※スレタイ通りのお話。
序盤だけ小説っぽい形式で、あとはほとんどSS形式。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472318044
きっかけはなんだったか。
提督の適性検査とやらに引っかかったことがそもそもの始まりだっただろうか。
いや、戦争が激化して、誰も彼もが外食する余裕をなくしてしまったことが原因だろうか。
いずれにせよ店を続ける余裕がなくなってきたところに、提督業の話が舞い込んできたのは、ある意味で渡りに船――――言い得て妙であるが――――まあそんな感じであった。
これからの生活がどうなるのか、不安と少々の期待を胸に、商売道具を満載したトラックワゴンを――――鎮守府の門の傍に横付けする。
提督「ここが鎮守府………僕の新しい仕事場かぁ」
彼は鎮守府の建物を見上げた。真新しい綺麗な建物だ、と彼はあまり感慨なくつぶやいた。その幼げな顔には「にへら」と柔らかい笑みが浮かんでいる。
大本営から届いた鎮守府内の見取り図を手に、彼はまず【工廠】へと向かった。
曰く―――妖精と意思疎通が可能というのは一つの才能であるらしい。
政府の木端役人に最低限の知識を叩き込まれた後に、それを知った。
【建造】を行えるのは妖精が見える人間のみ。
しかし、軍事においてド素人に指揮を取らせるとなれば問題である。
ならば建造のみを妖精が見える者にやらせて、艦隊指揮や鎮守府運営は正規の軍人にやらせればよいのでは? といった意見もあったのだが、
提督「鳥の刷り込みじゃあるまいに……基本的に建造した人間の言うことしか聞かないってどういうことだよ。船舶の開発設計者と艦長はまた別モノじゃないの……?」
なんだそのフワッとした設定は、と意味のない文句を言いつつ、辿り着いた【工廠】の扉を開く。
??「ヘイ、ラッシャイ」
提督「やあ、こんにちは妖精さん。初めまして、僕、提督です。あ、これ、手作りのケーキです。よかったらどうぞ」
工廠妖精「オオ、コレハカタジケナイ。コチラコソハジメマシテ、コウショウヨウセイデス」
提督「これからよろしくね。それでね、早速なんだけど、初期艦の子の建造をお願いできるかな?」
工廠妖精「アイヨー、ダレニスルゥー?」
提督「初期艦娘って、確かみんな駆逐艦で……いいとこ中学生ぐらいの見た目の子なんだよね?」
工廠妖精「マァ、クチクカンダシ」
提督「なら、明るくて元気な子がいいなぁ。艦娘の子って会ったことないけれど、あんまり軍人然としてるっていうか……お堅い子はちょっとねぇ」
工廠妖精「フムフム、ジャア【ムラクモ】ハダメダナ。ソレデ?」
提督「うーん、気軽に話しかけやすい感じの……僕、あんまり暗いのとか気まずい感じは苦手なんだぁ」
工廠妖精「ウーン、トナルト、ヒッコミジアンノ【イカヅチ】モダメカー」
提督「あとなんていうかこう、親しみやすさがあるっていうか、おしゃべりするのは嫌いじゃない子がいいなぁ。あ、お料理に興味がある子だったら嬉しいなぁ」
工廠妖精「ウーン……【パンツ】トカ、【ドジッコゾクセイ】ハイル?」
提督「パンツ? いるかいらないかって言ったら、パンツは履いてなきゃダメだよ……ドジッ子もちょっと……それなりにしっかりしてる子がいいなぁ。真面目一辺倒もちょっとねぇ」
工廠妖精「オッケー、ダイタイワカッタ」
提督「うん、それじゃお願いしまぁす」
工廠妖精「アイヨー、ショキカンイッチョ」
提督(あ、すっごくラーメン屋台っぽい……ラーメン屋台、ここらへんにあるかなぁ)
工廠妖精「20プンデデキルカラ、マッテテネー」
提督「はぁい(20分か……結構かかるな……こだわりのラーメン屋かな……美味しいラーメン食べたいなぁ……)」ワクワク
この提督の認識はいろんな意味でズレている。
提督「しかし僕のような軍務の『ぐ』の字も知らない者にまで提督をやらせるとはねぇ………いよいよ終わってるなぁ、日本」
工廠の隅で建造完了を待ちながら、提督はひとりごちる。
それこそぐうの音の『ぐ』の字も出てこないぐらい正論であったが、そのぐらい切羽詰まっているのである。無い袖は振れない。ならばそこに在る袖を振るしかないのだ。
提督「まあ、でも……基本的に艦隊指揮とか運営については、秘書艦の子にやらせて、僕は建造とか決済のハンコとか押すだけでいいっていうし……なんとかなるかなぁ」
そこで秘書艦娘である。
艦隊指揮・鎮守府運営・その他諸々の事務作業……基本的な軍務知識を最初から備えた駆逐艦が、【最初の建造】でのみ建造されるという。
無尽蔵とも思える深海勢力に対し、数には数をと対抗していった結果が、民間からの提督適性を持つものを【提督】に抜擢するという無茶苦茶なものをなんとかするには、そういった【秘書艦娘】が必須であった。
深海棲艦の侵攻によって制海権を奪われた人類は、現在ジリ貧の戦いを強いられている。
艦娘の登場によって、ようやく互角にまで戦局を持ってこれたものの、未だシーレーンの治安は安定しているとは言い難い。
食糧の価格は高騰しつづけているし、一部の地域においては陸地への侵攻は未だに続いている。
工廠妖精「ヘイ、ショキカンオマチドウー」
提督「こだわりのラーメン!」ガタッ
工廠妖精「ラーメン?」
提督「うん、ラーメン。今度食べてみる?」
工廠妖精「オイシイ?」
提督「僕が作るものは、なんでも美味しいよぉ」
工廠妖精「オネガイシマス」
提督「うん。で、ラーメンは?」
工廠妖精「オマエハナニヲイッテイルンダ」
漣「あ、あの……」
提督「ん? この子がラーメン? ラーメンちゃん?」
工廠妖精「チガウヨ」
提督「チガウヨちゃんか。ネトウヨの親戚?」
漣「ちちちちげえし。断じてネトウヨじゃねえし! 漣だし!! ………ッ、ご、ごほん」
提督「?」
工廠妖精「?」
漣「あ、綾波型駆逐艦『漣』です、ご主人さま。こう書いて『さざなみ』と読みます」
提督「今更とりつくろわなくても……」ネエ?
工廠妖精「ホントソレ」ネエ?
漣「誰のせいだと思ってるんです!?」
提督「よろしくねぇ、さざなみちゃん。初めまして、僕、提督です」ペコリ
漣「え、あ、ああ、はい。よろしくです」ペコリ
提督「それじゃあ、ラーメン食べようねえ」
漣「なんでラーメン!?」
提督「食べたい気分だからねえ……」
漣「ま、まぁ、そういう気分もある……のかな?」
提督「ああ、でも僕、ラーメンの具材は買ってきてないなぁ……」
漣「へ?」
提督「っていうか、僕、ラーメン屋さんじゃないし……ごめんね、ラーメン以外にしようか」
工廠妖精「オンドゥルルラギッタンディスカー」
提督「ごめんねぇ」
工廠妖精「ッテイウカ、ボクタチ【アマイモノ】イガイハタベナイヨ」
提督「なんだ、そうなのかー」
漣(あっ、この人超マイペースだ!!)
提督「さざなみちゃんも建造されたばっかりでお腹空いてない?」
漣「そんなことは……」キュルルル
提督「………」
漣「………あ、い、いや、いまのは、その」
提督「食堂に行こうねえ。もう夕方だし、お夕飯作ろうねえ」ニヘラ
漣「はい……その前に、とりあえず任務として、建造だけしましょ……///」
提督「はぁい」
漣(確信した! 私ひとりじゃ持たない!)
人、それを生贄とか道連れという。
その後、最低値レシピを回した結果、駆逐艦【朧】をゲットした。
同じ駆逐艦、それも姉妹艦が出てきて、漣はすごくホッとした。
これで被害は半分になる。そう思っていた時期が、漣にもありました。
【食堂】
提督「ごめんねぇ、商売道具、車から持ってきてくれて」
漣「いえいえ、艦娘はこう見えて力持ちですから」
朧「はい。このぐらい、全然平気です……多分」
提督「多分なんだぁ」
朧「あ、いえ、その……多分」
提督「たぶんたぶん?」
朧「多分……はい」
提督「多分なら仕方ないね」
朧「仕方ないですね、多分」
提督「多分だもんね」
朧「多分ですからね、多分」
提督「流石多分だね」
朧「流石は多分です」
提督「―――おぼろちゃん、ひょっとして頭弱い?」
朧「ひどい! ……多分じゃなくて、絶対ひどい!」
漣(頭痛がしてくる……どっちもかなり天然だよ……)
提督「じゃあ、そこのキッチンに置いておいてね。あ、食材は冷蔵庫にお願い」
漣「あらほらさっさー」テキパキ
朧「頭弱くないです……弱くないもん……多分じゃないもん……」
提督「しかし立派なキッチンだねぇ」
漣「はい。ところでご主人様? 商売道具って……この調理器具とお鍋が?」
提督「僕、洋食屋さんだったからねえ。そこのお鍋には創業以来注ぎ足してきたカレーとかデミグラスソースが入ってるよぉ」
漣「カレー!?」ガタッ
朧「カレーですか!」ガタッ
提督「さざなみちゃん、おぼろちゃん、カレー食べたい?」
漣「キタコレ!」パァア
朧「はい! 食べてみたいです!」
提督「多分?」
朧「……」ムッ
提督「ごめんごめん。カレー好き?」
漣「はい! 好き……だと、思います、はい」
朧「………多分」
提督「え、そこで多分出ちゃうんだ……思いますって、どゆこと?」
朧「あ、いえ、その……私たち艦娘は、もともと艦だったので、乗員だった人たちのことを【記憶】として有してはいるんですけど、その」
提督「あー、人間としての、主観的な体験……記憶っていうのがないんだねえ」
漣「は、はい。でもでも、とっても美味しそうだなーっていう知識はあるんですぞ!」
提督「うーん……」
漣「? ご主人様?」
朧「提督?」
提督(――――なるほど。つまりまっさらな赤ん坊に人間としての知識とか経験とかをぶち込んだ感じなんだなぁ。ということは……多分、味覚は強い刺激になれてないなぁ)
漣「あ、あの、ご主人様……ひょっとして、カレー、だめですか……?」
提督「あ、ううん。カレー作るよぉ。美味しいの作るから、ちょっと見ててねぇ」
漣「キタコレ!! それなら漣もお手伝いしますよ?」
朧「お、朧もお手伝いします!」
提督(この子たち、面白そうな子だなぁ、妖精さんぐっじょぶ)ニヘラ
【キッチン】
提督「まずは手を洗おうねぇ。衛生管理は一番重要だよー」ザブザブ
漣「わっかりましたー」ザブザブ
朧「はい!」ザブザブ
提督「じゃあ、皮剥きしようねえ。三人分と……継ぎ足しで使いたいから、ちょっと多めに作ろうねえ。一人二つずつ剥こうかぁ」
漣「それじゃあ競争ですね、ご主人様」フンス
朧「朧、負けませんから」フンス
提督「じゃあよーいどん。そいやそいやそいやそいや」バババババ
朧「!? は、速ッ……!?」
漣(なにこれ!? なにこれ!? すっごく速いんですけど!?)
提督「おわり」ムフー
漣「ちょ!? 漣、まだ一個も……」ワタワタ
朧「お、朧も……」アワワ
提督「二人とも、皮むくのおっそーい」プークスクス
漣「ぬぬ」ムカ
朧「むぅ」ムカ
提督「僕だってプロだしねぇ。とりあえず頑張って剥いててちょうだいな。僕、スライスしておくから」トントントン
朧(あっ、いつの間にか包丁を……ってこっちも速ッ!?)
提督「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドドドドド
漣「えっ、わっ、あ、意外とたまねぎって皮むきムズい!!」
提督「おわり」ムフー
漣「ちょ、ちょ……」
朧「う、う……」
提督「まだー? ねー、たまねぎまだー? ねぇー、ねぇー」ン?
漣「う、うう……」グスッ
朧「く、くぅっ……」ウルッ
提督「あ、ごめんね……まだ人間としての身体に慣れてないもんね」
漣「は、はい……」グスッ
朧「………」ウルウル
提督「大丈夫だよ。ちょっといじわるしちゃったけど、ちゃんと分かってるからねえ……少しずつ慣れていこうねえ。お互い頑張ろうねぇ」
漣「……はい!」ニコリ
朧「ま、負けませんから!」フンス
提督「それじゃあ僕、どんどん作っていくから、今日のところは見ててねえ」ドドドドドド
朧(優しい人、なのかなぁ……子供っぽいけど)
漣(っていうか、見た目が子供だけど……それにしても、手際いいなぁ)
【食堂】
提督「できたぁ」ドヤー
漣「できましたね!」ヤッター
朧「とっても美味しそうです。多分じゃなくて、ほんとに」ヤッター
工廠妖精「イイニオイ」
提督「カレーは甘いけど甘くないよ?」
工廠妖精「オカシ?」
提督「お菓子じゃないよー」
工廠妖精「チッ、ナンダヨ、イラネエヨソンナモン」ペッ
提督「柄悪いなぁ……あ、ケーキ一つ持っていく?」
工廠妖精「イッショウツイテイキヤス」
提督「あははー、分かり易いなぁ、妖精さんって」
・本日の夕食
【特製ビーフカレー(偽)】
鎮守府において最もオーソドックスなカレー。ハヤシライスと共にグランドメニューで提供しているので毎日注文できる。
実はちょっぴり手抜き。肉を煮込む時間がなかった。すりおろしたリンゴがたっぷり入った甘口カレー。
本来ならばあと数時間煮込んで野菜も牛肉もトロトロになっている上に、香り豊かなスパイスを提供直前に配合するため、より香しく辛い。
艦娘達の事情を察知した提督により、本来の辛さよりまろやかさを重視した作り方に改変している。しっかりとした肉の食感があり、これはこれで旨い。
また、鎮守府のカレーは、徹底的に衛生管理を行った上で継ぎ足しを繰り返しているため、味により深みがある。
鎮守府の艦娘はみんな大好き。長期遠征から帰ってきた艦娘が注文する料理では文句なしのトップ。
なお辛口の上にも更なる辛さの段階が存在する。
甘口・中辛・辛口・激辛・極辛・神足・天耳・他心・宿命・死生・漏尽と11段階。地獄めいて辛くなっていく。
制覇すると改二になれるという眉唾話がこの後広まる。
【ヨーグルトドレッシングのサラダ】
ギリシャのザジキ風サラダ。具は千切りキャベツと、1センチのダイス目に刻んだキュウリとトマト。
ドレッシングはヨーグルトベースの酸味が効いたさっぱり塩味。ほんのりライムとニンニクの香りがする。
キュウリとキャベツのシャキシャキ感が抜群。
【ケーキ各種】
イチゴショート、バニラババロア、モンブラン、かぼちゃチーズケーキ、さつまいもとりんごのパウンドケーキなど。提督がお土産にと作ってきた。
提督「じゃあ、両手を合わせてねぇ」ペタリ
漣「はい、ご主人様」ペタリ
朧「はい、提督」ペタリ
提督「いただきまぁす」ペコリ
漣「いただきます!」ペコリ
朧「いただきます!」ペコリ
提督「あむ」
漣「あぐ」
朧「はむ」
提督「うん……即興の割には、なかなかかなぁ」
漣「」
朧「」
提督「どうしたの? おくちにあわない? 辛い?」モグモグ
漣「う、う、う、ウマーーーー!!?」キラキラキラ
朧「お、おいしい!!」キラキラキラ
提督「うおっ、まぶしっ……!? なにこれ、発光現象? ぷらずま?」
漣「がっ、がつがつっ」
朧「はむっ、はぐはぐっ」
提督「落ち着いて食べようねえ……これ、なんの光? 僕の健康に著しく害を及ぼしたりしないよね?」
漣「はぐっ、んぐっ、もしゃっ!」
提督「あのさ」
朧「かっ、がつっ、がががっ、んぐっ」
提督「ねえ」
漣・朧「「もぐもぐもぐもぐ、んぐっ、ずばばっ」」
提督「―――聞けよオイコラ。シカトぶっこいてっとカレーと一緒に煮込むぞゴラ?」シャガッ
漣「!?」ビクッ
朧「!?」ビクッ
提督「ん?」ニヘラ
漣(い、今……!?)ガタガタ
朧(な、なんか、提督が、怖く……?)ブルブル
提督「落ち着いて食べようねえ……で、その光何かなぁ?」ニヘラ
漣「あ、これは艦娘のコンディションというか、絶好調! って時に輝く現象でして」
提督「あ、そうなんだぁ。じゃあ健康に害とかないんだ。放射能的なアレじゃないのね」
朧「いや、私たちタービンなんで……原子炉で動いたりしません……」
提督「多分?」
朧「……絶対です」ムス
提督「それは良かったぁ……で、どうかな、僕のカレー。おしゃべりしながら食べようよー。僕、わいわい食べる方が好きなんだよねえ」
漣「す、すいませんでした、ハイ。あんまり美味しかったもので、つい我を忘れて……」
提督「えっ」
朧「知識として知ってるのと、実際に味わうのに、こんなに違いがあるなんて……これが美味しいってことなんだーって思ったら、スプーンが止まらなくて……すいませんでした、提督」
提督「んー、んふー、んふふー」ニマニマ
漣「えっ……(ご主人様、すっごく可愛い笑顔……)」
朧(なんだか、とっても嬉しそう……)
提督「そこまで僕のお料理楽しんでくれてんなら、いいよー。いっぱい食べてねぇ」
漣「え、でも、お喋りは……」
提督「んー、やっぱり今日は良いよぉ。いっぱい美味しいもの食べてねぇ。明日も美味しいもの作るからねぇ」ニヘラ
朧「あ、はい! ありがとうございます……そ、それじゃ朧、食べます!」モグモグ
漣「あっ、朧ずるい! 私も私も!」モグモグ
朧「おいひぃ、おいひー♪」アグアグ
漣「うまうま、うままっ……♪」ウマウマ
朧「あっ、こっちのサラダも、すっぱ甘い感じっていうのかな……しゃきしゃきしてる」シャキシャキ
漣「ちょっぴり舌がひりひりするのって、辛さかなぁ。サラダ食べると、なんだかそのひりひりがなくなって……うん、おいしい、おいしい!」モグモム
提督「…………」ニコニコ
提督(うん、やっぱりこれだよねぇ。美味しい美味しいって、僕の料理食べてくれるの……うれしいなぁ、うれしいなぁ)
提督(これから、いっぱい艦娘増えるんだよねぇ。いっぱいいっぱい増えるんだよねぇ。僕のお料理、美味しいって言ってくれるかなぁ……)
提督(笑顔で、美味しいって……キラキラしてくれるかなぁ……みんなキラキラしたら、電気代の節約とかになっちゃったりするかなぁ……)
提督「………」
提督「………」
提督「………」ニヘラ
提督(ダラダラやってこーと思ってたけど………ちょっと気合入れてがんばろーっと)
…
……
………
………
……
…
漣「―――-元老舗洋食屋のオーナシェフさんが、提督として鎮守府に着任してくださりました」
朧「これより、艦娘たちは至福の光に包まれます」
【プロローグ・艦】
※今日はこの当たりで
もともと>>1は深夜VIPの住人なんですが、本日回線がつながらなかったため、このSSだけはこちらに投下させていただきたく
※提督は外見ショタ。身長は漣らと大差ない。ちょっぴり大きいぐらい。だがその中身は……。
………
……
…
次の日の朝ー。
【キッチン】
提督「食パンは焼けたかなぁ……」チラッ
オーブン「ヘヘヘ、コンナニパンパンニフクレチマイヤガッテェ」
提督「うん、焼けた焼けた。取り出してー、冷ましてー」
提督「その間にキャベツ千切り」トントントントン
提督「プチトマトは賽の目ざく切り~」ザクザク
提督「ドレッシングは材料をミキサーにかけて」ドルルルルルン
提督「サラダ完成」ヨシ
提督「チキンブイヨン……余ったキャベツ入れちゃえ……スープ完成」ヨシ
提督「ヨーグルトに、特製のブルーベリージャムを」ペペン
提督「デザート完成」ヨシ
提督「ベーコンエッグ~」ジュワァ、プチュプチ
提督「半熟にしとこ……完成」ヨシ
提督「パンも冷めたねぇ……切ってー、トースターでー、ちーん」
トースター「ヘヘッ、キモチイイカァ……コンナニコンガリシチマッテヨォ」チーン
提督「バター塗り塗り」ヌリヌリ
提督「いちごジャム添えてー」テキパキ
提督「カプチーノ淹れよう……エスプレッソマシーン、カモーン」ヘイ
エスプレッソマシン「アツリョクカケテヤルゥーー、【アッパクメンセツ】ノヨウニナァーー」ヴィイイン
提督「ニガいのダメだろうし、ミルクには砂糖多めで………ミルクジャグ&スチームカモーン」ヘイ
スチーム「トロットロニアワダテテヤルゼェ」ジュゴゴゴ
提督「流石はデロ○ギ製……圧力パないの。さぁ、トントンして細かい泡になっちゃいましょうねえ」トントン
提督「うーん、デザインはどうしよう……うさぎさんにしよう」クルクル、チョンチョン
提督「―――モーニングプレート完成ー。さあ配膳だー」イエス
・本日の朝食
【ベーコンエッグ】
とろりとした半熟の目玉焼きに、特製のサクラチップで薫製した提督お手製ベーコン。じゅわとろ。
提督は味の好みはさしてうるさく言わないので、お醤油でもケチャップでも塩コショウでもお好みで。サラダと一緒にパンに乗せて食べても美味しい。
【ニンジンドレッシングのサラダ】
油分が少なめの甘いニンジンドレッシング。若干インディア風味。ケチャップとマヨネーズの割合が決め手。クミンとニンニクの香りがほんのり。
【チキンブイヨンスープ】
毎日毎日、何年も継ぎ足しし続けている野菜スープをベースに、鶏がらを煮込んだ超本格チキンブイヨン。
カレーを作る際のベースにも用いられる万能スープ。超栄養価高い。絶品。
【食パントースト(1枚)】
トースト1枚を半分に切ったものが二切れ。厚みがあるので1枚でかなりのボリューム感。
表面さっくりのふわもち系。じんわり染みたバターの甘味と薫りが食欲をそそる。
イチゴジャムを塗って食べても美味しい
【ブルーベリーヨーグルト】
市販品のヨーグルトにお手製ブルーベリージャムを乗っけた。すっぱさと甘さのハーモニー。
【カプチーノ(うさぎ)】
ふんわりもっこりとろとろの香り立つカプチーノ。ハートマークを飛ばしながらウインクするうさぎのラテアートがとても可愛らしい。
ひとまず砂糖多めの甘めに仕立てた。
【食堂】
提督「どやー」
漣(うさぎ可愛いし、美味しそうだし……ツバが出てきた)ゴクリ
朧(……あれもこれもいい匂いがする)ゴク
提督「おあがんなさい」ニヘラ
漣「テラウマそう!!」パァア
朧「朧、こういうの嫌いじゃないです……うん、好きです……とっても」パァア
提督「いただきまぁす」ペコリ
漣「いただきまーっす!」ペコリ
朧「いただきます」ペコリ
漣「トースト、ウマーーーー!」モムモム
朧「ベーコンエッグおいしい」ハムハム
提督「二人とも、サラダも食べるんだよ」
漣「はい! 漣、サラダも好きですよ」
朧「朧も好きです」
提督「好きとか嫌いとかはいい……サラダを食べるんだ」
漣(ご主人様が時々何を言っているのか分からない)
朧(健康に気を使ってくれてるんだなぁ)
漣「あむ……もむ……んぐ……メロ……うん、サラダ美味しいね」モグモグ
朧「はぐ……あぐ……うん、うん……ゴキュ……!? こ、このスープ……!?」
漣「ふぇ? スープ?」
朧「な、なに、こ、これ……」プルプル
提督「……」チャッ
何かを察したのか、グラサンを着用する提督。
朧「お、美味しすぎる……」キラキラキラ
漣「そんなに? 仕方ない、それじゃ漣も………ウマ―――!!」キラキラキラ
提督(ふぇぇ……電気代の無駄遣いだよぉ)マブシイ
朧「特別に味が濃いってわけじゃないのに、これ、これ、すっごくおいしい」ゴクゴク
提督「栄養たっぷりの野菜スープをベースにしたチキンブイヨンだよ。旨みたっぷりでしょ」
漣「おかわり!」プハー
朧「お、朧も、おかわりいいですか?」
提督「うんうん、いっぱい食べなさい」
漣「がプ……がじがじ……あ、お醤油お醤油……ん~、まんだむ……」
朧「ごくごく……あ、コーヒーってこんな味するんだ……はむ、もむ……」
提督「………」ニコニコ
漣「………」アム
朧「………」アム
漣「ヨーグルトがまたウマい! ごちそうさまでした! あー、おいしかったぁ……」
朧「御馳走様でした、提督………このかぷちーのっていうコーヒー、朧、好きです! ………多分」
提督「たぶん」
朧「……た、多分」
提督「毎日飲みたい?」
朧「ま、毎日……飲みたいです……ハッ!?」
提督「動揺したねおぼろちゃん……毎日飲みたい……それは多分じゃなくて、間違いなく好きってことではないかね……?」ドドドド
朧「ば、ばかな……わ、私は、多分って言ったのに……」
提督「フフフ、ひとつチャンスをやろう……」
漣(なんだこのノリ)
提督「多分などという曖昧な言葉ではなく、素直に毎日飲みたいと言え……このTEITOKUのカプチーノを毎朝飲ませてやろう」ゴゴゴゴ
朧「そ、そんな……まだ練度1なのに、そんなプロポーズみたいなこと……」ゴ、ゴクリ
漣「いやいや、まてまて」
提督「だが、それでも頑なにあいまいみーに誤魔化そうと言うのならば………再び『多分』と言うがいい……」
朧「…………」
朧「………朧は、初めて提督のお料理を食べたとき、心の奥底まで提督のお料理の美味しさという呪縛に屈服しそうになりました」
提督「ほう?」
漣(なんか始まった)
朧「あの時、朧は「胃袋を落とされた」人生を歩みはじめたわけです。死よりも恐ろしい!! 提督のお料理を楽しみにして朝昼晩の食事を待つなんて!」
漣(それ別に悪いことじゃ無くない?)
朧「だけど、今は……恐怖はこれっぽっちも感じません。朧にあるのは闘志だけです」
漣(それ、キラ付け効果だよ? それこそ多分じゃなくて絶対にそう)
朧「漣に会い…この1日たらずの艦娘人生を共にした漣の存在が、朧の中から提督のお料理への恐れを吹き飛ばしました」
提督「………本当にそうかな? では……『多分』と言ってみるがいい」
朧「提督のカプチーノ、好きです………凄く」
提督「そうかそうかおぼろちゃん、フフフ―――『多分』ではなく『凄く』と言ったな。このTEITOKUのカプチーノが毎日飲みたいと言うわけだ」
朧「!?」
漣(なんなんだ、この茶番は!?)
朧「な……なに、これ……!? 朧は……! 『多分』と……一言! 確かに!」
漣(言ってませんねえ)
提督「どうした? 動揺しているぞオボナレフ。「動揺する」それは「恐怖」しているということではないのかね。それとも「多分と言わなくてはならない」と心では思ってはいるが、カプチーノが毎日飲めないことがあまりに恐ろしいので、無意識のうちに逆に口は正直になっていたといったところかな……?」ゴゴゴゴゴゴ
漣(それな)
朧「バカなッ!? お、朧は今たしかに、『多分』と言ったッ! ………多分」
漣(自信なさすぎィーーーー!?)
提督「素直になれよ……おぼろちゃん。恐怖するだなんてとんでもない……『安心』していいんだ……カプチーノを毎日飲もう……いいね」
朧「は、はい!」
提督「一件落着」
漣(つ、疲れる………あ、漣のキラ付け取れちゃった……)
提督「さぁ、食器を片付けたらお仕事しようねえ」
朧「朧、頑張りますね!」
提督「たぶん?」
朧「ぜったい!」フンス
提督「いえい」パン
朧「いえい」パン
漣「うがーーーーーー!!!」
漣の明日はどっちだ。
【港】
提督「それじゃあ出撃頑張ってきてねえ。大破撤退が基本らしいから、ちゃんと守るんだよー」
朧「はい! まずは鎮守府近海の敵を黙らせてきます!!」キラキラ
漣「遅くてもお昼前には帰りますね」ドヨーン
提督「? さざなみちゃん、ドンヨリしてるね」
漣「ご主人様と朧のせいでしょう!?」
提督「んじゃあ、これ」ズボッ
漣「んぼっ!?」
漣「な、なにを―――――!?」ハッ!?
【before】
漣「………」ドヨーン
【after】
漣「………」キラキラキラキラ
提督「よし」フンス
朧「何を食べさせたんですか?」
提督「生キャラメル。朧ちゃんにもあげる。道中でおやつにするんだよ」ハイ
朧「わ、ありがとうございます」ニコリ
漣(ひどいドーピングみたいな………いや、おいしいけどさぁ)アマイ
提督「じゃあ行ってらっしゃいー。お昼ごはん用意して待ってるぅー」フリフリ
漣「行ってきます……」フリフリ
朧「行ってきます!」フリフリ
【鎮守府正門前】
提督「さて、と……」
提督「この近くの山々は海軍所有の土地だって言ってたっけ」
提督「それじゃあ、つまりあれだ。うん、あれだよあれ」
提督がその矮躯に背負うものは、矢筒。
左手には弓。腰には包丁の数々。やや蛮族風味である。
足に着けたホルスターとポーチには、ロープや火種、他にも手裏剣や千本といった飛び道具がいっぱい。
提督「食糧確保といこう――――さあ、狩りの時間だ」ニヤァ
その瞬間、森と山々は確かにざわめいた。
…
……
………
………
……
…
【鎮守府正面海域―海上(1-1-1)】
イ級「」チーン
漣「完全勝利Sキタコレ」フンス
朧「楽勝だったね」フンス
漣「これだけキラ付けされてればねぇ……」キラキラキラキラ
朧「輝きがとどまることを知らないね……」キラキラキラキラ
漣「夜戦だと良い的になっちゃうかも!」
朧「早急な対策が必要だね」
漣「さてさて、ドロップ艦は、と……おっ」
朧「あら」
曙「駆逐艦【曙】よ………って、うおっ!? まぶしっ!?」
漣「あらら、ボーロじゃないのよさ。やっほー、漣だお!」
曙「さ、漣? ボーロっていうな。っていうか眩しい眩しい!? どうにかならないのそれ!?」
朧「ちょっと待ってて………むんっ」シュンッ
曙「ひ、光が消えた!? あっ、朧じゃないの!」
漣「え、それどうやったの?」
朧「きえろー、きえろーって思ってたら、なんか消えたよ」
漣「なにそれこわい」
朧「漣もやってみなよ」
漣「え……うーん、むーん、むーん………はっ」シュン
曙「消えた!?」
漣「気合入れたらなんか出来た」
朧「これで電力を無駄に消費せずに済むね……地球にやさしいって、それっていいことだよね」
漣「あー、まーうん、そう、そうだねー、うん」
曙(………何が何だか分からない)
朧「私たち、このまま進撃しちゃうけど……曙もついてくる?」
曙「う、うん」
漣「あ、それなら………朧、アレあげなよ、アレ」
朧「あれ? あー、うん……」
漣「なんでがっかりしてるの?」
朧「だってアレ、すごくおいしいから……」
漣「うん、朧さ、とっくにご主人様の料理に屈服してね? それってば食い意地っていうやつだよ」ウン
朧「」ガーン
漣「ほら、出しなさい」ホラ
朧「うん……」ハイ
曙「ちょっと、なんなのよ? 進むならさっさと進m」
漣「そぉい!!!」ズボッ
曙「ぶぉの!?」モゴッ
朧(イタリア風味かな?)
曙「い、いきなり何すんのよっ! この馬鹿さざな――――!?」ハッ!?
【before】
曙「こっち見んな! このクソ提督!」ジトッ
【after】
曙「見てッ! 見てッ! もっと私を見てッ!!」キラキラキラ
漣「よし」グッ
朧「よし」グッ
曙「ちょ、な、何よこれ!! く、口の中、すっごく甘くて、な、なに、この昂ぶり―――お、抑えられない!!」キラキラキラキラキラ
漣「マブシッ」
朧「マブシッ」
※あ、すいません、普通に誤字った
×:漣「あらら、ボーロじゃないのよさ。やっほー、漣だお!」
曙「さ、漣? ボーロっていうな。っていうか眩しい眩しい!? どうにかならないのそれ!?」
○:漣「あらら、ボーノじゃないのよさ。やっほー、漣だお!」
曙「さ、漣? ボーノっていうな。っていうか眩しい眩しい!? どうにかならないのそれ!?」
【鎮守府正面海域―海上(1-1-C(ボス))】
朧「瞬間☆響き合い!」
漣「ココロ☆交わる!」
漣・朧「「衝破、十文字!!」」
※ただの十字砲火です。
ホ級「」チーン
イ級A「」チーン
イ級B「」チーン
漣「やったぜ」
朧「やったよ」
曙「強ッ!? ――――って! 海上で十字砲火とか、陣形考えなさいよ!!」
朧「ごめん」
漣「チッ、ウルセーヨ……反省してマース」
曙「ザッケンナコラー!! 私の出番無いじゃない!」プンスコ
漣「ふひひ、さーせん。まぁまぁ、それよりもドロップ艦が出ますぞ」
朧「あっ、そうだね……曙も来たし、ひょっとして……」ワクワク
曙「後でお説教するからね………で、でも、ひょっとしたら……」ワクワク
漣「何が来るかな~」ワクワク
天龍「オレの名は天龍………フフ、怖いか?」
漣「撤収ー」チッ
天龍「へ?」
朧「空気読んでくださいよ、天龍さん……」ジト
天龍「え、えっ……」オロオロ
曙「なんでよ!?」
天龍「ひっ」ビクッ
曙「あ、いや、天龍さんに言ったんじゃなくて……そりゃちょっとは潮が来ないかなぁなんて思ったけど!」
天龍(オレ……お呼びじゃなかったってことかな……)ウルッ
朧「いや、別に……ねぇ?」ネッ
漣「うん………まあ、ねぇ?」ネッ
曙「なによ! 天龍さんがまるでハズレみたいに!」
天龍「」ポロッ
朧「………曙。その言い方はちょっとひどいと思うな」
漣「せっかく来てくれた天龍さんを一刻も早く鎮守府に連れ帰ってお祝いしようと思っていたのに……ボーノはそんなことをゆう……」
曙「えっ」
天龍「ひっく、ひっく……」ポロポロ
漣「ああ、よしよし、天龍さん。違うんですよ。ほら、ボーノってばアレですよ、アレ……しょせんはボーノだから」
曙「ちょ!? ふざけんななんだその言い草h」
朧「はい。曙はちょっと潮が好きすぎるところがあって……つい思わずあんなこと言っちゃっただけなんですよ」ウン
曙「ち、ちが……あ、こいつら私だけ悪者扱いに……!!」
天龍「い、いいのか、おれ、ここにいても、いいのか?」エグエグ
漣「もちろんですよ。さ、涙を拭いて」オオヨシヨシ
朧「キャラメル食べます? おいしいですよ?」スッ
天龍「あ、ありがと、ありがとな……あむ」グシグシ
曙(納得いかない………)
天龍「ってなんじゃああこりゃあああああうんめぇえええええええ!!」ピカーーーーーーッ
漣「マブシッ」
朧「マブシッ」
曙「マブシッ」
【before】
天龍「どうせオレは……ここでも……いらない子なんだ……」ズーン
【after】
天龍「体が軽い……こんな気持ちで戦うの、初めてだ……もう、何も怖くない」ペカー
そんなこんなで帰投する面々であった。
…
……
………
【鎮守府―港】
漣「艦隊が帰投しましたよーっと」
朧「すっかりおなかペコペコになっちゃったね」グー
漣「ご主人様、きっとキッチンにいるお! 天龍さんとボーノの紹介がてら、お昼ご飯と行きましょー」
朧「あ、いいねそれ」
曙(………フン。何よ。聞いた感じだと、主計科ですらない、もと一般人のガキみたいじゃない。コックだか何だか知らないけど、あんまり偉そうにするなら私がガツンと……)ブツブツ
天龍(フ、フフ、さっきはつい不覚を取られちまったが、ここで一発逆転、気合入れた挨拶カマして、威厳を取り戻さないとなぁ)フフフ
人、それをフラグと言う。
【キッチン】
キッチンのまな板の上は、血まみれであった。
漣「」
朧「」
曙「」
天龍「」
提督「やぁ、おかえり。あれ、なんだか人が増えてるねぇ」グジュッ、ザクッ……ムリュムリュムリュ
頭から吊るされているのは、鹿である。雌鹿だ。それも若い。先ほどまで血抜きをしていたのだろう。一面の赤は鹿の血である。
返り血で真っ赤に染まった提督の頬には、いつも通りの笑みが浮かんでいた。
その手元には、青々とした鹿の臓器があった。
本当につい先ほどまでは生きていたのだろう。瑞々しい色合いの新鮮な内臓だ。
漣「あ、は、はい。その、こちら、海域でドロップした艦娘の、軽巡・天龍と、駆逐艦・曙です……」ニ、ニコォ
提督「あ、知ってるぅー、ドロップ艦ってホントに海の上にいるんだねぇ………仲間が増えるのはいいことだねぇ」ブチ、ミリミリ
にこやかに頷いた提督は、内臓の掻き出しが終わったのか、次は手際よく皮をはいでいく。
朧(………漏れそうにござる)プルプル
朧はキッチンに行く前にトイレに行かなかったことを悔やんだ。
提督「あっ」ブチッ
不手際があったのだろうか。鹿の左後ろ足が半ばほどで千切れてしまう。
その際に飛び散った血液が、天龍の頬にかかる。
天龍「――――――ひっ、ひぃ」ビクッ
曙「う、うぁ、うああ……」ガタガタ
提督「ごめん、大丈夫?」
朧「は、ハンカチを、ど、どうぞ」オドオド
天龍「お、おおお、おう、あ、あああ、ありがと、な」ブルブル、フキフキ
漣(ドロップしたのが潮じゃなくて良かった……ほんっっっっとうに良かった……)ドキドキ
もしも潮だったら今頃意識を失っていただろう。そして提督に対して苦手意識を抱いていたことだろう―――おそらく永遠に。
まあ恐らく、そう遠くないうちにドロップなり建造なりされて、トラウマを刻まれることは目に見えている。
なんせこの提督、趣味が狩猟であった。
朧「は、はい。それじゃ、その、私と漣はこれで……ど、どうか、仲良くしてくれると嬉しいかなって……ホントに」
曙「!?」エッ
天龍「!?」エッ
漣「こ、こんなところにいられるか!! 漣は食堂でおいしいランチの到着を待つぞォーーーーッ!!」ダッ
朧「ゆっくり親交を深めてから来てくださいね! いいですか! 多分じゃないですよ!? 絶対ですよ!」ダッ
漣と朧はにげだした!
曙(え、ちょ………)オロオロ
天龍(お、おい、なんだよ、このガキ……これ、が、オレの、提督……?)
提督「やー、解体しながらでごめんねぇ。新鮮なうちに捌かないと痛んじゃうからねえ」ベリベリベリ
とうとう皮をはぎ終わり、残るのは朱い赤い肉のカタマリである――――首から上だけが、鹿のままだ。
頭から吊るされた鹿のつぶらな瞳は、こともあろうに天龍と曙のいる方向を向いていた。
鹿「…………オイ、コッチヲミロ」ジー
曙「ハァーハァーハァー」ガクガク
鹿「コッチヲミロッテ、イッテルンダゼ」ジー
天龍「フゥーフゥーフゥー」ブルブル
目が合っている。バッチリ合っている。
曙と天龍の顔色は真っ青で、暑いわけでもないのに玉のような汗が浮かんでいた。
提督「ずいぶん汗かいてるねえ、二人とも。やっぱり戦うのって肉体的にも精神的にもハードなんだねぇ」ウンウン
肉体的な意味では確かにそうだが、精神的な意味では今まさに地獄の真っ只中である。
天龍(フ、フフ……なんてこった………怖い……)ビクビク
曙(く、悔しい、でも……怖いよこの提督ぅうううう)ブルブル
まさに天龍ハード、そして曙ハードであった。
なまじっか幼げな容姿の提督だからこそ恐怖を感じている。
これが筋骨隆々のザ・狩人めいた容貌であれば、むしろ開き直っていられたかもしれない。
提督「まあ、なんにしても――――初めまして、僕、提督です。これからよろしくね、てんりゅうちゃん、あけぼのちゃん」スッ
天龍「え、あ、ああ―――よろしく」スッ
曙「う、うん、よろし―――く?」ヌルリ
握手を求める提督の両手。
不意打ち気味に差し出されたその手を、天龍と曙は握ってしまった。
血に塗れた、手を。
天龍「…………オボボーーーーーッ」ゲロゲロゲロゲロ
曙「」フラッ、ドサッ
提督「あ、ごめん」
謝罪など無意味であった。天龍は吐き、曙は失神した。
提督「なんだよ……傷つくなぁ……生き物の死に触れるのは初めてかい? なにも気絶することはないだろう、あけぼのちゃん……」ゴゴゴゴゴ
天龍「ぜ、ぜひ、ぜひ、ぜひぃ……」ゲホゲホ
提督「恐れることはないんだよ、てんりゅうちゃん……『ともだち』になろう……」ドドドドド
むせる天龍は床に這い蹲ったままに、提督を見上げる。
そしてヤツは言う。
提督「ゲロを吐くぐらいこわがらなくてもいいじゃあないか……安心しろ……安心しろよ……てんりゅうちゃん」
天龍「へ、へ、へへ………はひ」コクコク
この日以来、というより最初から最後まで、天龍は提督に逆らうことはなかったという。
…
……
………
面白いが提督のキャラが生理的に無理だわ
キッチンで解体て・・・普通猟場でやると思うけど・・・
ああ、わざと獣臭い肉を喰わせるんだね!
※コメ返し
>>49-50
当初の設定では(以前のSSでの予告では)野武士系提督にするつもりだったんですが、やはりそうすべきか。ショタって難しい。
>>52-53
言われてみれば……。
天龍ちゃんをネタにすることばっかり考えてたら殺したら即血抜きってのを忘れてた。すまない。
罠で生け捕ってきたってことにしよう。そうしよう。
【食堂】
天龍「てめえ、この、この、この!!」ゲシゲシ
漣「いたい! 何すんですか天龍さん!!」
朧「本当ですよ! 漣が、朧が! いったい何をしたっていうんです!?」
天龍「逃げたんだよ!? オレと曙を置き去りにして逃げたんだよ!! 脳味噌にスでも入ってんのかてめえら!? あんな血風呂(ブラッドバス)にオレと曙を置いていきやがって!!」
曙「………大きな明かりが、ついたり消えたりしている。大きい……彗星(江草隊)かな? い、いや、ちがう、ちがうな……彗星(江草隊)はもっとこう、ぶわぁーーって……」ブツブツ
天龍「見ろ! 曙がこんなんなっちまったぞ!! どうすんだよコレ!?」
漣「なぁに、かえって免疫が付きますよ。提督の趣味は狩猟みたいですし、今後嫌でも目につきますからね。それよりご飯まだかにゃー」
朧「でも今は、そんな事はどうでもいいです。重要なことじゃありません。ご飯まだですかねえ」
天龍「こ、こいつら」
提督「ねえ」ヒョイ
天龍「ヒッ!? な、なんでございますかね提督様!?」ビクッ
提督「皆が出ている間にデイリー建造ってやつをしてみたんだけど。ほら、この子」
五十鈴「五十鈴、おぶっ、でずっ………すい、らいぜんだいの、じぎなら、おぼぼぼぼ、まかぜっ……」ゲロロロ
漣「開幕ゲロとはずいぶんと香ばしい人ですねえ」
朧「何があったんですかこの人」
提督「この人じゃなくて、いすずちゃんだよ。何やら鹿を生け捕ってきた(強調)あたりから、随分具合が悪くてねぇ」
漣「ひょっとしてそれはギャグで言っているんですかご主人様」
朧「ひどいことする……」
天龍「どの口がほざいてんだ漣、朧……」
曙「どうしてあたし気絶してたのかしら……? 鹿……? うっ、頭が……」イタイ
漣「あ、曙……記憶が……」
朧「無理もないかな……」
天龍「大丈夫かよ五十鈴……」サスサス
五十鈴「え、ええ……お互い、とんでもないところに来てしまったようね、天龍さん……」フー
提督「もうちょっとでお昼ごはんできるから待っててねー」
漣「何が出てくるんだろうねー。生肉かな?」
朧「シカ肉っておいしいのかな……」
天龍「それ以上いけない」
曙「五十鈴さん、お水どうぞ」ハイ
五十鈴「あ、ありがとう……だいぶ落ち着いてきたわ」
15分後。
提督「おまたせー。お料理持ってきたよー」ゴトリ
・本日の昼食
【ナポリタン・茸クリーム・ジェノバソース三種のパスタ】
昔ながらのナポリタンと、狩りのついでに取ってきたヒラタケ(シメジ)のクリームパスタ、ジェノバソースのパスタの三種。
色合い鮮やか。食べ比べできて飽きずに最後まで食べられる。
【カボチャピュレ】
冷製ポタージュ。ビタミンたっぷり。生クリームで味もまろやか。
五十鈴「……シカ……い、いえ、その、お、お肉は?」
提督「食べたいのなら今すぐユッケにして――――」
五十鈴「いいです、なんでもないですいりません」
天龍「肉の話をしないでくれ……」
ゲロを吐く人間に対し、生肉を饗さぬ慈悲と心づかいは、この提督にも存在していた。
だが食育として解体はどこでも行う。色んな意味でこの提督は頭がおかしい。
漣「なんにしてもキタコレ!」
朧「すっごくお腹空いてます……」ゴクリ
曙「あ、あら、結構おいしそうじゃない?」ゴク
五十鈴(なんであの陵辱劇を目の当たりにした後に食欲満点なのよアンタら……記憶飛んでる曙はともかく……)
天龍「食えそうか、五十鈴よう………」
五十鈴「肉じゃないなら食べられる……」
提督「じゃあみんな、両手を合わせて………いただきまーす」ペコリ
艦娘「「「いただきます」」」ペコリ
で。
漣「うま、うま……」チュルル
朧「うめ、うめ……」チュルン
曙「………!!!」パァア
提督「………さざなみちゃんはジェノバ風が好き……おぼろちゃんはクリームパスタ……あけぼのちゃんはおこさま舌、と……」メモメモ
曙「は、はぁ!? 何よ! 別にいいでしょ! ナポリタン美味しいじゃない!!」
漣「あ、おいしいって認めるんだ」
曙「ッ!? は、嵌めたわね!?」
朧「別にそんなつもりないと思うよ? というか、おいしくないなら朧にちょうだい?」モット
曙「あ、あげないわよ!! ぜーったい上げない! 自分のだけ食べてれば!?」
提督「あ、粉チーズとタバスコ欲しい人いる? タバスコは辛いやつだよ」ホイ
五十鈴「ちょっと貰える?」
提督「チーズはお好みで。タバスコはいっぱいかけると辛くてヒーってするよ、ヒーって」
五十鈴「これぐらい?」パッ
天龍「オレにもくれ」パッ
提督「味見してごらん」
五十鈴「ん………あ、これ、辛いわねホントに……この舌がピリピリ痛い感じが辛いってこと?」
提督「そうそう………うーん、やっぱり舌が鋭敏だね君たち」
五十鈴「あ、やだ……なんか、汗出てきた……」パタパタ
提督「うーん、いすずちゃんは辛いの苦手みたいだねえ」メモメモ
天龍「食事の記憶はあっても、実体験がねえわけだしな……あ、オレ、辛いの結構イケるみてえ。もっとかけてみるか」パッパッ
五十鈴「嘘、本当に?」
天龍「うん、イケる……あ、なんかこの刺激……いい感じだ……」ハフハフ
提督「てんりゅーちゃんは……したが……鈍感……」メモメモ
天龍「字面だけだとすげえ名誉棄損だからやめろ」
提督「あけぼのちゃんは……したが……お子様……」メモメモ
曙「なんで書き直したのよ!? やめてよ!!」
五十鈴「うー、なんかホントに舌が痛いわ……ぴりぴりする」
提督「ちょっとチーズを大目にかけてみれば、かなり辛さが抑えられるよ。それとポタージュ飲んでごらん」
五十鈴「この黄色いスープ? 何?」
提督「カボチャ。丁寧に漉してるし、甘いし、生クリームが入ってるから舌の痛みが軽減できると思うよ」
五十鈴「そうなの? ん………あ、スッキリする感じ……うん、甘いって言っても、なんていうか、深みがあるわね」ウンウン
提督「舌触りもいいでしょ」
五十鈴「うん、うん……」ハムハム
提督「いすずちゃんは……したが……敏感……」
五十鈴「やめて!!」
そんなこんなで。
提督「ごちそうさまー。食器は流しに置いておいてね」
艦娘「「「「ごちそうさまでした」」」」キラキラキラキラ
提督(そのうち僕の眼球、光に蝕まれて潰れたりしないかなあ……)マブシイ
漣「おっといけない」フッ
朧「油断すると光っちゃうね」シュン
提督「!?」ビクッ
曙「なんなのよそれ!?」
天龍「おまえらどうなってんだそれ……」
五十鈴「キラ付けを自分から消すとかバカなの?」
提督「どうして蛍すぐに死んでしまうのん?」
漣「おいばかやめろ。ちゃいますよー。押さえ込んでるだけです。なんていうか、こう、しあわせーってオーラを内に秘める感じ?」
提督「エコだね」
朧「エコは大事ですね。ちょっと、曙やってみたら?」
曙「はぁ? そんなアホみたいな理屈で………」シュン
曙「」
天龍「………お、おう」シュン
五十鈴「あ、ホントだ……消えるわね、これ」シュン
提督「ところでその、なんだ……僕ってホラ、軍人さんじゃないからよくわかんないんだけど、キラキラしてた方がなんなの、強いの?」
漣「いわゆる士気というか、やる気みたいなのが目に見える形で出ているのがキラキラです。これが出なくなってる子は、今はヤル気ないですーって感じ?」
提督「つまり働いたら負けだと思っている状態なんだね」
漣「そうそう、それ」
提督「ニート状態と名付けよう」
朧「ひどい」
提督「そのキラキラはどうやったら維持できるの?」
漣「えーっと、まずひとつは、戦闘で多大な戦果……艦隊内で一番の戦果を上げることをMVPって言うんですけど、そうした達成感で戦意は高揚しますぞ」
提督「他には?」
漣「ご主人様がご存知の通り、美味しいお食事ですねー」
提督「それって怪我とかしててもキラキラするの?」
漣「えーあー………ご主人様、入渠ってご存知?」
提督「アパートとか借りたりすることじゃないよね?」
漣「ええっと……私たち艦娘は怪我とかしたら、特別な施設に入ることで怪我を修復できるんです。その行為のことを【入渠】って言うんです。要は修理ですね」
提督「ちょっと待って……ええと、にゅうきょにゅうきょにゅう………」
漣「巨乳じゃねえよ」
提督「さざなみちゃんが違うってことは知ってる」
漣「おう表出ろ」ガタッ
朧「やめて」
で。
提督「大体わかったよ。怪我したら入渠施設に行ってもらえばいいんだね。温泉療養的な。それで怪我は治ると。そしてさざなみちゃんには将来性と言う希望があると」ボロッ
漣「Exactly(その通りでございます)」
提督「超痛いんだけど、僕も入渠したら治る?」
漣「すいません。この入渠施設、艦娘専用なんですよ。それとご主人様? あんまり調子乗ってると、本当にぶっとばしますよ♪」
提督「前が見えねェ」
天龍(むしろ生きてることを喜べよ……)
提督「あ、そういえばみんなはさっきの出撃で怪我はしてない? 大丈夫?」
漣「それなら大丈夫ですよ! もうご主人様のご飯食べたら絶好調で!」フンス
朧「敵主力艦隊もあっさり撃破出来ちゃいました!」フンス
曙「あんまり調子乗っちゃダメよ。あたしら、せーぜー団栗の背比べ程度のクソみたいな練度なんだから」フン
五十鈴「まあ、言い方は悪いけど、そうね。まずはこの体に慣れなきゃ、真価を発揮できないし、近代化改修も重要よ?」
提督「近代化改修? あー知ってる知ってる。パッドでしょ? パッド入れて底上げをしt」
漣「…………」ガタッ
曙「死ぬがよい」
で。
提督「なるほど、ポンコツな装備を使えるようにするわけだ。『料理も知らぬ猿人に火の使い方ってヤツを教えてやるぜ』てきな。それと僕のこの顔面どうしてくれんの? モザイク誰か持ってない?」ボロッ
漣「にべもねえ言い方をするとそうなりますな。モザイクはありませんねえ。くにへかえるんだな、おまえにもかぞくがいるだろう」
提督「僕の顔面どうなってるの? ねえ、五十鈴?」
五十鈴「非常にマイルドな言いかたをさせてもらうと、アスタリスクマークみたいに凹んでるわ」
提督「じゅうぶんショッキングだよ」(*)
五十鈴「貴方はもうちょっとこう、懲りるという言葉を知りなさい?」
提督「(外見が)ショタならちょっとしたセクハラ発言も許されると思った。計算づくでやった。反省も後悔もしていない」(*)
漣「………」ガタッ
天龍「おいそろそろやめろ本当に死ぬぞ」
提督「前が見えねェ……」(*)
天龍(なぜ生きてる……)
提督「まぁさておき………近代化改修か。それってどうやるの? 資材があればできるの?」ポンッ
天龍「!?(か、顔が、元通りに……!?)」ゾッ
漣「……建造した際に、既に鎮守府に所属している艦娘が出現することがあるんですが、その際は艦娘の艤装だけがポンッと出てきます。ドロップの際にも艤装だけが現れますね」
提督「ふわっとしすぎだね」
漣「妖精さんのやることですからねえ……というわけで、午後はみんなの練度を上げるのと、仲間を増やす、近代化改修の素材を手に入れる、その三つを兼ねて、また出撃しようかにゃーと」
提督「僕はどうしたらいい? 何もないなら夕食の準備始めちゃうけど……開発とか建造とかはいいの?」
漣「あ、それじゃ最低値レシピでテキトーに三隻分ぐらい作っておいてください」
提督「む、そうなると……僕が建造する3人に、さざなみちゃんたちが連れて帰る子も合わせて……プラス5人前?」
漣「ドロップは必ず出るとは限らないので、プラス3人から5人ですね」
提督「わかった。じゃあ僕の分を合わせて、9人前から11人前ぐらいのお食事量でいいのかな?」
漣「まぁ、そうなりますねー。現状所属してる艦娘が少ないから、そうそうダブることもないでしょうし?」
提督「わかったよ。それじゃあ行ってらっしゃい」
艦娘「「「「いってきまーす」」」」
そういうことになった。
【工廠】
提督「やあ、工廠妖精さん」
工廠妖精「【イライ】カ?」シュボッ
提督「うん。建造三回お願い」
工廠妖精「ブツハ?」プハー
提督「さっきお昼に作った三種のパスター」ハイ
工廠妖精「イッタダロ……【オカシ】カ【スイーツ】シカクワネエンダヨ、オレハ」
提督「そうだったっけ。じゃあ、あとでおいしいザッハトルテを作ってあげる。あ、ケーキのことね」
工廠妖精「OK, ヒキウケタ…………レシピハ?」
提督「最低値でー」
工廠妖精「アイヨ、サイテイチデサンチョー」
提督「このパスタどうしよう」
工廠妖精「ケンゾウサレタカンムスニクワセテヤレバ?」
提督「それもそうか………!」ピーン
工廠妖精「ン?」
提督「建造ドックってこのボックスだよね?」
工廠妖精「オウヨ」
提督「最初から食べられるように、ここにパスタを置いておいてあげようと思って。問題ない?」コトリ
工廠妖精「HAHAHA、イインジャネエノ? キガキクコトダゼ」
そのパスタが思わぬ結果を叩きだすことになろうとは、この時の提督と建造妖精は夢にも思っていなかった。
【鎮守府正面海域(1-1-A)】
イ級「フフフ、カンムスドモヨ……イヨイヨシヌトキガキタナ……オレガ」
天龍「分かってんじゃねえか死ねよ」バシュッ
イ/級「デスヨネ」ズパンッ
五十鈴「弱ッ!? 展開速ッ!? 雑ッ!?」
曙「キラ付けされてるにしたってちょっと弱すぎでしょ!? アンタもっと頑張んなさいよ!!」
イ/級「フフ……ムチャイウナボケ」ブクブク
天龍「なんつーか、あれだな……過剰戦力だな。弱いものイジメな気がしてきた」
漣「しゃーないですよ。さて、ドロップ艦は………おっ、キタキタ!!」
朧「誰かなぁ。楽しみだね」
叢雲「特型駆逐艦5番艦………叢雲。これより艦隊に加わるわ。ま、せいぜい頑張んなさい?」
天龍「おお」
漣「ほんじゃ、さっそく――――キャラメルそぉい!!」ガボッ
叢雲「ぐもぉ!?」ブボッ
曙「ちょ!? まさかそれ、恒例行事にするつもり!?」
漣「手っ取り早いじゃん」
叢雲「い、いきなり何してくれてんのよアンタ!? 酸素魚雷を―――!?」ハッ!?
漣「キラキラクルー?」ワクワク
叢雲「な、なにこれ、口の中、これ、なに……? う……きもちわるっ」ペッペッ
漣「!?」
朧「!?」
曙「えっ?」
天龍「お!?」
五十鈴「あら」
叢雲「アンタねぇ……そこのピンク髪! この私に何を食べさせようとしたのよ!?」
漣「バ、バカな……キラ付けされない、だと……?」プルプル
朧「どういうことなの……?」
曙「あー………アレかしら。好みってヤツ?」
天龍「あ、さっきのパスタ……」
五十鈴「天龍さんは辛いの平気だったわよね。私はダメだった……つまり、そういうこと?」
叢雲「はぁ? いきなりヘンなもの食べさせて何を」
天龍「ああ、いや。ウチの漣が済まなかった。そのことなんだがな――――」
海上でも予期せぬ事態が発生していた。
その頃の提督であったが、
【工廠】
工廠妖精「ヨシ、マズハイッセキブン……ジュンビデキタゼ」
提督「じゃあ建造ボタンぽちっと」ポチリ
工廠妖精「オウ………!?」ギョッ
提督「どうかしたの?」
工廠妖精「ケ、ケンゾウジカンガ……【04:30:00】……ダト……!?」
提督「おやおや、ほんとだ。随分長いねぇ。完成は夕方になりそうだ」
工廠妖精「バ、バカナ、タシカニオレハ、【サイテイチ】ヲ……【30/30/30/30】ヲオイタゾ……!?」
提督「え、何。何が問題なの?」
工廠妖精「【04:30:00】ッテノハ、【センカン】ヤ【クウボ】ノケンゾウジカンダ……タッタアレッポッチノシザイジャ、セイゼイ【クチクカン】ヤ【ケイジュン】シカデキネエハズナンダヨ」
提督「………それってマズい?」
工廠妖精「キイタコトモネエ……ドウナルカワカラネエ……オイ、テイアンナンダガ」
提督「何?」
工廠妖精「【コウソクケンゾウザイ】ヲツカワネエカ? カズハユウゲンダガ、イッコグライナライイダロ」
提督「ああ、それ使うと一瞬で完成するんだっけ? じゃあお願い」
工廠妖精「アア、ドンナモノガデキルノカ、トテモタノシミダゼ……ファイア」シュボッ、ゴォオオオオオ
提督「これから毎日、ドックを焼こうぜ」
工廠妖精「カンセイシタ……サア、ドンナヤツガ……」
提督「誰が来たのかなー?」
工廠妖精と共にドックの中を覗き込む。
??「ずるっ、ずびびっ、むしゃっ、がつっ、んぐんぐ……がつがつ」ムシャムシャ
全身を発光させながら手づかみでパスタかっくらう女性がそこにいた。
工廠妖精「」
提督「」
??「ム! ………ごくん。君か? この赤と緑、そして白…………素晴らしい配色の料理を、私に饗してくれたのは?」
提督「え? あ、まあ、うん。その三種のパスタは僕が作ったんだけど……そ、それで、貴女はどこのどちらさまですか?」
工廠妖精「オウオウ、コイツハ……【センカン・ヒュウガ】ダゾ」
日向「うん。戦艦【日向】……これより貴方の力となろう」キリッ
提督(キメ顔してるところ、口元がナポリタンの赤で真っ赤っかに……)
日向「ずるっ、ずびびっ、あっうまっ、ずるるるっ」モグモグ
工廠妖精「クウノヤメロ」
日向「提督、おかわりを」スッ
工廠妖精「キケヨ」
提督「と、とりあえず食堂に行こう……ええと、ひゅうがさん?」
【食堂】
工廠妖精「デ、ナンデオメエガ【ケンゾウ】サレルンダヨ」
日向「なにやら、ずびびびびびっ、実にうまそうな香りと輝きと色合いにっ、ずるるっ、クッチャ、そそられてな、くちゃ」モグモグ
工廠妖精(キタネエ)
提督(クチャラーだこの人)
日向「上手く思い出せないんだが、この赤と緑と白の色合い……なんというか、非常に懐かしく、愛おしく、そして……」
提督「そして?」
日向「ずびびびっ、ずるっ、んぐっ、もぐもぐ、メロ、あぐっ、ずばばばば、ずぼぼっ」モグモグ
提督「………」ガタッ
工廠妖精「スゲーワカル。ワカルガヤメロ。ソノ【ホウチョウ】デナニスルツモリダ」
で。
提督「ズイウン?」
工廠妖精「オウ。【ズイウン】ッテイウ【カンサイキ】」
提督「その色合いが赤・緑・白だったと? じゃあ何? 三食パスタの色が赤・緑・白だったから、本来建造されるはずのない資材量で、日向が呼ばれたってこと?」
工廠妖精「ソレシカカンガエラレネエ」
提督「ふわっとしすぎにも程があると思わない?」
工廠妖精「ウルセエ、オレニモワカラネエコトハアル」
日向「まあ、ずびび、そうなるな、んぐ、あっ、うめっ!」クッチャクッチャ
提督「いつまで食べてるのさ君は」
日向「私は、もぐもぐ、戦艦だからな……んぐ、なんだ、君の艦隊に、クチャ、いないのか、戦艦……」モグモグ
提督「(きたねえ)……いないけど」
日向「まあ、んぐ、じゅるるるるるるるっ、アレだよ、見た目通り、じゅびびびびびび」クチャラクチャラ
提督「工廠妖精さん、解体ってどこでやるんだったっけ」ガタッ
工廠妖精「スゲーワカル、ワカルカラ、オチツケ」
日向「ごくん……私は見ての通り大人だからな。食べる量も相応なのだよ」キリッ
提督「口元の三色入り混じったソース拭ってから言って」
日向「おかわりをくれ」ホレ
提督「」ビキィッ
工廠妖精「サザナミ、ハヤクカエッテキテクレ……」
【鎮守府正面海域(1-1-B)】
ハ級1「チカラノイチゴウ!」
ハ級2「ワザノニゴウ!!」
五十鈴「力と技の五十鈴参上」ドンッ
ハ級1「V3ニハカテナカッタヨ……」ブクブク
ハ級2「ショッカーグンダン、バンザイ……」ブクブク
天龍「も、脆すぎる……」
叢雲(い、いやいや……何こいつら……本当に低練度艦? ちょっと強すぎじゃないの……? 相手が駆逐艦とはいえ、一撃だなんて……)
漣「はいはい、ドロップはーっと」
朧「あ、今回も来たね」
曙「ふんっ………ま、誰が来たっていいけd」
潮「あ、あの……綾波型の【潮】です……」
漣「キタコレ!!」
曙「えっ、う、潮!? ちょ、い、今の無し!!」
朧「わぁ! 第七駆逐隊勢ぞろいだね」
五十鈴「あら、おめでとう。ツイてるわね、貴女たち」
天龍「龍田もこねえかなぁ……五十鈴も早く長良型が来ると良いな」
五十鈴「お気遣いありがと」
曙「わ、私のこと覚えてる、潮? ………曙よ」テレッ
漣「漣だお!」
朧「あたしだよ、朧だよ」
潮「わ、わぁ! 曙ちゃん、漣ちゃん、朧ちゃん……みんながお出迎えしてくれるなんて、うれしいなぁ……」パァア
漣「あ、そうだ。潮ー、早速なんだけどこれ食べてー」
潮「ふぇ? あ、うん……なにこれ?」
朧「生キャラメル。食べてみて? おいしいよ」
潮「わぁ、ありがと……それじゃいただきます」アー
叢雲「ちょっと!? 私の時と違って随分と対応が丁寧じゃない!?」
曙「き、気のせいよ? うん……」スチャッ
漣「そうそう、気のせいだおー」スチャッ
朧「気のせいだってば」スチャ
叢雲「気のせいなんかじゃ………って何? なんでアンタたちサングラスなんか」
五十鈴「……対策よ」スチャ
天龍「……ああ。来るぜ」スチャ
潮「あーん……もむっ………わっ、わっ………じゅわーって、あ、なにこれ……あまひ……おいひぃ」ピカーーーーー
叢雲「へぁあああ! 目がぁ! 目がぁああああああ!!!?」ギャーーー
五十鈴(なんて不憫な子……)
叢雲の明日はどっちだ。
【工廠】
一方その頃、提督は。
工廠妖精「【ジッケン】ダ!!」
提督「料理入れて建造するのか………あまりやりたくないなぁ」
工廠妖精「ヤルキネェナ」
提督「アレみてやる気が出ると思うのかい? ハハッナイスジョーク」
日向「まあ、そうなるな」キリッ
提督「口元拭けっつってんだろ」
日向「君は、なんのために戦っているんだい?」
提督「こ、こいつ……僕の話を聞きゃしねえ」ピキッビキッ
工廠妖精「キャラカワッテキテンゾ、テイトク」
提督「ゴホン………で、どうするの? またパスタ置く? 三色パスタを単色ずつで建造したらイタリア艦とか来ちゃったりするの?」
工廠妖精「!? ソレハソレデコワイノデ……ベツノデイコウ」
提督「……あんまり夕食分の食材に手を付けたくないんだけどな……ちょっと作ってくるから待ってて」
工廠妖精「ナニツクルンダ?」
提督「とりあえずテキトーに……卵焼きでいいか、うん」
工廠妖精「タマゴヤキ……? ………アッ」
で。
工廠妖精「……【02:40:00】……ヤ、ヤハリ」
提督「また高速剤使う?」
工廠妖精「ツカウゾ」カチッ、ブォオオオオ
提督「これから毎日、ドックを焼こうぜ」
??「このたまごやきを作ったのは誰だぁ!!」バァーーーン
提督「僕だよ。提督だよ。君はどなた?」
瑞鳳「―――軽空母【瑞鳳】!! このたまごやき、すっごく美味しいよ、提督!!」モグモグ
工廠妖精「デスヨネ」
日向「そうだろう? 何せ私の提督だからな」ドヤァ
提督「なんで君がドヤ顔なんだよ日向ェ……と、とにかく、よろしく瑞鳳ちゃん。軽空母って言ってたっけ?」
瑞鳳「そうだよ! まだまだ練度は低し、小柄な身体だけど、一生懸命頑張るね!」
提督(あ、この子はまともそう……)
工廠妖精「サテ、ツギダ」
提督「まだやんの!?」
工廠妖精「サザナミカラ【3セキ】ツクレッテイワレテンダロ?」
提督「………分かったよもう。待ってて」
瑞鳳「たまごやき? 作るの?」
提督「ごめん、違う。なんか疲れたから……アレだ、どうせ実験だし……適当に酒で」
工廠妖精「……サケ……マ、マサカ……」
で。
工廠妖精「【03:00:00】」
提督「高速」ホイ
工廠妖精「ファイア」シュボォオオオ
提督「これから毎日、ドックを焼こうぜ」
隼鷹「ヒャッハァ!! 軽空母! 【隼鷹】でェーーーーーッス!!」ヒャッハァ
工廠妖精「シッテタ」
瑞鳳「あ、そういう」
日向「まあ……そうなるな」
隼鷹「オイオイ、だぁれですかこんな安酒置いたのはぁー。もっといい酒頼むよいい酒ぇー」ヒック
提督(めんどくさそうなのが来た……酒は早まったかな……料理酒でホイホイ釣られる子なんかロクなもんじゃないか……)
漣「艦隊帰投です、ご主人様!!」バーン
天龍「おう、帰ったぜー。被弾ゼロで全員無傷。収穫が二人。MVPはオレと五十鈴だ」
提督「あ、おかえりー。お疲れ様だね。しかし丁度いいタイミングで帰ってきたね」
曙「クソ提督!! 潮と叢雲がドロップしたわよ!!」
五十鈴「ほら、ご挨拶しなさい」
潮「あ、あの、あの、綾波型の、潮です……く、駆逐艦です」オドオド
叢雲「駆逐艦叢雲よ。とりあえずアンタ艦娘にどういう教育してんのよ!? 酸素魚雷食らわすわよ!?」
提督「僕が提督だ。これからよろしく。それとなんかごめん………何があったの?」
朧「それはまた後で……それより、そちらの方々が建造艦ですか?」
提督「あ、うん。そうそう、こっちも紹介するね」
日向「戦艦・日向だ」ドヤァァアア
五十鈴(赤と緑と白で口元凄い……パスタ食べさせられたのね。眩しい……眩しさにウザさを感じる……)イラッ
瑞鳳「航空母艦、瑞鳳です!! みんな、よろしくね!!」タマゴォ
天龍(あ、まともそうだ。良かったぜ……)ホッ
隼鷹「軽空母隼鷹さぁ、うひひひ、いやぁ、大艦隊だなぁ、てーとくぅ」ウイック
曙(く、臭い……何この匂い、嗅いだことない……あ、ひょっとしてこれがアルコール?)
漣「………ご主人様? ちょっと聞きたいことがあるんですけど?」
提督「あ、漣ちゃん。どうしたの?」
漣「ご主人様。漣、言いましたよね。三隻作って下さいって?」ジリッ
提督「言ってたね」
漣「最低値レシピでって、言いましたよね?」ジリジリ
提督「………言ってたね。ところでなんでにじり寄ってくんの? すり足で」
漣「もう一つ質問良いかな?」
提督「あ、あの、これには事情が。あ、ちょ、やめ、拳振りかぶらないで」
漣「―――最低値レシピで戦艦や軽空母が出来ないって……知ってました?」ブンッ
提督「……君のような話を聞かない上に胸の小さいガキは嫌いだぶごぉ!?」ドゴォッ
五十鈴「工廠妖精さん、何があったの? これだけのメンツを作れる資材なんて、まだウチにはないでしょ?」
工廠妖精「オウ、ソレガナ……」
提督「僕は……悪く、ない……のに……」ガクッ
【食堂】
で。
五十鈴「………要は食べ物と酒に釣られてやってきましたよと」
日向「まあ……そうなるな」ドヤァアアアア
瑞鳳「たまごやきには勝てなかったよ……お恥ずかしい」
隼鷹「建造されるときにいろいろ押しのけたよーな覚えがあんなー」ウヒヒ
天龍「本来建造されるべき艦娘を押しのけてってことか? なんか思い入れが強いモンとか入れると建造しやすくなるとか?」
叢雲「デ、デタラメだわ……なんていい加減な」
朧「つまり提督は何も悪くないのに、資材を浪費したと勘違いした漣は提督をボッコにしたと」
漣「う、うぐぐ……なんもいえねー……」プルプル
曙「最低ねアンタ……」
潮「そういうの良くないと思うよ、漣ちゃん」
漣「ごめんなさい……今回ばかりはマジ反省してます……ちゃんと謝ります」ギギギ
天龍「あ、そういや叢雲がキラ付けされなかった件、伝えてなかったな。ちょっとキッチンに………行ってきてくれるか、五十鈴」
五十鈴「い、いやよ……漣、謝るついでに行ってきなさい」
漣「うげぇ……断りにくい。し、仕方ない、行ってきます……」トボトボ
天龍(死ぬなよ)
五十鈴(自業自得よ)
潮「なんでお二人とも、キッチンに行くの嫌がるんですか?」
曙「さあ? 私は良くわかんない。あのクソ提督が嫌いなんじゃないの?」
天龍「い、いや、嫌いっつーか、怖いっつーか……」
五十鈴「色々あるのよ、色々……」
潮「???」
【厨房】
漣「報告は以上です」
提督「そっか、わかったよ」ジュージュー
漣「あの、ご主人様……重ねて申し訳ありませんでした」
提督「うん……まあ、普通有り得ない建造結果みたいだし、僕ぁ色々悪ふざけしてたしね。でも、次からはちゃんと話聞いてね。僕も出来る限りマジメに聞くから」ジャッジャッ
漣「―――!」
提督「んじゃ、仲直り」
漣「はい!!」
提督「しかしアレだねえ……叢雲ちゃん、生キャラメルでキラ付けされなかったって?」
漣「天龍さんや五十鈴さんはきっと好みが違ったんだろうって言ってましたけど……」
提督「かもねえ……叢雲ちゃんは人一倍味覚が鋭いのかもね。かなーり甘めに作ったからくどく感じたのかな。夕食は彼女の分は、少し薄味にしようか」
漣「プロっすね」
提督「(プロだよ)……万人にウケる味ってのは存在しないんだ。それに……悪い意味じゃなくて、子供の舌っていうのは鋭敏で正直なんだよ」
漣「そうなんですか?」
提督「そうなんだよ。嫌いなものには特に敏感だ。好き嫌いなんてあって当然なんだ。少ないに越したことはないけどね。だけど」
漣「だけど?」
提督「そういう子にこそ、おいしいって言ってほしいよね………」
漣「燃えます?」
提督「燃えるね……っと、もうちょっとで出来上がるよ……あ、お皿出してもらえる? 平べったい皿で」
漣「あ、はい!! ……ところで、それは何を作ってるんです?」
提督「チキンライス……洋食の定番メニュー、オムライスにしようかなって」
漣「オムライス!!」パァア
提督「たんぽぽオムライスか、ドレスオムライスか、元祖オムライス……どれがいい? みんなにリクエスト聞いてきて」
漣「たんぽぽ? ドレス? 昭和?」
提督「あ……(そっか。ふわとろ系って昭和の後半にブレイクしたんだっけ……ドレス系はごく最近だ……)」
提督「……いいや、全員連れてきてくれる? 実演して見せよう」
漣「あっ、はーーい!! おーい、みんなー! ご主人様がお呼びですぞーーー!!」
で。
提督「えー、では作っていきます。まずはたんぽぽ……いわゆるライド系オムライスです」
曙「ふーん……?」ジー
提督「こうやって半熟のオムレツを作る。焦げ目がつかないよう。しかし強火で一気に作ります」トントン
天龍「お、鮮やか」
瑞鳳「わ……!」
提督「んで、チキンライスを盛った上に乗っける」ポフ
朧「あ、だからライド系って」
日向「綺麗な黄色だな……焦げ目一つないとは、見事な腕前じゃないか」
瑞鳳「もう見るからにふわふわしてますね」
提督「ここまでがライド。この上にパセリを散らして、ソースを添えて完成。………でも、こうやって包丁で、オムレツを真一文字にスパッと切ると……」ズパッ
漣「お……」
じわ……
曙「おお……」
トローン
漣・曙「「おおー……!!」
潮「すっごくきれい……チキンライスがとろとろのたまごに隠れちゃうんですね」
提督「これがカバー系。んで、お好みでケチャップなりトマトソースなりデミグラスソースなりをどばー。どやー、うまそうでしょ」トローン
五十鈴(うん………おいしそうだわ)ゴク
日向(どうして私は……さっきパスタを腹いっぱい食べてしまったのだろう……これも食べたかった)ズーン
提督「これが今でいうところのたんぽぽオムライスね。ライド系は自分で切ってとろとろにする楽しみもある。面白そうでしょ?」
漣(ほんとに楽しそう)ソワソワ
曙(私も切ってみたい……)ウズッ
提督「次はドレス・ド・オムライス……まず卵をじゅわーっと」ジュワー
叢雲「ふむふむ………(意外と料理風景って面白いのね)」ジー
提督「ある程度火が通ったら………箸をフライパンの真ん中に突き立てて、フライパンを回しながら……かつ箸の一方をフライパンの際から中央に引き寄せて、ねじります」グニーン
潮(あ、螺旋状に………わ、わ、どんどんねじれて層が出来てく……)ジー
提督「一周回ったらOK……チキンライスの上にスライドするように乗せて、これにソースを添えたらドレス系オムライスの完成」
天龍「ほー……こっちのもデザイン性っつーか、見た目が綺麗だな」
提督「ねじったところで火の通り具合に変化が出てるから、卵が舌に絡みつくような食感が楽しめるよ。生っぽくてイヤって人もいるけどね。まあ好き好きかな」
隼鷹(ド派手な見た目だなぁ……あたし、こういうの好き)キラキラ
朧(朧はこれ好きだな……綺麗だし、おいしそう……)ジュル
叢雲(私はちょっとパスね。見た目は優雅だけど……生っぽい感じは、なんか……)ウーン
潮(ま、迷う……あ、どんどんお腹空いてきちゃった……)グー
提督「で、最後。昔ながらの元祖オムライス。チキンライスを薄焼き卵でパッケージするタイプね。こっちはみんなも馴染みはあるんじゃない? 確か明治か昭和の初期にはあったんでしょ?」
漣「元祖ってそういう意味なんですか。今は色々種類があるから名称に分類があるんですな」
提督「そそ。でも、僕はこれが一番得意でね」ジュワー
叢雲「むっ……!」ジッ
提督「卵に火を通したら、上にチキンライス乗せて――――ほい、ほい、ほい、と」ポンポンポン
朧「わ、わ! どんどん包まれて……」
提督「んで、お皿にポン。形を整えて、ドライパセリ散らして――――はい」
隼鷹「これは……綺麗だな。こっちはこっちで、やっぱシンプルな美しさがあるわな!」
日向「て、提督……その、なんだ。私にそれをくれないか? どうにも……好奇心が抑えられない」ドキドキ
提督「ちゃんと食べきってね。じゃあ今作った元祖オムライスは日向に、試作したカバー系は僕が食べよう」
提督「さて、みんなはどれにする?」
曙「た、たんぽぽで! あ、切っちゃだめだからね!」ワクワク
漣「漣もたんぽぽ! 切らないライド系キボンヌ」ドキドキ
朧「あたしはドレスでお願いします」
隼鷹「あたしもドレスがいいねえ。綺麗に作っておくれよ?」
潮「私はたんぽぽの、その……カバーで、その……お願いします!」
瑞鳳「瑞鳳もカバーで!!」
五十鈴「うーん、迷うけど……今日のところは元祖かしら」
天龍「オレも元祖だな。一番得意っつーんだから、一番自信があるってこったろ?」
叢雲「私も元祖がいいわ」
提督「よっし、作るか」フンス
日向「提督、おかわりをくれ。次はたんぽぽで頼むぞ」モグモグ
提督「こ、こいつ……」
【食堂】
提督「いただきまーす」パンッ
艦娘「「「「いただきます!!」」」」パンッ
・本日の夕食
【たんぽぽオムライス】 or【ドレス・ド・オムライス】or【元祖オムライス】
ふわとろ系のたんぽぽ。絡みつくドレス。王道のラッピング。お好きなものを。上にドライバセリが乗っている。
ふんわり香るバターの香りがたまらない、洋食屋永遠のグランドメニュー。
上にかけるのはケチャップ・トマトソース・デミグラスシチュー、そちらもお好みで。シチューは別で食べてもOK。
チキンライスはトマトソースベースで薄味。具材は細かく刻んだ玉ねぎ・ピーマン・鶏肉。パラパラに炒められたライスにソースが絡むとまたウマい。
【生鹿肉のユッケ】
ドライトマトやケーパー、オリーブオイルやバジリコを使ったイタリアン風のユッケ。ニンニクやパセリ・ミントで臭みゼロ。
本来は馬肉で作る上に、このままだと単なるイタリアンなので、ちょっぴり和のテイストを加えてあるが……。
曙「………」ワクワク
漣「………」ドキドキ
日向「では……」スパ
すぱ………。
とろっ………。
曙「………!!」ゾクッ
漣「おぉう………」ブルルッ
日向「ふぅ……いいものだな、これは」ニコリ
提督「わかるわー。子供ってああいうの好きよねー」ヒソヒソ
隼鷹「結構面白そうだよね、ひひっ……って、おいおい、そういえば提督、ずいぶんガキンチョに見えるけど、歳いくつよ?」
提督「ナイショ。酒は飲める年齢だよ」
隼鷹「嘘だろすげえな……今度一緒にのもーぜ」
瑞鳳「たんぽぽもいいなぁ、可愛い……あっちにすればよかったかなぁ……あ、でもドレスも美味しそうだし」
五十鈴「早く食べないと冷めるわよ?」
漣「ケチャップか、トマトソースか……うーん、デミグラスっていうのも気になる……」ウムム
曙「どれもちょっとずつで食べ比べてみたら? 私はそうするけど」トロッ
朧「あ、いいわね。そういうのもありか」
潮「潮もそうしようっと……」トロッ
日向「うむ……」
漣「ではでは、まずケチャップ……あむ」
曙「はむ」
朧「ぱく」
潮「はぐ」
日向「もぐ……おお……」パァア
漣「はにゃー………」キラキラ
曙「はぁ……とろとろ……」キラキラ
朧「っ! ほ、本当に、舌に絡みつくような、この食感……いい!」キラキラ
潮「わぁあ……これが、これが、近代化改装……じゃなくって、補給ですよね、補給……おいしいです!」キラキラ
日向「悪くないどころか……実にいいな、うん……」キラキラ
叢雲「ふむ、ふむ……なるほど。ま、こんなもんか」フー
瑞鳳(ふぇ!? 叢雲ちゃん、光ってない?!)キラキラ
隼鷹(ぜーたくなやっちゃあ……これメチャクチャうめえのに)キラキラ
五十鈴(やっぱり好みかしら……たんぽぽの方が良かったんじゃ?)キラキラ
天龍(い、いや、この元祖、すっげえうまいぞ? ってことは、ソースじゃねえか?)キラキラ
提督「叢雲ちゃん叢雲ちゃん」
叢雲「何よ? 感想? ま、美味しんじゃない? うん、悪くないわよ」
提督「違う違う。叢雲ちゃん、君はこっちのトマトソースで食べてみるんだ」
叢雲「は? ケチャップと何か違うっての?」
提督「多分こっちの方が君の繊細な舌には合うと思うよ」
叢雲「はぁ………まあ、そこまで劇的に味が変わるってわけじゃ……」パク
提督「……」スチャッ
叢雲「ふぁにふぉれ!? おいふぃいひゃふぁい!!(なにこれ!? おいしいじゃない!!)」キラキラキラキラ
提督「やはりか!」
叢雲「って、ホントに体キラキラするのねこれ!? あ、おいし、これ美味しいわよ!? 凄いじゃないアンタ!! 見直したわ!!」キラキラキラキラ
提督「さっぱりめのトマトソースの方が、素材の味がイキイキとしてくるでしょ? 僕もこっちの方が好きだなぁ」モグモグ
叢雲「!! そう、そうなのよ!! なんかケチャップとか味の濃いものって、その味ばっかり主張されてる感じで、どうにもこう単調って言うか! でもこのトマトソース凄いわね!?」モグモグ
提督「お気に召したようでなによりだ。おかげで叢雲ちゃんに作る料理の味付け方針が見えてきたよ」メモメモ
叢雲「アンタ、そんなことやってんの? 提督なのに?」
提督「僕は所詮やとわれ提督だしね。艦隊指揮も作戦も、みんな漣ちゃんにお任せしちゃってる」メモメモ
叢雲「ハァ? ……ああ、そうか。アンタ、軍人じゃない民間なんだっけ? 妖精が見えるだけの……」
提督「うん。だからこそね、僕の出来る料理でだけは、妥協したくないんだ。万人に受ける味はできない。だから、皆の好みの物を作って、栄養バランスも考えて……最高の状態で出撃してほしいって思うんだ」
叢雲「あら、そんな顔もできるの……ま、それぐらいしかできないでしょうね、アンタじゃ。でも………良い心がけね。ま、その………か、感謝してあげるわよ」
提督「うん。ありがとう! さ、いっぱいあるから食べて食べて!」
叢雲「が、がっついて食べたりしないわよ! 私は誇り高い特型駆逐艦5番艦・叢雲様よ?」
天龍「うん、うん……薄焼き卵のツヤツヤした感じと、パラパラのチキンライス、しっとりした鶏肉、デミグラスソースのこの味……最高だなぁおい」モグモグ
五十鈴「五十鈴はこっちのトマトソースの方がいいわね。薄味で……チキンライスの食材の味がはっきり分かる感じ」モグモグ
瑞鳳「とろけた卵と、デミグラスソースの濃い味が絡まって……おいしぃ~~~~~!!!」ピッカァーーーーー
天龍「うわッ!?」ビクッ
日向「ひときわ眩しいな瑞鳳……物理的な意味で」
隼鷹「こ、こいつは、きつい……」マブシイ
提督「二人ともサングラス、ほら」スッ
日向「ああ、ありがとう」スチャ
隼鷹「サンキュー。ひひっ、似合う?」スチャ
五十鈴「似合いすぎてヤバいわよ貴女」スチャ
曙「う、潮、サングラスかけなさい! ほら」スチャ
潮「う、うん……(な、長門さんが来たらトラウマになるかもしれないなぁ……)」スチャッ
なお潮の予想はその後的中することになるもよう。
提督「うーん、卵焼きといいオムライスといい、ひょっとして瑞鳳ちゃん、たまご料理が好み?」スチャ
瑞鳳「うん、たまご大好きです!!」オプティックブラスト
提督「ごめん、ちょっとこっち見ないでくれる! グラサンごしでもその光量はヤバい!!」マブシッ
漣「漣がきたねえ花火になっちゃう!」マブシッ
叢雲「こ、この鎮守府は全員がグラサン持ってるの?」マブシイ
提督「はい、叢雲ちゃんにもあげる」ハイ
叢雲「………」スチャ
提督(そのうちメンインブラックみたいな感じになりそうだ)
異様な食事風景であった。
瑞鳳「キラキラをコントロールする? あ、消えた」シュン
日向「ふむ、こうか」フッ
隼鷹「あたしら豆電球みたいだな」フッ
潮「む、むー……てぇい」フッ
叢雲「………なんか、凄く虚しいわ」フッ
提督「点いたり消えたりホントすごいよね」
天龍「言うなよ…………さ、さて……それじゃあ、なんだ……そろそろ、こいつを食うとするか?」チラリ
五十鈴「あえて見ないふりをしてたそれに触れる気……?」
提督「お、おう……」チラッ
五十鈴「………」チラッ
「ボクヲタベロヨ」ゴゴゴゴゴ
二人の視線の先には、鹿肉のユッケがあった。
天龍「………くんくん。匂いは悪くないな」
「ダロ? ホオバッテモイイノヨ?」
提督「行儀が悪いよ天龍ちゃん」
天龍「提督は意地が悪いだろが」
提督「ま、まぁ、料理に対して意地の悪い仕掛けはしてないよ。料理は勝負より心派なんだ僕ぁ」
天龍「???」
提督「後で漫画貸してあげよう。それはともかく、まあ一口どうぞ。好き嫌いはあっていいけど、食わず嫌いは損だよ。どのみち少量しか作ってないから、残すなら僕にちょうだい」
天龍「お、おう………あむ」モグ
提督「どう?」
天龍「……もぐ……ん……おお、香りと味が濃いな……これが鹿の味か……んぐ、でも噛んでると……だんだん……もぐ、甘味が……うん……」モムモム
五十鈴「ど、どう?」
天龍「……いや、うん……ごくん……………あむっ」パクッ
漣(!?)
朧(もう一口いった!)
天龍「もむ、もむ……うん……あぐ……うん……うん……」モグモグ
五十鈴「ど、どうなのよ?」
天龍「お、おう……ごくん。なんつーか、クセが強いけどこう、しみじみと美味いって感じ? 大量にはいらねえけど」
叢雲「うん。私も結構イケるわコレ……いろんな味が最初は自己主張してるけど、噛んでるとまとまってきて……これが旨味ってヤツ?」モグモグ
潮「……あぐ……もぐ……ごくん。はい、とってもおいしいと、思います。潮……これ、好きです。凄く好きな味です」ハムハム
五十鈴「じゃ、じゃあ五十鈴も…………ぱく。もぐ………ッ、ホント、香りキツ……あ、でも確かに、噛んでると……まろやかな感じに……うん、悪くないわね」モムモム
提督「ふむ」メモメモ
その一方で、
瑞鳳「う、うー……わ、私は、ちょっと、ダメ、かも……なんかこう、お肉のぐにゅってする感じが、苦手かなぁ……」ウーン
日向「ム! 私は……うん、嫌いではないが……この、香草の香りか? 少し鼻に………そこまで進んで食べたくなる味ではないな」ウーン
五十鈴「あら、ジェノバソースのパスタはイケたんじゃなかったの?」
日向「アレはアレ。コレはコレだ」
提督「なるほど、なるほど」メモメモ
瑞鳳(意外……日向さんは量があればなんでもいい悪食かと思ってた……)
日向「まぁ……量があるに越したことはないがな」
瑞鳳(!? よ、読まれた……?)
日向「昔から読むのは得意なんだよ……伊勢と共に、レイテ沖に特攻(ぶっこみ)かけたときから、ずっと」ニコリ
瑞鳳(こわい……)ビクッ
日向がただの大食い枠ではないことに提督が気づくのは、もうちょっと先の話。
そして、一方の呑兵衛枠であるが。
隼鷹「うん! あたしもこの鹿肉好きィーーー! 酒が欲しくなる味だァーーーダァー……ダァー……ダァー……」チラッ
提督「………」
隼鷹「………」チラッチラッ
提督「……………」
隼鷹「……………しょうがねえなぁ。けだものさんめ……一晩だけだぞう?」ポッ
提督「違うッッ! 服を脱ごうとするなッ! わかった! わかったよ! 一杯だけだからねッ!?」スッ
隼鷹「おお、赤ワイン!! あんがとー!! んひィーーー! うまァーーー!!」プハァ
提督「(絡み酒でないことを祈ろう)……君らも飲む? 一杯ぐらいなら……」
漣「嬉しいんですけど……また今度で。食後に今後の活動方針を決めてかなきゃいけないですしおすし」
曙「馬鹿ね、クソ提督……酔っぱらっちゃったら話し合いどころじゃないんでしょ? そんぐらい私でも分かるわ」
提督「あ、それもそうか……ごめん。隼鷹だけ特別扱いみたいになっちゃったけど、今日のところはお酒我慢して、みんな」
五十鈴「今の流れからしたら文句はないわよ……まあ、そのうちね。その時は美味しいお酒、飲ませてくれる?」
朧「大丈夫です。ありがとうございます。充分、満足してますから」
潮(おいしい、おいしい。鹿肉っておいしいなぁ………あっ………もうなくなっちゃった)
曙「……って言うかさ、朧、漣。なんでアンタたち、ユッケ食べないの?」
朧「!」ビクッ
漣「!」ビクッ
潮「………」ピクリ
曙「結構イケるわよ? こういうのが多分、癖になる味ってヤツなんだと思う」モムモム
潮「う、うん。おいしいよ?(食べないのかなぁ……)」ジーッ
漣(これ食べなきゃアカン流れってやつだぁ……)
漣、ここで痛恨のミス。
潮の何かを訴える子供のような眼差しに気づかずッ……自滅ッ……。
朧「そ、そうだね………あー……んっ!」モグッ
漣「ああ、もう、仕方ない! いただきます! あぐっ」モグッ
朧「…………」
漣「…………」
曙「どう?」
潮「に、苦手なら、潮が……」モジモジ
朧「あ、結構おいしい」モグモグ
潮「………」シュン
漣「ヴぇぁ………さ、漣は、ちょ、ちょーっと、ダメっぽいかなぁ……う、潮、いる?」
潮「!! う、うん! しょ、しょうがないなぁ、漣ちゃんは……えへへ」
綾波型駆逐艦【潮】。好き嫌いがあまりない。そして駆逐艦の割に、けっこう食べる方であった。
成長期なのだろう。きっと。おそらく。めいびー。
提督「潮ちゃんは……結構……食べる、と……人の物も……欲しがる……と」メモメモ
潮「ふぇ!?」
曙「ええ、ちゃんとメモしておきなさい」
潮「曙ちゃん!?」ガーン
提督(そして……隠れ巨乳……漣ちゃんとは……えらい違いだ……ぷぷ)メモメモ
漣(なんだろう。無性にご主人様を殴りたい気分に……あ、ダメダメ、さっき謝ったばっかりなのに)
そんなこんなで、本日の夕食は終わった。
デザートを食べながら、今後の方針について会議が始まる。
――――その、ちょっぴり前。
提督「あ、そうだ………ちょっとこれ、舐めるぐらいでいいから飲んでみて」コト
天龍「!? な、なんだこれ……?」
五十鈴「………これ、コーヒー? いい香りだけど、こんな茶色い泡が立つものだったかしら……?」
漣「これ、今朝のカプチーノとは違いますね?」
提督「これはエスプレッソだよ。カプチーノは泡立てたミルクを『コレ』の上にかけてる。まあ、『苦味』って奴を分かってもらうのには、今あるもので一番手っ取り早かったからねぇ」
隼鷹「どれ」グビ
提督「あ、そんな一口で飲んだら………」
隼鷹「ぶべあ……」デロデロ
曙「ちょ、きたなッ!?」
隼鷹「あ、あに、ごれぇ……み、みじゅ、みじゅくれ……さ、さけでもいい……むしろさけがいい……」
提督「意外と余裕あるね君ぃ。はい水」ハイ
隼鷹「んぐ、んぐ………ぷぁー!! な、なんじゃこりゃ!? こ、これが『苦い』っつう味かぁ~~~?」
提督「みんなも舐めるぐらいで飲んでみて」
曙「………な、なるほど」ニガイ
潮「うぅ……」ニガ
叢雲「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」ニガッ
五十鈴「く、口の中に入れると、すっごく香りがいいけど、こ、この舌の上に広がる、えもいえぬ感じ……こ、これが、苦味ってヤツ?」ニガニガ
提督「今回は特別分かり易くするために、イタリアンローストを極端に圧力かけて抽出してるからねぇ」
天龍「んぉ………すっげ」ニガ
日向「これをわざわざ飲ませて、何か意味でもあるのか?」ニガ
提督「うーん、なんかねー。君たちの食事の感想聞いてると、結構語彙に乏しいというか……ひょっとしたら、明確に甘い・苦い・酸っぱい・塩辛い・旨み……そこらへんの味が判然としてないのかなって思ってねぇ」
五十鈴「あら……それ正解かもしれないわよ? 自分たちの舌で味わったことはないわけだし。『多分これが甘いって味覚』とか、『これが旨味?』みたいな曖昧とした感じよね」
提督「あ、やっぱり? というわけで、味比べだ。まず塩辛い……まあ、直球で塩だね。こっちは醤油」コトリ
漣「おお、なるほど………うん、塩!! まさに塩!!」ペロ
瑞鳳「あ、お醤油ってこういう味……うんうん、おいしいね。ふんわりとした風味みたいなのがあるよ」ペロ
提督「次ね。これまた直球で砂糖。甘いって味。あ、食後のケーキもあるから」ハイ
潮「あまー……」ホワー
朧「うんうん、これだよね」ペロ
提督「これはレモン汁とライム汁と、お酢。舐めてみて」
日向「ふむ、なるほど……これが酸味か。トマトにもこんな感じの味わいがあったが、ここまでキツくなかったぞ……」スッパ
五十鈴「ふぅん……同じ酸味でも、違いがあるのね」ペロ
提督「で、こちら旨味たっぷりのブイヨンスープ。これは漣ちゃんと朧ちゃんは分かるよね。それと昆布だしのおつゆもどうぞ」
朧「これが旨味……うん、うん」ペロ
叢雲「ああ、これね。鹿肉噛んでて滲み出てきた……やっぱり旨味ってこういうことよね」ウンウン
提督「そそ。今後お料理覚えたいって子も出てくるだろうし、味覚の基本的なところは抑えておいた方がいいだろうしねぇ」
瑞鳳「私、たまごやき覚えたい!」ハイ
提督「うん。地道に覚えていこうか。ちゃんと一から教えてあげるからね」
隼鷹「あたしもツマミぐらいは作れるようになりてえなぁ………と、ところでなぁ、ていとくぅ。エスプレッソ? ってやつ? もう一杯くれ」
漣「えっ!?」
提督「君、さっきデロデロ吐き出してなかった?」
隼鷹「そ、そうなんだけどさぁ……なんか、口の中に残ってる香りのせいかな……なんか、こう………もう一杯欲しくなっちまった」
提督(あ、これコーヒー党になるパターンだ……)
朧「そ、その、朧も……」ドキドキ
天龍「お、オレも、もらっていいか? なんか……癖になる……」ドキドキ
提督「君らもか……あんまり飲むとおしっこ近くなる効果があるから、これもちょっとだけだよ?」
そんなこんなで味講座が終わり、今度こそ会議が始まる。
【会議室】
提督「はい、工廠妖精さん。約束のザッハトルテだよ」コトリ
工廠妖精「オウ、サンキュー………カァー、コノタメニイキテンナァ!!」
提督「みんなも食べながらね。紅茶もどうぞ……さて、今後の方針なんだけど……ぶっちゃけ、僕は軍事にド素人だからよくわからない。戦艦とか軽空母とか。というわけで、漣ちゃんッ! 君の意見を聞こうッ!」
漣「漣に丸投げですね、わかります」
隼鷹「この鎮守府はまだできたばっかなんだよな?」
朧「ぶっちゃけ本格的に活動したのは今日からです」
隼鷹「それであたしら来たのか……すげえな」
朧(押しのけてきたとか言ってなかったっけ?)
叢雲「そう、それよ!! なんなのよそれは!」
漣「ええ、まずそこから行きましょう」
提督「何が?」
漣「まず、最低値レシピで戦艦一隻と軽空母二隻が来た。これは異常事態です………」
瑞鳳「そうなの? 妖精さん?」
工廠妖精「オウ、フツーノ【センカン】ハ【400/30/600/30】ガテイバンダ」モグモグ
曙「本来の戦艦レシピはそんなに大量の資材がいるの? それって喜ぶべきことじゃない? だって少ない資材で大きな戦力が来るわけでしょ?」
漣「素直に喜べればいいんだけど……それで来てくれた日向さん・瑞鳳さん・隼鷹さんに、なにか性能的な劣化とか不備があったら?」
曙「あっ」
叢雲「なるほどね」
潮「えっ(ケーキおいしくて聞いてなかった……あ、でも手が止まらない……)」モグモグ
日向「ふむ………こればかりは、出撃してみないことにはな(うまい)」モグモグ
安定の潮と日向である。
漣「それには及びません。工廠設備にある【練度測定器】で、練度と共に性能は測れます。というわけで、まずは【三人の性能を確かめる】」
瑞鳳「そんな便利なものがあるんだ(ザッハトルテ、おいしいなぁ)」モグモグ
漣「というわけで、この会議後に検査。検査自体はソッコーで終わるので、後で工廠に行きましょう」
日向「了解した」
隼鷹「おっけー」
瑞鳳「わかりました!」
漣「問題なければ明日試しに出撃としましょう。消費する燃料や弾薬、ボーキも出撃した後に調査……いかがでしょー」
提督「僕は勿論賛成」
五十鈴「いいんじゃない? 異議なしよ」
天龍「おう。それが妥当だろ」
満場一致で次の議題へと入る。
漣「さて、次は【建造】ですが………検査次第、ということで」
天龍「それも妥当だな。気を悪くしねえでほしいんだが……戦艦や空母が出ても、性能に問題があるってなったら、その、なんだ……」
日向「気を遣わなくてもいいよ、天龍。言っていることはわかるさ」
漣「ええ。だけどそれで問題ないようであれば………ご主人様、パソコンはお持ちで?」
提督「うん。支給された秘書艦用のノーパソと……執務室にデスクトップがあるよ」
漣「そのドライブ内に、提督だけに閲覧が許可された資料があります。艦娘の項目があるので、その艦娘と【ゆかりのある飲食物】とか調べてもらいたいです、はい」
提督「ああ、政府の役人さんが言ってたなぁ、そんなこと」
漣「秘書艦は見てもいいんですか?」
提督「うん。後でノーパソも渡すね」
漣「あざーっす」
この時の提督は、まさか【ラムネ】でかのビックセブンが釣れるとは夢にも思っていなかった。しかも他の駆逐艦連中を押しのけてである。
提督「海軍って言うと、無難なところでやっぱりカレーかなぁ……どんどん継ぎ足ししていかないと痛んじゃうし、できればハヤシライスとかも……」
漣「ええ。それもぜひ試してください。あくまで検査が問題なしだったらですけど」
天龍「あ、それなんだが……もし食事で特定の艦娘を狙って建造できるってんなら、提督に作ってほしい料理があんだけどさ」
提督「―――ひょっとして、【龍田】?」
天龍「! し、知ってたのか、提督?」
提督「まあ、龍田揚げの由来は料理人なら結構知ってる話だし。それ調べたとき、天龍ちゃんの名前もあった気がして……」
天龍「ああ、妹なんだ」
提督「天龍ちゃんの妹さんかぁ……(さぞかし美人なんだろうなぁ。天龍ちゃんと同じでワンパク系かな?)」
ヤンデレ系だとは夢に思っていない提督であった。
天龍「頼むよ」
提督「検査が問題ないなら、いいよね、漣ちゃん」
漣「はい、もちろん」
天龍「よっしゃ!! じゃ、じゃあ早速………って、今日はもう夜だし、明日で頼む」
提督「いや、鶏肉はチキンライスで余ったぶんがあるし、なんなら検査後にでも……どうかな、工廠妖精さん?」
工廠妖精「ショウガネエナァ……アスノ【スイーツ】ハ、イチバンイイノヲタノムゼ?」
提督「いいってさ」
天龍「ほ、ほんとか?! あ、ありがとな……提督、妖精さん……」
漣(む……なんかフラグが立ってる感じがするぞよ)モヤッ
そんなこんなで会議終了――――日向・瑞鳳・隼鷹の検査が始まる。
【工廠】
工廠妖精「」
漣「」
日向「どうした? なかなか面白い顔をしているが……何が問題があったのか?」
基本値を見るため、性能を全て取り払った日向が、検査台の上に立っている。
その結果を表示するディスプレイ前で、工廠妖精と漣は固まっていた。
提督「うーん、僕はこの数値見てても良くわからないんだけど……あ、漣ちゃんのノーパソで性能値を見ればいいんじゃないかな。比較すれば……」
漣「あー、うー、あー、は、はい……」ホイ
提督「ありがと。どれどれ………は?」
・ノーパソの日向のスペック(初期値)
戦艦【日向】
耐久:74
火力:74
装甲:70
雷装: 0
回避:22
対空:28
搭載:12
対潜: 0
速力:低
索敵:10
射程:長
運 :15
燃料:85
弾薬:120
・日向のスペック(検査結果)
戦艦【日向】
耐久:80
火力:80
装甲:80
雷装:0
回避:40
対空:70
搭載:12
対潜:0
速力:低
索敵:25
射程:長
運 :69
燃料:85
弾薬:120
提督「強ッ!? これ強ッ!! 強いよねコレ!?」
漣「特に運が!! ヤバい!! 理論最大値じゃないですかーーーやだーーーーー!!!!」
工廠妖精「【マルユ】ニヨル【キンダイカカイシュウ】ノヒツヨウガネエゾコイツ……!」
序盤においてはオーバースペックにも程がある性能であった。
※あ、ミス訂正です
×:基本値を見るため、性能を全て取り払った日向が、検査台の上に立っている。
○:基本値を見るため、艤装を全て取り払った日向が、検査台の上に立っている。
漣「し、しかも耐久値に至っては+6とか! 理論限界を突破してる……」
日向「練度は……ふむ、10か。改装して貰ってもいいかな? 工廠妖精さんから聞いた『瑞雲』に私は心惹かれているのでな」
漣「いいとも……と言うとでも思いますか!? よくねえ!!」
提督「と、とりあえず問題なしってことで」
漣「問題しかねえ!!」
叢雲「問題大ありよ!? 馬鹿な子ね!!」
瑞鳳「じゃ、じゃあ、次、私ね?」ヒョイ
で。
漣「あびゃー」
提督(FXで有り金全部溶かした顔よりひどい……)
瑞鳳「私も理論値マックスだったよ………」
提督「運が? そ、そりゃあ良かったね。運がいいに越したことはないy」
瑞鳳「いえ――――ほとんどの性能が」ホラ
提督「」
漣「あびゃびゃあああ」アヘェ
潮「さ、漣ちゃん、落ち着いて!!」アワワ
瑞鳳「しかも耐久は理論限界より+15もある……軽空母の耐久値じゃないよこれ……」プルプル
隼鷹「おっ、じゃあ次はあたしだぁーーー!!」ヒョイ
漣「もうどーにでもなぁれ」ウフフアハハ
で。
隼鷹「………あり?」
叢雲「どれどれ………あら?」
五十鈴「うん。全体的に初期値より高いけど、理論最大値じゃないわね。耐久も+1……どの数値も微妙ね」
隼鷹「な、なんでぇ~?」
提督「…………あっ」
工廠妖精「アッ」
漣「な、なんですか、『あっ』って。ご主人様? 工廠妖精さんも……心当たりでも?」
提督「い、いや、その………隼鷹を作った時に入れたのって、酒なんだけど……なんかテキトーに料理酒を」
隼鷹「あっ! そうだよ! あの安酒!! まあ呑めるならいいんだけどね!」ヒャッハァ
漣「あ、なんとなく読めてきました……瑞鳳さんは?」
提督「瑞鳳ちゃんの時は、卵焼き、かな………ほら、さっき味比べした時に出した昆布だしで作ったんだ。僕、もともとは和食出身でさ……かなりリキ入れて作った奴」
瑞鳳「すっごくおいしかったよ……」ポワワ
漣「(それは今度、漣も御馳走してもらうとして)日向さんは、確か……」
提督「お昼の三色パスタ……」
日向「全て好みと言う訳ではなかったが、実に良い色合いだった……あれはいいものだ」
漣「………ゆかりが深くて、かつ好み合うかどうかってことが、性能に関連するとでも? ハハッワロス」
提督「い、いやぁ……まさか、そんなことに影響するとは思わなくて……」
天龍「誰もわかんねえよそんなの……と、とりあえず、まぁ問題あったけど、悪い意味じゃないし………建造はOKだよな?」
漣「いいっすよ……もうどうでもいいっすよ……」
五十鈴(なんて悲しそうな背中なの……?)
天龍「んじゃあ、その、龍田揚げ、リキ入れて作ってもらっていいか?」
提督「そ、そりゃあもう。全霊をかけて作るよ……い、行ってきまーす」ピュー
曙(料理を言い訳に逃げたわね)
五十鈴(逃げたくもなるわよね)
60分後。
提督「で、できたよー」
天龍「随分かかったな……って、あ、文句とかじゃないんだ、悪い」
提督「ううん。お米も炊き直したし、鶏肉に下味付ける必要あるからね」
天龍「そ、そっか! あ、ありがと……ホントに、ありがとな……」
・龍田への供物
【龍田揚げ】
醤油・おろしにんにく・生姜で味付けしたオーソドックスな龍田揚げ。
カリッカリのザックザクの食感。噛めば肉汁溢れる。添え物のレタスとトマトも一緒に食べるとさっぱりする。
好みもあると思ったのか、マヨネーズやおろしポン酢も添えてある。レモンもお好みで。
【ご飯(中盛)】
チキンライスで余ったごはんだと少しパサパサするので、改めて炊いた。
ツヤツヤの銀シャリである。
潮「……」ゴクリ
日向「……どれ、せっかくだ。私が味見を」ジュル
天龍「失せろ」シャガッ
日向「ッ!?」ビクッ
潮「ひっ!?」ビクンッ
潮はともかく、日向ですら思わず気圧されるほどの殺気であったという。
漣(いつもああしてれば怖いのに)
工廠妖精「ヤレヤレ……サッサトオキナ。コッチハジュンビデキテル」
提督「よし、それじゃ、料理をセットして、ぽちっと!」ポチッ
【01:00:00】
工廠妖精「【ケイジュン】ハカクテイダナ……」
漣「じゃあ高速剤をっと」ハイ
工廠妖精「アツイゼ~アッツイゼ~、アツクテシヌゼェ~」シュゴォオオオ
提督「これから夜にも、ドックを焼こうぜ」
天龍「………」ドキドキ
龍田「もぐもぐ………むしゃむしゃ………あぐあぐ……けぷ、あらやだはしたない……もぐもぐ……」モシャモシャ
天龍「て、提督! た、龍田が! 龍田を食ってる!!」パァア
漣「ぶっ!」プスッ
提督「ちょ、て、天龍ちゃん……(不意打ちか……多分笑わせに来てるわけじゃないと思うけど思わず吹きそうだからやめて)」プルプル
朧「ぷ………ま、まぁ、龍田さん、ですよね。艤装もそうだし、何より見た目が天龍さんに似てます……ぷ、ぷふっ」プルプル
曙「けひゅー、けひゅー、けひゅー……」プルプル
潮(曙ちゃん、我慢しすぎて呼吸が……)
龍田「うん、うん……はぐ……さくっ、ざくっ……いいお味ね……んむ、もぐ、もぐ………おいし……」シャクシャク
天龍「しかも超お行儀良いぞ!! ほら、正座して、お箸で、お茶碗持って! しっかり味わうように食ってる!! 流石天龍型だぜ! お行儀のよさまで世界水準軽く越えてるよな!!」パァア
提督(ッ……だ、だめだ、まだ笑うな……天龍ちゃんはマジメに言ってるんだ……)プルプル
漣(し、しかし……)プルプル
朧「さ、流石、ですね、天龍さん……龍田さん、お行儀、いいですよね。せかいすいじゅ、ぷっ、か、軽く、越えてます、ね……」プルプル
潮「多分?」
朧「――――多分」
曙「ちょっ、ぶ、あはははははははは!!」ケラケラ
龍田「ふぅ、美味しかったわぁ………あらぁ?」ピカーーーー
天龍「あはは、光ったことに戸惑ってるぞ。超可愛いな! なぁ!」
提督「………うん。そうだね、天使かもしれないね。あの頭の上で光っているのは天使のわっかかな? 丸型蛍光灯かな? 僕には判断が付かない」ボソッ
漣「ぶふぇ!! ちょwwwご主人wwwさまwwwwパネェwwww」ブフー
隼鷹「ぶわははははは! あーっははははは!!」ケラケラ
五十鈴(こんなの明日死ぬって言われても笑うわ)プルプル
日向「まあ……笑うしかないな」フフッ
…
……
………
※今日はここまで
多くのコメントありがとうございました
次か次辺りで、終わりに向けてまとめにはいっていきます
※トニオさんが提督になった時の構想はあって、その話もいくつかできてるので、このSS終わったらおまけで投下します
※もうここから先は色々はっちゃけていこうと思った。僕は悪くない。
………
……
…
さて―――龍田の着任から、二週間が過ぎた。
チュートリアル海域とまで呼ばれる鎮守府海域をあっという間に制圧した鎮守府は、次のステップ……南方諸島海域の攻略に入ろうとしていた。
【工廠】
提督「遠征による収益も右肩上がり。資材も随分溜まって来たね。じゃあそろそろ―――」
漣「建造したいんですか?」
提督「? 建造したいのは、漣ちゃんじゃないの?」
漣「え?」
提督「だって、今朝そんな顔してたから、僕工廠に来たんだけど?」
漣「ふぇ!?」
提督「????」
漣「あ、ま、そ、そうですよね? うん、結構長い付き合いだし、さ、漣ってば秘書艦ですから! ご主人様と一緒にいる時間、一番長いですもんね! 少しぐらい、わかっちゃうことありますよね、ね!!」
朧「? 朧とあんまり変わらないよ?」
漣「お、朧うっさい!!」
提督「………? さておき、空母が欲しいの?」
漣「あ、はい。今や戦艦は伊勢・日向・扶桑・山城、そして金剛型の榛名さん、霧島さんもおりますし……正規空母の増強といきましょう!」
提督「そう来ると思ってね! こんなこともあろうかと!」
漣「おお、あろうかと?」ワクワク
朧「おいしいお料理かな?」ワクワク
曙「何よ、もったいぶってないで出しなさい」ソワソワ
潮「なにかな、なにかなぁ」ドキドキ
隼鷹「お、なんだ? 新作料理か?」
瑞鳳「え、新しいたまごやき?」
提督「丁寧に味付けした、素晴らしい七面鳥のロースト(丸焼き)を作りました」ドヤァ
漣「わあ、それはとっても美味しそ…………――――シチメンチョウと申したか?」
既にアカン雰囲気が漂っていた。
提督「そしてこちらには焼鳥です。僕の作った特製タレと、こだわりのお塩!! ネギマ、皮、つくね、ボンジリ、セセリにササミ、砂肝まで!」
朧「そろそろやめましょう、提督。まだ笑い話で済む範疇ですから、多分」
そう言う朧の表情は能面のようであった。滝のような汗が頬を流れている。
提督「それぞれ建造ドックにセットします。お隣同士で仲良しですね」セッセッ
潮「てぃ、てぃーとく、それ、潮でもわかります………いわゆる、アカンやつです……はい。やめましょう、おねがい、やめまs」
提督「すいっちおーん」ポチッ
潮「お願い、聞いてくださいよ!?」ガーン
曙「や、やりやがった……やりやがったわ、こいつ……し、知らないわよ。私知らないから……」ガタガタ
工廠妖精「オブツハショウドクダァーーーー」ブォオオオオン
提督「な・に・が・で・る・か・な」チーン
瑞鳳「うわぁ、提督ってば怖いもの知らず……」
隼鷹「あたしゃケツ持ってやんねーぞ?」
加賀「素晴らしい七面鳥の丸焼きでしたね。これを作ったシェフはどちらに?」バァーン
瑞鶴「最ッッッ高の焼鳥だったわ!! タレも塩も至高! 焼き加減は極上! 料理人さんはどこ!?」デデーン
お約束の通り、彼女たちは現れた。
ハローワールド。
ゴートゥーヘル。
加賀「………あ?」
瑞鶴「………は?」
悪夢の始まりであった。
提督「あ」
漣「か」
潮「ん」
朧「こ」
曙「れ」
ルール無用の残虐ファイト、そのゴングが今鳴らされた。
瑞鶴「ひょっとして………加賀、さん?」
加賀「貴女……五航戦の、瑞鶴?」
瑞鶴「ああ、やっぱり………逢いたかったです加賀さん………」
加賀「瑞鶴………私もよ」
笑顔を浮かべながら近づいていく両名。
それが、あと一歩でゼロになると言ったところで、
瑞鶴「死ねェえええ!!」
加賀「貴様がなぁああ!!」
互いに本性を現した。瑞鶴の右の拳は加賀の頬に突き刺さり、加賀の左拳もまた、瑞鶴の頬を強く打ちすえていた。
瑞鶴「ぶっ、がぁ………いや、もうホント……ペッ、てめえら糞一航戦が沈んでからというもの踏んだり蹴ったりでよぉおおおおお!! 加賀ぁあああ!!」
加賀「ぐっ、ずっ………便所に吐き出された……タンカスのごとき練度しかねえ五航戦風情が、この私に何をしたぁああああ!!? 瑞鶴ぅうううう!!」
再びぶつかり合う拳と拳。乱打に次ぐ乱打。互いにいいところを抉り合うも、消して引かぬその闘志――――否、はっきり言ってもう殺意である。
漣「うわー、グーだよ。グーで殴り合ってるよ……超腰入ってんよ……うわ、歯が飛んできた……」
提督「わー、地下闘技場みたい……」
潮「現実逃避しないでください!! なんとかしてください!!」
提督「い、いやぁ……お互い吐き出し合うもの吐き出して、こうスッキリして貰おうかなぁ、なんて」
曙「吐き出してるのは血反吐と憎悪じゃないの!? ああ、もうこのクソ提督、ホンットにヘタレ!!」
朧「隼鷹さん! 瑞鳳さん!? アレ、アレなんとかして!! お願いです、おねがいください!!」
現時点において、鎮守府最強の航空戦力たる隼鷹と瑞鳳に朧は助けを求める。しかし、
隼鷹「混乱してんぞオボっちゃん。何にしても無理。またまたご冗談をって感じ。元戦艦と当時はガチで最新鋭だった空母相手に、商船改装空母のあたしに何が出来ると?」ムリムリ
曙「アンタみたいな軽空母がいるか!?! 24000トンを余裕でブッチギってる軽空母なんか!! しかもあっという間に改二!! 更には正規空母以上の艦載機運用能力とかふざけてんの!?」
着任して二週間でコレである。なんか経験値倍増とかそういうチート持ってそうな隼鷹である。
隼鷹「か、買い被りッスよ、曙パイセン……あたしなんてホラ、所詮安酒で出てきた安い軽空母っすよぉ……」プイ
曙「こっち見て言えぇえええ!! 二次改装時の資材にやんごとなき方御用達の日本酒混ぜたら、トンデモ性能になったじゃないの!!」
朧「あ、あの、瑞鳳さん? お願いできませんか?」
瑞鳳「ほぼ隼鷹さんと同上。高速輸送船から改装繰り返して軽空母ですよこっちは。正規空母相手なんて無理なものは無理」ムリムリ
潮「う、うそです、ぜったいうそです……潮、知ってます。瑞鳳さん、もう練度最大で、九六式艦戦で演習相手の烈風改をバラバラにしてました……潮、知ってますから!!」
瑞鳳「たまごやき、たべりゅ?」
漣「たべ……たべ……食べません。誤魔化せると思いましたか!? お願いです、なんとかして!!」
隼鷹「ヤダよメンドい。雨降って地固まるっていうじゃん? 好きにやらせときなよ。提督にもいい薬さねぇ」ダラダラ
瑞鳳「ちょっとたまごやきのバリエーション作りの構想でいそがしいから……」セッセッ
この二人、基本的に面倒臭がりであった。
瑞鶴「倒れろオラァ!!」
加賀「誰にモノ言ってんだ貴様ァ!!」
その乱打戦を、非常に冷めた目で見つめる視線があった。
大淀「はぁ、やっぱりあの二人って……」
明石「魂にまで染みついた宿縁みたいなモノじゃない? どこの鎮守府も似たり寄ったりらしいよ?」
大淀「そ、そう? ここまで不仲だと、もはや殺す殺されるの関係というか……」
明石「殺し合うほど仲が悪い?」
大淀「そういった間柄の関係と言うのはですねえ、明石……世間一般に【敵】と言うんですよ」
軽巡【大淀】と工作艦【明石】……重要な艦娘ということで、川内型三姉妹や金剛型四姉妹に次いで、漣がイチオシで建造を優先させた艦娘である。
建造が確認されていない艦娘であるが、もしかしたら、ということであれこれと試した結果、意外な料理で出てきた二人であった。
なお二人が着任していることは、やたらとこの鎮守府に対して嫌がらせしてくる大本営には秘密である。伊良湖と間宮が着任していないのがその証左であった。
共に【カレー】である。ただしこの鎮守府でグランドメニューとして提供されるカレーではなく、史実にゆかりがあるというよりは、彼女たちが好む味付けのカレーであった。
他の鎮守府の提督―――明石と大淀が所属している――――にお願いし、二人に話を聞いた。
共に好物はカレーだと言うため、二人の作るカレーレシピで建造を行ったところ、これが的中した。
大淀はステータスという面では特に際立ったものはなかったが、計算処理や事務処理と言った技量が、他の鎮守府の大淀のそれと比しても化け物クラスであった。
明石に至っては大本営支給の【練度測定器】を小型化し、【戦闘能力測定器】なるわけのわからないスカウターを作成してしまうほどであった。
メイドインジャパンの真骨頂たる小型化において、信じられない技量を誇る。
大和型の主砲を軽巡が装備できるサイズにまで小型化し、かつ威力はそのままというチートっぷりである。というかそれはもはや46cmじゃなくね? という提督の意見は右から左であった。
なお後に着任する【清霜】は大喜びだったという。なんでも―――。
清霜『これで今度は……今度こそ、清霜が武蔵さんを守りきってみせるよ!』
武蔵(ええ子だ……)ブワッ
という健気な回答に、既に着任していた武蔵が思わず涙を溢したとかなんとか。
さておき、本題である――――加賀と瑞鶴。
二人の不仲については、提督も他の鎮守府の様子を見ていて、ある程度理解していた。
稀に二人が仲の良い鎮守府もあったが、ごく少数派である。
大淀「明石? あの二人のステータスはどれほどの?」
明石「今スカウターで確認するよ…………げ」ピピピピ
大淀「どう?」
明石「それぞれ【瑞鶴】【加賀】の練度99……つまり、近代化改修で強化できる艤装の理論限界値を遥かにオーバーしてる………艦載機の搭載数も、それぞれ一次改装を経たものと遜色ないね。
流石に人間としての体を行使することは不慣れだろうけど、この鎮守府で太刀打ちできる存在は恐らく……」
大淀「成程……意外でも何でもないことなので、とっとと逃げましょう!」ダッ
明石「えっ!? あ、ちょ、ちょっと!! おいてかないで!?」
大淀「夕張さんみたいなこと言ってる場合じゃないでしょ。ほら、走って走って」タッタッタ
なお戦闘能力については明石は言わずもがな、大淀に至っては卓越した頭脳、艦隊指揮の冴えを除けば、軽巡としてのスペックは基本的な【大淀】と大差ないのだ。
料理によって強化建造された両名の―――しかも共に空母である―――そんな争いに巻き込まれれば、大破轟沈まったなしであった。
瑞鶴「次にてめえらのツラぁ見たときは必ず殴り殺してやろうと決めてたんだぁーーーー!!」シュッ
加賀「うごぉッ!?」グハッ
コンパクトに最短距離を突き進むショートアッパーが、加賀の顎を跳ね上げる。
瑞鶴「ホンッッットにむかつくよなぁあああてめえらはよぉおおお!! 人の乗組員見るや蔑んだ目でゴコーセンゴコーセンってよぉおおお!! その五航戦の拳で沈めぇえええ!!」シュッ
加賀「ぐ、くっ」シュン
瑞鶴「!?」
加賀「元戦艦がその程度で沈むかッ、ボケェッ!!」バシュッ
瑞鶴「がぼぉッ!?」ガハッ
左のフックを躱し、加賀の放った右のカウンターがクロス気味に瑞鶴の頬に突き刺さる。
加賀「そもそもてめえらがふがいねえせいで、私達一航戦や二航戦がッ! 死亡事故多発するぐれえ地獄の教導訓練地獄だったんだろうがよぉおおおお!!」ドゴドゴドゴ
瑞鶴「ぎ、ぎぎ、ぎっ」
加賀「全部てめえらが雑魚だったせいだぁああああ!!!」
激怒の感情を乗せたラッシュに、瑞鶴は防戦一方であった。
提督「恨み辛みにうっ憤溜まっちゃってますねぇ。ここで全部吐き出してくれたらいいね」
漣「それで工廠が丸々一つ更地になってもいいってか? そろそろぶっ飛ばすぞご主人様?」
提督「ご、ごめんなさい……しかしまあ、あの二人ったら口汚いね。女性不信になりそう」
大淀「一説には戦艦にはやんごとなき方が乗艦なさることがあるため、非常に風紀に厳格でした。服装からマナー、何から何まで」
提督「そうなんだ……って、あれ? 逃げたんじゃなかったの、大淀ちゃん?」
大淀「いえ。それが明石から聞いた話であれば、最悪の事態は逃れられそうなので」
提督「??? まあいいか。それで、戦艦の乗組員が厳格な風紀を保っていたことは分かった。じゃあ空母は?」
大淀「…………」
提督「うん。ぶっちゃけて言っていいよ」
大淀「では、ごほん―――××××集団です。世紀末××××伝説とも言います」
提督「ぶっちゃけすぎィ!? お、怒られんぞッ……絶対怒られんぞッ!!」
まあ戦艦の地獄っぷりは歌になるほどである。推して知るべし。
そんなコントを繰り広げている最中にも、加賀と瑞鶴の争いは激化していく。
ついに格闘戦ではらちが明かないと踏んだのか、瑞鶴は弓の艤装を展開――――それに艦載機の矢を番えた。
瑞鶴「いいだろう!! 再び冷たい海の底へ戻してやる!! あのミッドウェーの時の馬鹿ボーキ空母のようにな!!」
加賀「……馬鹿ボーキ空母? 赤城さんのことか………赤城さんのことかぁあああああああああ!!!! 五航戦ンンンン!!!」
応じるように咆哮し、加賀もまた艤装の弓に矢を番え、構えた。
瑞鶴「てめえも仲良く海の底で寄り添わせてやろうってんだよ!! 野郎ども起きろ!! 全機発艦だ!! 目標・目の前の糞一航戦! 相手にとって不足だらけだ蜂の巣にしてやれ」バシュンバシュンバシュン
加賀「吼えたな小娘ェ! ありがたくて涙が出るぞぉ!! これで躊躇なく撃ち殺せるぁああああ!! 行って来い艦載機! 行って必ず殺してこい!! 七面鳥のように殺せ!!」バシュンバシュンバシュン
瑞鶴「なんだと……七面鳥って言ったな……殺してやる! 殺してやるぜ、焼鳥屋~~~!!」
加賀「扁平胸のカスがぁ~~~~! 艦載機ごとバラバラにして、ようくかき混ぜて……マリアナ沖に沈めてやる!! てめえの馬鹿姉も一人ぼっちじゃ寂しいだろうからなぁああああ!!」
互いの艦載機が、狭い工廠内の空を飛ぶ。
瑞鶴「加賀ぁああああああああ!!」
加賀「瑞鶴ぅうううううううう!!」
両者の艦載機がついに激突する――――その寸前であった。
隼鷹「おい……加賀……てめえいま、マリアナ沖っつったか……? え? おい? あたしの聞き間違いか……?」ゴゴゴゴゴゴ
瑞鳳「ねぇ、瑞鶴……その馬鹿空母が沈んだ時、龍驤さんがどれだけ悔やんでたと思ってる……?」ドドドドドド
両名の艦載機は、一瞬にして撃墜される。
加賀も、瑞鶴も、一瞬たりとも眼を逸らしていない。
ならば、その『一瞬』とは、彼女たちにとってなんだったのだろう。
一瞬を越える『刹那』を支配する――――そんな存在が、どこかにいる。
否、どこかではなく――――。
加賀「えっ?」
瑞鶴「ひょ?」
―――目の前に、いた。二人の間にいつの間に割って入っていたのか。
隼鷹と瑞鳳、その二人がいた。
隼鷹「聞こえねえようだからもう一回聞いてやるよぉ、加賀ちゃんよぉ……隼鷹さんは優しいだろ? 私の妹みてえな姉が、飛鷹の沈む海がなんだって……?」ギロリ
瑞鳳「私の代わりにソロモンで散ってしまった龍驤さんまで馬鹿にするようなその言動………二人してさぁ、ちょっとおいたが過ぎるんじゃあないかな、ン?」シャガッ
隼鷹と瑞鳳は、前述したとおり鎮守府において【最強の航空戦力】であった。なおこの鎮守府には、既に【蒼龍】と【飛龍】が着任している。
だが最強は隼鷹と瑞鳳。これは不動にして揺るがぬ。それの意味することは、
隼鷹「私も沈めてもらおうじゃねえか、ええ? 飛鷹が寂しがってるってか、あ?」
瑞鳳「ソロモンに沈めれば、龍驤さんも寂しくないよね? そう言いたいんだよね? ね? ねえ?」
加賀「あ、あの、じゅ、隼鷹……瑞鳳先輩……?」
瑞鶴「ず、瑞鳳、ちゃん……? 隼鷹、さん……?」
ぶつり、と。何かが切れる音が響いた。加賀も、瑞鶴も、艦娘として発達した聴覚が、確かにその音を捉えたのだ。
隼鷹「隼鷹……? 『さん』をつけろよ焼鳥製造機が……てめえらに呑ませる酒はねえ」
瑞鳳「私を『ちゃん』づけか……偉くなったものねぇ……? あんたたちに食べさせりゅたまごやきなんてない」
隼鷹の背後――――巻物がひとりでに浮き上がり、めくれ上がり、隼鷹を守護するように航空甲板を模る。
瑞鳳の両手には弓と矢――――既に番え、構え、あとは放つのみ。
隼鷹「神威如嶽、神恩如海! 天の御柱、地の御柱……来臨守護、急々如律令――――」ヴォンッ
瑞鳳「帰命頂礼八幡大菩薩……我」ジャガッ
陰陽の勅令。超常のエネルギー体が隼鷹の掌の上に顕れる。
瑞鳳の身体は、輝いていた。黄金の光。決して屈さず揺るがず退かず負けぬ、そう心に誓った勝利の光。
それが、弓の先へと収束していく。
隼鷹「勅!」
瑞鳳「御矢と罷り成る!」
加賀「」
瑞鶴「」
それを合図に、艦載機が放たれた。一瞬にして放たれる爆撃と雷撃。
隼鷹と瑞鳳の艦載機が風の速さならば、加賀と瑞鶴のそれは亀にも思えるほどの鈍足。
加賀と瑞鶴は、自分たちが大破されられたということを認識する暇すら与えられず、意識を刈り取られるほどの重傷を負う。
その破壊の余波は、工廠内の床も壁も天井も、もろともに粉砕して余りある威力。つまり。
隼鷹「やッべえ!!」
瑞鳳「や、やっちゃった!?」
この工廠は失敗作だ。壊れるよ――――ってな具合であった。
提督「――――逃げよう」ダッシュ
朧「朧、提督のそういうとこ、すっごく嫌い! 多分じゃなくて嫌い!! へたれ! ほんとへたれ!!」タタタタタ
提督「ううううううるさい!! まさか隼鷹と瑞鳳ちゃんの逆鱗に触れるとは思わなかったんだよ!!」
曙「このくそ!! まぐそ!! う○こ!! この………クソ提督!!」ダダダダ
提督「語彙乏しいの何とかしようぜ曙ちゃん! 読書少女だったりアングラーだったり趣味が長続きしないタイプか君は」
漣「だから言ったんですよ!! 漣ぜったいゆったもん! やめたほうがいいって!!」スタタタ
提督「あーうー、まー、その、ごめん」
潮「てぃーとくの、その、てぃーとくなんか、えっと、ば、ばか! おばかさん!!」タタタタタ
提督「あっ、地味に一番心に来る」グサッ
第七駆逐隊の駆逐艦たちは勿論、多くの艦娘達は後にこう述懐する。
空母は怖い。
でも軽空母は――――もっと怖い。
提督的には、これだけ全壊した工廠が次の日には新品同様になっている妖精さんの謎の技術の方が怖かった。
…
……
………
………
……
…
さて、その後。
加賀「じゅ、隼鷹さんッ! 今日もご機嫌麗しゅうッ!!」ビシッ
隼鷹「お、おう」
瑞鶴「ヒッ!? ず、瑞鳳さん!! 今日もお疲れ様です!!」ビッシィッ
瑞鳳「あ、ありがと」
飛鷹(あら? この鎮守府の序列かしら? 隼鷹に敬礼だなんて……まあ、私は軍艦としてはともかく、艦娘としては生まれたての赤子同然……ド新人だしね。そして先達は尊ぶべき、つまりはそういうこと? 強さに関わらずそうした姿勢を示すとは……流石ね、一航戦は)ウンウン
龍驤(なんや、慕われとるなぁ瑞鳳……あの瑞鶴に尊敬されるほどとは……第三艦隊の一航戦のメンバーやもんな……立派になったもんや。うち、なんか嬉しいな……)ホロリ
なんか勝手に感激しているのは、新たに着任した飛鷹と龍驤であった。
現在、隼鷹と瑞鳳は二人に鎮守府内を案内している途中である。
隼鷹(どッ、どうしてこうなったッ……)
瑞鳳(き、気まずい……すっごく気まずい)
飛鷹と龍驤が、レベリングのため隼鷹・瑞鳳と共に海域へ出撃し、真実を知るまで、残すところ三日余りであった。
…
……
………
………
……
…
そうして、一ヶ月ほどが過ぎていった。
沖ノ島沖を順調すぎるほど順調に突破したこの鎮守府は、他の鎮守府からも一目置かれるほどの精鋭部隊の揃う武闘派として名を馳せていた。
通称『洋食鎮守府』……そのまんま過ぎるネーミングであるが、演習の折り、相手となる艦娘に振る舞われる料理の味に、いつしかそう呼ばれるようになっていた。
朧「でさ……なんで【赤城】さんが配備されないの? 軽空母ブッ飛ばしたら配備してくれるって言う話は何だったの? ねえ、ねえ」
潮「みんな言ってました……演習した皆が、赤城さんがいないのに、翔鶴さんがいる鎮守府なんて、聞いたことないって……」
漣「ご主人様が民間出身だから妬んでる馬鹿が大本営にいるんでしょ……未だに間宮さんや伊良湖さんも配属されないのは嫌がらせ以外の何物でもないです」
曙「な、なによそれ!! 信じらんない!! それが大本営のやること!? ありえないから!!」
提督「あははははは! それはいい!!」
曙「何笑ってんのよ、このクソ提督!! あんた舐められてんのよ!! もっとしっかりしなさいよ!!」
霞「そうよ、このクズッ!! あんた、頑張ってきてたでしょ!? なんで報われないのよ!? 頑張りに対して相応の報いがないなんて、私そういうの一番嫌いなのよ!!」
満潮「なんでヘラヘラしてんのよッ!! 自分が馬鹿にされてるのに、悔しくないの!? それでも男!?」
叢雲「そうよ、意気地なし!! たまには猛然と男らしく怒ってみなさい!!」
提督「あはははは」
漣「プギャーwwww」
曙「な、なんで、ますます笑ってんのよ!?」
提督「っははは……いやね、曙ちゃんにしろ、霞ちゃんも満潮ちゃんも叢雲ちゃんも、まるで自分のことのように怒ってくれるからさ、なんか嬉しくてさぁ」
漣「そうそう!! ツンツンしてるけど、なんやかんやご主人様のこと大切にしてくれてるんだよね! 初期艦としちゃ人望あるご主人様で嬉しい限りですわー」
曙「ば、ばばバッカじゃないの!? そんなんじゃないから!!」
霞「その能天気な笑みを今すぐやめなさい! 不愉快だわ!!」
提督「いやぁ、手厳しい。でも笑えるんだからしょうがないよ……それにね、別に怒ることなんてないんだよねぇ。【赤城】がいなくても、巷で強力と言われてる艦娘が少なくても……それでも君たちは強い」
満潮「む……」
提督「軽空母を倒すだけの艦隊を保有する鎮守府には、今後の期待を兼ねた支援として【赤城】が着任するんだったっけ? つまり『大本営が僕たちは期待していない』っていう、言葉に出さない嫌がらせなわけだよ、これは」
霞「そこまでナメられてるって分かってるなら――――」
提督「だからこそだ。このまま頑張ろう。彼らが期待していなかった連中が独力で高い戦果を上げ続ければ、マスコミの目も集まる。そこでそう言った事実を上手い具合に流してあげたら……世間の目は大本営をどう見るだろう?」
叢雲「………まあ、見る目がない無能集団って見るわね」
提督「ま、あれこれ言い訳しつつ慌てて掌返ししてくるだろうね。支援とか艦娘とか送ってくるかな? その時はどうしてあげようか?」
満潮「どう、って……どうするの?」
提督「うーん、そだねぇ……「我々を別の鎮守府の者と勘違いされてはおりませんか? 折角ですが、それは大本営の皆様の御慧眼が『これは!』と思う鎮守府へお渡しください」っていうのはどうかなぁ?」
叢雲「………悪くないわねえ、それ」ニヤリ
曙「………いやいや、性格悪いわよ。でも………クソ提督のわりには、マシな考えじゃない……ふふっ」
提督「それとも貰えるものは貰っちゃう?」
叢雲「貰ってあげるわ、って?」フフッ
提督「いいねぇ、それも。ほら、笑えるでしょ?」
曙「あははっ、そうね、そうかもね」
霞「面白い差配ね……ならいいわ、乗ってあげる。でも覚悟しなさいな! それまではガンガン行くんだからね!!」
漣「ご主人様性格悪い! でも好き!! そういうところは!!」
彼女たちの快進撃は続く。それは南西諸島海域から北方海域へ戦いの場を移しても、変わらなかった。
【工廠】
そんなある日の鎮守府、再び艦隊に新しい仲間が加わった。それは―――。
電「あの、あのっ……」
提督「あ、工廠妖精くんが言ってた駆逐艦の―――」
電「は、はい、私、いなづm」
提督「雷(いかずち)ちゃんだね」
電「…………あの、司令官さん? 誰かと間違えていませんか?」ピキッ
提督「え……」
電「私、電です。雷ちゃんは、私のお姉ちゃんです……」
提督「えっ、えっ……電、ちゃん? 雷ちゃんじゃなくて? ちょっと、工廠妖精君どういうこと?」
工廠妖精「エ、エ、アレ? イ、イイマチガエタカナァ……?」
提督「引っ込み思案で大人しい子だって>>2でゆってるじゃん……」
電「なるほど………そこの腐れ妖精さんのせいなのですね?」
工廠妖精「ヒッ、オ、オユルシヲ……」
提督(今腐れ妖精っつったよこの子ぉ……引っ込み思案? 大人しい? ……強そうだぜ?)
大破しようがなんだろうが、敵艦を執拗に『出来る限り』早く沈めるため追撃の手を緩めないオーバーキル艦娘・電の着任当初の貴重な初々しい姿である。
電「本気ヲ見ロ……電ノ本気ヲ見ロッ!! 本気ヲ見ロォォオオ~~~~!!」
ル級「ギャーーーーー!?」チュドーン
電「今ノ爆発ハ、轟沈判定ジャネェ~~~~! 本気ヲ見ロォ~~~~!!」グシャア
ル級「ヒッ、ヤ、ヤメ、ア、ギャッ、ギャアアア」グチャリグチャリ
雷「ひ、ひっ……」ビクッ
深雪(怖ぇ、怖ぇよぉ……やっぱ電、超怖ぇよぉお……)ポロポロ
その姿を見た後任の雷と深雪は、心を病んで引っ込み思案になった。
夜な夜な悪夢にうなされて飛び起き、泣きながら提督の寝所に訪れる。
瞼を腫らし、顔を真っ青にして震える二人に、提督は断る言葉を知らなかった。
両サイドから提督を抱き枕とし、二人はようやく安眠する……提督への依存心がパナイ二人であった。
電「………」ジー
雷と深雪が提督にベタベタするため、何気に提督ラブの電のヘイトが日に日に蓄積されて悪循環になっていることに気づくのはまだまだ先のこと。
漣「………」シャーコシャーコ
そして漣は、夜に包丁を研ぐようになった。他意はない。無いはずだ。
※普通に>>1の誤記で推敲不足。すまなかった。
………
……
…
【工廠】
さて、北方海域を絶賛攻略中の鎮守府であったが、
工廠妖精「【ジッケン】ダ!!」
提督「またぁ? 今度は何?」
漣「まぁまぁ、そんな嫌そうなお顔をしないで! 今までは最低値レシピで、かつご主人様のお料理を加えたもので建造していたでしょう?」
提督「うん」
漣「ちょっと資材量を多くしたら、ステータスにどういう変化が出るのかなーって」
提督「おお、なるほど……(もうこうなったらとことんチートしちゃおうってことか)……で、どのぐらいで回す?」
漣「本来の戦艦レシピで、カレーライス付きでやってみたらどうかなって」
工廠妖精「オウ、ジュンビデキテルゼ」
提督「おーけー。そんじゃ、カレーライスは……甘めでいいよね?」
漣「うっすうっす。比叡さん来たらラッキーって感じで! それと早く第四艦隊解放したいんで、分かり易い金剛さんもぷりーず!」
提督「はいはいティーセットね。マカロンと最高級のダージリンをセットしてっと……金のかかることだね」
漣「鋼材とかの方が遥かに高くつくんだから贅沢言わない!」
提督「はいはい、それじゃあぽちっ、ぽちっと」ポチポチ
工廠妖精「サテサテ、ドンナ…………ン?」
漣「ありゃ?」
提督「アレ?」
【05:30:00】
【oiggepra】
提督「五時間半? それとこっちは……何、文字化け? 初めて見るね。これって艦種は?」
漣「え、ちょ……嘘、ホントに五時間半?」
提督「問題しかないねこの鎮守府は……今度は何なのん?」
工廠妖精「………【05:30:00】デ、【ケンゾウ】デキルカンムスハ………イナイ」
提督「は?」
漣「い、いないんですよ。五時間半で建造される子なんて……ましてやバグ表記なんて」
提督「………じゃあ、この中には【ナニ】がいるの?」
工廠妖精「………マ、マサカ、シンカイノ……?」
工廠妖精の声は、思いのほか良く響いた。
工廠内が、一瞬にして静寂に包まれる。
漣「ッ――――ご主人様」
提督「うん……皆をここに呼んでくれるかい? いざというときは……頼むよ」
漣「はッ! 総員!! 緊急事態発生!! 艤装着用の上、速やかに工廠へ!! 繰り返す……!!」
工廠妖精「ス、スマネエ、テイトク……チョウシニ、ノリスギタノカモシレン……」シュン
提督「なに落ち込んでるのさ。笑って終わりにするために、今は動かなきゃ、ね?」
工廠妖精「! ソ、ソウダナ!」
漣「戦艦や重巡の主砲をドックに向けた状態で、高速建造を……いよいよとなれば、吹き飛ばします。いいですね、ご主人様?」
提督「うん……気を付けて」
慌ただしく動き出す艦娘達。
かつてない緊張感が、鎮守府を覆いつくした。
…
……
………
………
……
…
結論から言えば、杞憂そのものであった。
鈴谷「そのカレーは鈴谷のだって言ってるでしょぉおおおおお~~~~~!!!」ギリギリギリ
比叡「いぃぃいえぇ~~~~ッ、比叡のですよぉぉおおお~~~~~!!!」ギリギリギリ
鈴谷「絶対に譲んないからぁ~~~~!! 他の鈴谷たちを千切っては投げ千切っては投げ、このすんごいいい匂いするカレーに、やっとたどり着いたんだからねぇ~~~~!!」ウググググ
比叡「それは私だって同じですぅ~~~~!! この匂いに群がる他の私を叩きつぶしてきたんですからねぇ~~~~!!」ギギギギ
高速剤を『二つ』ブチ込んだのち、戦艦や重巡が警戒する中で開いたドック内には、がっぷりと手四つに組んで醜い争いを繰り広げる、戦艦と重巡がいた。
そして、もう一方の建造ドックには――――。
金剛「ヘーイ、そこな紫ババァ……そのスンバラシィー香気を纏う紅茶と見るからに美味しそうなマカロンは、このワタシのデース……速やかに手を離すデース……」
コンゴウ「ふざけるなよ艦娘の紅茶ババァ風情が。まごうことなきフォート○ム&メイ○ンのダージリン……貴様には過ぎたものだ。身の程知らずな言動については聞かなかったことにしてやる。さっさと失せるがいい」フッ
金剛「警告はしたデース……覚悟してもらいマース……」ジャキッ
コンゴウ「フフ……そのレトリックな装備でこの私と殺りあおうとでも?」ジャゴン
金剛「金剛型長女をナメるんじゃないデース!! バァアニング、ラァァブ!!!」ドンドンドン
コンゴウ「フッ、よかろう……同じコンゴウとはいえ、メンタルモデルと艦娘の性能の差を……ってなんだ貴様この力は!? わ、私のクラインフィールドを破るだと!?」イタイ
金剛「ラァヴ! ラァアアアヴ!!! ラァアアアアアアアアアヴィッ!!」ドンドンドン
コンゴウ「な、ちょ、おま!? 速射性、威力、命中精度……貴様、本当に艦娘か!? 何もかもが桁違い……グッ、いい気になるなァ! 時空展開デバイス起動ッ!! 出てこい、マヤ! ヒエイ! ハルナ! キリシマ!」ヴォン
漣「やめてくださいしんでしまいます」
高速剤を『百』ブチ込んだ結果、紅茶フリークスの戦艦と、兵器としての誇りとは何だったのかと激しく問い詰めたい戦艦が争っていた。
漣「ご主人様ッ! こいつらにもう一杯カレーライスと紅茶を振る舞ってやりたいんですが、かまいませんね!!」
色々と察した提督はキッチンへと走る。
艦娘らは喧嘩を止めるわけでもなく、ただ微笑ましそうな表情を浮かべて、提督が運んできたカレーライスの皿とティーセットを、意地汚い争いを繰り広げる二組の馬鹿どもの前に差し出した。
比叡「うま、うま……」ニッコニッコ
鈴谷「おいっしーーー!!」パァア
金剛「ペッ、命拾いしたネー……(あ、このマカロン超デリーシャスデース)」パクパク
コンゴウ「貴様がな……(いい茶葉だ……入れ方も完璧……素晴らしいな)」コク
カオスがそこにあった。
漣(公式クッソチート艦、キタコレ……きちまったよどうすんだこれ……)
流石にこの展開は予想してなかった漣は頭を抱えていた。こんなん絶対に大本営には報告できない。
五月雨「あ、比叡さん!! わー! お、お久しぶりです! 五月雨です!!」
比叡「えっ!? さ、五月雨ちゃん!!?」
駆逐艦【五月雨】……通常海域にてドロップした艦娘。提督の作るババロアが大好物の一生懸命な頑張り屋である。
提督のお料理の腕に感銘を受けて弟子入りし、あれこれとお手伝いをしようとするたびに提督が死にかかる。ドジがシャレですまないレベル。
提督は「実はこの子は僕を殺そうとしているんじゃあないのか」と内心で戦々恐々。日々を恐怖しながら過ごしている。
熊野「まあ、鈴谷だわ。全く、食いしん坊ですのね、たかだがカレーでそこまで争うなんて……レディーとしての自覚が足りないんじゃなくって?」ファサッ
鈴谷「うぇ!? く、熊野ぉ!?」
熊野。建造艦。【神戸牛ステーキ】でホイホイ釣られた。実に金のかかる艦娘。
………と見せかけて、実は【300円+税のセール肉で作ったステーキ】だということは、熊野にだけは内緒だ。
ご近所の一時間3000円程度のマッサージ屋をエステ屋さんと勘違いしている、愛すべきお馬鹿枠である。
なおこれまた工廠妖精による実験であり、曰く『安い食材でホイホイ騙される子はいるかいないか』……なかなか悪趣味であった。
金剛「って比叡がイマース!?」ブフー
コンゴウ「今更気づいたのか紅茶ババア」フッ
金剛「HAHAHA………いちいちカンに触る紫ババァデース!!」ガタッ
コンゴウ「いいだろう今度こそ沈めてやろう!!」ガタッ
激昂した二人はティーテーブルをひっくり返し――――その上に乗っていたマカロンや紅茶は、もちろん床へと散乱する。
漣(あ―――ヤバ)
朧(マズい……これは)
その瞬間であった。
提督「今晩の食材にすんぞてめえら? 今すぐ座れ。そこ座れよ、なぁ」
ヘタレと言われていた提督が、キレた。
金剛「はい」ストン
コンゴウ「はい」ストン
※パソコン落ちてコンゴウ編全部ブッ飛んだ……また明日になるかも。そこそこ長いので
※あはははぶっとびやがった畜生め、もう笑うしかない。
とりあえず書きながらゆっくり投下してきます
提督「うん、よろしい。初めまして二人とも、僕、提督です。早速ですが僕は君たちと仲良くしてやろうと思うので、今後僕と漣ちゃんの命令には絶対服従で。仮に死ねと言われたら笑って死ぬんだよ? 答えは聞いてない」
漣「言わねェエエエエ!! 漣そんなこと言いませんからッ!! ね、ねッ!?」アワワワ
提督は「食べ物を粗末にする奴は食べ物にしても一向に構わない」という持論を持っていた。ひでえ暴論である。
金剛(オーウ……なかなか理不尽なテートクみたいデース……でも、ついカッとなってしまいましたネ……ワタシとしたことが)シュン
コンゴウ(な、なぜだ。何故今、私はヤツの命令に従った……? アドミラリティ・コードにも匹敵……いや、それ以上の使命感や、拘束力を、こ、こんな小僧に……私が……これが、提督の力だとでも?)オロオロ
金剛は素直に反省し、コンゴウは己の身を縛る【ナニカ】にうろたえていた。
提督「ではまず、君たちが台無しにしてくれた紅茶とマカロンの片づけをしなさい。今すぐだ。それと現時刻から24時間、食事抜き!!」
金剛「ハ、ハイ……申し訳ありませんデシタ、提督……戦艦にあるまじき振る舞い、恥じ入るばかりデース……その罰、謹んでお受けいたしマース……」ペコリ
コンゴウ「わ、分かった……」ビクビク
コンゴウ(こ、これが建造された艦の、まるで鳥の刷り込みだ……抗い難い何かを、感じる……この感情は、なんなんだ……?)
提督「うんうん、金剛ちゃんはいい子だね。悪いことは悪いと言えるその姿勢、実に好感が持てるよ………だが」
コンゴウ「!?」ビクッ
その視線がコンゴウへと向けられ、コンゴウは思わず体を固くした。
提督「おい、コンゴウ……」
コンゴウ(呼び捨て!? 私を!? 霧の大戦艦たる、このコンゴウを!?)ガーン
提督「わかった? わかりました、だろ……?」シャガッ
コンゴウ「」
金剛(て、テートク……地獄の底のような目をしてるデース……)ゾッ
比叡(ひ、ひぇっ……)オロオロ
鈴谷(こ、この人が、鈴谷の提督……? あ、あはは………あんまり、おふざけできそうにないかなぁ………お夕飯の献立にはなりたくないし?)ダラダラ
コンゴウ「あ、あっ、あ、あ……」ハァハァ
全身に走る寒気にも似た何か。吸気口は目詰まりを起こしたように乱れ、排熱処理が上手く働かない。
特別な演算処理を行っていないも関わらず、思考のリソースが乱れ、高負荷がかかる。こんなことは初めてであった。
コンゴウ「ひ、ひっ、ひっ……」ポロポロ
わけもわからず、瞳から涙すら流した……これも初めてのことだった。
コンゴウは、この感情はなんなのか、知らなかった。それまでは。
コンゴウ(こ、これが、これが……『恐怖』か……!?)ガタガタ
正解である。食い物を粗末にした艦娘に対し、提督は恐ろしい。
塩対応が基本となり、弓だって撃つしナイフだって投げる。あの隼鷹や瑞鳳すら震え上がるほどである。
提督「返事は? 『うん』って言う? それとも『はい』って言う? はたまた『分かりました』かな? 早く答えろよ」
金剛(全部同じと見せかけて先の二つを選んだらダーイってオチデース……)
コンゴウ「わ、わ、分かり、ました……すまなかっ……申し訳ございません」ペコリ
提督「よろしい。じゃあその後は……そうだねー、漣ちゃん?」
漣「は、はひ!!」ビシッ
提督「新人四人の鎮守府の案内なんだけど、誰にやってもらおうか?」
漣「あ、はい! そ、そうですね、それじゃ、榛名さん、霧島さん、金剛さんとコンゴウさん……ま、まぁ二人の金剛さんの片付けが終わり次第、オネガイシマス!!」
榛名「はい……(大丈夫じゃない気がする……)」ズーン
霧島「はい……(すっごく気まずい……)」ズーン
金剛型四姉妹の明日はどっちだ。
…
……
………
………
……
…
―――さて、コンゴウがメンタルモデルだけとはいえ、強制的に呼び出した他の霧の艦隊メンバーであるが、
【食堂】
ヒエイ「ふぅ……事前連絡もなしにいきなり強制転移させられたことは業腹ですが……ここの料理は悪くありませんね。これを食べられたことと、あのコンゴウの泣きっ面を見れただけでも来た価値はあったと考えておきましょう」モグモグ
ハルナ「同感だ。まさか私たちまで呼ばれるとはな……しかし随分丸くなったなヒエイ」モグモグ
ヒエイ「貴女にだけは言われたくありませんよ、ハルナ。しかしこのチキンピカタとやらは、なかなかの味ですね」モムモム
ハルナ「控えめに言っても絶品だな……刑部首相に供された食事と遜色のない味わいだ。
『洋食』……日本で独自に発展した西洋風の料理。広義において西洋料理から西洋風の料理全般を示す。タグ添付、分類、記録………」シャキーン
キリシマ「うん、ウマい。ステーキも悪くないなぁ、蒔絵ンとこで食べたヤツよりウマいかも………おっ、このニンジングラッセもなかなか……」モムモム
マヤ「ん~、ステーキおいふぃー」モムモム
なんか普通に堪能していた。
なお食い終わったらコンゴウの転送で帰るもよう。
提督「漣ちゃん、僕、ぬいぐるみがニンジンを食べるなんて知らなかったよ」
漣「大丈夫です。それで認識合ってますから。普通、ぬいぐるみはニンジンを食べません。というかモノを食べません」
提督「最近のぬいぐるみって喋るしニンジン食べるんだねぇ、迫力満点だねえ」
漣「ご、ご主人様?」
提督「……好き嫌いないぶん暁ちゃんよりレディだねぇ……しかも自分をキリシマだと自称するのか……ぬいぐるみってすごい……!!」アハハウフフ
漣「ご、ご主人様!? 冷静そうに見えて実は結構混乱してますよね!?」
やはり提督はどこかズレている。なおキリシマ……キリクマの中にはちゃんと幼女モードのキリシマがいる。
単なる省エネモードにしているだけであった。あるいはぬいぐるみ姿が案外気に入ったのかもしれない。
潮(おかしい、絶対おかしい………なんなのあのぬいぐるみ……)
曙(ちょっとカワイイと思ってしまった自分を殴り殺してやりたい)
朧「っていうかあの人たちなんなの……漣、初期艦だから色々知識あるんでしょ? なんなの、ねえ?」ヒソヒソ
漣「話すとメチャンコ長いから後で説明するとしか今は言えない。とりあえず私たちも夕食食べよ?」
そんなこんなで夕食もまたカオスであった。
片付けは勿論、鎮守府の案内も済んだコンゴウらが戻ってきたころ、丁度霧の艦隊メンバーの夕食が終わった。
ヒエイ「それではコンゴウ。またいずれお会いしましょう。またここの料理を饗していただけるのであれば、呼び出しても構いませんよ……無論、事前にアポイントメントを取ってからという前提が付きますが」スチャッ
コンゴウ「あ、ああ」
ヒエイ「次はミョウコウたちも呼んでいただきたいものです。この場所はなかなか清潔感もあり、霧の生徒会の会食場として見れば、なかなか悪くない」
ハルナ「ここまで同感と感じるとはな。コンゴウ、争わんと言うのであればまた呼び出しても構わんが、なるべく自力で来る。次は蒔絵も招待したいんでな」
マヤ「うん! 次はタカオお姉ちゃんも一緒がいいなー」
コンゴウ「わ、分かった……善処しよう」
キリシマ「おう、そうだな! えーっと、そこの洋食提督さん? メシありがとな!! 超ウマかったぞ!」フリフリ
提督「うん………ありがとね(しゃべったくまがしゃべったしゃべってる僕いまぬいぐるみのクマと会話してる病院行かなきゃ)」アハハウフフ
漣(目が死んでる……)ゾッ
そうして彼女たちは帰って行った。
なお味を占めたのか、お忍びで頻繁にやってくるもよう。
提督「しゃ、しゃべった、くまが、ぬいぐるみが喋った………ああ、くま、くま……球磨? あ、そうか、球磨がいるもんね、球磨は喋るぬいぐるみだよね、うん、なんだぁ、そっかぁ」ナデナデ
球磨「お、おう……提督、落ち着くクマ……球磨はぬいぐるみじゃ……あ、いや、ぬいぐるみでいいクマ。だから元に戻ってほしいクマ……大丈夫、大丈夫だクマ……喋るぬいぐるみだってきっと探せばいるクマよ」
多摩(つーか目の前にいるにゃ……球磨もだいぶ混乱してるにゃ……)
球磨型軽巡洋艦【球磨】と【多摩】。建造艦である。
なお【未調理の鹿肉】と【未調理の生魚】で釣られた艦娘は、後にも先にもこの二人以外にはいない。
球磨『ち、違うクマ! 球磨は、こんな餌に釣られたりしないクマ! 【ピー(検閲削除)】って奴が球磨のこと押したんだクマ!!』
球磨はそんな言い訳をしていた。恐らく真実であろう。球磨は鹿肉に一切手を付けていなかったのだ。
他で生の鹿肉に釣られる可能性がある艦娘といえば、名前に『鹿』の字が入っている艦娘が思い浮かぶわけだが、真相は闇に包まれている。
多摩『た、多摩は猫じゃない……猫じゃないにゃ……ほ、ほんとだにゃ!』アワワワ
説得力はまるで皆無であった。高速剤をぶち込んで現れたとき、彼女は『お魚咥えた多摩猫』状態であった。当然である。
ちなみに工廠妖精の実験による犠牲者とも言える二人であり、雑な食材で釣られた結果、初期値の補正はゼロに等しかったという。
で。その後の問題についてである。
【会議室】
提督「しかしまあ、今回は驚いたよ………1つのドックに、二人の艦娘?」
漣「しかも霧の艦隊メンバー……タカオさんやハルナさん、イオナちゃんならまだしも、敵だったコンゴウさんとは……こんなん、大本営には絶対報告できない……」
漣によって説明されたコンゴウを始めとする霧の艦隊に、艦娘の誰もが頭を抱える事態となった。
……かつて艦娘と深海棲艦との争いが特に激化していた際に、霧の艦隊と言う第三勢力まで加わった三つ巴の戦いが泥沼化していた時期があった。
その時、深海棲艦と霧の艦隊が手を組んで、艦娘が守る人類側へ総攻撃をかけようとした時―――救援として駆けつけてきてくれた彼女たちの話をする。
蒼き鋼。千早群像によって率いられる蒼き艦隊。漣も実際に逢ったことはないが、その情報は初期艦として知っていた。
重巡洋艦・タカオ。大戦艦・ハルナ。潜水艦・イオナ。そして彼女たち三名を補助する大戦艦・ヒュウガという心強い四人の味方。
敵として対峙した重巡洋艦・マヤに、大戦艦・コンゴウ。
辛くも霧の艦隊を撃退した後、彼らは海へと帰って行った。もう二年以上前の話である。
……ヒエイやらあのキリシマやらは、あまり漣にとって触れたくない話題であった。キリシマはともかく、ハルナ? あんなん知るかって話である。
提督「出撃は、禁止?」
漣「それしかありません」
提督「この問題は保留にしよう」
曙「現実逃避すんな……って言いたいけど、ヘタにどうこうするわけにもいかないし、幸いクソ提督の言うことちゃんと聞くみたいだし……」
潮「ほ、保留でいいと思います」
朧「となると、後はあの同時建造についてだね……」
日向「五時間半………二人の建造時間の合計は……ああ、なるほど、そういう………」
この同時建造される現象に、最初に得心いったのは日向であった。
伊勢「どういうこと?」
それに食いついたのが戦艦【伊勢】。龍田が建造された次の日、日向たっての願いで建造された。
かつて戦艦・伊勢で饗されたという【鶏肉の甘酢煮】で釣られたのである。正統なゆかりのある料理で建造されたためか、非常に性能が高い。
常識人枠で、日向のストッパーとなりうる素晴らしい逸材で、提督からは重宝されている伊勢であった。
日向「いや、なに。カレー好きの特に食い意地の張った二人が同時に来たというだけだろう。資材量が十分あったから、二人分の枠がつk……まあ、そうなるな」
伊勢「説明の途中で面倒臭くなったでしょ日向」
なお日向の推測は正解だった。その後日、【黒潮】と【浦風】もまた、同時にやってくる。二人の建造時間が足された値が建造時間に表示されたのだ。
黒潮「う、ウチのやぁ~~~~!! 姉やぞウチはぁ~~~~!! 譲らんかい~~~~~!!」ギリギリギリ
浦風「姉なら、可愛い妹にッ……それこそッ、譲れっ、ちゅーんじゃぁああああ~~~~~!!」ギギギギギ
ちなみに建造に使用した料理は、言うまでもなく【お好み焼き】である。
実に醜い争いだったとは提督の言である。
更にしばらく後に、【フーガデンビーフ】で三名もの艦娘が同時に来ることになろうとは、漣も予想だにしていなかった。
ちなみにやって来たのは潜水母艦【大鯨】、駆逐艦【高波】、軽巡洋艦【由良】の三名である。
大鯨「ちょうど六個あるので、二つずつで分けましょう」モグモグ
高波「はい! とってもおいしいです! かもじゃなくて、ホントです!!」モグモグ
由良「うん。すっごく美味しいね、ねっ」モグモグ
先の同時建造の例を考えた結果、多めの資材で【料理建造】する際は、量を多めに、皿も多めに作ったことが功を奏した結果である。
仲良きことは美しきかな、これも提督の言である。黒潮と浦風、そして比叡と鈴谷は大いに恥じた。
ちょっと待て浦風に高波に大鯨、おまえらいつから通常建造されるようになったんだ、とかは言ってはいけない。
と、こんな感じで実験や偶然によって、鎮守府には個性的な艦娘が増えていった。
…
……
………
………
……
…
ところで、とんだイレギュラーによって建造されたチート艦……もとい霧の艦隊・大戦艦コンゴウと、
コンゴウには見劣りするものの、他の鎮守府の金剛と比較すれば十分化け物スペックの金剛型一番艦・金剛であるが、
【キッチン】
提督「香味野菜。みじん切りでお願い」ハイ
金剛「りょ、了解デース」トントントン
提督「コンゴウ? にんじんは一口大ね」
コンゴウ「りょ、了解した……」ザクザク
キッチンで、提督と共に毎日のように料理をしていた。
食べ物を粗末にする子には、まず食事のありがたみを理解させねばならない、と提督が強く主張したため、漣も否やとは言えなかった。
せめて金剛だけでもと思ったが、提督はこればっかりは譲れないという目をしていたため、大人しく従ったのである。
提督「ハイ、これで継ぎ足し用のカレーは完成ね。じゃあ今日のお昼ご飯作るよー」
金剛(な、ナメてたデース……主計科、ハンパじゃない仕事量デース……)ゼェゼェ
コンゴウ(な、なぜ、この私が料理など……)
提督「たまには中華で攻めてみようか。チャーハン! 作るよ!!」ジャッジャッ
金剛「こ、こうデースか?」ジャッジャッ
提督「振りが甘いよー。もっとこう揺さぶってー。お米はパラッと、しかしふっくらと、決して潰さないように。しかし火力は大胆に派手に強火。そう、戦艦のようにね」ジャッジャッ
コンゴウ「な、なるほど、こうか」ジャジャジャッ
提督「おお、いい手際だねコンゴウ。金剛ちゃんもいい感じ。いやぁ、二人とも筋がいいよ! 料理が捗るねぇ」ジャッジャッ
金剛はこれも罰と粛々と料理をしていた。元々料理にも興味があったのか、結構現状を楽しんでいる。
後に、きちんと食事の有難さ、大切さを理解できたと判断した提督から出撃許可が出た後は、第一線で活躍する艦隊のエースの一人として成長する金剛であった。
なお、最初はイヤイヤ料理をしていたコンゴウであったが―――。
コンゴウ(これが、料理………悪くない。悪くないではないか……)
食事を食べて、自分でも料理をすることについて、まんざらでもなくなってきていた。
完全に提督の【毒】が回ってきている。
きっかけは、どれだけメンタルモデルとしてのスペックを最大限に発揮しても、何故か【洋食】というジャンルにおいて提督には勝利できないことへの反骨心だっただろうか。
ちなみにメンタルモデルと艦娘、その能力は隔絶した違いがある。戦闘能力一つとっても、大人と赤子ほどの差がある。
特に学習能力については比較するだけ無駄なほどに高い。大戦艦ともなれば言わずもがなである。
大戦艦の演算能力、メンタルモデルとしての高い身体能力を、料理に費やせばどうなるか。
それでも勝てぬ人間がいるという点に、コンゴウは最初、伊401……イオナと同じ忌々しさを提督に対して覚えた。
その後も努力したが、逆立ちしても洋食では提督以上の味が出せないことに腹を立てて、いっそもう別ジャンルを極めてしまおうと、中華料理に手を伸ばした。
その頃である。
蒼龍「あっ、コンゴウさん!! 今日の回鍋肉(ホイコーロー)定食、すっごくおいしかったよ!! ご飯がどんどん進んじゃって!」
飛龍「ホントに! 太っちゃったらコンゴウさんのせいですからね、えへへっ」
コンゴウ「……私はカロリーや栄養値を計算した上で、完璧な量を提供している。お代わり自由の白米の食べ過ぎで太ったと言われたところでな」
飛龍「あはは、冗談ですよ。それだけ美味しかったって言ってるんですよー。御馳走様でした、コンゴウさん! また作って下さいね!」
コンゴウ「え………」
蒼龍「コンゴウさんのお料理、とってもおいしいですから。これからの訓練にも身が入るってものです!」
コンゴウ「そ……そう、か。うん、そうか……それは、良かった」ニコリ
コンゴウの心境にも、変化が生じようとしていた。
霧の艦隊を、それこそ機械的に率いていた頃とは違う――――胸の中心部分に熱を感じるような。
――――人間の感情で言えば、この思いを何と呼べばいいのだろうか。
コンゴウにはまだ、この心地の正体がなんなのか、うまく理解することはできなかったが、不思議と料理には身が入った。
提督不在時には、鳳翔らと共にキッチンを全て任されるほどの腕前に成長したのである。
妙高「まあ! この担々麺、コンゴウさんが麺まで手ずから作っていらっしゃるのですか?」
コンゴウ「そちらの方がスープに合わせた麺を作れるからな。日によって温度湿度が変われば、麺の原材料の選定から配分も変わる……当然のことだ」ズダンズダン
那智「ムッ、この蒸し魚………なんという絶妙な蒸し加減……れ、レシピはないのか!?」
コンゴウ「そればかりは経験で身につける他ないな、那智よ。温度を感知できるセンサーを貴様らは備えておらんからな」グイングイン
足柄「ね、ねえ! このソーキソバの揚げ物、凄く美味しいわ! どうやって揚げてるの!?」
コンゴウ「それはソーキソバではなく、排骨麺(パイクゥメン)だ。揚げ方もコツがいるが、味付けの際に少量の魚醤を加えることで風味が増す。欲しければレシピをやるぞ」トントン
羽黒(この光景を異様と感じている私の方がおかしな気がしてきた……)
そんなことを内心で思っている羽黒であるが、その後【ドーピングコンソメスープ事件】に巻き込まれ、
彼女は完全に一般から逸脱した【逸般艦娘】となるのだが、それはまた別の話である。
コンゴウが鎮守府に加わってから、およそ三ヶ月ほどが経過した。その頃にはコンゴウはもう完全に鎮守府になじんでしまっていた。
特に重巡洋艦の摩耶とは仲が良く、他にも駆逐艦たちからは非常に懐かれている。
―――態度はそっけないし、お堅い感じがするけれど、付き合っていくうちに、不器用なだけの人なんだってことが分かる。
多くの艦娘は、コンゴウをそう評価していた。
※クソッ、これで半分ぐらいです。ブッ飛んだデータは帰ってこない……轟沈ってこういう気分なのかな。続きはまた明日
※番外編的なおまけ~ドーピングコンソメスープ事件の被害者~
【before】
羽黒「元軍艦の私の経験から見て……今のあなたたちに足りないものがあります」
【after】
戸愚呂(妹)「おまえらもしかしてまだ……自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね……?」ゴゴゴゴゴゴ
ドーピングコンソメスープ事件、第一の犠牲者。重巡洋艦【羽黒】が爆肉鋼体した真の姿。
丸太のように太い肢体を見せつける肉弾戦術は、視覚的な拷問にも用いられる。
別名・戸愚呂(妹)。躍動する筋肉の迸りを止めることは誰にもできない。座右の銘は『力こそパワー』。
とても燃費が悪く、非常にハラが減るらしいが、出撃時は【現地調達】するため空腹には困らない。
「なんか遭遇した敵艦隊が煙になってどんどんこの子に吸われていくんですけどマジで」とは姉の妙高の言。たまに足柄も吸われる。なぜだ。
なお運悪く彼女を中破させてしまった敵艦は「見ないでェ見ないでェ」と見せつけたいんだか見てほしくないんだかよくわからない叫び声を上げて突撃される。
突撃(肉弾)を喰らった敵艦は誰であろうと受けてバラバラになって吹き飛び、マレーシアの違法サルベージ行を営む者の家に直撃する。
海に沈んだ軍艦の廃材をギッてきてたけど、最近はスクラップの方が勝手に降って来るよ、やったね! と彼らは悲鳴を上げているらしい。断末魔とも言う。
なおこれは余談だが、この羽黒は提督ラブ勢である。提督の胃は死ぬ。
そして更に余談だが、第二の被害者が存在する。
※番外編的なおまけ~ドーピングコンソメスープ事件の被害者~
【before】
睦月「ねぇねぇ、大本営のお偉いさん♪ お偉いさん♪ あそこに、潰れたトマトがあるにゃし?」
【after】
睦キ月「数分後の、貴様らの姿だ……」ボンッ
ドーピングコンソメスープ事件、第二の被害者。睦月型駆逐艦【睦月】の筋肉を解放した真の姿。
つまみ食いでスープを定期的に口腔摂取した結果の為、ある意味自業自得。
とある世界線において理不尽な轟沈の憂き目にあった如月に心を痛めた睦月の「睦月にもっと筋肉さえあれば如月ちゃんは沈まなかったにゃしぃ」というツッコミどころ満載の願いが具現化した存在。
睦月型の薄い装甲という欠点を克服し、かつスピードは睦月型そのもので砲撃より肉弾戦が得意という悪夢のような存在。飛び散る汗。靡く美髪。躍動する筋肉。パーフェクトだ。
随伴艦への敵艦載機からの攻撃に関しては未来予測に近い反応速度を誇り、即座に対空砲撃(投擲)にて艦載機を全滅させる。
にゃしぃという語尾がチャームポイントのキュートな女の子。なお本人談。
「チャーム? キュート? ファーム(牧場)で牛を『キュッと』してそうの間違いじゃない?」とは鬼怒の言。今日も鬼怒のギャグは寒い。
誰も笑わなかった。笑えるはずがなかった。
何よりも強く。ただ強く。休日は山に籠り、熊や猪をかついで帰ってくる。てーとく、晩御飯の材料を獲ってきたにゃしぃ。
睦キ月「睦キ月の筋肉をもっともっと褒めるがよいぞ! 褒めて筋肥大するタイプにゃしぃ! うぇひひひっ」ムキムチン
提督(化け物かな?)
如月(なんて逞しい上腕二頭筋なの……///)
如月がある意味で幸せだからもうそれでいいんじゃないかな。
余談だが提督ラブ勢である。ていとくはもてるな! もてもてだな! ムキムキにもてもてだな!!
コンゴウは次第に、料理にのめり込んでいくようになっていった。
中華料理に関しての技量は、既に提督を越え、鎮守府一の腕前……前述の妙高型姉妹が良い例で、彼女に料理の教えを乞おうとする艦娘も増えていき、交流は増える。
艦娘の数が増えていくにつれて、食堂では注文式でのランチが楽しめるようになった頃、コンゴウは―――。
子日「今日は何の日ぃ? すぶたが食べたい日ぃーーーっ! すぶた定食下さーい!」
コンゴウ「広東風か北京風かどちらがいい?」
子日「??? 違いが分からないよぉ」
コンゴウ「肉と野菜を具材に、パイナップルなどの果実による酸味を用いるのが広東風。
肉のみの具材に、黒酢の酸味を用いるのが北京風だ。前者の方がおまえの味覚には合うだろうが、どちらにする?」
子日「じゃあ、広東風でおねがいします!! 今日は広東風の日ぃー!」ヒャッホイ
コンゴウ「フ、少し待っていろ……それと子日。この後は遠征だろう? お弁当も忘れずに持っていけ。今日はチマキだ」
子日「あっ、そうだった! ありがとう、コンゴウさん!」
提督(ずいぶん態度が柔らかくなってきたね……いい傾向だ。僕も負けてられない!)
鳳翔(もう中華では勝てません……割烹だって、中華にも洋食にも負けないってところを見せてあげます!)
今や、コンゴウの作る中華料理は、ランチ時においては競争になるほどである。
それに対抗意識を燃やした提督も、より洋食の腕を磨き、負けじとコンゴウや鳳翔も料理の腕を上げていく。実に好循環であった。
とはいえ、流石に世界三大料理の一つに数えられる中華料理である。
その旨さは実に分かり易いものであり――――鎮守府の過半数を占める駆逐艦には大人気であった。
島風「春巻きおいしぃー!! コンゴウしゃん! ありがとうございまーしゅ!」モグモグ
雪風「雪風もコンゴウさんのつくった春巻きだいすきです! おいふぃれふ!」モムモム
コンゴウ「島風、雪風、礼は有難いが、もう少し落ち着いて食べろ。頬にご飯粒が付いている」
提督(ぐ、ぐぬぬ……今日の、ランチ売り上げで、僅差とはいえ……つ、ついに……負けた……ほ、鳳翔さんにまで)
鳳翔(ふふふ、今日は良いウニとイクラとマグロが入ったので、豪華三色丼(数量限定40食)です……タイミングを計るのもまた勝負の鉄則なのですよ、提督?)
数量限定と言う言葉に、日本人は弱い。
そして古来より日本では『三』という数字は特別であったことも、深層心理に働きかけたのかもしれない。何気に策士な鳳翔であった。
夕立「ちんじゃおろーす、おいひぃっぽい。ごはんもたきたてでおいひぃっぽーい」アムアム
時雨「このエビチリ、エビがぷりっぷりでおいしいね。僕が作るとこうならないんだよ……ううむ」
コンゴウ「夕立、おかわりはいるか? 時雨、今度厨房に来ると良い、手本を見せてやる」
時雨「本当かい? 嬉しいよ。明日あたり伺うね」
初春「ふかひれ……うむ、なんぞ……高貴な食感じゃのう……滅多に食べられんな」ポワワ
叢雲「おいひぃ……背びれ、尾びれ、胴びれ、全然食感が違うのねぇ……良いスープで、とろとろで……ああ、幸せ……」ポワワ
コンゴウ「ああ、あまり数はないから、一人一食までだ。味わって食べると良い」
長月「はふっ、もぐ、んぐ、はふはふ……」ハフハフ
菊月「もぐ、ふーふー、もぐ、あむ、むぐむぐ……」ハフハフ
コンゴウ「長月、菊月。汗が凄いぞ? 激辛麻婆豆腐が好きか」フキフキ
長月「あ、す、すまない。大丈夫だ」アワワ
菊月「う、うむ……実は、辛かった……」アセアセ
コンゴウ「気に入ってくれるのは何よりだが、婦女子が汗だくで食事を摂るのはどうかと思うぞ」フフ
菊月「く、ふ、不覚……このピリッとした辛さが、どうにも定期的に欲しくなってしまってな……」カァ
卯月「そんなに汗だくになるぐらい辛いぴょん? ちょっと一口もらうっぴょん」パク
コンゴウ「あ」
長月「ちょ」
菊月「なッ! わ、私のだぞ!」
卯月「がらぁあああああああああああああああああああああああああああい!!!!!」ビェエエエエエ
弥生「自業自得……」ボソッ
卯月「み、みみみみみじゅっ! みじゅぅううううう!!」ポロポロ
長月「み、水はだめだ! 余計に辛くなるぞ!!」
卯月「ひょ、ひょんなぁ……コ、コンゴウしゃん、たひゅけてぇえええ……」エグエグ
コンゴウ「やれやれ……ちょっと甘いものを取ってくるから、少し待っていろ」ガタッ
弥生「すいません、コンゴウさん……」
コンゴウ「気にするな、弥生。その気遣いだけでも私は嬉しいよ」ナデ
弥生「……はい」テレッ
菊月「わたしのまーぼー……」ショボン
長月「一口ぐらいいいじゃないか。ケチ臭いぞ菊月」
菊月「なっ」
駆逐艦らと一緒に昼食をとっている姿も、しばしば見られるようになっていた。
また、昼食後には軽食……中華点心や飲茶を提供する甘味処を経営し始めた。
間宮と伊良湖が大本営の嫌がらせで着任しない上に、彼女たちをうっかり建造して大本営にばれると大変なので、仕方のない処置であった。
遠征や出撃後の疲労した艦娘達の憩いの場として、『甘味処コンゴウ』は愛されるようになっていく。
敷波「あっ! この杏仁豆腐、スイカが入ってる!」パァア
コンゴウ「いいスイカが入ったからな。スイカは好きか、敷波」
敷波「うん! あたしも綾波も、スイカ好きなんだ! 美味しいよね、シャクシャクしててさ。んー! これこれ、なんかいいよね!」シャクシャク
綾波「夏が来ましたねぇ……ぷるぷる杏仁豆腐もいいですけど、こっちのシロップの方も、綾波好きなんです。コンゴウさんは、どっちがお好きですか?」モムモム
コンゴウ「私か? そうだな……タピオカにココナッツを加えたシロップへ、トロトロ杏仁豆腐を入れて食べるのが好みだ。タピオカのもちもち感と杏仁のとろりとした食感の対比が面白い」
敷波「わ、それおいしそう!」ワクワク
コンゴウ「マンゴーを用いた黄色い杏仁豆腐もあるぞ」
綾波「こ、今度、それを注文してもいいですか?」ワクワク
敷波「あたしもタピオカココナッツの方!」
コンゴウ「ああ。どちらも用意しておこう」
嵐「おー、そういう杏仁豆腐もあるのかぁ……って、萩? 食わねえの? メチャウマだぞ、この月餅。お茶もうめえし」モムモム
萩風「そ、その、実はちょっぴり太っちゃったから、ダイエット中で……」シュン
コンゴウ「萩風」コトリ
萩風「ひゃっ? コンゴウさん? これ……ゼリーですか? で、でも、私……」
コンゴウ「安心しろ。甜茶に少量の蜂蜜を入れてゼラチンで固めたゼリーだ。カロリーも少ない」
萩風「ほ、本当ですか!? わぁ! これなら私も……あ、おいしい! 今度作ってみます! ありがとうございます!」
嵐「はは、そりゃよかった。萩とこうして茶ぁしばけないのは楽しみが減っちまうしなぁ」
コンゴウ「健康的な食事も大事だが、運動も大事だぞ、萩風よ」
萩風「うう……コンゴウさんにはかないませんね」
また金剛型との関係もなかなか良好であるようで、
金剛「お、おわ、あ、あつっ!? アツゥイ!?」ワチチチ
比叡「ひえっ!? こ、金剛お姉さま! 芝麻球(チーマーカオ)は一口で食べちゃダメですよ! 揚げ団子なんですから!」
金剛「しょ、しょうゆうことは、先に言うデース! うぅー、舌をヤケドしたデース……」ヒリヒリ
コンゴウ「言わずとも触った時に熱さが分かるだろう……無様な。それでも栄えある金剛型一番艦か貴様は……落ち着いて食べろ。駆逐艦に笑われるぞ」ヤレヤレ
金剛「ううー……面目ないデース。それにしてもコンゴウ、この揚げ胡麻団子オイシーですネー。揚げてあるのに、なかなかサッパリしていマース」モグッ
霧島「ええ、表面にちりばめられた胡麻の風味に、サクッとした食感、中はモチッとして……中のあんは、小豆ですか?」モム
榛名「あ、こっちは蓮の実あんです。こっちは……白あんでしょうか。色んなバリエーションがあるのですね」サクモチ
コンゴウ「ああ。紅茶もいいが、案外飲茶も悪く無かろう」
金剛「そうデスね。でも紅茶だって負けてまセンよ。今度、一緒にティータイムはいかがデース? お部屋に招待しマスよ?」
コンゴウ「明日の午後であれば都合がつくが」
榛名「ええ、是非!」
霧島「はい。楽しみですね」
比叡「みんなでおいしいマカロン作って! 気合! 入れて! お待ちしてます!」
コンゴウ「―――比叡が作るのならば行かんぞ」
比叡「ひどい!? こっちのコンゴウお姉さまはひどい!?」
コンゴウ「フフッ、冗談だ……楽しみにしているよ」
そんなこんなで、非常にいい傾向を見せているコンゴウであった。
洋食提督が鎮守府に着任してより、一年半――――そんな中、ある事件が発生した。
事件の中心人物となったのは、特にコンゴウに懐いていた、重巡洋艦【摩耶】であった。
この事件が原因で、提督並びにこの鎮守府に所属する艦娘達は、本格的に大本営を敵に回すことになる――――筈であった。
時は数か月前に遡る。
防空重巡洋艦へ成長するという性能に期待し、提督は彼女を呼び寄せるため、彼女にゆかりある料理を探し、必死に吟味した。
その結果選ばれた料理は――――。
摩耶『コンゴウさーん、ローチンコを定食セットで一つくれー!!』
コンゴウ『ああ、わかt………摩耶、今……何を大声で叫んだ?』
NGワードで消される可能性があるため、今一度記載する。
摩耶『んぁ? だから、ロー○ンコ!! アタシ、アレ大好きなんだよ!』
コンゴウ『すまん。聞き間違いじゃなかった。私が悪かった。だからそれを大声で言うのはやめろ』
何故だか卑猥になったが、もう一回。
摩耶『ローチ○コはローチ○コだろ? なんかヘンなこと言ったか?』
コンゴウ『ヘンというか、なんというか、女性が言ってはいけない類の単語がそれには混ざってしまっているんだよ……』
ダメ押しにもう一回。
摩耶『言っちゃダメってなんだよ。問題ないだろ? ローチン○ォオオオオオオオ!!!』
コンゴウ『やめろ大声で特定の台詞を連呼されるのは凄く私に効く! やめてくれ!!』
消されてないことを祈る。
摩耶は純朴であった。ともすれば蓮っ葉とも取られがちな言動や、からりとした性格と裏腹に、彼女には世間一般的な性的な知識が欠けていた。
コンゴウもその辺りそれとなく注意していたのだが、何分摩耶は多忙で、あちこちの鎮守府への支援や演習、海域攻略のための出撃などで、鎮守府を開けることも多い。
つまり、外食することが多いのだ。
他の鎮守府でも同様に振る舞ってしまった。食事の注文時などである。
そして、それを大本営の域のかかった鎮守府でも行ってしまい、相手方の提督がまた洋食鎮守府を目の敵にしていたという不運も重なり、その情報が秘かに大本営へと報告される。
嫌がらせ大好きな大本営がその情報を使ってやることなど、もはや火を見るより明らかである。
その結果、事件が起こる。
摩耶が――――鎮守府の艦娘に暴行を働いたのだ。
雲龍『あっ……ローチンコの好きな重巡さんだわ。えっと、確か、摩耶さんでしたよね。最近着任した雲龍です。よろしく……』
摩耶『………おう』
他の雲龍型姉妹共々、【一汁一菜の粗食】にて釣られ、しかしそのパラメーターは恐ろしく高い雲龍型の長女【雲龍】が、先任たる摩耶に挨拶する。
利根『おお、摩耶。久しいのう……先日着任した利根じゃ! しかしローチンコとはなんじゃ? なんじゃそれは?』
摩耶『………』プルプル
【エスカルゴのバター炒め】というまるで縁もゆかりもない料理で釣られ、後に恐るべき航空巡洋艦に成長する【利根】が、驚いて叫ぶ。
雲龍『……というお料理らしいわ。ローチンコか……ちょっと食べてみたいわ……』
利根『そうかそうか……摩耶はローチンコという料理が好きなのじゃなあ……吾輩も一度食べてみたいのう、そのローチンk』
摩耶『ちねーーーーーーーーーッ!!』ドゴーン
雲龍『えくすかりばー』グハッ
利根『んな!? ななな、なにをするんじゃ摩耶、いきなり! 吾輩らはただローチンk」
摩耶『ちね! ちねっ! ちねぇえええええ!!』ドゴ、ドゴンッ、グシャッ
利根『すりざりん』グハッ
なおこの二人に一切の悪気はない。建造されたばかりと言うこともあり、そもそもよく意味を理解していないのだ。
コンゴウ『な――――!? 何をやってる、摩耶!? やめるんだ!!』ガシッ
摩耶『は、はなぜぇえええええ!!』ジタバタ
偶然通りがかったコンゴウが、摩耶を羽交い絞めにする。そして、摩耶の姉妹たちも。
高雄『愛宕、鳥海! 雲龍さんを入渠させて!! 私は利根さんを!!』
愛宕『わ、わかったわ!』
鳥海『は、はい! 雲龍、しっかりして!』
コンゴウ『ま、摩耶、どうしてこんな……』
摩耶『う、うっ、うっ……』ポロポロ
コンゴウ『ま、摩耶……?』
摩耶『なんだよ、なんで、あたしが、そんなの、ひど、ひどいじゃんか……美味しい料理なのに、あ、あ、あだじは、あだじはっ、ぞんなんじゃ、ないのに……おどごずぎみだいに、いわれで……』エグッエグッ
前述の通り、その荒っぽい性格や男勝りな態度とは裏腹に、摩耶は純朴だった。その意味も分からず、自分の好きな料理はローチンコだと言っていた。
コンゴウは、この時『後悔』と言う感情を知った。戦術ネットワークにて、キリシマからもたらされたその情報は、体感して初めて理解できる類のものであると言うことも、同時に。
摩耶『が、がんばっだのに、いっじょうげんめい、出撃も、演習も、支援も、が、がんばっだのに……ご、ごんなの、ひ、ひどいじゃんか、ひどいじゃんかよ……』
コンゴウ『摩耶……』
提督や漣もやんわりと窘めていたのだが、その意味をはっきりと教えてあげなかったことを、彼と彼女は猛烈に後悔している最中である。
気が付けば、もう手遅れだった。
遅かったのだ。
コンゴウ『……少し、神経質になり過ぎだ。落ち着くんだ……あの二人に悪気なんてなかったし、誰も悪気なんてない。よその鎮守府の者がふざけて言ってるだけさ』
摩耶『で、でもっ、でもっ、あ、あだじ、そどの、よぞの、一般人のひども、わだじをみで、ば、ばかにじで……ぐ、ぐやじくで……はずかじぐでっ……』ヒック、ヒック
コンゴウ『大丈夫だ……私も、おまえの姉……高雄も、愛宕も、妹の鳥海だって、ちゃんと分かっている……安心しろ』ギュッ
摩耶『う゛、う゛ん………コ、コンゴウ、ざぁん……!!』ビェエエ
コンゴウ『泣くな……困ったお姉ちゃんだと鳥海に笑われるぞ? さ、後でちゃんと雲龍と利根に謝るんだぞ……?』ヨシヨシ
摩耶『うん……うんっ……』ヒックヒック
摩耶は防空番長としての面目躍如とでもいうべきか、非常に対空性能に優れた改二となり、他の鎮守府からも『あの』と呼ばれるほどに武勲を上げた。
同時に、摩耶は【ローチンコ】好き重巡としても名を馳せてしまった。
やがて防空番長とローチンコ好きを合わせた仇名【チ○コ好き番長】と呼ばれるに至る。何故かこれがマスコミにリークされ、洋食鎮守府の摩耶は名指しで馬鹿にされる始末。
もちろんこれは大本営による悪質な情報操作による風評被害である。もはや苛めだ。提督はこの風評被害をなんとかしようと、大本営に強く異議申し立てを行った。
だが、却下された。何故ならば―――。
大本営『イジメはありません』ククク
あ××丸『もちろんであります』
ま×ゆ『ええ、栄えある海軍の華たる艦娘の皆さんが、まさかそんなことするわけないじゃないですか』
大本営『フフフ、大本営付きの君たちはやはりモノが違うね。よく分かっている』フフフ
言うまでもないが、大本営の連中は苛めを黙認する腐った性根の持ち主ばかりである。
とんでもない奴等である。つまり大体大本営って奴等が悪いのだ。
最近、とんでもない成果を上げてきたこの鎮守府を疎ましく思っていることが明らかであった。それが民間出身の提督と言うことも気に入らないのであろう。
提督『………』
なお提督だが、この状況を重く見ていた。良かれと思って作った料理が、それを美味しいと、好きだと言ってくれる摩耶が、まさかそんな扱いをされるとは思っていなかった。
摩耶を不憫に思う一方、激しい怒りが提督の中に渦巻いていた。
提督はヘタレである。だが泣いている女の子を前に、知らんぷりしてヘラヘラしているほどクズではなかった。
曙『提督……私は、わ、私は……』
提督『皆まで言うなよ……』ビキキッ
潮『て、提督……!!』
朧『提督……』
漣『ご主人様………漣は、今日と言う今日はもう、本気でブチ切れました。秘書艦失格です……』
提督『ごめんね、漣ちゃん。提督っていう立場で、君はその秘書艦で、だけど……こんな事態になるまで、僕は』
漣『いいんです。いいんですよ。きっと、こういう時のために、ウチの鎮守府はみんながみんな、強くなったんだと思うんです……提督』
初めて、漣は彼を提督と呼んだ。その重さの意味を、提督も心で理解した。
提督『いこうか』
漣『いきましょう』
提督の後に、第七駆逐隊の四人が続き、執務室を出る。
そこには、多くの艦娘がいた。
天龍『カチコミか?』ジャキッ
五十鈴『大本営を相手に? 馬鹿ね………最後まで一緒よ、提督』
提督『天龍ちゃん、五十鈴ちゃん……やることは、明確な反逆行為だぜ?』
天龍『ダチの不当な扱いをさも真実のように語られ、謝罪もなく、こちらを馬鹿にし続ける……それをブッた斬るのが反逆罪だってんなら、オレは反逆者で構わねえ』
五十鈴『背後から撃たれる憂いを断ちに行くだけよ……あんな奴等が上に要るんじゃ、オチオチ安心して出撃もできないわ』
提督『……馬鹿だなぁ、皆、馬鹿だな』
長波『馬鹿ばっかさ、この鎮守府の奴らは。行こうぜ……まさかあたしを置いてかないよなぁ、提督』
提督『長波ちゃん……川内ちゃん、神通ちゃん、那珂ちゃんも』
川内『夜戦するなら、この私を外すなんてなしでしょ!』
神通『獅子には肉を。狗には骨を。龍には無垢なる魂を……今宵の虎徹は、血に餓えている……』
那珂『やろぉおおおぶっころしてやぁああある!!』
卯月『しれーかん……卯月も、すっごく怒ってるぴょん……連れて行ってほしいぴょん』
弥生『弥生、凄く怒ってるよ……怒ってるから……』
電『電ノ本気ヲ見ロォオオオ……見テ死ェエエエ……』
深雪(ボスケテ)
頼もしすぎる戦力であった。何よりも、
提督『皆……うちの艦娘は、みんな僕にとってかわいい子たちだ。奴等は僕の大事な君たちをコケにした。不当に価値を貶めた。絶対に許さない』
提督自身が憤っていた。というか、
提督『明日の昼に出立、開戦は夜になるだろう……夜襲だオラァアアア!! オウ、日向ァ! 俺の屠殺用ナイフ持って来いナイフゥ!!?』
日向『お、おう(怖いぞ君……そういうキャラだったか……?)』
既に一人称すら変わっている提督であった。眼は血走り、焦点が合っていない。完全にブチ切れていた。
後にも先にもこんなにもキレた提督を見るのは初めてだった――――艦娘達の多くが提督を頼もしいと感じた。
集った者達は、百名を超えた――――正確に言えば、鎮守府における全艦娘が勢ぞろいしていた。非戦闘要員の明石までもがいる。
秋月『対空射撃のやり方……砲撃も、雷撃も、何もかも……全部、全部、摩耶さんに教えてもらいました。私の師です。尊敬する人です……それを、それを!!』
加賀『幾度、彼女の対空射撃に助けられたか……それを、あいつらは』ジャキッ
瑞鶴『奇遇ね一航戦……呉越同舟とはいかないけど、一時休戦よ。去勢だ。全員×××もぎとってやるわ……』シャガッ
高雄『高雄型重巡洋艦三番艦の名誉は、即ち高雄型全ての名誉………それを穢した罪は、その血によってのみ贖われる』
愛宕『殺してやる………』ジャキッ
鳥海『待っててね、摩耶……必ず『つけ』は払わせてやるわ……必ず、必ずよ。バックレなんてさせないから』
前世や今世において、摩耶と生死を共にした戦友だ。世話をし、世話になった子たちばかりである。
誰も彼もが戦意に身を焦がしていたが―――秘書艦たる漣や、第七駆逐隊のメンバーたちは、後に述懐する。
漣「ああやって、私たちのこといっつも真剣に思ってるところだけ出してれば……カッコいいのにさ」
曙「アンタがそれ言う? いっつもフザけてばっかのあんたが?」
漣「う、うぐぐ……な、なんもいえねー……」
曙(ま、そういうところも含めてお似合いよね……あんたたちって、くくっ)
朧「でもまぁ……結局、私たちに出番無かったね」
潮「うん……ちょっと残念……あのことは、潮も本当に頭に来てたから」
曙「やらなくて正解よ。それこそ、あいつらみたいに世界を敵に回すには、私たち規模がでかくなりすぎたわ」
当時を思い出すように、曙は天井を見上げ、呟く。
曙「――――蒼き艦隊のようにね」
…
……
………
………
……
…
コンゴウ「…………」
泣き疲れて眠る摩耶をベッドに運んだ後、廊下を歩くコンゴウのシングルコアが、久しく高レベルで稼働していた。
額にはイデア・クレストがくっきりと浮かび上がり、その表情は険しい。
コンゴウは今、己の全身を包む言いようのない破壊衝動にも似た感情を、知っていた。
『それ』を、今後は今まさに、己の身を持って理解した。
そう認識するや否や、コンゴウは鎮守府の本館から外へ出る。
時刻は夜22:00。
彼女は、この鎮守府にて建造されて以来――――初めて提督の言いつけに逆らった。
【無断外出】を犯した。
折しも、提督たちが決起のために出撃する前日のことであった。
大本営は思い知る。
霧の艦隊。
そして――――霧の艦隊と伍するもう一つの艦隊。
それを敵に回すことの意味を、大本営は骨の髄まで思い知る。
…
……
………
………
……
…
日本の某所―――時刻は深夜。大禍時。
世界各地の鎮守府の総司令部たる大本営が治める港を襲撃する艦隊があった。
その艦隊は突如、港の正面海域へと出現した。
しかし、流石の大本営。抱える戦力は、通常の鎮守府のそれとは比較にもならない。
数百にも及ぶ艦娘が、正面海域に展開された。
対峙する艦娘――――それが艦娘と認識していた時点で、彼らの敗北は決められていたのかもしれない――――は、僅かに8名。
明らかな過剰戦力。
虐殺が始まろうとしていた。
しかし、『どちらが』そうであるのかは、互いに認識が異なっていただろう。
https://www.youtube.com/watch?v=xiZI-bNoIyw
宣戦布告の詩が響く。
その詠い手は、蒼き鋼。
イオナ「コンゴウからの依頼を、これより遂行する。作戦開始――――急速潜航の後、浸食魚雷を発射。敵戦力を無力化する」
蒼き艦隊・潜水艦・イ401――イオナの姿があった。
彼女だけではない。
タカオ「あの鎮守府にいる摩耶は、メンタルモデルもどきとはいえ、私の妹には違いないわ。それをコケにしたってことは……私をコケにしたってことよね?」
重巡洋艦・タカオがいた。
キリシマ「久々に大暴れと行こうか。さて……誰から力の差を思い知りたい?」
大戦艦・キリシマがいた。
ハルナ「相も変わらず学習しないな、人類は。どうしてお前たちは数が揃うと急に馬鹿になる? お前たちに戦いという言葉の定義を、改めて教えてやる」
大戦艦・ハルナがいた。
イ400「人類側の大本営を襲撃とは、どんな心変わりだヒュウガ」
イ402「私たちとしてもこれには利があるが、あくまでも一時的な協力関係に過ぎない。それを忘れるな」
ヒュウガ「はいはい、了解しましたよ(私の艦艇まで復元できるぐらいのナノマテリアルの提供が報酬となれば、やるしかないわよねん)」
マヤ「ねえ、私を苛めたのって貴方達? こっちの私を苛めたんだって? あはは――――――カーニバルだヨ!!!」
潜水艦・イ400とイ402がいた。大戦艦・ヒュウガがいた。重巡洋艦・マヤがいた。
そして、彼女たち8名を率いる旗艦――――9人目の、艦娘。否、
コンゴウ「私は今『怒って』いる……だが殺さぬ。故に――――私の溜飲を下げるため、せいぜい喚き散らし、泣き叫び、絶望しろ」
怨敵を抱きしめるように手を広げ、不敵にほほ笑む、霧のメンタルモデル。
霧の大戦艦――――コンゴウがそこにいた。
これより始まるのは、一方的な侵略だ。振るわれるのは、一方的な暴力だ。
超重力砲が薙ぎ払われ、艦娘達の悉くが大破し、しかし轟沈する者は一隻もおらず。
当初は襲撃に対し楽観視していた大本営の幹部たちは、この異常事態にようやく焦りを覚えたのか、他の鎮守府へと救援を要請する。
だが、それはできなかった。
ありとあらゆるデジタル機器、通信手段が断絶され、孤立無援の状態に陥っている事に、彼らはようやく気が付いた。
脱出しようにも、既に彼女たちは上陸し、大本営の幹部たちのいる建物を包囲している。
正面海域には、もはや無力化されて身動きの取れない艦娘達が浮かぶのみだ。
全身の穴と言う穴から汚液を垂れ流しながら聞くに堪えない命乞いをする幹部たちに対し、コンゴウは侮蔑の視線を向け、
コンゴウ「苛めはないんだろう? その通り――――苛めなどない。これは復讐だからな」
大本営にとって本当の悪夢の一夜が、『これから』始まろうとしていた。
…
……
………
※今日はここまで。次回コンゴウ編エピローグ。後はダーラダーラと終わりに向けての話とか書いてきます。
※久々なので前回までのあらすじ
コンゴウ「チ〇コは立派な食糧だッッッ!!」
あらすじ終わり
………
……
…
提督「やあ、みんな。今日の朝刊見たかい?」
潮「え、ええ……はい」
朧「まあ……見ましたけれど。なんて言えばいいんでしょう……この気持ち。モヤッとする感じです」
曙「なんというか、出鼻を挫かれたって言うか、昨日の決意は何だったのかって言うか……ああもう!! イライラするわ!!」
漣「漣はなんていうか……うわあ、ハズくて死にたい」
提督「同じ気持ちだよ……年も考えずマジギレしちゃった……」
朝刊の一面記事には、提督たちがまさに襲撃しようとしていた海軍大本営の幹部たち……彼らが逮捕されたことがデカデカと記載されていた。
TVをつけても報道されるのはそればかりだ。そうなると鎮守府にもマスコミが殺到することが予想されたのだが―――。
天龍「………『あくまで海軍大本営幹部や、彼らと黒いパイプでつながった一部の政治家や資産家、警察関係者や公務員が共謀したことによる犯罪であり、現場に勤める艦娘やその提督たちには一切の責はありません』ねぇ……」
龍田「クドいぐらいにテロップが流れるし、アナウンサーさんや自称評論家さんもしばしば口にしてるわね……言わされている感がすごいわ。邪推されちゃいそうなぐらい」
よほどの圧力がかかったことは誰の目にも明らかであった。提督から見れば「むしろ全員弱み握られてんじゃねえの?」ってな具合である。
五十鈴「あ、摩耶への誹謗中傷に対する報道の謝罪会見まで。この頭下げてる人、局のお偉いさんたちでしょ?」
隼鷹「うわあ、泣いてる……泣き落としかよ、ダッセえな……」
金剛「ワーオ……なんて情けない……大人の男がやることデスか……?」
余談であるが、彼らはこの後に職を辞し、しばらくの間は臭い飯を喰う羽目になる。色々と黒いことをやっていたことが明るみに出たらしいが、その情報源は不明のままである。
ため息をついて、提督は手元の新聞記事に、改めて目を走らせる。
大本営が隠匿していた不正資金運用……横領を始め、資材の横流しや国家に対する利敵行為とも取られる数多くの犯罪。
その証拠が、マスコミや警察関係者に一斉送信された。無論、マスコミと警察関係者の名前もそこにはあったが、握りつぶすにはもはや遅すぎた。
大本営が先にメディアに大々的に法則された挙句、逮捕されてしまったからだ。その経緯というのが、
提督「同じ男としては、なんというか……いや、同情はしないけど、こうはなりたくないな」
漣「ご主人様。男も女もなく……っていうか女だったら……こんな写真撮られたら、もう死ぬしかないっす」
デカデカと大本営の幹部連中がゴルゴダ風味に全裸磔(はりつけ)されている誰得写真がそこにあった。
絶妙な角度で【おいなりさん】は見えていないが、隠れているだけだ。角度次第ではモロであろう。この写真を撮影したのは紛れもなくプロである。
前述のメールで警察が出動、マスコミ関係者も向かったところ、大本営が運営するとある基地が更地になっており、そこに出来たガレキの山に彼らが磔になっていたという。
そこで先のメールの話になる。彼らは一人残らず現職を干されることになるのは当然、内乱罪の疑いで逮捕された。
提督(北は北海道、南は沖縄、大小あらゆる警察・メディアにメール送信とか尋常じゃねーぞ……)
それに伴い、大本営の幹部の首は全てすげ変わることとなる。
この事件はTV、新聞という媒体のみならず――――ネット上のSMSやニュースブログなどでも大きく取りだたされた。
週間○春にもスッパ抜かれた。
よう○べで一般人が撮影したらしき、件の磔映像もトドメであった。
青葉「なぜ削除されないのか」
衣笠「謎ね」
秋雲「運営がホモォという説がワンチャン」
長波「ねーよ」
「【現代の】大本営がこの世全ての原罪を背負うようです【キチスト】」という動画が既に一億再生を突破しており、もう隠せる話ではなくなっている。
なお動画ではバッチリモザイクが入っているが、顔にではない。顔はモロ。本人確認のための検証サイトへのURLまで記載されていて、言い逃れ不可であった。
新しい幹部たちも、これからは常に他の鎮守府の清廉で知られる元帥クラスや、民間人からも監視される針の筵のような職場で働くハメになるらしい。
とっ捕まった元幹部たち、そして彼らと繋がっていた連中は遅かれ早かれ不幸な事故に遭うことだろう。
彼らがその利益に一枚どころか数十枚は噛んでいたとしてもだ。生贄として、死人に口なし――――彼らには間違いなく確実な死が訪れる。
青葉「い、一件落着ってことでいいんですかねぇ? なんか圧力というか、物凄い何かがあると思うんですけど」
提督「胸糞悪いけど、これも政治って奴だよ―――という訳で、出撃は中止になったんだよ、コンゴウ」
素知らぬ顔で執務室のティーテーブルで紅茶を楽しむ彼女に、提督は言う。
コンゴウ「何故私に言う?」
提督「これだけの悪事を遺憾の意で済ますほど日本という国は終っていない。つーか摩耶の件が完全にオマケみたいになってる……隠れ蓑にしてはデカすぎて逆に目立つぞ」
コンゴウ「知らん」
提督「そうか。知らないか………ところでコンゴウ」
コンゴウ「なんだ?」
提督「昨日どこに行っていたの?」
コンゴウ「…………よ、夜遊びだ」
漣(いや、バレバレ……嘘ヘタクソか! 素直か!)
朧(タイミングが…………つまみ食いがバレた潮だってもうちょっとうまい言い訳するよ………多分)
潮(多分って!? っていうか、つまみ食いなんてしてないから! ないからね!?)
提督「そうか。無断で?」
コンゴウ「う、うむ。そうだ」
提督「悪びれることも無しね。じゃあ罰を与えるけど」
漣「ッ、ご、ご主人様。差し出がましいことを言いますけど、それは、それは――――」
コンゴウ「お咎めなし、というわけにもいかんだろう。秩序を預かる提督としての立場を考えれば、私の身勝手を許すわけにはな」
提督「そういうこと。罰を受けるつもりはあるんだ?」
コンゴウ「…………と、当然だな。甘んじて受けよう」ガタガタガタガタ
曙(足震えすぎィ!?)
潮(生まれたての小鹿だってもっとシャンとしてると思うな)
提督「じゃあ………これからも、ここで艦娘の皆に料理を作ってくれるかな。期限はないよ? この鎮守府がなくなるまで、ずっとだ」
コンゴウ「…………!」
漣(――――あ)
曙(――――あら)
提督「不服か? コンゴウ。漣も」
コンゴウ「………分かった。その罰を受け入れよう」
漣「………ぷぷっ」
曙「っ、ちょ、笑ったら駄目でしょ、漣……」
こうして一連の騒動は終わった――――かに見えたが、その数週間後。
間宮「着任しました」
伊良湖「これからよろしくお願いします!」
元々大本営の嫌がらせで着任していなかった間宮と伊良湖の二人が着任と相成った。
………のだが。
コンゴウ「よろしくお願いできんな。帰れ」
摩耶「そうだ! 大本営に帰れ」
間宮「えっ」
伊良湖「えっ」
コンゴウ「クソが!」
摩耶「クソが!」
間宮「」
伊良湖「」
塩対応のコンゴウと摩耶であった。
両者ともに頭がすげ変わったとはいえ、大本営など欠片も信用していない。
コンゴウ「ここは私と摩耶の居場所だ。貴様らの立ち入る隙間などない」
摩耶「そーだそーだ!」
それになにより、コンゴウにとってここは思い出のある場所になっていた。
新参者にホイホイくれてやるには惜しいと思えるほどには、既に愛着がわいている。
間宮「え………え? いや、あの、私たち、ここに料理人として勤めるってお話が行って……」
コンゴウ「知るか」
摩耶「知らん」
否、本当は知っている。だが了承しなかったというだけの話だ。なおコンゴウと摩耶だけが反対している。
摩耶「料理人は間に合ってるからさっさと失せろ。大体なんだ、その胸は。でかけりゃいいってもんじゃねーぞ」
間宮「胸は関係ないでしょ、胸は!!」
コンゴウ「腕の方も問題だろう。そのヘボい腕で何を食わせるというのだ? 料理の味は士気に関わる。艦娘達が轟沈でもしたら、貴様責任取れるのか?」
摩耶「そーだそーだー!」
伊良湖「ちょ、ヘボって……食べたこともない癖に、言わせておけば」
間宮「っていうか、なんでここまで言われなきゃならないんですか! ここの提督はどちらですか! 貴女たち一体何なんですか!?」
コンゴウ「ここの専属料理人だ」
摩耶「超一流のな!」
誇らしげに胸を張る摩耶であったが、摩耶は基本的にコンゴウの料理食い専である。
コンゴウ「というわけで帰れ。三流料理人の腕が感染したらどうする」
摩耶「そうだそうだー! 味が落ちたらどうする!」
間宮「………あ゛?」
伊良湖「は?」
摩耶「は? 『は?』ってなんだコラ、ナメてんのか。あんだ、やんのか? ん? あ? おい。なんだその目は。ああ?」
間宮「[ピーーー]! コイツら[ピーーー]!」
伊良湖「バラして潰してつみれ風味にしてやるッ!!」
コンゴウ「誰に向かってほざいた? ミンチにして海にばらまくぞ? お? あ?」
間宮「この便所バエがぁああああああ!!」
摩耶「吐いた唾ァ飲むんじゃねえぞテメエェーーー!!」
鳳翔「チンピラですか貴女たちは!? やめて!!」
提督「別にどっちも追い出したりしないからホントやめて!!」
やや摩耶の影響のせいか、ガラの悪くなったコンゴウの甘味処は、今日も平常運転です。
【コンゴウ編:艦】
【一航戦の悪夢編】
満を持して、正規空母・赤城は着任した。
前大本営幹部の失脚後、間宮と伊良湖から遅れる事二日……この洋食鎮守府へ配属されたのだ。
着任の連絡を受け、そわそわしながら執務室内をうろつく加賀に、提督はふと尋ねた。
提督『そういえば加賀さん。赤城さんってどんな人?』
加賀『さて……私としましても、艦娘としての赤城さんに会うのは初めてですが……聞くところによれば、非常に真面目な努力家が多いと』
提督『そっか、参考になったよ。ありがとう』
加賀『いえ、このぐらいは。しかし、どんな方なのか……少々、気分が高翌揚しています』
落ち着かない様子で執務室内を歩き回る加賀に、少し微笑ましげなものを感じながらも、提督は話半分程度の参考にしよう、と内心で思った。
加賀という艦娘の多くがやたら赤城さんを気にかける子が多い――――提督はそれを知っていたのだ。
身びいきも含めた上で、なんとはなしに加賀に聞いてみたという次第であった。
しかし―――提督は赤城と実際に会った後、なるほど、その前評判に違わぬ、非常にまじめないい子であると認識した。
提督『初めまして、僕がここの提督です。よろしくね、赤城さん』
赤城『はい! 一航戦・赤城! これからよろしくお願いいたします!』
提督(おお、良く通るいい声だな……)
柔和な微笑みをたたえた顔立ちで、真っ直ぐな瞳を提督に向けている。非常に第一印象が好ましかった。
コンゴウと摩耶に絡まれたとはいえ、いきなり醜態を晒した間宮と伊良湖とはエライ違いである。
赤城『加賀さん。これからお世話になりますね』
加賀『は、はい。また赤城さんと共に戦える日が来たことを、とても嬉しく思うわ』
赤城『まぁ、加賀さんったら』ニコニコ
加賀『………』ニコリ
加賀との顔合わせも良好―――いつだか五航戦と殺し合いを演じた人と同一人物とは思えない猫っ被りである。
そしてその実力もまた、噂通りのものだった。
非常に努力家だ。ストイックで、訓練の量も密度も段違いに高い。
正規空母として、そして一航戦としての誇りを掲げるその信念に劣らぬ実力を、赤城は実戦で発揮した。
水と食べ物が合うとでもいうのか―――特殊な建造をされた艦娘達に負けず劣らずどころか、メキメキと力を伸ばして強くなっていく。
ここまでは良かった。ここまでは。
提督「…………」
提督は加賀とは別に、実は違う空母にも、赤城について質問をしていた。
赤城ってどんな子? と。
返ってきた答えは――――悪い噂であった。
??『あの腐れ一航戦はとんだ無駄飯喰らいずい! 口を開けばメシ、メシ、メシ! まったく卑しい空母ずい!!』
プライバシー保護の関係上、名前を出すことはできないが、とにかくそんな悪評がある。
とはいえ、提督はそもそも洋食屋のオーナーだ。今でも一日に何百人前という料理をおいしく作ることが仕事である。
曙(そもそも料理は提督の仕事じゃないんだけど、それは……)
そんな思いを口に出さない程度の情けが、曙にも存在していた。
閑話休題。
仮に噂通り大食いだったとしても、そもそも鎮守府にいる艦娘の人数を考えれば誤差の範囲である。
提督「そう考えていた時期が、僕にもありました」
かくして、提督は今、厨房で絶賛、己の認識の甘さを悔やんでいる真っ只中であった。
赤城の食事量は、尋常に非ず。
本当に、食うのだ。ボーキ的な意味ではない。
食糧を、食う、のだ。
かっ喰らうのだ。
百人単位どころの話ではない。
軽く鎮守府の人員が数倍になったような量を、たった一人で食うのだ。
上がり続けるエンゲル係数。
どんどん目減りしていく食糧の在庫。
だからと言って食うのをやめろ、なんて言えるだろうか。否。無理である。色んな意味で無理難題であった。
ところで――――平常運転の赤城のスケジュールは、以下の通りである。
朝起きたら牛乳飲んで出撃。
帰って来たら朝ごはんをよく食べ、訓練して、また出撃。
帰ってきたらお昼ごはんをいっぱい食べて、また出撃。
帰ってきたら風呂入ってお腹いっぱい夕ごはんを食べたらストレッチしてホットミルク飲んですやすや眠る。
次の日はまた朝に起きて牛乳飲んでまた出撃。
―――その繰り返しである。なお休日は出撃が丸々訓練に置き換わるもよう。
故に、提督は強く言えないのだ。
見るからに体格のいい大和や武蔵が健啖なのは納得できる。
千代田がいっぱい食べるのもなんとなく納得できる。
高翌雄や愛宕がキャッキャと雑談に興じながら美味しそうに、しかし膨大な量を食べていくのも納得できる。
スポーツ大好きな長良や鬼怒が消費したカロリーを補充しようと、その見た目と裏腹に結構モリモリ食べるのは納得できる。
加古が動かないわりに結構食べることについては結構頭に来ているものの、許容範囲として提督は納得している。
潜水艦たちはその弾薬や燃料の消費が少ないことと裏腹に、食事に関しては結構色々と食べるのも、提督的にはOKですってなもんだ。
潮や浜風が「成長期」を言い訳にいっぱい食べるのも、まぁ納得できる。
だが――――赤城は上記の艦娘達の一日の食事量を足して割るどころか数倍したのが『一食相当』なのだ。
これには提督も『納得』できない。『納得』はすべてに優先すると、とある黄金の回転を用いる処刑者の一族の末裔も言っている。
提督「一体どうしてこうなってしまったんだ」ジュージュー
漣「ご、ご主人様? お、お気を確かに……」
提督「手を止めないでね。下ごしらえお願いね。ひたすら焼くからさ……僕は、ただ肉を焼くだけの存在になるんだ……」
漣「」ブワッ
特に、赤城が被弾して帰ってきた今現在は凄かった。否、酷かった。
思わず漣が涙するほどに。
赤城が大破して帰って来たのは、今日が初めてのことだった。
提督が厨房で絶賛地獄を見ている原因、それは言うまでもなく――――。
赤城「モグ、モニュ、ハグ、クチャ……ハグ……」カチャカチャ
かつてないほどに食事量を増やす、赤城。それが全てであった。
瑞鶴「………赤城さんは被弾されたみたいですね」
翔鶴「ええ、以前から出撃して被弾されたときはいつもよりお腹がすくと仰ってましたし。ましてや今回は大破です……」
飛龍「メニューは全てステーキ、付け合わせのライス(お櫃ごと)に統一したいとか言ってましたが、まさか本当にやるとは」
龍鳳「流石にコストがかかりすぎると反対意見を出した提督は、無表情の赤城さんにひと睨みされた途端に黙り込んで……」
雲龍「これは………壮観ね」
栄養学に真正面から喧嘩を売るメニューに提督は最初反対したが、
赤城『…………』ニコリ
提督『』
一航戦の誇りを込めた無言の眼力の前には、屈せざるを得なかった。
なんかいつもと同じ笑みなのに、背後に金剛力士像めいたなんかが見えたという。
これこそが、後の最恐空母・アーカーギの未だ成長期にある美姿(おすがた)である。
蒼龍「ただひたすらにそれだけ食し、キッチンの肉の在庫を空にする気ね……」
グラーフ「オークの末裔かあいつは」
アクィラ「シィッ……聞こえたら襲われるわよ」
ドイツの空母はなかなかに辛辣であった。
平和なドイツ村に赤城が攻め込んでくるなんて日も近いかもしれない。
赤城「大鳳さん。ご飯のおかわりを」スッ
大鳳「は、はい! ただいま……」
龍驤「よ・く・喰・う・なァ~~~~。凄い食べっぷりやで、しかし。ウチ小食やさかい、なんや、ちょっとうらやましいなぁ。色々食べれるやん?」
鳳翔「フフ、お金のかかることですね。しかしあの量を、しかし味わって食べてくれる……料理人としては気持ちのいいものです」
龍驤は感心したように頷いている。まだ分かる。
しかし鳳翔の認識は少しズレている。そりゃあ美味しそうにいっぱい食べてくれるのは提督だって料理人にとって嬉しいが、それにも限度がある。
提督「…………」ジュジュー
提督はガラスのように透明な瞳でステーキを焼き続けた。そうだ、彼は今、肉を焼くだけの装置となっていた。
提督は料理が好きだ。料理を食べるのも、作るのも、美味しそうに食べている人を見るのも好きだ。
だからこれは本望だ。
本望の筈だ。
なのに、
提督「…………」ポロポロ
漣(ご、ご主人様……)
その瞳から滴り落ちるものは、一体何なのか。
肉にかからないようゴシゴシと目元を拭いながら、しかしそれでも肉を焼く。
肉を焼き続けた。
焼き続けた。
焼き続けて、焼き続けて――――。
提督「ふざけんなてめえどんだけ食うんだバァカ!! バァアアッカ!!」
漣「!?」ビクッ
――――と叫ぶころには、もう百回以上、キロ単位のステーキを焼いていた。
赤城「まぁ、ここはサガリのお肉? ……こっちはシンシン? いい歯ごたえ……ハツかしら。んん~~~ッ、おいひぃ♪」
提督「ッッ………!!」
赤城「味わいも段々と塩とバターから、醤油の風味も漂って……あら、これはわさび醤油? 味付けの濃紺までハッキリ出してきて……やっぱり提督のご飯はすごいでふねぇ」モグモグ
提督も馬鹿の一つ覚えのように肉を焼いているわけではない。
赤城が食べやすいようにと、味付けを変えたり、食感に差がでるよう肉の部位を変えたりとした工夫をしていた。
これが更に赤城の食欲を加速させるのだが、これについてはぶっちゃけ提督の自業自得ではある。
提督「っ、く、くそッ! 正解だよッ! いい舌してやがるッ! これだけの量を、しかし味わって食べやがって!」プルプル
潮「てぃ、てぃーとく……」
提督「あの笑顔を見ていると、もっと食べさせてあげたく………く、悔しいっ! でも………焼いちゃう!!」ビクンビクン
曙(キモい)
量を食われるのはコストの観点から経営者として困る。
だが料理人としてマズいものは出せない。
料理人の悲しいサガであった。
雲龍「私、少食だから……少し羨ましいわ。見てるだけでお腹いっぱいになる。美味しそうに食べるのね、あの人」
天城「私は胸やけがしてきます」
葛城「同じく」
燃料的な意味でも食糧的な意味でも粗食を旨とする雲龍型の彼女たちにとっては異様な光景である。
加賀「少しだけ、羨ましい……赤城さん、凄く幸せそう」
蒼龍「う、うーん、ちょっとだけ分かるかも……量を食べられるってことは、その分いろんな味を一食で楽しめるってこと……」
翔鶴「成程……流石は一航戦・二航戦の先輩です。限られた人生。食事の機会もまた有限……それを誰よりも楽しめるということ。一つの幸せの完成系と言えるのかもしれませんね」
加賀「ええ」
蒼龍「だよね」
翔鶴「はい!」
飛龍・瑞鶴(それはひょっとしてギャグで言っているのか!?)
一部の空母は既に精神をやられているらしい。
赤城「あむ……♪ おいひ♪ んむ、むぐ、んぐ………ん? 次は……?」
加賀「赤城さん………もう適量かと」
というか、もう鎮守府には牛肉のひとかけらすら残っていなかった。
龍鳳(い、一体何百キロ食べたんです……?)
千歳「ば、馬鹿な……有り得ない、有り得ないわ。明らかに赤城さんの胃袋の容量どころか、赤城さんの体積より食べた量の方が遥かに多い!」
千代田「驚くポイントってそこじゃないと思うんだ、千歳お姉」
千歳がクラピカ状態になっていたが、至極尤もなその意見に対し同意するだけの気力は、彼女たちには残っていなかった。ただただ嘆息するばかり。
ステーキ150kgと同量の銀シャリ、計300kgを完食。
提督(へ、へへ………焼いたよ……焼いた……焼き尽くした………からっぽにな……)チーン
漣(明日の仕込みどうすんだコレ)チーン
提督と漣が真っ白な灰になっていると、そこに食堂のカウンターごしに、赤城の声がかかる。
赤城「腹八分といったところですか。提督、漣さん……実に美味しいお肉でした。また次もお願いしますね」ニコリ
いつもと変わらぬ赤城の笑みが、圧倒的な力を誇る捕食者のそれであると提督が……そして漣もまた悟ったのは、この瞬間だった。
その恐るべき一言を、誰も笑えなかった。笑う箇所がどこにもなかった。
提督「」
漣「」
二人は『冷蔵庫の在り肉全部喰われた顔っていうのはこういう顔なんだよ?』と言わんばかりに顔面崩壊していた。
提督「あびゃぁあああ」アヘェ
漣「あびゃあああ、びゃあああああああああ」アバババ
飛鷹「ど、ドンマイ、提督、漣」
瑞鳳「だ、大丈夫かな……」
祥鳳「少なくとも私たちの明日の朝食は大丈夫じゃないわね………な、なんにせよ、二人とも……お気を確かに……」
睦月「睦月がどっかの牧場襲撃して牛獲ってくるにゃしぃ!」ガタッ
羽黒「やるねェ……」ガタッ
隼鷹「おいばかやめろ」
―――何故かその後、しばらくの間は五十鈴と一緒に買い出しに行きたがる駆逐艦やボーキ空母が増えたとかなんとか。
五十鈴「こないだトラック免許を取ったわ」グッ
そして一度五十鈴と買い出しに行ったが最後、誰も二度と五十鈴の運転するトラックに乗りたがる者はいなかった。
睦月「徒歩! そういうのもありにゃしぃ! 急ぐからこそ走るッッ!!」ズザザザ
羽黒「技を超えた純粋な強さ、それがパワーだ!」ズバババ
如月「やめて!! 地を這うように走るのは!! 茶色かったり黒かったりするアレを連想しちゃう!!」
また牛を丸々一頭の単位で仕入れる日々が続いたとか、続くんじゃねえ畜生という誰かの悲鳴が聞こえたとかなんとか。
赤城「カレーやシチューは飲み物? いえ、命の水ですね。うまい!」グビグビ
漣「らめぇ!? 手酌で寸胴鍋からすくいながらグイ飲みらめぇ!!」
提督「創業以来ずぅっと注ぎ足してきたカレーとシチューなくなっちゃうのぉおおお!! らめぇえええええ!!」
提督と漣がガチ泣きして懇願した結果、これには他の艦娘達も総勢で止めにかかった結果、流石の赤城もやめてくれたもよう。
??「まったく卑しい空母ずい!!」
【一航戦の悪夢:艦】
【走らないでくれ、五十鈴の(運転する)トラック編】
本日、五十鈴がドライバーを務める食糧搬送用トラックの同乗者――――否、被害者は龍驤であった。
五十鈴「五十鈴のトラックは世界最速よ」ギュオオ
龍驤「信号赤! 赤ぁああああああああああああ!!!?」ギャーーー!?
五十鈴「言われなくても、もちろん五十鈴には丸見えよ」ギャルルルル
龍驤「見てても無視しとるやろおどれ!? そら最速やなってアホかぁあああ!? ぎゃ、ぎゃああっ、ぎゃああああああ!!! じ、事故る! 事故るぅううう!!」
五十鈴「大丈夫よ。事故る時は不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちゃう時。万一にでも事故る時は、五十鈴が怪我しないように上手く事故るわ」ギュインッギャルッ、ギャルルッ
龍驤「ウチの安全はどこ行ったんや、うちのぉおおおおおおおおおおおおおお!? 根性ババ色やなおんどれ!?」
五十鈴「何かしらあのサイレン。ウーウーうるさいわね。何? 五十鈴に止まれ? ふざけてるの?」ギャルルル
龍驤「なにもかもふざけとるのはおどれや! いい加減にせええええええ!? 司令官が司令官なら、艦娘も艦娘ってあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
五十鈴「おめでとう。貴女もその艦娘の仲間入りよ。その記念に……五十鈴のトラック公道最速理論……魅せてあげる!」クワッ
龍驤「バカかおんどれバッカじゃねえのか」
龍驤が着任したその日の出来事である。
なおやたらウーウーうるさい車は撒いたもよう。パネェ。
【走らないでくれ、五十鈴の(運転する)トラック編:艦】
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話①】
提督「え? メシテロ話……? しろって? なんで………いや、いいけど」
提督「そうだな………ならば、これはどうかな?」
提督「ここに揚げたてのチーズ入りのスープリ(ライスコロッケ)と、ザクザクごろごろの揚げジャガがあるとしよう」
提督「スープリはサックサクの食感がたまらない、中にはトゥルンとしたいい塩梅に溶けたチーズが入っている。ああ、トマトソースでもいいな。まあ想像に任せよう」
提督「これらを熱く熱した鉄板の上に乗せます」
提督「更にだ。ここにデミグラスシチューがあるじゃろ?」
提督「いやいや、ウチのグランドメニューのビーフシチューじゃないんだ、今回は」
提督「それはもう硬ッッてえ牛筋をね、丁寧にね、トゥルットゥルになるまで煮たやつだよ」
提督「もう何十年にわたって注ぎ足してきた自慢のデミグラスソースで丹念に煮込んだそれは、もう凄いよ」
提督「噛みしめるとじゅわっ、ふわっ、とろっとするヤツ。僅かに軟骨がいい噛みごたえ残してる具合の」
提督「こいつを、スープリと揚げジャガの上にかけます」
提督「………いやあ、いい音ですね。じゅーじゅーといい香りのする蒸気が上がってますね」
提督「まだスープリやジャガの衣にサクサク感が残ってるうちにね、こうナイフで切ってね………」
提督「がぷ、と。思い切って一口でね。はふほふ言いながらね」
提督「………どうよ」
木曾「や、やめろォオオオオオオ!!! 今日は夜勤だってのにどうしてくれんだァアアアア!!」ウワアアアア
天龍「腹が減ってくんだろ!! やめろよ!! 夏が近いってのに、水着着れなくなるだろ!!」
提督(カロリー度外視のウマそうなモノの話しろって言われたからしたのにこの言われよう………)
潮「てぃーとく! 食べさせて! それ食べさせてください! 今から作って下さいぃ!! じゃないと潮、自分でも何するか分かりません!」ハァハァ
提督「!?」ビクッ
かつてなく恐ろしい潮がそこにいたという。
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話①:艦】
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話②】
提督「え? 何、リベンジ? またカロリー度外視? 馬鹿なの?」
天龍「今度は負けねえ」
木曾「負けっぱなしで終わるほど腑抜けちゃいないんでね」
提督「………わかったよ、もう。えっと、潮ちゃんは……いないか。よし、やろう……でも……後悔しても知らないよ?」
天龍(フ、フフ……前回は不覚を取ったが、今度はそうはいかねえ。どうせメシテロなんて脂こってり系統だろ? 今日の晩飯に肉を食ったオレと木曾に隙はない!)
木曾(対策はバッチリ済ませてある。まあ………腹は減ってるが、心の準備はできてる。堪えてみせるッ!)
トロけるように甘い考えだったと彼女たちが思い知るまで、残り1レス。
提督「さて、ここに秋口が旬となるキングサーモンがあります。まあ今の時期(初夏)も旬で、脂が乗って美味しいんだけどね」
天龍(!? さ、魚だとッ!?)
木曾(い、いきなり計算外じゃねえか天龍!?)ヒソヒソ
提督「サクラチップで、香りづけ程度に燻製します。んでうすーくスライスね。風味づけにオリーブオイルを少し塗る」
天龍(あ、慌てるな。これは提督の罠だ……なあに、スモークサーモンだろ? あれだよ、炙ったカマやハラスは確かに旨いが、我慢できないほどじゃねえ)ヒソヒソ
木曾(そ、そうだな。しっかり肉を食ってきた俺たちに、生半可なコッテリ系の旨みは通じ………ん?)
天龍(? ど、どうした木曾?)
木曾(――――待て、天龍。提督は今、香りづけ程度って言ったような。しかも薄くスライスって……)ヒソヒソ
提督「突然ですが、ここに少々柔らかめのフランスパンがあるとします。さて、スライスしてトーストしましょうね。カリフワぐらいの食感がいいかな」
天龍(えっ)
木曾(えっ)
提督「パンをトーストする時の、えも言えぬいーい香りを置いておいて、食べ頃のアボガドとフレッシュトマトを切って、ぷりっとした新鮮レタスを千切りましょうねえ」
天龍(ま、ましゃか………)ガタガタ
木曾(こ、これは、まさかッ……カロリー重視系じゃ、ない……れ、連携? 組み合わせを、更に強化してきたのか……?)ブルブル
二人は蒼褪めた。
この展開は、まずい。
提督「さて、特製のマスタードソースを絡めたぷりぷりの小エビちゃんの様子はどんな感じかな? ん? んん?」
天龍(染みてるぅぅううう!! サーモンで警戒させといて、時間差と後出しでエビが来やがったぁあああ!!)ゴフッ
木曾(きっといい感じに味が染みてんだろぉおおおお!? 知ってんだよおまえの料理の旨さはなあ!! これでもかってぐらいに!!)ダラッ
提督「さて、パンが焼き上がりましたね。もう遠慮することなくたっぷりバターを塗りましょうねえ。いやあ、いい香りだ。君たちもそう思わないか? ええ?」
天龍(とろけりゅぅううううう!? バターとろけて、焼き上がったパンの表面にジュクジュクしちゃうのぉおおおおお!!)グハッ
木曾(お、オチが、見えた……読める……読めば読むほど、オチが残酷になっていく……!)
提督「さあ、パンの間に彩りよく野菜と小エビとスモークサーモンを乗せていこうねえ……」セッセッ
天龍(み、見えるぅうううう!? エアキッチンで提督が『それ』を作っているのが、オレの隻眼にも見えるぅううううううう!!!)ブヘェ
木曾(おい、やめろ……やめろ……そんなことッ……!!)
提督「………おっと、フライドガーリックをちりばめるのを忘れていたよ、フフ、僕としたことが……ぱらぱらっとね」
天龍「」プツン
木曾「」プチン
・サーモンとアボガドと小エビのサンドイッチ
香りづけ程度に薫製されたキングサーモンの切り身に、新鮮なアボガド・フレッシュトマト・レタス・ぷりぷりの小エビを具材としたサンドイッチ。
具の間にちりばめられたフライドガーリックの香りとザクザク感、ほんのりバジルの入ったマスタードマヨネーズの風味が絶妙。大人の味。
殺人的にウマい。
提督「どうよ?」
天龍「…………」
木曾「…………」
提督「――――さぁ、この混沌とした旨みがぎゅっと詰まったサンドを、大きく口を開けて……」アー
天龍「あぽぉおおおおおおお!?」
提督(き、聞いたこともない叫び声だ……天龍、それは乙女としてどうなんだいそれは?)
木曾「チッキソォオオオオオオオオオ!!」
提督(あ、君そういう感じで悔しがるんだ。やっぱ球磨型って面白いね)
天龍「あ、あぽォ……は、腹が、空いてきた……」ビクンビクン
木曾「や、夜勤が、じ、地獄になる………」ガクガク
提督(ちょっと悪乗りしたけど………まるで僕が彼女たちを苛めてるみたいじゃないか……決めた。もうやらない。こんなの不毛すぎr)
浜風「司令! 今しがた仰っていたサンドイッチを要求します!! 今すぐキッチンへ行きましょう! さもなくば、さもなくば……!!」ハァハァ
提督「!?」ビクッ
さもなくば死ぬと提督が確信するほど鬼気迫る浜風がいたという。
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話②:艦】
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話③】
提督「またァ!? 君ら懲りるってこと知らないの!? もう引くに引けなくなってるだけでしょ!?」
天龍「た、頼む……頼む……誘惑に勝てずして、何が天龍型だよ……」
提督「わ、わけのわからんことを……ねえ、わかってんの? あの後、潮ちゃんと浜風ちゃんに迫られて結局作って食べることになったじゃないか」
木曾「だ、大丈夫だ。今日はあの二人はいないからよ……だから、頼む。頼むよ。自分に失望したくねえんだ……」
提督「………右よーし、左よーし。よし、そもそも駆逐艦はこの部屋にいないね、うん。じゃあやるけど……どうせ結果が見えてるよ?」
天龍(フフ、三度目の正直って奴だぜ……前回の反省を踏まえ、これまで食ってきた料理、あらゆるものを想定してきた……!)
木曾(その通り! 球磨型は同じ敵に一度負ければ対策を考え、二度目で引き出しを出しつくさせ、三度目は必ず勝利する!)
提督(………とか考えてんだろうなァ。甘いなあ、甘いよ………君らが何を食ってきたかなんてのは、僕が一番知っている。そしてまた君らが来ることも織り込み済み。つまり)
天龍と木曾は、まだ自分たちが詰んでいることに気づいていない。気づくまであと1レス。
提督「………天龍ちゃん、木曾ちゃん。そろそろ夏真っ盛りだね」
天龍「へ? あ、ああ」
木曾「そうだな。もうじき初夏も終わる」
提督「この時期は美味しいものがいっぱいだね。山の幸、海の幸、畑の恵みに、空の恵み………だけどね、僕ぁ川の幸も素敵だと思うんだよ、そう―――」
提督「―――鮎とかね」
天龍「あ、ゆ……?」
木曾(あ、鮎……鮎って、あの……?)
提督「川魚というと泥臭い印象の強いものだが、鮎にはそれがない。骨まで食べられる柔らかさ、芳醇な味わい……あのほっくりとした味わい……ああ! うっかりしていた」
天龍「!」アッ
木曾「!!」ハッ!?
その時、天龍と木曾に電流走る。
そう、二人は――――。
提督「君たち、鮎は食べたことがなかったかなあ……?」
木曾(く、食ったこと、ない……? あ、そうだ。俺達、食ったことねえぞ、鮎!?)
天龍(さ、昨年の夏は……まだ鳳翔さんが着任してなかったから………あ、ああ!?)
だが遅い。気付くのが遅すぎたのだ。
提督「まあ、いいか。どうせ話するだけだし……どんなに美味しい魚か、ぜひ想像してほしい」
提督「ここに囲炉裏があるじゃろ?」
提督「そう。作るのはシンプルに――――鮎の塩焼きさ。聞いたことぐらいあるだろ?」
天龍(あ、ある……あるけど……で、出来るかッ……こんな想定ッ……!!)
木曾(食ったことのない料理の味なんぞ想定できるかバカッ……無効ッ……こんなの無効ッ……反則ッ……理不尽ッ……)
提督「洋食屋としては恥ずべきことなのかもしれないが、鮎という魚は完璧だ。余計に手を加える必要はないんだよ」
提督「尻尾にね、こうたっぷりと特製のアクひき塩をつけてね……竹串に刺して、囲炉裏の炭火で一本一本じっくり焼き上げていくんだ……」
提督「じゅうじゅう、ぱちぱちと魚の焼けるいい香りが漂ってきた………鮎は油分が少ないが、非常に旨みの強い魚でね……焼くことでぎゅっと味が引き締まっていく感じがねえ」
提督「さあ、すっかり焼き上がったよ。竹串を手に持って、そのまま………」
天龍(そ、そのまま……)ゴクリ
木曾(………)ゴク
提督「ぱくっ………と行くのもいいけどね。うん、ここはお上品に皿に盛ってね……スダチとか焼いたネギとか添えちゃったりしてね、あははは」
天龍「あっ、あっあ………」ビクンビクン
木曾「っが………はっ、はあっ」ゼェゼェ
想像力は、時に実際の味を超える。天龍と木曾の脳裏には、既に囲炉裏の火で炙られ、とんでもない極上の芳香を醸し出す鮎の塩焼きが存在している。
彼女たちの共通する疑問は「どんな味なのだろう?」――――ではない――――「どんなに美味しいのだろう?」である。
そう。既に美味いことが前提になっていた。なってしまっていた。
提督「こうね、ギュッとスダチを絞ってね。ほわっとした香りがぷーんと香ってねえ………がぶりっ! ああ、たまんないね」
天龍(や、やめろよ………ひ、酷いじゃねえか……ず、ずるいじゃねえか……そんな、そんなの)ワナワナ
提督「やはり川の苔を食べている天然の鮎はいいねえ。鮎のワタはまさに滋味というかいい苦味があってね……あ、木曾ちゃんって塩辛好きだったっけ?」
木曾(知ってんだろ!? 知ってて言ってんだろ!? 大好きなんだよ!! オッサン臭いとか言われても、好きだよ! 大好きだ!!)
提督「鮎の内臓の塩辛はいいぞう……? 「うるか」って言ってね? じわっと来る味わいが舌の上に広がってさ……そこにこう日本酒をあおってみたりして」クイットナ
木曾(更にここで酒を被せてくるだとぉおおおおお!?)グハッ
提督「熱燗がいいかなぁ? いやあやっぱり夏だから? キューッとひえた冷酒もいいなぁ? あれぇ? そういえば君たちって鮎を食べたこと――――なかったっけえ?」
天龍「ハァー、ハァー、ハァー」
木曾「ゼェ、ゼェ、ゼェ」
提督「(フフ、ねばるな。だがダメ押しにもう一発)………でもまあ、鮎はアレで結構こぶりだからね。お腹いっぱいは食べられないかもね」
天龍(! た、耐えた……? た、耐えきった!! 乗り切った! やった! やったぞ!!)
木曾(勝ったッ! 俺と天龍の勝利で、第三部艦ッ!!)
提督「やっぱり腹にたまるご飯がいるよね―――――鮎の茶漬けっていうのがあってね。こう、アツアツご飯に塩焼きのっけて、だし汁でサラリと」
天龍「」
木曾「」
提督「どうよ?」
天龍「うわあああああ水着ぃいいいいいいいいい!! こんなんで眠れるわけねえだろぉおおおお!!」ズシャア
木曾「どんな味なんだぁあああああ!! 俺の夜勤がぁあああああ!!!」ガクッ
提督(天竜川と木曽川に帰れ、お馬鹿さんたちめ。僕を本気にさせるとこういう目に遭うんだ。しかしやれやれ、これで彼女たちもようやく諦めてくれるだろう)ホッ
料理に関して彼女たちが提督に勝つことなど不可能であった。そして、
千代田「ね、ねぇ、提督………」クイクイ
提督「!?」ビクッ
食欲に支配された艦娘に迫られた提督が逆らうことも、また不可能であった。
可愛く袖をつかんで上目遣いの千代田であったが、瞳の奥底に隠せぬ何かがあったもよう。
千代田「食べたいなあ……千代田、鮎の塩焼き、食べたいなあ……」ハァハァ
提督(断ったら死!!!!)
色気すら感じるほどの絶対の決意――――人はそれを「漆黒の意志」と呼ぶ。
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話③:艦】
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話④】
提督「カエレッッッ!!」
天龍「まだなんも言ってねえけど」
提督「もう想像できんだよ! 分かるわ!!」
木曾「ま、まあ、そう邪見にするなよ。俺たちとおまえの仲じゃないか」
提督「んだよ天龍、木曾、しつけーな……やめろって!」
天龍「朝霜みてーにガラ悪くなってんぞ提督」
提督「いい加減にせえって話なんだよ……分かれよ? な? 君らひょっとして潮ちゃんも浜風ちゃんも千代田ちゃんもグルか?」
木曾「えっ」
提督「誰かが僕にねだってきて、結局ありつけるんだろうとか考えてんのか? なあ?」
木曾「(こ、怖い。怖いが……)さ、最後! これで最後だから、な? なぁ!」
提督「…………いいだろう。だが待つんだ。人員の確認を」
天龍「お、おう。右よーし」
木曾「左よーし」
提督「正面よし、背後………背、後………?」
天龍「何?」クルッ
木曾「?」クルッ
赤城「………」ニコリ
日向「………いいんだぞ?」
提督「……わかった。この話はやめよう。この話は終わり………ハイ!! やめやめ」
天龍「うん」
木曾「ごめん」
提督「僕も言いすぎたよ。グルになって仕込みなんて、そんな卑怯な真似を君たちがするわけないよね。すいませんでした」
天龍「いいんだ。こんな偶然が重なれば、そう疑いたくもなる。オレぁ明日に備えて寝るよ」
木曾「ああ。指揮官は悪くねえ……じゃあな。夜勤行ってくる」
赤城「(´・ω・`)」チェッ
日向「(´・ω・`)」ソウナルカ?
鎮守府食糧難の危機は去った。
洋食提督は後に、ここが歴史の転換期だったとしみじみと語り、傍らの漣や曙が「馬鹿じゃねーの」と嘲笑ったという。
【絶対に滑らない提督の深夜メシテロ話④:艦】
【提督の深夜メシテロ話①②③の後日談】
①潮の場合(スープリと揚げジャガの牛筋デミソースかけ)
潮「あふ、あちちっ……ふー、ふーっ……あむ、もむ……うま、うま……♪」ニコニコ
提督「美味しいかい、潮ちゃん」
本当は次の日に別の料理で使うつもりだった牛筋の一部は犠牲となったのだ。
潮「んぐ、もぐ、ごくん………はいっ! ざくざくで、とろとろで、香ばしくて……とってもおいしいです」
提督「ははは、そりゃ良かったよ。育ち盛りだもんね。さ、いっぱいお食べなさい。カレーをかけても美味しいぞ」ホラ
潮「わっ! てぃーとくっ! ありがとうございます!」ニコー
提督(守りたいこの笑顔)
後にグルメリポーターとして大人気を博す前の、潮の心温まる微笑み。
天龍「ち、ちくしょうぅう……ああ、でもやっぱうんめぇなぁ……ああ、水着が……オレの夏が……遠のいていく……」
木曾「こ、こんな深夜に、こんな高カロリーな……ああ、でもナイフとフォークが、と、止まらん……旨すぎるッッ!!」
提督(肥えろ豚の如く)
ちゃっかり御相伴に預かる二人に、提督はやや二人への対応をマイナス方向に振ることにした。
②浜風の場合(サーモンとアボガドと小エビのオープンサンド)
浜風「おお、これは……がぷ、ざく、はぐ………んぐ、はむはむ……実に美味しい……むしゃ、それに……食べやすい……もぐ」モグモグ
提督「よく噛んで食べるんだよ」
次の日の朝食に提供する予定だったパンの一部は犠牲になったのだ。
浜風「は、はい。もっもっ……スモークサーモンの、もむ、いい香りと、程よく乗った脂がトロけて……もぐ」
提督「美味しさを伝えたいのは分かるから、飲み込んでからでいいよ」
浜風「んぐ、ごく……し、失礼しました。まろやかなアボガドに、ぷりぷりのエビ、シャキシャキのレタスにトマトの酸味が絡まって」
浜風「マスタードソースのピリッとした刺激が混然として、噛みしめる度にまとまり良く素晴らしい味わいに」
浜風「……このフランスパントーストの、意外とサクッとした軽やかな食感が食べやすさの秘訣でしょうか」
提督「おお、やっぱり浜風ちゃんもいい舌してるね。今度一緒に新しいレシピ考えない?」
浜風「え、きょ、恐縮です! 是非!」
提督「でもまー、こういう夜食はほどほどにね」
浜風「お、お恥ずかしい限りです………えと、申し訳ございませんでした、提督……その………堪能してます」テレテレ
提督(守りたい、この照れ顔)
後に料理研究家として大成する浜風の、垢ぬけぬ照れくさそうな笑み。
天龍「だ、大丈夫。明日の訓練で、倍走り込めばいいだけだし? うん、オレは負けてない。決して負けてなんかいねえ」ウメー
木曾「旨すぎるッッッ!!」ウマー
提督(肥え太った豚の行く末をそんなにも知りたいかね、君たちは)
ていとくは ちからを ためている。
③千代田の場合(鮎の塩焼き+鮎うるか+シメお茶漬け+冷酒)
千代田「いただきまーす! むしゃむしゃ……おいっしーーーい!!」ニコー
提督「それはようござんす」
こんなこともあろうかと、提督はあらかじめ鮎を用意していた。
木曾が夜勤に入るタイミングで「あの馬鹿どもは絶対懲りずにやってくる」と予想した提督は万一の可能性を想定、あらかじめ話を用意し、食材を用意する。
そう、天龍と木曾は詰んでいたのだ。最初から。
仮にこの展開にならなくても用意した食材は無駄にならず、次の日に鳳翔の居酒屋で美味しく提供されるという寸法である。
提督「千代田ちゃんも美味しそうに食べるねー」
千代田「えへへ、恥ずかしーなぁ。あのね、千代田ね、提督は千歳お姉にも優しいし、美味しいもの作ってくれるし、すきだよ! あ、でも千歳お姉の次だけどね!」
提督「ぷっ、ははは。そりゃ光栄だよ、千代田ちゃん」
千代田「そうよ、光栄に思ってよね! あ、おいしい、おいしい! うん、すきー!」モグモグ
提督(守りたい、この無垢さ)
後にぽちゃ系健啖アイドルとしてメジャーデビューする、千代田の変わらぬ無邪気な笑み。
天龍「もう体重なんか知るかあああ! うまーーーーーッ!! 焼けた鮎の香りって最高だなぁ!!」ガツガツ
木曾「俺も秘蔵の日本酒・石〇屋を出すぞ!! かぁーーーーッ! うんめぇええええ!!」プハー
提督(てめえらに明日のメシを食う資格はねえ!)ブチッ
天龍、木曾。次の日、メシ抜き。罪状は鎮守府騒乱罪。
漣「残当」
曙「馬鹿ばっか」
朧「ちゃんちゃん♪」
【提督の深夜メシテロ話①②③の後日談:艦】
このSSまとめへのコメント
提督のキャラがキモい
何で雷が引っ込み思案なん?
これは中々面白い設定、続きを楽しみにしています。
提督キャラは、民間設定なんだし別にいいと思いますよー。
提督が喜怒哀楽がはっきり出てる
提督のキャラがキモい。なるほど、コメントを見てから読んで見たら確かにこれは気持ち悪いわ
アクセラレータのお店屋さンの人っぽい文章だなぁ
面白いと思うけどなー
もう終わりなのかな?
また失踪か
提督をキモいとか言っている奴の方がキモい。