モバP「だりやすかれんと夏の気配」 (25)
―――窓全開な泰葉のお部屋
扇風機「ぶぅーん……」
李衣菜「――はぁ。夏だねぇ」
加蓮「んー」
李衣菜「でも今日は良かったね。そんな暑くないし」
泰葉「んー」
李衣菜「ずっとクーラーじゃ体調崩しちゃうもんね」
李衣菜「……でもさ」
「「んー?」」
李衣菜「人を枕にするのはロックじゃないと思う」
「「んー……♪」」ゴロゴロ…
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李衣菜「んー、じゃなくて。重いよ……」
加蓮「だって李衣菜のお腹、ちょうどいい高さなんだもん。柔らかいし、人肌気持ちいいし?」
李衣菜「苦しいんだけど……」
泰葉「李衣菜の太もも、ひんやりしてるから……」
李衣菜「うぅー、動けない~……!」
加蓮「枕が動いちゃダメでしょ」
泰葉「李衣菜、動くと余計に暑くなっちゃうよ」
李衣菜「私枕じゃなくて人間なんだよね……。それにふたりがどいてくれたら少しは涼しくなるんじゃないかな」
加蓮「枕のくせに口答えする気? そんな枕は……こうだっ♪」グリグリー
李衣菜「んゃはっ!? くすぐったいバカぁっ!」
泰葉「それじゃ私も……すりすり♪」スリスリ
加蓮「うりうり~♪」
李衣菜「うああああやーめーてー!」
李衣菜「――もーいい……もう勝手にしたらいいよ……」グテッ…
加蓮「よし、おとなしくなった♪」
泰葉「ふふ、李衣菜のそういう素直なところ好き」
李衣菜「はいはい……」
加蓮「むっ。私の方が李衣菜好きだし」
泰葉「……むむ。聞き捨てならないかな。私の方が好きなの」
加蓮「なによー」
李衣菜「そういう方向に持ってく日なんだね、今日は」
加蓮「…………」ムー
泰葉「…………」ムムー
李衣菜「もっとさ、夏っぽいことしない? 部屋でごろごろしてるよりずっといいと思うんだけど」
加蓮「なに言ってんの。今すごい夏感じてるよ私」
李衣菜「……はあ。そうですか」
泰葉「ショートパンツを挟んで、ひとりの女を懸けた睨み合い……!」
加蓮「まさにひと夏のあばんちゅーる! ……今日の下着は何色かなー?」クイッ
李衣菜「セクハラぁ!」ベシィッ!
加蓮「ふきゃあ!?」
李衣菜「はーあ。プールとかそういうとこ行きたいなぁ」
泰葉「水着持ってるの?」
李衣菜「えへ、今年はまだ買ってないんだよね」
泰葉「じゃあまずショッピングからね……。今から行く?」
李衣菜「行きたいね……けど」
加蓮「痛い。叩かれた。もー私1歩も動かないからね。バツとして今日1日お腹枕の刑に処する」グスン ムギュー
李衣菜「これなんだもんなー……。分かったよぉ、叩いたの謝るから……」
泰葉「ふふ、これはもうテコでも動かなさそう」クスッ
加蓮「そうじゃなくても、ちょっと私疲れてるんだよね……。昨日撮影で歩き回ったから」
李衣菜「え、歩き回ったって……スタジオで撮影じゃなかったっけ?」
加蓮「だったんだけど、なんだかすごい広いビルでさー。スタジオ併設の芸能プロダクションなんだ、ってPさんが言ってたの」
泰葉「スタジオ併設……。もしかして、敷地にカフェとかエステとかがある?」
加蓮「あー、あるって聞いた。って、よく知ってるね泰葉?」
泰葉「やっぱり。……美城プロダクション、でしょう?」
加蓮「わ、当たり。泰葉も前にあそこでお仕事したんだ?」
泰葉「ううん、違うよ。ふふっ、どうして知ってるのでしょうか?」
加蓮「えークイズぅ? んーーー……」
李衣菜「あれ、加蓮には言ってなかったの?」
泰葉「ええ、今まで話す機会がなくて」
加蓮「――え。ちょっとちょっと、知らないんだけど。私だけノケモノ? ずるい~」
李衣菜「あはは。泰葉、元は美城プロにいたんだよ。Pさんに誘われてこっちに来たんだって」
加蓮「え、……ええ!? あ、あんな大きなとこにいたの泰葉!?」
泰葉「うん。アイドルじゃなくて、普通の芸能部門所属だったんだけどね」
加蓮「それがなんでウチみたいなちっこい事務所に――あ、もしかしてPさんって……!」
泰葉「ふふ、そう。Pさんもちひろさんも、実はもともと美城にいたの」
李衣菜「たしか……所長さんが美城プロから独立するって話で、ふたりを引き抜いたって聞いたなぁ。で、そのときに泰葉もって」
加蓮「な、なにそれ……私そんな話一度も聞いてない! ほんとにノケモノにされてたってわけっ?」
李衣菜「てっきり泰葉が話してたと思ってて……Pさんまで黙ってたとは」
加蓮「もー……私の身の上は洗いざらい吐いたってのに、こんなのってあるぅ……?」ズーン…
泰葉「あ……うん、そうよね……。もっと前に話すべきだったかも。ごめんなさい、加蓮。気に障ったなら……」
加蓮「や、そんな謝らなくてもいーよ、だいじょぶ。でもそっか、だからPさん、あんな広い場所で迷わなかったんだ」
李衣菜「ふふ、元同僚に会ってたりしてね」
加蓮「どうだろ。私も移動ばっかりでついてくのに必死だったし」
泰葉「色んな階を行ったり来たりしなきゃならないものね、あそこは」
加蓮「エレベーターなきゃとっくに死んでたよ私……。撮影は楽しかったけど、もうあんまり行きたくないかもー」グリグリー
李衣菜「うぇええお腹ぐりぐりやめへぇー」
泰葉「どう、たくさんアイドルいたでしょう?」
加蓮「うん。廊下歩けば2、3人は当たり前、って感じだったなぁ」
加蓮「速水奏、って子と撮影だったんだけどね、みんな顔見知りみたいでさ。仲良さげだったよ」
李衣菜「へー。仲良くなれそうな子いた?」
加蓮「んー、会った限りじゃ大槻唯、塩見周子……あ、あと城ヶ崎美嘉。なんにも考えないでかるーく付き合えそう♪」
李衣菜「私たちとは結構ふかーく付き合ってる気がするけど?」
加蓮「ん、それは………………アンタたちは特別なのっ」ボソ
泰葉「……ふふふ♪」
加蓮「あ、あーあー! か、奏が言ってたけど! 水着グラビアとかやってるって! 私もやりたいなー!」
泰葉「あ、ごまかした」
李衣菜「ごまかしたね」
加蓮「う、うるさいっ」
李衣菜「へへへ♪ 水着グラビアかぁ、1回やったなぁ」
泰葉「あぁ、海まで行ったんだよね……李衣菜だけ」
加蓮「……李衣菜だけね」ジトッ
李衣菜「お、お仕事だったから……ね、ねっ?」
加蓮「私も海行きたいー水着着たいー日焼けしたいー!」
泰葉「日焼け……。加蓮の場合、上手く焼けずに真っ赤になりそうね」
李衣菜「あーあり得る。あとでお風呂入って地獄見るやつ」
加蓮「う……! そ、そんなのやってみないと分からないでしょ!」
李衣菜「日焼け止めたっぷり持ってかないとね。日傘とかも」
泰葉「べたべたに塗らないと。あ、クーラーボックスも持っていって……」
加蓮「もー、過保護ぉ!」
李衣菜「水着着るならそれこそプールでもいいじゃん?」
加蓮「海がいいのにぃ……。波に揺られたいー潮風感じたいー」ゴロゴログリグリ
李衣菜「定期的にお腹に負担かけてくるのやめてえええうぐぅぅうう」
泰葉「まぁ、まだ夏は始まったばかりだし。Pさんにもお願いして、たくさん思い出作りましょう?」
加蓮「どれだけ叶えてくれるかなぁ……Pさんおねがーい」グリグリ
李衣菜「お、ぉぉぅ……ま、まだぐりぐりぃ……!」
李衣菜「」ガクッ
加蓮「あ、落ちちゃった」
泰葉「もう、加蓮やりすぎ……。こうやってすりすりするだけにしとけばいいのに」スリスリ
李衣菜「んひぃ!?」ビクゥ
加蓮「起きた。……もっとぐりぐりー♪」
泰葉「すりすりー……♪」
李衣菜「もういやあああああ私帰るううううう!!」
李衣菜「お昼作ってあげようかと思ったけどもう知らない! 放せぇ!」
加蓮「まぁまぁまぁまぁ」ムギュー
泰葉「落ち着いて李衣菜」ギュー
李衣菜「あーつーいー!」ジタバタ
加蓮「ふふっ、りーなぁ~♪」
泰葉「そんなこと言って、本当は構ってほしいんでしょう♪」
李衣菜「ほしくないー! こんな扱いされるくらいなら外で茹だった方がマシだー!」
加蓮「じゃあ午後からは、外で今流行のアプリで遊ぼう♪」
李衣菜「さっき疲れてるって言ってたよね!?」
泰葉「帽子被って、熱中症にならないようにしましょうね」
加蓮「はーいっ。あっそうだ! 李衣菜、小腹がすいたとき用にサンドイッチ作って!」
李衣菜「あくまで帰らせる気はないと……!」
泰葉「……本当に帰っちゃうの……?」ウルッ
李衣菜「うっ! ……うぅ~、断われないの知ってるくせにぃ……!」
加蓮「ほんとちょろいよね李衣菜。知らない人についてかないでよ?」
李衣菜「帰ってほしいのか帰ってほしくないのかはっきりしてよ……」
加蓮「ふふっ♪ そんなのもちろん、一緒にいてほしいに決まってるでしょっ」
泰葉「李衣菜がいないと始まらないじゃないっ」
李衣菜「そう言うならもっとさぁ……」
加蓮「えへへ、ぐりぐり~♪」
泰葉「すりすり……ふふふっ♪」
李衣菜「だぁーかぁーらぁーっ! もう、あははっ♪ このぉ、覚悟しろーっ!」ガバッ
「「きゃーっ♪」」
扇風機「ぶぅーん……」
おわり
というお話だったのさ
だんだん暑くなるので熱中症には注意しましょう
ひとつ前のお話
岡崎泰葉「ころころ丸い、網目の幸せ」
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