俺「しかし、面接では何をどうしたらいいか、全然分からん」


俺「バイトとかも、面接の無かった単純なヤツしかしてないし、」


俺「困ったなぁ……」


俺「とりあえず、ネットで面接対策を調べてみるか」

俺「よし、簡単に調べたが、大事なのはここら辺かな？」


・なるべく簡潔な言葉で、自分の熱意を伝える


・自己ＰＲは長所を述べるものである。自己紹介ではない

・耳触りのいいスローガンに頼ってはいけない。具体性を出すこと


・グループディスカッションなどでは、他者の批判は極力控える

・応募する企業、職種に関しては、しっかり下調べすること


・何を言うかだけでなく、堂々とした姿勢・態度をすることも大切

・志望動機は、お手本やテンプレをそのままパクらない

俺「こんなもんかな？」


ぐぅぅぅ

俺「もうこんな時間か。お腹へったな」

俺「コンビニで、何か買ってこようか」

＜駅前広場＞



＼わあああああああああああああああああああああ／



俺「あれ？人だかりができてる？」

俺「イベントでもあるのかな？」


ｱﾅｳﾝｽ『合同演説会、まもなく始まりまーす！』


俺「合同演説会？」


ｱﾅｳﾝｽ『来る１０月２２日、州議院総選挙が行われます！』

ｱﾅｳﾝｽ『今日は広場で、コノ地区から立候補した候補者による、合同演説会を行います』

ｱﾅｳﾝｽ『是非とも、候補者さんたちの、熱い思いを、聞いていってくださーい！』


俺「あれ？ こないだも選挙してたけど、またやるんだ選挙？！」

俺「しかし、選挙かぁ……」


俺「ある意味で選挙って、議員志望の候補者が」

俺「有権者という採用面接官を相手に繰り広げる」



俺「大規模な就職活動と言っても、過言ではない……」



俺「……かもしれない」

俺「よし、今日は暇だし」

俺「面接のコツとか分かるかもしれないし」

俺「聞くだけ聞いてみようかね」






ｱﾅｳﾝｽ『それでは、合同演説会を開催いたしまーす』

＼わあああああああああああああああああああああ／

ｱﾅｳﾝｽ『みなさま！ 本日はようこそ駅前広場にお集まりくださいました』

ｱﾅｳﾝｽ『２２日投票の州議院選挙にコノ地区より立候補された４名による』

ｱﾅｳﾝｽ『合同演説会を、これよりスタートいたしま～す』


俺「……」


＼わあああああああああああああああああああああ／

ｱﾅｳﾝｽ『では早速始めましょう。演説は届け出順にお送りいたします！』


ｱﾅｳﾝｽ『最初の候補者は、Ａ党元職候補　会位 植男さんです！』


アイ候補「どうも皆様、ご紹介に預かりました、Ａ党のアイでございます」


俺（なんか、普通のオッサンだな）



アイ候補「簡単に自己紹介いたしますと、元々、私はコノ地区港町で、」

アイ候補「鉄工所を営んでおりました」


俺（へぇ、地元じゃん）


アイ候補「ですが、１５年前のサラリーマンショックにより倒産」


俺（あらら）

アイ候補「何とか借金は返したものの、無一文になった私なんですが」

アイ候補「Ａ党の幹部である太刀 津手兎議員から声を掛けられ、政界に進出いたしました」

俺（ふーん、山あり谷ありだな）


アイ候補「ずばり私が目指したい理想とは、ウソのない、皆で支え合う社会です！」


アイ候補「ここ数年、株価や為替といった経済指標は回復しておりますが、」

アイ候補「実際のところ、経済を支える“産業”、こちらは地盤沈下が著しい状況です」


俺（ふむふむ）


アイ候補「企業は人手不足に悩むものの、しかし労働者も良い企業に就職できない」

アイ候補「ブラック企業には就職できても、過酷な労働で心身を病む事例が多すぎます」


俺（ホントこれ）


アイ候補「人口減少時代の今、そうでなくとも、こんな事件はあってはなりません！」

アイ候補「私が当選した暁には、過重労働ゼロの実現を目指します」


アイ候補「そして企業活動と福祉のバランスの良い、持続可能な経済発展を行い、」


アイ「国民の生活に、ムリ・ムラ・ムダの生じない、安定した国家を実現させます！」




俺（……よく分からないところもあるが、）

俺（まぁ普通の候補者さん、という印象を受けた）

司会「ありがとうございました。それでは、質問の方ございませんか？」

ノ

司会「はい、ではそこの主婦さん、お願いします」


主婦「あのー、企業活動と福祉のバランスをとるとのことですが、」

主婦「福祉に充てる財源といったものは、どうお考えですか？」


アイ候補「ご質問、ありがとうございます！」

俺（どう答えるんだろ？）


アイ候補「福祉の財源は、なかなか根の深い問題であります」

アイ候補「年間１兆のペースで増える社会保障費は、この国のアキレス健でしょう」

アイ候補「玉虫色の回答になりますが、各方面の歳出を少しずつ削り、」

アイ候補「そこから社会保障費、福祉の財源に充てることを考えております」


＼ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ／


司会「ありがとうございました。では時間ですので次の候補さん、お願いします」




俺（……良くも悪くも普通の候補だったなぁ）

俺（普通っぽくて、まじめな感じで、目立たなそう……）

ｱﾅｳﾝｽ『次の候補は、Ｋ党新人候補　夏季 くけ子さん、どうぞ～』


カキ候補「やっほー☆ミ みんな元気ぃ！？ くけ子だよ～♪」


俺（うわ、何だコイツ！ 放送事故だろ！！？）

俺（……あれ、どっかで見たような？ ハーフさん？？？）


カキ候補「くけ子の経歴は～」

カキ候補「パパはメリカ人で～、ママはお公家さんの末裔！」


カキ候補「西アザブ出身で～　３歳からニューヨクーで暮らしてた帰国子女でーす！」

俺（……）

カキ候補「そんで、中学からこっちに帰ってきて、１５歳からアイドルしてました～」


俺（……あぁ、テレビで見た顔だったわ）

カキ候補「ハタチで引退したけど、今度は政治家になって、みんなの注目を集めま～す！」


カキ候補「そんなくけ子のマニュフェストは～、ズバリ、移民１０００万人！」

俺「んな無茶な」


カキ候補「“合言葉はグローバル”をスローガンに！」

カキ候補「この国を、リッチな社会にしてみせま～す」


＼ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ／


司会「……は、はい。ありがとうございました」


俺（司会の人、ちょっと引いてる）

司会「えー、それでは質問の方を……」


カキ候補「あ、ダメダメ！ 質問は事務所を通してね☆ミ」


司会「……はい、それではカキ候補でした」

俺（コイツ絶対に当選しないわ、最下位決定だな）



ｱﾅｳﾝｽ『それでは３番目の候補、Ｓ党新人 鎖死　酢瀬素さんです！』


サシ候補「ハイハイ、どうも～ Ｓ党のサシです～」


俺（……西部の人？）

サシ候補「みなハン、最近の政治はおかしいと思いまへんか？」


サシ候補「野党はお蕎麦の話ばっかりで、１日１０億の議会費用をムダにしてます」

俺（そうなのか？）

サシ候補「与党も、１回１０００億掛かる選挙を連発させて、ムダ遣いばっかりや！」

俺（へー、そんな掛かるんだ）


サシ候補「最近の政治家は、頭が乏しいとしか思われヘンわ、ホンマもう！」

俺（ｄｉｓりまくりだな）



サシ候補「こんな風潮は、一気に変えなアキマヘン！」

サシ候補「ワイが当選した暁には、社会保障費含む全歳出を毎年５０％カットしてきます！」

俺（えぇ、やれるの、そんなん？？）

サシ候補「そして核兵器を所持し、核ミサイルによる敵国首都への先制攻撃を憲法で可能にします！！」

俺（えええええええ！？？）


サシ候補「みなハン！ ぜひとも、このＳ党 サシに清き１票をお願い申し上げま～す！！！」

＼ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ／

司会「それでは、質問ある方……はい、そこの外国人さん」

外国人「アノ～、歳出カット～ 無理がアルと思いマース」

サシ候補「あぁん！？」

外国人「ソレに、敵国首都の核攻撃ハ、国連憲章違反デース！」

サシ候補「うっさいわボケェ！ 母国にカエレ！！」

外国人「オゥ、ｶﾅｼー…………(泣)」


アイ候補「いや、それは酷すぎませんか！」

カキ候補「そうよ、“合言葉はグローバル”よ！」

サシ候補「何じゃお前らも！出張ってからに！！」


俺（うわぁ……）


司会「み、みなさん、落ち着いて」

ｱﾅｳﾝｽ『そ、それでは最後の演説に参ります』

ｱﾅｳﾝｽ『Ｈ党現職候補、羽灯 不辺歩さん、お願いします』


ハヒ候補「は、はひっ…………はひっ…………！」


俺（？）

ハヒ候補「は、はひっ！ はひっ……！！！」

司会「ハヒ候補？？」

ハヒ候補「ははははははは……」

ハヒ候補「ひひぃぃぃｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」

司会「！？」


俺（なんだコイツ、コミュ障か！？）

俺（いや、いやいや！！！）


司会「ハヒ候補、公約などありませんか？」


ハヒ候補「こうや、公約は…………！」


俺（が、がんばれ、ハヒ候補！）

俺（俺もコミュ障だし、喋りが下手でも、いいこと言うなら支持するぞ！）



ハヒ候補「ま、前の人が、言てたのと、同じ……にしろって秘書が、だから」

俺（え？）

ハヒ候補「か、核ミサイル開発に……移民一億人に……ざ、残業代ゼロ…………」




俺「……」

司会「……」

ｱﾅｳﾝｽ『……』


＼ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ／

ｱﾅｳﾝｽ『はい、それでは全候補、演説ありがとうございました』

ｱﾅｳﾝｽ『これで、本日のプログラムは終了です』


ｱﾅｳﾝｽ『１０月２２日は、選挙の投票日です』


ｱﾅｳﾝｽ『みなさま、こぞって投票に行きましょう！』



俺「……やばい、ヤバみが半端ない」

＜俺の部屋＞

俺「……あれから、４候補のＨＰやネット情報調べてみたけど」


俺「アイ候補は、いたって普通、ほんとにまとも」

俺「特に文句もない、しっかりした候補に見えた！」


俺「カキ候補は、ふわっとしてて、よく分からん」

俺「公約とかも載ってないし、本当になんだコイツ……」


俺「サシ候補は、勇ましいし、分かりやすい公約掲げてるけど」

俺「出てる数値が捏造だったり、パワハラ訴訟抱えてて、信用ならん……」


俺「ハヒ候補は、世襲候補なんだな。父親が元大臣」

俺「ホムペは親の功績しかないし、薬物疑惑があるとか……」


俺「まともなの１人しかいないじゃん！」

俺「何だコレ、そこら辺の就活生のがマシなんじゃねーの？？？」

俺「あー、もうどうなってんだ！」


俺「こちとら就活生！ エントリーシートや面接対策で四苦八苦してんのに！！」


俺「なんで明らかにおかしい奴が、国政の場に出ようとすんだよ！！！」


俺「あー、もう！ 嫌になった！！ ホントいやになったわ！！！！」


俺「もういい！ 勝負は明らかだし、次の投票は棄権してやる！！！！！！！」



――しかして悲劇は起こる

＜１０月２２日・テレビの前＞


俺「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ！」



テレビ『ハヒ候補、当選おめでとうございます！！！」


俺「そんな馬鹿な、得票結果は！？」



　　Ｈ党　ハヒ候補　114,514票　　当選

　　Ｓ党　サシ候補　 77,777票　　比例当選

　　Ｋ党　カキ候補 77,654票　　比例当選

　　Ａ党　アイ候補 33,433票　　落選


俺「うえええええええええええええええええ！？？？？」

ｱﾅｳﾝｻｰ『評論家さん、この結果をどう見ます？』

評論家『はい、今回の選挙は短期決戦でしたから』


評論家『与野党問わず、組織力や知名度、資金力の高い候補が順当に票を伸ばし、当選してます』

評論家『これはコノ地区に限らす、全地域共通の傾向ですね』


ｱﾅｳﾝｻｰ『公約や、候補の資質が疑問視される人が多数当選しています』

ｱﾅｳﾝｻｰ『制度上の問題を指摘する声もありますが……』

評論家『制度もですが、テレビが目立つ候補ばっかり追いかけて映しちゃいますし、』

評論家『有権者の大半もテレビを見て、何となくで決めますからｗ』


ｱﾅｳﾝｻｰ『ネット上では、選挙やり直しを求める声すら出てますが』

評論家『ネット民なんて引きこもりのコミュ障ですから、大勢には影響しませんｗｗ』


評論家『文句があるなら、リアルで声に出さないと！』


ｱﾅｳﾝｻｰ『はぁ』



評論家『まぁダメ議員ばかり当選するのは、マスコミや有権者の責任ですよｗｗｗ』

俺「……終わった」








俺「……この国は、もう終わりだorz」

俺「……はぁ。もう、とにかく心配だ」




俺「……俺の就職活動でも、個人の資質じゃなく」


俺「良家の出身や、威勢のいい体育会系、外面のいいヤツとかが優先されて」


俺「俺みたいな奴は、切り捨てられるんじゃねぇだろうなぁ……」

――だが、悪いことは長くは続かない


＜年末・議会＞


記者Ａ「首相！ ハヒ議員の薬物乱用疑惑についてどうお考えで？」

首相「ノーコメント！」


記者Ｂ「首相！ マム議員の不倫や給与未払い問題は如何ですか！？？」

首相「知りません！！」

記者Ｃ「首相！ ヤヨ議員は秘書の殺人疑惑で警察から捜査されるとは本当でしょうか！？？？」

首相「警察に聞いてください！！！」


記者Ｄ「首相！ 首相も多くの疑惑がありますがぁぁぁぁぁぁ！！！！！！！」

首相「ああああああああああああ知るかボケぇぇぇぇぇぇぇ！！！！！！！」



首相「ワシもこんなメンツが揃うとは思わんかったんじゃぁぁぁぁぁぁぁ！」



首相「そんなん言うなら、もっかい議会解散じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」

首相「バッキャロォォォォォォ！！！！！！！！！！！！！！！」


＜終＞

【ダメ議員ばかり当選するのは、マスコミや有権者の責任ですよ】

が言いたかった


何に関しても、本人の属性じゃなく、

本人のやる気や能力を見て評価しないと、アカンくなると思います

（ちなみに、作者は就活生ではありません）



各陣営ともに、とんでもないスキャンダル持ちが堂々と出馬してて唖然


テレビはともかく、ネット上や事情通の間では散々指摘されてるにも関わらず

でも殆どの人はそれに気づかず投票して、最悪の場合は当選


当選後に問題発覚して、スキャンダル追及で議論が空転することがまた増えそうで

まさしく酷なんですが。本当にありがとうございました。


これ読んで思うトコある人は、

是非とも、自分の地域の候補を調べてみてください（´・ω・`）