佐久間まゆの記憶喪失 (22)

うぅーん……。

あ、おはよう、ございます。

まゆって、私のことですか?

いえ、なにも……なにも思い出せません。

あの、申し訳ないんですけどアナタのことも覚えてないみたいで……お名前教えていただけますか?

――さん。私は『まゆ』で良いんですよね。

どういう関係なんでしょうか?

私……いえ、私達は夫婦なんですか。

そう言われれば、誰かをすごく好きだった気がします。

きっとそれが――さんなんですね。

ごめんなさい、大切な旦那様のことすら思い出せないなんて。

本当になにも……記憶喪失って、本当にあるんですね。

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でも良かった。

自分のことはなにも思い出せないけど、お料理の仕方は覚えていて。

うふふ、愛する旦那様のお役に立てますから。

好きなものは、クリームシチューでしたよね?

多分……大丈夫です。

頭のなかでレシピ思い出せましたから。

具ですか?

鶏肉と人参とじゃがいもと……じゃがいも抜き?

そうでしたっけ……特にそんなこと言われなかったような……。

って、私の記憶なんて当てになりませんよね。

シチューにじゃがいもはダメ、カレーならOK……はい、しっかり覚えます。

それじゃあすぐ作りますから、ちょっと待っててくださいね。



外に出ないように……どうしてですか?

自分のことは思い出せないけど、一般常識までは忘れてないと思います。

心配してくれるのは嬉しいです、とっても。

でも声かけられて、あっさりついていったりはしないかと……。

街中で突然記憶が戻ったら混乱するから?

そう言われるとそうですね……分かりました。

何より私のことを心配してるのは伝わりましたから。

――さんの指示に従います。

……ちょっとだけ思い出しました。

好きな人に、こんなふうに色々指示してもらってた気がするんです。

それってもちろん……。

――さんですよね、やっぱり。うふふ。



そういえばお仕事は大丈夫なんですか? ずっと家にいますけど。

……長期休暇?

そんな……それって私のせいですよね……。

気にするなって言われても……。

介護が必要なお年寄りでもないですから、お仕事行ってください。

私、家でおとなしくして待ってますから。

だって、お仕事好きですよね?

私が少しは休んでって言ってもなかなか聞いてくれなかったくらいなのに。

あ……そうですね、ちょっとだけ、また思い出したみたいです。

休んでくれて……身体を大切にしてくれて嬉しいって思うべきなんでしょうか。

その理由が私じゃなかったら、以前の私も素直に喜んだと思うんです。

でも……。

……。

…………。

……はい、今は甘えさせてもらいます。

でも夫婦なんだから、支え合っていきたいです。

何か困ったら、ちゃんと言ってくださいね?



髪伸びてきたなぁ……。

――さん、切ってもらえますか?

どうしてって、外出しないようにって、以前言ったじゃないですか。

もしかして――さんも記憶喪失ですか? ふふっ。

えっ、もっと伸ばしたいって……私が?

そう、だったんですね……私、それも覚えてない……。

でも伸ばすにしても、梳いて形を整えないとボサボサになっちゃいます。

変になっても良いです、――さんがしてくれるなら。

……一緒に来てくれるんですか?

はい、それならなにがあっても安心ですね。

ふふ、――さんと初めてのお出かけ♪



――さんって、あまりTV見ませんよね。

見るとしても映画くらい……ニュースとか興味ないんですか?

色んな情報を見ればなにか思い出せるかなって……。

……いえ、良いです。――さんが見たくないならそれで。

だってそのぶん、私を見てくれるってことですよね?

……ちゅっ。

ふふ、ようやくキスしてくれましたね。

もしかして私の記憶がないから遠慮してました?

たとえ記憶喪失でも愛されたいのは変わりませんよ……?



熱は下がったみたいだけど、まだ寝ていたほうが良いですね。

はい、おやすみなさい。

……さて、と。





ただいま……。

あっ、――さん。起きてたんですか?

……ごめんなさい、お買い物に行ってました。

もう食材のストックがほとんど無かったんです。

栄養のあるもの食べて、早く良くなってもらいたくて。

……怒らないんですか?

だって、言いつけを破ったのに。

ふふっ、なにから逃げるって言うんですか?

私の戻るところはここしかないんですよ?

私がいなくて……寂しかったですか?

弱ってるときって、なんだか心細いですよねぇ。

……1人でお出かけするのはちょっと怖かったです。

知ってるはずなのに知らなくて、知らないはずなのに知ってる気がして……。

――さんのためって思わなければ、途中で泣いちゃってたかも。

やっぱりもうしばらくは、――さんと一緒じゃないとお出かけできないみたいです。

今夜は手をつないで寝ましょうか。



――さん、私を愛してくれるのはとっても嬉しいんですけど、その……。

今後はちょっと控えてもらえませんか?

嫌なわけじゃなくて……えっと。

あ、赤ちゃん……出来たみたいです。

はい、そうですよ。

――さんはパパになるんです。





表面上は喜んでるように見えたけど、本当は……?

いえ、気のせいですよね。私の愛する人ですもの。

きっと、赤ちゃんに私を取られるみたいで、それが気になっただけ。

そんな無責任な人じゃないはず。

信じて……良いんですよね?



今までで最高のライブだったよ。

疲れてるかもしれないけど、本当に可愛かったからもう我慢出来ないんだ。

さっきまではアイドルとファン……これからは愛する2人だけの時間。

怖い? 大丈夫、優しくするから。

愛してるよ、まゆ……。

ほら、まゆも言ってごらん。――さん、愛してますって。





…………変な夢。私がアイドルだなんて。

それに、――さんと結ばれるなら怖いはずなんてないのに。

初めてだったから? でも、それとは違う怖さが……。

やっぱり夢ですよね、きっと。



私ね……もう昔のことを気にするのやめようと思うんです。

だって思い出したのは、断片的なささいいなことばかり。

家族やお友達を思い出せないのは悲しいけど……。

今の私には――さんがいて、生まれたばかりの赤ちゃんがいて。

ママになれてとっても幸せなんです。

だから、それで良いかなって。

これまで支えてくれてありがとうございます。

そしてこれからも、ずっと一緒にいてくださいね。

そうそう、赤ちゃんの名前決めてくれました?



今日は――さんが子供の面倒見てくれて1人でお出かけ。

別に面倒見るのが嫌なわけじゃないけど、たまには息抜きも必要だからって。

優しい旦那様で本当に私は幸せ者です。

新しいお洋服買おうかな。

わあ、あの人のコーディネートすごく良い……。

でも私にはちょっと似合わないかな、背が高くないと。

……あら?

なにかしら、あの親子連れ。すごく気になる……。

…………。

……あ。

結婚、されたんですね……プロデューサーさん。

そうですよね、まゆはあなたの前からいなくなってしまったから。

今更会いに行ってもきっと迷惑なだけ……。

……。

ああ、だんだん思い出してきたみたい。

――さんのせいでまゆは記憶を失って……。

だから、ほとぼりが冷めるまで外出させなかったんですね。

まゆが素直に指示に従って、さぞ安心したことでしょう。

この長い髪も、ちょっと見たくらいでは佐久間まゆと気づかれないように。

プロデューサーさんは、クリームシチューのじゃがいもお好きでしたよねぇ……。

一生の不覚……です。

まゆに酷いことした人を、今までプロデューサーさんと勘違いしていたなんて。



おはようございます。気分はどうですか?

ええ、思い出しましたよ。なにもかも。

……そんなことしませんよ。

急にパパがいなくなったら、可哀想じゃないですか。まだ1歳なのに。

ちゃぁんと毎日お世話しますから安心してください。

でも……ね。

くすくすくす。

もうまゆがいないと生きていけないですよねぇ。

うふふ。

あなたを生かすも殺すもまゆ次第……。

うふふふふふふふ。

終わり

まゆのまゆに取り込まれて生殺与奪にぎられたいです

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