提督「満潮ちゃんの髪をほどきたい」 (34)
扶桑「はぁ…?」
提督(以下提督)「満潮ちゃんってば、いつもあのお団子ヘアじゃないか!」
扶桑「フレンチクルーラーって言うんですよ」
提督「フランスのクーガー? 速さが足りないの?」
扶桑「クしかあってないですよ? 可愛い髪型じゃありませんか」
提督「でもちょっと子供っぽすぎないかな?それにいつ見てもあの髪型なんだよね。たとえば時雨ちゃんは、オフの日は三つ編みほどいた格好でお出かけしてるし」
扶桑「そのあたりは本人の好みですから。男の人があまり口出しすべきではありませんよ。女性の髪はチャームポイントではありますが、見世物ではないんですよ」
提督「むむ」
扶桑「ふふ、艦隊指揮能力は優秀でも、女の扱いは年相応ですね」
提督「うっ、仕方ないでしょ。海軍兵学校から現場での実践経験を積むように言われて放り込まれたんだから」
扶桑「わかってますよ。ここは最前線の激戦区というわけでもない後方基地。止まり木のようなものですから」
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提督「扶桑さんはああ言ったものの…」
提督「やっぱり気になる。違う髪型の満潮ちゃんを見てみたい」
提督「そうと決まればさっそくお願いしてみよう」
提督「みっちしおちゃーん!」
満潮「…なに?」
提督「ちょいとお願いだ。なにも言わずにその結んだ髪をほどいてほしい」
満潮「はぁ? イヤよ。直すのに時間がかかるもの」
提督「そこを何とか。雰囲気の変わった満潮ちゃんが見たいんだ」
満潮「見たい、って…。どうして私が司令官の要望に応えなきゃいけないの! 意味わかんない!」
提督「だってさ。子供っぽいお団子頭よりもっと大人びた髪型のほうが似合うっぽい?んじゃないかって」
満潮「ッ!! 似合おうが似合うまいが、私の勝手でしょ! 私はこの髪型が気に入ってるの!」
提督「う、うおっ。そんな怒らなくても」
満潮「……平和ボケしてないで、少しでもマシな作戦練りなさいよ」
提督「か、艦隊指揮はちゃんとやってるだろ? 年少だからって馬鹿にしないでくれよ」
満潮「ふんっ、こんな後方の海域で無事に指揮したつもりになってるなんてね。まったく、なんでこんな子供の指揮下に配属されたのかしら」
提督「満潮ちゃんだって同い年くらいだろ」
満潮「……貴方よりは地獄を見てるつもりよ」
提督「え?」
満潮「ふんっ」
提督「行っちゃった…」
提督「ねー、山城さん?」
山城「なんですか提督? 不幸の手紙なら間に合ってますよ」
提督「間に合うものなの?それ? ま、いいや。山城さんは戦場で地獄をみたことある?」
山城「何ですか、急に? 戦場で地獄、っていうより、戦場そのものが地獄だと思いますけど」
提督「それはそうなんだけど」
山城「提督はまだお若いから、そんなにひどい戦地には担当させられないと思いますよ。怖がらなくても大丈夫」
提督「別に怖くなんか……いや、やっぱり恐ろしいかも。自分の判断ミスで山城さんたちを沈めちゃうかもしれないと思うと」
山城「ふーん。でも、提督の指揮は堅実だと思うわよ。まだ行ける、って言ってるのに撤退させるんだもの。オマケにすぐ入渠してケガを治せって…おかげで私はドックにいるほうが長くなってるわよ」
提督「それは山城さんの被弾が多…」
山城「……」
提督「あ、いや、大事をとって欲しくて」
山城「ま、いいわ。提督は若いなりに頑張ってるし、私達を気遣ってくれてる点については、私も姉様も信頼してるんだから!」
提督「ありがとう」
山城「でもどうして急に戦場が地獄か?なんて聞くのよ?」
提督「それは…いや、自分が戦場を知らない未熟者じゃないかなって思っちゃって」
山城「手柄を求めて私達を駒扱いする経験豊富な名将になるよりは、命を預けられる未熟者のほうがいいわね」ギュッ
提督「ふわっ!?」
山城「赤くなっちゃってカワイイんだ~。(姉様にちょっかい出す前に)私がもらっちゃおうかな~?」
提督「や、山城さんっ!」
山城「なぁんて冗談…」
提督「僕、年上とショートヘアの人は対象外なんです!!やっぱり同年代で、髪はロングのほうが好みなんです!!」
山城「」
提督「じゃっ!ごめんなさい!」スタコラー
山城「」
山城「……不幸だわ」
提督「満潮ちゃんの言う地獄と、髪型を変えないことが繋がってるのかわからないけど…」
提督「やっぱり…色素の薄い髪をストレートに下ろして、あの寂しげな表情で微笑んでくれると絵になるだろうなぁ、満潮ちゃん」
提督「あきらめないぞ。ぜったいその髪型を変えさせてやるからな!フフフフ…」
提督「っと、その前に今日の任務はしっかりこなさないとな。やるべきことはやらないと…」
別の日
提督「よし、今日こそ満潮ちゃんの髪型を変えてやるぞぉ」
提督「おーい、遠征に出かける駆逐艦の皆ぁ!」
朝雲「ん」
山雲「はい~?」
時雨「やぁ提督」
満潮「…」
提督「みんな大変だとは思うけど、大事な任務だからよろしく頼む」
時雨「もちろんだよ。提督、わざわざ見送りに来てくれたのかい?」
提督「それもあるけど、日差しが強いから皆にこれを渡しておこうと思って」
山雲「麦わら帽子?」
朝雲「あら、気がきくじゃない… っと、この髪型だとうまく頭にはまらないわね。今日はおさげにしておこうっと」
提督「おっ! 朝雲ちゃん、いつもと違う髪型もいいね!」
山雲「新鮮で素敵ですぅ~」
朝雲「そ、そう? おだてたって何にもないんだからねっ」
提督「あはは、ホント似合ってるって。 そうだ、満潮ちゃんも帽子かぶるんなら、髪型変えたほうが…」チラッ
満潮「…いらない」
時雨「えっ?」
朝雲「ちょっと!?満潮!」
満潮「別にそんなに日差しも強くないし、今までだってこのくらいの中で出撃したでしょ」
提督「ええーっと…でもまぁ、無いよりはあったほうが…ほら、朝雲ちゃんみたいに髪型変えて帽子被ってみたらどうかなぁ?」
満潮「いらないって言ってるでしょ!」バシン
提督「わっ!」
満潮「何なのよ、貴方! 私達はこれから危険な海上へ出るのよ? 敵とやり合うかもしれないのよ!? それなのに女の子を愛でてヘラヘラヘラヘラっ…」
提督「う、うぅ…」
時雨「み、満潮、落ち着こうよ。提督だって悪気があったわけじゃない。彼は僕たちと同年代なのに指揮もしっかりとっているじゃないか」
満潮「ふんっ、危なくなったら撤退させてるだけでしょ! そんなの前線じゃ通用しないわよ!」
提督「そんな…こと」
満潮「貴方みたいなのに任せたら、私の仲間がまた…っ」
提督「!?」
朝雲「満潮っ!」
満潮「っ!」
山雲「満潮ちゃん…」
扶桑「あらあら? 険悪な雰囲気…なのかしら?」
提督「扶桑さん」
時雨「だ、大丈夫だよ! 今から遠征に行くところだったんだけど…提督が見送りにきてくれたからテンションが上がっちゃったんだ。 ね?」
山雲「そ、そうです、そうですぅ。さぁ、ソロソロ出発しないと~」
満潮「……」
朝雲「ほら、満潮も!行くわよ!」
満潮「……ふん」
提督「うう…満潮ちゃん、僕のことキライなのかな」
扶桑「あの子は柔らかい対応が苦手なだけですよ。戦いに対しては、特に…」
提督「うーん。前に言ってた『地獄』ってのと関係あるのかな?」
扶桑「提督? あまり女の子に昔の事を聞いてはいけないんですよ」
提督「そうなの?」
扶桑「女の子には触れてほしくない過去もあるんです」
提督「おおっ! 何かカッコイイ!」
提督「あれ?でも山城さんは自分で昔の事を話してたような」
扶桑「えっ?あの子ったら…」
提督「昔あった不幸自慢を延々と…」
扶桑「山城…可哀想に…」
また別の日
提督「この間は満潮ちゃんを怒らせちゃったからな。今日はうまくやらないと」
提督「みっちしおちゃーん!」
満潮「…何?」
提督「満潮ちゃん!前回の出撃でMSV…じゃなかったMVPをとったでしょ!だからご褒美をあげよう!」
満潮「あんなの活躍したうちに入らないわ」
提督「まぁまぁそう言わずに…じゃーん! 満潮ちゃんに似合いそうなワンピースを用意しましたー! これ着て出かけない?」
満潮「はぁ?何それ? そんなフリフリした可愛らしいの、私には似合わないわよ」
提督「そぉんなことないってぇ~。 あ、でも!髪の毛はストレートに下ろした方が似合うかもなぁ~」
満潮「またそれ?」
提督「絶対似合うって! ね、イメチェンしてみよ?」
満潮「い、や、よ! 馬鹿な事を言ってないで、作戦や采配を洗練させなさいな」
提督「うぅ…ごめん。やっぱりこの前の帽子のこと怒ってる?」
満潮「…そうね。この前っていうか、今回もだけど」
提督「ぐ…」
満潮「こんなこと続けるなら、もう司令官とは口聞かないから」
提督「そ、そんな…」
満潮「反省して」
提督「…」ショボン
満潮「……」
満潮「…」ヒョイ
提督「あ」
満潮「でも…せっかくだからこのご褒美はもらっとくわ」
提督「満潮ちゃん!」パァァ
満潮「ちょっと! へんな勘違いはやめてよっ!」
スタスタ
満潮「まったく…司令官にも困ったものだわ」
「素直じゃないわね」
満潮「っ!?」
朝雲「ホントは司令官に構ってもらって嬉しいんじゃないの?」
満潮「朝雲…やめてよ、あんな子供に構ってもらっても危なっかしいだけよ」
山雲「でも~ 満潮ちゃん、ホントはみんなと楽しく交ざりたいのに、我慢してるみたいに見えますよ~」
満潮「そんな…私は別に」
朝雲「司令官とも仲良くすればいいのに」
山雲「別に~恋人同士にな~れ、って訳ではありませんよ~。 …あ、でもぉ、司令官さんは私達と歳も近いし~、狙ってもいいかも~」
満潮「勝手にしなさいよ」
朝雲「髪型」
満潮「!」ピクッ
朝雲「変えたくない理由、ちゃんと司令官に言ったの?」
満潮「…」
朝雲「司令官ならわかってくれると思うけど?」
満潮「そんなの…つまんない同情されるだけよ」プイッ
朝雲「…」
山雲「…」
そんなある日
提督「最前線での支援任務?」
扶桑「はい、大規模な攻略作戦で、私達は主力艦隊の援護にまわされます。当然、これまでの後方での作戦より…厳しい戦いになりそうです。」
提督「いよいよ激戦地での作戦行動か…」
扶桑「大丈夫。私は提督の指揮を信じています。これまでの任務も、地味ながら提督は堅実に果たしてきました。演習でも実戦に即した判断をくだせていると思いますよ」
提督「ありがとう、扶桑さん。満潮ちゃんには相変わらず叱られっぱなしだけど」
扶桑「本当は満潮ちゃんだって提督のこと、認めていると思うんですけどね」
提督「そうなの!? そうは見えないけど…」
扶桑「それは提督のアプローチがへんた…個性的すぎるからですよ」
提督「いま何か言い直さなかった?」
扶桑「前にも言いましたが、女の子が気に入っている髪型を無理やり「変えろ」というのは反発されて当然です!」
提督(だけど…見たいものは見たいんだ)
ー
作戦行動中
ドゴォォン ドゴォォン ワァァ ギャアアア
提督「これが…前線か」
満潮「何よ、臆病風に吹かれたの」
時雨「提督、落ち着いて。提督が戦うわけじゃないんだから。提督のいる指揮船はまだ安全圏だよ」
提督「そう、だね… あくまで僕たちは支援行動。最前線の主力艦隊へ援護を行うことが第一目標だ」
最上「そうさ、やるべき事をひとつずつやっていこうよ」
時雨「いつもどおりの提督の指揮なら大丈夫。佐世保の時雨が保証するよ」
提督「うん。作戦通達から今まで、何度もシミュレーションしてきたんだ。皆、よろしく頼む。絶対皆を無事に帰らせるから!」
艦娘たち「「はいっ!!」」
アタッテー ウワァァ キャア オヨウフクガー
提督「始まった…」
山城(無線)「と言っても今の所、私達がすることはないわね。敵への牽制くらいかな」
提督「主力艦隊の司令も、自分たちの戦力で敵に当たることを考えてるみたいだね」
扶桑(無線)「そのほうが手柄を独占できますからね」
提督「それで自分とこの艦娘の皆が傷つく確率があがることは考えないのかな。協力して当たればいいものを」
山城(無線)「混成部隊による指揮系統の混乱を避けるって効果もあるし、あながち間違いとはいいきれないわ」
最上(無線)「僕たちが横から目を光らせてることで、敵はやりにくいかもしれないし」
提督「今はそう考えようか」
満潮「さすがに大きな戦いだけあって、今回は司令官も髪型については言ってこないか」
朝雲「なぁに?司令官に言い寄られなくて寂しいの?」
満潮「な、なに言ってるの」
山雲「帰ったらい~っぱい可愛がってもらえばいいんですよぅ」
満潮「しょーもない無駄口たたいてないで、敵艦隊に睨みを利かせてなさい。ここを抑えておくのも重要な……え?」
ぴー!ぴー!
提督「朝雲ちゃんから緊急入電!?」
朝雲(無線)「司令官っ!大変っ!横合いから深海棲艦が」
提督「搦め手を狙ってきたか。数はどのくらいいるの? 別働隊ならそんなに多くはないはず…」
朝雲(無線)「た、大軍」
提督「報告は的確に! およそでいいから数は?」
朝雲(無線)「戦艦クラスが6、巡洋艦クラスが10はいるの!あと駆逐艦がたくさん!」
提督「なっ!?なんでそんな数が、主力艦隊の相手をしてる敵より多いじゃないか!? 横腹をつくために温存してたのか?」
提督(どうする、どうする…主力艦隊と相手をスイッチするか? 現在主力が相手をしている敵を僕たちが引き受けて…いやこの状況下ですみやかな反転と入れ替わりは無理か)
朝雲「司令官…っ!?ちょっ、満潮、無線とらな…」
提督「?」
満潮(無線)「司令官…しっかりしなさい!」
提督「満潮ちゃん」
満潮(無線)「私が前線で暴れて気を引いてくるわ。その隙に撤退しなさい」
提督「はぁ?」
満潮(無線)「安全策をとるのが貴方の用兵でしょ? 扶桑さんや山城さん、時雨たちは温存させなさい」
提督「温存って…満潮ちゃんを犠牲にしてかっ?」
満潮(無線)「全滅よりマシでしょ。私が入渠中に全滅より、私一人の損害で温存できるなら…そのほうが良いのよ」
提督「ばかっ!そんな温存策に意味は……ん?温存?」
満潮(無線)「それぐらいしか切り抜けられないでしょ!」
提督「待てよ…待てよ… これがこーしてあーなって…」ブツブツ
満潮(無線)「ん?司令官?」
提督「今すぐ僕もそっちへ行く。それまで扶桑さん、山城さんを中心に防御陣形。いいね?」
満潮(無線)「はぁ?」
満潮「ちょっ! どういうことよ! 司令官?司令官!」
扶桑「こちらにも無線が聞こえたわ」
朝雲「扶桑さん…」
扶桑「満潮ちゃん1人を犠牲にはできないわ」
最上「そうだよ、みんなでカバーし合えば切り抜けられるよ」
満潮「そんな綺麗ごと言ったって…現実には…」
「できる」
満潮「えっ? 司令官っ!」
提督「お待たせ。主力艦隊の司令には話を通してきた。これより僕らは支援任務を離れ、単独行動に移る」
山城「どうするんですか? ここから私達が無事に逃げ切られる幸運なんて持ち合わせてないですよ」
提督「逃げるっていうより進むんだ。前に!」
山雲「ま、前って~」
時雨「僕たちだけで敵と戦うの!?」
提督「戦うんじゃない、突き抜けるんだ」
満潮「敵中突破しろってこと?」
提督「まぁね」
扶桑「何か考えがあるんですね。わかりました、提督を信じましょう」
山城「どのみち後ろに逃げても追いつかれて包囲されそうな状況ですもんね。扶桑姉様が信じるなら私も信じましょ」
最上「じゃあ提督の乗ってる船を中心に陣形を組み直そう」
満潮「司令官、足手纏いにならないでよ」
朝雲「置いてくわけにもいかないでしょ」
提督「じゃあ地獄めぐりと行こうか、よろしく頼むよ」
提督「いざ突撃!総員、奮起せよ!」
艦娘「「了解!」」
ドオォォン ドドーン ババババッ
最上「航空機、出来るだけエアカバーを」
提督「敵を倒すことは考えなくていい。近づけさせず追い払って」
深海棲艦「キシャアッ」
時雨「おっと、あっちへ行ってよ!」ドォン
深海棲艦「ギャア」
ドォン ドォン バシャーン
朝雲「山雲!ついてきてる?」
山雲「はい~、負けませんよ~」
バァン バァン ヒューン ボシャーン
扶桑「一気に、駆け抜ければ…そうは当たらないものよ」
山城「ううっ、でもなんか嫌な予感が…」
提督「大丈夫…もうすぐで敵陣を突破できる!」
ドカン
山城「きゃあっ!!」
提督「山城さん!?」
扶桑「山城!? 大丈夫?」
山城「やだ魚雷が当たった…くっ、各艦は私を顧みず前進してっ」
扶桑「そんなことできないわ。引っ張ってでも連れてきますから」ガシッ
山城「姉様…だめ、敵が寄って来ちゃう」
提督「くっ!」
満潮「えぇい!寄るな寄るなぁ!離れなさいよっ!」バンバン
深海棲艦「チイッ」
扶桑「満潮ちゃん、助かったわ」
提督「満潮ちゃん、あんまり出過ぎると危険だ、隊列に戻って」
満潮「くっ…少しでも足止めするから、早く行きなさい」
時雨「あっ!満潮が…」
最上「隊から離れた所を狙われてる!?」
時雨「提督…どうするの?」
提督「……」
満潮「みんな行って! 後から追いつくから」
山城「満潮ちゃん…ごめんなさいぃ、私のせいで…」
提督「…扶桑さん、山城さんは弾数を温存しつつ、みんなを連れてこのまま進んで」
扶桑「提督…ッ」
山雲「そんなぁ~」
朝雲「満潮を見捨てるっていうの!?」
満潮(敵に囲まれた、か。司令官、あとは上手くやりなさいよ)
満潮(いよいよ私も“あの子たち”のところへ逝くのね)
提督「扶桑さん、山城さん、こいつを借りるよ」
扶桑「え」
提督「満潮ちゃんは…」
山城「ちょっと。それ、そういう使い方じゃ」
提督「僕が助ける!!」
満潮「くっ…うぅ」ボロボロッ
満潮「ここまで…か」
深海棲艦「オオオオォォ」
満潮「ッ」ギュッ
「みっちしおちゃ~ん!!」ズバッ
深海 / 棲艦「ギャアアア」
満潮「司令官ン~? ちょっ…なにそれ」
提督「扶桑さんと山城さんの飛行甲板を借りて…足場にね」プカプカ
満潮「そんな使い方あったの!?」
提督「無いよ。満潮ちゃんを助けたかったから無理やり使った」プカプカ
満潮「はぁぁ?」
提督「ほら、まだ動けるよね。露払いは僕がするから、先に行かせたみんなに追いつくよ」
満潮「露払いって…司令官、戦えるの? 」
提督「船上での戦い方は、兵学校で叩き込まれたよ」
提督「おおりゃああぁぁぁ!!」斬!斬!
イ / 級 ハ / 級 「ギャー」
満潮「すごい…ホントに戦えてる」
提督「と言っても、踏ん張りが利かないから騙し騙しだよ。相手を倒すより、一気に駆け抜けるよ?」プカプカ
満潮「ええ」
提督「生き残れたらお願いがある」
満潮「何よ、また髪型のこと?」
提督「そう。と、言いたいとこだけど、教えて欲しいんだ」
満潮「何を?」
提督「その髪型にこだわる理由」
満潮「……生き残ったらね」
提督「わかった。じゃ、いくよ!」
扶桑「やった!なんとか突破できたわ!」
最上「提督と満潮ちゃんは!?」
山城「神様、私は不幸でいいから…あの2人は助けてあげて」ギュ
時雨「でも、どうしよう。ここで待ってたらすぐ敵に追いつかれちゃうよ」
朝雲「…あ! 来た! 来たわ!」
提督「お待たせぇぇ」
満潮「ぜぇ、ぜぇ、はぁはぁ」
山雲「満潮ちゃん~、大丈夫ぅ~?」
満潮「なんとか…生きてる」ハァハァ
提督「満潮ちゃんは休んでて。他のみんなは、疲れてる所悪いけど、砲撃戦の用意!」
扶桑「!」
時雨「ええっ!?」
朝雲「攻撃に移るの!? じゃ、なんで敵中突破なんてしたのよ」
扶桑「そう…そういう作戦だったんですね」
山城「姉様?」
扶桑「主力艦隊の司令官とお話は?」
提督「ついてる。そろそろ態勢を立て直して敵に当たってる頃合いだ」
最上「まさか…提督、ここから…」
扶桑「敵を挟み撃ちにするおつもりですね。その為に消耗する前に最短で敵の包囲を突き抜けた」
敵新手→少年提督部隊 味方主力艦隊→当初の敵
からの
少年提督部隊→敵新手←味方主力艦隊→当初の敵
扶桑「囲碁でいうコウに持ち込んだわけですね」
提督「そんなところ。お互い拮抗して、お開きになると思う」
満潮「……」ハァハァ
満潮(司令官、そんなことまで考えてたんだ)
満潮(結局、決め手に欠いた両軍は夜とともに撤退。戦果も被害も少ないというなんとも言えない結果に終わった)
満潮(ただ、司令官はマイナスの戦況をイーブンに持ち込んだ事は評価されたみたい)
提督「さて帰ろうか。僕たちの鎮守府に」
艦娘たち「はーい!」
満潮「あっ」クラッ
扶桑「満潮ちゃん」ガシッ
扶桑「提督、満潮ちゃんは艤装の損傷も体力の消耗も激しいわ。指揮船に乗せてあげて」
提督「うん。さぁ満潮ちゃんコッチへ」
満潮「ごめん…」
提督「謝る必要なんかないって。満潮ちゃんのお陰で山城さんも無事だったんだし
満潮「司令官のこと、ちょっと見直したわ。まさか戦闘までするなんて…」
提督「海を守るのが艦娘、艦娘を守るのが提督の仕事だからね」
満潮「何それ」クスッ
提督「カッコイイでしょ? あ、それより、帰ったら満潮ちゃんの入渠準備しなきゃ」
満潮「入渠……他のみんなにも勧めてよ」
提督「それは当然だけど…? そういえば満潮ちゃん、1人でお風呂嫌がってたよね」
満潮「それは……。そうね、1人で入渠は苦手…」
提督「あー、わかる。広いお風呂に1人だけって気後れしちゃうよね」
満潮「……」
満潮「ねぇ司令官? 戦闘中、髪型について聞きたがってたわね」
提督「うん? 教えてくれるの?」
満潮「一応司令官のおかげで生き残れたからよ。この髪型ね、形見なの」
提督「?」
満潮「前に所属してた鎮守府の友達がね。いつも私の髪型を整えてくれて、可愛い、似合ってるって、言ってくれたの」
満潮「私が入渠中に、全滅しちゃったけど…」
提督「!」
提督「そっか…だから他の髪型にしたくなかったのか。1人で入渠を嫌がるのも」
満潮「入渠してる間に全滅とか…もう嫌だから」
提督「それが前に言ってた地獄…。そっか……よし!」
満潮「?」
提督「なら、満潮ちゃんはこれからみんなと一緒に入渠すること! 満潮ちゃんが入渠中は大きな作戦には行かないようにするから安心して!」
満潮「そんな…そんなの、私一人のためにみんなを巻き込むなんて!」
提督「みんなも協力してくれると思うけどなぁ。気になるなら満潮ちゃんがウチで最も練度が高くなればいい」
満潮「は?」
提督「満潮ちゃんが主力になれば、艦隊に欠かせなくなるからね。1人だけ置いて作戦を開始なんてできなくなるよ」
満潮「れ、練度最高って…まさか?」///
提督「?」
満潮「な、なんでもないわ!」
提督「う、うん? じゃあ鎮守府に着くまで休んでて。僕はそばに居るから」
満潮「……司令官、少し眠っていい?」
提督「いいよ。着いたら起こすから」
満潮「……寝ている間はなにも言わないわ。髪をほどきたかったら…チャンスよ」
提督「っ!?」
満潮「お、おやすみ」コテン
提督「むぅ」ジーッ
満潮「……」スゥスゥ
提督「……」サワッ
満潮「…ん」ピクッ
提督「…せっかくだけどやめとこう。寝込みを襲って髪型を変えても仕方ないからなぁ。満潮ちゃんが自分から変える気になるのを気長に待つかぁ。おっと独り言が多いと満潮ちゃんが起きちゃうな」ナデナデ
満潮(…ホント、変な司令官。でも……)
満潮「…………ありがと」
後日
満潮(朝潮、大潮、荒潮……ごめんね。みんなの事を忘れるわけじゃないわ)
コンコン
満潮「司令官、満潮よ」
提督「満潮ちゃん? どうぞ~」
ガチャ
提督「どうしたの満潮ちゃ……おおっ!?」
満潮「……この髪型、似合う…かしら?」
終わり
※劇中では少年提督が飛行甲板をボードがわりに使用していますが、危険ですので絶対に真似をしないでください。
止むを得ず提督が戦場へ出る場合は、スクリューモジュールかテスラドライブの装備をオススメします。
おわり
脱字に関してはすまんかった
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません