【デレミリ】アイマス昔話『もももも太郎』 (44)
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
莉緒「これこれおばあさんや、朝ご飯はまだかいのう」
あずき「待って待って。本当にむかしの話だから、おじいさんやおばあさんって言ってもそこまで年とってないんじゃないかって思うよ」
莉緒「あらそう? とにかく、私はしばかりに行くわけだけど……芝なんて刈ってどうするのかしら」
あずき「違うよ違うよ。この場合の『しば』は、森林に落ちている材木とかなんかを指す柴のことを言うんだって」
莉緒「へえ~。むかし話って奥が深いのねぇ」
あずき「そんなことより、お話を進めないと!」
というわけでおじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出かけました。
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さて、おばあさんが川で洗濯をしていると川上から大きな桃が、どんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れてくるではありませんか。
あずき「あらまあ、なんて大きな桃でしょう。持って帰ったら、きっとおじいさんも喜ぶわ」
あずき「……って、思ってたよりだいぶ大きいんだけど……。これ、あずきだけで持って帰れるかなぁ」
どうにかして岸へ寄せ上げたものの、桃はたいへん大きく持ち帰るのにもひと苦労です。
あずき「ふう、疲れたぁ。子供が入っていてもおかしくないくらいに大きな桃なんて、とても家まで持ったまま歩けそうにないや」
あずき「……まあいっか。食べるときには皮をむくんだし、家まで転がしてっちゃおっと」
そうして、おばあさんは大きな桃を家へ持って帰ったのでした。
さて、おじいさんが家へ帰った頃には日もとっぷりと暮れて、夕ご飯の時間になりました。
夫婦でなかよく食べ終わりますと、おじいさんは、おばあさんの持ってきた桃を指さして言いました。
莉緒「いつのまにか、そこに桃があるけど……ずいぶん汚いわね。形もあちこちでこぼこしてるし……」
あずき「いい女は細かいことを気にしないんだよ! さあおじいさん、一緒に食べましょう!」
莉緒「……そうね。いただきましょう、おばあさん」
あずき「そうしましょう、おじいさん」
おじいさんとおばあさんは、みずみずしい桃のおいしさに喜びながらひとくち、ふたくちと夢中になって食べていき……。
莉緒「あー、おいしかったわ。もったいないけど、余った分は捨てるしかないわね」
あずき「本当に大きかったもんね。ひとまずごちそうさまでした、と」
二人とも、すっかりお腹いっぱいになりました。
時間が過ぎ、夜になって、床に就こうという時間でありました。
おじいさんが、隣のおばあさんにおやすみと声をかけて寝入ろうとすると、おもむろにおばあさんが身を動かしました。
あずき「ねえ、おじいさん。……あずき、なんだか体が熱くて……」
莉緒「えっ!? ちょ、ちょっ。今の言葉、未成年の演者がこの状況で口にするには不適切なんじゃないかしら?」
あずき「そういう台本でしょ? ほら、不思議な桃を食べて若返った二人が子供をさずかるって……」
莉緒「やーその、分かってはいたけど、いざ本番となると心の準備が……」
あずき「それよりほら、つづきつづき! こういうセクシーなシーンは見せ場なんだから!」
莉緒「うう~。そういうのは私の得意分野なのに……」
あずき「……おじいさん。そちらへ寄ってもいいですか……?」
莉緒「……もう。優しく、してね」
あずき「……はい♪」
こうして、愛をはぐくんだ二人は一年のうちに玉のような子供を二人もさずかりました。
莉緒「ずいぶんはりきったのね」
あずき「おばあさんは大変だっただろうねぇ」
産まれた子は、二人とも愛らしい女の子でした。
おじいさんとおばあさんは、先に産まれた方を桃華、後に産まれた方を桃子と名付けて大層かわいがりながら育てていきました。
のどかな村に産まれ、両親に愛されて育った桃華と桃子。村の子供たちとも仲が良く、みんなで楽しく暮らしておりましたが、彼女たちにはどうにも気がかりなことがありました。
桃華「……あの。最近、星梨花さんを見ないのですけれど、どこかへ遊びに行ってますの?」
千早「星梨花はこの間奉公へ出かけたわ。向こうで一人前になって帰ってくると思うから、それまで待ってあげてね」
桃華「そうですの。失礼いたしました」
桃子「ねえ、美嘉お姉ちゃん。ここのところ、莉嘉のことを全然見ないんだけどなにか知らない?」
美嘉「ごめんねー。莉嘉、今はちょっと用事があって親戚の家に行ってるんだ。代わりにアタシとあそぼっか?」
桃子「ええー?」
こんなふうに、桃華たちの住む村から、年少の子供たちが少しずついなくなっていたのです。
はじめは大人たちの言うように、奉公や用事のために自分たちの遊び相手がいなくなったのだと納得できました。
しかし、ある出来事をさかいに、二人は子供がいなくなることへの疑いを強くすることになります。
それは、風の強いある夜のことでした。
桃華「……ねえ桃子さん。なにか泣き声のような声が聞こえますけれど、なんなのでしょう?」
桃子「なにって、赤ん坊の……。……ううん違う、この声……!」
『あーん! おねーさん、仁奈をどこへ連れていくつもりですかー!』
『よしよし、いい子ですから静かにしましょうね~』
『やでごぜーます! パパー、ママー、助けてくだせー!』
『ほらほら、泣きやまない悪い子は袋に詰めて持ち帰ってしまいますよ~』
『パパ、ママ、どうして助けてくれやがらねーのですか!? だれかー! あーん! あーん……!』
桃子「に、仁奈ちゃん!? ……声が、聞こえなくなっちゃった」
桃華「お、おちつきなさい桃子さん。い、今は騒がず明るくなるまで待つのが賢明ですの……」
その夜、二人は震える手を握り合ったまま朝まで眠ることができませんでした。
それから数日後。桃華と桃子は、あの夜に聞いた声について話し合いました。
桃子「……あの後、仁奈ちゃんと会った子は桃子たちも含めて誰もいない……よね」
桃華「あれは人さらいか何かでしょう。もしかすると、仁奈さんは悪い大人にどこかへ連れていかれてしまったのかもしれませんわ」
桃子「それでも、村の大人たちはいつもどおりだったから。……ひょっとすると、この村に何かあるのかも」
桃華「なにか、とはなんですの」
桃子「……み、みんなのお父さんや、お母さんが、子供たちを売っ」
桃華「そこから先はおよしなさい。……とにかく、お父様とお母様に問いただしてみなければいけませんわ」
桃子「そうだよね。悪いことが起きているなら、桃子たちがなんとかしなきゃ」
桃華「ですわ」
あくる日、二人はおじいさんとおばあさんに例の叫び声のことを訊ねました。
おじいさんとおばあさんは何やら話しづらそうにしていましたが、二人の真剣な表情に押され、ついにある言葉を口にするのでした。
桃華「鬼が島……?」
莉緒「ええ。南の海岸から、風に乗って三里も行ったところにある島よ。あなたたちも遠目に見たことくらいはあるはずよ」
桃子「そこに、子供たちをさらう悪い鬼がいるんだね」
あずき「……そうだよ。でも、鬼たちもそこまで悪い人たちじゃないんだし……桃華ちゃんたちが気にすることないよ」
桃華「お母様、なんてことをおっしゃいますの。いたいけな村の子供たちを夜中に無理やりさらっていく者たちが善人だなんて、ありえませんわ!」
桃子「そうだよ!」
二人は、おじいさんやおばあさんが今まで見たこともないくらいの剣幕で言いました。桃華も桃子も、鬼たちの悪行にそれほど怒っていたのです。
莉緒「でもどうするの? まだまだ子供なあなたたちが鬼に逆らっても、きっと何もできないわ」
桃華「できるかどうかではありませんの。鬼にさらわれた友達が泣いていたのに、桃華たちが何もせずにいるだなんて耐えられませんわ!」
桃子「だからお父さん、お母さん、お願いだから桃子たちを鬼退治に行かせてください!」
桃華「行かせてくださいまし!」
莉緒「……桃華ちゃん」
あずき「桃子ちゃん……」
しばしの間、四人は見つめあい。
やがて、おじいさんが口を開きました。
莉緒「……行かせてあげましょう、おばあさん。それが、この子たちにとっても悔いの残らない道だと思うわ」
あずき「そんな! 鬼が島になんて行かなくても……あずきたちが、もっともっと色んなことを教えてあげなきゃいけない年頃なのに!」
おばあさんは涙を流しながら叫びます。子を想う気持ちは桃華や桃子にも痛いほど伝わってきますが、二人の決意はゆらぎません。
しばらくしておばあさんが落ち着くと、かたわらにいたおじいさんがその涙をぬぐい、桃華たちへ言いました。
莉緒「二人とも、わかってるわね? ……言い出したからには、必ず元気なままで帰ってこないと許さないわよ」
あずき「ぅぅっ。あずきたち、ずっと二人のことを忘れないからね」
桃華「お父様、お母様。わたくしたち、きっと鬼を成敗して無事に帰ってきますわ」
桃子「そうだよ。二人に育てられた桃子たちが悪者に負けるなんて、ありえないんだからさ」
あずき「……ぅぅっ。桃華ちゃん、桃子ちゃん……!」
かくして、桃華と桃子は『桃太郎』を名乗り、鬼退治の旅へ出かけることになったのです。
莉緒「女の子なのを気にしちゃ駄目よ。こういうときは強そうな名で名乗りを上げるのが肝心なんだからね」
あずき「珠美ちゃんに話は通しておいたから。短い時間でも、しっかり稽古してから旅に出るんだよ」
莉緒「それから、響ちゃんに動物との話し方を教わっておきなさいよ。色々役に立つかもしれないし」
あずき「はい、美奈子ちゃんお手製のきびだんご! あずきやおじいさんが作った分も入れておいたから、いざというとき力が出せるようにちゃんと食べるんだよ」
莉緒「刀は今の二人には危ないし、稽古が最後まですんだら珠美ちゃんから木刀をもらいなさい」
あずき「それと、それと……」
おじいさんとおばあさんの細やかな気配りに、桃太郎たちは感謝の気持ちと鬼退治への決意を強くするのでした。
二人が鬼退治を決意し、もろもろの準備などで幾日かが過ぎたあと。
旅立ちの日がやってきました。
桃華「お父様。お母様。無事に帰ってきますから、どうか安心していてくださいね」
桃子「二人とも元気でね。桃子たちがいないからって、なまけちゃ駄目だよ」
莉緒「私たちのことは心配しないで大丈夫よ。あなたたちこそ、何があっても、二人で離れずお互いに助け合うのよ」
あずき「……ぐすっ。やっぱり、あずきも一緒に……」
莉緒「駄目よ、おばあさん。二人の意気を汲んであげないと」
桃子「そうそう。それに、桃子たちが帰って来たときに二人がいないと困るでしょ?」
桃華「桃子さんの言う通りですわ」
なごり惜しさが尽きることはありませんでしたが、ついに桃太郎二人は両親に向き直って言いました。
桃華「それでは、お父様、お母様。わたくしたち、そろそろ前へ進まなければいけないと思いますの」
桃子「お父さん、お母さん、改めて……」
桃華「行ってまいります!」
桃子「行ってきます!」
こうして、二人の桃太郎は足を並べて鬼が島へ向かいました。
鬼が島へ行くため、桃太郎たちは海岸への道をまっすぐに歩いていきます。
なんやかやと話し合いながら道を行く二人の前に、声をかけてくる者がおりました。
環「おーい、そこのにんげんっ。たまきたち、お腹が減ってるからなにかおくれよう」
声のした方向へ目をやると、いかにも元気そうな犬が、片目を隠したもう一匹の犬と一緒に道ばたで座っておりました。
美玲「犬じゃないッ! ウチらは誇り高い狼だ!」
一方の犬がこだわりましたが、桃太郎にとっては狼も犬も大した違いはありませんので犬という呼称で統一していくことにしました。
さて、声をかけられた桃太郎たちは、腰元のきんちゃく袋からきび団子を取り出して犬たちへ近づいていきました。
美玲「ウ、ウチはいらないからな! 人間の施しなんて……」
桃子「そんなに難しく考えなくていいよ。きび団子ならいっぱいあるし、分けてあげる」
環「え、いいの? くふふっ。たまきうれしいぞ~!」
桃子「桃華さんもいいでしょ?」
桃華「袖振り合うも多生の縁ですわ。それに、困っている相手は動物といえども助けてさしあげるのが義理というものです」
環「じゃあじゃあ、お返しにたまきたちも二人を助けてあげる! なにか、してほしいこととかある?」
桃子「うーん、鬼退治を手伝ってくれたらうれしいかなぁ」
美玲「こ、こらー! ウチをハブいて話を進めるなぁ!」
こうして、犬が桃太郎たちの家来になりました。
環「むぐむぐ。このお団子、おっきくておいしいね」
美玲「ていうか、デカすぎないか……。誰がこんなモン作ったんだ?」
きびだんごをほおばりながら歩く犬たちを従えて道を急ぎますと、またもや桃太郎たちに声をかける者がおりました。
真美「そこの小さなお侍さんたち、ちょいと待った!」
巴「なにやら剣呑な雰囲気じゃが、どこに行くつもりじゃ。よければちぃと聞かせてくれんかのう」
環「なんだ、サルじゃん。ほっとこほっとこ」
美玲「ウチらが相手する必要ないよ。早く行こう、桃太郎」
巴「なんじゃと?」
真美「ぬぁんですとぉ?」
一触即発、喧嘩を始めかけた犬たちをなだめて、桃太郎は猿の質問に答えました。
巴「……ふむ、鬼が島か」
真美「そういえば聞いたことがあるよ。このあたりの海に浮かぶ小島に、人や動物たちをさらっていくわる~い奴らがいるって……」
巴「とすると真美、生き別れたお前の妹も……」
真美「そうだよ! きっと、鬼たちにサル回しとかをやらされてるんだよぅ!」
巴「というわけじゃ、桃太郎。うちらに、お前たちの旅のお供をさせてくれ!」
真美「真美の真実の力を役立たせるときが来たっしょ~」
桃子「……とりあえず、家来になってもらう代わりにきび団子あげるね」
桃華「ただ手伝ってもらうだけというのも、気が引けますからね」
真美「おぉっ。チミたち、気が利いてますなぁ……って団子でっか!」
巴「むう。これが鬼が島へカチこむのに必要な覚悟の大きさということかのう」
こうして、猿が一行の旅に加わることになりました。
二人と四匹で、海岸への道を往く桃太郎一行。景色もひらけて、海も間近に見えてきたところ、頭の上から突然声が降ってきました。
晴「よお! 変わった形の蹴鞠持ってるけど、どこで手に入れたのさ」
桃華「鞠ではありませんわ。これは、村の大人がわたくしたちの無事を祈ってこねてくださったきび団子ですのよ」
エミリー「Wow! 鬼退治に行くということは、貴方がたは仮装ではなく本物の……はっ。私としたことが、はしたない言葉づかいを」
晴「なんだか面白いやつらだなぁ。……よし、その団子をオレたちにもくれるんなら、鬼退治についていってもいいぜ?」
桃子「桃子たちには、願ってもない申し出だけど。そっちのあなたも、そういうことでいいの?」
エミリー「はい、ぜひとも! 小さなもののふたる貴方たちの旅路、私に見届けさせてください!」
こうして、雉が新たに桃太郎の家来になるのでした。
かくして、犬、猿、雉を引き連れて二人の桃太郎は鬼が島へ向かいます。
手に持つ地図と目の前の景色とを何度も何度も見合わせながら歩き続けて、ついに、鬼が島を遠目に見やる海岸までたどりつきました。
遠い水面の先に浮かぶ鬼が島を目にして、一行はみな鬼退治への決意を新たにします。しかし、ここにきてある問題が浮かびあがってくるのでした。
桃華「困りましたわね。橋もなければ、泳いで渡れる距離でもないというのに舟が手配できないだなんて」
桃子「仲間の数が倍になった分だけ、移動が難しくなっちゃったね」
巴「のう。お前たち、翼があるんじゃから舟に乗らずに島へ飛んでいけばええと思うんじゃが」
晴「なっ……。こ、ここまで来てオレたちだけ勝手に行けって言うのかよ!」
エミリー「そ、それに今はお腹の中のお団子がおもたくて……けぷっ」
環「たまきは、泳いでいってもいいよ」
真美「いやいや、流石に無理っしょ。こーんなに遠くにあるんだよ。こ~~~んなに」
美玲「いっそのこと二手に分かれた方が……」
ああだ、こうだと話し合うものの妙案は浮かびません。
そうこうしているうちに日も暮れかけて、舟の問題を明日に持ち越すかという流れになった、そのときでした。
イヴ「そこのご一行~。向こうの島へ渡る舟をお探しですか~?」
桃太郎たちの前に現れたのは、おうようとした口調でしゃべる女性でした。
その女性は、雪のように白く長い髪を海風にたなびかせ、尋常でない雰囲気をまとっておりました。
イヴ「なるほど~。確かに、それだけの大人数を乗せていくのはふつうの舟では難しいですねぇ」
桃華「でしょう? 舟を分けて渡るのも色々心配ですし、困っていましたの」
イヴ「でしたら私の舟をご利用ください~。たくさんの荷物を載せていくのにも慣れていますし、乗り心地もいいですよ~」
桃華「あら、ありがとうございます。そんなに立派な舟とは楽しみですね」
桃子「渡し賃が心配だけどね。ま、一目見るくらいならいっか」
不思議な女性についていった一行が目にしたのは、今まで見たこともない奇妙な舟と、それを引っ張るであろう牛とも鹿ともつかない奇妙な動物でした。
晴「正直予感はしてたけど、舟じゃなくてソリだろこれ」
イヴ「しっ。世界観を大事にしてください!」
真美「わぁ、本物のトナカイだ! いつぞやのクリスマスイベントでコスプレしたのを思い出しますなぁ」
巴「よさんか真美。猿がこんな動物知ってたらおかしいじゃろう」
ブリッツェン「……ブモッ」
イヴ「とにかく、この大きさならみなさん一緒に運べますし、鬼が島までひとっとびです」
桃華「それはいいのですが、本当にソ……舟を曳くのがこの子だけで平気ですの?」
イヴ「もぉっとたくさんの物を運ぶのだって慣れっこですし、大丈夫ですよ。ねっ♪」
ブリッツェン「ブモッ」
環「ねえねえ桃太郎、お金はだいじょうぶ? たまきたちを一度に運ぶのなんて大変だろうしさ」
イヴ「ご心配なく~。私たちには普段の渡し仕事と変わりませんし、お代も据え置きでかまいませんよ~」
エミリー「まあ、たのもしい方々ですね。よろしくお願いいたします」
イヴ「よろしくお願いされました~」
ブリッツェン「ブモッ!」
そういうわけで、桃太郎たちはこの女性に渡し舟をまかせ、近くの宿で一夜を過ごしたのちに鬼が島へ向かうことになりました。
しかし、難航していた舟の問題が一息に解決した喜びのせいでしょうか。
一行が危険な鬼が島へ赴こうというのに、女性が心配するそぶりも見せなかったことへ疑問を持つ者は、誰一人としておりませんでした。
その翌日、太陽が強く照りだす頃に、桃太郎たちは女性の導きにしたがって鬼が島へ乗り込みました。
女性とのあいさつもそこそこに、鬼が島の地へ足を踏み出す桃太郎一行。歩を進めていくと、ふいに子供が泣いているかのような甲高い声が耳に届きました。
桃華「……今の声、もしかして島のどこかで子供が……?」
桃子「桃子にも聞こえたよ。早く助けに行きたいけど、ここは鬼のすみかなんだから、慎重にいかないと」
二人と四匹と二羽は、大所帯なりに気配をひそめて鬼が島をさぐることにしました。
昨日、砂浜で見たときは小さく見えた鬼が島も、いざ上陸してみると全容はようとしてつかめません。
人の姿も見えず、目の前に現れるのは野ねずみや海鳥ばかり。時折遠く聞こえる人間らしい声だけが、桃太郎たちの手がかりでした。
さて、声のする方へ少しずつ近づいているのでしょうか。子供のものとおぼしき声も、次第に大きく聞こえてくるようになりまして、桃太郎たちの緊張も高まっていきます。
美玲「おい桃太郎! これ……」
犬の指す方へ目を向けると、そこには確かに、桃太郎たちよりも体格の大きい者の足跡がありました。
晴「これまでは、砂浜も野原もろくに人の手が入ってなさそうな感じだったのに」
真美「この辺から、どうも道ができてるっぽいよ?」
雉や猿の言う通り、一行の前には、人の足で踏み固められたとみられる道がありました。
道は、二手に分かれておりました。
一つは海岸の方へ続く広い道。もう一つは、島の中心部へ伸びているとみられる狭い道でした。
二人の桃太郎は、これを見て言いました。
桃子「みんな、ついてきて。道は二つあるけど、離れることがないように一つだけを行くよ」
桃華「ええ。初めて来た場所で土地勘もありませんのに、別れて行くのは不安ですもの」
互いに顔を見合わせると、桃太郎たちは意を決したように狭い方の道へ歩みはじめました。
海岸へ続く広い道を行かなかったのは、一刻でも早く声のする中心部へ向かおうとしたためです。家来のみんなも、桃太郎たちの心情を察して文句も言わずにつきしたがっていきました。
一行は、狭い道を縦長に列をなして進んでいきます。みんな、いつ鬼たちに見つかるかと思うと気が気ではありません。
ところが、その心配が杞憂に終わったのか、いつしか一行は野原と岩場の間にひらけた広場へたどり着いておりました。
みんなで組んだ列を解き、ほっとひと息ついて緊張の緩んだそのときでした。
「うふふふふ……」
桃子「! 誰!?」
桃華「姿を現しなさい!」
「うふふ。私は最初からここに立っていますよ~」
慌てて声のする方へ向き直ると、そこには女の子が一人だけで立っていました。
朋花「皆さん、はじめまして。私はこの鬼が島の頭領、天空橋朋花と申します」
桃華「頭領……ですの!」
桃子「わざわざそっちから出向いてきたってわけね!」
朋花「まあまあ、そうはやらずに。なにか用向きがあって来たのでしょうし、お望みがあるなら、この場で聞いてさしあげてもよろしいですよ?」
桃華「しれたこと! 村から連れ去った子供たちを……わたくしたちの友達を、みな元の家へ帰しなさい!」
桃子「そうじゃないと、痛い目見るんだからね! こっちには、元のお話から倍に増えた家来たちもいるんだよ!」
環「うぅ~!」 美玲「甘く見るんじゃないッ!」
真美「いつでも準備オーケーっしょ!」 巴「おう!」
晴「いっちょやるか!」 エミリー「が、頑張ります!」
朋花「あらあら。せっかく、かわいい客人たちが来てくれたと思ったのにこれですか……」
朋花「まったく、本当に……本当に……」
桃太郎たちが今にも打ちかかろうと構えていても、鬼の頭領は一向にひるむ様子を見せません。
頭領は、桃太郎や家来たちの表情を視線でなでるように一瞥すると、目を細めて言いました。
朋花「本当に、よかったです。だって……」
朋花「元気のいい子ほど、働き者の子豚ちゃんになってくれますからね」
鬼の頭領がぱちん、と指を鳴らすと広場の周囲を鬼たちが取り囲みました。
朋花「さあ、みなさん仲良く子豚ちゃんにしてさしあげますね~♪」
桃華「ま、負けませんわ! この桃太郎が、悪い鬼たちを成敗します!」
桃子「みんな、いくわよ!」
朋花「ふふ。そうはいっても、四方を鬼の精鋭に囲まれてはどうしようもないのではありませんか~?」
頭領がいう通り、桃太郎たちは周りを屈強な鬼たちに囲まれ、まさに絶体絶命の危機にあるかと思われました。
しかし、すでに覚悟を決めている二人の桃太郎は怯えることもありません。この危機的状況にあっても、小さな頭をせいいっぱい働かせて打開策を考えつきました。
桃華「よろしいですかみなさん。こういうときは、まず囲いを突破するのが第一ですわ!」
桃子「そのとおり! 一番弱そうな箇所を見つけたら、みんなで一気に攻めかかるわよ!」
美玲「そうか! こういう不利な場面だからこそ……」
巴「どこか一か所でも突き崩せば、相手も動揺するということか!」
エミリー「なんという冷静で的確な判断力でしょう!」
桃太郎と家来たちは、周りを囲む鬼たちの目をきっとにらみつけて、打ちかかろうとしました。
真美「で、真美たちはどこを目指してわーっとおそいかかればいいのさ?」
桃華「とにかく、貧弱な鬼が前に立っている箇所へ攻めかかりましょう。……正面は」
朋花「うふふ。さあ、観念なさい」
桃華「あの頭領ですわね!」
桃子「一筋縄では、倒せそうにないかも……!」
桃子「右手の方向は!?」
真「さあこいっ! 手加減しないよ!」
桃華「とっても爽やかな鬼ですわ!」
桃子「むしろ、頭領よりも強そうだよ!」
桃華「左手の方角はどんな鬼が……!?」
真奈美「お手柔らかに頼むよ」
桃華「……これは」
桃子「右手の鬼と甲乙つけがたいね……」
桃子「う、後ろにいる鬼は……」
時子「……ククッ。ああ、どう躾けようかしら……♪」
桃華「……ひっ」
桃子「……ぅぅっ」
桃華「こ、こうなったら……皆さん! 正面の頭領めがけて攻めかかってくださいまし!」
桃子「我らこそは、日本一の桃太郎! 鬼たち、成敗いたすー!」
桃太郎たちは、勇敢に戦いました。
しかし、多勢に無勢という言葉で表現するまでもないほどこてんぱんにやっつけられて、健闘もむなしく鬼たちにとらえられてしまいました。
それから時は流れ、桃太郎たちもすっかり鬼にしつけられた後のこと……。
鬼が島の子供たちを眺めながら、二人の鬼が話しこんでおりました。
朋花「今回はご苦労様でした。急なタイミングだったのに、子豚ちゃんの運搬と情報の提供でお疲れでしたね」
イヴ「どういたしまして~。……それにしても」
紗代子「ほらそこっ! 横着しないでちゃんと根から雑草を取りなさい!」
桃華「こ、こんなこと……はじめてですわ……!」
仁奈「うう~。もう、足腰が立たねーです……」
拓海「おらおらーっ! 気合入れて網張らねえと、お前らの飯もなくなるぞーっ!」
桃子「いっちに、いっちに……。ほらそっちも、もう少しだよ!」
莉嘉「う、うんっ! お魚を捕まえるなんて大変だけど、アタシもがんばらなくちゃ……!」
イヴ「今年もたくさんの子供たちが『いい子』になってくれそうで何よりです~」
朋花「そうですね~。どうか、子豚ちゃんたちの未来に幸多からんことを……」
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
二人の住む村には、ある風習がありました。
それは年頃の子供たちを『鬼』が自分たちの住む島へ連れて行くというものでした。
子供たちは、島での合宿によって農業、漁ろう、裁縫や簡単な算術のように、様々な技能を身に付けていきます。
親元を離れ、仲間たちと励まし合ってそれらの教えを受けた子供たちは、いずれ村へ帰ります。その後は、自分たちの父や母がそうしたように、それぞれの教えを活かして幸せな暮らしを営んでいくことでしょう。
人と鬼。子供と大人。異なるように見える二つのものは、互いに深く関わり合って豊かな社会を形づくっていたのです。
しかし、毎日鬼たちからへとへとになるまでしごかれる桃太郎は、そのことに気がつく余裕もありませんでしたとさ。
めでたし、めでたし。
真「さ、君たちにも仕事してもらうからね。子供の遊び相手をしたり、家畜の見張り番をしたり、鬼が島の犬は忙しいよ」
環「は~い! よくわかんないけど、おいしいご飯がもらえるならたまきがんばるぞ!」
美玲「だからウチらは狼だって……はぁ。しょうがないなぁ……」
真美「亜美~! 無事だったんだね~!」
亜美「真美~! 人生、もといサル生の酸っぱさを味わってきたよ~!」
真奈美「ふむ。まさか、以前子供たちに猿回しを教えるために連れてきた猿と姉妹だったとは……」
巴「って、本当に猿回しやらされとったんかい!」
時子「いい? 貴方たちの役目は、目障りなネズミを中心に害獣を捕まえ続けることよ」
晴「くっ。どうしてオレたちだけこんな……」
時子「あ?」
晴「な、なんでもない! ……です」
エミリー「これも、大和撫子になるための修行と思えば……」
晴「や、それはさすがに無理があるだろ……」
イヴ「……この子たちも、いい子にして頑張ってくれそうですね」
ブリッツェン「ブモッ♪」
前々からのんびり書き進めていたSSでしたが、桃子先輩の誕生日ということで一気に完成させたらおかしな作品になってしまいました。
876や315のアイドルも出したかったですが、分かりやすい桃要素がなかったので諦めました。
鬼が島の子供たちに算数を教える硲先生を書いてみようとも思いましたが、ただでさえ多いキャラがさらに増えて収拾つかなくなりそうなのでやっぱり諦めました。
余談ですが、むか~しイヴが出てくるデレミリごちゃ混ぜSSをエタらせてしまった苦い経験があり、今回はそのリベンジが果たせて本当に嬉しかったです。
読んでくださったみなさま、真にありがとうございました。
終わりだよ~
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