藤居朋「悪運のはらいかた」 (30)

「赤い月を見た次の日に知り合いが事故にあって。さらにそれが二度続くの。四度目に赤い月を見たとき、あなたはどうする?」

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藤居朋「よし、これで蟹座が1位ね」

杉坂海「なんだかありがたみがうすくないかい」

朋「いいの。細かいことは気にしない。この雑誌はね、きっとあたしの運勢をよくしてくれるわ」

海「朋がいいならウチは構わないけどさ」

朋「海ちゃんありがとね。手伝ってくれて」

海「お安いごようだね。ーーあっ、こっちの雑誌だと今週のラッキースポットは海だって」

朋「だめよ、10位の雑誌なんて。それにあたし、海はあんまり好きじゃないのよねえ。どっちかっていうと山かしら」

海「ひどいね~、朋はウチのことが嫌いなの?」

朋「もうっ、そんなわけないでしょ。海ちゃんのイジワル」

海「あははっ、ごめんね。ーーで、このハズレの方の雑誌らはどうするの。捨てる?」

朋「そんなもったいないことしないわよ。事務所に置いておくわ。たぶん誰か読むでしょ」

海「ハァ、ほとんど読まない雑誌10冊買うのをもったいないと思う人は多いと思うけどね」

朋「仕方ないわよ。運を良くするにはお金がかかるんだから」

海「……朋、あんたもしかして幸運の壺とか買ってないよね?」

朋「もう失礼ねー。あんなの買わないわよ」

海「ごめんよ。朋が悪い商売に引っ掛かってないか心配になってね」

朋「謂れもわからない。どんな神様のものかもわからない。ご利益だってあってないようなのばっかり。あっても値段に釣り合うほどじゃなかったし」

海「…ちょっと待って。その口ぶりだと買ったことがあるように聞こえるんだけどさ」

朋「大丈夫よ。今まで買ったのは全部クーリングオフしたから」

海「全部って……そんなに何度も買ったのかい……」

朋「うーんとね10回…は越えてるかな。でも最近は買ってないわよ。ロクなのないからね。訪問販売の人も来なくなっちゃったし」

海「……朋、あんたお願いだから借金とかしないでね」

朋「や~ね、借金なんてしないわよ。お金借りてもお釣がくるほどすごいパワーアイテムなんて、あるわけないじゃない」

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朋「じゃじゃ~ん。幸 運 ダ イ ス~」

海「今度のはなんだい?」

朋「これはね、なんと振れば振るほど幸運になるサイコロなのよ。すごいでしょ」

海「へえ、普通のサイコロより面がたくさんあるんだね。ーーで、出目は吉と凶の二種類と。…吉、吉、凶、吉、凶、凶、吉……朋、このサイコロ凶多くない?」

朋「大丈夫、問題ないわよ。見せてあげるわね。ーー次のあたしたちのLIVEの運勢はっと」

カランコロンー[凶]

海「朋~、凶じゃない。勘弁してよ。ウチだってそういうの少しは気にするんだから」

朋「大丈夫よ。ここからがこのダイスのすごいところなの。もう何回かふって」

カランコロン、カランコロンーーー

朋「…吉、凶、吉、吉、吉、吉。これで吉5回に凶2回。これであたしたちの幸運は約束されたわ」

海「……なんかズルくないかい? 凶が出たらふりなおすって」

朋「ズルくないわよ。これはそういうアイテムなの。それに、出た目をなかったことにするわけじゃないし。凶に吉をぶつけて余った吉の分だけ運がよくなる、そんな感じよ」

海「あんまりご利益なさそうだけどね。まあ、LIVEにお墨付きもらえるならありがたくもらっとくけど」

朋「何も心配することなんてないわよ。レッスンもしっかりしたし、仕上がりもバッチリ。あとは運さえあれば、成功は約束されたも同然だわ」

海「ま、そうだね。レッスンも十分でコンディション抜群。ーー前座だからって手抜きはしないよ」

朋「そうそうその息よ。ーーさて、LIVEのためにも、もうちょっとふっとこ。……うわ、凶が2コも出ちゃった。頑張ってふらないと」

海「朋、あんたLIVE前に腱鞘炎とかシャレにならないからね」

朋「大丈夫。このダイスはね、たくさんふってもいいように、とっても軽いのよ。……よし、吉だわ。これで吉10回に凶4回」

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朋「……」

シャカシャカシャカ,

海「……」

バラバラ…カシャカシャカシャ,

朋「…」

カシャカシャ…トントン,

海「……」

シャッシャッシャッ,

朋「……」

コトン…カタン…コトン,

海「……」

クルン…,クルン…,クルン…,フゥ,

朋「これでよし。海ちゃんもう喋っても大丈夫よ」

海「けっこうあっさりしてるね。前にTVで見たやつとも違うし」

朋「タロットは占い方がいろいろあるからね。まあ、気持ちがこもってればだいたいオッケーよ。いろいろやるのは面倒くさいし」

海「占ってもらうウチが言えた義理じゃないけどさ、そこらへんしっかりすればもうちょっと当たるようになるんじゃない?」

朋「やったことあるけど、たいしてかわらないんだもん。というかそもそもタロットは、パワーアイテム並べてやればいいわけでもないのよねえ」

海「ふーん、そういうもんなのかい」

朋「まあ、そこらへんは見てればわかるわよ。…っと、それで占いの方だけど」

朋「左から悪魔の正位置、塔の逆位置、戦車の逆位置ね。それぞれ過去、現在、未来を表すのよ」

朋「現在が解決すべき問題で、過去がその原因、未来が問題を解決しなかった場合にどうなるかね」

朋「んで、それぞれの意味だけど、悪魔の正位置は欲望や嫉妬を表すの。塔の逆位置は再生や解放ね。それから、戦車の逆位置は失敗や暴走よ」

海「誕生日プレゼントにはほど遠い言葉ばっかりだけど」

朋「大丈夫よ。タロットではね、表面上の意味はそれほど重要じゃないの。大切なのは本質をつかむこと。そして、ここから導き出されるの答えはーーー」

海「……」

朋「……」

海「……導き出されるのは?」

朋「……海ちゃんの弟ちゃんはなんかやりすぎちゃったせいで立ち直るけどそのうち負けるでしょう、とか?」

海「……ごめん、朋。ウチにはよくわからなかったんで、もうちょっと噛み砕いてもらっていい?」

朋「さぁ、どう意味かしらね……」

海「なんで朋がきくのさ……」

朋「なんでかしらね……」

海「……」

朋「……」

朋「……とまあ、タロットで重要なのは引いたカードが何を指しているのか読み取ることなんだけど、あたしこれが苦手なのよねえ」

海「ハァ……、なるほど、これじゃ朋自慢のパワーアイテムもかたなしだね」

朋「そうなのよねえ。読み取ることさえできれば、タロットって当たるんだけど。ごめんね、海ちゃん。役に立てなくて」

海「ま、当たらないっていってるのに無理にやってもらったわけだしね。まだ先のことだし、弟のプレゼントは自分で考えてみるさ」

朋「そうねえ、それが一番だと思うわ」

海「そういえば、タロットがよくあたるっていってたけど、朋がタロット使ってるのはあんまり見かけないね。やっぱり読むのが苦手だからかい?」

朋「う~ん、それもあるけど、どちらかというと、意味がないからかなあ」

海「意味がない? 変わった表現だね」

朋「占いってのは矛盾した結果でのは日常茶飯事だからね。条件を揃えてやらないといけないの」

朋「例えば、大吉を5回連続で引いたあとに、タロットカードが悪い結果が出ても、当たらないの」

朋「この場合、タロットカードが外れたというより、悪い結果を大吉が消してくれたって考えるのよ」

朋「だから、ある程度運気が片寄ってる時じゃないと、占っても意味ないのよ」

海「なんだか、難しい話だね。朋の口から出てきたのが信じられないよ」

朋「もう、海ちゃんったら」

海「あはははっ」

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朋「……」ハァ,ハァ,

海「……」ハァ,ハァ,

『ーーハートウォーマーズのお二人でした。続きましてーー』

朋「……」

海「……」

朋「……今日はツいてなかったわね」

海「……朋、そのーー」

朋「運が悪かった。それだけの話よ」

朋「ハァ……、あれだけお祈りしたのにね。魔除けのお札も持ってきたんだけど、役に立たなかったわね。あとで捨ててやろ」

「……」

朋「今朝の占い蟹座1位だったのにね。やっぱりTVの星座占いはあてになんないわ。次は別のニュース見ましょ」

「……あの」

朋「……? えっと、他の出演者さん?」

「あまり運が悪いと連呼しないでくれませんか。気分が悪いです」

朋「あ、ごめんなさい。うるさかった?」

「……。そうではなくて……ミスを運のせいにするはのプロとしてどうなんでしょうか」

朋「……ああ、そういうこと」

「ミスをしたのはあなたたちのレッスン不足が原因じゃあないんですか」

朋「うーん。でも世の中にはどうしようもないこともあると思うんだけど。ーーあんたがこのLIVEの前座であることとかさ」

「……っ!」

海「ちょ、やめなって」

朋「プロがどうとかいうあんたはさぞかし努力してるんだろうけど、そんなあんたが売れないなんてね。ーーツいてないわね、あんた」

「……」

海「朋!!」

「……私が売れてないのは認めます。努力すれば報われる、そんな甘い世界じゃないことも。ーーでも、あなたみたいに何かのせいにするつもりはありません」

朋「へえ、ずいぶんとご立派なことで。でもまだまだ子供ね。ーーあなた苦労したことある?」

「……芸能活動は私の方が長いとおもいますよ」

朋「そっか。まあ、あんたのことは知らないけど、確かに私新人だしね。ーーでも人生経験は私の方が豊富だと思うけど」

海「朋、やめな! そっちの人もごめんね。ウチの相方が迷惑かけて。ーーほら朋、いくよ!」

朋「……たとえば、あんたが雪山で遭難したとしてさ。あんたはどうする?」

「……いきなりなんの話ですか?」

海「……朋?」

朋「まわりは吹雪で自分がどこにいるかもわからない。あるのは少ない食べ物と安っぽいお守り」

朋「そんなとき何ができる? ーー何もできないわよ。ただ、お守り握りしめて救助隊に見つけてもらうのを祈るしかないの」

海「……朋、あんた」

朋「……ごめん、気分悪くなったからちょっと歩いてくる」

ガチャ,バタン,

海「……」

「……」

海「……ごめんね、いろいろと」

「……いえ、私も言い過ぎたかもしれません」

海「……」

「あの……さっきの彼女がいっていたことは」

海「ごめん、ウチにもわからない。ーーただ、朋のこと誤解しないでやって欲しいんだ」

海「LIVEのあれさ、ウチのミスなんだよ。朋は何も悪くない。運がどうのこうのってのも朋なりの慰めなんだ」

海「朋はレッスンだってしっかりやってるし、いい加減な気持ちでアイドルしてるわけじゃないんだ。ーーわかってほしい」

「……はい」

海「……じゃあウチ、朋のこと追いかけなくちゃいけないから」

「……」

ガチャ,バタン,

「……」


……



……


海「……朋」

朋「あ、海ちゃん。ごめんね、ついかっとなっちゃって」

海「ううん、いいよ」

朋「あー……それと、さっきの話だけど気にしないでね。ただの例え話だから。あたし雪山どころか普通の山登りだってーー」

海「さあ、なんの話だい? なにか聞いた気もするけど、忘れちゃった」

朋「海ちゃん……」

海「それよりウチこそごめん。ウチがミスしなきゃ喧嘩じたい起きなかっただろうしね」

海「まったく今日はついてないよ。ーー朋もそう思うだろ?」

朋「……! ……うん、そうよね。ついてないわ」

海「そうそう、ついてない。全部運のせい」

朋「……うん、ほんとついてないわ」

海「LIVEが終わったらとびきりご利益のあるお守り買いにいこう、朋」

朋「うん」

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ーー

朋「こっちは生命線。こっちが感情線。それからこっちが知能線ね」

海「ふーん。それでどんなことがわかるんだい」

朋「そうねぇ。例えばこの感情線。これは海ちゃんが感情豊かであることを表しているわ」

海「占いとはいえなんだか照れるね、へへっ」

朋「他には……あっ、太陽線が長いわね。この線は金運に関係してるの」

海「金運って宝くじにあたるとか?」

朋「太陽線はどちらかというと、自分でどれくい稼げるかね。で、財産線がそのお金をうまく蓄えることができるか。宝くじは……運命線かしらね。」

海「ふーん。そういえば朋も宝くじとか買うの?」

朋「嫌よ宝くじなんて。もし当たったら一生分の運を使い果たしちゃいそうじゃない」

海「朋の場合、そう来るんだね。ウチの弟達なら、一生分の運と平気でひきかえそうだけど」

朋「わかってないわね。運がなくなるってのはね、不幸をはねのけられなくなるってことなのよ」

朋「運があればものをなくしても返ってくるし、道に迷っても遅刻しない。それから……事故に遭っても命は助かるの」

海「ああ、そっか……」

朋「……」

海「……」

朋「……あっ、海ちゃんの太陽線よく見たら途切れてるわね」

海「それはいいこと、悪いこと、どっちだい?」

朋「悪いことね。途切れてると、途切れた位置に応じた時期に、金銭トラブルに巻き込まれることを表しているの」

海「それはあんまりうれしくないね」

朋「まあ、あんまり気にしなくてもいいわよ。手相は人生とともにかわるものだから」

海「へえ、そういうもんなんだ。ーーってことは、さっきの太陽線の途切れがなくなったら、運命が変わるわけ?」

朋「そうなるわね」

海「ころころ変わる運命ってのもあんまり頼りにならなそうだね」

朋「深く考えたって仕方ないわよ。占いってそういうものなんだから。あたしからすれば変わらない運命の方が嫌よ」

海「確かに起こることすべてが決まってるとしたらやってられないね。そう考えると手相は気楽に占えそうだね」

朋「うーん。でも、手相って変わらないものの方が多いのよね」

朋「まあ、そういう線をカッターなんかで伸ばしたら病気が治った、なんて話もあるけど」なにも変わらなかったっても話も多いけど

海「へえ。…………もしかして朋もやろうとしてみようとしたことがあったりして?」

朋「もう、いくらなんでもやらないわよ。さっきの話だって、やっても何も変わらなかったって話の方かが多いんだから」

海「ごめんごめん、朋ならやりかねないとか思っちゃってね」

朋「もう……」

海「……」

朋「……」

朋「……さすがに肌を傷つけるのは抵抗があって」

海「……そっか」

朋「……」

海「……」

海「……ま、ウチは良かった。朋がそうしなくて」

朋「もししてたら、こうして一緒にアイドルできなかったもしれないしね」

朋「……えー、どうしてよ?」

海「なにいってんの。肌はアイドルの命だよ?

朋「……! そっか……そうよね」

海「うん、そうさ」

朋「……うん。……よかったわ、やらなくて」

ーー
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カランコロン,カランコロン,

朋「うーん、だめねぇ」

ガチャ,

海「おはようございまーす 」

カランコロン,カランコロン,

朋「あっ、おはよう海ちゃん」

海「おはよ、朋。どうしたんだい、額に皺よってるよ」

朋「うーん、最近運勢があんまりよくないのよね」

海「運が悪いって財布でも落とした?」

朋「まだ落としてないわよ。ーー最近占いがことごとく悪い結果を示すのよねえ」

海「なんだ、何も起きてないのかい。そんなの気にしたって……ああ、いや違う……そうじゃない」

海「ごめんね、朋」

朋「もう、なんで海ちゃんが謝るのよ。海ちゃんは別に悪くないわよ。占いなんて信じないのが普通なんだから」

海「朋の口からそんな言葉がきけるなんて。明日は槍でも降るかもね」

朋「もうひどいわ。海ちゃん」

海「あははっ」

朋「……」

海「……」

カランコロン,カランコロン,

海「それで、そのサイコロ使って運ためてるんだね」

朋「まあ、ためてると言うか、出目の偏りがひどいのよね」

海「偏り?」

朋「このサイコロはね、吉が7個、凶が3個あるの。だから、何度もふれば吉の数が7割りに近づいてくはずなんだけど、6割りぐらいからなかなか離れてくれないのね。」

カランコロン,カランコロン,

海「へえ、出た目をメモしながらやってるんだね。ーーああ、そのチラシが。……!? これっ……!」

朋「…………あっ」

バッ,グシャリ

海「……」

朋「……」

海「……朋、そのメモ。ウチに見せてごらん」

朋「……おもしろいことなんて何も書いてないわよ」

海「いいから」

朋「……」

朋「……はー」

ワシャワシャ

海「……チラシの裏紙みたいだけど、これ今日のみたいだね」

朋「……」

海「なのに、書いてある数字が5桁越えてるみたいだけど」

朋「……」

海「朋、あんた今日ずっとサイコロふってたの?」

朋「……ずっとじゃないわよ。食事だってとってるし、休憩も挟んでるわ」

海「そういうことをいってるんじゃないよ!!」

バンッ!! …カラン,コロロ…

朋「……」

海「……」フゥ,フゥ,

朋「……」

海「朋。こんなこと言いたかないけど、あんたおかしいよ」

朋「……」

海「朋がなにか抱えてるのは知ってる。でも、こんな、こんなっ!」

朋「……」

海「なにか悩みがあるならウチに話してよ! 朋、お願いだからっ!」

朋「……ごめんね、心配かけちゃって。でも、海ちゃんにはどうにもできないわよ」

海「どうしてさっ!」

朋「あたしの悩みは、運が悪いこと、それ自体だから」

海「……っ!」

朋「こればっかりはどうしようもないわよ」

海「……そう、かい」

朋「うん、そうよ」

海「……」

朋「……」

ーー
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ーー

ガチャ,

海「おはようございます」

朋「あっ……!」

カシャカシャ

海「……」

朋「……」

海「タロットやってたの?」

朋「……うん、まぁ」

海「そう」

朋「……」

海「……」

海「……朋はさ、占いから離れることはできない?」

朋「うん……」

海「そう」

朋「……」

海「ウチ、雑誌でも読んでるよ」

朋「うん……」

海「……」

……
………
……

ペラッ,ペラッ,

海(今の朋は占いや運勢とかに引っ張られ過ぎてる。ーーううん、気づいてなかっただけで、朋はずっと前からそうだったんだろうね)

ペラッ,

海(朋と占いの距離をもう広げないと。じゃないと、いつかとんでもないことになるかもしれない)

ペラッ,

海(でも、無理矢理はがしてもだめだろうね。朋の心の中にあるのは、きっと不運への恐怖だろうから)

ペラッ,

「……」

ペラッ,

海(……けど、ウチになにができるのかな)

ペラッ,

海「……!」

海(これ……。これなら朋の恐怖をやわらげれるんじゃ? でもこんなの気休めにしか……)

う「……」

海(ううん、気休めでもかまわない。朋が少しでも楽になってくれるなら)

海(だってウチは)

海「……朋」

朋「なに、海ちゃん」

海「ウチは朋のこと、親友だと思ってるから」

朋「うん……」

海「それだけだけど、覚えておいて」

朋「そう……」

海(ウチは朋の親友なんだから)

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ーーーーーー
ーーーーー
ーー

海「朋」

朋「海ちゃん……」

海「今、時間ある?」

朋「……まあ、あるけど」

海「じゃあ、座りなよ、ほら」

朋「うん」

海「……」

朋「……」

海「この前はごめん。朋の気持ちも考えずに一方的にどなって」

ペコリ

朋「ちょ、ちょっとっ! 頭なんて下げないで! 海ちゃんは何も悪くないわよ!」

海「でも、ウチは朋のこと、きっと傷つけたから」

朋「……仕方ないわよ。あんなのみたら誰だっておかしく思うわ。それが普通の反応だと思う。ーーあたしだってそうする」

海「……」

朋「……」

朋「ねえ、顔あげてよ」

海「うん……」

朋「……」

海「……」

海「朋、それからもうひとつ。これ、受け取って」

朋「プレゼント? 誕生日ならとっくに過ぎたわよ」

海「いいから」

朋「うん……」

ガササッ

朋「……ペンダント? ……! これ、もしかしてモリオン?」

海「やっぱり朋は詳しいね。厄払いの効果があるんだってね」

海「翡翠や黒檀とも迷ったんだけど、最強の厄よけってうたってたからモリオンにしたんだ」

海「あってる? パワーストーンの効果ってけっこう曖昧だったから迷ったんだよね」

朋「……これ、高かったんじゃないの?」

海「さあ、どうだったろ。忘れちゃったよ」

朋「とぼけないで。わかるわよ。大きさと形見ればだいたいの値段ぐらい」

海「ま、朋にこういうのの知識で勝てるわけないか」

朋「……どうして」

海「どうしてって? ーーいったでしょ、親友だって」

朋「……!」

海「ウチにとって朋はさ、アイドル仲間で、年上なのに放っておけないところのある妹みたいな存在で、ーーウチがミスしたら慰めてくれる、親友さ。へへっ、なんだか照れるね」

朋「……」

海「朋がかかえてるのがそのペンダントひとつでどうにかなるとは思ってないけど、ウチが朋のこと想ってることを伝えたかったらさ」

朋「……」

海「他になにができるかわからないけど、ウチにできることなら協力するから遠慮なくいってよ。サイコロだってふってやるよ?」

朋「……」

海「……朋?」

朋「ありがと」グスッ

海「朋……」

朋「ありがとね、グスッ、海ちゃん、グスッ」

海「お安いごようだよ」

朋「ありがと……」グスッ,グスッ

海「……」

朋「……」

朋「それから、ーーーね」ボソッ

海「ん? なんだい朋」

朋「ーーーね、海ちゃん」

海「ごめん、きこえないよ。朋」

朋「……」グスッ,グスッ

海「朋……?」

朋「……」グスッ,グスッ

海「……」

朋「ごめんね、海ちゃん」

バチバチッ……ウグッ……ドサッ……

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ーーーーーー

ーーーーーー
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ーー

ごめんね海ちゃん

こんなことして

でも、他に方法がないのよ

もうすぐ悪いことが起こるのは確かなの

だって、今までだってそうだったから

占いで悪い結果が続いたときは、決まってあたしの周りで悪いことが起こったの

だから、タロットでなにが起こるのか占ってみたのよ

そうしたら、海ちゃんがアイドルを続けられなくなるって出たの

どんなことが起きるかはわからないけどね、それは必ずやってくるから

それを止めることはできないけれど、でも、被害を小さくすることはできるの

そのためにはね、タロットが指した未来を先にあたしの手で起こせばいいのよ

今までもこの方法で防げてきたから大丈夫よ

こうすれば、最小限の被害ですませられるから

少なくとも、海ちゃんか死んじゃうようなことはないわ

だからーー

……

ごめんね、海ちゃんの肌に傷をつけて

そこまで目立たない場所にしたつもりだけど、ごめんね

許してとはいわないわ

でも、ごめんね

ごめんね

ーー
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ーーーーーーーーーーーー

おわり

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