題名の通り、藤子F不二雄の短編集のある作品を見て思いついて書いた短いSSです。
オマージュと言うかインスパイアと言うか。自分なりにパクリにならないように頑張ってみました。
今回は珍しくエロもグロも有りませんが、元ネタがトラウマ級の名作ですので、
ちょっぴり閲覧注意でお願いします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472145394
私は、気が付くと見知らぬ砂浜に一人倒れていた。
グラビア撮影の為、プロデューサーと南の島に向かう飛行機に乗っている最中、乱気流に巻き込まれたのだ。
揺れる機内、騒ぐ乗客、震えながら横に座るプロデューサーの腕に必死にしがみ付いていた所までは覚えている。
激しく混乱する頭を抱えながら、起き上がって無理矢理考えを纏め始めた。
どうやら飛行機は墜落し、私は此処まで流されてきてしまったらしい。
私は余りの状況の変化に感情が付いてこず、そのままただ呆然と砂浜に座り込んでいたが、
そうしていても時はただ無常に過ぎていく。
ひとまず何とかして現状を把握しなくてはいけない。
そう思い至った私は、一刻も早くプロデューサーさんと合流しなければ、と考えた。
そして、辺りを見回した私の視線の先には、海岸から草地に到り、
そのまま小高い丘になっている場所が目に飛び込んで来たのだった。
此処まで漂流してきた所為か、全身を襲うギシギシとした痛みが私の全身を蝕む。
その痛みに耐えながら這う様にして丘を登ると、辺り一面に視界が広がった。
幸いな事に天気は快晴で、遠くまで良く景色が見渡せる。
しかしその好事が私に更なる絶望を与えるとは、この時の私には思いもよらなかった。
視界に広がる海岸線はぐるっと歪な楕円を描くように海を切り取っている。
そう、此処は大海原に浮かぶ、ただ一つの孤島。
そして見たところ、島の中心にはうっそうとした森が広がるだけで、人の生活の気配はまるで無かったのだ。
どうやら私は―― 島村卯月は、無人島に漂着してしまったらしい事に、漸く気が付いたのだった――
丘の上でただ呆然と佇む私。
しばらくすると、足元から這い上がって来た余りの絶望に膝から崩れ落ち、
身体を抱え込むようにしてひたすらその場で泣き喚いた。
当然の事ながら、絶海の孤島は小娘が一人、泣こうが喚こうが助けてはくれない。
日が傾きつつあるのを見てぐずぐずと涙を拭った私は、プロデューサーさんが、もしくは別の人が、
同じ様に流されて居るかも知れない、その僅かな可能性に掛けて、海岸線までのろのろと戻っていった。
海岸線まで戻って来た私は、そこを起点に海岸をただ歩いていた。
私と同じように漂流している人が居ないかと淡い期待を抱いての行動である。
しかし、そう大きくない島はあっさりと一周してしまい、残念ながら一人の漂流者、一個の漂着物も発見できなかった。
既に日は暮れ、星明りだけの海岸に一人、体育座りで座り込んだ私は、膝を抱えながらすすり泣き始めていた。
一日、日に当たった所為か、濡れていた服はすっかり乾いていたが、塩が吹いていてザラザラしてとても気持ちが悪い。
髪もパサパサで、叶う事なら一刻も早くシャワーを浴びたい…と、虚ろな瞳でぼんやりと考えていると、
人生最大の音量でお腹が空腹を訴えてきた。
よくよく考えてみたら朝から何も食べていない。
グラビアで水着に着替えると言うので、最近少し大きくなったお尻が少しはどうにかならないか、
と、些細な抵抗を試みたのが裏目に出てしまったようだ。
丘に登ったり島を一周する程運動したのに何も食べてない。
あまりの空腹に目が回る、と言うのはこういう事か、と、身をもって体験する事になってしまった。
しかも散々泣き喚いていた所為か、喉の渇きが尋常ではない。
目の前には海の大量の水が波と共に押し寄せて来てはいるが、海水を飲めばどうなるのか、流石に私でも知っている。
海の水を恨めしそうに眺めながら、明日は食糧と水を探そう、そう心に決めた私は、
ひび割れそうな喉の渇きを抑え込みつつ、一人海岸で目を瞑るのだった。
翌日、目を覚ますと、なんと私は粗末な小屋の中に居た。
葉っぱで作られたとは言え、寝台に寝かされてすらいたのだ。
訳が分からず混乱して辺りを見回していると、隣の部屋から皺だらけの真っ白な髪のお婆さんが部屋に入って来た。
「目が覚めたようだねぇ」
優し気な声で話しかけてくれたお婆さんは、木で出来たコップに入ってる飲み物を私に差し出してくれた。
そう言えば激しく喉が渇いていた事に気づいた私は、受け取るとコップを呷る様にしてそれを飲み干した。
どうやらただのお湯のようだが、今までの人生で一番おいしい飲み物だったと思う。
お婆さんはそんな私をにこやかに見守ると、
「そんな格好じゃなんでしょ、これにお着換え」
と、服の一式を差し出してきた。
よく見ると寝台に寝かされた私は、僅かに下着を纏うだけのあられもない恰好である。
顔を真っ赤にして慌てて服を受け取り、お礼を言いながら袖を通す。
「海岸に行ってみたら貴方が砂浜で寝てて波に攫われそうになっててねぇ、ずぶ濡れだったんだよ。
ダメだよ??満潮になるとあの辺まで水が上がって来るんだから」
お婆さんはそう言いながら私の着替え終わるのを待っていてくれた。
服は相当草臥れてはいたが、お婆さんのものにしてはセンスも今風で私好みの服である。
サイズもぴったり合っていたので問題なく着れた。
着替え終わると私はお婆さんと向き合って、話を聞いた。
聞きたい事は山ほどあったのだ。
お婆さんは私の疑問に優しく、丁寧に答えてくれた。
お婆さん曰く、お婆さんも昔、遭難して漂流してこの島に来たらしい。
この島は無人島で誰も来ることは無い。連絡も取れない。
長年暮らし居ているが一向に助けは来ない。
諦めて此処で暮らして居る、と言う話を聞かされた。
話を聞く度に自分の表情が死んでいくのが解る。
やはり助けは来ないのか、残酷な事実を突きつけられて絶望的な面持ちで地面に両手をつき、はらはらと涙を流す私。
そんな私の背中をお婆さんは泣き止むまでひたすら撫で続けてくれた。
その温かみに触れて、私は死を選びかねないほどの絶望から、何とか踏み止まる事が出来たのだった――
翌日から私は、この島で生きて行く為の方法をお婆さんから教わる事になった。
助けを待つにしても何にしても、まず命を繋がなくてはどうにもならないと思ったからだ。
お婆さんは、島の湧き水の場所、水は必ず沸かして飲むこと、
魚の取り方や食べられる植物の見分け方。
ココナッツの繊維を使い、火を起こす方法、
青いココナッツの方が石で割りやすい、等々、サバイバル経験が全くない私の為に、必要な知識を沢山教えてくれた。
教わりながら、何度かお婆さんの昔の話を聞こうとしたが、
なぜかその度にとても寂しそうな顔をしたので、それ以上聞けなかった。
容姿と日本語が喋れるから日本人には間違いないだろう。
だが、漂流して来た事以上に辛い事が有ったのかも知れない。
そう思った私は、それ以上お婆さんの過去に触れる事は止める事にした。
それから二人で十年ほど過ごしただろうか。
ある日、自分で編んだ籠に取った魚を入れて家に帰ると、お婆さんが体調を崩し床に倒れていた。
慌てて寝台に寝かせ、必死に看病したものの、薬も医者も無い孤島では手の打ちようがない。
あっという間に病状が悪化し、お婆さんは亡くなってしまった。
臨終の際、お婆さんは傍で泣きじゃくる私に、
「…頑張って生き延びるんだよ…、私はダメだったけど貴女はきっと…、
それにまた誰かが流されて来たら…、今度は貴女が色々教えてあげなさい…、ね??」
そう最後に言い残し、私の頭を撫でると静かに息を引き取った。
その後、私は気力を振り絞って森の枯れ枝を集めお婆さんの遺体を荼毘に伏すと、
小高い丘の頂上に登り、其処に灰を埋めようと穴を掘り始めた。
眺めの良いこの場所から、いつか来る助けを一番に見つけてほしい、そう思ったからだった。
そして、穴を掘り終えると灰を入れた入れ物を埋め、その横にボロボロの布に包まれたケースを入れた。
それはお婆さんがとても大切にしていた物であり、どれ程頼んでも見せてくれなかった物でもある。
それなのに一人でいる時は何やら懐かしそうに眺めている所を何度か目撃した。
お婆さんに悪いので無理に見る事はしなかったが、ずっと密かに気にはなっていたのだ。
その包みが今、目の前にある。
しかし、お婆さんに、
「この包みの中を絶対に見ちゃいけないよ、私が死んだら中身を見ずにそのまま一緒に埋めておくれ、
いいね、決して見るんじゃないよ??」
と、固く言い聞かされて来た包みである。
私は、言われた通りにそのまま灰と包みを穴の中入れ、土を二、三度被せたが、
誘惑に抗いきれず包みを取り出し、中身を取り出してしまった。
その中身を見て私は、驚愕と共に頭がおかしくなりそうな程の疑問に頭を占領された。
包みの中に入っていたのは、古い古い写真立て。
その中には―― 仲間のアイドル達とプロデューサー、そして私。
初めてのライブを終えた時の記念写真が入っていたのだ――
一体どういう事なのか意味が解らなかった。
お婆さんは昔から私の事を知っていたのだろうか??
聞こうにも既にお婆さんはこの世の人では無く、教えてはくれない。
何故何故何故??
考えても全く分からない答えに、私の心は完全に疑問に囚われていた。
そして、疑問に満ちた私の一人ぼっちの無人島生活がその日から始まったのだった――
それから何年経ったのだろうか。長い長い年月が過ぎたのだと思う。
既に私の肌は日に焼けつくし皺だらけ、髪は細く白く、バサバサになってしまった。
お婆さんの言うとおりに一向に助けは来ず、私は半ば諦めに近い心境で日々を過ごしていた。
時折あの写真の事が頭を掠める事が有ったが、日々、生きる為の活動が忙しく、
次第に靄が掛かったように記憶の中からは薄れつつあった。
最初の数年はそれこそ毎日写真の事を考えていたと思う。
写真を家に持ち帰り、それを眺めて一日を過ごしたこともある。
しかし、どれほど考えても答えは出ない。
また考えてもどうにもならない事なので、次第にその行動にも疲れが出てきた。
そして、写真をお婆さんの遺言通りに灰の横に埋めなおし、忘れる事にしたのだった。
そんなある日、何時もの様に海岸に船が通りかかってないか、何か漂着物が無いか、確認しに行くと――
砂浜の波打ち際に、半ば波に攫われながら一人の少女が横たわっていた。
慌てて駆け寄って助け起こすと、どうやら息は有るようだ。
私はホッと溜息をつき、一安心して少女の顔を見た、その瞬間――
驚愕と共に、全てを、悟ったのだった。
写真の意味、助けが来ない理由、お婆さんの過去――
そして私は、未来永劫この不思議な島に囚われ続けるのだと言う事に―――
【完】
終了です。短くてすいません。
元ネタはF短編集「ノスタル爺」でした。
ある意味永久に命が回転し続ける、と考えると恐怖ですよね。子供の頃読んで泣いた記憶があります。
それではHTML化依頼出してきます。
またよろしくお願いします。
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