加蓮「Pさんに嫌われた……」凛「ないない」 (64)

P「加蓮、入るぞー」コンコン

加蓮「どうぞー」


P「どうだ、感想……は……」

加蓮「うん、思ったより重くない。やっぱり女の子の憧れだからね、嬉しいよ」

P「……」

加蓮「ねぇPさん、似合ってるかな?」

P「……」

加蓮「……どうしたの?」

P「あ……あぁそうだな。ほら早く撮影に行くぞ」

加蓮「う、うん」

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——


加蓮「お疲れ様でしたー」

P「お疲れ、加蓮」

加蓮「Pさんもお疲れ様。ちゃんと出来てた?」

P「あぁ……それより早く着替えた方がいいんじゃないか。疲れるだろ」

加蓮「そ、そうだね。結構暑いもんね……」

P「俺はちょっとスタッフさんらと話があるから、また後でな」

加蓮「あ……」


加蓮(着替える前に写真撮ってもらいたかったのに……)

「それじゃ、外しますねー」

加蓮「すいません、その前に携帯で写真撮ってもらってもいいですか? 記念に取っておきたくて」

加蓮「そこのテーブルの上に置いてあります」

「はい、お借りします」

カシャ

「これでいいですか?」

加蓮「ありがとうございました」

加蓮(Pさん……どうしちゃったんだろ)

加蓮(もっとよく、私の事を見て欲しかったのにな)

——


加蓮「Pさんお待たせ」

P「……じゃ、帰るぞ。直帰で送っていくから」

加蓮「う、うん……」


加蓮「……」

P「……」

加蓮「……あの、Pさん」

P「何だ?」

加蓮「その、私何かミスしちゃったかな……」

P「いや、別に」

P「今日は疲れたろ、着いたら起こすから寝ていいぞ」

加蓮「……うん」

——


加蓮「Pさんに嫌われた」

凛「ないない」

加蓮「……真面目に聞いてよ……」

加蓮「この間のジューンブライドの仕事から、目を合わせてくれなくなったんだよ?」

加蓮「なんか返事も素っ気ないし、あんまり会話してくれないし……」

凛「仕事でなにかやらかした?」

加蓮「してない、と思うけど……」

凛「まぁ大丈夫でしょ。あの加蓮溺愛プロデューサーだし」

凛「大ポカやらかさない限りは怒ったりはしないよ」

加蓮「でも、だって……」

凛「気のせい。あるいは風邪気味とかでテンション低いだけじゃないかな」

加蓮「うぅ……そんな感じには見えなかったのに……」

凛「プロデューサーは結構意地っ張りだからね。風邪の事を加蓮に教えたところで治る訳でもなし」

凛「心配かけないように、言わないでいるとか」

加蓮「それはそうだけど……」

凛「じゃ、私仕事だから。プロデューサーも一緒だし話を聞いてみるからさ」

加蓮「ごめん、お願い……」

凛「……加蓮」

凛「断言するよ。Pさんは加蓮を嫌いになったりしない」

凛「だから変な気を起こさないで、ね」

加蓮「あ、凛!」

加蓮「その、今日のことはPさんには絶対言わないで、ね!」

凛「……うん、分かった。それじゃ」

——

P「そうか……加蓮がそんなことを」

凛「ユニット活動に支障をきたしたら、プロデューサーのせいだからね」

P「俺だって、頑張ってるんだよ……」

凛「まぁ不器用なりに頑張ってるのは分かるよ」

P「凛……」

凛「……とでも言うと思った? しっかりしてよ」

凛「加蓮が可愛過ぎて直視出来ない、だなんて……小学生じゃあるまいし」

P「はい……すみません」

凛「すみませんじゃない。結果を出して」

P「どうやって結果を出すんだよこれ……」

凛「ちゃんと話す。以上」

P「無理です」

凛「今までそれなりに出来てたでしょ」

P「あのウェディングドレス姿を見たらそんなこと言えなくなる。あれはちょっと威力があり過ぎた」

凛「見たよ。写メが送られてきたから。ほらこれ」スッ

P「ぐぁ……これは眩し過ぎる……」

凛「ちゃんと見てよ……」

P「い、いやだ、私は見ないぞっ」

凛「首から上だけでいいから、見て」

P「……はい」

凛「どう?」

P「や、やっぱり花嫁衣装を思い出して……」

凛「違う。顔を見てよ」

P「…………あれ」

凛「大好きな加蓮の事だから当然分かるよね?」

P「加蓮……全然嬉しそうじゃない」

凛「笑みを顔に貼り付けただけだよね、コレ。全然心が込められてない」

凛「何でこうなるのか分かる?」

P「……も、もしかして婚期が遅れるから、本当はこの仕事が嫌だったとか……!」

P「衣装が不満だったとか……まさか、体調が悪かった……!?」

凛「……馬鹿」

P「な、なんで……?」

凛「自分で考えなよ、馬鹿プロデューサー」

——

加蓮「……ってことがあって」

奈緒「ふーん……Pさんに嫌われた、ねぇ」

奈緒「ないない」

加蓮「奈緒も、凛と同じリアクションするんだ……」

奈緒「さらに言うなら、ちひろさんに聞いても同じリアクションだろうな」

加蓮「……そ」

奈緒「アタシはさ……」

加蓮「何」

奈緒「……うん、やっぱないない。Pさんに限ってそれはないと思う」

加蓮「……そうだね。Pさんと私は、ただのビジネスパートナーだもんね」

加蓮「好きでも嫌いでもない。お金の関係なんだから」

奈緒「オイコラ、その言い方は最悪だぞ」

加蓮「本当のことじゃん……この距離感がアイドルとしての正しいあり方なんだよ……」

奈緒(ちくしょう、言ってしまいたい……)

加蓮「……私一人で舞い上がっちゃってさ……馬鹿だなぁ」

加蓮「あんな素敵なドレスを着られて……」

奈緒「あぁ、写メ見た。良い『衣装』だったな」

加蓮「……? なんでそこを強調……」

奈緒「良いのは衣装だけだったからだよ。凛もすぐ気付いた」

加蓮「そっか……そうだったんだね」

加蓮「奈緒、その画像消して。メールも削除して」

奈緒「い、いきなり何言い出すんだよ」

加蓮「似合って、ないんでしょ……? 凛もそう思ってるんだよね……?」

奈緒「はぁ!? な、何でそうなるんだよ」

加蓮「私にドレスが似合ってなくて、仕事の評判が良くなかったからだ……きっとそう」

奈緒「あ、あのな……加蓮、ちょっと休もうか」

加蓮「いいよ……私これからレッスンだし」

奈緒「……」

加蓮「……ごめんね、奈緒」

奈緒「なんで謝るんだよ、加蓮のどこに悪いトコがあるってんだ」

加蓮「私ね、本当は凄くショックだったんだ」

加蓮「家に帰ってから思い出しちゃって泣いたよ。久しぶりに」

加蓮「一番見てもらいたかった人に見てもらえなくて……」

加蓮「しかもその原因が自分にしかないから、人に当たることも出来ないし、さ」

奈緒「それは違うっての。何で自分を責めるんだよ」

奈緒「どうしちゃったんだ。何か凄く変だぞ、今の加蓮」

奈緒「加蓮はそんな後ろ向きな人間じゃないだろ……」

奈緒「ほ、ほら、Pさんに直接聞いてみなよ。きっと答えてくれるはずだ」

加蓮「……仕事はしっかりする。奈緒と凛には、迷惑掛けないから」

加蓮「話、聞いてくれてありがとね。レッスンに行ってくるよ」

奈緒「あ…………くそっ、あの馬鹿2人は……!」

加蓮「奈緒っ」

奈緒「な、なんだ?」

加蓮「今の話、Pさんには内緒ね?」

加蓮「……約束、だよ?」

本日ここまで
お付き合い頂けると嬉しいです

——

凛「ただいま」

加蓮「……おかえり」

凛「プロデューサーと話したんだけど」

加蓮「ごめん、凛……」

凛「……何が?」

加蓮「もう、いいよ。今日のことは忘れて」

凛「……嫌われた、ってヤツ?」

加蓮「……ん」

凛「私と話した後、何かあったんだね」

加蓮「凛さ、送った写メ持ってる? それ、消してよ」

凛「お断り」

加蓮「私浮かれちゃってたんだ。だから無かったことにしたいんだけど」

凛「奈緒にそれ言ったの?」

加蓮「言ったよ。奈緒も消してくれなかったなぁ……」

加蓮「正直に答えて欲しいんだけどね。私のドレス姿、似合ってたと思う?」

凛「90点。撮影者が違えば100点だっただろうけど」

加蓮「……私は、似合ってないと思った」

凛「似合ってるよ」

加蓮「似合ってないっ」

凛「……加蓮、今色々考えてるよね」

凛「プロデューサーと話をしなよ。それで全部解決すると思うんだけど」

加蓮「無理だよ……朝言ったけど、私Pさんに嫌われちゃってるから……」

凛「私も朝言ったけど、それは絶対に無い」

凛「プロデューサーと話をしたんだけど、間違いない」

凛「……私を信じて」

加蓮「……」

凛「加蓮っ」

加蓮「…………分かったよ」

——


奈緒「なぁPさん」

P「んー?」

奈緒「この間の加蓮のさ……」

P「!?」ビクンッ

奈緒「な、なんだよ」

P「いや? なんでも?」

奈緒「はぁ……ジューンブライドの仕事。サンプルってもう出来てんの?」

P「あぁ、加蓮のページだけな」

奈緒「早っ、もうあんのか……」

奈緒(……しっかり表紙飾ってら……インタビュー記事まで……)パラッ

奈緒(……いつもの加蓮だけど、内心は……)

奈緒「ほら」

P「もういいのか?」

奈緒「発売されてから見るよ。抜け駆けは良くないし」

P「そうか……」

奈緒「ツッコまない、のな」

P「……え、どこかツッコむとこあったのか?」

奈緒「なぁPさん。改めて聞きたいんだけどさ」

P「なんだその改めて、ってのは」

奈緒「この加蓮の花嫁姿、どう思う?」

P「……」

奈緒「アタシは別に変なこと聞いてるんじゃない」

奈緒「プロデューサーなんだ、アイドルの仕事を評価するぐらいいつもやってることだろ」

P「……撮影風景は良い意味で素人臭さがあった」

P「ブライダル雑誌なんだから、それで正しかったな。読者目線を考えるとあれで良い」

P「あぁ、素人臭いと言ってもモデルとしてちゃんとプロの仕事をしたよ」

P「上手く言えないが、年相応の……」

奈緒「アタシはそんなことを聞いてるんじゃない」

P「仕事の評価、って言ったのは奈緒だろ……」

奈緒「うっせ。聞きたいのは、Pさんは……この女の子をどう思ったかってことだよ」

P「……綺麗だと思ったよ。滅茶苦茶、な」

奈緒「それを加蓮には?」

P「言ってない」

奈緒「何でだ?」

P「……」

奈緒「わっかんないな。Pさんが加蓮を好きな事ぐらい知ってるよ」

奈緒「今更何やってんだか」

P「あれは、何というか口が滑ったっていうか……」

奈緒(その場に加蓮が居なかったのは、良かったって言うべきなのか?)

P「アイドルとプロデューサーだぞ」

P「『良い仕事をした』『ここは直せ』、それだけでいいじゃないか」

奈緒「頑固者」

P「おま……」

奈緒「黙ってればバレないだろ。実際アイドルに手出したプロデューサーだって世の中に0じゃないんだし」

P「……奈緒、お前な」

奈緒「いや……違うな。そういうことを言いたいんじゃない」

奈緒「……好きなんだから、言えばいいってことだよ」

奈緒「はっきり言うけど、まどろっこしい」

P「……じゃあ俺もはっきり言う」

P「加蓮は今、アイドル活動に真剣に取り組んでる。楽しいとも言っていたよ」

P「トップアイドルになるのが夢だってさ。凛と奈緒と一緒に」

P「そして、その場にプロデューサーとして俺が居るって事も」

P「全部は聞いてない。でも加蓮は、少なくとも俺をプロデューサーとしては認めてくれてる」

P「手を出したらどうなる? もしバレたら加蓮は勿論、俺も終わり。凛と奈緒も危うくなる」

P「加蓮の事は……好きだけど、言わない。アイツの夢と約束を、守らなきゃいけないんだ」

P「俺は……」

奈緒「……」

P「……はは、ごめんごめん。この話はここまでにしよう」

P「混乱させるような事を言って悪かったな。忘れてくれ」

奈緒「……そんな、ことない……」

P「いいんだよ」

P「ビジネスパートナーなんだ。お互い、過度な干渉は無いのが当たり前」

P「さ、今日はもう予定入ってないだろ。暗くならない内に帰るんだぞ」

奈緒「……うん」

P「なんなら送ってやろうか? 泣きながらだと危ないぞー」

奈緒「う、うっせ。平気だっての!」


P「……くそっ」

——


P「……はぁ」

ちひろ「随分景気が悪そうで」

P「ちひろさん……聞いてたんですか」

ちひろ「当たり前です。狭い事務所なんですから」

P「ちひろさんは、どう思いますか? 今回の件」

ちひろ「別に事務所の外に持ち出しさえしなければ、そうそうバレるものではありませんけどね」

ちひろ「……過去に1人、外に持ち出した例外中の例外が居たみたいですけど」

P「まぁ確かに……」

ちひろ「どう思うか、と聞かれても正直馬鹿馬鹿しくて何も言う気にならないと言いますか」

ちひろ「ちょっと茶番過ぎて」

ちひろ「逆に何を躊躇ってるんですか、って聞き返したいくらいです」

P「さっきの話、聞いてたんじゃないんですか?」

ちひろ「聞いた上で、です」

ちひろ「あんなこと言うなら、最初から男性アイドルをプロデュースすれば良かったんじゃないですかね」

P「……」

ちひろ「はい、言いたい事終わりです。さ、仕事の続きをしましょうか」

P「はは……はっきり言いますねちひろさんも」

ちひろ「これでも控えてます」

P「……そうですか」

ちひろ「はい♪」

——

P「……」

ちひろ「調子は、如何ですか?」

P「別に。いつもと変わりませんよ」

ちひろ「そうですかね……顔色悪いですけど」

ちひろ「いつもなら真っ先に心配してくれる子からのアクションが、何もないんですが……?」

P「……」

ちひろ「……じゃあ、お仕事頑張ってくださいね」


P「……そろそろ行くぞ、加蓮」

加蓮「あ……」

凛「加蓮、分かってるよね」

加蓮「……うん」

本日ここまで
遅筆ですが

——

加蓮「……」

P「……」

加蓮「あの、Pさん……話があるんだけど」

P「なんだ?」

加蓮「……私、何かしちゃったのかな」

P「いや、何も……」

加蓮「前からこんなだったかな……私達って」

P「距離が、近過ぎたんだよ」

加蓮「Pさん……」

P「……アイドルとプロデューサーだろ」

P「再認識だ」

P「加蓮のここ最近の人気はすごい。いつ週刊誌に撮られてもおかしくないんだ」

P「今まで運が良かっただけなんだよ」

P「……仕事仲間、なんだから仲が良いに越したことはないけどな」

P「必要以上は、無しにしよう。加蓮」

加蓮「……うん」

P「…………ありがとう」

加蓮「っ……この後、レッスンだからさ、直接送っていってくれる?」

P「あぁ、把握してるよ」

P「仕事終わりだからな。寝てていいぞ」

加蓮「……そう、するよ」

加蓮「……ごめんね」

——
[レッスン場]


凛「……ふーん、加蓮が、ね」

奈緒「ごめん。アタシ、何を言えばいいか分からなくなって」

凛「いいよ、多分私もそうなってたかも」

奈緒「加蓮、今日はどうだった?」

凛「大分参ってそう。プロデューサーと話をしろ、とは言っておいたんだけど」

奈緒「無理してんな……アイツ」

凛「どう、しようか」

奈緒「……浮かんでこない……」

奈緒「だってさ、加蓮の夢、加蓮の約束、だぞ」

奈緒「Pさんの言ってることも、分かるっていうか……」

凛「私は、二人をくっ付けるかどうかはともかく、ちゃんと元には戻ってほしいな」

凛「だって……」

奈緒「だって?」

凛「……なんていうか、楽しくないから、かな」

凛「今のテンション最悪な私達3人がライブをやるのは、ファンに失礼だよね」

奈緒「……そうだな。そんなんじゃトップアイドルにはなれないから、加蓮の夢を壊すことになる」

凛「プロデューサーの『夢を守る』って言い分が通って、私達のが通らないのはちょっとね」

奈緒「納得、いかないよな」

奈緒「それにPさんもさ、無理してるんだよ。多分だけど」

奈緒「Pさんはさ……普段は結構ふざけてるっていうか、さ」

奈緒「アタシをよくイジったりしてたのにな。最近それが無くて」

凛「私もそれは思った。仕事の話ばっかりしてるよ」

奈緒「……よし。Pさんも今の状況を良く思っていない」

奈緒「つかPさんはまだ気づいてないのか? 加蓮の写真のこと」

凛「みたいだね。もう言っちゃおうか。出来れば自分で気付いてほしかったけど」


加蓮「何を?」


奈緒「か、加蓮!? いつから……!」

加蓮「いや、今仕事から戻ったばっかりだけど……」

凛「そうなんだ。ちょっと休憩してからにする?」

加蓮「ううん、プロデューサーに車で送ってもらったんだ。その間寝てたから大丈夫だよ」

凛「……加蓮」

奈緒「今……『プロデューサー』って……」

加蓮「……うん。改めて、線引きし直そうって思って」

加蓮「呼び方から、変えてみる」

奈緒「待てよ加蓮……そんなの、駄目に決まってる!」

加蓮「ちょ、いきなりどうしたの奈緒?」

凛「……事務所出てから、プロデューサーと何があったの?」

加蓮「何か、ってなに?」

奈緒「なんでもいいんだよ! 何かあっただろ!?」

加蓮「……別に。だってただの仕事仲間なんだからさ」

奈緒「加蓮……」

加蓮「ふふっ、2人共変なの」

加蓮「ま、そんな訳だから体調は万全。レッスンはばっちり頑張れるよ」

凛「……待って」

加蓮「なに?」

凛「私の言った事を覚えてないの?」

加蓮「……話はしたよ。ちゃんと」

凛「何の話を? 答えて」

加蓮「あは、仕事の話だよ」

凛「……改めて線引きって言ったよね? じゃあ前はどんな状況にあったの?」

加蓮「プロデューサーとの距離が大分近いようだった」

加蓮「アイドルとプロデューサーなのにこんなのおかしいよね。だから『改めて線引き』」

加蓮「さて、トレーナーさんが来る前に先にストレッチ、やっとこ?」

凛「ちょ、加蓮……!」

加蓮「よーし。今日もレッスン頑張っちゃうよ」

加蓮「2人とも、私より先にへばったりしないでよねっ。ふふっ♪」

凛「……待って」

加蓮「なに?」

凛「私の言った事を覚えてないの?」

加蓮「……話はしたよ。ちゃんと」

凛「何の話を? 答えて」

加蓮「あは、仕事の話だよ」

凛「……改めて線引きって言ったよね? じゃあ前はどんな状況にあったの?」

加蓮「プロデューサーとの距離が大分近いようだった」

加蓮「アイドルとプロデューサーなのにこんなのおかしいよね。だから『改めて線引き』」

加蓮「さて、トレーナーさんが来る前に先にストレッチ、やっとこ?」

凛「ちょ、加蓮……!」

加蓮「よーし。今日もレッスン頑張っちゃうよ」

加蓮「2人とも、私より先にへばったりしないでよねっ。ふふっ♪」

——

トレーナー「それじゃ、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」


奈緒(加蓮の事が気になって全然集中出来なかった……!)

奈緒(その点凛はさすがだな……)

加蓮「ん〜……終わったか〜……!」ノビー

凛「さっきの話の続きがしたいんだけど」

加蓮「さすがに私疲れてるんだけどなー……」

凛「……」

加蓮「……分かったよ」

加蓮「それで?」

凛「それで、じゃない。このまま諦めるの?」

加蓮「だからさ、諦めるも何もこれが普通なの。凛と奈緒も気を付けなよ」

奈緒「何でそんな平然としてるんだよ……」

奈緒「あんなにPさんの事、好きだって言ってたじゃないか……」

加蓮「……やめて」

奈緒「……お前」

加蓮「お願い……それは、言わないで……」

凛「…………で、どこが改めて線引きなの? 結局何が前と変わったの?」

加蓮「……私だって、急過ぎて分かんないよ……」

凛「急って、何が」

加蓮「……」

凛「加蓮は今でもプロデューサーが好きなの。そこは何も変わってない」

加蓮「……」

凛「変に意地張ってさ、何も諦められてないクセにすっぱり諦めたようなフリして」

凛「迷惑。何なのコレ。ふざけないでよ加蓮」

奈緒「ちょ、ちょっと凛言い過ぎ……!」

加蓮「……わたし、は……」

凛「……」

加蓮「……」

凛「私戻る。奈緒、後は好きにしといて」スッ

奈緒「お、お前まさか……!」

凛「ちょっとあの馬鹿の所に行ってくる。じゃ」バタン

奈緒「あっ……」

加蓮「……」

奈緒(あーもうクソッ、どいつもこいつも……)

——

奈緒「……加蓮」

加蓮「……もう、やだ……」

奈緒「んー……」

奈緒「アタシも嫌だよ。こんな加蓮見たくない」

奈緒「でも加蓮とPさんがそう望んでいるなら、我慢しようと思うんだ」

加蓮「……」

奈緒「なぁ加蓮」

奈緒「好きって気持ち、忘れたい?」

奈緒「Pさんと一緒に歩いてきたアイドルの仕事、無かったことにしたいって願うか?」

加蓮「……そんなの、やだよ……!」

奈緒(やだ、って……)

加蓮「ぐすっ、P、さんがね? 距離を置こうって、言ったの」

加蓮「アイドル、とっ、プロデューサーだからって……」

加蓮「でも、言ってることわかる、から、うんって」

奈緒「……そっか」

加蓮「そしたらPさん、ありがとうって……言ったんだ」

奈緒「辛いな、それは」

加蓮「嫌……嫌なの……! そんなの、要らない……!」

奈緒「……あのな」

奈緒「Pさんはな、加蓮を傷付けたくてこんな事をしたんじゃないんだよ」

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奈緒「ただ、こうやって改めて加蓮と話をしなきゃって思うくらいに、加蓮と過ごす時間が大切な物になってるんだ」

奈緒「Pさんが、仕事に対してどれだけ馬鹿正直か知ってるだろ?」

加蓮「……」

奈緒「加蓮と、プロデュース業。どっちもあの人の中で一杯一杯なんだ」

奈緒「Pさんも悩んでた」

奈緒「……ごめん、もう言っちゃうな」

奈緒「ウェディングドレス、Pさんが『似合ってた』ってさ」

奈緒「あの日からPさんは、加蓮の事を意識し始めちゃったんだよ」

加蓮「……!」

奈緒「加蓮も落ち着いたら、な。もう一回Pさんと話をしよう」

奈緒「Pさんに先にその話をされて、自分からは何も伝えてないんだろ?」

加蓮「……ん」コクン

奈緒「ほら、顔拭け。涙と鼻水で汚いんだよ」

加蓮「そ、そんなになってないし」ゴシゴシ

奈緒「はいはい」

奈緒(加蓮はまだ何とかなりそうか……コイツらどうしてここまで拗れちゃったんだか……)

本日ここまで

>>51ミス

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