【モバマスSS】遅咲きの山桜【藤原肇】 (18)

藤原肇さんのデレステSSRを記念して書いたSSです。

昨日投稿した「ただひとつの器、かたちづくる手」(P視点)の肇視点Verになります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477233758

私の色が届くように、歌声に想いを乗せて。

激しくは踊れないけど、ひとつひとつのステップに気持ちを込めて。

ステージから見渡せば歌声に合わせて揺らめく光の海。

身を焦がすような照明にも負けないファンの皆さんの歓声。

私は今、故郷である岡山のステージで、初めてのソロライブに身を投じています。

初めての地元での講演、初めてのソロライブと初めて尽くしだったこともあって、ライブが始まるまでは普段よりも緊張していました。

けれど、ステージに上がってファンの皆さんの熱意を受けたとたん、緊張はその熱で溶かされてしまい、力いっぱい歌い、踊り、話すことに夢中になってしまいました。

そして、夢のような時間は過ぎるのが早いもの。

最後の曲を歌い終えた私は、万雷の拍手の中お礼を伝え、ステージ裏へと向かいました。

「お疲れさま。初めてのソロライブはどうだった?」

拍手をしながら私を迎えてくれるプロデューサーさん。

その笑顔を見ていると、ステージで感じた、話したいこと、伝えたいことが無数に湧き上がってきました。

「はい!ホールという器にファンの皆さんの心が満ち満ちているようで、なんだか私、感動してしまって…!それに、窯の火が爆ぜるような歓声…!ああ、とにかく凄くって!」

「どうどう、少し落ち着け。ほら、水」

「あ、ありがとうございます(コクコク」

「アンコールが残っているけど、すぐに行けるか?」

「大丈夫です!皆さんの期待に応えたい気持ちが溢れていますから!」

「よし、それじゃあラスト、行って来い」

プロデューサーさんに背中を押され、再度ステージへと駆け出します。

まだまだ伝えたりないけど、それはライブが終わってから。

まずは私を呼んでくれているファンの皆さんに、私の歌を届けに行こう。

『今日は私のソロライブにお越しいただき、誠にありがとうございました。次が本当に最後の曲になります。静かに…聴いてください。ただ実直に…その胸深くまで届けます』

「プロデューサーさんに積ませてもらった経験を、ひとつひとつ練りこんで…。唯一無二のアイドルの色…ようやく私にも宿りました!時間をかけて染めた深い色…。大事にされた分、より私らしくなれた気がします!」

「アイドルも陶芸も…同じなんですね。すべては、この感動を生むために…」

「それに、この衣装もとても素晴らしかったです!総天然色…。心地よい風合い…。波打つ紋様…。ちゃんと着こなせていたでしょうか」

ライブ終了後、控室に戻った私は衣装から着替えることも忘れ、プロデューサーさんに語りかけました。

頷きながら、笑顔で私の言葉を聞いてくれるプロデューサーさんに、私が感じた想いが少しでも伝わるように。

「今日は本当に良いステージだった。頑張ったな」

「はい!私の色、備前の心、ファンの皆さんに届けられたと思います!」

プロデューサーさんのおかげで、どうにか見栄えのする色合いになれた私。

でも、それだけではまだ途中。これから私は、すべてを汲まなければいけないんでしょう。

ファンの希望、期待、そして注がれる想いを。

ささやかな自分が満ちた時、どんな風に輝けるのか。

それを思うと心が躍るようで、ライブが終わったばかりだというのに、次のライブに挑みたくて仕方がありませんでした。

スタッフさんたちへの挨拶を終え、名残惜しみながらステージ衣装から普段着に着替えます。

プロデューサーさんが車を回してくれているのを待つ間に携帯電話の電源をつけると、普段よりも時間をかけて受信するいくつかのメールが。

ライブを見に来てくれた同郷の後輩アイドルである悠貴ちゃん、それに両親からでした。

悠貴ちゃんのメールはいつも絵文字が多くてかわいらしいのですが、今日のメールはいつも以上に沢山の絵文字でデコレーションされていて、ライブの感想を彼女らしい弾ける感性で書き綴ってくれていました。

直接話せればよかったのですが、もう会場から自宅への帰り道とのこと。

私はメールを打つのが遅いから、宿に戻ってからしっかりお返事しなくちゃ。

両親からのメールも読み終えたところで、タイミングよくプロデューサーさんが迎えに来てくれました。

「さて、宿に戻ってゆっくり休むとしようか。明日は一日オフにしてあるから、肇の家に寄ってから帰るのもいいかもしれないな。ご家族は今日のライブを見に来てくれたんだろう?」

「はい、携帯に両親からのメールがありました。素敵なステージだったと…。わずかながらの親孝行になったでしょうか?」

「娘の晴れ舞台を喜ばない親は居ないだろうさ」

「ふふ、ありがとうございます。それと、両親は仕事のためそのまま九州へ向かうそうです」

「そういえば肇のお父さんはあちこち飛び回るお仕事をされているのだったな」

「今日のライブは絶対に見に行くと、何とか休みを合わせてくれて。本当はおじいちゃ…祖父にも来て欲しかったのですけれど、行くつもりはない、と言っていたと母が…」

「…そうか」

おじいちゃんはアイドルになることを認めてくれたけれど、両親のように積極的に応援してくれている訳ではないのでしょう。

ただ、今回のステージでは、何かを掴めたような感覚がありました。

それを表現する器も、今なら創れるかもしれない。

それを見せることが出来れば、どんな言葉よりもしっかりと、おじいちゃんに納得してもらえるはず。

「…あの、プロデューサーさん。明日なのですが、私の実家に寄らせてもらえますか?」

「ああ、勿論それは構わないが…お爺さんと話しに行くのか?」

「いえ…工房で器を創りたくて。今の私に出来る全てを祖父に見せたいんです」

「なるほど…分かった。ただ、明日中には岡山を出る必要があるからな」

「大丈夫です。イメージは…出来ていますから」

プロデューサーさんにはそう言ったものの、陶芸から離れて久しく、そして作業ができる時間は限られています。

ライブで疲れ切っているはずなのに、その日は中々寝付けませんでした。

取り組める時間が多いに越したことはありません。

プロデューサーさんにお願いして朝早くから実家に向かってもらうと、家には珍しく鍵がかかっていました。

「おじいちゃんの車が無い…出かけているみたいですね」

「アポイントも取らずに来たのはまずかったかな?」

「ふふ、大丈夫ですよ。着替えてきますので、少しだけ待っていてもらえますか?」

いつもの場所に置いてある鍵を取り、久しぶりの自分の部屋へ。

箪笥に仕舞ってある作務衣を着て、頭にはてぬぐいを。

鏡を見ておかしいところが無いか確認し、最後に一つ気合を入れてプロデューサーさんの元に戻りました。

「肇のその恰好は久しぶりに見るな」

「土をこねる時は、作務衣に限ります。トレーニングウェアのようなもので」

ライブに臨むアイドル衣装、とはとても言えないでしょう。

この格好で窯に入り、灰をたくさん浴びるようなこともあるのですから。

「では工房に行きましょうか…退屈かもしれませんが、見守っていてくれますか?」

「ああ、邪魔にならないなら、是非見学させてくれ」

プロデューサーさんも一緒にいかがですか、と土練りから一緒にやってみましたが、思いのほか早い段階でプロデューサーさんは降参してしまいました。

「すまん、ギブアップだ…明日は間違いなく筋肉痛だな」

「練りは慣れないと大変ですから。こねかけのものは私の土に混ぜてしまいますね」

バラツキが出た土を、再度均等になるように練り上げていきます。

「ふふっ、これもプロデューサーさんとの合作になるのでしょうか」

そんなことを嘯きながらも、作業は真剣に。

土との久しぶりの対話を楽しむだけでなく、出来上がりをイメージしながら…

「祖父によくこう言われていました。『土を見ろ。土と向き合え。そして、手のひらに思いの丈を込めて、土を練れ』と。アイドルになる前も、その教えに忠実にやっていたつもりでしたが、少し土から離れていたことで、その言葉の意味がより深く理解できたかもしれません」

