【モバマスSS】 暑い日ときつね娘とラムネ (46)

「暑いー……」

ああ、暑いね

「シューコちゃん溶けちゃう」

ああ、溶けちゃうね

「プロデューサー、聞いてる?」

プロデューサー、聞いてる

「聞いてないやん」

聞いてるよ?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466855978

「なんでこんなに暑いの?」

それはお天道様に聞いておくれ

しかし、この暑さは尋常じゃない

「やっほー、シューコちゃんの声聞こえてるー?」

まだ梅雨も明けてないのに、今年の夏はどうなるんだ

「聞こえてますかー?」

だから聞こえてるっての!

脇腹をツンツンするな

扇風機で我慢しなさい、扇風機で

「シューコちゃんは現代っ子だから、クーラーがいいな」

ほう……お望み通りつけてやろうじゃないか

無言でクーラーのスイッチを押す

主電源が入り、けたたましい音がする

「お、クーラーつけてくれたの」

周子がそこまで言うからな

ただし、後悔するなよ?

「後悔なんてしないよ、あーこれで涼しくな……いよ!」

おいおい、せっかくクーラーつけたってのに

やれやれと大げさにリアクションをする

「なにこれ!? あったかい風しかこないじゃん……」

だから後悔するなって言っただろうに

クーラーはお亡くなりになったんだ、良いやつだったよ……

「そんな……あたしはこれからどうやって暑さを防げばいいん?」

明日には業者来るってさ

「明日? 今日をのりきれないかも」

そんなこと言わないでくれ

とりあえずクーラーは消そう

いままでおつれさん、安らかにお眠り

「暑いわー、プロデューサーどうにかして」

何とかしてやりたいけどさ

俺も暑いんだよね、どうにしかしてくれる?

「じゃあさ、涼しいとこ行こうよ」

良いね、行きたいよ

「ファミレスかな、あ! 映画館も涼しいかな?」

どこも涼しそうだな

よし、行くか! 俺の仕事が終わったら……

「えー! シューコちゃんほんとに溶けちゃうよ」

溶けちゃうってお前……

涼しそうな恰好してんじゃんか

シャーベットカラーのチュニック

見た目も爽やかだし、通気性よさそう


俺、スラックス、長袖のシャツ

見た目も暑そうだし、通気性はいまいち

俺も短パンとかにしたいよ

「ふぅん……」

服装をチェックしていると周子と目が合う

「エッチな視線を感じるなー」

にやにやすんな

周子は見慣れてるから、そんな気は起こしません

「えー、こんなに若くて魅力的なシューコちゃんなのに?」

私プロデューサー、それに大人、未成年駄目絶対

俺が手ぇ出したら犯罪でしょ

「ばれなきゃ良いんでしょ、そういうのは」

元シンデレラガールさんは発言が違うわー

「照れちゃうからやめて」

いやんいやんと首を振る

別に褒めてないからね?

近頃の若い子はわかんないねぇ

楓さんくらいになったら、俺も迷っちゃうかもしれないね

何に迷うかは秘密だけど

あ、いい事思いついた

ちょっと待っててくれ、涼しくできるかもしれない

「さすがあたしのプロデューサーさん!」

さて、どこにしまったかなっと

良い子にして待ってるんだぞ?

「はいはーい♪」

道具入れと化している部屋を漁る

こいつに足を入れてみなさい

「おっけー」

サンダルを脱ぎ、ゆっくりと足を入れていく

おい、丈が短いんだから気をつけろ

「んっ……はぁ……冷たくて気持ち良い」

色っぽい声出してこっち見てるのは気のせいだよね

とにかく、気に入ってもらって何より

さてさて、俺は仕事に戻るからな

はぁ、ちひろさんはどこ行ったんだよ

一人だけ涼みに行ったんじゃ、という考えが頭をよぎるがこれ以上はやめておこう

あの人はいつも頑張ってるからな、うん

「プロデューサーさん、喉乾いた」

何か買ってきな、ほら、お駄賃あげるから

小銭入れから金をとりだす

「わたし、ここから動けないもん」

え? ちょっと何言ってるかわからないよ

水から足だせばいいんだよ、ほら簡単じゃん

「プロデューサーはあたしに溶けろって言うんだね……」

んー泣きまね下手だなぁ

演技力の向上も考えておかないとなぁ

ちょっと、待ってろ

「はーい」

この切り替えの早さは素直に凄いと思う

確か冷蔵庫の奥のほうにあったはずだ

ちょっと前に何本か買ったやつが……

あった。2本引き抜いて、渡そうと思ったが止めた

ただでやろうなんて話が良すぎる

さてさて、少しいたずらしてやろう

周子がこっちから気をそらした瞬間

ぴとり

ラムネを首筋にあててやる

「ひゃっ!」

おお、良いリアクション

「もう、なにするのプロデューサーさん!」

ぷるぷると体を震わせて抗議してくる

全然動かないきつね娘にいたずらしただけだよ

「こんこーん! ひどいなぁ」

さすがのプロ根性だね

ほら、お飲み

ラムネを手渡す

「ありがとう」

両手で受け取り、つめたーい! とか言ってる

ちなみに、それ開けられる?

「うん、任せておいて」

言うやいなや手際よく開けている

「なかなか上手でしょ?」

手慣れてるねぇ

「ふふーん、ボクをもっと褒めても良いんですよ」

それ違う人のネタだからね、可愛いのは否定しないけど

よし、んじゃ乾杯しますか

「えっ、いつの間にあけたの?」

男はこれくらいできるもんなんだよ

「ふーん、じゃあかんぱーい!」

お疲れさまっと

ビー玉が飲み口をふさがないようにしてあおる

しゅわしゅわと炭酸がはじける

久しぶりに飲んだけど美味いな

「仕事終わりの一杯は格別だね」

ぷはっと可愛らしく息をはきながら言う

うん、そうだね。仕事終わってないけど

「大人になったらお酒飲み行きたいな」

二十歳になったら連れて行ってやるよ

「期待してるからね?」

ほどほどにな……

「あ、もうなくなっちゃった」

ラムネは量が少ないのがね

ほれ、プレゼント

瓶の中からビー玉を取り出し

ぽい、と投げる

「わっ……ふぅ、セーフセーフ」

汗を拭う仕草をするシューコ

お手玉していたが、きちんとキャッチできたみたいだ

「危ないなぁ、割れたりしたらどうするの」

はいはい、ごめんなさいよ

「あー、反省してないでしょ」

してますしてます

周子ならキャッチしてくれるって信頼してたんだよ

「……そっか、ならいーや♪」

この娘ちょろい、プロデューサー心配です

何が嬉しいのか、ビー玉を掌でころころしている

それも、凄い嬉しそうな笑顔で

最近の若い子の感性はわからんね

ほら、飲み終わった瓶は捨てておくから渡しなさい

瓶とラムネを交互に見て、周子が言った

「……良いこと思いついた!」

なんだよ、大声出すとびっくりしちゃうだろ

「ちょっと待っててね?」

こちらの言葉には聞く耳をもたない

ラムネのキャップをがしりとつかみ

「むぅー!」

気合い一発、開けようと試みている

「あーいーてー!」

キャップはぴくりともしない

このまま完封負けかと思ったとき

ぐぐぐっと少しずつ回り始め

どんどん音が軽くなり、ぽんっと取れた

「あいたーん♪」

おめでとさん

で、それどうすんの?

「これ? これはね、はい!」

両手で大事そうに包み込んでこちらに見せる

なに、くれるの?

「うん、交換っこ」

お、おう……ありがとう?

一応お礼を言っておく

「くるしゅーないどす」

いつの時代の人ですか?

「綺麗だねー」

何がそんなに嬉しいのかね

「ふふっ」

まぁ、綺麗なのは同意だけどさ

くるりとビー玉を回すと

光を反射して、きらりと光る

こいつの目も黒いビー玉みたいで

綺麗だな、と少しだけ思った

「わたしとおそろいのビー玉だね」

そうだな、おそろいだ

「こんな美人からビー玉貰えるなんて嬉しいでしょ?」

ああ、嬉しすぎて涙が出そうだ

「あたし、愛されちゃってるなぁ♪」

はいはい、らびゅーらびゅー

……わかったからそんなに冷たい目で見るのはやめような

「プロデューサーさんは女心がわからないんだ」

そう言った後に、ぼそりと呟いたのを俺は聞き逃さなかった

「だから、もてないんだよ……」

そんなことないよ?

「そんなことあるよ! プロデューサーがもてるはずない」

お前そんなマジ顔で言うなよ

その言葉は結構ぐさりとくるぜ?

「どうせキスもしたことないんでしょ?」

はいはい、そうですね

「何その反応」

お前がそんなこと言うからだろう

第一、俺なんて煽っても楽しくないぞ

煽るならもっと色気たっぷりでお願いします!

「うわ! キモイ……」

冗談だよ冗談

「えー、目が本気っぽかったけど」

ばっか、俺の演技力が高いんだよ、察しろ

「プロデューサー業は演技力も求められるのかー」

大変だね、そう言いくすくすと笑っている

大変だろ? 演技下手なアイドルに指導できるくらいにはな

「ばかっ」

おい、さっきも言ったけど脇腹を突くな

変な声出ちゃうかもしれないだろ

「変なプロデューサーさん」

そう言いつつ突くのをやめろ、な?

そんなことしてるとビー玉返してもらうぞ

「それは嫌」

被せ気味な即答だった

「これはもう、あたしのもの」

両手を胸の前で重ね合わせる

「誰にもあげない」

……冗談だ、そうマジになるな

そうビー玉ごときで、と言った時

「貴方がくれたものだから」

周子の声は本気だった

ちゃぷり

周子が水から足を出した

おい、周子?

「プロデューサーさんは知っておいたほうが良いと思うんだ」

何をだ?

「あたしのことだよ」

素足のまま、こちらに近づいてくる

「プロデューサーさんは全然わかってないみたいだし」

仕事のことか? それともプライベートのことか?

「ううん、あたしのプロデューサーさんへの気持ちのこと」

落ち着け周子、おかしいぞお前

「そう、おかしいの……暑さで変になっちゃった」

妖しく笑う

「プロデューサーさんは鈍感だから」

気付けば手が届く距離に周子がいる





ぎしりとチェアに重みがかかる

お、おい……

「自分じゃ止められないから……貴方がとめて?」

首筋に周子の吐息を感じる

「はぁ……熱いね」

そう思うなら離れろ

「ううん、この熱さはあたし嫌いじゃないよ」

囁くように言う

「ねぇ、貴方も一緒におかしくなっちゃおうよ」

やめろ、俺は……

「もう我慢しなくても良いでしょ?」

こんなのを求めていたわけじゃないんだ

「でも、ドキドキしてる音、聞こえるよ」

それは仕方ないだろ

「そっか、嬉しいな」

子供のように恥ずかしそうに笑う


……周子、目を瞑ってくれ

「うん」

周子がゆっくりと瞼を閉じる

まつ毛が長いなぁ、なんて間抜けなことを思った

周子……

名前を囁く

「早く……きて」

その言葉を聞いて、俺は

周子の頬を両手で押しつぶした

「ぷぇ?」

ふん、間抜けな面してんなー

「はひふふほ、ふほふーはーはん」

え? 何ですか?

「もう! 何するのって言ったの」

俺の手を振りほどき、怒気をはらんだ声で周子が迫る

「サイテーだよ、見損なった」

「あたしのこと笑いものにして楽しんでたんだ」

そういうわけじゃない

「じゃあ何なの? せっかく勇気だしたのに……」

落ち着け

「あたし馬鹿みたいじゃん……うぅ……」

すまない、泣かすつもりはなかったんだ

「……あたしのことなんて放っておいて」

そういうわけにもいかない

……これはやりたくなかったんだけどな

悪かったよ、周子

優しく周子を抱きしめる

「プロデューサーさん?」

お前の気持ちはわかってるつもりだ

けれど、立場上お前の気持ちには答えられない

「うん……」

周子の人生を台無しにしてしまう可能性もある

小さい子を諭すように

優しく、ゆっくりと話しかける

周子は良い子だからわかってくれるね?

「うん、わかった……」

よし、良い子だ

頭をくしゃりと撫でる

「ん……」

小動物のように体をなすりつけてくる

どれくれい経っただろうか

十分か一時間か

「プロデューサーさん、もう大丈夫だから」

赤い目をした周子が弱弱しく笑う

そうか、わかった

じゃあ俺は仕事に戻るからな

「うん、迷惑かけてごめんね」

気にするな、俺は周子のプロデューサーなんだから

あ、言い忘れてた

戻ろうとしていた周子を呼び止める

「どうしたの?」

少し怯えているような表情

あのビー玉ちゃんととっておけよ

「何で?」

お前が本当のてっぺんになれた時

もっと良いものに交換してやるからさ

「良いものってなに?」

お前、さっき交換っこって言ったろ?

薬指につけるジェスチャーをする

「だって、さっきは答えられないって」

今はってことだよ

俺も頑張ってすごくなってやるからさ

だから、その時には改めて交換っこしよう

ビー玉は予行練習みたいなもんだ

「プロデューサーさん……」

あー、照れくさいこと言った

でも、周子に恥ずかしい思いさせちゃったから仕方ないか

ちらりと周子を見ると、俯いてしまっている

おーい、周子さん?

顔を覗き込もうとした瞬間

……ほっぺたに柔らかな感触

お、お前なにするんだ

「さっきのお返し、唇にはまだ我慢してね♪」

唇に指をあてて言う





「シューコちゃん、もっと輝いちゃうからね」

言いながら腕に抱き着いてくる

それでね、と付け足す

満面の笑顔で

ビー玉のように透き通った綺麗な笑顔で

「それで、貴方だけのシューコちゃんになるんだから♪」

さっきまで泣いていた少女が力強く宣言する







おしまい



以上です
読んでくれた方に感謝を
夏に周子ちゃんとラムネ飲みたくて書きました

HTML化依頼してきます

素晴らしい
梅雨が開けたらラムネを飲むよ

最高だった
もう夏ですね…

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