龍崎薫「これから『せいぎ』の話をしよう」 (205)



※キャラ崩壊

※よくあるネタ

※くだくだしく長い

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――――あなたの『正義』を問う






冴島清美「おはようございます」

清美「本日、皆さんに集まってもらったのは他でもありません」

清美「皆さんが所属するこのアイドル事務所――」

清美「この事務所は今、ある問題を抱えています」



清美「現状、その問題というのは、目に見えるものでも、手に取れるものでもありません」

清美「ですから、こうして言葉を重ねたところで、その深刻さは伝わり辛いのかもしれません」

清美「しかしながら、それが目に見え、手に取れるようになってしまってからでは遅いのです」

清美「その問題がはっきりと表面化し、拡大してしまったら最後――私たちがそれを食い止め、撤回するのは非常に困難です」

清美「例えるなら、そう――癌細胞が、それがはっきり、見て取れるように身体を蝕んでしまってからではもう遅いように」

清美「だからこそ、私たちは早急にこの問題の解決に取り組まねばなりません」

清美「病巣は早期発見し、取り除かなければいけないように」

清美「そうして、健全な事務所を取り戻すのです!」



清美「――おっと。少々、主張が遠回りしてしまいましたか」

清美「では、はっきりと申し上げましょう」

清美「この事務所が抱える問題。それは何か」

清美「ズバリ言えばそれは――事務所の、風紀の乱れです」



清美「え? 風紀とは何か、ですって?」 

清美「ふいんきみたいなものですって?」

清美「――いえ、ふいんきではなく雰囲気」

清美「そして雰囲気ではなく風紀、です」

清美「でもそうですね。分かりやすく言えば風紀とは、『清く正しい雰囲気』のことでしょうか」

清美「皆が規律を守り、秩序を重んじ、礼節を尊び、節度と正しさを持って生活している環境」

清美「それが、今の事務所にはなくなりつつある、ということです」




清美「風紀が乱れるとどうなるか?」

清美「言うまでもありません。そんなことになれば――秩序を重んじず、自らを律せず、自分勝手な行動をみんながとるようになった
ら、社会は機能しなくなり、瓦解します!」

清美「おおよそ、まともな尊厳のある人間の生活環境とは言えなくなるでしょう」

清美「え? みんなが好きなことができるのはいいことじゃないか?」

清美「いえ、それは違います。皆が皆、自分の望むことができるからと言って、それが全体の幸福には繋がりませんし、そうなれば結果的に個々の幸福も損なわれます!」

清美「この事務所がそんな状態に陥ることは嘆くべきですし、今現在、その途上にあるということは憂うべきです」



清美「さて、前置きが長くなってしまいましたが……」

清美「でもそれだけ、この問題は重大であり、今のこの事務所は重篤であること」

清美「――そして、なによりそれを解決することの重要性が分かってもらえたと思います」

清美「そして、なぜ私が今こうして、この事務所に『超☆事務所風紀委員会』を設立しようとしているか、その動機と活動理念もご理解いただけたかと思います」

清美「今日、この場に集まってもらった皆さんは私と同じく、この風紀の乱れた事務所の現状を嘆き、憂い、そしてそれを打破、解消しようと勇往邁進する強い意志を持った、素晴らしい意識の持ち主ですっ!」

清美「さあ皆さん! この『超☆風紀委員』こと冴島清美と共に、この事務所に健全で、清く美しい風紀を取り戻しましょう!!」




薫「はぁーい! 龍崎薫、事務所のふーきのためにがんばりまー!!」



清美「………………」

薫「………………」ニコニコ

清美「………………」

薫「………………?」ニコニコ

清美「あ、集まってくれたのは、薫さんだけですか……」

薫「みんな忙しいからね。しょうがないよー」

清美「そ、そうですか……」



清美「まあ、ここは一人しか集まらなかったことを嘆くより、私と志を同じくする人が来てくれたことを喜ぶべきですね……」

薫「えへへ~♪」

清美「しかし……こう言っては失礼かもしれませんが、少し意外ですね」

清美「薫さんが、風紀委員という、その……、自分で言うのもなんですが、堅苦しいイメージの活動に参加してくれるとは」

薫「う、うん……。かおる、むずかしいことはよく分かんないんだけど……」

薫「でもね! 前にかおるね、一日だけだけど、けーさつかんのお仕事したことがあって――」

薫「それで、悪いことをとりしまって、みんなのために働くって、すっごく大事なことだって思ったの!」

薫「それに、いいことをするのって、すっごく気持ちいいって分かったんだ!」

薫「だから、清美ちゃんと一緒に、またそういうことができたらいいなって……!」

清美「ふむ……なるほど……」



清美「一日だけの仕事でも、それを仕事と終わらせず、そこから自分なりに大切なことを学びとる……!」

清美「素晴らしい姿勢だと思います!」

薫「えへへ~! ホントー!?」

清美「改めて、あなたを『超☆事務所風紀委員会』の正式メンバーとして向かい入れましょう!」

清美「そしてメンバーの証として、この腕章を差し上げます!」

薫「わぁ! ありがとー! なんかカッコイイねっ!」

清美「ふふふ。今日のために張り切って作りましたからね。大事にしてください」

薫「わんしょーって大事?」

清美「ええ、何事もまずは形から。健全な精神は健全な形に宿りますから」



清美「さて、それでは早速、風紀の乱れを取り締まって、引き締めていきましょう!」

薫「あっ、でもね清美ちゃん! いっこ聞きたいんだけど……」

清美「なんでしょう?」

薫「事務所のふーきのためにがんばるって言うけどさ」

薫「例えば、ほら――」



「Pさん! 待てますか? 待てませんか?」

モバP「えっ、いや、だから待てるぞ? っていうかなんの話なんだ?」

「なぜ待てるんですか!! 今が食べごろなんですよ!?」

P「!?」

「Pさん。Pさんって小さい女の子が好きなんですよね」

「じゃあ、千枝のこと……大人にはしてくれなくていいです」

「だからその代わり……」

「女にしてほしい、です……!」

「P……。私とペロ、すごく仲良し……」

「だから……Pと私も、私とペロみたいな関係になれば、すっごく仲良くなれる……」

「なでなでしたり……ご飯あげたり……と、トイレの世話も……」

P「よーし! 落ち着け―! 落ち着けお前らー!」



「Pさん!」「Pさん……!」「P……!」

P「いやいや! そういうのはマズいって――」


片桐早苗「はいはい。ちびっこたちにそういうのはまだ早いわよー」ガシッ


「さ、早苗さん!?」「あう……捕まっちゃいました……」「もう少し……だったのに……」

早苗「まったく……。そういう色気付き方はもっと大きくなってからにしなさい」

早苗「っていうか、そんな知識、どこで仕入れてきたの?」

「あの……それは……」

「事務所にあった、本で……」

「薄かった……本……」

早苗「なるほどー? 元凶は他にいるってわけねぇ……?」

「や、やばいっスよユリユリ! 早くそれ隠すっス!」

「おお、ちょっと待って! 今、盛り上がってるとこで……」

早苗「ほう……」


ギャー!!! チガウンス! サークルノツキアイデ……!! 

カンニンシテー!!!



薫「――ほら。早苗お姉ちゃんとかが、悪いことでも困ったことでも、ぱぱーって解決してくれるよ?」

薫「なのに、かおるたちのやることって、あるのかな?」

清美「……なるほど、薫さんの言いたいことは分かります」




清美「しかしですね、薫さん」

清美「社会における秩序、風紀になにより大切なのは――そこにいる人々、一人一人の正しくあろうとする姿勢、意識なのです」

清美「『誰かがやってくれるだろう』という気持ちは、やがて『誰かにやらせればよい』という考えに変わってしまいます」

清美「『誰かがゴミを片付けるだろう』、『誰かが注意するだろう』――自分ではない誰かにやらせておけばいいなんていう無責任で軽薄な意識では、清く正しい社会は生まれません!」

清美「確かに、元警察官である早苗さんの存在やその行動は、事務所の健全な風紀の維持に一役も二役も買っていることは事実です」

清美「でも早苗さんだって人間ですから――いくら元警察官と言っても、事務所のトラブルすべてに対応できるわけではありませんし、なによりそれらを任せきりにしてしまうというのも、同じ事務所の一員としてはできません」

薫「そっか! 早苗お姉ちゃんだけじゃ大変だもんね!」

薫「分かったよ! かおるもがんばって、早苗お姉ちゃんを助けまっ!」

清美「ええ、その意気です!」



清美「我々、『超☆事務所風紀委員会』は、ただ二人の集まりに過ぎません……」

清美「しかしっ! 私は、私たちはお互いが、勧善懲悪の古強者であると信奉していますっ!!」

清美「――諸君、私は正常が大好きです」

清美「諸君っ! 私は清浄が大好きですっ!!」

薫(清美ちゃん、楽しそうだなぁ……)ニコニコ



清美「さて。では早速、風紀委員として活動開始です!」

清美「まずは風紀の乱れがないか、事務所の見回りから始めましょう!」

薫「見回りー?」

清美「カッコよく言えばパトロールですね」

清美「地味ではありますが、そういった地道な活動こそが、風紀維持で最も重要なところでもありますから」

清美「行きますよ! 薫さんっ!」

薫「りょーかいしまっ!」ビシッ



――――――
――――
――


薫「……ねぇねぇ、清美ちゃん!」スタスタ

清美「はい、なんでしょう?」スタスタ

薫「あのね。かおる、おまわりさんはやったけど、『ちょーふーきーん』は初めてで……分かんないこととか、まだまだいっぱいあるんだー」

薫「だから、どうしたらうまくできるか、何かアドバイスちょーだい!」

清美「ふむ、そうですねぇ……」

清美「では、あくまでも私の私見や独学での知識になってしまいますが……、一つ、超☆風紀委員として活動する上での心得を伝授しましょう」



清美「薫さん」

清美「風紀の乱れを正す上で――もっと言えば、正しいことを成す上で、私はあることが重要であると考えています」

薫「どんなこと?」

清美「それは――物事の『原因と結果を考慮する』、ということです」

薫「げーいんと、けっか……?」

清美「はい」



清美「そうですね――例えば、この事務所の給湯室、そこの水道管が壊れてしまったとしましょう」

清美「水道管が破損し、水が噴き出し、辺りの床が水浸しになってしまったとしましょう」

清美「では薫さん。そんな状況を前にして、薫さんだったらどうしますか?」

薫「えー!? 床がビチャビチャなんて大変だよっ! すぐに拭きまっ!」

清美「なるほど。確かに、その反応は間違っていません」

清美「――しかし、いくら床の水を拭き取ったところで……依然、壊れた水道からは水が噴き出し続けていますからね。薫さんがどれだけ頑張ったところで、その状況は一向に改善しないでしょう」

薫「あ、そっか……」

薫「じゃ、じゃあ……、壊れた水道を直さなきゃ、ダメ、かな……?」

清美「ええ、その通りです」

清美「薫さんの言う通り、水浸しになった給湯室を元に戻すには、水浸しという『結果』を生み出す、その『原因』である故障した水道をなんとかする必要があります」

清美「このように、何か問題に直面した時、目の前の結果だけでなく、それを引き起こす原因を、それが引き起こされた背景を考え、取り除く――」

清美「これが私の言う、『原因と結果を考慮する』の意味するところです」

清美「そしてこの考え方は、風紀の乱れを解消しようという時、とても重要となってきます」



清美「服装の乱れ、素行の不良、不届きな行為――」

清美「確かにこれら不逞の数々は、それを注意し、糾弾し、罰則を与えたりすれば、解決することはできるでしょう」

清美「――しかし大抵の場合、そこで満足し終わってしまっては、風紀維持の活動としては不足です」

清美「例えに出した壊れた水道管のように、その不逞が起こる原因の芽が残ったままでは、すぐにまた同じことが繰り返される……」

清美「真に問題を解決し、風紀を取り戻したいなら、なぜ風紀が乱れているのか――その根っこの部分を取り除くことが必須となります」

清美「その根源を根絶しないことには、乱れという目の前の結果だけに対処をしても、それは一時的なもので、長期的な解決にはならないのです」

清美「我々、風紀委員の使命――それは健全な風紀の創造とその維持です」

清美「不正を正し、悪を取り締まるというのは、あくまでもそのために必要な手段であって、目的ではありません」

薫「そっかー。『げーいん』が重要なんだね!」



清美「まあしかし……これは、言うほど簡単なことではないのですけれどね……」

薫「そーなの?」

清美「ええ。『結果』からその『原因』がなんであるか、実際に推測するのは簡単なことではありませんから」

清美「現実では、壊れた水道管のように、その原因がはっきりと目に見えるものとは限りませんし……、その結果に関わる原因が一つだけとも限りません」

清美「――よしんばその原因が分かったところで、今度はそれが自分で解決できる事柄なのか、という問題が出てきますし……」

清美「そしてそんな風に、一つの問題、原因を解決したことで、また新たな問題が発生する、ということもありますから……」

薫「うーん……それはむずかしいね……」



清美「――ただ」

清美「私は、困難だからということが、それをしなくていい理由になるとは思いません」

清美「むしろ、それがどんな問題であっても、手を抜かず、どうすればいいか常に考え続けること――」

清美「そんな気概が、風紀の維持には必要だと私は思っています!」

薫「そ、そっか! 分かったよ! むずかしいけど……でも、目に見えるものだけじゃなくて、目に見えないものも考えなくちゃなんだね!」

薫「かおるもがんばるよっ!」

清美「ふふふ……! いい心構えですね!」

清美「……しかし、そうは言っても薫さんは初めてのことなのですし、あまり難しくは考えないでください」

清美「とりあえずは、『間違いや違反を正し、風紀を守る』ということを念頭に置いておけば大丈夫です」



薫「まちがいやいはんって、例えば……?」

清美「そうですね。例えば――」



十時愛梨「ふぅ~。今日は特に暑いなぁ」

愛梨「汗もすっごくかいちゃって、気持ち悪いし……」

愛梨「丁度、事務所に人も少ないし……ここで……」

愛梨「ちょっと、脱いじゃおっと~!」ヌギッ



ピピッーーーー!!!!


清美「愛梨さんっ! アウト! レッドカードですっ!」

薫「ぴ、ぴぴー! ぴぴー!」



愛梨「わぁっ! もう、びっくりした……!」

愛梨「二人ともどうしたの?」

清美「どうしたのじゃありません。愛梨さん、あなた、今何をしようとしたか分かってますかっ!?」

愛梨「え~?」

薫「清美ちゃん。愛梨ちゃんの何がいはん?」

清美「それはもう、服装違反……、いえ、これはそれ以前の問題で、それ以上に問題ですっ!」

薫「んー?」



清美「愛梨さん。あなたは今、服を脱ごうとしましたよね?」

愛梨「え? うん、暑くってね~。汗でびちょびちょなの~」

愛梨「だから、脱いだら気持ちいいかな、って……」

愛梨「清美ちゃんだって、普通、暑かったら薄着になるでしょ?」

清美「だとしても限度があります!」

清美「今のあなたの服装で脱いだりなんかしたら、し、下着姿になってしまうでしょう!」

愛梨「あれ? ホントだー……?」

愛梨「そういえば、さっきも暑くって、一枚脱いだんだった。あはは、うっかり~」

清美「しかも、その服装だって少し下着が透けているじゃないですか!」

清美「社会人として、というか人として、人前でそんな破廉恥な格好でいることは許されませんっ!」



愛梨「た、確かに言われてみると、ちょっと恥ずかしいかも……」

愛梨「あ~、ほら、でも! 事務所には女の子しかいないんだし、大丈夫だって~」

清美「プロデューサーは男性じゃないですかっ! それに外部の人を招くことだってあるんです! そこで愛梨さんがそんな恰好をしていたら、事務所の人間としても恥ずかしいでしょう!」

愛梨「う、う~ん……。でも、今日は特に暑くって……」

清美「だからって度を過ぎた露出が許されるわけではありません!」

清美「着替えるなら更衣室で。そしてもっとちゃんとした服を着てくださいっ!」



薫(清美ちゃん、厳しいなぁ……)

薫(そういえば、さっきの清美ちゃんのお話――この場合の『げーいん』と『けっか』はなんだろ)

薫(愛梨ちゃんがお服脱いじゃうのが『けっか』、だよね?)

薫(それで、その『げーいん』は、暑いから)

薫(うーん……。『げーいん』をなんとかしようにも、夏が暑いのは当たり前だし、どーしよーもないよ……)



薫(……ううん。でも清美ちゃんに教わったばっかりだよね)

薫(むずかしくても、考え続けることが必要だって……!)

薫(だから考えなくっちゃ!)

薫(えっと……そうそう。たしか、目に見えないものが重要なんだよね……)

薫(目に見えないもの……)

薫(はっ……!)ティン



清美「大体ですね。愛梨さんはいつもいつも――」

薫「はいっ! 清美ちゃん! かおる思いつきましたっ!」ビシッ

清美「は、はい? 思いついた……?」

薫「うん! ちょっとここはかおるに任せてよ!」

清美「は、はぁ……?」



薫「愛梨ちゃん!」

薫「愛梨ちゃんは、暑いからお服、脱いじゃうんだよね!」

愛梨「う、うん。そうだけど……」

薫「でもね! 脱いじゃって裸になっちゃうのは、ふーきが乱れちゃうの!」

薫「それはよくないの! だからお服はちゃんと着なきゃだめなんだよ!」

愛梨「う、うん……。そうだよね……」

清美(ふむ、なるほど……)

清美(確かに――言っている内容は同じことでも、私が厳しく注意するより、薫さんぐらいの年齢の子から言われたほうが、効果はありそうで――)

薫「だから愛梨ちゃんっ!」




薫「脱ぐなら下着を脱ごうっ!!」

清美「!?」

愛梨「!!」




清美「えっ、あの、薫さん……?」

薫「暑くって脱ぎたいなら、見えちゃう上着じゃなくて、見えない下着を脱ごうっ!」

愛梨「し、下着……下着から脱ぐ……」

愛梨「な、なるほど~……! それは盲点だったかも……」

清美「ちょっと、待っ――」

愛梨「じゃあ、えいっ!」スルリッ

愛梨「わぁ……! 確かに、ショーツを脱いだらスースーして気持ちいい……!!」



清美「待ってください! あの――」

愛梨「じゃあ薫ちゃん、ブラも取っちゃったほうがいいかな?」

薫「ぶ、ブラ……?」

薫「う、うん! かおるしてないから分かんないけど、きっと取っちゃったほうがいいよ!」

愛梨「そっか~! じゃあ、よいしょっと……」スポンッ

愛梨「あぁ……! 密着してたのがなくなって、これもいいカンジ……!」

愛梨「確かにこれなら涼しくて、でも上は着てるから怒られない……!」

愛梨「すごいね~、薫ちゃん! 天才だよ~!」

薫「ホントー?」

清美「いえあの――」

薫「えへへー! やったよー! 清美ちゃんのアドバイスのおかげでほめてもらったよー!!」ニパァァ

清美「えーと……」



愛梨「あっ、でも……」

薫「どうしたの?」

愛梨「これ、ちょっと……あの……」

薫「んー?」

愛梨「こ、擦れて……///」ゾクゾク

薫「擦れる……?」



薫「こ、擦れるって、どこが?」

愛梨「さ、先っぽが……」ゾクゾク

薫「さ、先っぽ……? えっと、い、痛いの!?」

愛梨「痛くはないけど……」

愛梨「へ、変なカンジ……///」ゾクゾク

薫「ええー!!」

薫(どうしよう……、これも清美ちゃんの言った通りだ……)

薫(目の前の問題を解決しても、新しい問題が出てきちゃう……!)

薫(……ううん! でも、それでも、あきらめちゃダメだよね!)

薫(あきらめず、それでも考えなきゃ……!)



薫「愛梨ちゃん! 擦れちゃうならこれ使って!」シュバッ

愛梨「これって……絆創膏……?」

薫「うん! かおるも、靴が擦れて足が痛い時にこれを貼るから!」

薫「だから愛梨ちゃんもこれを先っぽに貼れば、きっと痛くないよ!」

愛梨「わぁ~! ありがとう~! ひまわり柄でカワイイね~!」

薫「えへへ~! そうでしょー♪」

清美「いえ、だから、あの……」


――――――
――――
――



薫「えへへ~♪ ねぇねぇ清美ちゃん!」スタスタ

薫「どうどう!? さっきのかおる、ふーきーん、うまくできたかなっ!?」スタスタ

清美「そ、そうですね……」スタスタ

清美(正直、突っ込みたいところは多々あったのですが……)

清美(でも、薫さんが初めてながら、一生懸命考えてやった結果ですし……)

清美「……そうですね。薫さんは良くやったと思いますよ……!」

薫「ホントー!? やったー!?」

薫「やっぱ、いいことすると気持ちがいいね!」

清美(まずは褒めて伸ばす。なんでもかんでも否定から入っては意欲も削がれてしまうでしょうし……これで良かったんですよね……)



――――――
――――
――


清美「さて、それでは薫さん」

清美「風紀委員として一つの仕事を成したあなたに、次の心得をお話ししましょう」

薫「はいはーい!」

清美「超☆風紀委員としての、次の心得」

清美「――それは、『正しさを一貫する』、ということです」



薫「いっかん?」

清美「ええ」

清美「私たちの風紀委員としての活動もそうですが――何か正しいことをしようと決意し、行動を始めたなら、最後までその『正しさ』を失わず、貫き通すべき、ということです」

清美「誰かの助けになろうと思ったのなら、中途半端で終わらせず、最後まで責任を持ってやり遂げる。不正を正そうとするなら、それが成就するまで尽力する」

清美「たとえ最初に抱いた『正しさ』が、どんなに高尚で称賛されるものでも――途中でいい加減になったり脇道にそれたりしては、最後に行き着く結果は、当初の目標からは乖離し、本来望んでいたものにはなりません」

薫「えっと……、お部屋の片付けとか、やっていくうちに面倒くさくなっちゃう、みたいな……?」

清美「ええ、まさにそれですね」

薫「な、なるほど! やっぱ、自分で決めたことはちゃんとやらなきゃね!」



清美「薫さんの言う通りです」

清美「――しかし、ここで勘違いしてほしくないのは、目標を達成するためなら何をしてもいいというわけではない、ということです」

薫「……?」

清美「例えば薫さん、学校で宿題が出されますよね?」

清美「で、その宿題を期日までに、例えば今日中にやって、明日の朝に提出しなければならないとしましょう」

薫「ええー! うぇ……大変だなぁ……」

清美「ええ。では大変だからといって、手っ取り早く済ますために、宿題を、その答えを丸写しして仕上げたとしましょう」

清美「さて、結果的に宿題はできたわけですが――薫さんはこれをどう思いますか?」

薫「そ、それは、よくないと、思うよ……?」

清美「そうですね。宿題はできても、勉学に勤しむという本来の目的は失われています」



清美「『正しさを一貫する』とは、その過程や方法も正しくあるべき、ということでもあります」

清美「間違った方法で得られた結果に価値はない――正しきを成そうとし、しかし間違った方向へ曲がってしまうことは、自らが抱いた正義の気持ちを汚すことにもなりますしね」

清美「自分の正義を裏切らないためにも、常に考え、正しい道を進むようにしていくべきなのです!」

薫「は、はい! 分かりました……」

薫「か、かおるも……宿題は、ちゃんとやります……」

清美「……ま、まあ、正直は美徳ですよ、薫さん」



薫「よーし……! じ、自分のせいぎを、けがさないように……がんばるぞ!」

清美「ふふっ。薫さんも、だんだん風紀委員としての心構えができあがってきましたね!」

清美「この調子で、もっとたくさん超☆風紀委員を志す人が増えればいいのですが……」

清美「――おや?」



五十嵐響子「あっ、清美ちゃんと薫ちゃん!」

響子「おはようございます! 二人で仲良くどうしたの?」



薫「あっ、響子ちゃんだ!」

清美「おはようございます、響子さん」



響子「あれ、薫ちゃん。その腕章、清美ちゃんとおそろい?」

薫「えへへ~! かおるは今、ちょーふーきーんなんだよ!」

清美「風紀委員として、薫さんと一緒に見回りの最中なんですが……」

清美「響子さんは、頭に三角巾というその恰好は……」

響子「うん! 今からここ、ちょっとお掃除しようと思ったの」

響子「ここ最近で特に散らかっちゃったからね。今は誰もいないから、ぱぱっと済ませちゃおうと思って」

清美「なるほど、そうでしたか……」



清美「それでは薫さん。私たちも響子さんの清掃をお手伝いしましょう」

響子「わぁ、本当!? 助かるよー!」

薫「これも、ふーきーんの活動?」

清美「正確に言えば美化活動なのでしょうが……、しかし、風紀の維持とは人の行動を正すだけで成せるものではありませんからね」

清美「よく床の汚れは心の汚れなどと言いますが――とある話によると、落書きだらけでごみが散乱したような場所というのは、犯罪の発生率が高いそうです」

清美「不衛生な環境は不健全を助長しますからね」

清美「健全な風紀の維持のため、清く美しい生活空間を整えることも、私たちの職務であると言えましょう!」

薫「おっけー! 分かったよ! おそうじだー!」

響子「ふふ! ありがとう二人とも!」

響子「じゃあ、二人はとりあえず、あっちの片づけをお願いしていいかな?」

薫「はぁーい! がんばりまー!!」



――――――
――――
――


清美「しかし……想像以上に散らかっていますね……」

清美「お菓子の袋、食べかけのパン、飲みかけのペットボトル、缶、ビン、エトセトラ……」

清美「下手をするとゴキブリが出てもおかしくないですが……」

薫「ご、ゴキブリ!? わわ……大変だ……!」

薫「すぐにきれーにしなきゃっ!」ガサガサ

清美「ああ、待ってください薫さん」

清美「それは燃えるごみです。そっちは燃えないもの。それは資源ごみなのでこっちにまとめておいてください」

清美「ペットボトルはラベルをはがして、キャップはこれに。それは汚れがひどいのでこっちです」

薫「ええと、これがこっちで、これがあっち……?」

薫「ちょっとややこしいね……」

清美「そうですね。しかし、清掃活動だってただやればいいというものではありません」

清美「ごみはきっちり分別する。さっき言った『正しさを一貫する』、です」

清美「せっかく風紀のためにやっているのですから、ここも手を抜かず、正しくやっていきましょう!」

薫「はい! 分かりましたー!」



清美「むぅ……ここの本棚はひどいですね……」

薫「わぁ……なんかマンガがいっぱいだね!」

清美「レッドカードです! 片付けましょう!」

薫「マンガがあっちゃいけない?」

清美「まあ、ここは学校ではありませんから、そこまでうるさくは言いませんが……」

清美「しかし、いくらなんでもこれは私物の持ち込み過ぎ……、というより、この辺を明らかに私物化しています」

清美「大勢が利用する空間を個人が勝手に占有してしまっては、その他の人に不利益が生じてしまいます」

清美「たかがマンガくらいと思わず、むしろこういうところから厳しくしていかないと風紀の維持はできません!」

薫「そっか。マンガはいっぱいあっちゃダメなんだね……」

清美「この辺のものはまとめておいて、あとで持ち主に持って帰ってもらいましょう」

清美「薫さん、こちらはもう私一人で事足りますし、響子さんのほうを手伝いに行ってください」

薫「はーい!」



薫「きょーこちゃん!」

響子「あっ、薫ちゃん。向こうは大丈夫なの?」

薫「うん! だからかおる、響子ちゃんを手伝いにきたよ!」

響子「ふふっ、ありがとう」

響子「うーん、でも……実はこっちももうすること、あんまりないんだよね」

薫「そーなの?」



薫「あっ、でもほら。せんせぇの机、ぐちゃぐちゃだよ?」

薫「きれーにしなくていいの?」

響子「あはは、確かにね。私もやりたいとは思うんだけど……」

響子「でも、プロデューサーさんの机の上には、企画の資料とか、みんなの計画表とか、お仕事関連のものがいっぱいあるから……」

響子「だから、それを私たちが勝手に整頓して、そういう大事な書類がどこかに行っちゃったり、万が一捨てちゃったりしたら大変でしょ?」

響子「だから基本、プロデューサーさんの机は手をつけないの」

薫「そっかー!」

薫「響子ちゃん、せんせぇのこと、よーく考えてるんだね!」

響子「えっ、ええ!? そ、そうかな……///」

響子「あはは……なんだか照れちゃうね……!」



響子「まあとにかく、そんなわけだから、お掃除するとしても机の周りを掃いたりとか……」

響子「ごみを片付けるとしても、明らかにごみだって分かるものを捨てるくらいかな」

薫「なるほどー。明らかにごみだって分かるものねー」

薫「あっ! じゃあこのコンビニのお弁当の容器と空き缶は、明らかに分かるごみだよね!」

薫「よーし! 捨てちゃおっか!」



響子「ああ、待って薫ちゃん。それはね――」

薫「分かってるよ! 分別でしょ?」

薫「ええと、これはぷらだから、こっち――」

響子「うん。だからこれに入れて」スッ

薫「うん? うん……」

薫「割り箸は――」

響子「これにお願い」スッ

薫「空き缶は――」

響子「これね」スッ



響子「うん! プロデューサーさんの机、綺麗になったね!」

響子「やっぱり、誰かのためにいいことをするのって、気持ちがいいなぁ!」

薫「……あの、響子ちゃん?」

響子「うん?」

薫「なんで、ごみ、ごみ袋に入れないの?」

響子「え?」

薫「それ、たしか、ジップロックってやつだよね?」

薫「なんでそれに入れるの?」

響子「あはは。そんなに不思議なことじゃないよ」



響子「ほら、言ったでしょ? プロデューサーさんの机の上には、お仕事に大切なものがいっぱいだって」

響子「だから、これもすぐには捨てないで、もしもの時のために取っておかなきゃなんだよ」

薫「で、でも……明らかにごみって分かるものは捨てるんでしょ……?」

響子「――薫ちゃんは、さっき私はすごくプロデューサーさんのこと考えてるって言ってくれたけど……」

響子「でも、私も、あの人のこと、まだ全部分かるわけじゃないから」

響子「だから、このコンビニ弁当の容器も、割り箸も、まだちょっと中身が残ってるコーヒーの缶も――もしかしたら、すっごく重要なものであるって可能性を完全に否定できないの」

響子「ごみにしか見えないこの収穫も、もしかしたら、とても価値のあるものかもしれない」

響子「だからPさんのことを真に想うなら――こんな貴重な逸品を、簡単に捨てちゃうわけにはいかないんだよ!」

響子「だから念のためにこうやって、私が厳重に保存、管理して、取っておくんだ」

薫「な、なるほど……」



薫(うーん。じゃあホントにもうすることないね)

薫(でももっと、せんせぇの役に立ちたいなぁ)

薫(何か、ちょっとでもすること、ないかな……?)ゴソゴソ

薫(……ん?)



薫「見て見て! 響子ちゃん!」

薫「ほら、せんせぇの引き出しにね、いっぱい――」

響子「か、薫ちゃん! 勝手に開けたらダメだよー!」

響子「――って、これ……」



薫「すっごいね。この引き出しの中、マンガでいっぱいだよ!」

薫「ほら!」パサッ


『ツンツンキャラのつるつるJS キャラもアソコもデレデレに!』

『性活指導! おませなあの子に大人の教育!』

『無口なロリに調教プレイ! 下の口から饒舌に!』


薫「まだまだあるねー」ガサゴソ

薫「うーん、どんなお話なんだろ? よく分かんないけど、せんせぇは好きなのかな?」

響子「……薫ちゃん」

薫「うん?」



響子「捨てよう」

薫「へ?」

響子「これはごみだから、全部捨てよう」ガサガサ

薫「え? あ、あれ……」

薫「でも……響子ちゃん、せんせぇのものは勝手に捨てないって、言ってなかった?」

響子「うん? そうだけど――でもほら、こうも言ったでしょ?」ビリッ

響子「明らかにごみだって分かるものは捨てちゃっていいって」ビリッ

響子「それにプロデューサーさんってお仕事はできるけど、私生活は結構だらしないとこもあるから。部屋とかもそうだけど、こうやってごみを貯め込んじゃうこともあるんだよね」ビリッ!!

響子「捨てられない性格、ってやつなのかな? 誰かからもらったプレゼントの包装紙とかも、捨て辛いなんて言ってたし……」ビリッビリッ!!!

響子「だからこうやって、誰か他の人――それも、彼のことをよく分かってる人が掃除してあげないとなの」ビリッ!!! ビリッ!!!

響子「ふふっ、もう……Pさんは私がいないとダメなんですから……」ビリィッ!!!!



薫「ま、マンガは、ごみ、なの……?」

響子「そういうわけじゃないけど」

響子「――でもほら、何よりここは職場、お仕事するための場所でしょ?」

響子「そこに、こんなマンガがこんなにあるのはいけないから」

響子「だから薫ちゃんも、どんどん捨てちゃっていいからねっ!」

薫(そういえば、清美ちゃんもそんなこと言ってたっけ)

響子「こう、やって!」ビリィイイイ!!!

響子「細かくしてから捨ててね!」

薫「あ、うん……」



薫(夜の公園……お散歩……? この表紙の女の人、なんで裸なんだろ。寒くないのかな?)ビリビリ

薫(か、かん、きん……? こ、こう、そ、く……? しゃ、しゃ……しゃナントカかんり……? むずかしいお話のマンガかな?)ビリビリ

薫「ええと……あとは……」


『純白ドレスに白濁化粧! 花嫁の花びらに口づけを!!』

『今日からあなただけのもの 若妻は初夜で処女喪失!!』

『ごはんの前に! お風呂の前に! 欲しがり新妻とのイチャラブライフ!』

『若奥様は奥が好き! おねだり家内に膣内○精!!』

『お世話好きなうちの女房 三歩下がって夫を立てる! ○ンポシコってアッチも勃てる!?』

『年下押しかけ通い妻! 昼も夜も、旅行先でも新婚性活!!』


薫「これも捨てちゃっていいんだよね」

薫「よいしょ――」

響子「待って薫ちゃん」



薫「うん? なぁに?」

響子「それは、そのままにしておいていいから」

薫「へ? でも、これ、ごみだから捨てるんじゃ……」

響子「ふふっ、言ったでしょ、薫ちゃん」

響子「確かに薫ちゃんには、これも、捨てた他のものと同じに見えるかもしれないけど――」

響子「でもプロデューサーさんにとっては、もしかしたらこのマンガは他の違って、とっても重要で、大事で、価値があるものかもしれないからね」

響子「だからこれは残しておかなくちゃ」

薫「あ、うん……。そう、なのかな……?」

響子「――よく、妻が夫の大事にしているコレクションを勝手に捨てて離婚騒動になる、みたいな話があるけれど……」

響子「そんな風に、自分の主観だけで物事を決定し、進めてしまうのは大きな危険が伴うんだよ」

響子「相手のために何かをしようとするなら尚更、まずは自分の独善的な判断じゃなくて、相手の――愛する相手の立場に立って物事を考えなきゃね」

響子「Pさんがどれだけこのマンガをお気に入りか。もしこれがなくなったらどれだけ悲しむか……」

響子「そういうことも考えながらお掃除やお世話はしなくっちゃ」

響子「それが、人を思いやることだって私は思うよ」

薫「そ、そっかぁ……」



――――――
――――
――


薫「……清美ちゃん」スタスタ

薫「お掃除って……むずかしいね……」スタスタ

清美「そうですねぇ……。確かにごみの分別も、厳しい地域ではすごく細かく分別の指定があると聞きますが……」スタスタ

薫「うん……お掃除は……、とにかく奥深いんだよ……」スタスタ



清美「さてと……時間的にはいい頃合ですか」

清美「薫さん、ちょっと行きたいところがあるので、ついてきてください」

薫「行きたいところー?」

清美「ええ。行きたい、というより、かねてより取り締まるべきと思っているところがあるのです」



薫「それって?」

清美「実は最近、所構わずに、お菓子やパンを食べるという行為が横行しているそうでして」

清美「レッスン中であろうと弁えずに飲食をしている方々に、風紀委員として注意をしに行こうと思うのです」

薫「お菓子……、かおるももらったりするけど、食べちゃダメなの?」

清美「事務所でお菓子を食べること自体は、それが認められているなら構いません」

清美「しかし、レッスン中などにそういった行為をするのは良くないことです」



清美「人間、ずっと張り詰めていられるものではありませんからね。あくまで常識の範囲内で、ですが――時には気を緩め、リラックスすることも必要です」

清美「しかしそれをだらだらと、ずっと緩めっぱなしにするのはいただけません」

清美「レッスン中はしっかりとそれに集中し、終わったらリラックスのためにお菓子を食べたりしゃべったりする」

清美「TPOを弁え、メリハリをつけ、緩んでよいところは緩み、その分、引き締めるべき時に引き締めることが、人としての正しいあり方です!」

薫「メリハリ! そういえば、川島さんも言ってた気がするよ!」

清美「さすが川島さんですね。大人としてちゃんと良識がある――」

薫「あと、お肌がどうとか……」

清美「うん?」



清美「さて、ここがその問題のレッスンルームですね」

清美「最近は注意する立場のトレーナーさんまで言いくるめ、巻き込んでいるみたいですし……」

清美「超☆風紀委員として、ここはビシッと注意していきますよ!」

薫「よーし! お邪魔しまー!」


ガチャ





三村かな子「」


椎名法子「」


大原みちる「」


ルーキートレーナー「」



清美・薫「「!!?」」



薫「え、あれ……? みんな倒れてる……!?」

清美「い、一体何が……」

清美「レッスンのし過ぎでしょうか……?」



「いいや、レッスンのやり過ぎじゃあこうはならないね」





「この場の全員が全員、床に倒れている」

「トレーナーさんまで倒れている時点で、そんな推測は当てはまらない」

「これは明らかに第三者の仕業に違いない」

「一体誰がどういう目的でこんなことをしたんだろうねぇ」


薫「だ、誰!?」



「おおっと! 早とちりしないでね。あたしが気づいた時にはもうこうなっていたんだよ」





「ああ、ところで話は変わるんだけど――」

「君たち夏を過ごすなら、海派? 山派?」



清美「あ、あなたは……」




棟方愛海「あたしは断然、乳の山派」



薫「愛海ちゃんっ!?」

清美「む、棟方、棟方愛海さんっ!」



愛海「あたしのことは親しみを込めて、『おのぼりさん』と呼びなさい」




眠いのでとりあえずここまで。
続きは後日にでも。




清美「……あなたですね。この惨状の犯人はっ!」

愛海「惨状だなんて、犯人だなんて……そんな言われ方は心外だなぁ」

愛海「この状況の何が惨くて、あたしが何を犯したって言うのさ」

愛海「あたしはただ、みんなのレッスンで疲れた体を――そのハリに張ったお山を揉みほぐしてあげただけだよ」

愛海「純粋な思いやりで、親切心で、好意からくる行為だってば」

愛海「いやぁ! いいことをするって、気持ちがいいよねぇ……!」



清美「……たとえ悪意がなくても、その方法は、その行為は大いに問題ありですっ!」

清美「あなたのその、他人のむ、胸を触るという過度なスキンシップ! 風紀委員として見逃せません!」

清美「健全な風紀維持のため、今すぐにそんなふしだらな行為はやめていただきますっ!」

愛海「ふしだら、ねぇ……」



愛海「――例えば『地動説』」

清美「……?」

愛海「『進化論』、『放射能』、『民主主義』、『男女平等』……」

愛海「今日、多くの国、地域、人々の間で一般常識として、その存在を知られている定理や法則、日常の『当たり前』の数々」

愛海「今じゃ普通で、知らなくちゃ冷笑を買うような常識の面々は――しかしひと昔前なら、そんなことを口にするほうが冷笑を買うような、そんな事柄ばかりだよ」

薫「ど、どういうこと……?」

愛海「つまり、人々の日常は、社会の常識は――君たちの言うところの『正しさ』ってやつは、時間と共に移ろいゆくものってことだよ」

愛海「高名な音楽家も、鬼才と称される芸術家も、それが評価され始めるのは死後数十年経ったあとってこと、多いでしょ?」

愛海「だからあたしのこの行為だって――たおやかで柔らかなお山への登頂だって、何年も経てば、何回も経れば、その評価も変わってくるかもしれない」



清美「つまり……相手の胸を触る行為が、正しいことに変わる時が来ると、そう言いたいんですか……?」

愛海「変わりつつある、とあたしは宣言したいけれどね」

清美「ふざけないでくださいっ! そこに倒れている人たちを見れば分かるでしょう! こんなことが正しいことのはずありません!」

愛海「清美ちゃんこそよく見てみなよ。別に倒れてるみんなだって、苦痛に顔を歪めてるわけじゃないでしょ」

愛海「――それに、いつだって変化ってのには、最初は痛みが伴うものなんだよ」

愛海「でも、それを乗り越えて前に進むことも、人生には必要だと思うよ?」

愛海「人生、山あり谷間ありってね」

愛海「激動であるからこそ、人は前に進み、進歩する」

愛海「人生の全盛はお山にこそあるんだよ」



愛海「そこへ行くと――清美ちゃん」

愛海「清美ちゃんの言う、風紀の維持ってのは……どうなのかな?」

愛海「確かにそこから生まれる環境は平和で平穏だけれど――でも、それは言い換えると、停滞してるってことじゃないかな?」

愛海「それは雄大な山々を、無残にも平坦な更地にしてしまう行為じゃないかな?」

愛海「君たちが摘み取った不正の芽は、除いた問題の種は――実は希望の大樹のそれだったりはしないかい?」

清美「くっ……」



清美「……詭弁、です……そんなものは……」

愛海「まあ、そうかもね」

愛海「あたしだって、こんな話だけで分かってもらえるとは思ってないよ」

愛海「口だけじゃ、やっぱ人も、その心も動かないよね」

愛海「『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。』ってね」

清美「山本五十六、ですか……?」

愛海「やっぱいいこと言うよね、先人は」

清美「……?」

愛海「だからまあ、まずはやっぱり――」




愛海「やってみせないと、ね――!!」シュバッ



清美「なっ――!?」

清美(愛海さんが消えた!? いえ、これは――!!)



