憧「ニワカは相手にならんよっ!」 (143)

……

憧「あたし晩成行くから敵にまわるよ?」

穏乃『じゃあいいよ!』ふがーっ! ピッ!

ツーツー

憧「はあ……」

憧「シズは本当に計算ができないな……」

憧「阿知賀で全国行けるなら、あたしだって阿知賀に行ったよ……」

憧(…………)

憧(たしかに、阿知賀に行って、昔みたいにシズや玄と、麻雀するってのも悪くなさそうだけど……)

憧(……)

憧(部を立ち上げるには、あと二人足りない。まず宥ねえを入れるとして四人)

憧(後は勧誘するとか、玄の知り合いを誘ったりして五人……)

憧(……でも、そんな急造チームで、全国に行けるわけないし)

憧(はあ…………)

憧(晩成に行くって決めたのに、今更何迷ってんだろ)

憧(阿知賀で麻雀やるなら、阿太峯じゃなく最初から阿知賀に行けば良かったし……)

憧(……)

憧(あたしは麻雀が大好きで)

憧(麻雀が強くなりたい)

憧(だから麻雀部がある阿太峯に行ったし、強豪校の晩成に行く)

憧(それが最も効率的で、合理的な道)

憧(あたし自身が強くなるためにも、全国に行くためにもそれが一番)

憧(それでも……)

憧(シズ……)

憧(あんたが引き留めてくれたら、あたしは阿太中じゃなく阿知賀に行ったよ)

憧(さっきだって、あんたが来て欲しいって言うならあたしは……)

憧(…………)

憧(それで、あたし自身はどうしたいんだろ……?)

憧(よく……わからないや……)

憧(ほんっと……どうしようかな、これから……)

憧(…………)

憧(……)

憧(シズとの中学生活を捨てて、麻雀が強くなる道を選んだはずなのに……)

憧(あたし、後悔してるのかな? 阿太中に進んだこと)

憧(それなりに学校は楽しいし、部活は充実してる)

憧(それでも、また戻りたいって考えちゃう)

憧(シズや玄や和や晴絵がいたあの頃に……)

憧(和や晴絵はもういないけど、阿知賀に行けばシズや玄とまた麻雀ができる……)

憧(……)

憧(できるだけ考えないようにしてたんだけどな、もし阿太中じゃなく、阿知賀に行ってたら、なんて……)

憧(そして、今ならまだ選べる)

憧(晩成じゃなく、シズ達と、一緒に麻雀ができる道を)

憧(…………)

憧(あたしは……)


……

…………

……

晩成高校麻雀部

小走「新入生のみなさん、麻雀部へようこそ」

小走「麻雀への情熱があるのなら、経験者もニワカも関係なく、私らは歓迎する」

小走「ただ!」

小走「私ら麻雀部は、ちいとばかし厳しいよっ!」

憧(あれが奈良県最強……小走やえ!!)

憧(なんという……王者の風格!?)

憧(王族のような圧倒的な気配がここまで伝わってくる!)

憧(…………)

憧(やっばい! あたし、今すごくワクワクしてる!)

憧(晩成に来てよかったー)

…………
……

……

憧「ポン」

憧「ポン」

憧「ロン!」

……

丸瀬「あの一年」

木村「ああ」

巽「一年生の中では飛び抜けていますね」

小走「ふん、まだまだニワカよ!」

……

……

小走「お前さん、新子つーったか?」

憧「は、はい」

憧(小走先輩!? うー、緊張する)

小走「ふん、一年のくせに、中々いい打ち筋してるじゃないか」

憧「あ、ありがとうございます」

小走「けどこれくらいでいい気になるなよ、私らレギュラーに比べたら全然ニワカだよ」

憧「は、はい……」

小走「まあ、それなりに期待してんよ」

憧「…………」

憧(うーん? もしかして今のって、褒められたのかな?)

…………
……

……

憧(とにかく強い人と打つ)

憧(家に帰ったら先輩達の牌譜をみて研究)

憧(部にいる時はひたすら……)

小走「……」

小走「ちょいといいか」

憧「はい、小走先輩」

小走「あんた少し頑張りすぎじゃないの」

小走「頑張るのはいいことだけど、無理はいかんよ」

憧「はい……」

小走「私から見て、なにか焦ってんように見えんよ」

憧「そうですか……」

小走「そんな顔しなさんなって。あんたは着実に強くなってるんだから、そう焦らんでもいいんよ」

小走「まあ、体調を崩さん程度に頑張りなさいな」

憧「わかりました」

憧(……)

憧(足りない……)

憧(私はもっともっと、強くならないといけない)

憧(そうじゃないと、晩成に来た意味がないから)

憧(楽しく部活やるだけなら、晩成じゃなくて……)

憧(…………)

……

……

憧「ツモ、8000、4000」

丸瀬「やはりあの新子とかいう一年……」

小走「ほう」

小走「おい、新子」

憧「はい、小走先輩」

小走「あんた、ちょっとこっちで打ってみなさい」

憧「え、そこは……」

小走「そう、レギュラーメンバーと」

憧「っ!」

小走「まあ、心配しなさんな」

小走「誰も一年のニワカが勝てるなんて思ってないんよ」

小走「胸を借りるくらいの気持ちで打てばいい」

憧「はい!」

憧(よしっ! これはチャンス!)

憧(レギュラーメンバーを倒して、レギュラーに一歩、近づく!)

…………
……

小走「ツモ!  1000、500!」

小走「おつかれさまでした」

巽「おつかれさまでした」

上田「…………」

憧「おつかれさまでーす」

憧(ふうー、三位かー)

憧(やっぱそーうまくはいかないかー)

憧(さすが晩成のレギュラーメンバー、簡単には勝たせてくれない)

憧(特に、小走先輩)

憧(あの人は本当に強い)

ドン! ドン!

小走「良子、負けたからって壁ドンすんな!」

小走「吹奏楽部から苦情来てるんよ」

小走「隣の麻雀部はうるさいって」

……

……

小走「憧、あんた最近調子いいみたいんね」

憧「えへ、どうもー」

憧「でも小走先輩には全然勝てないんですけどねー」

小走「当たり前よ」

小走「ニワカが私に勝とうなんて100年早いよ!」

小走「でもまあ、よく頑張ってるんし……」

小走「……」

小走「よしっ」

小走「あんた、部活後、暇ない……?」

憧「え?」

憧「特に何もないですけど」

小走「じゃあ、なんか奢ってあげるんよ」

憧「やったー、さっすが小走先輩!」

小走「ったく、調子いいなあ……」

憧「えへへー、最近のあたしは調子いいらしいですからね」

小走「そっちの意味じゃないよ……」

……

……

初瀬「あれ……?」

初瀬「アコ! アコじゃない!」

憧「え? 初瀬…………と」

憧「シズぅ?!」

穏乃「あああ、あこ!」

憧「やっば! 二人ともすっごい久しぶりー」

初瀬「ほんと久々」

穏乃「おー、本物のあこだー」

穏乃「久しぶり!」

憧「あはは、本物ってなによ」

初瀬「アコはやっぱり晩成行ったんだ」

憧「初瀬はその制服、阿知賀に行ったんだね」

憧(晩成を落ちたってのは噂で聞いてたけど、どこに行ったかまではわからなかったんだよねー)

憧(落ち込んでるだろうから、本人には聞きづらかったし)

初瀬「うん。アコは晩成でもやっぱり麻雀やってるの?」

憧「もちろん! 初瀬は?」

初瀬「私も続けてるよ」

憧「あれ? 阿知賀は今、麻雀部なかったんじゃ?」

憧(カマをかけてみよう……あたしの予想が当たっているなら……)

穏乃「ふっふーん、それがあるんだなー」

穏乃「なんと、阿知賀女子麻雀部を復活させたんだ!」

憧「へえー」

憧(やっぱりかー)

憧(本当に麻雀部を復活させちゃうなんて、ほんっと、シズは、凄いなあ)

穏乃「あれ? あんまり驚いてない?」

憧「驚いてるわよ」

穏乃「それにそれに、赤土先生も帰ってきてるんだ」

憧「うそ! 晴絵がっ!?」

憧(うーわー、それはさすがに予想外だ……)

憧(じゃあシズも玄も初瀬も、あたしが思った以上に強くなってるかも……)

憧(本気で阿知賀で全国行くつもりなんだ……)

初瀬「てか、穏乃ってアコと知り合い?」

穏乃「うん! 小学校が同じで、阿知賀こども麻雀クラブの仲間だったんだ」

初瀬「へえ、そうなんだ」

憧「そうでーす」

穏乃「でも憧が晩成ってことは今は敵同士か」

憧「そうだねー」

穏乃「よしっ!」

穏乃「じゃあ、憧、全国で会おう!」

憧「え?」

初瀬「え?」

穏乃「ん?」

憧「え、無理でしょ」

初瀬「うん、同じ県だから、阿知賀か晩成、どっちか片方しか全国へ行けない」

穏乃「あああああああ、そうだったああああああ」

憧「いや、それ忘れちゃだめでしょ」

穏乃「せっかく憧とも全国で遊べると思ったのに……」

憧「…………」

穏乃「じゃあ、憧、悪いけど晩成は全国に行けない」

穏乃「なぜなら全国に行くのは阿知賀女子だから!!」ドヤっ

憧「え、無理でしょ」

穏乃「なにおぅー」ふがっー

憧「どうどう」

初瀬「憧、言っとくけど私ら阿知賀は強いよ」

憧(そりゃあ、玄やシズがいて、その上晴絵もいるなら強いだろうねえ)

初瀬「中学校の頃、おまえと同じくらいの実力だった私が、阿知賀では、一番弱いんだぞ」

憧「え? あたしのほうがちょっとだけ強くなかった?」

初瀬「中学校の頃、おまえよりちょっと弱いかほとんど同じくらいの実力だった私が、阿知賀では、一番弱いんだぞ」

憧(言い直した!?)

憧「でもこっちには奈良県最強がいるし」

穏乃「むむむ」

初瀬「ぬぬぬ」

憧「あはは」

初瀬「あ、そろそろ行かないと」

憧「うん」

憧「じゃあまた、どこかの卓で」

穏乃「あっ」

穏乃「あこー」

憧「ん?」

穏乃「また遊ぼうなー」ぶんぶん

憧「……うん」

……

憧(シズは本当に凄いなあ)

憧(阿知賀麻雀部を復活させて、本気で全国へ行こうとしてる)

憧(……)

憧(部がない学校で部を立ち上げて、そこで仲間と一緒に全国へ目指す)

憧(そんなワクワクするような夢物語)

憧(考えるだけなら誰だって考える)

憧(でもシズは実際に行動にうつしちゃう)

憧(そこが、シズのすごいとこ)

憧(あたしだったら計算とかしちゃって、行動にうつす前に諦めちゃう)

憧(…………)

憧(ああ、シズはホントにかっこいいよ……)

憧(…………)

憧(あたしがもし、阿知賀に行っていたら、初瀬がいた場所には、あたしが立っていたのかな?)

憧(またシズと一緒に……みんなと一緒に麻雀できたのかな)

憧(……)

憧(もう迷わないって思ったはずなのに……あたしは……)

小走「おまたせー」

小走「んー、どしたー」

憧「……」

憧「いえ、なんでも……ないです」

小走「あれか? ジャージの子とその仲間か?」

憧「っ!」

憧(さすが小走先輩、鋭い)

小走「ジャージの子がさ、棚からパンを取るとき見えたんだよ……凄いマメ」

小走「ありゃ相当打ってる」

憧(シズは基本頑張り屋さんだからねえ)

小走「まあ、心配しなさんな」

小走「私は小3の頃からマメすらできない」

小走「ニワカは相手にならんよ」

憧「…………」

憧(シズ……ごめんね)

憧(あたしは、シズの夢を、全力で邪魔するよ)

憧「あの、小走先輩、明日、部活後に話したいことが……」

……

翌日、部活後

小走「で、話ってのはなんだ?」

憧「……」

憧(ごめんね、シズ、玄)

憧「……阿知賀のことです」

憧「小走先輩……阿知賀は強いです」

小走「知ってるさ。あんなんなるまで練習して、弱いわけがない」

憧「あの二人もそうですが、阿知賀のナンバーワンはもっとやっかいです」

小走「阿知賀のナンバーワン?」

憧「ええ、名前は松実玄」

憧「強者を最初に持ってくるというセオリー通りでいけば、恐らく、先鋒で出てくると思います」

小走「へえ、面白そうじゃない」

憧「そして、玄は少し特殊で……」

憧「……」

憧「信じてもらえないかもですが、玄にはドラが集まるんです」

小走「ドラが……集まる?」

憧「はい、体質のようなもので、対戦相手に一切ドラがいかず、全てのドラが玄に集まるんです」

憧「あはは、こんな話信じられないですよね」

小走「いんや、信じるよ」

憧「え? マジで?」

憧「あ、すみません」

小走「……全国クラスの化物になると特殊な能力を持った打ち手がいると聞く……」

小走「にわかなら信じなかったかもしれんが、私はそんじゃそこらの打ち手と違うんよ」

憧(そうか、先輩は一応全国の経験があるんだ……)

小走「それに、先輩は後輩の言うことを信じるもんだからね」

憧「小走先輩……」

小走「しっかし、ドラが集まるってのは相当やっかいそうね」

小走「その松実玄について、詳しく聞かせてもらうんよ」

憧「はい!」

……

小走「普通のドラはもちろん赤ドラも集まる」

小走「カンドラ、裏ドラについては不明」

憧「すみません、記憶が曖昧で……」

憧「カンドラは乗ってた気もするんですけどねえ……」

小走「そして松実玄は二年生……」

憧「はい」

小走「……先輩を呼び捨てはどうかと思うよ」

憧「じゃあ小走先輩のこともやえってよんでいいですかー」

小走「ダメに決まってんでしょーが!」

憧「あはは、冗談ですよ、冗談」

小走「……」

小走「まあ他の部員が見てないところでなら、許してあげなくもないけど……」

憧「小走せんぱーい」

小走「結局呼ばないんか!」

翌日

小走「吹奏楽部が一日でやってくれました」

憧「はい?」

憧「えっとそれ、なんですか?」

小走「麻雀のゲームだよ」

憧「はあ……」

小走「でもただのニワカ麻雀ゲームとはわけが違う」

憧(ニワカ麻雀ゲームってなんだろ……?)

小走「これは吹奏楽部が開発した、松実玄体感プログラム、『クロチャーver2.0』」

小走「相手に全てのドラが集まるようになってて、疑似松実玄と戦える」

憧(無駄にすごい……吹奏楽部って何の集団なの……)

小走「まあ本物とはだいぶ違うだろうけど、それでも何も練習しないよりはマシ」

小走「さっそく、携帯とパソコンにインストールしたよ」

憧(ここらへんが小走先輩のすごいとこなんだよなあ……勝利への努力を惜しまない)

憧(あたしは一年の中で一番練習量が多い自信あるけど、麻雀部で一番練習量が多いのは多分小走先輩だ……)

小走「これは暇つぶしで遊ぶとして」

憧(一日でそんなもん作らしといて、暇つぶしなんだ……)

小走「憧は、松実玄の弱点ってなんだと思う?」

憧「えっと……」

憧(玄の弱点……)

憧「手牌が窮屈になることですか……?」

小走「そう」

小走「確か松実玄はドラがきれないんだったね?」

憧「はい、自分でそう言ってました」

小走「だとしたら手牌が窮屈どころか、出来ない役が存在する」

憧「出来ない役?」

憧「えっと、基本リーチは出来ませんね」

小走「うん、リーチができないのは大きい」

小走「だけど他にもあるんよ」

小走「まずチャンタ系は無理」

憧「あ、そっか」

憧「大会ルールでは赤ドラがあるから」

小走「そう」

小走「そして同じ理由で染め手系も無理」

憧「チャンタはともかく、ホンイツ系ができないのはきっついなー」

小走「イッツーも難しいだろうな。ドラによっては可能だけど」

憧「結構、手が縛られるんですね」

憧(なんとなくそんな気はしてたけど、小学生だったからそこまで深く考えたこと無かったなあ)

憧(想像以上に手が狭くなるんだ)

小走「また、ドラが一九字牌の場合、タンヤオが消える」

小走「特に字牌の場合は平和も一緒に消えるな」

憧「うーわー、リーチできなくて、タンヤオ平和できないってきっつー」

小走「大分、手がしぼられただろう?」

小走「つまり、松実玄の役は主に、」

小走「ツモ、役牌、ドラが一九字牌じゃない場合タンヤオ」

小走「次に、平和、一盃口、七対子、三色ってところか」

小走「三色と暗刻は普通の人より作りやすいかもしれんが、それでも作りづらいことにかわりない」

憧(すごい……一日でここまで分析するなんて)

小走「松実玄のメインの役となるだろう、ツモ、役牌、タンヤオだが、ツモは対策のしようがないので考えなくていい」

小走「役牌は、周りの捨て牌、自分の手牌を考慮すれば、大抵は対応出来る」

小走「タンヤオはドラによっては消えるけど、それ以外だと一番注意すべき」

小走「つまりドラが一九字牌以外の場合、当然松実玄は一番作りやすいタンヤオを狙うはずだから、一九字牌はほぼ安全になる」

憧(なんだろう……話を聞いてるとあたしでも玄に勝てそうな気がして来た……)

憧(これが奈良県最強の高校生の分析力)

小走「とりあえず、松実玄、注意する役の表を作ってみた」

小走「上に行くほど気をつけるべき役」

小走「あとマイナー過ぎる役は除外してる」

小走「不完全な部分もあるかもしれんけど、これから修正していく」

小走「憧も意見があったら遠慮なく言いなさいな」

 松実玄、気をつけるべき役(暫定)

 ○要注意

 ツモ タンヤオ(ドラが一九字牌以外) 役牌
 
 ○それなりに注意
 
 平和(ドラが役牌ならほぼ100%無理、オタ風でも作りにくい) 一盃口 七対子 三色 三暗刻 対々和

 ○ほぼない

 一気通貫 四暗刻

 ○考慮する必要なし

 ホンイツ系 チャンタ系

憧(あれでも……)

憧(役牌が要注意になってるけど)

憧「玄が役牌鳴いてるの、見たこと無いのよねえ」

憧「いや、そもそも鳴いてるのをあまり見たことが無いような……」

小走「当然ね」

憧「え?」

小走「松実玄は、基本、ドラが絡まない鳴きはできない」

憧「そうなの!?」

憧「あ、間違えた。そうなんですか?」

小走「例えば、役牌をなくと、14牌のうち、3牌が固定される」

小走「残りは11牌。カンされなかったり、赤ドラと被らなかった場合、ドラは全部で8枚」

小走「ドラが8枚全部来るわけではないだろうから、あがれないことはないけど、ドラで刻子を作って赤ウーピンで対子を作るか、ドラで対子を作って、赤ウーピンで刻子を作り、残りの赤ドラで面子を作るという形にほぼ限定される」

憧「窮屈な手牌が、より窮屈になっちゃうのかー」

憧「防御の面まで考えると、とてもじゃないけど鳴けないですね、確かに」

憧「しっかし鳴けない役牌ってあんまり嬉しくないなあ」

憧(基本鳴けない、リーチできない)

憧(玄ってこんなにも穴があったのか、全然気付かなかった)

憧(多分晴絵は気付いてたんだろうけど)

憧(でも、これなら……)

憧「玄を倒せますよ!」

小走「……」

小走「ふん、当然よ!」

小走「ニワカは相手にならんよ」

小走「……」

小走「……」

……

……

小走(そう、上手くいけばいいけど……)

大会当日

憧(あたしは補欠だからおそらく出番はないけど)

憧(初戦でいきなり阿知賀か……)

憧(小走先輩達か、シズ達のどちらかが、消える)

憧(…………)

憧(あたしが晩成を選んだ時点で、遅かれ早かれこうなることはわかってたけど……)

憧(あはは、けっこー精神的にきついなー)

憧(……)

憧(もちろん、小走先輩達を応援するけど……)

憧(シズ達にも負けて欲しくないって思っちゃう……)

憧(上位二チームが全国行けるルールだったら良かったのに……)

初瀬「どどどどーしよ」

憧(この声)

穏乃「は、初瀬落ち着いて」

初瀬「なんだよ、穏乃だってびびりまくってるくせに」

穏乃「だって一回戦からあの晩成高校」

玄「大丈夫だよ、いっぱい練習して来たし」

宥「うんうん」

灼「全国行くならどのみち当たる」

玄「うん」

穏乃「そうだ……」

穏乃(全国行くのに、こんなところで、臆してどうするっ)

穏乃(気持ちを強くっ)

穏乃「よしっ!」

穏乃「晩成を倒す!!」

初瀬「切り替えはやっ!」

玄「うんうん、それでこそしずちゃんだよ」

憧(…………)

憧(…………)

……

解説「県予選一回戦スタートです」

玄「よろしくおねがいします!」むふー

小走「よろしくー」

小走(憧の予想通り、松実玄が先鋒で来た)

小走(つまり阿知賀で一番のポイントゲッターってこと)

小走(ここで私が阿知賀に対してリードを奪えば後続が大分楽になるはず……)

小走(後ろの巽達のためにも、サポートしてくれた憧のためにも……)

小走(そして自分のためにも、ここは負けられんね)

……

小走(テンパイ……)

小走(両面待ちだけど、片方が四枚見えてて、もう片方がドラ)

小走(憧の言う通りなら、これは100%あがれない待ち)

小走(普通ならリーチしてもいいところだけど、私は後輩を信じるんよ)

……

小走(よし、張り替えた)

小走「ぴっー(リーチ)」

……

玄「」かちっ

小走「ロン!」

玄「っ!」びくっ

玄「はい……」

……

阿知賀女子控え室

穏乃「今のって……」

灼「待ちも躍も増えない張り替え……」

初瀬「くろ先輩……」

宥「くろちゃん……」

灼「なんかハルちゃんが玄をいじめる時の打ち方みたいだったね」

赤土「ちょっ灼! 人聞きの悪いこと言わないでよ」

穏乃「きっと偶然ですよ!」

赤土(……)

赤土(いや、まさかね……)

……

……

小走(この牌は……)

小走(松実玄の、当たり牌の匂いがする)

小走(少し邪魔だけど取っておくか)

……

小走(ふう、なんとかテンパイ)

……

玄「」かち

小走「ロン!」

玄「ひゃっ」

……

阿知賀女子控え室

穏乃「今度は、クロさんの有効牌を止められて、あがられた!?」

灼「ハルちゃんが玄を一位から引きずりおろす時の打ち方みたいだった」

赤土「その言い方も誤解を招きそうな……」

初瀬「くろ先輩、大丈夫でしょうか……」

宥「くろちゃん……」

赤土(もしかすると晩成の先鋒は……)

……

……

小走(さっきのあがりとその前のあがり)

小走(他人からだと私が松実玄を狙い打ったように見えるんじゃないだろうか……)

小走(最初のあがりはあがれない待ちを張り替えただけだし、その次は松実玄の当たり牌臭い牌を捨てなかっただけ)

小走(松実玄からあがれたのは偶然)

小走(でも相手が勘違いしてくれるなら……)

玄「」びくびく

小走(プレッシャーをかけることができる)

小走(……)

小走(そして今回は)

小走(さっきの二回と違って本当に松実玄を狙う!)

小走(というよりこの待ちだと、自分でツモるか、松実玄からあがるかしか期待できない……)

小走(……)

小走(誰かを狙うなんて、それこそ特殊な能力がない限り不可能)

小走(でも捨て牌、ドラ表示牌、自分の手牌、松実玄の能力を考慮すれば……)

小走(松実玄、あんたの手牌、スケスケだよ!)

小走(お見せしよう、王者の打ち筋を!)

小走(名付けて、必殺『小走キングダム』)

小走「ぴっー(リーチ)」

……
……

玄「」かちっ

小走「ロン!」

玄「あひっ!」

……

阿知賀女子控え室

穏乃「そんなっ、また……」

宥「くろちゃん、さむそう……」

灼「これで三連続……さすがにハルちゃんもここまで意地悪じゃない」

赤土(もう突っ込まないぞ……)

赤土「間違いない。晩成の先鋒は玄にドラが集まることを知っている」

初瀬「ウソッ!?」

穏乃「そんなっ! でもどうして?!」

初瀬「あ、そういえばくろ先輩も阿知賀こども麻雀教室にいたとか……」

穏乃「あーーーー、それだ!!」

穏乃「憧のやつめー、クロさんのことを話したんだ!」

赤土「まあ敵なんだから当然だな」

灼「真剣勝負だから仕方ないよ」

赤土「でもそれだけじゃない」

穏乃「?」

赤土「ただ知っているだけでは、あんな打ち方はできない」

赤土「恐らく、相当研究してきてる」

赤土「玄対策を、かなり徹底的にやってきたはずだ」

赤土「例えば、玄の打ち筋を体感できるようなプログラムを作って練習するとか……」

穏乃「ぷろぶれむ???」

灼「ハルちゃん、なにいってるの?」

赤土「…………」

赤土「そもそも、ドラが集まるなんて言われて、普通信じるだろうか」

穏乃「そういえば和は結局最後まで認めませんでしたね」

穏乃「まあ和は少し頑固なところありますけど、たはは……」

灼「確かに……相手にドラが集まる雀士がいる、なんて言われても普通は信じない」

宥「うん……」

初瀬「常識で考えたら普通は信じませんよね」

初瀬「私も阿知賀に来てなかったら、そんなこと言われても、多分信じませんでした」

赤土「でも晩成の先鋒は憧の言うことを信じた」

赤土「憧の話を信じて、その上で対策を立てて来た」

穏乃「後輩の話にも耳を傾ける、器の大きい先輩ってことなのかな」

赤土(もしくは憧の方が信頼に足る後輩だったか……)

赤土「それにだ、普通は阿知賀対策なんてしない」

穏乃「??」

赤土「晩成の全国出場を一度阻止したことがあるとはいえ(ドヤ)、ここ数年は大会にエントリーすらしていない」

赤土「そんな高校の、対策なんてわざわざしてくるだろうか?」

初瀬「ふ、普通はしませんね」

赤土「それも恐らく憧が話したんだろうな、『阿知賀は手強い』って」

穏乃「くっそー、また憧のやつめー」

穏乃「でも強いって言われたら悪い気はしないなー、なんて、うぇひひ」

赤土「晩成と当たる前に敗退してもおかしくない戦うかどうかもわからない高校を倒すために、今年入学したばかりの後輩が話す、ドラが集まるなんていう眉唾な話を信じて、きっちり対策をたててくる」

赤土「晩成の先鋒は、」

赤土「ただ者じゃない」

赤土「……」

穏乃「きっと後輩のことを信頼する情の厚い先輩なんだ」

初瀬「あらゆる可能性を考える人ってことでしょうか……?」

宥「すごくつよそう……」ふるふる

灼「詐欺とかに簡単にひっかかりそう」

穏乃「でもそんな凄い人と今、クロさんが戦ってる……」

宥「あったかくない……」

赤土「大丈夫だ、玄を信じろ!」

初瀬「でも……」

赤土「この阿知賀のレジェンド赤土晴絵が言うんだ、間違いない!」キリッ

初瀬「…………」

灼「わずらわし……」

赤土(晩成の先鋒さん、玄は公式戦の牌譜もないのに、憧の話だけでよくそこまで対策をたてたよ)

赤土(でもそこまで研究してるのなら、玄がそんな簡単に倒せる相手じゃないってことも、よくわかってるんだろ)

赤土(あとは玄、あんた次第だよ)

赤土(気持ちを強く持てば必ず……)

…………
……

玄(ううう……)

玄(みんなの点棒とられちゃった……)

玄(なんか晩成の人こっちチラチラみてるし)

玄(狙われてる気がするよ……)

玄(……)

玄(うううん、弱気になっちゃダメ!)

玄(まずは落ち着かなきゃ)

玄「ふっー」

玄(深呼吸、深呼吸)

玄(うん、少しだけ、落ち着いた)

玄(…………)

玄(阿知賀は今四位)

玄(でも序盤だから、一位の晩成とそう点差があるわけじゃない)

玄(……)

玄(よしっ)

玄(相手が強くて、逃げ出したくなるけど)

玄(みんなで全国に行くって決めたから……)

玄(必ず勝たなきゃ!)

玄(みんな! がんばるよっ!)

……

……

小走(手が悪い……)

小走(ここは松実玄に注意しながらのオリ)

……

玄「ロン! 16000です」

小走(他からあがられたか……)

小走(これで阿知賀が息を吹き返した)

玄「」むふー

……

阿知賀女子控え室

穏乃「やったー、これで二位浮上だー」

灼「くろにはこれがある」

宥「くろちゃんすごい」

赤土(そうだ、それでいい)

赤土(あそこまで玄対策を立ててきてる晩成から直撃をとるのはほぼ不可能)

赤土(でも麻雀は二人でやっているわけじゃない)

赤土(晩成からあがるのが無理なら、他からあがるか、自分でツモればいい)

初瀬「たったの一撃で今までのマイナス分を取り返しましたね」

赤土「そう」

赤土「くろの長所は、その打点の高さ」

赤土「二回殴られる間に一回殴り返せば、十分点棒を取り返せる」

赤土「手は早くないが、その欠点をカバーできるほどの一撃の威力の高さ」

赤土「ポ○モンでいう、鈍足重火力アタッカーだ」

灼「なんでポケ○ン……?」

宥「赤土先生ェ・・・」

初瀬「カビ○ンや、ロー○シンみたいってことですか?」

穏乃「うわー、相手にはしたくないですね」

穏乃「くろさんが味方でよかったー」

赤土「その威力の高さにくわえて、相手の打点が低くなるのも、玄の強みだ」

赤土(さて、どうする、晩成の先鋒さん?)

……

小走「ポン」

小走「チー」

小走「チー」

小走「ロン!」

……

阿知賀女子控え室

穏乃「はやっ!」

灼「でもやすい」

赤土(なるほど、速攻できたか)

赤土(手が遅くなりがちな玄に対して、速攻はシンプルにして有効)

赤土(誰もが一度は考える玄対策だな)

赤土(でも晩成の先鋒は、そのリスクも承知しているはず)

赤土(積極的に鳴くということは、その分防御が薄くなる)

赤土(普通に打っていれば晩成は、玄にふりこむことはない)

赤土(けれど、速攻をしかけて防御が薄くなっている状態なら、ふりこむ可能性がでてくる)

赤土(速攻をしかけず、普通に打てば晩成は、ほぼ確実に二位以上で次鋒に繋ぐことが出来る)

赤土(他の二校の玄対策ができておらず、全く対応できてないからだ)

赤土(最初から壁があることに気付いていないのは痛過ぎる)

赤土(晩成が速攻をしかける場合、一位で次鋒に繋ぐ確率は、普通に打つよりもあがるが、三位以下になる可能性もでてくる)

赤土(玄から直撃を受けるかもしれないからだ)

赤土(そのリスクを考えた上に、大会という大舞台で速攻という戦法を選ぶ晩成の先鋒……)

赤土(ハートが強い子だな)

灼「なんかハルちゃんが一人でニヤニヤしてる……」

…………
……

小走「ロン」

玄「ツモ」

小走「ツモ」

小走「ロン」

小走「ロン」

玄「ツモ」

……

……

小走(まずい……追いつかれた)

小走(一撃がもの凄い超火力)

小走(さらに、ドラがないこちらの打点が低くなる)

小走(だから点の取り合いになるときつい……)

小走(わかってた、そんなことはわかってた……)

小走(けど……)

小走(まさかここまでとは)

小走(本物の松実玄は、予想以上に強い……)

小走(これ以上無理をすると、ふりこむ可能性がでてくる……)

小走(かといってこのまま続けても押し負ける……)

小走(だけど私が試合を壊してしまうわけにもいかない……)

小走(…………)ぎりぎり

……

阿知賀女子控え室

赤土(いいぞ玄、その調子だ)

赤土(そのまま、お前の麻雀をすればいい)

赤土(対策の穴をぬけるとか、そんな器用な真似できないし、する必要もない)

赤土(ただただ、ゴリ押せ)

赤土(相手の対策とか関係なく)

赤土(その圧倒的な火力で)

赤土(力でねじ伏せろ)

……

……

小走「ロン」

小走「ツモ」

玄「ツモ」

…………
……



先鋒戦終了


阿知賀 143600
晩成  131400

……

……

憧(そんな……小走先輩が負けるなんて……)

憧(誰よりも真剣に、誰よりもひたむきに麻雀と向き合って)

憧(玄対策も、過剰なほど取り組んで……)

憧(あんなにも努力してたのに……)

憧(それでも玄には届かないの?)

憧(一万点差以上……はなされた……)

憧(…………)

憧(うううん、まだ試合は終わったわけじゃない)

憧(他の先輩達だって、小走先輩ほどじゃないけど強い!)

憧(阿知賀がもし、玄だけのワンマンチームだったらいける!)

憧(…………)

憧(ワンマンチームだったらか……)

憧(…………)

……

宥「ツモ」

……

初瀬「ポン」

……

灼「ロン」

……

穏乃「ツモ」

…………
……



阿知賀 153600
晩成  148600



解説「決着ーー! 阿知賀女子、一回戦突破!!」

解説「優勝候補の晩成高校の10連覇を阻止!」

憧(あはは……)

憧(なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ)

憧(こんなの……こんなのって……)

憧(うそ……でしょ?)

憧(晩成が負ける……なんて……)

憧(ありえない……)

憧(あたしは……全国に行く為に、麻雀が強くなるために……シズ達と一緒に麻雀する道を捨ててまで、晩成にきたのに……)

憧(こんなことなら……)

憧(こんなことなら……)

憧(…………)

憧「ぅ…………」

憧「ああああああああ」

憧「ぁぁぁぁ……」

憧「うううああああ」

憧「あああ………」

憧「くそ、くそ、なんなのよこれ……」

憧「ぅぅぅ……」

憧「…………」

憧「……あっ……ん?」

憧(あれは……)

晴絵「まずは一回戦突破おめでとう」

穏乃「いやー危なかった」

玄「手強い相手だったねー」

穏乃「クロさんが最初で点数を稼いでくれたお陰ですよ」

宥「くろちゃんえらい」

玄「えっへんなのです」

灼「最初はひやひやしたけどね」

玄「あうううう」

初瀬「……」

初瀬「私だけ……晩成に稼ぎ負けてすみません……」

玄「うううん、初瀬ちゃんはよくやってくれたよ」

穏乃「そうだよ、一応はプラスだったんだし」

灼「うん」

宥「うんうん」

初瀬「……みんな、ありがとう」

初瀬「次は頑張ります」

穏乃「うんうん、その意気その意気」

初瀬「なんだよ、穏乃だって後半危なかったくせに」

穏乃「いやー、あれはー」

「「「「あはははは」」」」

憧「…………」

憧「…………」

憧「…………」

…………
……

…………
……

憧(あー、なんだろう)

憧(最近何事にもやる気が起きない)

憧(勉強はもちろん)

憧(麻雀すら部活以外で練習してない)

憧(学業成績も落ちて来てるし、部内の順位も下がって来てる)

憧(まあ原因は、なんとなくはわかるけど……)

憧(わかったところで……ねえ……)

憧(…………)

憧(あのあと、阿知賀は全国行きを決めた)

憧(まあ晩成に勝つくらいだから当然か……)

憧(…………)

憧(麻雀も人生も、『たられば』を言っても仕方ないけど)

憧(どうしても考えずにはいられない)

憧(この状況で、考えないようにするなんて無理だ)

憧(あたしが……晩成じゃなく……)

部員A「あ、それロンです」

憧「あ、はい……」

小走「……」

……

小走「憧、ちょっといいか」

憧「はい、なんですかー」

小走「その……実はな……」

小走「……」

憧「どうしました? 歯切れが悪いですね、小走先輩らしくないですよー」

小走「あんたは私のことなんだと思ってるんだ?」

憧「あはは、すみません」

小走「来週、阿知賀と壮行試合をすることになった」

憧「っ!」

憧「そっ、そうなんですかー、へー」

小走「それで、あんたはどうする?」

憧「え? どうするとは?」

小走「実力的には阿知賀の練習相手として申し分ないと思ってる」

小走「けど阿知賀には、色々思うところあるんじゃないの?」

小走「だから参加してもいいし、休んだっていいよ」

憧「あたしは……」

憧「…………」

憧「……」

憧「不参加で……」

小走「……」

小走「そうか……」

小走「……不甲斐ない先輩ですまんな」ぼそっ

憧「え?」

小走「いや、なんでもない」

小走「ま、気が変わったらいつでも言いなさいな」

憧「はい……」

……

憧(はあ……どうして断っちゃったりしちゃったんだろ)

憧(あたしって自分が思うよりずっとバカだったのかな……)

憧(自分がしたいことすらわからないや……)

憧(シズ達に会いたいって思う自分もいるし)

憧(会いたくないって思う自分もいる)

憧(……)

憧(全国に行くために晩成に来たのに、全国行きを決めたのは阿知賀)

憧(妬み憧れ悔しさ恥ずかしさ悲しさ後悔、色んな感情がぐちゃぐちゃで、自分でもわけわかんない)

憧(あたしはきっと、素直におめでとうって言ってあげれない……)

憧(……)

……

一週間後

憧(昨日が阿知賀との壮行試合だったらしけど、どうだったんだろ?)

憧(小走先輩に聞いてみようかな)

憧(……)

憧(あはは、こんなに気になるんだったら、参加すればよかったのに……)

憧(…………)

憧(いつだって手遅れになってから後悔するんだ……)

小走「……」

……

晩成高校、校門前付近

赤土「よう、憧じゃないか、奇遇だな」

憧「晴絵?! どうしてここに」

憧「……ってか、なにが奇遇よ。校門前じゃない!」

赤土「ははは、まあほんとはお前のこと待ち伏せしてたんだけど」

憧「もしもし警察ですか、ストーカーが――」

赤土「おいおい、なんか最近、教え子が私に冷たいんだけど……」

赤土「まあどっかで飯でも食いながら話さないか」

憧「もちろん、晴絵のおごりね」

赤土「300円までな」

憧「小学校の遠足かっ!」

……

……

憧「とりあえず、阿知賀の県予選突破おめでとう」

憧「しっかしホントにうちら晩成を倒して、全国に連れてっちゃうなんてねー」

憧「さっすが阿知賀のレジェンドね」

赤土「私は特になにもしてないさ」

赤土「しず達が頑張っただけだ」

憧「あはは、すごいなあ……」

赤土「憧は……」

赤土「昨日いなかったみたいだが、どうしたんだ?」

憧「ちょっと体調悪くてねー」

赤土「しず達は、憧に会えるって楽しみにしてたから、残念がってたぞ」

赤土「まあ体調悪かったんじゃ、しょうがないけど」

憧「あたしも……会いたかったよ」

赤土「そうか」

憧「…………」

憧「…………」

憧「…………ほんとは……」

憧「体調悪かったってのは嘘……気付いてただろうけど」

赤土「まあな」

憧「なんか、顔会わせづらくてさ……きっと嫉妬してるんだと思う」

憧「全国に行く為に晩成を選んだのに、阿知賀に負けちゃうなんて、あたしってピエロだよ」

憧「恥ずかしくて、みじめで、どんな顔でシズ達に会えばいいのかわからない……」

赤土「あこ……」

憧「……」

憧「ねえ、晴絵、あたしが晩成を選んだのは間違いだったのかな?」

憧「晩成じゃなく、阿知賀に行ってたら、シズ達とも一緒に麻雀ができて、みんなで全国にも行けたのかな」

赤土「わからない」

赤土「私にはなにが正しくて、なにが間違っていたのかなんてのは」

赤土「それを決めるのは憧、お前自身だ」

憧「ははは、厳しいなあ」

赤土「晩成に行ったのが間違いだったなんてお前がそう思ってしまったら、本当にそうなってしまうぞ」

憧「ごめん、ちょっと言ってる意味がよくわからない……」

赤土「……」

赤土「これは言わないで欲しいって言われてたんだがな、まあいいか」

赤土「今日、私がお前に会いに来たのは、私自身が憧のことを心配だったのもあるが、頼まれたからだ」

憧「頼まれた? 誰に?」

赤土「えっと、名前なんて言ったっけ? 右と左が非対称なヘンテコな髪型してる、晩成の先鋒」

憧「小走先輩!?」

赤土「そうそう、小走やえ。そいつがな、『私では憧の力になれない……だからあなたが憧の相談にのってやってくれませんか』みたいなことを私に言ってきてな」

赤土「『後輩の期待にも応えられない、悩みも聞いてあげられないダメな先輩』だと嘆いてたなあ」

赤土「今どきあんなに後輩思いな先輩は中々いないぞ」

憧「……ったく、あの人は……もう……」

憧「ダメな……先輩……なんかじゃないのに……」

憧「いつだってかっこよくて……厳しいけどやさしい……」

憧「そんなあたしの自慢の先輩なのに……」

憧「…………ぅぅぅあああ」

憧「ぅ……ぅ……」

憧「ごめん、晴絵……なんか涙とまんないや……」

晴絵「よしよし」

晴絵「辛い時は泣けばいい、悔しい時は叫べばいい」

晴絵「その悲しさ、悔しさが、次の一歩への糧になる」

憧「……なにちょっとかっこいいこと言ってんのよ……」ぐすっ

晴絵「これでもお前らの先生だからな」

晴絵「なあ憧、これだけは言っておく」

晴絵「お前がどこに行こうが、どんな立場になろうが、お前は私の教え子だ」

晴絵「そして、お前がなにをしようが、どこの生徒になろうが、シズ達は、阿知賀こども麻雀クラブの仲間だ」

晴絵「だから」

晴絵「いつでも遊びに来い」

晴絵「阿知賀女子、麻雀部へ」

憧「……」

憧「あたしが晩成の生徒でも、遊びに行って……いいの?」

晴絵「もちろんだ!」

憧「……でも、阿知賀はもうすぐ全国行くから、遊びに行っても誰もいないよね」

晴絵「……」

憧「……」

晴絵「あ……そういえばそうだった、あはははは」

憧「いや! 忘れちゃだめでしょ! それ!」

憧「もう、晴絵は、肝心なところで決まらないんだから」

憧(でもありがと)

憧(元気でたよ)

……

三月

憧「こっばしりせんっぱーい」

小走「あ、憧かっ」

憧「卒業おめでとうございまーす!」

小走「ふんっ、当然よ」

小走「私くらいになると、卒業なんてたわいない」

憧「いや、逆にたわいあったら困ると思うんですけど……」

憧「ていうか、もしかして今泣いてました?」

小走「な、泣いとらんわ!」

小走「わ、私は小3の頃から血も涙もない……」

憧「それ、ただの冷酷な人じゃないですか……」

小走「……」

小走「それよりも私らがいなくなった麻雀部が心配だよ」

憧「あー、まあ主力メンバーほとんど卒業しちゃいますからねえ」

憧「でも、まー、なんとかなるんじゃないですかー」

小走「適当だなおい」

憧「大丈夫ですって、巽先輩もいますし」

憧「あたしらに任せてください」

小走「不安しかないけど、しかたないね」

小走「私らの麻雀部、あんたらに託すよ」

憧「はい!」

小走「…………」

小走「その……なんだ……」

小走「……私はあまり、目標となれる先輩じゃなか……」

憧「なにーいってんですか」

憧「小走先輩は、いつだってかっこよくて、強くて厳しく、少し不器用だけどやさしくて」

憧「ずっとずっと、あたしの憧れでした」

小走「…………」

小走「……ふんっ、当然よ!」

憧「あれれ、小走先輩、やっぱり泣いてません?」

小走「だから泣いとらんよ!!」

憧「あはは」

小走「わーらーうーなー」ぐにぐに

憧「ちょっ痛いです。小走先輩」

憧「ほっぺたつねらないでくださいよー」

小走「もう、こいつめ」

……

憧(ねえ小走先輩)

憧(あたしは弱いから、今でも迷ったり、立ち止まったりします)

憧(悩みだっていっぱいあるし、心が折れそうになることだってあります)

憧(あーすればよかった、こーすれば良かった)

憧(そんな後悔ばかり)

憧(でも)

憧(これだけは、はっきり言える)

憧(あたしは、)

憧(晩成に来てよかったです!!)

憧(だからあなたから貰った色んなもの)

憧(あなたが教えてくれた強さや、やさしさ)

憧(次の世代に繋いでいけるように、あたし頑張るから、見ててください!)

……

…………

県予選会場

部員C「そんなあー、阿知賀と同じブロックなんてー」

憧「なーにかたくなってんのよ!」

部員C「あ、新子先輩!」

憧「そうでーす、新子憧でーす」

部員C「『新子憧でーす』じゃないですよ!」

部員C「唐突に自己紹介してる場合じゃないですって!」

部員C「同じブロックの阿知賀は、去年うちらを倒して、全国決勝まで行ってるんですよ」

憧「だいじょーぶだいじょーぶ」

憧「心配しなさんなって」

部員C「はあ……」

憧「このあたしは、小さい頃から、麻雀一筋」

憧「ニワカは相手にならんよ」


カン

おまけ

晴絵「おいおい、阿知賀はにわかじゃないぞ」

憧「おっとっと!」

憧「誰かと思えば」

憧「赤土晴絵とその一味!」

穏乃「おやおやー」

穏乃「そっちこそ誰かと思えば」

穏乃「我が宿敵! 晩成高校じゃあ、ありませんかー」

灼「え? なにこのノリ?」

玄「あはは」

初瀬「あこー、お前なんで最近遊びにこないんだよー」

憧「いやいや! 大会近いのに、ライバル校に普通遊びに行かないでしょ!?」

玄「そういう常識を超えてくるのが憧ちゃんなのです」

赤土「そうだな」

灼「うん」

憧「あんたらはあたしになにを求めてやがりますかっ!」

玄「しずちゃんも憧ちゃんが来ないから寂しがってるのです」

穏乃「あ、ちょっと、くろさんっ!」

憧「えー、そうなのーシズぅー?」

穏乃「別に寂しがってなんかないからなっ!」

憧「なにこのツンデレかわいい」

穏乃「つ、つんでれ?」

穏乃「また私をバカにしてえええええ」

穏乃「あこおおおおおおおお」

憧「あはは、シズが怒った」

穏乃「このっ、このこの」べしべし

憧「あはは、いたいっ、いたいって」

玄「あれは怒ってるというより照れてるのですー」

灼「うん」

初瀬「大会前だってのに、緊張感ないなー」むすー

玄「さっき、なんで遊びに来ない?って聞いた人の発言とは、とても思えないのです」

穏乃「こちょこちょ」

憧「あはは、ちょ、くすぐりはずるいって」あはは

穏乃「うりゃうりゃー」こちょこちょー

灼「あれ、誰か止めなくていいの?」

玄「二人とも、すごく楽しそう」

初瀬「くろ先輩、もしかして混ざりたいとか思ってないですよね?」

赤土「おい、二人とも、他の選手達がどん引きしてるからそろそろやめろ」

穏乃「はーい」

憧「あはは、苦しいっ」はー、はー

玄「憧ちゃん、試合前なのにもう疲れてるけど大丈夫かな?」

灼「これで晩成のエースを潰した」

憧「潰れてない、潰れてないから」

灼「残念」

穏乃「憧、そろそろ私ら行くよ」

憧「うん」

穏乃「よしっ」

穏乃&憧「全国で会おう!」

初瀬「いや……だから、どっちか片方しか行けないんだって……」

穏乃「冗談、冗談だよ」

穏乃「さすがにわかってるって」

憧「うんうん」

灼「紛らわし……」

穏乃「じゃあ、憧、勝っても負けても恨みっこ無しで」

憧「とーぜん」

穏乃「私ら阿知賀が、晩成を倒して」

憧「あたしら晩成が阿知賀を倒して」

穏乃&憧「全国へ行く!」



カン

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