杏「全然知らなかったよ……まさか目の前に一攫千金のチャンスが潜んでたなんて」ｶﾞﾀｶﾞﾀ

杏「えっと、ユーチューバー、年収……」ｶﾀｶﾀ

素人ユーチューバーにありがちなこと：まず収入から調べる

杏「へ、平均年収７４７万」

杏「杏より年下の子でもそれくらい稼いでるんだ」

杏「動画再生１につき０、２円。１００万再生されると２万円。１０００万再生されると２０万……」

杏「……」

杏「……」

杏「……」

杏「割といけるんじゃ」

素人ユーチューバーにありがちなこと：根拠のない自信

杏「よーしやっぱり杏はユーチューバーになって好きなことで生きていくよ！」

杏「この働きたくもないのに働かなきゃならない、やりたくないことをやらされるポイズンな現代社会」

杏「好きなことだけしてお金稼いで生きていけるって素敵なことじゃないかっ！」

杏「杏は今日からユーチューバーだよー！」

杏「……」

杏「……」

杏「で、ユーチューバーってなにするの？」

……。

杏「というわけで、かな子ちゃん来てくれてありがとねー」

かな子「電話でいきなりユーチューバーになるから準備手伝ってって言われて驚いたよ……あまりに急すぎるよ……」

杏「ままっ動画撮影して１００万円どばっと入ったらいくらでもマカロン買ってあげるからさっ」

かな子「えっユーチューバーの人ってそんなにお給料もらえるんだ」

杏「そうだよーしかも税金が引かれずにダイレクトに手取りとして入ってくるんだよーパラダイスだねー」

かな子「あまりパソコンに詳しくないから役に立てるかわからないけど……」

杏「ふんふん、なるほど。まずは動画を撮影してユーチューブに投稿するんだね、って当たり前か」

杏「パソコンは……うん、スペック足りてるね」

杏「あとはマイクを買って、カメラをネットで注文しなきゃ」

杏「ユーチューバーの定番カメラはどれくらいするのか……えっと……」ｶﾁｶﾁ

デジタル一眼レフカメラ　EOS346-D　\84,800

杏「……」

杏「……たっか」

かな子「ちゃんとしたカメラってこんなにするんだね……」

杏「……」



杏「えーいままよ、ポチってしまえー！」

かな子「杏ちゃん？！」

杏「止めてくれるなーかぁーな子ちゃぁーん」

かな子「杏ちゃんよく考えて？！　８万円だよ？！　まずはもっと安いモデルのでいいんじゃないかな？！　ほらっあのwebカメラっていうのとか！」

杏「何事も妥協しちゃだめだよかな子ちゃん」

かな子「杏ちゃんらしくない台詞すぎるよぉ！」

杏「虎穴に入らずんば虎子を得ず。お金を生み出すシステムを構築するには先行投資が必要なんだよ」

杏「株だって種金が必要でしょ、それと一緒だよ。杏は株式は面倒だからやりたくないけれど」

かな子「……どう、なんだろ、でもカメラはあとで使えるものだしいいのかなぁ」

杏「杏はね、好きなことで生きていくよ」

素人ユーチューバーにありがちなこと：パワーワードの幻想にかかる

杏「マイクは……コンデンサーマイクが必要だね、雑音が極力入らないやつ」

かな子「これもそれなりにするね……」

杏「……」

杏「……」



杏「えーいままよ、ポチってしまえー！」

かな子「杏ちゃん？！」

素人ユーチューバーにありがちなこと：機材はやたらいいものを揃えたがる

……。

宅配屋「お届けにあがりました」

杏「おーもう届いた届いた。最近のネットショッピングは早いねー。杏の引きこもりがますます加速しちゃうよ」

かな子「機材揃えるだけで１０万円くらい使っちゃったけれど……本当に大丈夫なの、杏ちゃん？」

杏「大丈夫だよー登山みたいなもので一旦道具を揃えちゃえばあとはほとんどお金はかからないから」

杏「すぐに元はとれるよ、うんうん」

杏「１動画１００万再生だとして２０万円…一週間に１本ずつとったとして１年間は５２週だから……」

杏「１０８０万円」

杏「杏、こんな大金何に使おう。まずは飴をたくさん買って、専属メイド雇って……」

かな子「……」

素人ユーチューバーにありがちなこと：取らぬ狸の皮算用

杏「よし、まずはカメラとマイクを繋ごう。かな子ちゃんよろしくー」

かな子「う、うん。わ、説明書がすっごい細かいよ」

杏「うわーこの時点で大半の人が挫折しそうだねーでも杏はこれしきのことでくじけないよー」

杏「ちょちょちょいっと配線つなげてーこのソフトをいれてー」

かな子(いつもこのくらいやる気見せてくれればいいのになぁ)

杏「よっし映った、いえーいピースピース、ほらっかな子ちゃんも一緒にー」

かな子「ピ、ピース」

杏「いいねーそのポーズいいよーもっと指の間開いてみよっかー」

かな子「杏ちゃんがなんか変なテンションになってるよぉ……」

素人ユーチューバーにありがちなこと：始める前がなんだかんだ一番楽しい

杏「よし、じゃあ動画撮るからね」ﾋﾟｯ

かな子「えっ、うん、頑張って杏ちゃん」

ｼﾞｰ……

杏「はい、じゃあかな子ちゃん面白いことしてー」

かな子「私がするの？！」

杏「アイドルならとうぜん場を盛り上げる一発芸くらいひとつやふたつはあるんでしょーほれほれーしてみせいー」

かな子「杏ちゃんが無茶ぶりしてくるめんどくさい上司みたいになってるよぉ！」

杏「冗談冗談、ちゃんと杏がやるよ」

かな子「……」

杏「あっ、動画撮影の前にやることあるんだった」

かな子「えっ？」

杏「ちゃんと広告収入が入ってくるようにチャンネルを開設しなきゃ」

杏「えっとーグーグルアカウントを取得してーユーチューブチャンネルを設定してーチャンネル名は……うーん……杏の名前をとってー」

杏「フタバちゃんねるにしようかな」

かな子「いいんじゃないかな、かわいいチャンネル名だね」

杏「えっとー生まれたばかりのチャンネルです。応援してね、と」

かな子「ここまでは簡単にできるね」

杏「次はジャンル決め……ビデオブログ、商品紹介、教育、料理、ゲーム実況、色々あるねぇ」

かな子「杏ちゃん何を撮るか決めてるの？」

杏「え、全然考えてなかった。とりあえずビデオブログでいーやー。応用性高そうだし」

かな子(そんな適当で大丈夫なのかなぁ……？)

杏「アイコンは自撮りしてーよっしチャンネル開設したよー」

かな子「わーなんだかわくわくするね」

杏「あ、あと大事なのが収入の振り込み先……げげっ」

かな子「どうしたの？」

杏「未成年は振り込み先が保護者のじゃないとダメなんだって……うわぁ……」

杏「……」

杏「仕方ない、親に電話して事情を話してみるよ」

ﾌﾟﾙﾙﾙ……

杏「あー、もしもし久しぶり、杏だけどー」



杏「ちょっと杏さー、アイドルお休みしてさー」

杏「……」

杏「……」

杏「今日からトップユーチューバーを目指すよ」

かな子「……」

　……。

杏「めちゃめちゃ不安がられたよ……」

かな子「うん、たぶんね、自分の子供が突然ユーチューバーになるって言いだしたらお母さんは不安になっちゃうと思う……」

ユーチューバーを目指すキミへワンポイントアドバイス：事前に家族の理解は得ておこう！

杏「でも割と簡単にオッケーでたよ」

かな子「割と簡単に出たんだ？！　すごいね双葉家？！」

杏「最初にして最大の難関をこれで突破したよー、これで湯水のようにお金が湧き出る錬金術を手に入れたも同然だねー」

かな子「まだ動画投稿もしてないけど……」

杏「ふっふっふ、たった今それを撮るんだよっ　これはまさに偉大なる一歩だよっ！　かな子ちゃんっ！」

かな子「う、うん、杏ちゃんがんばって！」

杏「って何撮るかまだ決めてなかった」

かな子「私もう帰っていいかな？」

杏「ウソウソ、さすがに天丼はやめておくよ。まずは挨拶とゲーム実況にしよっかー」

杏「いっくよー１・２・３……フタバちゃんねる、スタートー」

ﾋﾟｰ……。

杏「えー、はい、はじまったねー杏だよーはじめましてーよろしくー」

杏「えっとー、まぁあれだよねー最近はＥＵ離脱で円高だとか政治資金問題やらで世の中どうなってるのって感じだよねー」

かな子(いきなり時事ネタでしかも話題が重いよぉ……)

杏「やることないのでとりあえずデレステやりまーす。パーフェクト狙えるかなー？」

かな子(いきなりノリが軽くなったよぉ……)

ﾄｷﾒｷﾄﾞｺﾏｰﾃﾞﾓｰｴｽｶﾚｰﾄｰ♪

杏「……」ﾋﾟｯﾋﾟｯﾋﾟ

かな子(無言だよぉ……)

杏「……」ﾋﾟｯ

杏「はい、マスターフルコンできましたー上出来上出来」

杏「あースタミナ無くなっちゃったから今日の放送はおしまい。というわけでチャンネル登録よろしくねーまたいつの日かー」

杏「ふー、疲れたーかな子ちゃんどうかな？」

かな子「……」

かな子「……」

かな子「うん、いいんじゃないかな」ﾆｯｺﾘ

杏「かな子ちゃんなんか若干めんどくさくなってない？」

かな子「(放送的に)オイシイから大丈夫だよ」

後日……。

杏「なんで、なんで……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

杏「視聴回数が５２回なのさー！　杏は納得しないぞー！　断固異議を申し立てるー！」

かな子「むしろ５２回もよく再生されたね……」

杏「うん、そのうちの４６回が杏なんだ、笑っておくれよ」

かな子「あっ(察し)……ごめん……」

杏「でも、でも～～ポジティブに考えれば６人の人が杏の放送を見たってことだね！」

かな子「あっ……」

かな子「ごめん……それ私だね……」

杏「……」

かな子「……」

杏「観てくれてありがとう」

かな子「どういたしまして……」

素人ユーチューバーにありがちなこと：再生回数のほとんどが自分か身内

杏「あ～どうすれば再生数伸びるのかな～アノニマスが杏の放送に多重ハッキングでも仕掛けてくれればね～」

かな子「杏ちゃん、杏ちゃんまずは他の人の放送を参考にしてみるといいんじゃないかな」

杏「なるほど一理あるね、トップユーチューバーがどんなコンテンツを提供してるのか分析しなきゃ」

杏「１位のチャンネルは……うわ、総再生数１６億回だって」

杏「チャンネル登録者数は５００万人……福岡県民くらいいるじゃん……」

杏「よーし、どれだけ面白いのか杏がこの目で確かめてみようじゃないかっ！」

ﾎﾟﾁｯ

KirarinTV everyday～♪

杏「……」

杏「ん？」

きらり『にょわ～♪　はぴ☆はぴ　ゆーちゅーぶ！』

杏「きらりじゃん！　似合わないサングラスかけてなにやってんの？！」

かな子「えっ杏ちゃんもしかして知らなかったの……？　KirarinTVっていったらプチ社会現象になるくらい人気なんだよ」

杏「えぇ……いつのまに……杏は家でだらだら引きこもってたからそういうトレンドには取り残されてたよ……」

かな子「特に小学生の子に人気でね、きらりちゃんに憧れる子たちはキラリンチルドレンって呼ばれてるんだって」

杏「へぇ……」

かな子「小学生の子たちはおっきなきらりちゃんの真似して厚底６０センチのブーツを履いてるくらいなんだって」

杏「もはや竹馬じゃんそれ」

かな子「とりあえず動画を観てみようよ」

きらり『ここにあるのがぁ～ばびゅびゅびゅ～ん☆ちひろさんからいっぱい貰ってきたスタミナドリンクにぃ』

杏「うわー…ものすごい本数ある、スタドリで壁ができてるよ」

　スタミナドリンク５００本(ﾋﾟﾛｰﾝ♪)

杏「テロップまであるんだ、凝ってるなぁ」

きらり『これを～～～なんと！』

杏「なんと？」

きらり『……』

きらり『(白目)』

杏「？！」

きらり『一気飲みしちゃいむわぁ～～～す！』

　ﾋﾟﾛﾛﾛ～～～ﾝ！

杏「えぇぇえ絶対無理だって！　やめときなよきらりー！　ていうか今なんで一瞬白目剥いたの？！」

かな子(杏ちゃんすっかり夢中になってる……)

きらり『んっふっふっふ～☆　でもでもすーぱーきらりなら絶対楽勝だにぃ～。まずは１本目ぇ～～～』ﾋﾟｯ

きらり『んっんうっ』ｺﾞｸｯ

杏「……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

きらり『……』

きらり『(白目)』

杏「？！」

きらり『はい、飲みきれちゃいましたぁ～♪　１本なら余裕おっすおっす！　とぉ～っても飲みやすいからあと４９９本くらいいけちゃうにぃ～』