相良宗介「HCLI?」 (22)
フルメタとヨルムンガンドのクロスSS
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◇◇◇
メリダ島、ミスリル西太平洋戦隊のブリーフィングルーム。
そこに列したSRTメンバーのひとり、相良宗介の呟きに応えたのは、同じSRTの――そもそもこの部屋には特別対応班の人員しかいないが――メリッサ・マオ少尉だった。
「名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
「……確か、アメリカの海運会社だったな。かなり手広くやっている」
「そ。今回のターゲットはそこの武器運搬業担当、まあ武器商人ね。そいつってわけ。いつもの"火消し"よ。そいつらがテロリスト共に武器を流すのを阻止する」
ミスリルの理念は平和維持――武力によってテロや内戦を防ぐことである。この手の"煙が上がる前に火種を踏みにじっておく"というような任務は珍しくとも何ともない。
だがこの場には、任務の内容を言い渡されてなお訝しげな顔をした人間がいた。というより、疑問符を浮かべているのが大多数だった。
例外はメリッサと、その隣で腕組みをしているベルファンガン・クルーゾーくらいのものだ。
だからこんな質問が出ても、おかしくはない。
「それって俺らが出張る必要あるのかい、姐さん?」
掲げた片手をぷらぷらと振りながら、クルツ・ウェーバーが呟いた。
「テロリストに武器を流すような奴ってことなら、まあ堅気じゃねーのかもしれねーけど。相手するのは武器商人なんだろ? テロリストの方じゃなくて」
要は"武器商人相手に、最精鋭であるSRTを動員させる必要があるのか?"ということだ。
これは怠慢や侮りから来るものではなく、純然な疑問だった。
兵士は"何故"を考えてはいけない――これはこの業界の不文律だが、しかし疑問の残る作戦では士気も上がらない。これもまた事実だった。
武器商人相手ならばPRT(初期対応班)で充分に対応できる。あるいは単に、ミサイルで商品を吹っ飛ばしてしまえばいい。
この金髪の優男はそう言いたいのだろう。そして、口にこそ出さないが他のメンバーもそう思っている。
メリッサは鷹揚に頷いて見せた。彼らの疑問はもっともだ。データを精査する前の自分も同じことを思っていたのだから。
「普通の武器商人なら、ね。でも今回は違うの」
手元のリモコンで、プロジェクターを操作する。壁に掛けられた大型のスクリーンに投影されたのは、10代後半から20代前半と思しき白人の女性だった。
「ココ・ヘクマティアル。HCLIの社員で、ヨーロッパ・アフリカを担当区域に持つ敏腕ウェポンディーラー。各国の軍にも兵器を卸してて、そっち方面にもかなり顔が利くみたい」
「こんなカワイコちゃんが? マジかよ、俺のライフルも査定して貰いたいね」
「お前の22口径なんて鼻で笑われるのがオチさ」
途端にブリーフィングルームが騒がしくなる。クルツやスペックを初めとする数人のメンバーが口笛を吹いたりして囃し立て始めたのだ。
確かに騒ぎ立てたくなるのも分かる。豊かなプラチナブロンドを肩口まで伸ばしたココ・ヘクマティアルは端正な顔立ちをしていたし、そして何より、
「……若いな」
「あんたに言われたくはないでしょうけどね」
喧騒の中でぽつりと呟かれた宗介の一言に、メリッサは気が抜けたように肩を落とした。だがすぐに気を取り直し、注目を集める様に手を打ち鳴らす。
「はいはい、お猿さん達、静かにしなさい。でないとアンタたちご自慢のライフルとやらを潰して屑鉄にするわよ」
「おっかねえ……で、この子のどこが脅威だって?」
「正確には、ココ・ヘクマティアルの私兵が問題なのよね……」
クルツの問いにメリッサが再びリモコンを操作し、スクリーンの画面が切り替わる。
新たに映ったのは8人の人相と、簡略なプロフィールだった。それがどうやらココ・ヘクマティアルを護衛しているメンバーらしい。
それを一目見て各々が抱いた印象は、"ごちゃ混ぜ"といったところだろう。
「……元マフィアに警察官に日本の自衛官。おまけに少年兵……個性豊かな面子だなぁ、おい」
「この砲兵上がり、姐さんと名前似てますね」
「FBIのブラックリスト入り? こいつは一体何をしでかしたんだ?」
一通りの感想が尽きるのを待って、メリッサは手の中のレーザーポインターをスクリーンに照射した。
赤い光点が二つの人相を示す。白人の壮年男性と、眼帯をした黒髪の女性。
「こいつら全員、実戦経験豊富で優れた兵士だけど、その中でも特に注意すべきなのはこの二人ね。
ひとりは見ても分かる通り、デルタ出身よ。レームブリック元少佐。数々の困難な作戦を成功させた実力者で、
過去にうちの人事もSRTにスカウトしようとしてたみたい。フラれちゃったけどね。
女性の方の名前はソフィア・ヴェルマー。こっちも元少佐。正直、私的にはこっちのが化け物ね」
「デルタよりもか? 確かにこの年齢で少佐というのは凄まじいが……」
「大星海公司。覚えてるでしょう? 少し前から情報部がマークしていたきな臭い貿易会社」
「ああ……北中国の息が掛かってたっていう。確か専務が暗殺されて、勢力が弱まったんだよな?」
「あとで判明したんだけど、その暗殺をほぼ単独で成し遂げたのがこの女よ。
火器を使わず、武器はナイフ一本。おまけに標的のいた軍事拠点に真正面から突っ込んで20人は殺してる」
メリッサの一言に、今度はざわめきではなく沈黙が落ちた。
それがあまりにも現実味のない戦果だったからだ。世界中の特殊部隊から、さらに篩にかけて精鋭を集めたSRTの中でさえ、同じことを出来る人間がいるかどうか……というところだろう。
「詳しい情報は資料を配るわ。まあとにかく、この二人には要注意ってことで――」
「いいや、もうひとり注意すべき人物がいる」
口を挟んだのは宗介だった。SRTの中でも決して冗談の類を口にしない堅物に、全員の注目が集まる。物怖じもせずに、宗介は続けた。
「ジョナサン・マル。この少年兵も手ごわい相手になるだろう」
「その子は少年兵上がりだったから正規の雇用形態じゃなかったみたいで、情報はほとんどなかったんだけど……なに、知ってるの?」
「肯定だ。数年前、俺がミスリルに入隊する前に一度、奴の所属する部隊と交戦したことがある。敵の得意とする山岳部での夜間戦闘だったとはいえ、こちらは大打撃を蒙った」
「ふーん、この業界も広いようで狭いわよねー……ん? でもなんでそれで相手の名前が分かるのよ?」
宗介の目線がやや下に落ちる。過去を回想するように、結ばれた焦点は遠い。
「直接聞いたからだ。敵部隊の中でも一際手練れだった奴を食い止める為に、俺は無理やり肉薄して白兵戦を仕掛けた。
体格は俺の方が良かったからな。何とか組み付いたところまでは良かったのだが、運悪く俺たちはほとんど崖のような急勾配を転げ落ちた。
俺は接近するまでに二の腕に一発貰い大量出血し、ジョナサンは転げ落ちた時、下半身に酷い打撲を負った。
装備を破損・紛失し、部隊とは連絡が取れない状況で、おまけにその地域は野犬が出てな。
あのままでは二人とも死ぬということで、俺達は一時的に協力し、どうにか麓の村まで落ち延びた」
「そりゃまた壮絶な……で、それから?」
「いや、そこで別れたからな。ジョナサンは基地に戻り、俺も雇われていた部隊に復帰した。
ほどなくして奴は別の基地に移ったらしく、それを機に俺達は再攻撃して陣地を奪えたが……当時から既に、奴は一流の兵士だった。
あれは生まれ持ったセンスだろうな。俺が山岳戦で相手をしたくないと思ったのは、俺を拾ったあるアフガンゲリラの戦士を除けば、あいつくらいのものだ」
「なら、気を付けた方がいいでしょうね。今回、仕事場が仕事場だし」
メリッサの声と共に、再びスクリーンの映像が切り替わる。
映し出されたのは、ソ連西部にある山脈の地図だった。
◇◇◇
「はい! という訳で今回のお客さんはテロリスト"意識の高い秘密結社"さんです!」
洋上に浮かぶ巨大なコンテナ船の一室で、ココ・ヘクマティアルはいつもの様に薄い笑みを浮かべながらそう宣言した。
部屋の中には彼女の頼もしい私兵たちが――表向きは彼女がオーナーを務めるPMC社員ということになっているが――詰めている。6人ほど。
改めて面子を見渡して、ココはあれれ、と首をひねって見せた。
「そういえば、ヨナとウゴは?」
「ヨナ少年は多分、またAS登りをやってるんじゃないかね? で、ウゴはそれを呼びに行った」
火のついていない煙草を手の中でくるくると弄びながら、レームが返す。
火をつけていないのは嫌煙家のバルメに怒られるからで、それでもタバコを手にしているのはささやかな抗議のつもりだった。
それはさておき、"AS登り"とはヨナことジョナサン・マルがよく行っているレクリエーションのことだ。
文字通り、まるでアスレチック代わりにでもするように、商品であるアーム・スレイブをよじ登っていくのである。
船の格納庫に置いてあったASをヨナが見た時から始まった奇行であり、最近では目を見張るほど自在にASの表面を動き回っていた。
「はっはっは、ヨナ君も男の子、というわけですかね? ロボットはいくつになっても男心をくすぐりますから」
「あー、ちょっと分かるわ。俺も前の職場じゃ見る機会なかったし、ヨナ坊のいたとこにも配備されてなかったのかね?」
ワイリの意見にルツがうんうんと頷く。
ASは高価な兵器だ。それ自体の値段もそうだが、運用にもかなりコストがかかる。現代戦においてどこにでも潜める兵器ではあるが、どこにでもある兵器という訳ではないのだ。
「……さて、それはどうかな」
「ん? お嬢、なんか言ったか?」
「別に、何も。それよりヨナだよ! ヨーナー!」
「叫ばなくても……来たよ、ココ」
頭を抱えて絶叫したココに応じたのは、ドアを開けて入ってきたヨナだった。正確には、ウゴに襟首を掴まれて宙づりにされているヨナだ。
「遅いぞヨナ隊員! ブリーフィングがあるって言ったでしょ!」
「ごめん。でも、あの黒いASは初めて見たから……イタッ」
どすん、と、ぞんざいに椅子の上に放り出されて小さく悲鳴を上げるヨナに、ここまで運搬してきたウゴが肩をすくめて見せた。
「遅れてすみませんでしたお嬢……話の方を」
「ご苦労だった、ウゴ。さてさて、話は戻るけど、今回のお客はテロ屋さん。運ぶ先はソビエトの山奥になる」
「雪山ってこと? わざわざそんな場所に武器を売りに行くの?」
「というより、テロリスト相手の仕事、ですか? 前例がなかった訳じゃありませんけど……ココ、そういうの嫌いじゃなかったでしたっけ?」
ヨナとバルメが疑問符を浮かべる。およそ、ココが引き受けそうな仕事ではない。
「まあ、色々と事情があってねー。急な話だし、慣れない環境で立変だろうから、その分、みんなには特別ボーナスを出そう!」
おおー、と声が上がる。ただし、ひとり分だけ。
そのひとりであるところのヨナは、不思議そうな表情でぐるりと周囲の面々を見回した。全員が全員、嫌な予感を抱いているかのように冷や汗をかいている。
視線に気づいたのだろう。レームがいつものように軽薄な笑みを浮かべながら、煙草のフィルターを噛みつぶした。
「そうか、ヨナ君はこれが最初か。なら覚えとけ。相手がテロ屋でボーナス宣言。そんな仕事の時は、大抵"奴ら"が出てくるのさ」
「奴ら?」
「"正義の傭兵部隊"。我々は連中をそう呼んでいる」
胸を張って言い切るココをよそに、訝しげなヨナの耳元へマオがこそこそと小声でささやく。
「……そう呼んでるのは、ココさんくらいのものなんだけどね。私達は単に"連中"とか"奴ら"って呼んでるよ」
「というか、お嬢がそう言うってことはやっぱり連中が出張って来るのか……」
「こら、ルツ! その不満そうな顔は何です! ココのやることに何か不満でもあるんですか!?」
「そういうアネゴだって"うわっ"って顔してたくせに」
「なっ、ぐ。それは……」
喧騒をよそに、ココはヨナに連中の説明を続行した。
「こほん! 正義の傭兵部隊。連中は、武器を卸す相手がゲリラやテロリスト、それも結構な勢力を持つ相手の場合にのみ出張ってくる謎の武装集団だ。
調べた限りでは、どこの国に所属しているわけでもないらしく、全世界規模で活動をしているらしい。私の同業者にとっては頭痛の種さ」
「……武器商人を襲ってる?」
「というより、紛争の火種を摘み取っている。テロ屋に武器を流す武器商人たちや、凶悪なゲリラや海賊を壊滅させたりしてね」
「……本当にそんなのいるの?」
呟かれるヨナの疑問はもっともだ。要はココの言う通り【正義の味方】が現実世界に存在していることになる。
しかも国などによる合議制で運用されるものではなく、聞く限りでは私兵である。妄想、都市伝説。そう一蹴されるべき類の話だ。
「いるから困ってるんだよー。奴らのせいでどれだけ損をしたか……」
がっくりとオーバーアクションに肩を落としながらココ。フォローするようにレームが苦笑を浮かべて見せる。
「お嬢がヨナ君を担ごうとしてるわけじゃねえさ。実際、ここにいる面子は全員が一度以上、連中と相対してるわけだしな」
そして、その全員が戦うことを避けたがっているということは――
「……強い?」
『物凄く』
ヨナ以外の全員の声が唱和した。口々に敵の強さを保証する。
「レバノンの時は背筋が凍ったぜ……なんでM6相手にあんな接近されるまで気づかなかったんだか……」
「機甲部隊だけじゃありませんよ。その後に展開してきた歩兵部隊もよく鍛えこんでありました」
「お前らはまだいいだろ。即効で降伏してドンパチにはならなかったんだし……俺の時は警告なしにミサイルでコンテナをドーンだぞ?」
「トージョはあれよく生きてたよなー。連絡きた時には絶対死んだと思った」
しばらく彼らの苦労話を聞いて、ヨナはふと首をかしげた。皆は敵の強さ、恐ろしさを語っているが、そこに恨みやつらみが感じられない。つまり、
「強いって言う割には……誰も死んでないね?」
「そこが彼らが"正義の"傭兵集団である所以だ。必要以上に死人を出さない。降伏も受け入れて貰えたしね……
まあミサイルを撃ちこんできたのも事実だから、あくまで"出来る限り"だろうけど」
「次も死なないで済む保証はないってことだろ? 大丈夫かよお嬢」
ルツの疑問に、ココは胸を張ってこう答えた。
「負けた後のことを心配するより、勝つことを考えよう! あとこれ業務命令だから!」
ココが一度決めたことを撤回するなど、誰も本気で期待はしていなかったのだろう。うぇーい、と了解とうめき声の中間の様なものが各自から漏れる。
その緩い声の隙間から、ヨナは手を上げて質問の許可を求めた。
「何回負けたの?」
「何回かち合ったか、でなくて何回負けたか、ね――なんだい、ヨナ。私達がずっと負けっぱなしだと思ってるのかい?」
「……違うの?」
話を聞く限り、勝ったことがあるとは思えないのだが。
「フフーフ。では聞くがいい。我々と正義の傭兵部隊。都合3回ほど我々は標的にされ、そしてその戦績は――」
指を三本立ててから、その内の二本を逆側の手で包み隠すジェスチャー。悪戯っぽい顔で、ココは自分たちの戦果をヨナに伝えた。
「――2敗、1分けってところかな」
◇◇◇
「――概要は以上よ。今回は積雪地での作戦になるから、各自、モーション・マネージャの確認をしておくように……ってあたりで、どんなもんでござんしょ?」
「上出来だ、少尉。この調子で頼む」
作戦概要を説明し終えたマオが、監督役であるクルーゾーに向き直る。
SRTの指揮官であるクルーゾーではなくマオがブリーフィングの進行を行っていたのは、昇進したばかりのマオに士官としての経験を積ませる為だった。
控えていたクルーゾーが前に出る。彼女は十分に役目を果たした。もう自分がやるべきことはあまりないが、それでも自分だけにしかできないことがある。
「先ほど少尉の説明にもあったが、連中は過去に3度、"火消し"の標的になっている。
任務にあたったのは標的の行動範囲の都合から、インド洋戦隊が2回、地中海戦隊が1回だ」
そして、とクルーゾーは自分の胸を指さした。
「察しの良い者は気づいたかもしれんが、ここにいるひとりの元地中海戦隊員は、連中と直接対面したことがある」
「クルーゾー中尉が?」
「ああ。二年ほど前のレバノンになるか。連中がイスラム系のテロリストと取引をしている現場にM6で乗り込み、これを制圧。作戦は何事もなくスムーズに完了した」
「楽勝ってことですか?」
「いや、むしろ脅威を感じたな。取引相手のテロリスト共は応戦してきたが、ヘクマティアル側は即座に各自の安全を確保し、制圧が終わった後に降伏を申し込んできた。
連中の誰一人、一発たりとも撃たず、負ったのも精々がかすり傷程度。指揮系統が徹底していて、練度も高いという訳だ」
だが、最も印象に残っているのは私兵たちの動きではない。
クルーゾーは当時の状況を思い出す。テロリスト達はRPGや通用する筈もない軽機関銃でM6を攻撃し、こちらも内臓のテイザーとチェーンガンで応戦した。
ASの振るう最大火力には程遠いが、それでも歩兵にとってそこは地獄の鉄火場であったはずだ。
その中で、ココ・ヘクマティアルは笑っていた。20そこそこの娘が、怯えることもなく部下に指示を出し、竦むこともなく戦場を歩いていた。
「繰り返すが。これまでに連中は三度火消の対象になっている」
クルーゾーが指を三本たて、その内の一本だけを折り曲げて見せる。
「戦績は二勝一敗。最初は連中の商品をミサイルで吹っ飛ばすだけで済んだ。二度目は人里が近かったためにASによる強襲を行う必要があった。
そして三度目に至って、連中は東側の大国が軍事演習をやっている傍で取引を行い、それを成功させている」
ミスリルの作戦部は主に西側の兵器を使用している。
これはそもそも組織を立ち上げた人物がイギリス人であることなどが原因だが、それ故に連中が三度目に取った手法は有効極まりなかった。
何しろ、下手に襲撃を行えばこの長く続く冷戦状態を過熱させかねなかった。第三次世界大戦を防ぐことを是としているミスリルが、その引き金を引いてしまうなど笑い話にもならない。
これまでにミスリルの標的となった武器商人は何人かいたが、彼らは一度商売をおじゃんにされればもうテロリスト相手の商売はしなくなるか、もしくは商売そのものができなくなった。
ヘクマティアルはほぼ唯一と言っていい例外だ。
「敵はタフで、頭も切れる。3度目の手段も言うだけなら簡単だが、実行に移すのが難しい手段であることは言うまでもない」
テロリストというのは、つまりその国の現体制に不満があるからこそテロリストなのだ。
その彼らと軍事演習の傍で取引を成立させたという事実が、ココ・ヘクマティアルのディーラーとしての腕前を証明している。
「既に我々の行動理念や装備などは見抜かれているようだ。戦績を2勝2敗にすることはあってはならない。各員、最大の奮起を期待する。さて、最後に質問は?」
スペック伍長が手を挙げた。わざとらしい恭しさを滲ませた口調で訊ねてくる。
「中尉殿。自分はHCLIの株をもっているのでありますが、この一件で株価が暴落したら本部は保証してくれるでしょうか?」
「来週までに全部売っておけ――他にはあるか?」
とりあえずここまで
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