女「異能力者専用学園?」 (16)

黒服「ああ」

畳貼りの部屋。ちゃぶ台を挟んだ対面で正座をしている黒服の男が頷く。

黒服「きみのように、特異な力を持った少年少女を各地から集め、その力の制御の術を学ばせる場所」

黒服「その学園はこの町から遠く離れた土地にあってね」

黒服「きみや、きみの家族のことを知る人間はだれもいない。 むしろ、学園に通う生徒らの中には、同じような境遇に身を置く者も多くいる」

黒服「怯えや恐怖の視線に晒されることは、無いだろうね」

女「ご丁寧な説明をどうも」

女「そんであんたは、たまたまその学園の関係者で、たまたまこの町に旅行で訪れてて、たまたまあたしの噂を聞き付けて、こうして家まで押し掛けて、その学園への編入を提案してくれているわけだ」

黒服「ご丁寧な説明をありがとう」

黒服「編入の手続きはこちらで済ませる、引っ越しの手配もだ。ああ、ご両親は共働きだったね。職も斡旋しよう。収入が多少減ることには目を瞑って貰うことになりが」

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女「いたれりつくせりだな」

女「なにか裏があるんじゃねーのか」

黒服「そう睨まないでくれ」

黒服「ただ、救いの手を差し伸べたいだけなのさ」

黒服「特異な力を持ったせいで、迫害されてしまう…きみのような異能力者。そして、それに関わる周囲の人間にね」

女「うさんくせえ」

女「けど、まあ…」

女の声を遮るように部屋の窓ガラスが割れ、大きな石が飛び込んできた。

「さっさと死んじまえ!」
「この化け物が!!」

女は動じない。
黒服も動じない。

女「この町にはもう、あたしらの居場所なんて、ないからな…」

女「あたしみたいな化けもんが家にいるせいで、お父さんも、お母さんも、弟も、ろくに外を歩けやしねえ」

女「いいよ、乗るよ、その提案」

女「とっとと連れてってくれ、その学園とやらに」

黒服「ああ、さっそく諸々の手配に取り掛かる」

黒服「…家族思いなんだな、きみは」

女(で)

女(引っ越しは無事に終わって、その数日後)

女(「編入手続きが済んだからさっそく学園に顔を出して欲しい」と黒服が新居にやってきて)

女(黒服の車に乗せられ、学園とやらに到着したわけだけど…)

女「思ってたより普通のところだな」

車から降り、学園を見回しながら呟いた。

敷地はかなり広く見える。

ただそれだけで、特別変わった点は見受けられない。

黒服「なんだ、拍子抜けしたか?」

女「正直言うと、少し」

女「異能力者専用の学園だっていうから、もっと人目につかねーようなところにあるのかと思ってたら」

女「ふっつーに街のど真ん中に建ってるしよ」

女「大丈夫なのかよ、まじで」

黒服「木を隠すには森の中」

黒服「実際、ただのありふれた学園にしか見えないだえろう?」

女「まあ、な」

黒服「もちろん、外部にこの学園の実態が漏れないような細工も施してある」

黒服「心配する必要はないさ」

女「ならいいんだけどよ………?」

??「………」

女「なんだあいつ」

女「まじまじとこっちを見てやがるぞ」

女(制服を着てる…この学園の生徒か?)

黒服「おや、あれは…」

黒服「やあ、アホ毛くんじゃないか」

??→アホ毛「こんにちは黒服さん!」

黒服「こんにちは、アホ毛くん」

アホ毛「そっちの人もこんにちは!」

女「お、おう」

女(なんだこいつ。中学生…か?)

黒服「紹介しよう。彼はアホ毛くん。きみが編入されるクラスの生徒だ」

女「え!?」

アホ毛「??」

黒服「…どうかしたか?」

女「いや、なんでもねえ」

女(同級生だったのかよ…童顔過ぎるだろ…)

黒服「…?、まあいい」

黒服「アホ毛くん。彼女は女さんだ」

黒服「この度、新たにきみのクラスへ編入させることになった」

黒服「仲良くしてやってくれ」

アホ毛「うん! わかったー!」

アホ毛「アホ毛だよ、よろしくね! 女さん!」

そう言って笑顔で右手を差し伸べてくるアホ毛。

最初はその手を取ることに戸惑いを覚えたが、おずおずと握手に応じた。

女「…おう。よろしくな、アホ毛」

女「…!」

アホ毛「へっへー。友達ともだち」

アホ毛「新しい友達だー」

黒服「それより、こんなところでなにをしているんだい」

黒服「いまはホールルームの時間のはずだが…」

アホ毛「いやあそれが、今朝は寝坊しちゃって」

アホ毛「もうホームルームは遅刻確定だし最悪1限に間に合えばいいやと思って」

アホ毛「のんびり寮から歩いて来てたんだけど」

アホ毛「黒服さんと女さんが見えたから、ついついこっちへ寄っちゃったんだよね!」

えっへん、とアホ毛は得意気にしている。

女「すごいなこいつ。ばかなのか?」

黒服「…今すぐ急いで教室に向かいなさい」

アホ毛「ええー!」

黒服「いいから。早く行かないと髭先生に報告するぞ」

アホ毛「ちえー。黒服さんのケーチ!」

アホ毛「…それじゃあね、女さん! 学園へようこそー!」

女「髭先生?」

走り去っていくアホ毛を横目に、黒服へ訊ねる。

黒服「ああ、学年主任の先生でね。怒ると怖いんだ」

黒服「…さて。それじゃあ、そろそろ行こうか」

女「行くって、どこへ」

黒服「もちろん校長のところへ、さ」

女「そうか。挨拶しないといけねえよな」

女「編入させてくれた礼も言わねえと…」 




数日後


朝の教室は実に賑やかなものだ。

思い思いの時間を過ごす生徒らの声が教室をいっぱいに満たしていて、そのせいか、引き戸を開けて担任が入ってきたことにも気付いていないようだった。

そんな生徒たちを担任が一喝する。

担任「ほらほら席につきなさいあなたたち。早くして。ほらはーやーく」

担任「…まったく、相変わらず言うことを素直に聞いてくれないクラスね。それでは本日のホームルームを始める前に……転校生を紹介します」

担任「はいはい、騒がない。…女さん、入って」

女「…うす」

担任に呼びつけられるまま、教卓へ登る。

30人ほどだろうか、生徒たちはみんな揃って女に注目していた。

興味津々。

そう、顔に書いてある。

女(こいつら、ぜんいん、あたしと同じなんだよな)

女(どうにも現実味がねえ…)

担任「もう、愛想が無いわね。ほら、自己紹介」

女「ああ、ええと…、」

女(自己紹介ったって、どうしたらいいんだ。)

女(「前の学校で化け物呼ばわりされて居場所がなくて困ってたところを黒服さんに拾われましたよろしくね」なんて言おうもんなら、こいつらだって良い気はしねえだろうし)

女(無難だ、無難にいけ、あたし)

担任「女さん…?」

女「あ、すんません」

女(無難、無難に)

女「…女っす。……あー……よろしく」

女(だ、だめだー! 無難どころか、名前しか言えてねえ!)

女(正直に言うと、心の準備なんて出来てなかったんだよ! あれよあれよと引っ越しと編入が済んじまったもんだから!)

女(くそ、ろくにこいつらの顔が見られねえ。きっと「いやねえなんだか絡みづらそうだわ」みたいな顔してんだろうな…)

アホ毛「はいはいはーい! 家では普段なにしてるんですかー!」

女「!」

担任「アホ毛くんは今日も声が大きいわねえ。女さん、答えてあげてもらえる?」

女「ふ、普段? 空手やってたから、その名残で筋トレしたり、走ったり…だな」

女(あいつ、たしかこの間の…そういや黒服さんが同じクラスだっつってたっけ)

「他にはー?」

女「!!」

女(今度は違うやつ…)

「なんか好きなものってあるのー?」

女「!?」

女(今度は女子から! っていうか…)

「どこから来たんですかー?」

「3サイズ教えてくれー!」

「私も空手やったらそのスタイル維持できる!?」

「好きなタイプは…」

女「」

女(すっげえぐいぐい来る!)

女「おい、そんないっぺんに言われても…」

担任「こらー女さんが困ってるでしょう。時間もないし、質問の続きは休憩時間にしてちょうだい」

「えー!」

「別にいいじゃん!」

「担任ちゃんのけちー!」

「そんなんだから彼氏に振られるんだよ!」

担任「か、関係ないでしょうそのことはー! というかなんで知ってるのよー!」

怒りと羞恥で顔を赤らめながらチョークを引っ掴んだ担任は、そのままそれを思いきり投じる。

女「…ええ!?」

一見狙いも定めず出鱈目に投じられたチョークは、しかしどうしたことか、生徒らの座る等間隔に並んだ机の隙間を、まるで意志を持っているかのようにして、直角に軌道を変えて進んでいく。

果たして、チョークは彼氏に振られたことをやり玉に挙げた生徒の額に命中した。

「いてえ!」

「ぎゃ、虐待だー!」

「そんな圧政には屈しないぞー!」

女(い、いまのは…)

女(いまのも、異能力…? あたしと同じ…)

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