【デレマスSS】名前の無いファンレター【藤原肇】 (18)

初投稿です。
アイドルマスターシンデレラガールズのCoアイドル、藤原肇のSSです。

「ただいま…」
女子寮の自室に戻り、着替えもせずにベッドに倒れこむ。
「ライブ、凄かったな…」
今日は事務所主催の小規模なライブがあった。私は裏方だったけど、ステージに立つ皆はとても輝いていて、
ファンの歓声や熱気がステージ裏まで伝わってくるようだった。
「私も、もっと頑張らなくちゃ…」
私はまだ、あの光り輝くステージに立てていない。

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アイドルに憧れて上京して、幸いなことにオーディションで合格を頂いて一年ほどになる。
日々のレッスンに打ち込み、最初はダンスの成功するイメージも出来なかった私だけれど、
少しずつ成長できていると思う。
半年前くらいからアイドル雑誌などにも載せて頂けるようになり、最初に雑誌の片隅に載った小さな写真は
今も部屋に置いてある。改めて見ると緊張しきりで硬い笑顔だけれども(当時はそれでも精一杯だったのだ)、
その雑誌の発売から数週間後に初めてファンレターを頂いた時の喜びは今でも鮮明に思い出せる。
嬉しさのあまり思わずPさんに抱きついてしまい、ちひろさんから注意されたのは忘れたいけど。

この前の高層ビルで撮影した写真はとても評判が良かった、とPさんから教えてもらった時には、
撮影中に感じた手応えが間違いではないと思えたので凄く嬉しかった。
ありがたいことにファンレターを頂く機会も増えてきた。初めて見る名前も以前に比べて増えてきたし、
最初にファンレターを送ってくれた方達からは今でも頻繁に感想や応援の手紙を頂いている。
本当に、本当にありがたいことだと思っているのだ。
だけど、私は、最近ファンレターを読むことが少し怖くなってしまっている。

『いつも応援しています!』『今回の衣装もとても素敵でした!』
そんなお手紙の結びに良く見る言葉。
『肇ちゃんの声が、歌が聴けるのを楽しみに待っています!』

小さい頃にテレビで見たアイドルグループのライブ映像、それが私がアイドルに憧れたきっかけだ。
大変失礼かもしれないが、彼女たちは決して歌が非常に上手いわけでも、
ダンスの技巧が優れているわけでもなかったと思う。それでも、輝かんばかりの笑顔でステージを舞い、歌い、
会場を沸かせる彼女たちは、一人一人が違った魅力に溢れているように感じたのだ。
そのためか、私の中でアイドルのイメージは、輝くステージとは切っても切れないものになっている。

一文ごとに改行すると見やすいですよ

アイドルには詳しくない私でも、レッスンなどの下積みもなくステージに立つことが出来ないことは十分に理解していたし、
ステージに立てるよう日々のレッスンは欠かさずに励んでいるつもりだ。
数か月前に私と同時期に事務所に入った子がステージデビューを果たした時にも、笑顔でおめでとうと伝えられた。
勿論悔しい気持ちが無かったわけではないけれども、それ以上に仲間の晴れ舞台をお祝いする気持ちが強かったのだ。
その子のデビューライブは初めてのライブとは思えない輝きを見せてくれて、私もやる気が引き出されたのをはっきりと覚えている。

>>6
一文毎の改行ですね。
アドバイスありがとうございます。やってみます

だけど最近では、焦りが先立つようになってしまっている。
レッスンでもオーバーワークをトレーナーさんに叱られてしまうことが増えてきた。
幸いなことに雑誌のお仕事は定期的に頂けているのだけれど、以前と比べてどこか集中できていない自分がいるように感じてしまう。
そのためだろうか、ファンレターを読んでいる時に、自分の不甲斐なさ、期待に応えられない申し訳なさを感じてしまうのは。

それでもせっかく頂いたお手紙にはきちんとお返事を出したい。
「よし…やろう」
今日のライブに合わせてファンレターが大量に届いており、宛名毎に分けられたものを帰り際に渡されていた。
私はライブには出ていないけれど、10枚ほどのファンレターを頂いた。
ファンの方々の熱意を感じ嬉しくなる半面、少し胸が痛くなる。

「…あれ、この封筒、差出人の名前がない」
ファンレターはまずPさんやちひろさんが目を通し、問題があるものは私たちアイドルには渡さないようにしているそうだ。
そういう手紙は無記名であることが多く、内容に問題がなく封筒に名前を書き忘れている場合には、チェックした後で中に書かれている名前を封筒にも書いてくれることになっている。
これまでにそういうケースはいくつもあったが、名前が書かれていないのは初めてだ。
封は切られているので、未チェックという訳ではないみたいだけれど。
少し緊張しながら封筒から取り出すと、一枚だけのファンレターには大きくこう書かれていた。

精神一到何事か成らざらん

「…あは」
決して上手とは言えない毛筆の、他には何も、差出人の名前すら書かれていないファンレター。
「陶芸でも迷ったり弱気になってたらすぐに叱られてたっけ…なんで分かっちゃうんだろう。凄いなぁ、おじいちゃんは」
涙でにじんだ視界でもはっきり分かる文字の癖、それは間違いなく祖父のものだった。

「おはようございます」
「おお、おはよう肇。昨日はお疲れ様…あれ、今日はオフだったよな?」
「はい、でもじっとしていられなくて来ちゃいました」
「やる気があるのは良い事だが、オーバーワークはダメだぞ。最近トレーナーさんからもよく注意されてるみたいだけど」
「大丈夫です、無理のない範囲で体を動かす程度にしますから」
「…そうか、うん、分かった。最近の肇は少し無理をしているように見えていたから心配だったんだが、どうやら大丈夫そうだな。俺の杞憂だったみたいだ」
「…ふふ、Pさんにも隠し事は出来ませんね。ご心配をおかけしました。最近ちょっと悩んでいたんですけど、もう大丈夫ですから」

Pさんと昨日のライブの感想などを少し話してからレッスンルームへ向かう。
見慣れた部屋はいつもより明るく私を迎えてくれる気がした。

読んでくださった方ありがとうございました。
肇Pの熱意が運営に届き、肇さんに声が付く日をいつまでも待ち続けます。

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