「大洗女子学園は8月31日をもって廃校となった」
会長がその言葉を口にしたとき、私も含めてみんな信じられないと言った顔をしていました。
みんなそれぞれに反論の言葉を叫びましたが、受け入れるしかありませんでした。
私たちの廃校撤回のため頑張った全国高校戦車道大会はなんだったんだろう...
私、西住みほは転校先の振り分けが決まるまでの仮住まいとなる学校へ向かうバスの中でぼんやりとそんなことを考えていました。
それからの日々は早いもので、各々転校の手続きのため実家に帰ったり、夏休みという事で旅行に行ったりして、あっと言う間に過ぎました。
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二学期の始業の予定日だった一週間前、私も荷物をまとめて実家に帰ります。
沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん、戦車道のみなさんにお別れを告げ、戦車道から逃げた熊本へと帰ります。
短い期間だったけど、みなさん本当にありがとね...
熊本に着いて、最寄りの駅からの移動はお姉ちゃんに頼んでいます。
時間にうるさいお姉ちゃんだけど、今日はまだ来てません。
どうしたのかな...
ぼんやりとそんなことを考えていたら、家にある移動用の戦車が大きなエンジン音を立てて来ました。
「みほ」
戦車から出てきたのはお姉ちゃんじゃなくて、お母さんでした。
「お、お母...さん...」
喧嘩別れみたいな感じで大洗に飛び出して、数ヶ月...
ちょっと気まずいです。
「お帰りなさい」
でも、お母さんは何事も無かったようにちょっぴり微笑んで私を乗せてくれました。
家までの帰り道、私とお母さんの間には会話はありません。
聞こえるのは戦車のエンジン音だけ、すごく気まずいです。
勇気を出して口を開きます。
たわいもないことです。
「あ、あの…お姉ちゃん…は…?」
「まほは学校、あなたを迎えに行けなくてとても悔やんでいたわ。あの子が一番あなたを心配していたから」
そっか...
ありがとね、お姉ちゃん。
「あのねっ、お母さん...」
私はもう一度勇気を振り絞ります。
ありったけの勇気を振り絞ります。
でも、お母さんはそんな私を横目に視線さえも私に向けようとせず、真っ直ぐ正面を向いて帰路を急いでいるようです。
「心配かけて…迷惑かけて…ごめんなさい...」
私はそう伝えるとすぐに下を向きます。
膝の上に乗せていたバックに付けたボコのキーホルダーが戦車のエンジンの震度でブルブル震えています。
まるで私の心を映し出しているみたいに。
「そうね、心配したわ。すごく、すごく...」
その言葉はなんとなくずっしり重いものがありました。
私はギュッと唇を噛み締めます。
「でもね、みほ...私の方こそごめんなさい」
「…!?」
驚いて私は顔を上げて、お母さんを見ます。
相変わらず視線は戦車の主砲のように、真っ直ぐ正面を向いています。
「あなたの気持ちを分かってあげようともしないで...」
「そっ、そんな...」
「あなたたちが優勝した戦車道大会のあと、まほに言われたわ」
お母さんは少しだけ微笑んで続けました。
「『みほはみほの戦車道を見つけました、西住流とはまた違う新しい戦車道を...だから、私は私の戦車道、西住流を継ぎます』...ってね」
「お姉ちゃん...」
「だからあなたはあなたの戦車道を歩みなさい、それもまた戦車道だから...」
私はグッと涙を堪えます。
でも、すぐにあふれてしまいました。
その涙はお姉ちゃんへの尊敬の気持ち、お母さんへの申し訳ない気持ち、そして2人への感謝の気持ちが具現化した涙だったのかもしれません。
「それにしても、準決勝でのあの踊り?あれは無いわ」
「えぇー...!?」
お母さんはフフッと笑いながら、それでも運転を止めることなく走り続けました。
それからは、あったはずの蟠りのようなものはすっかりと無くなって、仲睦まじい親娘の会話が続きました。
戦車道の話、大洗での話、お姉ちゃんが犬を飼った話...
普通の話です。
そんな会話が幾つか続き、もうすぐ家と言うところでお母さんは運転をしながら私に尋ねました。
「みほ、あなたはこれからどうするの?」
お母さんは少しだけ私の方を見て聞きます。
私はすぐにその質問の意味を理解しました。
今後、戦車道を続けるのか、あるいは...
でも、私はすでに決めています。
「続けるよ、私戦車道好きだから」
さらに私は続けます。
ちょっとだけ強い口調で。
「みんなとは離れてしまったけど、みんなが私に戦車道を教えてくれたから!」
「そう...」
「それに、信じてくれたお姉ちゃんやお母さんのためにも」
「いいのよ、無理しなくても...?」
「ううん、もう一度戦車道と向き合いたいから」
それに、見つけたから、私の戦車道。
お母さんは少しだけ口元をほころばせて、頑張りなさいと言ってくれました。
家に着いて、戦車から降りると、見慣れた自宅の風景が広がっていました。
戦車のエンジン音は消え、聞こえるのは忙しなく鳴く蝉の声です。
その中にワンワンと吠える声が聞こえます。
お姉ちゃんとお姉ちゃんの飼っている犬です、どうやら散歩に向かうところのようです。
「みほ、おかえり」
「ただいま、お姉ちゃん」
「うん」
お姉ちゃんは少し微笑んで頷きます。
隣の犬も私を祝福してくれているようで、尻尾を振っています。
「おかえりなさいませ、みほお嬢様。」
「あっ、菊代さん。ただいま。」
うちの家政婦さんの菊代さんです。
先日、転校の手続きで一時帰省したときには、ちょうど外出中で会えませんでした。
犬が私の足元に来て、しきりに頬ずりをします。
とっても可愛いです。
「散歩に行くの?」
「ああ、みほもどうだ?いや、長旅で疲れているか...」
「ううん、疲れてはないけど、荷物とかあるし...」
「いいわ、私があなたの部屋に運んでおくわ」
戦車から降りたお母さんがそう言ってくれました。
私はお言葉に甘えて、ありがとうと言うとお姉ちゃんと散歩に出かけました。
お姉ちゃんとお母さんに駅から送ってもらった道を、今度は歩いて駅の方角に向かいます。
一時帰省のとき、お姉ちゃんに駅まで戦車で送ってもらった道です。
やっぱり、ここはなんにも変わらないです。
「転校先は、もう決まったのか?」
「ううん、振り分けの資料が家に届く予定なんだけど...」
文科省から学校経由でお家に届く予定になっています。
私の転校先は一体どこになるのか、まだなんにも知りません。
もしかしたら、またみんなと一緒になれるかもしれないし、でももしかしたらみんなと離れ離れになって遠い学校になるかもしれません。
「そうか...」
真意はその時わかりませんでしたが、お姉ちゃんは少し寂しそうに言います。
それに反して、散歩がよほど嬉しいのか犬はお姉ちゃんが握っている綱をぐいぐい引っ張ります。
「また黒森峰だったらいいな」
「...え?どうして?」
「いや、だって...」
お姉ちゃんは少し恥ずかしそうに頬を書きながら答えます。
「黒森峰だったら、またみほと一緒に戦えるだろ」
「...?」
お姉ちゃんは私の一つ年上の3年生、私たちが優勝した全国戦車道大会が最後の大会なはずなのに、一体どうして?
「どういうこと...?」
「私には戦車道しかないからな...確かに大会にはみほ達に敗れはしたが、まだ秋の国体が残っているからな」
ふふっとお姉ちゃんが笑いながら言います。
あ、そっか...すっかり忘れていました。
大洗での廃校撤回のことで頭がいっぱいだったので。
「ああ、でもこれからはどうするんだ?みほ」
んもう、お母さんもお姉ちゃんも...
お姉ちゃんには言ったのに。
「お姉ちゃんも心配かけてごめんね...でもね、お母さんにも言ったけど大丈夫だから」
「お母様も...?」
「うん、お母さんにもお姉ちゃんと同じこと聞かれて」
ふむ、とお姉ちゃんは顎に手を当ててなにか考えているようです。
そして、これまで歩きながら会話をしていた私たちでしたが、お姉ちゃんが急に立ち止まります。
私は急に立ち止まったお姉ちゃんに振り返ります。
「あのな、みほ...私よりも、誰よりも心配していたのはお母様なんだ」
お姉ちゃんは難しい顔をしています。
そんなお姉ちゃんの顔を見ていたら、私は言葉に詰まります。
「なんだかんだ言っても、お母様はみほの事が心配なんだ」
「うん...ちゃんとわかってる、ありがとねお姉ちゃん」
「ほら、久しぶりなんだしお母様とも話してあげてくれ。ここからなら、まだそう離れていないだろう」
優しい笑みを浮かべるお姉ちゃんを残して私は一人で歩いて帰ります。
ふと、振り向くとお姉ちゃんは手を振ってくれました。
本当にありがとね、お姉ちゃん。
お家に着くと、お母さんは家の前に立っていました。
腕組みをして、神妙な顔で佇んでいました。
「お母さん?」
「あら、みほ...もう帰ってきたの?」
お母さんは不思議そうな表情に変わって私に尋ねます。
いつもはお姉ちゃん、1時間くらい散歩をしているので不思議に思ったそうです。
「お母さんはどうしたの?」
「いえ、客人が来ていたので見送りをね」
「あ、荷物ごめんなさい」
にっこりと微笑んで、いいのよとお母さんは言いました。
客人が誰だったのかは分かりません、でもお母さんがあんな顔をしていたのできっと大切なお客さんの、大切な話だったんだろうなと思います。
国体か、続き気になるなる
それにしほさんのこの客人が伏線かな
作者はよ
その日は早めに寝ました。
ここ最近は遅くまで、優花里と戦車の話とか、華さんと沙織さんのカレー屋さんの話とかを聞きながら、笑って寝ていました。
麻子さんは相変わらずぼおっとしていて、起きているのか寝ているのかわからなかったけど...
でも、もうそんな日々は終わってしまいました。
寂しくボコを抱いて、一人で眠ります...
翌朝はいつも通り起きました。
夏休みでも風紀委員の皆さんのちょっぴりだらしない点呼があったので、それが染み付いていたから。
一階の居間に行くと、朝食の準備がされていました。
どうやら、すでに私の分だけになっているようです。
「みほお嬢様、おはようございます」
「おはようございます、菊代さん」
菊代さんが作ってくれた朝食を手早く済まし、静かな午前中をお姉ちゃんの犬の隣で過ごします。
日差しはギラギラと暑いんですけど、日陰は時折風が吹いて涼しいです。
こんな日もいいなって思うけど、やっぱりみんながいる騒がしい日々が懐かしいです。
そんなことを考えていたら、菊代さんが何やら持ってきてくれました。
>>18は同室の友人のいたずらです
すみません、自演ではありません
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