卯月「天使と悪魔がやってきた」 (48)

こんばんは、私はほたるって言います、天使です。

神の使いとして、みんなに幸せを届けられるよう毎日頑張っています!

……頑張ってはいるんです。

……でも、なかなかうまくいかなくて。

やることなすこと、全部裏目に出ちゃって……。

……うぅ。

このままだと、もしかしたらもう天使として働けなくなっちゃうかもしれません。

人を幸せにするのが天使なのに、まったくできてないから……。

……。

……でも、このまま何もしなくても、天使として働くことはできません。

だから、頑張らなくっちゃ。

今度こそ、ちゃんと幸せを届けられるように……!

今回は……えっと、あの家の人ですね。

名前は……えっと、卯月さん。

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こんばんは、私は茄子っていいます、悪魔です♪

今日も今日とて、人の不幸を食べてます、とっても美味しいです♪

……って一度は言ってみたい台詞です。

実は私やることなすこと全部好転しちゃうんですよね。

不幸にしてやろう!……って思っても、ぜんぜんできないんです……むしろみんな笑顔になっちゃう。

だから私はひもじい毎日を送ってます……自分のひもじいっていう不幸を食べてなんとか

自給自足できてます

いつまで続くんでしょうか、この生活。

いつまで続けられるんでしょうか、この生活。

……。

……今日こそ美味しいご飯にありつくためにも、頑張らないと。

うーんっと……うん、あそこの家の子にしましょう♪

名前は……えっと、卯月ちゃん♪

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


卯月「私はぱにゃごら太です!」

卯月「そこらへんのぴにゃごら太より偉いんです!」

「ぴにゃーっ!」

卯月「ふふん!」ドヤ

卯月「みんなもっと私にひれ伏してくださーいっ!」

「ぴぴぴにゃーっ!!」

卯月「ふふん!!」ドヤ

卯月「イェイっ!」

「ぴにゃにゃーっ!」

卯月「えへへっ、ありがとうございますっ!」

「ぱにゃごら太」

卯月「あっ、パパ!」

「こらこら、ばにゃごら太様って呼ばなきゃですよ」

卯月「ママも!……じゃなくて、はにゃごら太様」

「うふふ……」

卯月「それで……えっと、何の用?…………でしょうか?」

「少し重要な話があるんだ」

卯月「重要な話?」

「ええ」

「実は私は」

「実は私は」

「天使なんです」

「悪魔なんですよ~♪」

卯月「……へ?」

「今正体を見せますね」

「今正体を見せますね~♪」

「ふふふ」バリバリバリ

「うふふふ」バリバリバリ

卯月「……きゃ」

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卯月「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!?」ガバッ

卯月「……あれ、夢?」

卯月「あ、そっか夢だったんだ……よかった……」

卯月「……はにゃごら太様もばにゃごら太様も無事なんですね……」

卯月「腹が割れて人が出てくるのは夢だったんですね……」

卯月「……」

卯月「はにゃごら太様って何……!?」

卯月「うぅ……なんかすっごい変な夢見ちゃった……」

茄子「へぇー、どんな夢だったんですか?」

卯月「あ、えっとね……私がぴにゃごら太族の王女様になっててー」

ほたる「王女様ですか……すごい」

卯月「ふふっ、私ってそんな立場に立ったことはないのでちょっと楽しく――」

ほたる「……?」

茄子「どうしましたか~?」

卯月「――きゃ」

卯月「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

卯月「えっ、だ、誰、誰ですか!?」

ほたる「あ、私は――」

卯月「変質者……ストーカー……はっ、もしかして強盗!?」

茄子「私は――」

卯月「きゃ、きゃあああっ、助けて、助けてくださいっ!」

卯月「へんたい、へんたいですっ!」

ほたる「あの――」

卯月「あのっ、私、私ぜんぜん美味しくないですから!」

卯月「だからっ、えっと……あ、そう、私のママも、パパも美味しくないですからっ!」

茄子「あの――」

卯月「だから見逃してくださいっ!」

ほたる「――ど、どうしましょう?」

茄子「一度落ち着かせないとですねー」

茄子「卯月ちゃーん、落ちついてくださーい」

卯月「はっ、な、名前まで知られてる……」

卯月「どうしよう……もう逃げられません……!」

卯月「う……うぅ……!」

卯月「……わ、わかりました」

卯月「に、煮るなり焼くなり好きにし……し……」

卯月「やっぱり無理ーーっ!!!」

茄子「……」

ほたる「……」

「卯月ー……? さっきから騒いでるけどどうしたのー?」

卯月「あっ、ママ、あのね、部屋に変な人が!!」

「変な人……?」ガチャ

卯月「ほらっ、強盗……かはわかんないけど、とにかく変な人たち!」

ほたる「強盗……」

「えっ……どこ?」

卯月「どこって……ほら、そこ! そこに二人いるでしょ!」

「……?」

茄子「イェーイ♪ ほら、あなたも♪」

ほたる「えっ……い、いぇーい?」

卯月「ほら、そこで二人でピースしてる!」

「……?」

「何もいないわよ?」

卯月「えっ……」

「寝ぼけてるんじゃないの……もしかして変な夢でも見たんじゃない?」

卯月「え、あ、うん……変な夢は見たけど……」

「そう……ふふ」

「怖い夢で叫ぶなんて卯月もまだまだ子供ね」

卯月「こっ、子供じゃないもん!」

「ふふ、一緒に寝る?」

卯月「一人で大丈夫だもん!」

「そっか……じゃ、おやすみ、卯月」

卯月「……うん、お休み」

卯月「……」

卯月「……ママには見えない……ってことだよね?」

卯月「……もしかして、これ、私の幻覚……?」

茄子「いえ、違いますよー♪」

卯月「わっ、しゃべった……!」

ほたる「……一応さっきも会話したんですけど」

卯月「あ……そ、そうでした……」

茄子「……どうやら落ち着いたみたいですね」

卯月「うん……」

卯月「ママも起こしちゃったから……静かにしないとだし……」

茄子「ふふっ」

ほたる「それで、えっと……あの、私の――じゃない、私たちの話、聞いてくれますか?」

卯月「あ、うん……」

ほたる「ありがとうございます、それじゃ……」

茄子「あ、先いいですよー♪」

ほたる「あ、はい……」

ほたる「……えっと、私ほたるって言います」

ほたる「あの、私、天使なんです」

卯月「……天使?」

ほたる「はい」

ほたる「……卯月さんに幸せを届けに来たんです」

卯月「私に……?」

卯月「な、なんでですか?」

ほたる「神様が、今度はこの人を幸せにするように……って言ったんです」

卯月「神様が……」

ほたる「だから、卯月さんはラッキーなんです」

卯月「あ、そうなんだ……へぇ……」

ほたる「……たぶん」

卯月(たぶん……?)

卯月「……え、えっと」

卯月「あなたもそうなんですか?」

茄子「あ、いえ、私は真逆ですね」

卯月「……真逆?」

茄子「私は茄子って言うんですけど」

茄子「あなたに不幸を届けに来た悪魔です♪」

卯月「……あ、悪魔!?」

茄子「はい。がおー♪」

ほたる「その鳴き声は悪魔とはちょっと違うと思いますが……」

卯月「……本当に悪魔なんですか?」

茄子「信じられませんか?」

卯月「はい……あまり、悪魔って感じはしません……」

茄子「じゃ、これでどうでしょう」バサッ

卯月「わっ!?」

茄子「羽だけじゃなくて、こんな尻尾も生やせたりしますよ♪」ヒョイッ

卯月「わわっ!」

茄子「ふふ、これで信じてもらえますか?」

卯月「は、はい……あの、触ってみてもいいですか?」

茄子「どうぞ~♪」

卯月「わっ、ありがとうございます!」

卯月「わぁ……こんな触り心地なんだ……」

茄子「うふふ、たっくさん撫でてくださいね♪」

茄子「……その分、卯月ちゃんがどんどん不幸になってくので」

卯月「うえぇっ!?」バッ

茄子「ふふふ……もう遅いですよ」

茄子「今くらいの時間だと……ここ2週間はずっといいこと起こらないはずです♪」

卯月「そ、そんなぁ……」

茄子「ふふふ……♪」

ほたる「……う、卯月さん」

卯月「うぅ……な、なんでしょうか……?」

ほたる「……えいっ」バサッ

卯月「!」

ほたる「あの……私の翼に触れたら、たぶん帳消しにできるはずです」

ほたる「天使の翼は悪魔の羽と違って、触れたらどんどん幸せになってくはずですから」

卯月「そうなんですか?」

ほたる「はい……あの……た、たぶん……」

卯月「やった!」

卯月「じゃ、触らせてください!」

ほたる「どうぞ……」

卯月「わぁ……天使の翼ってこんな感じなんだ……わぁ……」

茄子「あら、残念」

茄子「せっかく卯月ちゃんを不幸にできると思ったのに」

卯月「……ふぅ、たっくさん堪能しました!」

ほたる「それはよかったです……ふふ」

卯月「これで、私はしばらく幸せになれるんでしょうか?」

ほたる「たぶん……そうなってくれるとうれしいですけど……」

卯月「……?」

茄子「さっきから『たぶん』が多いですね?」

ほたる「……う」

ほたる「……」

ほたる「……あの、実は私――人に幸せを届けられたことが一回もないんです」

卯月「えっ……?」

卯月「でも、幸せを届けるために来たって、さっき――」

ほたる「あ、はい、本当にそのつもりで来てるんです!」

ほたる「でも……何をやっても裏目に出たりして……最終的にお前なんかいないほうがよかったって言われることも多くて……」

ほたる「今まで人を幸せにできた試しがなくて……」

卯月「えぇ……」

茄子「ほたるちゃんもですか!?」

ほたる「……も?」

茄子「実は私、ほたるちゃんとは真逆で人に幸せしか届けられないんです!」

卯月「えっ……」

茄子「どんなことをしたって、結果的にいいことにつながって……毎回毎回ありがとうって言われるんです」

茄子「私が欲しいのはそんな感謝の言葉じゃないのに……」

茄子「だから、私ほたるちゃんのこと、すっごくよくわかります!」

ほたる「……わ、わかってくれますか!」

茄子「もちろんっ!」

ほたる「わぁ……!」

ほたる「わっ、私も茄子さんの気持ちよくわかります!」

ほたる「自分がやってることが裏目に出続けるって悲しいですよね……」

茄子「はい……悪いことやってやろーって思ってるのに……」

ほたる「私の場合はいいことですけど……」

茄子「でも、感覚的には同じ感じですよね?」

ほたる「きっと……ううん、絶対に……」

茄子「……私、ほたるちゃんとなら魂の友になれる気がします」

ほたる「私も……天使と悪魔って真逆の立場でも、茄子さんとなら……」

茄子「ふふ、茄子さんじゃなくて茄子でいいですよ、ほたるちゃん」

ほたる「あ、じゃあ私もほたるで……」

茄子「ほたる……」

ほたる「茄子……」

茄子「……」

ほたる「……」

茄子「ほたる!」ダキッ

ほたる「茄子!」ダキッ

卯月(……天使と悪魔が私の前で抱き合ってます)

卯月(なんなんでしょうか、これ)

卯月(……)

卯月(……全部長い夢だったりしないかなぁ?)

ほたる「一緒に頑張りましょう……!」

茄子「ええ……私は不幸を、ほたるは幸せを届けられるように……!」

卯月「……あのー」

ほたる「!」

茄子「!」

ほたる「ご、ごめんなさい、卯月ちゃんをほったらかしにしてて……!」

茄子「つい、こっちで盛り上がってしまいました……」

卯月「いえ、別にそれはいいんですけど……」

卯月「……あの、二人とも、私以外のところに行ってもらうっていうのはダメなんですか?」

ほたる「えっ……?」

卯月「その……私も不幸になりたいわけはないので……」

ほたる「いやっ、あの、絶対に不幸にはしないので! 幸せにするので!」

卯月「でも、さっき、幸せにしたことはないって……」

ほたる「あ、あれは今までの私の話です! 今回からは大丈夫なはずです!」

卯月「はぁ……」

卯月「……じゃ、じゃあえっと……茄子さんは?」

茄子「いやです♪」

卯月「えっ……」

茄子「ふふ、私がいると不幸になるかもしれないなら、私がいなくなるわけないじゃないですか」

茄子「私は不幸が欲しいんですから、ふふっ♪」

卯月「……」

茄子「これからよろしくお願いしますね、卯月ちゃん♪」

ほたる「よっ、よろしくお願いします、頑張りますから!」

卯月「……」

卯月(……こうして、私のところに天使と悪魔がやってきたのでした)

卯月「ふぁ……」

卯月「……あっ」

茄子「ふふ、かわいらしいあくびですね♪」

卯月「あぅ……」

ほたる「まあ……今深夜ですからね……しかも急に起こしちゃったわけですし」

卯月「起こした……?」

卯月「……ま、まさかあの変な夢を見せたのはほたるさんなんですか!?」

ほたる「いえ、私はちょっと揺さぶって起こしただけですけど……」

ほたる「そんなに変な夢だったんですか?」

卯月「はい……王女様になったのはよかったんですけど」

卯月「その後、私のお父さんとお母さんのお腹の中が割れて中から何かが出てきて……」

卯月「そこで起きちゃったので、何が出てきたかは見てないですけど……でもすごく怖かったです」

ほたる「あう……きっと私のせいですよね、その悪夢を見ちゃったの……」

ほたる「ちょっと起きて欲しかっただけなのに……ご、ごめんなさい……」

ほたる「うぅ……また……」

卯月「……」

茄子(……先にほたるが起こそうとしてましたから見守ってましたけど)

茄子(私がやってたら悪夢を見せる不幸をおこせたんでしょうか……)

茄子(……私がやればよかったかも)

卯月「えっと……と、とりあえず話は終わりですよね?」

ほたる「はい」

茄子「私もありません♪」

卯月「じゃあ……あの、私寝ますね」

ほたる「わかりました」

茄子「おやすみなさーい♪」

卯月「おやすみなさい……」ゴロン

卯月「……」

卯月「……」

茄子「……」

茄子「……それじゃ、私は歌いますね」

ほたる「!?」

ほたる「なっ、なんでですか!?」

茄子「もちろん、睡眠不足という不幸を届けるためです!」

茄子「それじゃ……~♪」

ほたる「あっ、ど、どうしよう……このままじゃ……」

ほたる「……そうだ、卯月さんの耳をふさげば……!」

ほたる「えいっ!」

茄子「~♪」

卯月「……」

ほたる「……!」グググ

茄子「~♪」

卯月「……」

ほたる「……!」グググ

卯月「……あ、あの、ほたるさん……耳元に手をずっと当てられると寝れないです」

ほたる「あっ……ご、ごめんなさい!」

ほたる「じゃあ……どうしよう……」

卯月「……それに」

卯月「茄子さんの歌……心地いいので、聞きながら眠りたいですし……」ボソッ

ほたる「!」

茄子「~♪」

ほたる「……」

卯月「……」

卯月「……すぅ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


卯月「ふぁ……」

茄子「おはようございます、卯月ちゃん」

卯月「ふぇ……?」

卯月(……あ、茄子さん……じゃあ、昨日のは夢じゃないんだ……)

卯月「あ、おはようございます……ふぁ」

茄子「ふふ、私の歌ですっかり寝不足ですか?」

卯月「……ううん」

茄子「あれ?」

卯月「茄子さんの歌声……とっても心地よくて……よく眠れました……」

卯月「もっと寝ていたかったくらい……ふぁ……」

茄子「……あれー?」

卯月「ふふ……」

卯月「……あれ、ほたるさんは?」

茄子「すぐ来ると思いますよ」

茄子「さっき卯月ちゃんがそろそろ起きそうだからって――」

ほたる「――あ、卯月さんおはようございます」ガチャ

卯月「あっ……おはようございます」

ほたる「あの……コーヒー淹れてきたんですけど、よかったらどうで――きゃっ!」コケッ

茄子「あっ!」

ほたる「いたた……あっ!」

ほたる「ごっ、ごめんなさい、卯月さん、大丈夫ですか……!?」

卯月「あ、はい私はかかってないので大丈夫ですけど……ベッドが……」

茄子「……汚れちゃいましたね」

ほたる「あうぅ……」

ほたる「ごめんなさい……」

卯月「いえ、その……気持ちはうれしかったですから」

ほたる「……うぅ……本当にごめんなさい……次からは気をつけます……」

卯月「……う、うん」

卯月「……」

卯月「……あと、あの……私、コーヒー苦手なので、できたら……」

ほたる「あっ……ご、ごめんなさい!」

卯月「いえ、これは……ほっ、ほら、ほたるさんは知らなかったんですし! そんな謝ることじゃないですっ!」

ほたる「いえ……私がちゃんと聞いておけばこんなことにはならなかったはず……」

ほたる「変にサプライズするんじゃなくて、起きた後に聞いて、それから持ってくれば……」

ほたる「うぅ……」

卯月「……え、えっと、とりあえず、これはママに言って洗ってもらうので、大丈夫です!」

卯月「で、私も怪我してませんし……ほたるさんも怪我してません……よね?」

ほたる「あ、はい……」

卯月「それに、カップも割れてない……結果的にシーツが汚れただけなので、大丈夫です!」

卯月「ママが洗えば落ちるはずですし!」

卯月「だから、大丈夫ですっ!」

ほたる「卯月さん……」

卯月「さ、朝ご飯食べに行きましょう、朝ご飯!」

茄子(……自分では洗わないんですね)

卯月「ママ、おはよう」

「あら、おはよう、卯月。もう少しで朝ごはんできるわよ」

卯月「はーい……あ、ママ」

「ん?」

卯月「その……ベッドにコーヒーこぼしちゃって……」

「あらそう……わかったわ。後で洗っておくわね」

卯月「うん、ありがとう」

「どういたしまして……それにしても、卯月がコーヒーねぇ」

卯月「……な、何?」

「ううん、何でも……ふふっ」

卯月「えっ、何? 何か思ってるでしょ!」

「べっつにー♪」

卯月「うぅ……!」

「ふふ……ほら、席に座って待ってて」

卯月「……はーい」

卯月「……うぅ」

卯月「絶対何か変な誤解されてる……」

ほたる「うぅ……ごめんなさい……私のせいで……」

卯月「あ、いや……」

卯月「……あ、そうだ。お二人はご飯食べるんですか?」

ほたる「……私は大丈夫です……基本何も食べないので」

卯月「あ、そうなんですか……」

茄子「私も大丈夫ですよー」グゥゥゥ

卯月「……あの、すごいお腹なってますけど」

茄子「これはいつものことなのでー♪」

卯月「……少し量多めにしてもらって、分けますよ?」

茄子「いえいえ、大丈夫ですよー」

茄子「というのも、私のおなかを満たすには不幸を食べないといけないので」

卯月「……不幸を?」

茄子「はい。私のせいで誰かが不幸になったとき、私のおなかは膨れるんです」

茄子「それ以外の要因じゃまったく膨れません……私以外の誰かのせいで不幸になった場合も含めて」

茄子「なので気にしないでください♪」グゥゥ

卯月「はぁ……」

卯月(……気にしないの難しいなぁ)

茄子「あと、もうひとつ説明しておくことがあるんですけど」

茄子「昨日見たとおり私の姿って誰にも見えないんですよ」

茄子「私が何をしても、誰も何も気づかないんです」

卯月「……そうですよね」

茄子「きっとほたるも同じですよね?」

ほたる「はい……例えばさっきのコーヒーだって、淹れてる時に卯月さんのお母さんが隣にいましたけど何のアクションも起こしませんでしたし」

卯月「へぇ……」

「卯月ー? ボーっとしてどうしたのー?」

卯月「えっ……あ、ううん、なんでもない!」

茄子「でも、それだけだとやっぱり不自然になるときもあるんですよね」

茄子「今みたいなときとか」

卯月「そうですね……ママから見たら今の私って虚空に話しかけてる変な人に見える……ってことですよね?」

卯月「……あれ? でも今、ボーっとしてたって……」

茄子「そう。そこなんです」

茄子「卯月ちゃん以外の人たちからは、私たちの行動って何かに置き換わっちゃうんですよ」

卯月「……置き換わる?」

茄子「はい」

茄子「たとえば、今だったら『卯月ちゃんが私たちと話してた』っていうのは『卯月ちゃんがボーっとしてた』に置き換わりましたし」

茄子「後は……さっきのコーヒーの話だと『ほたるがコーヒーを淹れて卯月ちゃんが飲んだ』が『卯月ちゃんが自分でコーヒーを淹れて飲んだ』に変わってると思います」

ほたる「……昨日の夜だったら、『私たち二人と話していた』が『怖い夢を見て錯乱していた』になっているはずです」

ほたる「もちろん、私たちがいないだけで自然なら、私たちがいないっていうところだけ変わると思います」

卯月「へぇー……」

「うーづーきー? 本当に大丈夫ー?」

卯月「あ、うん、大丈夫大丈夫!」

「もう……今日は急ぐんじゃないの?」

卯月「へ……あ、ああ、そうだった!」

卯月「急いで食べなきゃ!……むぐっ……むぐむぐ……!」

「うふふ……あんまり急いで食べちゃうと喉に詰まっちゃうわよ?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


卯月「それじゃ、いってきまーす!」ダッ

「いってらっしゃい」

卯月「はっ……はっ……!」

茄子「どこに行くんですか?」

卯月「へっ……?」

卯月「えっと……あの、今日ミニライブなんです」

ほたる「……ミニライブ?」

卯月「はい……その、私アイドルなので」

ほたる「アイドル……」

茄子「へぇ……そうだったんですね♪」

卯月「まっ、まだ駆け出しですけど……」

卯月「それで……今日はミニライブをする日――ごほっごほっ!」

ほたる「卯月ちゃん……!?」

卯月「はぁ……はぁ……は、走りながらしゃべるのって難しいですね……」

茄子「卯月ちゃんは私たちみたいに飛べませんからね♪」

卯月「人間は普通飛べません……」

卯月「ともかく今日はミニライブの日で……だから絶対に遅れたらいけなくて」

卯月「急がなきゃ……って」

茄子「……」

ほたる「……」

卯月「すぅ……」

卯月「……よしっ!」

卯月「それじゃ、また――」

ほたる「あ、待ってください!」

卯月「――わわっ!」

卯月「な、なんですか、ほたるさん……?」

ほたる「いえ……」

ほたる「……あの、よかったら。私の背中に乗っていきませんか?」

卯月「……へ?」

茄子「!」

ほたる「きっと卯月さんが走るより楽ですし……」

卯月「まあ、そうですけど……」

卯月「……いいんですか?」

ほたる「は、はいっ、任せてください……!」

卯月「……じゃあ、お言葉に甘えて」

茄子(……)

茄子(……いいこと思いついちゃった……)

茄子(でも、もう遅いかな……?)

ほたる「それじゃあ、屈みますので……」

ほたる「どうぞ……!」

卯月「……えっと」

卯月「ほ、本当に大丈夫ですか……?」

ほたる「大丈夫です……!」

ほたる「……」

ほたる「……はずです……!」

卯月「えぇ……」

ほたる「いや、大丈夫です……大丈夫です……大丈夫……」

卯月(自己暗示……?)

ほたる「……よし」

ほたる「さあ、乗ってください……!」

卯月「……」

ほたる「さあ……!」

卯月「わ、わかりました……」

卯月「それじゃ……よいしょっ」

ほたる「……っ」

ほたる「そっ、それじゃっ……が、がんばって……とびっ……!」

卯月「……あの、本当に大丈夫ですか……?」

ほたる「だ、大丈夫です……っ、今、立ち上がって……」

茄子(……すっごい震えてますね)

茄子(立ち上がれるんでしょうか……?)

卯月「……」

卯月「あの……やっぱり降りますよ……?」

ほたる「だっ、だいじょ――」

ほたる「――ふみゅっ!」

卯月「きゃっ!?」

茄子(あ、崩れちゃった)

茄子(でもこれで思いついたことできる……ふふ)

卯月「わっ……ご、ごめんなさい……!」

卯月「すぐどきます!」

ほたる「うぅ……ごめんなさい……非力な私でごめんなさい……」

卯月「いやっ、あの……ほ、ほら、私の方が背も高いですし! 仕方ないですっ!」

卯月「それに私は怪我してませんし……ほたるさんこそ、大丈夫ですか?」

ほたる「あ、私はぜんぜん大丈夫です……天使ですから……」

卯月「あ、そうですか……よかった……」

卯月(天使だからっていうのはよくわからないけど……)

ほたる「ごめんなさい……」

ほたる「せっかく卯月さんを楽させようと思ったのに……」

卯月「あ、ううん……その、気持ちはうれしかったですから!」

ほたる「気持ちは……」

ほたる「うぅ……私にもっと力があれば……」

卯月「……」

茄子「……力がほしいですか?」

ほたる「茄子……?」

茄子「ほたる……力がほしいですか?」

ほたる「わ、私は……」

卯月「……」

卯月(何か始まったけど……ほっといて行ってもいいのかなぁ……?)

ほたる「……ほ、ほしいです……!」

ほたる「卯月さんを背負えるくらいの力が……!」

茄子「そうですか……ふふ」

茄子「まあ、私に人を強くする力はないんですけど」

ほたる「えぇっ!?」

卯月(……なんで聞いたんだろ)

茄子「でも、ほたるの熱意に負けましたから」

茄子「今だけはほたるの願いを叶えたいと思います♪」

ほたる「……?」

茄子「……さ、卯月ちゃん」

茄子「私の上に乗ってください♪」

卯月「……へ?」

ほたる「!」

茄子「ふふ、ほたるの代わりに私が目的地まで連れて行ってあげます♪」

卯月「……」

茄子「私は体格も卯月ちゃんより大きいし、力もあると思いますから、大丈夫ですよ♪」

ほたる「……うぅ」

卯月「で、でも……茄子さんって悪魔なんですよね? 私を不幸にするっていう……」

茄子「そうですね……でも、今だけは、卯月ちゃんを幸せにしちゃおうかなって♪」

ほたる「茄子……」

茄子「さ、私の上に乗ってください」

茄子「このままだと本当に遅れるかもしれませんよー?」

卯月「……わかりました」

茄子「ふふっ」

茄子「それじゃ、どうぞ♪」

卯月「あ、はい……」

卯月「……あの、大丈夫ですよね?」

茄子「大丈夫ですよー♪」

卯月「……それじゃ……よいしょっ」

茄子「ふふ……乗りましたね」

茄子「よい……しょっと♪」スクッ

卯月「ひゃっ!」

ほたる「わっ、すごい……」

茄子「それで、どっちに飛べばいいですか?」

卯月「えっと……あっちです」

茄子「あっちですね。わかりました」

茄子「それじゃ、逆方向に飛びますね♪」

卯月「……へ?」

茄子「せーのっ!」

卯月「わ、わわわっ!?」

ほたる「茄子……!?」

茄子「それーっ!」

卯月「ひゃあああぁぁぁぁ!!!」

ほたる「わ、わわ、待ってくださいっ!」

茄子「はーっはっはっは! 引っかかりましたね!」

卯月「わわぁぁぁ、たっ、たかっ、高いっ!」

茄子「卯月ちゃんを目的地まで届けるなんて嘘です♪」

茄子「このまま、絶対遅刻しちゃうようなところまで飛んでっちゃいますよー♪」

卯月「ひぃぃぃ、おちっ、おち、落ちるうううぅぅっ!」

茄子「ふふっ、落ちないようにもしっかりつかまっててくださいね♪」

茄子「私も、卯月ちゃんを殺したいわけじゃありませんから」

卯月「はっ、ひゃあああぁぁぁ」グッ

ほたる「ま、待ってくださいーっ!」

ほたる「卯月さんを離してくださいーっ!」

茄子「離しちゃったら卯月ちゃんが落ちちゃいますよ?」

ほたる「あっ……」

茄子「それに、卯月ちゃんもぎゅって私に捕まって降りてくれませんし♪」

卯月「だっ、だって、だってぇ!」

茄子「ふふっ」ユラユラ

卯月「ひゃあああぁっ! ゆっ、揺らさないでくださいいいいぃぃっ!」

ほたる「じゃっ、じゃあ今からでも遅くないですから卯月さんの言う方に進んであげてください!」

茄子「それも嫌ですよー♪」

茄子「だって私は悪魔ですから、人の不幸になることをしなきゃですっ♪」

ほたる「それはそうですけど……!」

ほたる「……こうなったら、私が追いついて無理やり方向変えさせなきゃ……!」

茄子「ふふっ、ここまでおいでー♪」クネクネ

卯月「いやあああぁぁぁっ! 蛇行しないでくださいいいいぃぃっ!」

ほたる「待ってくださいーっ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



茄子「ふぅ……、この辺でいいでしょうか……?」

卯月「はぁ……はぁ……はぁ……こ、怖かったぁ……」

茄子「ふふっ、卯月ちゃんが指した方からはだいぶ離れちゃいましたね♪」

卯月「うぅ……ど、どこだろう……ここ……?」

ほたる「おっ、追いついたぁ……!」

茄子「あら、お疲れ様です♪」

卯月(とりあえず、スマホで場所を……)

ほたる「は、速すぎです……」

茄子「ふふっ」

卯月(……あれ?)

茄子「ほたるも鍛えたらきっと私に追いつけますよ♪」

ほたる「そうですよね……鍛えなきゃ……」

ほたる「……じゃなくて――」

卯月「――わっ!?」

茄子「ん……?」

ほたる「どっ、どうしたんですか……!?」

卯月「すごい……ここ、今日私がライブするところの近くです!」

ほたる「えぇっ!?」

茄子「……あれ?」

卯月「こっちにいってここを曲がれば……あ、あった!」

茄子「あれー?」

卯月「どうしよう……とりあえずプロデューサーさんに連絡しようかな――」

卯月「――あっ、茄子さん、ありがとうございますっ!」

茄子「え、あ、はい……」

卯月「ふふっ、会場に早めに着いちゃったし、ラッキーだったかも」

卯月「怖かったけど……でも、なんかちょっと楽しかったし……スリルもあって……ふふ」

卯月「……とと、電話しなきゃ」

卯月「…………あっ、もしもし! 卯月ですっ!」

卯月「ごめんなさい、プロデューサーさん、今会場の近くにいるんですけど――」

茄子「……」

茄子「……な」

茄子「なんでですか……!」

ほたる「羨ましいなぁ……私も、あんなふうに感謝されたい……」

茄子「私はほたるちゃんが羨ましいですよ……」

茄子「もしも立場が入れ替われたら……」

ほたる「入れ替われたなら……」

茄子「……」

ほたる「……」

茄子「はぁ……」

ほたる「はぁ……」

卯月「プロデューサーさんに連絡したら、こっちに来てくれるそうです!」

卯月「だから、それまで待機――あれ、二人ともどうしたんですか?」

ほたる「いえ……」

茄子「なんでもないです……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


モバP「お疲れ、卯月」

卯月「あ、お疲れ様です、プロデューサーさん!」

モバP「まったく……卯月はおっちょこちょいだな」

モバP「事務所で集合ってことにしたのに、会場にそのまま来るなんて」

卯月「あはは……えっと……な、なんかいてもたってもいられなくなっちゃって」

モバP「そうか……ま、いいさ」

モバP「事務所に集まるって言うのも遅刻しないようにってのが主な理由だしな」

卯月「あ、そうだったんですか」

モバP「ああ……卯月は忘れてたみたいだが」

卯月「あう……ご、ごめんなさい……」

卯月(……本当は忘れてたわけじゃないんだけど)

モバP「今度からは気をつけるようにな」

卯月「はい、がんばりますっ!」

モバP「はは、その気概あがれば大丈夫そうだな」

モバP「その調子で今日のライブもがんばれよ」

卯月「はいっ!」

ほたる「……」

茄子「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


卯月「ふぅ……」

卯月「……本番間際になるとやっぱり緊張しますね」

茄子「卯月ちゃんは駆け出しなんでしたっけ?」

卯月「はい……何回も場数を踏めば緊張もなくなるのかな……?」

ほたる「……そんなことはないと思いますよ」

ほたる「私……色々な人のところに行って……その中にもっとすごい舞台に立ってる人もいて」

ほたる「……でも、その人も、やっぱり舞台の前じゃ緊張してたんです」

卯月「そうなんだ……」

ほたる「……だから、緊張をほぐそうと思って、ちょっと笑わせようと思って、変顔してみたんですけど」

ほたる「そしたら、その顔が本番中も頭に残っちゃったみたいで、思い出し笑いしちゃって……」

ほたる「その人、舞台が失敗に終わっちゃって……」

卯月「……あの、私にはそれやらないでくださいね」

ほたる「……はい」

茄子「!」

茄子「ふっふっふ……実は私も顔芸が得意で――」

卯月「絶対に見ませんから」

茄子「――あら、残念」

茄子「じゃ、せっかくだからほたるにだけ……」

ほたる「……えっ?」

茄子「えっとですねー、まずはここをこうして……」

ほたる「――!?」

茄子「で、こうしてー、こうしてー……♪」

ほたる「~~っ!!」

茄子「こうなってー♪」」

ほたる「っく……ふ……くふっ……!!」

卯月(……ど、どんな顔してるんだろう?)

卯月(ううん、気にしちゃダメ……集中しないと)

茄子「さらにこうやってこうやって……こんなこともー♪」

ほたる「~~~~~っ!!!」

茄子「がんばりますねー」

ほたる「だ、だって……私が笑っちゃったら卯月さん気になっちゃうだろうし……」

茄子「なら私も更に本気を出して……!」

茄子「えいっ♪」

ほたる「ぶふっ!」

卯月(……す、すっごい気になる……!)

卯月(後で見せてもらえないかな……)

「卯月さん、そろそろ準備お願いしまーす」

卯月「あ、はーいっ!」

茄子「それっ、それっ、それっ、それっ♪」

ほたる「~~~っ!」

ほたる「負けない……私は負けない……くふっ……!」

卯月(……二人はほっといてもいいよね、たぶん)

卯月「すぅ……」

卯月「はぁ……」

卯月「すぅ……」

卯月「はぁ……」

モバP「卯月」ポン

卯月「きゃっ! プロデューサーさん……?」

モバP「大丈夫か……って聞くのは違うな」

モバP「まあ……なんだ、卯月」

卯月「?」

モバP「楽しんで来い」

卯月「……はいっ!」

卯月「島村卯月、がんばりますっ!」

「それでは登場していただきましょう――」

卯月「じゃあ、いってきますね、プロデューサーさんっ!」

モバP「ああ、いってこい!」

卯月「みなさーんっ! こんにちはーっ!」

卯月「島村卯月ですっ!」

卯月「今日は来てくださってほんとにありがとうございますっ!」

卯月「えっと……私、すっごくがんばりますから!」

卯月「だから、みんなもすっごく楽しんでくださいねっ!」

「おおおおおぉぉっ!」

卯月「それじゃ、行きますねっ!」

卯月「S(mile)ING!」

「わああああぁぁぁっ!」

卯月(……ふぅ)

卯月(……うん)

卯月(大丈夫……!)

卯月「~♪」

卯月「~♪」

ほたる「――」

茄子「――」

卯月「~♪」

ほたる「――」

茄子「――」

卯月「~♪」

卯月(……気のせいでしょうか)

卯月(観客の声に混じって、ほたるさんと茄子さんの声が聞こえる気が……)

卯月「~♪」チラッ

ほたる「だめですっ……!」グググ

茄子「いいじゃないですかーっ、私もステージで歌ってみたいんですーっ!」グググ

ほたる「今は卯月さんががんばってるんだからだーめーでーすーっ!」

卯月(あっ、気のせいじゃない!)

卯月「~♪」

卯月(でも……今はこっちに集中しなきゃ……!)

茄子「どうせ私たちの姿は他の人に見えないんだからいいじゃないですかー」

ほたる「そうなんですけど……でも卯月さんの集中が切れたらダメですから……!」

茄子「そうですね……ライブ失敗なんて不幸になる可能性もありますからね……はっ!」

茄子「そうと決まればなおさら歌わなきゃ!」

ほたる「やめてください……っ!」

卯月「~♪」

卯月(気にしない……気にしない……)

茄子「うーたーいーたーいーっ!」

ほたる「駄々こねてもダメです……っ!」

茄子「……うー!」グググ

ほたる「……っ!」グググ

卯月「~♪」

茄子「ふふっ……力は私の方が強いですから……!」グググ

ほたる「くっ……押されちゃってる……!」

茄子「ふっふっふー♪ ステージまであとすこ――」

ほたる「――きゃっ!?」ステン

茄子「え――きゃあぁっ!?」ステン

卯月「~♪」

卯月(!?)

ほたる「あうぅ……」

茄子「いたた……あっ!」

卯月(すっ、ステージの上に二人とも入ってきちゃってる……!)

卯月「~♪……っ」

卯月(よしっ……とりあえず2番までは何事もなく歌えた……!)

卯月「みんなー! 盛り上がってますかー!」

「わあああああぁぁぁっ!」

卯月「えへへっ、うれしいなっ!」

卯月(……みんな私を見てる)

卯月(やっぱり二人の姿が見えてないみたい……)

卯月(それはいいんだけど……!)

茄子「みんなー! 茄子ですよー♪」

茄子「イェーイっ! 盛り上がってますかー?」

ほたる「か、茄子……!」

卯月(気にしちゃダメ……気にしちゃダメ……)

ほたる「はやく出ましょう、はやく……!」グイグイ

茄子「どうせ見えてないんだからいいじゃないですか♪」

茄子「ほら、卯月ちゃんもイェーイっ!」

卯月「……」

茄子「あれ、無視なんてひどい!」

茄子「ほらほら、イェーイっ!」

卯月「……」

卯月「……え、えへへっ、そっちの皆さんにピースっ!」

「おおおおおぉぉぉ!」

卯月「こっちの皆さんにもピースっ!」

「わああああぁっ!」

茄子「あら、上手い具合に乗り切られました……」

ほたる「ほっ……」

ほたる「も……もう満足しましたよね……?」

ほたる「だったら、早くステージから降りましょう……!」

茄子「えー? まだ歌ってないじゃないですかー……」

ほたる「歌知ってるんですか?」

茄子「なんとなくメロディは覚えたので『ラララ~』なら歌えると思います♪」

ほたる「それはダメなやつです……っ!」

ほたる「一番集中乱しちゃいますから……!」

卯月(よし……あとちょっと……がんばります……!)

卯月「~♪」

茄子「あ、Cメロ……はわかんないから……じゃあ次のサビから……♪」

ほたる「……だ……!」

ほたる「だめですっ!」

茄子「むぐっ!」

ほたる「……よし、こうやって口を押さえたらもう大丈夫ですよね……!」

茄子「むーむー……!」

ほたる「あっ……あ、暴れないでください……っ!」

卯月「~♪」

ほたる「もうちょっと……きっともうちょっとの間……頑張って、私の手……力……!」

卯月「~♪」

卯月「……ふぅ」

「わああああああぁぁぁっ!」

卯月「みんなーっ、ありがとうございますっ!」

卯月「えへへっ! 島村卯月、がんばりましたっ!」

ほたる「あ、終わった……ほっ」

茄子「……ちぇー……もっと邪魔して不幸にしようと思ったのに……」

卯月「えへへへっ!」

ほたる「卯月さん幸せそう……ふふっ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


卯月「プロデューサーさん、家まで送ってもらってありがとうございます」

モバP「いえいえ」

モバP「今日は本当にお疲れ様、卯月」

モバP「いいライブだったぞ」

卯月「えへへ……ありがとうございます」

卯月「明日からもがんばりますねっ、ブイッ!」

モバP「明日はオフだけどな」

卯月「あ……そうでした……」

モバP「はははっ」

モバP「まあ、明日は休んで、明後日からまた頑張ろうな」

卯月「はいっ!」

モバP「じゃ、お疲れ様」

卯月「お疲れ様でしたっ、プロデューサーさん!」

卯月「……」

卯月「……」

茄子「お疲れ様でした、卯月ちゃん♪」

ほたる「お疲れ様でした、卯月さん……!」

卯月「……ほ」

卯月「本当に疲れたぁ……!」

卯月「ただいまー」

「あら、お帰り、卯月。今日はど――」

卯月「――ごめんね、ママ。ちょっと疲れたから上で寝てくる」

卯月「夕飯になったら起こして……」

「あら、そう?」

「ふふ、頑張ったのね」

卯月「うん、頑張ったの……」

「それじゃ、ご飯できたら呼ぶわね。おやすみなさい」

卯月「うん、おやすみー」

卯月「はああぁぁぁ……」

卯月「つ~~~~か~~~~れ~~~~た~~~~」

茄子「うふふ、大変でしたね」

卯月「本当に大変でした……無事成功に終わって本当によかったぁ……」

卯月「こんな疲れたの絶対茄子さんのせいです……」

茄子「……私のせいですか?」

卯月「そうです……本当に、周りを気にしないように集中するってすっごい難しいんですから……」

卯月「うへぇ……」

茄子「私の……」

ほたる「……あ」

ほたる「そ、そうだ……お茶とか……何か持ってきましょうか?」

卯月「ううん……今は大丈夫……」

卯月「……あ、ほたるさんも、ありがとうございます」

ほたる「私が……ですか……?」

卯月「うん……ほたるさんが茄子さんを退けようとしてたの……なんとなくだけどわかってたんです」

卯月「結局ステージに入ってきちゃいましたけど……」

ほたる「あうぅ……」

卯月「でも……その後も茄子さんを止めようと頑張ってくれて……」

卯月「ほたるさんが止めようとしなきゃもっと変なことになってたかもしれませんし……もっと自由に動く茄子さんに集中を乱されてライブ失敗したかもしれないし……」

卯月「だから、きっとほたるさんのおかげで無事成功に終わったんだと思います……」

卯月「だから、ありがとうございます……」

ほたる「……そっ」

ほたる「そんな、私、私……ありがとうなんて……」

卯月「ううん、ほたるさんのおかげだから……だから、ありがとうございます……ふわぁ……」

ほたる「……わぁ」

茄子(卯月ちゃん……今日は、私のせいで疲れたって思ってる)

茄子(私のせいで成功した……とか、幸せだ……とか思ってない……)

茄子(……人を、不幸にできた……!)

ほたる(卯月さん……今日は、私のおかげでなんとかなったって、成功したって思ってくれてる)

ほたる(私のせいで失敗した……とか、不幸だ……とか思ってない……)

ほたる(……人を、幸せにできた……!)

茄子(こんなの……)

ほたる(こんなの……)

茄子(初めて……!)

ほたる(初めて……!)

茄子「う、卯月ちゃん!」

ほたる「う、卯月さん!」

卯月「ほぇ……?」

茄子「ありがとうございますっ!」

ほたる「ありがとうございます……っ!」

卯月「え、えっ、何……!?」

茄子「私、人を不幸にできたの初めてなんですっ!」

ほたる「私、人を幸せにできたの初めてなんです……!」

茄子「だから、ありがとうございますっ!」

ほたる「だから、ありがとうございます……っ!」

卯月「えぇ……?」

卯月「そっ、そんなお礼を言われることじゃないですよ!」

卯月(……茄子さんは特に……不幸になってくれてありがとうございますって……なんかもうよくわからないし……)

茄子「いや、でも、本当にありがとうございます……」

茄子「はぁ……おなかが満たされる……おいしい……!」

ほたる「私も……本当にありがとうございます……」

ほたる「よかった……これで私、きっと天使を続けられる……!」

卯月「……」

卯月「……ふふっ、二人が幸せそうでよかったです」

卯月(よくわかりませんけど)

卯月(でも、二人が幸せになったんだったら……よかったかも、えへへっ)

卯月「あっ」

卯月「じゃあ……もしかして、もう私以外の人のところに行くんですか?」

茄子「いえ、行きませんよ」

ほたる「いえ……まだここにいますよ」

卯月「……あれ?」

卯月「だって、私不幸にも、幸福にもなりましたよ……?」

ほたる「私の場合は……一度幸福になったからすぐ離れるってわけじゃないんです」

卯月「えっ……」

ほたる「だって、人を幸せにしないといけませんから」

ほたる「その人がずっと幸せになれるようになったら離れるのが天使です」

ほたる「……それか、その人が本気で嫌がるか」

ほたる「……卯月さんは、今のところどちらでもないようですから」

ほたる「だから、私まだしばらくは卯月さんのところで頑張るつもりです」

卯月「そうなんですか……」

卯月「……茄子さんは?」

茄子「うーん、私は別にそういうのはないんですけど……」

茄子「でも、まだしばらくはここにいるつもりですよー♪」

卯月「……な、なんでですか?」

茄子「うーん……ほたるがいるからですかね?」

ほたる「私が……?」

茄子「はい。きっと私が卯月ちゃんを不幸にできたのってほたるがいたからだと思うんですよね」

茄子「一人だったら……なんだかんだまた好転してたと思うんです……」

ほたる「あ……私も……茄子がいたから、卯月さんを幸運にできたんだと思います」

ほたる「私一人じゃ、やっぱり空回りしてたと思います……」

茄子「ふふっ、ですよね♪」

茄子「だから、ほたるが卯月ちゃんのそばにいるなら私もそばにいるつもりです♪」

卯月「そ、そうですか……」

卯月「じゃあ……」

茄子「ふふっ、まだまだお世話になりますね♪」

ほたる「えっと、も、もっと幸せにできるようにがんばりますっ!」

卯月「……よっ、よろしくお願いします」

卯月「……」

卯月(……そっか)

卯月(今日みたいな日が、まだ続くんだ……)

卯月(あはは……すっごく疲れそう……)

卯月(でも、ほたるさんが言うには、私って……嫌がってはないんですよね)

卯月(……)

卯月(……二人がいると、面白いから?)

卯月(それとも、まだ二人がいる影響をそんなに受けてないからかな……?)

卯月(……うー)

卯月(疲れてるからか考えてもぜんぜんわかんないや……)

卯月(……とりあえず寝よっかな)

卯月「……あの、私、寝ますね」

ほたる「あっ、はい……おやすみなさい」

茄子「……ふふっ」

茄子「じゃあ私は今度こそ卯月ちゃんを睡眠不足にするために違う歌を……もっとテンポ高めのを……!」

ほたる「!」

茄子「~♪」

ほたる「えっ、え……じゃあまた耳を……あ、でも耳はダメだって、この前……えっと……!」

ほたる「……わ」

ほたる「わああああああああああ!」

卯月「……ほたるさん、それはちょっと……」

ほたる「あ……ご、ごめんなさい!」

茄子「~♪」

卯月「……」

卯月(……なんか、今日、すっごく疲れてるから)

卯月(ちょっとアップテンポな茄子さんの歌も耳を……なんか心地よくって…………)

卯月(……)

卯月「……すー」







おしまい

天使のほたると悪魔の茄子と人間の卯月っていう構図が書きたかったので
そんな思いだけで書いたのでわりとガバガバだと思いますが多目に見てくれると幸いです


誤字脱字、コレジャナイ感などはすいません。読んでくださった方ありがとうございました

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