荒練りから菊練りへ。イメージする器のための土は出来上がりました。

ですが、作業が順調なのはここまででした。

練り上げた土をロクロに乗せ、イメージを指先から土へと伝えます。

頭にはしっかりイメージは出来ているのに、私の指は思うように動いてくれません。

「プロデューサーさんと出会って…衰えたとは言わせたくないから。昔のやり方を思い出すだけじゃ…。思い出して、さらに…超える…」

っく、また縁がイメージする姿とは別の形になってしまいました。

失敗作をロクロから降ろし、次に向けて集中を高めます。

頭をよぎる悪いイメージに捕らわれないように。

「まだ…まだ手は休めません。つぎこそ最高の器を……」

「肇、ちょっとストップ」

じっと見守ってくれていたプロデューサーさんが、ハンカチで汗だらけの額を拭ってくれました。

「あ…ありがとうございます。ステージ並みに緊張していて」

「気合が入っているのは分かるが、打ち込みすぎじゃないか?」

確かに工房に入ってから、ずいぶん時間が経っています。

「…そうですね、根を詰めすぎたかもしれません。少し休憩しましょうか」

工房から自宅へ向かい、プロデューサーさんには縁側で待っていただきました。

湯呑にお茶を注いで二人分用意しましたが、自分の分には手を付けず、晴れ渡る空を見上げ、誰にともなく呟きます。

「イメージは…出来ているんです。アイドルになる前の私では創れなかった器が、今ならきっと…」

もっとイメージを…。仕上がりが見えれば、理想の形もわかるはず。

考え込んでいると、プロデューサーさんがまた私の額を拭ってくれました。

「あ…泥でもついていましたか?」

「いいや。…なあ肇、最初のダンスレッスンの時のこと、覚えているか?」

「それは勿論…あっ」

それはアイドルになりたてで、ダンスを成功させるイメージすらできない私に贈られたアドバイス。

「今の肇は、あまり楽しそうには見えなくてな。真剣なのはいいことだけど…」

「できたときのことを思いながら、失敗すらも楽しんで……ふふ、大事なことを忘れていました」

「よかった、肇が覚えていてくれて」

ホッとしたような顔を見せるプロデューサーさん。

忘れる訳ないです。あなたがプロデューサーで良かったと、最初に感じた日なのですから。

「やっぱりプロデューサーさんは凄いです…私の不安も拭い去ってくれるのですから」

じっと見つめると、プロデューサーさんは目を逸らしてしまいました。

逸らされた視線の先に回り込もうとすると、そちらからちょうどおじいちゃんの愛車が見えてくるところでした。

「なあ肇、あれってもしかして…」

「おじいちゃんの車ですね」

車から降りてきたおじいちゃんは、珍しいことにスーツ姿でした。

何か大きな会合でもあったのかな。

おじいちゃんが作務衣以外を着ているのは久しぶりに見る気がします。

「なんじゃ、帰って来とったのか」

「うん、ただいま、おじいちゃん」

「どうも、ご無沙汰しております」

「…よう来たの」

普段よりもちょっと照れたようなおじいちゃん。やっぱりプロデューサーさんを気に入ってくれているのかな。

「その恰好、工房に入っとったんか」

「うん。ねえ、おじいちゃん。今から創る器、見てもらえる?」

「…ああ、出来たら声かけぇ。ちぃと疲れとるから居間におる」

そう言っておじいちゃんは家に入ってしまいました。

出来れば創るところも見ていて欲しかったけど、確かに少し疲れている様子でしたし、無理は言えませんね。

工房へと向かう私の足取りは、出る時と比べてとても軽いものでした。

改めて土を練り直し、ロクロへと向き合います。

プロデューサーさんの教えは、きっと、この器にも息づくはず…

指先を通して土に想いを伝えると、ひとつの器がかたちづくられました。

「できました。あがいて、もがいて、一度は陶芸から遠く離れて、やっとつくれた器…。これが藤原肇の新しい形です」

「相変わらず、色合いはそんなに華やかではないかもしれません。離れていたから形もいびつですし、曲線も慎ましやか。おじいちゃんには、100点はもらえないかも……」

「でも、魂を込められました。伝わりますか。プロデューサーさんは正しいと、証明しましたよ。アイドル魂のこもった器は、決して揺らぎません!」

プロデューサーさんも出来上がった器を見て、目を輝かせてくれました。

うん、この器ならきっと大丈夫。

「焼くときの場所や薪の量ももう考えてあるんです。次に窯に火を入れる時にはスケジュールをあけておきたいのですが…大丈夫でしょうか?」

「ああ、日程が分かったらできるだけ早めに教えてくれ」

「ありがとうございます!土も残っているし、他にもいくつか創っておこうかな…ねえ、プロデューサーさん、新しいお茶碗、欲しくありませんか?」

「肇が作ってくれるのなら、是非欲しいな」

「ふふ、分かりました。渡せるのは数か月後になりますけど、期待していてくださいね!」

ちなみにプロデューサーさん用のお茶碗だけでなく、私の分も創るつもりです。

だって、アイドルとプロデューサーは…夫婦茶碗のようなものなのですから。

おじいちゃんを工房に呼び、創った器を見てもらいます。

器をみたおじいちゃんは少し驚いた顔をして、それからニヤリと笑うと

「少しは殻を破れてきたみたいじゃな」

なんて評価してくれました。

「焼く場所はもう決めとるのか」

「うん、前にオーディションに持って行った器を焼いた辺りしようと思って。窯入れの時にはお休みをもらって、また帰ってくるから」

おじいちゃんに認めてもらえたのが嬉しくて、つい強気なことを言ってしまいます。

「見ていて、おじいちゃん。藤原の窯に、新しい風を吹かせてみせるから」

「ふん、ひよっこが生意気な。お前も昨日言うとったじゃろ。『窯焚き一生』とな。まだまだこれからじゃ」

「…え、昨日って…もしかして…」

確かに昨日のライブのMCで、そんなことを言いました。それってつまり…

私の反応を見て、しまった、という顔をするおじいちゃん。

「…何でもない、忘れぇ」

「…ふふっ、次からはチケット、お父さんとお母さんの席とは離れた場所に用意してもらおうか?」

「…余計なことはせんでええ」

笑いをこらえているのか、口元に手を当てたPさんを軽く睨むおじいちゃん。

そんな二人の姿を見せられ、私も笑いを堪えるのが大変でした。

その後、おじいちゃんに見てもらいながら、お茶碗を含めいくつかの器を創りました。

それからプロデューサーさんとおじいちゃんの三人で少し話をしましたが、すぐに帰らないといけない時間になってしまいました。

駅へ向かう山道、プロデューサーさんが運転してくれる車の中で私は、とある話をしました。

「小さい頃、おじいちゃんから聞いた、忘れられない話があるんです」

「それは……遅咲きの山桜の話。アイドルになった今も、今だからこそ、よく思い出します」

「山の桜は、麓から少しずつ花開いていくのですけど……山頂に立つ一本桜は、中々咲きません。まわりがすべて花開いても、かたくなに咲かないんです。自分の順番が来るまでは」

「薄い空気の中、寒風に身をさらしながら、ずっと待ち続けます。でも咲くのが遅いからといって、劣るわけではありません」

「むしろ時間をかけた分、芯は強くなるんです。耐え忍んだ分、雪割りの季節への憧れは大きく……そして咲き誇る時は、どの樹よりも……!」

「その野趣あふれる輝きは、早咲きの桜とは、違うもの。時間をかけたからこそ、洗われた清流のように、人の胸を打つのかもしれません……!」

同時期にアイドルになった仲間たちと比べて、表舞台へ出られたのが少し遅かった私。

でも、それを悔やむのではなく、その時間さえも糧にして、これからもっと輝いてみせるという私なりの宣言。

話し終えると、プロデューサーさんは路肩に車を停め、目頭を押さえてしまいました。

少し驚きましたが、そこまで感じ入ってもらえると嬉しくなってしまいますね。

喜びと感謝を込めて、私に出来る一番の笑顔で、プロデューサーさんに伝えました。

「これからも私のプロデュース、よろしくお願いしますね」


以上です。読んで頂きありがとうございました。

今回のSSR関連は素晴らしいものばかりでしたので、是非次のスカウトチケットでは藤原肇をご検討ください。

ふとした拍子に引いてしまったら、是非育ててみてあげてください。

性能としてもCoのVo特化だから色んなアイドルと相性抜群ですよ!

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