僕の自転車のサドルは、皆より少し低い
僕の脚が短いから、それに合わせてサドルも低くしてあるからだ

一時はそれが恥ずかしくて、嫌で
無理やりサドルを高くした事もあった

ペダルは下まで届かなよくて、足はつま先立てても着かなくて
何度もこけて、何度も泣きそうになった

どうして脚が短いんだろう

どうして僕が不幸な目にあわなきゃいけないんだろう

何回も、何十回も何百回も
沢山考えていたら、元の高さに戻っていた

久しぶりに高くしようかと思ったけど
錆びていて、動かなくて。まるで今のままがいい。って言ってるようで

僕はその場を後にして、玄関へ戻った
そしたら、キッチンの方から嫁が呼ぶ声がする

きっと夕飯の手伝いをして欲しいんだろう
昨日はササミとご飯だったから…今日は、もやし炒めかな？

「僕の自転車のサドル」

友達って何だろう

お弁当のミートボールを一つ、口の中に放り込み
目の前の友人に尋ねた

なんだよ、急に。と興味無さそうな声で返事が帰ってくる

ミートボールが喉元を通ると同じに、またまた興味のなさそうな返事。
一緒に遊びに行った、とかそんなんじゃね？

ゴクリと喉元を過ぎたのを確認してから
そっか。
と、短い返事をした

「友達」

好きな色は何色ですか？

心地よい風が吹き抜ける草原
隣に立つ女性からの質問

ぱっ、と。頭に赤色が浮かび上がる

赤、でしょうか。
自身のない声が口からポロリと出た

赤ですか。素敵ですね

女性は、頭にかぶった麦わら帽子を右手でおさえ
楽しそうに、ふふふ。と笑った

あなたは、何色が好きですか？
僕は、さっきの質問を女性に投げつけた

そうですね…

女性は、少し言葉を濁らせると空を見上げた

空色。なんてどうでしょう？

空色、と言いますと水色ですか

いいえ、空色です。

女性は、何故か誇らしそうな顔でこちらを見てきた

青空も、曇り空も、夕焼けも、夜空も…全部、空色です

あぁ、なるほどな。
この人にとっては、目に映る全ての色が空色なのか

なるほど、なら僕の赤色も空色ですね

そう言って、僕は女性の手を握る

大丈夫ですか？
と、声をかけてからゆっくりと歩き出す

持っていた杖を落としてしまった様子だったが、構わず歩き続ける

君の空色が見える日が来ればいいな

「空の色」

銀紙を丁寧に外し、口に放り込む。
途端、濃厚な甘さが口いっぱいに広がり幸せな気持ちになれる

もう一つ、箱から取り出す

次はまじまじと銀紙を見つめる
箱の中に入ってるのに、また一つ包んでいるだなんて贅沢な食べ物だ。
と、うなずきながら銀紙を剥く
現れるのは、ツヤのある大粒のチョコレート。

この大きさが幸せの大きさなのだ。と、人生を悟したフリをして
それを口に放り込む

箱の中を見ると、後一つ。小ぶりなものが残っていた
これを食べてしまうのはもったいない。明日のために残しておこう
誰もいない部屋で、1人、うなずき蓋を閉じた

「幸せの大きさ」