愛海「ああでもごめん。これじゃ、清美ちゃんの目には見えないか――」シュバッ



清美(は、速い!! 高速移動!?)



愛海「でも、まあ――」

愛海「目に物見せてはあげられるかな――!!」バッ



サワッ


清美「きゃっ……!!」ガクッ

薫「!?」



薫「き、清美ちゃん!? どうしたの!?」

清美「な、これは……一体……」ガクガク

清美(で、電気が走ったような痺れと脱力……!? あ、腰に……力が入らない……)

清美(い、今の一瞬で、何が……!?)

愛海「おおー。やっぱ真面目系の子にはこういうの、効果抜群だねー」

清美「な、なにを……したんですか……」ガクッ

愛海「『何を』だなんて、言うまでもないでしょ。あたしはいつもどーりに、清美ちゃんのお山を揉みほぐしただけだよ」

清美「な、なに……を……言って……」ガクガク

清美(確かに、今の一瞬で胸を触られたのは分かりました……)

清美(――でも、それはほんの刹那。揉むほどの時間なんてなかったはずなのに……!?)

薫「き、清美ちゃ――」

清美「薫さんっ!」

清美「逃げてくださいっ!!」

薫「ええ!?」



清美「この愛海さんには、今の私たちでは太刀打ちできません!」

清美「ですからここは、逃げてください」

薫「そ、そんな! 清美ちゃんはどうするの……?」

清美「私はこの有り様です……。すぐには動けません」

清美「このままでは共倒れですっ!」

清美「だからどうか、あなただけでも逃げてください」

清美「超☆風紀委員として、あなただけでも残っているなら――まだ、この事務所に風紀の大切さと正義を成そうという心を持った人が残るなら」

清美「希望が、そして正義が潰えることはありません……!」

薫「で、でも……そんなこと……」



愛海「そうだよ。そんな仲間外れみたいなこと、風紀委員が言っちゃぁいけないよ」シュバッ

薫「!!」

清美「な、待ってくださいっ! 胸なら私で十分でしょう!」

清美「それに薫さんのそれはまだ、その、小さいものです!」

清美「あなたが揉みたいと思うものじゃないでしょう!!」

愛海「分かってないなぁ、清美ちゃん」

愛海「まあでも、分かってもらおうと思ってなかったあたしが言えたことじゃないか」

愛海「だったら教えてあげるよ」

愛海「あのね――」



愛海「大きさじゃないんだよ」ニヤァ



薫「――!!」ビクッ

清美「くっ……!」



愛海「と言っても、これも今のあたしが言えたことじゃないんだよね」サワリ

薫「ん……! あっ……!」ピクッ

愛海「大きさではないと、お山に貴賤はないと――」

愛海「そう、山より高く海より深い信念を持ちながら……、しかし最近のあたしは、大きなお山ばかりに気を取られていたのも事実なんだよ」ナデリナデリ

薫「んん……く、くすぐったいよぉ……」ゾクゾク

清美「薫さんっ!!」

愛海「だからここいらで、ちょっと反省しなきゃね」

愛海「そんな間違いは正さなくちゃいけない」

愛海「自分の中の正義を汚さないためにも――」

愛海「自分の正義を重んじ、正しさに従わなくちゃね……」ワキワキ

清美「正義!? それが……、そんなものがあなたの正義だと言うんですかっ!!」

愛海「そうだよ。それこそがあたしのジャスティス」



愛海「よく分かってるじゃん」ワキワキ



薫「あっ……!」

清美「薫さんっ――――!!!」





「そのくらいにしたまえよ。愛海くん」





愛海「うーん? どなた?」

清美「こ、この声は……!」

「遅れてすまないね。君たち二人が、事務所の風紀のために見回りをしているという話は聞いていたんだが――」

「私としたことが、今日は早苗さんや真奈美さんたちが仕事で事務所にいないことを失念していたよ」

「年長者として、君たちの活動についてはあくまで傍観しているつもりだったが――かと言って見殺しにしたいわけでもないのでね」

清美「あ、あなたは……」



東郷あい「やあ、二人とも。助けに来たよ」



薫「あいお姉ちゃんっ!!」パァアア



あい「やれやれ、愛海くん。相変わらずなのだね君は」

あい「真奈美さんや清良さんに揉まれて、少しは丸くなったと思っていたんだが……ちょっと見込みか甘かったか」

愛海「いやいや、丸くはなりましたよ。そりゃもうお山みたいに」

愛海「ただまあ――あたしはやっぱり、揉まれるより揉むほうが向いているんでね」

清美「あ、あいさん……!」

あい「清美くん、よく頑張ったね。どんな相手にも自らの意思を曲げず、さらに年下を庇うその姿勢、尊敬するよ」

清美「あのその……」

清美「ありがとう、ございます……///」

あい「なに、当然のことを言ったまでさ」



あい「むしろ――私は謝罪すべきなのだろうな」

あい「自分たちで事務所の風紀を正そうという、君たちのその志は立派の一言に尽きるが――別な見方をすれば、そんな危機感を年下の子たちに抱かせてしまった、私たち大人にも責任がある」

あい「こんなことが贖罪になるとは思わないがね……」

あい「とりあえず、清美くんは足腰が回復するまでそこで休んでいなさい」

あい「あとは任せてくれたまえ」



薫「あ、あいお姉ちゃん! 気をつけて!」

薫「今日の愛海ちゃん、いつもと違うよ!」

あい「安心しなさい、薫」

あい「少なくとも、私の目の黒いうちは、もう好き勝手にはさせな――」



愛海「――へぇ、でも黒かろうが白かろうが、目に映らなきゃ関係ないんじゃない?」シュバッ



あい「!?」



あい「なっ、一気に間合いを……!?」

清美(まただ! またあの瞬間移動!)

愛海「イケメン枠ならやられないと思った? 大人ぶってれば安全だと思った?」ワキワキ

愛海「あたしが可愛らしい顔立ちだから、会話中なら揉まれないとでも思った?」ワキワキ

あい「くっ……!!」



愛海「甘めぇよ!!」モミモミモミ!!!!!



薫「あいお姉ちゃん――!!!」



愛海「……が、その甘さ、嫌いじゃない……よ…」モミモミ

愛海「って……あれ……?」


あい「――そうか。気に入ってもらえたなら何よりだ」

薫「あ、あいお姉ちゃん!?」

清美「なっ!? あいさんがいつの間にか愛海さんの後ろに!?」

清美「それに……、愛海さんが揉んでいるのは、あいさんが着ていたジャケット……!?」

清美「まるで身代わりの術のような……」

愛海「へぇ……」



愛海「やるねぇ、あいさん。甘かったのはあたしのほうかな?」

愛海「あんなこと言ったけど、やっぱりおっぱいのついたイケメンは侮れないなぁ」

あい「……いやなに、こんなのはただの手品さ」

あい「君の『それ』とは比ぶべくもないよ」

愛海「いやいや、あたしが言ってるのは、その忍者さながらの身代わりの術じゃなくてさ」

愛海「じゃなくて――たとえ一瞬であろうと、このあたしにこんなジャケットをお山の感触だって誤認させたことだよ」

あい「まあそれは、君と清美くんとの接触をあらかじめ見ておかなければ、できなかった芸当だね」



あい「しかし……、驚いたよ、愛海くん。まさかそんなテクニックを会得していたとはね」

あい「どうやら、真奈美さんたちは君を丸くするどころか、むしろその技を磨くことに一役買ってしまったようだ」

清美「あ、あいさん……! 愛海さんのあの瞬間移動は一体……!?」

あい「……恐らくは、愛海くん自身の手先の挙動――それの応用だろうね」

愛海「……すごいですね。あれだけの接触でそこまで見抜くなんて」



愛海「――そう。あたしのこの移動法は、この指に込める力のコントロールを足運びに適用したもの」

清美「適用……?」

愛海「女は胸を揉まれれば感じるなんてのは童貞の言い分だけど――だからって、胸を揉んだって何も感じないなんていうのは下手くその言い訳だよ」

愛海「お山を登る時にはね――手先の、その指先に込める繊細な力加減が大事なのさ」

愛海「力の強弱、間隔の緩急、それを込める位置――そんな大胆ながら精密なパワーコントロールが必要なんだよ」

あい「……そして、今の彼女はそのコントロールを手先だけでなく、足先でも行えるのさ」

愛海「やっぱ山登りは足腰ができてなくちゃねー」

愛海「地を踏みしめる足、その最適な場所に、最大の力を込め、最小の動作で、最速の動きを実現する!」

愛海「故に最強! いやさ最胸!!」



清美「そ、そんなことって……」

あい「――まあ確かに、その高速移動は脅威だが、しかし、本当に警戒すべきは、やはりその手のほうだね」

あい「君の移動方が、手先の動作の応用なら――その基礎であるそれの挙動は、さらに凶悪な代物なのだろう……?」

愛海「ホント、あいさんに隠し事はできないなぁ……」

愛海「あいさんの言う通り――『こっち』こそが、あたしが真奈美さんたちに揉まれて習得した本命なんだよね」

愛海「って言っても、種を明かせば簡単なことなんだよ」

愛海「女の子の柔らかいところを愛でようと思うなら――まずは自分が柔らかくならなきゃいけないって話でさ――」



愛海「こんな風に!!」グニャグニャグニャ



清美・薫「「!?」」



清美「あ、愛海さんの指が、まるでそれぞれが意思を持った生き物ような動きを……!?」

あい「事務所の猛者たちとの戦いで磨いた、その手先の異常とも言える柔軟性。そして、動きに込める力の精密なコントロール」

あい「それらを駆使することで、今の愛海くんは自らの十指、そのすべてを自由自在に、完全駆動させることができる……!」

清美「さっき、一瞬しか触られていないのに、腰が抜けたような感覚に陥ったのもそのせいですか……!」

愛海「その通り。この手を使えば、今のあたしにとっちゃ、一瞬さえもお山を堪能するには十分な時間なんだよ」

薫「あわわ……」ガクガク



あい「……清美くん」

あい「身体の調子は、どうだい?」

清美「は、はい。歩くくらいなら、なんとか」

あい「そうか。ならば清美くん」

あい「薫と一緒に、ここから逃げてくれ」

薫「!!」

あい「愛海くんの言う通り、どうやら私は彼女を見くびっていたようだ」

あい「情けない話だが、君たちを庇いながら彼女と渡り合うのは、私では力不足だろうからね」

薫「そんな! 嫌だよ! あいお姉ちゃんも一緒に!」

あい「――薫」



あい「私は大丈夫さ。ただちょっと、私の本気を薫に見せるのは恥ずかしいから、席を外してほしいんだ」

薫「でも、でも――!」

あい「薫」

あい「薫は今日、これからもたくさんの正しさ――『正義』について学ぶことになるだろう」

あい「だからそこで考えてほしい。『正義』とはなんなのかをね」

あい「薫には難しいかもしれないが、愛海くんのあれもまた、彼女にとっては正義――彼女の出した答えなんだ」

薫「せいぎ……? 愛海ちゃんのあれも……?」



あい「だから薫にも考えてほしい」

あい「これまでの出会ってきた正しさたちと、これから出会う正しさたちを知って――」

あい「そして、君にとっての答えを、そこから出してほしい」

あい「私から薫への宿題だ」

あい「やってくれるかい?」

薫「う、うん! やるよ! かおる、宿題ちゃんとやるって、決めたもん!」

薫「決めたから、最後まで、ちゃんと……やる、よ……」グスッ

あい「ありがとう。薫はいい子だね」



清美「……あいさん」

あい「清美くん。薫を頼んだよ」

あい「しっかりした君のその信条で、薫に色々と教えてあげてくれ」

あい「そしてまた――清美くんも、薫から大事なことを学び取ってほしい」

清美「薫さんから……?」

あい「まだまだ幼く見えても、彼女から学ばされることは多いよ」

あい「願わくば――それが君の成長の助けとならんことを」

清美「……分かりました」

清美「行きましょう、薫さん」

薫「うん……!」


スタスタスタ……



あい「――さて」

あい「お待たせしたね。君の好意に甘えて、ゆっくり二人を送り出すことができたよ」

愛海「いやいや、気にしないでください。その分、あとでいっぱい甘えさせてもらいますから、ね」

あい「……やれやれ。本当に大人ぶっている余裕はなさそうだな」

あい「柔らかくとも、一本芯の通ったその姿勢には好感が持てるが……、これはちょっと目に余る」

あい「アメのほうはもう堪能したようだしね――これからはムチ、あいのムチの時間だ」

あい「大人げないほどに『大人』としてやらせてもらおう」

あい「大人しくしたまえよ?」

愛海「うひひ……! そうでなくっちゃねぇ……」ワキワキ

愛海「精々、覚悟してくださいよ」

愛海「確かにあたしは丸く、柔らかくはなったけど――だからって、ちょっとやそっとで丸め込まれるほど、柔くはないですからねっ!!」

あい「では――!!」

愛海「いざ――!!」



――――――
――――
――


薫「……ねぇ、清美ちゃん」

薫「あいお姉ちゃんの言ってた、愛海ちゃんの正義って、あれどういう意味なのかな……?」

薫「愛海ちゃんがお胸を触ることも、あれも正しいこと、なの?」

清美「……そうですね」



清美「私もあの時は否定しましたが――ある意味ではその通りなのでしょう」

薫「えっと……よく分からないよ……」

清美「この場合考えるべきは、あの行為が誰にとっての正義か、ということです」

清美「大抵の人間というのは、自分の行動に常に正当性――正しさを求めています」

清美「たとえその行動が法に背き、道を外す行為だったとしても――本人の中では、どれだけ矮小で、脆弱でも、とにかくそれが正当である筋道がついているものなのです」

清美「ですから愛海さんのあの行為も、はたからみれば破廉恥極まるあの行動にも、何かしら、彼女なりの正当が――正道があるのでしょうね」



薫「それって、それがどんな悪いことでも?」

清美「むしろ、世間で言う凶悪犯罪を引き起こすような輩ほど、自分では正しいと思ってやっていることが多いですからね」

薫「えー!? 悪い人までせいぎになったら、どっちがホントに正しいか分かんないよー!」

清美「風紀委員としては容認しがたいことですが……、この場合、どちらも正義、ということになるのかもしれません」

薫「……どっちもせいぎ?」

清美「ええ。そしてさらに言えば――より強いほうこそが最終的な正義、となるのでしょうね」

清美「先ほども、あいさんが来てくれなければ、私たちの正義の志はあそこで途絶えてしまっていたわけですし……」

清美「ならば、正しさを成すのに必要なのは、それを成せるだけの強さ、なのかもしれません」

清美「今の私に、その強さは、果たしてあるのでしょうか……」

薫「清美ちゃん……」



薫「げ、元気だしてよ!」

薫「あいお姉ちゃんも清美ちゃんのことほめてたもん! だから清美ちゃんのせいぎは、きっとすっごい強いんだよ!」

清美「ふふ……、ありがとうございます」

清美「そうですね。あいさんにも激励されたばかりですし。自分ではできないことに直面したからって、自分のできることまで投げ出してはいけませんよね」

清美「私たちは、私たちのできることをやっていきましょう!」

薫「うん!」



薫「それで、清美ちゃん。さっきのお話だけど……」

薫「どんな人も、自分のやることが正しいって思ってるんだよね」

薫「じゃあ、自分のやってることが――まちがってるって思いながら、それでもそのままやってるって人は、いないのかな……?」

清美「……どうなんでしょうね」

清美「自らが間違いと自覚しながらも、それを成そうとする。悪役に――悪に徹する」

清美「その心理の是非は置いておいて、そんなことができる人がいるなら、その人にとってはそれが――」

清美「悪こそが正義、ということなのかもしれません」


ガチャ




大沼くるみ「ふぇぇ~!! また縄跳び絡まっちゃった~!!」ビエー

小関麗奈「ホントどんくさいわねー……」



麗奈「ホラ。じっとしてなさいよ。今、ほどいて――」

清美「れ、麗奈さん!!」

麗奈「ん?」



麗奈「清美と薫じゃない。なんか用?」

清美「なんかじゃありません! くるみさんのその体勢!」

清美「もしや、またあなたのイタズラの仕業ですか!」

麗奈「はぁ? いやこれはコイツが……」

麗奈「ハッ――!!」



麗奈「…………ククククッ!」

麗奈「アーッハッハッハ! オーッホッホッ――ゲホゲホッ!!!!」

麗奈「そう! その通りよ!」

麗奈「この悪の総代たるレイナサマが、このどんくさいくるみにちょっとお仕置きしてあげたのよ!!」

清美「な、なんですって!?」


薫「くるみちゃん、大丈夫? 今ほどいてあげるよ!」

くるみ「うう……ごめんねぇ、薫ちゃん……」



清美「か弱いくるみさんを標的にするなんて! どうしてそんなことができるんですか!」

麗奈「あら。か弱いだなんて、アタシの標的に持って来いじゃない!!」

清美「弱いものだからこそなんて、なんて非道な……!」

麗奈「非道上等! アタシの悪の女王伝説の前には、最高の褒め言葉よッ!!」

麗奈「やっぱり、悪いことをするって気持ちがいいわねッ!!」



清美「……では、くるみさんを縄で縛りつけたのも、あなたの伝説とやらのためだと……!?」

麗奈「その通りよッ!!」

清美「彼女の自由を奪い、涙目にさせたのもあなたの思惑だと……!?」

麗奈「愚問ねッ!!」

清美「汗ばんだ体操着を押し上げる、くるみさんのその胸をより大きく主張させるように縛ったのも、あなたの考えだと……!?」

麗奈「えっ……、あ、そ、そうよッ!!!」

清美「ぱっつんぱっつんのブルマーで包まれた十三歳女子の両足を開脚させ、その内腿や股を前面に押し出したのも、あなたが手ずからやったことだと!?」

麗奈「う、うん……。当たり前じゃないッ!!!」

清美「縛られることでむしろその下半身の肉体を強調するような姿勢で、股間に縄を食い込ませ――」

清美「頬は上気し、恥ずかしさに瞳を潤ませつつ、力なく開いた口から僅かに涎を垂らし、そこから熱を帯びた吐息が漏れ出すあの状態は、あなたが望んだ通りだと――」

清美「そう、言ってるんですかっ!!!」

麗奈「あ、えっと……、はい……」カァァ



清美「なんてことを……!」

清美「このところのあなたのイタズラの数々……、そして今回の所業! 超☆風紀委員として見過ごすわけにはいきません!」

清美「全力でレッドカードですっ!!」

麗奈「じょ、上等よッ! 風紀委員なんてもん、この場でコテンパンにして、アタシの伝説の礎にして――」



南条光「待ってくれっ!!」



清美「なっ!? 光さん!?」

光「待ってくれ、清美ちゃん」



麗奈「光!? 何しに来たのよ?」

麗奈「ははーん? さては清美と一緒に、アタシに正義の鉄槌だかを下すつもりかしら?」

麗奈「丁度いいわ! アンタとはいつか白黒つけたいと思ってたし、この場でまとめて――」

光「違うんだ麗奈」

光「アタシは、お前と争いたいわけじゃない」

麗奈「は……?」

光「清美ちゃん。聞いてくれ」

光「確かに麗奈は、イタズラ好きで、みんなの驚いたり、慌てたりする姿を見るのが好きなやつさ」

光「今まで色んなイタズラをしてきたのも知ってる」

光「だけどそれでも――麗奈は、本当に誰かを悲しませるようなことをするやつじゃないんだっ!!」

麗奈「はあッ!?」



清美「……つまり、光さんは、麗奈さんを擁護する、と?」

光「その通りさ!!」

麗奈「ちょ、ちょっと! 何言って――」

清美「意外ですね。あなたがそちら側に着くなんて」

光「ヒーローってのは、いつだって仲間を大事にするものさ」

麗奈「お、おいこら――」

光「いいんだ麗奈。大丈夫、ちゃんと分かってるから」

清美「麗奈さんを庇いたいというその気持ちは理解できます」

清美「しかし、くるみさんが縛られ、そして麗奈さん本人がそれを行ったと自供したんですよ?」

清美「その上でも、あなたは彼女を庇うんですか?」



光「ああ。アタシは麗奈の味方だ」

清美「……なぜ?」

光「決まってるじゃないか!」

光「麗奈はこんなことしないって、信じてるからさ!!」

麗奈「ちょっと! だから何を余計な――」

光「万が一、くるみちゃんにやったことが麗奈の仕業だったとしても、それは何かわけや理由があってのことさ」

光「本心じゃない」

清美「理由……? だからそれは、彼女の、悪の伝説とやらの――」

光「違うさ。そうじゃないって、アタシは思う」

光「麗奈は悪いやつかもしれないけど――でも、憎いやつじゃないし、憎まれるようなやつじゃ絶対にない」

光「だからその理由だってきっと――とっても優しくて、温かいものだ!!」



清美「優しくて……温かい……理由……?」

清美「分かりませんね」

清美「つまり、光さんはこう言いたいんですか?」

清美「麗奈さんがくるみさんを縛ったのは、悪事を働きたいからではないと」

光「そうさ」

清美「麗奈さんが、か弱いくるみさんの自由を奪い、涙目にさせたのも何か理由があるからだと……?」

光「何か理由があるはずさ」

清美「麗奈さんが、くるみさんのしっとり汗ばんだ体操着を押し上げ、小刻みに上下するはちきれんばかりのたわわな胸をさらに前に張り出するように縄を絡ませたのも、優しさの結果だと……!?」

光「そう! 麗奈なりの考えがあるはずさ!」

清美「麗奈さんが、ぱっつんぱっつんで汗を吸ったブルマーから伸びる、くるみさんの十三歳とは思えない、健康的ながらどこか背徳的な両脚を、その女性的な曲線と付け根の窪みが視認できるほどに左右に広げるようなあられもない姿にしたのも、何かしらの温かい事情があるからだと……!?」


光「ああそうさ! そうしなきゃいけないわけが、麗奈にはあるのさっ!!」


清美「雁字搦めに縄が巻きつくことでむしろその肉付きの良いくるみさんの総身をより強調するような体勢にさせ――」

清美「生白く水滴を伝わせることでそのハリを主張する太ももと、子供らしい幼いデザインの靴下が彩る、香り立つような熱とみずみずしさを内包したふくらはぎとで構成される彼女の開かれた両脚、そこから視線を移すことでどうしようもなく直面する、その布地では隠しきれない彼女の成長の結果であり過程たる弾性によって内部からそれを突き破らんばかりに膨らんだブルマーが覆う、普段は慎ましく控えている股座は、無遠慮に絡みつき食い込む縄によってその肉感を伴う軟性をより増した状態で衆目に晒されることを余儀なくされ――」

清美「振り乱された髪は湿りで以って額にじっとりとその色をより深くしつつ、生々しく蠱惑的なまでの光沢を持って張り付き――」

清美「頬はうっすらと朱が差すことで自分の肉体の置かれている状況を如実に示し、何よりそのどこか滑稽でされど蝕むような淫猥さ纏う自らの恰好への羞恥心と、そこから抜け出すことができないと自覚してしまったが故の無力感から、水瓶の様なその瞳は自己に抵抗する術がないということをこれでもかと観測者に思い知らせるようにじんわりと弱々しく歪み、染み出る涙で潤ませつつ、口唇から滴る、頬を伝う汗水より遅々と流れていく唾液を爛爛と煌めかせながら、声にならない声とその内に秘めた鼓動と熱気を綯い交ぜにした吐息を絶え間なく漏れ出させているくるみさんのあの状態は、麗奈さんにとってとても重要なことだと――」


清美「そう、言いたいんですかっっ!!!」


光「その通り! それは麗奈にとって重要なことなのさっ!!」


麗奈「いや、あの……ちょっと……///」カァァ



薫「よいしょ、よいしょ……。もうちょっとだからねー」

くるみ「うん……。ホントごめんねぇ……」グスッ






清美「分かりませんね……」

清美「状況は揃い、罪も麗奈さん自身が認めているのに、それでもなお、麗奈さんが犯人ではないと主張なんて……」

光「言ったろ。信じてるって」

清美「その信頼が裏切られる可能性が高くても、ですか……?」

光「『裏切られたらどうしよう』なんて考えてる時点で、それは人を信頼してないのと同じだよ」

清美「――!!」



光「……なんてね。さすがにこれは極論さ」

光「でもアタシは、裏切られたらどうしようなんてことは考えてないよ」

光「それにさ――裏切られるより裏切るほうが、アタシは嫌だから……」

光「麗奈に裏切られるより――自分の正義を裏切るほうが、ずっと辛い」

光「アタシは、麗奈はやってないって信じていて、それが正しいことだって信じてる!!」

光「それが正義だって信じてるよ」

清美「……そうですか」

清美「ならば――私も私が正しいと、信じたことをするまでですっ!!」



薫「ちょっと待ってーー!!」ピピーー!!



麗奈「わあ!?」ビクッ

清美「か、薫さん!?」ビクッ



薫「みんな待って!」

薫「くるみちゃんが言いたいことがあるの! 聞いてあげて!」

清美「くるみさんが……?」

くるみ「あ、あの、清美しゃん! ち、違うんでしゅ!」

くるみ「くるみ、麗奈ちゃんにいじめられてたわけじゃないんでしゅ……です……」

麗奈「なっ、ちょっ! アンタ――」

清美「くるみさん、それはどういうことでしょうか?」



くるみ「くるみ、運動オンチで、お胸がおっきいからダンスとか下手くそで……」

くるみ「だから、トレーニング、してたの。縄跳びで……」

くるみ「麗奈ちゃんはそれに付き合ってくれて……アドバイスとか、してくれて……」

くるみ「さっきあんなことになったのは、くるみが転んで、勝手に絡まってなったことで――」

くるみ「悪いのはくるみで……どんくさいくるみが悪いんでしゅ……!」

くるみ「だから、麗奈ちゃんを怒らないであげてくだしゃい!」グスッ

麗奈「ちょっと! 何言ってんのよっ!」

清美「なるほど……。そう、だったんですか」

光「まったく、麗奈も素直に本当のことを言えばいいのに……」

麗奈「うっさい! 大体ね、アンタが変な茶々入れなければ――」

清美「……麗奈さん」



清美「……その……すみませんでした」

清美「自分の勝手な思い込みで結論を決めつけ、あなたを犯人だと言ったこと……」

清美「謝罪します。本当にごめんなさい」

麗奈「なっ、ちょ……! やめなさいよ! そういうの!」

麗奈「身体がかゆくなるわッ!」

光「ホント、素直じゃないなー」

麗奈「だからうっさいッ!!」



「麗奈ちゃん、ごめんね。くるみのせいで――」

「そうよ! アンタのせいで、アタシの計画がおじゃんじゃない!」

「この! 責任取んなさいよッ!!」

「びえ~~!! やめて~~!!」

「もー! ダメだよー」


清美「……光さんも、すみませんでした」

清美「私、なんだか先走ってしまって……」

光「あはは! 気にすることないよ!」

光「清美ちゃんだって、正しいことを言ってたし、してたんだから」



清美「それにしても、光さんはすごいですね」

清美「あの状況でも、麗奈さんの無実を疑わないなんて」

清美「どうしてそこまで自信を持って、主張することができたのですか?」

光「うーん。そうだなぁ……」



光「やっぱり、麗奈を信じているってのもあるんだけど……」

光「何より――麗奈を信じることが正しいって、信じていたから、かな」

清美「……?」

光「最近思ったんだけどね」

光「ヒーローがよく言う、『正義は勝つ』ってセリフがあるけどさ」

光「――でも、正義が相手にする、悪ってやつにも、悪には悪なりの正義があるんだよね」

光「悪の軍団にも、古代の秘密結社にも、宇宙からの侵略者にも、彼らには彼らなりの正義がある」

光「正義と相対するのは、また別の正義なんだよ」

光「じゃあ、正義と正義がぶつかったら、どっちが勝つのかって考えた時にさ――」

光「こんなセリフもあるんだよ」

光「『勝ったほうが正義』ってやつ」



光「悪役が言うことが多いイメージだけどさ……、これ、アタシ結構分かるんだよね」

光「つまり、相手に勝てる強さを持ってるやつが、自分の正義を貫くんだって」

光「でもじゃあさ――この場合の、『強さ』って何で決まると思う?」

清美「え? 強さ……ですか?」

光「パンチのパワーかな? 新しい必殺技かな? それらを手にするためにした修行の量かな?」

光「色々、考えはあると思うけど――」

光「アタシは、自分の正義を自分がどれくらい信じてるか――信じる想いの強さだって思う」

光「強いパンチだって、新しい必殺技だって、そしてそれらを手に入れようとする努力だって――それぞれが自分の正義を強く信じているからこそ、続けられて、何度でもチャレンジできて、成し遂げられるんじゃないかな」

光「アタシは麗奈が誰かを悲しませることはしないって信じていて――」

光「そう、仲間を信じることが、アタシの正義で――」

光「そして、アタシはその正義が正しいって、正義足りえるって、そう強く信じていたんだ!」

光「風紀委員の清美ちゃんと言い合うのは、ちょっと怖かったけどさ……」

光「でも、そんな自分の正義に対する強い想いがあったからこそ、自分の意見も貫けたんだと思うよ!」

「自身の正義に自信を持ってたんですね~。ふふっ……」



清美「自分の正義を信じる……」

光「うん」

光「だから清美ちゃんもさ! 強く信じなよ! 自分の正義をさ!」

光「自分の正義のために戦うんなら、まず気持ちで負けてちゃいけないよ!」

清美「……なるほど」

清美「そう、ですね。どんな困難にも立ち向かう、そんな気概が必要だと、確かに私も言いましたからね」

清美「ありがとうございます、光さん」

光「へへっ! 気にしないでよ! 言ったでしょ?」

光「ヒーローは、仲間を大事にするものだからね!」



――――――
――――
――


清美「薫さん」

清美「薫さんも、ありがとうございました」

清美「あなたのおかげで、私は無実の人を犯人にせずに済みましたから」

薫「えへへ~! どーいたしましてっ!」

薫「でもそっか。せいぎにはまず強さが必要で……」

薫「それで強さっていうのは、信じる強さ、なんだね」

清美「ええ。確かに、自分自身が迷っていることをいくら正しいと主張しても、説得力はありませんからね」



清美「――ただ、光さんとのお話で、一つ、気になったことがあるんです」

薫「ん~?」

清美「光さんの言う通り、悪事にも正義があるとすれば、『正義』というものがもたらす結果は、必ずしも人々にとって良いことになるわけではない、ということになります」

清美「正義と相対するのはまた別の正義」

清美「愛海さんの正義や光さんの正義と、私の風紀委員としての正義は相対しましたが……」

清美「そのように、正しさとは別の正しさとは相容れないもので……お互いに一方通行の関係です」

清美「自信を持てと言われたばかりですが……」

清美「しかし、では『良い正義』とは、どうやったら定められるのでしょうか……」



薫「えっ、でも、悪いことをとりしまるのは、いい正義じゃないの……?」

清美「……では、薫さん。こんな話を考えてみてください」

清美「ある日、一人の男が店からパンを一つ盗みました」

清美「男はすぐに捕まり、窃盗の罪で長い期間、刑務所に入れられることになりました」

薫「う、うん。ものを盗むのは、いけないよ」

清美「――ただ、男にはまだ幼い兄弟たちがいました」

清美「彼らの一家は貧乏で、男自身は彼らを養うため働いていましたが、事故に遭い、仕事は辞めざるおえませんでした」

清美「男が盗んだパンは、彼の兄弟たちがその日をなんとか食いつなぐために必要なものでした」

薫「えっ、あの……」

清美「――さて。では、盗人を捕まえるという正義を成した――これは正しいことだと思いますか?」

薫「ううんと……それは……」



清美「いえすみません。これは結構、話運びに都合がいいように作ったものですが……」

清美「でも、こんな結果でも、正義を成したことにはなるんです」

薫「うん……でも……、男の人や家族の人たち、可哀想だよ……」

清美「そうですね……」

清美「男を逮捕することは、法に則った正しい行為です」

清美「私自身も、盗みはいけませんし、だからそれによって捕まるのは当然であると思います」

清美「でも自身が当事者だったら……、この結果に、後悔がないと言えば嘘になるでしょう」



清美「薫さんは、どうですか……?」

清美「この場合、どうすることが、一番、正しいと――いえ、良いと思いますか?」

薫「えっ、そ、それは……」



どんっ!!



薫「わっ!!」どさっ



清美「薫さん!? 大丈夫ですか!?」

薫「うーん……びっくりしたよ~!」



渋谷凛「ご、ごめん薫! 大丈夫!?」



薫「あっ、凛ちゃんだったんだね」



凛「ホントにごめん……! ごめんね……!」

凛「立てる……? 怪我とかない……?」

薫「大丈夫だよ! 今のかおるはちょーふーきーんだからね!」スクッ

凛「ちょーふーきーん……?」

清美「今の薫さんは、超☆風紀委員として私と共に活動の最中なのです」

清美「それより、前方不注意は危ないですよ。気をつけてくださいね」

凛「うん、ごめん……。ちょっと考え事しててね……」

清美「まあ、それは反省しているのならいいですが――」



清美「しかし凛さん、その服装はいただけませんね」

凛「えぇっ!?」ビクッ

清美「上着の裾からブラウスがはみ出ていますよ」

清美「ちゃんと中にしまって、正しい服装を心がけてください」

凛「あっ、うん。分かったよ、うん……」

凛「あ、あとで直しておくから……」

薫「ダメだよー! 今直さないと、ふーきが乱れちゃうの!」

凛「えっ!? いや、でも……」

清美「薫さんの言う通りです。今できることなのですから、今ここできっちり直していってください」

凛「いや、あの……」ダラダラ



薫「じゃあ、かおるが直してあげるよ。これもふーきーんの仕事だからねっ!」ゴソゴソ

凛「あ、ちょっ! 待っ――」


バサバサッ!!


薫「あれ? 服の下からなんか落ちたよ?」

清美「なんですか? この、皺くちゃの布は……」

凛「いや、あのそれは――!!」

薫「あっ! 分かった!」

薫「これ、せんせぇのワイシャツだ!」

凛「――――!!!!」



清美「ワイシャツ? プロデューサーの……?」

清美「よれ具合からして、下ろしたてでも、洗いたてでもないようですが……」

清美「なぜ、凛さんはこんなものを?」

凛「えっ、いや、ほら! あのっ!!」

凛「ぷ、プロデューサーに、普段から、あの、おおお、お世話に、なって、いるじゃん!?」

凛「だだだから! プロデューサーのシャツ、せ、洗濯してあげようかなって、あの、お礼になるかなって!」

薫「せんせぇへのお礼ー!? いいなー! かおるもお洗濯して、せんせぇに喜んでほしー!」

凛「あ、はは……。か、かおるはまた、今度ね……」



清美「なるほど、そうでしたか」

清美「すみません、私としたことが、なんだかちょっと疑ってしまって」

薫「疑う……?」

清美「いえ。前にプロデューサーが、このところ身の回りのものが、誰かに持っていかれている気がする、なんて漏らしていたので……」

清美「もしや、なんて邪推をしてしまいました」

薫「えー? せんせぇ、ドロボーにあってるのー!?」

清美「ただの勘違い、ということもありえますが……」

清美「本当だとしたら許せませんね」

薫「うんうん! それはよくないよー!」

薫「凛ちゃんもそう思うよね!」

凛「え!? ――あ、そうだね!」

凛「拝借したらちゃんと新しいの置かないと、プロデューサーも困るもんね!」

清美「……ん?」



清美「………………」

凛「き、清美……? どうしたの? こっちをじっと見て……」ダラダラ

清美「……いえ」

清美「プロデューサーのために洗濯をしようという、その献身的な姿勢、素晴らしいと思います」

凛「あ、あはは……。あ、ありがと――」

清美「じゃあ、行きましょうか」

清美「洗濯機はこっちですよ」

凛「えっ……」



凛「い、いや、あの……。別に、私一人で大丈夫だよ……?」

清美「いえ、いい機会ですからね」

清美「シャツを洗濯するついでに、薫さんも洗濯機の使い方を覚えて、今度プロデューサーのシャツを洗濯してあげたらどうですか?」

薫「わぁー! そうだね! 凛ちゃん、使い方教えてよ!!」

凛「えっ……いや……あの……待って……」

清美「今日は天気もいいですから、今から洗えば夕方には乾くでしょう」

薫「このせんせぇのシャツ、ちょっと臭いねー!」

薫「よーし! 早くいこ――」



凛「やめてっ!!!」




薫「り、凛ちゃん……?」

凛「お願い……お願いやめて……」

凛「それは……それは二日目の……特に濃厚で希少なやつなの……」

凛「それがないと……私……」

薫「えっ、えっ? どういうこと……?」

清美「――やはり、と言うと失礼ですが……」

清美「凛さん。プロデューサーの私物を盗んでいたのは、あなたですね?」

凛「ち、違う! 私はワイシャツだけで――」

凛「あっ……」

清美「ふむ……」



薫「えっ、えっ……? なんで? 凛ちゃん、せんせぇのこと嫌いなの……?」

凛「違う! そんなことないよ……」

凛「むしろ逆……。プロデューサーのシャツの匂いを嗅ぐと、すっごく落ち着いて、元気が出るから……」

薫「に、におい……?」

清美「よく分かりませんが……」

清美「とりあえず、このシャツは没収します」

凛「待ってっ!!」



凛「お願い! それだけは……!」

凛「プロデューサーのシャツのおかげで、私、最近すごく調子がいいの!」

凛「シャツの匂いがあるから、すごい頑張れて……どんなに疲れでも、それがあればへっちゃらなの……!!」

凛「それがないと……駄目なの……」

凛「だからお願い……」グスッ

清美「どのような事情があろうと、あなたのやったことは窃盗行為ですっ!」

清美「風紀委員として、到底見過ごせるものではありません!」

清美「ですから――」

薫「き、清美ちゃん!」



薫「たしかに凛ちゃん、悪いコトしたけど……」

凛「うぐっ……ひっぐ……おねがいします……」グスッ

凛「おねがい……今だけでいいから……みのがして……!!」

薫「ほら、あんなに泣いて……。なんだか可哀想だよ……」

薫「な、なんとかできないのかな……?」

清美「……薫さんの言いたいことも分からなくはないですが……」

清美「しかし、凛さんの行為は立派な犯罪です」

清美「大事にするつもりはありませんが、しかし、だからって甘くするつもりもありません」

清美「罪を犯したなら、相応の罰を受けなければ……」

薫「でも……」




「その通りですねぇ……」シュルシュル……



凛「!? このリボンは――!!」

凛「くっ……」シュルシュルシュル!!!!

薫「凛ちゃん!?」

清美「凛さんにリボンが巻きついて……!?」



「清美ちゃんの言う通りですよぉ」

「悪いことをしたら、ちゃんと報いを受けなくちゃいけません」

「ひとのものを盗るなんて、許されませんよね」

「あまつさえ、ひとのものの――その持ち物まで盗るなんて……本当に許せませんよねぇ……?」



佐久間まゆ「レッドカードですよぉ。リボンですけど。うふふ……」




凛「ま、まゆ……! アンタ……!」

清美「ま、まゆさん……?」

まゆ「清美ちゃん、薫ちゃん。風紀委員としての活動、お疲れ様です」

まゆ「あなたたちのおかげで、ひとのものにちょっかいかける泥棒さんを捕まえることができました」

まゆ「あとは任せてください。そこの駄犬は、まゆが責任を持って連行しますから」

まゆ「うふふ……! あの人のためにいいことをするって、気持ちがいいですねぇ……!」



凛「くっ……! この……!」ギシッ

まゆ「無駄ですよ。耐久性はきらりちゃんで実証済みですから」

まゆ「まったく……。この前のPさんのオフには家に押しかけて、勝手にあの人のベッドで寝転んだり……」

まゆ「その前は、偶然を装って街中で待ち伏せしてましたっけ……?」

まゆ「あげく彼のシャツにまで手を出すなんて……」

まゆ「うふふ……。これはみっちり罰しなきゃですねぇ……」シュルッ

凛「もがっ!?」



まゆ「さて。じゃあ行きましょうか」

まゆ「言い訳は聞きませんけど、辞世の句ぐらいなら聞いてあげてもいいですよぉ」ズルズル

凛「んー! んんーー!!」ジタバタ

清美「……待ってください」



まゆ「あら、清美ちゃん。まだ何か……?」

清美「……唐突な話ですが」

清美「最近、プロデューサーは身の回りのものがよくなくなっていると言っていました」

まゆ「ええ。でもこうして犯人も捕まりましたし、一件落着ですね」

清美「そしてまた――最近、誰かに常に見られている気がする、とも言っていました」

まゆ「………………」



清美「まゆさん、さっき凛さんがプロデューサーの家に押しかけたと言った時、続けてこうも言いましたよね……?」

清美「『勝手にあの人のベッドで寝転んだり……』って」

清美「なぜ、オフの日にプロデューサーに起こったことを、しかもその家の中で起こったことまでもを、あなたは知っているんですか……?」

まゆ「別に、そんなに不思議なことかしら? Pさんから直接聞いたとか、考えようはあるでしょう?」

清美「あのプロデューサーが、アイドルを自宅に招き入れたなんてスキャンダラスなことを、おいそれと口に出すとは思えません」

清美「しかしまゆさんは、まるでそれを見てきたかのように……、見ていたかのようにそのことを語っていました」

まゆ「うふふ……」



清美「プロデューサーの感じる、誰かからの視線――それは、事務所で一人の時でも、そして事務所だけでなく、帰り道や、家にいる時まで感じるそうです」

清美「例えば、それが気のせいなんかじゃなく……、誰かが四六時中、彼を監視しているからだとしたら……」

まゆ「うふふ……」

まゆ「風紀委員の清美ちゃんにしては、随分と回りくどい言い方ですねぇ」

清美「じゃ、じゃあ、やはり――」

まゆ「でも、『監視』なんて言い方はやめてください」

まゆ「まゆはただ、Pさんのことが心配で、いつも見守っているだけですよぉ」

まゆ「本当はいつも、この目で直接見守りたいんですけど……。さすがにそれは色々ハードルが高いですからね」

まゆ「だからちょっと、文明の利器に頼っているんです」



薫「ぶんめーのりき……?」

清美「早い話、まゆさんは、小型のカメラか何かをプロデューサーの生活空間に仕込み、それで彼を盗撮しているということです……」

薫「ええー!? とーさつって、この前美嘉ちゃんが怒られてたやつ!?」

まゆ「うふふ、だから違いますよ。まゆはただ、愛しいあの人を見守っているだけです」

清美「どんな目的であろうと、いくら言葉を重ねようと、プロデューサーの了解がない以上、あなたのそれは凛さんと同じ犯罪です!」

清美「そんな行為は今すぐやめて、カメラも撤去してください!!」

まゆ「うふふ……うふふふ……」



まゆ「確かにそうですねぇ」

まゆ「清美ちゃんの言うことは正しい――清くて美しい、澄みきった正論です」

まゆ「でも、それが清くて、綺麗で、澄んでいるのは――それが物事の上澄みしか捉えていないからですよ」

まゆ「物事の表面しか見ず――その奥の、ドロドロして混沌渦巻く深淵を、まったく見据えていない」

まゆ「『戦争をなくすにはどうしたらいい』って質問に、『平和な世の中を造ればいい』って答えるような、理想論とも言えない、夢にも思わない夢物語です」

清美「な、なんですって……!?」

まゆ「教えてあげますよ」

まゆ「正論なんてものの価値は――それが『正論である』ということしかないってことを」



清美「では、まゆさんの主張や、その盗撮行為は、何か価値があるものだと……?」

まゆ「もちろん。まゆにとってもPさんにとっても、値千金です」

清美「私生活まで盗み見られていて、そんなわけ……」

まゆ「――例えば」

まゆ「Pさんはお仕事熱心な方ですが、それ故に私生活を疎かにしがちです」

まゆ「アイドルたちの体調ばかりに気を配り、自分のことを顧みていないことが多くあります」

清美「それは……そうですが……」

まゆ「じゃあそんな生活を続けていて、もし一人の時に、突然、体調を崩したりしたらどうでしょう?」

まゆ「そしてその不調が、助けが呼べないくらいに深刻なものだったら……どうでしょう?」

清美「それは……」

まゆ「まゆが見守っていれば、たとえそんな事態になったとしても、すぐに助けを呼ぶなり、然るべき対処ができますよ」



清美「そ、それはそうかもしれませんが、しかし――」

まゆ「じゃあ、こんなケースはどうかしら?」

まゆ「まゆたちアイドルには、ファンの存在が必須です」

まゆ「いつも応援してくれているファンの皆さんには感謝していますが……、残念ながらと言うべきか、そんなファンの人たちの中には――多かれ少なかれ、大なり小なり、応援しているアイドルに対して、過激で、行き過ぎた感情を抱いている人もいますよねぇ?」

まゆ「時に彼らはその過剰で自分本位の感情に従って、アイドルを傷つけるなんてこともあるわけです」

清美「確かに、そういった事件は耳にしますが……」

まゆ「じゃあもし、そんな人たちのそんな感情が――アイドル以外に向いたらどうでしょう?」

まゆ「アイドルじゃなくて……アイドルの最も傍にいる人物に向いたら……どうでしょう……?」

清美「そ、それは……」



まゆ「別に不思議なことじゃありませんよね」

まゆ「むしろ十分に、想定されうる事態ですよね?」

まゆ「ではもしもPさんが――人知れず、そんな事件に巻き込まれ、それで傷ついたら?」

まゆ「もしも致命的な傷害を受けたら?」

まゆ「それで彼のプロデューサー生命や……その命が脅かされたら?」

清美「………………」

まゆ「まゆの見守りは、そんな可能性を少しでも減らす、予防策なんですよ」

まゆ「大事な人が心配だと思うことの、何がいけないんでしょうか?」

清美「……だとしても、そんな方法は、間違っています……」



まゆ「うふふ……。じゃあ、逆に聞きますけど……」

まゆ「清美ちゃんの言う正しいことって、一体何をもたらしてくれるのかしら?」

まゆ「正しさを貫いた、綺麗な世界? 綺麗で清くて……あの人がいない世界かしら?」

清美「……そ、それは……」

まゆ「正しさを、正義を貫いた結果――あの人がいなくなるなんてことになるのなら……」

まゆ「まゆはそんな正しさなんていりません」

まゆ「あの人のいない世界が、正解なわけありませんもの」



まゆ「だからまゆは、まゆの正義で行動します」

まゆ「あの人を想って」

まゆ「あの人のために」

まゆ「あの人への愛ゆえの行動が、正しくないわけないのだから」

清美「そ、それは……でも……」

清美「くっ……」

まゆ「うふふ、ごめんなさい。ちょっとまゆも熱くなっちゃった」

まゆ「清美ちゃんの信条を否定するわけじゃないけど、だからって、それでまゆの信念は曲がりませんよ」

まゆ「さて、これからまだまだやることもあるし……。これで失礼しますね」

まゆ「それじゃ――」

薫「あの、まゆちゃん」



まゆ「薫ちゃん? どうしました?」

薫「あのさ……、かおるもせんせぇが傷ついたり、いなくなっちゃうのは、すっごく嫌だよ」

薫「だから、まゆちゃんのお話も、分かるんだけど……」

薫「でも、じゃあさ――まゆちゃんのお話だと、まゆちゃんがはんざいをしちゃうのは、せんせぇのせいってこと?」

まゆ「えっ……?」

薫「まゆちゃんがせんせぇをとーさつするのは、せんせぇが心配だから――せんせぇが心配をかけるから、なんだよね」

薫「それって――せんせぇのせいで、まゆちゃんはとーさつしちゃって、はんざいをしちゃって……」

薫「つまり、まゆちゃんが悪いことをしちゃうのは、せんせぇが悪いってことなの……?」

まゆ「な、何言ってるんですか……? そ、そんな……、Pさんが悪いなんてことは――」

凛「いや、そういうことだよ」



まゆ「り、凛ちゃん!?」

凛「アンタの言ってることは、アンタの一番大切な人を、自分の悪事の、その言い訳にしてるってことなんだよ」

まゆ「な、何を言ってるんですか! 大体、あなたにそんなことを言う資格――」

凛「そうだね。私にはまゆを責める資格はない」

凛「でも、この話は、聞く価値があると思うよ」

まゆ「なっ……」



清美「……まゆさん」

清美「プロデューサーのためを想う、あなたのその信念は確かに正しく、美しいものなのでしょう」

清美「でも、今のあなたはその正しさに溺れています」

清美「『正しいことをしよう』と考えるあまり、『しようとしていることは正しい』という考えに変わってしまっています」

清美「正しさとは――正義とは、それが正義であるというだけで大きな力に、強い原動力になります」

清美「でも、今のあなたのそれは強すぎるが故に、行き過ぎてしまっている」

清美「そしてそれ故に――今のあなたは、誰にとっての正義を成そうとしているのかを見失っている」

まゆ「見失っている……? まゆが……?」



清美「そうです」

清美「あなたは、プロデューサーを見守ろうと考えるあまり、知らず知らずのうちに見守られて――監視されているプロデューサーのことを考えていません」

清美「それで彼が日々、どんな気持ちでいるのかを考慮してしません」

清美「プロデューサーの安全や健康、彼の幸せを願うあまり――今の彼が幸せなのかを見据えていない」

清美「あなたのそれは、思いやりではなく思い込みです」

まゆ「なっ……!」



まゆ「そんな……そんなのって……」

まゆ「まゆが……Pさんを、自分のいいように言い訳に使っていたなんて……」

まゆ「あの人を……見ていないなんて……」

清美「まゆさん……」

まゆ「……じゃあ、どうすればいいんですか」

まゆ「だって不安なんですよぉ……あの人のことが……心配なんです……!」

まゆ「なのに……どうしろって……言うんですか……」

清美「……それは……」

薫「………………」



薫「……ねぇ、清美ちゃん」

薫「かおる、思いつきました」

清美「思いついた?」

薫「うん」

薫「ちょっとここは、任せてよ」



薫「まゆちゃん、凛ちゃん」

薫「凛ちゃんにとって、せんせぇのワイシャツはすっごく大事なものなんだよね」

薫「まゆちゃんは、せんせぇのこと心配で、不安なんだよね」

薫「二人の気持ち、かおるにも伝わったよ」

薫「――でもね、凛ちゃん、まゆちゃん」

薫「せんせぇのワイシャツ、勝手にとっちゃうのはいけないことだし、せんせぇのこと、とーさつしちゃうのもいけないことなの」

薫「いけないことを続けてたら、ふーきが乱れちゃう」

薫「かおるは、二人にそんなことしてほしくないよ」



薫「だから凛ちゃん。せんせぇのシャツは返そう?」

薫「まゆちゃんも、もう、とーさつはやめよう?」

薫「それでせんせぇにちゃんと謝ろうよ。かおるも一緒に謝ってあげるから」

凛「でも……私……それがなくなったら……」

まゆ「…………まゆは……まゆは……」

薫「ちゃんとせんせぇに謝って、それで――」



薫「それでそのあと、せんせぇとお話しよう」



凛「……え?」

まゆ「お話……?」



薫「そう、お話するの」

薫「凛ちゃんは、せんせぇのワイシャツがすっごい好きで、大切なものだって」

薫「お話して――それで、せんせぇにワイシャツをくださいっておねがいしよう?」

薫「まゆちゃんは、せんせぇのことすっごい心配してて、もっと生活を気をつけてほしいって伝えよう?」

薫「それで、まゆちゃんがせんせぇのために何かしてあげたいって、何かさせてくださいっておねがいしようよ!」

薫「凛ちゃんの正しさも、まゆちゃんの正しさも、このままじゃ一方通行、だよ」

薫「だから、ちゃんとせんせぇとお話して――ちゃんと分かってもらおうよ!」

凛「分かって……もらう……?」

まゆ「Pさんに……?」



薫「大丈夫! かおるも一緒に謝ってあげる!」

薫「それで一緒にお願いしてあげる!」

薫「せんせぇ優しいもん! みんなの大好きなせんせぇだもん!」

薫「だからきっと、分かってくれるよ」

凛「薫……」

まゆ「薫ちゃん……」

薫「さあ! 一緒にせんせぇのとこ行こうよ!」


――――――
――――
――




「せんせぇーー!!」



P「んー? 薫じゃないか」

P「それに凛にまゆに、清美? どうしたんだ? みんなして」

薫「せんせぇ! 凛ちゃんとまゆちゃんが、せんせぇに言いたいことあるの!」

薫「だから聞いてあげてください! おねがいしまー!!」ペコリ

P「お、おお、構わないけど……。仕事の話か……?」

凛「あのね……プロデューサー……」



凛「私……プロデューサーに謝りたいことがあるの……」

P「うん?」

凛「ここ最近、プロデューサーのワイシャツを勝手に持っていってたの……、私、なんだ……」

P「あ、ああ……そうだったのか……」(薄々、感づいてはいたが……)

凛「ホントに……本当にごめんなさい!」

薫「せんせぇ! かおるもごめんなさいするよ! だから凛ちゃんを許してあげて!」

P「えーと……。とりあえず、なんでそんなことをしたのか、聞かせてくれないか?」

P「俺に何か不満があったとか――」

凛「違う! 違うよっ!!」

薫「うん! 違うんだよ!」



凛「プロデューサーには感謝してるよ。私がこうやってアイドルやれてるのはアンタのおかげだもの」

凛「だから、別にアンタに嫌がらせをしたくてやったわけじゃないんだよ」

薫「そうなの! 違うんだよ!」

凛「そうじゃなくて……、プロデューサーのシャツ――使用済みのシャツって、すっごく、その……濃い匂いがして……」

薫「そうなの! こいにおいがするんだって!」

凛「いい匂いとは言えないんだけど……」

凛「でも普段はプロデューサー、大人しいっていうか、草食系なのに――そんなアンタの着ていたシャツは、いくら熟成させたといっても、あんなにどぎつくて頭に響く、雄の香りが濃縮されているって思うと、すっごく興奮して……!」

薫「うんうん! おすのかおりがこーふんするの!!」

薫「……?」

凛「そんな背徳的な香りを鼻から肺に充填してるかと思うと、頭がピリピリして、クラクラきて――」

凛「内側から私の大切なところに、プロデューサー臭がガンガン染み込んで、侵されていく気がして……」

薫「そうそう! おかされちゃうんだって!」

凛「プロデューサーの容赦ない雄の侵略に、私の雌の部分が成す術なく服従されられちゃう感覚があって、それを止めたいって気持ちと、もっとしてほしいって気持ちが綯い交ぜになって――」

凛「そのままじゃおかしくなっちゃうのに、でも、おかしくしてほしいって気持ちがだんだん強くなって、止まらない右手がどんどん水気を帯びてきて、こんな姿知られたら軽蔑されるかもしれないのに、でもそんなあられもない姿を容赦なく蔑視されてるって考えると余計に昂って、右手が止まらなくなって――!!」

薫「と、とにかく、右手が止まらないんだよっ!!」

凛「それで、そんな濃縮された雄を自分の煮えたぎった雌の部分に当てると――!!」

薫「せんせぇのおすが凛ちゃんのめすに――!!」

P「よぉーし! 分かった! 分かったからもういいぞーー!?」



まゆ「あの……Pさん……」

P「こ、今度はまゆか……。うん、どうしたんだ?」

まゆ「まゆも、謝らなくてはいけないことがあるんです」

まゆ「ここ最近――まゆは、Pさんのことを小型のカメラを通して……ずっと見ていたんです」

P「あ、そ、そうなのか……」(なるほど……。視線を感じたのはそのせいか……)

まゆ「ごめんなさい……」

薫「でもね! 違うんだよ! まゆちゃんはせんせぇのためにやってたの!」

まゆ「言い訳がましいかもしれませんけど……、でも、まゆはPさんが心配だったんです!」

薫「そうなの! 心配なんだよ!」



まゆ「Pさん、一人の時はインスタントか栄養ドリンクばかりで、ちゃんとしたご飯を食べてなくて、栄養が偏ってて……」

まゆ「それにいつも遅くまで仕事をされていて……」

薫「うん。せんせぇ、忙しいもんね!」

まゆ「あと帰ってから、日中のアイドルの子とのスキンシップを思い出して、その女体の感触でムラムラしていてっ!!」

薫「そうなの! むらむらしてるせんせぇが心配だったの!!」

薫「むらむら……?」

まゆ「だからって、オカズにするわけにもいかず、一人悶々としていて……!! 毎晩、そんな状態じゃ、疲れが取れないと思ってっ!!」

薫「あ、そうだよね! おかずがないと、ごはんも進まないよねっ!」

まゆ「しかも最近は、年少組の子たちからのアプローチが激化して、そっちの趣味が目覚めつつある自分に葛藤して、自己嫌悪でますます眠れない夜を過ごすことが多くなってっ!!」

薫「ねんしょうぐみ……?」

薫「か、かおるのせいなの!? ごめんね! せんせぇ!!」

まゆ「それで毎朝、目にするのは……独りでに果てたご子息の後始末をしてる、貴方の悲しげな背中……」

薫「ごめんね……せんせぇ! かおるのせいでごしそくがはてちゃって……!」グスッ

まゆ「まゆ、そんなPさんの姿を見るのは、もう耐えられないんですっ!!」

薫「せんせぇのごしそくごめんねぇ!!」

P「分かった! 分かったからやめてくれぇぇえええ!!!」



P「よ、よぉーし……! 二人の言い分は分かった……」ゼーハー

P「まぁその……、正直に謝ってくれて十分反省してるみたいだし、俺から言うことは特にないよ……」

凛「ほ、ホント……!?」

まゆ「許して……くれるんですかぁ……?」

P「あ、ああ……」

薫「わぁー! 良かったね! 二人とも!!」



薫「あ、それでね、せんせぇ」

薫「今度は、二人のおねがい、聞いてほしいんだっ!」

P「お、お願い……?」

薫「まずね、凛ちゃんはせんせぇのワイシャツが大好きなの!」

薫「だから、ワイシャツ、凛ちゃんに分けてあげてほしいの!」

P「わ、ワイシャツを……!? いや、でも、こんなもんあげたって――」

凛「こんなもんじゃないよ! プロデューサーのそれはマニア垂涎の一品なんだよ!」

凛「それがあれば、どんな女の人の雌の部屋でもこじ開ける――!!」

薫「そうなの! めすのへやを――!!」

P「分かった!! 持ってっていいから!!」



薫「それでね! まゆちゃんは、せんせぇのことが心配なの!」

薫「だから、何かせんせぇのためにしてあげたいんだって!!」

P「いや、気持ちは嬉しいが……。でも、アイドルにプロデューサーの世話なんてさせるわけには……」

まゆ「お願いです……Pさん」

まゆ「抜かな過ぎは身体によくないんですっ!」

薫「そうだよ! ぬかないとダメなんだよ!」

薫「いっぱい抜いてよ! せんせぇ!!」

まゆ「まゆとの将来のためにも、ぜひPさんのしゃせ――」

P「弁当っ! 弁当作ってきてくれたら嬉しいなぁーー!!!」




清美「……これで、良かったんですよ、ね……」




「凛ちゃん……ごめんなさい。さっきはあんなことを……」

「いいよ。お互い様ってことでさ」

「でも……」

「じゃあさ。これからプロデューサーのシャツで、仲直りの乾杯でもしようよ」

「うふふ♪ そうですね、じゃあ、これからまゆの部屋で――」



薫「どうかな、清美ちゃん」

薫「これが、あいお姉ちゃんの言ってた、かおるの答え」

薫「『良いせいぎ』って、何かなって思った時にね……、何が一番、『良い』かって考えた時にね――」

薫「かおるは、大好きなみんなに笑っててほしいって思ったんだ」

薫「だから、かおるのせいぎはね――みんなが笑顔なこと!」

薫「みんなで話し合って、一方通行じゃなくて、ちゃんと分かり合って……」

薫「みんなが幸せになるためのもの」

薫「それが、かおるの信じるせいぎだよっ!!」



清美「みんなの幸せのため、ですか……」

清美「確かに正義とは、正しさとは――本来、それを守るためのもの、なのでしょうね」

薫「清美ちゃんは、答え、見つかった……?」

清美「そうですね……」



清美「私は、私らしく、これからも風紀委員として歩んで行こうと思います」

清美「そうやって、薫さんのように、誰かが、正義について自らの答えを出す――」

清美「その手助けをして――そうやって正義を抱く人を育てることが、私の、超☆風紀委員としての正義だと思います」

薫「そっか! そうだね!」

薫「みんなが清美ちゃんみたいにしっかりすれば、きっと幸せだよ!」


ガチャ



早苗「ふぅ……」

早苗「あら、薫ちゃんに清美ちゃん」

薫「あっ! 早苗お姉ちゃん! おつかれさまでー!」

清美「お仕事お疲れ様です」

早苗「ふふっ。二人のほうもお疲れ様」

早苗「あいちゃんから聞いたわ。今日一日、二人で事務所の風紀のために頑張ってたんですって?」

薫「えへへ~! 大変だったけど、楽しかったよ!」



早苗「ありがとね」

早苗「そうやって、正しいことを自ら進んでやるのって、普通は結構、勇気がいるものだから……」

早苗「だから、あなたたちみたいな立派な考えを持った子がいてくれると、お姉さんもより一層、頑張れるわ」

清美「そ、そんな……! 恐縮ですっ!」

早苗「――だ・け・ど!」



早苗「あんまり無理はせずにね? 特に、危ないことには首ツッコんじゃダメよ?」

早苗「それにまあ、二人はまだまだ若いんだし――あんまり真面目に構えるのも、つまんないんじゃない?」

薫「大丈夫だよ! かおるも清美ちゃんも、ちょーふーきーんだもん!」

清美「ええ。私たちはお互いが、勧善懲悪の古強者であると、信じていますから」



薫「それにね! あのね! かおるたち思ったんだ!」

清美「ええ、そうですね」



清美・薫「「いいことをするのって、気持ちがいいって!」」



薫「だからかおる、大好きだよっ!」

清美「最後にみんなが気持ちよく、清々しく笑っている。それを見られるのが、正義の醍醐味、ですから!」



早苗「ふふっ。そっか♪」




――――――――
――――――
――――
――


「こぉーら! Pくん! なにちびちび水啜ってんのよっ!」

「ぱぁーといきなさいよー! おとこれしょーー!!」グイグイ

「か、勘弁してくださいよ! 俺が酒弱いの知ってるでしょう!」

「なんだとぉー! あたしのぷろりゅーさーのくせして、あたしの酒がのめないっていふのーー!!」バンバン

「わ、分かりました! 分かりましたよ! この一杯だけですからね……?」

「おお、いっぱいだとぉー! そうらぞー! いっぱいのめーー!!」



――――――
――――
――


「だいたいですねぇ~! おれらって、わかってるんれすよぉ~!!」

「あつらはアイドルだし……それにみせーねんだし……! しょうらいとか、あるじゃないですか~~!!」

「だからおれらって、まいにちひっしでがまんしてんすよぉ~~!」ヒック

「らのに、あいつら、こっちのきもしらないでぇ~! べたべたしてきて~!」

「おそっちまうぞって~! いってやりたいんれすよぉ~!!」バンバン

「はいはい、そうねぇ。Pくん、いつも頑張ってるわよね」

「うぅーそうれすお~! だからもういっぱい……」

「ダーメ。さすがに飲み過ぎよ。もうベロベロじゃない」

「らにいってんすかぁ~! こんなにしたのは……しゃなへしゃんの……しぇいれしょ~!」

「そうだったわね、ゴメンゴメン」

「あ、すいませーん! お勘定お願いしまーす!!」



――――――
――――
――


「もう、Pくん。女に担がれてるなんて、カッコ悪いわよ~」

「うぅ~……ろーせおれなんて……かっこわるいれすよぉ~」

「ったく、しょうがないわね……」

「ほら、着いたわよ! カギ出して。どこ?」

「う~ん~……みぎの~……ぽけっと……」zzzZZZ

「はいはい、これねー? もう、ホントしょうがないわね~」ガチャリ



「ほら、寝るならスーツ脱ぎなさいよー」

「うぅん……しゃなへしゃん……」

「まったくもう! だらしな男はお姉さんがシメちゃうわよ~?」

「……zzzZZZZZ」

「あーあー。そう」

「そういう態度とるのね~?」

「じゃあ――」



「ナニされても、文句はないわよねぇ……?」




――――――――
――――――
――――
――


ギシッ……! ギシッ……!

ギシッ……! ギシッ……!


――
――――
――――――
――――――――



チュンチュン


「」ピクッ……ピクッ……


「んーー!」ノビー


「ふぅー……」


「確かに、そうよねぇ……」







「イイコトをするのって、気持ちがいいわよね♪」ツヤツヤ





――――あなたの『せいぎ』を問う



考えさせられる話が書きたかった。長くなるのも仕方ないね。

食事のために、ガチャを我慢するのは正しいのか、皆さんも今一度考えてほしい。

誤字脱字、殺気立つ長さはごめんなさい。

読んでくれてありがとう。

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