本田未央「SUPER LOVE」 (63)


・モバマス・本田未央ちゃんのSS
・短い
・莉嘉の歌とは関係がありません

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1470585539


??「本田ー、おはよー!」

??「未央! 昨日観たよ!」

 学校に来る途中。みんなから声かけられたりなんかしちゃって。

未央「いやいや、どうもどうもー。ありがとね!」

 いやあ、生番の次の日はさすがに人気者ですなあ。未央ちゃんうれしいよ!
 こうして声かけられるのって、アイドルってみんなから見てもらえてるんだよね? よね?

 そんな浮かれ気分で登校してると、おやあ?

未央「なっつ! おはよ!」

 棗だからなっつ。学校で大の仲良し。アイドルになる!って宣言したときも、なっつは最初から応援してくれたよ。
 そのなっつがなーんか元気なくって、ちょっと心配になった。

棗「あ、未央」


未央「ねえねえ、なっつ。どうしたんだい? 元気が出ないかいお嬢さん?」

 そんなふうに声かけたんだ。そしたら。

棗「ねえ未央!」

 なっつは、目にいっぱい涙をためて。

棗「あたしどうしたらいいと思う?」

 そう言って、ぼろぼろと泣き出しちゃった。

未央「……あー……えーと」

 あっちゃー、気まずい。どうしよう?
 なんとなく。ひょっとして。私が一番苦手なパターンの香りがプンプンしますぞ……

 未央ちゃん、ぴーんち!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




未央「振られたぁ!?」

棗「……うん」

 ただいま未央ちゃんとなっつはハンバーガー屋に来ております。もちろん放課後だよ!
 で。
 朝のアレ、訊いてみたら。このとおり。

未央「……えー……いつ?」

 お店の中だった……ついつい声を潜めちゃう。

棗「……おととい」

 ありゃあ、私が速攻で事務所へ行った日かあ。だって次の日生番だから、少しでもレッスンしないと、って。
 いやいや。いやいや。
 私のいないところで、こんな事件が起きていたとは。
 これはさすがに、見逃すわけにはいきませんなあ。未央ちゃんの名にかけて!

 名探偵になるつもりはないけどね。

未央「たっくんが、別れる、って?」

棗「もう、会わない……って」

 えー、この前まで「なっつ!」「たっくん!」とかって目の前でいちゃいちゃしてたじゃん。
 らぶらぶだったじゃん!
 彼女たちに一体何があったのか、われわれ取材班は最初から行き詰った。取材班って私だけど。

 あーあ。言ってるそばから、なっつ泣きそうだよ。
 あんのバカ拓也、こんな小動物みたいにかわいいかわいいなっつを泣かせるたあ、ふてぇやつだ!


未央「なっつは、さあ」

棗「……うん」

未央「別れたくない?」

棗「……うん」

 だよねえ、うんうん。でもこのお悩み解決、未央ちゃんには無理っぽい……

 だって男の子と付き合ったりラブラブした経験ないんだもん! ないもん……
 いや、好きって言ってくれる男の子いたよ!? ほんとだよ!?
 ……でも、どうしたらいいかわかんないんだもん。
 今までみたいに楽しい友達から変わっちゃうの、なんか怖くてさあ。

 はい! 告白いたします! わたくし本田未央、いまだお付き合い経験ゼロであります!

 はあ、やっぱり苦手なパターンだったよ……
 でもでも、なっつ心配だし。なんか元気づけてあげたいし。親友泣いてて黙ってみてるのイヤなんだもん!
 うー。うーー。

 どうすれバインダーーーー!!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




凛「それで、私のところってこと?」

未央「しぶりーん、お願い☆」

凛「いや、そんなきゃぴっ☆って言われても……」

 未央ちゃんオンリーで解決できないならば、だ。いやあ、やっぱ持つべきものは仲間だよねえ。
 我が事務所の誇るクールアイドル、しぶりんならきっと!

凛「未央と一緒だよ。私だって誰とも付き合ったことないし」

 しょっぱなからつまずいた!?

凛「それに私……男友達いないから……」

 申し訳なさそうに言うしぶりん。くぅぅ、これはこれでなにかそそるものがありますなあ……
 はっ! いかんいかん。

未央「しぶりんなら、男の子がいっぱい声掛けてくれそうだけど?」

凛「……うち、女子高だよ?」


 はっ! そうだった!
 いやあ、それはすっかり忘れてたー。未央ちゃんの調査ミス!

未央「ごめん……迷惑だった?」

凛「ううん、そうやって友達のこと心配する未央のこと、すごいなあって」

凛「尊敬するよ」

 しぶりんは優しいねえ。女の私でも惚れちゃうよ!

凛「そうだなあ……気持ちが落ち着くように、なにか花をプレゼントするのも、いいんじゃないかな」

未央「お、さすが! 花屋の看板むすめ!」

凛「いや、例えだよ例え。正直花束持ってこられても、友達も困るんじゃないかな?」

 あー、結構かさばるもんね。
 ライブでもらう花とか事務所や家でも飾るけど、全部は持って帰れないしね。

凛「もうちょっと小さいものでもいいと思う」

 たとえば、アロマオイルとか、かあ。なーるほど、さすがしぶりん!
 そうだね、気持ちよく眠れたら少し楽になるかもだね。

凛「こんなのでよかった?」

未央「うんすっごく助かった! サンキューしぶりん!」






卯月「え? 私?」

 うんそうなのだよしまむー。
 しまむーはさあ、いっつもいっつもがんばってて、私も「ああ、俺が守ってやらなきゃ……」って言いたいくらい!
 かわいい!
 
 そうなんだよねー。しまむーってすっごく女の子女の子なんだよねー。
 どうしようもなく女の子だから、なっつの気持ちわかるかなー、なんて。

卯月「えーっと……あの……私もよく分からない、かも……ごめんなさい!」

 あわてて頭を下げるしまむー。おうふ、これはこれで破壊力抜群だぜい。

卯月「私も学校と養成所と家を行ったり来たりばっかりだったから……あはは」

 しまむーもお付き合い経験ないんだ。あーそっかそっか。
 ……私も仲間さ!

未央「うーん、じゃあ。しまむーなら、どんなことされたらうれしい?」

卯月「うーん……甘いもの一緒に食べるとか?」


未央「ほう、甘いものとな?」

卯月「だって仲のいい友だちと、一緒に同じもの食べるとか同じ場所に行くとかって、それだけで楽しいでしょ?」

 両手を胸の前で合わせてにっこりするしまむー。
 なんかそれは分かるかも、うん。

卯月「それが大好きなものだったり大好きな場所なら、もっと楽しいと思うの……」

 おおっ! 私の中にいま電流が走った!
 どんっ!

未央「……お嬢さん」

卯月「……未央、ちゃん?」

 唐突な壁ドン。いやー、だってだって! しまむーかわいいじゃん!
 だから。

未央「俺と、付き合いなよ……」


卯月「えっ?」

未央「……スイーツバイキング」

 ぷっ。くくっ。
 あはははっ。

 ダメもう、ふたりして笑っちゃって!

卯月「うん、いいよ。ふたりでデートしようね?」

未央「へ?」

卯月「連れてってくれるんでしょ? スイーツバイキング」

 うんもちろん! しまむーとならどこでも楽しいよ!






未央「茜ちん、どう思う?」

茜「そんなときは走りましょう!!!」

 あー、茜ちんならそうだよねー。うん、分かってた。

茜「悩んだときは!! 走って!!! 汗をかけば!!! たいていのことはきれいさっぱり忘れます!!!!」

 そういう体育会系の解決方法、私は好きだよ。っていうか、私もどっちかって言ったら身体使う系だしね。
 でもさー、なっつはね。ちょっと運動苦手、かな?

茜「あとは!!! ほかほかごはんさえあれば!!! 幸せになれます!!!!」

 やっぱりなにか食べるのっていいのかな?
 しまむーも言ってたけど、お腹が満たされると幸せなのかな。
 うん……想像してみた……確かに幸せかも。

茜「未央ちゃんどうしました!?!? なにか悩んでいますか!?!?」

未央「い、いやいや。ちょっと考え事をね……」

茜「ならこれから一緒に!!! 走りましょう!!!」

未央「え? ちょ、ちょっと!!」

茜「ボンバーーーーーーー!!!」

 うひゃあああ! ちょっと誰か助けてー! ヘルプー!






藍子「そっかあ、大変だったね」

未央「……もう……走れません」

 ううっ、茜ちん本気出しすぎだよお……ばたり。
 でも、全力が茜ちんの魅力だもんねー。

未央「……でさあ」

藍子「うん?」

未央「どうすればいいと思う? あーちゃんは」

藍子「私?……うーん」

 しぶりんやしまむーに訊いて、いろいろ考えたりするんだけど、ね。
 あーちゃんは、ちょっと違った見方をしてくれるんじゃないかなって、ね。

未央「なんかあーちゃんにはいっつも、おんぶにだっこでごめんねー」

藍子「ううん、いいんだよ。私だって未央ちゃんにお世話になりっぱなしだし」


未央「えー、そうかなー」

 あんまり、お世話してます! って感じはしないかなあ。

藍子「そうだよ。だって私いつだって、未央ちゃんや茜ちゃんに元気もらってるし、引っ張ってもらってるよ?」

未央「なんかそう言ってもらえると、照れるね……えへへ」

藍子「うん……やっぱり、お話、かな?」

未央「お話?」

 え? なんのお話だっけ?
 ……ああ、なっつのお話でした。そうでした。

藍子「ほら、仲良しさんとだったらこうして、お話聞いてもらえるだけでうれしくなると思うの」

未央「あ、あー」

藍子「だから、棗ちゃんだったよね? 棗ちゃんのお話、いっぱい聞いてあげるだけで、すごく助けられるんじゃないかな」


 うん? 聞いてあげるだけでいいの?

藍子「うん、聞いてあげるだけでもいいと思うよ? たぶん棗ちゃん、私こんなにつらいんだ、未央ちゃんお話聞いてくれる?って、そういう感じだったでしょう?」

未央「……うん、そうだった」

藍子「つらいときって、わーーっ!って、言いたくなること。いっぱいあると思うなー」

未央「ああ、なんとなくわかるかも」

藍子「だから、もっともっといっぱい話してもらって、いっぱい聞いて、ちょっとでも楽になれたら、それで結構満足できると思うの」

 ほうほう。聞くだけで楽になる……あ。

未央「私もそれ、わかる」

藍子「未央ちゃんも?」

未央「うん。練習とかでうまくできなかったりとか、そんなときプロデューサーに『ねえねえ聞いてよ!』って、やってる」

 プロデューサーにあーだこーだ言って、プロデューサーはそれを聞いてくれて。
 気がついたら、けろっとしてた。

 なーるほど!


藍子「それにね? 棗ちゃんのお話はいっぱい聞いても、まだ棗ちゃんの彼氏のお話、聞いてないよね?」

未央「……あ!」

藍子「私もよくわからないからだけど、きっと男の子には男の子の言い分があるんじゃないかな」

 そうだった。
 私、なっつから話は聞いてるけど、まだ拓也の言い分聞いてないや。
 うーん、そうは言っても……

未央「なかなか本人には、ねえ……」

藍子「ふふっ、そうだよね……でも男の子の気持ちを訊くのなら、近くにいい人、いると思うなー」

 そう言うとあーちゃんは、ドアのほうをくいくい、と。指をさす。
 ん? ……あ。

未央「プロデューサー!」

藍子「ね?」

 それだ! さすがあーちゃん!
 なんかぱあっと目の前が開けた気がするよ!

未央「ありがとあーちゃん!」

藍子「いえいえ、どういたしまして」



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




P「彼女を振る男の子の気持ち?」

未央「うん」

 さっそく。私はプロデューサーに訊いてみた。

P「うーん……んー……わからんっ!」

 おおう、断言しちゃったよプロデューサー。

未央「おやおや~。プロデューサーって実は、女の子と付き合ったこと」

P「あるわ」

 べちっ!
 いったーい! デコピンされた!?

P「学生の頃だよ……まあ俺は振られた方だけど、さ」

未央「ほうほう。それはまた深ーく聞きたい話でごぜーま」

 べちっ!!
 いったーい!! またデコピンされた!!

P「人の傷口えぐるな。それと、訊きたいことってそうじゃないだろ?」

 そうでした。拓也の気持ちだった。
 でも振ったことないんじゃ、プロデューサーだってわからないんじゃない?


P「俺はないけど、まあ友達とかさ。あんまり一般的な話じゃないかもだけどな」

未央「プロデューサーに、そんなイケてる友達がいたんだ」

P「……おい未央。今日はずいぶんグイグイくるな」

 いやあ、ほら。こうしてあんまりプロデューサーのプライベートって話す機会とかないし。
 未央ちゃんも人の色恋には、興味があったりなかったりあったりするわけ、ですよ。
 それにプロデューサーは、あんまりプライベートのこと話さないしね。これはチャンス!

未央「こういうことでもないとプロデューサー、いろいろ教えてくれないでしょ?」

P「まあ必要性感じないからな……そうだな、未央も普通にお年頃だし、そういう話をするのも悪くないか」

 お、わかってくれるねプロデューサーちゃん!
 そうそう。こうして私もプロデューサーとお近づきになりたい!
 だって私たち、仲間じゃないか!

 え? 親しき仲にも礼儀あり? ま、まあ、そういうのも、あるね。あはは。

P「そうさなあ、俺の知り合いにさ、付き合う子が会うたび違ってるやつが確かにいた。まあモテ男だよ」

未央「え? 会うたびに違うの?」

P「まあな」

未央「えーなんかヤダそういうの」

P「まあ男友達なんてさ、互いの男女関係なんてあんまり気にしないしな。そこは別って感じだな」


 プロデューサーが言うには――

 俺の友達のモテ男って、なぜかわからんけど二つのタイプだったんだよ。
 ひとりは、誰とも深く付き合えないやつ。女の子の気持ちに鈍いっつーか、ちょっとぼっち体質だったのかもな。
 いつの間にか別れるって感じ。俺とはウマが合ってたから、お互いぼっち体質だったんだろうなあ……
 ……言っててなんかどんよりしてきたわ。

 で、もうひとりってのは、これが飽きっぽいやつでな。
 想像つくだろ? 付き合ってて途中で飽きちゃう。
「女と付き合うより野郎とつるんでる方がずっと楽しい」って言ってるくらいだったからなー。
 なんでそいつと友達だっただろうなって考えると、まあつるんで楽しいってのもあったけど、そいつさ、修羅場をあっけらかんと話すからさ、動物園でパンダ見てる気分だったのかもな。

未央「……」

P「ま、その彼氏がどういう子なのかは知らないからなんとも言えないわな。部活が忙しいとかそういうことかもしれんし」

未央「……ねえプロデューサー」

P「うん?」

未央「カップルって、そんな簡単に別れちゃうものなの? ちょっと信じられないよ……」

P「……そんな簡単なわけないだろう?」

 そう言うプロデューサーの顔は、ちょっとしかめっ面だった。


P「実際さあ、好きとかそういう気持ちが強かったら、別れるなんてめちゃくちゃ痛いぞ。心が」

未央「……うん」

P「まあ、そういう機微に疎いやつもいるってだけの話さ。普通じゃない」

 じゃあ拓也も、心が痛いって感じてるのかな。どうなんだろ?
 でも、ちょっと安心した。
 プロデューサーは、振られたときに痛いって思ったんだよね。私は全然付き合った経験がないからわからないけど、でも。
 ……たぶん、痛いんだろうなって。
 私が感じてることと、プロデューサーの感じ方は、離れてなかった。それだけでほっとしたよ。

P「でも未央も友達もその彼氏も、まだ高1だろ? 正直愛だの恋だの言ってもよくわかんないことばっかりじゃないか?」

P「俺だってわかんないことだらけだ。今はそれでいいんじゃないかな」

未央「うーん……うーん……なんかもやっとする」

P「そりゃあもう本人に聞くしかないだろ? そうなったら」

 やっぱりそうなっちゃうかー。そうだよねー。
 うん、決めた。


未央「そうだね。今度訊いてみる」

P「おうそうしろ。未央のいいところだと思うぞ」

未央「え? なにが?」

P「そうやって、友達のためにグイグイ斬りこめるところ。未央はやさしいよな」

未央「え、えー! そうかな。えへへへ……」

 なんか面と向かって言われると照れるよー。
 よっ、プロデューサー。持ち上げるのうまいね!

 うん、なんかやる気出てきた。

未央「ありがとうプロデューサー! またいっぱい頼っちゃうからね!」

P「おう、そこそこがんばれ。無理はすんなよー」

未央「わかってる、わかってるよ、プロデューサー君! この未央ちゃんにお任せあれ!」

 よっしゃ、やるぞー!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




拓也「なんだよ本田。呼びつけて」

 こちら、現場の本田です。ただいまわたくしとたっくんはハンバーガー屋に来ております。
 またかよ!
 学生だしね。やっぱりこういうとこに落ち着くよね。

 拓也は嫌そうな顔してる。
 そうだよねー。これからなに言われるか、わかってるんだろうし。

 もちろん。私は手綱を緩めたりしないよ。

未央「なにか食べる? 今日はおごるよ?」

拓也「別にいい」

 まだまだジャブ。こっからこっから。
 私はとりあえず、ふたり分のドリンクを注文した。

未央「はい。飲むものくらいあったほうがいいでしょ?」

拓也「……」

 お礼くらい言えないのかよ! もう。
 早く帰りたいオーラがばんばん出てますぜ、たっくん。

 ……じゃあ、はじめますか。


未央「たぶんわかってると思うけど」

拓也「……」

未央「……なんでなっつ振ったの?」

 拓也の顔がみるみる歪んでいくよ……俺に訊くなってこと?
 でもね、なっつ泣かせた罪は大きいよ。君はギルティ!

拓也「……本田には関係ねーだろ」

未央「ある。なっつは親友だから」

拓也「……うぜえ」

 そういう拓也の視線は、あっちいったりこっちいったり。泳ぐ泳ぐ。
 さーて、どんな言い訳考えてるのやら。

拓也「しゃーねえじゃん。俺となっつじゃ釣り合わないって思ったから……」

未央「釣り合わないって、どういうこと? なっつが、あんたに、釣り合わないってこと?」

拓也「……俺が、なっつに釣り合わないってこと」

未央「……ふーん」

 しぶりんの真似じゃないよ?
 うん、自分でもびっくりするくらい冷たい声出してる。そうりゃそうだよ。だって、知ってるもん。

未央「じゃあ、誰となら釣り合うのかな? ひょっとして、この子?」


 私は友達から送ってもらった写真を、拓也に突き付けた。険しい顔になる拓也。
 ……これを友達から見せられて、私はショックだったよ。
 もう「なっつ」「たっくん」で呼び合っていた、あのたっくんはいないって。分かっちゃった。

拓也「なんだよこれ」

未央「友達からもらった……他の高校の女の子となら釣り合うんだー、へー、もてるねたっくん」

拓也「……」

未央「この子に乗り換えるから、なっつを振ったの?」

拓也「……」

未央「なっつ、さ。『あたしじゃダメなのかな』って、ずっと泣いてんの。なっつに悪いと思わないの?」

 拓也は手を握り締めて固まったまんま。このまま嵐が過ぎればいいと思ってんのかな。
 それはいや。それは許せない。

 じりじりと時間だけが過ぎる。もうなんなの。はっきり言えばいいじゃん。


拓也「……るせえな」

未央「なにそれ。なんか言い訳でもあるの?」

拓也「……だってよぉ」

 ぎりぎり、歯ぎしりする音。拓也はキレそう。
 でも私は退かないよ。なっつ泣かせた奴は許せない。

拓也「だってよ」

未央「なによ」

拓也「だってあいつ、やらせてくんねーんだぜ!!」


 ……
 ……
 ……


未央「はあぁっっ!?!?」



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 信じらんない信じらんない信じらんない!
 なに!? なんなの!?
 拓也そんなことばっかり考えてたわけ!?

 もう! もう!!
 未央ちゃんの怒りはマックスだ!! なっつのことそういう目で見てたってこと!?

未央「ねえねえプロデューサー! 男ってマジなんなの!?」

 私の怒りパワーが止まらない。
 拓也と話したこと、ぜーんぶプロデューサーにぶちまけちゃった。

 ……プロデューサーは苦い笑いを浮かべてる。

P「まあまあ、どうどう。ほれ、とりあえず水分」

 プロデューサーはオレンジジュースをくれる。んぐっんぐっ、ぷはぁ。
 ……あ、今ちょっとおでこキーンってなった。いたたた。

 ふぅ。
 おでこキーンで、ちょっとだけ落ち着いた。

未央「ねえプロデューサー。私、プロデューサーにはぶっちゃける。だから」

 真剣なお願い。

未央「プロデューサーも、ぶっちゃけて」

 プロデューサーはちょっと驚いた顔をした。でも。

P「そうだな。この前のこともあるから、な」

 そう言ってくれた。
 ああ、よかったよー。ひとりで悶々と考えるの、苦手なんだもん。


 ちょっとプロデューサーは考えごとをするそぶり。

P「そうだなあ……うん。その拓也って子、ある意味正直な男子高校生って感じだな」

 え。

未央「それって」

 高校男子はみんなエロいことばっかり考えてるってこと?
 ええー……

P「うーん、そうじゃなくってさ。その頃の男子って、夢見がちなんだよ」

未央「夢見がち?」

P「未央もなんとなく心当たりないか? 小学校を卒業するころとか、中学校の頃とか」

P「周りの男子見て『子供っぽい』って思わなかったか?」

 あー言われてみるとそんなだったかも。
 ちょこちょこいたずらしてきたりして、まだまだ子供だねえ、なんて。
 うん、確かに。

未央「思った、うん」

P「だろ? で、女子はどんどん大人っぽくなるわけ」

未央「ふむふむ」

P「ちょうど思春期なんてさ、愛とか恋とかすごく頭の中で駆け巡ったりするもんだし」

 そう?
 私は、うーん……考えなくもないけど……アイドルやってるのが楽しいから、あんまりそこまで思わないかなあ。

P「男は、そういうもやもやした感情と、エロい衝動が直結することもあるんだよ」

未央「プロデューサーも?」


P「……あー」

 プロデューサーは苦笑い。え? ひょっとして図星?

P「俺は、そういうのわりと薄かったんだよ……だから振られたってのも、あるかもなあ」

 あ、遠い目しちゃった……おーい、帰ってこーい。

未央「じゃあさ、プロデューサー」

P「ん?」

 あ、帰ってきた。

未央「私のファンも、私をエローい視線で見てたりするの、かな?」

P「あーそれはな……ぶっちゃければ、『ある』」

 え。あー。

 うーん。
 うーん。
 なんかすごくもやもやする!
 そういうのもあるんだろうなーって、頭ではわかってたつもりだけど、言われるとすっごくもやもやする!

P「ただな、未央」

未央「え?」

P「ライブに来てるファンを見てさ、そういうエロい視線感じるか?」


未央「え……えーと」

 ライブを想像する。
 うん、私。ステージですっごく楽しくて。
 ファンもすっごく嬉しそうで楽しそうで、すっごくキラキラしてて。

未央「……感じ、ない」

 私がそう言うと、プロデューサーはにっこりと笑った。

P「みんな、未央がアイドルしてるのを、楽しみに観てるんだよ」

未央「楽しみ、に?」

P「うん。なんで未央のライブに来るか。それは、未央が『楽しい!』って思うものを一緒に楽しみたいからさ」

 楽しい……
 うん、私。歌って踊って飛んで跳ねて。ステージはいっつも楽しい。
 ファンのみんなが一緒に盛り上がってくれるから、もっと楽しい。

 うん、楽しい!

未央「私も、すごく楽しいよ!」

P「いいよなそれって。未央も楽しくて、ファンも楽しい。それがさ、未央の持ってるアイドルの力さ」

未央「アイドルの、力」

P「そう。未央がアイドルだから、友達だけじゃなくて、もっともっと多くの人を楽しくさせられる」

P「すごいだろ?」


 そうだ、そうだね。
 私がアイドルだから、できるんだね。楽しくさせられるんだね!

未央「プロデューサー、なんかよくわかんないけど私、ちょっと自信ついた気がするよ!」

P「そうそう。未央がポジティブなら、棗ちゃんだっけ? その友達も元気にさせられると思うぞ」

未央「うん!」

P「それと」

未央「うん?」

 プロデューサーはいい笑顔で、私を見てる。

P「アイドルならアイドルらしい、冴えたやり方ってのが、あるんじゃないか?」

 そう言って、右手に持ったなにかをひらひらさせた。
 あ! それ!

未央「ライブのチケット!」

P「特別だぞ」

 プロデューサーは私にチケットを手渡してくれた。
 わかった。わかったよ。
 未央ちゃんは、未央ちゃんらしいやり方で、なっつを絶対元気にしてみせる!

 なっつを、ファンのみんなを元気に。それがアイドルってやつだー!
 未央ちゃん、やったるぞー!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ざわざわ。
 がやがや。

 始まる前の、この雰囲気が好き。

 会場にファンのみんなが集まってくる姿を、ステージの袖からこっそり眺めちゃう。
 キャパが500人のシアターホールだから、みんなの顔が近い。それがとっても嬉しいな!
 ファンのみんなが近いと、私も燃えてくる。
 そして……いた!

 なっつ!






棗「これ、あたしに?」

未央「うん! なっつに来てほしくて」

 私はなっつにチケットを渡した。
 プロデューサーから受け取ったそれは、最前列のエリア。スタッフがリザーブしておいたチケット。

 私のために、なっつのために。プロデューサーがわざわざくれたんだもん。
 これで私が、燃えないわけがないよ!

棗「……でも」

未央「どうしても来てほしいんだ。私の、なっつへの答え」

棗「え? 答え?」

未央「うん、そうだよ」

棗「なんの?」

 なっつは不思議そうな顔してる。
 ほら。

未央「『あたし、どうしたらいい?』って。あの答え」

棗「えっ!」

未央「ほら、未央ちゃんはアイドルですから!」

未央「なっつへの答えは、ステージで魅せるよ……」

 私はなっつの手にチケットを握らせる。

棗「未央……」

未央「だから、絶対絶対来てね! 約束だよ!」

 なっつは小さく「うん」って、うなずいた。よし、準備は万端!






 よかった。なっつは私との約束、守ってくれた。
 なら未央ちゃんは、ステージで。なっつへの答えを体いっぱい使って示すのだ!

 心が、熱くなる。早く始まってって、体が叫んでる。
 両肩をぽんぽんって。プロデューサー!

P「その様子だと、来てくれたようだな」

未央「うん、ばっちり」

 プロデューサーは笑ってくれた。私もつられて笑顔になる。
 いや、なっつが来てくれた時点でもう、笑顔だったかも。

未央「ねえプロデューサー」

P「ん?」

未央「ありがと! 私と、なっつのために」

P「いや、それを活かすも殺すも、未央のステージにかかってるぞ」

未央「……わかってる」


P「さあ、行ってこい。なっつを元気にするんだぞ?」

未央「もっちろん!!」

 わかってるよ、プロデューサー。
 私の元気、なっつの元気、みんなの元気。
 ぜーんぶここにぶちまけちゃうよ!

 ステージの照明が灯される。オールオッケー!
 私は勢いよく飛び出す。

未央「みんなー!! 未央ちゃんの華麗なるステージへようこそー!!」

 最初から飛ばしていくよー!!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




未央「みんなありがとねー!」

 飛ばして飛ばして。私は歌いまくる。
 折り返しをとうに過ぎてライブも後半戦。でも私の中のエネルギーは、余裕余裕!

未央「またちょっとお話しさせてね」

 スピーカー脇においてある水を飲んで、と。ふー生き返る!
 そして、フロアセンターに椅子を持ってくる。

 周りが暗くなって、私にピンスポットが当たった。
 再びのトークタイム。

未央「えーと。みんな知ってるとおり、未央ちゃん女子高生なわけですが」

客席「しってるー!!」

未央「だよねえ。で、こうしてアイドルやってる合間に、ちゃんと学校に行ってるわけ」

 もちろん学校でも人気者! ってことは置いといて。
 この前、ちょっとしたことがあったの。
 私の大親友も大親友なんだけどね……失恋しちゃった、って。相談してくれたんだ。
 すっごくさ、勇気が要ったと思うのね。

 幸い、未央ちゃんのファンには女の子もいてくれるから……今日も来てくれてるよね!!

客席「いぇーーい!!」

未央「こんなにいっぱいいてくれた! ありがとね!」


 ねえ、失恋した友達にどうしてあげたいって、思うかな。みんな。
 やっぱり、なぐさめたり、元気なるようになにかしたり、そんな感じで接するのかな。
 私もそうするんじゃないかな、って。実際そうしたんだけどね。
 でも、さ。

 やっぱり、難しいよね……

 私は、その親友じゃないし、親友がどうすれば元気になるかって、本当の意味じゃ分からないって。思っちゃった。
 でもね、そうじゃない。そうじゃないんだよ、みんな。
 そうやって心配する想い、元気になってほしいって想い、きっと届くんだ。
 届かないのなら、何度だって届ける! 私はそうしたい。

 私はこうやってアイドルしてる、よね? アイドルができることって、なにかな?

客席「うたー!!」

未央「うん、そうだね!」

客席「ダンスー!!」

未央「それももちろん!」

客席「せくちー!!」

未央「……あー、それはもうちょっと大人になるまで待って?」

客席「わはははは」


 そう。みんながそうやって言ってくれたことは、私たちアイドルが自信をもって届けられること。
 だからね。私は、アイドルのパワーで、親友を元気にしたい、ハッピーにしたいって。

 ……そう、思うの。

 次の曲は、そんな親友に元気になってほしいから、その親友に捧げます。
 ねえ、みんな。
 この未央ちゃんにみんなの元気、くれるかな?

客席「いぇーーーい!!!!!」

 ありがと! 未央ちゃんもみんなに元気、いっぱいプレゼントしちゃう!
 そして私の元気と、みんなの元気、全部まとめて親友に届けちゃおう!
 だから……

未央「なああーーーーーーーーーーーーーっっっつ!!!!!」






未央「おいでーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!」






 私は、目の前でぽかんとしてるなっつに、左手を伸ばした。
 一歩、二歩。
 なっつはゆっくり私に近づいて、左手を、伸ばして……

 ぐいっ!!

 私は、なっつをステージへ引き上げたよ!!
 さあ! ミュージックスタート!!






