【ZOIDS】深紅の盾、ジェノブレイカー (114)





惑星Ziの、長きに渡る戦争は終わった。

しかし、最強兵器“ゾイド”を利用して再び、この平和の世に戦乱を招こうとする者がいる。

それに対抗するため、帝国と共和国は共同で、平和維持を目的とした特殊部隊「ガーディアンフォース」を設立した。






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1471570250





力に呑まれ、ダークカイザーと名乗ったプロイツェンの率いる一派と、ガーディアンフォースの戦いは激化の一途を辿ってゆく。

そして、惑星Ziの全てを破壊せんとする強大な力“デスザウラー”は、古代ゾイド人が築き上げたイヴポリスにおいて、ついに復活を遂げた。

私欲のためプロイツェンを利用していたヒルツと、デススティンガーのコアを吸収した完全なるデスザウラーは、この星の支配者となるべく猛威を振るう。

だが、ガーディアンフォースの主力を担っていたバン・フライハイトと、その仲間たち。

自身やリーゼを利用し、シャドーを傷つけたプロイツェンとヒルツに反旗を翻したレイヴン。

かつて敵同士であった彼らが共にこれを打倒したことによって、惑星Ziには再び平和が舞い戻った。









戦いが終わって、バンはフィーネやジークと共に、未だ見ぬゾイドと出会うための冒険の旅へ。



……そして、レイヴンとリーゼもまた争乱の追及を逃れるため、新天地を求めて放浪の旅に出ていたのであった。










           真紅の盾、ジェノブレイカー









リーゼ「ハァ……ハァ……」

リーゼ「レ、レイヴン!前方に……3!」

レイヴン「チィッ!」



狭いコクピットに轟く振動。

一対のシールドを失ったジェノブレイカーはバランスを失いつつも、バーニアの制御によってどうにか前へと進むことができている。

俺は後部座席から聞こえたリーゼの苦しげな叫びを頼りに、両手に構えたトリガーをすかさず引いた。

両脚部のビームガンが放った二筋の光は闇夜に迸り、森林の影より飛来した三体の蟷螂型ゾイドのうち二体を貫き、爆炎を噴き上げる。

だが、残る一体が此方のコクピットを狙い、肉薄した。








レイヴン「そこを……どけッ!」



俺は右手の操縦桿を前方に押し出し、素早く手首を捻る。

それに応えたジェノブレイカーがバックパック右側に残されたフリーラウンドシールドを即座に展開し、エクスブレイカーを奴に突き立てる。

二対の刃は敵の前脚に備わった格闘用スパイクを容易に引き裂き、それからまるで悲鳴のような金属摩擦音が耳をつんざいた。

小さな緑のゾイドはその細い胴体を分断され、二つの身体は夜の森へと消えてゆく。



これで、最後か。








リーゼ「ま、まだだ……レイヴン、今度は……左……!」

レイヴン「ッ!」



気が付いた時には、既に遅かった。

左方より飛来する敵の放った重機関砲の弾丸が、ジェノブレイカーの装甲表層に着弾し炸裂した。

ジェノブレイカーの苦悶の声が、コクピット内でこだまする。


機体には既に、幾多もの亀裂が走っている。

このまま攻撃を受け続ければ、いくらジェノブレイカーでも長くは持たないだろう。

右側に伸びた操縦桿が今度は思い切り引き倒され、機体が大きく身を翻す。

バーニアの加速により振るわれたスマッシュテイルは敵ゾイドの頭部を捉え、それを全力で地面に叩きつけた。








リーゼ「今度は……後ろからたくさん……!」

リーゼ「ハァ、ハァ……なんてしつこいのさ、あいつら!」

レイヴン「……」



これまで、何体の敵を相手にしたのか。

森に足を踏み入れ、どれほどの時間が経過したのか。

おそらくはガーディアンフォースではないコイツらが、何故俺たちに襲いかかって来たのか。

そもそも、コイツらは一体何者なのか。

俺には、何も分からなかった。








今の俺が取るべき行動。

それは、いち早く追手を振り切り、森を抜け、人里に辿り着くこと。

そして、原因不明の熱に冒されたリーゼのために、薬を探すことだ。



だが、コイツら一体一体を相手していては埒が明かない。

かくなる上は……。








レイヴン「リーゼ、衝撃に備えろ!荷電粒子砲を……!」


シャドー「グ、グィ!?」

リーゼ「駄目だレイヴン……今荷電粒子砲を撃てば、ジェノブレイカーが……!」

レイヴン「だ、だが!」

リーゼ「僕なら大丈夫……だから、今は耐えて……」

レイヴン「……くそっ!」



……そう、俺はあのデスザウラーとの戦いから二年。

ジェノブレイカーが負った幾多の傷を、長らく治してやることができずにいた。







人為的に生み出された命であるジェノブレイカーは、もとより長くは生きられないと言われている。

リーゼのスペキュラーが持つゾイド因子の活性化能力によって、ジェノブレイカー自身の生命活動を“誤魔化す”ことは可能だった。

だが、二年に及ぶ逃避の生活によって、その本質は心身ともに限界を迎えようとしていた。


装甲の表層にまで自己再生が至らず、ゾイドコアの生体反応も日に日に弱ってゆく。

リーゼの言う通り、今コイツが荷電粒子砲を撃てば、機体は反動によって内部から共振崩壊を始める恐れすらあった。

俺は、引きかけていた荷電粒子砲のトリガーから、やむを得ず指を離すことにした。








『ククク……撃てないか』

レイヴン「!?」



ちょうど、その時のことだ。

コンソール付近に備わった通信機より突如、聞き覚えのない男の声が聞こえたのは。







『残念だよ、君とそのゾイドなら良い“試験体”になってくれると思っていたのに』

レイヴン「貴様、何者だ!」

『君が知る必要なんてないさ、じゃあね』

レイヴン「おい、待……!」



刹那、俺の視界は一筋の禍々しい光によって覆われた。

後部座席のリーゼが叫び、無意識に動いた両の手は機体を咄嗟に後方へ飛ばすことを選んだ。

ヒルツのデススティンガーから荷電粒子砲を受けた、あの時と同じように。









だが、それからどうなったのかは覚えていない。

俺の記憶はここで途絶えているんだ。





一旦ここまでです

需要があるかは分かりませんが、頑張ります

皆様の嬉しいお言葉、励みになります!

諸事情につき、基本的には今後の投稿も今朝と同じくらいの時間帯となりますが、それでもよろしければ今後ともよろしくお願い致します。




………………
…………
……





老人「おぉ……気が付いたかね」

シャドー「グゥィッ」


レイヴン「……」








ここは、どこだ。



目を覚ました俺は、清潔にメイキングされたベッドの上で、一人寝かされていた。

ベッドを取り囲むのは、板張りの壁と格式ある家具に、調度品とともに並べられた幾つもの金のカップ。

そして、俺を見つめるシャドーと、その隣で古めかしい椅子に腰を掛けた、一人の爺さんの姿だった。








レイヴン「ここは……地獄なのか」

老人「ん……?」

レイヴン「フフッ、地獄が悪くない所だってのは、どうやら本当のことらしいな」

老人「ホッホッホ、まだ寝ぼけておるのかね」



老人「お前さんはちゃんと生きておるよ」








レイヴン「……生きている……のか」

老人「あぁ、村の者が森の中で倒れていた赤いゾイドを見つけ、ここまで連れ帰って来たのだ」

老人「何があったかは知らんが……酷い有様だったらしい」

レイヴン「……」



俺はジェノブレイカーと共に、あの“光”に呑まれそうになった時のことを思い出した。

そして、続けざまに頭の中をよぎる、あの男の声。

滲み出る悔しさが、俺の右手の拳を強く握らせた。


が、それを察したのか、シャドーが自身の頭を俺の元へと近づけてくる。

心配と不安の入り混じったシャドーの眼差しは、俺が一度作った握り拳をそっと解かせた。








老人「それに……」

老人「発見がもう少し遅れておったら、お前さんの連れの命だって危ういところだったのだぞ」

レイヴン「……!」

レイヴン「おい、リーゼは無事なのか!」

老人「安心せい……今は村医者の下で、しっかり療養をさせとるよ」

レイヴン「っ……」








老人「ガフキー・カハール熱。一昔前に、各地で感染が広まった流行病だな」

老人「遥か以前に村を訪れた運び屋の持ち込んだ薬が、都合よく残っておった……運がよかったな」

レイヴン「そうか……」



レイヴン「すまない、恩に着る」

老人「……こんな辺境に現れた、久々の客人だ。これぐらい、どうってことない」

レイヴン「……」

老人「それより、お前さんたちもあのゾイドも、ずいぶん長いことさすらっていたようだな」

老人「ここは辺鄙な村だが……十分に鋭気を養ってゆくといい」








レイヴン「聞かないのか」

老人「何を、だ」

レイヴン「……いや、なんでもない」

老人「そうかい」



そう言って、爺さんは部屋をゆっくりと出て行った。

静かになった部屋で、シャドーはベッドのそばでうずくまり、俺もその身を再びベッドに横たえることにした。








どうやら爺さん……いや、この村の連中は、何も知らないらしい。


俺が二年前まで、あの“赤いゾイド”と共に、何をしてきたのか。


どれだけ多くの人やゾイドを、恐怖に陥れて来たのかを。



……
…………
………………




一旦ここまでです

ゾイドと言えばとうとうHMMジオーガ出るよね





レイヴン「……」


朝を迎え、俺は村医者の家で安静にしているというリーゼの様子を伺うために、シャドーを伴って爺さんの家を出ることにした。

玄関の硬いドアを開け、目にしたものは、緩やかな丘の下に広がる広大な農地。

そして、家の傍らに佇む一体の古いゾイドだった。

その姿を見た俺は、共和国軍の所有する歩兵ゾイド、ゴドスを一瞬だけ連想した。








だが、その機体には装甲にあたるものが、何一つ付いていない。

肉付きの感じられないその姿はさしずめ、「骨」と言い表すべきか。

今まで見たこともないゾイドだ。



俺がそんな、“骨のようなゾイド”を見上げていた時。

家の前を通りがかったグスタフのコックピットから、一人の男が声をかけてきた。



男性「おぉ、兄ちゃん生きとったかぁ」

レイヴン「……」








中年の男は足を止めたグスタフから軽快に降り、朗らかな笑顔を見せながらこちらに向かってくる。

俺に覚えはないが……その様子から察するに、初対面ではないのだろう。



男性「ふむふむ、“ガリウス”がそんなに珍しいか兄ちゃん」

レイヴン「ガリウス……?」

男性「まぁ、今どきの若い世代は知らなくて当然か」

男性「こんな貧乏な村でさえ、ここまで古くて動けるゾイドとなると……最早こいつしか残っちゃいないしな」

レイヴン「……動くのか、こいつは」

男性「あぁ、型が古すぎて誰も乗りゃしないけどな」








レイヴン「……俺たちを助けてくれたのは、あんたか」

男性「んおっ!な、なんで分かったんだ?」



男は心底、驚いているようだ。

グスタフの荷台に積み上げられた伐採材、そして先述の男の様子を見れば、すぐに分かることだったのだが。



レイヴン「いや、別に」

レイヴン「それより……助けてくれた事、礼を言う」

男性「ははは、なぁに礼なんて」

男性「オラが仕事で森に入ったら、たまたまあんたのゾイドを見つけちまったんだからな」








男性「ここは今どき需要のねぇ林業と、農耕の自給自足でなんとか生き残っている、辺鄙な村だ」

男性「んなもんで、外から来る人間なんかほとんどいねぇもんだから、流石にあの時はオラもびっくりしたぞ」

レイヴン「……」



俺はふいに、傍らに立つシャドーの方へ視線を向けた。

その様子を見るに、どうやらシャドーはこの男のことを覚えているらしい。

俺が意識を失っている間、シャドーはどうしていたのだろうか。



男性「なぁ、あんた。一つ聞ききてぇんだが……」

レイヴン「?」

男性「森で一体何があった?」

レイヴン「……」



……
…………
………………








男性「なに、たくさんの小型ゾイドに襲われた?」

レイヴン「あぁ、そうだ」

男性「そりゃ妙だな……オラは40年近くこの森に出入りしているが、野生のゾイドに襲われるなんて話は初めてだ」

レイヴン「……そうなのか」

男性「あぁ」



男性「だがもし、その話が本当だとすれば……ただ事じゃねぇよな」

男性「この森に危険が及ぶとなれば当然、オラたちの仕事にも支障が出ちまう」

レイヴン「……」







男性「ま、この件は一度“村長”の耳にも入れておくことにするさ」



男は、さっき俺が出てきた家の方を指さしている。

どうやらあの爺さんは、この村の村長だったようだ。



男との会話に一つの区切りが付いたため、俺は男に、リーゼのいる村医者の家を。

そして、ジェノブレイカーが“運ばれた”場所を尋ねることにした。



……
…………
………………




すこし休憩挟みます

>>34
ゴジュラススキーなのでとても嬉しいです

ちなみに、作中に出てくるガリウスとはこいつのことです(アニメ未登場)

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira116131.jpg





レイヴン「様子を見に来ることができなくて、すまなかったな」

リーゼ「ううん、いいんだ……気を失ってたんだろ?」

リーゼ「そんなことよりも、僕はレイヴンが無事でいてくれて嬉しい……」

レイヴン「……」



その顔は今でも若干の赤みを帯びてはいるものの、発した声は比較的はつらつとしていた。

薬が効いているのだろうか。

熱による苦悶は感じられず、着実に元気を取り戻しつつあるリーゼの様子に、俺は安堵した。








レイヴン「元気そうで何よりだ」

リーゼ「おかげさまでね」


レイヴン「……俺がここにいると、熱の治まりも悪くなるだろう」

レイヴン「この辺りで失」

リーゼ「ま……待って!」

レイヴン「……」

リーゼ「……」


リーゼ「もう少しだけ、ここにいて」

レイヴン「……分かった」








返答とともに、俺はリーゼがその身を横たえているベッドの空いたスペースへと腰を掛ける。

すると、彼女はそのまま何も言わず、こちらの胸元に上体をすっと寄せてきた。



レイヴン「……」

リーゼ「……」



重なり合う身体、伝わる熱と鼓動。

それらを感じている間、俺は孤独だった頃の自分を忘れていられる。

このような時間はいつしか、俺にとって大切なものだと思えるようになっていた。








リーゼ「……レイヴン」

レイヴン「なんだ」


リーゼ「ジェノブレイカー……どんな様子だい」

レイヴン「……まだ、分からない」

リーゼ「……そか」


レイヴン「心配するな」

レイヴン「たとえ“あれ”が駄目になっても、旅を続ける手筈は整える」

リーゼ「……」








レイヴン「どうした」

リーゼ「レイヴンの“そういうところ”は、今も変わってないんだね」

レイヴン「……あぁ」

リーゼ「その気持ち、シャドーに対しても同じなのかい」

レイヴン「いや、あいつは特別だ」

レイヴン「……だが、ジェノブレイカーは」

リーゼ「もういいさ、レイヴン」


リーゼ「レイヴンにだって思うところがあるのは、僕もよく知ってる」

レイヴン「……」



思うところ……か。








レイヴン「……リーゼ」

リーゼ「……スー……スー……」



リーゼの頭をそっと撫で続け、どれほどの時間が流れた頃か。

彼女はいつしか眠りについていたらしい。

たてる寝息を崩さぬよう、俺はその頭を静かに枕元へと降ろすことにした。


熱の完全な快方まで、そうしばらくはかからないだろう。

それまでに、俺はこの村を安全に出るための情報を集めなければならない。








考えた途端、心の中にあったリーゼと過ごした時間の余韻。

それは、再び呼び起された感情によって、すぐさま掻き消されてしまった。



押し迫る小型ゾイドの群れ。

耳にこびりつくような男の声。

そして、突如飛び込んだ一筋の光。



頭の中にちらつきはじめていた“あの時”の光景を振り払うとともに、俺は部屋を後にした。



……
…………
………………


今日はここまでです。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。





ジェノブレイカーが運ばれたのは、この村に唯一存在するゾイドの専用工廠だった。

錆びをはじめとした経年劣化によって老朽化した建屋の中、モルタルの地に伏す一匹の赤いゾイド。

その全体の外装は以前よりも更にひどく損傷し、脚部に至ってはもはや自立すらままならないほどのダメージを受けている。

両の眼から光は消え、僅かな鼓動を残しつつも、その様はほとんど死んでいると言っても差し支えは無かった。



シュキュウゥゥ……



そばに近づくと、それに気付いたジェノブレイカーは弱弱しく呻いた。

これが、かつてこの星で“邪神”と異名されたゾイドの姿だというのか。








女性「おぉーい、アンタが例の行き倒れあんちゃんかい」

レイヴン「?」


女性「おっと失礼、アタシはこの工廠のオーナーを務める者さ」

女性「つっても、先代の爺ちゃんが無くなったんで、たった半年前にここを引き継いだばかりなんだけどね」



声をかけてきたのは、オイルの染みた灰色のツナギに身を包んだ、褐色の若い女だった。

今の今まで、動かなくなったジェノブレイカーの上で作業をしていたらしい。








女性「それにしても……アタシゃこんなゾイド、生まれて初めて見たよ」

女性「この子、少なくとも作業用のゾイドじゃないよねぇ」

レイヴン「……」

女性「いろいろ気になることはあるけど……ま、いいや」


女性「とにかく、アタシの腕は確かだよ」

女性「どんな方法を用いてでも、一週間もありゃこの子がもう一度動けるようにしてやれるさ」

レイヴン「……すまないな」

女性「いいの、今のところ他にやるべきことも特にないしね」

女性「お代は出世払いで頼むよ」








女性「それより……」

レイヴン「?」



女は、工廠の搬入口に向かって目をくべる。

視線の先には、村の子どもたちにじゃれ付かれ困惑するシャドーの姿があった。



女性「ガキども、村の外から来たゾイドが気になるらしくてね……昨日からよくここへやって来るんだ」

女性「だからここはアタシに任せて、あんたはあの子たちの相手をしてやってよ」

レイヴン「お、俺が……」

女性「あぁ、村の外の話でもしてやれば、少しは大人しくなるだろーしね」








女性「じゃっ、頼んだよ」

レイヴン「ぐ……」



女はそう言って、工廠の奥へと消えて行った。

その場に一人残された俺は、小さくため息をつく。



レイヴン「子供のお守り……か」

レイヴン「こいつはお前を操縦するより、遥かに難しいことかもしれないな」



呟き、踵を返し。

瀕死となった赤いゾイドを背に、俺はゆっくりと外へと向かっていった。



……
…………
………………



一旦ここまでです





男性『悪いな兄ちゃん、客人に択伐なんて手伝わせちまってよ』

レイヴン「構わない。俺は先日受けた恩を返したいだけだ」

男性『はははっ、見かけによらず律儀な奴だなぁアンタ』


男性『択伐ってのは、伐期を迎えた木を選んで抜き切りする作業なんだ』

男性『兄ちゃんじゃその木の見分けはつかないだろうから、オラのグスタフについてくるといい』

レイヴン「了解した」








男性『……しかし』

レイヴン「?」

男性『他にゾイドが残ってなかったとはいえ、本当にそのガリウスでよかったのか?』

レイヴン「あぁ、村長に操縦の許可は貰っている」

男性『いや、そういうことではないが……』


レイヴン「このゾイドは余計な装甲が付いていない分、軽快に動くことができる」

レイヴン「チェーンソーユニットさえ手持ちできれば、あとは問題なく作業ができるはずだ」

男性「……なるほど、分かった」








鳥のさえずる、晴天の朝。

地響きを立て、幾多のゾイドが森の中をずんずんと進んでゆく。

親方分である男のグスタフが先行し、その後ろには俺のガリウス、後続には数体のスピノサパーが続いていた。



村のベッドで目を覚ましてから、早三日が経過したこの日。

先刻男に言ったように、俺はこれまで受けた恩を返すという目的で、彼等の伐採作業に同行することを決めた。

だが、伐採の協力を申し出た本当の目的は、それとはまた別に存在する。

どんな手を使ってでも、俺自身が直接森に入ることに、意味があったのだ。



……
…………
………………







リーゼ「“ディマンティス”?」

レイヴン「あぁ……それがあの時、俺達を襲ったゾイドの名だ」


レイヴン「森に残っていた残骸。その頭部に刻まれた刻印から判明した」

リーゼ「そうか。だけど……僕はディマンティスなんてゾイド、聞いたことがない」

レイヴン「……そうだろうな」








リーゼ「レイヴンは、知っているのか?」

レイヴン「“名前だけ”はな」

レイヴン「これは俺がかつて、帝国軍にその身を置いていたからこそ知り得たことだ」


レイヴン「あのディマンティスというゾイドは過去に、帝国軍の次期主力ゾイドの座をレブラプター等と争った機体だった」

リーゼ「!」

レイヴン「だが、あの機体の持つ超小型局地戦のコンセプトは、軍の求めた汎用性に欠けるものだったらしい」

レイヴン「書類審査の段階で真っ先に落選したことから、その実機を見た者は俺を含め、ほとんどいない」

リーゼ「……」








リーゼ「だとしたら、妙な話だね」

レイヴン「……あぁ」

リーゼ「そんなゾイドがなんで今更、こんな辺境の森で活動していたんだろう」

レイヴン「その件については、まだ何も分かっていない」

レイヴン「あの“光”のこともある……俺は引き続き、調査を進めるつもりだ」

リーゼ「……そうか」



レイヴン「……?」

リーゼ「どうしたの?」








レイヴン「その花……」

リーゼ「あぁ、これは村のお婆ちゃんが置いて行ってくれたんだ」

リーゼ「早く良くなるといいね、だって」

レイヴン「そうか」


リーゼ「……この村は、とても暖かいところだね」

レイヴン「……」








リーゼ「ねぇレイヴン……僕たちも、さ」

リーゼ「腰を落ち着ける場所を、そろそろ決めるべきだと思」

レイヴン「リーゼ」

リーゼ「っ……」


レイヴン「これ以上は体に障る、安静にした方がいい」

リーゼ「……ごめんね」

レイヴン「……謝る必要なんて、ない」



口をつぐみ、快方に向かいつつあるその身を横たえたリーゼに、俺は別れを告げる。

そして、ドアを開けた俺はスペキュラーと共に外で待機していたシャドーを連れ、村長の家を目指した。








確かに、この村ならリーゼの願いを叶えることはできるかもしれない。


だが……それを認められない、或いはこれまでできなかった、大きな理由が一つ。


それこそが、あの“ジェノブレイカー”という存在だった。



……
…………
………………



一旦ここまでです

書ける時に書くスタイルなので、途切れ途切れのペースとなってしまい申し訳ないです……






『うああぁぁぁぁッ!助けてくれぇ!』


『ば、化け物だぁ!』


『退け、退け!モルが部隊を下がらせろ!』


『ぎゃああああッ!』










『これがあのレイヴンと、ジェノブレイカーの力……!』



『司令!ここは間もなく荷電粒子砲に……お逃げください、司令ッ!』 



『“邪神”め……ッ!』



……
…………
………………









女性「おーいっ」

レイヴン「……」


女性「おぉーい」

レイヴン「……」


女性「おーいッ!」

レイヴン「!」



女性「あんた、寝ぼけてんの?」

レイヴン「すまない。コイツを見ていて、昔のことを少し思い出しただけだ」

女性「?」








レイヴン「それより……立てるようになったんだな、ジェノブレイカー」

女性「あぁ、アタシにかかりゃざっとこんなもんさっ」

女性「……ま、装甲表層の傷にはまだ手が付けられていないんだけどね」



女性「それに……アンタも知ってると思うけど、この子のゾイドコアはもうボロボロ」

女性「いくらアタシでも、こればかりはどうしようもないんだ」

女性「今までよっぽど、無茶な操縦を続けてきたんだろうね」

レイヴン「……」

女性「……あっ!べ、別にアンタのことを責める気はなかったの!」

レイヴン「構わない。事実だ」








女性「……ゴホン」

女性「アタシが言いたかったのはつまり……これ以上無茶をさせれば、この子がいつ“くたばっちまう”か分からないってことなんだ」

レイヴン「……」

女性「アンタがあの可愛い“カノジョ”とどんな旅をしているのかを聞くつもりはないけど」


女性「もっと、ゾイドを労わってやりなよ」

レイヴン「……肝に銘じておこう」








女性「……あぁっと、それともう一つ言い忘れてた!」

女性「明日から向こう数日の間は、ちょっとばかし別の用事を優先させてもらうよ」

レイヴン「用事?」

女性「年に一度の“繁盛期”がやって来るのさ!」



こんな小さな村の、小さな工廠に訪れる“繁盛期”。

このとき、俺は女の言った言葉の意味が理解できずにいた。




休憩はさみますね

すみません、眠気が酷いので続きは夜中か明日に書きます……




………………
…………
……



「オーライオーライ!」

「おいおい、天幕はこっちだ!」

「明日までに、ゾイドの休息はしっかり取らせておけよ」

「ダブルソーダのキャリアが外れねぇ」

「こっちの角材、足りてねーぞ!」



丘のふもとには、農地に囲まれる形で広く開けた草原がある。

そこで、数多くの村の男たちが、何かの設営に従事していた。

先刻、女が言った工廠の繁盛期と関係のあることだろうか。








リーゼ「レイヴーン!」

レイヴン「!」



不意に聞こえたリーゼの声。

振り向けば、彼女は血色のいい笑顔を振りまき、此方に向かって走ってくる。



リーゼ「こんなところにいたんだ」

レイヴン「……もう、熱は平気なのか」

リーゼ「あぁ平気だね!」

レイヴン「そうか……」

リーゼ「へへっ」








レイヴン「これはいったい、何の準備が行われているんだ」

リーゼ「村のお婆ちゃんいわく、これはお祭りの準備なんだってさ」

レイヴン「祭り……」



「そう、明日は年に一度の収穫祭」


村長「……そして、村の伝統である“ゾイドバトル”が行われる日なのだ」



背後から聞こえた声の主は、村長だった。








リーゼ「わわっ、びっくりした!」


リーゼ「……村長さん、そのゾイドバトルって?」

村長「ゾイドバトルとは即ち、日頃から村で使役しているゾイドのために催される行事のこと」

村長「簡単に言えば、あの草原でゾイド同士を戦わせるのだ」

リーゼ「ゾイド同士を……戦わせる!?」

レイヴン「……」



その言葉を聞いて、俺の脳裏にはこれまでに行ったゾイドへの虐殺、蹂躙の光景がフラッシュバックした。

ゾイド同士の戦いとは、俺にとっては“そういうもの”だったからだ。








村長「ホッホッホ、お嬢ちゃんが驚くのも無理はない」

村長「外から来た者は皆、この行事の話を聞く度“野蛮だ”、“平和的でない”と、ワシらに対して抗議をする」

リーゼ「……」

村長「ゾイド同士の命をかけて戦うことが無いとはいえ、確かにこのゾイドバトルとは野蛮な行事だな」



村長「だが……ゾイドとは本来、“闘争本能”を生まれつき持った生き物だ」

村長「これは不変の理であり、ゾイドにとっての真に“生きる意味”でもある」

リーゼ「生きる意味……」

村長「野蛮だという価値観は他でもない人間の都合で、人がゾイドを不当に縛る理由にはならん」

村長「ゾイドによって生かされている我々はそれを踏まえた上で、彼らに敬意を持って生活しておるのだ」








村長「まぁもっとも……そこのお前さんは、ゾイドに対してその“どちらでもない”向き合い方をしておるようだがな」

レイヴン「……!」

リーゼ「レイヴン……」



村長「ちょうどいい機会だ。明日のゾイドバトルを、お前さんたちもゆっくり見ていくと良い」

村長「わしの言葉なんかより、実際にその目で確かめた方が理解もしやすかろう」

リーゼ「うん、そうさせてもらうよ」

レイヴン「……」








――戦うことが、ゾイドにとっての生きる意味。



だとすれば……俺が今までに行ってきたゾイド同士の戦いとは何だ?

俺とジェノブレイカーが行ってきたことの意味とは?

心の中で、その答えはとうに見つかっていた。



それは、俺が“嫌いなゾイド”を殺すため、“嫌いなゾイド”を利用し、それを実行に移すための手段。

彼らの言う戦いの定義とは、おそらく大きくかけ離れたものだったハズだ。








そんなかつての“戦い”はいつしか、俺とリーゼから居場所を奪うという結果を招いていた。


プロイツェンに加担し、ジェノブレイカーがエボリューションコクーンから覚醒して以降、俺は多くの基地やゾイドを破壊した。

その過程で、俺は一切の容赦をしなかった。

当時の敵の生き残りは、自身の目で見たそのような様を、周囲の仲間や集落へ言い広めて行ったのだろう。


デスザウラーとの戦いが終わった後、彼らにとっての恐怖の象徴でもあった俺とジェノブレイカーを心から受け入れてくれる集落や街など、どこにもなかった。

争乱の当事者であったリーゼもまた同じで、そのことから俺の旅に同行をしている。








だが、この村の連中は俺達のことを何も知らなかった。

あの戦い以降、初めてのことだ。

辺境に築かれた小さな村ではあるが、ここは活気に溢れ、住人も心の豊かな人間ばかり。


昨夜、リーゼが言おうとしたことの意味はよく分かっている。

おそらく彼女は、この村に“居場所”を感じ始めているのだろう。








だが……もし村の住人たちが、かつて俺たちの犯した過ちを知るようなことがあったなら。

俺もリーゼも、再び拒絶を受ける事態となることは目に見えている。



本当はそれが、俺にとってたまらなく怖かった。

そして、そんな俺のエゴによって、リーゼの願いを聞き入れてやれなかったこと。

それがたまらなく、情けなく思えた。



村一帯に溢れる活気との温度差に、この時の俺はただ身震いをするしかなかった。



……
…………
………………




一旦ここまでです。





男性『んじゃ、始めっか』

男性『夜には祭りもあるし、今日は適当なところで引き上げるぞー』

『了解!』

レイヴン「了解」



翌日の朝、針葉樹の立ち並ぶ森の中。

俺は村長のガリウスに乗って、四度目の伐採に出ていた。








最初にディマンティスの残骸を発見して以降、俺は奴らに関する手がかりの一切を掴めずにいた。

もし、奴らが既にこの森から撤退したというのであれば、それは何も問題の無いことだ。

だが……俺の直感はそれを否定している。

おそらく、この森でまだ、何かしらの活動を行っているはずだ。








男性『おい新入り、今日はこっちだぞ』

レイヴン「……あぁ」

男性『しっかりしてくれよ。こんな日によそ見で怪我でもされちゃ、縁起が悪いからなぁ』

レイヴン「……」



男性『それにしても、よかったな』

レイヴン「?」

男性『あれから一週間が経つが、兄ちゃんを襲ったゾイドは一度も現れなかった』

レイヴン「そうだな」








男性『まぁもっとも、こんなオラたちを襲ったところで』

男性『そいつにとって、一体何の得になるってい……』



『う、うわぁぁぁぁ!』



レイヴン「ッ!!」

男性『な……!』








男性『この通信は……スタンリーのスピノサパーだ!』

男性『おいスタンリー!何が起こった!』


『た、助けてくれぇ!』

『見たこともねェゾイドが、群れでいきなり襲ってきやがったんだ!』


男性『ゾイドが!?』

レイヴン「……くっ」

男性『ってえと、まさか』

レイヴン「あぁ……」








『う、うああああぁぁぁぁ!』

男性『ス、スタンリー、逃げろッ!』


レイヴン「……彼のいる場所を教えてくれ」

男性『なっ……え、えっと、たしか……ここより北西におよそ1kmのところだが』

レイヴン「そうか……」

レイヴン「あんたは仲間を連れて、早く村に戻るんだ」

男性『!』








ガリウスのコックピットに備わった、旧世代型の操縦稈を強く引き倒す。

そして、機体は手持ちのチェーンソーユニットを保持したまま前方のグスタフに背を向け、その足を一気に走らせた。


男性『お、おい!無茶だ!』

男性『そんな旧式のゾイドじゃ……おい!』


通信機からは、焦る男の声が響き渡る。

だが、事態は一刻を争う。村に戻っている暇はない。


……それに、これは手がかりを掴む好機でもあるんだ。


……
…………
………………



一旦ここまでです

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