【AC】傭兵の仕事 (33)
アーマードコアのSSです。
時代や企業名は決めていませんが、すべてのシリーズは過去のものとして扱われています。
機体は3~LR基準です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468937694
『おはようございます』
聞き慣れた愛機のキンキン響く起動音に起こされた。
ディスプレイの光が眩しい。
いくら面倒だからってコックピットで寝るもんじゃない。全身が痛い。
「ああ…おはよう、オンボロ」
脚を伸ばしながら適当に返しておく。返事なんかあるはずがないのに。
『新着メールが一件』
ああ。そうだ、仕事だ。
だらしなく伸びた無精髭を撫でながら、メールを開いた。
俺は傭兵をやっている。初めてもう長いことになる。
仲間なんていない。誰を信じても命取り。
全くイヤな職場を選んだもんだ。
メールの内容は任務の依頼だった。
任務内容は列車の襲撃。
ずいぶん懐かしい仕事だ。
C社の旅客列車に秘密裏に積載された機密物資を破壊しろ。
またテロリスト紛いの仕事だ。悲しいかな慣れている。
気は進まないが報酬はそれなりに高い。受けない手はない。
俺はミッションを契約し、装備を整えにガレージへ向かった。
いつかの戦争はこの星の国家体系を滅ぼした。
今ある戦場は国家に成り代わった企業達の抗争だ。
そこに大義や理想なんて物はない。あるのはどうしようもない強欲だけだ。
それは企業も俺たち傭兵も変わらない。
企業は全てを支配するため。俺は金のために戦う。それだけだ。
大義や理想を持って戦った奴らは皆おかしくなって死んだ。
復讐のためにブリキ人形を倒しても。
人類を暗い地下から連れ出しても。
命の恩人のために戦っても。
故郷を守るために戦っても。
一つの戦争を終わらせても。
新天地へと活路を開いても。
人類の破滅を防ごうと戦った奴もいた。
逆に滅ぼそうとした奴もいたっけ。
だけど結局何一つ変わりはしなかった。
せっかく這い出た大地は醜く爛れて、そんな地獄の中でも企業達は小競り合いを止めなかった。
それは新天地でも同じことだった。
巨大な兵器を作ったりACの開発を続けたり旧時代の兵器を掘り出したり。
いつまでたってもこんな事を続けている。
前の100年も。
多分これからの100年も、それは変わることはないだろう。
かつて殺されてしまった鉄の神様は、きっとこんな世界を望んではいなかっただろう。
しかしこんな世界でも人類はしぶとく生き延びている。
その中で、少しでも長生きしたいのであれば、理想なんて持たないのは絶対条件だ。
俺みたいに。
俺を買ってくれる奴らがいる限り、俺は生活に困ることはない。
それ以外に何か考えることがあるだろうか。
誰が死のうが生きようか、俺の知ったことではない。
『まもなく作戦領域に到着します』
そんな輸送ヘリのパイロットの素っ気ないアナウンスで現実に引き戻された。
さあ今日も元気に傭兵稼業だ。
俺はコックピットに無理矢理付けたステレオのスイッチを押した。
ACを投下します』
パイロットが言ってきた。作戦領域に入ったらしい。
「はいよ、いつでもどうぞ」
そう返すと、ガキンという重い音と共に浮遊感を感じた。返事もしないとはまったく無愛想なパイロットだ。
ブースターを吹かしながらズシンと着地する。
『戦闘モード 起動』
愛機のCOMが戦闘体制に入ると、俺はディスプレイに3Dマップを表示させる。
小さな岩山だらけの砂漠の真ん中を通る線路があり、開けた場所に寂しく補給所があった。
目標は燃料の補給のために一度この駅に停まる。そこを叩くらしい。
俺は時折通り過ぎる偵察機を残弾に気を使いながら右腕のマシンガンで撃墜しつつ、目的地を目指して移動を始めた。
『…Amazing grace how sweet the sound…』
ステレオからノイズ混じりの音楽が流れ出す。
俺が傭兵を始める前、子供の頃にラジオから流れるのを聴いて以来、ずっと大好きな曲だ。
穢れた心を僅かながらでも綺麗にしてくれるような気がするし、心なしか頭も冴えてくる気もする。
だから仕事の時は必ず聴くことにしている。
何世紀も前の、まだ神様という信じることのできるものが存在していた時代の曲。
いつかの大戦で多くの技術が失われ、この曲に謳われた神様が姿を消したこの時代でも、魅力は錆びていないと俺は思っている。
「~♪」
口ずさみながら俺は砂漠を滑走した。
しばらくして、補給所を辛うじて目視できる距離まで近くと、一度岩山の後ろに隠れて様子を見ることにした。
一応ステルス装置をチェックしておく。
不意打ちされるのはごめんだが、する分は爽快かつ楽だ。それにこれほど便利な物はない。
後で使いことにしよう。
依頼主から受け取った情報によると、護衛にACを二機つけているらしい。随分厳重なことだ。
二対一でも勝てないことはないが無駄な損傷や弾薬の消費はない方がいい。
無駄金を使えるほど俺は裕福ではない。
やはりやって来る偵察機を撃墜しつつ物陰で待っていると、獲物が現れた。
急いでステルスをオンにする。
情報通り二機のACを引き連れていた。
二機のACは機体構成といい塗装といいエンブレムといい全く統一性がない。
なるほど。同業者か。
こう言う仕事にも傭兵は駆り出される。
護衛任務は俺も何度か経験がある。
懐かしいもんだ。
まあ、同業者だからと言っても感傷も何もないので死んでもらうが。
列車が停まった。作戦開始だ。
俺は終わってしまった曲をリピート再生させた。
どうせならこの曲が終わるまでに済ませてしまおう。
『…Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me…』
岩陰から肩のレーザーキャノンを膝をついて構える。
まだ敵ACはこちらに気がついていない。ステルス様々だ。
脆そうな手間の軽量機にレーザーキャノンを二発放った。
一発で腕は千切れ、二発で脚が折れた。
流石に気がついた片方が発射地点を探し始めた。
見つかる前に瀕死の一機に止めの三発目を叩き込む。
ちょうどステルスの有効時間が切れた。潮時だ。
身軽になるためにクソ重いレーザーキャノンをパージする。だけど割と高価だったから後で回収しよう。そのまま捨てるには勿体無い。
岩陰から滑り出て、姿を敵に晒す。
敵がこちらに向かう。
対する俺は横にスライドしながらマシンガンで相手を狙う。
しかし相手は重量機。マシンガンを少し浴びたくらいではビクともしない。
その上武装はバズーカとプラズマライフル、肩にはレーザーキャノン。
対する俺の愛機は軽量機。当たればひとたまりもない。
『…I once was lost but now am found,
Was blind but now I see…』
細かいジャンプを挟みつつ敵機の周りを周回しながら弾丸の雨を浴びせる。
確実に削ってはいるのだがこれでは列車が動き出すまでに間に合わない。
それに弾が持つかどうか不安もある。
仕方ないが強行手段に出ざる得ない。
『…'Twas grace that taught my heart to fear,
And grace my fears relieved,…』
バズーカを撃ちながら迫ってくる敵機から後ろに引きながらマシンガンで牽制する。
数発当たればこっちはアウトだ。
『…How precious did that grace appear,
The hour I first believed…』
敵機は左腕のバズーカをパージした。
弾切れだ。
しかし油断はできない。
案の定、相手はプラズマライフルを構えた。
撃たれる前に丸腰にしてやる。
マシンガンの照準を敵の左腕に合わせ、トリガーを引いた。
『…Through many dangers, toils and snares
I have already come…』
相手がプラズマライフルを撃ってきた。
横にスライドして辛うじてかわす。
敵の左腕が耐えきれずに肘から千切れた。
勝った。
俺は左腕のレーザーブレードを構えてオーバードブーストで回り込みつつ接近した。
『…'Tis grace hath brought me safe thus far,
And grace will lead me home…』
勝利の確信は驚愕に変わる。
背後に回り込んだ瞬間、敵は真上に飛び上がった。
そしてあろうことか空中から肩のキャノンを放ってきた。
二脚機は原則として構えなしでキャノン系武装を使えない。
しかしながら敵はやってのけた。
敵は強化人間だった。
『…The Lord has promised good to me,
His Word my hope secures;…』
見積もりが甘かった。
だがこっちも仕事だ、破棄はしない主義だし死ぬ気は毛頭ない。
乱射してくるレーザーを死に物狂いでをかわす。
死んでたまるか。
生きるための金だ。金のために死んだら笑い者だ。
『…The Lord has promised good to me,
His Word my hope secures;…』
見積もりが甘かった。
だがこっちも仕事だ、破棄はしない主義だし死ぬ気は毛頭ない。
乱射してくるレーザーを死に物狂いでをかわす。
死んでたまるか。
生きるための金だ。金のために死んだら笑い者だ。
『…He will my shield and portion be
As long as life endures…』
敵が着地するタイミングを狙ってマシンガンを乱射しながら突進した。
『…Yes,when this heart and flesh shall fail,
And mortal life shall cease…』
ブレードで斬り付けようと回り込むと、敵はターンブースターで急速に振り向きながらレーザーを放った。
この距離ならむこうも爆風でひとたまりもないというのに。
俺は咄嗟のオーバードブーストで横っ飛びしたが、かわしきれずに右腕が吹き飛ぶ。
しかし残った左腕のブレードで敵の胴を深々と斬りつけることに成功する。
Gで肋骨がミシミシと嫌な音を立てた。
『…toils and snares I have already come…』
死んでたまるか。俺は生きるんだ。
敵が上にジャンプして俺の追撃から逃れようとしたが、こっちも追従して飛ぶ。
『…I shall possess within the vail,
A life of joy and peace…』
強化人間のブーストジャンプに着いて行くと加熱したジェネレーターが悲鳴を上げる。ラジエーターも冷却が間に合っていない。
機体温度が危険域に達する。
残エネルギーもレッド。
だが敵はもう目前だ。
俺は空中で敵に青白く輝くブレードを叩きつけた。
『…The earth shall soon dissolve like snow,
The sun forbear to shine…』
敵機が火を噴きながら墜落して行く。
勝った。
俺は生き残ったのだ。
『…But God, Who called me here below,
Will be forever mine…』
だが安堵するのはまだ早い。物資の破壊がまだだ。
幸い列車はまだ動いていなかった。
ブースターを吹かしながら軟着陸して、先頭の動力車両をブレードで破壊する。これで列車はもう動けない。
乗客はいなかった。偽装のために旅客車を使っただけだったらしい。
いても気にはしなかったが、虐殺は趣味では無かったのでまあ良いだろう。
手当たり次第に車両を破壊していくと、後部の車両に不穏なコンテナが積載されていた。これだ。
『…When we've been there ten thousand years,
Bright shining as the sun…』
ああ、久しぶりにキツイ仕事だった。
だがこれで終わりだ。
弾も使ったし機体もボロボロで、かなり報酬から引かれるだろうが、何分高額な報酬だ。取り分はそれなりに残るだろう。
帰ったら久しぶりに良い酒でも買うとしよう。
ささやかな勝利の祝杯を挙げるのだ。
『…We've no less days to sing God's praise
Than when we'd first…』
ちょうど曲も終わる。良い感じだ。
俺はコンテナにブレードを叩きつけた。
『begun…』
急に視界が白くなったような気がした。
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