高森藍子「道明寺で合宿です」 (51)

※デレマス
ポジパの新曲とイベントに期待

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474183590

未央「うーん、ようやく着いたね」

茜「ここが歌鈴ちゃんの地元なんですねっ!!」

藍子「うん、道明寺はここからバスで30分くらいだって」

茜「広々としていいところですね、空気も美味しく感じます!!」

藍子「えーとバス停はここだから…目的地は…」

未央「あの山の方かな?」

藍子「たぶんそうだと思うんだけど…あっ!未央ちゃん見て!」

未央「なになに?どうしたの?」

藍子「あそこ、公園の中に鹿さんがたくさん!」

未央「おおーっ、さすがは奈良って感じだね」

藍子「かわいい~。ねえ未央ちゃん、私ちょっと行ってくるね」

トタトタトタ

未央「あっ、ちょっとあーちゃん!?」

藍子「大丈夫~、バスの時間には戻るから~」

未央「ああ、行っちゃった…」

未央「もう、あーちゃんは興味があると夢中になっちゃうんだから。ねえ茜ちん、どう思う?」

茜「未央ちゃん」

未央「うん」

茜「お願いがあります」

未央「なに?」

茜「私の荷物を持っていってもらえませんか」

未央「え、ちょっと…荷物って?」

茜「私はあの山まで走って行きます!!」

未央「山までってあんなに距離があるよ!?」

茜「未央ちゃん!」

未央「うん」

茜「山は見えているんです、見えている場所にたどり着けないという事はありません!!」

ダッダッダッダッダ

茜「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

未央「あ、ちょっと待って!!」

茜「すみませんがー、荷物はー、お願いしますー」

未央「あ、あーちゃんに続いて茜ちんまで…」

未央「…」

未央「この合宿無事に終わるのかなぁ…」

ピコピコ

少年A「おい、カ○ゴン居るぞ」

少年B「マジかよ、どこどこ」

少年A「ほら、これ」

少年B「向こうの森の方かな?行ってみようぜ」

トトトトトトト…

歌鈴「こーら。待ちなさい」

少年A「なんだよねーちゃん」

歌鈴「ここはみんなが集まる場所なんだから、そんなに走ったらだめだよ」

少年B「いいじゃねーか、気を付けてるし」

少年A「ほら行こうぜ」

歌鈴「こら、勝手に森の中に入ったら危ないよ」

少年A「どうしてだよ」

歌鈴「あそこは神様の森なんだから、うかつに入ったら神隠しにあっちゃうよ」

少年B「へっ、そんなことあるわけねーじゃん」

少年A「おいこんなやつほっといて行こうぜ」

ダダダダダ…

歌鈴「あ、待ちなさいってば」

少年A「うるせーよ!」

少年B「ババアは黙ってろって!!」

歌鈴「バ…私はまだ10代なんだからねー。こらー!」

トットット…

サササッ

こけっ

歌鈴「あ…はわわっ…た、倒れるぅ~」

むぎゅっ

歌鈴「あ、誰かが支えてくれて…た、助かりました~ってあれ?」

藍子「歌鈴ちゃん、大丈夫?」

歌鈴「あ、藍子ちゃ~ん」

未央「いやー、さすがあーちゃんはかーりんのフォローに慣れているね」

藍子「未央ちゃん、呑気なこと言ってないで手を貸して…変な体勢になってるから…このままだと二人とも…」

未央「ああ、うん」

歌鈴「あ、あ…また…バランスが…倒れて…はわわ…」

ドドドドドドドドッド

茜「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

ガシッ

茜「二人とも大丈夫ですかああああ!!」

ダダダダダダダダダ…

歌鈴「あ、ありがとうございます」

藍子「茜ちゃん、もう大丈夫だから…おろして、おろしてってばあ…」

未央「いやー、神社の石段をダッシュで登ってきて、そのまま二人をタックルで持ち上げるなんて茜ちんは体力が余ってるねえ」

茜「はい!今日は合宿ですからいつもより余計に気合いを入れています!!」

藍子「茜ちゃんがいつも以上に気合いを入れたら大変なことになると思うんだけど…」

歌鈴「三人とも着くのが早かったですね」

未央「あーちゃんと一緒だとどこで時間を取られるか分からないから予定より早く出てきたんだよ」

藍子「もう、未央ちゃんたら。私だってお散歩と旅行の区別くらいはつけますよ」

未央「そんなこと言って、駅前の公園で鹿に付いていこうとしたのは誰だったかな?」

藍子「あ、あれは珍しかったから、つい…ね」

未央「まあバスの時間には間に合ったからよかったけどね」

茜「あらためて歌鈴ちゃん、お世話になります」

歌鈴「いえいえ、たいしておかまいもできないと思いますがゆっくりしていってください」

藍子「それにしてもポジパの合宿を歌鈴ちゃんの神社でやることになるなんて」

未央「たしか…言い出したのは茜ちんじゃなかったっけ?」

茜「はい!!」

藍子「茜ちゃん、どうして合宿をしようと思ったの?」

茜「私は夏のフェスに出場するため海で合宿をしてきました!!」

藍子「ああユッコちゃんたちと一緒のユニットだね」

茜「正統派アイドルになるべく体力をつけて、歌を覚えて、ダンスを覚えて」

未央「それからそれから?」

茜「えーと、それからなんやかんやあって」

藍子「なんやかんやあって?」

茜「海でたくさん泳いできました!」

未央「結局遊んだんかーい!!」

びしっ!!

茜「いえ、それは特訓が終わった後の話です。ちゃんとアイドルとして成長してきましたよ」

未央「それでこんどはポジパでフェスに出るから合宿しようって提案したの?」

茜「はいっ!!」

藍子「でもどうして歌鈴ちゃんの実家にしたの?」

未央「もしかして、海は行ったから今度は山とか?」

茜「まあ、それもありますが」

歌鈴「ありますが?」

茜「実は有香さんから寺で合宿をした時の話を聞きまして」

未央「おー、そういえばしきにゃん達が修業をしてきたって聞いたね」

茜「はい、どこまでも続く山道、大きな滝にうたれ、廊下の掃除をして心を清め」

藍子「うんうん」

茜「そしてなによりご飯が最高に美味しかったと聞きました!!」

未央「結局それかーい!!」

びしっ!!

歌鈴「あはは…」

藍子「それは…響子ちゃんが一緒にいたからじゃないかな」

茜「ですから私たちもこうして歌鈴ちゃんの実家のお寺でですね」

藍子「あのー、茜ちゃん」

茜「はい、なんでしょう!?」

藍子「歌鈴ちゃんのおうちはお寺じゃなくて神社だよ」

茜「え?でも道明寺って?お寺では?」

歌鈴「それは地名なんです。道明寺っていう場所に建てられた神社があってここはその分社なんですよ」

茜「なんと!それは失礼しました」

歌鈴「まあ紛らわしいですよね、昔は神社とお寺をそんなに厳格に分けていませんでしたから」

未央「おおーさすが巫女さんは物知りだね」

歌鈴「えへへ…観光客の人に説明することもありますから」

歌鈴「それじゃあ合宿の間はこちらの離れを使ってくださいね」

未央「おおー広い」

歌鈴「普段はあまり使ってないので不便かもしれないですけれど、一応お掃除はしておきましたから」

藍子「ありがとう歌鈴ちゃん」

茜「ここなら思う存分体を動かせそうですね」

未央「もう、茜ちんたら。いくらなんでも部屋の中でトレーニングはしないでしょ」

茜「そうですね、外もこれだけ広いんですからいくら走っても平気ですね!!」

藍子「あの茜ちゃん、未央ちゃんが言うのはそういう意味じゃないと思うんだけど」

歌鈴「それじゃあ荷物を置いたら神社の中を案内しますから…」

茜「み、未央ちゃん!!」

未央「どうしたんだい茜ちん」

茜「あ、あれを見てください!!」

未央「お、おおおお!!」

藍子「どうしたの二人とも」

茜「へ、へ、蛇が部屋の中に!!」

http://i.imgur.com/MlIPdP9.jpg

歌鈴「ああ、ここは森に囲まれているから時々出るんですよ」

未央「そ、そんな呑気なことを言ってないで」

茜「わ、わかりました。ここは私がこのホウキで退治しましょう」

未央「頼むよ茜ちん。ユッキー直伝のジャコビニ流星打法で一発…」

藍子「ちょ、ちょっと待って!」

スタスタスタ

未央「あ、あーちゃん近づいたら危ないよ!」

ひょい

茜「藍子ちゃんが蛇を素手で…」

未央「あーちゃん危ないよ!噛まれたらどうするの!!」

藍子「ん、こうやって後ろから顎の両側をつかんでいれば平気だよ」

歌鈴「藍子ちゃん、蛇の扱いに慣れてますね」

藍子「この子は大人しいし毒も持ってないからから大丈夫だよ」

未央「あーちゃん気持ち悪くないの?」

藍子「うん、森の中をお散歩してるとよく出てくるから」

歌鈴「さすがは藍子ちゃんですね」

茜「それにしても、変わった蛇ですね、真っ白です」

未央「ねえあーちゃん、なんて種類なの、これ」

藍子「名前は…ヒバカリさんだったかな」

茜「ヒバカリ?変わった名前ですね」

未央「ねえあーちゃん、なんでそんな名前になったの?」

藍子「えーと、たしか…噛まれたらその日ばかりで命がなくなるっていう…」

未央「やっぱり毒蛇なんじゃない!」

茜「藍子ちゃん離れてください!やはりここは笑美ちゃんから教わった通天閣打法で」

藍子「だからそれは迷信なのっ!日本にいる毒蛇はマムシとヤマカガシだけだから!!」

未央「あ、あーちゃん蛇に詳しいね」

藍子「うーん、よく写真を撮るから森の動物さんの事はけっこう知ってるかな」

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詩織「皆さまこんばんは…瀬名詩織です…」

清美「超☆風紀委員の冴島清美です!」

詩織「日本には8種の蛇が生息し…そのうち毒を持つのは…藍子ちゃんの言った2種類…なのですが」

清美「それは東北から九州までのいわゆる内地の話です!」

詩織「沖縄・奄美地方は…亜熱帯に属するため蛇の種類が多く…」

清美「なんと!28種類もの蛇が生息しているのです!!まさに自然の宝庫!」

詩織「そのうち毒蛇が…10種類もいます…」

清美「なかでももっとも有名なのがハブではないでしょうかっ!」

詩織「強い毒を持ち…民家に侵入してくることも…あります」

清美「沖縄でキャンプなどする際には十分に気を付けてください!!」

詩織「また、ハブは捕獲して…自治体に持ち込むと…3000円程度で…買い取ってもらえるのですが…」

清美「素人がハブを捕まえるのは大変危険です!!むやみに近づくのは絶対にやめてください!!」

詩織「もし…見かけるようなことがあれば…慌てずに距離をとって…逃げてくださいね」

ハブについて 沖縄県
ttp://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/yakumu/yakumu/habu.html

沖縄 蛇の種類
ttp://outdoor.ymnext.com/inform-33.html#short09

リュウキュウアオヘビ(かわいい)
http://i.imgur.com/Ch1mq7M.jpg

閑話休題

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茜「それよりも!!その蛇はどうするんですか!?」

藍子「うーん、自然へ逃がしてあげたいな」

歌鈴「それだったら裏の森がいいですよ、案内しますね」

藍子「ありがとう、歌鈴ちゃん」

歌鈴「こっちです、ついてきてください」

スタスタスタ

未央「蛇をつかんだまま平気な顔して行っちゃった…」

茜「藍子ちゃんって…ときどきものすごく大胆になりますよね」

未央「うん」

未央「それじゃあ仕切り直して…合宿を開始しよう!!」

茜「おー!!!!!」
藍子「おー!!」

茜「それで未央ちゃん、最初のトレーニングはどうしますか?」

未央「うーん、まずは発声練習をしたいんだけど」

藍子「神社の中だと迷惑ですよね」

茜「それならばいい場所があります!!」

未央「茜ちん本当?どこ?」

茜「川原です、あそこならいくら声を出しても大丈夫です」

藍子「茜ちゃんよくそんな場所知ってるね」

茜「はい!!走ってくる途中で見かけました!」

未央「おお、ただ走ってるだけじゃなくちゃんと見てるね」

藍子「それじゃあ行ってみようか」

未央「うん、茜ちん。案内よろしくね」

茜「はい!!任せてください」

カアカア

サッサッサッサ…

歌鈴「はぁ…落ち着くなあ…」

歌鈴「巫女服を着て、神社の掃除をして、こうやって山に沈む夕日を見てると心が落ち着いて」

歌鈴「やっぱり故郷っていいもんだな…」

歌鈴「参拝の人も帰ったし、もう少しこの静かな時間を…」

茜「うおおおおぉぉぉぉりゃあああぁぁぁぁぁ…!!」

ダダダダダダダダダ…

茜「歌鈴ちゃん!!日野茜、ただいま戻りました!!」

歌鈴「あ、はい。おかえりなさい茜ちゃん」

茜「はい!!」

歌鈴「あの…未央ちゃんと藍子ちゃんは?」

茜「はて?神社の入り口までは一緒だったんですが?」

「…ちゃん…待って…え…」

茜「今何か声がしませんでしたか?」

未央「おーい、茜ちん。あーちゃんを運び上げるの手伝ってー」

歌鈴「未央ちゃんたち、まだ階段の最初の方にいますよ」

茜「あれ未央ちゃん、そんなところでどうしたんですか?」

未央「あーちゃんがへばっちゃって登れなくなっちゃったのー」

藍子「はぁ…はぁ…ここまではなんとか来られたんだけど…」

茜「ああ、すいません。今助けにいきますね」

ダダダダダダダダダ…

歌鈴「…まあ、にぎやかなのもいいかな…」

「いただきまーす!!!」

藍子「わあ、おいしそうなご馳走がたくさん!」

歌鈴母「どんどん食べてくださいね、今日は歌鈴のお友達が来るっていうんでたくさん用意しましたからね」

茜「おかわりをください!!」

未央「茜ちん、早っ!!」

歌鈴母「はいはい、ご飯もいっぱい炊いてありますからね」

未央「この川魚とっても美味しいよ」

藍子「この野菜もおだしがしみ込んで優しい味がします」

歌鈴母「それは氏子さんが持ってきてくれたんですよ、まあ田舎でなにもありませんがいっぱい食べてください」

茜「はい、ありがとうございます!!」

歌鈴母「ところで、どうですか歌鈴は。ちゃんとアイドルできてますか?」

歌鈴「もうお母さんたら」

歌鈴母「この子はぼんやりしたところがあるから皆さんにご迷惑かけてるんじゃないかと心配してるんですけど」

藍子「そんなことないですよ」

未央「いつも明るくて努力してみんなと頑張っていますから」

歌鈴母「そうですか、それならいいんですけど」

茜「歌鈴ちゃんステージの上だとかっこいいですよね、普段は可愛いですけど」

歌鈴「ふぇっ…そ、そうでもないですよ…」

藍子「ふふっ、歌鈴ちゃん赤くなってる」

歌鈴「もうからかわないでください」

藍子「う、うーん……」

藍子「…ここは……?」

藍子「そうか…私たち…合宿で……歌鈴ちゃんの神社に…」

くーくー

すやすや

藍子「えーと…夕べは四人で枕投げして…疲れてたせいかそのまま…」

藍子「もう、茜ちゃんたら布団がまくれ上がって、風邪ひいちゃうよ」

ふわり

藍子「ふう、寝ている間にちょっと汗かいちゃったかも、窓開けてみようかな」

カラカラ…

藍子「わぁ…星がきれい…東京とは大違い」

藍子「あれ、誰か森の方へ向かって歩いてる」

スタスタスタ…

藍子「あれは…歌鈴ちゃん?こんな時間にどこへ行くのかな?」

藍子「もしかして寝ぼけちゃってるのかな…どうしよう、自分の家だから大丈夫だと思うけど…もしまた転んだりしたら…」

藍子「…」

藍子「やっぱり心配だから後を追ってみよう」

歌鈴「…………」

藍子「(歌鈴ちゃん樹の根元にしゃがみ込んで独り言を喋ってる)」

歌鈴「そう……うん………」

藍子「(やっぱり寝ぼけてるのかな、連れ戻してあげた方がいいよね)」

スタスタスタ…

歌鈴「うーん、困ったなあ…あなたの言いたいことが分かれば良いんだけど…」

藍子「あのー歌鈴ちゃん」

歌鈴「ふぇ…あ、藍子ちゃん!?」

藍子「ごめんね、一人で歩いているのが見えたから心配で付いてきちゃた」

ピカリ

歌鈴「あ、ちょっと…待って…」

ズサササササササ…

藍子「きゃあ、なに…これは…」

歌鈴「藍子ちゃん、大丈夫!?」

藍子「うん、ちょっとびっくりしただけ」

歌鈴「そう、良かった」

藍子「でも今のなんだろう…いきなり白い光が私の方へ向かってきて…」

藍子「って、あれ…いつの間にか森の中に…?」

歌鈴「藍子ちゃんむやみに動かないで、私の側に居て。そんなに危険なことはないと思うけど」

藍子「う、うん」

藍子「歌鈴ちゃん、ここは…どこなの?」

歌鈴「たぶん…向こうの世界への入り口」

藍子「む、向こうの世界!?」

歌鈴「そう私たちの住む世界とは別の世界」

藍子「ど、どうしてそんな場所に私たちが?」

歌鈴「たぶんさっきの動物のせいだと思うんだけど」

藍子「さっきの動物?」

歌鈴「私が話をしていた…藍子ちゃんには見えていた?」

藍子「ううん、歌鈴ちゃんが独り言を言ってるようにしか見えなかったよ」

歌鈴「そう。やっぱりね」

ピイピイ

藍子「あ、歌鈴ちゃん!あそこになにかいるよ」

歌鈴「うん、さっき私が話していた動物だね。今は藍子ちゃんにも見えるんだ」

藍子「う、うん。耳の大きな蒼い鳥さんみたいな動物だよね」

歌鈴「やっぱり。藍子ちゃんに見えるってことは向こう側の世界に来ちゃったんだ」

藍子「え、え?」

歌鈴「どうしよう…向こうに敵意はないと思うんだけど」

サササッ

藍子「あ、森の奥に向かっていくよ」

歌鈴「とりあえず追いかけてみようか」

歌鈴「あ、ちょっと待ってね。一応念のために…」

藍子「う、うん」

歌鈴「(頑張るのよ歌鈴、今ならできるはず)」

歌鈴「すう…」

歌鈴「このかんどこに~あおぎまつる~かけまくも~かしこき~」

藍子「(歌鈴ちゃんが印を結びながら独特の節をつけて言葉を紡いでいく…とっても綺麗な声だなあ…)」

歌鈴「もろもろの~まがごと~つみけがれ~あらむをば~」

藍子「(え…歌鈴ちゃんの指先から…光が…歌鈴ちゃんと私を包むように…広がって……消えた…)」

歌鈴「ふう…軽いおまじないだけど少しは効き目あるから」

藍子「う、うん」

歌鈴「それじゃあ行こうか、私のそばを離れないでね」

藍子「は、はい」

藍子「(なんだか歌鈴ちゃん、いつもと違ってしっかりとして大人っぽい。身長も私より高くなってるみたい…)」

てくてくてくてく…

藍子「(どうしよう…歌鈴ちゃんに詳しく聞いた方がいいのかな…?)」

歌鈴「あのね」

藍子「う、うん」

歌鈴「私、生まれつき霊力が強かったみたいなの」

藍子「霊力?」

歌鈴「うん、人には見えないものが視えたり、遠くから誰かが来るのがまえもって分かったり」

藍子「それってユッコちゃんの超能力みたいなもの?」

歌鈴「ふふっ、まあ近いかな」

藍子「へえ、凄いんだね歌鈴ちゃん」

歌鈴「それで…うちは神社でお父さんもお母さんも忙しかったから、私は小さいころから一人だったんだ」

藍子「うん」

歌鈴「それでよく遊んでいたの、あの子たちと」

藍子「あの子?」

歌鈴「そう、私たちの世界に住んでいないはずのあの子たち」

藍子「それって…その…小梅ちゃんのお友達みたいな…?」

歌鈴「うーん、小梅ちゃんのあの子はもともと人間だったみたいなんだけど」

藍子「えーと…いろいろあるんだね」

歌鈴「まあね。それで小さいころは私もよく友達を探しにこっちの世界へ遊びに来てたんだ」

藍子「一人で?」

歌鈴「うん、そのころはそういう事も出来たんだ」

藍子「そのころはって…」

歌鈴「うん、小学校の時にね、私を心配したおばあちゃんに霊力を封じられちゃったの」

藍子「それじゃあ…それからは…」

歌鈴「もうさっぱり、ただの普通の女の子に戻っちゃった」

歌鈴「なら、良かったんだけどね」

藍子「えっ?」

歌鈴「小さい頃から霊力に頼ってきた私は…方向感覚とか空間認識とか集中力とか…そういう感覚が発育してなかったみたいなの」

藍子「それじゃあ…」

歌鈴「うん、今の私はドジでノロマで…すぐに転んだり、道を間違えたり…みんなに迷惑をかけちゃってる」

藍子「そんなことないよ」

歌鈴「ありがとう藍子ちゃん、みんなが優しくしてくれているのは…とっても嬉しい」

藍子「うん」

歌鈴「でもね、霊力の強い場所なら私も少しは昔みたいに視えるんだよ」

藍子「それってたとえば…」

歌鈴「うーん、神社の本殿とか、朋さんおススメのパワースポットとか、あとは…ステージの上かな」

藍子「ステージ?」

歌鈴「そう、ステージの上はね、ファンのみんながたくさん応援してくれてとっても強いパワーをくれるの。だから私も頑張れる」

藍子「うん、そうだね」

歌鈴「それでね、アイドルしているうちに少しずつだけど私の中の霊力が戻ってきているみたいなの」

藍子「そうなの?」

歌鈴「うん、東京にいる時は実感なかったんだけど…こっちに戻ってきて神社のお仕事しているうちに感覚がちょっと戻ってきたの」

藍子「歌鈴ちゃんすごいんだね」

歌鈴「えへへ…ありがとう」

歌鈴「(この空間の中は霊力が強く充満している…巫女としての修業を積んできた私なら昔にひけをとらない力が使えるはず…)」

歌鈴「(なにかがあった時、藍子ちゃんは私が護らないと!)」

藍子「あ、歌鈴ちゃん。あそこ」

歌鈴「うん、少し開けた場所に出たみたいだね」

藍子「さっきの動物さんがいるよ。それにもう一匹小さい仔がいるね」

ピイピイ

歌鈴「なにか言ってるみたいだけど…」

藍子「分からないの?」

歌鈴「ごめんね、そこまでは…でも私たちに危害を加える気はないみたい」

藍子「近づいてみようか」

藍子「ねえ歌鈴ちゃん、この仔…」

歌鈴「うん、怪我をしてる」

ピイピイ…ピイピイ…

藍子「もしかして、この仔のお母さんなのかな」

歌鈴「たぶんね、そして私たちに助けを求めていたみたい」

藍子「どうしてこんな傷を…」

歌鈴「おそらく人間界に迷い出ちゃったんだと思う。これはたぶん鉄砲の傷だよ」

藍子「撃たれたの?」

歌鈴「害獣駆除の流れ弾にでもあたったんじゃないかな」

ピイピイ…ピイピイ…

藍子「かわいそうに…こんなに痛そうにして。歌鈴ちゃん、なんとかならない?」

歌鈴「うん、やってはみるけど…」

歌鈴「……」

歌鈴「(やっぱり厳しいかな…私の力は"視る"ことや"護る"のは得意だけど…けがを治すのは…)」

歌鈴「はぁ…はぁ…」

藍子「歌鈴ちゃん、大丈夫?」

歌鈴「ごめんね、私には難しいみたい」

歌鈴「(どうしよう、この仔を獣医さんに連れていくわけにもいかないし…近くに薬草でも生えていればいいんだけど…)」

藍子「かわいそう…せめて痛みだけでも和らげてあげられたらいいのに…」

ぽわ

歌鈴「藍子ちゃん!!」

藍子「え、なに?」

歌鈴「(今一瞬だけだけど藍子ちゃんの手から光が見えた)」

藍子「歌鈴ちゃん?」

歌鈴「藍子ちゃん、その仔の傷にもう一度手を当てて」

藍子「えっと…こう…かな」

歌鈴「そのままその傷を治してあげたいって念じてみて」

藍子「え、えーと…」

ぽわわわ

ピイ、ピイ、

歌鈴「やっぱり、少しだけど傷がふさがってる」

藍子「え、えーと……?」

歌鈴「あ、光が消えちゃった」

歌鈴「(そうか藍子ちゃんもステージの上で多くのファンから力をもらっているんだ…)」

歌鈴「(それに普段から森の中にいるから…この空間とも相性がいいのかも)」

歌鈴「藍子ちゃん!」

藍子「はい」

歌鈴「手のひらをこっちに向けて出して」

藍子「え、こ、こうかな」

歌鈴「うん、ちょっと我慢してね」

藍子「(歌鈴ちゃんも私と同じように手を出してタッチするみたいなポーズになって)」

ぽわわ

藍子「(え…なに…これ………、歌鈴ちゃんの手のひらから…暖かいものが…ん…凄い……強い……)」

歌鈴「もうちょっといくね」

藍子「うう…なに……これ…いっぱい流れ込んでくる…」

どくどく

藍子「すごい…手のひらから熱が伝わって…体中がポカポカあったかい…」

歌鈴「私の霊力を藍子ちゃんに渡したの」

藍子「霊力を?でも、どうして」

歌鈴「私は治すのは得意じゃないから、藍子ちゃんの方がきっとうまくできると思う」

藍子「でも私…そんな力なんて」

歌鈴「藍子ちゃん、思い出してステージの上の事を」

藍子「ステージの上?」

歌鈴「そう、みんなを笑顔にしたいって思っている藍子ちゃんを」

藍子「アイドルの私…?」

歌鈴「うん、その優しい気持ちがあればきっとこの子を治せると思うから」

藍子「う、うん…それじゃあ…やってみるね」

藍子「(そうだ…私はいつも…辛いことや悲しいことがあっても…みんなが幸せな気持ちになれるようにってアイドルをしてるんだ…)」

藍子「(だからいまは…苦しんでいるこの子にも笑顔を取り戻してあげたい…)」

藍子「(ステージの上でみんなにかけている魔法、みんなからもらった力、それを今…)」

ぽわわわわわわわわ…

歌鈴「すごい…藍子ちゃんの手から出た光がどんどん強くなって…」

ぽわわわわわわわわわわわわ…

藍子「お願い、治って!」

ぽわわわわわわわわ…ぽわわわわわわわわわわわわ…ぽわわわわわわわわわわわわわわわわわ…

ピ、ピピピピピピ…

歌鈴「傷が…ふさがった…」

藍子「治ったの?」

ピピピピ…

歌鈴「すごい、すごいです。さすがは藍子ちゃん先生!!」

藍子「きゃあ、もう歌鈴ちゃんたら、いきなり抱き着かないで」

ピピピピ…ピイピイ…

藍子「ひゃ?な、舐めたら…ん、くすぐったいよ!ふふっ」

歌鈴「よかった、元気になったみたい」

ピイピイ

藍子「えへへ、喜んでくれたかな、笑顔になってくれたかな」

藍子「森の奥へ帰って行ったね」

歌鈴「言葉は分からないけど…とっても喜んでいるみたいでした」

藍子「うん、じゃあ私たちも帰ろうか」

歌鈴「はいっ!」

テクテクテクテク…

テクテク……

……

藍子「どうしたの歌鈴ちゃん、立ち止まって?」

歌鈴「か、帰り道が…わかりましぇん」

藍子「ええ!?だって来るときはあんなに自信あったのに!」

歌鈴「さっき藍子ちゃんに霊力を渡したらまた見えなくなっちゃいました」

藍子「ええー?」

藍子「どうするの歌鈴ちゃんっ!」

歌鈴「あ、でも…安心してください」

藍子「なにが?」

歌鈴「この空間では人間は歳もとらないしお腹も空かないんです、だからいつかは必ず出られます」

藍子「それはいいんだけど…もし私たちがここを出るのに一週間かかったとしたら外の世界では…」

歌鈴「やっぱり一週間たってます」

藍子「それじゃあダメだよぉ!みんなが心配しちゃうでしょ!」

歌鈴「そ、そうはいっても…」

にょろ

歌鈴「ひゃああ!!」

どすん

藍子「歌鈴ちゃん大丈夫?」

歌鈴「だ、大丈夫です…足に何かが絡みついて…」

藍子「何かがって…これ」

歌鈴「へび?」

藍子「あ、これ昨日のヒバカリさんじゃない?」

歌鈴「どうしてこんなところに…」

にょろにょろ…

クイッ

歌鈴「鎌首をもたげてます…」

藍子「もしかして…案内してくれるのかな?」

歌鈴「ついて行ってみましょうか」

藍子「うん、そうだね」

藍子「あれ、だんだんと周りが明るくなってきてるんじゃない?さっきまで薄暗かったのに」

歌鈴「そうですね、これは…太陽の光かも…もうすぐ夜明けの時間ですし」

藍子「なんだか遠くから声も聞こえるような…」

「りゃぁぁぁぁ…」

カーン

「うおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ」

カーン

藍子「あれは…茜ちゃんかな…?」

歌鈴「なにか音もしますね」

茜「とりゃああああああぁぁぁぁぁぁ…!!」

カーン

未央「お見事!」

藍子「茜ちゃん、なにやってるの!?」

茜「あ、藍子ちゃんに歌鈴ちゃん。おはようございます」

未央「いま茜ちんとまき割りをしてたんだよ」

藍子「なんでそんなことを…」

歌鈴「あ、もしかして…」

藍子「歌鈴ちゃん、なにか知ってるの?」

歌鈴「はい、ゆうべ茜ちゃんがあんまりご飯を美味しそうに食べるんでお母さんが張り切っちゃって」

未央「今日はかまどでご飯を炊いてくれるっていうから」

茜「私たちも手伝うことにしました!!」

藍子「そうだったんだね」

未央「それにしても二人はどうしてたの?朝起きたらいなかったけど」

藍子「えーと、ちょっとお散歩に…」

未央「もうあーちゃんはのんびり屋さんだな」

藍子「えへへ…」

藍子「(本当は大変だったんだけどね)」

歌鈴母「まあまあ、こんなに割ってくれて。ありがとうね。それじゃあ美味しいごはん作るからもう少し待っててね」

茜「はい!ありがとうございます」

未央「それじゃあ、朝ごはんが出来るまで早朝のトレーニングしようか」

茜「いいですね、それではまずは走り込みをしましょう!」

藍子「いきなり走り込み!?」

茜「もちろん準備運動はちゃんとします!」

藍子「いや、そういう問題じゃなくてね…」

茜「藍子ちゃん!」

藍子「はい」

茜「お腹を空かせた方がごはんを美味しく食べられます!!」

藍子「あ、あはは…」

茜「それでは参りましょう。まずはあの山のふもとまで」

未央「あんな遠くまで行くの!?」

茜「未央ちゃん!」

未央「はい」

茜「たとえ道がどんなに遠くとも必ずたどり着く。それがアイドルです!!川島さんに教わりました!!」

未央「いや、それ意味が違うんじゃ…」

茜「いきますよー、二人ともついてきてください!!」

ダダダダダダダダダ…

未央「あ、茜ちーん」

藍子「待ってー」

トットットットット

歌鈴「朝ごはんには戻ってきてくださいねー」

サワサワ

歌鈴「あれ…今…森の方で…」

歌鈴「そこに…いるのかな?」

サワサワ…

歌鈴「ごめんね、キミたちの姿また見えなくなっちゃった」

サワサワ…サワサワ…

歌鈴「あのね、私いま東京でアイドルやってるんだよ」

歌鈴「分からないことだらけで…毎日とっても大変だけど…」

歌鈴「あんなに素敵なお友達がいっぱいいてくれるから…うん。私は大丈夫だよ」

サワサワ…

歌鈴「でもね…」

歌鈴「もし、辛いことがあったり…寂しくなったら…ここに戻ってくるから…」

サワサワ…

歌鈴「その時は…また一緒に遊んでね」

以上で終わりです。

読んで頂いてありがとうございました。

それでは依頼出してきます。

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