最近「自分は何の為に生きているんだろう」と思うことがある。
周りの人にとっては至極どうでもいいことだと思う。こんなことを言った暁には「思春期だね」とか言われて片付けられるんだろう。
でも――実際私は思春期とかそういう時期に生きているのは事実だ。
青臭いと言われても、最近は専らこんなことばかりが脳裏をよぎる。
生きる意味なんて自分で決めるもの……それは分かっている。
でも、漫然と漂うそんな疑問を私は拭えないでいるんだ。
別に今の立ち位置に不満があるわけではない。むしろ充実している。
アイドルという幻影のような世界、そこに確かに立っている。
いや、ここまで連れてきてもらった。
私をここまで連れてきてくれた人――その人は「ここではない遠いどこかを見ているような……君はそんな目をしている」と言った。
そのどこかへ君を連れていけたら……。私よりも青臭い人はそう言って私をこの世界へ連れて来た。
ここではないどこか――そこへ到達できたのかは分からない。
その「どこか」へ到達できたとき、私は生きる意味を見出せるのかもしれない。
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6月初旬。
未央「いやぁー、雑誌楽しみだねっ」
卯月「来月発売でしたっけ?」
凛「二人は読むの?」
未央「当たり前じゃーん。まあ、どちらにせよサンプルが届くから」
卯月「プロデューサーさんが見せてきますね……」
凛「あー、確かに……」
未央「二人は自分が出た番組とか雑誌とかチェックしない派?」
凛「私は……。恥ずかしいし、あんまり自分からは見ないかな」
未央「自分から?」
凛「どうせお母さんとかお父さんとかプロデューサーが見せてくるから……」
卯月「なるほど……。私もそういう感じかなぁ……」
未央「へぇー――プロデューサーってなんかいやらしい性格してるよねぇ」
卯月「い、いやらしい……」
未央「絶対エスだよあれは」
卯月「え、エスゥ!?」
凛「うん」
未央「私たちの内面はよくつっついてくる癖に、自分のことは――」
三人「「「話さない」」」
未央「そのせいで」
卯月「昔はヤンチャだった」
凛「堅気の人間ではなかった」
未央「元は危ない組織の人間で、その伝手でアイドルの原石をあちらこちらから青田買いしている」
凛「それは言い過ぎでしょ」
未央「などと、酷い尾ひれがついている状態です」
P「誰が伝手で青田買いしてるって?」
三人「「「――ッ!?」」」
P「なるほどなぁ、俺は危ない組織の人間だったのか」
未央「いやぁ、お疲れー!」
卯月「お疲れ様です」
凛「お疲れ……」
P「お前ら、もう仕事は終わったんだから早く帰れ」
未央「いやぁ、明日はオフだし」
卯月「ぷ、プロデューサーさんはお仕事ですか?」
P「当たり前だろ」
凛「そもそもプロデューサーっていつ休んでるの?」
P「俺だって機械じゃないから休むし休みはある」
未央「えっ!?」
P「えっ、じゃねぇ」
P「……」
P「いや、明日も仕事……のはずだった」
卯月「どういうことですか?」
P「前言撤回。実は俺も明日はオフだ」
未央「へぇー! それじゃ――」
P「そうだ、ちょうど三人揃ってるし……話しておくか」
未央「え?」
卯月「話……ですか?」
P「そうだ。これを――」
凛「これは……。企画書か何か?」
P「その通り」
P「8月にツアーが決まったわけだが、その前に少しでも注目を集めておきたいと思ってな」
P「なんとかねじ込んでもらった」
未央「お仕事ってわけですかっ」
卯月「テレビの収録……ですか?」
P「ああ」
凛「アイドル、カバーの祭典……」
P「そうだ。詳細はオフが明けたら説明するが……簡単に言うと、文字通りアイドルに名曲を歌ってもらおう」
P「そういう特番だ」
未央「そこに私たちが……」
P「番組のプロデューサーの方がうちの事務所へ声をかけてくださってな」
P「うちからも何人か出演することになったんだが」
P「各部門ごとのプロデューサーと協議した結果」
P「お前たちニュージェネも選ばれた」
卯月「お、おおっ……!」
未央「さっすがプロデューサー!」
凛「ありがと」
未央「それでそれで、私たちは何の曲を歌うのかな? 私たちの曲ではないんでしょ?」
P「それなんだが――今回はちょっと趣向を変えてみようと思ってな」
凛「どういうこと?」
P「ニュージェネって枠組みで出演する……とは言ったが」
卯月「……?」
P「今回はソロで行ってもらう」
未央「え、ええ!?」
卯月「そ、ソロですかぁっ!?」
凛「それ、ニュージェネじゃないじゃん」
P「ニュージェネである三人がそれぞれ一つの曲を歌ってもらう、そういうわけだ」
凛「なんか屁理屈っぽいというか……」
P「タイムテーブルの関係で、お前たち三人が一人ずつ三曲歌えば丁度良くハマるって話になってな」
P「今、ニュージェネとしてはいい波に乗ってる」
P「でも、一人として見た場合どうなるか――お前たち一人一人の武器、可能性を今一度探ってみたくなってな」
P「いい機会だと思って、こういう段取りにしてもらったわけだ」
卯月「い、いきなりすぎますよぉ……」
P「大丈夫だ。お前たちなら絶対うまくいく」
P「可能性を広げるチャンスだと思って、どうか頑張ってくれ」
P「もちろん、最終的にはお前たちに任せる……。意見があるなら尊重するし調整する」
未央「――これって、いつ放送される番組なの?」
P「来月の中旬だ」
P「従って、今月はそれに向けてのレッスンだのリハだのが中心になるだろうな」
P「収録は今月の最後。だから――」
凛「これは……?」
P「番組のメインは『視聴者からのリクエスト曲』を歌うことだ」
P「募集自体はもう締め切ってある」
P「お前たちに割り当てられたのはこれらの曲だ」
未央「おぉー」
P「この曲の中から、お前たちが何を歌いたいかそれぞれ一曲だけ決めてもらいたい」
卯月「もちろん、被らないように……ですよね」
P「ああ。そこらへんは話し合ってくれ」
凛「いつまでに決めるのかな」
P「オフが明けるまで」
未央「えぇ!?」
P「早ければ早いほどいい」
卯月「え、えぇー……」
凛「ホントに急だね」
P「まあ、今の時代検索すればそこに載ってる曲なんて公式があげてたりするからな」
P「比較的決めやすいと思う」
未央「そんな軽く言われましても」
P「――って言われるかと思って」
P「人数分、CDに焼いてきた」ゴソッ
P「知らない歌があったらこいつを聴いて参考にしてくれ」
卯月「は、はい……」
凛「準備が良すぎて卯月がドン引きしてるよ」
卯月「いやいやっ! い、いつの間にって思って……」
未央「さすがターミネーター」
P「誰がターミネーターだ」
P「まあ、そういうわけだから」
P「ほんとはオフが明けたら伝えようと思ったけど、早ければ早いほど準備期間がとれる」
P「急ピッチで申し訳ないが、理由は先程述べた通り――よろしく頼む」
卯月「あっ」
凛「どこ行くの? プロデューサー」
未央「あのさっ、明日プロデューサーもオフなら――」
P「一服に行くだけだ。お前らは早く帰れ」
P「それと……」
P「明日は用事があってな。その為に空けてもらったんだ、すまん」
凛「用事?」
P「ああ――結婚式だ」
凛「――ッ!?」
未央「ゐ」
卯月「フェッ!?」
P「友達のな」
凛「……」ホッ
未央「あー、なるほどねー……。良かった……」
卯月「ビックリしましたぁ」
P「おい、聞こえてるぞ未央」
P「俺が結婚しちゃダメなのか」
三人「「「……」」」
P「え、なんだよこの空気」
P「なんだ、その……。明日は高校時代の親友が地元で式を挙げるみたいでな」
P「それに顔を出してくるだけだ」
P「ったく、この忙しい時期に……」
未央「プロデューサーは365日忙しいじゃん」
P「お前たちのおかげでな」
凛「親友なんだから、ちゃんと祝ってあげなよ」
P「分かってるよ」
卯月「結婚かぁー……」
P「じゃ、さっさと帰った帰った! ほら!」
未央「はいはいっ、お疲れ様でした」
卯月「お疲れ様です」
凛「お先に失礼します」ガチャッ
[帰宅後、夜]
凛「……」
凛「結婚式、かぁ……」
凛(プロデューサーもオフだったら……)
凛(お世話になってるし、何かしようって話を三人でしてたんだけど)
凛(しょうがないよね……)
凛「ん……」ゴロン
凛(プロデューサー――分からないよ)
凛(絶対に嫌な人ではないし、私たちのことを考えてくれてるし……あの人のおかげでここまで来られたし)
凛(でも……。プロデューサー、あの人は自分のことを話してくれない)
凛(仕事上の関係、大人の世界……それは分かってるけど)
凛(でも、もう少し私たちにも色々と見せて欲しいというか……)
凛(心を開いてほしい……。いや、心を閉ざしているというわけでもないけど)
凛(どこか、どこかに一線を引いているような……そんな気がするんだ)
凛(ここではないどこかを見ている――あの人は私にそんなことを言ったけど)
凛(もしかしたら、それはプロデューサーの方なのかもしれない)
凛(その『どこか』へ私たちを連れて行こうとしているのか)
凛(それとも……。ただひたすら自分一人で、孤独な道を進もうとしているのか)
凛(分からない)
凛「プロデューサー……」
凛「もっと……知りたい……」zzz
凛「――ッ」パチリ
凛「えっ」
???「こんばんは、お嬢さん」
凛「……」
凛「えっ?」
???「状況を呑み込めていない――という顔をしているから」
???「教えてあげよう」
???「まぁ、ここは『夢の中』と思ってくれていい」
???「君にとっては夢の中――ある男にとってはいずれ来るかもしれない、近い未来」
凛「あなたは……。ここは……?」
???「まあ、私は通りすがりの妖精さ」
凛「妖精……?」
凛(上下礼服、ボーラーハットを被ったおじさんが……妖精って……)
妖精「君は『とある男のことが知りたい』と願わなかったか?」
凛「え……。あ、はい……」
妖精「だから教えてあげよう――そんな粋な計らいさ」
妖精「だが、一つだけ忠告しておこう」
凛「忠告?」
妖精「これは『とある哀れな男』の未来であり、過去である」
凛「え? プロデューサーのこと?」
妖精「さあ、どうだろうな」
妖精「そんな男の人生を知って、君は後悔しないと誓えるか?」
凛「……」
妖精「人は後悔する生き物だ」
妖精「後悔しないように――とは言うが、それでも結局後悔する」
妖精「もうちょっと醤油を足しておけば、もうちょっと高いものを買っておけば」
妖精「そんな些細なことも含めて……後悔する」
妖精「一人の人生を知ることは、そいつの後悔を共に背負うことと同義である」
妖精「それでも、君は哀れな男の人生を知りたいか?」
凛「……」
凛「共に背負う……」
妖精「……」
凛「うん……。知りたい」
妖精「そうか――それでは周りを見ろ」パチリ
凛「――ッ!?」
凛「ここは……?」
妖精「親友の結婚式……その後の披露宴……」
妖精「安心しろ。ここは夢の中……他の人間は我々を感知できない」
妖精「さあ、あそこに座っている男……。あれが今回の主人公だ」
凛「プロデューサー……!?」
妖精「あの男はどんな心境であそこに座っているのか」
妖精「さあ、哀れな男の物語を始めよう」パチリッ
凛「あ……」
凛(会場のスクリーンが、フィンガースナップで――)
妖精「さあ、あそこに映し出された写真を見てくれ」
妖精「哀れな男と、そいつの親友と、一人の女」
凛「親友が新郎さんで、あの綺麗な人は新婦さん……?」
妖精「高校時代、部活が同じだった男と親友。女は共通の友人であった」
妖精「そんな男は、一途に女を想っていた」
凛「でも、前にいる二人は……」
妖精「もしかしたら、自分が新郎の席に座っていたのかもしれない」
妖精「そう思いたい」
妖精「あの写真――部活の最後の大会」パチリ
凛(スクリーンの写真が映像に切り替わった……!?)
