勇者「姫様が病気、ですか?」
王様「うむ。この病気には明確な治療法がなく、もはや我には本物の勇者であるお主を頼る以外に方法が思い浮かばぬのだ」
勇者「なるほど、突然私が呼び出されたのにはそのような理由が。しかしなぜ医者ではなく私なのですか?」
王様「うむ。それは……」
姫様「この身に宿りしイニシエの勇者の血が魔を滅せよと疼いている……!」
姫様「くっ、鎮まれ禁断の力ッ! 今はまだその”刻”ではない!」
姫様「はあ、はあ……辛いけど、これも”選ばし者”の宿命ね……」
王様「こういう事じゃ」
勇者「なんてこったい」
王様「勇者よ、褒美はいかようにも取らせよう。どうか我が娘を正気に戻してやってくれ」
勇者「ハッ!」
勇者(とは言ったものの……)
姫様「むっ、偽勇者」
勇者「偽物ではないです」
姫様「いいえ、偽物よ。王家の始祖たるイニシエの勇者様の血を引く私こそが、真の正当な勇者よ!」
姫様「私には聞こえるの! 命を懸けて魔物達から人々を守り抜いた御先祖様たちの英霊の声が!」
勇者(これあかんやつや)
姫様「何、その目は?」
勇者(ううむ、これは少し現実を思い知らせた方がいいかもしれないな。幸い、正気に戻すよう王命も受けているし)
勇者「なるほど、そこまでおっしゃるのならどちらが勇者に相応しいか決着を付けましょう」
姫様「……ッ」
勇者「どうぞ剣をお取りください」
姫様「わ、私は……」
勇者「どうしたのですか? まさか人々を守ろうと言われる方が戦いに自信がないと?」
勇者(大人しく諦めてくれるならばよし、戦いを受けたとしても怪我のないよう叩き伏せればいいだろう)
勇者(王としても難題を押し付けた自覚もあろうし、話の通じないお方でも……!?)
姫様「でやッ!」 ビュフッ ヒュッ ヒュッ ヒュンッ
勇者(これは、まずい! この太刀筋の鋭さは、何事だ!?)
姫様「くっ、はあ、はあ……ぐぅぅ、どうして当たらないのよ!!」 ビュンッ
勇者「これでも勇者ですから」
勇者(などと言ってはみるものの、少女である姫様が振るっていい剣ではないな)
勇者(これではうまく手加減する自信はないな。まずは相手に隙を作るか)
勇者「……自分が勇者であるだとかどうとか、思春期特有の痛々しい妄言など吐かずに大人しくなされてはどうですか?」
姫様「もう、げん?」 ピクッ
勇者「妄言と呼ばずして何と呼ぶのですか? あー痛い痛い、まさか恥ずかしくないのですか?」
勇者「姫様の妄言のネタにされてご先祖様も今頃子孫の馬鹿さ加減に笑っていま」 姫様「死ね」
ブゴオオオオオオオオッッ
勇者(おいいきなり爆炎魔法って何だそれは!) ズサッ
姫様「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、ボクの邪魔をする奴は一人残らず、死……ッ」 ガクッ
勇者「魔力切れ、ですね」
勇者(あれだけ強大な魔法を無理やり使えば当然そうなる。いや、使えること自体が既に異常なのだが)
勇者(耐火属性のマントを装備していなければ危ないところだった)
姫様「ぐっ、うぅ……殺す……殺すぅ……ッ!」 ギロッ
勇者(むう、どうしたものだろう。この少し頭のおかしい姫様に敗北を認めさせるのは容易じゃないぞ)
勇者(剣技も魔法もこの年齢で既に常人の域を超えていて、魔力切れで倒れても気力を萎えさせない精神)
勇者(色々な意味で、真の勇者を自称したくなるのも分かろうものだけど、ううん、どうしたものか)
勇者(>>6)
魔王もグルにしての壮大な茶番で丸く収めた様にでも思わせれば良いか
成し遂げたと思えば少しは大人しくもなるだろう
勇者(魔王もグルにしての壮大な茶番で丸く収めた様にでも思わせれば良いか)
勇者(成し遂げたと思えば少しは大人しくもなるだろう)
姫様「ぐ、うぅ……!」
勇者「ふむ。姫様の御覚悟のほど、私も理解いたしました」 スッ
姫様「え?」
勇者「試すような真似をしたこと、深くお詫びいたします。姫様のお力、そしてお心はまさしく勇者に相応しい器」
勇者「つきましては勇者の称号を姫様に譲り渡し、私は勇者を引退する所存でございます」
姫様「あ、あなたの意思は分かったわ」
姫様「まったく、最初から素直にそう言えばいいのよ」
姫様「そう、私こそが真の勇者なんだから……」 ヨロヨロッ
勇者「……と、いうわけで、今の私は勇者でもなんでもないそこらの人間ということですね」
王様「貴様は何をやっておるのだ!?」
勇者「王様、慌てないでください。あの病は深刻です、大掛かりな治療が必要なのですよ」
勇者「姫様に一時的に勇者の称号を譲り渡したのも、大がかりな治療の下準備なのです」
王様「説明せよ」
勇者「ハッ!」
勇者「まず姫様の病ですが」
勇者「あれはおそらく、イニシエの勇者の血統である誇りと、己の能力に対する自負から来るものです」
勇者「それだけのものを持ちながら己の為すべき事を見出せない」
勇者「そうした不完全燃焼な想いがああした選民的な妄想に駆り立てているのでしょう」
王様「仮にそうであるとして、どうすると言うのだ?」
勇者「勇者の為すべき事を為させれてしまえばいいのですよ」
勇者「つまり、魔王の討伐を」
魔王「断わる」
勇者「断わらせぬ」
魔王「ふざけるな!? なぜ我が貴様の都合で殺し合わねばならぬのだ!?」
勇者「フリでいいんだよ、フリで。適当に軍勢率いて国境手前辺りまで来るだけでいいから」
勇者「で、そこに勇者(笑)の姫様を送り込んでお前と一騎打ち、適当な所でやられたフリして転移でもすればいいだろ」
魔王「だ・か・ら! それをして我に何の得があるというのだ!? それとも貴様はまた戦争を起こしたくて誘っているのか!?」
勇者「ふむ。つまり得があればいいんだな? 卑しんぼさんめ」
魔王「貴様はどれだけ無礼なのだ……」
勇者「心許せばこそだよ。あー、やっぱりお前の家のお茶は美味いな、お代わり頼むわ」
魔王「まったく、我にそのような口を聞く者は貴様くらいなものだぞ」 コポコポ
勇者「それよりも、どうすればこの茶番に乗ってくれるんだ? 具体的な要求を言えよ」
魔王「……ふむ、そうだな。では>>12だ」
勇者(姫じゃないほう)が魔王の婿になる
魔王「……ふむ、そうだな。では貴様が我の婿になるというのはどうだ?」 ニヤッ
勇者「いいぞ。茶番の実行は3日後で頼んだ」
魔王「……」 ガシャンッ
勇者「おい、カップ割れたぞ?」
魔王「え? あ、ああ、そうだな」
勇者「気を付けろよ。破片を踏んで怪我でもしたら大変だぞ」
魔王「うむ」
勇者「……」 ズズッ
魔王「……」
魔王「そ、その、我の婿にというのは」 ソワソワ
勇者「結婚式は教会でいいのか?」
魔王「う、うむ……」
魔王(おかしい……) ガクッ
魔王(我の想像では、我の求婚に勇者は慌てふためき、その様を見て溜飲を下げるはずだったのだ……) フルフル
魔王(だというのに、なぜこうも平然としているのだ!?) ドンッ
魔王(あまつさえなぜ当然のことのように我との婚姻を受け入れているのだ!?) ドンドンッ
勇者「何やってるんだお前?」
魔王「それは我の台詞だ!! 貴様は何なのだ!? なぜそうも平然としているのだ!? 人間の希望たる勇者のお前が魔王の婿となるのだぞ!?」
勇者「自分から言っておいて何を叫んでるんだお前は」
魔王「貴様が平然としているからだろうが!?」
勇者「逆に聞くが、慌てる理由がないだろ?」
勇者「気が許せて美味い茶も淹れてくれる美人の嫁さんができるんだぞ?」
勇者「とんでもない要求をされるかと思ってたのに、俺に得しかない提案をされたんだ。喜びこそすれ慌てる理由がないだろ」
魔王「あ……ぐ……うぅ……ッ」 カァァァ
勇者「ちなみに子供は何人欲しい?」
魔王「言えぬわッ!! この馬鹿者がッ!!!」 ドンドンッ
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