西住まほ(大学生)「私の戦車道」 (20)
―劇場版の後、名門大学へ進学した西住まほの話―
【大学 講堂】
まほ(今日から大学生だ。大学の戦車道でも多くを学べるとよいのだが)
『―――では、以上で入学式を終了します。
連絡事項がありますので、戦車道履修者は演習場へ集まってください』
まほ「…」スッ
ヒソヒソ
あれが例の西住流の子?
ヒソヒソ
黒森峰で隊長だったのよね
ヒソヒソ
去年妹に負けたって…
まほ「…」スタスタ
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【演習場】
隊長「西住、お前は1号車の通信手だ」
まほ「通信手ですか? しかし、私は高校では車長を…」
隊長「それは知っている だがこれは決定事項だ、他の学生の配置もこちらで決めている。
特別扱いはしない。いいな」
まほ「…はい。失礼しました。」
隊長「わかればよろしい。2週間後には練習試合だ、それまでに無線機の扱いを覚えておけ」
まほ「…」
【練習試合中】
『以上、交信終わり』
まほ(…?)
まほ「隊長、先遣隊がまだ相手部隊との会敵を果たしていません」
隊長「それがどうした、そんなことは聞いていればわかる」
まほ「戦闘開始からこれだけ時間が経っても何も起こらないのは不自然です。待ち伏せをして遭遇戦を仕掛けてくる可能性も考慮すべきではないかと進言します」
隊長「そうだな。しかしそれはわが校の流儀ではない。全車に送れ。隊列を保ったまま前進」
まほ「なっ!このまま進めば奇襲を受ける可能性があります!」
まほ「こちらも隊を分割し、不測の事態への対処を」
隊長「西住。お前は通信手だ、自分の仕事をしろ。」
隊長「自分の隊が遭遇戦で負けたからといって、我々も同じと思うな」
まほ「っ…!」
ザザーッ
『2時の方向から攻撃あり!命中!2号車、履帯損傷により走行不能!』
『4号車会敵!敵影3!』
隊長「4号車はそのまま敵を引き付けろ。敵の目的は陽動だ。
残りのB部隊は引き続き進行、A部隊との合流を目指せ」
まほ「2両、見捨てるおつもりですか。」
隊長「無論だ。死んだ駒を切り捨てねば勝てん。
戦車道は流儀を重んじこそすれ、結局勝たねば意味がない。
お前も、お前の妹もよく知っているようにな。」
まほ「っ…!」
まほ(この人の言っていることは、正しい。でもそれは、それではまるで)
まほ「まるで、戦争じゃないか…。」
隊長「…。西住、早く指示を伝達しろ」
まほ「はい、了解…」ポチッ
まほ「ぐうっ!?」キィーーーーーーーン
装填手「ひゃあぁ!耳がぁっ!」
隊長「マイクの感度を上げすぎだ!馬鹿者!
通信手の仕事もまともにできんのか!」
…
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【寮室】
まほ(結局、敵が待ち伏せていたものの戦闘には勝利できた)
まほ(やはり大学生。戦術も練度も高校生とはレベルが違う)
まほ(それだけじゃない、全国から戦車のために狭き門をくぐって集まった猛者たちだ。推薦枠で入った私とは、覚悟が…違う……。)
まほ「私は、こんなにも、弱かったのだな。
まほ「あの子は…みほは元気にしているだろうか。
よく寝る子だったから、今頃あのクマのぬいぐるみを抱いて寝ているのかもな。ふふ。」
((おねえちゃん、わたしおおきくなったらボコになる!))
((川に遊びに行こうよ!戦車で!))
((高校、黒森峰にするんだ。地元で近いし、それに…またお姉ちゃんと戦車道したい、から))
((優勝できなかったの、やっぱり私のせいだから。それに、お姉ちゃんも悪く言われちゃうし…。ごめんなさい))
((お姉ちゃん…))
((ここで決着をつけます!パンツァー・フォー!))
((個々の持ち味を生かして、チームワークで戦います!))
((お姉ちゃん、見つけたよ!私の戦車道!))
まほ「そうだ……。 あの子は見つけたんだ。」
まほ「西住流ではない、お母様の流儀ではない。 あの子の戦車道を!」
まほ「みほはいずれこの舞台に上がってくる。それを迎え撃つ私がくすぶっていていいわけがない!
弱いなら強くなるんだ。あの子のために!
((隊長!…いえ、西住先輩!大学でも頑張ってください!応援してますから!))
まほ「そして、エリカのためにも。な。」
【図書室-ビデオ資料エリア】
(まずはこの学校の戦車道を理解するところから始めなければ。)
(敵を知り、己を知れば百戦危うからずと先人は言った。まだ私は己を知ることもできていない)
まほ「奇襲を受けても、ほとんど乱れなく次の行動に移っている…」
まほ「敵が隊を分割して攻めれば最小戦力でこれを誘導。温存した本隊で敵を引きつぶす、まさに王者の戦術と言うべきか。」
まほ(しかし、中学3年生で観戦した試合で受けた印象とは違うな。もっと柔軟というか…。もう少し前の試合も確認しよう。)
まほ(む?これは…)
「あら、こんにちは西住さん。何か探し物?」
まほ(この人は…同じ車両の装填手だったか)
まほ「はい、少し戦術について勉強しようと思いまして。先輩も探し物ですか?」
装填手「ううん、返却。うちの隊長ったら週一でメディアを借りて行くのに、なかなか返しに来ないから督促に行ってたの。」
まほ「それはお疲れさまです。隊長は勉強熱心なのですね。」
装填手「それはそうなんだけど、いい加減自分で返しに来てほしいわ。」フゥ
装填手「西住さんもこんなに映像記録を引っ張り出してくるあたり、負けてないと思うわよ。」
まほ「私は、まだまだ未熟ものですから。ところで、今お時間よろしいですか?実は2年前の試合を見返していて少し気になることがありまして。」
装填手「2年前?」うーん。でも私、当時は入ったばかりだったから戦術とかそういうのはあまり力になれないかも…」
まほ「いえ、そういった類のものではありません。この、東側の丘での…
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【更に2週間後-練習試合】
『3号車、1-A地点森林地帯にて敵部隊と会敵!』
『4号車も敵部隊を目視確認!およそ3両!交戦開始しますか?!』
隊長「交戦を許可する。車幅の広い3号を盾とし、できるだけ時間を稼げ」
まほ「…」
まほ「隊長、ここは3号車および4号車を切り捨てるべきではないと提言します。」
隊長「またか。前にも行ったように、救援に車両を割けば勝てるものも勝てなくなる。」
隊長「うかつに動けば死ぬのはこちらだ。そんなことはできん。」
まほ「それで、2年前と同じ轍を踏むおつもりですか?」
隊長「なに?」ピクリ
まほ「あなたが初めて車長を務めた公式試合で、陽動に見せかけた敵本隊の奇襲に対応できず、戦線が崩壊して敗北を喫していますね。」
隊長「それがどうした。あれは特殊なケースだ、偵察部隊の目を盗んで本体を動かすなど、並みの環境ではできん。」
まほ「ですが、この状況はかつてのそれと酷似しています。陽動にしてはタイミングがおかしい。」
隊長「だからといってこちらがそれに付き合う義理はない。何度も言わせるな、我々は陣営の勝利を第一とすべきなのだ。」
まほ「であればこそ、ですよ。」
隊長「何?」
まほ「あの日、見捨てられた車両に最も近かったあなたは同期を見捨てられたことに動揺し、結果として突破を許した。そう聞いています。」
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装填手「あの日、東側の車両は見捨てるって当時の隊長から伝令があったの。」
まほ「今の戦術同様、少数を切る戦略だったわけですね。」
装填手「そう、わが校の伝統。でもゆうちゃん あ、今の隊長のことね。ゆうちゃんたらひどく取り乱して。」
『いくらカーボン装甲だからって、転がり落ちたらただじゃすまないのに!』
『こんなやり方、まるで戦争だ!私たちだけでも助けに行かないと!』
装填手「なんて言うものだから、運転手をやってた先輩と揉めてね。」
装填手「結局、その隙を突かれて私たちの車両も大破。ゆうちゃんは凄く怒られたんだけど、でもずっと不服そうだった。」
装填手「その後からかな。今みたいに冷徹に振る舞うようになったのは。」
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隊長「おい!何をしゃべっているんだ!」
装填手「ひっ!ご、ごめんなさい!でも…。でも、、ゆうちゃん誰かに止めてほしそうだったから!」
隊長「その名で呼ぶな!今の私は隊長だ!常勝無敗のわが校を勝たせ続ける責任があるんだ!」
隊長「だから味方を切り捨ててでも、恨まれてでも、勝利をつかまなければならないんだ!!」
まほ「隊長、勝利するのは重要です。ですがそれは、心の痛みをも切り捨てながら勝ち取るものではありません。」
まほ「私たちは戦争をしているのではありません。いえ、戦争をしなくてもいいんです。」
まほ「再度進言いたします。3号車と4号車への救援の許可を。隊長。」
隊長「………戦争をしなくてもいい、か。その言葉は2年前に聞きたかったものだが、もう遅い。」
隊長「私はもはやそういう存在なんだ、西住。今更変えようがないんだよ。」
まほ「つまり、隊長も本心では見捨てたくないのですね。」
隊長「…それを認めたところで何になる。いいからさっさと全車に指令を
まほ「……だそうですが、各車いかがですか。」
隊長「は?」
『隊長!2号車は問題ないっすよ!』
『3号車も同じく!っていうか、助けに来てくれるなら早くしてくださいー!そろそろやばいです!』
『試合の後で毎回ブスッとした顔で悩んでたのはそういうことだったんですのね。水臭いですよ隊長。』
『4号車もちょっとツラいです!助けてくださーい!』
隊長「西住、お前通信機を…」
......
まほ「おや、ついうっかり集音設定のままでした。何分慣れていないもので。」
まほ「さて、どうしますか隊長。各車ともさっきの命令に違反する気満々のようですが。」
隊長「っ~~!西住!お前というやつは!!通信手の仕事もまともにできんのかぁ!!」
隊長「………。はぁ、しかたない奴らだ。」
隊長「5号車から8号車、3号と4号の応援に当たれ!それ以外の車両は注意深く転進して東へ!敵を裏から叩く!」
『『『了解!!』』』
…
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まほ「みほ。お前が大洗で自分の戦車道を見つけたように、私も私の戦車道を見つけたよ。」
まほ「待っているぞ。お前も私も、まだまだ始まったばかりなのだから。」
まほ(それに―――)
隊長「おい西住!ブリーフィングを始めるぞ!車長が遅れてどうする!」
まほ「はい!今行きます、隊長!」
まほ(―――今度は、頼りになる先輩もいるのだからな。おめおめと負けてはやらないぞ!)
ガルパン最終章の前に、まほを描かねばと思い立って筆を執りました
ご覧いただき、ありがとうございました
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