妖精「もし勝ち進んで優勝できたら、俺は女へ告白する」
妖精「そんな意気込みがあった」
凛「……」
妖精「しかし――大会の直前、男は親友から告げられた」
妖精「俺、女のこと好きなんだよね」
凛「あー……」
妖精「その後、どういう結果になったのかは……。この会場を見れば明らかだろう」
妖精「男は自分の想いを押し殺し、しかし諦めきれず引きずった」
妖精「もしかしたら、またどこかでチャンスがあるのではないか」
妖精「しかし、男は親友に敵わなかった。何もかも負けていた」
凛「あ……打たれた……」
妖精「親友から譲り受けたマウンド。1-1の重要な場面」
妖精「見ての通り、ランナー一掃のタイムリーを打たれておしまいだ」
妖精「男は恋愛でも敗北し、唯一の支えであった野球でも敗れた」
凛「……」
妖精「周りは男を励ます――お前のせいではないと」
妖精「しかし男はある結論に達した」
妖精「俺は、何も成し遂げることができなかった」
凛「……」
妖精「親友と女を祝福しよう、波風立てず自分は身を引こう、自分は女にとってふさわしくない」
妖精「それが正解だ」
妖精「そう思って、男は一つの区切りを迎えた」パチリ
もしも、本当にもしも「君も僕のこと想ってくれてたら……」なんて考えてる僕を、どうか叱ってやってくれないか。
凛「これは……」
妖精「いやー、青春は素晴らしい」
妖精「哀れな男はこうして……しばらく、想いを断ち切ることに専念したというわけだ」
凛(部活仲間とカラオケで熱唱している、高校生時代のプロデューサー……?)
未央「いやぁ、凄いリアルだけど……これって本当に夢なんだよね?」
妖精「さあ、どうだろうか」
未央「それにしても、これは辛いですな……」
ほら、あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの。
未央(プロデューサーは新婦さんのことが好きで)
未央(でも、自分の想いを押し殺して)
未央(結局親友、新郎さんは新婦さんと付き合うことになり)
未央(この映像みたいな場面もあったということですか……)
妖精「自分の想いは露知らず、二人のカラオケデートに付き合わされる哀れな男」
妖精「二人のラブラブぶりをこれでもかと見せつけられて」
妖精「どんな気分だったんだろうな」
未央「おじさん、なんか今のプロデューサーみたい」
妖精「おじさんじゃない、妖精だ」
妖精「かくして、男の儚い恋は終わった」
妖精「かに見えた」
未央「どういうこと?」
妖精「あれを見ろ」パチリ
妖精「ある日の帰り道――男は偶然女と一緒になった」
未央「青春ですなー」
妖精「男が何か失言をしたのかもしれない」
妖精「振り返ると女は泣いていた」
妖精「もうあなたのことなんて知らない――そう言って女は走り去った」
未央「うわぁー……。なんかドラマみたい」
妖精「もしかしたら……女は自分のことが好きだったのではないか」
妖精「両想いだったのではないか」
妖精「しかし、その想いに気付けなかった二人」
妖精「いつまでも振り向かない男に業を煮やし」
妖精「女の心は親友のもとへ」
未央「うーん……。難しいですなー……」
妖精「気付いたときには全てが遅かった」
妖精「失恋から立ち直っていた男は、再び深く傷ついた」
妖精「そして時は流れ――」
卯月(これって本当に夢なんだよね……?)
妖精「こじらせた男は更にこじらせた」
卯月「こじらせた……ですか?」
妖精「時は流れ、過去の恋愛からはとうに立ち直っていたし、もう忘れかけていた」
妖精「それなりに新しい恋愛もしたし、社会経験も積んだ」
妖精「しかし――あの男を見ろ」
卯月「え……?」
妖精「改めてこの局面を迎えて」
妖精「まだ心のどこかで、心の片隅で、一抹の後悔を引きずっているのではないか」
妖精「俺は何も成し遂げられなかった、俺に誇れるものは何もない」
妖精「恋愛も、部活も、何もかも」
妖精「数々の挫折を経験し、肝心な部分で全てを失い、そうして社会に揉まれる中」
妖精「こじらせた男は、最終的にこのように思い至ったのかもしれない」
卯月「……?」
妖精「自分が主役になれないのなら、誰かを主役にしてあげよう」
卯月「――ッ!!」
妖精「男はその考えに生きることを決めた」
妖精「誰かを幸せにするため、誰かを主役にするため」
妖精「下げたくもない頭を下げ、身を削って、命を削って」
妖精「遠いどこかにある、ぼんやりとした『何か』を追い求めるように」
妖精「どこまでもついてくる現実の影から逃げるように」
妖精「ぼんやりとした何か……。その『何か』が何であるのかは分からない」
妖精「しかし、他人を幸せにするために」
妖精「主役にするために」
妖精「そのために生きている」
卯月「そんな……」
妖精「いや、もしかしたらそんな高尚な理由ではないのかもしれない」
妖精「誰かを主役にするため……そのような考えに逃避しているだけかもしれない」
妖精「そう考えることで思考を停止し、心理学で言う合理化を図ったのかもしれない」
妖精「よく言えば献身的」
妖精「悪く言えば単なる自己犠牲、一種の逃避行動」
卯月「そんなことは……」
置いてきた思い出は二人で優しく包んで。
いつかまた会ったなら、互いに理想な人に。
卯月「あれは……」
妖精「さしずめ披露宴の二次会にでも行ったんだろう」
卯月(カラオケで歌っているプロデューサーさん……?)
妖精「あの男を哀れだと捉えるか、それとも――」
妖精「お嬢さんは、どう思う?」
卯月「え……」
妖精「人は誰でも後悔する」
妖精「後悔からは逃げられない」
妖精「あの時試合に勝っていれば、告白していれば、想いを押し殺していなければ」
妖精「そうすれば、未来は変わっていたのかな」
妖精「こんな具合にな」
妖精「けれど――そう考えたときには何もかも遅い」
妖精「それが後悔ってやつだ」
妖精「そして、そう思ったところで何かを変えられるわけではない」
妖精「当たり前のことだが、見て見ぬふりをして生きている」
妖精「どの道後悔するなら、これからどう生きていくか――」
卯月「どう生きていくか……」
妖精「さて、哀れな男の物語はこのへんで終わりだ」
妖精「じゃあな、お嬢さん」
卯月「あ、待って下さい……!!」
卯月「あなたは一体――」
[翌日、とあるカフェ]
未央「こうして三人で集まるの久しぶりだよね」
卯月「そうですねー、最近は色々と忙しかったですし」
凛「他のユニット活動もあるしね」
未央「でも、三人のオフが被ったのって……」
卯月「やっぱりプロデューサーさんが式に出席するから……?」
凛「それに合わせて私たちもオフにしてくれたんじゃない?」
凛「あとは、私たちの様子を直接見られなくなるから――とか?」
未央「お前たちはまだ俺がいないとダメだぁ」
卯月「ふふっ、もしかしてプロデューサーさんの真似ですかっ?」
凛「ぷっ……」
未央「あ、しぶりんが笑った!!」
凛「笑ってないし」
未央「ダメだぁ」
凛「ふっ……」
未央「はいしぶりんアウトー」
凛「笑ってないし」
卯月「そうですね……。でも、もし凛ちゃんが言ったような理由だったら」
卯月「私たちはまだ信頼されてないってことなのかな……」
凛「……」
未央「いやいや、『ついでにオフにしておくか』って感じなんじゃないの? 深い意味があるわけじゃなくてさ」
凛「私たちは『まだ独り立ちできてないから』って思われてたり……」
未央「うーん……。確かに、私たちはプロデューサーありきの存在だけど」
未央「引っ張ってもらうだけじゃダメだよね」
卯月「プロデューサーさんについていくだけではなく」
卯月「並び立って、一緒に進んでいく」
卯月「そういうことでしょうか……?」
凛「……」
凛「だね」
未央「一緒に進んでいく……」
未央「確かに、私たちってプロデューサーに任せっきりだったかも」
卯月「凄いですよね……。プロデューサーさんって」
凛「色んな仕事をとってきてくれるし……」
凛「あの人のおかげで、私たちはここまで来れた」
卯月「でも、本人は『お前たちの力だ』って……」
未央「もっとお互いにコミュニケーションできるといいんだけど」
未央「なんか壁があるような感じがするんだよね」
凛「うん……。それを言い訳にしちゃいけないのは分かってるけど……」
卯月「うーん……。どうすればいいんだろう……」
凛「今まで以上に仕事を精一杯こなすのはもちろんとして――もっとプロデューサーの期待に応えたいよね」
未央「安心させたいというか」
卯月「プロデューサーさんは私たちのことをどう思っているんでしょうか……?」
未央「手のかかる娘」
未央「――ってのは冗談だけど」
卯月「……」
凛「……」
未央「あれ……? あれれ?」
未央「みなさーん、どうしましたー?」
一人の人生を知ることは、そいつの後悔を共に背負うことと同義である。
凛「……」
凛「後悔を共に背負う……」
卯月「……ッ!!」
未央「え? しぶりん?」
凛「そういえばさ――私、昨夜変な夢を見たんだ」
卯月「えっ!?」
未央「マジッ!?」
凛「え? どうしたの、二人とも」
卯月「実は……私もなんです」
未央「わ、私も」
凛「え……。本当に?」
卯月「それってもしかして――プロデューサーさんが出てくる夢ですか!?」
未央「あとは、自分のことを妖精って名乗るおじさんとか!」
凛「う、うん……」
卯月「……」
未央「……」
凛「全部……当てはまるんだけど」
卯月「私も、です」
未央「同じく」
凛「え……」
[数分後]
凛「こんな偶然ってあるんだね……」
未央「偶然っていうか、奇跡?」
卯月「そうですね……。三人が同じ夢を見るなんて」
未央「なんだか妙にリアルな夢だったよね」
凛「うん……」
卯月「あれって、本当なんでしょうか……」
凛「本当?」
卯月「いや、妙に現実味を帯びていたので……。あの『過去の話』は本当にあったことなのかなぁって」
未央「近い未来とも言っていた気がするけど……。あれも本当に起こる出来事ってことかな?」
凛「……」
凛「だとしたら、今頃プロデューサーは――」
未央「……」
卯月「……」
凛「あっ、そうだ」
未央「どうしたの?」
凛「ねえ、あの夢の中に出てきた歌……知ってる?」
卯月「プロデューサーさんが歌っていた曲のことですか?」
未央「あとは他の人……プロデューサーの親友さんとかが歌っていた曲とか?」
凛「うん」
凛「それで、あの曲って……」
卯月「――ッ!!」
未央「やっぱり、そうだよね」
凛「プロデューサーがくれたCDを聴いてみたんだけど」
卯月「私も、聴きました」
未央「同じく」
凛「夢の中に出てきたよね?」
卯月「はい……」
未央「何曲か、出てきたね」
凛「……」
卯月「……」
未央「……」
三人「「「あの」」」
凛「ごめん、先にいいよ?」
卯月「凛ちゃんこそ、どうぞ」
未央「しまむーから言いなよっ」
卯月「私……私が歌う曲、決めました」
凛「私も決まった……かも」
未央「やっぱり? 私もだよー」
凛「あの、本当だったら今日は『プロデューサーを誘おう』って話をしてたじゃん」
凛「プロデューサーがオフじゃなくても、仕事が終わったらどこかに誘って日頃の感謝を伝えようって」
卯月「そうですね」
未央「結局叶わなかったけどねー」
凛「でもさ、もしあの夢が本当だとしたら――」
未央「私もオカルトちっくなことはあまり信じてないけど、今回ばかりはそうとしか思えないよねー」
卯月「偶然とは言い切れないよね……」
凛「だとしたら……。私たちにできることって」
未央「もしかしたら、それが唯一の方法かもしれないね」
卯月「私たちはあなたのおかげで立派になれた――って表現すること」
卯月「それで私たち自身が『プロデューサーの誇り』になること……」
未央「余計なものを断ち切って」
未央「後悔を共に背負って」
凛「並び立って」
凛「一緒に進んでいくこと……」
卯月「プロデューサーさんは、私たちを主役にするために」
未央「私たちは、プロデューサーを主役にするために」
凛「それが、私たちにできること」
卯月「はいっ!」
未央「うん!」
凛「……」
凛「決まりだね」
[そして――7月]
ちひろ「あれ……。誰もいない」
ちひろ(でも……。テレビの音声? 微かに何か聞こえる)
ちひろ「まったく……。プロデューサーさんったら」
ちひろ「テレビをつけっぱなしで一服に行ったのね」
ちひろ「プロデューサーさん?」コンコン
ちひろ「入りますよー?」ガチャッ
ちひろ「……」
ちひろ「あれ……。あの……」
P「……」
ちひろ(会議室のテレビを食い入るように見るプロデューサーさん)
ちひろ(そして……。テーブルには500mlの缶ビールが3本……)
ちひろ「あの、プロデューサーさん」
P「あ、ちひろさんお疲れ様です」
ちひろ「あの、ツッコミたいところはたくさんあるんだけど」
ちひろ「まず一つ――職場で飲酒って、あの……」
P「いやー、すみません」
P「今日の仕事は全部終わったんで、つい……」
P「他の人には内緒で……。お願いします……」
ちひろ(既に、ちょっと出来上がってるわね……。これは)
ちひろ「もう……。飲みたいなら居酒屋とか、色々あるでしょ?」
ちひろ「そんなに飲みたかったなら、この後どうです?」
P「そうですね――でも、これを確認してからにします」
ちひろ「確認?」
P「ええ」
ちひろ「……」
P「お、きたきた」
ちひろ「あ、先月収録した番組ですか?」
P「そうです。ちょうど今、放送されてるわけです」
P「個人的にも楽しみにしてまして」
P「あいつらには絶対言いませんけど」
ちひろ「いや、それは言ってあげてください」
それでは――渋谷凛さんで『もしも』です!
ちひろ「凛ちゃん、かっこいいですね」
P「……」ゴクゴク
ちひろ「プロデューサーさん?」
ちひろ(自分の世界に入ってるわね……。これは)
♪This is a song for everybody who needs love.
This is a song for all of those tears.
Where I’m standing now,
I love this place and I love you all.
And do you know what?
This is a song for you and me♪
P「……」
ちひろ「掴み、バッチリですね!」
P「世の中、不思議なことがあるもんですね」
ちひろ「え?」
P「曲の候補がいくつかあって」
P「その中から、歌う曲を選ぶように言ったんです」
ちひろ「はい」
P「そしたら、あいつらはそこから……」
P「たまたまこの曲を選んだんですよ」
P「まあ、番組スタッフが出してきた候補の中にあったのも驚きですが」
P「あいつらがあの曲を選ぶなんて」
P「曲、決まりました――なんて報告してきたときの表情とか」
P「なんか、どことなく『してやったり』みたいな表情だったし」
ちひろ「……?」
♪たぶん君はまだ鈍感で きっと気付いていないだろうけど
周りの人はみんな君に夢中だったよ
僕もそんなやつらの一人なのかもしれないけれど
誰にも負けず君の良さを知ってるはずだ
なんて、バカげてることを言ってる僕を君は気にも留めず過ごすのだろう♪
ちひろ「この曲、懐かしいなぁ……」
P「……」
ちひろ「もしかして、プロデューサーさん」
ちひろ「三人が選んだ曲に、何か想い入れがあったり――」
ちひろ「そういうことですか?」
P「……」
P「それは――」
♪もしも本当にもしも 君も僕のことを想ってくれてたら
なんて考えてる僕をどうか叱ってやってくれないか
どうか時が戻るならば 純粋そのものだった君にまた出会いたい
どうか時が動かぬなら 素晴らしかった君に恋してた僕のままで
僕のままで
僕と君のままで♪
P「……」
P「こういうロックな路線もいけるかもな……バンド音楽とかも……」ブツブツ
ちひろ「あの、李衣菜ちゃんが……」
続きまして、本田未央さんで『小さな恋のうた』です!
ちひろ「おっ、名曲ですねー!!」
P「ちひろさん」
ちひろ「はい?」
P「一本あげます」
ちひろ「あのね……」
ちひろ「ま、これもプロデューサーさんの責任ですし」
P「飲んだ瞬間連帯責任ですよ」
♪あなたと出会い時は流れる 想いを込めた手紙も増える
いつしか二人互いに響く 時に激しく 時に切なく
響くは遠く遥か彼方へ やさしい歌は世界を変える♪
ちひろ「ほ~ら、あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの♪」プシュ
P「……」
ちひろ「勤務中の酒はうまいっ!」グビッ
♪夢ならば覚めないで 夢ならば覚めないで
あなたと過ごしたとき永遠の星となる
ほら あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの
ただあなたにだけ届いてほしい 響け恋のうた♪
P「ふぅ……」
ちひろ「いやー、いいですねぇ」
ちひろ「そういえば、さっきの話ですけど」
ちひろ「三人が選んだ曲が、たまたまプロデューサーさんの好きな曲だった」
ちひろ「つまり、そういうことですか?」
P「まあ、言ってしまえばそういうことです」
ちひろ「へぇー……。それは凄いですね」
ちひろ「それで――好きな理由って何ですか?」
P「え?」
ちひろ「想い入れがあるってことは、それなりの理由とか背景があるってことですよね?」
P「最後は卯月か」
ちひろ「あ、逃げましたね」
ニュージェネレーションの最後を飾るのは島村卯月さんです!
P「理由なんてないですよ」
P「メロディーが良かった、歌詞が良かった」
P「そんな理由で十分じゃないですか。好きになるって」
ちひろ「そうですねー、でも……」
それでは――島村卯月さんで『てがみ』です!
ちひろ「全部恋愛の曲みたいですし」
ちひろ「特別な思い出があるのかなぁって」
♪見慣れた文字で君から手紙が届いた
いつもの真っ白で綺麗なシンプルな封筒
何度も 何度も その手紙を読み返すよ
読めば読むほどに君の気持がほら伝わるよ♪
P「特別な思い出ですか」
ちひろ「おっ、やっぱりあるんですか!?」
P「ないですよ」
ちひろ「またまたぁ! 聞かせて下さいよ!」
P「すみません今集中してるので」
ちひろ「また逃げた」
♪今なら君は振り向いてくれるかな
あれから長い月日が経ったけど
やっぱり恋には時効などないのかな
今日も君を後悔と共に思いながら♪
ちひろ「卯月ちゃんが歌うとまた違った魅力がありますねー、この曲」
P「……」
♪置いてきた思い出は二人で優しく包んで
いつかまた会ったなら 互いに理想な人に
振り向きもしないまま去って行く君の背中を
冷たい陽が射すよ♪
P「オリジナルは全部男性ボーカルの曲なのに」
ちひろ「……?」
P「もっと女の子らしい曲を選ぶかと思ってた」
ちひろ「ふふっ」
P「どうしたんです?」
ちひろ「それなのに、三人はこの曲を選んだ」
ちひろ「これって――偶然なんですかね?」
P「どういうことです?」
ちひろ「そのままの意味ですよっ」
P「確かに、偶然にしては出来過ぎてるとは思いましたけど」
P「自分は『この中から選んでおけ』と言っただけですし」
P「こういう曲を選べとか、この曲がいいなーとか」
P「そんなことも一切言ってませんから」
P「それに、俺が好きな曲を過去に教えたわけでもないですし。知る術もなかったはずです」
ちひろ「なるほど」
ちひろ「じゃあ、これは奇跡って感じですね!」
P「奇跡……?」
ちひろ「はい。きっと起こるべくして起こった奇跡なんじゃないですか?」
ちひろ「神様だとか、運命がそうさせたんですよ」
P「神様って……」
ちひろ「いいじゃないですか。私好きですよ、そういうの」
P「つまり、必然だったと?」
ちひろ「神は乗り越えるべき試練を――なんて言いますし」
P「試練?」
ニュージェネレーションの皆さん、ありがとうございました!
えー、皆さんそれぞれ歌っていただいたわけなんですが……。
リクエストの中からこれらの曲を選んだ、その理由を是非お聞かせ下さい!
ちひろ「あ、その例えは違いましたね……。ふふっ、ごめんなさい」
私は……。過去の失敗や後悔でさえも「全部背負って前へ進んでいこう」という強さが感じられるので……。この曲を選びました。
どうしても過去は変えられないし後悔はつきものだけど、「いつか笑える時が来る。だからこれからも進んでいこう」って気持ちにさせてくれるので……。
P「全部背負って前へ進む……」
ちひろ「さすが凛ちゃんはクールですねー!」
私はー、えーと……。名曲っていうのもありますし、あとは「あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの」って歌詞が個人的に大好きなので!
あとはあとはー……そうっ! たとえ報われない恋だとしても、一方通行だとしても、真っすぐな想いはとても素晴らしいもので、誇れるものだって、誇っていいものだって……そういう前向きな気持ちにさせてくれるので、この曲を選びましたっ!
ちひろ「うんうん! 未央ちゃんやるねー!」
P「誇れるもの……」
私は……。あの、「いつかまた会ったなら、互いに理想な人に」って歌詞が大好きで……。
昔の恋を懐かしんで、ちょっぴり後悔してるって感じなんですけど……別々の道を歩くことになってもお互いを尊重して、いつまでも想いを大切にして、そしてそんな想いと一緒に進んでいこうって、そういう感じで凄く優しい気持ちにさせてくれるので……この曲を選びました。
ちひろ「卯月ちゃんかわいいっ!」
P「お互いを尊重……。想いと一緒に……」
ありがとうございます! それでは最後に、ファンの皆さんへメッセージをどうぞ!
P「……」
はい! 私たちニュージェネレーションはこれからも、もっともっと素晴らしいアイドルになれるよう頑張りますっ!
皆さんと一緒に最高のステージを目指して進んでいこうと思っています!
なので――これからも応援よろしくお願いします!
ちひろ「バッチリでしたね、プロデューサーさん」
P「……」
ちひろ「プロデューサーさん?」
P「確かにそうかもしれませんね」
ちひろ「え?」
P「試練……。神は乗り越えるべき試練を与える」
P「そうかもしれません」
P「あの三人が俺に試練を与えたってことか?」
ちひろ「……?」
ちひろ「だとしたら、卯月ちゃん凛ちゃん未央ちゃんは神様ですね!」
P「まったく……。立派になったもんだ」
ちひろ「ふふっ、娘の成長を見守るお父さんみたいですね」
P「まだまだそんな歳じゃないですよ……」
ちひろ「あっという間ですけどねー。きっと」
P「もしかしたら、逆に自分が面倒を見られていたのかもしれません」
P「あいつらを看ていたつもりが……看られていたのは自分の方だった」
ちひろ「三人とも、もう一人前ってことでいいんでしょうか?」
P「いや、まだまだこれからです」
ちひろ「ふふっ、そう言うと思ってました」
P「だけど――俺がしてやれることは、もうないのかもしれませんね」
ちひろ「えっ?」
P「あいつらのおかげで俺もここまでやってこれました」
P「深く感謝しています」
P「そして、これからもプロデュースしたい気持ちはもちろんあります」
P「三人はまだまだ上を目指せる」
P「しかし、あいつらは俺という存在を乗り越えていった」
P「俺を超えた三人には、俺以上の……俺なんかよりもっとできるプロデューサーが必要です」
ちひろ「そんな……。三人を手放すということですか!?」
P「そう決めたわけでもないですが……。そのような選択肢も視野に入れないといけない」
P「それが現実だって、そう思うようになったんです」
P「その方が、三人のためだと――」
ちひろ「それを決めるのは、その三人ですよ?」
ちひろ「それに、まさしくこれが『試練』なのかもしれませんね」
P「――!!」
ちひろ「三人が乗り越えたなら、今度はプロデューサーさんの番ってことじゃないですか?」
P「俺の……番……」
ちひろ「乗り越えるべき試練ってことですね!」
P「……」
P「そうですね――俺もいい加減、いらないものは捨てて前へ進まないとダメですね」
P「いや……。いらないものはない」
ちひろ「……?」
P(全部背負って、大切にして、一緒に進んでいく――)
P(まったく、何故もっと早く気付けなかった?)
P(っていう、これも後悔……)
P(どのみちこれからもそいつと向き合って生きていくなら)
P(いちいち感傷に浸っている場合じゃねぇな)
P「前を向くか……。いい加減」
ちひろ「プロデューサーさん……?」
P「じゃ、確認も済んだことだし……。ちひろさん、ちょっとひっかけて帰りましょう」
ちひろ「いいですね! それじゃー帰る準備してきまーす!」
ちひろ「あ、それと……」
P「はい?」
ちひろ「特別な思い出の話、是非聞かせてくださいねっ?」
P「だからそんなもんないです」
ちひろ「またまたぁ、照れちゃって! 表情でバレバレですよー?」
P「もう知りません。先に行ってますね」
ちひろ「あー! 待ってください!」
P「鬼! 悪魔! ちひろ!」ダッ
ちひろ「あ、ちょっと――」
[そして――]
卯月「お疲れ様です、プロデューサーさん」
P「卯月か――お疲れ」
卯月「あっという間に、もうツアーが始まりますね」
P「そうだな……」
卯月「もう緊張してきました……。えへへ……」
P「大丈夫だ、お前なら」
P「絶対成功する」
卯月「ありがとうございます」
卯月「ここまでこられたのも、全部プロデューサーさんのおかげです!」
P「いや、お前の力だよ」
P「それに――それを言うのはまだ早いぞ?」
卯月「ふふっ、確かにそうですね」
卯月「でも、ほんとに……そう思ってます」
P「それはこっちのセリフだ」
卯月「えっ?」
P「俺が今こうして、この仕事を続けていられるのもお前たちのおかげだ」
P「本当にありがとう」
卯月「プロデューサーさん……」ドキッ
P「……」
卯月「……」
卯月「き、今日も暑いですねっ!」
P「ん? ああ、そうだな」
卯月「あのー――プロデューサーさん」
P「何だ?」
卯月「プロデューサーさんが私たちを主役にしてくれたように」
卯月「今度は私たちがプロデューサーさんを主役にできるように頑張ります!」
P「――ッ!!」
卯月「なので――これからも、これからも一緒に頑張りましょう!」
P「ふっ……」
卯月「……?」
P「言うようになったな」
卯月「えっ!? ああっ、ご、ごめんなさい!」
卯月「私みたいな人間が偉そうなことを――」
P「違う」
卯月「ふぇっ!?」
P「いい意味で言ってるんだ」
P「立派になったな、卯月」
P「ありがとう」
P「それじゃ、俺が主役になってもいいんだな?」
卯月「――ッ!!」
卯月「はいっ!!」
P「俺を連れて行ってくれ……お前たちの力で」
P「俺も、頑張るから」
P「じゃあ――ちょっと一服してくる」
P「ありがとう、卯月」ガチャ
卯月「はいっ!」
未央「おっ、プロデューサーじゃん! お疲れー!」
P「お疲れ」
未央「そんな顔してると幸せが逃げてくぞー?」
P「元からこの顔だ」
未央「あははっ、ごめんごめん。ジョークだよジョーク」
未央「今日もかっこいいよ、プロデューサー」
P「うるせー」
未央「……」
P「……?」
未央「プロデューサー、変わったね」
P「え?」
未央「最近いいことあった?」
P「どういうことだ?」
未央「なんかスッキリしてるというか――とってもいい顔してる」
P「気のせいだろ」
未央「もう、素直じゃないねー」
P「ほっとけ」
未央「ツアー、もうすぐだね」
P「ああ」
未央「頑張ってね」
P「それはお前の方だろうが」
未央「あははっ、確かに!」
P「変なやつ。緊張してるのか?」
未央「ぜーんぜん! 楽しみでしょうがないよ!」
未央「……」
未央「プロデューサー……」
P「どうした?」
未央「プロデューサーは、私の……」ドキドキ
P「……?」
未央「わ、私の全てだよ!」
P「は……!?」
未央「あ、いやー! その、そういう意味じゃなくてっ!」
P「どういう意味だよ」
未央「私は、私たちはプロデューサーの『誇り』だよ」
P「誇り?」
未央「だから――もっと胸を張りなさい!」
P「……!?」
P「言うじゃねーか」
未央「ふふん、私も立派になったでしょ?」
P「生意気なやつだな」
未央「だから――もっとプロデューサーが自慢できるように」
未央「私、頑張っちゃうからね」
P「……」
P「ああ、頼んだぞ」
未央「だから……これからも、私のこと見ていてくれる?」
未央「私たちのことを」
P「……」
P「もちろんだ」
未央「……ッ!!」
P「こちらこそ、よろしく頼む」
P「俺も頑張るから――」
未央「うん!」
P「未央」
未央「なに?」
P「……」
P「その、ありがとな――」ガチャッ
未央「……!!」ドキッ
未央「ふふっ、素直じゃないなー……あの人は」
凛「プロデューサー」
P「おっ、凛か」
P「よくここが分かったな」
凛「一服に行ったって聞いて」
凛「それで、事務所にいなかったから」
凛「どうせこの公園でタバコでも吸ってるんだろうと思って」
P「全部お見通しってことだな」
凛「考え事するときはいつもここにいるもんね……休憩時間は」
カナカナカナカナカナ……
凛「セミの声、綺麗だね」
P「……」
P「そうだな」
凛「私好きだな、この鳴き声――なんてセミだっけ?」
P「ヒグラシだ」
凛「そうだった」
P「……」
凛「……」
P「どうだ? 調子は」
凛「調子? いつも通りだよ」
P「ツアーももうすぐだ」
凛「少し緊張してるけど……。でも、楽しみだな」
P「期待してるぞ」
凛「ありがと」
P「……」
P「なんだか、あっという間だな」
凛「え?」
P「アイドル活動に懐疑的だったお前を落としたのもこの場所だったな」
凛「そーゆー言い方、勘違いするからやめた方がいいよ」
凛「私はしないけど」
P「ふっ、そうだな……。すまん」
凛「珍しいね、こういう話するの」
P「俺だって過去を振り返ったりするさ」
P「どうだ――アイドルになってみて」
凛「やっぱり私には向いてないよ」
P「……」
凛「って言ったら、どうする?」
P「お前も生意気になったな」
凛「ふふっ、冗談だよ」
凛「……」
凛「プロデューサー――私さ」
P「……?」
凛「こんなこと言うと笑われるかもしれないけど」
凛「生きる意味って何だろうって、最近考えてたんだ」
P「そうか……」
P「いや、笑わないさ」
凛「……!!」ドキッ
P「誰だって考えることだ――表に出さないだけで」
凛「そっか……。良かった」
凛「プロデューサーにはあるの?」
P「生きる理由か?」
凛「うん」
凛「私をアイドルに誘ったときさ……言ってたじゃん」
凛「私が『ここではない遠いどこかを見ているような目をしている』って」
P「おう」
凛「その『どこか』に私を連れていきたいって」
P「ああ……」
凛「今になってさ、気付いたんだ」
P「気付いた?」
凛「うん――あの、プロデューサー」
P「何だ?」
凛「あの、これから言うこと……怒らない?」
P「何だよ、怒らないから言えよ」
凛「あの、もしかしたら……。ここではないどこかを見ていたのは」
凛「プロデューサーだったんじゃないかな」
P「――ッ!!」
凛「あの時のプロデューサー、遠い目をしてた」
凛「そして、少し前までそんな感じだった気がする」
凛「何かに追われるように、ただ一人で進んでいたような……」
凛「気に障ったならごめんね……。そんな気がしてたんだ……」
P「……」
P「お前――!!」
凛「……ッ!?」ビクッ
P「――なんてな」
凛「……」ホッ
P「さっきの仕返しだ」
凛「大人気無いよ? もう……」
P「ああ……。確かにそうだったかもな」
凛「ほんと?」
P「お前をアイドルに誘ったのも――心外だったらすまないが」
P「俺とどこか似ているような雰囲気があったからだ」
凛「心外なんかじゃないし……怒らないよ」
P「ありがとな……」
P「俺は確かに、何かを追い求めていた」
P「そして、お前もそんな目をしていた」
P「同情とかそんなもんじゃないが……。だから俺は思ったんだ」
P「俺と似ているからこそ、お前には『まだ見ぬ何か』に辿り着いて欲しいって」
P「俺は何かに追われるように、過去や後悔を引きずって生きてきた」
P「凛、お前の言う通りだ」
凛「……」
P「でもな……。不思議な出来事があって」
P「俺は変われた」
凛「不思議な出来事?」
P「ああ――凛、お前と」
P「それから卯月、未央……お前たち三人のおかげだ」
凛「……!!」
凛「ど、どういうことかな……」
P「まあ、色々あってな」
凛「いじわる。全部話してよ」
P「色々あって……。お前たち三人がそれぞれ歌ってくれただろ?」
凛「歌……? あ、『カバーの祭典』のこと?」
P「ああ」
P「まあ、色々とウジウジしてた情けない俺だったが」
P「俺の好きな曲をお前たちが何故か、偶然チョイスして」
P「それで歌ってくれたおかげで……俺は色々と吹っ切れた」
P「三曲とも俺の好きな曲だったのは本当に驚いたが……」
P「お前たち、何か企んでいたのか?」
凛「――ッ!?」
凛「え、ええっと……。そんなわけないじゃん」
P「だよな、俺の自意識過剰というか……。ホントに偶然だよな……。俺なんかのためにそんなことが……」ブツブツ
凛「違うよ」
P「え?」
凛「きっと、運命だったんだよ」
P「……」
P「ふふっ」
凛「な、何がおかしいのかな? 確かに私がこういうこと言うのは自分でも変だと思うけど」
P「いや……ありがとな」
P「運命ねぇ……」
凛「運命というか……必然?」
凛「きっと、私たちが一緒になって進んでいくキッカケとして決められていたのかも」
凛「私は……そう思う」
P「一緒になって進んでいく……」
凛「うん」
凛「あのね、プロデューサー」
P「……?」
凛「プ、プロデューサーは……その……」ドキドキ
P「……」
凛「プロデューサーは、一人じゃないよ?」
P「――!!」
凛「私が、私たちがいるから」
凛「プロデューサーが私たちをここまで連れてきてくれたように」
凛「私も、私たちもプロデューサーを『遠いどこか』へ連れていけるように頑張るから」
凛「だからこれからも――私を見ていて欲しいんだ」
凛「私たちを……」
P「凛……」
P「ああ――もちろんだ」
凛「……」
凛「ありがと……」
P「こちらこそ、ありがとう」
P「それと、生きる理由――だったな?」
凛「えっ? う、うん……」
P「俺にはあるぞ――見つかった」
凛「それは……何?」
P「内緒だ」
凛「……」
凛「ほんと、プロデューサーのそういうとこ嫌いだよ」
P「お前の拗ねてる顔、ほんと最高だわ」
凛「バカ……」
凛「そんなことばかりやってると――知らないよ?」
P「え?」
凛「私と、それから卯月も未央も……プロデューサーの知られたくない話、知ってるんだから」
P「えっ? ど、どういうことだ!?」
凛「……」
P「お、おいっ! 凛、待て!」
凛(今思えば……。あの妖精は)
凛(もしかしたら、未来のプロデューサーだったんじゃないかって)
凛(ひねくれた性格とかそっくりだし……)
凛(なんとなく、そう思った)
凛(そして、私たちがそんな未来を変えたんだ)
凛(プロデューサーがアイドルという私の未来をくれたように)
凛(私たちもプロデューサーの未来を――)
P「おい、凛――」
凛「プロデューサー」
P「え?」
凛「私も、生きる理由見つかったよ」
P「え? それは――」
凛「でも、今は教えてあげない」ニコッ
終
ありがとうございました。
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