過ぎし疎まれ化け故郷 (5)


白く照る砂道、空色の晴天に、半透明のセミの音圧。

"夏の風物詩"、と言えば聞こえはいいが、何分、暑い。
夏の情景をどれだけ綺麗に呼称しようと、暑さという不快感がすべてを台無しにしてしまっていた。

砂道をジリ、と踏みしめて立ち止まる。
そうだ、この感覚。

物理的には間違いなく"明るい"。
夏の昼なのだからそれはごく自然の事であるが、しかし、そこに強烈な違和感がある。
決して、初めてではない。僕はこの感覚を知っている。思えばこの感覚を久しく忘れていた。

「……あのときはこれにずっと浸かっていたのか」
漏らす。
十数年間の空白のせいか、違和感が一層、濃く感じる。


ああ、帰ってきてしまった。
僕の故郷に。

呪われたこの村に。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1471487316

ここで簡単に自己紹介を一つ。
僕の名前は渡(わたる)。今年、大学を卒業した。

僕はかつて、この村に住んでいた。生まれもこの村らしい。
しかし、八歳を迎えた年のある日、「ある事」が起きた。

ある事。或いは不思議な現象、怪奇現象とも言い換えていいだろう。大人達はその事を"しゅうだんしんり"だとか言っていたが、それはともかく、それが原因で僕はこの村から出る事になった。
そして、それには、先程の"違和感"が大いに関係する。



「確か……、この方だったか」

記憶の限り、頭の中に村の全体図を描く。
たしか、今歩いている砂道は、村の中央で交わる形で十字路になっており、四つの道がそれぞれ東西南北に村の外へと伸びている。
東西の道を基点に以南は川が近いため畑が多く、それより北は家屋等が点在する。その背に小高い山があり、その山頂には神社がある。

そして記憶が正しければ、目的のものは北の山、神社の方向にある。

「……よし」

気を引き締める。
僕は今から賭けに出る。


神社に続く石段は、北の道から山に向かい、そこから少し横に逸れた場所にあった。

「これは……あぁ鳥居か。古ぼけたなぁ。赤色もほとんど抜けてる」

石段の始まりの目印となるはずの鳥居は、一見、それが鳥居だと分からないほどに老朽化していた。それでも迷わず辿り着けたのは子供の頃の記憶か、それとも違和感の根源を察知してか。

鳥居を潜り、石段に足を掛ける。

まずは、一段目。


と、


「……ッ」


足が重くなる。呼吸が不規則になる。何かに触れ、立ち入った事を理解する。
先程の違和感が、今度は確かな圧として胸を押す。

「っ、今の僕はもう、よそ者ってことなのか?」

えも言われぬ拒絶感。
それを押し切って、次の足を二段目へと。

「さすがに覚悟してたけど……これはきついな」

三段目、四段目と、勢いのまま登る。境内の入り口に立つ鳥居はまだ見えない。
しかし、今、目指す場所は境内にない。十数段登った、山のその中腹辺りで横に逸れる。


子供の頃は、秘密基地に憧れを持ったものだ。
かくいう僕も、子供の頃に友達と一緒になって秘密基地ごっこをしていた。
今、向かうのはその秘密基地。
そして、「ある事」の発端となった場所。

秘密基地は大人達に見つからないところ、ということで、神社の石段を途中で横に逸れた先、つまりは山中に作った。
万が一、自分達が辿り着けなかったり逆に帰れなくなったりしないように、一定間隔で木の幹にミサンガを括り付けてそれを目印にしていた。僕は改めてそのミサンガを辿りながら目的地を目指す。


見えてくる。
木の板を組んだだけの簡素な小屋。それが僕たちの秘密基地。


「変わらないな」

覚悟を決めていたはずなのに、思わず懐かしさを感じてしまう。
しかし、これは賭けだ。ここから先は身の保証はない。
秘密基地、小屋に入る。木造の割に思ったよりは朽ちてはいないものの、やはり埃が酷い。
少々、咳き込みながらも、床のとある一箇所、その板を外す。

「……、あった、あったぞ」

お菓子の缶。タイムカプセルだ。
錆びかけた蓋を開けると、ありがちな未来の自分に宛てた手紙や、一緒に入れていたおもちゃが出てくる。

その中に明らかに異質な小物が一つ。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom