魔王の娘「人間なんて大嫌いだよ」 (102)

男(……)

男「……はぁ」

男「……残金、250ゴールドか、こんなんじゃ豚小屋にも泊まれねぇ」

男(家に帰るにしても博打でスったなんて言えねーし、あー、母ちゃんブチ切れるだろうな)

男「……ん?」

男(……何だありゃ?……あんな所に家なんてあったか?)

男「……」



男「……うおっ……でっけぇ……」

男「……つか、は?有り得ねぇだろ、この広さ」

男「だってさっき庭の入口から歩いて3歩だぞ?何だ?どうなってやがる」

男(……よくよく見ればこの馬鹿でかい屋敷の隣に佇むちっさい小屋)

男「しゃーねえ、ベッドがないのは不満だが今夜はここで一夜明かすか」ガラッ

男「……ひょー、家畜には勿体ないくらい綺麗な建物だなこりゃ」

男「御丁寧に藁まで敷いてやがる」

男「こりゃ明日は勝つね、うん」

「おい」

男「ひょっ!?」

「……何してる」

男(やべぇ、これ完全にサツ呼ばれるパターンの奴じゃん)

男(……ん?でもこの声、女か?)

男(女なら、勢いで押し通せるかも知れん!!!)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477859263

男「私は、警察だ」

男「先程ここに怪しい男が入っていくのを見てな」

男「お嬢さんはここの家の人かい?どうかな?」

男「何か見てぎゃおおおっ!」ズドォン!!

パラパラ

男「……ちょ、おま……」

「汚らしい人間が、三文芝居でどうにかなるとでも思ったか」

男(ば、バレてた……)

「お前、殺すぞ?」

男(つつつつつーか、なんだ今の!?なんで俺吹っ飛んだんだ!?)

男(こんな華奢なガキにぶっ飛ばされるほど俺って弱かったっけ!?)

男(痛すぎて右腕の感覚が……ね……?)

男「……え?」

「……」

男「いっ、ぎぁぁああああああ……!!!!」

「……ふん」

男(感覚じゃねぇ……!これっ……右腕自体が……!)

男「……ぐっ、熱……!いてぇ……!!うああああああ!!!」

「ゴミが、私の屋敷に入るからだ」

「……しかし、何故入れた……?」

「……結界は完璧だったはず……お前、何者だ」

男「……ぐっ、おおおお……!」

「……ちっ」パッ

男「……ぐぅうう……!?」

「騒がしくて話も出来んな」

男(……腕が……生えてっ……!?)

男(つーかマジで意味わかんねぇ……!なんで一般的善良市民の俺がちょっと不法侵入しただけで腕切り飛ばされてんだよ!)

男「あっ、ぐぅうううううう……!!!」

男(生えてくる方がいてえええええ……!!!死ぬ死ぬ死ぬ、マジで死ぬ!!!)

「……」

男(……クソが……!見てんじゃねぇクソガキ!!)


男「ぎっ、ああああああぁ……!」

男「……はぁっ……はぁっ……!」

「やっと、黙ったか」

男「……す、すんません!もう二度と入らないんで!!」

「待て」

男「待ちません!」

「待てと言っている」ギロッ

男「はい」

「……聞きたいことは、山ほどあるんだが……」

「……そうだな、お前、何だ?」

男「基本的一般的善良的な一市民です!」

「……」

男「……」

「……なら、殺すか」

男「嘘です、あなたの下僕になりに来ました!」

「……はぁ?」

男「も、もううんざりなんですよ!」

男「仕事には付けない!親からは見放されて!村のみんなにはゴミ扱いされてもううんざりなんですよ!」

男「そ、そんなときに見つけたこの立派な屋敷!さぞかしどえらいお方が住んでるんだろうなと思いましてね!」

男「だ、だから僕ここで召使でも雑用でもして働かせていただけないかなーと!」

男(ど、どうだ……?く、苦しいか?)

「苦しいな」

男(ですよね)

「……」

男「……」

「私はな」

男「はい!」

男(つーかこのアマロリの癖にババアみたいな喋り方してんな)

「……人間が、嫌いなんだよ」

「召使なんてとる気もないし、ましてや人間なら尚更だ」

男(ロリババアって奴か、誰得なの?)

「聞いてるのか?」

男(さっきのアレなんだったんだ?魔法?……いやでもそんなんある訳ねーし)

「……そうか、聞いてないのか」

「……」グッ

男「……ぎっ……!」

男(……胸が……心臓……か……!?押し潰される……!)

「まぁ、だからと言って別にどうこうする訳でもないんだがな」

「私は人間が嫌いだ、だから殺す」

「理由はそれでいいな?」

男(……うっそだろ、おい)

男(……マジで俺死ぬんじゃねーの……)

男(……あぁ、もう……!)

男「こ、殺せよ……!バーカ!」

「……あ?」

男「殺せっつってんだバーカ!もう正直どうやって生きていったらいいかわかんねーし、このまま生きてても誰かに迷惑かけるだけだからとっとと殺せや!」

「……」ググッ

男「……ぐ、ぎぇっ!」

男「あ、あーあクソつまんねー人生だった!しょうもない人生だったわホント!」

男「せめてお前みたいにその訳わかんねー力でも持ってれば好きなように生きていけたのによ!」

「……本当に、死にたいんだな?」

男「殺せっつってんだよ!このクソ女!大体人間が嫌いだとか言う訳わかんねー理由で人殺そうとするヒス女に何言っても無駄だろうが!」

男「俺みたいなゴミ人間はいっそ本当にゴミのように死んでいくのがお似合いだよ!あー、ちなみに警察は嘘な!単に泊まるところ探してただけだバーカ!」

「……もういい、聞くに耐えん」

男「はー!!そうやって自分だけは特別って思いながら他人を蔑むその視線、ムカつくったらねーわ!俺も死ぬからお前も死ね!!!!」


ドギュッ!!!



