【ガルパン】役人「統廃合を任された」 (233)

VIP初投稿、ガルパンで役人のSS。

役人の性格がかなり変わってるので注意。
一部オリキャラ有


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467304096

「君に任される事になったよ」

そう言われ私が任された仕事は、各学園艦の統廃合の仕事であった。

実に嫌な仕事だ、と思ったものの上からの言葉であるために、そう断りはできない。

しかもこの仕事を私に告げたのは、この世界では大恩あるかつての上司である。

故に私は、はい、と答え、かくして「文部科学省学園艦教育局長」となった。

学園艦と言う艦、あるいはシステムが作られたのは、古代ローマでからあったとも言われ古くからある。

今のような弩級戦艦以上の大きさで、船の上に人が生活し一つの街として機能する発想は、イギリスが最初ともある。

「大きく世界に羽ばたく人材の育成と生徒の自主独立心を養うために建造」と言うのが謳い文句であり、その運営や航行等の殆どを生徒自身が行う。

重厚長大産業が盛んであった日本も、時代と不況の波に飲まれた。

学園艦は、それを補うべく大型の学園艦を建造し造船業を助ける役目もあった。

各々の学校には、雇われ外国人や、自ら日本に訪れ自国文化を広めようとした者達も関わり

所属は日本でありながらも殆どを海の上で暮らし、ある意味独立した文化を形成

アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、ロシア、フランス等々影響を受けた国家の特色を色濃く反映する艦が多い。

しかし、だからどうしたである。

今私が取り組むべきは、その学園艦の統廃合。言ってしまえば嫌われ役だ。

実際学園艦のシステムは形骸化

まして態々船の上で生活すると言うのに、古きは陸上の学校と同じ普通科クラスに通いそのまま卒業など実際意味は無いのではないのだろうか?

それでいてなんら成果も特徴が無いのであれば、その大きさに見合う維持費がかかる巨大な戦艦を遊ばせておくわけにはいかないのも確かである。

恐らくは、多くの生徒、その家族関係者が反発するだろう

しかし国の資金とて無限ではない。

しかも今国では戦車道のプロリーグの設立、世界大会の誘致と金がいる。

戦車道はマイナーとなったと言われるが、五輪と並び世界的行事である事は変わらない

その大会が誘致できれば国際的な注目浴びれるため、国家の威信をかけプロジェクトは進んでいる。

ゆえに無駄は省かねば、と多くの案が出されその一つが以前から話のあった統廃合であった。

すみません、諸注意幾つか抜けてました。

TV、OVA、劇場版みた時の勢いで書いた物で、細かい設定とかが把握できてない処があります。

そこ、設定違うよ。と言うところがあれば、ご指摘ください。

それなりに書き溜めあるので、とりあえずはこのまま投稿しますが、おいおい指摘を頂いた箇所を直していきたいと思います。

私はすぐに仕事に取り掛かる事になった。

心を鬼にして、次々と統合、あるいは廃校を告げる。

まあ、役人としての仕事であるので、そこまで辛くもないのだが。

素直に聞く所もいれば、特に廃校を告げられると納得出来ぬと憤慨する者もいる。

しかし文科省、つまり国の意向である。

ならば貴校には、存続するに値するものがあるかと問えば、押し黙るのが殆どであった。

そもそも大きな実績がない所に統廃合を告げているので、言い返せないのも無理はない。

そこで黙るのであれば、私も情けなどかける気もない。そのまま統合か廃校である。

そんな事が続くなか、茨城県大洗にある大洗女子学園と言う学園艦、そこの生徒会三人に廃校を告げた。

大人しそうな娘はうろたえ、モノクルを着けた生徒があまりに急だと怒り出す。

何時も通りであると思った。

貴校は以前までは戦車道で有名だったらしいが、今は特色が無いのだ、と言う。

何時も通りであればこれで終わりだが、これまで思案顔であった小柄の生徒会長がニヤリと笑い宣言した。



じゃあやろうか、戦車道。

二人の部下が驚き、正気かと問えば、生徒会長は自信満面に答えた。


まさか優勝校を廃校にはすまいね。


それを聞いて私は、思わず声をだし笑ってしまった。三人は呆気に取られ、バカにされたのかと、モノクルの少女が憤慨するが、いや違うと言って続けて述べる。


私はこの統廃合を任されて長くないが、統合、廃校にした学校はそれなりになる。だがここまで大口を叩けたのは君が初めてだ。聞くが、出来るのかね、優勝が。


それを聞き呆気に取られていた生徒会長は、笑みを浮かべた。


出来る出来ないではなく、やれます。大洗の底力を見せてやります。


と、やはり自信満面で答えた。私は再度、今度は控えめに笑いつつも答える。


統廃合を進める身として、素直にそれを認められないが、しかしそれほどの事は、大ホラ吹きとて言えない。やってみたまえ。



だが吐いた唾は飲み込めんよ、と念を押すと、言われるでもなく、と言って彼女達は大洗へと戻っていった。

その後、大洗女子学園が突如として戦車道に参加、強豪と知られる聖グロリアーナと練習試合を行い

惜しくも敗北、しかし戦車道を始めたばかりの学校とは思えぬ善戦したと知るのは、そう遠くなかった。


なるほど負けたとは言え、彼女の自信は嘘ではなかったようだ。

しかし彼女は戦車道経験者ではないはずだ。疑問に思い少し調べると、すぐに大洗躍進の理由がわかる。

戦車道においてその名を知らぬものはいない流派、西住流。そこの末娘が大洗女子へと転校したようだ。

強豪校の一つで、特に名の知れた高校、西住流による圧倒的力で9度の連続優勝を成し遂げていた黒森峰

彼女はそこで副隊長をしていたようだが、転校した理由は連続優勝をかけた前回の全国大会でのミスが原因らしい。

戦車ごと濁流へ落ちた仲間を助け、その隙をつかれたらしい。

はたしてあれをミスと言えるかは、戦車道に求め目指すものによって変わる。

しかしあれが決定的であるのは確かだ。

だがそれが結果的に大洗女子を助ける事になっており、あの生徒会長の狙い通りの展開であろう。


立場上私は焦るべきなのだが、むしろこの事態は面白いと思える。

淡々と統廃合を告げるなか現れた反骨心ある生徒会長。

彼女の掲げる目標を成せるほどの逸材西住流。

他の官僚達からは、勝手な口約束をするなとやはり文句が来たが

実力があるなら問題は無いでしょう、と言っておく。

今プロリーグに世界大会と戦車道に力を入れる国としては、戦車道で実力があるないでは対応が変わる。

また、少し様子を見ましょう、とあの上司殿が他の官僚を宥めてくれた。



官僚達が渋々と言った態度を取りながらも、確かに戦車道で実力があれば或いは、と一応は納得していた。

寛大なる我が上司殿は、君中々賭けに出たね、と苦笑していた。

しかし前途ある若者の学舎をすぐ取り上げるのは、やはり心が痛む、元より学園艦とは生徒の自立を促すシステムだ。

本人達が逆境に立ち向かい努力するならば、それを見守るのも我々の役割です、そう言うと上司は低く、うむぅ、と唸り、そうだな、励みたまえよ、と述べた。


後日彼女達が、サンダース大学付属と一回戦でぶつかる事を知る。

これは出だしで苦しいぞ生徒会長よ、と内心思う。

サンダースは、西住流のような洗礼された流派ではないが、豊富な資金力での物量にものを言わせた優勢火力ドクトリンがある。

対して大洗女子は、戦車道を始めたばかりの素人集団 、保有戦車も五両と端から見れば敗北ムードが濃厚であった。

私は試合を政務室にこもりながら、さてはたしてどうなるかと仕事の合間に中継を見ていた。

彼女達が、戦車で奮戦するなか私は大量の書類の処理に追われた。

どれもこれも、統廃合の書類だ。

中にはよく今まで存続できたなと思うほどの貧乏校もあったが、案外そう言うとこはしぶとく生き残るようだ。

それだけで学校の特色ともいえる。生き残る術を熟知しているのだろう。


そんな事を考えていたら、試合に進展があった。

どうも始終ピンチであった大洗女子が、何か奇策に出たのか逆転したらしく

サンダースのフラッグ車との追いかけっこ状態となったらしい。

これは、大方の予想を裏切った試合展開であろう。

私の知る西住流とも違う戦いかただ。

それは状況を利用した、各々の出来ることをさせる自由な戦法

島田流と言う西住流と双璧をなすニンジャ戦術とも言われる流派があるが、噂の末娘のやり方はむしろそれだろう。

しかし大洗女子の流れが止まり、追い付いたサンダース本隊が現れる。

これで大洗女子も追われる形が出来上がった。

さて大洗女子は、一両を失い、また一両をと続けざまに狩られる。

サンダースには腕の良い砲撃主がいるようだ。どうする西住流。と、会場すべての人間が固唾を飲んで見守っているであろう。


そして、また変化が起きてからは、あまりにも早い展開であった。

一両の四号戦車が高台に移動を開始、それが正に西住流の末娘が駈る戦車であった。

サンダースの17ポンド砲を避け、高台に構えた四号戦車は見事逃走する敵フラッグ車を捉えると、一撃必殺の砲撃を放つ。

同時に17ポンド砲が吼えた。

両者直撃、白旗が上がった。

しかし相手はフラッグ車、即ちこの試合大洗女子の勝利であった。

会場が沸き立つのがテレビ越しでもわかる。それほどの試合だった。

一回戦で、ぽっと出の無名校が強豪サンダースを破ったのだ。


後日上司殿が、大洗女子は活躍しているね、と話しかけてきた。

私も予想外でした、と答える。

しかし、今後負ける事の方が可能性大きいだろう、自分は今後も事の成り行きを見守り、同時に統廃合の方も着実に進める。


大洗女子次の試合であるのだが、ノリと勢いに定評があるアンツィオ高校が決まる。

少し調べてみると、イタリア系の学校で、戦車もまたそれに準ずる。

その為余りサンダースの様な強豪とは言えないのだが

新しい隊長がノリと勢いだけの軍団をまとめ上げ、成績が一気に上がった。

条件反射だけの肉体に、やっと頭脳が出来上がったようだ。

実を言えば、ここも廃校の候補であった。

しかし資金の調達のため生徒が屋台などで稼ぐ、前述の通り戦車道での成績向上

これ等はある種学園艦の目的である生徒の自立に最も近い校風であり、彼女達は、統廃合の"と"の字も知らずこの事は見送られた。


してその注目の大洗女子対アンツィオなのであるが、生憎私は出張が入り、移動中ラジオで試合を聴く程度でしかなかった。

しかしながら、やはりノリと勢いのアンツィオ、音声のみ聴いただけでも、その勢いが伝わる試合運びであった。

しかし主力の殆どが機関銃が唯一の武装である豆戦車「CV33」と言う戦車の性能差は埋められず (大洗女子も強豪校と比べれば性能差は大きいが……)

何よりノリと勢いが裏目に出たガバガバの欺瞞作戦により試合展開は、始終大洗寄りとなり善戦するも敗北、大洗女子の勝利となった。

しかし試合自体は白熱し、お互いに満足の良く試合だったようだ。ラジオ中継で両隊長がお互いを讃え合っていると言っている。

アンツィオは、試合後必ず宴会を開くらしくその時の様子は、試合後発行された戦車道関係情報誌で見られた。



さて次の試合は西住流の末娘にとって因縁の相手となった。

優勝を逃し、西住流を追われる事となった試合、その相手プラウダ高校。

前回優勝校、言うまでもなく強豪である。

大洗女子にとっては、ここからが正念場、勝ちが続き慢心もしだす頃だろう。

その事も考えつつ、私は仕事を続ける。今回統廃合とは別件で面倒な仕事が舞い込んだ。

継続高校と言う、フィンランド系高校があるのだが、そこと各学園艦間の問題が起きたのである。

継続高校でも戦車道が盛んだが、継続高校は他校に比べ資金難の貧乏校である。

故に保有戦車もそう多くはないのだが、戦車が無ければ試合は出来ぬ。

ではどうするかと考えた継続高校は、正に戦中のフィンランドよろしく他校の戦車を手に入れると言う手段に出た。

そこまでモデル国家に似なくてもいいだろうに、と言いたい。



特に被害が大きいのは、奇しくも大洗女子と試合をするプラウダであった。

プラウダ所有の重戦車KV-1がその姿を忽然と消したのだ。

そしてその後、継続高校には、謎のKV-1がひっそりと増えた。

その事件が起きた時の前後プラウダは、継続と練習試合をしており

試合中も一部戦車のパーツ(砲撃で吹き飛んだジャンクパーツ等)が紛失したと報告がある。

状況的に継続の犯行なのだが、決定的証拠はなく

またこう言った他校の戦車を盗むと言うのは、幾つか前例がありその多くが最終的に"紛失"となる。

戦車道では、あんなデカイの盗まれる方が悪い、という事だろうか。

しかし継続の犯行は多岐にわたり

流石にいい加減にしろ

と苦情が戦車動連盟だけでなく、文科省にまで押し寄せ、戦車道連盟から強化委員であり自衛隊所属の蝶野一等陸尉

文科省からは出張ついでで私が継続へと出向き、厳重注意となった。




だが継続高校の隊長は、どこか達観した、あるいは掴み所のない人物で

受け答えは殆どもう一人の小柄な生徒が行い、彼女はフィンランドの楽器(カンテラ)をポロポロ引いているだけだった。

一応は話を聞いてはいたようだが、継続とプラウダ(+その他)のにらみ合いは続くだろう。

近くまた継続関連で問題が起きそうで、頭が痛くなった。

今日はここらへんで止めます。

書き溜めして時間ある時投稿、な感じになるので、のんびりやります。

たぶんそんな長くならないです。

それでは。


帰り際同行した蝶野陸尉から、大洗女子に呼ばれ少し指導をしたと言う話を聞かされる。

では大洗女子躍進に一役買ったわけですか、と言うと、彼女はケラケラと笑い、しかし彼女がいるなら私は必要なかったかもしれない、と西住流の名を上げた。

だが彼女は、真剣な眼差しに変わると、大洗女子廃校とは本当か、と聞いてきた。

生徒会長に聞いたのか、連盟の誰かから聞いたのか知らないが、しかしそれは事実だと告げる。

また、学園艦統廃合の話は、既に聞いているはず、国の方針です、そう付け加える。


撤回は無いのだろうか、と聞いてくる辺り、大洗に情が沸いたと言う事だろう。

だがただ情が沸いただけじゃなく、強化委員として彼女達の戦車道での成長性を見込んでの事と思う。

それは私とて理解できるが、しかし無名校が強豪校を破っただけではまだ弱い、撤回は無いだろう。

やはり優勝しかありませんな、と言えば蝶野陸尉はしばし黙り静かに頷いた。


大洗女子対プラウダ戦。

雪が吹雪く雪原での勝負、大洗女子にとっては不慣れな環境であり、対するプラウダにとってそれは得意なステージであった。

それを知っている西住流の末娘は、早々に決着を付けたいと考えていたようだ。

一面の雪原の白色は、ずっと見ていると感覚が狂い、慣れない道を進む大洗チーム。

今回から戦車が一両追加され、初の試合で不慣れなその車両をフォローしながらも、プラウダとぶつかり着実に撃破していく。

不利と思われた大洗女子の先制に会場が沸く。


そしてその盛り上がりの中、静かに成り行きを見守る者がいる。

一人は私自身、今回もまた出張ついでに試合会場に足を運んだ。

廃校撤回がかかった試合であるのだから、出張で試合を観戦しても可笑しくは無いだろう。

そしてもう二人、凛とした女性とその娘。

既に何度か私はあった事があり、戦車道をする者では知らぬものはいない西住流家元、西住しほ、そしてその娘にして黒森峰高校隊長西住まほ。

大洗チーム隊長、西住流の末娘、西住みほの母と姉である。


ご息女がご心配ですか?


二人に近づき、声をかける。姉の方は、私に少し驚いていたが、家元は微動だにせず至って冷静なままであった。


なにも、ただ娘に勘当を言いに来ただけです。


その言葉に今度は私の方も少し驚いた。

末娘の転校の原因である仲間を見捨てぬ姿勢、それによる勝利を逃した事で、西住家では確執が生まれた事は聞いている。

故に末娘は、追い出される形で、そして自ら望み家を出た。

そして大洗で新たに戦車道の隊長として指揮を取った。

しかし家元にとってそれは許されぬ事であった。

勝利こそすべて、それが西住流である。末娘の甘い考えでは西住流を名乗ることは許されない、ならばこそ、彼女は娘に勘当を言い渡す。

そのために家元はここに来た。

だが、それは私にはあまり関係の無い話である。

私にとって重要なのは、大洗女子が優勝するかしないかであって、その隊長が西住流であろうと島田流であろうと、ましてどの流派にも属さぬ我流であってもよいのだ。


勘当を言い渡すまでも無く、ここで負ければ大洗は廃校となり、今度こそ彼女は戦車道をする事は無いでしょう。

そのように言うが、やはり家元は無言であった。姉の方は、少し目を伏せていた。やはり妹に対し思うところが在るのだろう。


して、彼女は勝てますか?


そう問うと、家元は直ぐに答えた。


あれは、負けます。


家元の言葉を証明するかのように、大洗は窮地に陥った。

先制した勢いのままに大洗全車両が突撃を開始、隊長の制止空しく巧妙に用意されたプラウダの包囲網におびき寄せられた。

廃墟の町中央に集中し逃げ場を失った大洗チームは、何とか攻撃を凌ぎながら、中央の教会へと逃げ込んだ。

しばし砲撃が続いたが、不意にその攻撃が止む。

すると白旗を持ったプラウダ生が大洗チームに投降を呼びかけた。

完全な包囲網に加え寒さが厳しい環境、大洗の闘志を折る事が目的であった。

まんまと釣られ過ぎである。あえて勢い付かせ呼び込む相手の意図を読めず、チームを御し切れていない

家元の言葉は辛辣ながらも的を得ていた。

 これ以上は見る価値は無い。


家元が会場を去ろうとすると、姉が待ったをかけた。

 まだ終わっていません。

姉は試合を映す大型ディスプレイから目を離さず、投降か否か、座して大洗の答えを待った。

私もここで負けるのなら色々と手間は省けるので、それはそれで良い。

私もまた見守る。それを見て家元は、溜息をはき彼女もまた試合を見守るのであった。

以上、少し続きでした。

感想、ご指摘、アドバイス等ありがとうございます。
修正したものを投稿するか考えましたが、ご指摘箇所は修正しながら、後々再投稿するか、どこか別の所であげようとおもいます。

ついでにもうちょっと投稿


少し前、大洗チーム全体が慌しくなった。

中継映像にチラリと映ったのは、真剣な面持ちの生徒会長であった。

おそらくは、廃校の件を皆に伝えたのだろう。

大洗チームの大半が、今までもあまりに廃校など知らぬ様子だったため、不安にさせないためか言わなかった事は、容易に想像がつく。

急な事態に皆うろたえているが、しかし西住の末娘は、勝利のために進む決意をしたようだ。

 彼女は勝利を諦めませんな。

返るのは無言のみ。


大洗の戦いには、いつも驚かされる。

いやしかし、これは戦いであるのか?

けれども士気向上作戦と思えばそうなのだろう。

西住の末娘が、プラウダの用意した投降までの猶予時間で、寒さと不利な状況に参ってしまったチームの士気を挙げるため、突然奇天烈な踊りを踊りだした。

しかも、妙に切れもいい。

その様子も中継されており、巨大なディスプレイには、徐々に私も、あたしも、ならば自分もやろうと加わり踊りだした大洗ダンサーズが映し出された。


大洗名産のアンコウをモチーフにしたその踊りは、見事士気を挙げていた。

もうだめかと大洗を見守っていた観客達も笑いながらも少し拍手が起こっている。

では家元と言えば、顔を顰めていた。

姉の方はと言うと、一見冷静だが何をどう言えばいいのかわからないだけのようにも見える。

しかし結果は上々、大洗チームがプラウダにも投降はしないと伝え、そしてついに試合再開となった。


プラウダによる包囲網は、一箇所だけ緩いところがある。おそらくはそこへ誘い込む作戦だろう。

ほかの所は守備が硬いため、普通ならばそこを狙うだろう。

しかし大洗チーム隊長は、西住流を知り己が信念を持つが故に異端となった者

これまでも奇策を用いて来た彼女は、プラウダの隊長の予想を裏切り、教会から飛び出し緩い箇所を狙ったかと思うと、フラッグ車を護る形で守備の堅い箇所への突撃を仕掛けてきた。

何より驚いたのは、大洗女子でも射撃精度に難がありいかんせん戦車の性能を発揮できていなかった一両

38(t)軽戦車なのだが突然その動きがよくなり、大洗チーム包囲網脱出の切欠を作った。

あれは確か生徒会長が乗る車両であった。

最終的に撃破されたが、正確に車体を撃ち、履帯を破壊するその腕前はによる活躍は目覚しいものであった。


 彼女達は勝てますか?

一人ではない、チームという力。家元に少し意味を変えて聞いた。家元は走る四号戦車を見て答えた。

 勝つ意思を棄てぬならば。

それだけが返る、しかしそれは正に真理であった。


戦車数、錬度、状況はプラウダ優位である。

そのため大洗女子は、短期決戦を狙う。フラッグ車をあえて囮にし、追跡するプラウダの部隊を釘付けにする。

その隙に二両四号と三号突撃砲が離脱、プラウダフラッグを狙う作戦に出た。

大洗は38(t)が抜け残り五両、フラッグ車の八九式中戦車を他の車両が護る。

八九式は装甲が大洗チームの保有戦車の中で最も薄い、一撃貰えばお終いだ。

速度を緩める事無く走り抜ける八九式達、その一方四号達はプラウダのフラッグを発見した。

これでどちらが先にフラッグを刈るかとなる。


プラウダのIS-2に乗り換えたプラウダ副隊長、正確無比な射撃で八九式を護る二両がやられる。

残る八九式は、さながらラリーカーが走るかのように走る。

装甲の一部が飛び、バランスを失い、反撃する事も出来ない中でも八九式の熱い走りは、勝利への熱意があった。

そして、プラウダフラッグを追う四号と三号は、フラッグが廃墟を回っているだけに気がつき、それを逆手に取るべく三号を秘かに雪に隠し待伏せる。

雪の下に隠れた三号からの攻撃ならば、撃破は容易いだろう。しかし、大洗の八九式も限界が近い、ギリギリの状況だった。


機銃で誘導されたプラウダフラッグが三号のいる場所へ向かう。

そして八九式を追うIS-2の砲塔が八九式を捉えた。そして二つの砲撃音が重なる。

ほとんど同時だった。動きを止めるプラウダフラッグ、舞い上がる雪に隠れ姿の見えない八九式。

白旗は、どちらか。

ヨロヨロと装甲がさらに剥がれ落ち、煙を上げる八九式。しかし、白旗はない。

対してプラウダのフラッグ車、動きを止めたまま、白旗が挙がっていた。

大洗女子の勝利だった。

訂正:三号突撃砲は、きほん三突って略してましたね。しかもしほさんは、この時点ではまだ家元襲名してないか。


 勝ちましたな。

私がそう言うと、師範は顔を顰めたままだった。

 相手が油断したからよ。

師範はそう言うが、しかし私はそう思わない。

それは西住の姉も同じだったらしい。

この勝利は、仲間の力を信じたみほの勝利です。


めったに反論などしない長女の言葉に、師範は驚いた様子だった。しかしその通りだろう。

38(t)を犠牲にし、二両をフラッグの壁にしてでも勝つ執念は、それこそ西住流ではないのだろうか。

しかしそれは、勝利だけをみた西住流そのものではない、信じられる仲間だからこそ任せられる個々の信頼からなる戦いだ。

このまま議論は出来るが、しかし最もふさわしい末娘の戦いの正しさの証明の場は、すぐに訪れる。

大洗女子学園の勝利によりこの次、すなわち決勝戦での対戦相手黒森峰との闘いが決まる。

西住流同士との闘いにも思え、だが西住流を知り己を突き通そうとする者との闘い。末娘、西住みほにとっても、重要な闘いだ。


 叩き潰しなさい。

師範の言葉は母と思えぬものであり、西住流師範としての言葉であった。

そして姉はそれに応える。家族、姉妹、そんな関係を超越した闘いが始まるのだ。


いよいよ決戦が近づく中、大洗女子廃校撤回が濃厚になり官僚の一部が再び異議を唱えだした。

以前渋々ではあったが、戦車道発展のための布石であるとして、一応は納得した者もいたが、いざ撤回が近づくと面白くないとでも思ったのか。

ここでこの官僚達は、大洗廃校になぜ意固地になるのかがよくわからなくなる。

いや、大洗に固執しているというより、廃校に固執しているのか。

本人達は国の将来のためと思っているのかしらないが、一度決めた事を断固曲げず、自身が国の言葉とでも言うのか。

私もその官僚の一人、望んでこの世界に入ったのだから、我々の仕事の重要性は理解しており、簡単に言った事を曲げる事は難しいのもわかるが、しかしこれではただのわがままか、古臭い頑固者ではないか。

この件は依然協議して納得したはず、と言うと、いやしかし、けれども、と御託を並べる。

統合、廃校にすべき学校はきちんとそのようにしているのだから、よいではないか、それこそ、一度納得したのだからこれ以上異議を唱えないでほしい、と頼む。

ひとまずはそのようにして官僚達を落ち着かせる事ができたが、しかしこのまま大洗女子が優勝したとして、はたしてこの頑固者達達が納得するのか不安が残った。


そして運命の日、全国大会決勝戦。

舞台となった東富士演習場は活気に沸いていた。

この試合を見に来る者、立ち並ぶ屋台、多くの取材陣。

ここまでくると、大洗の隊長が西住流の末娘である事は、観客達も承知であり西住流体西住流の戦いを一目見ようと集まりこれまでで一番の盛況であった。


私も“視察”としてここに出向いた。

ある意味私や文科省にとっても運命の分かれ目であった。

観客席に行くのは少し不味いため、試合会場が見れる高台へ自家用車で足を運んだ。

私以外誰もいないと思っていたのだが先客がいた。



 先生、おられたのですか。

師範が一人佇んでいた。

師範はちらりと私を見ると、貴方ですか、とだけ言った。

たしかに娘達の対決、西住流の威信をかけたと言っていい試合、来ぬ通りは無いだろう。

娘が心配か、と聞くのは野暮だろう。



どうでもいいのだが、一応は観覧用の折り畳みの椅子を持ってきたが、師範が背筋を正し立っている横で私が座っていると言うのも如何なものか。

なので私は、強制されたわけでは無いが、立って観戦する事にした。

それと道中、野原でアンツィオの生徒と思われる者達が酔っぱらいの如く集団で寝ていたのだが、あれは何だったのか、帰りに確認をした方がいいかもしれない。


そうこうしている内に試合が始まる。

大洗にとって、泣いても笑ってもこれが最後だ。

両陣営の戦車が前進を開始した。

足並みを揃えて進む大洗陣営に対し、黒森峰は素早く移動し森の中へと突き進んでいった。

無鉄砲な突撃ではなく、先手必勝の攻撃、そのままフラッグを叩くつもりのようだ。

それは西住流の戦い方そのものだ。

黒森峰との接敵がまだ先と考えていた大洗は、予想外の速さで現れた黒森峰戦車隊に驚き、幾つかの車両は目に見えて慌てていた。

特に一両の三式中戦車、今回から参戦した様子で戦車の操縦がおぼつかない。

これは危ういなと思っていると、三式が急にバックしだした。

明らかな操縦ミスなのだが、意外な事に大洗フラッグである四号に迫りつつあった砲弾が割って入った三式に直撃、撃破されたのだが結果的にフラッグを助ける
結果になった。怪我の功名、不幸中の幸いか。


まず黒森峰から距離を取り状況を整えたい大洗は、得意の奇策を発動した。

幾つかの車両が煙幕を吹き出し、黒森峰から姿をくらます。

末娘らしい西住流らしからぬ作戦だ。

それを見た師範の表情は、言うまでもない。

大洗はこれもまた今回から参戦のポルシェティーガ―をワイヤーで引き、優位な高台へと素早く移動し陣地を形成した。

ただ一台38(t)を改造したヘッツァーが見えず、先ほど黒森峰の戦車が履帯を破壊されていたため、偵察か陽動目的に別行動をしているようだ。


上からの攻撃にさらされる事になった黒森峰は、何両かの車両が撃破される事になる。

これだけでも大きな戦果だろう。

しかし重戦車を保有する黒森峰はそれを壁にして大洗陣地へと迫る。

生半可な攻撃では倒れぬ重戦車が迫るなか、ここでヘッツァーが登場した。

小さな車体を活かし黒森峰の戦車をおちょくるように移動、それにより出来た隙をついて大洗戦車隊が坂道を勢いよく下り、さらに煙幕をたき文字通り黒森峰を

煙に巻いた。


途中黒森峰の車両にトラブルが起きるなどして、見事逃げ切るかに思えた大洗女子であったが、途中川を渡る事になり問題が起きる。

上流にポルシェティーガーを配置し軽い戦車を流されないようにしたようだが、M3中戦車に異常が発生し川の真ん中で立ち往生してしまった。

川の流れに負け態勢を崩しだすM3、おそらく隊長である彼女は、去年の全国大会での事を思い出しているだろう。

後方からは黒森峰の大群が迫る。M3を見捨てひとまずフラッグだけでも先行させるのが定石どおりかもしれない。

しかし、それは西住みほの戦いでは無いだろう。


ふいに四号から末娘が出てくる。

体には、ワイヤーを巻き付け、なんと“義経の八艘飛び”さながらに戦車から戦車へと飛び移るではないか。

そう、M3の仲間を助けるために、敗北の危険を冒してまで。


何度も思う、私は大洗に廃校を告げそれを進める身として彼女達を応援する事は出来ない。

だが、だがしかし、この姿に何も感じないわけがない。

観客達の熱い声援がここまでも聞こえてくる。

 彼女は、西住流ではありませんな。
 しかし……あるいは、そうであるからこそ彼女はここまで戦えたのでしょう。

師範は答えない。しかしその瞳に、娘を否定する以外のものが込められているのを私は見た。


ついにM3へと飛び移った末娘は、M3の搭乗者達と協力しワイヤーを巻き付け、そして無事他の戦車と共に川を脱出した。

以前黒森峰は迫るが、途中石橋を大洗チームが渡るときに、ポルシェティーガーがその重量を利用し石橋を崩しながら渡る。

結果黒森峰は、遠回りを強いられ大幅に両チームは距離を離した。

だが市街エリアへと進んだ大洗女子であるが、黒森峰の脅威は、すでに市街へと及んでいた。

市街エリアで黒森峰の三号を一両発見した大洗チームは、撃破しようと追いかけるが、建物の間から現れた巨大な影に行く手を阻まれる。

重量およそ188t、戦車と言うにはあまりに巨大なそれはかつてドイツが開発した怪物、超重戦車マウスであった。


デカい上に強いを体現したような存在で生半可な攻撃は通らず、強力な128mm砲は必殺と言えよう。

突然の巨大な存在の出現に浮足立つ大洗チーム、たまらず攻撃したルノーが吹き飛ばされ、その仇討ちとばかりに攻撃した三突であったが

砲弾はむなしく弾かれ反撃の一撃でこれもまた吹き飛ばされた。

四方八方から撃ち続ければ、マウスとて何時か沈むが、だが黒森峰本隊が迫る中マウスに時間を取られるわけにいかない。

最悪無視でもするのだろうが、やはりこの西住流の異端児、西住みほは違う。


改めて隊列を整えた大洗チームは、マウスを迎え撃った。

まずヘッツァーが突撃していくが、果たして何が目的か測りかねたのだが、なんとヘッツァーはマウスの下に潜り込むように突っ込み

なお履帯を回転させその巨大な体を持ち上げた。

まるで相撲で巨体の外国人力士を持ち上げる小柄な力士だ。

さらにヘッツァーを踏み台にして八九式が続けて突撃、マウスの砲塔をブロックして、M3達が陽動

その隙に四号が坂を上がり頭上からウィークポイントを砲撃した。

さしものマウスも弱点を突かれ、ついに白旗を上げる。

怪物の討伐に歓声が上がった。

黒森峰のマウスは、今までの試合で幾度か投入されたが撃破された記録は稀有であり、真正面からの打ち合いでの撃破など異例だったろう。

しかし大洗はマウス撃破の引き換えにヘッツァーを失う事になった。

生徒会長が顔を出し、四号に乗る末娘に声をかける。後を託したのだろう。


マウスを失ったが依然として黒森峰の戦車は大洗を上回っている。

正面から戦えば敗北は必至だろう。

故に大洗はフラッグ同士での一対一の対決を望んだ。

残った戦力を使い、上手く黒森峰戦車を誘導し、廃墟となった学校エリアへ黒森峰フラッグを誘い出し状況を作り上げた。

唯一の出入り口をポルシェティーガーが巧みに塞ぎ、車体を斜めに止め傾斜装甲とし鉄壁の守りとなった。

しかし何時かは撃破されるだろう、それまでに大洗はフラッグを倒す必要がある。

最早策も何もない、それぞれの実力が頼りとなる正に最終局面であった。


黒森峰戦車隊はフラッグを助けんとポルシェティーガーに砲撃を続けるが、ポルシェティーガーも一歩たりとも引かず反撃し粘り続ける。

八九式は火力こそ無いが三両ほどの戦車を引き付け、M3は入り組んだ住宅街を利用した戦いをしかけ、最終的に撃破されながらも二両を撃破する活躍だった。

その間フラッグ同士の戦いは苛烈を極めていた。

常に必殺となりえる一撃を互いに撃ち、ギリギリでかわし続ける。

確実に倒せる機会を伺う状況で、ついに八九式とポルシェティーガーがやられる。

のこる大洗戦車はフラッグ、四号のみとなる。

黒森峰戦車がポルシェティーガーで塞がれている出入り口を無理やり侵入しだし、それを知ったのか、ついに四号が勝負に出た。

学校広間に出た両フラッグ。

Ⅳ号は黒森峰フラッグⅥ号戦車に対し一度砲撃をしてから急速に円の動きで回り込んでいく。

戦車で行うにはあまりに無理な動きに、ついにⅣ号の履帯は千切れ飛ぶが、それでも尚Ⅳ号は動く。

執念で動くかのようなⅣ号はⅥ号の後ろをとる。

同じく砲塔を後ろへと回していたⅥ号とⅣ号の砲塔が向き合い、同時に砲撃音が響き二両の戦車は、黒煙に飲まれた。


だれもが、その煙が晴れるのを待った。

観客達、大洗から来た生徒、家族、ライバル校、大洗と黒森峰の選手達、そして私と師範。

徐々に晴れる煙り、車体が見え出した。お互いにボロボロの戦車、そして白旗が見えた。

 大洗女子学園の勝利!!

審判を務める蝶野一等陸尉が高らかに叫んだ。白旗が上がったのは、Ⅵ号であった。


ドッと波が押し寄せるように歓声が上がった。

私も張り詰めた緊張が解け、ホッと息をついた。

直ぐに車両は回収され、優勝旗の授与が行われる。

その前に優勝の立役者である西住みほの元へ集るチームメイト、それぞれが隊長を讃え労り喜んだ。

 大洗が勝ちましたな。

私が師範へ話しかけると、彼女は一度ため息をはいたが、どこか納得した様子でただ一言。

 そうね。

と、だけ答えた。

大洗の優勝により、私はこれからやる事が増えたので早々に立ち去る事にする。

失礼します、と一言つげて、私は車に乗りこむ。

立ち去る時、小さな拍手が聞こえたのは気のせいではないだろう。

なお、帰り際アンツィオ生達を起こして来たが、彼女達は大洗の応援に夜明け前にきて飲み食いをして騒ぎ疲れてしまい寝ていたようだ。

およそ未成年に相応しくない見た目の瓶がそこ等に転がっていたが、いやしかし、ノンアルコールであったので一応は良しとする。

しかし、滅多に人が来ない場所であるが、こんな所で若い女子達が一夜を明かすものじゃないと注意して、一応君達アンツィオも統廃合候補だったので

問題を起こしてはいけないよと告げると、隊長の娘が何度も頭を下げていた。


ひとまず、大洗を中心とした問題は一旦落ち着き、これからまた他の学園艦統廃合を進める仕事に取り掛かるかと、その時の私はどこか楽観的であったのだ。

テレビ版の話が終わりましたが、引き続き劇場版に入ります。

どうでもいいですが、全国決勝最後の戦いでの戦法を私は「呆れるほどに有効な戦術」と勝手に認識してます。

更にどうでもいいですが、劇場版は遊園地で玉田が敵車両撃破した時に見せた細見の「わーい!」が大変可愛い。

とても、可愛い。


大洗女子学園の劇的な全国大会優勝、日本中が彼女達を祝福し、健闘を讃えた。

直接大洗女子と試合をしなかった者達もまた、何時か君達と試合をしたいと言った。

そして私、統廃合を任された役人も、細やかにそれを祝した。

以前交わした約束、大洗女子学園の廃校撤回、どうやらそれを守る時が来たらしい。

大洗女子が優勝した後、一度あの生徒会長から連絡があった。

勿論約束の件だ。

約束通り優勝しました、と自慢げに、そして自信を込めて話す彼女の表情は、電話越しでもよくわかる。

私も祝いの言葉を告げ、おって連絡すると言った。

この時、私は甘かったのだろう。

無名高校の奇跡的優勝、話題性も充分だった。しかし、それを快く思わない者が大勢居ることを

何より彼らは、私以上に頭が固いと言うことを私は忘れていたのだ。


 廃校の撤回はない、大洗女子学園は8月付けで廃校が決定した。

統廃合に関する会議で告げられた言葉。私は暫し唖然とした。

言っている意味がよく分からない、と言葉を捻り出すと、役人の一人が私を睨みながら理由を話す。

 大洗女子学園の廃校は既に決定していた事であり、それを今更撤回する事は出来ない。


それはわかっている。私が知りたかったのは、その理由なのだ。大洗女子の生徒会長とも約束をした 。私は、もう一度問う。

 文科省局長とは言え、君一人と一介の生徒会長との口約束で、国の方針を変えるわけにはいかないのだ。

しかし私は、再度問う。

 しかしながら、口約束と言えど法令で決まった契約です。確かに私の独断ではありましたが、皆様もあの後納得していただいたはず。

 彼女達にもチャンスは必要です。そのために困難な道を用意しました。それを彼女達はやりとげた。
 
 にも拘らず、議論なく廃校の撤回は無し、しかも時期の繰り上げまでとは如何したことか。


役人の一人が答える。

 議論はした。しかしやはり廃校しかないだろう。
 
 今回の優勝とてまぐれの可能性がある。これがまかり通れば、他の学部も異議を唱え廃校の撤回を求め出す。
 
 前例を作るべきではないのだ。時期の繰り上げも、長引かせても逆に可哀想だと言う仏心だよ。

いや、しかし、私は今一度問う。

 私とて統廃合の事を任された身、おいそれと撤回出来ないのは存じています。

 だが先程申したように、だからこそ全国大会優勝だったのです。

 我々は今戦車道に力を入れる為にこのような活動をしています。

 事実無駄があれば省き廃校にするのも通りでしょう、しかし彼女達の頑張りは無駄ではないはずです。

 そして彼女達の活躍は、プロリーグの設立と世界大会誘致でも大いに役立ちます。
 
 ここで廃校にしては、戦車道に力を入れる国の方針に不信感を与える事になり、世論も厳しくなります。

それに、と続けようとした所で、上司殿から制止がかかる。

上司殿以外の役人全てが私を睨む。



 君は大洗女子に入れ込みすぎだ。それこそ、仕事に支障をきたすほど。
 
 本来なら直ぐに辞めてもらうところだが、しかし君は優秀だ。少し頭を冷やしておきなさい。

その日の会議はそれで終了、私は呆然としたまま会議室の椅子に倒れるように座り、天井をを見上げた。


 すまん、止められなかった。

上司殿が申し訳なさそうに頭を下げた。

いや違う、貴方は悪くない。悪いのは、見通しの甘かった自分だ。

しかしこのままでいいのか?自問自答する。

あの大洗女子学園を廃校にしてよいのか、あの生徒会長との約束を破り、そのままで。


……いや、そんなわけはない。

それだけはあってはならない、絶対に。

そして、認めよう、私は大洗女子学園に確かに入れ込んでいるようだ。

しかし、あの学園には、存続に値する価値がある。


 上司殿、私は戦車道が好きなのです。

ふいに言った言葉に、上司殿は笑った。

 君の思う通りにしなさい。
 
 君は間違ってない。



私は礼を言うと、急ぎ局長室へと向かう。

最終的にどうなるかは分からない、しかし私は、見たいのだ。

大洗女子学園の活躍を、戦車道の発展とその先を。

だが一先ずは、私は役人でなければならない。

後日私は、大洗へと向かった。

大洗女子学園の優勝に湧き開催されたエキシヴィジョン開催のその日、廃校を告げるために。

いったん止め。

悪い役人の方がいい人には、ちと向かない内容になってまいりました。

上司殿は、直接の上司と言うより、役人より結構えらく恩師に当たる人として描いてます。

デレマス(アニメ)での武内Pと部長みたいな感じ。


エキシヴィジョンの盛り上がりは、まるで決勝の時のようだった。

大洗市街戦とあって、大洗中の人々が大洗千波単連合対聖グロリアーナプラウダ連合の戦いを見物しに来ていた。

大洗のマスコットであるゆるキャラアライッぺまで来ていたのだから、大洗を巻き込んでの催しである。


今回、ここに訪れた理由が理由だけに、私はあまり人に交じり試合を見る気にはならなかった。

人のいない所を探し、離れてみようと思ったのだが、どこからか覚えのあるカンテレの音色が聞こえてきた。

音色につられて行ってみると、案の定継続高校の隊長等がいた。


 まさか、また車両を狙ってるわけじゃあるまいね。

フィンランドの架線点検車両に乗る継続隊長と隊員に声をかけた。

小柄な隊員、銀髪の方の子が酷く慌てるが、隊長と赤毛の隊員の方は特に反応は無かった。

流石に厳重注意を受けそう経っていないので、さすがにやましい事は無いだろう。

銀髪が言うには、エキシヴィジョンに誘われたが隊長が辞退したので試合だけを見に来たとの事、それならば特に問題もないので、しかし馬鹿な真似はしてはいけないよ、と一応は注意しておく。


 貴方も風に呼ばれたのかい?

継続隊長お得意の禅問答の様な問が来た。

さて、別に私は風に呼ばれたつもりもないが、しかし、目的あって大洗に来たのだ。

大洗に呼ばれたのかもしれない。

かもしれないね、とだけ言って、私は特に試合を見ずその場を後にした。

特に別れの言葉はなく、カンテレの音色が聞こえてきた。


既に大洗関係者一部には、廃校による乗員退艦を知らせている。

停泊する学園艦の周りには、運送業者のトラックがズラリと並んでいた。

いつでも荷物を運ぶ準備は出来ているようだ。

エキシビションは既に終了しており、参加校の面々は聞いたところによると「潮騒の湯」で湯に浸かり試合の疲れを癒しているようだ。

私は先に学園へ赴き、町の放送で生徒会長を急ぎ大洗女子学園の生徒会室へ呼び出してもらった。


 大洗女子学園の廃校が8月付で決定しました。

私の言葉を聞いた彼女は、官僚達に同様の事を告げられた時の私の様な様子だった。

 それは、約束を反故にすると言う事でしょうか。

いたって冷静なのは流石と言えよう。

それでも視線は酷く鋭くなっているが。

 と言うよりは、全国大会優勝を踏まえて再度検討した結果、と言う事です。


既に決定され、学園艦からの退艦作業準備が出来ている事からいかに切れ者の生徒会室でも直ぐに反論する事が出来ないようだった。

ともかくこのまま事は進めねばならない。

 廃校にあたり、むろん戦車道のチームも解体、保有戦車は文科省の預かりになる。

ある意味これが彼女にとって最もショックだったろう。

今や彼女達にとって戦車とは、廃校を免れるための道具ではなく、ともに戦い抜いた相棒なのだから。


 ともかく、今は受け入れてくれたまえ。

 今私と君がどれほど議論を重ねようと、これは覆らない。

 血の気が多い生徒には、下手な事をしないように言っておきなさい、場合によっては、陸上での再就職先斡旋に影響が出る。



 それは……人質と言う事ですか?



 ……脅しと受け取ってくれてかまわないよ、自覚はある。

 君の気持ちも理解しているつもりだ。


彼女は納得いかぬと言う思いが表情にありありと出ていた。

しかし生徒のみならず、その家族を人質とされてはこれ以上何も言えない。

静寂が続いた。既に校門には業者によって【KEEP OUT】の帯が張られ、関係者以外の侵入を防がれた。

日も沈み、そろそろ他の生徒が帰ってくるだろう。

ともかくは、彼女達には学園艦を降りてもらわねばならない。

生徒への説明は、生徒会長に任せ私は自分の仕事に取り掛かった。

業者への説明もしなければならない、しばし、今はしばしこの学園艦は大洗を遠く離れねばならないのだ。


おそらく大洗の生徒、特に戦車道チームの娘達は悲観に暮れるだろう、だがきっとあの生徒会長。

覆る事のなかった廃校の決定を聞かされてもなお、折れぬ意志を見せていた彼女はきっと来るだろうと私は確信していた。

そして、それを証明するかのように文科省に受け渡されるはずだった戦車達は一夜にして“紛失”、どこかへと姿を消した。

また大洗女子学園が大洗港から去り、解体へのタイムリミットが始まる中、ついに彼女は私の元へと訪れた。


 来ると思ったよ。来なければ、どうしようかとも思った。

その言葉は彼女にとっても意外だったのか、私の意志を図りかねているようだった。

 まさか物見遊山でこんな所へ来たわけじゃないだろう。要件を聞こう。


彼女は今回の廃校撤回を反故にされた件について、まとめて来た考えを述べた。

交された約束は「廃校の撤回」であり「検討」ではなかったはずである事、口約束も法令として約束として認められる事

就職の斡旋をしない等の恐喝とも取れる強要等を上げ、今回の廃校は不当だと言う意思表明である。


 君の意見が間違っているとは言えない、しかし約束の時の内容が文書になっていないため、官僚全てを納得させる事は出来ない。

 それに関しては理解してほしい。


 しかし、それでは……。


生徒会長は言いよどむが、おそらく次の一手を考えているのだろう。

そろそろ、彼女一人では限界があるかも知れない。


 何であれ、君一人では発言力が無い。

 大洗女子学園の生徒会長と言え、国の決定を覆すのであれば、相応の人物も必要となる。

 君に、頼れる人物が居るのならば、だがね。


私の言葉を聞いた彼女は、思い当たる人物が浮かんだのか、それとも既にあたりを付けていたのか、しかしそれを教えるかのような私の発言にも驚いていた。


 何を呆けているのかね?

 今日は一度戻り給え、私はしばらく出張もない、言いたい事があれば、いつでも来なさい。


そう言うと、彼女は頭を下げその場を去った。

おそらく、彼女は今の我々にとって無下に出来ない人物を連れてくるであろう。

そのような人物は、この日本ではそう多くはない、予想通りの人物が来るのであればあれば、あとはどうとでもなる。

仕事をしながら待つのみだ。


そして後日、予想通りの人物を引き連れ、彼女は私の所へと舞い戻った。

 決勝以来ですね、先生。

私の前には、生徒会長と蝶野一等陸尉、戦車道連盟理事長、そして西住流“家元”西住しほが並んでいた。

 ひとまずは、家本襲名、おめでとうございます。


過日、正式に西住流の家元となった師範であったが、私の祝辞には一切の興味は無いようだった。

まあ、それも当然だろう、挨拶もそこそこに、家本は厳しい言葉を述べる。

若手の育成無くしてプロ選手の育成なし、国の掲げるスポーツ理念とも矛盾する決定に疑問を持たぬわけにいかぬ。

であればプロリーグ設置委員会の委員長を自身が務めるのは難しい、と。

これはプロリーグ設置だけでなく、それによって世界大会誘致を狙う国としても痛い話である。

はたして彼女以上に委員長に相応しい人物が居るかと問われると、数えるほどしかおらず

ましてそれぞれが既にプロリーグや世界大会での様々な役職についており、兼任は難しい。

また世論も国を批判している。

多くの記事に「裏切られた大洗女子学園」と言った見出しが並んでいる。


 しかりですな。

 しかし、私を納得させても他を納得させぬ事には、決定は変わりません。


ならば、他の官僚を納得させる事は何か、全国大会優勝以上のインパクトは何であろうか。

到底彼女達には無理だと思うような、さらに困難な試練とは何であるのか。

思い出されるのは、官僚の一人が言った言葉


 “今回の優勝とてまぐれの可能性がある”


で、あるならば……。


 先生、一つ聞かせてください。

 戦車道に、まぐれなどありませんよね?


家元は力を籠め即答した。


 戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみ。


その言葉に異議を唱える者は、誰一人いなかった。


そして後日、大洗女子学園と大学選抜チームとの試合が決まる。

今まで以上に、想像以上の困難を私は用意した。

到底彼女達では勝てない内容、対戦相手、他の官僚も今度ばかりは納得させた。

最早高校生では勝てないような条件まで盛り込んだ内容に、流石にこれは大洗は勝てまいと思ったのか、以前よりあっさりと私の進言は通った。

しかし万が一大洗が勝った場合、多くを巻き込んだ相応の責任を取るべきだと言われる。

だがそれは承知である。上司殿が心配そうにするが、私は構わない、あとは、全ては大洗女子学園次第だ。

いったん、ここまで

自分で書いてて、この役人が、元の七三眼鏡の役人の姿と一致しなくなる罠。まあこいつも七三眼鏡ですがね。

きっとパラレルワールドなんでしょう。まあそうか。

そしてふと思う。ガルパンとエクスカイザーをクロスさせると面白いのではないか、と。

関係のない息抜き小話


世界各地で謎の勢力による悪事が働かれる中、自動車部の所有する自動車に宇宙から現れた勇者が融合した。

「私は宇宙警察カイザーズのリーダーエクスカイザー」

「私達の車が喋ったっ!?」

驚くレオポンチームに、地球で悪事を働く存在を教え、そいつらを懲らしめるために現れた事をエクスカイザーは告げた。

「これまでの悪事、このエクスカイザーが許さん!」


冒険!戦闘!!そしてピンチ!!!

そして、集う仲間っ!!



「なんだあの巨大なSLはっ!?」

「大洗の、世界の興廃この一戦にあり!!」

知波単所有のSLが空を飛び、西が搭乗する人型ロボと合体する!!

「銀の翼に 希望を乗せて、灯せ平和の青信号! 勇者特急マイトガイン! 定刻通りに只今到着!」

今、二大勇者が日本と、世界の平和のために戦う!!


と、言うのを読みたいなぁ!!

決戦の地、北の大地を踏みしめる。

これは私にとっても大きな戦いなのだ。

今度ばかりは会場の関係者席で戦車道連盟理事長と並んで観戦する。

家元は別席での観戦を望んだ。


 勝てますかなぁ、大洗は。


理事長が自信なさげに問いかける。

この理事長は、見た目のわりに気弱なところがある。

彼は明らかに大洗寄りの立場であり、心の底から大洗の勝利を望んでいる。

それゆえ、今回の試合条件、プロリーグでの試合形式にのっとた「殲滅戦」には反対していた。

大学選抜30両に対し大洗は8両、その戦力差はあまりにデカく、そして……。


 しかし、これほどの差を付けねば、結果しか見ぬ官僚が納得いたしません。

 最早まぐれも偶然も有りはしないと思わせる試合で勝ってもらわねばならぬのです。

 それに、そちらにも幾つか申請が来たようですが?


理事長はドキリと冷や汗を流して私を見た。


 心配しなくても何もしていませんよ、寧ろルール上問題がないなら何してもいいのが戦車道の一つの顔です。

 それに、それを咎めてはこの為に“あれ”を認可した私の方に問題がありましょう。


大洗の強さとは、何であろうか。

聖グロリアーナの様な伝統と優雅さは無い、サンダースの様な豊富な資金力と物量は無く、アンツィオの様なノリと勢いとは違い

プラウダの様に包囲持久戦が得意でもない、ならば黒森峰の様な西住流を掲げた電撃戦をとる事は無い。

ひとえに、彼女達の強さとは。




 待 っ た ー っ !



会場に響く少女の叫び。

試合開始の挨拶を始めようとしていた中での“ちょっと待った!!”をかけたのは、遠くから現れた黒森峰の戦車隊であった。

戦車から現れるのは、黒森峰隊長西住みほ、副隊長逸見エリカ両名。

戦車道連盟から許可を得た短期転校による試合参戦を表明した。

そしてこの会場へと集う戦車部隊は彼女達ではない

次々現れるのはサンダース、プラウダ、聖グロリアーナ、アンツィオ、継続、知波単の合計7校の戦車道チームが“転校”し、大洗のために集ったのだ。

そうだ、これこそが、大洗の強さなのだ。

戦術でも、戦車の強さでも、流派でもない、戦いを経て紡がれた敵味方を超えた絆による強さだ。



 あまりに、漫画ですね。


少年漫画の様な展開に笑ってしまうが、理事長がニコニコと私を見ている。


 そう言いつつも、楽しそうですなぁ。


そう言われると、まあそうなのだが、しかし認めるのも気恥ずかしいので、軽く咳払いをして誤魔化す。

誤魔化せてもないだろうが。

しかしこれで部隊は整った。

戦力差も大きく埋まり、高校生とは言え、彼女達は高校戦車道チームの中でも実力者揃いだ。

実質高校選抜対大学選抜の戦いとなったと言えるこの試合、いよいよ結末の見えぬ試合となる。

賽は投げられ、戦車は進む。

少しだけ投稿。

確かにダグオンはクロスしやすそう。

ボコの中の人(スーツアクター)の話と、ガルパン×Gガンダムの短編やりたい。

これ終わったら書いてみたい、と言う決意。


他にも誤字脱字がありあますが、とりあえずこの状態で進めていきます。

「部隊は整った」は「舞台は整った」のつもりでしたが、しかし意味は通じるので面白い誤字だ。


まず大学選抜にとって大洗連合攻略の鍵は、急増による混合チームの動きを正確に把握する事だろう。

それぞれの隊員と戦車に統一性はなく、規則性もない。

また高校生だからと言う慢心を生まぬ事だ。

彼女達とて、社会人チームを倒したと持て囃されていた、逆もありえるのだ。


逆に今回の主役、大洗連合の勝利の鍵は何か。

こちらもまた、急増チームという存在が大きいだろう。

西住みほは、それぞれの高校の特色と隊長隊員達の特徴をよく把握してはいるだろうが、いざそれらを指揮するとなればまた別の話。

更に援軍とは言うが、エキシヴィジョンでともに連合を組んだ知波単は、堪え性の無い猪の武者ばかりであり知波単を上手く御する事が出来るかは難しい。

それゆえ、彼女が各校隊長を頼りにして、なにより実の姉との連携を取ろうとするのは、当然の事であった。


試合はまず、目立つ小山を取る事から始まった。

両陣営が挟む様にして中央には、小高い山がありそこを取れば、大洗対黒森峰序盤の時の様に優位に立てる。

しかし大学選抜は、さほど山への執着は無い様子であり、大洗連合の進軍の様子見で済ませ相手に丘を取らせた。

通常はこれで山頂からの攻撃が可能になり、大洗が優位になるのだが、しかし大学選抜にはあの“マウス”以上の怪物がいるのを、大洗連合は知らない。


山頂を取った大洗は、進撃する大学選抜の猛威に苦戦する別働隊を援護するため、黒森峰重戦車での砲撃を行おうとした。

その直前、怪物が吼える。ただならぬ轟音を鳴らし、その音は、誰もがただの砲撃では無いと察するには十分であった。

そして、その怪物の雄叫びは、山頂を陣取った大洗チームへと襲い掛かる。

頭上から降ったのは、戦車が撃つような“豆粒”ではない、それは1トンクラスのベトン弾

そしてそれを撃ち出せる本来要塞攻略兵器として生み出された怪物、カール自走臼砲。

その威力は正に脅威、山頂の形を崩すほどの砲撃は、大きく土煙を巻き上げた。

そして続けざまに撃たれた一発、轟音を聞き動きが止まった大洗チームへと降ったそれは、大きな衝撃を発しながら黒森峰重戦車2両をあっけなく撃破した。


 恐ろしい……しかし、オープントップのあれを認可する必要はあったのでしょうか。


理事長がカールの脅威に震えながら聞く。

カールは通常戦車道での(すくなくとも)公式試合には、出場は不可である。

通常の戦車のように、車内での弾薬装填等ができないオープントップであるからだ。

しかし一応は自走砲である事からサンダースはじめ幾つかの戦車道チームからは

カール自走臼砲(あるいはドーラのような列車砲)の試合での使用申請が着ていた。

オープントップである問題は、改造により内部からの操作を可能にし、装填もモーターを装着して行うようにして解決

しかして、今回の戦いに導入された。

自動化された装填システムは、通常のカールよりも連射が早く、その脅威を増している。


理事長が言うように、この怪物を今回の戦いに導入するか否か、正直ギリギリまで申請を認可させるか悩んでいた。

大学選抜側には使用許可が出た場合導入するようには伝えていたが、この存在はあまりにも大きい。

しかし、一目でその強さ、恐ろしさがわかるカールは、他の官僚へのアピールになる。

彼らが今回の件を納得したのも、やはりカールが決めてだった。

そもそも撃破は不可能だと思われ、であれば殲滅戦での大洗女子の勝利は無いと踏んだのだ。


生徒会長には、この事は教えていない。

あの日、生徒会長はじめ家元、蝶野一等陸尉、理事長が集まった時

私は官僚全てに大洗の強さを見せ付けるため、戦車道にまぐれなど存在しないと教えるため、これまでにない困難を用意するとだけ伝えた。

今頃彼女は私を恨んでいるかもしれない、舌打ちの一つや二つしているだろう。

しかしこの戦いは、殲滅戦である。

大洗は如何なる手段を用いてもあのカールと言う怪物を倒さねばならないのだ。


大学選抜の経験に裏打ちされた連携、そして超兵器カール。

大洗女子の苦戦は目に見えて明らかだった。

敵に包囲されつつあり、カールの脅威がある中山頂からの退避を余儀なくされた大洗の中隊

逃亡の中プラウダの3両が1両の隊長機であるT-34を守るために犠牲となった。

しかしそれでもなお、敵車両を撃破するのは流石である。

KV-2もまた、異名「街道上の怪物」の名を改めて知らしめる活躍だった。


今後大学選抜本隊と戦うとしても、カールを倒す必要が出てきた大洗女子は、さらに別働隊を結成した。

アンツィオのCV33を軸とした小隊は、ヘッツァー、八九式、BT-42のように小回りの利く戦車で構成され、姿を巧みにくらましてカールのいる場所を探る。

どこか、どこかとカールを探る小隊は、はたしてカールの姿を見つけ出した。


アンツィオのCV33と比べれば、まさに巨人と子人だ。

この小隊での撃破はまず不可能と思われた。

しかし、彼女達はあの西住流でも異端児にして常識破りの西住みほの元で戦い抜いた者達だ。

大洗の生徒とは、つねに驚きの発想で戦っていた。

ここからが真の大洗女子学園の戦い方が始まった。


カールを守るのは、3両のパーシング。

カール撃破に集中するには、その3両のパーシングを引き付ける必要がある。

そこで自分に任せろと言わんばかりにエンジンの唸りを上げて飛び出してきたのは、継続のBT-42であった。

およそ戦車と思えぬ機動で飛び出したBT-42は、着地後すぐさま一両のパーシングを撃破、そのまま逃げると残り2両のパーシングも継続を追った。

カールの守りに開いた穴をつけと、続いて現れた八九式はなんとCV33を背負っていた。

幾ら豆戦車とは言え、よくやるものだ。

思えば、この八九式とヘッツァーの組み合わせは、黒森峰戦でのマウス撃破の立役者だ。

巨人狩りはお手の物なのかもしれない。

カールは低速ながらも急ぎ旋回、迫る小さな戦車団を迎え撃つ。

あんな巨大な砲塔が自分の方を向いていると思うとゾッとする。


カールが一撃を放つが、八九式には当たらず後方に着弾し土煙を巻き上げ、橋の一部を崩落させた。

崩落する橋の下をBTが駆け抜ける。

後を追うパーシング一両が間に合わず、崩落した瓦礫に足止めされ、最後は砲身を瓦礫に折られてしまった。

あと1両となったパーシングであったが、しかしパーシングが狙ったか偶然かBT-42と接触

体当たりを受けたBT-42は、態勢を崩しして浅い崖へと転がり落ちた。


カールのいる場所と八九式が走る橋は、先ほどの攻撃とは別に既に途中で崩壊している。

どうやってカールのところへ行くかと思うが、CV33を背負っている時点で予想はつく。

案の定八九式は、ギリギリで急停車して、その反動でCV33は空を舞う。

大洗らしいといえばらしいのだが、しかし悲しいかなCV33の装備は8mmのみ

マズルを狙ったが到底カールに通用するわけもなく、最後はコテンと仰向けに落下した。

正直CV33を飛ばしたところでどうにもならないのだが、けれど失敗したらしたでどうにかするのがあの生徒会長だ。


転がり落ちたBT-42は、履帯が千切れ跳んでいた。

しかし偉大なるクリスティー式の申し子BT-42は、履帯がなくとも死なない。

エンジンの唸りをあげて、装輪走行で見事復活を果たす。


転がったCV33はそのまま履帯を回転しだす。

撤退する八九式と入れ替わるように進むのは生徒会チームのヘッツァーだ。

ヘッツァーは勢いのままにCV33へと突撃、履帯の勢いも利用して今度はヘッツァーが宙を舞った。

よく戦車が跳ぶ試合である。

しかしこんどは8mm機銃と違う威力、見事カール砲塔内部への砲撃を成功、カールは内部で砲弾が爆発し、白旗が上がった。


装輪走行でパーシングを翻弄する継続であるが、BT-42が榴弾砲塔であるため、ある程度の至近距離でないとパーシングにダメージは与えられない

確実に倒せる場所に確実に当てるためギリギリの走りを見せ、パーシングとすれ違うこれ以上無いと言う位置と距離になった瞬間に砲撃

パーシングは白旗をあげ、BT-42も転輪が吹っ飛び、地面にめり込んで行動不能となるが、しかし継続はその役割を果たしたのであった。

少し更新でした。

今更ながら、役人視点だとあの人は後半会場で座ってるぐらいなので、動きのない話になる。

生存報告。

見てくれている方には、もうしわけない、のこり話も少しなのに投稿は少し後になります。

今月中には終わらせたいです。


継続、プラウダ、黒森峰、知波単の車両が撃破されるも、同様に相手の戦力も大きく削れた大洗女子、特にカール撃破の戦果は大きい。

遠距離からの攻撃を削いだ大洗女子は、そのまま部隊を合流させ、遊園地跡地へと向かっていった。


寂れに寂れ、人も寄り付かなくなった遊園地跡地であるが、ある程度の様相は保っていた。

観覧車にジェットコースター等少なくとも、ここは遊園地だったのだとわかる。

入り組んだ園内に展開する大洗女子、相手に攻め込まれた場合逃げ場はない、けれど彼女達の戦いといえば、常に逃げ場のない崖っぷちだった。

むしろやりやすいかもしれない。


対し大洗女子を追って猛進する大学選抜。彼女達にしたら、カール撃破は予想外だったかもしれない。

しかしそのカールなくとも社会人チームに勝てた実力があるのが彼女達だ。

脅威は脅威のままであった。


遊園地の各出入り口に配置され戦車達、迫る大学選抜を迎え撃つための布陣である。

ほぼ彼女達からも目視可能の距離に迫った大学選抜は、勢いのままに土煙を上げていた。

しかしこの土煙、違和感がある。

そう、忘れてはならない、この大学選抜、それを指揮する人物を。


少し前、プラウダ車両が犠牲となった時会場にはかなりの雨が降り注いだ。

雨がやむと日が出てきて水は蒸発を始めるが、しかしあれほどの土煙を巻き上げるほど乾燥はしていない。

であるならば、この煙は敵の目を奪う煙幕である。


ニンジャ戦術とも言われる変幻自在の島田流、その後継者。

若干13歳にして飛び級し大学選抜を指揮する少女、島田愛里寿。

流石である。

かつて大洗が全国決勝で見せた煙幕作戦の時、その戦い方はむしろ島田流だと思ったが、本家はやはり煙の使い所が上手いものだ。

それに気がついたのか、大洗女子は急ぎ布陣を変更し、回り込む大学選抜に備える。


不謹慎かも知れないが、私はこの時ワクワクしていた。大洗の敗北の可能性と言う不安もあった。

しかし、それ以上の高揚感を感じていたのだ。

ぶつかり合う戦車達の戦いを見て、目を奪われる。

これ以上、戦いの場が変わる事はないだろう。

この遊園地跡地での戦いこそ、ある意味戦車道という世界に大きな意味を残す戦いになるはずだ。


今回はここまで、更新が滞って申し訳ないです。

途中まで愛里寿の名前をまったく出してない事に気が付き、そのまま島田流の何たるかと言う話題を入れてしまい

やべえ

と、焦る。

勢いにのりたい。


まずレトロな商店街エリアでアメリカンナイズなハンバーガーの看板を選択し、偽装方法を誤った三突がパーシングに撃破された。

そしてセンチュリオン接近を悟った知波単と八九式が高台から斜面を下りながらの攻撃に出たが、瞬く間に撃破される。

一方で聖グロリアーナのチャーチルは、捨て身の戦法を選んだ。

橋の下で車体を傾けながら、遠方からサンダースはシャーマンフライの砲撃で橋の一部を壊し、橋を渡る途中のT28をしたから攻撃

それによって撃破するがチャーチルも脱出かなわず撃破される。


会場の映像が遊園地のジェットコースターのレールを映し出した。

そこにはポツンと乗っかるアンツィオのCV33がいた。

いままで映像に映らなかったが、偵察に徹していたらしい。

彼女たちが頭上から情報を得ることで、大洗は大きな戦果を得た。

小さな戦車が頭上にいることに大学選抜も気が付いていなかったが、終盤で動きの良すぎる大洗に対し疑問を持ったのか、流石に気が付いたようだ。

どこでどう乗り込んだか不明だが、チャーフィーがレール上に現れる。


急ぎ逃げ出すCV33だが、レール上での逃走はあまりに無謀だろう。

回転砲塔どころか、戦車に対して決定打にならない武装のCV33が撃破されるのは、時間の問題だ。

そしてダメ押しの様にもう一両のチャーフィーが前方から現れた。

苦し紛れの機銃を放つが、豆鉄砲を撃つようなもの、CV33の最後と思われたその時だったが、遠方から突如放たれた砲撃が、前方のチャーフィーを撃破した。

急ぎカメラがとらえた映像には、丘の上にいるM3リーの姿があった。

続けて二門の砲塔をCV33後方のチャーフィーへと向けるとこれもまた見事に撃破して見せる。

アンツィオの危機を救ったM3であったが、その直後後方から迫るセンチュリオンに気が付かなかったため、一撃で撃破されてしまった。


ここからもまた、怒涛の展開であった。

隊長島田愛里寿の進撃を知った副官達は逆襲に転じる。

3両のパーシングの巧みな連携攻撃、通称「バミューダ・アタック」。

多くの戦車乗り達から恐れられる連携技、島田愛里寿が前線に出ずとも、この3人の連携の前に敗れたチームは少なくない。

それに対しサンダースの3両が迎え撃つ。

サンダースも信頼関係の高いチームだが、経験豊富で幾つもの実戦で磨かれた連携の前では、力及ばず撃破されてしまう。


大洗の主戦力をつぶしながら、おそらく西住みほ、西住まほを追う島田愛里寿。

途中、生徒会長のヘッツァーを撃破、同行していた3式は反撃をしようとしたがトラブルがあったのか、動きが止まりこれも撃破される。

隊長に合流しようと猛進する大学選抜副官、それを防ぐためポルシェティ―ガ―、ティーガーⅡ、T-34/85、マチルダの4両が体当たりを仕掛ける。

縫い目を走るように交差して、その時マチルダがやられる。


スピードをあげ逃げ切ろうとする大学選抜を追う大洗は、ポルシェティーガーを戦闘にして直列に並び追う。

距離を離されていた大洗だったが、突如としてポルシェティーガーの速度が急激にアップした。

それに合わせ、後方のT-34とティーガーⅡも速度を上げる。

モータースポーツなどで使われるテクニックの一つ「スリップストリーム」だが、まさか戦車戦で見れるとは思わなかった。

ポルシェティーガーの操縦種は、きっとモータースポーツに詳しいのだろう。

しかし無理をさせたのかポルシェティーガーはエンジンから煙を吹き出し停止、そのまま白旗が上がった。

だがおかげで速度を上げ追いついたティーガーⅡとT-34は、最終的に撃破されるも副官の一人を撃破、驚異のバミューダトライアングルの一角を削った。


江戸の街の様なエリアでは、堀を挟んでの戦いが繰り広げられていた。

走るはチャーフィーとクルセイダー、走行中での砲撃は双方あたらず、ならば肉薄して撃ち込むぞと言わんばかりに、クルセイダーが突如スピードアップ

猛スピードで駆け抜け堀を飛び越えるとチャーフィーとのすれ違いざまに砲撃を行い、自身は壁に激突し自滅するが相手を撃破して見せた。


更に場面が変わり、1両だけ行動していたパーシングを発見したB1とCV33。

CV33が先行し陽動をかける。

小柄な点を利用して反撃を防ぎ、そのまま相手を誘い出した。

軽快に走る先には、ため池がありしかしCV33は速度を落とさない。

見たところ浅い池だがどうするのかと思えば、なんとその勢いそのままにパッパッパと“水切り”で向こう岸に渡ってしまった。


私は眼鏡を思わず取りレンズを拭いた。

見間違いと思ったからだが、しかし本当にCV33は跳ねていったようだ。

先にも思ったが、ヘッツァーにクルセイダーと言い、飛んで跳ねてが多い試合だ。


池を目の前にして、パーシングは土壇場でブレーキをかけ落下を防いだが、しかし後ろから追ってきたB1に撃たれ落下、そのまま撃破された。

だが態勢を整えようとしたCV33が撃たれ横転、白旗が上がった。

センチュリオンだ。

池を挟んでB1が砲撃を行うが、微妙に弾道はずれてしまい、センチュリオンの反撃によってB1がやられる。



しかして、舞台は中央広場へと移る。


たった一両で10両の戦車を撃破したセンチュリオン

大学選抜隊長、島田流島田愛里寿。

そしてその副官二名。

対し大洗連合、Ⅳ号戦車とティーガーⅠ

西住流、西住みほ、西住まほ。

最終決戦だ。


メリーゴーランド等の遊具と富士山型の見晴台のある中央広場。

2対3の戦いは、Ⅳ号とセンチュリオンとの撃ち合いから始まる。

広場中央にかまえたセンチュリオンが、広場を旋回するⅣ号とティーガーⅠを狙い撃つ。

そして副官二名のパーシングがⅣ号達を追う。

数の上では大学選抜が優位だが、この試合では数の優位性など最早無い様なものだろう。


富士山の見晴台は、下がトンネルになっている。

丁度戦車一両が通れる幅で、Ⅳ号はトンネル入り口直前で横にそれ富士山頂を目指し、ティーガーⅠがトンネルの中へと入る。

センチュリオンがⅣ号を追い、パーシングがティーガーⅠを追った。

見晴台の表面は富士をよく再現するためガタガタになり、センチュリオンも思うようにⅣ号を追えない。

うまくセンチュリオンから離れたⅣ号は、トンネル出口上で止まり、僅かに車体を下に傾けた。

それとほぼ同時にティーガーⅠがトンネルから現れ、急ブレーキをかけ車体を横に向けた。

猛スピードで追っていたパーシングは、そのままティーガーⅠに激突、そしてその上にはⅣ号の砲塔があった。

間もなく砲撃を浴びせるとパーシングが白旗を上げた。


砲撃の勢いでそのまま後ろに下がり、Ⅳ号はセンチュリオンを相手取る。

試合開始時を除けば、初めて互いの車両数が並んだ。

ティーガーⅠは、残るパーシングへと向かう。

パーシングはティーガーⅠを追い、攻撃をしかけるが、ティーガーⅠはなにか考えがあってか、誘うように走る。

そしてそのままバイキング船のアトラクションへと向かい、バイキング船へ一発撃ち込んだ。

グオォンと唸りを上げて持ち上がるバイキング船の下をギリギリですり抜けるティーガーⅠだが、続けて追ってきたパーシングはちょうど戻ってきたバイキング船と激突、吹き飛ばされた。

そしてその隙を狙いティーガーⅠが砲撃、白旗が上がる。

遊具とは言えあの質量の物体に直撃を受け、乗員はよく無事であったものだと少しホッとした。


パーシングもすべてやられ、いよいよ両流派だけでの対決。

会場にも、白旗判定の戦車とその搭乗者達が回収され集い、固唾を飲んでスクリーンを見る。


1両だけとなったセンチュリオンだが、しかしその戦意はまるで落ちていない。

なんであれば、これでイーブンだと言わんばかりだ。

実際2両を相手にしてもまるで不利な様子がなかった。

もとより西住姉妹に油断などないだろうが、少しでも気を抜けばやられるのは大洗だ。

それほどに島田愛里寿とセンチュリオンの組み合わせは化け物じみている。

彼女だけでなく、他の搭乗員もまた選抜の中でトップレベルの実力だ。

凄まじいドライビングテクニック、砲撃の腕前はずば抜けている。

今の西住姉妹で対抗する術があるとすれば、戦車のスペック以上に姉妹によるコンビネーションだ。


むやみやたらに撃っても勝てぬ、徐々に徐々にセンチュリオンの動きを読み、動きをお互いに合わせる。

かつての黒森峰での隊長と副隊長、姉妹故の阿吽の呼吸が生み出されていた。


一進一退の攻防が続く中、その場にある物を使う島田流に少しづつ流れが生まれる。

V2ロケットの遊具を吹き飛ばし、パンジャンドラムの回転ブランコを、元ネタ同様に走らせ粉砕、大戦中の兵器を模した遊具を巧みに使い、姉妹を翻弄した。

センチュリオンは、まずⅣ号を標的にしたようで、Ⅳ号を中心的に狙ってきた。

獲物を狙うオオカミの如くしつこく食らいつく。


そして、広場をグルグルと移動し続けていた時、メリーゴーランドを突き抜けながら現れたセンチュリオンとⅣ号が激突する。

そのまま後ろを奪われ、あわや撃破かと思われたその時。



……クマ?

クマ、ですな。



おもわず私と理事長二人で口に出してしまう。

センチュリオンとⅣ号の間にクマの乗り物がのんびりと現れ横断していたのだ。

あまりに突然の、間の抜けた乱入者に一同唖然、島田愛里寿と西住みほもキューポラから呆気にとられクマを見た。

そして、いち早く我に返ったのは、西住みほだった。

急ぎ移動しすんでの所で砲撃を回避した。



この時の判断が、この試合の結果を左右した。


Ⅳ号とティーガーⅠは急ぎ合流し富士の見晴台に上った。

Ⅳ号を前にし、その後ろにティーガーⅠが付く配置、センチュリオンは広場入り口にまで後退した。

坂を下り一気に近づく2両を迎え撃つ考えか。

そしてⅣ号等2両は一気に坂を下りだす。

センチュリオンは、やはりまず一撃をあたえ、Ⅳ号を、そしてティーガーⅠをやろうと思ったのだろう。

Ⅳ号とティーガーⅠも真っ直ぐにセンチュリオンへと向かっている。

しかし途中妙にティーガーⅠがⅣ号に肉薄した。

砲塔もⅣ号の後ろに接触する寸前だ。

おかしいと思った瞬間、なんとティーガーⅠが発砲した。


一瞬会場がざわついたが、Ⅳ号は無事だった。

いや、むしろ勢いを増しセンチュリオンへと迫っていく。


空砲か……ッ!


私は声を上げ、立ち上がり、スクリーンを見た。


スピードを上げたⅣ号に驚き急ぎ砲撃するセンチュリオンだが、焦りが出たのか弾は直撃ならず。

Ⅳ号は、走行と右の履帯を吹き飛ばされたが、勢いは死なず戦車その物を弾丸の様にして激突。

センチュリオンの砲塔に肉薄した状態で一撃を放った。

激しい爆発の後、動きを止めるⅣ号とセンチュリオン。

間も無く2両から白旗が上がった。


結果はっ!!


理事長が叫ぶ。

まだ歓声は上がらない、皆が結果を待った。


急ぎ空中を飛ぶ戦闘機“銀河”による目視確認が行われる。

回収された戦車と、いまだ回収の済んでいない戦車を合計、残存車両を確認する。

スクリーンに両チームの車両名が並び、残存車両数が数えられていく。

そしてすぐに、大学選抜の残存車両数0、県立大洗女子学園の残存車両数1の結果が映し出された。


大洗女子学園の勝利!!


大洗の勝利を告げる蝶野陸尉の声に呼応し、ドッと押し寄せるのは、観客達の歓声だ。

今か今かと溜め込まれた多くの人達の喜びの声がこの土地すべてに、遊園地跡地にもいる彼女達にも聞こえるかのように響き渡った。


皆が歓声を上げる。

理事長が笑う、家本達がホッと息をつく。

生徒達が勝鬨を上げ、お互いの健闘を讃えた。

大洗と大学選抜との勝ち負けが決まった、しかし試合が終わった今勝った負けたなど些細な事だった。

そう、良い勝負だった。

掛け値なしに、素晴らしい戦いだった。


私は荷物を手に取り、その場を後にする。理事長が立ち去ろうとする私を見て声をかけた。


どこへ行かれるのですか?


憎まれ者は去ります。


だれが貴方を憎みますか?貴方ほどの功労者はいないでしょうに。


約束を一度反故にした以上、私は悪者ですよ。それにまた忙しくなりますからな、色々と相手にしないといけない人方もいますので、では。


私が頭を下げ去るのを、理事長は止めなかった。

しかし一言、ご武運を、と激励の言葉が聞こえた。


関係者席を離れると、目の前に家元が現れた。

鋭い目が私を射抜く。


先生、ご息女達の活躍、西住流の名に恥じぬものでした。

……西住流とは程遠い物でした。

ま、確かに。しかし“まぐれなし”でしょう?

……ええ、まったく。

では、私はこれで。


家元は特に言葉は無く、互いに頭を軽く下げるだけの挨拶だった。しかし、これでちょうどいいだろう。


さて、急ぎ去る前に会うべき人がいる。

彼女にだけは会っておかねばならないだろう。

遊園地から隊長達が戻れば、私の相手などしている暇などないだろうから。

目的の人物は、戻りつつある隊長を待ち、傍らには、彼女を慕う親愛なる友達が居た。


おめでとう、生徒会長。


私が声をかけると、驚いたように彼女、大洗女子学園生徒会長、角谷杏が振り返った。

他二人、彼女の部下であり同じ生徒会員達も驚いた様子だ。


君たちなら勝ってくれると思ってたよ。

……カールなんて用意して、よく言いますね。

失礼。正直驚いたというのが、素直な感想だよ。よく勝った。近年稀に見る試合だ、だれもがそう思うだろう。偶然もまぐれも無い、素晴らしい勝負だった。


その言葉で会長はすこし安心したようだった。


これで頭の固い人達も大人しくなるだろう。これ以上事を荒立てても意味もないしね。後は大人に任せたまえ。と、言っても信用は無いかもしれないが。

いえ、そんなことは……。



遠くで生徒の声が大きくなった。隊長を乗せた回収車が来たのだろう。色々と言いたい事はあるが、まあ若い者の時間を割く事もない。



行きたまえ、皆が待っている。


……あなたは、これからどうなるのですか?


まあ、色々とやることはあるよ。けどたいして変わらないよ、いつも通りに仕事するだけさ。


そうではなく、その……。


子供が心配するような事ではないよ、君は隊長を労ってあげなさい。



面倒な話になるまえに、話を切り上げる。

生徒会長は何か言いたげであったが、しかし私はさっさとその場を後にした。

遠くからは、生徒達の歓声が響く。

自家用車を置いた駐車場からも聞こえる喜びの声だ。



貴方はあの輪に入らないのかい?



ポロロンと聞き覚えのある音色と共に、やはり覚えのある声がした。



継続の……もう帰ったと思ったよ。



いつの間にか傍にいたのは、継続の隊長と他二名だった。

撃破されて以降姿が見えなかったので、帰ったと思っていた。



君たちは中々私を帰してくれないな、これから忙しくなるのに。


それは申し訳ない事をした。



微笑みと音色が返る。


それで、用事かね?まさかと思うが、また問題でも起こしたかね?



そう言うと、相変わらず隊長に振り回されているのか、小柄の継続生がブンブンと顔を横に振った。


貴方の“戦車道”を聞きたくてね。


私の?


前から気になってたのさ、特に戦車道に深く関わらない立場で、ここまで戦車道に熱を上げる貴方に……聞かせて、もらえるかな?



彼女はカンテレを爪弾く手は止めず、問いかける。さて、私の戦車道か、ならば一言だ。



戦車道には、多くのものがあり過ぎる。故に一言だ。戦車道には、私の人生にとって大切なものが全て詰まっているんだ。


……そうか。



ポロロンと音色が返る。どうやら満足したらしい。


満足したなら、私は帰るよ。言った通り何かと忙しいのでね。


ええ、お引止めして申し訳なかった。


あと、問題を起こさぬようにな。真っ直ぐ帰りなさい。


私の親の様な事を言うね。


継続、と言うより君は奔放すぎる。目を離せば無人島にでもいそうだよ。自制したまえ、色々と。



私がそう言うと、小柄のあの子が妙に強く頷きながら、もっと言えと目で訴えていた。

しかしこれ以上言う気もない私は、さっさと車に乗り込み数度手を振り去った。

カンテレの音色は、しばらく聞こえていた。



そして、試合からそう経たずして、大洗女子学園の存続が正式に決定した。


時は過ぎる。

世界にとっては、極東の地で起こった些細な事でも、彼の学校にとって長い戦いが終わった。


後日談、と言いうにはつまらぬ事だが、結局のところ私はしぶとく役人のままだった。

それはひとえに上司殿の尽力と戦車道関係者からの進言があってこそである。

私としては、異動でも最悪辞職でも良かったのだが、戦車道理事長には、一緒に戦車道を盛り上げましょう、と何故か信頼を置かれてしまった。

どうやらまだまだ休ませてはくれないらしい。


今後きっと問題なくプロリーグ設置は叶い、それからまた世界大会誘致で私だけでなく多くの者が奔走せねばなるまい。

西住流、島田流、戦車道連盟、陸上自衛隊。

そしてその時、あの大洗の生徒、そしてその下に集った戦車道を背負う若き勇士達にも協力を願おう。

そして、私は見てみたい。

彼女達だけではない、多くの未だ見ぬ戦車道に生きる者達の活躍を。


さらに全くの余談だが、あれ以来ちょくちょく暇を見つけては、角谷くんが私を訪ねに来る。

しかもプライベートで、だ。

なんでも、将来的に都市の方で学び、政界に入る野望を抱くようになったとか。

そのアドバイスを、との事だが若い婦女子が、私のような男にプライベートで会うものではないよ、と言うと彼女はどこ吹く風で、ケラケラ笑うのみ。

実に図々しいが、しかしそれは確かにこの世界で必要なものかも知れない。

彼女の行動力としたたかさならば、案外彼女の政界入りはそう遠くなさそうだ。


将来私は君に使われる立場になるかもな。



そう言うと、彼女は首を降った。



それもいいですが、しかし私は貴方を支えるのも面白いと思っているんですよ。



私は呆気に取られ、眼鏡がずれ落ちた。

漫画か……。彼女もケラケラと生意気に笑っている。



妄言として受け取っておこう。



眼鏡を直しながら言うと、彼女はニンマリ笑いながら言った。



しかし私はずっと、有言実行でしたよね?



冷や汗がたらりと流れた。

そしてそれが妄言でも、その場の勢いでもないとわかるのは、それからまた数年先の事。

しかし、今この時の私には全く知る由もないことであった。


どっとはらい。


以上で『役人「統廃合を任された」』終了です。

丁度2か月前に投稿したもので、その時は一週間以内に終わると軽く思っておりました。

しかし、途中役人での目線ではあまりに動きがなくなり(自分の文章力仏足故ですが)、テンポも落ち大変ご迷惑をおかけしました。

最初に書いたように、役人の性格がすっかり変わっております。

たまにキレイな役人の二次創作をみかけ、自分も書いてみたいと思ったためでした。

生徒会長といい感じになってるのは、完全に趣味です。

生徒会長は政治の世界で活躍しそうと思ったためのカップリング(?)です。


この話は終わりですが、合間合間で呟いてた小ネタを考えています。

現在は「それがボコだから」と言うタイトルで”ボコのきぐるみの中の人”のSSを考えており、そのうち投稿します。

グダグダと続けてきましたが、読んでくれた方ありがとうございました。

どれでは、HTML依頼出してきます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom