【モバマス】黄昏の帰り道 (20)
書けない……。
そんなスランプの中どうにかして書き上げた一作です。
ですので、完成度は低いです。
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小鳥のさえずり
小風に枝が揺られる音
外をゆく人々の声
廊下を歩く足音
時計の秒針が動く音
色んな音が聞こえるこの図書室という場所が僕は好きだ。
それにここは色んな世界と繋がっている。
中世ヨーロッパだったり、空を浮かぶ大地だったり、今にも滅亡しそうな星だったりと、僕をいろんな場所に連れて行ってくれる。
そして、もう一つこの場所が好きな理由がある。
僕の視線の先にいるクラスメイトで、同じ図書委員の佐城雪美ちゃん。
この図書室は、学校の四階にあって放課後にわざわざ遊びたい盛りの小学生が来ることがない。
だから、この放課後の一時間は誰にも邪魔されず彼女と二人きりになれる数少ない時間だ。
と言っても、何かするわけでもなく僕たち二人はただ、黙々と本を読んでいるだけだが。
どうやら、雪美ちゃんは『デルトラクエスト』を読んでいるらしく、ここから見ているだけで楽しそうだというのが伝わってくる。
雪美ちゃんは、一見感情に乏しい子に見えるけれど実際は違う。
本を読んでいる時の彼女は色んな表情をする。
面白い場面を呼んでいる時は楽しそうに。
悲しい場面を見ている時は悲しそうに。
緊迫した場面では、見ているこちらにもその緊張感が伝わってくる。
無色透明に見える雪美ちゃんだけど本当は色とりどりの宝石のように輝いている。
僕はこの放課後の時間に、雪美ちゃんをたまに眺めながら本を読む時間が好きだ。
「下校の時間になりました。学校にいる生徒の皆さんはただちに下校してください」
蛍の光のメロディーと一緒に、下校を促す放送が鳴り響いたので僕と雪美ちゃんは図書室を閉める準備を始める。
「鍵は僕が返してくるよ」
そう言うと、雪美ちゃんは僕の方に微笑みを向ける。
この笑顔が今は僕だけのものだと思うと胸が躍る。
「おまたせ」
鍵を職員室に返してから、下足箱へと向かうとそこには雪美ちゃんが待ってくれていた。
玄関から差し込んでくる夕日が雪美ちゃんを照らして、その儚い印象がより強く強調される。
「一緒に帰ろうか」
「うん……」
図書室で過ごす時間と同じくらいこの時間は僕にとって大切な時間だ。
オレンジ色に染まる世界を二人で今日読んでいた本の感想を言いながら帰るこの時間は、僕にとって大切な時間の一つだ。
一見普通に見える帰り道も、僕たちにとってはファンタジー世界への入り口になる。
僕の右手には伝説の剣があって
あの空に浮かぶ大きな雲の中には天に浮かぶ城があって
あの巨大な鉄塔は大きな怪獣で
あの地平線の先にはきっと宝があるだろう。
そして、あそこの分かれ道には……
別れが待っている。
大冒険の終りがそこにある。
ここは、僕と雪美ちゃんの帰り道の分かれ道。
急に現実に引き戻されて、僕は少しだけ寂しい気持ちになった。
あそこまで続く道がもっと長くなればいいのに……
もっと話したいことが一杯あったのに……
そう思うけれど、現実は空想の世界と違ってそう都合よくいかない。
気が付けば、あっという間に分かれ道がもう目前まで迫っていた。
「ばいばい……」
「うん、また明日」
雪美ちゃんと別れて、僕は僕の帰り道を進んでいく。
今度は早く時間が過ぎてしまわないだろうかと考えている自分がいる。
雪美ちゃんといる時間は一瞬のように過ぎていくのに、雪美ちゃんがいない時間は永遠のように長い。
「時間って厄介だなぁ……」
空に浮かび始めた星空を眺めながら、僕は大きなため息を吐いた。
時間はどうして思いどおりに進んでくれないんだろう?
―――*
それからいくつかの時間が経って、
放課後の図書室は僕だけの秘密基地となった。
今一人でこうしているのには理由がある。
佐城雪美ちゃんはアイドルになったからで、そのために委員会に参加することが出来なくなったからだ。
その話はたちまち学校中に広まって、
いつも教室の隅で静かに佇んでいる雪美ちゃんの周りにはたくさんの人が集まっていた。
照れ気味に皆と談笑する雪美ちゃんを見ていると、少しだけ嫌な気持ちになった。
「ごめん……。今日も……行けそうに……ない……」
雪美ちゃんが話しかけてきたので僕は少しだけ吃驚したが、それを隠しつつ僕は受け答えをする。
「全然いいよ。元々、あんまり人来ないしさ。僕一人で充分だよ」
本当は一緒にいたい。でも、それを言ったところでどうにもならない。
だから、こう答えることがベストなんだと思う。
「そう……」
雪美ちゃんは、顔を暗くして下を向いた。
その表情は寂しそうに見えた気がした。
でも、そんなの勘違いだ。
勘違いに決まっている。
何故なら、雪美ちゃんはこの物語のヒロインで僕は読者。
読者がヒロインと結ばれようなんて、そんなお話は聞いたことがない?
きっと雪美ちゃんのヒーローはもうすでに現れているんだろう。
ヒーローとヒロインが結ばれるのは当然のことで、読者的にもそれが一番いい結末じゃないか。
だから、僕は今日も本を読み進んでいく。
―――*
それから、また季節は過ぎて雪美ちゃんは東京の学校に転校することになった。
本格的にアイドルとして活動するためだと教師は言っていた。
確かに、今では全国的に知名度が出始めた彼女がいつまでもこんな片田舎でアイドル活動を続けるのには少々無理がある。
「もしよかったら……、これ……」
お別れ会の時に雪美ちゃんからクラス全員に一人ずつDVDを手渡していく、当然僕にも。
ただ、僕と彼女の間には何一つ会話は生まれなかった。
これから、彼女は彼女の道を行くのだ。
僕がそれの邪魔をしていい筈なんてない。
だから、これでよかったんだと思う。
放課後になって僕は図書室でいつものように本を読んでいた。
小鳥のさえずりも
風に小枝が揺られる音も
外を行く人々の声も
時計の秒針の動く音も
今はただの雑音にしか聞こえない。
そんな雑音が煩わしくて、本に集中しようとするけれど全然集中できなかった。
読み始めてからもう何分も経っているのに、まだ同じページだった。
最期に何か言わなくても良かったのか?
そう、心の中の僕が言う。
「うるさいな……」
図書室の窓を開けて、窓の外の風景を眺めながら風を浴びていると、
後ろから音がして音がして、そちらを振り向くとそこに雪美ちゃんが立っていた。
「どうして、ここに……?」
「私……、本を読みに来た……。何かおかしい……?」
「別におかしくないけど……」」
雪美ちゃんはスタスタと歩いて、少し唸ってから本を一冊手に取ると机に座ってそれを読み始めた。
チラリと、本の端から雪美ちゃんを覗くと本当に楽しそうだという事が伝わってくるくらい笑みを浮かべていた。
こんどは別の意味で、本に集中できなくなりそうだ。
「ねえ……」
雪美ちゃんがそこまで言いかけて、下校を促す放送が流れてその言葉は中断された。
「何?」
そう聞くと雪美ちゃんは首を横に振って、何でもないと言った。
少しその言葉の先が気になったけれど、その言葉の先を聞くのが怖くて、僕は聞かなかった。
「それじゃ、鍵閉めるね」
「うん……」
「そういえば、友達と一緒に帰らなくてよかったの? 今日が最後の登校なんだし」
雪美ちゃんは微笑んで、もう友達は皆帰ってしまったから、だから一緒に帰ろうと言ってくれた。
「僕なんかで良いの?」
雪美ちゃんはゆっくりと頷いて、下で待ってると言い残して、下の階へと降りていった。
「おまたせ」
職員室に鍵を戻して、下足箱へと向かうと雪美ちゃんはそこに立っていた。
小さく笑っているその姿は、きっと見てしまえば誰でも虜になってしまうだろう。
「一緒に帰ろ……?」
「う、うん」
黄昏に燃える街を、僕と雪美ちゃんは歩きはじめる。
声を出そうとするけれど、何と喋っていいか分からない。
いつもはどうやって喋っていたのか今は全然思い出せない。
そうやって、思い悩んでいると雪美ちゃんが僕の方を向いた。
「今日の本……どうだった……?」
「あー、面白かったよ」
「そう……。私のも面白かった……!」
気が付けば僕たちはいつものように、本の感想を言い合いながら帰り道を歩いていく。
空を見上げると、そこには幻想世界の風景が広がって見えた。
分かれ道についてまだまだ話たりなかった僕たちは、もうすこしだけ会話を繰り広げていた。
何せ、ここで分かれればもうしばらく会う事は叶わないのだから。
「それでね……」
携帯のバイブの音が鳴る。
雪美ちゃんはランドセルからそれを取り出して中身を確認すると寂しそうな表情を浮かべた。
そうかもうお別れの時間ということだ……。
「アイドル頑張ってね。僕も応援してるから……」
「ありがとう……。私、頑張る……!」
黄昏の向こうで雪美ちゃんは笑いながら消えていった。
心残りがないわけじゃない。
でも、これで物語が終わったわけじゃない。
宵の明星が浮かぶ空に僕は一つの決意を固める。
きっと、それは中々見つからないものだろう。
一生をかけても見つからない人だっているはずだ。
でも、探せばきっとそこに在る。
探すことをやめない限り僕だけの物語はそこに在る筈だ。
この想いは栞にして物語のページに挟み込むことにした。
いつの日かそのページを開くその日まで。
―――*
長い長い時間が過ぎて、僕が俺になって俺は私になった。
「ここだな」
店先に出された看板を確認して、私は店内へと足を踏み入れる。
今日は昔私が通っていた小学校の同窓会の集まりで、この地元に帰ってくるのも随分と久しぶりの事になる。
「久しぶり」
元クラスメイト達と互いに挨拶を交わしつつ、私はある人の元へと向かう。
「やあ、佐城さん」
長い年月を経て彼女は昔よりもさらに魅力的な女性になっていた。
その神秘的な印象はより強くなり、物静かな印象はそのままだが無透明な印象とは打って変わって、
太陽のように暖かく包み込むような暖かい雰囲気を醸し出している。
「お久しぶりです」
口調も変わっているようで、私は少しだけ懐かしい気持ちになった。
それを指摘すると佐城さんは、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「貴方の本読みました。とても面白かったです」
「佐城さんにそう言っていただけるなんて光栄ですよ」
私は今、児童向けのファンタジー小説を書いている小説家だ。
アニメ化も決定して、雑誌ではノリに乗っている作家だと紹介されてメディアへの露出も増えた。
正直、自分がここまで行けるなんて思ってもいなかったから多忙な日々を送っているが、
あの退屈だった日々と比べると今はとても充実している。
それから2,3時間ほど経って、月の元待っている僕のもとに佐城さんが訪れた。
「ごめんなさい……。お待たせしてしまって」
「いえいえ、そんなに待ってないですから」
宵闇に染まる帰り道を、私は佐城さんから僕の書いた本の感想を聞きながら歩く。
僕は少しだけ懐かしい気持ちになっていた。
「……!」
あの日見た光景が僕の前にまた広がっていた。
あの空には大きな竜がいて
あの鉄塔のてっぺんにはお姫様が閉じ込められていて
僕の右手には、楯と剣が握られている。
そして、あの道の先には分かれ道がある。
「こうやって歩くのも懐かしいですね。あの日の思い出が鮮明に思い出せます」
「「実は……」」
互いに譲り合って、あの日言えなかった物語の続きは今から始まるのか、それとも終わるのかそれは分からない。
僕は満月の空の下あの日の栞を取り出して、言葉を紡ぐ。
今宵始まる物語の続きは僕たち以外誰も知らない。
というわけで、完結となります。
最近、空を見上げて思うんですが空ってやっぱり青いんですね。
そんな空を見ていると、不思議と懐かしい気持ちになってこんなSSを書いてしまいました。
完成度の低い作品でごめんなさい……。
こちらは、前作になりますので時間があるときにお読みいただければと……。
【モバマス】町外れには魔女が棲む
【モバマス】町外れには魔女が棲む - SSまとめ速報
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