   SO-Fi - SUPER LOVE
   https://www.youtube.com/watch?v=UEPb_LIJtgk







 ステージに上がったなっつは、スタッフさんの用意してくれた椅子にちょこんと座る。
 そんななっつに私は、ウインクをひとつ飛ばして。

未央「さあみんな、パワーをちょうだい!」

 客席に声をかけた。



   けっこう捨てたもんじゃないんだね
   お化粧して日焼けして常夏女だYeah!
   「君は友達だから」なんて

 私は椅子に座ったなっつを向いて。

未央『”くたばっちまえ”言えばよかったね――』

 いい笑顔で歌った。


   ママに似たさえないギャグと
   でっかい口とケツだけどなぜか憎めない
   ちょっとシャイなDNA誰か面倒みてよ

   だから Tender love, Fall in love
   Nature love, Give some love
   やっぱり忘れられない

 苦笑してるなっつの横に私は立つ。そしてなっつの肩をたたいて。

   あいつ今頃きっと他の娘口説いて
   よだれ垂らしてアホ面で

未央『言い過ぎたゴメンなさい――』

 そんな歌詞をぶつけた。そしたら。
 あはっ! なっつ笑ってくれた! やったね!!

 なっつから離れて、ステップでセンターへ。
 さあ今度は、客席のみんなへ元気を届けるよ!


   面接最後までいったんだよ
   けど自生論語り過ぎ また
   ファミレスバイト Yeah!
   無口なインド人の店長はさ
   六本木にお店出したのに

 こぶしを突き上げて、みんなに手拍子を求める。
 いいねいいねー、盛り上がってきたね!

   100年後の化石の中 残されるものは
   答案用紙でもない 人口衛星でもない
   今日焼いたサンマの骨

未央「いくよーーーー!!!」

   だから Tender love, Fall in love
   Nature love, Give some love
   何かを残してみたい
   あたしぶっきら棒で短気で頑固で
   ひたすら鈍くてわがままで
   それでもそばにいて

未央『Oh!Yeah!』


 間奏が流れる中、私はステージを端から端まで。
 走る!
 走る!!
 走る!!!!

 会場のノリは最高潮。こうでなくっちゃ、ね!

 一瞬の暗転。動きを止める。
 ブレイク。

未央『Huh!』

 ギターのソロ。私はギターの横で客席のみんなを煽る。

未央「はい! はい!」

 ――はい! はい!
 ――はい! はい!

 サイリウムのうねりと一緒に、掛け声がこだまする。
 んーー! 気持ちいい!

 駆け足でセンターへ。さあ最後まで突っ走ろうか!


   やっぱ Tender love, Fall in love
   Nature love, Give some love
   恋だって 超いっぱいしたい
   いつか誰かときっと出会って感じる あたしのグッドなDNA
   磨きをかけましょう

 そのまま半身で、左手を前に! 突き出す!
 さあもう一丁!

   だから Tender love, Fall in love
   Nature love, Give some love
   本当は素直になりたい
   あたしぶっきら棒で短気で頑固で
   ひたすら鈍くてわがままで
   それでもそばにいて

 ふと、客席に戻っていたなっつと視線が合う。
 なっつ、とってもうれしそう!
 よかった。本当によかった!



未央『そういえば……今日は何も食べてないや――』






 私は最後の力を振り絞ってみんなを煽る。

 ――はい! はい!
 ――はい! はい!

 その掛け声に合わせて、ジャンプ!
 ジャンプ!
 ジャーーーーンプ!!

 テンションは最高潮。
 こうしてると感じるんだ。

 未央ちゃん、アイドルやっててよかった!
 ほんとみんな。
 サイッコーーー!!

 なっつ、見てる? これが私の答えだよ。
 私も、ここにいるみんなも一緒になって、全部ぜーんぶなっつに元気届けてるよ! いつだって、どこだって!
 未央ちゃんはアイドルだから、アイドル力フルパワーで元気を届けるよ!
 だから、きっと元気になれる。大丈夫。

 大丈夫……



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ライブも終わって。ステージから楽屋に戻ると、なっつが。

 いた。

 え? あー、スタッフの人が連れてきてくれたんだ。なるほど納得。
 なっつは、目をうるうるさせてる。そしたら。

 ぽろ。
 ぽろ。

 泣き始めちゃった!
 どどどどうしようどうしよう!? 私、なんかしちゃったかな!?

棗「未央……ありがと……」

未央「ああああ、いやいやいや、そんなことはいいから。ほらまず、ね!」

 手に持ってたタオルをなっつへ渡す。なっつはしばらく顔をうずめてたけど、なんか少しずつ落ち着いてきたみたい。
 よかったー……なんかやらかしたかと思ったよ。

未央「ちょっとは落ち着いた?」

棗「うん、ごめんね」

 目を赤くしてるなっつはそれでも、微笑んでみせる。あーやっぱりなっつは、かわいいよねー。


棗「なんかうれしくて……未央があたしのために、って」

未央「……あー」

 なんかなっつにそう言われると、すごく照れちゃうな。えへへへ。
 うーん、でもこれでよかった、のかな?

未央「いいのいいの。私はこういうことくらいしかできないから」

棗「ううん、そうじゃないよ?」

未央「ん?」

棗「うん、すっごいことなんだよ? だって、人気のアイドルに元気出せ!って、応援されたんだよ?」

未央「……うん」

 まずいなー。顔がにやけちゃう。

棗「それもあたしだけの応援、って。ライブのみんなが、あたしの応援って!」

棗「こんなの、贅沢だよ。そう思ったら、泣いちゃった……びっくりさせてごめんね」

 いいんだよなっつ。私は、私のできることをやっただけ。
 でも、そうだよね。アイドル未央ちゃんが、あなたのために応援します! なーんて。
 贅沢に思ってくれていいんだよ? だよ?

未央「少しは元気、あげられたかな」

棗「……うん!」

 そうはっきりと、なっつは答えてくれた。


棗「大丈夫だよ、未央。今度絶対、たっくんに言ってやるんだから」

未央「ん? なに?」

棗「”くたばっちまえ”って……」

未央「……ぷっ」

棗「ふふっ」

未央「あははは! いいねいいねー!!」

棗「あははは! うん、絶対ぜーったい言ってやるの!!」

未央「よーし! ビンタもおまけにつけちゃおうか!」

棗「それサイッコー!!」

 あははは、って。ふたり笑って。
 なっつも笑顔、私も笑顔。
 よかったよ、なっつ。未央ちゃんのアイドルパワーは、なっつにいっぱい届いたかな。

 もう夜も遅いからって。なっつはスタッフさんに送られて帰ってった。


P「よっ、おつかれ」

未央「プロデューサー!」

 プロデューサー、本当に本当にありがとう。
 私のわがままだけど、なっつのために全力で頑張ったよ。

P「届いたみたいだな」

未央「……うん」

 プロデューサーが持ってきてくれたジュースを飲みながら、私はさっきまでのテンションを思い出す。
 ファンのみんな、私のわがままにせいいっぱい応えてくれた。たったひとりの親友のために、みんなが一体になってくれた。

 すごいなあ……なんてすごいんだろ。

未央「ねえプロデューサー」

P「なんだ?」

未央「私のファン、すごかった……すごかったよ!」

未央「だってだって! 私のために全力でエールをかけてくれる! ……たまんないよ」

 すごいすごいすごい! 未央ちゃんはなんて幸せものなんだろう!

P「それが、さ。未央の持ってるアイドルの力さ」

未央「……力?」

P「未央の元気に応えたい。未央の想いに報いたい。そう思わせる力が、未央にはあるってこと」

P「もっと自信持て。未央はすっごいアイドルなんだぞ?」


 すっごいの、かな? そこはよくわかんない。でも。
 私だけじゃなく、ファンのみんながいれば、百倍にも千倍にもパワーが拡がるって。
 今日、わかったよ。

未央「でもそれは、ファンのみんながいたからだよ、きっと」

P「……それがわかるなら、未央はもっともっと伸びていくさ。いや、俺が伸ばしてやる」

 プロデューサーは笑う。私もつられて笑う。
 やり切ったけど、まだまだ。
 そうだね、もっともっと伸びるよね。きっと。

未央「……なっつ、大丈夫だよね」

P「たぶんな。まあ、恋を知った女の子は強くなるっていうしな」

P「明日には、笑えるさ」

 そっか、恋を知った女の子は強くなれる、かあ。
 なっつ、頑張れるよね。

 でも、そんななっつがちょっとうらやましいな。
 だって未央ちゃん、まだ恋とか愛とか経験ないんだもん。

未央「なら、この未央ちゃんも、もっともっとせくちーになれば! きっとプロデューサーもエロエロに」

 べちっ!
 あだぁーー!! またまたデコピンされたあ!!

P「そういうのはせくちーな大人になってから言いなさい。な?」

未央「……はぁい」

 おでこジンジンする……本気で痛いよ、プロデューサー。


P「さ、そろそろ引き上げようか。遅いしな」

未央「うん。あ、そうそう」

P「お?」

未央「未央ちゃんおなかが空いたのでー、帰りになんか食べていきたい、かな?」

P「ま、そうだな。ライブの成功祝いに、ちょっといい肉でも食うか」

未央「おー、やったね!!」

 ついついうれしくなって、プロデューサーと腕を組んでみた!

未央「いかがですかな? ピチピチのアイドルの感触は?」

P「デコピン、欲しいか?」

 プロデューサーが反対の手をワキワキさせる。

未央「ちょっ! マジ痛いから! 勘弁してくださいぃぃ!」

P「……冗談だよ。ちゃんとエスコートさせていただきますって。本田未央さま?」

未央「お、苦しゅうないぞ! よきに計らえ!」

P「よーし、忘れ物ないようになー」

未央「大丈夫ー! おっにく、おっにく!」


 恋とか愛とか知らないから、まだまだかもしれないけど。こうしてプロデューサーとじゃれてるのも、楽しい。
 これがなっつみたいに恋を知ったら、私はなにか変わるのかな。

 ううん、今は知らなくても、いいや。
 未央ちゃんは伸びしろがあるし! ファンのみんなとてっぺん目指すんだ。
 それからでも、遅くないよね?

 未央ちゃんはまだまだ伸びるぞー! 頑張るぞー!

未央「ねえプロデューサー」

P「おう?」

未央「これからも未央ちゃんをよろしくね!!」

P「……任せとけ」

未央「てっぺん取ろうね!!」

 でも、その前に。
 私にはお肉が待っている! てっぺん取るにもまず英気を養わないとね。

未央「やるぞー!! そして、食べるぞー!!」

 まだまだ食い気だ! それでいいのだ!



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(おわり)


おわりです、お疲れさまでした。

ちゃんみおは友達想い、そんなおとぎ話でした。
皆さんの琴線に触れれば幸いです。

では ノシ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom