亜梨子「雪…?」大助「ふゆ…ほたる」 (22)

ムシウタのSSです

更新は遅めで、メインヒロインの出番があまりありません

一部キャラ崩壊(特に摩理)があります

それでも大丈夫、という方は、どうぞよろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371131221

飛んでいる…ヒラヒラと、ヒラヒラと…

「何やってるの?早くしないと遅れるわよ、大助」

宙を舞う蝶を眺めていた俺に、 ちょっとだけ前を歩いていた亜梨子が声をかける

「ああ、悪い」

「全く、人生は有限なんだから、貴方みたいにボーッとしてたら損するだけよ?」

「極論にも程があるだろ」

学校に向かって、二人で歩をすすめながら、いつも通りの、他愛ない会話に興じる


普通で、平均的で、一般的な日常…

刺激的な未知も、突拍子もない事件も、常識を逸脱した現象もない、当たり前の青春…

そんな代わり映えのしない日々を、今日も繰り返している

ガラリと、教室のドアを開ける。どうやら、遅刻は免れたみたいだ

「よぉ、遅刻ギリギリだぜ、大助」

…とりあえず、訂正。明らかに普通じゃないやつもたまにはいる
着席した俺の前の席に、許可も取らずに座った金髪碧眼は、明らかに普通とは掛け離れていた

「アンネさんは、いつも早いね。早起きの秘訣でもあるの?」

「おいおい、んなゾッとするような口調で話すなよ。気味が悪いっての」

まぁ、こいつからしたらそうだろうな…

「全く、なんでそんなに優等生のフリをしたがるんだか」

…こいつにだけは、絶対に言われたくない台詞だな、これ…

「…まぁいい。さっさと自分の席に着けよ。HRまで、もう二分もないぞ」

小声で忠告すると、アンネは小さく舌打ちして、つまらなそうに自分の席に戻っていった

「なぁ、数学の課題、見せてくれね?」

昼休みがはじまった途端、クラスメートの男子に頭を下げてそんなことを言われた

「数学の…?またやって来てないの?」

「人聞きの悪いことを言うなよ…家に忘れて来たの」

「それ、何度目だっけ?ま、いいけどさ」

鞄から一冊のノートを取り出し、クラスメートの男子に渡す

「お、サンキュー!今度、埋め合わせはちゃんとするよ」

「いいから…授業はじまるまでには返してよ」

頭を下げて礼を言うと、少年は自分の席に戻って、課題を写しはじめた

結構な量があったし、今日はあいつ、昼休み返上で写さないと間に合わないかもな…

「相変わらず…猫を被るのが好きね、大助」

「一之黒さん…」

弁当を片手に持った亜梨子が、呆れたような視線をオレに向ける

周囲の生徒を確認して、小声で話す

「いいだろ、別に。それに、アンネだって大概じゃないか…ほら」

教室の隅を見ると、俺達からしたら違和感しかないような上品な笑みで、たどたどしい日本語を話す少女がいた

「いいのよ、アンネは…皆、猫被ってるって知ってるし」

「まぁ、ばれるよな、あれは…」

大体、普段大声で喧嘩越しのやつが、猫を被ってもごまかせるわけがない

「亜梨子、大助さん…」

聞き覚えのある声に、振り返る

「摩理…補習は終わったの?」

「ええ。大体、私は元から分かっている内容だったから」

花城摩理…亜梨子の親友で、ついこの前まで入院していたクラスメート…

入学してから、ほとんど登校していなかったのが原因で、今は昼休みや放課後を使って補習を受けさせられている…らしい

「まぁ、亜梨子よりは成績いいしな、摩理は。というか、ほとんど学校に来てなかった摩理にあっさり抜かれるって、お前、どういう頭してんだよ…」

「私の頭が悪いんじゃないの!摩理の頭がいいのよ…大助だって、きっとすぐ追い抜かれるに違いないわ!」

ムキになって反論する亜梨子…まぁ、万年平均点の俺じゃ、確かにあっさり抜かれそうだけど

「そうね…大助さんには絶対勝ちたい」

「…何でだよ…」

「だって、大助さんは私のライバルなんだもの」

「…ライバル?」

「そう。どっちが亜梨子の親友か…ね」

いや、どっちが親友かって…

「んなもん、満場一致で摩理に決まってるだろ。本人のお墨付きだぞ?」

「ええ!摩理は私の親友よ」

「な?」

「それじゃあ、大助さんは?」

「大助は…奴隷?」 

「おい…」

「嫌?」

「当たり前だろ」

「それじゃ、相棒ってことで」

「結局そこに落ち着くんだな」

大体、これはいつも亜梨子が言っていることだ
摩理は親友、大助は相棒(奴隷)、と…

正直、奴隷はともかく、相棒と親友で何が違うか、なんてさっぱり分からない。まるで浮気のばれた男の言い訳、みたいな言い回しだ、とは思うけれど…

「そもそも、親友なんて何人いたって問題ないだろ」

「それはそうかもしれないけれど…」

何処か納得出来ない様子で、摩理はじっと俺の顔を見詰めている…
見た目は美人の部類に入るからか…正直、ちょっと恥ずかしい…

「なら、今度は何のライバルになればいいの?」

「…お前、やっぱり何処かズレてるよな…」

実は、単に俺が普通なだけで、俺のまわりは全然普通ではないのかもしれない…

「そんなことより、早くお弁当食べましょうよ。昼休み、もう半分も残ってないけど?」

「ああ、そうだな…」

次の授業は数学…ノート、ちゃんと帰ってくるんだろうな?

「…で、相変わらず立入禁止の屋上で飯を食うんだな」

「いいじゃない。それに、ここに入れるようになったのはアンネが鍵を壊したから、なんだから」

「おう、感謝しろよな」

「そういう話じゃないだろ」

得意気に胸を張るアンネに溜息をつく

「こういうのって、ちょっと楽しい」

うっすらと笑みを浮かべて、摩理が亜梨子に続く

「ほら、早くしろよな」

更には、アンネまでもが立入禁止の屋上に足を踏み入れる

あきれるほど、いつも通りの展開だ

そうして俺は…それも悪くないと、口では文句を言いながらもついて行くのだ

ああ、全く…本当に、楽しいいつも通りだ

「はろー、皆」

「…お前、いっつもここでオレ様達待ってるけどさ…クラスに友達とかいねぇの?」

屋上で弁当を持って座り込んでいる少女…
夜森寧子…一つ上の先輩ではあるんだけど、見た目以外に説得力はない、とよく言われているらしい

「そんなわけないでしょ…バンドのメンバーとかいるんだし」

「うん。それに、それを言ったら同年代の同性に友達らしい友達がほとんどいない大助くんが一番酷いんじゃない?」

「それもそうか。やっぱ、こういうのは人間性がでるよなぁ、大助?」

「…言い返せないのが無性に腹立たしいな」

というか、いつもフラフラして、ぼーっとしているから、バンドなんて組んでるのはすっかり忘れていた

「結構人気なんだってな」

「ぶい」

やる気のなさそうにVサインをする寧子…こんなんで、どうして人気が出るんだか…

「それじゃ、さっさと食べるわよ」

「ああ、時間もねぇしな」

「いや、お前はさっき食ってたろ」

当然のように腰をおろすアンネ…けれど、こいつはさっき他のクラスメートと昼食をとっていたはずだ

「一々細かいことまで気にすんなよ。そんなんだから友達が出来ねぇんじゃねぇの?」

「余計なお世話だ…って、何やってる!?」

アンネが会話の途中でひょいと俺の弁当から唐揚げをかっさらう…こいつ、もしかしてわざわざついて来たのはこれが目的か…?

「だ、大助さん…私、あんまり食べないから、何か取っていってもいいよ?」

「い、いや…唐揚げ一個くらいでそんなに気にしなくても…」

「そうそう、気にすんなって」

「お前は反省しろ!」

まだ弁当の中身を狙っているアンネを怒鳴りつける

「大助、あんまり大きな声を出さないの。見つかったらどうするつもり?」

「俺か!?俺が悪いのか…!?」

相変わらず俺に対してだけは理不尽だな、こいつ…

「あ、そうだ…これ、次の演奏のチケット…次の日曜日だから」

数枚の紙切れを取り出して、俺達に差し出してくる

「ありがと、寧子さん!絶対見に行くわ…ね!」

「いや、俺はワンコと遊ぶ予定なんだけど…」

「ごめんなさい…私は定期検診が…時間があえば行けないこともないと思うけど…」

「これ、売り切れたころにオークション出したら結構稼げるんじゃねぇかな?」

「…他の二人はともかく、あなたは何を考えてるのかしら、アンネ?」

結局、行くと即答したのは亜梨子だけか…というか、アンネ…流石にそれは俺でも引くぞ…

「…って、ホントにもう時間ないぞ…」

「え…?あっ!?あと5分!?」

予鈴を聞いて、亜梨子が顔色を変える
まだほとんど弁当に手をつけていない

「い、急いで食べて、全速力で教室まで戻るわよ!」

「いや、廊下を走るのはダメだから」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

結局、五限目の数学には間に合わず、授業の最中にノートを返せと要求するわけにもいかなかった…

「だからって…放課後補習なんてありかよ…」

「ドンマイ、大助」

こんな感じで続きます

一応、虫がいない世界観、というわけではないので。ちゃんといるし、ストーリーにも関わってきます

あんまり長くはならない予定です

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