聖來「夢と現とあたしと貴方と」 (11)
※アイドルマスターシンデレラガールズの水木聖來のssです。
※前作、前々作より時間軸としては大分前、Sレア[ハートビートUSA]のお話です(別に読んでなくても問題ありませんが読んでくれたらはしゃぎます、アラサーのおっさんが)。
※長くなる予定なので三分割しよっかなと思ってます。
※水木聖來Pの皆さん、ナターリアPの皆さん。違和感感じたならごめんなさい。あと前作で名前誤字っちゃってごめんなさい相馬夏美Pの皆様。許して下さい、ワンコが何でもしますから。
前作
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1476460369
前々作
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1476028118
ほいじゃ、はじめまーす。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477412740
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「では、行って参ります」
「ああ、道中気をつける様に」
「はい」
どうしたって肩に力の入る専務の前で一礼の後、ゴロゴロとキャリーケースを引きずりながら退室する。
PM3:30
普段ではあり得ない上がり時間。
それもこれも、後数時間後に搭乗する飛行機の為だ。
現地時間明日の夜、日本から13時間遅れたニューヨークの地で、我が担当アイドルが公演する。
18:25発ニューヨーク行きの航空券を今一度確認し、俺は担当アイドルにメッセージを送る。
〈今どこにいる?〉
コンマを跨ぐ前に既読が付いて、コンマを跨いだら返信が来た。
〈プロダクションに着いたとこだよ♪〉
〈オッケ、今向かう〉
エレベーターホールで下りを待っていると、サニーパッションの先輩プロデューサーがやって来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。いよいよですね」
「ええ、今更ながらドキドキして来ました。そちらは今からオーディションですか?」
その手に抱えるうっすら透けている履歴書の束を見て尋ねると、彼は首肯した。
一年先輩でありながら、全く偉ぶらない彼を、俺はとても尊敬している。
「はい。今回は中々面白い子達に巡り合えそうです。……話を戻しますが、水木さんはもっと緊張されてると思います。しっかりケアしてあげて下さいね」
「その点は余り心配していません。あいつは肝が座ってますから」
「……それ故に気負いしている可能性もありますので、そちらもお忘れなく」
「……肝に命じておきます」
大らかでありながら、どこまでも冷静に物事を観る。
彼の最強の長所だ。叶わん。
「ですが、きっと貴方達2人なら大丈夫でしょう」
冷静な切り返しでぶった斬られた割に意外な言葉が続き、少し驚いた。
「伊吹の受け売りですが、貴方達はいいパートナーだ。貴方は彼女の力量を誰よりも正確かつ冷静に見ているし、彼女も自身の実力に驕らず、研鑽を怠らない」
あれま、意外。
返って来たのは、賛辞も賛辞、大賛辞だ。
こりゃ惨事は許されないな。
なんちて。
「貴方達は無敵です」
チンッ!と上りのエレベーターが着いた。
小松伊吹の担当プロデューサーは微笑みながら搭乗し、ドアを閉めがてら俺の目を見て締め括った。
「唸らせて来てください。世界を」
思わず武者震いが走った。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
玄関ホールに降り立つと、入口横に彼女、我が担当アイドルの水木聖來はいた。
「あ、Pさんこっちこっち!」
こらこら、でかいホールだからって声張らないの。
だからサニーパッション枠とか言われるんだよ君。
「待たせてごめんな……デカいスーツケースだな」
俺のキャリーケースの2回りは大きいスーツケースと並ぶと、小柄な彼女の身体がもっと小柄に見えた。
あはは、と曖昧に笑う聖來の格好は、ハンチングに伊達メガネと変装仕様だ。
「工藤忍ちゃんかな?」
「違うよ!セイラだよ!」
「分かってるから大声出すなよ」
どうやら我がお姫様は初の海外にすっかり舞い上がっているご様子だ。
思わず苦笑した俺に笑顔で応え、聖來は手を伸ばす。
「行こ♪Pさん」
「そだね」
手を取ると、確かな力で握り返して来る。
昨日まで覗かせていた海外公演のプレッシャーすら何のその、活発な我がシンデレラは弾むように歩き出した。
全く、魔法使いの手を引くシンデレラがあるか。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
〈搭乗手続きのために2時間前には空港にいること!〉
夏美さんの忠告通り、俺と聖來はPM4:00には成田空港第1ターミナルに立った。
数ある受付カウンターの中から、目当ての航空会社を探す。
留美さんに教えて貰って書き上げた出国書類を手渡し、航空券の確認を終えてキャリーケースとスーツケースを預ける。
それだけ。
たったそれだけで、あっさりと搭乗手続きは終わってしまった。
頼もし過ぎるぞ我等がアイドル達。
搭乗までは約2時間。
待ち惚けるのもアホらしいので、空港内を見て回ることにした。
「夏美さん、こんな凄いところで働いてたんだね」
「凄いよな、俺には到底……っと聖來、ジャケットどこか摘んどけ、逸れたら面倒だ」
初めて遊園地に来た子供の様にキョロキョロする聖來に注意しつつ、階上を目指す。
流石は国際空港。
様々な人種、民族、言語が行き交う。
最近は東京でも増えた光景だが、やはり玄関口は桁が違った。
「あ、Pさんちょっと待って」
ふと、聖來がジャケットの裾を引く。
「どうした?」
「あの娘…」
細くしなやかな指が指したのは、スーツケースをカタカタと引く褐色肌の少女だった。
聖來と同じくらいの身長に、クリクリとした瞳。
だがその瞳には、傍目から見ても困惑の色が漂っていた。
「迷子かな?」
「いや、手に持ってるの地図じゃないか?」
「あ、カバンにきらりちゃんのストラップ付けてる。日本人かな?」
「いや、うち海外展開もやってるから一概には言えないな」
「……ねえ、案内してあげない?」
「……そうだな」
見た目10代後半くらい、いや、聖來とそんなに変わらないのだろうか。
いかんせん年齢の判断に困るのだが、ヒスパニックの血の力か、ルックスも良ければスタイルもいい。
邪な目で見ろ、なんて言われなくたって幾らでもできる成熟さだ。とてもいい。
「ちょっとPさん見過ぎ」
聖來に白い目を向けられ、慌てて視線を逸らす。
折角の日本旅行が何かの事件に巻き込まれて嫌な思い出にならないよう、助け舟は出すべきだろう。
「よし、いっちょ善良な一般市民やるか」
ただまあ、いきなり男が話し掛けると警戒されるので、聖來をけしかけ、俺は後ろから見守る形を取った。
何かを話し掛けようとする聖來が…しかし次の瞬間振り返って。
「え、英語で話し掛けた方がいいのかな?」
「喋れるんならそれがいいんじゃないか?」
うう、と目を泳がせた聖來は結局。
「えっと、だ、大丈夫?」
普通に日本語で話し掛ける事にしたようだ。
突然話し掛けられた褐色肌の少女はその大きな目をパチクリさせ、少し困ったように笑う。
「だ、大丈夫ダヨー」
(え?日本語?)
まさかの滑らかな日本語の返事に目を丸くする俺たちを余所に、褐色肌の少女はテコテコと歩き出……こちらを向いた。
「あ、あの、し、シブヤ?にはどうやって行くのカナ?」
恥ずかしそうに尋ねるその表情は、第一印象よりも幼く見えた。
「あ、渋谷に行くの?だったらね…」
京成本線からの乗り継ぎを教え始めた聖來と、それを熱心に聞く褐色肌の少女を眺めながら、俺はどうにも小骨が支えた思いをしていた。
(どこでだっけ?)
この褐色肌の少女には見覚えがあった。
つい最近、いや、むしろ今日、彼女の顔をどこかで……!
「あ、思い出した」
「「え?」」
思わず声に出た。
「君、これからウチでオーディション受ける子だろ?」
オーディションという言葉に、褐色肌の少女は瞠目した。
ぽかーんと俺と褐色肌の少女を交互に見る聖來に教えてやる。
「ほら、伊吹担当Pが審査するやつ」
ああ、と声にならない声を上げ、聖來は褐色肌の少女に微笑みかける。
そう、俺は確かにこの褐色肌の少女を見ている。
伊吹担当Pの抱えていたファイル。そのファイル越しに。
少々ボヤけてはいたものの、彼女は確かに太陽の様に笑っていた。
我ながらよく見ていたなと感心しつつ、改めて場を見て、気付いた。
この2人、まったく同じ身長だ。
日本の成人女性としては小柄な聖來と同じ身長の外国人女性となると……。
「……君、まだ未成年だろ?」
一々新鮮な驚きを見せる褐色肌の少女がマジマジと俺を見上げ、小さく頷く。
だが、そんな反応には構っていられない者が一人いた。
ジュエリークールが誇る三大ユニット、トライアドプリムス、月下氷姫、セーラーマリナーにおいて、ワースト2位の長身アイドルだ。
「え?今いくつ?」
少し声を震わせながら、聖來が尋ねた。
おお、尻尾の振りが消えた。
担当Pとしては申し訳ないが、個人的にこの質問をする時の聖來が大好きだったりする。
ブロッサムキュートの乙倉ちゃんとの遣り取りなんか傑作だった。
「じゅ、14歳だヨー」
「……ウソでしょ」
おい聖來、ショックなのは分かるし外国人は老けて見えるって言うが、もう少しは気を使……ウッソだろ!?14でそこまでおっ○い育つの?
「負けた、色々負けた……」
あ、聖來全然反応しない。
こりゃ相当ショックだったな?
何はともあれ、この少女は運がいい。
城に向かう馬車の手配は、俺の専門分野だ。
トランジスタグラマーな14歳の中学生と同身長の23歳アイドルの落胆は一旦放っておいて、俺は名刺と数枚の福沢先生を用意する。
「よし、ならタクシー乗り場に行こう」
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
タクシー運転手に事情を話し、名刺の住所から事務所までの距離をカーナビで検索して貰い、大まかな見積もりを元に料金を先払いする。
一通りの準備を終え、褐色肌の少女ナターリアに俺は演技ぶって言った。
「御者の準備が整いました。さあお城へどうぞ」
他愛もない雑談ですっかり打ち解けた様子の聖來に背中を押され、ナターリアは後部座席にチョコンと座った。
嬉しくてしょうがないのか、ニッコニコの笑顔には、千切れんばかりに振られる尻尾が似合いそうだった。
うん、間違いない。この子も犬系だ。
「オーディション、頑張ってね♪」
バタン!とドアが閉まり、タクシーがウィンカーを出した頃、手を振る聖來と俺に、ナターリアは窓を開けて叫んだ。
「アリガトー頑張るヨー!Pさんもセーラも大好きダヨー!」
太陽の様な笑顔と元気な声。
正にサニーパッションに相応しいアイドルになることだろうが、こればっかりは伊吹担当Pの胸先三寸だ。
「Pさん良かったの?タクシー代」
気遣う様子も見せない、確認するような聖來の言葉に、俺は頷いた。
「アイドルになって稼いで返してもらえりゃ構わねえよ」
「オーディション落ちちゃったら?」
「俺が拾う」
「そっか♪」とご機嫌な言葉で笑う聖來に鎌をかけてみる。
「ウチに来てくれたらいいなあ、なんて思ってんだろ?」
「うん。まあ……少し」
聖來も俺も、一発で見抜いていた。
ナターリアの得意分野はダンスだ。
聖來をスカウトし、伊吹との交流が増え、セーラーマリナーが激しいダンスを武器に活動を始めた頃に気付いた、ダンサー特有の重心の高い立ち方。
それを、ナターリアは自然としていた。
地を踏み締めて全身を揺さぶるダンスにおいて、重心の移動は重要なテーマだ。
手元の物を転がす方が下から物を拾うより楽な様に、ダンサーは高い位置で重心を操る。
そしてダンサーのキャリアを積めば積むほどに、それは癖になり、立ち姿にまで影響を及ぼすのだ。
14歳でそれが身に付いているとは、流石サンバの国出身、と言ったところだろうか。
「さて、まだ1時間半位待つようだし、今度こそ上で茶でも飲もう」
「うん♪」
歩き出す俺に、聖來が続く。
そっと絡めて来た手は、温かかった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
飛び立つジェット機達の機影と、東京湾湾岸の夕景が広がるカフェで、ケーキとコーヒーのブレイクタイム。
俺は唸っていた。
元スチュワーデスの夏美さんの情報網は確かだった。
このチーズケーキ、なかなかどうして、美味い。
甘い物が自然と集まる職場環境にいるため、かなり舌は肥えている筈なのに、そんな舌が驚いた、絶妙な甘みと酸味だ。
洋菓子らしい華々しい甘さでありながら、レモン汁のものだろう、和菓子の様な淑やかさで酸味がしつこい甘さを引き取っている。
思わずケーキを傾けて断面を確認していると、対面からしみじみとした声が聞こえた。
「明日の今頃には…もうライブしてるんだよね」
見れば、折角のチーズケーキに碌に手も付けず、聖來は伊達メガネ越しに遠い目を外に投げていた。
「不安か?……ってのは愚問だよな」
「うん……でも今は、まだ実感が湧かないって言うのが正直なところかな……」
「そうか……」
伊吹担当Pの言葉が頭をよぎる。
『……それ故に気負いしている可能性もありますので、そちらもお忘れなく』
(わかってますよ)
「俺はお前の事を知っている」
不思議そうな視線がこちらを向く。
「お前以上にな。だから言える。……聖來、君なら大丈夫だ」
「Pさん……」
「君は懸命に努力して来た。ぶっ倒れるまでダンスレッスンして、声が枯れるまでボーカルレッスンして、顔が強張るまでビジュアルレッスンだってやった」
「うん、Pさんにはかっこ悪いとこいっぱい見せちゃったね…」
「かっこ悪くなんかない。君が君自身と戦っている姿を、かっこ悪いなんて言わせない」
そうだ。
水木聖來はアイドルになると決めたその日から、いつだって自分と向き合い、戦って来た。
かっこ悪くなんかない。
「むしろ最高にかっこいいアイドルだよ君は」
彼女の中に宿る熱い熱いハートビートが世界すら震わせる事を、俺は信じている。
「だからいいんだよ、実感が湧かないままで。君は普段通りのまま、普段以上の君を魅せればいい」
俺の言葉を聞き、噛みしめるように聖來目を瞑った。
思い出しているのだろう。
今から飛び立つこの国で、これまで積んで来たあらゆる経験を。
ゆっくりと、再び開かれた聖來は、仄かに微笑んだ。
「……うん。ありがとう、Pさん」
「いい表情だ」
いくばくかの憂いを帯びて見えるのは、西陽のせいにしておこう。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
轟音のジェットエンジンが空に消えていく様を、二人で黙って見上げていた。
ドラマや映画でお馴染みの展望台に行きたい、とは聖來のリクエストだ。
展望台で天望する事15分。
いくつもの航空機が飛び交い、降り立ち、見えないけれども、何人もの人間が移動している。
明日のライブはタウムズスクウェアのど真ん中で行う予定だが、果たして動員人数はこの移動よりも多いのだろうか、少ないのだろうか……。
我ながら馬鹿らしい思考である。
「ねえPさん」
ジェットエンジンの音の狭間から、彼女の声が聞こえた。
「何だ?」
声を張らなければ掻き消えてしまいそうで、少し心細くなった。
「あたし、まだ飛べるよね?」
「あ?」
「あたしまだ飛べるよね!?」
「どういう意味でだ!?」
先程のカフェの話を引きずっている気がして、少し胸が騒いだ。
夕景ってのはどうにも気が小さくなる。
「あたし、まだまだ跳べるからね!」
どこか悲痛な表情で、切実な言葉を精一杯投げ掛けて来ているように見えた。
(……なるほど、そういうことか)
思わず頰がほころんだ。
全く、けしからんアイドルだ。
もう終わった後の心配か。
ついさっき、俺たちはナターリアという少女に出会った。
アイドルになりたくて、アイドルになりに日本に来た、ブラジル人の少女。
希望に満ちた彼女の顔は、文句なしに輝いていた。
しかもその魅力はまだまだ強まっていく。
今後もきっと輝かしい未来がナターリアを待っていることだろう。
一方で、それと入れ替わるように水木聖來は日本を発つ。
彼女の経験史上最も大規模で、最も輝かしいステージに立つために。
出発の寸前まで、彼女は大いに浮き足立っていた。
当然だ。
我が事務所に、ここまで大きなステージに、ソロで立った者はまだ誰もいないのだから。
この公演は、下手をすれば会社の今後すらも左右する重要なものだ。
だが、もしこれが絶頂だとしたら、彼女はどうだ?
この公演が、水木聖來のアイドル人生最高の瞬間だとしたら、どうする?
これ以上の活躍を今後見込めない、と判段されたらどうなる?
彼女の行うアイドル活動は、部活動でもサークル活動でもない、商業としての興行だ。
商業的に価値がないと見なされたらどうする?
聖來本人もよく言う言葉だが、俺たちもいい大人だ。
その意味が分からない訳じゃない。
勿論。
自信がない訳じゃない。
不安もない訳じゃない。
でも何より考えてしまうのだ。
大人だから。
先の可能性が見えてしまうのだ。
大人だから。
トランク片手に希望を抱き、異国に渡ったナターリアが眩しく見えるほどに。
しかしなあ、水木聖來。お前1つ勘違いをしてるぞ。
「舐めんなよ、聖來」
聖來と俺の間にあった僅かな間を、一気に詰める。
そして小さな頭を覆うハンチングの鍔を思い切り下げてやる。
眼鏡共々滑り落ちそうで慌てふためく聖來の頭に顎を乗せ、脳天に響けとばかりに声を張り上げた。
「ニューヨークだけで終わると思ってんのか?まだまだまだまだ、仕事取ってくるぞ、俺は」
聖來の顔のすぐ脇で、指を折って見せる。
「全米ツアーにヨーロッパツアー、アジアツアーにオーストラリア公演。ソロでもユニットでも回って貰うぞ。もしナターリアをうちが引き取ったら二人でブラジル凱旋公演だ」
顎を離し、中腰になって伊達メガネとハンチングを直してやる。
呆気にとられた頰を指で突きながら笑って見せた。
「覚悟しとけよ、色んな所で歌って踊って魅せて貰うからな」
心配が尽きないのは大人の証だ。
人は大きくなるたび選択肢の多さに気付いていく。
そして、辟易とするのだ。
選択肢ばかり増えていくのに、自分はちっぽけな子供のままだと。
ただな、聖來、お前は一人じゃない。
大いに悩み、大いに迷う権利はあれど、それを義務と感じるのなら負担してやる。
それが俺の、水木聖來担当プロデューサーの存在理由だ。
身嗜みを直し終えると、聖來が腰に手を回して来た。
正直、場所が場所だけに遠慮願いたい所だが、まあ今だけは許してやろう。
ハンチングの頭を撫でながら、改めて問い掛ける。
「これが最後なんて俺が許さねえ。なんせ俺たちはトップアイドル目指してるんだ。そうだろ?」
大きく頷き、聖來は腕の力を強めた。
「なら軽く世界唸らせて来い。聖來なら出来る」
「……うん、分かった」
夕焼けで真っ赤に焼け世界で、聖來はとびきりよ笑顔を魅せてくれた。
さて、いっちょ世界にかましてこようか。
間もなく、搭乗時間がやって来る。
さて、長かったですがこれで前編。
名付けるならば出立編は終わりです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回も引き続きよろしくお願いします。
このSSまとめへのコメント
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