勇者(Lv99)「誰が僧侶を殺したか」 (117)
残酷な表現があります。
目次
第1話 幸せな世界
第2話 世界の求めること
第3話 最終決戦
第4話 魔人族
第5話 決着の後
第6話 魔物のいない世界
第7話 始まり
第8話 新しい世界
第9話 世界平和
第10話 女神問答
第11話 勇者の剣
第12話 魔王城
第13話 迷宮魔王城
第14話 33回目
第15話 魔王城の罠
第16話 闇の中で
第17話 最後の団欒
第18話 第一の殺人
第19話 仲間と世界と仲間
第20話 炎の残響
第21話 不可思議な仕掛け
第22話 最後の選択
第23話 真相仮理解
第24話 確信の確認
第25話 想い違い
第26話 殺害方法のみ
第27話 勇者
第28話 真相との対峙
第29話 33回目の決着
第30話 そして歴史は繰り返す
第9話 世界平和
世界に≪魔王≫が現れ200年、人類は平和を謳歌していた。
第10話 女神問答
あなたにとって しょうりとは 戦うことで えられるものですか?
――はい
剣で 戦うより まほうで 戦う方が 好きですか?
――はい
空をとべたら どんなにいいだろうと 思ったことが ありますか?
――いいえ
うらないを しんじる方ですか?
――はい
もし 生まれ変われるなら 王子さま あるいは おひめさまに 生まれたいですか?
――はい
何か しっぱいをしても あまり 気にしない方ですか?
――はい
たとえ 人といけんが ちがっても いいあらそうのは あまり 好きでは ありませんか?
――いいえ
体をうごかすのは 好きですか?
――いいえ
イヌよりネコの方が かわいいと 思いますか?
――はい
しんゆうの こい人を 好きになってしまうことは いけないことだと 思いますか?
――はい
人から ほめられるのは てれくさいですか?
――いいえ
体をうごかすのは 好きですか?
――はい
それでは最後の質問です――
―――
――
―……
……あなたは、選ばれました
視界に、始まりの国の人々の顔が次々と浮かび上がる。
あなたと共に旅するなかまを えらんでください。
――……はい
第11話 勇者の剣
始まりの国、商業的にも、人口的にも、地理的にも、諸外国と比較し圧倒的な優位性を誇り、世界の中心とされる国である。
100の農村と5の町、そして1つの城からなり。人口300万を有するその国は、年中温暖な気候に恵まれ、周囲に発生する魔物も弱く、国民の100%が文字の読み書きができる。
恵まれ、育まれたのその国が、栄華を極めた大きな理由として、一本の剣と四つの眷属器からなる女神の法具の安置場として選ばれたことがあげられる。
勇者足りえる人間のみに扱える聖剣、勇者の剣、その眷属足り得る者に授けられる眷属器、戦士の斧、僧侶の槍、魔法使いの杖、魔物の心。
勇者の剣は始まりの国の首都であるユーリ城の中庭に設けられた祭壇に突き刺さっており、誰にでも引き抜く機会が与えられていた。
勇者足りえる素質を持つ者――500万人に1人とも言われる狭き門を超え、この日剣を引き抜いた青年は33代目勇者として産声を上げた。
第12話 魔王城
「これが……魔王城……」
豪雨と共に雷鳴が轟く荒れ狂う海を越え、魔王城を構える島にたどり着いた勇者一行は、吹きすさぶ風と雨に目を細めながら、目の前の魔王城を見上げた。
魔王城は一言でいえば巨大であった。 約10 km²の大きさを誇る島の外周を添うように立つ外壁。 その外壁から延びる天井が島のすべてを覆い尽くしている。 空からでも内部をうかがい知ることのできない超巨大な建造物である。
魔法使い「でけぇ……」
魔法使いの男は、呆然とそうつぶやく。
戦士「勇者」
彼女は長い髪をなびかせながら、背後に立つ勇者へ促す。
勇者「ああ」
勇者の男は応じると手を天高く掲げ口を開いた、 戦士、僧侶、魔法使いの三人が勇者から距離を取る。
勇者「極大雷撃呪文」
勇者の詠唱と共に雨を落とす黒雲の一部、勇者のかざした手の延長線の先が光り輝く。
勇者は手を振り落とす、その動きに連動して、勇者の目の前、魔王城の城壁に稲妻が落ちた。
耳をつんざく雷鳴と光、刹那爆裂した大地が粉塵となり、もうもうと空間を埋め尽くす。
僧侶「……うそぉ!」
煙の晴れた先、焦げ跡を残しながらも無傷な城壁を目に、彼女は目を瞠った。
戦士「やっぱり、城を壊しながら進むのは無理みたいね」
どこか予測していたように戦士は溜息を吐く。
勇者「まぁ、わかってたけどな」
勇者もやれやれ、と溜息を吐いた。
勇者「しかしこの馬鹿でかい城から魔王を探すとなると骨だな」
戦士「中の魔物を締め上げて、居場所を聞き出すのが手っ取り早いのではないかしら?」
勇者「……だな」
僧侶「ねぇ、そんな事あとでいいから早く入ろうよ、びちゃびちゃでキモイんですけど」
僧侶は雨に濡れる体に顔をしかめる。
魔法使い「お前、こんな時くらい黙ってろよ、中で魔物が待ち構えてるかもしれないだろが」
魔法使いは僧侶を睨む。
僧侶「ふん、今更魔物なんて私の槍で一発だっつーの、聖天の槍!」
僧侶はそう言って、ふくろへむけ手をかざした、かざした手に光の帯が集い、槍の形に収束すると実体化する。 そうして彼女は実体化した槍を得意気に振るって見せる。
魔法使い「どわっち、あぶねぇなバカ」
僧侶「はぁ!? バカとは何よ! 武器も出さず丸腰でぼけっとしてる方がバカでしょ!」
魔法使い「いや! 振る必要性!」
ギャーギャーとやりあう二人の姿は、この旅が始まって3年、すでに見慣れたものになりつつあった。
そんな二人を無視し、勇者はふくろへと手をかざすと口を開いた。
勇者「開界のオーブ」
光の帯が勇者の手のひらの上で絡みあい、銀色に輝くオーブとなる。
勇者は目の前、二メートルはあろうかという両開きの扉の前に立つと。 扉にオーブを近づける。 すると扉が反応し、一度瞬いたかと思うと、ゴウンと音をたてゆっくりと開き始めた。
魔法使い「おいマジか!」
魔法使いは焦りながらふくろから杖を取り出す。
扉が開き切った先、そこには何もいなかった。
むき出しのクリーム色の煉瓦作りの室内。 城内に入ると、それ以上まっすぐには進めず、左右に廊下が伸びている。
等間隔に吊るされたランタンが唯一の光源だった。 中は静かで、インテリアの一つもない。 というより生活感が全くない。
僧侶「なんだか……想像と違う」
拍子抜けした僧侶はそう言って、若干肩を落とした。
第12.5話 勇者の冒険
勇者一行には、国から二つの国宝が授与される。 一つは大量の物を一度に収納することができるふくろ。
そしてもう一つが、歴代勇者の冒険により作られた地図である。
適正レベルを記したその地図をもとに、勇者一行は人類からある任務を言い渡される。 任務の内容は、魔物の駆除が主であり。適正レベルに応じた地点に赴き魔物を駆除することを義務づけられていた。
すべての任務をこなした後、教会から魔王城の扉を開くことができるオーブが授与される。
各国の教会が勇者一行の動向を確認しており、また勇者の剣やほかの眷属器のレベルなどを証として求められるため、偽ることは不可能であった。
今日はここまでです。 続きは明日更新します。 全部書き終わってはいるのですが、一話か二話づつ投稿しようと思っています。
また、途中で犯人が分かった場合それを匂わす感想程度にとどめてくださるとありがたいです。一か月ほどよろしくお願いします。
第13話迷宮魔王城
魔王城侵入1日目
戦士「教会のアイテム、実際使うまで半信半疑だったけど、ちゃんと機能してよかったわね」
無言で10分ほど迷宮のような城内を散策していた時、戦士が言った。
魔法使い「あ、そうだな。 これで開かなかったらマジで詰んでたよな」
沈黙に息苦しさを感じていた魔法使いが、助かったとばかりに応じた。
勇者「あれだけ面倒な条件を超えて手に入れたんだ、 機能しなきゃそれこそ教会側の信用にかかわるだろ」
勇者も、さして興味もなさそうではあるが言葉をつないだ。
戦士「レベル制限に、国中の依頼の達成率、なんだか思い返すとずいぶんこき使われてきたわよねぇ」
魔法使い「確かになぁ、思い返してみると、そのオーブ一つの為に随分遠回りした気がするわ」
魔法使いはどこか遠い目をした。
戦士「まぁ、魔王討伐に必要なレベルを、人助けしながら鍛えられたんだから、結果オーライじゃないかしら? 私たちも最初に比べると随分と頼もしくなったと思わない?」
魔法使い「ほんとにな……最初の頃はマジでこのパーティ大丈夫かと思ったぜ、特に……」
そう言って魔法使いは、槍を構え魔物を探すことに夢中な僧侶をちらりと見た。
僧侶「む、今こっち見た?」
魔法使い「すげぇ勘だな、ビーストかよ」
僧侶「あれ? 褒めてる?」
魔法使い「半々ってとこかな」
僧侶「……セイッ」
僧侶の槍の一突きが、魔法使いの頬をかすめた。
魔法使い「どわぁ! 何すっだてめぇ」
僧侶「半分の分よ」
魔法使い「最近やけに攻撃的じゃねーか? お嬢さん」
僧侶「なんか、魔法使いには口じゃ勝てない気がしてきたから、でもやられっぱなしはむかつくし、私なりに考えた結果、こうなった」
魔法使い「こうなったじゃねーよ。 大体お前、そうじゃなくても危ないんだから、もっと考えてだな」
戦士「はいはい、痴話げんかはその辺にして、もっと建設的な話をしましょ」
彼女は、慣れた様子で両手をたたいて見せた。
魔法使い「建設的……ってたとえば?」
勇者「……」
戦士「たとえば勇者の呪文でも壊せない建造物を、その材料を加工できるであろう魔王をどうやって攻略するか……とか」
第1話 幸せな世界
パパとママ、優しい世界に囲まれて僕は幸せだった。
今日はここまで、続きはまた明日投稿します。
第14話 33回目
魔法使い「……あー、確かに」
魔法使いは、今気が付いたというように頷いた。
僧侶「でも歴代の勇者達もこの場所で魔王を倒してきたわけじゃん? 行けばどうにかなるんじゃないの?」
戦士「毎回魔王の強さが同じとは限らないし、仮に同じだとしても私たちが勝てるとは限らないじゃない? 何せ倒したって事以外は何もわからないんだから」
魔法使い「でもよ、俺たちがここにいるってことは女神様の加護は教会の求めるレベルに十分足りてるってことだろ? 人間側だって33回目なんだ、もう十分に対策は取れてるんじゃねーの?」
戦士「あんまり油断しない方がいいと思うけどな。 私たちは特に」
魔法使い「? それって――」
勇者「この建造物がどうやって作られたかわからないんだ、魔王が作ったわけではなく、神話の時代の神々が創ったものを魔王が乗っ取った。 って可能性だってある。 魔法使いも言っていたが、今回で33回目だ。 どちらにせよ俺たちが負ける可能性はほとんどないと考えていいだろ」
魔法使いの言葉を遮って、勇者が言った。
僧侶「だよね。 あたし達メッチャ強いし。 どんな敵にも正直負ける気しないわ」
戦士「たとえば、私たちの攻撃を受け付けない鎧を魔王が着ていたとしたら? 魔王城と同じ材質のね」
僧侶「鎧の隙間を突く」
戦士の問いに、僧侶は瞬時に応えた。
戦士「……ふふふ、実に貴女らしいわね」
そんな僧侶の答えに戦士は優しく微笑んだ。
魔法使い「……まぁ、確かに簡単じゃないかもしれないけど何だかんだ33回目だし、何とかなると思うけどな、……極楽は目の前……か」
魔法使いは両手を頭の後ろで組むと、どこか遠い目をした。
僧侶「極楽かー」
僧侶は天井を見上げ口元に笑みを浮かべる。
戦士「極楽ね…」
戦士は視線を落とし、苦笑を浮かべた。
勇者「……」
第14.5話 勇者の仲間
勇者の剣が抜かれると同時、その眷属器は選ばれし者たちのもとへ光となって飛来する。
選ばれし者はある時はスラムの子供、ある時は王子、ある時は町の老人など始まりの国の住人であること以外に法則性はなく、勇者の剣が抜かれたと同時に決定するのである。
眷属に選ばれた者とその家族は国から莫大な保障を受ける身分となり、勇者とその一行の家族は、三世代にわたって国の補助が約束される。
ただそれにはやはりというべきか、往々にして、というべきか。
そんな甘いだけの話ではないのである。
現在の勇者は33代目。 この数字は、32人の勇者とその仲間達が魔王を倒し世界を平和にした。という事実しか残っていない事を意味する。
魔王を倒す事で世界中の魔物が弱体化するとされ、事実歴史上32回の魔物の大規模な弱体化が確認されている。 そして教会の神書によれば魔王を倒した勇者一行はその後女神の導きにより極楽へと導かれるとされていた。
ゆえに一度魔王城に入った後、現在の記録上戻ってきた者はいない。
特に勇者の仲間達は、信仰があるとはいえ自ら望んでいた者などほとんどおらず、国を挙げての様々な行事と保障に縛られ、世論に押し出される形でこの片道の旅に参加しているというのが実状であった。
神書の――女神の教えを唯一の拠り所として
続きは明日投稿します。
第15話 魔王城の罠
魔法使い「しかし……見事に魔物がいないな……ここは本当に魔王城なのか?」
いつまでも景色の変わらない迷宮を歩き疲れた魔法使いは、うんざりといった様子でそうこぼした。
戦士「確かに、これだけ何もないと不自然ね。 敵の本拠地だっていうのに……」
戦士はどこか思案顔である。
勇者「……敵の罠か?」
勇者の発言に皆が足を止めた。
魔法使い「罠? どんな?」
勇者「幻を見せる呪文の中にとらわれている、もしくは広大な土地を利用した消耗戦……ほかにもいろいろあるが、できる範囲で一つずつ潰した方がよさそうだな」
勇者がそう言うと、その手に持っていた王者の剣が光の塊となり、大気にほどけるように光の帯となるとふくろの中に消えて行った。
そして勇者はそのまま手をふくろへかざす。
勇者「破邪の剣」
ふくろから先ほどの光景を逆再生するように一本の剣がその手のひらに召喚された。
破邪の剣を手に持った勇者は、それを天高く掲げる。
すると刀身が輝きだし、光があふれだすと辺り一帯を一瞬の間覆い尽くした。
僧侶「……変化ないね」
僧侶は何も変わらない現状に素直に言葉をこぼす。
勇者「幻呪文の類ではないってことか、次だな 風刃の剣」
勇者はそう言って、ふくろから風刃の剣を取り出し、空いた手に構えた。
魔法使い「待て勇者、俺も手伝うぞ 星鳴の杖」
勇者の取り出した武器から次の行動を察した魔法使いは、手に持った金剛の杖をしまうと、星鳴の杖を取り出す。
魔法使い「魔力を極力温存ってことだよな?」
勇者「……俺の後ろを頼む、戦士と僧侶は何か変化がないか観察していてくれ」
魔法使い「あいよ」
僧侶「うん」
戦士「ええ」
勇者「行くぞ」
合図とともに勇者は前面に右手に持った風刃の剣を掲げ、魔法使いは反対方向に星鳴の杖をかざした。
剣から放たれる烈風が、杖から放たれる爆発が、かざした延長線上を突き進んでゆく。
しかし何の変化も確認できなかった。
勇者「ちっ」
勇者は間髪入れずに、左手に持った破邪の剣をかざす。
呪文効果を打ち消す光が一帯を照らすが、それでも何の変化も観測できない。
魔法使い「……わかっちゃいたが、傷一つつかねぇな」
壁どころか光源であるランタンにも傷一つつかない事実に、魔法使いは苦笑した。
不意に闇が視界を覆い尽くした。
続きは明日です。
第16話 闇の中で
勇者「!?」
突然の暗闇にパーティーに緊張が走る。
魔法使い「な、なんだ?」
僧侶「敵!?」
戦士「いえ……違うわね」
勇者「? どういうことだ?」
戦士「通路の先を見て、明るい光が見えるでしょ?」
戦士の示す先、50メートルほど前方に確かにランタンの光が見える。
僧侶「…んー? どゆこと?」
戦士「勇者の破邪の剣の効果で、ランタンにかかっていた魔法効果がなくなったってことじゃないかしら?」
魔法使い「……あー、そういうことね……ビビッて損した」
魔法使いは脱力する。
勇者「結局振り出しか」
僧侶「んー? あれなんだろ?」
僧侶は闇の中淡く光る石に気が付くと、そちらに歩を進めた。
魔法使い「バカ、ホイホイ歩くな、罠かもしれないだろ 力場の杖」
魔法使いは僧侶の肩をつかむと、ふくろから力場の杖を取り出し、光る石に向け振るった。
石が浮き上がり、魔法使いと僧侶の目の前まで移動する。
勇者「……星屑だな」
夜目になれた勇者が、目を細めながらつぶやく。
戦士「明るかったら気づかなかったかも、ラッキーね」
僧侶「はい、私の」
僧侶はそういうと間髪入れずに浮いていたその石を掴み取った。
魔法使い「あ、てめ」
僧侶「ふふふ、魔王城の星屑、きっとすごい武器になるよ」
石が発光を始め、ぐにゃりと一度大きくゆがむと、槍の形に変形した。
やがて形状が安定すると光にヒビが走りガラスの割れるような音と共に光が砕け、中から金属質の槍が姿を現す。
勇者「……どうだ?」
槍をまじまじと見つめる僧侶に、勇者が問いかける。
僧侶「んー、悪くないけど……なんか微妙、回復呪文がパワーアップするみたいだけど、その分攻撃力がなー」
魔法使い「お前ほんと、なんで僧侶の槍に選ばれたんだよ」
第16.5話 星屑
星屑――星自身の代謝によって生み出される希少金属である。発生場所は主に魔物の巣などに多く、人間界に出回ることは稀である。 しかし仮に出回ったとしても鑑賞用以外の価値はない。
その理由は、その圧倒的な硬度であった。
現在の技術レベルで加工することは不可能とされるその金属は、しかし勇者一行にとってのみ別の価値を持った。
勇者一行の武器と共鳴し、その所有者の持つ武器と同じ形式の新たな武器となるのである。
勇者の剣とその眷属器は、現在もその構造が謎とされ、星屑と同じ材質であると推察されており、それゆえに起こる共鳴現象であると結論づけさている。
星屑から生み出される武器の性能は、星屑の発生する場に住む魔物のレベルに比例する。
第2話 世界の求めること
「父さん、なんで人間は、人間なんだろう」
「ん? どうした突然」
「僕たちはどうして、人間は人間だと思うのかなって」
「ほぉ、いいところに目をつけた、来なさい」
父はそういうと嬉しそうに僕の頭をなで、暖炉の前の肘掛け椅子に座らせた。
「いいかい、私たちが人間を人間と意識するように、人間も私たちを魔人と認識しているのだよ、それは一言でいえば生理的にそう認識してしまっているとしか言えないね」
「生理的?」
聞きなれない言葉に、僕は首をかしげた。
「元をたどれば魔人も人間もこの星から生み出された者なのだよ、ただ、魔人と人間は生まれながらに持っている能力が違った」
「……その違いが、僕たちに人間を人間だと思わせてる?」
「そうだ、なぜそのような違いが生じたかはわからないが、今私たち魔人が人間と戦争をしている事自体が、目的の一つなのではないかと私は考えているのだよ」
「…?? どういう事?」
「……この話は、お前にはまだ早かったかもしれないな、さぁもう寝なさい。 明日も早いぞ」
今日はここまでです。 明日はちょっと投稿できそうにないので続きは明後日投稿します。
第17話 最後の団欒
勇者「……一体どれだけ歩いた?」
イラついた様子で、勇者がつぶやく。
戦士「そろそろ半日ってところかしら、魔王城の広さを考えれば、まだ100分の1も回ってないと思うけど」
勇者「ああそうだな、冷静な意見ありがとう。 それで? 今まで魔物一匹出くわさないのはどう説明する?」
戦士「そんなこと私に聞かれたってわからないわよ」
勇者のぶっきらぼうな対応に、戦士がむっと答えた。
魔法使い「ちょいちょい、お互いけんか腰になってるぞ、俺たち疲れてんだよ。 考えてみれば魔王城についてから一度も休憩してねぇし」
僧侶「あたしちょっと休みたい」
はいっと手を上げ、僧侶が意見を申し立てる。
勇者「!……ああ、そうだな……、そうかもな…ここらで一度休憩するか」
勇者はそう言って、ばつの悪そうに顔をしかめた。
戦士「確かに……気が張り過ぎてたかもしれないわね、ごめんなさい」
勇者「いや……そんなことより休憩しよう、何か考えが浮かぶかもしれない」
僧侶「はい決まり決まり!」
僧侶はニコッと微笑むと人数分の腰掛け椅子をふくろから取り出し、並べた。
魔法使い「おい、椅子は五つもいらないだろ」
僧侶「ありゃ? 間違えちゃった、どうも加減がなー」
てへっと舌を出した僧侶は椅子をしまうと、小さなテーブルを一つ、その上にポットと茶葉の入った筒、人数分のカップを並べた。
勇者達が座ると、ポットに紅茶を入れ始める。
僧侶「魔法使い、火」
魔法使い「ほい」
魔法使いは指先から小さな炎を出すとポットの底をあぶる。
僧侶「ん~いい匂い」
戦士「あら、商人の町で買った茶葉かしら?」
僧侶「そうだよー、実は結構楽しみにしてたの」
魔法使い「あの町か……確かに物はいいものがあったけど、あんまりいい思い出もないな」
魔法使いはそう言って目を細める。
戦士「そうね……特にお金を持った商人なんかはひどかったわよね」
僧侶「んー? なんかあったっけ?」
魔法使い「お前マジかよ……ボロボロになったふくろを路地に放置する商人とやりあっただろ」
僧侶「ああ、勇者が注意した人のことか」
ピンと思い出したように僧侶が眉を上げる。
戦士「高級品をああもゴミみたいに扱われるのは、さすがに気分がわるいわよね、商人の町には、貧困階級の人もたくさんいたのに」
魔法使い「おまけに変わりのふくろはいくらでもあると言い出すしな、ふくろ一ついくらすると思ってんだか……、あーなんか思い出したらまたイライラしてきた」
僧侶「勇者が注意して、それでなんかめんどくさいことになって……結局その商人は廃業したんだっけ?」
紅茶をカップに注ぎながら、僧侶は思い出すように視線を上に投げた。
勇者「どうだったかな……もう忘れた」
僧侶からカップを受け取りながら、勇者は口を開く。
勇者「まぁ、あんな商売の仕方じゃ、早いか遅いかの違いだったろーさ」
魔法使い「それな、なんであんな性格になっちまったんだか」
戦士「権力は人を変えるって言うからね、特に男性に多いようだけれど」
僧侶「魔法使いは一瞬で溺れそう」
魔法使い「ほう、僧侶は全くそういったこととは無縁そうだな」
僧侶「セイ」
魔法使い「どわっつ、攻撃への切り替えが速い!」
今回はここまで、続きは明日投稿します。
第18話 第一の殺人
不意に先頭を歩く勇者の足が止まった。
魔法使い「……こういう過去の実績見ると、安心するな」
代わり映えしない迷宮にうんざりしていた魔法使いは、苦笑交じりにつぶやいた。
目の前には、ランタンの火の消えたエリアが広がっている。 その遠近法の先、闇の向こう側にランタンの光が見えた。
戦士「みんな、考えることは同じなのかもね」
勇者「……、さっさと行くぞ」
いい加減何の変化もない迷宮に嫌気がさしていた勇者は、めんどくさそうに顔を歪めると歩き始めた。
暗闇の中、もはや会話はない。 過去の冒険の思い出話はまだまだたくさんあったが、一日中歩きっぱなしの現状に皆疲れていた。
何の成果も感じられない、非生産的な動きを続けた結果である。
闇が薄まり、明かりのともる通路へ出るちょうど境目。 光と闇が交じり合う境界線から、不意に僧侶の体がはじき出された。
「!!??」
まるで闇から弾かれたように彼女は、ランタンの光灯る通路を転がった。
魔法使い「僧侶!!」
魔法使いは悲鳴にも似た叫び声をあげると、彼女に駆け寄る。
その足が、彼女の詳細を目がとらえた瞬間に止まった。
僧侶、その背中には無数の穴。 その穴の奥から粘度の高い血が肉を押しのけるように漏れ出し続けていた。
魔法使い「……僧……侶?」
絶命した彼女の無残な死にざまを前に、勇者パーティーは何が起こったかもわからずただ呆然と立ち尽くした。
勇者「……ッ!」
ハッと我に返った勇者が、極大の雷撃呪文を暗闇へ向け放つ。
雷光が通路を照らす――雷撃呪文は何もない通路を素道りし、やがて拡散して消えた
ギリギリ間に合いました。 続きは明日です。
第19話 仲間と世界と仲間
戦士「一度引き返しましょう」
僧侶の遺体をふくろにしまい、ひと段落つけた後、戦士は言った。
勇者「!」
戦士「こんな状態で魔王に挑むなんて自殺行為だわ、今すぐ引き返すべきよ」
勇者「……戻ってどうするつもりだ?」
戦士「!?」
勇者の返事に、戦士は目を見開いた。
勇者「僧侶は死んだ、戻れば代わりの僧侶がまた現れるのか? いやそんな事は今までなかった、どうなるかなんてさすがのお前だってわからないはずだ」
戦士「私はそういう話をしているのではないの、彼女をしっかり弔ってあげたいし、何よりこのまま魔王に挑んであなたに勝算があるの?」
勇者「今までの勇者達だって、犠牲がなかったはずはない。 今回の僧侶の死が魔王の攻撃だとすればなおさらだ。 だが、魔王城に入って戻ってきた勇者パーティーはいない、つまり、負けると決まったわけじゃない」
戦士「……あなたが何を言っているのか私にはさっぱりわからないわ。 私は今の話をしているのよ、一度戻って体制と対策を練り直すべきよ」
勇者「こうしている間にも罪もない人たちは魔物に苦しんでいるんだ。 その上俺たちが魔王城から引き返してみろ、人々の不安は計り知れないぞ」
戦士「ほかの人を理由にしないで、要はあなたの体裁の問題なのでしょ?」
勇者「……なんだと?」
戦士「あなたのそのくだらないプライドに付き合って死ぬ気はないといったのよ」
勇者「違う! 俺はそんな 」
魔法使い「もうやめろ!!!」
壁に背を持たれ、赤くはらした目で天井を仰いでいた魔法使いは、そう叫んだ。
魔法使い「喧嘩すんな、僧侶が悲しむ」
勇者・戦士「……」
魔法使い「俺は……勇者に賛成だ」
戦士「!」
戦士は信じられないといった表情を浮かべる。
魔法使い「僧侶をこんな目に合わせた魔王を、一秒だって生かしておけない、……俺が耐えられない」
憎しみによどんだ瞳で、魔法使いは戦士を見つめる。
戦士「……ッ」
その瞳に、戦士はどこか諦めたように脱力した。
戦士「……わかったわ……どうにも旗色は悪いようね」
魔法使い「無理強いはしない……けど……一緒に戦ってくれると助かる」
戦士「私だって人間よ、一緒に冒険した仲間を放って一人で帰るなんてできない」
戦士はそう言って横目にちらりと勇者を見た。
戦士「ただ……僧侶の冥福は祈らせて、きちんと悼んであげたいの、それぐらいの時間は許してくれるでしょ?」
戦士の言葉に、勇者は言葉なくうなずいた。
続きは明日です。
第20話 炎の残響
炎に焼かれる僧侶の遺体を、勇者、戦士、魔法使いはそれぞれ想いを胸に見つめた。
魔法使い「ウッ うう」
魔法使いがまた涙を流す。
戦士は黙って両手を組み合わせ目を閉じ祈った。
――
―
勇者「……」
燃え尽き骨だけになった彼女を、ふくろにしまいこむ、
戦士「……じゃあ、今後の方針を錬りましょう」
勇者「……そうだな」
どこかぎこちなく勇者が応えた。
戦士「まず状況を整理しましょう、僧侶が攻撃された時のことで何か思い当たることはある?」
魔法使い「いや、俺の近くにいたはずだけど……気が付いたらあいつが吹っ飛んでた」
勇者「俺もすぐ呪文を撃ったが敵らしい影も確認できなかった。 多少もたついたとはいえ、俺の呪文から逃げられるほどの時間だとは思えないな」
戦士「そんなスピードで動けるなら何かしら物理的な余波が発生するし、そんな変化があれば僧侶が真っ先に気づきそうなものよね」
魔法使い「ああ、大体敵の不意打ちは僧侶が真っ先に察知してたしな……今更感覚が鈍るなんて考えらない」
勇者「ちょっと待て……じゃあ僧侶は、どうやって殺されたんだ?」
今まで考えなかったことが、急に勇者達の胸を満たし始めた。
戦士「……わからない……としか言えない、僧侶の傷を見るに何か刃物で背後から強襲されたとしか」
魔法使い「俺たちの肉体をやすやす貫通する何かを、あの短時間に何度も打ち込んで吹き飛ばしたって事か?」
勇者「……まったく想像がつかないな……敵の実態がいまいちつかめん」
戦士「……そうね、どんな時も気を抜かず奇襲に神経を尖らせる……としか言えない」
勇者・戦士「……」
勇者と戦士の目が一度合うが、すぐに互いにそらした。
勇者「……今日はもう少し進んだ先で休もう。 見張りは二人だ、一人が休憩している間に二人が周囲を警戒する。 ……いいな?」
戦士「……ええ、そうね」
勇者の提案に戦士は若干顔をしかめながらもうなずいた。
今日はここまで、明日から過去編です。 なので続きは三日後かな。
第4話 魔人族
初代勇者「散れ!」
自身の開発した高機動移動兵器に跨った勇者は、叫び声をあげた。
搭乗者の前後に一輪ずつある車輪を魔力により回転させ、地上を高速で移動することを可能にしたその乗り物に乗った兵士たちは、勇者の指示に応じその場から散開した。
勇者の目の前、待ち構えるようにその場に立つ一人の男。
一目見た瞬間、勇者の中に嫌悪感が走る。
男――魔王は手のひらを散開する人間群に向けていた。
初代勇者「ッ」
生理的な気持ち悪さに顔をしかめながらも勇者はその場から乗り物を捨て跳躍する。
そのコンマ数秒後、その地点を巨大な岩が蹂躙した。
およそ100㎥の質量弾が落下の衝撃で地面を揺らし、砕けた岩盤が地上に降り注ぐ。その破壊に巻き込まれた兵士100名の命が吹き飛んだ。
初代勇者「……ッ」
上空200メートルの地点に転移し、その破壊から逃れることに成功していたていた勇者は忌々し気に魔王を睨む。
賢者(勇者! 魔王か!?)
遠方より戦争の指揮をとっていた賢者からテレパシーが入る。
初代勇者(ああ、そのようだ、最初の予定道りこいつは俺がやる、兵士たちをできるだけ遠ざけてくれ)
賢者(……、分かった。 武運を祈る)
賢者からの通信がきれると同時、勇者は右手を振りかぶった。
勇者の右腕の前腕に紫電が弾ける。
勇者の視線の先には、こちらを見上げる魔王の姿があった。
初代勇者「究極雷撃呪文」
勇者の右腕が振り落とされる、その動きに連動して腕に蓄電された雷撃が雷鳴とともに一直線に魔王へ向け突き進んだ。
魔王の鎌の一振りが、雷撃を飲み込む。 大きく湾曲した刃が稲妻の光を帯びると、飲み込むように光が弱まり、やがて黒い刀身に戻った。
初代勇者「……物質転移呪文」
落下のさなか、自身の最大火力の呪文を意図もたやすく無効化した魔王に対し、勇者は次の手を打った。
魔王「!」
魔王は目を瞠る。 勇者を中心とした放射状に、地平線の先から光が尾を引いて集っていた。
その光の数は、もはや数え切れる量ではなく、勇者の周囲に集まったそれは、果たして無数の武器であった。
勇者は一定空間内の引力と斥力を操ることを可能とする宝玉を手に掴むと、魔力を込めた。
勇者の周囲に転移させられた武器群の矛先がすべて魔王へ向く。 その数はゆうに一万を超えていた。
魔王「ほう」
初代勇者「物質転移呪文」
勇者の周囲の武器達が、光を帯びた。
その次の瞬間には魔王へ向け射出される。
転移呪文を利用することにより超加速された武器達が、勇者の持つ宝玉に制御され高速で魔王へ向け駆ける。
突如として魔王と勇者の間に現れた岩壁が、その攻撃を阻んだ。
突き刺さる武器達が岩を破壊する、一瞬で粉々に砕かれた巨岩、それによる粉塵を吹き飛ばしながら武器の雨が魔王を襲った。
魔王は鎌を巧みに振るい、武器弾を弾き飛ばしてゆく。
最初の岩の防御により5分の1は勢いを失ったが、まだ大半の武器は脅威となり得る速度を保って魔王に向け突き進んでいた。
しかし魔王、自身に命中する武器のみの選定し、最小限の動きで捌く。
躱され地面に突き刺さる剣
砕かれ粉々に散る槍。
魔王が弾いた斧と激突し速度を失う剣
突き刺さる武器群により破壊された地面から噴き出す粉塵を切り裂き、火花と金属音を奏でながら魔王は勇者の攻撃を的確に凌いで見せた。
時間にして10秒にも満たない、勇者が地面に着地するその時には、すでに攻防は終了していた。
無数の武器の突き刺さった大地に立ち、無傷の魔王は勇者を見据える。
先ほどの行動ですでに8割の魔力を失っていた勇者は、しかし不敵にほほ笑んだ。
初代勇者「魔法反射呪文」
魔王「!?」
魔王の周囲に散らばる武器達、そのうちの何百本かが発光する。
魔王「――ッ」
次の瞬間おこる大爆発。 膨張する光により大地がめくれ上がり、やがて爆ぜる。
その圧倒的なまでの破壊は周囲一帯を蹂躙し、後には巨大な漆黒のキノコ雲が紫電を迸らせながらもうもうと立ち上った。
魔法効果を内蔵した武器達を一斉に起動したことにより起こるそれは、勇者の最強呪文をはるかに凌ぐ威力を誇っていた。
今日はここまで、続きは明日です。
第5話 決着の後
勇者の軍勢に魔王軍は敗れ去った。
人類に完全敗北した魔人族は、その後世界の歴史から姿を消した。
第21話 不可思議な仕掛け
魔王城侵入5日目
戦士「……」
戦士は沈黙し、立ち止まった。
勇者と魔法使いはその動きに合わせるように動きを止める。
ただ戦士が止まったから止まるといった動作であった。
魔王城突入から5日目、何も変わり映えしない景色の中、いつあるともわからない奇襲に神経をすり減らしながら過ごすこの5日は、勇者達の心を確実に摩耗させていた。
戦士「どうやら……同じ道を回っているみたいね」
戦士はため息交じりにつぶやく。 彼女の指さした先に目印としてつけていた赤い塗料があった。
勇者「……地図を作りながら進んだはずだがな」
勇者は、眉間の間を指でもんだ。
魔法使い「……何か仕掛けがあるってことか? だけどできる手はほぼやりつくしたと思うけどな」
戦士「……」
戦士は考え込むように沈黙した。
……何か……見落としている?
だけど歴代の勇者達は皆この関門を突破しているはずなのだ。
だとすれば……必ず答えがあるはずだ。 考えなさい。 戦士
魔法による仕掛けじゃない。 もっと別の仕掛け……
≪仕掛け≫?
戦士「……!」
戦士ははっと目を上げた。
戦士「まだ一つ試してないことがあるわ」
戦士の言葉に、勇者と魔法使いは目を瞠った。
戦士「一度試してみましょう」
戦士はそう言ってふくろに手をかざした。
戦士の手のひらの上に開界のオーブが現れる。
勇者「……なるほど」
勇者はそうつぶやくと、戦士の手に持ったオーブに視線を落とす。
魔法使い「……何も起こらないぞ?」
戦士「……いえ、見て」
戦士の言葉に、魔法使いもオーブに目を向けた。
魔法使い「……光ってる?」
光のオーブの内側に、目を凝らせばわかるほどの小さな光が輝いていた。
見ているとその光が徐々に大きくなっていることがわかる。
勇者「……」
勇者一行は黙ってその光を見つめる。
時間にして10分ほどだろうか、光がオーブの半分ほどに達したとき、ゴウンと鈍い音が壁の外から聞こえた。
魔法使い「なんだ?」
音に魔法使いは視線を上げる。
勇者達がいる地点を切り取るように、壁と床にスリットが走る。 やがてそのフロアが水平方法に移動を始めた。
横の加速度に、勇者達の体がぐらつく。
移動を開始したフロアは、やがて別のフロアと連結し停止した。
魔法使いは周囲を見渡す。
背後は壁の一本道だった、視線の先に開けた空間があることを見とめる。
勇者「カラクリの類だったか」
戦士「そのようね、多分だけど道に迷うように常に変形しているんじゃないかしら」
魔法使い「……何のために?」
戦士「……わからない」
勇者「……いくぞ」
勇者はそういうと迷いなく歩き出した。
魔法使いが後に続く。
ワンテンポ遅れて戦士も、ため息交じりに後に続いた。
……選択ルートD
続きは明日です。
第22話 最後の選択
進んだ先の開けた空間の中央には巨大な石碑があった。
一辺の長さが3メートルはある巨大な石碑、壁と言っても遜色ないそれを勇者一行は見上げた。
魔法使い「……読めねぇ…何語だコレ」
勇者「200年前の古代語だな……」
戦士「……」
聖剣、勇者の剣、その眷属器、戦士の斧、僧侶の槍、魔法使いの杖、魔物の心。
戦士(魔物の心?)
戦士になる以前は学者であった彼女は、古代語を読むことができた、
内容としては、今なお語り継がれる勇者伝説を書き連ねているだけであるが、その中のある一文に彼女は眉を寄せた。
戦士(魔物の心……)
戦士は逡巡する。 このワードは初めて知った。 魔物の心……単純に考えるならば、誰かの心に宿っている……? じゃあ……僧侶を殺したのは……
勇者の言葉に、彼女の思考はそこで途切れた。 若干の間を開けた後、戦士は口を開く。
戦士「……単なる勇者伝説を書き連ねているだけね、この城や魔王のことは何も記されていないわ」
仮に今頭に浮かんだことは所詮仮定である。 だとするならば無駄な混乱を避ける意味でも言うべきではないと判断した戦士は、そううそぶいた。
勇者「……なぜ……そんな物が魔王城に?」
勇者はこめかみを親指で抑える。
戦士「……何か、この魔王城変じゃない? 少しみんなで考えても見てもいいと私は思うけど」
戦士の言葉に、勇者は目を閉じた。
魔法使い「いや意味ないなら先を急ごうぜ、こんなところで考えたってしょうがねぇよ」
勇者「……」
勇者は思考する。
なぜ…こんなモノが魔王城に? 先ほどのカラクリにしても妙な事が多すぎる。
何か違和感がある、誰かの手のひらの上で、ずっと踊らされているような……
戦士の言葉が引っかかる、ここで一度深く考えるべきだろうか? それとも魔法使いの言うように先を急ぐべきだろうか?
勇者は心の秤を慎重に見定めた。
仮に、ここで話し合ったとして何がわかるというのだろう? それよりももし戦士の口車に乗って帰るなんて話になったらそれこそ………
勇者「……行こう、魔法使いの言う通り、考えていても無駄な時間だ」
戦士「……」
戦士は、どこか諦めたように小さく息を吐いた。
勇者ならそう決断するであろうことをどこかで感じていたのだ。
しかし、そう諦めても、否、考える時間を確保できなかった故に彼女の脳の思考速度は加速した。
戦士は石碑の裏側へ歩きだす二人を見つめながら一人考える。
思考が理屈を無視して展開しているのを感じる。 論理的な飛躍を続ける思考、その背骨は魔物の心だ。 詳細は無視、ただ結果とその事実から導かれる可能性を彼女の思考は考査し続ける……
そして
僧侶が死んだときの……全員の位置取り
戦士「……!」
戦士はハッと目を開いた。
まさか――いや――でも――……
凶撃が彼女の背を貫き。 戦士は絶命した。
続きは明日です。
第23話 真相仮理解
何か重いものが倒れる音に、勇者は足を止めた。
後ろを振り返る、石碑の向こう側で、何か音がした。
魔法使いが踵返し、石碑の表面へと戻るのを見つめる。
魔法使い「戦士!」
勇者「!」
魔法使いの叫びに、勇者は走り石碑の表面へ躍り出た。
勇者「……!」
勇者は目を瞠る。
魔法使いの腕の中で、全身に巨大な穴をあけられ絶命した戦士がいた。
勇者「……」
勇者は、思考する。
最初は戦士かとも思ったが……
魔物の心……初めに女神から説明された時は何かの聞き間違いかと思ったが
なるほど……やはり、こういうことか
そして勇者はすべてを理解した。
第24話 確信の確認
勇者「星鳴の杖」
魔法使い「!」
戦士が死んだ今、聞こえるはずのないフレーズに魔法使いは顔を上げた。
そしてふくろから杖を取り出した勇者に訝しむ視線を送る。
魔法使い「……勇者? 何を…やってるんだ?」
勇者は黙って星鳴の杖をかざした。
杖の先端から爆発が発生し、かざした先に突き進んでゆく。
勇者「……何、確認さ」
勇者は、つぶやくようにそう言った。
魔法使い「…確…認?」
勇者「ああ、別に所有者じゃなくても、他の武器を使えるかどうかのな」
魔法使い「……勇者……お前……何を」
勇者「実際こんな使い方をするなんて、考えたこともなかった。 だが実際できた」
魔法使い「……」
勇者「……まだ、しらばっくれる気か?」
魔法使い「……は?」
勇者「魔物の心、この言葉を知っているかどうか、それがこの茶番の真相を見定めるポイントだ」
魔法使い「……?」
勇者「魔法使い、俺がこのワードを知っていることはお前も予想外だったようだな。 だから二人だけになってもまだしらを切れると踏んだのだろう?」
魔法使い「勇者……さっきから何を言っているんだ?」
勇者「……僧侶を…戦士を殺した犯人はお前だと言っているんだ」
魔法使い「!!?」
勇者の言葉に、魔法使いは目を見開く。
勇者「お前には聞きたいことがいくつかある、素直に応じるなら命は助けてやってもいい」
王者の剣、そう呟いた勇者の手に剣が現れる。
魔法使い「落ち着け勇者! こんな時にお前は何を言ってるんだ!? 二人を殺した犯人が俺!? 意味がわからねぇ、なんで俺が二人を殺す!?」
勇者「魔物の心を持っているからだ、それ以上に理由がいるか? 魔王の手先ならば、敵を殺すことに何の疑問がある?」
魔法使い「だからさっきからその――」
魔法使いは咄嗟に横に飛んだ。
コンマ数秒後、魔法使いのいた地点に剣の刃が振り落とされる。
魔法使い「……っ」
魔法使いは絶句する。
勇者「しゃべるつもりがないなら、五体満足でいられると思うなよ」
勇者の目が憎悪によどんでいることを認めた魔法使いは、顔をゆがめると、歯を食いしばり大きく後方へ飛んだ。
勇者から距離をとると、腕に抱いた戦士を床に寝かせふくろに手をかざした。
魔法使い「……魔神の杖」
魔法使いの言葉に応じ、手に杖が具現化された。
勇者「……やっと本性を現したか」
魔法使い「勇者、お前は今正気じゃない、きっと敵の幻術魔法にでもかかってるんだろう、だから、少し大人しくさせる」
勇者「……まだとぼけるつもりのようだな」
ピン、と殺気が空間に張り詰めた。
続きは明日です。 攻略ルートは何通りかありますが、行き着く結果はどのルートでも同じですね。
第25話 想い違い
二人はお互いを睨み付け、互いの出方をうかがう。
勇者の腕がピクリと動く。
魔法使い「 」
その動きに反応して、魔法使いは口を開いた、しかし
魔法使い「!!」
王者の剣から走る稲妻が魔法使いの詠唱を阻む。
とっさに魔神の杖をかざす、杖の先端に装飾されたスカイブルーの水晶に稲妻が吸い込まれ、魔法使いの魔力を回復させた。
魔法使い「!」
魔法使いの視界の中にすでに勇者の姿はない。
視線が勇者を探すよりも先に、魔法使いは詠唱を唱えていた。
魔法使い「炸裂呪文!」
魔法使いを中心に、空間が膨張し、弾けた。
勇者「!」
魔法使いの上方、剣を振り落とさんとしていた勇者が吹き飛ばされた。
吹き飛ぶ勇者を、魔法使いの視界がとらえる。
頭よりも先に体が動く、不測の事態や奇襲に対する対応力は数年間の冒険から培われた経験の為せる技である。
魔法使い「幻妖呪文」
魔法使いのふるう杖から薄紫の煙が噴き出し、魔法使いの姿をかき消した。
勇者「……」
地面に着地した勇者は、紫煙の漂う地点へ向け手をかざす。
勇者「―― 極 大 雷 撃 呪 文 」
魔法使い「なっ!?」
轟く雷鳴と爆裂する光の暴力が、勇者のかざす手の先を破壊で埋め尽くす。
魔法使い「――ッ」
想定外の極大呪文に魔法使いは動揺する。
極大呪文、下手をすれば即死の可能性すらある魔法だ。
そんな呪文を自分に向け、仲間に向け放ったことに、戦いが始まってなお、魔法使いは信じたくはなかった。
魔法使いの行動が遅れる。
魔神の杖での吸収が間に合わず、吸収を逃れた雷撃が魔法使いの左腕と右足を飲み込んだ。
魔法使い「がぁあぁぁぁッ!!」
左腕の前腕から先と右足の膝から先が消滅する、断面は焼けただれ固着していた。
肉の焼けるにおいが鼻孔をつく。 激痛に意識が遠のいた。
……
第6話 魔物のいない世界
なぜ世界中の人間が争いを始めたのか理解できなかった。
これでは、魔王がいた頃のほうがまだ平和だったとすら思う。
何のために魔王を倒したのか、わからない。
自分の開発した武器が、人間に向けられている。 そのことがどうしようもなく胸を揺さぶる。
そうだ、戻そう、世界を、人間同士協力していたあの頃に。
続きは明日です。
第26話 殺害方法のみ
魔法使い「……」
魔法使いは目を覚ました。 目の先、腰を下ろし石碑に背を預け片膝に腕を置いた姿勢で、勇者が彼を見つめていた。
魔法使い「……ッ」
失った左腕と右足が痛む、少しでも動かすと脳髄に激痛が響いた。
破壊面は高熱による固着が止血の効果を及ぼしており、出血死の可能性は薄いようだった。
勇者「お前の目的はなんだ? この城は? なぜ勇者の仲間に魔物の心が必要なんだ?」
立ち上がり、魔法使いの前に立った彼はそう言った。
魔法使い「何を言ってるのか……わかんねぇよ」
脂汗を流し、激痛に顔をゆがめながら魔法使いは口を動かす。
勇者「……力場の杖」
勇者の言葉に呼応し、手のひらに光が収束すると杖の形に変形し、力場の杖となった。
魔法使い「……」
魔法使いは涙を流す、なぜこんなことになったのか、現状がどうしようもなく情けなく、やるせなかった。
なぜ……なぜ……
勇者は息を吸うと、呟くように言葉を発する。
王者の剣、紅蓮の斧、蒼空の槍、破邪の剣、幻魔の斧、天使の槍、聖嵐の剣、水月の斧、十字の槍、紫電の剣、海哭の斧、浮雲の槍、鎧破の剣、寂光の斧、界雷の槍、謐滅の剣、塵渦の斧、風陣の槍、金剛の剣、地砕の斧、神木の槍、風響の剣、斬馬の斧、貫烈の槍、樹隕の剣、電岩の斧、彗星の槍、風刃の剣、天斬の斧、闇祓の槍……
勇者の言葉に応じてふくろから取り出される武器が次々と床に重なってゆく。
やがて勇者は力場の杖をかざす、床に転がった武器が一斉に宙に浮きあがり、その切っ先を魔法使いへ向けた。
勇者「…これが、僧侶と戦士の殺害方法だ。実際はもっと少なかったろうがな」
無数の武器を背景に立つ勇者を見て、魔法使いは目を瞠った。
勇者「もういい加減、とぼけるのはやめないか? 俺も且つての仲間にこんな事したくない」
勇者は、疲れた様子でそう言った。
魔法使い「……それで……俺が犯人扱いか……」
勇者「そうだ、俺たちの布陣は前衛を防御力の高い俺と戦士、後衛を僧侶と魔法使いが担当していた。 僧侶が背後から襲われた以上、普通に考えればを殺すチャンスがあったのはお前だけだ」
魔法使い「……」
魔法使いは、涙を流しながら激痛に歯を食いしばる。
この痛みは失った体の痛みなのか、砕けそうな心から発せられるものなのか、彼には分らなくなっていた。
勇者「なぜ、魔物の心が必要なんだ?」
魔法使い「……俺と僧侶は付き合ってた」
勇者「……だからどうした?」
魔法使い「俺が……僧侶を殺す……? そんなことあるわけない」
勇者「……ッ!!」
この状況でなお要領を得ない魔法使いの返答に、勇者は激昂する。
内側から溢れ出すマグマのような怒りは、やがてある悪魔的な誘惑へと勇者を誘った。
考えてみると今日は書き込む時間なさそうだったので今投稿します。。
続きは明日です。
第25話 勇者
勇者「……僧侶……か」
勇者は、口元に笑みを浮かべながら、言葉をつづけた。
勇者「なぁ魔法使い、僧侶はどうしてあんなにバカだったのかな」
魔法使い「……ッ!」
魔法使いは、反射的に勇者を睨みあげる。
勇者「それだけじゃない、なんで戦士はあんなに頭が良かったのだろうか?」
魔法使い「……?」
勇者「魔法使い、お前は争いや戦いを好まない男だ、さっきの戦闘にしてもあんな優しい魔法を使わなければもう少し善戦出来ていただろう。 そんなお前がなんで魔法使いなんだろうな?」
魔法使い「……勇者……お前何を…」
この場面にそぐわない笑みさえ浮かべる勇者に、魔法使いは恐怖を感じた。
勇者「戦士が魔法使いを、僧侶が戦士を、お前が僧侶をやれば、このパーティは適正、資質ともにバランスが取れていると思わないか?」
魔法使い「……!」
猪突猛進な僧侶、冷静沈着な戦士の二人の姿が脳裏をよぎる。
それは、いつも思っていたことだ、魔法使い自身なぜ自分が僧侶でないのかと悩んでいたこともある、たが女神様のお導きで決まったことだと、そう割り切っていた……
勇者「そう俺が決めたからだ」
魔法使い「!!?」
魔法使いは、呆然と勇者を見上げた。
勇者「もちろん最低限の能力は有する奴を選んだ、冒険に支障の出ない範囲でな、だが俺よりも強くなる可能性は極限まで排除した、結果こうやって裏切り者を返り討ちにできたんだから、何がどう転ぶかわからないよな」
戦士が、彼女が魔法使いだったならば、きっとこんな簡単にはいかなかっただろう。
適正をあえて外すことで、限界値を絞る。
結果として残るのは
パーティーの最強は勇者であるという、世界を救うこととは全く関係のない虚栄である。
魔法使い「……ッ!!」
魔法使いは顔を赤く染め、激怒と驚愕の入り混じった表情で勇者を見つめた。
今までの旅が、魔法使いの脳裏をよぎる、辛く苦しい冒険の旅。 何度も死を覚悟したし、何度も挫けそうになった。 でもそのたびに僧侶の純粋さが、戦士の冷静でも優しい言葉が自分を支えてくれた。
でもみんな、世界のために、その一心で命がけの旅を続けてきたのだ。
そんなみんなを、この男は――
魔法使いの表情に、勇者はゾクゾクと全身に快感が走るのを感じた。
もっと傷つけ、貶め、辱めてやりたいという衝動が心の底から噴き出す。
勇者「本当は戦士――あの鬱陶しい女にこの話をしてやりたかったんだがな、残念だ、だけどさ、みんな健気だよな、全く自分に向かない職業で必死に頑張ってきたんだから、どう頑張ったってたかが知れて――」
魔法使い「――勇者ァァぁァアアアッ!!」
魔法使いは叫び声をあげると、激痛も忘れ右腕を勇者へとかざす。
魔法使い「 極 大 灼 ――
無数の武器群が魔法使いの全身を貫き、彼を絶命させた。
勇者「……」
勇者は静かに、突き刺さった武器でハリネズミのようになった魔法使いの死体を見下す。
魔物の心の正体がわからなかったのは痛手だが、その分楽しませてもらった。
魔王戦を前に不安要素を取り払っただけでも良しとするしかあるまい。
魔物の心、歴代の勇者もそのハンデを超え魔王を倒したとするなら、状況はさして変わらないだろう。
そうだ、これは自分に与えられた試練なのだ。
勇者は不意に天啓を得る。
極楽へとたどり着くための試練
そのための剣
そのための仲間の選定
そのための迷宮魔王城
そのための魔物の心
そのための魔王討伐
だとしたら自分は意図せず試練の難易度を下げていたのだろう。
なんという幸運。 いや、きっと無意識にそのことを考慮していたのだ。
なぜなら、俺は勇者となる500万人に1人の資質を備えているのだ。 それくらいできて当然。
やはり自分は特別なのだ。
そうだ、それですべてに説明がつく。
す べ て は 、 女 神 様 の 試 練 だ 。
勇者はそう結論づけると、二人の死体を残し歩きだした。
明日は過去編、この続きは明後日です。
すみません
>>80は27話ですね…… ご指摘いただきありがとうございました。
第7話 始まり
城内のある個室
賢者「……勇者の剣に組み込んだ女神を模した心理テストなんだが、本当にこの性格設定でいいのか?」
初代勇者「迷宮実験の結果から割り出した結論だ、実績は十分だと思うが?」
賢者「しかしこの性格はあまりに勇者像からかけ離れていないか?」
初代勇者「こういう人種は周りの目を異常なまでに気にするがゆえに自分をうまく取り繕おうとするからな、多少の粗は勇者の肩書きがごまかしてくれるだろう」
賢者「……嫌いなタイプの人間なら、多少は罪悪感が薄れるか?」
初代勇者「言っている意味がわからん。 このシステムを定めるまでに、何人の人格を破壊してきたと思ってる。いまさらそんな感情は捨てている」
賢者「……疑似加護の最大出力は迷宮を破壊できないレベルと言っていたが、それでも世界に及ぼす影響は小さくないぞ、いくら俺たちの100分の1の出力と言ってもこの勇者モドキが暴走したらどうするつもりだ?」
初代勇者「この人種が暴走なんて考えられんが、まぁこの人格の傾向は割り出せているんだ、そこから導けるケースに対してアレが対応できるように心に組み込んでおけばいいだろ」
賢者「あまり複雑な呪いは効果を弱めるかもしれないぞ」
初代勇者「最悪の保険だ、俺の見立ててでは1パーセントも可能性はない、そういうやつだからこそ選ばれるわけだしな。そこに割り当てるリソースは少しでいい、あとは実践の中で微調整していけば問題ないだろ」
賢者「……しかし」
初代勇者「ここでグダグダ机上の空論を並べ立てても意味ないだろ? 実際稼働させてみなきゃわからない問題も必ず出てくる、何をそんなに躊躇する?」
賢者「アレはどうしても使わなきゃダメだろうか?」
初代勇者「そのために世界にふくろを普及させたんだ、今更怖気づいてどうする」
賢者「……そうなんだが……危険じゃないか? せめてヒントは排除すべきだと思うんだが」
初代勇者「このヒントが、後々必ず効いてくるのは間違いない、その結果起こる極限状態は貴重なデータだ。 今後のフィードバックも考えればあった方がいいだろ」
賢者「俺が言ってるのは、その言葉が分かりやすすぎるってことなんだが、迷宮までは持つかもしれんが……その先はやはり不安が残る」
初代勇者「……ずっと冒険を共にして日常となっているんだぞ? これは人間の本能の問題だ。げんに1000人の人間を対象にテストした結果はお前も見ただろう? 俺たちの心はそういう風にできているんだよ、……強迫的にそう思いたいんだ」
賢者「……まぁ……俺もそう思うが」
初代勇者「仮にその発想が浮かぶほどの人物ならまず勇者の選定からはじかれる。何度も言うがこの勇者は短絡的に物事をとらえるからな。 そこまで深く考えないし、理屈に沿わなくても行動を起こせるんだ。そしてこのトリックは日常的な時間が経てば経つほど発見が難しくなる。」
賢者の男はそこでハッとしたように視線を勇者の後ろに向けた。
賢者「おい、勇者」
賢者は声を潜めて勇者を廊下へ誘う。
勇者とともに廊下に出た賢者は、顔を青くして勇者を見つめる。
賢者「奥の扉の隙間から見えたものについて説明しろ」
勇者「今回の会話を聞かせたかったのさ」
賢者「!?」
勇者「いろいろ考えられると面倒なんでな。単純な希望があると、思考はそこにしか向かなくなるだろ?」
賢者「……ッ」
絶句する賢者の前で勇者はニヤリと笑った。
勇者「さて、さっきの話だが少し訂正がある、勇者選定の件だが、心理テストに加えて100通り以上のランダムな実践試験を加えてくれ」
つまり500万人に1人の都合のよい人間ということですね。
ちょっと区切りが悪いので明日3話更新して明後日完結とします。
第28話 真相との対峙
石碑の広場を超えた先は、なんの変哲もない一本道であった。 分かれ道もないただ曲りくねった通路。 一日歩き続けた勇者は、適当な場所で横になると、魔王城に入ってから初めて安心して眠った。
目を覚まし、身支度を整えるとまた歩き出す。 途中道に赤い塗料を塗ることも忘れない、そうして歩いていた勇者は、目を前に巨大な扉の存在を認め立ち止まった。
勇者「……」
勇者はふくろから王者の剣を取り出す。
悪魔をモチーフにした禍々しい装飾の施された二メートルほどの高さの扉を見上げ、一つ大きく息を吐いた。
そのあからさまな扉を、勇者は勢いよく押し開ける。
勇者「!?」
勇者は目を見開く。 扉の向こうは、ただ開けた空間が広がっていた。
100メートル四方の正方形の部屋に勇者は足を踏み入れる。
いつまでも続く静寂の中で、勇者は向かいの壁際に渦を発見した。
青い渦、旅の扉と呼ばれる時空のゆがみである。
このワープポイントの先がどこに続いているのかは見当がつかない、しかし、まだ先に進めることに勇者はホッと安堵した。
おそらくこの先に、魔王がいるのであろう、そうであるならこの魔物一匹いない魔王城にも説明がついた。
勇者は歩き出す。 その勇者を追い越して、足を止める者がいた。
勇者「――? !?」
突然の事態に勇者はぎょっと目を瞠った。
「ここが終点だよ」
そいつは勇者と向き合うと声を上げた。
勇者は絶句する。
目の前に立つことはおろかしゃべれるはずがない者の姿に、勇者は即座に発することのできる言葉を持たなかった。
第29話 33回目の決着
そんな勇者が不自由に口にした言葉は単なる反射にすぎなかった。
勇者「……なんで……」
「第三十三回の勇者の冒険もこれで終了だ、今までご苦労だったね」
勇者「……なにを……!」
勇者はそこでハッとする、そいつの手にはいつの間にか力場の杖が握られていた。
そいつの側面に召喚される武器群。
武器の種類は勇者の剣と僧侶の槍が多いようだった。 武器の形状から射出に適した武器を展開していると見定めた勇者は、突発的に呪文を放つ。
爆雷がそいつに向け放たれる。 しかし勇者はその瞬間視認していた。
そいつの目の前に、魔返の斧が召喚されていることに。
斧の側面から反射された雷撃が勇者に襲い掛かる。
勇者「……ッ」
即座に相殺することをあきらめた勇者は、爆雷の直撃と同時に回復呪文を自分にかけた。
破壊される体が次の瞬間には回復していく、破壊と再生の激痛の中で歯を食いしばり、呪文をやり過ごした勇者。 その勇者に対して剣と槍が次々に射出された。
勇者「ハァッ!!」
勇者は王者の剣を振るい武器群を次々と撃ち落としていく。
弾ける火花と響く金属音の先、魔返の斧を盾に射出と召喚を繰り返す相手の姿に勇者は顔をしかめた。
防御に徹しても埒が明かないと判断した勇者は地面を蹴る。
武器群が勇者のいた地点に次々と突き刺さっていく。
突撃してくる剣と槍を躱しながら、側面を回り込むように距離を詰める勇者。
相手の攻撃の性質上切っ先をこちらに向ける必要があることに勇者は気が付いていた。
相手を中心に円周上に駆ける。その結果射出の標準合わせや、それと並行した武器の展開、複数の処理を強制することになり相手の攻撃の密度を減らした。
ある程度距離を詰めた勇者は、足を踏ん張りその場に停止する。 目の前に迫る剣を剣で撃ち落とすと、急停止の反動を利用して直線状に相手に迫った。
円状の一定の動きで刻まれたリズムを崩され、剣と槍の照準が狂う。
勇者は盾のように配置された魔返の斧を王者の剣で弾き飛ばし、その先の相手へ向け手をかざす。
勇者「!?」
斧により死角になっていた相手の片手には杖の束が握られていた。
それは勇者に向けかざされている。
そして花束のように手握られた杖達が――攻撃呪文を内蔵した杖の束が――火を噴いた。
勇者「 」
複数の攻撃呪文効果を含んだビームが、勇者の胴体に着弾する。
勇者は後方に吹き飛ばされ、胴体から煙を吐きながら地面を転がると壁に体を打ち付けた。
勇者「――ッ ――ッ」
激痛に息ができず、目に涙を滲ませながら勇者は声にならない声を上げた。
そんな勇者の四肢を四本の槍が貫いた。
勇者「――ッ」
回転しながら飛んでくる斧が勇者の肩口に突き刺さる。
勇者「あがぁあっぅ!!」
肩から血が噴き出す、返り血に汚れる斧が魔封の斧――触れたものの呪文を封じる斧――であることを認めた勇者は、完封されたことを察した。
そいつはゆっくりと無力化した勇者の前に歩く。
「さて、死ぬ前にこちらの質問にいくつか答えてもらおうか」
血を流し凍える体を震わせながら、勇者は戦慄する。
「最初にあったはずの女神の質問、その内容を話してもらえるかな?」
第30話 そして歴史は繰り返す
始まりの国、ユーリ城地下。
旅の扉から現れる死体を、国王は無感情に見つめた。
側近達が慣れた手つきで死体を片付け始める、続いてふくろから武器を取り出し、王の前に並べた。
王は手に持った杖をかざす、すると武器は星屑に戻り、魔物の心が杖の先の水晶に吸い込まれるように収まった。 透明だった水晶が淡い赤色に染まる。
後に残ったのは、勇者の剣、戦士の斧、僧侶の槍、魔法使いの杖の四つだけだった。
側近A「武器たちはすぐに解析に回します」
王「うむ」
王はうなずく。 これもすべて、この平和を維持するために必要なことだ。
迷宮の攻略ルート、そこに至る過程はすべて武器が知っている。 極限状態を要求する迷宮を前に、その時の行動や思考をトレースすることでこの勇者の剣は常に時代に適した人物の選定を可能としていた。
この作業をこなす王や側近たちに罪悪感はない。
王や側近は、世襲制ではなく初代勇者により作り上げられた試験を突破した者にのみ与えられる役職であったからだ。
次世代の王もその側近も、人からの信頼や実績ではなく、定められた試験を突破することでまた選ばれる。
よって維持される。 この平和も。
それはこれからも変わることはないだろう。
側近B「最近反逆者と思わしき者たちが大きな動きを見せていますが、……いかがなさいますか?」
側近の一人の言葉に、王は目を閉じた。
王「放っておいても問題あるまい。 どうせ奴らはこの試練を突破することしか頭にないのだ」
本物の勇者以外に突破しようのない試験だ。 それに剣の履歴を見れば反逆者と思わしき人間は一目でわかる。 その人間を秘密裏に処理する。 また反逆者のデータ分析が、まだ半分に達していないということも履歴からこちらは掴んでいるのだ。
問題ない、少なくもの今後100年は。
王は無表情に、次に勇者の剣を中庭の祭壇に突き刺す日を考え始めた。
王の杖の先についた水晶の中で、魔物の心が小さく蠢いていた。
明日でラストです。 どんな反応を貰えるか期待半分、不安半分ですね…
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません