘拐やでホンマ!」

加蓮「え、ええ!?だ、抱きかかえられてたの私!?」

キング「へえ……やるじゃないかリョウ」

ユリ「キングさんというものがありながら……」

リョウ「お、お前らが何を言ってるのかわからんが、しょうがないだろ。急に気を失ったんだからな」

ロバート「ところで、ワイからの提案なんやけど、加蓮ちゃんの快気祝いせえへん?結局契約祝いもやってなかったわけやし、まぁ本人が良ければ、やけど」

リョウ「……どうだ?加蓮」

加蓮「……それってさ、私が場所決めても良いんだよね?」

ロバート「お!乗り気やないか!どこでもエエでぇ、美波ちゃんと拓海のグラビアがかなり売れとるみたいでな、資金的にもちょっと余裕出てきたしな!」

加蓮「……それなら……」

ハンバーガーショップ

拓海「……その流れでなんでファストフード店なんだよ!」

加蓮「ふふっ、憧れだったんだぁ……学校帰りに友達とこういうお店に寄って帰る感じ」

リョウ「いいか?ユウキ、出来るだけサラダ付きの量が多い物を頼むんだぞ」

悠貴「は、はいっ!」

ロバート「そしてお前は飲食店に入った瞬間悠貴ちゃんの保護者モードかいな……」

美波「普段こういうお店あまり入ったことないから知らなかったけど、みんなでおしゃべりができて楽しいところだね」

有香「こ、この大きい、数段重ねのハンバーガーはどうやって食べるのですか……」

ちひろ「こう、そのままガブッ!とですよ、有香ちゃん!」

有香「き、気合ですね!押忍!」


加蓮「はぁ~、こういうジャンクな感じの食べ物、好きかも……ポテトとかほんとおいし」
パクパク

ロバート「……まぁ本人がええならそれでええわ」

加蓮「そういえば、せっかくこんな場を設けてもらったんだし、いまさらだけど、自己紹介というか、決意表明しとくよ」


加蓮「改めて……私は加蓮。まぁ方向性としては……女優路線かな?みんな、よろしくね♪」

ロバート「……リョウ」

リョウ「ああ……加蓮、実はひとつお前に伝えとくことがある」

加蓮「……お?なになに、サプライズかな?……あんまりサプライズなのは勘弁してほしいんだけど」

リョウ「実はな。お前が家で休んでる間に連絡があったんだが……」

加蓮「……なに?」

リョウ「こないだお前が受けたオーディションのドラマ。あれの出演オファーがあった。主人公の親友役でな」

加蓮「……え?……ほんと……?」


リョウ「ああ、なんでも親友役はドラマの前半と後半でガラリと役柄が変わる難しい役なんだそうだが……こないだのオーディションの実技で審査員がお前に目を付けたそうでな。是非やってみませんか、と」

加蓮「うそ……そんな、私、完全に落とされたと思って……」

ロバート「主役でこそないけど、押しも押されぬ重要な主要キャストや!深夜枠とはいえ、こらエエ仕事勝ち取ったで!」

拓海「ちっ、なんだよ。なんだか先越されちまったな」

美波「私たちも負けてられないね!」

有香「そうですね!押忍!」

悠貴「すごいですっ!加蓮さんっ!」

リョウ「……無駄なんかじゃなかったな、加蓮」

リョウ「お前が研ぎ澄ませた技は、確かに審査員の心に届いてたんだ」

加蓮「……うん……うん……!」
ポロポロ

拓海「まーた泣いた!純情娘かお前は!」

加蓮「ほんと、だね……つくづく私、最近泣いてばっかりだ……」
ポロポロ

ロバート「……二つ名は決まったな。6810プロの『純情かれん』や」

リョウ「……シャレか?それ……」

リョウ(……これで本当の意味で5人、揃った)

リョウ(ついにこの時が……グループ結成の時が、来た)



悠貴「……ちなみに加蓮さんの役ってどんな人なんですかっ?」

リョウ「え~と……主人公の親友で、病弱で気弱な女の子。作中中盤で命にかかわる大手術を受けるも、実はそれは改造人間の手術で、終盤性格が豹変して主人公の前に立ちはだかる……改造により手から光線を出す……」

ロバート「どんなキャラやねん……ていうかどんな脚本やねん……」

加蓮「あはは……やりがいがありそうだね」

同じ頃
都内某所


???「フッ、ついに5人、揃ったな。完璧なメンバーだ」

真奈美「ああ、それにしても驚いたよ……まさか私をトレーナーとしてではなく、アイドルとしてスカウトしたいなんて言われた時は……人材不足なのかと思ったがね」

???「優れた能力を持つ者に相応しい役割を与える……何もおかしなことではない。お前は私の目に適った、それだけのことだ」

真奈美「ふっ、光栄だな……だが、これほどのメンバーの中でやれるんだ、全力でやらせてもらうさ」

女性「ふふ、謙虚ですね、真奈美さん」

女の子「ていうか、さっきから5人って言ってるけど、一人いなくね?どこいった?」

女性2「彼女のアレはいつものことよ。ほっときなさい」

???「ハハハ、これほどの素材たち、そして私自らのプロデュース……アイドル業界を飲み込むのは最早時間の問題……極限流、お前たちはどれほど抗って見せてくれるかな?ハハハハハハハハ!」

今日はここまで

雪がががが
今日は更新お休みします

数日後


ロバート「え~、みんなおはようさん。さっそくやけど、今日はみんなに大事な発表がある」

美波「大事な発表……ですか?」

リョウ「ああ。これまでこの事務所のアイドルである5人には、それぞれ各人ごとに色々な仕事をこなしてもらっていた」

リョウ「それで、みんながアイドルの仕事にある程度慣れてきてもらった今、これからのタイミングで、以前から俺とロバートで練っていた計画を始動させたい」

拓海「なんだよ、計画って」


ロバート「グループ結成や」

悠貴「グループですかっ?」

リョウ「ああ、普段からダンスレッスンやボイスレッスンをしてもらっていたのもCDデビューしてもらうためだ」

ロバート「アイドルは歌って踊ってナンボやからな、みんなも実は疑問に思ってたんとちゃう?いつCDとか出せんのやろって」

美波「……!」

ロバート「けど、そろそろ頃合いや。少なくともワイとリョウはそう判断した。当然通常の仕事はこなしつつ、グループとしてのレッスンの時間も取らなアカン。忙しさは今までの比やない。それでもみんなは、ついてきてくれるか?」

美波「……もちろんです!」

拓海「今更やっぱりちょっと……っていう奴はいねえよ。なぁ?」

悠貴「歌って踊って……ぜひやってみたいですっ!」

加蓮「いいじゃん。やっぱステージに上がってこそのアイドルだよね」

有香「はい!難しそうですけど、挑戦したいです!」

リョウ「……よし、お前らならそう言ってくれると思ったぜ。それでだな。デビューに当たってグループ名が必要になる」

拓海「ぐ、グループ名!そりゃそうだ!もしかしてもう決まってんのか?」

ロバート「ああ……まぁ大人の事情とワイらが相談して、決めたんや。その名も……」


ロバート「『極限drea娘』や!」


有香「きょくげん……」

悠貴「どりーむす……」

拓海「……なんか響きだけだと野球チームみてーだな」

ロバート「字面に工夫があるから!よう見てみ!」


ロバート「極限……これはまぁ限界を超えていく、という思いやな」

ロバート(本当はまぁクループ名に極限って入ってる方が衣装とかに違和感なく文字入れられるという大人の事情やけど)


ロバート「それに後ろのdrea娘……これは普通dreamsとなるはずが、msの所にあえて娘と書いて「むす」と読ませる……ここがハイセンスたる所以や」

ロバート「これにより、このグループが今後流行ったら、『極娘(きょくむす)マジでやばくない?』みたいな略語を使われ、親しまれていくという寸法や!どや!」

拓海「……なんか若干センスが古くねぇ?」

加蓮「古い古い……あれなの?モー○ング娘。的な……略して○ー娘的な……」

ロバート「ふ、古い……!?」
ガガーン

リョウ「ふ、古い……」
ガガーン

美波「ま、まぁまぁみんな……社長さんも、坂崎さんも一生懸命考えてくれたみたいだから……ね?」

有香「私はけっこう強そうでいい名前だと思います!」

悠貴「きょくむすって響きかわいいと思いますっ!」


リョウ「な、なんだか妥協された感はあるが、まぁいい……それで、デビュー曲となる曲も実はもう出来てる」

美波「ほ、本当ですか!?この計画って、実は結構以前から動いていたんですか?」

ロバート「ふふ、まぁそういうことやで……そしてこの曲名は!」

ロバート「『hello!成層圏』や!」

加蓮「はろー……」

美波「せいそうけん……」

拓海「……どういう意味だ?」


ロバート「ええとやな……空の上の方にはいろいろ対流圏とか成層圏とか中間圏とかあってやな、成層圏はその中でも常に晴れとるところらしいんや」

ロバート「ほんで、分厚い雲を抜けたら晴れてる成層圏にこんにちわ……みたいなとにかく明るい歌や」

加蓮「へ~……」

リョウ「それでだな、明るい歌であると同時に、ダンスもかなりの運動量になる。まぁそういう方向で振り付けはお願いしたんだが……その方がこの事務所の曲らしいと思ってな」

拓海「……まぁどっかの誰かのせいで体力ばっかりは鍛えられてるからな、アタシらは」

リョウ「そこで、この曲をグループで歌う際の最も重要な立ち位置……センターだが」

リョウ「俺はユウキに任せたいと思う」

悠貴「え、ええっ!?私ですかっ!?」

リョウ「ああ、体力という点においてはユウキはこの中でも優れているし、激しいダンスもユウキが伸び伸びと踊ってくれればかなり映えると思う」

リョウ「……どうだ?ユウキ、やってみるか?」

悠貴「……は、はいっ!精一杯がんばりますっ!」

ロバート「おっと、もちろん他のみんなもやで?ステージの上に立つ以上、どこからも見られるのは当たり前やからな?」

拓海「わかってら!全力でやってやるぜ!」



リョウ「よし、というわけで、今日からはレッスンはこの曲の振り付け。及び歌唱の練習をしていくことになる。頑張ってくれ」

美波「私たちの初めての曲……がんばろう!みんな!」

キング「ほらほら!拓海、運動量が多いからっていって、動きが雑になっていいって訳じゃないんだよ!有香もだ!」

拓海「ヒィ、ヒィ……きっつ……!だが、動ける……!」

悠貴「ここでっ!ターンッ!」

美波「……っ!」

有香「くっ……!ここは素早い足捌きが要求されますね……」

加蓮「はぁ……はぁ……」

キング「加蓮、大丈夫かい?限界だったらちゃんと言うんだよ?」

加蓮「まだまだ……!」





キング「……これはまた随分とハードな曲だね……普通はこれ1曲踊ったらかなり疲れるだろうけど……それに加えて歌もだろ?大変だね、アイドルは……」

リョウ「そうだな……だが、俺たちは動いてこそ、だ。加蓮も他のメンバーに比べればまだまだ体力面に不安はあるが、今のあいつなら食らいついていってくれると信じてる」


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数週間後

リョウ「みんな、今日もお疲れさまだ。かなり曲の方もモノにしてくれてるようだな。キングとトレーナーさんが褒めてたぞ」


拓海「まぁ最初はかなり戸惑ったな……人前で歌うってのはなかなか度胸がいるぜ」

加蓮「まぁでも私たちはアイドルなんだから……そこは乗り越えないとね」

拓海「ほほー、流石もうドラマに出演してる女優は肝が据わってんな」

加蓮「ふふん?それほどでも……あるよ?」

拓海「あんのかよ!」

リョウ「で、だな。今度、お前たちにとっての初のLIVEの仕事が入った。最近売り出し始めた色々なユニットが出演する『ニューフェイスフェスティバル』だ」

ロバート「原則デビュー1年以内の新しいグループが参加してくるらしい。で、これが参加してくるグループリストや」

悠貴「あっ、もう私たちの、極限drea娘の名前がありますねっ!」

美波「ふふっ……なんだか嬉しいね」


加蓮「あっ、茜の名前がある……ってことはまたあのプロデューサーと会うのか……」

リョウ「……不破はドラマの撮影の時にも会うのか」

加蓮「茜と撮影が被るときは確実にね……あの人自体はすごい熱心なプロデューサーって言えると思うんだけど、時々2人して叫びだすことがあるんだよね……その音量といったらもう……」

拓海「前からそいつの話聞いてたけどよ、ここまで来ると逆に一回見てみたくなるな……」

リョウ「……ん?」

ロバート「?どした?リョウ……なんか気になるグループでもおったか?」

リョウ「いや……この、Reppuってグループ……いや、まさかな……大丈夫だ、なんでもない」

ロバート「……?まぁとにかくこのフェスは2週間後の開催や。それまで各人、曲の完成度を上げていってくれ。頼んだで!」

美波「はい!」

いったんここまで

美波「……ふっ!……っ」
タン タタッ

拓海「オラッ……とりゃっ……」
バババ ズバッ

有香「覇っ!!せいっ!」
ダン シュバッ

加蓮「はぁっ……!」
タタッタ



悠貴「……」
ジーッ

リョウ「……ん?ユウキ、どうした?みんなのダンスをじーっと見て」

悠貴「あっ、プロデューサーさんっ……いえ、みなさんのダンスを見てて思ったんですけどっ」

悠貴「ダンスって、髪が長い方が映えませんかっ?」

リョウ「なに?」

悠貴「あのっ、今回の曲でプロデューサーさんにセンターを任せてもらえたので、美波さん達と比べて私のダンスってどうなのかなって思って見てたんですけどっ」

悠貴「美波さん、拓海さん、有香さん、加蓮さん……みんなダンスの時に長い髪がすっごく動いて、綺麗で……ターンの時なんて特にっ」

悠貴「私、ショートカットが好きなんですけど、他の人のを見たらロングもいいなって……」

リョウ「髪型か……まぁ確かにダンスの時は長い方が映えるってのはあるのかもな。長いとそれだけで動きが大きくなるからな」

悠貴「そうですよね……」


拓海「おう、お前ら、さっきからなんの話してんだよ」

拓海「髪の長さか……逆にアタシなんかは長くて不便に思ったことが何度かあるぜ?喧嘩の時なんかは特に長いと相手に引っ掴まれたり、夏は暑かったり」

拓海「あと、手入れだな!シャンプーの減りは早いし時間はかかるし……あれ?ショートの方が良いんじゃね?」

美波「でも、ショートはショートでお手入れ大変だよね。維持するために美容院いく回数も多くなるし、髪が広がりやすくて直すのが大変だったり」

加蓮「あれ?美波もショートだった時期あるんだ?」

美波「うん、子どもの頃はショートだったよ。中学くらいからは伸ばしてるんだけど……」

加蓮「へ~……私は今のこれくらいの長さがちょうど良いかな。色々とヘアアレンジ出来て、飽きにくいんだよね」

拓海「……そういや髪型と言えば、有香。お前のその二つ結び、解いてるとこ見たことねーな」

有香「!?」

悠貴「そういえばお団子にしてたり、ツインテールは見たことありますけどっ、下してるとこは見たことありませんっ!」

加蓮「ねえねえ、有香、せっかくだから下してみてよ」

有香「む、無理無理無理無理無理むー!!!」
グワッ


美波「!?」
ビクッ

拓海「な、なんでそんな嫌がるんだよ!?」

有香「そ、そんなっ……人前で髪を下すなんて、恥ずかしいです!照れすぎて立っていられません!歌ったり踊ったりすることの100倍恥ずかしいです!」

美波「そ、そうなの?綺麗な髪だし、恥ずかしいことなんてないと思うんだけど……」

有香「ほ、褒めて頂いても絶対に下しません!この中野有香、何があってもここは死守します!押忍!」
ザッ

加蓮「そ、そんなにいやならいいよ……な、なんかごめんね」




キング「髪型ねぇ……私は闘いの邪魔になるから伸ばすことはないかな」

ユリ「私は今は伸ばしてるけど、キングさん見てたらショートも良いかなって最近思ってきたよ」

ロバート「どんな髪型でもユリちゃんは天使やできっと……!」

リョウ「……とまぁ色んな意見はあったが、ユウキは今の髪型似合ってて、可愛らしいと思うけどな。それに、髪が短いならその分、動きを大きくすればいい……ユウキにはそれが出来るとおもうしな」

悠貴「……ほんとですかっ!?え、えへへ……っ」

キング「まぁとにかくもう本番目前だ。今更そんな髪型なんて気にする隙なんて出ないほど完璧に私が仕上げてやるよ……覚悟しな」

悠貴「お、お手柔らかにお願いしますっ……!」

フェス当日
会場

有香「け、けっこう大きい会場ですね……!」

ロバート「そらそうやで。このフェスは毎年開催されとって、これをきっかけに一気にスターダムに乗ったグループも少なくない、新グループの登竜門みたいなもんや」

美波「そ、そうなんですね……ちょっと緊張してきたかも……」

ロバート「あ~、いや、別にプレッシャーかけるつもりはなかったんやけどな。つまりそれだけチャンスでもあるっちゅうこっちゃ」

リョウ「ああ、それに適度なプレッシャーを感じることは悪いことではないからな。ガチガチになるのは良くないが、プレッシャーを感じなさすぎるのも緩みや油断に繋がったりするからな」

茜「あ!!!加蓮ちゃーーーーん!!おはようございまーーーーす!!!」
ドドドドド

拓海「声でかっ!」

加蓮「茜!……あれ?あの変態のプロデューサーさんは?」

茜「不破プロデューサーの事ですか?さっきまでお隣に(透明になって)いたんですけど、会場に誰かお知り合いを見かけたみたいで一心不乱にその人の方に飛び掛かっていってました!!」

拓海(な、なんだ……噂の変態はいねえのか……す、少し残念だぜ……)

リョウ「……なに!?相手は誰だか知らないが、こんな人の多いところで闘うつもりか!?日野さん、不破はどっちに行った!?」

茜「はい!私が感じた不破プロデューサーの気配はあっちの方向へ飛び去って行きました!!」


ロバート(いや、何モンやこの娘……)

リョウ「そうか、わかった!ロバート、俺は不破を止めてくる!皆のことを頼む!」

ロバート「おう、任せとけ!けど、この後すぐLIVEやからな!無茶したらアカンで!」




???「あやめよ……見事このフェスでその存在を示し、我らが最強を世に知らしめるのだ」

あやめ「はいっ!この浜口あやめ、見事彰二殿のご期待に応えて見せます!ニンッ」

彰二「ふん、当然だ……む!?曲者か!」
カッ

不破「まさかこのような所で相見えるとはな……如月彰二!」
ズン

あやめ「……!?ひゃ、ひゃああああ!!半裸で頭巾のマッチョな御仁が突然現れたーーーー!?」

彰二「フン……一体何処の刺客かと思えば、如月流の恥さらしとはな……今更どの面を下げて拙者の前に現れた……恥を知れぃ!!」
クワッ

不破「ふっ……貴様こそいつまでその如月流などという草臥れた拳を奉じておる。今や最強はこの不破流……不破刃の手中にこそ在る」

彰二「……よかろう。貴様の存在はまさに如月流の汚点そのもの。如月流現当主の責任と技を持って、貴様を亡き者にしてくれる」
ザッ

不破「望むところよ……貴様らが後生大事に守り続けた奥義を更に完璧な物へと昇華させた我が不破流……その奥義を持って貴様ら如月流へのせめてもの手向けとしてやる!」
グワ

くっそ恥ずかしい……
今までの彰二は全部影二に修正で……
くっそ恥ずかしい……
死にたい……

リョウ「くそっ……不破め、いったいどこに……あそこか!……あれは影二か?それと、もうひとり……?」

不破「ぬっ……!」
グググ

影二「くっ……」
グググ

???「フッ、果し合い、お礼参り、返り討ち……実に結構なことだが、それは場所を変えてもらうか、このフェスが終わった後にしてもらおう。フェス開始前に会場で死人が出て開催中止にでもなろうものなら私の野望が水泡と帰すのでな……」
グググ

リョウ(影二と不破の二人の攻撃を平然と止め、なお余裕の表情を崩さぬこの男……見間違うはずもない……!)

影二「ぬっ……!貴様、極限流……リョウ・サカザキ!貴様までがこの場所に!?」

???「ふっ……久しぶりだな、リョウ・サカザキ……以前会ったのはキング・オブ・ザ・ファイターズの第1回目の時だったな……およそ2年ぶりくらいか?」

リョウ「……なぜお前がこんなところにいるんだ……」

リョウ「ギース……ギース・ハワード!」

ギース「フン……それはこちらのセリフでもあるのだがな……だが私はお前たちが少し前から日本に来ていたという情報はすでに掴んでいた……私は私の事情でお前たちよりも先に日本に来ていたからな……」

リョウ「俺たちよりも先に日本に?……それは一体どういう……」

警備員「こらー!そこのお前たちか!会場内で暴れている変態とコスプレ野郎というのは!」

ギース「ふん、職務ご苦労な事だ。君、もうこの場は解決した。安心して君は君の持ち場へと戻りたまえ」

警備員「はぁ!?いや、どう見たってそこの忍者と変態は危険人物……」

ギース「……聞こえなかったか?私は、『この場はもう解決した』と言ったのだが?」
ギン

リョウ「……!」

影二「……!」

不破「!!」

警備員「ひっ……し、失礼しましたあああああ!」
ダダダダダ

リョウ(なんて殺気だ……心臓に直接刃物を突き付けられたような……!)

ギース「さて……如月影二と……不破刃だったかな?貴様たちも元からこのフェスに殺し合いに来たわけではないだろう?本来の目的を忘れぬがいい……現に影二、貴様の後ろの少女はめっきり怯えてしまっているぞ?」

あやめ「……っ……!」
フルフル

影二「むっ……あやめ……」

影二「ふん……致し方なし……だが不破……そして極限流!一体誰が最強かはこの後のLIVEで、そして我ら自身の闘いで教えてやる!首を洗って待っていることだ!……往くぞ、あやめ!」

あやめ「あ……は、はい。影二殿……」
トタタ


影二「……すまぬな。仇敵に逢ったせいで頭に血が上ってしまった。許せ」

あやめ「……い、いえ!この後のLIVEできっと如月流の最強を証明します!ニン!」

彰二「……ふっ、当然よ」

>>856  彰二→影二



不破「ふん……とんだ邪魔が入ったものだ。ギース・ハワード、その名と顔、覚えたぞ。この後のLIVEで茜とともに不破流の力を見せつけてやる。極限流、お前たちにもだ。影二との決着はそのあと着けてくれる」

ギース「余計なお世話だが、姿を消さないならばせめて上着を羽織った方が良いだろう」

不破「ふん!本当に余計なお世話よ!さらば!」
シュビビン

ギース「……姿を消したか……だが闘気が抑え切れていない。あれでは実戦では役に立つまいな……だがリョウ、日本とは良い地だな。このような白昼において命のやり取りを望むような、飢狼の如き猛者達の魂を感じる」

リョウ「ギース……どういうことだ?お前、俺たちよりも先に日本に来ていたと言うが、目的はなんだ?その目的がもし俺の家族に害を与えるようなものなら、俺は今この場で全力であんたを止める……!」

ギース「ずいぶんと嫌われたものだな……確かにタクマやユリ・サカザキの件は当時私が所属していた組織の……Mr.BIGの仕業だが、私は直接関与していない」

リョウ「仮にそうだとしても……俺はキング・オブ・ザ・ファイターズの時に龍虎乱舞を狙ったあんたと命のやりとり寸前の闘いをさせられたんだ……簡単に信用できるか」

ギース「フンッ……お前がどうしてもというのなら、私がこの日本で身に着けた無敵の技で貴様に前回の借りを返しても良いのだが……先ほども言った通り、今はその時ではない」

ギース「私が今日ここに来たのはお前たちと同じ……このフェスへと参加するためだ」

リョウ「……なに?」

???「……あっ!ボス、あんな所にいた!お~い!何してんの?もうすぐ会場入りなんだけど?」

ギース「ふっ、ちょうど良い。貴様には紹介しておこう……私のプロデュースするアイドルユニット……Reppuだ」

真奈美「どうも、木場真奈美だ。君のことはキングからよく聞いてるよ。極限流の無敵の龍くん」

リョウ「なに?……じゃああんたは前ロバートが交渉していたっていうボイストレーナーの……?」

真奈美「ああ、その節は本当にすまない……私も本当は君たちの所でトレーナーとして世話になろうと思っていたのだが、ここのボス……ハワード氏にアイドルとして誘われてね……なにせ考えもしなかった現場への誘いで、年甲斐もなく熱くなってしまってね」

レナ「年甲斐もなくって……じゃあ貴女より年上でまんまとこの人の口車に乗せられた私はなんだって話じゃない……あっ、私はレナ。兵藤レナよ。よろしくね、極限流さん」

???「あれ?レナさんもこの人のこと知ってるのかにゃ~?」

レナ「アメリカの……特に裏社会では有名よ。極限流空手の『無敵の龍』リョウ・サカザキ……『最強の虎』ロバート・ガルシア……極限流の2枚看板。龍虎……志希、アナタもアメリカにいたなら名前くらい聞いたことがあるんじゃないの?」

志希「う~ん、どうだったかな~?まぁとりあえず……失礼しま~す」
ハスハス

リョウ「……うお!?急に俺の匂いを嗅ぎ始めて……なんだきみは!?」

志希「う~ん、女の子の匂いがいっぱいする……お兄さん、もしかして意外とスミに置けないタイプ?あっ、私は一ノ瀬志希!よろしく~!にゃーっはっは!」

つかさ「アイドルのプロデューサーやってる時点でそりゃ女には囲まれてんだろーがっての。……あーアタシは桐生つかさ」

つかさ「本当はヨソの事務所のプロデューサーなんかに挨拶する義理はないんだけど、アンタ一応有名人らしいからな?まぁそこはアンタに礼儀として、な」

???「……でも、あなたからは強さと、それに負けないくらい大きな優しさを感じます。プロデュースされてる娘たちはきっとものすごく幸せだと思います~♪」

ギース「フンッ、それでは私にプロデュースされているお前たちがまるで不幸なようではないか?ナスよ」

茄子「……もう~、ハワードさん、私はナスじゃなくってカコ、鷹富士茄子ですよ~……リョウさん、といいましたか?よろしくお願いしますね~♪」

ギース「……以上の五名、Reppuを私はプロデュースしている……近い将来、このReppuがその名の通りアイドル界を……いや、芸能界を切り裂き、飲み込んでゆく……それが私の目下の野望だ」

リョウ「Reppu……いや、烈風。やはりお前だったのか……」

ギース「元々はお前たちがプロダクションを開いたと聞いて当てつけで始めた余興だったのだが……いや、なかなかどうしてアイドルは奥が深い。私もめっきりのめりこんでしまった」

リョウ「……」

ギース「だが、始めたからには一番にならねば気が済まぬのが私の性分でね。今日はその手始めだ。お前たちは目撃する……頂点を取るアイドル達の衝撃のデビューをな。光栄に思うことだ。ハッハッハッハッ……!」
ザッザッザッザ

リョウ「……ギース……!」

今日はここまで

リョウ「……」
スタスタ

ロバート「おっ、戻ってきた。どこいっとったんや?不破の奴は先に戻ってきてもう茜ちゃんと一緒に会場入りしていったで?……しかし初めて不破見たけど、聞きしに勝るへんた……漢っぷりやな」

リョウ「ああ……そうだな……」

ロバート「……?」

控室

リョウ(どうする……ギースの事を話すべきか?奴がこのフェスに乗じて何かを企んでる可能性もあるが……)

拓海「うう、不破のおっさんは面白かったけど緊張が完全に無くなるまではいかなかったぜ……」

加蓮「た、拓海、なに?緊張してんの……?わ、私は全然大丈夫だよ……」

有香「うう……こんなにたくさんの人の前で……歌って、踊って……」

悠貴「センター……うう~……っ」

美波「……あっ、悠貴ちゃん、髪の毛ここちょっと跳ねてるよ……あっ加蓮ちゃん、ちょっとお化粧落ちてる……あっ、私も……」
ソワソワ

リョウ(……いや、これ以上彼女たちに動揺を与えるような真似は止めた方がいいな……それより緊張を解さなければ)

リョウ「……みんな、固くなってるな。ステージ用の衣装はどうだ?先日見た時はみんな喜んでたじゃないか」

悠貴「は、はいっ……!衣装はとっても可愛くて嬉しいんですけど……っ」

有香「やはり……直前は緊張するというかですね……」

加蓮「だ、大丈夫……大丈夫……」
ブツブツ

リョウ「……みんな、一回立ち上がって、姿勢を正してくれ」

拓海「あん?……こうか」
スッ

美波「……」
スッ

リョウ「そのまま、自然に息を吸って、吐くんだ。ゆっくりでいい。そしてそのまま、腹の中の空気を全部吐き切る感じで、出し切るんだ」

有香(これは……息吹……)
ハァァァァ

悠貴「……」
ハァァァァ

リョウ「そして、ここからがちょっと難しいかもしれないが、腹に力を入れ、最後の空気をすべて出し切る」

リョウ「ここで顎を引いて、最後の力で息を吐き切る……」


加蓮「……」
コォォォォォ

リョウ「……どうだ?少しは落ち着いたか?」

美波「さ、最後ちょっと音が出て恥ずかしかったですけど……なんだか、不思議と……」

拓海「ああ……わかんねえけど、落ち着いた気がする」

リョウ「さっきも言った通り、適度なプレッシャーは悪くない。だが、ガチガチになるのは最悪だ。実力の半分も出せなくなる」

有香「……」


リョウ「いいか、これは力試しみたいなもんだ。今までお前たちが練習してきたものを、努力の成果を披露する発表会だ」

悠貴「……」

リョウ「楽しめ。なに、失敗したところで命を取られるわけでもなし、逆に失敗したところは次回以降の課題に出来る。今の自分の実力がどんなモンなのかを知ることこそが一番重要だ」

加蓮「……」


リョウ「行ってこい。お前たちの……『極限drea娘』の力を見せてやれ!」

拓海「……ぷっ」

リョウ「ん?」

拓海「あはははははは!真面目な顔して、きょ、極限drea娘って!ははは、ダメだ!字面を想像したら笑っちまう!あははははは!!」

加蓮「っふ、ふふ、ちょ、ちょっと拓海、笑いすぎ、うぷっ、ふふふふふ」

美波「……っふふ、うふふ……」
クスクス

有香「くふっ……う、うう……ふふふ」

悠貴「……えへっ、あはははっ」

リョウ「……なんだなんだお前ら!人がせっかく緊張解してやろうと思って一生懸命に!」

拓海「緊張は、十分ほぐれたよ!やっぱある意味良いグループ名だわ、極娘!あはははははは!」


拓海「……あぁ、笑った笑った。サンキューサカザキ、緊張消えたわ」

リョウ「……もう俺は知らんぞ。時間だからとっとと行け」
ツーン

加蓮「もう~、坂崎さん、ごめんってば~!機嫌直してよっ!」

美波「ふふ、本当にごめんなさい、坂崎さん。それじゃあ極限drea娘、行ってきますね」

有香「では円陣組みましょう!グループらしく!」

拓海「おっ、良いな……よし悠貴!センターらしく掛け声頼むぜ!」


悠貴「ええっ、わ、私ですかっ!?わ、わかりました、じゃあ掛け声は……で行きましょうっ!」

加蓮「おっ、私たちらしいね~。じゃあ、悠貴」

悠貴「はいっ……せーのっ」

悠貴「きょくげん~~!!」

極限drea娘「FIGHT!!!」
ダッ


リョウ「……!あいつら……」




MC「さぁ、次のグループは新興プロダクションの6810プロより、女の子5人組のユニット、極限drea娘の登場だ!曲は、『hello!成層圏』!」
ワアアアアアアア

美波(……!すごい、人の数!)

拓海(これが、ステージの上……!)

有香(やっぱり、緊張はします……だけど!)

加蓮(怖がることは、ない!)

悠貴(のびのび大きく、楽しんで!)

地上の道を全力疾走

大きく大きく助走を付けて

飛び出す先はあの空の上


キング「……!いいよ、みんな萎縮せず、いい意味で自由に踊れてる……!」

ロバート「エエで……エエで!」

対流圏抜けて
分厚い雲を突き抜けて
目の前に広がるのは晴れてるセカイ

客席
子分A・B・C「うおおおおおおおお!姉御ぉぉぉぉぉ!!!」

師匠「有香ああああ!L・O・V・E!ラブ!リー!有香あああ!!」




hello!成層圏
hello!新世界

だけど宇宙まで行くならロケットを使わざるを得ない



リョウ(……よくぞ、ここまで……!)

ワアアアアアアア

ステージ裏

美波「はぁ、はぁ」

拓海「や、やりきったな……」

悠貴「……最高に、気持ちよかったですっ!」

有香「お客さんたち、あんなに喜んでくれて……」

加蓮「私、良かった……本当に……アイドル続けてて……」

リョウ「……」
ズンズン

拓海「お、プロデューサーサマのお出ましだ。よう!どうだったサカザキ……おい、サカザ……!?」

リョウ「拓海!よくやった!!」
ガバッ

拓海「!!!??」

美波「!!?」

有香「!?」

悠貴「!!」

加蓮「!!!?!」

拓海「ちょっ、さかざき、おまっ」///

リョウ「美波!よくやってくれた!」
ギュッ ワシャワシャ

美波「!?ひゃ、ひゃああ!?」////

リョウ「有香!ナイスファイト!」
ギュ~

有香「ちょっ、坂崎プロ……あわわわ」////

リョウ「加蓮!よくがんばった!」
ガシッ
加蓮「あっ……」////


リョウ「ユウキ!ありがとうな!」
ギュ~ ワシャワシャワシャワシャ

悠貴「あっ……、えへへへへっ」////

拓海「て、テメェ!サカザキ!いきなりなにしやがんだ、こ、この、へ、変態ヤロー!!」///

リョウ「まぁ落ち着け。LIVE、今の自分たちの全力を出し切れたんじゃないか!?」

美波「……はい、本当に自由に、楽しんでやれたと思います!」

悠貴「とっても楽しかったですっ!」

加蓮「ほんと……気持ちよかった」

有香「初めて空手の試合に勝てた時と同じか、それ以上に嬉しいです!」

パチパチパチ

ロバート「みんな!ホンマよくやったで!」

キング「ああ……細かいところを指摘し始めればキリはないけど……本当に良かったよ」

ユリ「みんなかっこよかったし、可愛かったよ!お客さんも大喜びだったしね!」

加蓮「みんな……!」




ギース「……なるほどな。実に素直なパフォーマンスをする。粗さも目立つが、これはこれで一つの在り方なのだろうな。だが……」

ギース「Reppuよ。全てを、切り裂いて来い」

真奈美「……」

レナ「……」

志希「~♪」

つかさ「……」

茄子「~♪」

ロバート「お、次で最後みたいやな。Reppuてグループか」

キング「……ん?ステージの上にいるのは……あれは真奈美じゃないかい?」

ロバート「な、なんやてぇ!?」

リョウ「……」

MC「さぁ本日の大トリを務めますのは、これまた新興プロの覇我亜怒プロから5人組女性グループ、Reppuで、曲は、『Yellow belly』!」

ロバート「……Yellow belly(臆病者)ってか。随分挑発的な曲名やな……」

Come on! Come on! Come on! Come on! Yellow belly!

Come on! Come on! Come on! Come on! Yellow belly!

何故立ち上がらないの?何故向かってこないの?

悔しくないの?情けなくないの?

ロバート「……な……」

キング「なんて完成度のダンス……!あれほど激しい動きなのに、一糸乱れない全員の動き……」

それはあなたが臆病者だから

臆病者の弱虫だから


リョウ「これは……新人とか、中堅とか、ベテランとか、そういう次元の動きじゃない……」


牙のない人に

興味はないの

good-bye boy 悪夢にまで怯えるといいわ


美波・拓海・有香・悠貴・加蓮「……!」


ワアアアアアアアアアアアアアアアアア

LIVE後
車内

ロバート「……そうか。あのグループ、ギース・ハワードがプロデュースしとったのか……しかし、ワイがトレーナーとして交渉しとった木場はんをまさかアイドルとして雇うとは……」

キング「……それよりもあのダンスさ……あの完成度、おそらくアイドルグループであれだけ踊れるところなんてないんじゃないかい?」

リョウ「ああ……せっかくあいつらは出来うる限りの最高のLIVEをやったのに、最後はすっかり落ち込んじまった……あいつらと比べても仕方ない、とは言ったんだが……まぁ無理だよな」

ロバート「LIVE後のネットの書き込みもほとんどReppu一色や。気の早いやつはもう天下取ったも同然!みたいに書きこんどる」

ロバート「まぁでもあの娘らはあの娘らで良いパフォーマンズをしたのは事実なんや。極娘が一番良かった!って書き込みもちゃんとある。それでなんとか自信をつけて……やってってもらうしかないな」

リョウ「ああ……」

リョウ(情けねぇなぁ、俺は。あいつらはあんなに頑張ってるのに、かけるべき言葉がなかなか見つからん)



リョウ(……ここからが、正念場か)

今日はここまで


都内 BAR

真奈美「それじゃあ……乾杯」

キング「乾杯」

レナ「乾杯♪」

キング「……それにしても驚いたよ……まさかアンタがアイドルになってるなんてね、真奈美」

真奈美「ああ、今回の件は君にも迷惑をかけたな。極限drea娘のパフォーマンス、見せてもらった。どの娘も有望そうじゃないか。将来が楽しみだよ」

キング「そうだね。鍛えがいのある良い娘たちさ……なぁ、真奈美、それにレナといったかい?あんた達はギース・ハワードに直接スカウトされたのかい?」

真奈美「ああ、彼は元々日本にいたらしくてな。ある日突然私の前に現れてね。アイドルになれ、とな。いきなり命令口調で驚いたよ」

レナ「へぇ~……私の方は……前の仕事、客船のカジノコーナーでディーラーしてたのよ。そしたらあの男がやってきてね……私にブラックジャックを挑んできたのよ」

キング「それで?」

レナ「自惚れてたわけじゃないけど、私も運や勝負勘には自信があった。本場で磨かれたという自負もあった。けどね……1回も勝てないのよ。冗談みたいに。最後にはディーラーの私の方がムキになっちゃってね」

レナ「そうしたら、あの男、なんて言ったと思う?『どうしてもと言うのなら君の人生を賭けてもらおう。私に負け続けて、もう他に賭ける物もないだろう?』ってね」

真奈美「……言いそうだな」

レナ「私ももう後に引けなくなってたからね……確かにあの男に負け続けたせいで、ディーラーとしての評判も、私のプライドもボロボロだったから」

レナ「だからここで最後の勝負に勝って、名誉挽回しないとって。そしてあの男が最後に持ち出してきた勝負が、コイントスだった」

レナ「正直、まともな勝負じゃ勝てる気がしなかったけど、コイントスなら実力関係なしに2分の1だしね。私はその勝負に乗った。……で、結果は御覧の通りよ」


レナ「アイドルなんてなんの冗談かと思ったけど、それ以上に名刺をもらった時にもっと驚いた。私も元々アメリカの……裏社会に近いところに身を置いてたからね。ギース・ハワードの名は当然知っていた」

キング「そうかい……じゃあ、あんた達はギースの裏の顔も?」

レナ「全部……とはいかないけどね。危険極まりない男ではあるけど、それ以上に、悔しいけどあの男には何か人を惹きつけるカリスマみたいなものがある」

真奈美「能力の高さは最早私には底が知れない。事実、彼は一人で私たちのスカウト、プロデュース、会社の運営、それにダンス指導までやってる」

キング「……なんだって!?あのダンス、あれはギースの指導だってのかい!?」

真奈美「ああ。私も驚いてね、一度聞いたんだ。それほどのダンス、どこで身に着けたのかってね」

真奈美「すると彼は、私たちをスカウトする前に著名なダンサーに自ら弟子入りしたんだそうだ。……で、僅か1か月程度でそのダンサーの技術を吸収して、追い越したんだと」

レナ「悲惨なのはそのダンサーよね。その人、本当に名が知れた人だったんだけど、この前ダンスを廃業したって雑誌に出ていた。たった1か月で自分の人生を捧げたダンスで追い抜かれて……心が折れたんでしょうね」

真奈美「歌の方に関しては私が指導したが、ダンスの方は完全に彼の仕込みだ。彼は間違いなく天才だ……怖くなるほどにね」

キング「……」

キング(リョウ……私たちはどうやらとんでもない怪物を相手にしてるみたいだよ)


キング(それにあの娘たちも……心が折れてなきゃいいが)

すみません、短いですけどいったんここまで

2日後
事務所
リョウ(昨日はLIVE後ということで休暇……今日はLIVE後初の顔合わせだ)

リョウ(どうする?なんて声かければいい?……こないだの事は気にせず俺たちは俺たちで構わず進んでいこう!)

リョウ(いや、そういうわけにはいかんだろう、あれだけの実力を見せつけられて、そもそもLIVE前に自分たちの実力を知るのが重要って言ったのは俺だしな)

リョウ(彼我の実力差はわかった、ここから追い上げていこう!)

リョウ(これか。あいつらが心を完全に折ってないのが前提ではあるが……それほどに衝撃だった)

リョウ(正直、あいつらが挫けてしまっていても、それを責めることは俺には……)


ガチャ
美波「あっ、坂崎さん。おはようございます」

リョウ「!?……あ、美波。お、おはよう」

有香「ど、どうしたんですか?そんなに動揺されて」

加蓮「ふふっ、何か考え事してたんじゃない?それとも、イケナイこと考えてたとか」

悠貴「い、イケナイことですかっ!?」

拓海「おう、違えねえ。こいつはいきなり有無を言わさず抱き着いて頭撫でまわしてくる変態ヤローだからな」

リョウ「お、お前ら……その恰好、走ってきたのか?」

美波「はい。あのLIVEの後、みんなで話し合ったんです。昨日はお休み頂きましたし。それで……今の自分たちに出来る事を精一杯やっていこうって、出来る事を増やしていこうって」

有香「というわけでまずは基礎から!みんなで朝はランニング出勤です!」

拓海「やられっぱなしは性に合わねえからな。こないだのLIVEはアタシらの完敗だが……今に追い越してやるよ」
パンッ

リョウ「お、お前ら……」

悠貴「ど、どうしたんですかっ?プロデューサーさん、具合が悪いんですかっ?」

拓海「へっ……大方こないだのLIVEでアタシらがReppuにビビっちまったと思ってたんだろ。舐められたもんだぜ」

美波「ま、まぁ驚いたし、ショックだったのは確かですけど……挫けたりなんてしません。あの時のLIVEはあれが私たちの最高だったけど、まだまだ私たちは成長していけるっていう手応えもありましたから」

加蓮「どんなに高い壁見せられたからって、それで挫ける子なんて私たちの中にはいないよ。……大丈夫、貴方が育ててるアイドル達だよ」

リョウ(……どうやら、俺の取り越し苦労だったみたいだな。いや、心が挫けかけたのは、俺の方だったのかもしれない)

リョウ(この娘たちは本当に強くなった)

ガチャ
キング「……ふん、良い覚悟だね、あんた達。だったら、今日からのレッスンはさらにギアを上げていく。泣き言なんか聞きゃしないよ」

拓海「ゲッ!!キング……さん、げ、限度ってもんを考えてくれよ!?」


リョウ「ああ、キング、ビシバシ行ってくれ。なに、限界を超えてこその極限流、そして極限drea娘だ。なぁに、こいつらなら耐えられる。俺が保証する」

加蓮「ほ、ほんとに常人が耐えられる範疇にしてよね?」

ガチャ
ロバート「よっしゃ!そんならおあつらえ向きのイベントが2週間後にある!ミニLIVEの仕事や!」

有香「本当ですか!社長さん!」

ロバート「ああ、ちょっと都心からは離れた小さい会場やけど、先日のLIVE見た関係者から是非出てくれ、と依頼があった!どや?みんな?」

美波「会場の大きさなんて関係ありません!是非出させてください!」

リョウ「……よし、目先のわかりやすい目標もできたことだし、特訓だ!」

数日後
都内某所

ギース「……諸君、まずはCDシングル、『Yellow belly』のウィークリーチャート初登場1位獲得、おめでとう」

つかさ「こないだのLIVEで相当バズってたしな。当然っちゃ当然じゃね?」

レナ「まぁ素直に喜んでいいと思うけどね」

ギース「先日のLIVEでReppuの名はまさに烈風のごとく業界を駆け抜けた。それが表れた結果と言えるだろう。数多くの歌番組やLIVEの出演依頼が来ている」

志希「ん?ってことは忙しくなるのかにゃ?」

ギース「いや、あのLIVEですでに相応のインパクトは残した。これからはある程度以上大きな仕事のみを選んでいく」

つかさ「いわゆる高級路線ってヤツ?安売りはしない、みたいな」

ギース「そうだ。お前たちは実力で存在を示したのだ。実力の伴わぬ一過性のプッシュなどではない。ならば、鼻息を荒くして露出に焦ることはない」

レナ「……いろいろ考えてるのね」

茄子「私はもっと色んなお仕事やってみたいですけどね~」

ギース「フンッ……だが次の、決定打となる一手はもう動きつつある。お前たちがこのアイドル界の頂点に立ったならば、あとはもう好きな仕事をするがいい」



ギース「アイドル界の制圧ももはやすぐそこだ……ハッハッハッハッ!」

レッスンルーム

キング「はいはい!勢いも大事だが、細かいところにも意識を置き始めな!あんた達はもうそういう段階に入ったんだよ!」

拓海「……っ」

拓海(マジできちいいいい……!)

有香(でも、勢いだけじゃない、正確さも身に着けないと……)

美波(あの人たちに……Reppuには対抗できない……!)



リョウ「お疲れ、キング。みんなはどんな調子だ?」

キング「ああ、みんなこないだのLIVEでReppuっていうまぁ目標みたいなものを得たからね。課題を持って取り組んでる」

キング「最近はダンスの動きの正確さにも意識をさせてる。ただ……」

リョウ「……ただ?」

キング「もしReppuと張り合うつもりなら……同じ土俵で勝負するのは分が良くないね。何かあの娘たち独自の武器がないと……ダンスの完成度で言えばあっちは既に業界最高峰だ」

キング「もちろんReppuと張り合わないなら、今の推移は悪くない。時間を掛ければあの娘たちのダンスも完成していくさ。それだけの素質がある娘たちだからね」

リョウ「……そうか」

キング「まぁ、今後の方針はアンタとロバート、そしてあの娘たち自身と相談して決めな」

リョウ「ああ……」

リョウ(あいつら独自の武器……か)

ミニLIVE当日

ロバート「今日は本番やな……会場が都心の外れで、ワイが今日別件の交渉で多分本番に間に合わへんやろうから、リョウ、引率頼むで」

リョウ「ああ、任せとけ」


会場

拓海「今回も曲は、『hello!成層圏』だな」

美波「そうだね。前回よりも成長したって実感できるように、頑張ろう!」

リョウ「あ~、今回も、楽しむ心を忘れずにな」

有香「はい!それじゃあ……今回も掛け声を」

加蓮「悠貴、お願いね♪」

悠貴「は、はいっ!」

悠貴「きょくげん~~!!」

極限drea娘「FIGHT!!!」
ダッ

ワアアアアア

美波(ここのターンを……一瞬早く!)

悠貴(指先までしっかり伸ばして……大きく、大きく!)

有香(しっかり腰を入れて……)

拓海(丁寧に……丁寧に……)

加蓮(疲れてきた時こそ……丁寧に……!)

リョウ「……」

リョウ(前回のLIVEで得た自信もあるだろう、勢いの中にも細かいところでの完成度が上がってる……ように思う)

リョウ(だが、素人目で見ても、やはりReppuと比べると、凄みというか……なんだかそういうもので劣っている気がする……ハッ)

リョウ(馬鹿か俺は!?誰よりもあいつらと向き合って、あいつら自身を見なければならない俺が他所のグループと比較して評価するとは……)

リョウ(くそっ!俺はプロデューサー失格だ……!)
パンッ

リョウ(あいつらは力の差を見せられてそれを克服するために努力してるってのに……俺はこのザマか……)
ジンジン




ワアアアアアアア

拓海「はぁ、はぁっ……おう!サカザキ!どうだったよ今回のアタシらの出来は!」

リョウ「あ、ああ。前回よりも格段に成長していたと思うぞ」

美波「……あ、あの、坂崎さん?なんだか右の頬が腫れてませんか……?」

リョウ「いや、気にするな……ちょっと虫が止まっただけだ……」

悠貴「……あの、プロデューサーさんっ、もしかして今のLIVE、あんまり良くなかったですか……っ?」

リョウ「!?い、いや、そんなことは断じてないぞ!?自信を持っていいんだ!」

有香「……そう、ですか」

加蓮「……正直ちょっと不安になっちゃった。坂崎さん、前みたいに喜んでなかったし」

リョウ「……す、すまない……だが確実に前回よりも完成度は上がってるぞ、胸を張ってくれ」

リョウ(くそ、誰のせいで不安になってると思ってんだ……お前(俺)のせいじゃねえか……!まだまだ精神の修行が足りてない!)

LIVE後

会場外

リョウ「よし、これで今日のLIVEは終了だ、みんなお疲れさま」

拓海「……おう」

悠貴「……っ」

有香「……はい」

加蓮「……うん」

美波「……はい、お疲れ様でした」

リョウ(……LIVEは成功したのに俺のせいでまるで失敗したみたいな雰囲気だな……なんとかフォローしないと……)

ゴオオオオオォ

リョウ「……ああ、車を取ってくる。みんな悪いが少し待ってくれ」

美波「あ、はい。ありがとうございます、坂崎さん」

ゴオオオオオォ

リョウ(……なんて言ってフォローする?考え事してた、とか……いや、フォローにならねぇなそれは)
スタスタ

拓海「……なぁ、有香?あのこっちに向かってきてるトラック、えらくスピード出してねえか」

ゴオオオオオオオオオ

有香「……確かに、そうですね。もう時間も遅いのにあんなスピード……」

リョウ(いっその事、白状して謝っちまうか。お前らをReppuと比較して評価してしまった、すまない、と)

リョウ(……軽蔑、されるだろうな。だが仕方ない、事実だ。こういうときは正直に謝るしかない)

ゴオオオオオオオオオ


加蓮「……ねえ、気のせい?あのトラック、こっちに突っ込んできてない?」

美波「ま、まさかそんな……」

ゴオオオオオ

バッ
ゴロゴロゴロゴロ

悠貴「!!運転手の人が!飛び降りましたっ!!」

リョウ(よし、すぐに謝ろう……)
クル

リョウ「おい、みんな、聞いて……!?」

ゴオオオオオオオオオ

美波「—————坂崎さん!!」

リョウ「—————全員、伏せろォォォォォォ!!!」


リョウ「—————覇王、翔吼拳——————!!」


ズドオオオオオオオオオオオン

有香「—————!!?」

拓海「お、大型トラックを、ぶっ飛ばした……!!?」

加蓮「うそ……夢、だよね……?」

悠貴「あっ……ああっ……」

美波「た、大砲……?」

リョウ「—————!!」

???「相変わらず大した威力だ……まさか猛スピードで突っ込んでくる大型トラックを進行方向と真逆に吹き飛ばすとはな……あれを人間が食らえばひとたまりもあるまい」

???「やはり極限流は、俺が組織で復活するための手駒として必要なピースだ」

ザザザザザ

拓海「……な、なんだこいつら!?」

有香「こ、この人たち……明らかに素人じゃありません……!」

???「だが、極限流は気を撃ち出した直後にこそ隙がある……研究通りだ。大型トラック一台丸ごと使った陽動、だが貴様、今回は妙に反応が鈍かったな?考え事でもしていたか?」

リョウ「なぜ、お前がこんなところにいるんだ……」

???「あれだけ隙があれば、俺と俺の可愛い子飼いの兵たちならば貴様らを全員包囲するのは容易い……なぜ?それは貴様の返答次第で目的が変わるな」

リョウ「BIG……Mr.……BIG!!」


兵「……」
ザザザザ
チャキ

美波「!……銃……!?」

加蓮「う、うそでしょ……」

悠貴「……っ」
ガタガタ

リョウ「BIG、貴様……!」

Mr.BIG「フフ、リョウ・サカザキ。お前の可愛いアイドル達にケガをさせたくなければ、アイドル共々、俺とともに来てもらおう……!」

今日はここまで

これ、スレ跨ぎそうなんだけど次スレってどのタイミングで立てるものなの?1000行ってから?

そうなんだ……じゃあもう立てた方が良いのかな

なんか建てられたっぽい

次こっちです

次スレ 【モバマス×龍虎の拳】リョウ・サカザキ「俺がアイドルのプロデューサー?」【2】
【モバマス×龍虎の拳】リョウ・サカザキ「俺がアイドルのプロデューサー?」【2】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1485002165/)

もし1000行くまでに質問とか疑問とかあればお答えします(あくまでこのSS内での設定で)

サウスタウンの現状を教えて下さいませ。
あと、黒井さんとか高木(兄)さんとか 日高舞さんとか存在してるなら
何やってるか教えて下さい

このスレのSNKキャラは色んなパラレルワールドがどのくらいの割合で混じってるのか知りたい(龍虎やKOF、武力etc)
完結した後で解説入るなら今はスルーしてくださって構いませんが

>>978
サウスタウンの現状を教えて下さいませ。
あと、黒井さんとか高木(兄)さんとか 日高舞さんとか存在してるなら
何やってるか教えて下さい

サウスタウンはSS作中の時系列で約2年前に第1回キングオブ・ザ・ファイターズが行われ、リョウが優勝、ギースに龍虎乱舞で勝利した後、ギースが所属している組織(実質的にはギースが組織内の権力を握る)が牛耳っている状態です。ギースはリョウに敗れた後、そのまま日本に修行に出ているため、サウスタウンは特に大きな抗争もなく(まぁ治安は最悪だけど)ある程度平和な状態です。

黒井さんとか高木(兄)さんとか 日高舞さんとかは、あくまでモバマスとのクロスなので、ほとんど表には出てきませんが、大手プロダクションとしてほぼゲーム準拠で存在しています。

>>979
このスレのSNKキャラは色んなパラレルワールドがどのくらいの割合で混じってるのか知りたい(龍虎やKOF、武力etc)

基本的には龍虎~飢狼の間の世界観のため、KOFや武力は関わってきません。
ただ、リョウがちょっと貧乏性だったり、皆伝無頼岩を使ったり、タクマの蕎麦を打ちたがる設定など、少々KOFから設定を借りている部分もあります。

今の所はボガード親子は幸せに暮らしてますか?
ここから追加のアイドルとか出ますか

>>982
今の所はボガード親子は幸せに暮らしてますか?
ここから追加のアイドルとか出ますか


現在はサウスタウンにギース不在のため、ジェフは存命、彼の庇護のもとボガード兄弟も幸せに(まぁ治安は最悪だけど)生活しています。

追加アイドルに関しては、本編のストーリー中には6810プロに新たなアイドルが加わる予定はありませんが、それ以外の形で登場する予定はあります。

また、本編終了後にネタが浮かんだらプロダクションに参加することもあるかもしれません。

とりあえず本編の続きは>>974の次スレで再開します。このスレは残りは質問等あれば、特になければ適当に埋めて頂ければと思います。

>>968
風雲拳を超える流派

http://i.imgur.com/A2jmE6w.jpg

>>986
ドナフル拳爆誕

あーあ、龍虎の拳のストーリーと龍が如くのシステムを合わせた龍虎が如く出ないかな

>>986
ギースはこの時点で周防辰巳から当て身投げとその命を奪っています

>>987>龍虎が如く
作り込んだサウスタウン内をロバート編とリョウ編で交互進行。
タイマン&集団戦の路上バトル、闘技場バトル、多種多様な修業ミニゲームに街遊び、道場経営etcと

やり込み要素満載。気力ゲージで戦局が左右される白熱のアクションバトル…   
やだ、やりたい…  

>>992
名作不可避
セガさん龍が如く6で桐生ちゃん編一段落ついたしどうですかね

そして幻の龍虎3……日本編を……

素人に覇王翔吼拳なんて使ったら死んじゃうからね……ホイホイ使えないよね……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年01月02日 (月) 12:04:22   ID: CvHBJilg

こんなん面白いに決まってるじゃないですか!

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