【艦これ】元提督が小さな女の子を連れ回すおはなし (72)



まぶたを開いて、かすんだ目に映ったもの。
それは、夜空に伸びる左右の壁と、細長く切り取られた空に浮かぶ朧の月だった。

「……カエレ」

そして、遅れて聞こえた低い声の主は、目を覚ましたばかりのおれに早々の退場を求めた。

まっこと理不尽な話だ。



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不揃いな路地裏の敷石に骨を押されるような、気持ちの悪い感覚を後頭部におぼえた。
身をよじりつつ、おれは上体を起こすために力を入れる。


男「……いつっ……ふェ……ッ」


耐えがたい痛みをもたげ、身体はすぐさま地に伏した。
周囲を漂う、鼻を刺すような酸味がかった匂いに顔をゆがめると、続いて奥歯がガタガタと痛んだ。


男「……思ひ出ひふぁ」


おれはこのように呂律が回らなくなるまで、街中でさんざ殴り蹴られたのだ。
出所も分からない粗製の酒をしこたま飲み、へべれけになったまま店を追い出されたのがマズかったのか。
それとも、泥酔した勢いで“戦時中の栄光”を叫び歩いたことがマズかったのか。

どちらが先に手を出したのかは覚えていない。
しかし何より、こうして痛みに歯を食いしばっているということは、おれはまた野たれ死ねなかったということだ。






「……カエレ」

男「!」


身体がようやく言う事を聞くようになった頃、二言目の声が聞こえた。
ガス灯の瞬きが照らしだす袋小路を振り返ると、そこには薄汚いボロ切れをまとった小さい何者かがうごめいている。


男「あんたふぁ?おれをここまへ運んふぁのは」

「……カエレ」

男「手厳ひいな……」






男「……ま、お望みどほひ家に帰らへへもらうふぁ」

「……」

男「邪魔ひへ悪かっふぁな」


ふらつく身体に鞭打ち、おれの意識は帰路につくことを選んだ。

おそらくコイツは、おれを助けてくれたのだろう。
が、いかんせん気味の悪いヤツだ。

先の戦争から早二年。
深海棲艦による空襲の傷跡が未だ残る各地の街で、このような浮浪者を見ることは珍しくはなかった。


………………
…………
……


少し外します




男「……うっ」

翌朝。
アパートの一室で再び目を覚ましたおれは、今度は全身をめぐる倦怠感と幾度となく催す嘔吐感に苛まれていた。

文字通り、あふれんばかりに込み上げる胃液を吐き出すため、しなびた布団を蹴飛ばして立ち上がり、洗面台に伏す。
出すものを出したところで、ふと鏡を見上げる。
すると、そこには手ひどい乱闘の痕を残し、不精髭をはやした中年男の醜い顔が映し出されていた。

男「ひでぇなこりゃ」

それは殴られた痕のことなのか、それとも自身の人相のことを指していたのか、自分でもよく分からない。






髭は剃らずに口だけをゆすいだおれは、次に外の空気を求めて窓を開けようと思い、散乱する部屋の私物たちをまたぐ。
あやうく畳の上に落ちていた一枚の写真を踏みそうになって、つま先の行先をそっと変えた。

なんだこりゃ。
写っていたのは、整然と並ぶ幾人もの少女たちに囲まれ、純白の二種軍衣に身を包んだかつての自分の姿。

男「こんなもん、まだ持ってたんだな」

虚しい自嘲が、狭いアパートの一室に響き渡った。


……
…………
………………





かつて海を見ていた男は今、海の見えない内陸の街で堕落した日々を送り続けている。
これまで何度も海を忘れたいと思った、過去との決別を図りたかった。その結果がこれだ。

何をするでもなく、恩給を食い潰し、一人で余生を過ごす毎日。
戦争のもたらした“疲弊”に混沌とする日本で、おれのような男は決して珍しくない。



だが、この日はいつもと違った。
外を出たおれは、昨夜の繁華街を唐突に訪れようと思ったのだ。

気にかかったのは、あのときに出会った浮浪者のこと。
昨夜のおれの対応がいささか礼を失したものだったと思い返した時には、もうすでに足が動き出していた。
他にすることもないので、思うがままだ。





男「……よう」

「!?」


人目もまばらな昼間の繁華街。
あのときの小さな浮浪者は、変わらず路地の袋小路でうごめいていた。


「カエレっ」

男「そう、つれないこと言うなよ。ホラ」

「……?」


差し出したのは、板チョコレートだった。
金だけは持っていた故、戦後の著しい物価高騰などどこ吹く風である。






男「見返りだきゃ受け取っとけ。でなきゃ損だぞ」

「??」


ボロ切れをまとった浮浪者は、露骨に反応に困っていた。
どうやら、言っていることの意味が分からんらしい。

……イヤ、もしかすると。


男「お前、コレが何か分からんのか?」

「……」

男「チョコレートだよ、チョコレイト」

「チョコ……レート」


ボロ切れが、縦に動いた。
今どき物を知らない子供がいたとて、何らおかしいことではない。
おそらくこいつは、救貧院にすら行けなかった戦争孤児なのだろうから。


……
…………
………………





それからおれはあくる日も、あくる日も。
路地裏の小さな浮浪者のもとを訪れては、何かしらの食い物を置いて帰ってやった。


「モグモグっ」

男「うはは、良い食いっぷりだな」


多少の恩を感じていたことは、僅かながらに認める。
だが、ここを繰り返し訪れたのは、けしておれの善意などではないと割り切ることにした。
他に使い道のない金を使って、おれはある好奇心を満たしたいと思っていたのだ。

“こいつのボロ切れの下の素顔を見てやりたい”

無性にそう思った、ただそれだけ。
長く続いた自堕落な生活は、こんな何でもない行為にすら例えようのない色を与えていた。






「モグモグ」

男「……」


浮浪者は、夢中でシベリヤを頬張っている。

やるなら今か。
そう思い、おれはおもむろにヤツのボロ切れをめくり上げてやった。


男「しつれい」

「ッ!!」


警戒を解きつつあった浮浪者は、驚きに身を大きく震わせた。





「ア……ア……ッ!」

男「……まじかよ」


驚れーたのは、おれも同じだった。

ボロ切れの下から現れたのは、白い髪に黒い二対の角。
傷と痣だらけの痛々しい肌を覗かせる、くすんだ白のワンピースはあちこちが無残に切り刻まれていて。
その小さな右手首には、千切れた鎖のついた仰々しい海軍の拘束具がはめられている。

そして、おれを睨む朱い大きな瞳は潤いとともに震え。
やがてそいつは急いでボロ切れを身に纏い、おれを突き飛ばして表の通りを走って逃げて行った。


間違いねぇ。アイツは、深海棲艦だ。
それも、戦時には“姫”と仮称されていた希少個体の一種だった。






男「……」


戦争の終わった今の日本に、海へ閉じ込めたはずの深海棲艦がなぜ。
敷石で腰を抜かし、いくら思案しようが答えは出なかった。

このときのおれは、自身がとった浅はかな行動を遅かれながらも悔いていた。
それは、深海棲艦を人通りの多い街中に放ってしまったことについて。

そして、意図はわからずとも自身を助けてくれた、小さな少女に対する裏切りの行為について。


……
…………
………………


ここらで寝させていただきます。
本作はこのように、書ける時間を見つけてその都度書いていきますので、更新は不定期です。
話自体は若干長くなりますが、お付き合いいただけると沢井です。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。




男「……間違いない」

アパートに戻り、おれはヤツに関する記憶の糸を辿った。
心当たりは数あれど、おれが今身を寄せている現在地の地理と、戦時中の作戦や事件に関する情報を照らし合わせた結果。
やがてそれは、ある事項に行きつく。


“AL作戦および、陸上型指揮個体鹵獲の成功”


同時展開されたMI作戦の指揮に当たっていたおれが、すぐに思い出せないのも無理はなかった。






当時鹵獲された個体(事実上の捕虜)は横須賀鎮守府管轄の大船収容所に収監された後、
今度は陸軍による尋問のため、内陸山中にある憲兵支隊の捕虜収容所に送られたと聞いていた。

たしか、こちらでは“北方棲姫”と呼称されていたな。

だが、此度の戦争終結に伴って、捕らえられていた深海棲艦はすべて海へと還されたと報じられていたはず。
少なくとも、終結の一年も前に軍から身を引いた、おれの中の認識はそうだ。

実にキナくせぇ話になってきた。






さて。思い出したいだけ、思い出したはいい。
肝心なのは、こんなものを思い出したところで、これからおれはどうしたいのかだ。

自分のとったしょうもない行動は、我々人間側にとっても、そしてあいつにとっても良くない状況を生み出してしまった。

おれの戦争は“三年前”に終えたつもりだった。
だが過去を捨て、自由気ままに生きてきたおれは、今後も然るべき自由を謳歌するつもりでもある。



「どうすっかね…………ん?」

そんな、過去と現状のせめぎ合いに頭を抱えるおれの目に不意に飛び込んだのは、あの一枚の写真だった。



「うははッ、面倒なこったな」

ぼやいた一言は、まるで他人事のようだった。


……
…………
………………





「おーおー、結構いるじゃねぇか」

もぬけの殻だった裏路地より、夜の表通りを望む。

あの時は気にも留めなかったが、街中には私服を纏った数名の憲兵が徘徊していた。
上着の内ポケットの不自然な膨らみや、各々の顔つきを見れば分かる。

新聞の朝刊やラジオでは「深海棲艦」が逃げ出しただとか、そういった報道は一切されていない。
さてはこいつら、すべてを内々で処理するつもりだな。
キナくせぇ予感はしっかりと当たっていた。

こりゃ、アパートの大家に今月の家賃と違約金を先払いしておいて正解だったナ。



「手前らなんぞに、おれの戦争の邪魔をされてたまるか」

そう吐き捨て、おれはたった一つのバッグを手に夜の街を駆けた。



先のレス、

男「」

になっていませんでした。申し訳ありません。




男「……よう」

「ッ!」


いつぞやと同じように。
おれは、別の路地裏に身を隠していたボロ切れに声をかける。


「~っ!」

男「おっと、待てやい」


おれの姿を見るや否や、咄嗟に逃げ出そうとした北方棲姫を今度は捕まえ、自身の右肩へと抱え上げた。


「ハナセッ、ハナセッ!」

男「そう暴れんな、今出て行かれちゃ困るんだ」

「ムググ!?」






こいつの口を塞ぎつつ、おれは寂れたコンクリートビルの陰より外の様子を伺った。
先ほどから目に付けていた憲兵は、この付近を離れて一人北上してゆく。

行ったか。


男「あいつら、お前を捜してんだよ」

「……ッ」

男「……いいか、よく聞け」



男「おれは今から、お前を海に還す」

「!!」






男「お前に拒否権はねぇ。ここにいちゃいけないんだからな」

「ムグ……」

男「安心しろ、もう檻の中に閉じ込めたりはしない」

男「昨日のことはあとで謝る。だから、今だけはおとなしくしていろ」

「……」


頭が、縦に動いた。


男「よし、良い子だ」


静かになった北方棲姫をゆっくりと地面に降ろし、ボロ切れから露出した頭を撫でる。



全てを、あるべき姿に戻す。

おれの戦争が、再び幕をあけた瞬間だった。


……
…………
………………


一旦ここまでです。

続きは、今日の昼前ぐらいから書きます




男「ひーふーみー……成程、こいつぁ厄介だな」

あれから数刻の時が経ち、おれと北方棲姫は街の外れまでやってきた。
そこは、場末の空気を醸していたビルの類が鳴りをひそめ、奥には深い山道と小さな公道を望む場所だった。

だが、その手前では軍服を身に包んだ数名の陸軍兵士が、6輪自動貨車と鉄条網で簡易なバリケード、そして検問を形成してやがる。
通行人の会話によると、どうやら反軍拡運動家の取り締まりという名目を取り付けているらしい。
この警戒網は街の周囲の至る所に及んでいるというが……。


男「お前が街を出られなかった原因は、これか」

「……」


深海棲艦一人に、ここまでするのか。
いや、ここまでしなくちゃならねぇのだろう。ご苦労なこった。






「……」


こいつはさっきから、ずっと口を閉ざしている。
こんな警戒網が作られているのなら、先に教えてくれりゃいいものを。


男「……へっ」


まぁ、よくよく考えりゃ当然か。
先の悪戯以前に人間である以上、おれのことも信用ならねぇだろうしな。

仕方のないこととはいえ、このままでは万一の際に意思の疎通が出来そうにない。
少しは改善しとかねばいけんだろうが、さて一体……。






男「やい、ほっぽ」

「……ほ?」

男「お前のことだ。北方棲姫じゃ読みにくいだろ」

ほっぽ「……」


我ながら、間の抜けた語感である。
が、当の本人はまんざらでもないらしい。
少しの間「ほっぽ」「ほっぽ」と自分で口ずさみ、時たま頬を緩めるようすが伺えた。


男「……それでだ、ほっぽ。俺は少し、行き先を変えることにした」

ほっぽ「エッ……」

男「安心しろ、海には必ず帰す。だが、今の街がこの様子では、おそらくは近場の海岸も……」

ほっぽ「……」






連中も、こいつが海からやってきた存在である以上。
収容所を逃げ出したとて、その行先にはいくらでもアタリが付くだろう。

いくらなんでも海岸線すべてにバリケードが張られているわけではないだろうが、
何らかの理由で公にできない存在を捕まえるのだ。
それに近しい警戒を行っている可能性は十分にある。

海に還すなら、ここから大きく離れた場所まで移動する方が賢明だろう。
そうなると、今はこの街を如何にして抜け出すかが問題となる。


男「……そうだな、アレを利用するか」

ほっぽ「?」

男「聞け、おれたちは今から……」



「おい、貴様たち!」






男「ッ!」

ほっぽ「ヒィ……ッ!」

憲兵「そこで何をしている?事情を聞かせてもらおうか」


しまった……こいつは、街を巡回していた私服の憲兵の一人か。
おれは咄嗟に、奴を背にしているほっぽの方を見た。

ほっぽのボロ切れは、顔と頭を隠すように深くかぶられている。
よし、これなら姿までは見られちゃいない。

問題は……。


憲兵「……怪しいな、貴様」

男「へへっ、そりゃねぇですぜ旦那」






男「いやなに、今宵は天気がよろしいもので……へへっ」

憲兵「……」



前のあいたブラウンのコートに、白のシャツ。
上着と揃えた色のスラックスに、艶のある真新しい革靴。



男「可愛い甥に、夜空のスバルを見せてやりとうございましてね」

憲兵「……」



懐には手。
不自然な、固い膨らみはひとつ。






男「如何です旦那。ここはひとつ、ともに幾千万の星空でも……」

憲兵「あ?」



指先を空へ。

憲兵の、顎が浮いた。



すこしご飯たべます




男「ゥラッ!」

憲兵「ンッ!?」


おれは上体を捻って足の弧を描くように、打点の高い後ろ回し蹴りをはなった。
加速の乗った踵が憲兵の側頭部に入って、その身体が1mほど宙を舞う。


憲兵「んがっ!」


成すすべなく敷石の上に身を横だえた憲兵のそばには、拳銃が転がり落ちた。
そのまま憲兵の体に跨り、おれは脱いだ上着を使って奴の首を思い切り絞め上げる。


憲兵「グッ……フグゥ……ッ」

男「ほっぽ、拾えッ!」

ほっぽ「ッ!」


怯えていたほっぽは、戸惑いながらも覚束ない手で拳銃を拾った。
そして、震える目のままおれの指示を待っていた。






憲兵「……ぅ……」


気道が絞まり、気を失った憲兵を引きずっては急いで路地裏の陰に隠した。

こいつの胸ポケットに入っていた弾のストックをありったけバッグに詰め、
倒れて動かない憲兵の足を恐る恐るつついていたほっぽに、拳銃を渡すように促す。

おれはこいつに顔を見られている。ここも長居は出来ない。


男「急げ、こっちだ」

ほっぽ「……」


縦に振られる首。
小さなボロ切れの少女を伴い、おれたちは再び闇夜を渡る。


……
…………
………………





憲兵や陸軍の目を掻い潜り、やがておれたちが辿り着いた場所。
それは、旧式のディーゼル機関車が幾重にも佇む貨物鉄道の車両基地だった。

旧式が故、基地を囲うフェンスに電流は流れておらず、簡易な有刺鉄線は所々が劣化に伴い千切れていた。
おれはそのままほっぽを背中におぶって、錆びついたフェンスをよじ登る。

基地内に降り立つと、その何処かしらから機関車のエンジン音がガラガラと響き渡っていた。
軽油と鉄の匂いが染みわたる独特の空気に、ボロ切れのめくれたほっぽの顔が、若干いかめしいものとなった。


男「ま、我慢してくれや」

ほっぽ「……」






男「……ン、これがいいな」


指を指したのは、軌道上に何重にも連なったコンテナのうちの一つ。
音を可能な限り殺しながら、おれは引き戸式の扉をゆっくりと開けた。


男「よし、乗るぞ」

ほっぽ「……」


明かり一つないコンテナの中は、林檎のはじける香りで一杯だった。
おそらくは、積み荷の香りだろう。

これなら多少の“長旅”となっても、最悪の事態は避けられそうだ。



一旦ここまでです

よんでくださった方、ありがとうございます



………………
…………
……


あれから程なくして、積み荷を満載した貨物列車はその長体を轟かせた。

ガチャコン ガチャコン

背中越しに響く音と衝撃は、連結器の遊びがカーブのたびに軋み合って発生するものだ。
そんなコンテナの揺れに合わせ、疲労に満ちたおれたちの身体と積み荷の山もゆらゆら揺れる。


男「なんとか、だな……」

ほっぽ「……」


発車から数刻の時が経った。
おそらく、おれたちは街を抜け出すことができたのだと思う。

身を潜めたコンテナには細長い線状の換気窓が数本付いていて、そこからは外の様子が伺えるようになっている。
とは言っても、今はまだ夜中だ。深い森の中を往くレールの周囲など何も見えやしない。





男「……うははっ、これでもう後戻りはできねぇな」

ほっぽ「……」

男「憲兵隊のヤローに“良いもん”食らわせちまった。これでおれも、立派な国逆者だぜ」


それはけっして、自嘲ではない。
むしろ、心につっかえていた何かがコロリと落ちるような、そんな気持ちから来る笑いだった。


ほっぽ「……ナンデ」

男「……あ?」


そんなとき、これまでほとんど言葉を発しなかったほっぽが、ここに来てついに口を開いた。






ほっぽ「ナンデ……助ケタノ……」

男「……勘違いすんな、おれはお前を助けたわけじゃねぇ」

ほっぽ「……ジャア……ナンデ……」

男「おれとお前らの戦争は、まだ終わっちゃいなかったってことよ」

ほっぽ「……」

男「……」


ほっぽ「?」

ほっぽは、首をかしげている。

男「だろうなぁ」






ほっぽ「戦争……マケタ。モウ……オワッタ……」

男「あぁ、そうだ。他の連中にとっては、な」

男「だが、おれの中では違う」

ほっぽ「……チガウノ?」

男「あぁ、違う」


男「察しはついてるだろーが……確かにおれもかつては、お前らと人類間での戦争に加担する軍人の一人だった」

ほっぽ「……」

男「イヤ……本当は、今も心だけはあの時のまま。まだお前らに“勝った”なんて思っちゃいねーんだ」

男「お前が今、こうして目の前にいるうちはな」






ほっぽ「……ジャア……殺スノ?」

男「だから殺さねぇって言ってんだろ」

男「戦争ってのは、何も殺し合うことが目的じゃねぇんだ」

ほっぽ「……」

男「高等な政治手段ってやつだよ、せーじ」



男「とにかく、これ以上は教えてやんねーよーだ。お前は黙って海に還ればそれでいい」

男「それさえできれば、おれと“あいつら”にとっての戦争は無事に終結。チャンチャンだ」

ほっぽ「…………ワル」

男「ん?」






ほっぽ「……イジワル」

男「あぁ?」


ほっぽは頬を膨らませ、言葉を次々と紡ぎ出した。


ほっぽ「イジワル」

男「あぁーきこえねーな」

ほっぽ「アホ」

男「……うはは」

ほっぽ「バカ、マヌケ、イカレ」

男「うはは、うははははっ、ちげぇねえ!」


なんだ。

深海棲艦らしく、ちっとは怒れるようになったじゃねーか。






ほっぽ「性格ワルイ、オタンコナス、ブサイク」

男「うははは……おい、最後だけ取り消せおい」


そんな、こいつなりの罵倒が一通り済んだ後。
ほっぽは寝息をかいて、その場で寝ちまった。

その眠りはとても深い。
おそらくはこれまで、碌に眠ることもできなかったのだろう。


こんな子供を相手に、カードは切るつもりはねぇ。
何も教えずただ無事に海へと還してやる、すべてが無に還る、それだけだ。

それさえできれば、おれと“あいつ”と“あいつら”の戦いは無駄じゃなかったって。
そう思える日がやってきてくれるんだからな。


……
…………
………………


一旦ここまで

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