男「」

「……ふん」









(……あれ?)

(……なんだったっけか)

(確かありゃ、小さい時……母ちゃんの家事を手伝って)

(御褒美って言われて頭撫でられて……)

(子供心ながらに「お金くれよ」とか思いつつも……実はそれが心地好くて)

(……そんな、あったかさ、だったっけか……)





男「……」

男「……はっ!?」ガバッ

男「……んおっ……どこだここ……?つーか俺死んでねえ……?」

「……起きたか」

男「お、お前……!」

「安心しろ、なにかするつもりは無い」

男「ど、どうだか、散々人を殺すだの何だの脅してた女の言うことをそう簡単に……!」

「……脅す?」

男「……え?」

「何言ってる、私はしっかり殺したぞ」

「人間は」

「嫌いだからな」

男「……は?」

男(……肘から先にかけて生えた見慣れないもん……これ、鱗か?)

男(よくよく見れば蝋燭しかねーのに、こいつの顔がはっきりと見える)

男(……爪が、バカみてーに鋭くなってる……)

男「……マジで……?」

「作りかえておいた」

男「……嘘だろ……おい……」

「整理できたか?」

男「……いいや、全く」

「察しの悪い男だ、さぞかし生きるのに苦労しただろう」

男「いや、頭が追いつかねーんだよ」

男「……まさか俺が人間じゃない何かに生まれ変わるなんて思ってもみないだろうが、しかもこうしたのは俺より小さい女なんだぞ?」

男「……で、何だって?」

「私は、魔族だ」

男「……魔族、ねー」

男(じいちゃんが小さい頃学校で教えられたっつーお伽噺、うんざりするほど聞いたが、確かそれに出てきてたような……)

男(なんだっけ、千五百年前、人間は魔族と諍いがあって)

男(数年にわたる戦争の後、人間がこの世界の覇権を勝ち取ったんだったか)

男(うわ、本気でお伽噺だな)

男「すると、俺は魔族になっちまったってことか?」

「そうだな」

男「……いやぁ、嘘だろ?」

「……本当だ」

男「……」

男「……大体お前は何者なんだよ?」

男「俺は生まれて18年間、魔族なんて見たこともなかったぞ」

「……私は、特別だからな」

男「……?」

「同胞は、一人残らず息絶えた、もしかするとどこかにひっそりと暮らしているのかも知れんが」

「そんな事実を確認する気すらも起きない」

男「……ほーん」

「一人残らず、殺されたんだよ、お前ら人間に……!」

男「……っ」

「六百年前だ、今でも昨日の事のように思い出せる……!」

「お前達人間は……数百年前に終結した戦争だというのにも関わらず」

「それを引きずってか知らないが……私たちの生き残りを皆殺しにした……!」

「人間に無いものを持つな、だと」

「羽を持つ者は、羽と足を奪われ」

「目のいいものは目を抉られ鼻を削がれて」

「風より早く走るものは家族を人質にされ、誘き出された挙句、凌辱された」

「……」

「……私は、そんな同胞たちの意志を継ぐ生き残り」

「……」

魔王の娘「……魔王であった父を奪われ、幼い頃から生を共にした同胞たちもお前達に殺された」

魔王の娘「……魔王の娘だよ」

男「……」

魔王の娘「……」

男「……」

男「……まぁ、そりゃ……うん……」

男「……気の毒だな」

男(正直重いし、現実味がなさすぎて何言ってんのか分かんねぇ)

魔王の娘「……お前は私の奴隷になりたいと言ったな」

男「いや奴隷とは言ってない」

魔王の娘「だが私は生憎人間が嫌いなのでな、申し訳ないとも思わなかったが勝手に体をいじらせてもらった」

魔王の娘「魔族であるならば、一応筋は通る」

男「意外にガバガバなんだな、お前の基準」

魔王の娘「……お前なんぞいつでも殺せる」

魔王の娘「私はここ最近やる事が出来たんだ、その間私がやっていたことをお前にやってもらう」

魔王の娘「安心しろ、私がやるべき事を終えたら、その時は」

魔王の娘「本当に、お前を殺してやるさ」

男「……」







男(つーわけで始まったこの変な同居生活)

男(いや、同居とも呼べないか、あいつは豪勢な屋敷に一人で住んでるし、俺はその屋敷に入ることすら許されてねーし)

男(正直あの屋敷を見た後だと天国だと思ってたこの小屋も豚小屋以下だな)

男(そんでなに?魔族は寝る必要が無いからって1日中畑仕事しろってか)

男「あのクソアマ、いきなり人のこと利用しやがって」

魔王の娘「文句でもあるのか?」

男「無いです」

魔王の娘「手を動かせ、口ばかり動かすな、薄気味悪い」

男(何だそりゃ、しゃぶってばっかりじゃなくて手で弄るのにも集中しろってことか?)

男「……ふひ」

魔王の娘「何笑ってる」

男「あ、いや、何でもないです……ふひっ……」

魔王の娘「今日中に終わらせろ、まだやってもらう事があるからな」

男「へいへい」

男「……んおー……もう昼か……」

男「……つーかこの体すげえな、疲れねえ」

男「この体があれば俺もまともに働けてたのによー、あーあ」

男「ふあー……寝る必要が無いって言っても眠くなることもあんのね」

男「……あ、飯にしようかな」




男「……にしても設備の整った豚小屋だなぁここ」

男「キッチンまであるなんてなぁ」

男「……あん?」

男「……なんだこれ、微妙に汚れてんな」

男「……」ヌルッ

男「すっげぇ昔についた油汚れみたいだな、洗えよあの女」

男「…んー……♪」

男「……るるるー♪」




男「……出来た」

男「男の野菜炒め……!」

男「肉が無くても何とかなるもんだな、おい」

男「穀物がないのはちと物足りないが贅沢も言えねーか」

男「……うん、うめぇ、俺って天才」

男「……あ」

男(……あいつって、飯とか食うのかねー)

男(……いや、俺が食えてんだし流石に食うだろ)

コンコン

魔王の娘「終わったか?」

男「2割」

魔王の娘「死にたいらしいな」

男「ほれ」

魔王の娘「……は?」

男「そこの採れたて野菜で作った俺特製野菜炒めだ」

魔王の娘「……」

男「料理は昔ちょっとかじった程度なんだけどなー、体が覚えてるもんだ」

パリィン

男「……な」

魔王の娘「くだらん」

男「……てめ……」

魔王の娘「魔族に食事は必要ない、空気中の魔力でも十分に動くことが出来る」

男「……」

魔王の娘「怒るのは筋違いというものだ、こんなくだらん生ゴミで情でも誘うつもりか?浅はかだな、ゴミめ」

男「……そんなんじゃ、ねーけど……」

魔王の娘「くだらん事に現を抜かしてないでお前はやるべき事をやれ、自殺願望がないならな」

男「……」

男(……よく言う、そんなもんどう見たって最低限だろうが、ガリガリの体で言われても説得力の欠片もねーんだよ……)

男「……はぁ」

男「まぁいいや、気を取り直して畑を耕して、種植えて……」

男(……つーか、ここマジでどうなってんだ?)

男(どう考えても広すぎる、これも魔法の力ってやつか)

男「……あん?」

男「何であのアマ食わねークセに食い物なんか育ててんだ?」

男「貴族の遊びってやつか?貴族ではねーけど」

男「あー、クソくだらねー、早く終わらせて探検にでも行こうかな」

男「……そうだ、そうしよう」

男「ついでに金目のもんでも奪って逃げよう、こんだけデケー所ならすげぇお宝でもあるだろ」

男「よくよく考えたらなんで俺がこんなことしないといけねーんだよ、馬鹿じゃねーの」

男「そうだそうだ、それがいい」





男「……うーし」

男「どうにかこうにかあの女の目を盗んで屋敷の中まで入れたぜ……」

男「……つーかここ宝の山だな、カーテン一つとっても最高級ってのが伝わってくる」

男「俺ん家なんて俺の小さい頃の服なのに」

ガタッ

男「すいません!!!」

男「べ、別にそういうわけじゃないんです!ただ俺はあなた様の……って、あれ?」

ガタタン

男「なんじゃ、この音……」

男「……この部屋からか?」

キィ

魔王の娘「……うぐっ……!!!ぐああああああ……!!!」

魔王の娘「痛い……!!痛い……!!!痛い痛い痛い……!!!!」

魔王の娘「止めて……!!私に……触らないで……!!!」

男「なっ、何だ!?」

男「お、おい!!」

男(つーかお前はベッドでばっちり眠ってるじゃねーか!)

魔王の娘「……ぎっ、あ……!あああああああ……!!」

魔王の娘「……痛い……!!痛い!!!!」

男「……痛いって……何がそんなに……」

魔王の娘「私の、体で……!!遊ばないで……!!!!」ビリビリビリビリ……!!!

男(ちょっと!?いきなり服破り捨てたぞこいつ!)

男「って、いや、これって……」

魔王の娘「……ぎゃああああああああ!!」

男「体、掻きむしってんのか……?」

魔王の娘「痛い、痛い!!!痛い!!」

魔王の娘「私の中に、入ってこないでぇえ……!!!」

男「っ……」

男(……傷、傷、傷)

男(全身至るところに、傷)

男(生々しい、傷)

男「……っぷ……うぇ……!」

男「……はぁっ……はあっ……うぇ……!」

男(特に、酷いのは……!)

男(……もう、何がなんだか、分からなくやってやがる……)

男(火傷、切り傷、陥没……)

男(ぐちゃぐちゃ、何だ、何だよこれ……)

男(……どうして、こいつの下半身は、こんな事になってんだ……?)

魔王の娘「ぃぎあああああああああっっ!!!」ビクンビクンッ!!

男(……塞がってる)

男(字面がアホすぎて……全く現実味がねぇ……塞がってるって、なんだよ?)

男(ここまでされるって、なんだよ?)



男「お前、何されてきたんだよ!!なぁ!!!!!」

魔王の娘「……はぁっ、はぁっ……はぁっ……!」ガバッ

魔王の娘「……」

男「……」

魔王の娘「……お前……!!何勝手に……!!」

魔王の娘「……見たのか……!?見たんだな!?」

魔王の娘「……殺す、殺してやる……!お前ら人間なんて……殺してやる!!!」

男「……」

男「……」

男「……すまん」

魔王の娘「……はぁ!?」

男「……あ、いや……その……」

魔王の娘「今更、謝るなんて遅いんだよ!」

男「……確かに、……つか、なんで俺が謝ってんだって話だ……はは」

男「……すまん……すまん……」

男「……すまん……!」

魔王の娘「……っ!!」ギリリッ!!

魔王の娘「出ていけぇえええっ!!!」ガシャァン!!!

魔王の娘「……はぁっ……はぁっ……!」

男「……」

魔王の娘「……何で……」

魔王の娘「……何で私なんだ……」

魔王の娘「……なんで私は……他の魔族より……強いんだ……」

魔王の娘「……あの時、死ねればよかったのに……!」

魔王の娘「死ねば……!!こんな思い……しなくても良かったのに……!!」

男「……」

魔王の娘「……出ていって、くれ……」

魔王の娘「……頼むよ……」

男「……あぁ」

バタン

魔王の娘「……」

魔王の娘「……うぅ……うぇっ…」

魔王の娘「……うううううぅ……!!ぅぅううう……!!」

魔王の娘「……うぁああぁ……!!」


次の日


男(人が、誰かを遠ざけるには何かしら理由がある)

男(まぁあいつは魔族らしいけど)

男(だから、あいつの人間嫌いにも、理由がある)

男(……何してんだか)

男(なんで人間でもない、ましてや一度俺を殺したやつなんかに同情してんだよ、俺は)

男「……」

男「……あ」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……進んでるか」

男「まあ、ボチボチな」

魔王の娘「……部屋の掃除に……これだけ時間がかかるとなると」

魔王の娘「……お前の人間だった頃の……無能ぶりが……伺える」

男「……」

男「なぁ」

魔王の娘「……何だ」

男「……今から、飯、作るから……」

男「……食ってくれよ」

魔王の娘「……要らん」

男「……そうか」

魔王の娘「……だが、私も少し疲れた」

魔王の娘「……この汚い部屋で、休憩、するとしよう」

男「……」









魔王の娘「……魔族は、人間よりも丈夫だ」

魔王の娘「……そして、繁殖力は高くない」

魔王の娘「……生まれる日が一日違えば魔族は別種だったからな」

魔王の娘「……簡単な話だ、戦争に勝つには、質より量だった」

魔王の娘「そして、人間には、丈夫なその体が都合がよかったんだ」

魔王の娘「……いたぶるのにも、弄ぶのにも、実験にも」

男「……」トントントン

魔王の娘「とりわけ私は丈夫でな」

魔王の娘「……定かではないが、普通の魔族の100倍以上生命力が強いようだ」

男「……何で、んなこと分かるんだよ?」

魔王の娘「100倍、いたぶられ弄ばれて、いじくられたからだ」

男「……」

魔王の娘「ふふ、変な話だろ?」

魔王の娘「それだけ強ければその人間どもを皆殺しにでもすればよかった」

魔王の娘「……出来なかった」

魔王の娘「魔法を使うよりも先に、恐怖が頭にこびりついて離れなかった」

魔王の娘「体が固まった」

魔王の娘「人間共は、その固まった体を無理やり開いて、事に及んだりもした」

男「……」

魔王の娘「痛みと、恐怖で頭がおかしくなりそうだった」

魔王の娘「人間の体液は、我々にとって毒なんだよ」

魔王の娘「その毒は、三日三晩「ここ」で暴れ回る」

魔王の娘「気が狂いそうになるくらいの激痛の中、お構い無しに私を弄ぶ人間ども」

魔王の娘「毒が尽きることは無かった、人間は数が多かったからな」

魔王の娘「この傷は、自分で付けたものだ、掻き出すために、消毒するために」

魔王の娘「その傷を見て、人間どもが躊躇ってくれるのを待っていた」

魔王の娘「それもダメだった」

魔王の娘「「それが良い」という奴まで現れた」

魔王の娘「……地獄だったよ」

魔王の娘「……私にとって、あの日々は、地獄でしかなかった」

魔王の娘「ある時見兼ねたのか一人の人間が私を逃がしてくれた」

魔王の娘「名前は、もう忘れてしまったが」

魔王の娘「私は逃げ出した、走って走って走った」

魔王の娘「そしてそれが失敗に終わって、連れ戻された時に最初に見た光景は」

魔王の娘「その人間が、薄ら寒い笑みで私を蔑む顔だった」

魔王の娘「自作自演だ、魔王の娘奪還の立役者ともなれば、何かしら得なことでもあったんだろうな」

魔王の娘「咎める気にもなれなかった、それよりもこれから始まる地獄の方が気にかかった」

魔王の娘「次はどんな事をされるのだろうか」

魔王の娘「何を、させられるのだろうか」

魔王の娘「……」

男「……」

魔王の娘「……結局、飽きられ……死んだと勘違いされるまでそれは続いた」

魔王の娘「最後は、ゴミのように捨てられてな」

男「……」

魔王の娘「……」

男「……」

魔王の娘「だからな、私は人間が大嫌いだ」

魔王の娘「人間なんて大嫌いだよ」

男「……そうか」

男「……」

男「……それじゃ、何で俺なんかをそばに置くんだよ」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……言っただろ、私にはやることがある」

魔王の娘「その時までだ、お前を置くのは」

魔王の娘「汚らしい人間の手も、同じ魔族なら幾らかはマシというもの」

男「……」

男「……そっか」

男「……そんじゃ、お前がその時までに、人間は愚かなだけじゃないって……」

男「……」

男「……そう、感じてくれれば、俺は死ななくて済むな」

魔王の娘「……!」

男「……」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……く」

魔王の娘「……くくく、くくくくく……!」

男「……!?」

男(笑った!?何だこの似つかわしくない笑い声!)

魔王の娘「……くくくく!変な奴だ、お前は……」

魔王の娘「……あれだけの話を聞いてなお、私が今更人間に対する考えを変えるとでも思っているのか?」

男「……いや、無理かもな」

男「……けど」

男「……俺は絶対に、 そんな事しねーから」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……くくく、いいだろう」

魔王の娘「お前の命はあと数ヶ月」

魔王の娘「……生きたくば、私に人間の価値を示してみろ」

男「あぁ」

男「つって俺は今人間じゃねーんだけどな」

魔王の娘「軽口を叩くな、下僕が」

男「……はは、冷めちまったな」

男「……半分処理していけよ、ロリババア」

魔王の娘「……ふん」

魔王の娘「……」パクッ

魔王の娘「……下手くそめ」

男「……確かに不味い、この前のはマグレだったのか……」

魔王の娘「……」モグモグ

男(……こうしてみると、女の子、なんだよなー)

男(機嫌がいい時にそれとなく聞いてみたけど)

男(この魔王の娘、俺と違って見た目が全く人間だ)

男(魔法で見た目を再現してるらしい)

男「……ん?」

男「……だったら、魔法であの傷を直せばいいんじゃねーの?」

男(……このクソ暑いのに、いつまでも長袖でいるのはなぁ)

魔王の娘「なんだ」

男「……おわ!」

魔王の娘「仕事は終わったのか、下僕」

男「いんや、今休憩中だ」

魔王の娘「さっきもそうしていたようだが」

男「いやー、覚えがない」

魔王の娘「……そうか、どうやら最初にお前が言っていたことは嘘ではないようだな」

魔王の娘「この、社会不適合者め」

男「お前に言われたくねーよ!」

魔王の娘「……ふん」

魔王の娘「試したよ」

男「は?」

魔王の娘「下腹部から全身に広がる傷だ」

魔王の娘「こういう格好だと、どうも動きづらいのでな、治せぬならせめて魔法で隠してみようと思うのだが」

魔王の娘「治しもできんし、隠せもせん」

魔王の娘「文字通り刻みつけられた」

男(聞いてやがったか……)

魔王の娘「くく、お前に見えてるように私は「全身に傷を負った人間」に見えているというわけだ」

男「……」

魔王の娘「……」

魔王の娘「何だ?」

男「服買いに行こうぜ」

魔王の娘「はぁ?」

男「いや、このクソ暑いのに長袖だとお前も疲れるだろ?」

魔王の娘「魔族は人間ほど……」

男「はいはい、そういうのもう百回は聞いた」

魔王の娘「……何故私が人間などと……」

男「はぁ?人間の価値を示せっつったのはお前だろうが」

男「そりゃつまりお前も価値を知るために動かないといけねーっつー事だ」

男「おら、行くぞ」

魔王の娘「ま、待て!お前はどうするんだ!」

男「幸い顔は少し鱗があるくらいだからフードとマントでどうにでもなるだろ」

男「さぁ、そうと決まれば出発ー」

魔王の娘「お、おい!!」





魔王の娘「……」

男「うおー、久々の村だー」

男「んー、ここは賑やかで気持ちいいな」

魔王の娘「……」

男「おい?」

男(……あ、やべ)

男(……そういやこいつ、人間嫌いだった)

男(……いや、人間嫌いどころか、トラウマレベルだった)

男(……しまった、全く考えずに来ちまった)

男「す、すまん……俺ぱぱっと買ってくるわ、ちょっと待っててくれ!」

男「あだぁ!?」グイッ!!

魔王の娘「……」

男「……おま、何して……!」

魔王の娘「……置いていくな」

男「……」

魔王の娘「……」

男(ずっと俯いてやがる)

男「ちょっとぱぱっと買ってくるだけだって……」

グイッ!!

魔王の娘「……」

魔王の娘「……置いていくなら……殺す」

男「ええええ……」

魔王の娘「……そ、そもそも私の服を買うんだろうが……!私が見なくてどうする……!」

男「いや、どうせお前そういう黒くてふわふわしたのでいいんだろ?」

魔王の娘「……何だ?お前私を置いていきたいのか?」

男「いやちげーよ!」

魔王の娘「やはり裏切りか、こんな人間の中に放り込まれてどうすればいいんだ、裏切りだろう、それは」

魔王の娘「置いていくんだな、私を」

男「うっせーな!!!もう!分かったよ、ほら、行くぞ!」

「いらっしゃいませー」

男「おー、すげえでかい店だな」

男「珍しいよな、露天じゃないタイプの店」

魔王の娘「……」

男「おーい?」

魔王の娘「……はぁ……はぁ……」

男「……だから待ってろって言ったのに」

魔王の娘「こ、これくらい何でもない……」

男「ほれ」

魔王の娘「……なんだその手は」

男「何だって、手ぇ繋ごうってんだよ」

魔王の娘「ごめんだ、切り飛ばされたいのか?」

男「切り飛ばしてもいいから俺の手握っとけ、怖いんだろ」

魔王の娘「……」ソッ

男「うし」

魔王の娘「……ちっ、同じ魔族とはいえ……屈辱だ」

男「あの、こいつに合う服とかってあります?」

「えーと、そうですね……」

「あ、こういうのはどうでしょう、割と新しいもので、妹さんにもぴったりかと」

魔王の娘「いもっ……!?」

男「おー、いいなこれ、着てみろよ」

男「試着室とかって……」

「あちらにございますよー」

男「どうもー」

男「……よし」

魔王の娘「……」

男「……何してんだ?覗いたりなんてしないから早く着てみろよ」

魔王の娘「……お前に覗かれたところでどうも思わん」

魔王の娘「……」

男「……」

魔王の娘「……お前、私を置いてどこかに行くなよ」

男「行かねーっつの」

魔王の娘「……」シャッ

魔王の娘(……久しぶりだ、こんな服)

魔王の娘(……くく、出来ればタイツも脱ぎたいところだな)

男「着たか?」

魔王の娘「あぁ」

男「どれどれ」

魔王の娘「ちょっ」

男「……おおー、いいじゃん」

男「めちゃめちゃ似合ってる」

魔王の娘「……お世辞か?」

男「何でだよ」

魔王の娘「……似合うわけないだろ」

魔王の娘「……この腕、どう見たって不自然だ」

男「……んな事ねーよ」

魔王の娘「……はあ?」

男「すげー似合ってる、傷なんか目に入らねーくらいに」

魔王の娘「……それも、助かりたいがためか?」

男「かもな、さて、それにすんのか?」

魔王の娘「……金を払うのは私なのに、なぜ偉そうなんだ」

魔王の娘「……」

魔王の娘「そうだな……これでいい」

男「おし、そんじゃぱぱっと着替えて帰ろうぜ」

男「その服、家でもっと試してみたいんだろ?」

魔王の娘「……知った口を叩くな、下僕め」シャッ

男「すいませーん、これ下さい」

「はーい!」

男「いやー、いい買い物したな」

魔王の娘「……お前は良かったのか?」

男「何だ?金でもくれるのか?」

魔王の娘「……くれてやらんことも無い、物凄く無駄金に近いが、お前が働いた賃金を渡せというのなら渡そう」

男「……んー」

男「そうだな、だったらちょっと貰っていいか?」

魔王の娘「何を買うんだ?」

男「まぁ、色々」

グイッ!!

魔王の娘「まだ私の言うことがわからんようだな」

男「どうでもいいけど凄みながら袖掴むのってすげーシュールだな」

魔王の娘「次置いていこうとしたら、お前は死ぬ」

男「断定するな」

男「……これと、これと、あとこれと、これ」

魔王の娘「なんだ、ただの食材か」

男「馬鹿野郎、飯くわねーと力がつかねーんだよ」

男「お前何が食いたい?」

魔王の娘「だから私に食事は必要ないと…」

男「必要なもんばかり考えんなよ、時には必要じゃないもんも考えてみ」

魔王の娘「……」

男「肉は?」

魔王の娘「パスだ」

男「じゃあ魚だな」

男「よし、こんだけあれば割と持つだろ」

魔王の娘「……」

男「……何だよ?」

魔王の娘「……思ったよりしっかりとしていて、少し面食らった」

男「なんだそりゃ、馬鹿にしてんのか」

屋敷


男「さーて、思い出しながら作ってみるか」

魔王の娘「……」

男「……こいつを、こうして、これを……」

魔王の娘「……家ではよく、料理をしていたのか?」

男「……んー、母ちゃんの飯が不味くてな、よく目を盗んで作ってた」

男「今思うと糞ガキだよな、何偉そうな事言ってんだか」

魔王の娘「母親、か」

男「……なんだよ?」

魔王の娘「……ふふ、私は母親の顔を知らなくてな、お前が少し羨ましい」

魔王の娘「母親とは、どんな存在なんだ?」

男「馬鹿野郎、あんなもん面倒くさい以外に言葉が見つかんねーよ」

男「ぐちぐちうるせーし、いつまで経っても人の事子供扱いするしよー」

男「……」

魔王の娘「……」

男「……まぁでも、一緒に居たら1番気が楽だな」

魔王の娘「……そうか」

男「……お前、買った服着ないのか?」

魔王の娘「……服が汚れたら嫌だからな」

男「へえ、お前もそういう所あるんだな」

魔王の娘「どういう意味だ」

男「出来た」

魔王の娘「……」

男「割と自信作だ、お前の舌を唸らせること間違いなし」

魔王の娘「……」

男「……ん?どした?」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……」ポタッ

男「え……」

魔王の娘「……誰かと食卓を囲むなんて考えもしなかったからな、少し昔を思い出す」

魔王の娘「もう、どんな顔だったかも思い出せないが」

魔王の娘「……」

魔王の娘「あいつらが居たからこそ、あいつらのいない日々を生きていられる」

魔王の娘「……悪くない、誰かと食事をするということも」

魔王の娘「……いただきます」

男「おう、いただきます」

男「……なぁ」カチャ

魔王の娘「……」カチャ

男「また、さ、こうやってたまには家を出てさ」

男「……そんで買い物に行って、こんなふうに飯を食おう」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……何故だ?」

魔王の娘「それは同情か?」

魔王の娘「私が可哀想だからか?」

男「お前が、心配だからだよ」

魔王の娘「……!」

男「そんな理由じゃダメか?」

魔王の娘「……」

魔王の娘「……」カチャカチャ

魔王の娘「馬鹿な、奴だ」

男「あぁ、男ってのは、生まれた時から馬鹿なんだぜ」

魔王の娘「……ごちそうさま、味は悪くなかった」

男「はえぇ!?つーかどこに行くんだよ!」

魔王の娘「……服を着に」

魔王の娘「次は、あの服を着ていくつもりだからな」

男「……!」

魔王の娘「…な、なんだ!」

男「ふふ、ははは……いいや、何でもねぇ」

魔王の娘「へ、部屋の片付け、とっとと済ませるんだぞ!」

男「あいよ」

男(人間嫌い、か)

男(そーの嫌悪丸出しのツラは何から来てる?)

男(あいつの過去、か)

男(…だとしたら、何であいつは俺を招き入れた?)

男(…言ってたな、あと数ヶ月だって)

男(やることがあるって)

男(…いいや、でもだからって俺みたいなヤツを選ぶ必要なんかない)

男(誰でも良かった?)

男(…だよな、きっと誰でもよかったんだ)

男(…お前、寂しかったんじゃねぇの?)

男「…」

魔王の娘「…何見てる…」

男「いいや、何でも」

魔王の娘「何だ?言え」

男「着替えでも覗こうと思ってな」

魔王の娘「…死にたいのか」

男「うそうそ、ほんじゃ片付けるとするかね」

魔王の娘「…」



男「…かー」

男「…くー」

ヒソヒソ

男「…ん」

男「…んぁ?」

男「…うるっせぇな…あいつか?」

男「…何だよ、屋敷から出てきて散歩か…?」

ヒソヒソ

男「…?」




魔王の娘「…ええ、ええ、準備は着々と進んでおります」

魔王の娘「我々は…私はきっと元の魔族の暮らしを取り戻します」

魔王の娘「仲間など、居なければ作れば良いのです」

魔王の娘「その為の種はもう既にこの手にあります」

魔王の娘「何分、作り替えるよりも、生む方が楽ですから」

魔王の娘「ええ、誰でもよかったのですよ」

魔王の娘「人間を滅ぼして、我ら魔族の世界を取り戻す」

魔王の娘「…しかし、好都合と言う他ないですね」

魔王の娘「私が選んだ人間が、ああも人間の世界から遠い社会不適合者というのは」

魔王の娘「快く、とまでは行かないかも知れませんが…」

魔王の娘「協力はしてくれると思います」

魔王の娘「ええ、その様に」

魔王の娘「…いずれ必ずあなたを蘇らせます」

魔王の娘「その時まで、しばしお待ちを」

魔王の娘「…お父様」



男「…」

男(…なんだそりゃあ…)

男(…やりたいこと?)

男(そりゃつまり、まだ人間を恨んでるってことかよ…?)

その固まった体を無理やり開いて

男「…」

男「…いや、恨みが消える方がおかしいか」

男「…だよな、そうだよな」

男(繁殖力は高くない…だけど、人間の体を魔族に作り替えるくらいのバケモンなら、例外?)

男(…やだねえ)

男(…俺は、どっちの味方をすりゃいいんだよ)

男「…」




魔王の娘「…遅いぞ、奴隷」

男「奴隷じゃねえっつの」

魔王の娘「今日はいつもよりかなり遅かったな」

男「まぁな、昨日夜遅くまでマスかいててさ、15回」

魔王の娘「おま…!」

男「半分はお前」

魔王の娘「殺すぞ!!!」

男「ははは、嘘だよ」

男(…うん、見たとおりいつも通りだ)

男(つーかまぁ、いつもも何も、俺はこいつのいつもを知らねぇんだけど)

男(…知らねぇんだよな)

男(…俺は、魔族と人間どころか、こいつの事さえ知らねぇんだよな)

男(ちょっと、知った気になってたな)

男(実際はあの過去でさえ、ただの原因に過ぎなくて)

男(こいつは今こうしている間にも腹の中じゃあ人間を殺し尽くすことを考えてる)

男(それすら、知らなくて)

魔王の娘「…気色悪い、何だ、見つめて」

男「んー、いや?」

魔王の娘「今日もいい天気だ、畑仕事日和だな」

男「はは、魔族のくせにいい天気とかいうのか?」

魔王の娘「変な偏見を持つな、魔族も晴れた空の方が好きなんだ」

男「…」

男「…ほい」

魔王の娘「…何だそれは」

男「クワ」

魔王の娘「お前は主に向かって畑を耕せというのか」

男「いや、気晴らしだよ」

男「やりたいことがあるって言ってただろ?」

男「そればっかり考えてちゃ体壊すぞ」

魔王の娘「私を舐めるな」

男「…」

魔王の娘「魔族の体は、これしきのことで…」

男「いいから」

魔王の娘「なっ、ちょ…!」

男「いいからやれよ、たまには目に付くところにいろ」

魔王の娘「…!」

男「面倒くせえ考え事はまた明日からにすればいい」

男「今日くらい頭ん中空っぽで体を動かすのも悪くねーだろ」

魔王の娘「…ふん、生意気な」パシッ

男「…んしょっ」ザクッ

魔王の娘「何だそれは、腰が入ってない」

男「おーおー、こんな事でも主っぷりを発揮するな」

魔王の娘「何百年これをしたと思っている」

魔王の娘「…こうだ」ザクッ

男「おお、すげぇ!」

魔王の娘「…こうだ…!」

男「さっすが!年季が違うぜ!」

魔王の娘「こうだっ!」ザクッ

男「ひゅー!お前の右に出るやつなんていねぇわ!」

魔王の娘「…こうっ…!…ってちょっと待て、何かうまく乗せてないか」

男「バレた?」

魔王の娘「この…」

男「へへへ、やりますよ」ザクッ

魔王の娘「…」ザクッ

男「…」ザクッ

魔王の娘「…」ザクッ

男「…なあ」

魔王の娘「手より口が動く奴は魔族の中でも無能だ」

男「そこは人間と変わらねぇのな」

魔王の娘「…」

男「…お前の親父って、どんな人だったんだよ」

魔王の娘「…」

男「魔王って、名前からして邪悪の根源って感じなんだけど…」

魔王の娘「お父様を…悪くいうな」

魔王の娘「…お前に何がわかる…!」

男「…いや、すまん」

魔王の娘「魔王というのは、お前ら人間が勝手に付けた蔑称だ」

魔王の娘「お父様は、いつだってご立派だった」

魔王の娘「魔族の繁栄を第一に考え、例え人間だったとしても無闇矢鱈に命を奪うことはしなかった」

魔王の娘「お父様は誇っておられた、魔王という名前を」

魔王の娘「蔑称であるのにも関わらず、それでもなお誇っておられた」

魔王の娘「いずれ人との共存を目指す、その時に魔王という呼び名が蔑称などではなく誇り高き称号となることを」

魔王の娘「…志していた」

男「…」

魔王の娘「…たった1人の私の事を…心から愛してくださった」

魔王の娘「…それが、私のお父様だ」

男(…何で、そんな奴が実の娘に人間殺しをさせようとするんだ?)

魔王の娘「…熱くなったな、すまん」

男「いいや、肝が冷えたよ」

魔王の娘「…口だけは減らんやつだ」

男「…お前は、今でも許せないか?」

魔王の娘「…何をだ?」

男「…人間」

魔王の娘「許せると思うか?」

男「…だよな」

魔王の娘「機会さえあれば、私はいつだってお前ら人間を殺したい」

魔王の娘「友が、臣下が、お父様が、私が!」

魔王の娘「受けたすべての傷を、お前ら全ての人間に与えたい!」

魔王の娘「許せるわけがないだろ」

魔王の娘「だから、私はこの傷が大嫌いだが、ありがたく思っている」

魔王の娘「慟哭と怨嗟の声は、絶対に消えない傷として私に刻み込まれた」

魔王の娘「おかげで私は、忘れられずにいる」

魔王の娘「お前ら人間への復讐心をな」

男「…」

魔王の娘「私は、絶対に…」

男「…もういい」

魔王の娘「…は?」

男「…もういい」

魔王の娘「…何が、何がもういいだ!何も…!」

男「…もういいっ…!!!」ギュッ

魔王の娘「……!」

魔王の娘「…離せ…!このっ…汚らわしい…!」

男「…お前の気持ちは、もう分かった」

男「…分かった、お前が満足するまで人間を殺せばいい」

男「…それでお前の気持ちが晴れるなら、そうするべきだ」

男「…お前には、その権利がある」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…私の言う人間には、お前の母も入っているんだぞ」

魔王の娘「…本当に、お前はいいのか?」

男「…」

男「…分からん」

魔王の娘「…」

男「…分からんけど、それが正しいのか分からねぇけど」

男「…お前を止めるかもしれねぇけど」

男「…でも…お前はそれしか救われる方法はねぇんだろ?」

男「…もう、どうにも止まらないんだろ?」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…あぁ、人間を殺し尽くすまでは、もしくは私が死ぬまでは、止まらない」

男「…」

魔王の娘「…何で、お前が泣くんだ」

男「…泣いてねーよボケ、通り雨だ」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…痛い、強く抱きしめすぎだ」

男「…」

魔王の娘「…離せ」

男「…」ギュゥッ

魔王の娘「…離せよ…この、うつけが…」

男「…すまん」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…お前は、優しい奴なんだな」

魔王の娘「…本当に、本当に、優しい愚か者だ」

男「…」

魔王の娘「…今夜、私の部屋に来い」

男「…は?」

魔王の娘「…前準備、という奴だ」

男「…」




魔王の娘「…」

男「…おう」

魔王の娘「…来たか」

男「…何だよ…」

魔王の娘「…くく、似合っているか?」ヒラヒラ

男「…」

魔王の娘「…もう、言わなくてもわかるな?」

魔王の娘「種を増やす」

男「…どうやって…」

魔王の娘「…物理的に塞がっているのであれば、開けばいいだろう」スパッ

男「…っ!」

魔王の娘「きつい光景だと思うが、仕方がない」

魔王の娘「…奴隷としての、義務を果たせ、人間」

男「…」

魔王の娘「どうした?お前の気を紛らわすため敢えてこの服を選んだんだ」

魔王の娘「…年か?だったら私の力で姿を同年代に変えよう」

魔王の娘「これなら…」

男「…似合ってないね」

魔王の娘「…」ズキッ

男「まっっっっったく、似合ってねぇよ!そんなモン!」

魔王の娘「…そう、か」

魔王の娘「…やっぱり、お世辞だったんじゃないか…」

男「その服は、そうやって着るんじゃねえんだよ!」

魔王の娘「…」

男「お前と一緒に、出かける時とか!」

男「お前と何気ない話をする時とか!」

男「お前と飯食ったりとか!!!!」

男「そういう時に、着るもんなんだよ!」

魔王の娘「…」

男「…人間?殺したきゃあ、殺せよ!俺は全力で止めるがな!」

男「魔族?増やしたいなら好きにしろよ!」

男「でもな!そんなクソみてぇな陰気なツラでその服を着るんじゃねぇ!」

魔王の娘「…だっ…て…!だって…!」

男「周りのヤツらが、お前を雑に扱ったからって!」

男「お前がお前を、雑に扱う必要なんてねぇんだよ!!!!」

魔王の娘「…っ…!!!」

男「種を増やす?大層な手段じゃねぇか」

男「魔王の娘の力を継いでたら相当強力なヤツらが生まれるんだろうな」

男「…だけどよ」

男「…好きでもねぇやつと、やりたくもねぇ事、やろうとすんじゃねぇよ」

男「…夜が怖いなら、一緒に寝てやる」

男「…朝の1人が嫌なら、傍にいる」

男「昼に思い出すなら、何度だって飯を作ってやる」

男「…だから」

男「…自分を粗末に扱うのは、やめろ…」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…馬鹿だ、お前は…」

魔王の娘「…馬鹿だ、馬鹿だ…大馬鹿だ」

男「…何度も言うなよ、知ってる」

魔王の娘「馬鹿だ…うぅ…ひっく…うえぇ…!」

魔王の娘「うぁぁ…!うああぁ…!!!」

男「…」ギュゥッ!!

魔王の娘「…うぁぁぁぁぁあああ…!!!」

男(…どんな事があっても、強く抱きしめてやろう)

男(…今までの、誰よりも、強く…)

男「…くー…かー…」

男「…んぐ…かー…」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…自分を粗末に扱うな、か」

魔王の娘「くく、そんな顔していたのか、私は」

魔王の娘「…くくく、愚かな人間の、そのまた愚かなこいつに気付かされるとは…」

魔王の娘「私も同じく、愚かだったということか」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…ねぇ、お父様」

魔王の娘「…私は本当に、殺していいのですか…?」

魔王の娘「…人間を、こいつを、今のこいつを作ったこの世界を」

魔王の娘「間違いだと切り捨てて、壊しても、いいのですか…?」

魔王の娘「…」

魔王の娘「…何故、答えてくれないのですか…?」

魔王の娘「…お父様…」

男(別に何も変わんねぇ)

男(あんな事があったって、あいつはいつも通り俺に畑仕事させるし)

男(あれ以来1度もあいつの部屋で寝たりなんかしてねぇし)

男(強く抱きしめて、手に残ったと思った感触も今じゃどんなだったか思い出せねぇ)

男(…)

魔王の娘「何をしている、早く動け」ザクッ

男「よっ、畑仕事の名人」

魔王の娘「その手には乗らん」

男(…まぁ、だけど)

男(だけど、無理矢理にでも変わったところを上げるなら)

男(畑仕事をよく手伝いに来るようになったことと)

男「…よっと」ザクッ

魔王の娘「…」

魔王の娘「…ふん、なかなか様になって来たじゃないか」

魔王の娘「それもそうか、私が教えてるのだからな」

男「まぁな、明日も教えてくれよ、魔王の娘さん」

魔王の娘「…」






魔王の娘「…ふふっ」

男(見た目相応に、よく笑うようになった事だ)

折り返し
直接的な描写が無ければセーフだと思ってました
通報してください

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom