《れんげ side》
物事には時期がある、って大人は言うのんな
それがどういう事かはいまいちうちにはよくわからないん
けど、ほたるんも、もしかしたら時期がずれてたら……
こうはなってなかったかもしれないんと思うと、どうしようもないけど思ってしまうんな……
れんげ「都会から転校生が来たのん!」
(旭丘分校 教室)
一穂(先生)「自己紹介してくれる?」
蛍 「東京から来ました、一条蛍です」
小鞠「東京から!?」
夏海「何やらかしてきたの!?」
蛍「特には……父の仕事の都合です」
夏海「なんだー。あ、学年は?」
蛍「小5です」
小鞠「小5!?」
夏海「見えないなー。姉ちゃんより姉ちゃんっぽい」
小鞠「いちいち私を引き合いに出すな!」
れんげ「ほたるん、にゃんぱすー」
蛍「……? にゃ、にゃ?」
ぴんぽんぱんぽーん
一穂「はーい、席ついて。授業始まるよー」
みんなドリルを取り出して、勉強し始めるん
この学校では、それが当たり前なんな
でもほたるんは、すごく困ってるように見えたん
東京はこんなんじゃなかったん? って聞こうとしたんけど
ほたるんに話しかけるのが、なんでかできなかったんな……
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(宮内家 夕食時)
一穂「あー、今日もいっぱい働いたよー」
れんげ「ねえねえ、ずっと寝てたようにしか見えなかったん」
一穂「いやいや、これでも見えないところで働いてるんよー」
れんげ「…………」ジー
一穂「れんちょんは相変わらずイノセントな目で大人を見るなあ」
れんげ「ねえねえ、聞きたいことがあるん」
一穂「んー?」
れんげ「ほたるん、なんであんなに寂しそうなん?」
れんげ「うちはもっと仲良くしたいん」
一穂「あー」
一穂「すぐには難しいかも知らんねー」
れんげ「…………」
れんげ「うちは学校、すごく楽しみにしてたん」
れんげ「ほたるんは学校、楽しくないのん?」
一穂「れんちょんだって、知らない人ばっかりの場所にいきなり入るのって、怖くないかい?」
一穂「あー、でもれんちょんの場合はみんな知ってるからなあ」
一穂「ほたるんも学校をきっと楽しい場所にしたいんよ」
一穂「だから怖いんじゃないかねえ」
れんげ「そうなん?」
一穂「誰も嫌われたくないからねえ」
一穂「とにかく、仲間に入れてあげるっていうことをわかりやすく言ってあげんと」
一穂「緊張しちゃってるから、自分からは言いだせんのかもね」
れんげ「じゃあつまり、仲良くしたいって言えばいいのん?」
一穂「そうだねえ、れんちょんの場合はそれでいいと思うよ」
じりりりりりりり
一穂「あ、電話だ」
ねえねえがいなくなった後も考えたん
でも結局、仲良くしたいって言うしかないんな
友達と一緒に遊べないんは、寂しいんよ
(旭丘分校 教室)
夏海「ほたるん、遊ぼうぜー!」
小鞠「蛍、遊ぼ」
蛍「はい、先輩」
れんげ「…………」
一週間がたったん
ほたるんはうちにも変な話し方で喋ってるん
その喋り方、なんか遠くにいるようで寂しいんな
蛍「変な喋り方、ですか?」
小鞠「あー、敬語の事かな?」
夏海「うちらは敬語使わんでいいって言ってるんだけどね」
蛍「でも、先輩ですし」
れんげ「なんかその喋り方、遠くにいるみたいで寂しいんな」
蛍「うーん……」
小鞠「れんちょんの言うこともわかるけどね」
夏海「でもさ、これもほたるんっぽくていいよなーって最近思うようになってきた」
れんげ「そうなんな」
こまちゃんもなっつんもほたるんの喋り方をおかしいとは思ってないみたいなん
ならそういうものなんかもしれんけど、なんか違う気がするんな
やっぱりほたるん、遠い気がするん
(駄菓子屋)
夏海「れんちょんの言うこともわかるんだけどなー」
れんげ「なっつんはほたるんと仲良くなったん?」
夏海「正直、わからん」
夏海「ほたるん、大人しいしなー。まだよそよそしい感じはあるけど」
夏海「でも姉ちゃんとは仲良くしてるっぽい」
れんげ「こまちゃんとは仲いいのん?」
夏海「星見に行った、れんちょんは家の用事で無理だったっけ」
夏海「うち眠気に負けて寝ちゃったんだよねー」
夏海「でもその後から姉ちゃんとは仲良くしゃべってるみたいだし」
夏海「きっかけがあれば仲良くなれるとは思うけどなあ」
楓(駄菓子屋)「おい、冷やかしなら帰れ」
夏海「なんだよー、ちょっとぐらいいいじゃん」
楓「あー、なんだ」
楓「東京から来た転校生ならしばらくほっとくしかないだろ」
夏海「あれ、ほたるんのこと知ってんの?」
楓「あったりまえだろ。この田舎に都会からわざわざ来る物好きなんてすぐ噂広まるよ」
れんげ「駄菓子屋もねえねえとおなじこと言うん?」
楓「先輩と同じこと言ってるってのはなんか嫌だけどな」
楓「まあ住む場所も人も変わって緊張しない方がどうかしてるんだよ」
楓「無理にこっちから行くより転校生が慣れるのを待つ方が結局は早道だろ」
楓「お前らは考えすぎずいつもどおりにしてたらいいんだよ」
れんげ「ふうん」
れんげ「駄菓子屋もねえねえも言うんなら、きっとそうなんな」
夏海「…………」
夏海「まあ、そうだね」
うちは大人がみんなそう言ってるから、
ほたるんもいずれは友達になってくれると思ってたん
でも、なっつんは、
どうも、そうは思ってないって、この時のうちは気付かなかったんな
《夏海 side》
れんちょんには言えないこともある
ほたるん――転校生が来てから
この村に、いろんな小さな事件が起きるようになった
交通事故が増えた、動物の死骸が増えた、川の水が濁った
一つ一つは小さなことだけど、重なると不吉にしか思えない
噂では、よそ者を入れたからだとか、そんな話まで聞こえてる
母ちゃんは「そんな馬鹿な話どこで聞いたんよ!?」って怒鳴るから
正直、転校生と仲良くなっていいよって言ってくれてるみたいで、嬉しいんだけど
でも村の人が、一条家を嫌な眼で見てるのは、伝わってくる
うちも、転校生をどこかでそう思ってないか……そう言われると、自信はない
転校生は、姉ちゃんとばっかり遊んで
姉ちゃんもそれが、まんざらでもなさそうで
なんか、なんか……いやな気分になる
(旭丘分校 教室)
小鞠「蛍、工作一緒に作らない?」
蛍「あ、はい!」
転校生は姉ちゃんといる時はうちらに対する笑顔とは全く別の笑顔になる
それがなんだかはわからないけど、姉ちゃんに対する笑顔は、なんだか怖く感じる
夏海「れんちょん、じゃあうちらも一緒に組もうか」
れんげ「あぁい!」
夏海「ふふーん、そうだ」
夏海「姉ちゃんたち、勝負しようぜ?」
小鞠「はあ、勝負?」
夏海「勝った方が……駄菓子屋おごり! どう?」
小鞠「勝負って何よ、大体」
夏海「決まってんじゃん、よりいい点数とった方の勝ち!」
夏海「こっちはうちとれんちょん、そっちは姉ちゃんとほたるんの合計点!」
夏海「どうだ!?」
小鞠「パス。そんな子供っぽいことやってられないし」
夏海「何だよノリ悪いなー」
でも予想はできてた。最近の姉ちゃんは転校生の方を優先してるから
転校生は、姉ちゃんが言うならと言った感じで、うちの提案に良いとも悪いとも言わない
なんだか、無視されてるみたいで、正直腹が立つ
れんげ「うちはなっつんに賛成なん!」
れんげ「物事は褒美がないとダメなのん!」
夏海「れんちょんよく言った!」
夏海「何より既に勝つこと前提の発言はポイント高いぞれんちょん!」
蛍「…………」
蛍「小鞠先輩、れんちゃんもそう言ってますし」
蛍「私は構わないので」
転校生が笑うと、姉ちゃんも渋々といった感じでようやく乗ってきた
転校生が来る前は、姉ちゃんももっとノリが良かったんだけど
転校生の前では大人っぽい先輩をアピールしてるのが、見え見えだった
多分、姉ちゃんなりに村の噂から転校生を守ってるんだって、それはわかるんだけど
肝心の転校生が、イマイチ何を考えているのか、わからない
(駄菓子屋)
夏海「負けたあ」
れんげ「ほたるんは手先器用なんな!」
蛍「そんなことないですよ」
蛍「お裁縫とか、趣味でやったりはしますけど」
小鞠「へえ、どんなの作るの?」
蛍「…………」マッカッカ
何故か転校生は固まった
ちょっと顔が赤い
蛍「えっと、その……ぬいぐるみ、です」
小鞠「ぬいぐるみかあ、蛍もやっぱり小学生なんだね!」
蛍「え、ええ」
楓「んでれんげに払わせるのか?」
れんげ「駄菓子屋、うちらは勝負に負けたんな」
れんげ「勝負の世界に年は関係ないん!」
蛍「私はいいって言ったんですけど……」
小鞠「私もいいと思うんだけど、まあ言いだしっぺとれんちょんがいいって言ってるんだし」
夏海「ぐう、小遣いが」
小鞠「自業自得でしょ。あ、私これー♪」
蛍「えっと……じゃあ、私はこれで」
…………
うん、これでいいんだと思う
出費は痛いけど、転校生との距離がちょっと縮まった気がするし
転校生もやっぱり緊張してるだけなんだと、そう思った
昔書いててそのままだったのをOAD発売されたので記念にうpです
またきます
『今回はここまで』
(宮内家)
一穂「おや、れんげ送ってきてくれたの?」
夏海「だいぶ暗くなってきたしねー」
れんげ「なっつん、今日はうちでご飯食べないん?」
夏海「お! かずねえ、いーい?」
一穂「ええよー。なんなら明日学校休みだし、泊まってく?」
夏海「あ、じゃあうちに電話してくる」
多分母ちゃんは色々言うけどOK出してくれると思う
ここら辺ではこういうのは当たり前だし
…………
………
……
(宮内家、深夜)
夏海(寝れない……)
夏海「ちょっと、トイレ……」
…………
一穂(…………)
楓(…………)
夏海(?)
夏海(かずねえと、駄菓子屋……こんな時間に、なんで?)
一穂「……一条さんとこがね……」
夏海「!?」
一条――転校生の家の名前が聞こえて、思わずうちはそっと近付いた
なんだか、深刻な話をしている感じがして、本当はいけなかったんだろうけど
楓「ばっかばかしい」
楓「そんなの言ってるの年寄り連中でしょ」
一穂「まあねえ」
一穂「ただね、うん。時期が悪かったというか」
楓「四月に越してくるのが時期が悪いんだったらどこでも悪いですよ」
一穂「まあそうなんだけどねえ」
なんだか駄菓子屋は怒っているみたいだった
楓「怪異とか、そんなのあくまでうちの村の話でしょ」
夏海「!?」
駄菓子屋は、
転校生も含めた一条家に対する村の態度には怒っているみたいだけど
最近起きている、変な出来事は、信じている前提の話をしていた
一穂「神社のお守り石が割れたのがねえ、一条さんとこが来たのと重なったんだよねえ」
お守り石。
もちろん知ってる。神社の裏側にある、大きな岩みたいなやつ。
しめ縄が巻いてあって、大人からは絶対に触れるなと凄くきつく言われていて
このあたりの子供なら、どれだけ悪戯好きでも絶対に触れようとしない、そんな石がある
もちろんうちも、触れたことなんて一回もない
お守りという言葉とは真逆の、不吉さがある、そんな石
楓「お祓いとか、そういうの詳しくないんスけど。どうするって言ってるんです?」
一穂「いやあ、あれ祓うの難しいらしいよ?」
一穂「色々さがしてるみたいだけど、まだ続くんじゃないかねえ」
楓「…………」
楓「何で、割れたんスかね?」
一穂「さあなあ?」
一穂「そもそもお守り石が何から守ってるのか、よくわからんしなあ」
一穂「そういうのも含めて文献とか探してる状態らしいから」
楓「そんなんに振り回されるとか、バカバカしいっすね」
一穂「ほんとになあ」
一穂「でも実際、被害が出てるから過敏になってもしゃあないし」
一穂「まあ今一番の問題は」
一穂「ほたるんなんだよなあ」
夏海「…………っ!」
転校生の名前が出て、動揺してしまったうちは
ギシッと物音を立ててしまった
楓「!? 夏海!?」
一穂「……あらー」
楓「聞いてたのか?」
夏海「え、あ、その……」
一穂「まあ、あんまり耳に入れたくない話ではあったけどね」
一穂「絶対に聞いたらあかんって話なわけじゃないけど」
一穂「一応先生としては? ほたるんとも仲良くしてほしいし」
一穂「今の話、内緒にしといてくれんかね?」
夏海「う、うん……わかった……」
楓「はあ」
楓「まあうちらが言えるこっちゃないけど」
楓「馬鹿な噂に振り回されるんじゃないぞ」
じゃあなんでこんな時間に、そんな深刻そうに話してるん?
そんなうちの疑問は、とても聞ける雰囲気じゃなくて
その日は余計に寝付けなかった
(朝、神社前)
夏海「お守り石かあ、あったなそんなの」
境内を遊び場にしたりはするけど、お守り石のある場所は神社の裏側で、基本誰も近寄らない
本当はいけないんだろうけど、昨日のかずねえと駄菓子屋の話がどうしても気になって仕方なかったうちは、
宮内家を出て家に帰るまでに、神社を覗こうと思った
別にそれで、どうこうってわけじゃないけど、何もしないよりかは心が落ち着くかなって思って
夏海「ほたるん……!?」
神社の階段を、転校生が下りてくるまでは、そう思ってた
蛍「あ、夏海先輩」
蛍「おはようございます」
夏海「お、おはよう」
夏海「あー、一人で散歩?」
蛍「えっと」
蛍「お参りしに来たんです」
夏海「一人で?」
蛍「はい」
うちの中では神社は遊び場であって、お参りする場所じゃない
でもよく考えると、転校生は別におかしなことはしていない
でも、でも……よりによって、このタイミングだと
いろいろ、怖いと思ってしまってる自分がいて
夏海「何をお願いしたのー?」
蛍「え? お願いしたこと人に話すと、叶わなくなるって言いませんか?」
夏海「お、内緒にする気か? この、この」ムギュ
蛍「うわ、な、夏海先輩?」
夏海「お、おー。やっぱりほたるん、大きいなあ(胸が)」
蛍「そんなに大きいつもりは、無いんですけど……」
しまった、つい姉ちゃんにやるみたいな誤魔化し方をしてしまった
夏海「あー、ほたるん家って行ったことないなあ」
蛍「そう言えば、そうですね」
夏海「ねえ、ほたるん家ってテレビゲームある?」
蛍「えっと、一応wiiとかならありますけど」
夏海「最新じゃん! ねえ、遊び行っていい?」
蛍「あ、いいですよ。今日は午後からおうちでお留守番しないといけなくて、外に遊びに行けなかったので」
蛍「でもwiiってもう結構古いような……」
夏海「うちの家はファミコンが現役だけど」
蛍「ふぁみこん、ってなんですか?」
夏海「え?」
蛍「え?」
(午後、蛍の部屋)
夏海「…………」
蛍の部屋の大量のぬいぐるみに、うちは何か言わないといけない気がしたけど
正直、言葉が出てこず、固まってしまった
蛍「あ、紅茶で大丈夫ですか?」
夏海「あ、う、うん。なんでもいいよ」
蛍が紅茶を淹れに行ってくれている間、部屋を見渡す
夏海「これ、姉ちゃんのぬいぐるみだよな……?」
なんでこんなにいっぱい姉ちゃんのぬいぐるみがあるのか、わからない
ふつう、同じぬいぐるみって3体もあったら多い方だと思う
これ、自作? 自作なの? これ普通?
蛍「お待たせしました」
転校生は学校と変わらない笑顔で紅茶を持ってくる
夏海「え、えっと……」
夏海「うちと違って、女の子らしい部屋だね」
蛍「そうですか?」
夏海「う、うん。いっぱい、その……ぬいぐるみが」
蛍「ああ、その」
蛍「こま先輩はその、作りやすいので……」
夏海「そ、そう、なんだ」
蛍「はい」
夏海「…………」
蛍「…………」
蛍「駄目ですか?」
夏海「いや、駄目とかじゃない、全然!!」
ここで何か否定するようなこと言ったらすごく怖いことが起きそうで
怖いものが苦手な姉ちゃんのこと笑えないなと現実逃避のように思ってた
夏海「ね、ねえ。どんなゲームあるの?」
蛍「あ、えーっと。あまりたくさんはないんですけど」
適当に選んだアクションゲームで一緒に遊んだけど
正直、早く帰りたくなってきてしまってた
夏海「ほ、ほたるんってさ、姉ちゃんと仲いいよね」
蛍「え? あ、はい」
蛍「小鞠先輩がどう思ってくれているかはわからないけど」
蛍「私、大好きです。先輩のこと」
好き。大好き。
なんだろう、友達に対する『好き』とは全然違う
首筋がゾワゾワするような、嫌な感じ
姉ちゃんと転校生が一緒にいる時に感じるのを、何十倍にも濃くしたような怖い――『好き』
うちにはそれがなんなのか、よくわからなかった
(夕方、蛍の家玄関前)
夏海「ありがとう、楽しかったよー」
正直何やったか全然思い出せない位怖かったけど、そう言っといた
蛍「もうしばらくは大丈夫ですけど」
夏海「いやあ、早く帰らないと、母ちゃんのアルマゲドンが落ちるからさ」
蛍「…………」
蛍「家に帰ったら」
蛍「いいですね、小鞠先輩がいるのって」
夏海「え? えっと」
蛍「私も夏海先輩みたいに、妹になれたらな……」
蛍「家でもずっと一緒にいられるのにな……」
夏海「……え、えーっと、その」
蛍「あ、すみません」
蛍「ちょっと、羨ましいなって思っちゃって」
蛍「私、今からもうちょっと、一人でお留守番しないといけないから」
蛍「きょうだいいないから、そういうのがいいなって思っちゃって」
夏海「あ、あー」
夏海「そう、なんだ」
上手い言葉が見つからなかった
早く帰りたい、なんて、久しぶりに感じたな……
プルルルルルル プルルルルルル
蛍「あ、電話」
蛍「すみません、じゃあ私はここで失礼します」
夏海「おー。また明日な、ほたるん」
靴を履いて、玄関を出る
空を赤みがかってたけど、まだ陽は高かった
夏海「うーん、でももうさすがにうち帰らんとまずいよなー」
蛍「せ、先輩!!」
夏海「うえ!? ほ、ほたるん、どしたん!?」
蛍「はあ、はあ、はあ、う、う……」
夏海「ちょ、落ち着いて……」
蛍「こ、こま先輩が」
蛍「事故に遭って、今病院だって、越谷のおばさんから……!」
夏海「え!?」
姉ちゃんが、事故?
蛍「な、夏海先輩と一緒に遊んでたって伝えたら、夏海も一緒にっておばさんから……!」
蛍「今、越谷のおばさんが、車でこっちに来てるから、待っていなさいって」
夏海「な、なんでほたるん家で遊んでるの知ってんの!?」
蛍「夏海先輩探すためにあちこち電話かけてたみたいですよ!」
夏海「……!」
うちが転校生の家に来たら、姉ちゃんが事故に遭った
いや、転校生が神社に行ったから、なのかもしれない
そんなことを考えると、転校生が怖くなってしまって
母ちゃんが来るまでの時間が、異様に長かった
『今回はここまで』
ちなみに予告すると、クレイジーサイコレズは発動するかもしれないし鬱展開もあるかもしれないのん!
(小鞠 side)
(夜、小鞠の病室)
小鞠「あー、ついてない」
小鞠「兄ちゃんもごめんね?」
卓(越谷兄)「…………」ウウン
れんげ「でも大したことなくてよかったんな」
小鞠「れんちょん、兄ちゃん、田んぼに頭から突っ込んだから無事だったっていうのは、特に夏海には絶対に秘密ね」
れんげ「なんでなのん?」
小鞠「笑われるからに決まってるじゃん、また子供扱いしてくるだろうし、あーあ」
最近、夏海とあまり仲が良くない
喧嘩する、というより、私が蛍とばっかり話してるから、会話自体が減っちゃった
確かに大人しい蛍と夏海だと、話題があまりないのかもしれないけど
物怖じしない夏海には珍しく、蛍とは距離を詰めかねているみたい
いい子なんだけどな。仲良くなってほしいんだけど
ドタドタドタドタ……バタン!
夏海「姉ちゃん!?」
蛍「先輩!?」
小鞠「な、夏海、蛍、どうしたのそんなに血相変えて」
夏海「…………」
夏海「な、何だ、思ったより……元気そうで、よかった……」
蛍「ホント、そうですね……よかった……」
小鞠「あ、ご、ごめん。心配してくれて、ありがと」
蛍「あの、怪我の具合は?」
小鞠「大したことはないんだけどねー。手首ぐねって肩打ったのと、頭打った可能性あるからって精密検査だって」
小鞠「利き手じゃない方で良かったー。体育はしばらくできないけどね」
夏海「事故ってどしたん?」
れんげ「バイクに鞄が引っ掛かったんな。それで」
小鞠「あーストップストップ!」
小鞠「そんなわけで、心配いらないから。ごめんね」
蛍「い、いえ。謝る事なんか、ないんです」
夏海「…………」
夏海「ま、まあとにかく。よかったよかった」
小鞠「どしたの夏海、なんか変だよ?」
夏海「え? いや一応家族が事故ったらびっくりするでしょ、あはは」
小鞠「びっくりしといて笑うなー!」
なんでだろう。なんか変な空気になっちゃった
夏海と会話すると、こういうことが多い
なんでだろう……
…………
…………
………
……
蛍「先輩? 起こしちゃいました?」
小鞠「ん? ああ、あれ? 私、寝ちゃってた?」
蛍「いいんですよ、検査とかで疲れてるだろうし、私のほうこそすみません」
小鞠「夏海や兄ちゃんやれんちょんは?」
蛍「夏海先輩やお兄さんはおばさんが、れんちゃんは先生が家に送るって」
蛍「私はまだ、お父さんもお母さんもいないので、おばさんがもう一回来てくれるって」
小鞠「そっか。お母さんに迷惑かけちゃったな……」
小鞠「蛍もごめんね? 病院ってしんどいよね」
蛍「そんなこと、今一番しんどいのは小鞠先輩じゃないですか」
蛍「小鞠先輩はいつも、気遣ってくれますね」
小鞠「いやあ、なんだってお姉さんだから! 年上だから!」
蛍「そうですね」
蛍「本当に、そう思います」
蛍「本当に……」
小鞠「……蛍、どうしたの?」
蛍「…………」
蛍「今、私と二人なんだなってこと」
蛍「先輩はどう思ってるのかな、って」
小鞠「どうって」
小鞠「嬉しいけど申し訳ないっていうか……」
小鞠「その、ついていてくれて嬉しいけど、蛍に負担かけたくないなって思う……」
小鞠「ご、ごめんね?」
蛍「だから、今一番しんどいのは小鞠先輩じゃないですか」
蛍「眠たいなら、寝ていていいんですよ」
小鞠「うーん、目が冴えちゃったしな」
小鞠「おしゃべりしよ、ね?」
蛍「あ、はい。そうですね……――」
蛍は嬉しそうに笑ってて、本当にそれが嬉しそうで
この時は事故の怪我が軽くてホッとしてるんだって思ってたけど
『蛍はもっと別のことを思っていたこと』
ここでそれに気付いていたら、もしかしたらああはならなかったのかもしれない
でもさ
蛍は本当に嬉しそうに笑ってて、私と一緒にいるのが嬉しいって言ってくれて
それを、別の意味で捉えるなんて、できるわけないじゃん……
『今回はここまで』
雰囲気的には天テレとか木曜の怪談とかの、一昔前の『転校生が来てから不穏なことが続き始めた』
っていう感じのチャイルドドラマにしたい
でも一昔前のチャイルドドラマにクレイジーサイコレズはなかった
(蛍 side)
(深夜・蛍の部屋)
蛍「…………」
蛍「届いた、届いちゃったんだ」
蛍「やっぱり、幸せだなあ」
蛍「ずっとおしゃべりできたら、もっとよかったのに」
蛍「…………」
蛍「もっと仲良くなりたいなあ」
蛍「ぬいぐるみだけじゃ、足りないもん」
蛍「ずっと一緒にいたい」
蛍「…………」
蛍「夏海先輩が、羨ましいなあ」
蛍「もし、夏海先輩がいなくなったら……」
蛍「…………」
蛍「小鞠先輩は悲しむよね」
蛍「先輩が悲しいと、私も悲しい」
蛍「だから、夏海先輩の事は……いっか」
蛍「いてもいなくても」
(夏海 side)
(放課後、越谷家)
今日は姉ちゃんの見舞いにはいかない
うちが来ても騒がしいだけだって母ちゃんに言われたら仕方がないし
うちが心配することなんて、別にないし
このみ「大丈夫なの、こまちゃん」
夏海「まあ、大丈夫みたいだけど、大事をとってだってー」
このみ「こまちゃんも災難だよね」
このみ「大人はお守り石が割れちゃったせいとか言うけどね」
お守り石。神社の階段から降りてくる転校生。
どうしてもそれが重なって、頭から離れてくれない
夏海「このねえ、お守り石のこと知ってるの?」
このみ「去年までうちの管轄だったし、ちょっとは知ってるよ」
夏海「管轄? あれって神社のじゃないの?」
このみ「本体は神社のなんだけど、あれ? これ知らない話?」
夏海「知らない。ね、ねえ、それ教えてくれない?」
このみ「うーん。あまり話すなって言われてるんだけど」
夏海「頼みます! このとーり!」ドゲザー
このみ「ちょ、やめてよ、どしたの?」
夏海「い、色々とわけがありまして……お守り石について知っときたくて」
このみ「こまちゃんのことは関係ないと思うよ? 今は越谷の家じゃなくて宮内の家になってるはずだし」
夏海「だからそれ何なのさ?」
このみ「えっと、私も詳しく知ってるわけじゃないけど、あのさ」
このみ「お守り石って神社にある本体と、もう一つちっちゃな石があるの」
このみ「その石は本体から生まれた……らしいけど、このあたりあまり私も知らないんだよね」
このみ「とにかく、この石は村の家5軒で12年、60年で一周して回って守らないといけないんだって」
このみ「守らないと災いがおきるけど、守っていると村は安泰だとか」
夏海「なんかふわっとしてるな……」
このみ「うちもよくわかってないからねー」
このみ「この村で担当を決めて、っていうのは、責任を分散するため……だったっけ」
このみ「それでうちの家は去年までお守り石担当だったの」
このみ「で、今年からかずねえやれんちょんの家、宮内の家で12年守らないといけなかったんだけど」
このみ「本体が割れちゃって、だからかずねえ結構責められてるみたい」
夏海「……だから駄菓子屋、れんちょんの家で話してたのか」
このみ「あ、やっぱりそういう話あるんだ」
夏海「ねえ、もうちょっと詳しく知りたいんだけど」
このみ「多分、神社と宮内家に資料が集まってると思うけど」
このみ「お母さんも駆り出されてたしなあ、家じゅう探し回ってたし」
夏海「このねえ、ごめん! 用事出来た!」
このみ「あ、ちょ」
お守り石と転校生
正直、うちが思い込んでるだけだとは思ったけど
はっきりさせないと、何かあるたびに転校生を疑ってしまうのは、もう嫌だった
(宮内家)
れんげ「なっつん、にゃんぱすー」
夏海「ぜ、はー、ぜ、はー、にゃ、にゃん、ぱす」
れんげ「どしたのん? テンションあげあげしちゃったん?」
夏海「か、かずねえ、いる?」
れんげ「いないのん。なんか、電話で呼ばれて出て行ったんな」
れんげ「あ、にいにいも一緒なんな」
夏海「うおおおお!?」
夏海「い、いたのか兄ちゃん。というか、どこからいたん?」
卓「…………」
夏海「あ、もしかして……お守り石について、一緒に調べてくれるとか?」
卓「…………」クイ
夏海「『夏海だけで資料どうやって探すのか?』……た、確かに」
れんげ「なっつん、何か探すのん?」
夏海「そう、そう、このねえには内緒で……」
れんげ「なんか悪巧みなん?」
夏海「ち、違う!」
夏海「うちは……その……」
れんげ「…………」
れんげ「わかりましたん」
夏海「はや!」
れんげ「そのかわり、うちにも事情を教えるん!」
れんげ「最近、かずねえもしんどそうだし、なっつんも辛そうなんな」
れんげ「それに、ほたるんもこまちゃんも辛そうなん」
れんげ「なんか色々と、ずれてる気がするんな」
夏海「…………」
夏海「本当にそうなのかはうちにも全然わからんけど」
夏海「ずれてる、っていうれんちょんの言葉が合ってるなら」
夏海「それを元に戻さんと、ほたるんとも仲良くなれん気がする」
夏海「姉ちゃんもどっか行ってしまう気がする」
夏海「うちはそれを黙って見てるんがいやだから」
れんげ「うちも嫌なん!」
れんげ「なんか最近、みんな変なのん!」
れんげ「うちもできることがあるなら協力したいん!」
夏海「怒られるかもしらんよ?」
れんげ「みんなが仲良くなるためなら怒られても構いませんのん!」
夏海「よく言った、れんちょん!」
夏海「悪い、かずねえの部屋、探させてもらっていい?」
れんげ「あいあいさー!」ケイレイ!
『今回はここまで』
×夏海「そう、そう、このねえには内緒で……」
○夏海「そう、そう、かずねえには内緒で……」
なのん!
(一穂の部屋)
~事情説明後~
れんげ「なるほど、わかりましたん」
れんげ「もしそういうのがあるとしたら、かずねえの部屋なんな」
れんげ「といっても、うちの寝る場所でもあるん」
れんげ「難しいやつは、多分押入れの中にしまってあるん」
夏海「こういうのはさすがに気が引けるな……よっと」
夏海「うーん、どこから手を付けていいのやら」
れんげ「なっつん、抱っこしてほしいのん」
夏海「おっけー」ダキカカエー
れんげ「うんとこらっせ」
れんげ「多分、このへんなのん」
れんげ「かずねえ最近よくここらへんごそごそしてるのん」
夏海「じゃあこっから見てくか……」
ガサゴソガサゴソ
コモンジョ ムズカシイ カンジ ビッシリー
夏海「…………」
れんげ「…………」
夏海「こりゃ読めないわ」
れんげ「なっつんには期待してないのん。にいにい、読めるん?」
卓「…………」クイ
夏海「おー、さすが!」
れんげ「うーん、他も探してみるけど、多分ここにしかしまってないと思うん」
夏海「資料自体があまりないって言ってたしなー」
夏海「…………」
夏海「あれ、うちいらなくね?」
れんげ「はっ!? そういえば」
れんげ「ここはにいにいがいれば事足りるん!」
夏海「じゃあちょっとこれは拝借させてもらって、と」
夏海「これは兄ちゃんに任せていい?」
卓「」コクコク
れんげ「で、うちらは何すればいいのん?」
夏海「やっぱり、割れたお守り石を一度見ときたいよなー」
れんげ「一応言っとくと、あそこは立ち入り禁止って言われてるんな」
夏海「でも実物見ないと何もよくわからんままだし」
夏海「百聞は一見にしかずって言うし」
れんげ「なっつんが行くっていうならうちはついてくん」
れんげ「怒られるときは一緒なのん!」
夏海「……、おっけー。ありがとれんちょん」
夏海「行こうか」
(神社裏手・お守り石前)
れんげ「見事に割れてますん」
夏海「というより、砕けてるなー。前に見たことあったけど、あの大きな岩がどうしてこんな粉々になってんだろ」
確かにこんなふうに砕けて、いろいろ不吉なことが続いたら
信心深いお年寄りとかは同じ時期に引っ越してきた一条家に疑いの目をかけるのもわかる気がした
夏海「なあ、れんちょんはうちがさっき言った話、どう思う?」
れんげ「うーん」
れんげ「うちはほたるんがこんなひどい事する悪い子には見えませんのん」
夏海「いやさすがにこれをほたるんがやったとは思ってないんだけど」
??「なら、どうしてここにいるんですか?」
夏海「!?」
れんげ「ほたるん? どうしてここにいるん?」
蛍「――――」
蛍「私を疑っているから、ここにいるんですよね?」
蛍「調べに来たんですよね? この石のこと」
蛍「私と何か関係があるんじゃないかって」
蛍「よそ者のせいで災いが起きてるんじゃないかって」
蛍「夏海先輩もれんちゃんも、私を疑ってるから調べに来たんだよね?」
夏海「ち、ちが」
咄嗟に否定の言葉を何か言おうとして、でも何もでてこない
転校生は笑っているのに、笑っていなかった
れんげ「あんな、ほたるん」
れんげ「うちもなっつんも、ほたるんと仲良くしたいのん」
れんげ「だからはっきりさせにきたんな」
れんげ「最近、村でおかしなことが続いてるのは、ほたるんのせいなん?」
蛍「違うよ、れんちゃん」
れんげ「…………」
れんちょんは転校生の即答に、何も返せなかった
蛍「ね?」
蛍「信じないでしょ?」
れんげ「だって、ほたるん嘘ついてるん」
れんげ「うちが聞きたいのは嘘じゃないん」
夏海「違う、れんちょん……蛍の言ってることと、れんちょんの話してることは、違う」
蛍「はい、違います」
蛍「私が何を言っても……二人は信じてくれないでしょう?」
夏海「わかる。うちもよく、母ちゃんに何もしてないのに勝手に決めつけられること、あるから、わかる」
夏海「そういう時、疑われてる時って、うちが何を言っても、母ちゃんは信じてくれなかったりする……」
夏海「でも、うちらが誤解してるんだったら、誤解を解きたいよ」
夏海「もう何かあるたびにほたるんのことを怖がりたくない……」
れんげ「……うちもそうなんな」
れんげ「うちはみんなと、仲良くなりたいん」
れんげ「ほたるんとも仲良くなりたいのん」
蛍「…………」
蛍「私は、」
蛍「小鞠先輩がいれば十分なんです」
蛍「だから他は、いらない」
蛍「邪魔を、しないでください」
れんげ「何をする気なのん!?」
蛍「教えないよ、れんちゃん」
蛍「教えたられんちゃんは邪魔をするだろうから」
蛍「邪魔をするってことは、私にいじわるをするってことだから」
蛍「いじわるをしてくるなら……“怖い目”に遭ってもらわないといけないからね」
蛍「でもね、それは小鞠先輩は嫌がるだろうから」
蛍「小鞠先輩はね、怖いの嫌いだし、優しいから」
蛍「だから、みんな……邪魔を、しないで」
夏海「――――!?」
がんがんがんがん!
頭の中からトンカチで頭蓋骨を叩かれているみたいに、
頭が割れそうで、立っていられない――
れんげ「なっつん!? なっつん――!?」
――――
―――
――
『今回はここまで』
(小鞠 side)
(病院・小鞠の病室)
蛍「――――」
小鞠「蛍? どうしたの?」
蛍「いえ、別に何も」
とは言ってるけど、なんだか顔色は悪かった
病院は遠いし、無理してお見舞いに来てるんじゃないかって心配しちゃう
蛍「そんなことはないんですけど……」
小鞠「検査入院なんだし、明日には退院で明後日には学校行くし、無理して来なくて大丈夫だよ?」
小鞠「実際夏海たちは来てないんだしさ」
蛍「私がいると、邪魔ですか……?」
小鞠「そんなことないよ。だってさ、私一人じゃ退屈で死にそうだもん」
小鞠「お母さんはこの機会に英語をもっと勉強しろっていうしさ」
小鞠「日本人なのになんで英語勉強しないといけないんだか」
小鞠「だから蛍が話し相手になってくれるのは、すごくうれしいよ」
蛍「本当、ですか?」
小鞠「もっちろん」
蛍は見た目は凄く大人っぽいけど、やっぱり小学生らしく新しい環境に慣れなくて、不安定だ
色々と嫌な噂が流れているけど、蛍も蛍のご両親も、とてもいい人で、そんなこと言うのが理解できない
だからそういうのから、守ってあげないと
でも……ちゃんと守れているのかな
蛍の不安そうな顔を見るたびに、そう思う
挙句の果てにはこっちが心配される始末……
こんなんじゃ大人の女性にはなれないよね……
蛍「怪我、軽く済んでよかったですね」
小鞠「そうだねー、田舎じゃさ、信号も人も少ないから結構飛ばしてること多くてさ」
小鞠「蛍も気を付けないとね」
小鞠「って、私が言えることじゃないけど」
蛍「いえ……」
蛍「そう、ですね」
小鞠「…………」
蛍「…………」
小鞠「蛍、やっぱり調子悪い?」
蛍「……いえ」
蛍「こうしていられる時間が、残り少ないと思うと」
蛍「…………」
小鞠「……?」
蛍の様子は真剣で、だから私は待った
何かを言いたそうにしていて、だけど言葉にすると壊れそうで
それが怖くて、何も言えない
叱られる前の夏海みたいだなとかちょっと思ったけど、それとはまたちょっと違って
蛍「先輩」
蛍「す、すごく……気持ち悪いこと言うかもしれません」
蛍「だ、大丈夫ですか?」
小鞠(気持ち悪い? 虫? 幽霊?)
小鞠(いや、大丈夫。蛍に限ってそれはない、はず)
小鞠(夏海だったらわかんないけど)
小鞠(こんな真剣にそんなこと言うわけないよね)
小鞠「大丈夫だよー。どしたの?」
蛍「…………」
蛍「す」
小鞠「うん」
蛍「好きです。先輩の事が」
小鞠「…………」
蛍「…………」
小鞠「…………」
蛍「…………」
小鞠「え?」
蛍が何を言っているのか、わからなかった
好きって、いうのは、えっと、えっと
小鞠「あ、あの、友達として、とか、先輩として、じゃなく」
蛍「~~~~」
蛍は顔を真っ赤にして、俯いた
小鞠「え、えっと」
小鞠「あ、何か罰ゲームとかで夏海とかにやらされてるのかな?」
小鞠「あはは、夏海も困ったことするなあ」
蛍「…………」
蛍「本気、です」
小鞠「…………、えっと」
ど、どうしよう
どうするのが正解なんだろう
蛍の目は真剣で、真面目で、恋してる女の子の目そのもので、
蛍「信じ、られないですか?」
小鞠「い、いやえっと……」
蛍はぎゅ、と目を瞑って
立ち上がって、私の頬を両手で優しく包んで
私のおでこに、キスをした
小鞠「~~~~!!」
蛍「――……、」
蛍「ごめん、なさい」
蛍「気持ち悪いですよね」
小鞠「え、えと、えっと、ち、違うよ!?」
小鞠「こここ、これはその、えっと、ビックリしていてえっとあっと」
蛍「わかってるんです」
蛍「小鞠先輩は優しいから、もし小鞠先輩がいいよなんて。……夢のような言葉をくれたとしても」
蛍「周りがきっと、許してくれない」
蛍「きっと、引き剥がされる」
小鞠「…………」
小鞠「蛍?」
蛍「だから、先輩」
蛍「最後の時間を、私にください」
小鞠「――――?」
――――っ
くら、と眩暈がした
身体に力が入らなくて、何か話したくても、声が出ない
蛍が出て行って、車いすを持って入ってきて、それに乗せられているのに
意識はあるのに、声がでない
車いすに乗せられた私と後ろから押す蛍
蛍はタクシーを呼んで、身体も動かず声も出ない私を人形のように持ち上げ、タクシーに乗せる
行き先を告げるけど、それは言葉として聞き取れない
それより、何をしようとしてるのか、聞きたいのに
蛍は笑っているのに笑っていなくて、
凄く苦しそうな顔をしているから、お姉さんとして――声をかけたいのに
蛍の手が、私の髪をそっと撫でた
とても優しく撫でられて、そんな場合じゃないのに、私はとても安らかな気持ちでいて
そのまま意識が、暗闇の中に落ちていって、
「ごめんなさい」の声だけが、最後まで聞こえてた
『今回はここまで』
蛍「先輩小っちゃいですし! 可愛いですし! 持ち運びやすいですし!!」
(れんげ side)
(お守り石前)
れんげ「なっつん! なっつん!」
なっつんはほたるんが“怖いこと”を言ったら、頭を抱えて倒れてしまったん
ほたるんにやめてって言おうとしたけど、なっつんを見てる隙にどっかに消えていて、
……うちひとりじゃ、どうしようもなかったんな
れんげ「なっつん、うち誰か呼んでくるから待ってるのん!」
ザッザッザッザッ
れんげ「は!? 誰なのん!?」
??「は、はあ、はあ、はあ……」
??「あ、あらら、はあ、はあ、急に走ったら、お腹痛い……」
??「そして思ったより大変なことになってる件について……」
れんげ「かずねえ!」
一穂「れん、れんちょん、じ、事情、き、聞きたいのは、こっちも、同じ、なんだけどね……」
一穂「と、とりあえず……誰か呼んで来て……」バタン
れんげ「…………」
一穂「…………」スヤァ
れんげ「起きるん!!」トビノリッ!
一穂「ぐは!? れ、れんちょん、タンマ……本当に、ねえねえ疲れてるんよ……」
一穂「うち一人じゃなっつん運べないから、誰か」
夏海「……うーん」
れんげ「なっつん、起きたん!?」
夏海「ハッ」ガバッ
夏海「ほたるんは!? 姉ちゃんどうするって!? わーわー!?」
一穂「ちょ、そのあたりも、なんか、ごちゃごちゃしてて、わけわからんのですけど」
夏海「かずねえ!? なんでここに!?」
一穂「つ、疲れた……おんぶして」
夏海「いや歩いてよ」
夏海「なんでかずねえこんなに疲れてんの?」
一穂「はあ、はあ……た、助けに来たの、一応」
一穂「うちにも、ほたるんが見えたからね……」
夏海「え!?」
れんげ「かずねえが助けにくるですと!? これはおおきなわざわいのまえぶれなヨカン……」
一穂「姉をなんだと思ってるんだ、れんちょん」
一穂「……ふーっ」
一穂「いやあ、全力疾走なんてするもんじゃないわ―」
れんげ「とりあえず、うちの家が一番近いからうちにくるんな」
一穂「それが良さそうだねえ。うちも色々聞きたいことあるし」
(宮内家、居間)
一穂「いやー、お兄ちゃんが解読してくれるのって助かるわー」
一穂「いやうちもね、これでも大学卒業してるし? 頼まれてはいたんだけど」
一穂「色々と忙しくてね? いやホントに面倒だからお兄ちゃんに押し付けようとかそんなんじゃないから!」
れんげ「…………」ジー
夏海「…………」ジー
一穂「うん! じゃあ二人とも、話聞かせてくれる?」
夏海(この大人は役に立つんだろうか)
れんげ(気持ちはもっともですが、いないよりかはマシですのん。多分)
一穂「そういうのは、本人の聞こえないところでやってくれるかな?」
夏海「うん、わかった。うちから説明する……」
そうしてなっつんはねえねえに説明したんな
ねえねえはいつも通り眠そうな目で聞いてて、どう考えてるかはわからなかったん
そして何も考えてないって線も否定できないのがねえねえですのん
一穂「考えてるよー」
一穂「ふうん。じゃあやっぱり、今は……」
一穂「ほたるんがお守り石持ってるって考えるべきなんかねえ」
夏海「そもそも、お守り石ってなんなの?」
一穂「うーん」
一穂「ちょっと順番が前後するけど、うちがなんでお守り石の前まで来たかってことについて説明するねー」
一穂「まあうちにもほたるんが見えたわけなんだけど」
れんげ「ほたるんが見えたってどういうことなん?」
一穂「上手く言えんけどねえ、れんちょんとなっつんの前に現れたほたるんは、多分ほたるんそのものじゃなかったんだねえ」
一穂「お守り石がほたるんの意思を伝えたってことだと思うよー」
れんげ「なんでねえねえにほたるんが見えたん?」
一穂「それはね、うちが霊能力教師だからだねー」
れんげ「なんと!?」
夏海「マジでか!?」
一穂「あれ、これ本当に信じられて面倒なことになるパターンだったりして」
れんげ「え、嘘なのん?」
夏海「状況が状況だけに信じたのに!」
一穂「あはは。まあまあ」
一穂「でも見えたのは本当だよー」
一穂「理由もね、なんとなくはわかるんだけどね。よいしょ」
一穂「ちょいと待っててー。確認して来るから」
そういうと、ねえねえは一旦出て行ったんな
なんか、電話してるような会話が聞こえてくるん
そしたらにいにいと一緒に帰ってきたんな
一穂「戻ったよー」
一穂「ひかげもほたるん見たんだってさ」
夏海「え? ひかねえ?」
れんげ「ひかねえ今東京にいるのに、というかほたるんのこと知ってるのん?」
一穂「いいや、知らないよー」
一穂「いきなり黒髪の女の子が『邪魔しないで』って言って消えたのを見てパニックになってたわー、あはは」
一穂「うちも同じもの見てたんだねえ、きっと。れんげと夏海のと同じものを」
夏海「……どういうことなわけ? うちにはさっぱりわからん」
一穂「なっつんが見えたのは、お守り石本体の近くにいたからだと思うなー」
一穂「うちらが見えたのは、『本来は宮内の家がお守り石の担当だったから』」
一穂「こう考えるのが自然だねえ」
一穂「おにいちゃん、ちょいと解読したノート見せてくれる?」
卓「」ウン
一穂「ふむふむ」
一穂「ほーお守り石とはこんなんだったんだねえ」
夏海「一人で納得してないでこっちにも説明してよ!」
れんげ「するのん!」
一穂「まあ由来とかはわからないんだけど」
一穂「お守り石(小)を持った者の願いをお守り石(大)が叶える」
一穂「とまあ、これだけ聞くととてもいいものに思えるかもしれんけど」
一穂「この願いってのが、曲者みたいだねえ」
夏海「だから、それとほたるんとどう関係があるのかないのかはっきりしてよ!」
一穂「ちょいと待って、うちも全部わかってるわけじゃないから」
一穂「というか、本当にこんなことが起きるとは思ってなかったからねえ」
一穂「…………」
しばらくねえねえは古文書とにいにいが解読した部分を照らし合わせてたん
めずらしく居眠りせず真面目だったから、誰も口を挟まなかったんな
一穂「あのお守り石には、よそから来たとても力の強い神様が封印されていたんだって」
一穂「その神様はなんでも叶えることができたそうな」
一穂「『そんなことができるわけがないだろう』っていう、諦めの想いとか」
一穂「そんなネガティブな想いも汲み取ってしまえるぐらい、強い力を持っていたんだって」
一穂「例えば『友達になりたいけど友達になれるはずがない』っていう、矛盾した願いを、同時に叶えてしまうとか」
一穂「そんな願いが叶ったら、どうなると思う?」
れんげ「…………」
夏海「…………」
卓「…………」
一穂「わからんよね。うちもわからん」
一穂「ただそれで、すごく危ない力、ということになったんだねえ」
一穂「神様は封印されたけど、小さな石を生み出した」
一穂「村の一員となりたかった神様は、少しでも力になりたかったんだね」
れんげ「閉じ込められたのに、それでも友達になりたかったのん?」
一穂「昔はね、よそから来る人を受け入れてくれる村って、少なかったんよ」
一穂「神様でも同じだったんだね」
一穂「神様自身は封印されたけど、小さなお守り石は村の家が順番に守っていくことで」
一穂「少しずつ少しずつ、力を分散して村を守ってきたんだってさ」
一穂「まあこれが、お守り石の大体の由来みたいだねえ」
うちがそれを聞いて、思ったのは――
れんげ「……さびしいお話なんな。友達になってくれたのが嬉しくて力を貸してあげたら、閉じ込められたのん」
れんげ「うちだったら、怒るかもしれんのん。優しい神様なんな」
一穂「そうだねえ」
一穂「まあそうやって現代に伝わってきたんだけど」
一穂「本体が割れたのは、どうも本来の持ち主でないほたるんが持ってしまったのが原因みたいだね」
一穂「多分だけど、今神様はほたるんとこにいるみたいで」
一穂「ほたるんの願い事、なんでも叶えてる状態になってしまってるんだろうねえ」
夏海「なんでほたるんなの? ってかなんでお守り石をほたるんが持ってるの?」
一穂「…………」
一穂「一体どこで落としたんだろうねえ」
れんげ「やっぱりねえねえのせいなんな!」
一穂「いや、だってこんな話うちも知らんかったし、知ってても信じたかって言われると……」
ごにょごにょ言うねえねえをなっつんもにいにいも呆れて見てたんな
うちも呆れてましたん。当然ですのん
一穂「まさかこんな大事になるとは思ってなかったしねえ」
一穂「それに普通は担当の家に勝手に戻ってくるんよ」
一穂「ただ、担当が変わった年っていうのは、たいてい不安定な時期でもあってね」
一穂「それでも拾ったのが村の人だったらまだ戻ってきたんだろうけど」
一穂「ほたるんはまだ越してきたばかりで、村の一員としては日が浅かった」
一穂「あと多分、ほたるん自身、結構感受性が強いんかもしらんね」
一穂「まあうちがわかるんは、これぐらいかなー」
夏海「つまり、ほたるんは……」
夏海「誰かを傷付けようとか、思ってないってこと?」
一穂「本当ならねー」
一穂「ただでさえ越してきて不安ばかりの時期なんだしね」
一穂「例えば、『みんなが受け入れてくれるだろうか』っていう不安を、お守り石が叶えてしまってたとしたら」
夏海「…………」
一穂「そういうことだねえ」
れんげ「こまちゃんがいれば十分って、ほたるんは言ってたのん」
一穂「あー、そうだねえ」
一穂「確認しないといけんね」
そういうと、またねえねえは立ち上がって、電話をかけに行ったん
多分、こまちゃんの病院に
夏海「…………」
れんげ「なっつん、大丈夫? 頭痛いのん?」
夏海「いや、大丈夫だよー」
そうはとても見えなかったん
多分、なっつんも心配だったん
こまちゃんも、ほたるんのことも
一穂「あー、こりゃまずいっぽいねえ……」
一穂「こまちゃん、病院にいないって言われたわ」
夏海「……っ!」
れんげ「どこ行ったのん!?」
一穂「探さなあかんね。できるだけ早うにね」
一穂「うちは村の人に声かけてくるね。でもその前に」
一穂「れんげ、これ渡しとくね」
そういって渡されたのは、空っぽのお守り袋だったのん
一穂「これは本当ならお守り石が入ってるはずの袋だったんよ」
一穂「ほたるん見つけたら、お守り石をなんとか返してもらって、この袋に入れてくれる?」
一穂「うちも持ってるけどね。これは本来の担当である宮内の家の人間しか今回は使えないから」
夏海「うちや他の人はだめなん?」
一穂「わからん。でもさっきのほたるんの言葉を聞く限り……」
一穂「このお守り袋を扱える宮内の誰かじゃないと、お守り石は収まらん気がするねえ」
一穂「れんげ、ほたるんを見つけたら、できる?」
れんげ「できるん!」
そうしたら、ほたるんともやっと仲良くなれるのん
ねえねえに村の大人たちに連絡を取ってもらってるも時間が惜しかったん
だからうちとなっつんとにいにいは、三人で先に探しに行くことにしたん!
夏海「で……どこにいるんだろ?」
れんげ「…………」
卓「…………」
……でも当てが全くなかったんな
ほたるんがこまちゃんと行きたい場所って、どこなんな――?
『今回はここまで』
かずねえが一番書きやすいんはなんでなのん?
(小鞠 side)
(???)
小鞠「……ほた、る……」
手足に力が入らないのに、勝手に動く
タクシーから降りるのは自分で降りたんだけど、降りたくて降りたんじゃない
意味が分からないけど、まるで操られてるみたい
夢だったらいいのに
こんな蛍、ヤダな
蛍「すみません、先輩……」
小鞠「どこいくの……?」
喉が掠れて、声が出ない
なんだかふわふわしていて、現実味がなくて
普通なら――怖いもの、嫌いだから、こんなことがあったらパニックになるはずなのに
蛍「ちょっと遠いから、おんぶしますね……肩、大丈夫ですか?」
小鞠「……おもいし、いいよ……」
蛍「私のわがままですから」
ひょいっと、簡単に蛍は私をおんぶした
いつかもあったっけ、こんなこと
小鞠「……ほしみにいったとき、おなじことあったね」
蛍「覚えてくれてたんですか?」
小鞠「うん……あれがきっかけだったし」
蛍も小学生なんだなってわかって、守ってあげなくちゃと思ったのは
蛍「今から行くの、そこなんです」
蛍「もう一度、最後に先輩と星が見たくて」
でもまだ、陽は高い
星なんて見えるわけがないのに
蛍「じゃあゆっくり、待ちましょう」
小鞠「……そうだね……」
小鞠「ほたる、どうして……」
小鞠「…………」
蛍「…………」
私はおんぶされてるから、蛍の顔が見えない
でもきっと、寂しい顔をしてるんじゃないかな
私、何も出来なかったのかな
小鞠「ほたる……」
蛍「ごめんなさい」
蛍「私、悪い子なんです」
蛍「いっぱい悪いこと、したから」
蛍「だから、お別れしないといけないんです」
小鞠「おわかれって、どこにいくの?」
蛍「…………」
小鞠「ねえ、へんなこと、かんがえちゃだめだよ」
小鞠「かえろう?」
小鞠「いまなら、だいじょうぶだから」
小鞠「わたし、おねえさんだから」
小鞠「ほたるのこと、まもってあげるから」
小鞠「だからね」
小鞠「さいごなんか、いやだよ」
小鞠「ほたるがね、すきっていったとき、びっくりしたけど」
小鞠「ほたるのすきとは、ちがうかもしれないけど」
小鞠「ほたるのことは、わたしもすきだよ」
小鞠「だから、ちゃんとかんがえるから」
蛍「小鞠先輩にも」
蛍「私、酷いことをしました」
蛍「小鞠先輩の事故は、私のせいです」
小鞠「……よくわからないけど」
小鞠「ほたるはそうしたくて、そうしたの?」
蛍「…………」
蛍「お父さんもお母さんも最近、忙しくて」
蛍「家で一人でお留守番が多くなって」
蛍「一人でいるっていうのをわかってほしくて」
蛍「小鞠先輩と同じだったらなあって思ってしまって」
蛍「そしたら、事故が起きたんです」
蛍「小鞠先輩が一人で入院になって」
蛍「私の考えてることが、別の形で叶っちゃったんだなって」
蛍「私がいると、みんな傷付く」
蛍「私、悪い子なんです」
蛍「多分、これかられんちゃんや夏海先輩の事も傷付けるんです」
蛍「小鞠先輩にしたことより、もっと酷いことをするんです」
蛍「“怖いこと”をしてしまうんです」
小鞠「……だとしても」
小鞠「それは、やっぱり……ほたるのせいじゃないよ」
小鞠「ねえ、かえろう?」
蛍「…………」
蛍はやっぱり、その言葉だけを聞いてくれなくて
ゆっくりゆっくり、あの丘に歩いてく
蛍、ごめんね
私、お姉さんなのに、気付けなくて、守ってあげられなくて
伝えたかったのに、とうとう声が完全に出なくなって
星を見たあの丘に、辿り着いた
『今回はここまで』
こまちゃんは基本、何も考えてなければ年相応なんだけど
はりきると小学生以下になる、こまちゃんはポンコツ可愛い、これ異論認めない
(星を見たあの丘)
蛍「空、蒼いですね」
小鞠「うん……」
蛍「東京じゃ、こんなに空、高くなかったような気がします」
小鞠「うん……」
蛍「先輩」
小鞠「……うん?」
蛍「ぎゅってして、いいですか?」
小鞠「……ほたるがしたいなら、いいよ」
もっと他に伝えないといけないことはあるはずなのに
なんで声になってくれないんだろう
蛍が拒絶してるからなのかな
蛍が後ろから私を抱きしめる
力は弱くて、壊れ物を扱うみたいで
蛍はやっぱり、寂しそうで
ほんと、だめだめだ、私……
小鞠「ほたる」
蛍「はい」
小鞠「ほしをみたら、どこにいくの?」
蛍「…………」
蛍「ここで、明かりが消えて」
蛍「私、泣いちゃった時」
蛍「先輩が手を引っ張ってくれて、すごく頼もしかったんです」
蛍「先輩も怖い筈なのに」
蛍「私を守ってくれようとしたことが、嬉しかったんです」
蛍「今も、守ってくれようとしていて」
蛍「私、幸せです」
蛍「だから、お返ししないと」
小鞠「だめだよ」
小鞠「どこにも、いっちゃいやだよ」
蛍「やっぱり」
蛍「優しいですね、先輩」
蛍「でも、でも」
蛍「私、きっと甘えちゃうんです」
蛍「そうしたら、もっと“怖いこと”が起きちゃうんです」
蛍「わかるんです」
蛍「だから、いなくならないといけない」
蛍が、この村からいなくなる?
蛍「ちょっと前に、私が引っ越す前に戻るだけです」
蛍「大丈夫」
蛍「今日、この日が沈んで星が見えたら」
蛍「私はいなくなります」
蛍「みんなの記憶から、私だけが消えて」
蛍「みんな、元通り」
蛍「…………」
蛍「悪い子で、ごめんなさい」
小鞠「ねえ、いかないで」
小鞠「そんな、さびしいこと、いわないで」
小鞠「いっちゃ、だめだよ」
私は、泣いてた
何で記憶から消えることができるのとか、そんなことはどうでもよくて
思い出が消えるなんて、寂しい
まだまだ仲良くなれるのに
みんなでもっともっと、遊びたいのに
――――
―――
――
気が付けば、夕方になっていた
蛍「あ」
蛍「明るい星が、見えてきましたね」
小鞠「ほたる……」
小鞠「どこにも、いかないで……」
私はずっと泣き続けてて、それしかできなくて――
??「うちのこまちゃん泣かせないでくれますかー?」
小鞠「――こまちゃん言うな! 姉を敬え! ――あれ?」
小鞠「……身体も動く? あれ?」
反射的な返事が、鈍っていた意識を回復させたのかな
まだ身体は重いけど、それでも自由に、動くようになった
蛍「……夏海先輩、邪魔しないでって言ったのに」
夏海「だとしても夏海ちゃん悪くないもーん」
小鞠「ぐ、相変わらず腹立つ……!」
夏海「でも母ちゃんも駄菓子屋もみんなマジで怒ってるから、ヤバいんで、マジで」
小鞠「ぎゃあ、お母さん怒ってる!?」
夏海「いやあ、あれはマジヤバいわー。アルマゲドン起きるわー。なんでうちのこまちゃんは連れて帰ります」
蛍「させない……!」
小鞠「ちょ、待っ……!」
小鞠(夏海のバカ、状況わかってんの!?)
小鞠(いやうちもわかってないけど!)
小鞠(蛍めっちゃ怒ってるし! どうすんの!?)
蛍が後ろから回した腕に力を込める
思った以上に力が強くて、逃げられない
それに、逃げたら、蛍が壊れそうで……
どうすれば、いい?
『今回はここまで』
なんか思ってたより不思議な作風になってしまったのん
ちょっとのんのんびよりっぽくないのんな、反省してるん
あんまり人いなさそうだけど、最後まで頑張ってみるんな
(れんげ side)
(時間巻き戻り)
(宮内家玄関前)
夏海「あー、どこ行ったんだろ……ホンットわっかんないんですけど!」
なっつんは本気でイライラしてるみたいなん
当然ですのん。こまちゃんがほたるんと一緒に消えたなんて
こまちゃんもほたるんも、うちの大事な友達ですのん!
でもここで怒って何とかなるんだったら、うちはいくらでも怒りますが、
大事なのは、ほたるんがどこにこまちゃんを連れて行ったかなのん
れんげ「なっつんなっつん」
夏海「心当たりあるのれんちょん!?」
れんげ「もう一回、お守り石のとこに行ってみないん?」
れんげ「頭痛くなったのなっつんだけだったのん。うちも近くにいたのに頭痛くならなかったん」
れんげ「うちはねえねえ達にも見えたけど、あれはきっとなっつんに当てた言葉だと思うん」
れんげ「こまちゃんの部屋探してもわからんと思うし、ほたるん家は多分今は入れないのん」
れんげ「当てはあそこしかないと思うん」
夏海「う、うん……? そうなのか……?」
れんげ「ほたるんが調べさせなかったのは、調べてほしくなかったからじゃないのん?」
夏海「……よし! れんちょんのアイディアを採用だ!」
夏海「というかそこしかない! いくぞれんちょん!」
れんげ「あいあいさー」ケイレイ!
(神社・お守り石前)
夏海「」コソコソ
れんげ「なっつん、そんなこそこそしてたら調べられないのん」
夏海「……ほたるん、いない?」
れんげ「今のところ出てこないのん、早くこっち来るのん」
夏海「れんちょんはあの頭の痛さ知らないから言えるんだよ……」
夏海「うーん」
夏海「実を言うと、姉ちゃんもほたるんもここにいるんじゃないかって期待してたりしちゃってたんだけど」
夏海「そう簡単にはいきませんか」
れんげ「いかないのんな……」
夏海「…………」
れんげ「…………」
夏海「…………」
れんげ「調べないのん?」
夏海「……母ちゃん以来だぜ、こんなにもアルマゲドンが怖いと思ったのは……」
れんげ「なっつん、だめだめなんな。こまちゃんに負けない怖がりさんなのん」
れんげ「…………」
れんげ「ほたるんはなんでそんなになっつんに怒ってるん?」
れんげ「なっつん、なんかほたるんにしたん?」
夏海「え!?」
夏海「いや、心当たりはない……うん。ない」
れんげ「うーん、わからんのん」
れんげ「とりあえず調べるのん」
うちはとりあえず、砕けたお守り石の破片を持ってみたん
――――
―――
――
(???????)
れんげ(なっ!?)
夏海(うえ!?)
卓(……)!?
夏海(兄ちゃん、いたの!?)
れんげ(それよりここ)
れんげ(教室なん? 瞬間移動なん!?)
蛍 「東京から来ました、一条蛍です」
小鞠「東京から!?」
夏海「何やらかしてきたの!?」
蛍「特には……父の仕事の都合です」
夏海「なんだー。あ、学年は?」
蛍「小5です」
小鞠「小5!?」
夏海「見えないなー。姉ちゃんより姉ちゃんっぽい」
小鞠「いちいち私を引き合いに出すな!」
夏海(……これって)
夏海(蛍が転校してきた日の?)
れんげ(なんと!?)
れんげ「ほたるん、にゃんぱすー」
蛍「……? にゃ、にゃ?」
ぴんぽんぱんぽーん
一穂「はーい、席ついて。授業始まるよー」
蛍「…………」
蛍(上手く、返事できなかったな)
蛍(私、みんなと仲良くなれるかな……?)
夏海(これ……)
れんげ(ほたるんの、気持ちなのん……?)
『今回はここまで』
暖かい言葉、ありがたいんな! がんばるん!
食べます? もろこし?
(??放課後の教室??)
一穂「はーい、じゃあこんなところかなー」
一穂「四年生までの学習ペースは順調みたいだし、こりゃ教える方も楽だわー」
蛍「はあ……」
れんげ(ねえねえが何言ってるかわからないのん)
夏海(多分ほたるんの前の学校のレベル見てるんじゃない?)
れんげ(のんのん。ねえねえがまともに授業するとこ見たことないのん)
れんげ(なのに教える方とかどういうことですのん!)
夏海(れんちょんはスパルタだねー)
夏海(うちはかずねえで良かったわー、かずねえ怒らないし)
れんげ(だからなっつんのおばさんに怒られるんな……)
夏海(憐みの目で見るの止めてくれ……!)
一穂「そんじゃま、学校案内……するほどのとこがないねえ」
一穂「まあおいおい覚えていけばいいよ。わからなかったらその辺にいる誰かに聞きなー」
蛍「は、はい」
蛍(……全校生徒は、私も入れて、五人)
蛍(全員学年バラバラで、やっていけるのかな……)
一穂「まあ東京で今まで暮らしてきたなら、確かにこのガッコは慣れるまで時間かかるかもね」
一穂「でもみんないい子だよー、こまちゃんは空回りしなければちゃんとやれる子だし、夏海はやらかす時も多いけどムードメーカーだし」
一穂「れんげはまだ小さいけど、まあ実の姉が言うのもなんだけど、しっかりしてるしねー」
一穂「まあ緊張するなとは言わんけど、すぐ慣れるよー。多分」
蛍「は、はい」
一穂「ま、そういうのは後々慣れていく方向で、と。あとこのプリントだねー。宿題と、保護者の人に渡すやつ……あれ? ない」
一穂「ありゃあ、まだコピーしてなかったかなー」
一穂「ちょい待っててくれる?」
蛍「はい」
蛍(…………)
蛍(なんか不思議な紙だなあ、東京じゃ見たことないや)
れんげ(ほたるん、プリント見て不思議そうな顔してるん。なんでなのん?)
夏海(わら半紙がそんなに珍しいのかね?)
※作者注; 現在全国的にプリンターとコピー用紙の普及により、わら半紙は絶滅危惧種らしいです。
………
……
蛍「先生、遅いなあ」
れんげ(きっとどこかで居眠りしてるんな!)
夏海(かずねえならありえるから何とも言えんけど、大事なのはそこじゃないって)
蛍「…………」
蛍「標本とか、色々あるなあ」
蛍「……わ、表彰状の数凄い」
蛍「…………」
蛍「綺麗な石だなあ、なんだろう」
夏海(あ)
れんげ(なっつん! あれ! お守り石なのん!)
夏海(ってかかずねえあんな適当においてたのかよ!)
蛍(……本当に、綺麗……)
蛍(持ってるだけで、力が湧いてくるみたい……)
一穂「お待たせー」
蛍「!」ビクッ
夏海(あ、ポケットに隠した!)
れんげ(ほたるんがお守り石を手に入れたのは、やっぱりかずねえが悪いんな!)
夏海(まあここでほたるんが元に戻せばよかったんだろうけど)
夏海(なんだろうなあ、なぜか隠してしまうんだよなあ……)
一穂「いやあ、プリンターが詰まっちゃってさ。待たせてすまんね」
一穂「ん、もう渡すものはないね。今日はもう帰っていいよー」
蛍「あ、はい。失礼します」
(??蛍の部屋??)
蛍「思わず、持ってきちゃったけど」
蛍「やっぱり、返さないとダメだよね」
蛍「うん、明日返そう」
蛍「……でも、綺麗だなあ」
夏海(……ぶっちゃけさあ、そんなに綺麗? あれ)
夏海(うちにはよくわからん。普通の石ころにしか見えん)
れんげ(うーん、うちにもあの石にげーじゅつせいは感じられないのん)
――ふわっ
蛍「え!?」
夏海(なっ!?)
れんげ(なっつん、石が浮いて光ってるのん!? 凄いのん!!)
蛍「――――」
蛍「…………」
蛍「そっか」
蛍「あなたも、友達が欲しいんだ」
蛍「私も……みんなと友達になりたいもん」
蛍「うん。じゃあ、少しだけ……一緒に、いよう?」
キィィィィィィン
夏海(――――!! れ、れんちょん大丈夫!?)
れんげ(あ、頭痛いのん!!)
夏海(しっかり!!)
――――――――
夏海(止まった……?)
れんげ(……多分、今ので)
れんげ(神社にある本体のお守り石が壊れて、ほたるんの持つちっちゃな石の方に移ったのん)
夏海(え!? なんでわかんの!?)
れんげ(上手く言えないんけど、このお守り袋が、なんかそう言ってるんな)
れんげ(本当ならあのおっきな石じゃないと封印は無理なのん)
れんげ(それを無理矢理にあの小さな石に移ったから……バケツから水が溢れるみたいに)
れんげ(ほたるんの考えてること、なんでも叶えてしまうようになってしまったのん)
れんげ(ほたるんもだけど、宿無しやどかりも神社のお守り石に戻らないと)
れんげ(哀しいことになるのん……)
夏海(さらっと言ったけど宿無しやどかりって誰?)
れんげ(お守り石の中の人に決まってるん。なっつん、わかってないのんな)
夏海(いやいきなりれんちょんワードが入ったら誰でもわからんって)
夏海(まあ、大体の事はわかってきたけど……)
れんげ(でも、まだ終わってないのん)
れんげ(ならまだ、伝えたいことが、あるはずなんな)
(??????)
(――お守り石が割れたって)
(一条さんとこが引っ越してきた直後でしょ?)
(なんか不吉だねえ)
蛍「…………」
蛍(なんか、みんなの声が、怖いな……)
小鞠「ほーたる、遊ぼ」
蛍「あ、はい。何して遊びますか?」
夏海「外なら中当て、6虫、鬼ごっことかケイドロとか」
蛍「うーん」
蛍「ろくむしってなんですか?」
夏海「あれ、6虫知んないか」
れんげ「うちも知らないーん」
夏海「簡単に言うと鬼を二人決めて、円を二つ作る」
夏海「その円の間を一往復できたら『1虫』、これを6回繰り返して『6虫』出来たら勝ち」
小鞠「でも円の外には鬼がいて、鬼にボールを当てられたらアウト、もう走れないよ」
夏海「走る方はボールを避けるか受け止めないとダメ。受け止めたら、鬼のいない方に思いっきり投げて」
夏海「鬼がボールを追いかけてる間に虫を稼ぐとかもできる」
小鞠「ちなみに円の中は安全地帯。円の中でボールが当たってもアウトにはならないよ」
小鞠「まあ説明だけじゃわからないし、やってみる?」
れんげ「みるーん!」
小鞠「円と円の距離どれくらいにする?」
夏海「れんちょんもいるし、7メートルぐらいにしとく? 円もちょい広めで」
小鞠「わかんなかったら聞いてね、じゃあグッパーで鬼と走る人決めよ」
蛍「は、はい!」
蛍(う、上手くできるかな……? が、頑張ろう!)
蛍(頑張って、打ち解けないと……!)
夏海(……覚えてる、これ)
夏海(この時のほたるん、こんな緊張してたんだ)
れんげ(うちは入学したてだけど、ねえねえもこまちゃんもなっつんもにいにいのことも知ってたから)
れんげ(みんなが知らない人ばっかりっていうのが、うちにはわかんないのん)
れんげ(うち、ほたるんのこと、考えてなかったんかな……)
夏海(それ言うんだったら、うちもそうだよ)
夏海(れんちょんもほたるんも、悪くない)
夏海(ダイジョーブダイジョーブ)
夏海(ほら、まだほたるんは伝えたいこと、あるみたいだからさ。見よ?)
れんげ(……頑張るのん)
れんげ(……またみんなで、6虫やりたいのん……もっといろんなことで遊びたいのん)
『今日はここまで』
わら半紙は本当に絶滅危惧種なのん
6虫って全国的な遊びなのん? 作者の地域ではやってたのん
ちなみに作者の地域では本編でもあった『定規落とし』は『さしペン』って言ってたのん、物差しとペンだからさしペンなのん
ちなみに作者は結構風邪をこじらせてますのん……更新遅れて申し訳ないです
もしかして:ジェネレーションギャップ?
ちなみに作者は幼少期は関西で過ごしたのん
鬼ごっこの種類で一番遊んだ記憶は凍り鬼ですのん、でも基本インドアだったんな
もしかして:ジェネレーションギャップ?
ちなみに作者は幼少期は関西住みですのん
一番遊んだ記憶のある鬼ごっこは凍り鬼なんな、でも基本はインドアでしたん
誰も読んでないかなーとか思ってて、、チョイこちらも忙しくなってついつい…
エタる、よくないですね。また明日から投下していきたいと思います
のんびり更新で申し訳ないのです
ところで『BAD END』『TRUE END』『ループEND』とあるんですが、どれを希望しますか?
1、BAD
2、TRUE
3、ループ
安価は>>91でお願いします
安価
いやあ、忙しくてねえ。申し訳ないのです。人いないかなあとか思っていたりしたので。でもエタるの良くないですよね。
あ、『TULE END』 『BAD END』 『ループEND』といくつかパターン考えているのですが、安価で結末決めようかと思ってます
>>90が
1、『TULE END』
2、『BAD END』
3、『ループEND』
好きなの選んじゃってください、頑張ります。
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このSSまとめへのコメント
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続きないの?
ここまで結構見応えあったからここで終わるのは悲しい