北斗「……笑ってはいけないジュピターか……」 (154)
前スレ
冬馬「……笑ってはいけないジュピター?」
冬馬「……笑ってはいけないジュピター?」 - SSまとめ速報
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――某病院前
山村「着きましたよ」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「……」
山村「まあさっきまでは勉強がどうのこうの言いましたが、その前になんといってもこの仕事は身体が資本ですからね。
特に激しいダンスをする場合、怪我にも十分気を付けなければいけません」
山村「というわけで今回はジュピターのダンス担当である翔太くんに精密検査を受けてもらいます!」
冬馬「……」チラッ
北斗「……」チラッ
翔太「………………」
クルッ! ダダダダダッ!
冬馬「おいコラ、逃げんな」ガシッ
翔太「やめて! 放して! だって病院で僕って絶対アレじゃん!! あの人じゃん!!
やだ!! もう帰る!! 帰って姉さんとゲームやる!! 姉さんの焼いたアップルパイが食べたい!!」ジタバタジタバタッ!
冬馬「まあまあまあまあ」
翔太「はーなーしーてー! 助けて北斗君! 北斗君!!」ググググッ…!
北斗「……まあまだ完全に桜庭さんが来ると決まったわけじゃないんだし」
翔太「その名前出さないでよぉ!!」グスッ
山村「さあ、行きましょうか」
――待合室
受付「……はい、ではこちらの番号札を持ってお待ち下さい」
冬馬「だとよ」
翔太「………………」
北斗「あ、ついに翔太の目からハイライトが消えた」
山村「お手本みたいなレイプ目ですね」
受付「あら、もしかして診察が怖いんですか? フフ、心配しなくても大丈夫ですよ。
当病院のチェリージャック先生は名医として有名な方ですから」
冬馬「チェリージャック……」チラッ
北斗「チェリー……桜……」チラッ
翔太「ほらもう確定じゃん!! あの人じゃん絶対!! もうヤダ!! メガネなんか嫌い!!」
山村「病院内で騒いじゃダメですよ翔太くん。他の患者さん達のご迷惑になります」
翔太「現在進行形で僕の人生に迷惑かけてる人が言わないでくれる!?」
冬馬「だから落ち着けって。ほら雑誌あるぞ。読むか? どれがいい?」パラパラ
北斗「なにか自販機でジュースでも買ってこようか?」
翔太「中途半端な優しさ見せないでよ!! どうせ2人も腹の底じゃ僕のこと嘲笑ってるくせに!! もう誰も信じられない!!」
冬馬「でもお前も俺がタイキックされた時散々笑いまくってくれたよな?」
翔太「それは反省してるよ! はい、した! 今ちゃんと反省したから! ごめんなさい! これでいいんでしょ!?」
冬馬「こいつ……」
冬馬「はあ……ったく、言われなくても分かってるっつーの。俺だって何回もケツ叩かれまくってんだぞ?
お前と痛みは同じだ。いざとなったらちゃんと助けてやるから」
北斗「うん。流石に翔太の危機は放っておけないからな。俺と冬馬に任せてよ。
本当にヤバくなったらその時は必ずなんとかする」
翔太「……ほんとに? 絶対絶対助けてくれる? 何があっても僕のこと馬鹿にしない?」ジトッ
冬馬「どんだけ疑り深ぇんだお前は。当たり前だろ」
北斗「俺も翔太には嫌われたくないからね。賢ならどうでもいいけど」
翔太「冬馬君……北斗君……」
山村「仲間って素晴らしいですね」
翔太「でも僕いつも冬馬君にワガママばっか言ってるし……前にフィギュアも壊しちゃったことあるし……」
冬馬「そりゃあん時はムカついたけどもういいよ。ちゃんと謝って弁償しただろお前。
っつーかお前のワガママなんざ今に始まったことじゃねえし。とっくに慣れたわ」
翔太「だって……」
北斗「気にするな翔太。なんだかんだ言って冬馬も翔太に頼られるの嬉しいんだよ。
ほら、冬馬は一人っ子だからさ。むしろもっとワガママ言っていいよ」
冬馬「そこまでは思ってねえ」
翔太「……」
北斗「な?」
翔太「……うん。あ、あの……ありがと。ごめんね僕いつも生意気言っちゃって……。
ほんとは僕、冬馬君のことも北斗君のことも大好きだよ……えへ」モジモジ…
冬馬「可愛い奴め……」
北斗「国民的弟の面目躍如だな」
アナウンス「えー、番号札14番でお待ちの松岡様~。松岡禎丞様~。診察室までどうぞー」
冬馬・北斗「ブフーーーッッwwwww」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「」
冬馬「ふぁっはっはっはっは!! ま、松岡君!!」ケラケラケラッ
北斗「あはははははっ! あっははははっ!! ま、松岡君!!」ケラケラケラッ
翔太「………………」
バチーンッ!
冬馬・北斗「キリトッッ!!」
翔太「おいコラちょっと待て」ガシッ
翔太「ねえ!? ちょっと! なんなの!? おい、ちゃんと聞いてんのかこの畜生どもッ!!」
冬馬「き、聞いてる聞いてる。ちゃんと聞いてるって……」フルフル…
翔太「だったらなんで今笑ったの!? おかしいでしょ!?
冬馬君たちは自分の10秒前の台詞すら覚えてられない鳥頭なの!?
返して!! さっきの僕の渾身のデレを返してよ!!」
冬馬「発狂すんなよ松岡君。また炎上するぞ」プルプル…
北斗「お、俺は君の常に全力な生き方応援してるよ松岡君」プルプル…
翔太「あぁ!_? かんけーし!!」
翔太「てめーがバク宙でねーからのひがみで、アイドルに慣れねーかのらのひがみにしか聞こえーんだよ!!
僕をごり押ししてもメリット無いってきづけよ! 僕をごり押しして何のメリットがあんだよ!? 答えてみろよ!? あぁ!_? 悔い新ためろ!!」
冬馬「ふぁーーーーーwwwwww」ゲラゲラゲラッ
北斗「あっはっはっはっは!!!!」ゲラゲラゲラッ
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬・北斗「ラバックッッ!!」
バチーンッ!
・
・
・
――診察室前
山村「さて、それではお待ちかねの診察タイムですよ松岡くん」
翔太「黙れ」
冬馬「……マジで笑って悪かったって。機嫌直せよ松岡君」
翔太「悔い新ためろ」
北斗「……ごめんね翔太。つい……」
翔太「……」
山村「付き添いは2人までという規則ですのでぼくは終わるまでここで待ってますね」
冬馬「ああ、あんたにはもう何も期待してねえからそれでいいよ」
翔太「入りたくない……入りたくない……入りたくない……入りたくない……」ブツブツ…
北斗「元気出して翔太。ほら、あの人に見せかけて実は全然違う人ってパターンもあるかもしれないだろ?」
翔太「うう……」
冬馬「いいからさっさとドア開けろって。とにかく話進めないことには終わらねえんだからよ」
翔太「……ああもうっ! 分かったよ! 開ければいいんでしょ開ければ!! どうかあの人じゃありませんように!!」
ガラッ!
桜庭「ふむ。来たか、御手洗君」クルッ
翔太「ほらやっぱり!!!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
前スレの方で次スレ誘導してくれた方ありがとうございました、助かりました
翔太「やっぱりね!! 分かってた!! 分かってたよ僕には!!
どうせこうなるって分かってた!! なんなのもう!! そこはせめて予想裏切るくらいのことはしろやっ!!」
冬馬「如月並みに働くなこの人……おぐっ!?」
バチーンッ!
北斗「彼が自社ビル建ててくれる日も近いね……ごがあっ!?」
バチーンッ!
桜庭「まずは挨拶しよう。僕がこの病院の名物医師であるチェリージャックだ。
もっともチェリーといってもそっちの意味のチェリーではない」
冬馬「自分で名物って言ったぞこの人」
翔太「後半いらないし……」
桜庭「ただし僕が童貞なのは事実だ」
北斗「結局チェリーなんじゃないか」
桜庭「なにか問題でも?」
北斗「いえ……別に」
桜庭「そして後ろは非処女だ」
翔太「そうだったの!?」
桜庭「嘘だが」
翔太「……」
桜庭「それでは早速検査を開始する。御手洗君、そこにある椅子に座ってくれ」
翔太「えー……」
冬馬「座れってよ、翔太」
翔太「うぐぅ……分かったよ」ガタンッ
桜庭「うん。では始めようか」
翔太「……でも検査って具体的に何する気なの? 聞きたくないけど」
桜庭「そうだな。ここはまずやはり触診からだな」
翔太「触診!?」
桜庭「ああ」
翔太「えっ、えっ? まさかいきなり僕の身体に触る気!? 触る気なの!? 本気!?」
桜庭「そうだ。とりあえず最初に心音を聴きたいので服を脱いでくれ」
翔太「服を脱ぐ!?」
桜庭「おっと、すまない。その前に扁桃腺も調べなければいけないな。この舌圧子で……」
翔太「ケツ圧子!?」
桜庭「喉の奥を……」
翔太「喉の奥にブチ込む!?」
桜庭「チェックする」
翔太「セックスする!!??」
冬馬「カフッ!」
デデーン 冬馬アウトー
冬馬「くっ、ふふっ……お前どんだけ警戒してんだよ……」
翔太「するに決まってるでしょ!?」
バチーンッ!
冬馬「んぐっ!?」
桜庭「……なにやら拒絶されているようだが、実際触れて確かめてみないことには詳しい状態は何も分からないだろう」
翔太「そういう問題じゃない!!」
桜庭「確かに病院や医者が怖いという君の気持ちは分かる。
だがいつまで経ってもそんな風に怯えてばかりいては治るものも治らなくなるぞ」
翔太「僕が怖いのは医者だからじゃなくて薫さんだからだよ!!」
桜庭「なん……だと……」
桜庭「そうか……そんなに僕は君から嫌われていたのか」
翔太「やっと分かってくれた?」
桜庭「時に御手洗君。君には3人の姉がいて非常に仲が良いんだったな」
翔太「……」
桜庭「ちなみに僕にもかつては姉がいたのだが……彼女は既に闇に飲まれて消えてしまった。もうこの世にはいない」
翔太「……」
桜庭「姉は歌と詩集が好きなとても優しい人でな……病床についていた時、よく僕も彼女に枕元で歌を歌ってくれるよう頼まれた。
あれが僕が今アイドルとしてステージに立つことになったきっかけのひとつだ」
翔太「……」
桜庭「まあしかし今こんな話は何も関係はないな。すまない、忘れてくれ」
翔太「冬馬君! 北斗君! この人自らの重い過去をこれ見よがしに見せ付けることで僕に罪悪感植え付けて丸め込もうとしてるよ!! 鬼畜の所業だよ!!」
桜庭「……僕に診せてくれるな?」スススッ
翔太「やだ!! 絶対やだ!! それとこれとは話が別!!
それ以上近付いたら本気で英雄さん呼ぶよ!? 絶対警察突き出してやるから!!」
桜庭「そんな幼児のような駄々をこねられても困る。いいから早くその上の口を開けて見せてくれ」
翔太「なんでわざわざ上のって付けたの!?」
桜庭「さあ。さあさあさあ」ズイッ
翔太「いやぁああああ!? やめて! 来ないで! 僕に乱暴する気でしょう!? エロ同人みたいに!!」
桜庭「桜庭挿入」
翔太「うるっさいこのメガネ市場!!!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「だからなに笑ってんの!!!!」
北斗「ごめん……いや、だって……」
冬馬「桜庭挿入は卑怯だわ……」
バチーンッ!
冬馬「うぐあっ!?」
バチーンッ!
北斗「だあっ!?」
桜庭「……流石にそこまで言われると僕も心外だな」
翔太「だから誰のせいだと思ってるの!?」
桜庭「強いて言うならこの企画を考えたプロデューサー達のせいだが」
翔太「…………」
桜庭「午前中にも言ったが僕自身はあくまで頼まれてやっているだけだからな。
別に個人的に僕が君のことをどうこう思っているわけじゃない。勘違いしないでくれ」
翔太「……」
桜庭「ただ実は前々から君の体調のことは気にはなっていた。御手洗君は今ちょうど成長期で骨も伸びる頃だ。
その時期に無茶をし過ぎるのは本当に良くないからな」
翔太「……」
桜庭「成り行きとはいえこれはいい機会だ。一度しっかり検査はしておきたかった」
翔太「……ほんとに? ほんとのほんとにただの検査? 下心とかない?」
桜庭「当然だろう。僕を見くびってもらっては困る。
それとも普段の僕の姿を見た上でそれでも信用してもらえないというのか?」
翔太「……そりゃ確かにいつもの薫さんは真面目な人だけど……」
桜庭「そうだろう?」
翔太「……」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「あいつはあいつは可愛い~年下の男の子~♪」ボソッ
翔太「!?」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「あの人だけ~心の性感帯~♪」ボソッ
翔太「うわあああああああああッッ!!!!」ガタタッ!
冬馬「ごふっ…!!」
デデーン 冬馬アウトー
冬馬「くっくく……お前ほんっと……ぐおっ!?」
バチーンッ!
翔太「やっぱりこの人本気で僕のこと狙ってるよ!! 確実に僕のケツ狙いだよ!!
冬馬君! 冬馬君助けて! 僕の貞操が! 奪われる! 医者メガネに奪われる!! カンナビスられる!!」
冬馬「おいおい、お前は自分の貞操にどんだけの価値があると思ってんだよ。
ただの検査だっつってんだろ、自意識過剰だっつーの」
翔太「ふざけないでよ、世の中にショタコンは意外と多いんだよ!! ジャ○ーさん見れば分かるでしょ!!」
北斗「ああ、SMAPも解散するこんな世の中じゃ……」
冬馬「ポイズン」
翔太「僕が今すぐジュピター脱退してやろうか!!!!」
冬馬「そうヒートアップすんなって。お前本来はそんなツッコミキャラじゃねえだろ」
北斗「そうだね。ツッコミ役はすべて冬馬に任せておけばいいよ」
翔太「この状況でツッコミって単語出すのやめてくれる!?」
桜庭「突っ込み……なるほど、突っ込みか……ふむ」ブツブツ…
翔太「ほらもう食い付いちゃったじゃん!!」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「淋しがり屋で生意気で~憎らしいけど好きなの♪」
翔太「!?」
桜庭「L・O・V・E 投げキッス」チラッ
翔太「K・I・L・L 投げキルだよッッ!!」
桜庭「僕のこと好きかしら。はっきり聞かせてくれ」
翔太「今この瞬間世界で一番大嫌いになったよおめでとう!! 死ね!!!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬「お、お前……さっきから無駄にセンス発揮し過ぎだろマジで……がぁっ!!」
バチーンッ!
北斗「ほんとごめん翔太。正直すごく面白い……ながっ!?」
バチーンッ!
翔太「全員まとめて死んでしまえ!!!!」
桜庭「……ふぅ。まったく、こんな風に暴れられてしまってはとても僕一人では診察など出来そうにないな。
仕方ない、ここはもう一人助っ人を呼ぶことにしよう」
翔太「はあっ!?」
桜庭「紹介しよう、僕の助手だ。入ってきてくれ」
ガラッ!
小鳥「失礼します!!」
デデーン 全員アウトー
冬馬「……ああ、ちくしょう。既に先の展開がすべて予想出来た……ア゛ァッ!?」
バチーンッ!
北斗「これは……ぐぅっ!?」
バチーンッ!
翔太「僕の考え得る限り最悪の組み合わせだよッ!! づあっ!?」
バチーンッ!
桜庭「彼女が僕の助手のピヨコ君だ。ピヨコ君、彼らに挨拶と自己紹介を頼む」
小鳥「はい! チェリージャック先生の助手のピヨちゃんこと音無ピヨコです!!
よろしくお願いします!! 18歳です!!」
冬馬「無理すんな」
北斗「……あ、なるほど。ピノコとピヨコを掛けてるわけか。考えてあるね」
翔太「いいから感心してないで助けてよぉ!!」
冬馬「いや、無理。諦めろ。この女に出てこられたらこれはもう無理だ。
下手に助け舟出して隙を見せたら逆にこっちが狩られる」
北斗「彼女はサバンナに生きるハイエナか何かなの?」
桜庭「さて、ピヨコ君。早速だが君の意見も是非とも聞きたい。君の目から見て御手洗君をどう思う?」
小鳥「そうですね!! 中学生というところが非常にポイント高いんじゃないでしょうか!? 特にこの見事なおでこがいいですね!
ぶっかけたくなるアイドルランキング不動の一位は伊織ちゃんですけど彼もかなり上位にくるレベルです!!」
桜庭「なるほど。中学生、おでこ、ぶっかけ……と」カキカキ
冬馬「史上最低のカルテだな」
北斗「白い巨塔ってそういう……」
翔太「意味じゃない!!」
小鳥「とにかくこれはなかなか期待出来そうな活きのいいショタです!! ところで翔太くんはイキの方はいいのかな!?」
翔太「いきなりなに言ってんの!?」
小鳥「ナニイってるですって!?」
翔太「そんなこと言ってない!!」
小鳥「イってない!! イってないのね!! なるほど! なるほどなるほど! ………なるほど!!」
翔太「もうやだこの人!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬「やっべえ、この女強過ぎる……」
北斗「闇が深いっていうか闇そのものじゃないか……」
バチーンッ!
冬馬・北斗「エクスカリバーッッ!!」
小鳥「それはそれとして一番肝心なのはシチュエーションよ! 御手洗だけにここはやっぱりトイレ!? トイレプレイですか!?」
小鳥「公衆トイレ……ツナギ……いい男……腹ン中がパンパン……ああっ!
ダメよ小鳥! そんなはしたない! でもでも……ピヨォ!!」
冬馬「……腐ってやがる。遅過ぎたんだ」
小鳥「はっ! ちょっと待って! 大変、今すごくとんでもないことに気が付いちゃいました私!!」
桜庭「ん? なんだ?」
小鳥「翔太くんのフルネームは御手洗翔太……つまり……イニシャルはSM!! なんてことなの!?
これはもうそういうことよね!? 先生と翔太くんでハードファックにダンスっちまえってことよね!? キタァァアアアアア!!!!」
翔太「」
冬馬「……あ、マジだ。お前のイニシャルSMじゃん」
北斗「SMかあ……」
桜庭「ピヨコ君、君までそう興奮してしまっては話が進まない。頼むから気を落ち着けてくれ」
小鳥「そ、そうですね! すみません! 鳥乱れる……いえ、取り乱しました!」ジュルッ
冬馬「いや、鳥乱れるの方で合ってるわ」
翔太「もうそのまま巣立って一生帰ってこなければいいのに……」グスン
小鳥「じゃあ長ったらしい御託なんていいんでとっとと恋をはじめちゃいましょうか!!」
桜庭「ああ」
小鳥「あっ、でもおねショタの場合はお姉さんが攻めるのが定石ですけどここは敢えてのショタ攻め! 翔太くんの方が攻めで行きましょう!!」
翔太「は!?」
小鳥「迷いげな薫が可愛くてちょっとイジメたくなる感じで!
誰にも見せたくないからとっておきをぶっかける感じでお願いしますッ!!」
桜庭「うむ……そうか。了解した」ガタッ
翔太「しないでよぉ!!」
冬馬「よかったな翔太。少なくともこれで奪われる側ではなくなったぞ」
北斗「まさに奪う側になったね」
翔太「どっちも嫌だよ!!!!」
桜庭「―――さあ、至高の舞台(オペ)のはじまりだ」シュルッ
翔太「だからなんでネクタイ解いてるの!?」
桜庭「御手洗君……」ジリジリ…
翔太「ひぃぃぃいいいい!!??」ガタガタガタッ!
翔太「と、冬馬君、冬馬君、冬馬君! ほんとなんとかして! 冬馬君!!」
小鳥「大丈夫よ翔太くん、怖いのは最初だけよ! 知らないけど!
始まりとお終いなんて繋がって巡るモノなの! 大事なのはやめない事と諦めない事よ!!」
冬馬「名曲が途端にクソみたいな歌詞に思えてくるな」
翔太「ああもうっ! この際このアホ毛はもう当てにしない! 北斗君! 北斗君助けて!
北斗君は僕のこと本当の弟みたいに思ってるって言ってくれたじゃん!! 今まさに可愛い弟のピンチだよ!?」
北斗「そんなこと言われてもなあ……」
翔太「なにそれ! あの言葉は嘘だったの!? 僕のこと見捨てるの!? 北斗君の嘘吐き! 大っ嫌いっ!!」
北斗「えっ」
小鳥「なんですって!? 嘘吐き……北斗くんは嘘吐き……ホモは嘘吐き……つまり北斗くんはホモ!?」キュピーン!
冬馬「やっべ、さらに飛び火した」
北斗「……冬馬ならともかく翔太に嫌いって言われると本気でヘコむな……」ズーン…
冬馬「だったら助けてやれよ。俺は無理だけど」
北斗「だってこの状況で俺にどうしろって言うんだ……」
小鳥「北斗くんはホモで嘘吐き……これは……要するに彼は翔太くんをずっと弄んでいたということ!?」
小鳥「翔太くんの一途な想いを利用して幼い身体を貪るだけ貪ったあげく無慈悲にポイしたということなの!?」
小鳥「確かに北斗くんといえばプレイボーイ♂として有名……はっ! そういえば北斗くんのイニシャルはH・Iじゃない!!
エッチの後に愛が来る……つまり身体の関係が先なタイプ!! これはもう確定ね!!」
北斗「……」
冬馬「……うわ、これもマジじゃん。すげえ。なんつーかお前のすべてを言い表してる」
北斗「いや、俺は普通に愛が先だよ!?」
小鳥「ということは総合するとこの関係は桜庭→翔太→北斗の恋の一方通行ってことなのね!? キャアアアアアア!!!!」
桜庭「なんだと……」
翔太「だからなんでそうなるの……?」
桜庭「御手洗君……君にとって僕はしょせん伊集院君の代わりでしかなかったのか。
なんということだ。とんだピエロじゃないか」
翔太「あーもう面倒臭いからそういうことでいいよ。だから僕のことはこれでスッパリ諦めて」
桜庭「いや……いいんだ。そんな過去の話などこの際綺麗さっぱり水に流そう。君の名字のように」
翔太「それで上手いこと言ったつもり? あとその理論で行くと僕の過去ウンコになるんだけど」
桜庭「伊集院君のことはきっと僕が忘れさせてみせる。
さあ、二人きり秘密のPHANTOM THIEFをしよう。さあ、さあさあさあさあ」ガシッ!
翔太「だから肩掴まないでってばぁあああ!! この変態! ド変態! 変態大人っ!! 鬼畜メガネ!!」
桜庭「まずは最初に情熱のヴェーゼを交わそうか」グググッ…
翔太「ひぃ!?」
小鳥「えんだああああああああああ!!!!!」
翔太「イヤァァアアアアアアアア!!!???」
翔太「ちょっ、ほんとにやめっ……!?」
小鳥「ハイ、翔太くんの! ちょっといいとこ見てみたい!
そのままキッス!! そのままキッス!! そのままキッス!! そのままキッス!!」パンパンッ
冬馬「……あんたはそんなんだからいつまで経っても男から音沙汰無しなんだろ。音無だけに」
北斗「お前も天道さんのギャグセンスを笑えないぞ冬馬」
律子「……」ユラリ…
冬馬「あ」
北斗「あ」
小鳥「そのままセックス!! そのままセックス!! そのままセックス!! そのままセッ……!」
ガシッ!
小鳥「……あら?」
律子「……」
小鳥「……」
律子「……」
小鳥「まあ、律子さん。こんにちは」
律子「こんにちは。あなたは仕事もせずにこんなところで一体何をやってらっしゃるんですか?」
小鳥「強いて言うなら保健体育の授業ですね。
健全な青少年にアダムとアダムの正しい性の営みを教えることは大人として当然の義務ですから」
律子「そうだったんですか。さすが小鳥さんは立派な人ですね」
小鳥「ええ、それはもう」
律子「ところで小鳥さんは未成年淫行って言葉知ってます?」
小鳥「この世でもっとも尊い言葉ですね」
律子「そうですか。それは素晴らしいことですね」ニコッ
小鳥「はい」ニコッ
律子「……」
小鳥「……」
律子「明日の朝刊載ったぞテメーーーーッッ!!!!」
メキャアッ!!
小鳥「ぶぇええええええええっ!!!???」
桜庭「ピヨコくーーーーーん!!!!!」
桜庭「くっ、ピヨコ君がやられたか……! しかし君の遺志は決して無駄にはしないぞ!
今こそ君の無念を晴らす時だ! さあ御手洗君、いざ! いざ!!」ズズイッ
翔太「だからやめっ……!」
桜庭「いざ!!」
ガシッ!
桜庭「ん?」
握野「……」
桜庭「……」
翔太「あ」
握野「……」
桜庭「……」
握野「……」スッ
ガチャリッ
桜庭「……」
握野「17時38分、現行犯を確保。このまま署に連行する。……最後になにか言い残すことはあるか?」
桜庭「……ちぇっ、結局僕もか。参ったねどうも」
桜庭「しかしこれで終わりではない。いずれ第二、第三の僕が御手洗君の前に現れ、必ずや君のチェリーをジャックすることだろう。
僕もまたパリミキに踊らされただけのただの被害者にすぎないということだ」
握野「他に何か言うことはないのか?」
桜庭「カツ丼は大盛りで頼む」
握野「……いいだろう。腹ン中がパンパンになるまで食わせてやる。さあ、歩け」ドンッ
桜庭「……フッ。今回は僕達のコールド負け、か……」
翔太「ひ、英雄さあああああああん!!!!」ブワッ!
翔太「輝いてる!! 今すっごく輝いてるよ英雄さん!! 伊達に英雄って名前じゃないよ!!
北斗君? 誰それ! 英雄さんこそ僕の本当のヒーローだよ!! そこにシビれるあこがれるゥ!!」
握野「少年。世の中にはこういった恐ろしく理不尽な出来事がたくさんある。
しかしそんな時のために正義はあるんだ。……強く生きてくれ」
翔太「キャーーーーッ!! 僕もう英雄さんになら抱かれてもいいっ!! パンツあげちゃうッ!!」
桜庭「!?」
冬馬「さすが握野さん。俺達に出来ないことを平然とやってのけるな。お前マジで立場ねえぞ北斗」
北斗「…………」
冬馬「……ガチヘコみじゃねえか」
・
・
・
――診察室前
山村「みんなお帰りなさい。翔太くん、チェリージャック先生からはちゃんと診てもらってきましたか?」
翔太「あやうく心の治療が必要なレベルまで追い詰められかけたけど英雄さんのおかげでなんとかなったよ!
とりあえずこれでもうあのメガネの脅威は去ったと思えば気分はいいかな!
ほんと英雄さんには今後足向けて寝れないよ! 現代にも本物のヒーローっているんだね!!」
山村「それはよかったですねえ」
冬馬「他人事みたいに言ってるけどそもそもあんたらのせいだぞ」
山村「ぼくのイニシャルはKYですからね。空気なんて読みませんよ」
冬馬「……うわ、これもマジだ。名は体を表すってほんとだな」
北斗「……あの、翔太。さっきは助けてあげられなくて本当にごめんな?」
翔太「え、なに? なんか言った?」
北斗「えっ、いや……だから」
翔太「えーっと、すいません。それ以前にあなたどちら様ですか?
僕にはこんな変態みたいな格好した知り合いいないんですけど。気安く話しかけないでもらえます?」
北斗(白鳥)「」
冬馬「ドンマイ」
山村「ところでもう日も大分傾いてきてますね。予定していた行程も残り少なくなってきました」
冬馬「……ああ。やっとそこまで漕ぎ着けたか」
北斗「……長い1日だね」
翔太「ほんとだよ」
山村「安心して下さい、この後はまた事務所に帰れますよ。みんなそろそろお腹も空いてきた頃でしょう?
夕食もそちらに用意してありますからあと少し頑張りましょう!」
冬馬「マジかよ。昼メシほとんど食えなかったから実はすっげえ腹減ってたんだよな」
翔太「僕もお腹空いた~」
北斗「ちょっとだけ希望が見えてきたな」
山村「ただその前に銭湯に寄ってから帰りましょうか。
3人とも今日はたくさん汗をかいたでしょうからね。是非ゆっくり湯船に浸かって今日1日の疲れを癒やして下さい」
翔太「え、ほんと? お風呂入れるの? よかった~、僕もう汗びっしょりだよ。主にあの医者メガネのせいで」
北斗「俺も正直1日中この格好してたせいでかなり暑かったよ……」
山村「では急いで移動しましょうか」
冬馬「はいはい」
――某銭湯前
山村「到着しましたね。はい、それじゃあこれが皆さんのバスグッズと着替えです。どうぞ」ポスッ
冬馬「………着替え? えっ、じゃあもうこの服着なくていいのか!? マジで!?」
山村「大丈夫です、替えの方もまったく同じものを用意してます」
冬馬「なんでだよ! 普通の服でいいだろそこはよ!」
翔太「僕はジャージだから別にそれでいいや」
北斗(白鳥)「……」
山村「じゃあみんなが出てくるまでぼくはここで待ってますので。ゆっくり入ってきて下さいね」
翔太「やっぱり賢君は来ないんだね」
山村「ぼくは特に汗はかいてませんから」
冬馬「そりゃそうだろうよ」
――脱衣所
北斗(白鳥)「ああ、これでやっとこの白鳥が脱げるよ……」ヌギヌギ…
翔太「言っとくけど北斗君本人よりも見てる側の方が辛かったんだからね?」
冬馬「視界のテロどころか視界の氷河期レベルだからな」
北斗「そこまでなの? まあいいけど……ふぅ」スポッ
冬馬「…………北斗!?」
冬馬「やべえ、いきなり北斗が消えた!! どこ行っちまったんだ北斗!! ちくしょう、神隠しに遭ったか!?」
翔太「なんか代わりに知らないイケメンが立ってるよ冬馬君!! 誰この人!? 僕こんな真っ当なイケメン知らない!!」
冬馬「クソッ! これが機関のやり方か……!!」
北斗「俺が北斗だよ冬馬、翔太」
冬馬「……なんだ、お前が北斗だったのか。一瞬でキャラが薄くなったから気付かなかったぜ」
翔太「キモいキモいと思ってたけど脱いだら脱いだでなんか物足りないね」
北斗「俺、2人のそういう辛辣なところ嫌いじゃないよ。今ちょっと視界が歪んでるけど」
冬馬「まあこんなしょうもない小芝居やってないで俺らもさっさと脱ぐか」
翔太「そうだね」
冬馬「えっと俺の着替えは……っと。これ、か……」ピタッ
北斗「ん?」
冬馬「……ちくしょう、やられた」
翔太「なに? どうしたの?」
冬馬「いや……あのさ。お前ら俺の痛パーカーにプリントされてた765の奴らの顔覚えてるか?」
北斗「え? えーっと、確か春香ちゃん、千早ちゃん、真ちゃん、やよいちゃん、響ちゃん、美希ちゃんの6人だよね」
翔太「それがどうかしたの?」
冬馬「6人とも全員如月のプリントに変えられてやがる……」
北斗・翔太「おふっ…!」
デデーン 北斗、翔太、アウトー
冬馬「何がまったく同じものを用意しただよ……うわあ、地味にかなり嫌なんだけどこれ」
翔太「見せて見せて。……ぶふっ! こ、これは……あだっ!!」
バチーンッ!
北斗「見事に全員千早ちゃんだね……痛っ!!」
バチーンッ!
冬馬「なんか俺がすげぇあいつのファンみたいじゃねえか……やめてくれよ……」
翔太「痛さがさらに増したね……」
冬馬「板さが……」
翔太「……」
冬馬「……」
翔太「……」
冬馬・翔太「フッ…」
デデーン 冬馬、翔太、アウトー
翔太「……ねえ、いい加減もうこのネタからは離れよう? 悲しみの連鎖しか生まないよ」
冬馬「……そうだな。悪い」
バチーンッ!
翔太「だうっ!」
バチーンッ!
冬馬「はあっ!」
冬馬「痛ぇ……ああもう全員めっちゃこっち見てくるし。シラスかよ」
千早パーカー「……」
翔太「まさに目と目が逢う瞬間だね……」
北斗「……俺の替えは大丈夫だよな? 何も改造されてないよな?」ジロジロ
翔太「北斗君の場合はむしろ変わってた方がいいでしょ……あれ?」ゴソゴソ
冬馬「どうした?」
翔太「えっとね。僕のジャージのポケットの中になんか入っ……」コロンッ
メガネ「……」
翔太「うっわああああああああッッ!!??」
冬馬・北斗「ゴフッ…!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「いやぁあああああああ!!!! 出たあああああああ!!!!」
冬馬「ふっ、ふははっ……ト、トラウマになり過ぎだろお前……んぎっ!?」
バチーンッ!
北斗「も、もはや完全にパブロフの犬状態だな……ぎゃあっ!?」
バチーンッ!
翔太「捨てて! それ今すぐどっか捨てて! 早く!!」
冬馬「分かった分かった、ほら」ポーイ
翔太「……はあ。もーほんと疲れる……」
北斗「ねえ、ところでさ。さっきから俺が敢えて触れてこなかったことに触れてもいいかな?」
冬馬「なんだ?」
翔太「なに?」
北斗「いや……そっち」チラッ
タイツ男1「……」ヌギヌギ…
タイツ男2「……」ヌギヌギ…
冬馬「…………」
翔太「…………」
冬馬「いや……うん。確かに俺もさっきから気にはなってた。なってたけどよ……」
翔太「まあお風呂の中でも笑ったら叩きに来るんだろうから当然あの人たちも脱ぐよね……」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「……」
冬馬「このことはなるべく考えないようにしようぜ? な? そうしようぜ?」
翔太「でも今から服越しじゃなくて直にケツ叩かれることになるんだよ僕たち……」
北斗「……せめてタオルくらいはしっかり巻いておこうか」
冬馬「ゴリマッチョ2人の全裸とか見たくねえ、見たくねえよ……」
ズルッ!
道流(ふんどし)「……ふぅ」ムキッ
信玄(ブーメランパンツ)「……ふぅ」ムキッ
デデーン 全員アウトー
冬馬「……ああクソ、見ちまったよ! しかも無駄に似合ってるところがまたジワジワくる……!」
翔太「ふんどし似合うアイドルってなんなの……?」
北斗「……まあ今はタペストリーも着る時代だし」
バチーンッ!
木星「ぐあああっ!!」
道流(ふんどし)「……」ジーッ
信玄(ブーメランパンツ)「……」ジーッ
冬馬「……やめろ。やめてくれ。その格好で無言のまま無表情でこっちを見てこないでくれ……」
翔太「脱いだらさらにムッキムキだし……」
北斗「……っていうかさ。つまり彼らはわざわざこの瞬間のためだけに朝からずっとこれを穿き続けてたってことだよね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「最初にドアを叩き開けて入ってきた時も961プロの前で素振りしてた時も俺達がカフェパレで昼食取ってた時もスタジオで収録してた時も」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「塾で勉強していた時も病院にいた時も、ずっと彼らはすました顔であのピチピチタイツの下にふんどしとブーメランパンツをひたすら穿き続けていたんだ……」
冬馬「……」
翔太「……」
冬馬・翔太「コフッ…!」
デデーン 冬馬、翔太、アウトー
冬馬「……北斗ぉぉぉおおおお!! 余計なこと言ってんじゃねえよ!!」
翔太「ああもう僕が今日見る夢の内容が決定したよ……」
バチーンッ!
冬馬「うがあっ!?」
バチーンッ!
翔太「びゃっ!?」
――銭湯内
翔太「……わー、この銭湯初めて来たけど結構広いね」ペタペタ
冬馬「見たところ風呂そのものにヤバい仕掛けはなさそうだな」ペタペタ
北斗「とりあえずさっさと身体を洗ってしまおう。もう汗でベタベタだ」ガタンッ
翔太「僕ここ座ろーっと。ほら、冬馬君も早く来なよ」ガタンッ
冬馬「おう……」
道流(ふんどし)「……」ガタンッ
信玄(ブーメランパンツ)「……」ガタンッ
冬馬「……あっちは気にしない、あっちは気にしない」ガタンッ
翔太「んっと、まずはシャワーで髪濡らしてー。それから前髪をこうペタッと下ろしてー……冬馬君見て見て。貞子」デロン
冬馬「怖ぇからやめろ。っつかお前ヘアバンド取るとほんと別人だな」
北斗「ええと、シャンプーはどっちだ……こっちだな」カタッ
冬馬「あ゛ー疲れた……」ピッ シャーッ…
翔太「ねえ冬馬君、見て! 見て!」
冬馬「またかよ、なんだよ」
翔太「泡の塊を両乳首に付けて~……セルフモザイク!」
冬馬「お前は本当にアホだな」
北斗「……ん? あれ? おかしいな。なんでだろう」シャカシャカ
冬馬「? なんだよ?」
北斗「いや……。あ」
翔太「なに?」
北斗「俺のこれシャンプーじゃなくて牛乳だった」
冬馬・翔太「プッ……」
デデーン 冬馬、翔太、アウトー
北斗「道理で一向に泡立たないと思ったら……」
冬馬「もっと早く気付けよ」
翔太「なんか余計臭くなったよ北斗君……」
北斗「……」
バチーンッ!
冬馬「おあっ!?」
バチーンッ!
翔太「んに゛っ!?」
北斗「……ごめん。冬馬のやつ貸してくれる?」
冬馬「しゃーねえな。ほらよ」
北斗「サンキュ」
翔太「冬馬君見て、今度は髪逆立てて~……サイヤ人!」ミョーン
冬馬「だから遊んでねえでさっさと洗えよ。小学生時代の俺かよ」
北斗「みんな一度は通る道だから……」
翔太「そうだ。北斗君、僕が背中流してあげようか?」
北斗「え? いいの?」
翔太「嫌だけど」
北斗「……」
冬馬「やめてやれ翔太。もはや北斗が思春期の娘に嫌われた父親みてえな顔になってるぞ」
北斗「まだ病院でのこと根に持たれてたんだね……」
翔太「……ん! オッケー、僕はこれで洗い終わった!!」ザバッ
冬馬「早っ! お前ほんとちゃんと洗ったのか!?」
翔太「洗ったもーん。よーし、僕が湯船一番乗りだー!」タタタタッ
冬馬「おい、翔太! 走り回ってんじゃねえ! 危ねえだろ!!」
翔太「平気平気ー! わーい!」ドボンッ
冬馬「飛び込むな!!」
翔太「……あっ、痛い! お尻痛い! 染みる! お湯が染みる! すごく痛い! どうしよう痛い!」
翔太「あっ、でもだんだん慣れてきた! 痛くなくなってきた! すごい!
冬馬君、もう痛くないよ! 僕のお尻慣れたよ! 冬馬君早く来て!
もう痛くないから! 中入ってきて! 冬馬君! お尻!!」
冬馬「だからいちいちうるせぇんだよお前は!!」
北斗「声だけ聞くと音無さんが全力で食い付いてきそうな発言のオンパレードだな」
翔太「わーい!」バシャバシャ
冬馬「そして泳いでんじゃねえ、泳げねえくせに!!」
翔太「足つくから平気だもーん!」
冬馬「そういう問題じゃねえんだよ、もっとTPOを考えろ!!」
翔太「TPOって何の略!? チンポ!?」
冬馬「ド下ネタじゃねえか!! いい加減桜庭さんで懲りろお前は!!」
北斗「ちなみにお前はちゃんと何の略か分かってるのか?」
冬馬「え? えーっと、アレだろ。タイム……プレイス……オ……オ……オーガズム?」
北斗「お前も翔太と同レベルだぞ」
翔太「ひゃっほーーーー!!」バッシャバッシャ
冬馬「ったく……。まあ俺もそろそろ入るか」ザバッ
北斗「俺はもう少し後から行くよ。なんかまだ匂いが取れない」ゴシゴシ
冬馬「おう。早くしろよ」ペタペタペタ
北斗「……まだ匂うかな? もう大丈夫だよな?」クンクン
北斗「いや、一応もう少し洗っておこう。あれ、ボディソープは……」キョロキョロ
華村「はい、床転がってたわよ」ヒョイッ
北斗「あ、これはどうも……」
華村「……」
北斗「……」
華村翔真
http://imepic.jp/20160824/238940
元歌舞伎役者。3人組和風アイドルユニット彩に所属。オネエと江戸っ子を混ぜたような口調で喋る
また実際に本人も男も女もイケると発言している
北斗「……華村さんもいらしてたんですか」
華村「まあね。アイドルたるもの美容と健康には常に気を遣わなきゃダメだろ? さ、隣座るよ」ガタンッ
北斗「……」
華村「それにしても今日は暑いわねェ。アタシなんて髪長いからもう汗かいちゃってかいちゃって」
北斗「はあ……」
華村「でもやっぱ銭湯っていいわよね。前に仕事で行った温泉も最高だったし」ピッ
北斗「そうですか……」
華村「……あぁー、気持ちいい。風呂は命の洗濯ってホントねェ。仕事の疲れも全部ぶっ飛んじゃう」シャーッ…
北斗「……」
華村「……アンタ、なんでさっきから微妙にアタシから距離とってんの?」
北斗「いえいえ、そんな……別に距離なんてとってませんよ」スススッ
華村「……あのねぇ。アンタ、そっち系の人間は男なら誰でもいいとでも思ってんでしょ。言っとくけど全然違うんだからね?」
北斗「……」
華村「こっちにだって好みってもんがあんのよ。20歳の小僧なんてアタシに言わせりゃまだまだおしめの取れないボウヤよ。
ケツの青いガキになんざ興味ないんだから勝手に勘違いしないでくれる?」
北斗「むしろ今俺のケツは赤いんですけど……」
華村「……あら、青くないの?」
北斗「……」
華村「へえ~、ふーん、あっらー」ジロジロ
北斗「……」
華村「そういえばアンタって一見ひょろっちく見えて実は結構イイ身体してるじゃない。
なに、もしかしてなんか鍛えてんのかい?」
北斗「……まあジムには少々通ってますけど……」
華村「へえ……」
北斗「……」
華村「……」
北斗「……」
華村「……だからそんなビビんないでくれる? 流石のアタシも傷付くじゃないか」
北斗「最初からビビらせるような発言をしないでもらえると嬉しいんですけど……」
華村「ただの冗談よ。大体アタシだって可愛い女の子は大好きよォ?」
北斗「……で、ですよね! やっぱり一番は女の子ですよね!」
華村「可愛い男はもっと好きだけど……ふふっ」
北斗「」
華村「はいはい、そんな顔しないの。別に取って食いやしないわよ。これでもアタシはアンタ達には恩があるんだから」
北斗「え?」
華村「ほら、アタシは元々梨園の人間じゃないからサ。
役者やってた頃はどんなに頑張っても舞台の中心には立てなくっていろいろ悔しい思いもしてきたわけよ」
北斗「……」
華村「でもそんな時にアンタ達ジュピターのパフォーマンスを見てやっぱアタシも諦めちゃ駄目だって思えたんだから」
北斗「……」
華村「アタシ、歌舞伎やめてアイドルになってよかったわ。念願のステージのド真ん中に立つって夢も叶ったしね」
北斗「……そうですか」
華村「そうよォ。だからジュピターにはホント感謝してんのよ。
さってと、んじゃアタシも髪洗って別嬪になろうっと……あっ」ツルッ
ゴトンッ!
華村「お゛あ゛あああっ!? い゛っだああああ!? シャンプーが!
シャンプーの容器が! 小指当たったあ!! ぐおおおおっ!?」
北斗「ぐふっ…!」
デデーン 北斗アウトー
華村「いった! 痛ったい! ちょっとアンタ、なに笑ってんだい!?」
北斗「いきなりリアルな男の部分出してくるのやめて下さいよ……」
華村「仕方ないでしょ!?」
バチーンッ!
北斗「ぐぬっ!?」
冬馬「はー、疲れた疲れた……」ザブンッ
冬馬「……って、うわ。マジでケツが染みる……痛ぇ……あ、でもだんだん慣れてきた……痛くなくなってきた……あー」バシャッ
黒井「……」
冬馬「ふー……」
黒井「……」
冬馬「……」
黒井「……」
冬馬「うおあっ!?」ビクゥッ!
冬馬「………オッサン!? なにやってんだよこんなとこで!!」
黒井「強いて言うならナニをヤられてきたところだが」
冬馬「……ご愁傷様です」
黒井「いや……」
冬馬「……」
黒井「……」
冬馬「……」
黒井「ところでお前は今日一体何回ケツを叩かれたんだ?」
冬馬「は? さあ……覚えてねえけど。死ぬほど痛いのだけは事実だな」
黒井「そうか。だが多分お前よりも私の方が痛いぞ」
冬馬「……ケツまで持っていかれたのか」
黒井「……すごかった。飢えた人間の欲望の恐ろしさを目の当たりにした」
冬馬「……ご愁傷様です」
黒井「知っているか? ケツというものはな……本来何かを入れるための器官ではない」
冬馬「幼稚園児でも知ってる真理だな」
黒井「いいか、これだけは深く心に刻んでおけ。
初っぱなからいきなり飛び道具を持ち出してくるような女は確実に地雷だ。気を付けろ」
冬馬「…………ご愁傷様です」
黒井「うん……」
冬馬「……」
黒井「……」
冬馬「……あー。ところでよ」
黒井「なんだ」
冬馬「その……昼間秘書さんが言ってたことだけど」
黒井「……何の話だ。というか彼女の名前出すのやめてくれないか」
冬馬「ごめん……いや、ただ名前を呼んではいけないあの人がだな? 言ってたんだよ。
俺らが961抜けたせいでオッサンが荒れてるとかなんとか……」
黒井「……」
冬馬「やっぱあれってマジなのか?」
黒井「……言っている意味がサッパリ分からんな。何故お前らごときが抜けた程度で私が荒れねばならんのだ」
冬馬「だって実際俺らが稼ぎ頭だったのは事実だろ。正直オッサンのやり方には未だにムカついてるけどよ。
事務所全体にも迷惑かけちまったことに関しては結構今でも良心が痛むっつーか……」
黒井「……フン、自惚れるな。何度でも言うがお前らなど所詮はいくらでも替えの利く駒に過ぎんのだ。
たかがトカゲの尻尾の先が切れたくらいでなんだと言うんだ? そんなものはまたすぐに新しく生えてくる」
冬馬「……」
黒井「ジュピターなんぞその程度の存在でしかないのだ。お前は傲慢にも自身を頭か心臓だとでも思い込んでいるようだが、勘違いも甚だしい。
961プロには私という唯一の存在さえあれば何も問題はない。この私がいる限り永遠に不滅なのだよ」
冬馬「……あっそ」
黒井「大体今の私にはマイラブリーエンジェル猫たんがいるしな」
冬馬「アラフィフがたんとか言うなこの加齢臭が」
黒井「うるさい黙れ若造」
冬馬「あんたが黙れジジィ」
黒井「ジジィじゃないナイスミドルだ言い直せバカ」
冬馬「バカって言う方がバカだバカ」
黒井「なら今お前もバカって言ったからお前はバカの2乗でもっとバカだバカ」
冬馬「じゃああんたもバカのバカがバカでバカだからさらにバカだバカ」
黒井「……」
冬馬「……」
黒井「……私はな。今も昔もトップアイドルをこの手で生み出すことのみ考えて生きている男だ。
今お前達がいるようなヌルい弱小プロとは土台からして違うのだよ。舐めるなよガキが」
冬馬「……オッサン……」
黒井「……」
冬馬「……」
黒井「……」
冬馬「……ダメだ、もう舐めるとかいう単語聞くとあの腐死鳥の姿しか頭に浮かんでこねえ」
黒井「何の話をしているんだお前は!?」
北斗「冬馬」ジャブジャブ
冬馬「おお、来たか北斗。遅ぇ、ぞ……」
華村「はぁい♪」
冬馬「……」スススッ
華村「……アンタ達2人揃ってほんっと失礼ね。いい加減にしないと本気でそのケツ狙うわよ」
冬馬「ひぃ!?」
北斗「……あれ。黒井社長もいらっしゃってたんですか」
黒井「……ああ」
華村「おや、そちらはもしかして961プロの社長さん?
ふぅん、初めてお会いしたけど……イイ感じに枯れててなかなか渋いじゃない。アタシ好みかも」
黒井「!?」
冬馬「あっ、ちなみにこのオッサンの後ろは既に貫通済みでーす。非処女でーす」
黒井「何をバラしているんだお前!?」
北斗「……社長……」
黒井「哀れみの目を向けるな!!」
華村「へえ……そうなの……貫通済み……へえー」ジーッ
黒井「ひぃ!?」
冬馬「そしてネコ好きでもありまーす」
翔真「……なんだって?」ピクッ
黒井「き、貴様! 私のことを売ろうとしているな!?」
華村「ネコ好き……そう、ネコ好き……ネコ好き……」ブツブツ…
黒井「いや、私が好きなのは普通に動物の方の猫だぞ!? そっちのネコじゃないぞ!?」
華村「……アタシ、歌舞伎は好きだけど歌舞伎町もすごく好きよ?」チラッ
黒井「ひぃぃいいいい!!??」ガタガタガタッ
<社長ーっ!! 浮気は絶対に許しませんからねーっ!!
黒井「ッ!?」ビクゥッ!
冬馬「うわっ!?」
冬馬「……なんだなんだ。今の秘書さんの声だったよな?」
北斗「彼女も来てたんだね。そうか、隣は女湯か」
冬馬「女湯……」
北斗「……」
冬馬「……」
北斗「……」
冬馬「……別に何もやましいこととか考えてねえぞ?」
北斗「俺も何も言ってないよ冬馬」
響『おー! なかなか広くて快適だぞー! あーあ、いぬ美たちも連れてきてあげたかったな~!』
貴音『これ、響。公共の場でそのようにはしゃぎ回るものではありません』
冬馬「!」
北斗「!」
響『ごめーん。そうだ、ほら貴音座って座って! 自分が背中洗ってあげるさー!』
貴音『おや、それはどうも有り難うございます。ええと、ぼでぃそぉぷは……』
冬馬「……あいつらも来てたんだな」
北斗「……そうだね」
響『それにしても貴音はホント白いなー。自分は色黒だから正直ちょっと羨ましいぞ』
貴音『健康的で良いではありませんか。それに響は小柄ながら身体付きもとても女性らしく……』
響『うひゃっ!? た、貴音どこ触ってるの!?』
貴音『……ふむ。また一回り大きく成長しましたね?』
響『うぎゃーっ! だからどこ見て言ってるさー! もうっ、そういうのセクハラだぞセクハラ!』
貴音『なんと。ではご期待にお答えしてさらにせくはらをしてしまいましょう』
響『なんで!? ちょっ、だからやめっ! く、くすぐったい! やだっ! 貴音! だめっ……あっ、んっ!』
冬馬「…………」
北斗「…………」
雪歩『ふわぁ……四条さんも響ちゃんも相変わらず素敵ですぅ』
真『そうだねー。ボクとは大違いだよ』
雪歩『そ、そんなことないよ。私にとっては真ちゃんの方が……』
真『ん?』
雪歩『……ううん! 真ちゃん、私も真ちゃんの背中流してあげるね!』
真『ほんと? ありがとう雪歩!』
雪歩『えへへ……真ちゃんってお肌綺麗だよね。すっごくすべすべで羨ましいなあ』
真『えー、そっかなー? へへっ、雪歩に言われるとなんか照れちゃうね!』
雪歩『……あれ? 真ちゃんももしかしてちょっと大きくなってる?』
真『えっ?』
雪歩『いいなあ。私なんてひんそーでちんちくりんで……』
真『ぜ、全然そんなんじゃないよ! それにボクなんかより雪歩の方がずっと……』
雪歩『だってほら……』
真『あ……ちょっと……だから恥ずかしいって雪歩……』
冬馬「…………」
北斗「…………」
雪歩『でも本当に大きくなってるよ!! 真ちゃんのおち○ち○!!!!』
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬「………お前は本当にそれでいいのか萩原!?」
北斗「清純キャラなのに……あんなに清楚なのに……」
バチーンッ!
冬馬「どわっ!?」
バチーンッ!
北斗「ぐぎっ!?」
冬馬「ああ、クソが。痛ぇ、痛ぇよ……」ヒリヒリ
北斗「やっぱり直は……直でケツバットは……」ヒリヒリ
千早『すっぱだカーニバル!!!!!』
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬「ほんっといい加減にしろよあいつ!?」
春香『まっぱだカーニバル!!!!』
冬馬「お前もかよっ!!」
千早『本当の私……デビュー!!』
冬馬「うるせぇよ!!」
春香『後ろの穴までちゃーんと見えてるからねー!!』
冬馬「やめろ!!!!」
バチーンッ!
冬馬・北斗「ぶるわぁあああっっ!!??」
千早『ねえ、春香春香!! 見て見て!!』
春香『なに? 千早ちゃん!!』
千早『泡の塊を両乳首に付けて……セルフモザイク!!』
春香『ほんとだ!! すごい!!』
冬馬「お前らも翔太と同レベルじゃねーか!!」
北斗「春香ちゃん達はどうしてそうなってしまったの……?」
冬馬「そもそもあいつにはモザイクとか必要ねえだろ」
北斗「それは流石に問題発言だぞ冬馬……」
ハム蔵『ヂュイ!』タタタッ…
響『あっ、ハム蔵!? こらー! 入ってきちゃだめだろ!』
貴音『おや……』
ハム蔵『ヂュイ、ヂュイ!』タッタッタッ
響『待ーてー! ……えいっ、捕まえた!』ガシッ
ハム蔵『ヂュヂュイ!』
響『もー、ちゃんと脱衣所で待っててって言ったのに……ここは人間用のお風呂なんだぞ?』
貴音『一人残されて寂しくなってしまったのでしょうか?』
響『しょうがない奴だなー。ほら、もう向こう行くぞ。自分たちもすぐに戻るから』
ハム蔵『ヂュイ、ヂュイ!』ピョンッ タタタタッ
響『うわっ!? だから逃げるなってば! 危ないだろー!』
貴音『これはいけませんね。早く捕まえないと……』
ハム蔵『ヂュヂュイッ! ヂュ…!?』スポッ
響『って、ああっ!! ハム蔵が排水溝に流されたぁーー!?』
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
響『ハム蔵ーーーーっっ!! ど、どうしよう貴音、ハム蔵が! ハム蔵がぁ!!』
貴音『くっ……!』タタタッ パシッ!
貴音『……大丈夫です響! 間一髪助け出しました!!』ザバッ!
響『た、だがね゛ぇぇええええ!!!!』ブワッ!
貴音『ふぅ……危ないところでした』
響『ありがとう貴音! 本当にありがとう! よかったなあハム蔵、貴音に感謝するんだぞ! ハム蔵! ハム蔵……?』
響『……死んでる……』
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
冬馬「もうあいつら本当に嫌だ……」
北斗「……大丈夫だよな? あれただの演技だよな? 本当に死んでないよな……?」
バチーンッ!
冬馬「痛ってぇええええ!!??」
バチーンッ!
北斗「ごぁあああああっ!!??」
冬馬「チクショウ、なんでだよ……風呂イベントとかこれがTo LOVEるだったら既に10回はラッキースケベが起こってるはずなのに……」
北斗「こんなの誰も望んでない、誰も得しないよ……」
冬馬「……あれ?」
北斗「どうした?」
冬馬「いや……そういや忘れてたけどさっきから翔太どこ行った?」キョロキョロ
北斗「言われてみれば確かに声が聞こえないね……」キョロキョロ
翔太「…………」ブクブクブクブク…
冬馬「しょっ、翔太ーーーーーーっっ!!!!!」
・
・
・
冬馬「……うた! 翔太! 翔太!!」
北斗「大丈夫!? 翔太!!」
翔太(……あれ……冬馬君と北斗君の声……?)
ぼんやりとした意識の中で目を覚ます。
霞んだ視界の中に微かに翔太は心配げな顔で自分を見下ろす冬馬と北斗の姿を捉えた。
翔太(……ん? なんだろう、なんだったっけ……えーっと……)
冬馬「翔太! 翔太! おい、返事しろ! 翔太!!」ペシペシ
翔太「……冬馬君……」
北斗「ああ、気が付いた……よかった……」ホッ
翔太「北斗君……」
呼びかけられる声に徐々に景色がはっきり見えてくる。
それと共に散漫だった思考もだんだん元に戻っていき、やがて完全に覚醒した瞬間、翔太は勢いよく跳ね起きた。
翔太「……!!」ガバッ!
翔太「って……うわっ……」グラッ…
冬馬「おい、無理に起き上がるなって!」ガシッ
北斗「まだ安静にしてないと……」
翔太「ご、ごめん……っていうか、え? なに? 何が起こってるの? あれ?」キョロキョロ
冬馬「だからっ!! お前風呂で溺れたんだよっ!! この馬鹿!! こっちの心臓止まるかと思っただろ!!」
北斗「本当にヒヤヒヤさせないでよ翔太……」
翔太「あ……そっか……」
グラグラと揺れる頭を抱えながらやっと事実を思い出す。
それと同時に翔太は自分の周りに冬馬と北斗以外の他の人間の気配があることにも気が付いた。
華村「やれやれ、随分と人騒がせなボウヤだねえ」
黒井「まったくだ……」
翔太「……え゛っ、翔真さんに黒ちゃんまで? どうして……」
道流(ふんどし)「…………」
信玄(ブーメランパンツ)「…………」
翔太「……こっちは見ない、こっちは見ない……」
冬馬「おい、本当に大丈夫か? どっか痛むとことかあるか?」
翔太「あ……うん。大丈夫だよ。まだ少し頭はズキズキするけど」
北斗「ならいいんだけど……」
翔太「でも、そっか。冬馬君と北斗君が溺れた僕を助けてくれたの? ありがとう」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「……?」
冬馬「いや……お前を助けてくれたのは華村さんだ」
北斗「うん……たまたま彼が一番翔太の近くにいたからね。真っ先に駆け寄って担ぎ上げてくれたんだよ」
翔太「……え?」
冬馬「……マジで感謝しろよお前」
北斗「……そうだぞ」
翔太「え、え……うん? 翔真さんありがとう……?」
翔真「ほんと感謝してちょうだいよ」
翔太「え、待って……でも……あれ?」
冬馬「……あー、あとだな。お前実はさっきまで息も止まっててだな……」
北斗「ああ。本当に危なかったんだぞ……」
翔太「……そ、そうなんだ。へえ……」
冬馬「だからだな。そのー……あれだ。えっと……やむを得ず人工呼吸をだな……?」
北斗「う、うん……人命救助のためには一刻を争う事態だったからね……」
翔太「…………え?」
翔太「人工、呼吸……?」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「……」
翔太「待って。待って待って待って待って待って待って」
冬馬「……仕方なかったんだ」
北斗「……緊急事態だったんだ」
翔太「いや、ちょっと待って。ほんとに待とう。ここは一旦時間を置こう。考えを整理する時間が欲しい」
冬馬「……そもそも泳ぐなっつったのに泳いだお前が悪いんだぞ?」
北斗「うん。翔太がちゃんと冬馬の忠告さえ聞いていれば……」
翔太「だから待って。待て。問題はそこじゃない。問題の本質はそこじゃないよね?
一番は誰がそれをしたかってことだよね?」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「僕を助けてくれたのは翔真さん……ということは……まさか……僕に人工呼吸したのって……」
冬馬「……」
北斗「……」
翔真「ん? なあに、その顔。なんか文句でもある?」
翔太「そんな……じゃあ……」ガクガクガクガクッ…
桜庭「そう、僕だ」
翔太「最悪だよっ!!!!」
翔太「すべての可能性の中でもっとも最悪なパターンだよ!! なんで!? どうしてこうなったの!?」
翔太「この人だったらまだ翔真さんにされてた方がマシだったよ!!
いや、翔真さんも大概嫌だよ!? っていうかここにいるメンツ全員嫌だよ!?」
翔太「ふんどしマッチョにブーメランパンツマッチョにオネエに中年にアホ毛に白鳥とかロクな選択肢ないよ!? ないけども!! ないけれども!!」
翔太「それでもその最後の一線だけは越えたくなかった!! それだけは避けたかった!!」
翔太「確かにさっきから視界の端に不吉なメガネがチラチラ映ってるような気はしてたよ!! してたけど!!
でもきっと気のせいだって思ってた!! 思いたかった!! うわああああああっっ!!!!」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「この状況で笑うとかほんとド畜生だなお前ら!!!!」
北斗「だ、だから口調崩れてるって翔太……っふ」
冬馬「い、命の恩人なんだからそこは素直に感謝しとけよ翔太……っく、ふふっ」
翔太「いっそそのまま死にたかったよ僕は!!」
バチーンッ!
北斗「あぐぁっ!?」
バチーンッ!
冬馬「はうあっ!!」
翔太「なんで……なんでなの……そもそも英雄さんに捕まったはずなのになんでこの人がここにいるの……」
桜庭「君への愛さえあればそんな壁などいくらでも余裕でブチ壊してみせる」
翔太「僕が聞いてるのは脱獄した手段であって動機じゃないんですけど!?」
桜庭「ふん、それこそ元医者の頭脳を舐めないでもらおうか。
この僕の手にかかれば日本警察程度の手ぬるい監視力まるで相手にならないということだ」クイッ
翔太「この高学歴の無駄遣いがッ!!」
冬馬「まーまー、そのくらいにしとけって。実際この人すっげえ全力で駆けつけて真剣に対処してくれたんだぞ?
マジで桜庭さんいなかったら死んでたかもしれねえレベルにヤバかったんだからな?」
北斗「うん。ついさっきまで疑いかけてたけど流石に本当に医師免許持ってるだけのことはあると思ったよ。的確で素早い処置だった」
翔太「聞きたくない、そんな具体的な救助描写聞きたくないよ……」
翔真「……アンタねえ、いつまでもそんな幼稚な駄々こねてないでまずはお礼くらい言いなさいって。
元はと言えば調子に乗って泳ぎ回った自分のせいでしょ?
素直に人に頭を下げられない奴ってのは結局ずっと半人前だよ?」
黒井「それは言えているな。上を目指す者ならば例え屈辱であっても時には他人に頭を下げねばならん時もある。大人になれ翔太」
翔太「大元を辿れば僕は完全なる被害者だからね!? あと黒ちゃんにだけは言われたくない!!」
冬馬「いいからとりあえず礼だけは言っとけって。命が儲かったんだから今日やられた分はそれで全部チャラだろ」
翔太「やだ!! 絶対やだ!! 僕、この人にだけは絶対お礼なんて言わない!! 言わないからね!!」プイッ
翔真「……頑固なボウヤだこと」
北斗「まあ翔太の言い分も分かるけど……」
桜庭「いや、そんなものはいらない。医者が人を助けるのはごく当然の行為であってそこに見返りを求めてはお終いだからな。
むしろ感謝されるためにやったなどと思われる方がこちらとしては余程心外だ」
翔太「……えっ?」
桜庭「一人の尊い命が救われた。ただその事実さえあれば僕はそれで満足だ。……御手洗君、君が無事で本当に良かった」ポンッ
翔太「…………」
冬馬「……おお、やべえ。今のは本気でちょっとかっこよかったぞ」
北斗「そうだね。まあだったらなんで医者やめたんだっていうツッコミどころはあるけど」
翔真「やだ、いい男……アタシ狙っちゃおうかしら」キュンッ
黒井(……よしっ! これで私はターゲットから外れた!)グッ!
道流(ふんどし)「……」
信玄(ブーメランパンツ)「……」
桜庭「それに何度も言っているが今日の僕の君に対する言動はすべて企画上のキャラ作りに過ぎないからな。
僕は男子中学生に欲情するような変態ではない。普通に女性が好きだ」
翔太「……全っ然信用出来ないけど」
桜庭「本当だ。何故なら僕の理想の女性像は姉だからな。
性別にしろ属性にしろ君とはまったく似ても似つかない存在だろう?」
翔太「それはそれで気持ち悪いし……」
翔真「……チッ、なんだノンケか。つまんないわねェ。やっぱりアタシには社長さんの方が……」チラッ
黒井「!?」
桜庭「とにかく僕は弟キャラや妹キャラには興味はない。姉萌えタイプの人間だ。君と同じでな」
翔太「いや、確かに僕も姉さんとは仲良いけどこっちは別に恋愛対象として見てるわけじゃないから。一緒にしないでくれる?」
桜庭「大体、昨今の妹ばかりをもてはやす風潮はどこかおかしいと思わないか?
そんなものより姉という成熟した年上の魅力と包容力を合わせ持った存在の方がずっと高尚だろう?
あねどきっが打ち切られるようなこんな世の中間違っていると君もそう感じないか?」
翔太「いや別に……僕はどっちかっていうと初恋限定派だし……」
桜庭「御手洗君」
翔太「……なに」
桜庭「もう一度改めて言おう。君が無事で本当によかった。
姉に続いて姉派同志である君まで失ってしまったら僕はさらに心底後悔していたところだ」
翔太「だから勝手に仲間意識持つのやめてくれないかなあ」
桜庭「君は今やんちゃな年頃だ、むやみにはしゃぎ回りたくなる気持ちも分かる。
だが君がいなくなって本当に悲しむのは君の周りの家族やファン達の方なんだ」
翔太「……」
桜庭「あまり無茶をして周囲の人間に心配をかけるような真似だけはやめて欲しい。そこだけは肝に銘じておいてくれ」
翔太「……」
翔太「………そうだね。うん。あの、薫さん。今日は僕、薫さんに酷いこといっぱい言っちゃってごめんなさい。
まあ僕の方も散々酷いことはされたけど……それに関してはもうこの際水に流すよ」
桜庭「君の名字のように?」
翔太「ほんと黙ってて」
桜庭「……」
翔太「……」
桜庭「……」
翔太「その……た、助けてくれてありが……」
桜庭「御手洗君」
翔太「……」
桜庭「宣言通り君の唇のチェリー……ジャックさせてもらったぞ?」グッ!
翔太「」
冬馬「あ、死んだ」
・
・
・
――315プロ事務所前
山村「さあ皆さん、とうとうぼくたちのホームに帰ってきましたよ!」
冬馬「はあ……ついにここまで戻ってこれたか。何もかも皆懐かしい……」
北斗「たかが風呂入るだけで長かったね……。
あと帰り際、黒井社長が秘書さんに首輪とリード付けられて無理矢理引きずられていったような気もするけどあれは多分ただの幻覚だよね」
冬馬「ああ、幻覚だ。だから気にするな」
翔太「………………」
北斗「……それと翔太がさっきからもはや一言も発してないんだけど」
冬馬「……翔太、これでやっと晩メシ食えるから。頑張れ。な?」
翔太「………………」
――事務所内
山村「皆さん今日は1日本当にお疲れ様でした。はい、それではこれがお待ちかねのみんなの夕食のお弁当ですよ! どうぞ!」コトッ
冬馬「……これは……」
翔太「……」
北斗「……」
事務机の前に並んで座らされた3人の前に待ちに待った夕食が置かれる。
ただし各人に用意されたその弁当箱は明らかにそれぞれのレベルに格差のあるものだった。
・冬馬の弁当……ごく一般的な1段の弁当箱
・翔太の弁当……3段重ねの豪華な重箱
・北斗の弁当……ごく一般的な2段の弁当箱
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「……ねえ、これって……」
冬馬「……よかったな翔太! ほら、お前のやつが一番デカいぞ! 一番いっぱい入ってるぞ!」
北斗「う、うん。しかも黒塗りのお重に金の蒔絵なんて随分と渋いじゃないか! やったな翔太!」
翔太「でもこういうのってさ。大抵一番豪華っぽいやつがハズレのパターンだよね?」
冬馬「…………」
北斗「…………」
翔太「つまりそのお約束に則って考えると僕のが一番ハズ……」
北斗「い、いや! そうとも限らないさ! そう見せかけて実は普通に中身も豪華っていうフェイントをかけてきてるかもしれないし!」
冬馬「そ、そうそう! しかも3段もあるんだぜ! 他がダメでも1段くらいは絶対まともなのもあるって!
もしハズレだったら俺のと交換してやるし!」
翔太「……」
北斗「……とりあえず中を見てみようよ翔太。具体的なことはそれから考えよう」
翔太「………分かった。じゃあ開けるよ?」パカッ
警戒しつつも一番上の蓋を開ける。完全に諦めきった表情で恐る恐る中を覗き込んだ翔太は、しかし次の瞬間パッと顔を輝かせた。
翔太「わあ、チラシ寿司だ!!」
予想に反して入っていたのは本当に豪華なメニューだった。
ツヤツヤと輝く錦糸卵、色鮮やかなサヤエンドウとイクラ、レンコンにエビにきゅうりにマグロ。
とにかく彩り豊かな海鮮や野菜が散りばめられた紛うことなき立派な献立である。
翔太「2段目はなんだろー!?」パカッ
翔太「……うわ、カニだ! カニ入ってる! なんだろこれ、タラバガニ? タラバガニかな? すごい! あ、ウニも!?」
翔太「あっ、しかも3段目はフルーツの盛り合わせだ! メロンまであるよ!
わあい、僕メロン大好き!! どれもすっごく美味しそう!!」キラキラ
冬馬「……おお! よかったな翔太!」
北斗「本当によかったね翔太!」
翔太「うんっ!!」
まさかの大逆転ホームラン。ついさっきまで底の底までダダ下がりだった翔太のテンションもここに来て爆上げである。
念のため箸でそれらを触ってみるが、実は食品サンプルだったというようなオチもない。
翔太「うわあ……」ワクワク
冬馬「お前さっきから溺れかけたりして相当腹減ってるだろ。先に食べ始めてていいぞ」
翔太「……え、いいの?」
北斗「そうだね。せっかくの豪華な弁当なんだから」
翔太「わーい、やった! じゃあさっそくいっただきまー……」
山村「あ、待って下さい。その前にその料理を作って下さった方の映像がありますのでそちらを見てからにしましょう」
翔太「……はい?」ピタッ
山村「翔太くんは典型的なゆとりの見本みたいな人ですからね。
毎日の食事の用意にかかる手間がいかに大変かなんてこと全然分かってないでしょう?」
翔太「……別にそんなことないけど」
山村「なら聞きますけど翔太くんはキャラ作りで履歴書の趣味の欄と座右の銘の欄にあざとく親孝行とか書いてますが、実際普段からお母さんのお手伝いとかしてるんですか?」
翔太「…………」
山村「ほらね」
翔太「いや……でも僕は仕事してるし……ちゃんとこの仕事で稼いだお金家に入れてるし……」
山村「そんな風に仕事だけしてればいいと思って家庭を省みないような男は仮に将来結婚したとしても間違いなく奥さんに愛想を尽かされますよ?」
翔太「なんか賢君って僕に対してだけやたらと塩対応じゃない?」
山村「というわけで食事を用意している様子を実際に収めたものがこちらにありますので、これを見て日頃の自分の行いを反省しましょう!」
翔太「だから聞いて……待って。いや、いやいやいや。だからちょっと待っ……」
翔太の言葉など無視して山村はさっさとDVDを挿入するとリモコンで操作する。
すぐにテレビ画面に映像が映し出され、にわかにアップで現れた人物はこの場にいる全員がよく見知った顔だった。
やよい『うっうー! ジュピターの皆さんこんにちはー! あっ違った、こんばんは!』
翔太「……やよいちゃん?」
カメラに向かって彼女が勢い良く両手を振り上げるとチャームポイントであるツインテールが揺れる。
765プロの元気印、高槻やよいの姿がそこにあった。
やよい『高槻やよいのお料理さしすせそ特別編! 今日は315プロさんの企画用に翔太くんのお弁当を作るということだそうです!』
冬馬「へえ……つまりこの弁当は高槻が作ってるのか」
北斗「やよいちゃんかあ。なるほど、だったらこんなに美味しそうなのも納得だね」
翔太「……」
やよい『はいっ、ではさっそく料理の方に取りかかっていきましょー! まず最初の材料はこちらのカニさんですよー!』
冬馬「本当によかったじゃねえか翔太。あいつだったらまずわさび大量に入れてきたりするような真似はしないだろ」
北斗「そうだね。彼女なら食べ物を粗末にするようなことは絶対しないはずだ」
翔太「……そ、そうかな。そうだよね。大丈夫だよね……?」
やよい『わあ~、タ、タラバガニなんて私初めて見ました……はわっ、しかもまだ生きてます!』
カニ『……』ガサガサッ…
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
やよい『……すごいなあ。これってもやし何袋分くらいの値段なんだろう……えへへ、私たちの1ヶ月分の生活費くらいかな?』
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
やよい『それからこっちのメロンもあみあみ模様が入っててすっごくキレイですー!
桐箱に入ってるメロンなんて現実に存在するんですね!』
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
やよい『なになに……へえ、産地直送……最高等級……厳選に厳選を重ねた幻の一品……へえ……。
はっ! ご、ごめんなさい、つい見とれちゃってました! じゃあすぐに調理に入っていきますね!』ジュルッ
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
やよい『でもこんな高級な食材なんて使うの初めてだから緊張しちゃうかも。えっと、えっと、最初は……』
長介『……なあ、姉ちゃん』
やよい『よしっ、じゃあまずはカニさんをお鍋で茹でていきますよー! たっぷりのお湯を沸かしてお塩を……』
長介『姉ちゃんっ!!』
やよい『……ちょっと長介! 今お料理してるところでしょ! 邪魔しないの!』ヒソヒソ
長介『だってただでさえ家計ギリギリなのに他人のメシまで用意してる余裕なんて家には……!』ヒソヒソ
やよい『で、でももう材料費ももらっちゃってるし……』ヒソヒソ
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
長介『そんなもんこっそりくすねちまえよ! これだけあれば一体もやし何袋買えると思ってるんだよ!?』
やよい『こら、長介! なんてこと言うの! そんなことしていいわけないでしょ!?』
長介『だって姉ちゃん前に言ってたじゃんか! いつかあみあみのメロンが食べてみたいって!
いっぱい働いて10年後、20年後でもいい……いつか本物のメロンを食べるのが姉ちゃんの夢なんだって……なのに……!』
やよい『長介……』
長介『なのに……っ!』ギリッ…
やよい『……長介。もういいから。ありがとうね。大丈夫、これからまたお姉ちゃんいっぱい働いてお金貯めるから』ギュッ
長介『……姉ちゃん……』
やよい『だから……だからいつかは本当に家族揃って全員で本物のあみあみメロンが食べられるよ。それまで待ってて? ね?』
長介『……姉ちゃんっ!!』
やよい『ぐすっ、ほら泣かないの……ふふっ。
さーて、それじゃあいよいよ作っていきますよーっ! 楽しみにしてて下さいねーっ!』
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
山村「以上です」ピッ
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「いや、食べ辛いよッ!!!!」ダンッ!
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「なにコレ!? 胸が痛い! 今すごく張り裂けそう! かつてないほどのとてつもない罪悪感で胸が押し潰されそうなんだけど!?」
冬馬「こ、これはひどい……」プルプルッ…
北斗「やばい、リアルに涙出てきた……」ジワッ…
翔太「……えっ、まさかこの状況で本当に食べろと!? 平然とこれを僕に食せと!?」
冬馬「そ、そうだな。せっかく高槻の奴が一生懸命作ってくれたんだ。ありがたく食えって……」
北斗「そ、そうだね。しっかり噛み締めて食べよう翔太……」
翔太「いや、無理でしょ!? 僕どんな鬼畜なの!?
やよいちゃん家が貧相に20円のもやし食べてる時に自分だけこの豪華弁当平らげるとかとんだクズだよ!? クソ野郎だよ!?」
バチーンッ!
冬馬「どわあああっ!?」
バチーンッ!
北斗「ぬああああっ!?」
翔太「ムリムリムリムリムリ! 流石に無理! これは食べられない! 食べられないって!!」
冬馬「っふ……い、いいだろ別に。お前は元から大概鬼畜なんだから今さら畜生度が1上がったところで誤差の範囲内だ」
翔太「冬馬君はどんだけ僕のこと腹黒だと思ってるの!? こっちにだって人の心くらいはあるからね!?」
北斗「でもこれで残したりしたらそれこそ罰当たりだぞ。最後まで味わって完食することがせめてもの彼女達へのはなむけだ」
翔太「やよいちゃん達が飢え死にしたみたいな言い方やめてくれる!?」
冬馬「大丈夫だって。これもただの演出だろ?
今はもう稼いでんだからあいつらだって実際はそこそこ良いもん食ってるだろ」
翔太「うう……はっ、そうだ交換! 冬馬君、僕のと交換してくれるって言ったよね!?」
冬馬「いやいやダメだろ。俺はハズレだったら交換するっつったんだぞ?
お前はせっかく高槻が丹精込めて作ってくれた弁当をハズレ扱いする気か?」
翔太「ぐぬっ! 冬馬君のくせになんという詭弁を……!」
北斗「それに彼女の手作り弁当が食べられるなんてファンの人達からしたら垂涎ものだしね。レアだぞレア」
翔太「そんな無駄に恨み買うような真似したくない……なんなの……僕が何をしたっていうの……むしろやよいちゃんたちが何をしたっていうの……」
冬馬「まあとにかく食えよ。弁当そのものが大当たりなのは事実なんだからよ」
翔太「ぐ、ぐうう……ならせめて飲み物、飲み物はないの……?」
山村「あ、すいません忘れてました。はいどうぞ」コトッ
翔太「ああ、あるんだ。よかっ………待って、ラベルに思いっきりラバ茶って書いてあるんだけど」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「……」
冬馬「ラバ茶……」
北斗「ラバ茶……」
バチーンッ!
冬馬・北斗「がふぁっ!?」
翔太「……」クルッ
翔太「……“原材料名:桜庭(国産)”」ボソッ
冬馬「っ!」ピクッ!
北斗「っ!」ピクッ!
翔太「“桜庭農家で採れた天然の桜庭のみを100%使用した濃厚な味わいのお茶です。
薫り高い薫の本格的な深い渋みとコクをご堪能いただけます”」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「“※稀に薫の成分が底に沈殿している場合がありますが品質には何ら問題はありません。よく振ってからお飲み下さい”」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「ふーん、なるほどね。そう来るんだ。へー。はっはーん」
冬馬「……」プルプル…
北斗「……」プルプル…
翔太「……」
翔太「……」カパッ ゴクゴクッ
冬馬・北斗「!?」
冬馬「………躊躇わずに飲んだ!?」
北斗「一体どうしてしまったんだ翔太!?」
翔太「……うぇっ、生臭っ!?」ビチャッ!
冬馬・北斗「オホォッwwwww」
デデーン 冬馬、北斗、アウトー
翔太「なにこれ、臭っ! 生臭っ!
なんか部屋干しした生乾きの洗濯物にカツオのタタキ合わせたみたいな味する! まずっ!」
冬馬「どんな味だよ……」
翔太「こっちが聞きたいよ!」
北斗「なぜそんなものを無警戒に飲んだりしたんだ……」
翔太「中身は普通のお茶ってパターンかと思って……」
バチーンッ!
冬馬「ぐぬあっ!」
バチーンッ!
北斗「ほげえっ!?」
翔太「おえ……ああもう口の中気持ち悪いし……」ウェップ
冬馬「……ちょっとそれ俺にも一口寄越せよ」
翔太「ええ? 飲むの? 別にいいけど……はい」
冬馬「おう……」ゴクッ
冬馬「……うぇっ、臭っ! 生臭っ!?
なんだこれ、なんか部屋干しした生乾きの洗濯物にカツオのタタキ合わせたみたいな味する! まずっ!」ビチャッ!
北斗「だからどんな味だ……」
冬馬「こっちが聞きてえよ! マジでうちの翔太に一体何飲ませやがったあの野郎!?」
翔太「考えたくないからやめて……」
山村「あのー、いいから遊んでないで早く冬馬くん達もお弁当開けちゃってくれませんか?
こっちもあなた達にばかり構ってられるほど暇じゃないんですけど」
冬馬「こ、こいつ……!」ビキッ
北斗「まあまあまあ……」
翔太「……確かにムカつくけど賢君の言うことももっともではあるよ。
僕が言うのもなんだけどもういいから余計な寄り道してないでさっさと済ませちゃおう?」
冬馬「……それもそうか。じゃ、じゃあ開けるぞ? ほんとに開けるからな?」ソワソワ
北斗「いいから早くしろ」
冬馬「……行くぞ」パカッ
冬馬「……ああ……」
翔太「なんだった?」
冬馬「……カレーだ……」
翔太「……」
北斗「……」
冬馬「……」
全員セーフ――
冬馬「………えっ?」
冬馬「えっ、えっ? これだけ? まさか俺の本気でこれだけか? 俺のくだりこれで終わり!?」
翔太「……なんか仕込みとかないの? 味は?」
冬馬「……」パクッ
冬馬「……ほんとに普通のカレーだ……」モグモグ…
北斗「……」
翔太「……」
冬馬「……あっ!」
北斗「なんだ?」
冬馬「カレーにカレイ入ってる」
翔太「うっわ……」
北斗「……」
冬馬「……え?」
翔太「……はーあ。これだから冬馬君は」チッ
北斗「お前……いい加減にしろよ」
冬馬「いやっ……えっ? 待て、これ俺が悪いのか!? 俺か!? えっ?」
翔太「まあ最初から冬馬君に期待するだけ無駄だったね。しょせん冬馬君なんてこんなもんでしょ」
北斗「カレーにカレイってお前……今日日幼稚園児でもそんな程度の低いダジャレ言わないぞ……」
冬馬「だからなんで俺が滑ったみたいになってんだよ!? おかしいだろ!?
っつかこれ絶対考えたの天道さんだろ! ふざけんなよ!」
翔太「あーもういいから。冬馬君はもう黙って1人でそのカレー食べてなよ。
ほら、よかったじゃん。冬馬君の大好きなカレーだよカレー」
北斗「よかったな。冬馬のカレーだぞ冬馬のカレー」
冬馬「だからカレーカレー連呼すんなよぉ!!」グスッ
翔太「よし、じゃああっちのなんか茶色い人のことなんか忘れてちゃっちゃとラスト行っちゃおう。北斗君のお弁当は何かな何かなー?」ワクワク
北斗「そうだね。俺ももうすっかり腹ペコだよ。さあ、俺の弁当はなんだろう?」パカッ
冬馬「無視すんなよぉ!!」
涙目の冬馬を完璧にスルーして北斗は自分の弁当に手をかける。
上下2段の弁当箱、まずはその一番上の蓋を開けた。
翔太「何が入ってた?」
北斗「えっと……ただのごはんが敷き詰められてる」
そこにあったのは日の丸ですらない本当に何の変哲もない白ごはん。
何かが混ぜ込んであるわけでも、ふりかけがかかっているわけでもない。
ただただ一面真っ白の味気ない白メシである。
北斗「……」
翔太「あちゃー、残念。北斗君のもハズレだったみたいだね」
冬馬「うわっ、ざっまあ! ほれ見ろ、お前のだって俺のと大差ねえじゃねえか! ははははは、ざまあみろバーカ!」
デデーン 冬馬アウトー
冬馬「……あっ!?」
翔太「冬馬君って本当愛すべき馬鹿だよね」
北斗「天然記念物に指定したいレベルだな」
バチーンッ!
冬馬「ごがあっ!?」
北斗「……しかし実際問題、これだけなのはちょっとキツいな」
翔太「でもまだ2段目があるよ。オカズはそっちに入ってるんじゃない?」
北斗「うん、そうだな。とにかく開けてみよう」パカッ
冬馬「ふんっ、どうせそっちもただの白メシみたいなオチだろ! ざまあみやがれ、バーカバーカ!」
翔太「冬馬君うるさい」
冬馬の小学生並みの捨て台詞を聞き流して北斗はさっさと2段目の蓋も開ける。
翔太レベルとまではいかなくともここは真っ当な内容を期待したいところだったが……。
北斗「これは……水嶋君と神楽君と秋月君のブロマイド?」ヒョイッ
中に入っていたのは食べ物ですらなく水嶋咲、神楽麗、そして秋月涼の写真だった。
ちなみにいずれもカメラ目線にやや上目遣いで僅かに頬を染め微笑んでいるものばかりである。
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「え? え? なに? これは一体どういうこと?」
翔太「……えーっと」
冬馬「まあ……つまりアレだろ? 要はこれをオカズにしろってことだろ?」
北斗「オカズって……」
冬馬「オカズだ」
北斗「オカズ……」
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「……」
木星「フフフッ……」
デデーン 全員アウトー
翔太「あのさぁ……」
北斗「……本当にこれを俺にどうしろって言うんだ……」
冬馬「よかったな北斗。古今東西、豊富なオカズが選り取り見取りじゃねえか」ポンッ
北斗「だから俺には男の娘属性とかないから……」
バチーンッ!
北斗「おぐぅっ!?」
バチーンッ!
翔太「ほああっ!?」
バチーンッ!
冬馬「ぶあああっ!?」
北斗「ああ、痛い……」ジンジン…
冬馬「……まあでもこれでやっと落ち着いてメシが食えるな」
山村「そうですね。中身の確認も終わったことですし、それではみんなどうぞちゃんと席に付いてから遠慮なく食べて下さい」
翔太「あーもう食べたくない……」ガタンッ
冬馬「高槻のファンとお百姓さんに殺されるぞお前」ガタンッ
北斗「だからこのブロマイド……」ガタンッ
バターンッ!!
765P「すみません!! 誰か俺のオカズを知りませんか!? ブロマイドなんですけど!!
いつの間にか失くしてしまったんです!! 特に神楽君のやつがお気に入りで……!!」
デデーン 全員アウトー
765P「……ん? あっ! 俺のオカズ! こんなところにあったのか!
そうか、北斗が拾ってくれたんだな! ありがとう!!」
北斗「拾ってないですし俺はこれをオカズとは認識してません」
765P「それにしてもそうかあ、北斗も俺と同じ深い業を持つ男だったのかあ。ははっ、仲間だな!」
北斗「だから俺はそんなカルマ背負ってないですし今後背負う予定もないです」
765P「世間の荒波はこっちの世界に厳しいけどお互い負けずに頑張ろうな! 非実在青少年とかクソだよな!」
北斗「実在してるんだよなあ」
翔太「この人ほんとアウトでしょ」
冬馬「どんだけ雑食だよこいつ」
バチーンッ!
北斗「どああっ!?」
バチーンッ!
冬馬「ぐぅっ!?」
バチーンッ!
翔太「ぴぃ!?」
765P「おいおい何言ってるんだ。俺ほどのグルメな男なんてそうそういないぞ?
ちなみに俺の将来の夢はおちんちんランドと水龍敬ランドを同時に開園することだ」
冬馬「もう人間やめろよあんた」
765P「まあこの趣味がお前みたいな凡夫には到底理解の及ばない高尚な嗜好であることは認めるよ。
だが俺は決して諦めない。いつか必、ず……ッ!?」ゾクッ
冬馬「……ッ!?」ゾクッ
最後まで765Pが言い切らない内に言葉が途切れる。瞬間、冬馬達に鋭い悪寒が走った。
まるで災いが降りかかる前兆かのようにザワザワと背筋が凍りつく感覚がその場を支配する。
冬馬「な……なんだ!? 一体何が起こってるんだ!?」キョロキョロ
翔太「なに? なんなの!? このとてつもなく巨大なプレッシャー……怖い……!」ブルッ…
北斗「なにか………来る!!」
バッ、と全員が一斉に後ろを振り返る。
キィィ…と扉が僅かに開き、どこまでも暗いその深淵の向こうから“なにか”は現れた。
律子「………………」
765P「………………」
律子「 見 ぃ つ け た ♪ 」
765P「Oh……」
律子「だらっしゃあああああああッッ!!!!」ズドドドッ!
間髪入れず渾身のラリアットが765Pに向かって炸裂する。
765P「………ふんっ!!」バッ!
律子「なっ……!?」スカッ
冬馬「……今の一撃を避けた!?」
北斗「なんという反応速度の速さだ……!」
765P「ふっ、甘いな律子。既にお前の動きは見切った」
律子「そ、そんなはず……! なんで!?」
765P「そうだな。強いて言うなら先ほどの謝罪会見時……お前はあまりに俺に手の内を見せ過ぎたんだ」
律子「……」
765P「お前に執拗にサブミッションをかけられ続けている間、ただ俺が思考停止して悶えているだけだとでも思ったのか?」
律子「……」ギリッ…
765P「お前の技、スピード、癖、リーチの長さ……すべて把握した。悪いがもうそちらに勝ち目はない」
律子「……なぜ……何故そこまでしてあなたは働きたくないんですか? そんなに仕事が嫌なんですか?」
765P「いいや、それは違う。俺は本気で765のみんなを一流のトップアイドルにしたいと思っている。
そのためなら例え過労死したって構わない。その気持ちに嘘はない」
律子「ならどうして……」
765P「俺はな。ただ無茶がしたいだけなんだよ」
律子「……」
765P「常に法とセクシャリティのギリギリの場所で無茶をし続けてこそ生の……いや、性の実感は得られる。
ただ安穏と毎日与えられた仕事をこなし、世間の歯車になっているだけの人間では決して得られない最高の快感だ」
律子「……」
765P「俺はそんな社会的に生きるか死ぬかの戦いの中にしか自分を見つけられない大馬鹿野郎なのさ」
律子「……本当に……馬鹿ですねあなたは……」
765P「すまない。……さて」バサッ
765Pは着ていたスーツの上着を脱ぎ捨てると胸元のネクタイを緩める。
それから腰を落として構えを取るとクイクイとその指先で律子を挑発した。
765P「お前に恨みはないが俺の覇道を邪魔する者に容赦は出来ない。
ここらでハッキリと白黒をつけようじゃないか。来い……律子」ザッ
律子「……いいでしょう。ならばこちらも礼を尽くし、全力をもってお相手させていただきます」ザッ
翔太「……」ゴクリ
北斗「この闘い……一体どちらに軍配が挙がるんだ……?」
冬馬「頼む……勝ってくれ秋月……!」
765P「……りぃぃぃぃつこぉぉぉぉおおお!!!!!!」
律子「プロデューサァァァああああああ!!!!!」
踏み込みはほぼ同時。
瞬きする間もなく鼻先まで肉薄し、固く握り締めた互いの拳が熱い火花を散らそうとしたまさにその瞬間―――しかし律子は寸前で身を引いた。
765P「……なにっ!? フェイントだと!?」
律子「ふふっ、甘いのはそちらの方でしたね!」キュッ!
すんでのところで右足で踏みとどまった律子はそのまますかさず身を屈める。
軸足を中心に腰にひねりを加え、思いきり腕を振り抜いたばかりでガラ空きな765Pのその脇腹へ一気に掌底を叩き込んだ。
律子「もらったぁーーー!!」ボッ!
765P「だからお前は甘いんだ律子ッ!!」スルッ
律子「!?」
だが、765Pは崩れた体勢のまま倒れ込むように自らの身体を反転させそれを回避する。
765P「俺はッ! 絶対にッ! 諦めないッッ! 俺だけの楽園(エデン)を築き上げるその日まで……!」
律子「くっ!」
765P「心苦しいがお前には少しの間眠っていてもらおうか!
俺にはこれからこの神楽君のブロマイドを使ってわぁい!する使命があるからな……!」
思わぬ事態にバランスを崩し、ガクッと床に膝をついてしまった律子はその隙に765Pに死角である背後に回られてしまう。
途端に形勢が逆転し、さらに容赦のない手刀がすぐさま彼女の細い首筋めがけて振り落とされた。
765P「ここまでだ律子ッ!」シュッ!
律子「……ナメんなぁぁああああっっ!!」ブンッ!
765P「どわあっ!?」ヨロッ
しかし律子も負けてはいない。
素早く床に手を付いてバネの要領で跪いた姿勢から下半身をねじって翻らせると765Pに勢いよく足払いをかけた。
律子「ふっ!」ゴロンッ
そしてそれに気を取られて彼が僅かによろけた合間に前転で床を転がり再び間合いを取る。
律子「はあ……はあ……」
765P「……逃がしたか。やるな律子」
律子「そちらこそ……」
翔太「すごい……このお兄さん……闘いの中で確実に成長していってる……!」
冬馬「ああ……そして人間的には確実に退化していってるぞ……!」
北斗「男の娘に対する執念が一人の男をここまで変えるというのか……!!」
律子「……はあああああああっ!!」ダンッ!
765P「うおおおおおおおおっ!!」ダンッ!
再度の激突。もはや2人のハイレベルな攻防は常人の目には何が行われているのかさえ判別がつかない。
それでもどうやら次第に765Pの方が押してきているということだけは見て取れた。
765P「はははははっ! どうした律子!? さっきから防戦一方じゃないか!」バババババッ!
律子「このっ……ちょこまかと……!」ゼェハァ
765P「ほらほら、どうしたどうした? 来ないのか?
見事俺を捕まえられたらご褒美にそのまま抱き締めてやるぞぉーう!? イヤホォーーーウ!!」カクカクカクッ
律子「ぐっ! なんて卑猥な動きを……!」
完全に調子に乗った765Pは両腕を頭の後ろで組み、ガニ股で腰を前後に振って律子に余裕を見せつける。
765P「本当にそっちからは来ない気か? ならこっちから行くぞ? いいのか? いいのか!?」カクカクカクカクッ!
律子「う、ううっ……!」タジッ…
そのあまりに下品極まりない仕草にはさしもの律子も顔を赤らめ後ずさるしかない。
765P「はははははっ、765の鬼軍曹と呼ばれるお前も実際はおぼこいものだな!
この程度で目を背けるなど初いものよのう! 可愛い奴め!」ザッザッザッ
律子「ぐ、ぐぬぬ……この変態がっ……!」
戸惑いその場を動けずにいる律子の眼前に着々と変態が迫る。
765P「さあ、お遊びはここまでだ。俺は今から至高のディナータイムを……」ザッ!
律子「……あれ?」
だがしかしその時、律子はふとあることに気が付いた。
律子「ねえ、プロデューサー殿。ところでなんかさっきから社会の窓開いてません?」
765P「え、マジで? どれどれ……」ヒョイッ
律子「えい」ゲシッ!
765P「ほあああああっ!?」キーン!
冬馬「!」
翔太「!」
北斗「!」
765P「……あがっ!? ごあっ、がああああああっっ!?」ゴロンゴロンゴロンッ
冬馬「こ……この女ッ! 油断させてからなんの躊躇も良心の呵責もなくいきなり金的しやがっただと……!?」
翔太「男同士の喧嘩では互いに言葉を交わさずとも暗黙の了解で不可侵が守られている禁断の領域をこんなにもあっさりと犯すなんて……!」
北斗「バトル漫画における不文律が今……破られた……!」
冬馬「えげつねえ、えげつねえよ……!!」
765P「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? ふぉっ、ほああああああっっ!!??」ビッタンビッタン!
いともたやすく行われたえげつないその行為に765Pはもはや己の敗北を悟る余裕もなくただただ地に這いつくばり悶絶するしかない。
無様に呻き声をあげながらゴロゴロと床を転げ回る彼の耳元にカツカツと余命を告げるヒールの高い音が近付いた。
律子「……プロデューサー殿」カツカツカツ…
765P「り、つこ……お前……」プルプルプルッ
律子「―――さあ、本当のお仕置きタイムはここからですよ?」ニコッ
765P「……」
―――その先に冬馬達が見たものについてはここでは詳しく描写しない。
目を背けたくなるほどにあまりにも凄惨な光景だったからだ。
ただひとつだけ確かに言えるのはそこにいたのはまさしく修羅であったということ。
そしてその修羅と化した何者かによる特に意味のない暴力が765Pの全てを嬲り、いたぶり、蹂躙し尽くした後――
唯一その場に残されたものは、もはや原型を留めないほどに惨たらしい肉の塊と化した何かであったということだけだ。
肉塊「……」チーン
律子「ふー。あースッキリした♪ ほんとお騒がせして悪かったわね、じゃあお邪魔しました~。
あ、そこにあるそれは適当に燃えないゴミの日にでも出しといちゃって下さい」スタスタスタ バタンッ
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「……」
冬馬「プロデューサー、人間やめたってよ」
・
・
・
山村「それでは皆さんこれで食事は済みましたね」
翔太「なんとか頑張って完食したよ……」ウプ
冬馬「えらいえらい」
北斗「ちょっとキツかったけど俺もなんとか……あ」ガラッ
冬馬「なんだ?」
北斗「今引き出し開けてみたらのりたま入ってた……」
デデーン 冬馬アウトー
北斗「……今の笑うとこあったか?」
冬馬「い、今更気付いてんじゃねーよ!」
バチーンッ!
冬馬「くぎゅっ!」
山村「ああ、そうそう。ぼくはこれからまたしばらく退席しますが
引き出しの中にいろいろみんなの退屈しのぎになるようなものを用意しましたのでその間よろしければそれらで遊んでいて下さい」
冬馬「……うわ、これぜってぇしょうもねえもん入ってるパターンだよ」
山村「では失礼しますね」スタスタスタ バタンッ
翔太「賢君って普段はトロいくせになんでこんな時だけ行動が迅速なの?」
北斗「っていうかこれ……なんでもっと早く気付かなかったんだろう……」
翔太「シャンプーと牛乳間違えた時といい北斗君って意外と天然だよね」
冬馬「だよな」
北斗「ええ? そんなことないと思うけど」
翔太「だって前にまた出待ちの女の子たちに囲まれてたから北斗君ってどんだけモテるの?
って聞いたら『ん? そうだね、150キロくらいまでなら持てるかな』って素で言ってたよ」
北斗「……」
冬馬「そういや俺もこの前北斗がやたら嬉しそうにニコニコしてたからなんか良いことでもあったのか?
って聞いたら『実は最近家のベランダに毎朝スズメがエサ食べに来るようになったんだ!』ってすげぇいい笑顔で言ってたわ」
北斗「……」
翔太「よく風で道端転がってるレジ袋猫と間違えて追っかけてるしね」
冬馬「あるある」
北斗「……」
翔太「前に一緒にコンビニにアイス買いに行った時なんて店員さんに『温めお願いします、あと箸は3膳で』って言ってたよ」
冬馬「それもう天然っつーか痴呆入ってね?」
北斗「……」
翔太「次の瞬間、僕と店員さんの目が思いっきり合ったからね。以心伝心してたから。
でも逆になんかそういうボケなのかなって思ってその場は何も言わずに黙ってたんだけど
事務所帰ってきてすぐ『あっ!』って叫んだ後、膝から崩れ落ちてたよ」
北斗「……」
冬馬「この間なんて俺が読んでた7巻が見つからなくて『北斗の拳どこだ?』
っつって探してたらこいつが妙に神妙な顔してるからなんだよって聞いたら
『俺の出身は京都だけど……京都は県じゃなくて府だぞ?』って可哀想な子を見る目で言ってきたぞ」
翔太「本当に可哀想なのは北斗君の頭の方だよね」
北斗「……」
冬馬「京都出身のくせに全然関西臭出してこねえしな」
翔太「荘一郎さんのキャラを見習って欲しいよね」
北斗「……」
冬馬「でも想像してみ? こいつが“そやな”とか“おおきに”とか言ってるとこ」
翔太「……うわっ、気持ち悪っ!」
北斗「よし、俺のイメージを破壊する行為はそこまでだ」
冬馬「お前のイメージ(笑)」
翔太「北斗君のイメージ(笑)」
デデーン 冬馬、翔太、アウトー
冬馬・翔太「!?」
翔太「ええええええ!?」
冬馬「今のもアウトかよぉおおお!!」
北斗「本当に可哀想な子なのはこれでどちらかハッキリしたね」
冬馬「…………」
翔太「…………」
バチーンッ!
冬馬「ひょうっ!?」
バチーンッ!
翔太「ひぎゃ!?」
冬馬「いててて……」
翔太「そろそろ僕は本気でこの事務所を訴えていい気がする……」
北斗「ところでどうする? 他の引き出し。開ける?」
冬馬「えー? っつーかさー、俺思うんだけどこういうのってさー。
結局ハナから開けなきゃいいだけじゃねえ~? 触らぬ神に祟りなしじゃねえ~?」ガラッ
翔太「と言いつつ開けてる奴~」ガラッ
北斗「その無駄な芸人根性が自らの首を絞めているんだぞ2人とも」
翔太「さあ、何が入ってるかな~」ゴソゴソ
冬馬「……あ。なあ北斗、北斗」ヒソヒソ
北斗「ん? なに?」ヒソヒソ
冬馬「俺の引き出しオナホ入ってた」ヒソヒソ
北斗「グッ…!」
デデーン 北斗アウトー
翔太「……? なんで今北斗君笑ったの?」
北斗「いや、なんでもない、なんでもないよ……」
バチーンッ!
北斗「いっだ!?」
翔太「?? 変な北斗君」
北斗「ねえ、なんで今俺にだけ言ったの? なんで俺にだけ言ったの?」ヒソヒソ
冬馬「いやなんとなく……お?」ゴソゴソ
翔太「何か入ってた?」
冬馬「……ボタンだ」カタッ
北斗「ああ……」
翔太「来たね……」
冬馬「これって多分アレだよな? 押したら強制的にアウトになるやつだよな?」
翔太「そうだろうね」
北斗「そしてそれは冬馬の引き出しの中から出てきたね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「……」
冬馬「よし、これに関しては見なかったことに……」
翔太「えい」ポチッ
冬馬「こ、この野郎……!」
北斗「自分だけ助かろうなんて甘いぞ冬馬」
冬馬「クソが!!」
ボタン『……』
シーン……
冬馬「……あれ?」
冬馬「……何も鳴らねえ」ポチポチ
翔太「えー、またこの期待外れパターン? つまんなーい、ぶーぶー!」
北斗「お前は本当にしょうもないな」
冬馬「だからなんで俺が滑ったみたいになってんだよ。まあいい、何もないに越したことは……」
ボタン『ちっぱい』ボソッ
冬馬「よう如月」
デデーン 北斗、翔太、アウトー
翔太「……なんなの!? その反応なんなの!?」
北斗「千早ちゃんだけなら耐えられたのに……!」
バチーンッ!
翔太「んあー!」
バチーンッ!
北斗「んあー!」
冬馬「なんかもういい加減慣れたわ」ポチッ
ボタン『ちっぱい』ボソッ
北斗「すごいね……」
翔太「……あ、ところで僕の引き出しからもなんか出てきたよ」ヒョイッ
冬馬「なんだ?」
翔太「んっと、またメモが入ってる。“指令”ってデカデカ書いてあるし」
冬馬「指令?」
翔太「えーとね、『ジュピターのメンバーに対する不満をぶっちゃけて下さい』だって」カサッ
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「え? これほんとに言っちゃっていいの?」
北斗「……そうだね。そう書いてあるんなら」
冬馬「え、ちょっと待てよ。お前俺らになんか不満あんの?」
翔太「まあそりゃ考えてみればいくつかはあるよね」
冬馬「ええ?」
北斗「言われてみれば俺達って今までそういう話したことなかったね。
これからも一緒に活動していく上でそういった改善点を話し合っておくのは確かに大事かもしれないな」
冬馬「なんか怖ぇんだけど……」
翔太「ほんとにいいの? じゃあ冬馬君から言うよ?」
冬馬「……お、おう。どっからでもかかってきやがれ」ドキドキ…
翔太「うーん、そうだな~……冬馬君とカラオケ行くと勝手に90年代アニソン縛りとかブルーハーツ縛りとか決めてくることかな」
冬馬「……えっ?」
翔太「あと自分からブルーハーツ縛りって言い出したくせに結局途中からハイロウズとクロマニヨンズも入れてくる辺りもウザいよね」
冬馬「……」
翔太「アニソンにしてもこのアニメは監督の演出がどうこうとかメカのデザインがダサかっこよくてうんぬんとか
いちいち無駄に長い解説入れてくるけどやたら早口で全然聞き取れないし。
まあ最初から全部聞き流してるから関係ないけど」
冬馬「……」
翔太「そっちは気付いてないみたいだけど冬馬君がドヤ顔で熱唱してる時間は基本僕のスマホ弄りタイムだからね?」
冬馬「……」
翔太「冬馬君が自分に酔いまくりながらこのままどこか遠く連れてってくれないかとか歌ってる時に僕は常に心の中では一人で行けよって思ってるよ」
冬馬「……」
翔太「そもそも誰とも付き合ったことすらない冬馬君にどうか愛の意味を知ってくださいとか歌われてもこれっぽっちも心に響かないし」
冬馬「……」
翔太「千年メダルとかよく歌えるよね。あれプロポーズに見せかけた不倫の歌なんでしょ?
そんな経験どっちもないじゃん冬馬君。歌詞の深さとか絶対理解してないでしょ」
冬馬「……」
翔太「まあ結局のところ何が言いたいかっていうと冬馬君とのカラオケは基本クソ面倒臭いよね」
冬馬「……」
翔太「ただ前に一度ジュースのお代わり取りに行った冬馬君が『隣の部屋のカップルがペッティングしてた……』
ってリアルにヘコみながら戻ってきた時だけはちょっと面白かった」
冬馬「……」
翔太「大体そんな感じかな」
冬馬「……」
北斗「……」
冬馬「えぇ……」
北斗「クフッ…」
デデーン 北斗アウトー
冬馬「……なんで今笑ったんだ?」
北斗「いや……だって思ってたよりガチなやつだったから……」
バチーンッ!
北斗「ばうあっ!」
翔太「とりあえずブルーハーツ縛りだけは本当にやめてくれない?」
冬馬「な、なんでだよ! いいだろ別に! 男ならブルーハーツ聴かなきゃダメなんだよ! ヒロト目指さなきゃダメなんだよ!」
翔太「えっ、冬馬君のどこらへんがヒロトなの?」
冬馬「……」
翔太「どこらへんがヒロトなの?」
冬馬「いや……実際どうとかじゃなくてあくまで目指す過程に意味があるから……。
ドブネズミみたいに美しくなろうとすることが大切だから……」
翔太「そもそも僕はマーシー派だし……」
北斗「俺はハイロウズ時代が一番名曲多いと思うんだけど……」
冬馬「っつか俺ばっかボロクソ言いやがって! だったら北斗の方はどうなんだよ!?」
翔太「ん? そうだね、北斗君に関してはそもそも誘っても来ないってことだよね」
北斗「えっ」
翔太「基本いくら誘っても10回中7回はこの後デートだからって断ってくるよね?」
北斗「……」
翔太「まあでもそれ自体は別に北斗君の自由だからいいんだけど、その分いつも僕が冬馬君のお守りさせられてるんだよね」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「分かる? 僕の気持ち。北斗君が女の子とごはん食べたり映画見たりしてお楽しみの間、僕はひたすらこのアホ毛のドヤ顔熱唱聞かされてるんだよ?」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「平気で8時間耐久コースとか入れてくるよ? このスタミナ馬鹿は。
僕が途中で寝落ちすると無理矢理叩き起こしてくるんだよ?」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「他に友達いないの? ぼっちなの? 陰キャなの? 無駄に熱血なくせになんで変なところでコミュ障なの?」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「しかもそうやって打ち解けるまでがやたら長いくせに一旦懐に入ると途端にこんな風にウザくなるからね。
そんなんだから冬馬君はいつまで経ってもコミュ障なんだよ」
北斗「……」
冬馬「……」
翔太「そんな感じ」
北斗「……」
冬馬「……」
冬馬「……いや、最終的に結局北斗じゃなくて俺批判じゃねえか!!」
デデーン 北斗アウトー
冬馬「だから笑ってんじゃねえよ!!」
北斗「ご、ごめん……」
バチーンッ!
北斗「でぇあっ!?」
翔太「だって北斗君は女の子関係以外は別段困るところとかないし……」
冬馬「ふざけんなよ、第一そっちだって恋の歌とか歌ってんじゃねえか!!
お前はちゃんと意味分かってんのかよ!?」
翔太「いいんだよ、僕は『歌詞の意味は分かってないながらもなんか一生懸命歌ってるところがカワイイ』キャラで売ってるんだから」
冬馬「ずるい! そういうのずるい! 俺もそういうキャラになる! キャラ変する!」
翔太「無理」
北斗「ヒロトからさらに遠ざかるだけだぞ冬馬」
冬馬「ぐぅっ!」
北斗「……というか考えてみれば冬馬っていつもレッスンとフィギュアとカレーの話しかしないけど俺達以外にちゃんと友達いるのか? なんか心配になってきた」
冬馬「い、いるよ! 普通にいっぱいいるわ! こっちは仕事してるから学校の奴らとは時間合わねえだけだよ!!」
翔太「いやいや、だったらそれこそうちの事務所の人たち誘えばいいじゃん。
仕事帰りとか時間合うでしょ? なんでいつも僕なの?」
冬馬「……」
翔太「恥ずかしくて誘えないんでしょ?」
冬馬「……いや……だってキツいだろ。四季とか俺の知らねえ曲ばっか歌いそうだし……。
あまつさえラップとか入れてきたらどうすんだよ……」
翔太「いいじゃん、一緒にノってあげれば」
冬馬「だってちょうどウルトラソウッのタイミングで店員来たりしたらどうすんだよ……。
あとうっかり間奏長い曲入れまって気まずい時間が流れたらどうすんだよ……」
翔太「いや意味分かんない。適当に雑談でもするか早送りすればいいだけじゃん。
っていうか僕にはいつもそっちから勝手に話しかけてくるじゃん」
冬馬「うるせえよこの陽キャがッ!!
お前みたいなリア充に俺らみたいな奴らの気持ちなんかどうせ一生分かんねえんだよ!!」
北斗「まあでも文句言いながらも毎回ちゃんと付き合ってあげてるあたり2人は本当に仲良いよね」
冬馬「あっ、そうだよ! お前なんだかんだで結局毎度付き合ってるんじゃねえか!
はん、なんだよ素直じゃねえな! 実は俺のこと大好きか!!」
翔太「いや、冬馬君の奢りじゃないなら普通に断ってるよ」
冬馬「ちくしょう!!」
北斗「まあまあ……ところで話変えるけど俺の引き出しからも出てきたよ。指令。『怖い話をして下さい』だって」ピラッ
冬馬「……えっ?」
翔太「へー、怖い話かあ。いいねいいね。今ちょうど夜だし」
冬馬「……」
北斗「していい?」
翔太「うん」
冬馬「えっ、いや、ちょ……」
北斗「まあ怖いっていうか不思議な話なんだけど」
冬馬「……待て。待て待て待て。それってただのお前の創作だろ? 創作だよな?」
北斗「いや、実際にあった話だよ。未だに俺もあれは一体なんだったんだろうって思ってるんだけど」
冬馬「…………」
翔太「ふーん、実体験なんだ。面白そう! どんな話?」
北斗「えーっとね、俺の妹がさ。小さい頃いわゆる視える子だったんだよね」
冬馬「……なんかそういうの胡散臭くねえ?」
北斗「いや、別にそんなことないよ。要するにイマジナリーフレンドってやつだからね」
翔太「? なにそれ?」
北斗「そのまんま想像上の友達だね。
ほら、よくそういう幽霊とか座敷童とか妖精とかって純粋な幼い子供にだけ見えるなんて話は世界中にあるだろ?」
北斗「別にオカルトでも何でもなく普通によくあることなんだよ。
子供っていうのは常識に縛られてなくて想像力が豊かだからね。大抵は大きくなるにつれて自然と忘れてくものだし。
特に一人っ子や女の子に多いらしいよ」
翔太「ふーん」
冬馬「……なんだ、つまり自分の脳ミソが妄想で勝手に作り出した存在ってことかよ」ホッ
翔太「冬馬君も二次嫁でイマジナリーフレンド作れば?」
冬馬「お前は本当に俺のことを舐め腐ってるな」
北斗「まあだから我が妹ながら感受性の豊かな子だなあとは思ってたんだけど」
冬馬「お前も大概シスコンだな」
北斗「うるさいよ。とにかく最初に始まったのは確か妹がまだ幼稚園の時だったかな。
唐突に今2階から足音がしたとか廊下を走ってくぼんやりした影を見たとか言い出すようになってね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「でも俺や両親には全然そんな音聞こえないんだよね。初めは家鳴りかネズミでもいるのかななんて呑気に考えてたんだけど。
その内何もない場所に向かって本当に誰かと会話してるみたいに楽しそうに話しかけるようになったんだ」
冬馬「……ええ……?」
北斗「なんでもその子は妹と同じ年頃の腰まである長い髪のすごく痩せた女の子でね。
すらっと背が高くていつも青白い顔をしてるんだって」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「あと左胸の鎖骨の下、ちょうど心臓の辺りに小さな痣があるとも言ってた」
冬馬「……いや、いやいやいや。待てよ。なんかおかしくねえ? なんだよ痣って……。
ただの子供の妄想なのになんでそんなビジュアル設定が具体的なんだよ……」
翔太「その痣っていうのは怪我で付いたのかな?」
北斗「さあ、それについてはいくら理由を聞いても答えてくれないって言ってたから」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「まあでも家は両親も俺も家空けてることが多いし妹も寂しいのかなと思って。
彼女の良い話し相手になってくれるのならそれはいいことだと思ったし、俺もその頃には妹からその子の話聞くの結構楽しみにしてたしね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「それから最近は妹がその子にピアノを教えてあげてるとか
父親が海外に演奏旅行に行った時にお土産で妹に買ってきてくれた人形を彼女もとても気に入ってるとかそういう話までするようになって」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「確かに初めはぼんやりした影しか見えないって言ってたのが日が経つにつれて妹の話の中でどんどんその子の存在感がはっきりしてくるんだよね。
こっちまでまるで現実に妹にそういう友達がいるんじゃないかって錯覚してくるくらいに」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「そんなことが続いたある日両親が揃って出かけることになってね、俺と妹は2人で家で留守番してたんだ。
妹は自分の部屋でおとなしく遊んでたから俺も部屋で読書しててさ」
北斗「で、しばらくして飲み物取りに行こうと部屋を出たら廊下の突き当たりにある妹の部屋のドアが半開きになってたんだよ。
そうそう、家には友達が遊びに来てる時は部屋のドアを少し開けておくっていうマナーがあったんだけど」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「でもその時は俺と妹だけで他には誰もいないはずだし。
あれ、おかしいなと思って中を覗いてみたんだ。そしたら床におもちゃが大量に散らばってるのに妹はどこにもいないんだよね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「いつも使ったおもちゃは自分でちゃんと片付ける奴だからどうしたんだろうとは思ったけど。
まあでもたまにはそんなこともあるかと思って大して気にもせずに俺が代わりに片付けてたんだけどね」
北斗「その時、ふとリビングの方からピアノの音が聞こえてきたんだ。
……ちょうどその頃に妹がその子に教えてあげてるって言ってたエリーゼのためにが」
冬馬「…………」
翔太「…………」
北斗「でもやっぱりなんか少しおかしいんだよ。言ったらなんだけど妹のピアノにしては正直演奏がちょっと拙いんだ」
北斗「家は元々音楽一家だしね、妹も天才少女なんて言われるくらい才能のある子なんだ。
だからわざと下手に弾いて遊んでるのかと思ったけど普段はそんなことするような奴でもないし」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「不思議に思いながらも片付け終わってドアもしっかり閉めて1階に降りたんだけど。
リビングに入る直前にふっとその演奏が止んでね。見たらピアノの前には誰も座ってないんだ」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「その時にはああもうこれは妹にからかわれてるなと思って。どこかに隠れて俺を驚かそうとしてるんだろうとピンと来てね。
俺も妹は可愛いからね、かくれんぼのつもりで探し始めたんだけど……何故か全然見つからないんだよね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「ダイニングもトイレの中も風呂場も納戸も、妹が隠れられそうな場所はみんな探したけどどこにもいなくて」
北斗「その頃にはもしかしたら誘拐かと本気で焦り始めてさ、とりあえずもう一度2階に上がってみたんだ。
そしたらいつの間にかまた妹の部屋のドアがほんの少しだけ開いてるんだよね」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「ああ、なんだここにいたと思ってホッとしてね。『見ーつけた』なんて言いながら入っていったら……」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「いないんだよね。誰も」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「ただね。さっき全部きっちり片付けたはずなのに……またおもちゃがひとつだけ箱から出されてぽつんと床に転がってるんだよ」
北斗「……その子が気に入ってるっていう父親からのお土産の人形だけが」
冬馬「……」ゾクッ
翔太「……」ゾクッ
北斗「おまけにその時、外からバタバタ音がして次の瞬間、両腕に花を抱えた妹が玄関に駆け込んできたんだ」
北斗「え? え? って混乱してお前今までどこにいたんだって咄嗟に問いただしたんだけど
妹は部屋に飾る花を切りに庭に出てそのままずっと外で遊んでたって言うんだよ」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「流石にこれには俺もびっくりしてね。だって部屋のおもちゃは? ピアノは? って聞いたんだ」
北斗「でも妹は不思議そうに首を傾げるだけで、もう1時間以上前から外にいたし今日はまだおもちゃも出してなければピアノも弾いてないって」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「嘘を吐いてるようにも見えなかったし現に花束抱えてるしね。
俺がただ絶句してたら妹は全然普通の顔して、その内ああって納得したように頷いてさ」
北斗「“じゃああの子が1人で遊んでたのね”って言うんだ」
冬馬「……」
翔太「……」
北斗「だからあの子って……って聞いたら」
北斗「“なに言ってるの兄さん。あの子よ。わたしがいつも話してるでしょ?”」
北斗「あの胸の『ちっぱい(ボソッ』女の子……」
デデーン 翔太アウトー
翔太「……ちょっとぉ! 冬馬君!? 今一番いいとこだったでしょ!? なんで邪魔するの!?」
冬馬「……」
翔太「聞いてるの!? ねえ! いったぁー!?」
バチーンッ!
冬馬「……」
北斗「……胸の辺りが『ちっぱい(ボソッ』女の『ちっぱい(ボソッ』……」
北斗「……」
翔太「……」
冬馬「……」
北斗「胸の『ちっぱい(ボソッ』」
翔太「……」
冬馬「……」ポチッ
ボタン『ちっぱ、ちちちっぱい、ちちっぱい、ちっちちっぱちっぱい、ちっぱい』
北斗「……」
翔太「……」
冬馬「……」ポチッ
ボタン『ちちちちっぱちっぱい、ちっちぱいぱい、ぱいぱーい』
翔太「……」プルプルプル…
冬馬「……」ポチポチポチッ
ボタン『ちっちちぱちっぱい、ぱぱいぱーい、ちっぱぱ、ちぱーい』
ボタン『ちっ、ちぱ、ちっぱい、ぱいぱ、ぱいぱぱーい』
ボタン『ちっぱ、ぱぱいぱーい』
翔太「……ゴフッ!」ブフォッ
デデーン 翔太アウトー
翔太「……もぉぉおおおお!! 冬馬君!! いい加減にしてよ!!」
冬馬「……」プイッ
バチーンッ!
翔太「あだぁー!?」
北斗「……今の話ってそんな怖いか?」
翔太「冬馬君どんだけビビりなの?」
冬馬「は? 何言ってんだよ、別に全然怖くねえし。ぜーんぜん怖くねえしぃ~?」
翔太「ならなんで今ボタン連打したの?」
冬馬「ただの気まぐれだ」
翔太「ほんとは怖いんでしょ?」
冬馬「怖くない」
北斗「胸に痣『ちっぱい(ボソッ』」
翔太「……」
北斗「……」
冬馬「……」
北斗「胸『ちっぱい(ボソッ』」
翔太「……」
北斗「あの『ちっぱい(ボソッ』」
翔太「……」
北斗「女の『ちっぱい(ボソッ』」
翔太「……」
北斗「おっ『ぱい(ボソッ』」
翔太「っ……も、もうやめて……お願いだから……」フルフル…
北斗「お前……」
冬馬「……」
翔太「っていうかさー、それ肝心なのはその後だよ。結局それでどうなったの? その女の子ってなんだったの?」
冬馬「おい、聞くなよ!」
北斗「いや知らないけど。今適当に作った話だし」シレッ
冬馬「………やっぱり創作なんじゃねえか!!」
翔太「えー、なんだ。ただの作り話だったの? ガッカリだよ」
北斗「妹に一時期見えない友達がいたっていうのは事実だけどね。
いくらなんでもピアノや人形がひとりでに動くとかそんなベタ過ぎる出来事は流石になかったよ」
翔太「なーんだ」
冬馬「……脅かしやがって」ドキドキ
翔太「やっぱビビってたんじゃん」
冬馬「ビビってない」
北斗「あ、でもそういえば俺の部屋に知らない女の子が座ってたことならあるけど」
冬馬「は?」
翔太「ん?」
冬馬「……どういうことだよ?」
翔太「ガチで幽霊見たってこと?」
北斗「違う違う、生身の」
冬馬・翔太「……??」
北斗「高校時代にね。誰ともそんな約束してないはずなのに学校から帰ってきたら母親に
『さっき北斗さんのガールフレンドが遊びにいらしたから今あなたの部屋に上がってもらってるわよ』って言われて」
北斗「で、自分の部屋入ったらまったく知らない女の子が床に正座してた」
冬馬「」
翔太「」
北斗「なんでも近くの女子校の子でたまたま通学路で俺のこと見かけたことがあるらしくてね。
それ以来その子の脳内では俺と付き合ってることになってたみたい。
それでこっそり俺の後尾けて家まで特定したんだって」
翔太「………うわああああああッッ!?」ゾワッ!
冬馬「……こっわ!! こっっっわ!?」ゾワッ!
翔太「ちょっ、えっ!? なに、つまり一度も喋ったこともない相手の家にしれっと彼女名乗って上がり込んでたってこと!?」
冬馬「怖い怖い怖い怖い! やべぇ、今マジで鳥肌立ってる!! 怖っ!?」ゾワワッ
翔太「なにその絵に描いたようなメンヘラ!? 現実にそんな人本当にいるの!?」
冬馬「っつーか待て、それほんとにどうしたんだよ!? ちゃんと警察突き出したんだろうな!?」
北斗「え? いや、普通にその後一年くらい付き合ってたけど……」
冬馬「はあああああっ!!??」
翔太「……この人頭おかしい……」
北斗「? 何言ってるんだ、俺のことストーカーして勝手に彼女名乗るくらい一途に思い詰めてくれるヤンデレエンジェルちゃんとか最高じゃないか」
冬馬「……」
翔太「……」
冬馬「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……」
翔太「なにこの人怖い……僕は今までずっとこんなヤバい人と一緒に仕事してきたの……?」
北斗「世界中のすべてのプリンセスを愛するために俺は生まれてきたからね。俺の辞書に女性に対する拒絶の文字はないよ」
冬馬「やべぇ、こいつ頭イってる……」
翔太「なんで最後の最後にそんなとんでもない特大の爆弾投下してきたの……?」
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