ツバキ「はあっ!!」
花騎士ツバキは二刀を振るい、小型のカマキリ型害虫を鮮やかな剣捌きで屠った。
力尽きた害虫は光となって消滅した。
ツバキが剣を振るう様は、その赤と黒を基調にした豪奢な鎧と相まって、戦場に残酷な華やかさをもたらす。
オンシジューム「こっちも……これで終わりだかんねー!!」
反対側では、花騎士オンシジュームが、まるで踊るような身のこなしでナメクジ型害虫を切り刻み、消滅させた。
カトレア「ふん、長かった任務も、あとはアイツを倒せばお終いね、くだらない」
大型害虫「……ギギ……」
取り巻きを倒されて怒っているのか、イモムシ型の大型害虫、この辺りのヌシ的存在は、耳障りな鳴き声を出した。
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スズラン「団長さんの……邪魔をするなぁ―――っ!!!!」
花騎士スズランは、魔法陣を空中に召喚し、光の束を大型害虫に向けて照射した。
大型害虫「ギギ……!」
アネモネ「行くよ……!」
花騎士アネモネは害虫が怯んだと見るや、機を逃さず溜めの動作に移り、次の瞬間、自身を雷光の龍と化して何度も害虫に突撃した。
大型害虫「ギィ!!」
アネモネ「! 団長さん、今!!」
団長「よし! 準備OKだ!」
我が騎士団の団長は最古の花騎士「フォス」の末裔であり、花騎士の「想い」を力に変えて、強力な攻撃、「ソーラードライブ」を放つ事が出来る。
団長が両手を前方に翳し、大型の魔法陣を展開すると、そこから極大の光線が発射され、大型害虫に直撃した。
大型害虫「ギ、ギギ……」
ツバキ「! 怯んだ! 今です! 喰らいなさい!!」
ツバキが崖に追い詰められ、怯んだ大型害虫にトドメを刺そうと突撃しようとした時、団長の制止の叫びが耳に飛び込んできた。
団長「待つんだ!! ツバキ!! ヤツはまだ……!!」
しかし、一度放たれた矢の様に勢いよく突撃していたツバキは止まれなかった。
ええい、ままよ、と自身の必殺技を繰り出そうとした時、イモムシ型の大型害虫は、丸まって宙に飛びあがり、ツバキに向かってではなく、地面に向かって攻撃を繰り出した。
ツバキ「な、何っ!?」
その攻撃で崖が崩れ、ツバキと大型害虫は峡谷へ転落していった。
ツバキ「うわあああっ!!!!」
団長「ツバキィィィッ!!!!」
ツバキの意識はそこでぷっつりと途切れた。
~???~
ツバキ「……うぅ……こ、ここは……? 痛ぅっ!!」
ツバキが目を覚ますと、自身は粗末な庵らしき建物のベッドの上に包帯で身体の各所をぐるぐる巻きにされて寝かされていた。
鎧が脱がされていたので、女の本能として慌てて股間を探ってみたが、何か乱暴されたような感覚は無かった。
ただ、全身を打ったのか、酷く痛い。
ツバキが痛みに呻いていると、何者かが伊織に入ってきた気配があった。
???「……大丈夫……?」
見ると、年端も行かない幼い少女が、身の丈に合っていない大きな白い着物を身に纏い、袖ごと水とタオルが入っている桶を持って入ってきた。
少女は緑がかった黒髪を腰まで伸ばし、神秘的な碧い瞳をしていた。
神々しいまでの美少女であった。
ツバキ「あ……貴方は……?」
???「……私は「タケ」……崖からアナタが落ちて川に流されてたから介抱したの……」
ツバキ「……では、貴方も花騎士なのですか?」
タケ「……花騎士……?」
タケと名乗る少女は小首を傾げ、何の事か分からない、というような顔をした。
タケ「……包帯、取り替える……」
ツバキ「は、はい……」
こうしてツバキと「タケ」と名乗る少女の奇妙な療養生活が始まった。
今日はここまで
そんなに長くはならない……っていうか短めになる予定です
リアルの都合次第ですが1週間以内には終わらせる予定です
ではまた
騎士団がベルガモットバレーで暴れている害虫の討伐依頼を受け、山深い峡谷に来たのは数日前。
そしてツバキが不覚を取って谷底に落ちたのは3日前だった。
花騎士であるツバキはウィンターローズの世界花の加護を受けており、常人よりも傷の治りが早い。
なので、タケに甲斐甲斐しく看病された結果、なんとか鎧を纏って出歩けるまでに回復していた。
ツバキが庵の外に出ると、タケはツバキが落ちた崖を指差して教えてくれた。
その崖は峻絶を極め、あそこから落ちたのでは普通では助からないと思われ、ツバキは自身の僥倖に感謝すると共に、空恐ろしい空想に襲われた。
あの高さの崖から落ちたのでは、普通では花騎士といえど助からない。
団長達は、ツバキの生存を諦め、自身を既に亡き者として扱ってはいないだろうか……?
ツバキは自身の墓の前で祈る団長を想像せずにはいられなかった。
そしてその傍らには、副団長であるアネモネが立ち、団長を慰めるように肩を抱いて……。
そこまで空想して、ツバキはぶるっと身体を震わせた。
それを見ていたタケが声をかける。
タケ「……ツバキ、仲間と会いたい……?」
ツバキ「……ええ……」
タケ「……あの崖からここに来るには、相当迂回しないと来れない……」
ツバキ「……」
タケ「……でも大丈夫……この間からずっと「フォス」の気配を感じる……」
ツバキ「え? フォ、フォス?」
タケ「……多分フォスの末裔の気配……。
……この辺りを探してるみたいだから、待ってれば必ず会える……」
ツバキ「は、はぁ……」
考えてみれば、この「タケ」という少女も相当怪しい。
このような人里離れた山奥の谷底に庵を構え、生活に不自由している気配もない。
夕食時に、それとなく探りを入れてみると、タケは別段困る風でもなくそのあたりの事について話してくれた。
タケ「……「タケ」の花は「不吉の象徴」だから……。
……できるだけ皆から離れて暮らしてるの……」
ツバキ「そんな……!」
タケ「……食べ物は麓の村の人が運んできてくれるし、私は別に大丈夫だから……」
ツバキ「……」
騎士団の仲間であるカトレアも、団長が連れ出すまではその強大すぎる魔力を恐れる人間達によって屋敷に軟禁されていた。
それと同じ様に、この「タケ」という少女からは、底知れぬ魔力の波動を感じる。
カトレアやアネモネもツバキが努力しても超えられない壁をあっさり超えてしまう実力の持ち主だが、タケはそういう次元に住んでいないとなんとなく感じた。
ふと、タケがスプーンを止めた。
タケ「……また害虫が来た……」
ツバキ「え?」
タケ「……ツバキはそこで待ってて……追い払ってくる……」
タケはそう言い残すと、着物を引きずって夜の闇の中に消えた。
ツバキ「ま、待って……!」
花騎士として、幼い少女を一人で危険な目に会わせる訳にはいかない。
ツバキは慌てて病み上がりの身体に鞭を振るい、タケの後を追った。
今日はここまでー
ツバキがタケを追って森の中に入ると、害虫は既に始末されていた。
そんな事よりも、ツバキの目を引いたのは、森の中に生えている一本の若木である。
その若木からは、莫大な量の魔力の波動が感じられる。
ツバキ「まさか……これは……!」
タケ「……これは……「世界花」の若木……」
若木の傍に立つタケが、自らと同じ背丈ぐらいの若木を撫でた。
ツバキ「やはり……! 何故このような所に世界花が……?」
タケ「……私がここに住むようになってから、私の魔力の影響を受けて世界花が生えた……」
ツバキ「え?」
世界花はその魔力で国家を保護できる程の魔力を持った大樹である。
ツバキにはよく分からないが、世界花が芽からここまでの成長を遂げるまでどれ程の時が必要なのだろうか?
タケ「……この世界花はまだ自分を害虫から守れるほど強くはない……」
ツバキ「それで……それだから貴方はこの地を離れないのですか……?」
タケ「……うん……でも、もうすぐこの子も自分で……」
タケがそこまで言った時、周囲の樹木をなぎ倒して大型害虫が現れた。
ツバキと共に崖底に落ちた、あのイモムシ型害虫である。
大型害虫「グググ……!」
ツバキ「!!」
考えるより速くツバキは害虫に向かって突進して行った。
あれが本当の世界花ならば……いや、それ以前に花騎士として後ろの少女を守らなければならない。
ツバキは自身の両腕を背負い投げをする様に振り上げ、魔力を凝縮して空中から巨大な紅い二つの刃を召喚し、交差する様に振りぬいた。
『二刀流・雲竜双爪』
ツバキの必殺技である。
だが、それでも大型害虫は倒れなかった。
ツバキの必殺技は、本来は多数を相手にする時に有効な技で、一対一では有効打を与える事はできない。
大型害虫は、尻尾を振って、ツバキを薙いだ。
ツバキ「ぐうっ!!」
タケ「ツバキっ!!」
ツバキ「だい……大丈夫……ここで……倒れる訳には……」
タケ「……よくも……ツバキを傷つけたな……!!」
ツバキ「え……?」
タケの周囲に膨大な魔力が集中している。
タケがそれを吸収すると共に、少女だったタケがツバキと同年代にしか見えない妖艶な美女に変化した。
ツバキ「た、タケ……!」
タケ「……お前は……縛られて死ね……!!」
タケが魔力を放射すると、大型害虫の周囲の地面が鳴動し、無数の竹が勢いよく生え、大型害虫の身体に巻き付いて拘束した。
タケ「……滅……!」
同時に、地面から数え切れない程の竹槍が突き出て、害虫の身体を貫いた。
大型害虫「ガ、ガガ……」
ツバキ「や、やった……?」
タケ「……まだ……あと一押し足りない……!」
その時、害虫に向かって見覚えのある光が照射された。
花騎士全てが惹かれる、太陽のような温かく、懐かしい光……。
『ソーラードライブ』
大型害虫はその光に焼かれ、光となって消滅していった……。
ツバキ「団長……団長……!」
団長「ツバキ! 良かった……無事で……」
ツバキは駆け付けた団長の胸の中に飛び込んだ。
事の顛末を団長に話すと、彼はタケに改めて礼を言った。
タケは妖艶な美女の姿から、元の幼女の姿に戻っている。
団長「ツバキから話は聞かせてもらったよ。
仲間の恩人をこのまま山中に一人で置いていくなんて俺には出来ない。
良かったら一緒に来ないか?」
しかし、タケは首を横に振った。
タケ「……あの世界花はまだ自分で自分を守れない……。
……私が守らなきゃいけないの……」
団長「……そうか……いや、しかし……」
すると、タケは小さく微笑んだ。
タケ「……大丈夫……あの子ももうすぐ独り立ちできる……。
……その時は、貴方の騎士団に入れてくれる……?
……優しい、「フォス」の末裔さん……?」
団長「……! ああ! もちろんだ! 歓迎するよ!」
タケ「……ツバキ……」
ツバキ「タケ……」
タケ「……また、会おう……?」
ツバキ「ええ! その時は一緒にカリフラワーソテーを食べましょう!」
二人は再会を誓って固い握手を交わした。
これは永劫の時を過ごしてきた一人の少女の物語
同時に、高潔で美しい花騎士の物語
二人の物語が再び交差するか……
それは世界花にしか分からないのかもしれない……
(終)
終わりです
依頼出してきます
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