吹雪「目覚めると、そこは如月ちゃんのパンツだった」2 (1000)
如月「2スレ目よ吹雪ちゃん!」バタァン!
吹雪「まさかのね……」
吹雪「えーと、このSSを読むに当たっての注意点です」
吹雪「このSSには
キャラ崩壊
オリキャラ化
ちょっぴりバカエロ
などの成分が含まれる可能性……とかじゃないね。含まれます」
如月「(言い切った……)」
吹雪「艦隊戦を忠実に再現した戦闘シーンもあります」シレッ
如月「虚偽報告!?」ガーン!?
吹雪「以上です。あ、あと」
吹雪「私、主人公こと吹雪はレズじゃありま」
如月「はーい、吹雪抜錨しまーす」ドンッ
吹雪「ちょっと!?」ドボーン!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457880659
※前スレ
吹雪「目覚めると、そこは如月ちゃんのパンツだった」
吹雪「目覚めると、そこは如月ちゃんのパンツだった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457880659/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466645512
伊58「保守でち」
重ねて言うけど俺は運営の伊吹さんとは何の関係もない別人です←
2スレ目から読み始める人もいるだろうし、最初の方はほのぼの系でやりたいですね←
おまたせ! ほのぼのしかないけど、いいかな?←
投下開始
――――小島、浜辺、落ち行く赤い太陽の下で
対潜攻撃を行いつつ、吹雪たちは小島に明石を座礁させる事に成功した。
潜水艦も、ここまでは追ってこれない。
対空射撃が届かない遥か上空を、偵察機が単機、彷徨いていた。
利根の瑞雲が、何とかそれを数の暴力で追い払う。
利根「一匹か二匹かは知らぬが、潜水母艦も紛れているようであるな」
吹雪「ええ、そのようですね……明石さん、意識ははっきりしていますか?」
明石「なんとか……」
明石の艤装は、もう微速程度でしか航行できないほど破損していた。
答える声も、また弱々しい。
如月「……どうするの?」
おずおずと、不安な様子を隠しきれずに如月は訪ねる。
毅然として、吹雪――提督とも――は言った。
吹雪「迎撃するよ」
吹雪「このまま逃げて、鎮守府の場所が割れたら終わり……せめて、奴らには撤退してもらわないと」
利根も頷き、水平線を見定める。
獲物を見つけた鮫のように、潜水艦がある程度の深度の海域に留まっているのが見えた。
利根「いけるか?」
吹雪「やります。やらねばならない」
利根「……そういう奴であったな、お主は」
連装砲を構え、異常が無いことを確認して、吹雪は着水する。
艤装のタービンが唸りを上げ出した。
追って、利根も。
如月「――わ、私も!」
吹雪「…………」
如月「私も……行くわ! もう、置いていかれるのは嫌よ!」
如月も、吹雪の側に慌てて抜錨する。
そのせいでよろけてしまった体を、吹雪が咄嗟に支えた。
吹雪「うおっとと」
如月「あ……ご、ごめんなさい」
吹雪「……ふふ。やる気があるのは良いけど――でも」
微笑みも一瞬。
吹雪「――着いてくるなら、絶対に沈まないで。約束、ね?」
如月「――ええ、約束するわ。危なくなったら?」
吹雪「逃げて。私が守るから」
如月を見もせずに、彼女はそう言って。
だから如月は、少し寂しそうにこう返した。
如月「……分かったわ。お願いね」
吹雪「もちろん。明石さん、暫く待っていて下さいね」
明石「了解です……こちらは気にせず、思いっきり暴れてきて、吹雪ちゃん」
眼前の敵のみを見据え、首肯のみで返事する。
深く息を吸って、強く声を発した。
吹雪「第一艦隊、抜錨――目の前の敵を叩く!」
――――決戦、潜水艦隊
波を切るような鋭さで、吹雪たちは戦場を駆る。
吹雪も利根もほぼ全開の機動を行っているが、如月も遅れずに必死に追従していた。
利根「瑞雲は飛ばしておる! どうする?」
吹雪「日が沈めば私たちが不利です。短期決戦でなければ――索敵と、浮上艦への攻撃を!」
利根「おう! もぐら叩きと行こうかの!」
潜水艦隊は水中に身を潜めている。
吹雪は海上を滑る最中、時たま飛び上がって水面を蹴り打ち――潜水艦の姿を捉えていて。
吹雪「(ほら、鬱陶しいでしょ。早く上がってこれば……?)」
アクティブソナーを使用する事により、吹雪の位置も敵に気取られてしまうが。
それもまた、挑発の意味を込めていた。
先ずは、奴らを炙り出さなければ。
如月「吹雪ちゃん――私は!?」
吹雪「私に着いてきて、爆雷投射! できるね?」
如月「もちろん! 私だって、駆逐艦なんだから!」
吹雪「頼もしいね! 利根さん!」
利根「任せておくのじゃ!」
利根が単艦で離れていく。
潜水艦に効果的な攻撃が出来るのは駆逐艦であって、航空巡洋艦の仕事ではない。
彼女には彼女の、役割があって。
吹雪「――右舷、爆雷投射っ!」
如月「え、えいっ!」
大まかな位置を捉えて、対潜攻撃を行う。
命中に期待はしていなかった。
普通の深海棲艦なら、堪らず顔を出すだろう――そこを、叩く。
吹雪「――出たな、そこ――か――?」
『飛び出して来た』のは、小柄な姫級。
何故、姫級かと判断出来たかは。
「――――!」
吹雪「どっ――せぇい!!」
如月「吹雪ちゃん!?」
その姫級が着水ざま、水面を駆けて吹雪の顔面を蹴り抜こうと飛び込んで来たから。
腕の連装砲を盾に受け止め、後ろに受け流す吹雪は――面食らいながらも立て直した。
背後に魚雷の音を聞く。
吹雪「――音無しのヤツ!」
今の攻撃に合わせて回り込んだのだろうか。
パッシブソナーで影を拾い、如月の手を掴んで全速航行する。
吹雪「思ったより賢い――如月ちゃん、振り切るよ!」
如月「ええ!」
すぐ脇を魚雷が通り過ぎる。
小柄な姫級が砲撃――噴進砲の雨を見舞った。
吹雪「なっ――機銃!」
如月「迎撃ね!」
大きく回避運動を取りながらの機銃掃射で、被弾は無かった。が。
吹雪「(出鱈目だ――潜水艦なら、それらしく魚雷だけ撃ってよ……っ!)」
爆風の影に隠れて、浮き上がってきたのは別の潜水艦。
空母型の深海棲艦のような浮き艤装を伴っていた。
如月「きゃあっ!?」
吹雪「しまっ――如月ちゃん!!」
急速浮上してきた大型の潜水艦が艦載機を放ち、その機銃が二人を分断する。
小柄な姫級が如月に向けて魚雷を放つ。
如月もそれに何とか反応し、艤装を走らせて避けるが――
如月「や、やった――!」
吹雪「――っ、如月ちゃん、まだ!!」
如月「えっ……!?」
魚雷が――反転した。
再び如月に向かって狙いを定め、泳ぐ。
如月「わ、わぁっ!?」
転ぶように海に倒れ、すんでの所で直撃を免れる――また、曲がる。
如月「も、もうダメ――」
吹雪「ちっ!」
投射機から爆雷を一つもぎ取り、魚雷の射線に投げ込んだ。
水飛沫が上がって、爆ぜる。
吹雪「如月ちゃん、立って動く!」
如月「え、ええ!」
周囲を見回す。
艦載機を飛ばした大型は――着艦待ち。
ふと、気付き。
吹雪「(何だ……なんで、コイツら)」
今周囲にいる深海棲艦は、姫級を除いて傷付いていた。
どうりで、数で圧倒的に負けているのにも関わらず立ち回れているのだ、と思い至る。
――なら、まずは。
吹雪「アレを、叩く!」
「!」
爆雷をわざと、当たらないように撒き散らす。
水飛沫に隠れて――吹雪は一気に接近した。
その潜水艦は急速潜航を試みるが――
吹雪「――もう遅い!」
頭から潜る――上に伸びたその足を、自らの脚部艤装で。
その艦首部で蹴り上げた。
悲鳴。
パッ、と血飛沫を上げながら。
――その深海棲艦の、左足が空から落ちてきた。
シャドウバース面白過ぎなんよなぁ←
投下終了
投下開始
――――しばしの闇に囚われ
吹雪「やった――っ!」
深海棲艦を一隻、行動不能にした。
それだけの事で、しかし刺すような殺気が吹雪の全身を貫く。
浮き艤装の潜水艦が吹雪に肉薄して。
吹雪「――!」
手刀が眼球を抉る寸前で、彼女は身を翻す。
その先に、深海棲艦の艤装。
――球体のそれが口を開き、魚雷を打ち出してきた。
吹雪「っ!」
それを咄嗟に、脚部魚雷管で受け――後ろに飛び退く。
爆発の勢いを殺して、しかし片方の発射管は酷く破損した。
が、本体に影響は無く。
深海棲艦が僅かに狼狽えたように見えた。
吹雪「悪いけど、特別製でね!」
装甲を厚くしたソレが、多少の無茶を彼女に許す。
如月の砲撃が、その深海棲艦を吹き飛ばした。
艤装を身代わりに、それは海面を転がる。
如月「吹雪ちゃん!」
吹雪「大丈夫!」
魚雷が流れてくるのを尻目に、吹雪は如月の手を取って再び海を駆けて。
ソナーで敵の動きを探る。
吹雪「(――一隻は、さっきの足無しを拾いに行ったのか……もう一隻もさっき砲撃をまともに貰った)」
吹雪「あと三隻、そろそろ焦れてほし――如月ちゃん、避けるよ!」
如月「ええ!」
小柄な潜水艦の噴進砲が雨霰と降ってくる。
二人は蛇行し、一波を避けた。
吹雪「!」
手を繋いだまま、吹雪が脚部艤装のスクリューを逆回転させ――急ブレーキ。
如月を加速させるように円回転させる――二波。
手を放し、如月が先行した。
吹雪は潜水艦の狙いを惹き付け、急加速――三波。
如月の差し出した手を握り、ダンスの様にクルクルと、海を舞う――四波。
――どうやら、雨は止む。
如月「――すごいわ。自分の体じゃないみたい」
吹雪「如月ちゃんも、そのくらい出来るって事だよ。皆、壁を作ってるだけでさ」
海域を縦に踊りきって、更に撹乱する。
対潜爆雷を撒き散らして、敵に煩わしさを与えて。
だから漸く、一隻が――
――――離れて、睨むのは狙撃手か
「――――!」
激しい戦場から少し距離を置き、一隻の深海棲艦が浮かび上がった。
魚雷を発射するため、長距離からの命中をより確実にする為。
――延いては、敵を沈めて仲間を助ける為。
魚雷を構え装填する音を。
――発てる。
利根「ようやっと顔を出したか。待ち侘びたぞ」
「!?」
至近弾に、その潜水艦は驚愕する。
気付かれていたとしても、対応が早すぎる――しかも、距離は、やはり取れている。
そんな場所から、夕闇の中で、砲撃などを当てられる――筈は無いのだから。
利根「もうちと暗くなれば、我輩の瑞雲も下げねばならぬ所だったが――やれやれ、丸見えであるぞ」
もう一撃、次は。
「――――」
直撃。
砲弾の爆裂を確認して、艦載機は引き上げた。
利根「さて……合流と行こうかの。我輩の火力を御見舞いしてくれようぞ!」
――――夜の闇を迎えて
遠くで、爆音を聞く。
吹雪「――やったか!?」
炎と、水平線を確認する。
チカチカとした信号光を捉え、成功した事を把握できた。
深海棲艦が浮き足立つ。
どうやら、あれが旗艦だったようだ。
小柄な姫級が一目散にその救助に向かう、が。
利根「そう簡単にはやらせぬぞ?」
「!」
吹雪「利根さん!」
合流しようとしていた利根と真正面から鉢合わせる。
すれ違いざまの砲撃を――しかし、易々と躱して、その深海棲艦は飛ぶような早さで泳いでいった。
吹雪「むっ」
音無しと足無しが浮かび上がってくる。
沈む寸前で持ちこたえたのだろうか、逃走する様に――西へと進む。
浮き艤装の潜水艦も立て直し、それを護衛するように付き従っていた。
――逃がしなどしない。
利根「我輩達の勝ちのようだな……追うか?」
吹雪「ええ、ここでケリを付けます!」
小柄な姫級も、同じ場所を目指しているのか――旗艦を曳いて西へ。西へと向かっていた。
その様子に、如月は何とか、と。
――一息吐いた。
背後から、最後の一隻が飛び出す。
如月「えっ――」
吹雪「――しまっ――!!」
近接し、この距離なら外さないとばかりに魚雷を一本、如月に向けて放った。
吹雪が爆雷を投擲する。
相殺して水柱を上げながら、吹雪は如月の前に立ち塞がった。
潜水艦が肉薄する。
突撃を受け、吹雪は転倒し――潜水艦に組み伏せられた。
如月「――吹雪ちゃん!?」
魚雷を、叩きつけられる。
連装砲で受け止め――炸裂した。
艤装が一撃で粉微塵になり、両腕が焼け付く。
吹雪「(――何だ、この火力!?)」
艤装で守れば受けきれる、そんな段階を遥かに通り越した魚雷火力。
爆風に巻き込まれないように翻った潜水艦から再度発射された魚雷を、水面から起き上がりざま――余った魚雷管で蹴り返す。
――艤装の接続部から先が爆風で持っていかれた。
利根「吹雪!」
利根がその潜水艦に応射する。
が、その潜水艦はそれだけで仕事を完了したかの様に潜水。
そのまま、泳いでいった。
事実、深海棲艦に十分な時間を与えてしまったようだ。
今から、この艤装の惨状で追うとなると――
吹雪「……やられましたね」
利根「してやられたのう。ま、奴等は西へと逃げておる。向こうは我がトラックの海域よ」
利根「逃げ仰せた所で、助かるまい」
必死に逃走する深海棲艦を見ながら、とりあえず、と。
如月「か、勝った……のかしら?」
利根「うむ!」
吹雪「アイタタ……私だけ負傷かぁ……面目無いや。だけど」
吹雪は如月を見て、微笑んで。
吹雪「――第一艦隊、作戦成功。これより帰還します!」
小さな小さな、勝鬨を上げた――
投下終了
>小さな小さな、勝鬨を上げた――
http://i.imgur.com/brA5gqI.jpg
>>101
(正直書き終わった時に「あっ」ってなったのは内緒だ!)
アルティメット謝罪します。
見直して気付いたエクストリーム誤字があります。
龍譲→龍驤
龍驤「今までのウチは脳内保管で頼むでホンマ!」
重ねて誤字マジすんません←
投下開始
――――小島、夜闇の凱旋
明石「……っ。帰ってきた!」ガバッ
ザッ
吹雪「何とか到着、っと。航行には支障ないね」
如月「でも、良かったわ……当たり所が悪かったらと思うと」
利根「しかし、すっかりと夜になってしまったのう……ここから帰るには眠気で骨が折れそうじゃ」
明石「み、みなさーん! よくご無事でー!」ヨロヨロ
利根「お。出迎えずとも良かったのだが」フハハ
吹雪「無茶はしないで下さいよ。明石さんの方が被害は大きいんですから」ササエ
如月「吹雪ちゃんも大概よ?」クスクス
明石「あー、吹雪ちゃん艤装ボロボロですもんね。かなり暴れましたね?」
吹雪「それなりには」ハハ
明石「……敵艦隊は?」
吹雪「沈めれはしなかったけど、かなりの損害は与えられました」
利根「ま、元々かなり傷付いていた艦も居たようであるが……それでもの」
如月「逃げられちゃったけれど、西に向かっていったから……大丈夫、なのよね?」
利根「うむ。あの程度の手負いなら、我がトラック鎮守府の警戒海域に入れば忽ちに迎撃してしまうであろうな」コク
明石「そうですか……ともかく、無事で何よりです」
利根「おう……さて、吹雪よ。今日はこれからどうするのじゃ?」
吹雪「……この島は夜営に向いていません。近海にはもう目立った深海棲艦も居ないでしょうし、軽く休んで……それから、鎮守府に向けて夜行しましょう」
如月「徹夜? お肌の大敵ね……」
吹雪「はは、日付が変わる前には帰れるさ。明石さんをドックに入れないといけないし、なるべく急ごう」
明石「重ね重ね、すみません……」
利根「気にするでないぞ。お主が完治した後は、吹雪の鎮守府にて装備の手入れが待っておるのだからな」フハハハ
吹雪「そうですね。艤装の強化などは、流石に私たちではできませんから……」
明石「そういう事なら任せて下さい! バリバリ働いちゃうんですから!」フンスッ
――――夜中の乙女は恋の話がお好き
吹雪「戦闘糧食しかありませんが、食べれますか?」スッ
明石「頂きます。むしろ、お腹は減っちゃってて……」アハハ……
如月「夜食は美容の大敵よ」モッモッ
利根「思いきり食っておるではないか」モグモグ
吹雪「さ、私もいただきます、っと」モッシャモッシャ
……………………
如月「……話題って訳では無いけれど、ちょっと良い?」
吹雪「ん、何?」
如月「あの……ご飯時にするって言ってた話が気になっているのだけれど、良かったら聞かせてもらえないかしら」
明石「」ブッハ
吹雪「うっぐ」
利根「……? 何じゃ何じゃ二人して」
如月「利根さんと筑摩さんと提督の話……って聞いたけど」
利根「――ああ……それでのう。二人も、そう気を使わんでもよかろうに」クックッ
吹雪「いやまぁ……」
明石「その、ねぇ?」
利根「ふはは。今となっては笑い話よ! なら」ドンッ
利根「軽く一杯やりながら、語らおうではないか!」フハハハハ
吹雪「艤装に酒仕込んどくの止めましょうよ……」
明石「帰れるくらいには、軽くやりますか」クスッ
如月「の、望むところだわ!」
吹雪「(あっ、嫌な予感)」
――――
利根「さて、何から話そうかのう。まず、我輩の妹である筑摩が……提督とケッコンカッコカリをする事になったのが始まりじゃな」
利根「ケッコンカッコカリ。ともすれば巫山戯た呼び名ではあるが、内容はと言えばそう馬鹿にしたものでもない」
利根「我輩たち艦娘の能力を増大させる儀式だとか、誓いだとか……兎も角、提督との強い結び付きが切っ掛けで――強く、美しくあれるのであろうな」
利根「それが証として、指輪を装備するのだがな」
如月「ケッコン……カッコカリ?」
如月「変な呼び方ね。ケッコンは……結婚? 婚姻の意味かしら」
明石「ええ、恐らくは」
如月「でもそれなら……カッコカリって? ホントに結婚するわけじゃないからって言っても……何だかカッコ悪いわ」
吹雪「――――っ」
明石「ん……どうかしました、吹雪ちゃん?」
――――ケッコン。カッコカリとはな。
吹雪「――どこかで聞いた事があります」
吹雪「ケッコンカッコカリは、元々の呼び方が誤った印象で伝わってしまった物であるって」
利根「ほう? それは初耳であるな」
如月「元々の呼び名って?」
吹雪「それは……確か――そう」
「『結魂』――皮肉って『恰好借り』……」
明石「……? 魂を、結ぶ――でよろしいです?」
吹雪「ええ。カッコを借りる、でカッコウガリです」
利根「絆を結ぶ、と言う意味で結魂ならば分からなくもないが……はて、恰好借りとは?」
如月「服とかをお揃いにするとか?」
吹雪「提督が筑摩さんの服来てたら脛毛が目立つよ」
明石「んっふ」
利根「……酒を吹き出してしもうたではないか」
吹雪「正直自分でもジワジワきてます」
利根「くくっ……ふん、まあよい……して吹雪、その記憶は一体何時のじゃ? 我輩も明石も初耳のようじゃが……それを一駆逐艦のお主が知ると言う、何かがあったのであろうか?」
吹雪「うーん……分かりませんね。何だか、今までとは違って――記憶に靄が掛かったみたいな……」
吹雪「――多分、誰かが教えてくれたんだと思います」
如月「……ふーん。何だかこんがらがってきたわ。それより利根さん、続きはー?」
吹雪「(ちょっと酔ってきてる……)」
利根「む。確かに話が逸れてしまっていたな」
利根「その話が我がトラックの鎮守府に来た時、我輩は自らこそがそのケッコン――謂わば強化であるな。それが相応しいと思っていたのじゃ」
利根「だがの……ケッコン、と名を冠した物じゃ。我輩らも女子でな」
利根「一般的には、提督が好いておる艦娘に与えると聞いておった。聞いておったのだが……」
利根「我輩らの提督は、そのような色恋には――真実、興味が無さそうに見えてのう。トラックの鎮守府は、恋人と言うよりは家族であったからの」
利根「――いや、それも今となっては……我輩の思い違いだったのであるがな」
利根「兎角、提督は筑摩を相手に選んだのじゃ。明確に、好いておるからと……皆に断りを入れてな」
利根「その時であったよ。未だ嘗て、それまで無縁であった孤独を感じたのはな」
利根「――我輩は業突く張りでな。何でも手に入ると思うていた」
利根「事其処に至るまで、我輩の、我輩自身が提督を好いて焦がれておった事に、気付きもせらなんだ」
利根「嫉妬もした。提督を恨みもした」
利根「心がざわついて仕事も儘ならぬ。なにより、なにより」
利根「そんな我輩を、いつも見ていなければならぬのが情けなかった……」
利根「頭では分かっていたのじゃ。姉である我輩であるから、筑摩が如何に、如何に素晴らしい女かは知っておる」
利根「――筑摩も、提督を愛しておった。お似合いだったのだよ」
利根「我輩は、置いていかれてしもうた――そう思った」
利根「それでも、良いと気付いたのは――筑摩の幸せそうな表情を見てから、だったのう」
利根「――だから、見かねた筑摩に……ケッコンを譲られそうになった時は――最初で最後の、大喧嘩になってしもうた」
如月「けんか!?」
吹雪「(かなり酔ってきてる……)」
明石「(今聞いても冷や汗が出てくるなぁアレ)」
利根「うむ。筑摩を海にぶん投げ、艤装を展開しての大立ち回りであったぞ!」
利根「我輩は筑摩を怒鳴り上げたのじゃ」
利根「『この利根が、妹の幸福を奪ってまで憚りたいと望んでいる――そう思っておるのか』」
利根「ともすれば筑摩は『姉さんが沈んでいるのを尻目に、幸福になれと申しますか』と返しおってな」
利根「もうこれ以上ない程の平行線であったよ。壮絶な撃ち合いでな」
利根「止めに入った吹雪が宙を舞ったのう。くくっ」
吹雪「何でこの人に勝てたんだろうってエピソードのその3ぐらいですかね……?」
利根「潜水艦らは怯えて近寄れんし龍驤は笑いながら酒のツマミにしておったわ」
明石「私は遠くでオロオロするばっかりでしたよ……」
利根「だがの。提督が割って入った時は流石に止まってしまった」
利根「頭を下げてな、『筑摩を、俺にくれ』と。態度と言葉がちぐはぐだったよ」
利根「だから我輩は、『我が妹を、宜しく頼む』と返したのじゃ。そしたら筑摩の奴、なんと『そうやって強がって! どうせ隠れては泣くんです!』とまで言いやがっての」
利根「だから言ってやったのだ。泣かぬ、絶対に泣きなどせぬ。妹を信頼できる男にやるのだ。そんな事をする必要がどこにあろうか、と」
利根「我輩を幸せにしたければ、まずお主がなれ。それを見守り、助けるのが我輩の幸福と知れ――そう言って、ハッとしたのだよ」
利根「何も、変わらぬのだと。共に歩くのは、昔と変わらず続いていくのだとな」
利根「それを聞いて、その様子を見て――筑摩も観念したようでな。大人しくなった」
利根「……そうであるな。我輩は、妹とその旦那を――延いてはあの鎮守府に住み生きる皆を守らねば――我輩の幸福と、皆のそれの為にな」
利根「……こんな事も、忘れておったのだ。情けない話であるぞ」
如月「なさけなくなんかないわぁぁぁ、とねさんはすてきなひとよ!」ダバー
吹雪「(べろんべろんでボロ泣きしてる)」
明石「(現場の惨状見たら泣けませんよ)」
吹雪「(母港半壊でしたしね)」
明石「(知ってます? お二人の瑞雲の妖精さん達の鬼気迫る表情とか)」
吹雪「(各々撃墜されてパラシュートで脱出したとこは見てます)」
明石「(その後泳いで母港に帰ってきてから取っ組み合いの喧嘩ですよ。妖精さんは穏やかな存在と思ってたんですけど)」
吹雪「(ほ、本人に影響を受けるんじゃないですかね……?)」
如月「でもすてきねー……ケッコン。あこがれちゃうなぁ……」ポワポワ
利根「まあ、巡洋艦として作られたとはいえ、何の因果か女子として生まれ直してしまった」
利根「その憧れなどは、分からなくもない」ククッ
如月「よしきめたわ! わたしも『ケッコンする』わ!」
明石「……この酔い方で帰れるんですか?」
吹雪「いざとなれば利根さんに曳いてもらいますよ」ハァ
如月「ふぶきちゃーん!」ガッバァ!
吹雪「わぁっ!?」ドテーン!
如月「んふー……ふぶきちゃ、いや……いまは『司令官』さん、かしらー」スリスリ
吹雪「ちょっ、ちょっと……退いて重い――利根さんこの子はがして!」
利根「話している間に取って置きの一本が空になっておる……」シューン
明石「……飲み過ぎですね」アハハ……
吹雪「もう!」
如月「えへへー……ふぶきちゃん、ちかいのチューねー」ガバッ
吹雪「ふむぐっ!?」チュッ
明石「あー……」
利根「ん? ……おぉ……また始めおったか」
チュッチュッ
明石「……?」
利根「はぁ……む、明石。見るに耐えんか?」
明石「いや……その、何だか」
明石「――様子が変だなって」
――――魂を結びて、その恰好を借り、常世に憚りてこの大海を往く
熱い。
まず感じたのは、唇から体内に潜り込むような――胸が焼け付く程の熱。
覆い被さって口付けを交わす如月の様子を、クラクラする思考で覗けば――彼女の頬も体も赤熱するほど、温かかった。
それでも、その違和を感じて尚、止めることが出来ない。
何かが違う。
それを、吹雪は感じていた。
舌を絡ませる音が、口内から直接脳髄を蕩かせる。
――意識していなかった。
まるで、そうしなければならない事が最初から解っていたかの様に、吹雪はそのまま起き上がって――如月を押し倒し直した。
如月「――ん、ふぅ……!」
明石「ふ、吹雪ちゃん……ちょっと!?」
見かねた明石の呼ぶ声を耳に入らない。
熱い。熱いんだ。
体が灼けそうだ。
この、私を――
如月「んっ、んっ……」
――これに、捩じ込みたくて仕方無い。
逃げる心配も無いのに、頬を押さえ、奥へ奥へと舌を差し込んで中を掻き回す。
お互いの唾液が混ざって溜まる。
それも如月の体内にと流し込む。
如月「んっ、んうぅっ……!」
その幼くも蠱惑的な肢体が蠢動する。
小さく小刻みに繰り返される絶頂に翻弄されながらも――その身体は理解していた。
この、足りない部分に、受け入れる事を。
この行為を介して、『吹雪』の魂が――『如月の艤装』を抽挿する。
空白の箇所を埋めていく。
それはまるで、子を宿すような幸福を伴って。
吹雪「…………!」
如月「んっ、んっ、んっんっ……!」
『吹雪の艤装』は、そんな必要も無かったが――すこしだけ、『如月』をチギって持っていった。
お互いの熱が、限界を迎える。
吹雪「う、っつ!?」
如月「あ、あつい……っ!?」
長いか短いかも理解出来ないほどの、濃密な瞬間で。
如月「吹雪……ちゃん」
吹雪「――わ、私……な、何を……?」
如月と対照的に、吹雪は混乱していた。
自分では止められない程の衝動が、それこそ何処から来たのかも分からない。
如月「あっ、あつっ……?」
如月が自らの、左手の薬指に違和感を感じて覗き込む。
そこには、いつの間にか――海より透き通るような輝きも持つだろう、指輪が。
――祈りが、その指にあった。
如月「――こ、これ」
利根「……! そ、それは――我輩は見覚えがあるぞ!」
明石「え、ええっ!?」
吹雪「――これって、まさか」
各々の驚きも、当然。
如月「け、『ケッコン、カッコカリ』……できちゃった?」
満たし、満たされて、何の因果か、証は刻まれてしまった――
投下終了
投下開始
――――夜更けの帰途、鎮守府近海
ザザァン……
利根「…………」
明石「…………」
利根「……のう、明石よ」
明石「……何ですか?」
如月「吹雪ちゃーん」イチャイチャ
吹雪「何でこんな事に……」ズキズキ
利根「あれは何とかならんのか……小島を発ってからずっとアレじゃぞ?」
利根「胸焼けがしそうじゃ……」ゲンナリ
明石「これって何て言うか知ってます? デキ婚ってやつです」
吹雪「誰がデキ婚ですか誰がぁ!!」ザババァッ
如月「あっ、吹雪ちゃん待ってー」スイー
吹雪「そもそもさっきまでべろんべろんだったのに、何でそんな軽快なのさ!?」
如月「ケッコンしてから何だか身体の悪いトコが全部飛んでいったみたい!」ニヘッ
吹雪「……これも副次効果なんでしょうか?」
利根「ふむ……確かに筑摩も体調が整ったという話はしておったな」
如月「吹雪ちゃん、ところで今日は新婚初夜になるのかしら?」
吹雪「カッコ、カリ!! 気の迷いでああはなったけど私はノーマルなの!」
如月「うっ」ジワッ
吹雪「あぁもう……ごめんごめん嘘、嫌いじゃないよー……」ダキッ
如月「うー……」スリスリ
利根「その流れも三、四回見たぞ」
明石「あはは……あっ、見えてきましたね。あそこが鎮守府の島ですか?」
吹雪「ええ。妖精さんがいるので、思ったより設備は整ってますよー」ナデリナデリ
如月「んふぅ……」
利根「とりあえず、明石は入渠すればよかろう」
吹雪「ええ。しっかり直して下さいね」グッ
明石「では、お言葉に甘えて」フフッ
――――鎮守府、母港、深夜
吹雪「よーし、何とか到着ですね」
利根「うむ。今日はこのまま休みたい所じゃが……」
妖精「」オカエリ
妖精「」シンイリカ
吹雪「あっ、妖精さん。明石さんをドックに案内してあげてもらえますか?」
妖精「」マカセロ
妖精「」ドックニコシツヲフヤシタゼ
妖精「」フタヘヤナ
利根「ほう、ちょうどよいな。吹雪、お主も身体を癒すと良い」
吹雪「そうですね。では先に頂きます」
如月「じゃあ私も吹雪ちゃんと一緒に――」
利根「如月はこっちじゃ。工厰で艤装の点検を軽く行うぞ」ガシッ
如月「ああっ、そんなぁ……」ズリズリ
吹雪「あはは……お願いします」
明石「押せ押せですねぇ、如月ちゃん」
吹雪「……多分、そうしてないと怖いのかもしれません」
明石「と、言いますと?」
吹雪「……一度、酷く心配させてしまって。だから」
明石「……ふふ。お風呂、行きましょうか」
吹雪「ええ。色々ありすぎて疲れました……傷を癒しましょう」
明石「わぁ、思ったより広い……」
吹雪「こっちに個室風呂があります……妖精さん働き過ぎですねぇ」クスッ
明石「(……生傷まみれ。心配もするでしょ)」ジッ
明石「……あ、じゃあ私そこ使います」
吹雪「ええ。自分はもう一つの方を確認して、そのままそこで一風呂浴びるとします」
明石「失礼しまーす……」ガラッ
明石「(檜風呂……!?)」
吹雪「匠の技……!」
吹雪「さーて、私も……こっち側はどうなってるのかなー」ガラッ
?「ひうっ……!?」ビクッ
吹雪「えっ?」
吹雪「……か、艦娘!?」
?「あ、あうう……」ブルブル
吹雪「……どちら様、ですかね? 見たことが無い方ですが」ズイッ
?「えっ、あっ……ひっ」
吹雪「私は特型駆逐艦の一番艦、吹雪です。貴女は――まさか、救助に来てくれたんですか?」ズズイ
吹雪「……あー、施設を開けていたこちらにも非はありますので、勝手に使っていた事を咎めはしませんよ」
?「ひっ、ひっ――キャアァァァァァァァッ!!!」
吹雪「何で!?」ビクッ
――――工厰
キャアァァァァァ……
利根「――なんじゃ? 悲鳴?」
如月「……それにしては、聞き覚えがないけど……?」
ドッゴォォォォン――!!!
利根「――な、何じゃ今の轟音は!?」
如月「す、砂浜の方から――」
ドカァァァンッ!!!
利根「――風呂のほうじゃ! 何かあったに違いあるまい、行くぞ!」
如月「え、ええ!」
――――ドック
?「はぁ――はぁっ……!」
吹雪「――っ、耳が割れるかと思ったぁ……お、落ち着きました?」
ドカァァァンッ!!!
吹雪「――っ、敵襲!?」バッ
ダダダダダタッ!!
キキイッ!
ガラッ!
「『クー』! どうした、何があっ……」
吹雪「――駆逐艦?」
クー?「『ユキ』…」
「なっ……?」パクパク
「(裸のクーに、知らない女。これも裸――つまり!)」
明石「吹雪ちゃん、一体何が……何事?」ヒョコッ
「――俺の女に手ぇ出してんじゃ……!」ガシッ
吹雪「い、いや……そういう場面では無くて――」ミシミシッ
吹雪「(――馬力おかしい、これ――戦艦級……!?)」
「――ねぇよ!!」バッキィィ!!
吹雪「ごっふ」ビターン!
明石「吹雪ちゃーん!?」
全裸の空母一隻、駆逐艦のような戦艦。
これが、彼女と彼女が、彼女として出会った――本当の初めてだった。
投下終了
レズの力こそ、人類の夢だからだ!
投下開始
――――回想、南方泊地、ドック
吹雪「……ふう」チャプ……
グッグッ
吹雪「右腕は……もう少しで出来上がるかな」
吹雪「……薬湯に浸かるだけで生えてくるってのも怖いけど」
ガラッ
朝雲「ふー……あ、吹雪。腕はどう? 膜は張った?」
吹雪「朝雲さん、それに皆さんお揃いで」
満潮「どれどれ……うん、もう肉付けが始まってるわね。これなら元通りになるでしょ」
時雨「まだ骨子が固定されてないだろうから、余り動かしてはいけないよ」
山雲「……?」
吹雪「……どうかしましたか、山雲さん?」
山雲「……吹雪って、こんな子だったかしらぁ……?」
吹雪「ふふ、何ですかそれ」クスッ
朝雲「うっ」ドキッ
時雨「僕たちも擦り傷が出来てしまってね。ご一緒してもいいかい?」
吹雪「どうぞどうぞ。元々、お邪魔してるのはこっちですし」
満潮「アンタを助けに行くのに随分強行したから、もうヘトヘトよ」チャプ……
吹雪「その件は助かりました。感謝してもしきれません」
カポーン……
山雲「……吹雪……ちゃん」
吹雪「お――呼びにくければ、呼び捨てでも構いませんよ」
山雲「いや、それは……そのぅ」
朝雲「吹雪、アンタどうしたのよ。ちょっと前までは今にも殴りかかってきそうな雰囲気だったじゃない」
吹雪「そうでしたか? そんなつもりは無かった……のですが」
吹雪「……いや、まあ。少し、肩の荷が下りまして」フゥ
時雨「そう。それは、良いことだね。君は――」
時雨「――穏やかに笑っている方がいい」ニコ
――――ちょっと遠巻き
伊168「お、決めに来たね」ザバッ
山雲「ヒッ!?」ビックゥ!?
朝雲「み、見ないと思ったら……潜ってたのね」
満潮「……悪いけど、あの状態になった時雨は止められないわよ」
朝雲「……艦娘を乙女に戻す天才よ、ウチのエースは。いくら吹雪でも――」
伊58「それはどうでち?」ンザバァ
山雲「わぁお!?」ビビクゥ
伊168「ウチの吹雪を、侮らない方がいいよ。まあ、見てなって」フフン
満潮「それもそれで嫌な信頼ね」
吹雪「そうですか? ありがとうございます」ニッコリ
朝雲「(一撃目はスルー、でも時雨は畳みかけてくるわよ……天然で!)」
伊58「(ナチュラルレズなら吹雪の方が高い練度でちよ)」
時雨「……吹雪は、何だか他人行儀だね。少し……壁を感じるよ」
吹雪「あー……それはその、癖でつい。前から知ってる子なら自然に話せるんだけど――」
時雨「――僕は」スッ
時雨「……君と仲良くなりたい、と思っているよ」キュッ
山雲「(然り気無く)」
満潮「(手を握るのよね。接触は効果大よ)」
伊168「(あーあー)」
伊58「(分かるのも嫌でちけど、まだまだでちね)」
朝雲「(ハン、そんな事言ってももう吹雪が時雨にメロメロになるのも時間の問題よ。今回の勝ちは貰ったわ!)」
伊58「(そんな勝ちはいらんでち……)」
伊168「(ま、吹雪の本気はあんなもんじゃないよ。不名誉な事に)」
吹雪「――そう」クスッ
吹雪「――ありがとう。その……時雨、ちゃん……にそう言ってもらえると」スルリ
時雨「っ?」
朝雲「(指を絡ませた……ですって!?)」
吹雪「て、照れちゃうね。おかしな話だけどさ」イジリイジリ
時雨「あっ、あわ……」カァァ
満潮「(照れ隠しに人の指を弄びだしたわよあのレズ)」ヒソヒソ
伊58「(本人は否認してるでち)」
山雲「(避妊!!? 赤ちゃん出来るの!?)」ドキッ
伊168「(流石の吹雪もまだそれは無理でしょー)」ケラケラ
朝雲「(まだって何よ怖い) 」
時雨「あ、そ、そうだ吹雪。手はもうよさそう――んっく、だね……」ピクンッ
吹雪「ん? おぉー、無意識に動かしてたや」グッパッグッパッ
伊168「(あ、そろそろトドメかな)」
満潮「(物騒な字面ね)」
吹雪「この間は邪険にしてごめんね。お風呂上がったら散歩でもしながら、こないだ話せなかった事を話そうよ」ニコッ
時雨「――うん、悪くないね。夜の風を君と味わうのも、とても魅力的な提案だ」クス
山雲「(あ、いつもの調子に戻ったわー)」ホッ
吹雪「時雨ちゃんは髪質が良いから、風を受けると多分映えるね。いいなぁ」サワッ
時雨「んひゃっ」ビクッ
吹雪「んっ? あー、ゴメン」
吹雪「髪は嫌だよね……無作法だったよ」アハハ……
時雨「い、いや、驚いただけさ」ハハ……
吹雪「あ、なら良かった、でも」スッ
吹雪「――そんな可愛らしい一面もあるんだ」ヒソッ
時雨「んっ、そ、そんな事は」カァッ
ザバッ
吹雪「先に上がるね。散歩の用意しとく」
吹雪「――後で、ね」ヒソッ
時雨「あ、あぁっ」ゾクッ
伊58「賭けるでち?」
朝雲「負ける勝負はしないわ」
山雲「あの容姿で中身は狼さん過ぎない?」
伊168「本人はそんなつもり無いらしいから」
満潮「……時雨、無事でいてよ」
時雨「(……噂が本当なら、これはもしかして……)」
時雨「(やらかしてしまったのかな、僕は……)」ダラダラ
伊168「なお次の日の朝、同じ部屋から出てくる二人が」
吹雪「いや、だから! 遅くまで話に華が咲いてしまってですね……眠気に耐えられずそのまま近くの時雨さんの部屋にお邪魔しただけなんですって!」
山城「耐えら『レズ』……? お姉さま、やはり」クルッ
扶桑「う、ウチの時雨をたぶらかして……なんて子になってしまったの……!」ワナワナ
時雨「ち、違うよ。吹雪は本当に何にも……」
最上「手込めにされた子は皆そうやっていうのさ。分かる、分かるよー」ウンウン
扶桑「もう! 山城の悪い所ばっかり真似して!」
山城「お姉さま。私の株の事も少しはきにして頂けたら幸いです」
吹雪「ど、どうしてこうなるの……」トホホ
時雨「うーん……」オロオロ
吹雪「……ふふ、昨日もそんな感じでしたね」クスクス
時雨「っ」カァッ
最上「これが確信犯でないっていうのかい? 全く、理解に苦しむなぁ」ヤレヤレ
伊168「いいんじゃない? だって――」
吹雪「――――!」アハハハッ――
伊168「楽しそうに、生きられるならさ」
伊168「死ぬような目にあった甲斐があったって事だし」
伊168「それに……」
例え、私が死んでも。
あの子が死ぬよりは、きっと、ずっといいよ。
南方とトラックの面子が回想で出るとそれだけで終わってしまう現象←
投下終了
伊168「…………」ムムム
呂500「♪~」ツイツイッ
呂500「……はいっ、墓地30枚ですって」ニッコリ
伊168「あ"あ"あ"あ"あ"冥府ホント死んでぇぇぇ!!」オロロロロ
呂500「これが課金の力ですって!」シャキーン!
伊58「シャドバやってんじゃねーでち!!」クワッ
伊401「あ、投下開始だよ」
――――寝室、朝
吹雪「――はっ」ガバッ
吹雪「……朝?」キョロキョロ
如月「ううん……」スヤスヤ
吹雪「……ふふっ。寝顔もかわいい――あー、ダメだダメだこの考えがいけないんだよ」ブンブンッ
吹雪「怪我は――直ってる。入渠は終わったのか……って、そういえば」スクッ
コンコンッ
吹雪「――はい、起きてますよ」
利根「入るぞ?」ガチャッ
吹雪「利根さん、おはようございます……まさかとは思いますが、私は何日寝てました?」
利根「……? ああ、ふはは。心配せずとも、一日である。朝から悪いが、昨日の件で話があってな」
「おうおう利根。そっからは俺が話した方が早いぜ?」ズイッ
利根「ま、そうであるな。吹雪、起きられるか?」
吹雪「え、えぇ」
吹雪「(私くらいの背丈の艦娘だ……駆逐艦のような制服の上からパーカーを羽織ってる)」
吹雪「(……フードで顔を隠しているから表情は読み難いけど、言葉使いは少し乱暴だ)」
吹雪「あなたは……?」
ユキ「俺様の名は『ユキ』。フフ、怖いか?」
――――司令官室、朝
吹雪「まあ、座って下さい」
ユキ「悪くない鎮守府だな。家具も揃ってやがる。このソファも値が張りそうだぜ」モッフ
吹雪「それ妖精さんのオーダーメイドです」
ユキ「……工廠をウロチョロしてた奴らか……妖精ってのは半端ねえのな、それ」
吹雪「…………で、その」
利根「……正直、我輩は吹雪以上の者を見るとは思っても見なかったのだがな」ウーム
吹雪「どういう意味ですか……いや、それは置いといても、その……」
「……あっ……んっ……んふぅ」
吹雪「――何でその、空母の方の胸を揉みながら会話を始めようとしていらっしゃるんで……?」オズオズ
ユキ「ん? 『クー』の事か? コイツは俺の女だからな」モミモミ
クー「んっ、あっ……す、すいません……気にしないで……」ゾクゾクッ
吹雪「いや気になりますよ!?」ガーン!?
クー「んっ。んっ……んふぅ……」モゾモゾ
吹雪「(……スタイルいいなー……帽子に制服ワンピースか。どこの国の艦娘だろう)」ジーッ
ユキ「昨日のは事故だったってのは、利根と夜飲み明かして分かってるから許してやるよ」
吹雪「釈然としない……」
――――
吹雪「さて……何から話しましょうか」
吹雪「……こちらから質問しても?」
ユキ「構わねぇよ。このハイパーユキ様にとって、質問の一つや二つは鎧袖一触だ」クククッ
吹雪「では、失礼ながら……私は貴女たちが誰か知りません。ですので、日本の艦娘ではないと推測するのですが」
吹雪「……貴女たちは、何処の所属ですか?」
ユキ「知らねぇ」
吹雪「…………はい?」
ユキ「知らねぇんだよ。元々のはな」
ユキ「こっちからも序でに質問だ。お前ら――どうやって、『自分の名前を思い出した』?」
吹雪「――まさか貴女たち」ハッ
ユキ「……その様子だと、割かしこっちの事情も察したようだな。その上で敢えて言わせてもらうぜ」
ユキ「俺たちは、『名無しの艦隊』に所属しています、ってな」
――――
吹雪「『名無しの艦隊』……ですか?」
ユキ「ああ。結構な規模なんだがな……」
ユキ「利根からある程度、この鎮守府の話は聞いてる」
ユキ「お前ら、記憶が曖昧だったりしないか?」
吹雪「え、ええ。一時的なショックだとは思っていますが、なかなか――過去を思い出すにも難儀して」
ユキ「……まだマシだよ、お前らは」
ユキ「俺たち名無しの艦隊は、そうやって記憶を失った艦娘で構成された組織だ」
ユキ「いや、組織って程になったのも最近だ……俺たちの共通点はただ一つ」
ユキ「『何処かも分からない場所に居て』『自分が何者かも判らない』」
ユキ「それだけだ……それだけ。ぼんやりとした、自分と言う輪郭が何となく分かるだけでな」
吹雪「――!」ハッ
利根「聞き覚え、あるであろう?」
吹雪「如月ちゃんと同じ――なら、貴女たちは……!」
ユキ「ああ。俺たちも、お前らに会うまでは知らなかったが……記憶を失う条件は、轟沈するほどの被害を受ける事なんだろ?」
吹雪「ええ。そう仮定できるでしょう」
ユキ「ここに来れて良かったぜ。それが知れただけでも、かなりの進歩だ」
ユキ「お前らの話を加味すると、俺も含む『そういう』艦娘が、何とかかんとかと仲間を集めて……あの化け物から身を守っているんだ」
ユキ「『深海棲艦』……アイツラの見た目はゾッとするぜ。何食ったらあんなのになれるんだか」
――――
吹雪「ふむ……それで、その『名無しの艦隊』の皆さんは何処へ」
ユキ「それはな……えっと、何だったか。クー?」パッ
吹雪「(やっと揉むの止めた……)」
利根「(意識せんのも限界であったぞ)」
クー「あっ……はい。島の名前……は、曖昧です。けど」
クー「――覚えています。いや、そこに行った途端、思い出したんです」
クー「――深い、とても深く暗い、憎しみを」
――――
吹雪「……私は、貴女の第一印象として、『優しそうな人だなぁ』と感じました」
吹雪「空母の方は、得てしてそんな風格を持っていた様にも思えます」
吹雪「……そんな貴女が、そこまで表情を歪める程の、思い出ですか?」
クー「……ごめんなさい」
ユキ「謝る事でもねぇだろ。その記憶は、どうも種類が違うみたいでな」
クー「ええ、その……何と言いますか。もっと奥深くの――私の、本質の様な……ごめんなさい、上手く言えなくて」
クー「とにかく、思い出したんです。その場所が何と呼ばれていたか」
ユキ「俺らも、それからはクーに習ってそう呼んでるよ」
クー「私たちの艦隊がいるのは――『パールハーバー』、と呼ばれていた場所です」
――――
吹雪「っ!」
利根「――なんじゃと!?」ガタッ!
ユキ「――っ。うるせえな、そんなに驚く事かよ」
吹雪「……驚きもします。クーさん、それは間違いなく?」
クー「うん。これは、自信ある……から」
クー「忘れも……しない――!」ギリィッ
吹雪「……クーさんの、その記憶は――恐らく、『艦としての記憶』でしょう」
ユキ「……大昔のソレって訳かい?」
利根「ああ。我輩たち艦娘が、そういう存在の生まれ変わりだと言うのは……知っておるかの?」
ユキ「主砲も魚雷も航空甲板もあって、その動かし方も知ってる。ソレ以外にありゃしねぇだろ」
吹雪「(――――?)」チクリ
利根「……吹雪? 何か考えておるのか?」
吹雪「……いえ、何か引っ掛かった、ような――いや、それより」
吹雪「クーさん、それが本当なら――私たち艦娘にとってもかなりの進歩ですよ」
吹雪「貴女たち名無しの艦隊は、その島を防衛できているのですね?」
クー「……ユキ」
ユキ「うーん……ま、そうだな。敵は撃退できてる。無敵の俺もいるしな」
ユキ「……でも、それだけじゃダメなんだ」
吹雪「……何か、訳ありのようですね」
ユキ「……お前らはさ、記憶が無いって事がどういう事か分かるか?」
利根「まあ、多少はの。友の名前も思い出せなんだから」
ユキ「そんなんじゃねぇ。そんなもんじゃあ、ねぇんだ」
ユキ「自分が誰かも分からねぇ。何をしていいのかも分からねぇ」
ユキ「どんな風に動けばいいのか分からねぇ」
ユキ「どうやって生きるのかも分からねぇのさ」
ユキ「……記憶が無い艦娘は、だんだんと死んでいくのさ。命が無くなる訳じゃねぇけど、ありゃ死んでるのと変わらねぇ」
ユキ「同じところに座って、身動ぎもせずに、ただ海を眺めるだけしか出来なくなる」
ユキ「そうなった奴は終わりさ。愉快に不気味なオブジェになって、はいオシマイよ」
クー「……『ユキ』」キュッ
ユキ「……ありがとよ」
吹雪「……そんな、事が――起こりうると言うのですか」
利根「……胆が冷えるな。我輩らは運が良かった」
ユキ「……それに付け加える様な話じゃねぇが……お前らは、俺が『何に見える』?」
吹雪「……私は、貴女を最初駆逐艦だと思っていました」
利根「うん? こやつは雷巡ではないのか?」
吹雪「? いえ、馬力から戦艦だと判断しましたけれど……」
ユキ「……そういう事だ」
吹雪「そういう――って、まさか」
ユキ「ああ。俺はそれに加えて、自分の艦種すら分からないのさ。誰に聞いても、答えはチグハグだ」
ユキ「頭がおかしくなりそうだった」
ユキ「『俺は誰だ』。海を見ると、知らない顔がそうやって話し掛けてくる」
ユキ「……だから、ダセェけど。こうやってフードで顔を隠して、自分で仮の名前を付けた」
ユキ「こうすると、落ち着くんだ。自分は『まだ誰でもないんだ』ってね」
ユキ「俺みたいな奴は他にもたくさん居たから、そいつらは皆顔を隠してる。お面を被ったり、そりゃ色々とな」
ユキ「いざ会ったときには、驚かないでやってくれ」
――――
クー「話、反れたけれど……進歩って?」
吹雪「あ。そうでした……その、『パールハーバー』、でしたね?」
クー「うん」
吹雪「……そこは、確か深海棲艦の領域だった筈です」
利根「具体的に言えば、その随分と手前からであるが……」
クー「えっ?」
ユキ「……ははぁ、なるほどね」
吹雪「ええ。真珠湾――私たちはそう呼んでいますが、そこに艦隊がいるとなれば」
吹雪「大本営と連絡さえ取れれば、深海棲艦を挟撃できる――そういう重要な要塞なのです」
利根「我々のトラック泊地や、北方の泊地から回り込むのも容易いであろうな」
吹雪「ですから、そこを防衛できている――と言うのは、予期せぬ快進撃なんですよ」
ユキ「ほうほう……ま、流石の俺といったところであるぜ。もっと誉めてもよいぜ?」
――――
吹雪「貴女たちは、何故ここに?」
ユキ「それは、俺たちの目的から話さねぇとな」
ユキ「今聞いた通り、俺らは早く記憶を取り戻さねぇとヤバい」
ユキ「その為には、『帰る』しかないと――」
ユキ「――『母さん』が言っていたんだ」
――――
吹雪「……『母さん』とは?」
クー「ママは……戦艦の艦娘」
ユキ「行き場の無い俺らを、パールハーバー……真珠湾の方がしっくりくるな。とにかく、そこに匿ってくれた」
クー「とっても優しいし、強い」
ユキ「母さんは、帰りたい。帰れば、自分の記憶が戻るはずだ、と言っていてな」
ユキ「向こうに、仲間が居た事を覚えているらしいんだ。だから、俺らもその、仲間に出会えれば」
クー「記憶が戻るかも、しれないの」
ユキ「だから、帰る……帰るっても変だけどな」
ユキ「でも、真っ正面は深海棲艦が多すぎるんだ。だから、南か北に迂回しなきゃならねぇ」
クー「北は、多分近道」
ユキ「でも、あそこはヤベぇ。本当の化け物が住み着いてるんだ」
クー「何度も、帰ろうとした、けど」
ユキ「……その度に仲間が減っちまうからな、今はとりあえず止めてる」
クー「南は、遠回り」
ユキ「その代わりに海路に融通が効くし、敵も大人しめだ」
ユキ「実際、何度か遠征は成功したんだ。ここに来る前は潜水艦の群れを撃退してやったし、その前の遠征ではな」
ユキ「ええと、確か駆逐艦だ。駆逐艦を一隻沈めたんだ」
吹雪「――まさか、その潜水艦隊は6隻では?」
ユキ「ん? ああ、そうだが」
吹雪「助かりました。貴女たちが損害を与えていてくれたお陰で、私たちと交戦した時はかなり有利に運べましたよ」
クー「奴らと、戦ったの?」
利根「うむ。撃沈こそできなんだが、撤退させてはやったぞ!」
ユキ「やるじゃねぇか。アイツら、この辺に巣を作ってたみたいなんでな。それごと攻め壊してやったんだよ」
吹雪「ふふ、豪快ですね」
ユキ「まあな!」
――――
吹雪「……クーさんは、空母って分かりますね」
クー「うん」
ユキ「俺みたいな方は少数派だ」
利根「……艦の記憶とやら、聞かせてはもらえぬか? もしかすると、我輩らが何か分かるかもしれぬ」
クー「…………」
クー「ちょっと、嫌な話だけど」
――――とある空母の原風景
仲間の呻き声。
自分が駆け付けた時には、もうそこは地獄で。
汚い、卑劣な、奴等の、所業が。
この場所を変えてしまったのだ。
自分は何をしていた?
ぬくぬくと、彼らに守られて過ごしていたと言うのか?
自分は、何をしている――!
この身は航空母艦だと、言うのならば。
冷たく焼ける、鉄槌を。
一心不乱に、降り下ろさねばならぬのだ。
精神を、そして身体を、支配するのは憎しみと誇り。
それが、己が身の全て。
焼けていく敵の空母を眺めて、まだ足らず。
何隻も、何隻も。
沈めても、沈めても、沈めても!
――足りない!
この心は満たされない――!
空母も沈めた。
戦艦も沈めた。
逃げ惑う駆逐艦すら容赦しなかった。
戦って、沈めて、沈めて――
奴等の希望も、誇りも、全て踏みにじってやっても。
――友は帰ってこなかったのだ。
――――
クー「……それが、きっと私、だと思う」
クー「貴女たちは、私を、知っている?」
吹雪「……いえ、ピンとも来ません。利根さんは?」
利根「ううむ、皆目見当も付かぬ。そも、我輩らも嘗ての仲間の名を思い出すだけでも精一杯であってな」
吹雪「近い存在であれば思い出せるやも、と思ったのですが……お力になれず、申し訳無い」
クー「いい。仕方ないもの」
ユキ「……んで、これからなんだが」
吹雪「ええ」
ユキ「俺らも少しばかり疲労が溜まってるんだ。ここに拠点があるのはかなり有り難い。少し滞在させてもらいたいが……」
吹雪「それは勿論。いくらでも使って下さい」
ユキ「助かるぜ。礼と言っては何だが、俺の女になるか?」
吹雪「はは、慎んでご遠慮させていただきますよ」
ユキ「ククッ、フラれちまった」
利根「(……何故こうも同性に走る輩が多いのやら)」ハァ
そう言って、照れ隠しなのか――彼女はその白いフードを少しだけ深くかぶり直した。
投下終了
スマホを新調しました。
慣れるまで少しかかります←
スマホ変えたせいでポケモンgoができる様になってしまった弊害←
投下開始
――――鎮守府、食堂、昼
吹雪「どうですか?」
ユキ「旨いぜ……!」ガツガツ
クー「向こうでは、こんな食事はなかなか、ない」モッモッ
利根「真珠湾の兵糧事情はどうなっておるのじゃ?」
ユキ「大体現地調達だな。魚と食える植物で何とか凌いでる」プハァッ
吹雪「こっちも、最初はそんな感じでしたよ。物資を拾ってこれたから、何とかマシになっただけでして」
クー「これだけで、全然、士気が違う」モモモッ
利根「大人しくても空母なのであるな。良く食いおる」フハハハ
如月「ふわぁ……あ、皆早いのね」
明石「お揃いですね。昨日の方らも」
吹雪「如月ちゃん、おはよ。今日は良く寝てたね」
如月「ちょっと疲れちゃって……」
明石「私は朝から艤装の整備を……傷も粗方塞がりましたし」
吹雪「助かります。資材の確保も兼ねて、早く遠征にも取り組みたいので」
ユキ「ふむ……おい、如月とやら」
如月「? 何かしら?」
ユキ「お前はそこの吹雪と同衾してたろ? お前は吹雪の女なのか?」
吹雪「ぶっはぁっ!?」ゴホゴホ
如月「え、ええまあ」コクッ
吹雪「ち、違いますよ。私はユキさんと違ってノーマルな性癖なので」
如月「むっ」
クー「(また、悪い、癖)」
ユキ「そうか。なら如月、俺の女になれ!」ドドンッ
如月「へっ?」
ユキ「お前の事は良く知らねぇが、見た目は好みだ。抱いてから知る良さもあるだろ」ウンウン
如月「えっ、えぇ……?」
明石「(また破天荒なタイプの人だ)」
利根「(これは面白くなってきたのう……いや、我輩と筑摩の殴り合いを見ていた龍驤の気持ちも分かる)」クックッ
ユキ「腹ごしらえも済んだし、部屋一つ借りるぜー?」グイッ
如月「えっ、あの、本気で!?」ズルズル
ユキ「安心しな。こう見えてテクには自信ありだ」
如月「そ、そういう問題じゃ――」
ガタンッ!!
吹雪「…………」
ユキ「……何だ?」
吹雪「……『それ』は、私のモノです」
吹雪「私は、提督として、それとケッコンしている。だから、勝手に持っていてもらっては困る」
如月「…………!」
ユキ「……なーんだ、やっぱりお前の女なんじゃねぇか。仕方ねぇ」パッ
如月「た、助かった……のかしら?」ホッ
吹雪「如月ちゃん、ちょっと」グイッ
如月「えっ、吹雪ちゃん――どこへ行くの?」
吹雪「…………」ツカツカツカ
如月「ま、待って早いわ――ちょっと」
利根「……出ていったの」
明石「客人さんも、あんまりああいう刺激は吹雪ちゃんに与えないで下さいよー」
クー「うちの、馬鹿が……申し訳、ない」ペコッ
ユキ「ありゃかなりキテたな。俺なら半日は抱く」
利根「……お主が吹雪の悪い刺激にならぬ事を祈っておるよ」ハァ
初回は軽く。慣れるまではまったりいきます
投下終了
伊26……!
投下開始
――――艤装の記憶
夜の闇に、轟音が響く。
砲弾の雨霰と、光をぼんやりと眺めていた。
もう、それだけしか出来なかったから。
この体は、もう、じきに沈む。
「バカ! 誰を撃っているんですか!! 私たちは味方です――止めなさい!!」
我が艦隊の、旗艦の怒鳴り声が聞こえた。
普段の飄々とした態度とは打って変わって、明確な怒りを露にして。
――青く輝くと。
違うんです。奴らは敵だったんですよ。
私は見たんです。間近で、この目で。
だから逃げて下さい――このままでは、全滅してしまう。
「が、ああっ――目が……!」
「青葉、下がって――ここは私が!」
重巡洋艦が一隻、前に出て探照灯に火を入れる。
敵を照らして、自らを晒し、囮になって。
頭部に傷を負いながら、旗艦――重巡青葉が戦場を離れていく。
自分は、それを水面下から見上げていて。
奮戦する重巡洋艦――古鷹――の破片が降り注ぐのを眺めていて。
――紅く輝くと。
何も出来なかった――自分が情けない。
声を上げる事さえ叶わなかった。
何で、この私がこんな所で。
憎らしく呟いたのは、自分だったか、
「この、無能が」
――自分も。旗艦も。
ともすれば、こんな無茶な作戦を行わなければならない――この戦争を起こした者達への。
恐らくは、怨嗟だったのだ。
――――寝室、朝
吹雪「…………」ムクッ
吹雪「……何か、夢を見てたのに思い出せないや」
吹雪「やれやれ――ん?」
如月「…………」スヤスヤ
ユキ「…………」スゥスゥ
吹雪「…………」
吹雪「……起きろぉ!」バサァッ
ユキ「う、おぉっ!?」ビクッ
――――小島まで遠征、朝の海域
ユキ「なあなあ、悪かったって」
吹雪「仮とは言え夫婦の寝室に潜り込んで……」
ユキ「寝惚けて部屋を間違っちまったんだよ。何もしてないから安心しろ」
ユキ「なー機嫌直してくれよー。遠征も手伝ってんだしさ」
吹雪「……もうこんなことが無いようにしてくださいね」
ユキ「ああ、気を付けるさ」
吹雪「……行きましょうか。物資が流れ着いてるかもしれません」
ユキ「おうさ」ザザァン
吹雪「(…………燃料消費は駆逐艦並みなんですね)」
吹雪「ふわ……眠いや。帰ったら一寝入りしよ……」
ユキ「お、それはお誘いか?」
吹雪「違います肉食」
ユキ「失礼な。雑食よ」
吹雪「……流石」
投下終了
投下開始
――――小島、昼
ユキ「おい、吹雪。このドラム缶か、回収するのは?」
吹雪「ええ。今日は3つ……まずまずの成果ですね」
ユキ「ちょっと陸に上がって開けてもいいか? 気になるぜ!」ザバッ
吹雪「別に構いませんが……そうですね、小腹も空きましたし缶詰でもあれば頂きましょうか」
――――高速修復材
ユキ「よい、せっと」ガパッ
ユキ「あー、こりゃ外れだ。見たことがある」ハァ
吹雪「何ですか?」
ユキ「水入りのボトルの詰め合わせだ。しかもコイツは変な味で飲むにもイマイチときてる」
吹雪「どれどれ――って、これ!」ワァ
ユキ「?」
吹雪「高速修復材じゃないですか――これは助かる!」
ユキ「何だ、そりゃあ?」
吹雪「――あ、そうか。知らなくても無理ないですね」
吹雪「これは艦娘専用の治癒薬のような物です」
吹雪「傷に塗り込めば、そこを集中して治し」
吹雪「飲用すれば、内臓から体全体を緩やかに癒します」
吹雪「時間が掛かりますが、湯船に張れば薬湯となって、浸かるだけで傷が治ります」
ユキ「そいつはすげぇや! 深海の奴らとヤり合うと、どうしても怪我人がでちまうし……」
ユキ「……皆が皆、俺に着いてこれる訳じゃねぇしな」
吹雪「……向こうの戦況を、具体的には聞いていませんでしたね」
ユキ「そうだったな……今は、大人しいものだよ。時たま重巡洋艦入りの深海棲艦の艦隊を見るぐらいで、その頻度もそう派手な物じゃあない」
ユキ「どうも真珠湾に辿り着くまでにちょいと疲れてるみたいでな。その程度なら、このユキ様が居なくとも母さんが何とかする」
吹雪「戦艦の艦娘でしたね」
ユキ「ああ。でも、俺らの総数に対してまともに動ける奴はほんの一部でな」
ユキ「俺、母さん、クー、それ以外には後二人しかいねぇ」
ユキ「全部で4、50隻はいたはずだが……まだ多少自我が残ってる奴は浮き砲台ぐらいにはなる」
吹雪「……そうでない艦娘は?」
ユキ「的だ」
吹雪「…………」
ユキ「――くっ、ふははっ! 何て顔をしてやがる」
ユキ「このハイパーなユキ様に落ち度があるわけないだろう。ソイツらは東側の港やその周辺に匿ってる」
ユキ「深海の奴らはいっつも西、時たま北から来るんだ。そこなら、俺らが前に出りゃ見つかるこたぁねぇ」
ユキ「……ま、でもケガは絶えねぇな。安静にしてりゃその内治るだろうが、奴さんも待ってくれるとは限らねぇ」
ユキ「俺らからすりゃ、この水がそんなすげぇのなら、願ったり叶ったりだ」
吹雪「真珠湾には、修復材が沢山あるんですか?」
ユキ「ああ、あるぞある。ありまくるぜ」
ユキ「何に使うか分からんが、たまに流れてくるドラム缶に意味深に詰められてたからな。一応取っておいたのさ」
ユキ「この先見の明を褒め称えな?」ドヤ
吹雪「はいはいカッコイイカッコイイ」パチパチ
ユキ「ぞんざいになりやがる」ククッ
吹雪「……と、冗談は置いておいて。どの程度溜め込んでいるのですか?」
ユキ「お前らんとこの工廠の倉庫なら満タンかな?」
吹雪「……それだけあれば――痛みとかはともかくとして、一週間は戦い続けられますね」
ユキ「止めろ止めろ、ぞっとしねぇよ。休み無しとか縁起でもねぇ」
ユキ「……ん。まぁ、何にせよお前らのお陰でかなり俺らは助かりそうだ。そこはホントに感謝してるんだぜ?」
吹雪「いえ、友軍を援助するのも、また提督の務めならば」
ユキ「……そうか、ありがとな」
ユキ「ちゅーしていい?」
吹雪「ダメ」
ユキ「ちぇー、ケチくせぇの」
吹雪「そういう問題じゃねぇんですよぉ……?」
――――穏やかな海
吹雪「帰るまでが遠征ですよ」
ユキ「ああ、任せな。これでも体力には自信ありだ」
吹雪「それは頼もしい」
ユキ「しかし……いいな」
吹雪「? 何がです?」
ユキ「艦娘だよ。こんな静かな海で、港に待つ仲間の為に飯やらなんやらを持って帰る」
ユキ「こんだけでも、幸せだなぁ……ってな。前世は貨物船か何かだったのかもしれねぇ、俺」
吹雪「ん……まぁ」
吹雪「戦う為の存在とは言え、そればかりでは息が詰まりますし……」
吹雪「……国防の為に、日々海を警備する。それだけの毎日が続くのなら、それに越した事は無いでしょう」
ユキ「――ああ」
ユキ「『――そうだね』」
――――ゆらりゆらりと青い火々。
吹雪「――っ」
吹雪は思わず息を呑んだ。
目の前の艦娘は、フードを深く被っていて――声色が大体の感情の全て。
その目から、少しだけ――優しい熱が漏れている、ような、気がしたから。
ユキ「『戦ってばかりは、本当に疲れるから』」
ユキ「『期待されるのも、そうだし』」
ユキ「『強くなって、何もかも守れるようになって、平和になったら――』」
吹雪「…………」
平和に、なったら?
なったなら……自分は――
ユキ「――そうだな、日向ぼっこでもするかねぇ! 寝心地の良さそうな所でさ!」
吹雪「っ」
気付けば、ユキの様子は元に戻っていて。
まるでそれは陽炎のような儚さで消えてしまっていた。
ユキ「……どうかしたか?」
吹雪「い、いや、なんでも」
ユキ「ならいいけどよ」
不思議な感覚を覚えつつ、吹雪は先行するユキの後を静かに航行していく。
――波は海色に溶けていった。
投下終了
休み中に進めたい(戒め)
投下開始
――――僅かな日常を、工廠にて
吹雪「明石さん、怪我は――もう良さそうですね」
明石「お、吹雪ちゃん。そうね、バッチリよ」
明石「皆の装備の改修も進んでるわ」
吹雪「助かります。……後回しでいいんで、私の魚雷管もお願いしますね」
明石「あー……それなんだけど、結構かかりそう――って言うか」
吹雪「何か問題が?」
明石「多分最初から同じのを作り直した方が早そうなの。補修、結構してるでしょ。あれ」
吹雪「ええ、まぁ」
明石「継ぎが多くて……直してる間発射管無しはマズいでしょ?」
吹雪「あー……そんなに掛かるんですね。うーん、仕方ないですけど、なら新調でお願いします」
明石「古いのは、とりあえずそのまま使ってもらって、急いで仕上げるとします」
吹雪「ありがとうございます。他の進捗はどうなんです?」
明石「如月ちゃんのは、本人の手伝いもあって終わってるから、後は利根さんと私かな」
吹雪「了解です」
吹雪「(すぐに出れそうなのは私と如月ちゃんか……さて、どうしようか)」
――――浜辺、夕暮れ
吹雪「――ここでしたか」
利根「む? おお、吹雪であるか。用事か?」
吹雪「いえ、少し話があるだけです」
利根「用事ではないか。まぁ、座るがよい」
吹雪「では失礼して」ストッ
利根「世間話……と言う訳ではなさそうじゃな」
吹雪「ええ。真珠湾の件です」
吹雪「向こうには私たちのような、艦娘としての記憶を保持している者がいない。となれば」
利根「ああ、聞いたぞ。修復材の話であろう?」
吹雪「ええ。艦娘として知っているべき知識も、ある程度不足していると見て間違いないでしょう」
吹雪「その度合いは測りかねますが、そんな状態であの拠点を防衛できていると言うのは」
利根「運が良いだけ……大軍が押し寄せれば」
吹雪「きっと、無事ではすまないでしょう」
吹雪「要塞としての機能を向上させるのは急務かと」
利根「ふむ。ならば、発つのだな」
吹雪「はい。なるべく早く、向こうの様子を把握しておきたい――そう思っています」
利根「我輩もそれには賛成である……が、我輩ら全員で行くのか?」
吹雪「……出来ればそうしたい所ですが――そこは、皆と相談して決めます」
利根「うむ、それが良かろう。頑張るのじゃぞ、我らが提督よ」クックッ
吹雪「恐縮です」クスッ
――――司令官室、夜
ガヤガヤ
吹雪「みんな、集まりましたね」
如月「急に呼ばれたから、用件は知らないのだけれど……」
クー「また、ユキが、なにか?」
ユキ「何もしてねぇぞ? 多分」
利根「真珠湾の件じゃな」
明石「ああ、それで。……どうするんです?」
吹雪「ええ。今利根さんが言った通りの案件です」
吹雪「私は、真珠湾に駐屯している『名無しの艦隊』に合流した方が良いと思ってます」
吹雪「一旦ここを空にする事にはなりますが……それでも向こうと合流できるのは大きい」
吹雪「その為に、クーさん、ユキさんに先導して頂きたいのですが……」
ユキ「……うーん」
吹雪「? 何か思う所が?」
ユキ「いや、ここは真珠湾より流れ着く物資が多いみたいでな」
ユキ「俺としては、もう少し修復材とやらを担げるだけ集めて持って帰りたいのさ」
吹雪「それは……うーむ」
明石「あー、あのー……」
吹雪「明石さん?」
明石「私も長距離の航海はまだ不安が残るの……行けなくは無いと思うけれど」
ユキ「こうも言ってる。面子を二つに分けるのはどうだ?」
ユキ「俺様はある程度物資を集めたら、直った明石と一緒に真珠湾に向かうぜ」
ユキ「案内はクーに頼んでくれ」
吹雪「そうですね……そうしましょうか」
利根「なら、我輩は後発組に回るぞ」
利根「いざ攻められた時にも、我輩がここを守りきって見せよう」
吹雪「頼りにしています。なら、私とクーさんが先行して向かう様な形に――」
如月「……待って」
如月「――私は吹雪ちゃんに着いていくわ」
吹雪「如月ちゃん――そうだね、お願いするよ」
吹雪「三隻ずつ、二つに分けるよ。クーさんに案内をお願いして、私と如月ちゃんは先に真珠湾へ発ちます」
ユキ「俺らは物資を集められるだけ集めてから、ゆっくり泳いでいくよ」
吹雪「うん……では、出発は明日の朝。クーさん、確り休んでくださいね」
クー「了、解。いい、航海に、したい」
吹雪「ええ、全くですね」
ユキ「オッケー、そうと決まりゃ……クーを抱き溜めるから今日はもう休むな」ガチャッ
クー「お手、柔らか、に」
吹雪「あっ、はい。お疲れ様です」
バタンッ
吹雪「…………」
吹雪「おかしさに気付かずにスルーしてしまった……」ズツウガ……
利根「毒されておるのう……」
如月「(いいなぁ……)」
投下終了。寝ます
江風タペストリー回収できた←
秋月型クリアファイルも手に入れてしまった……
お待たせしましたぁ!(土下座)
投下開始
――――夜中、浜辺
如月「……うーん」キョロキョロ
吹雪「……………」
如月「あ、いたいた。吹雪ちゃん」トテトテ
吹雪「ん、如月ちゃん。どうしたの、こんな夜中に、こんな所で」
如月「隣が寂しい様な気がして、起きたらやっぱり居ないんだもの。だから探しに出るのは普通だし」
如月「お嫁さんよ? すぐに見つけちゃうわ」クスッ
吹雪「それはいいね。私は良く迷子になるから」ククッ
如月「任せてちょうだい」フンスッ
如月「……ところで、吹雪ちゃんは? 眠れなかったのかしら?」
吹雪「いやその……何と言うか」
吹雪「……例の二人が気になって眠れないって言うか……」ポリポリ
如月「ふふっ……吹雪ちゃんのむっつりスケベー」クスクス
吹雪「いやいや普通考え込む案件でしょ……?」ハァ
如月「私たちはわりと吹雪ちゃんで慣れちゃってるからかなぁ」ウーン
吹雪「慣れるって何さ……」ハハハ……ハァ
――――
如月「……私も、隣に座るわ」
吹雪「どうぞ。こんなのの側で良ければ」
如月「これ以上無いわよ」クスッ
サァ――――
如月「……静かね。でも、いい風」
吹雪「うん。月も明るくて、綺麗」
如月「……なら、もう『私、死んでもいいわ』」
吹雪「……ドキッとするから、そういうの止めよう?」フゥ
如月「どっちの意味で?」クスクス
吹雪「りょーうーほーうー」ムスー
如月「『だいすき』」
吹雪「…………」
如月「これでいい?」ニコッ
吹雪「……まあ、悪くは、無いんじゃないかな」
――――小波の音を聴いて
如月「……全部、ここからだった」
吹雪「……何が?」
如月「――今の私が」
吹雪「…………」
如月「吹雪ちゃんが来て、私が目を覚まして」
如月「色んな事があって、色んな人と出会って」
如月「それが私の全部。吹雪ちゃん、何か、思い出せた?」
吹雪「思い出す……まあ、トラックや南方泊地の事は思い出せたけど」
吹雪「元々いた、本土近海の事はなかなか……」
如月「そう……私はね、吹雪ちゃんが思い出させてくれた事以外は、何にも」
如月「……だから、全然実感が無いの。何の為に帰るのか、何の為に戦うのか」
如月「でも、吹雪ちゃんは違うわ。前に、前に進んでいく。舵を取ってくれているみたいに」
如月「だから、私はそれを追いかけていたいの。ううん、違う。吹雪ちゃんに」
如月「――私を、操舵して欲しいとさえ思うわ」
――――気付けば、互いの吐息も聞こえる程に
吹雪「……自分の航路は、自分にしか決められないよ」
如月「なら、私はまた難破してしまうわ」
吹雪「……ズルいね」
如月「ダメ、かしら」
指輪が、淡く月の光を湛えている。
二人の影は一つに映るほどの、近さで。
如月「……足りないの、私」
吹雪「欲しいのは、何?」
如月「言わせるの?」
吹雪「私にその趣味はないの」
如月「嘘ばっかり。知ってるもの」
吹雪「…………」
如月「好きなモノを、求めて焦がれるのが、そんなにいけない?」
吹雪「如月ちゃんは――!」
如月「…………?」
急に荒げた声に、彼女は不思議そうに首を傾げて。
だから、吹雪は言葉に詰まってしまって。
詰め寄る彼女に撓垂れ掛かられて、そのまま――
――『何で、そんなに私が好きなの?』と聞けないままで。
――――明朝、母港
ユキ「おっはよう皆の衆! いい朝だな!」ツヤツヤ
如月「そうね! わかるわ!」ツヤツヤ
クー「おは、よう」グッタリ
吹雪「おはようございます」
クー「…………」ジー
吹雪「……なんです?」
クー「タフ、ガイ」コクッ
吹雪「鍛えてますし。あとガイは止めて下さい」
クー「タフ、ウーマン?」
利根「語呂が致命的に悪いな」クックッ
明石「おはようございます、皆さん」
吹雪「あ、お二人もおはようございます」
利根「うむ、良い朝である。して、もう発つのか?」
吹雪「ええ。初めての海域ではありますが、空母が着いていてくれます。心配はしていませんよ」
クー「まかせて、わりと、無敵」ブイ
利根「これは頼もしい。では、吹雪をよろしく頼むぞ」
ユキ「俺らもある程度物資を集めたら、持てるだけ持って真珠湾に向かう。母さんによろしく言っといてくれ」
クー「了、解」
明石「装備も、その間に改修しておきますね」
吹雪「お願いします――さて」
如月「じゃあ、行く?」
クー「オッケー」
吹雪「うん、良い航海にしよう」
吹雪「――第一艦隊、抜錨します!」
――――残されたモノたち
ユキ「行ったな」
利根「うむ。さあ、我々は遠征と参ろうか」
明石「私は工厰で工作艦の本領を発揮するとします」
ユキ「寂しい思いをさせちまうな」
利根「ま、早々と帰るようには心掛けるぞ」
明石「あはは、お構い無く。妖精さんもいますから」
利根「くっく、確かにそうであるな」
ユキ「……ん?」
利根「なんじゃ、ユキ。妙な顔をして」
ユキ「……いや、何。大した事じゃねぇんだが」
ユキ「――今日はやけに静かだな、と思って」
投下終了
重ねて言うけど吹雪はレズではない←
投下開始
――――航路、北へと
ザザァ――
クー「遅れて、ない? 速すぎる、なら、ゆっくり行く」
吹雪「問題ありません。これでも速力には自信があります」
如月「私も大丈夫。割りと慣れてきたもの」
クー「なら、いい」
如月「(……前から思ってたけど、無口な人ね)」ヒソヒソ
吹雪「(そうだね。良い人だとは思うんだけど)」ヒソヒソ
クー「……?」
――――日も段々と低く
クー「……行って」パシュッ
吹雪「偵察機ですか? ……変わった飛ばし方ですね」ヘェ
クー「そう?」
如月「光の玉が艦載機に変化するのね……こっちで言うなら軽空母の式神のようなものかしら?」
クー「しき、がみ……は、よく知らない、けど」
クー「この、ネックレス」チャラッ
吹雪「これは……十字架ですか」
クー「うん、クロス」コクッ
クー「祈り、を……捧げると、艦載機が、出てくる」
如月「その杖は……甲板?」
クー「そう、権杖は、見ての通り」
クー「杖だけど、甲板のおかげで、盾にも、なる」
クー「普段は、重いから、あんまり持ちたく、ない」
吹雪「やはり、私たちとは少し変わっていますね……方式からは、西欧風に感じますが」
クー「実は、祈るのは、手で十字架を、切るだけでも、いい」スッスッ
クー「大体、急いでる時は、そう」
クー「悠長に、跪いている、暇とか、ない」フー
吹雪「戦場ですもんね」クスッ
クー「そう」フフ
クー「……そろそろ、着く」
吹雪「お、意外と楽でしたね」ンー
如月「……私は、着いたらお風呂に入りたいわ」ハァ
吹雪「疲れてる?」
如月「……ちょっと、ね」
クー「お風呂は、ない」キッパリ
吹雪「えっ」
如月「!!!???」ガーン!!!
如月「な、何で!?」アセアセ
クー「あった、みたい。だけど壊れてる」
クー「そもそも、パールハーバーは、貴女たちの鎮守府の、ようではない」
クー「かつて、人間が使っていた、だろう、建物や、軍事施設を……利用してる、だけ」
クー「概ね、廃墟」
如月「そ、そんな……」
クー「水浴びは、できる」ドヤ
如月「美容の大敵じゃないの……」シューン
吹雪「これは……まあ、実際様子を見ないことには始まらないけど――本格的な改善が必要かもね」
如月「……吹雪ちゃん、ちょっとワクワクしてない?」
吹雪「あはは、提督だからね! 血が騒ぐね!」ハハハ
如月「またお風呂作る所からね……大変そう」
クー「何か、出来る事が、あれば、手伝う」
クー「向こうには、ママの他にも、よく、動くのが二人、いる」
クー「巡洋艦の、保育係。二人、いる。普通のと、ちょっと背が低い子」
吹雪「へえ、それは頼もしいです。お名前は、何て言う方ですか?」
クー「『巡』洋艦の保『育』係で」
クー「『ジュンイク』。『低』い方は『テイイク』」
吹雪「凄い何か中国っぽさを感じます」
如月「軍師系よね、多分」
クー「本人には、中華要素、ゼロ。多分」グッ
――――吹雪の鎮守府、工厰
明石「うーん……」ゴソゴソ
利根「おーい、明石よ」
明石「利根さん……居ました?」
利根「いや、洞窟の方も当たってみたが、影も形も見当たらぬ」
ユキ「こっちもだぜ……」
利根「ユキか。どうであった――かは、聞くまでもあるまいな」
ユキ「ああ。海に出たわけでも無さそうだし、島の回りは一周したぜ」
ユキ「全く、妖精の奴らは皆、雁首揃えてどこにいっちまったんだ?」
利根「……まあ、全く見つからん……のならば」
明石「私らの探し方が悪いって事ですよねぇ……」
ユキ「まあ、何かあったなら一人二人は見つかるだろうしなぁ。どこかで新しい事でもやってそうだ」
利根「良くも悪くも自由であるからな。しかし、当面は我が輩らで共同生活となるのう」
明石「雑務関連なら私に任せてもらえれば……施設の修理とかは見ての通り得意ですし」
利根「ならば、そこは任せるぞ……しかし、こういうのは吹雪と如月に一日の長があるからのう。さて、どうしたものか」
ユキ「飯はどうするんだよ……缶詰めとかだけになるのか? 風呂もだ。寝床も」
利根「……我が輩らでやるしかあるまい」
ユキ「冗談だろ……面倒だな」
利根「……ああ、不得手であるのだな。ならば無理をさせてもいかぬな」
ユキ「――まさか。このユキ様に、やってやれねぇ事など一つもねぇ!! 任せな!」
利根「それは頼もしい。是非頼む」クックッ
明石「(流れるような誘導、お見事です)」
――――夕方、真珠湾含む島群
吹雪「――島が見えてきましたね」
クー「一番南の大きい島は、建物が多い。流れ着く物も、たくさんある」
クー「探せば、多分資材も、ある」
クー「でも、ここは誰も居ないから、スルー」
如月「北に、島が大小4つあるわね。あれ?」
クー「もう少し、北。あそこは、どちらかと言うと、自然派」
クー「食べ物とか、困らない」
吹雪「……あそこですね。南に入り江が見える」
クー「うん。あそこが、基地の跡になってる」
クー「深海棲艦が攻めてきた時は、とても大事な場所」
クー「……更に北西に、島が二つある。そこで、基本的には迎撃する」
クー「傷付いたり、装備が傷んだりしたら、パールハーバーに引き上げて、体勢を整える」
クー「……ここまで攻め込まれると、実はまずい」
吹雪「各島に役割があるのは、作戦を立てる上でもやり易いですね」
クー「作戦……余り考えた事、ない」
如月「えっ、それは何故?」
クー「私と、ユキと、ママがいれば、概ね、勝つ」フンス
吹雪「…………」ズキズキ
如月「……司令官さん、ガンバ、ね?」ポン
吹雪「艦隊運用のリテラシーからだとは思わないよ……」
――――真珠湾島、東の港、夕方
吹雪「……何も言わずに着いて来ましたけど、こっちなんですか?」
クー「島南部の真珠湾は、普段は使ってない」
クー「東の、湾は大きい水門が、ある」
クー「それで、外海と内海に、分かれていて」
クー「中に、仲間がいる」
如月「……? 海に?」
クー「うん」
吹雪「寝床は近くにあるんですよね。上陸をしていない様な言い方ですが」
クー「……見れば、分かる」
――――東の湾、水門入り口前
吹雪「大きい……どうやって開けるんですか?」
クー「それは……時間的に、そろそろ」
ゴゴゴゴゴ……
如月「水門が開いたわ……」
クー「向こうに、いる」
吹雪「――水門の端に、艦娘……彼女ですか?」
クー「あの子は、ここの門を定期的に開けたり閉めたりする艦娘」
「…………」
如月「ここから向こうまで相当遠いのだけれど……力持ちにしては度が過ぎてないかしら……?」
吹雪「――何だか、様子が変ですね」
クー「……ようこそ」
クー「ここは、船の揺り籠、そして墓場」
――――船の墓場、夕方
吹雪は、水門の中の――閉じた海に入って、まず、息を呑んだ。
艦娘たちが、湾の中に点在していた。
血の気の無い、虚ろな表情で――皆。
吹雪「――これは」
クー「これが、私達の姿」
悲しげな視線で、彼女は呟く。
クー「……記憶を取り零し、抜け殻になった艦娘は、ああなる」
クー「自分の意思も、もうない。ただ海に浮かぶだけの存在」
そう言って、そして水門の方を指した。
そこには、先程入り口を開いた艦娘――仮面をしている――がいて。
クー「あの子も、そう。まだ辛うじて意識はあっても、もう門を開ける。門を閉める。それだけしかしない」
クー「……門の部品に、なってしまったの。でも、それでなんとか、動き続けてる」
成る程、確かに。
確かに、これでは。
――佇む姿は、まるで墓標だ。
如月「吹雪ちゃん……」
吹雪「……予想より、ずっと嫌になる光景です」
クー「…………」
吹雪「……行きましょう。貴女たちのお母さんに会って、これからの事を話さなければ」
吹雪は、生真面目であった。
だから、目の前の光景に対してもいつも通り。
『こんな事は、あってはならない』
『だから、解決しなければならない』
そう、強く思って、動くだけだった。
投下終了
忙しいぜ!(仕事で忙しいとはいってない)
投下開始
――――東の湾、港、夕暮れ
浮かぶ船を尻目に、三人は陸地へと乗り付けた。
片足を水から浮かすだけで、どっと疲れが染み出す。
クー「ここから、上陸できる。近くに、宿舎があって、そこにみんな、いる」
吹雪「手近なのはありがたいですね。如月ちゃんも、もう大分疲れてるみたいだから」
如月「……少しね。休める場所があればいいのだけれど」
少しばかりの溜め息を吐きながら、如月も海から上がる。
節々から、隠しきれない疲労が漏れ出していた。
そこに投げ掛けられる、二人分の声。
?「あ、クー! 帰ってたの――あの、そっちは誰?」
?「知らない人だ……『ジュンイク』、この人たちはお面を着けてないね!」
見れば、艦娘が二隻。
港の向こうから、こちらを見つけて近寄ってきていた。
雰囲気を察するに、あれが聞いていた巡洋艦だろう。
ジュンイク「んー、なるほどー」
吹雪「あ、あの……?」
漸く立ち止まったが、大分近い。
パーソナルスペースが狭めな人のようだ。
似た類いの知り合いは割りと思い当たる。
概ね奔放だった事は置いておこう。
クー「ジュンイク、テイイク、ただいま。こっちは、遠征中に見つけた、仲間」
仲間、と言う言葉に視線がこっちに集まったのを感じた。
いや、二人は仮面――狐の面だ――をしているので、本当に感じただけなのではあるが。
ジュンイク「……ユキは?」
クー「遠征中。この子たちの、他の仲間と、物資を集めている」
兎に角、まずは名乗らねば、だ。
吹雪「はじめまして。特型駆逐艦の一番艦、吹雪です」
如月「睦月型駆逐艦二番艦の如月よ。よろしくね」
?「!」
軽く会釈をして自己紹介――すると、二人はとても驚いた様子で。
ジュンイク「名前――?」
テイイク「……えっ!? それって自称――じゃ、ないよね!?」
吹雪「え、えぇ」
更に二歩近付いてくる二人。
分かった、無邪気なんだ。
テイイク……と思われる方の軽巡はともかく、ジュンイクと呼ばれた方の重巡は遠目に見ても分かるぐらいの得体。
ユキが来ている様なパーカー、の下の自己主張が喧しかった。
クー「うん。そして、そういう事に関しての、事情は、説明、している」
ジュンイク「ふーん、そんな艦娘もいるのね……あ、 Verzeihung.」
ドイツ語――この子もまた海外の艦娘なのだろうか。
自分はほんの一部としか面識が無いな、と吹雪は思う。
帽子に狐面、左右で髪を束ねて黒のパーカーを羽織り、その裾からはみ出した白のミニを揺らしながら――異国の語を駆る彼女は一礼した。
ジュンイク「Guten Abend. 私はパールハーバー所属、重巡のジュンイク。よろしくね!」
そう言って、顔を上げた彼女が手を差し出したので、吹雪は握手してその歓迎に答える。
吹雪「こちらこそ、よろしくお願いします。ジュンイクさん……それから」
視線をもう一人に向けると、その艦娘は少し驚いた様子で。
どうやら、仮面もしていない――そういう艦娘が珍しいらしい。
髪は短くスタイルは控えめだが、パーカーの裾からは赤いスカートが目を引いていた。
余計狐面が気になるが。
吹雪「ふふ、噛みつきやしませんよ」
テイイク「あ……ごめんね、そんなつもりは無いよっ!」
元気な人だ。警戒されていたからなのか、きっとこの微笑ましい喧しさが本質なのだろう。
テイイク「うん、じゃあ改めましてっ」
テイイク「真珠湾所属軽巡、テイイクです! 吹雪ちゃん、よろしくねっ!」
仮面の下は笑顔なのだろう、と容易く推測できた。
こちらにも握手を持って応える。
吹雪「よろしくお願いしますね、テイイクさん」
テイイク「ぴゃいっ――噛んじゃった。はいっ、よろしくお願いしまーす!」
一通りやって、二人は如月にも同じようにし始めた。
盛り上がりだした……なんだかあの辺りの女子力が高まっている――!?
……さもありなん。仕方ないか、と吹雪は自分の色気の無さに納得した。
――――
キャッキャッ
クー「……と、言うわけ」ウン
吹雪「現状を見ていると、ああいう明るい人は貴重です。生憎、私は愛想に自信が無くて」ハハ
クー「二人は、あの子たち――海に浮いてる子の、世話を、よくしてくれる」
吹雪「……ああ、だから『保育係』なんですね」
クー「そう」コクッ
吹雪「納得です……ところで、戦艦の方は?」
クー「多分、寄宿舎。行く?」
吹雪「ええ。挨拶くらいはしておきたいので――如月ちゃん?」
如月「何かしら?」クルッ
吹雪「私は例の『お母さん』と顔合わせしておくから、如月ちゃんは先に休んでてくれる? 疲労はなるべく抜いておいてほしいんだ」
如月「あー……うん、分かったわ」コクリ
ジュンイク「なら、私達が案内しちゃいます」フフッ
テイイク「ぴゃあ、任せて任せてー! 水浴び場と壁のある部屋ならご案内ご案内!」
如月「……吹雪ちゃん」
吹雪「嫌な予感も含めて先に確かめといて」グッ
如月「……分かったわ」ハァ
――――ボロボロの寄宿舎、夜
吹雪「……酷いですね」ウ
クー「これでも、まだ風化は、マシな方」
吹雪「本当に施設の一つも無いとは……これで良く持ちこたえていられる」
クー「まあ、ね。着いた、ここの部屋」
ガチャ、キィ……
クー「ママ。帰ってきた」
「そんな気が、していましたよ」
吹雪「……初めまして。特型駆逐艦一番艦、吹雪です」
吹雪「(……痛々しい。足を怪我してるのかな――ベッドに寝たままだ。腕や首にも生傷が酷い)」
吹雪「(でも、確かに戦艦だ。雰囲気から強さが滲み出ている。それでも長い黒髪はバサバサだし、黒のドレスが汚れてるのが、ここでの戦いの辛さなのかな)」
「ええ、吹雪さん。よく、いらっしゃいました」
「わたくしは、見ての通り、仮面も無ければ――名前も無くなってしまった艦娘です」
「皆さんからは、お母さん、と呼ばれていますので……『マザー』、とでも仮称しておきますね」ニコッ
吹雪「では、マザーさんと。宜しくお願いします」
マザー「ええ、こちらこそ……貴女は、記憶がある艦娘なのですね」
吹雪「ええ、まあ」
マザー「よろしければ、こちらにおいでになって」
吹雪「は、はい」スッ
マザー「…………」ジッ
吹雪「(……吸い込まれる様な目だ――私を観察、してる?)」
マザー「――私は、貴女の様な方をお待ちしておりましたわ。貴女の様な、強きお方を」
吹雪「……いえ、私はそんな――期待に添えないようですが、一介の駆逐艦ですよ」
マザー「いえ、そんな事はございませんわ――だって、とても美しいですもの」
吹雪「美しい……っ?」
吹雪「(――この人は、何を見ているんだろう)」
吹雪「……何か、身嗜みが悪かったですか?」
マザー「あ、いえ……そうではございません――気にしないで下さいね」クスクス
「……ただ」
「――ただ、待ちわびていただけ、なのでございます」
投下終了
おまたせ
投下開始
――――東の港湾『船の揺り籠』、朝
ジュンイク「Guten Morgen. さぁ、今日もやってこうか」
狐面の少女は、海の上を歩いて波紋を鳴らす。
沢山の、立ち並ぶ仲間たち――所謂、墓標――その一つ――いや、一人一人に『おはよう』と声を掛けていた。
佇む、意思を喪った墓石たちは、皆一様に似た格好をしている。
ジュンイクらが来ている様な外套だ。黒く頭巾が着いた上着を、お揃いで。
すう――と静かな航行音で、彼女は彼らを見て回る。
ふと、一人に気付いて近寄って。
ジュンイク「髪にゴミが付いてるね……はい、取れた」
もう靡く事のないその艦娘の髪を梳る。
瞳に灯りは無い。奥の、奥底の機関が――もう冷えきってしまっていた。
ジュンイク「うん、かわいくなった! さてさて、お次は誰かなー?」
保育係とは誰が言ったか。
言い換えれば、まるで墓守り。
――狐の顔は、表情を映さない。
ジュンイク「んー、一周したかな。忘れてる子はいない……よね?」
港湾をすいすいと、一回り。
彼女もまた、記憶を持っていなかった。
だが、こうして自我を維持し生きている。
それは、単に運が良かっただけ――と後に彼女は語る。
運が良かっただけで、こうして助かってしまって。
だから。
ここは、生きていない。
まるで、生きられていない。
ジュンイク「……やだな。私、まただ」
この揺り籠の中には、生きるのを諦めたくなる空気が――酷く濃くあった。
――――辛うじて部屋を取り繕った空間、朝
タタタタッ
バタンッ
テイイク「おっはよーございまーす! 吹雪ちゃん如月ちゃん起きて――ぴゃ?」ピタッ
吹雪「…………」スヤスヤ
如月「…………」スゥスゥ
テイイク「(な、何で同じ布団で――薄着同士で抱き合って寝てるの!!?)」
テイイク「ぴゃ、ぴゃ……ぴゃあぁぁぁぁ!?」
吹雪「――ん……テイイクさん、ですか?」ムク……
如月「んぅ……なにぃ……あさぁ……?」ネムネム
テイイク「あっ……う、うん。起こしにきたよー」
如月「んー……吹雪ちゃーん……おはよー……」チュッ
テイイク「!!?」ビックゥ
吹雪「あっ、こら……まったく、寝惚けちゃって」
テイイク「い、今――ほ、ほっ、ほっぺ……!?」
吹雪「ん……あぁ、すいません。お見苦しい所を」ハハ
テイイク「(ぴゃあぁぁ、何で平然としてるんです!?)」
テイイク「(……進んでるんだ、最近の駆逐艦って)」ハッ
吹雪「このねぼすけを起こしたら行きます……どちらへ向かえばよろしいですか?」
テイイク「あ、うん。とりあえず『揺り籠』に来てくれたら」ギクシャク
吹雪「昨日上陸した港ですね。了解しました」
――――揺り籠、朝
テイイク「……と言うわけなの」
ジュンイク「ふむ……それはきっとですね――」
テイイク「きっと?」
吹雪「……あ、いたいた。おはようごさいます、二人とも――」
ジュンイク「吹雪ちゃんは、レズなんですよ!」ニッコリ
吹雪「違います!」クワッ
ジュンイク「うっひゃ――! い、居たんですか、吹雪ちゃん」
テイイク「ユキと同じと考えたらしっくりきたよ! これからよろしくね吹雪ちゃん!」
吹雪「嫌な納得の仕方止めてくださいよ……」ハァァ
如月「吹雪ちゃんはレズじゃないわよ」クスクス
ジュンイク「そうなんです?」
吹雪「――やっと分かってくれたんだ」
如月「たまたま好きな子が私だっただけよ」ドドン
吹雪「ちょっ!?」
テイイク「それを、そう言うんじゃないかな……?」ンン……?
吹雪「この通り何のフォローにもなってないんですけど!?」
如月「えっ、吹雪ちゃんは私嫌い……?」ビクッ
吹雪「…………」
吹雪「…………」ウー
吹雪「…………」アー
吹雪「……それ、寝る時でいい?」
如月「いいわよ」クスッ
ジュンイク「(スゴい)」
テイイク「(日本語だと『ヤバい』の方が的確かなぁ)」
――――
吹雪「ところで、気になっていたんですけど」
ジュンイク「なに?」
吹雪「いえ、その……ジュンイクさん達もそうなんですが、何故――海に立っている皆さんも含めてパーカーなんです?」
テイイク「あー、それはユキがやったんだよ!」
如月「ユキさんが?」
ジュンイク「まだ私たちが迷走してた頃だったけど……ユキは自我を強く持った最初の艦なんだ」
ジュンイク「その時は、ユキの着てた服が効果あったんだ! って話になって、あの子が必死に裁縫して皆の分の……この服だけど、作って着せたの」
テイイク「うー、まぁ、それは全然関係無かったって後から分かったんだけど」
如月「それは、どうやって?」
テイイク「ここで固まってる皆のおかげ……」
如月「――ご、ごめんなさい! 無神経だったわ……!」
ジュンイク「ううん、気にしないで。仕方の無い事だし……」
ジュンイク「……話を戻すけど、ユキはそれから閃いたの。『顔を隠すのが大事だったんだ!』って」
テイイク「実際、皆は羽織ってるだけだったの。フードまでしてなくて」
ジュンイク「ユキはあっという間に、その『顔を隠す手段』を考えて作り上げたんだー。それがこの」
テイイク「お揃いのキツネのお面なの!」
ジュンイク「……でも、間に合ったのは私たちくらい――私たちはたまたま『運が良かった』」
テイイク「……テイイク達以外は、ギリギリ『門番』が助かったくらいで」
吹雪「門番――水門の方ですか?」
ジュンイク「そうそう。でも、ホントギリギリでさ」
ジュンイク「もう、回りの事なんてほとんど分からないみたいだし……ちょっと動けるだけ」
テイイク「あそこ――水門から動こうともしないし、艤装がとんでもなく重いの。私たちじゃ動かすのちょっと無理……」
ジュンイク「時間があったら話し掛けてみてくれない? 違った刺激があれば、あの子も反応するかも」
吹雪「了解です。機会があれば、小まめに伺わせていただきますね」
――――揺り籠、港、昼
吹雪「……しかしここは、その」
ジュンイク「? どうかした?」
吹雪「施設がまるで機能していない……これでは、拠点とするには心許ないですよ」
テイイク「ぴゃー……そう言われても、どうしようもないよー……」
如月「吹雪ちゃん、またやるの?」
吹雪「……やろうか。ジュンイクさん、この島――真珠湾を、戦略的価値のある施設にしたいと思うのですが」
ジュンイク「お、おお? 具体的には?」
吹雪「ドック――お風呂と、港の整備。建物の補修、後は……簡易でも工厰を設置しておきたいですね」
吹雪「このままでは、もし過酷な戦闘になった場合にどうしようもありませんから……」
テイイク「お、お風呂! 素敵……!」
如月「そうよ、美容の為にもお風呂は必須なんだから!」ビシッ
ジュンイク「出来るならやりたいけど、私たちにはどうすればいいのかさっぱり……一応、ママに相談してみて」
吹雪「勿論、そのつもりです。少し席を外しますね――あ、そうだ。如月ちゃん」
如月「なにかしら?」
吹雪「私がマザーさんと話してる間、ジュンイクさん達と軽く演習をしてほしいんだ――ジュンイクさん、構いませんか?」
ジュンイク「演習? いいけど、何故?」
吹雪「この拠点の戦力を知っておきたいのです。クーさんは―ーまぁ、あれだけの自信があるのでしたら必要はありませんが」
テイイク「いいよー! 私たちあんまり戦った事ないし! やろうやろう!」
如月「重巡と軽巡……目眩がしてきたわ」クラッ
吹雪「じゃ、お願いね」
如月「……後でご褒美がいるわ」
吹雪「できる範囲なら」クスッ
如月「――よーし、やりましょう!」ザバァッ
テイイク「いざいざー!」ザブンッ
ジュンイク「胸を借りる――って言うのかな」ザザァ
吹雪「よし。さて、私は向こうっと」
――――ボロボロの寄宿舎、マザーの部屋
吹雪「――と言うわけです」
マザー「まぁ……それは素敵な話ですね」
マザー「……でも、途方もない話でもあります。情けない事に、わたくしは怪我で満足には動けません」
マザー「それに、動ける子はジュンイクとテイイクだけ……あの子たちは食料集めや流れ着いた物の整理なども任せております」
マザー「……となりますと、吹雪さんと如月さんだけでその作業をせねばなりませぬ。これではとても……それに、私たちとしても申し訳無さが勝ちますわ」
マザー「今までも、どうにかこの有り様で凌いできましたし、ご無理をなさらなくとも……」
吹雪「無理なんかでは……それに、このままではいつかジリ貧に陥る時が来ます」
吹雪「貴女の足も、ドックが出来ればすぐに癒えるでしょう。聞けば、ここには高速修復材が沢山貯蓄されているそうで」
マザー「高速修復材……ですか? はて、そんな物を持ち合わせていたでしょうか……」
吹雪「ユキさんに聞いています。『味もいまいちで飲むのもどうかと思う』水……心当たりありませんか?」
マザー「……ああ、ドラム缶からたくさん出てきた――それなら存じておりますわ」
吹雪「それを使えば、艦娘の体は素早く癒されます。故に、ドックの整備だけは急務なのです」
マザー「……分かりました。でしたら、心苦しいですが……お願い、できますでしょうか」
吹雪「任せて下さい。なに、ドラム缶でお風呂を作るだけでも劇的に変わるのは、私も自分で証明していますから」
マザー「あらあら、それは頼もしいですわ……わたくしもお手伝いできればよろしいのに」
吹雪「人手は……仕方無いですよ。何とかします」
オコマリカイ?
吹雪「えっ――あっ、何で……!?」
妖精「」マタセタナ
マザー「おやおや、まぁまぁ。これは可愛らしい……小人、でしょうか?」
吹雪「あ、いや、一応妖精さん……なんです」
妖精「」オマエノギソウニ、ノッテキタ
妖精「」ワンサカ、ナ
吹雪「えっ」
ドドドドドドドサァ
吹雪「背中からめっちゃ出てきたー!!?」ビビクゥッ
マザー「あらあら、あらあらあら」オロオロオロ
妖精「」セツビカ
妖精「」オレタチニマカセナ
妖精「」ココヲゲイジュツヒンニ、シタテアゲテヤンヨ
吹雪「ま、まぁ何にせよ助かります。マザーさん、人手の件は解決……いや、もっと色々な事が出来るかもしれませんが……解決しました」
マザー「その方らは、職人さんなのでしょうか?」
吹雪「そのような認識で構いません。これなら直ぐにでも取りかかれます……資材は、あるものを使って構いませんか?」
マザー「ええ、どうせ私たちでは腐らせる物もありましょうし、存分にお使い下さい」
吹雪「ありがとうございます。では、早速」
妖精「」テツダイナ、フブキ
妖精「」アンナイシロー
吹雪「了解です。行きますよ、妖精の皆さん!」
妖精「」ウオー
妖精「」ヤッテヤルヨー
――――静かになって
マザー「ふふ。全く、元気が誠実さを着て歩いているよう」
マザー「ドラム缶のお風呂……は実体験できそうにありませんね」
マザー「ふふふ……」
マザー「……確かに、貴女と共にした――あの簡素な湯船は、温かかった」
マザー「少し残念……ですね」
投下終了
スマホ叩きすぎて指が折れそう←
投下開始
――――揺り籠、夕方
吹雪「ようやく一段落着いたや……ばつびょー、っと」ピョンッ
吹雪「さて、如月ちゃんは上手くやってるかな?」パシャンッ
ジュンイク「はぁ……やられちゃったぁ……」グッタリ
テイイク「す、少し休むぅー……」ボロボロ
如月「や、やったわ……勝ったわ……!」フルフル
吹雪「……えっ」
如月「あっ、吹雪ちゃーん!! 見て、私巡洋艦相手に完勝よ!」ワーイ!
ジュンイク「うう……お見事」
テイイク「あいたた……」
吹雪「……うーん」
如月「はーい。言いたい事は分かるし、真面目に答えるわね」
如月「……練度不足、かしら」
ジュンイク「うっ」ギクッ
テイイク「ぴゃあ……」タジッ
吹雪「……とやかくは言いませんが、今までに戦闘の経験は?」
ジュンイク「実はあんまり……」ハハ……
テイイク「戦いはお母さんとクー、ユキが出れば事足りちゃうし……」
ジュンイク「私たちはここの動けない子を守らないといけないから、いつも待機」
如月「――ああ、なるほど。空母の艦載機なんかに狙われたら大変だものね」
吹雪「……推測するに、今までその状況に陥った事はないですね?」
ジュンイク「Ja. 大体クーとユキが叩き落とすから……」
吹雪「だろうと思いました……ふむ、課題が増えましたね」
テイイク「かだい?」
吹雪「ええ。貴女たちも、いざ有事には戦わねばならぬ時が来るはずです」
吹雪「その時に備え、二人を鍛えます!」ドンッ
吹雪「貴女たちの話を聞いている限りでは、確かにクーさんユキさんは他の追随を許さないのでしょう」
吹雪「ですが、それはそれ。せめて対空射撃程度はこなして頂かないと」
ジュンイク「耳が痛いけど……どうやって戦うかもよく分かってないの」
テイイク「艤装が動かせるだけじゃダメー?」
吹雪「ダメです。呼吸だけでは生きていけませんよ」
吹雪「……ま、施設を整えるのにも時間は掛かりますし、ちょうどいいです」
吹雪「今日は良いですが、明日からは訓練を取り入れましょう」
ジュンイク「えっ、それはちょっと……」
テイイク「――ぴゃあー!? 大変だよジュンイク、もうこんな時間!」
ジュンイク「――あっちゃー……ご飯集めるの忘れてたや」
吹雪「ああ、それならご心配なく」
吹雪「妖精さんが全てやってくれていますから!」フフンッ
ジュンイク「…………かわいそうに。どこかで頭を打ったのね、強く」
テイイク「元気出してね、吹雪ちゃん」ポンッ
吹雪「この扱い!?」ガーンッ!?
如月「ふふふっ」クスクス
――――突貫作業、食堂
トンカントンカン
妖精「」マズハメシダー
妖精「」シキニカカワル、イソゲー
ジュンイク「」ポカーン
テイイク「お、おぉ……?」
吹雪「嘘は言いませんよ」フンス
如月「……この妖精さんは、もともとこの島に?」
吹雪「いや、私たちの鎮守府の。艤装に潜り込んで着いてきてたみたい」
如月「えっ……それ、大丈夫なの?」
吹雪「何が?」
如月「私たちの鎮守府」
吹雪「あっ」
――――吹雪の鎮守府、厨房
ユキ「さあ食え!」ドンッ
利根「ほう、今日はカレーか。頂くとしよう」
明石「――おいしいですね。意外です」
ユキ「この俺様にやってやれない事など一つもねぇぜ!」ドヤッ
ユキ「粉はあったが……食材集めがちっとばかし面倒だったな」
明石「でしたら、それは島に待機している私がやりましょうか? お二人は資材集めがありますし」
ユキ「お、助かるぜ。しかし野菜とかは間に合わせで何とかなるが、どうにもたんぱく質がねぇ」
利根「……カレーに入っておるこの肉は何じゃ?」
ユキ「魚の身を丁寧に磨り潰して味付けして軽く揚げたものだ」フフフ
明石「……凝り性なんですね」
ユキ「否定はしねぇ!」フハハハッ
――――作業中、真珠湾食堂、夜
妖精「」マニアワネェナ
妖精「」コレデキョウハ、シノイデクレ
ガラガラガラッ
吹雪「缶詰……ホント、私の艤装のどこに詰め込んでたんですか」
如月「乾パンももらってきたわ。皆で分けましょう?」
テイイク「わぁ……こんなの普段食べないから、新鮮!」ピャー!
ジュンイク「一人分、持っていくね。マザーもお腹すいてるだろうし」
吹雪「(……そういえば)」
吹雪「……あの、門番の方は食事を摂らなくて大丈夫なのでしょうか?」
テイイク「あー……持っていっても反応すらもうしないからねー……」
ジュンイク「……ま、私たちって実際は兵器だし、食事は無くても最悪は……あの子はもうご飯も食べれないよ」
吹雪「……ふむ、なるほど」
吹雪「……如月ちゃん、私ちょっと出てくる」
如月「? 分かったわ。早く帰ってきてね」
吹雪「ん。了解」
――――水門上、夜
門番「…………」
パッ
吹雪「こんばんは。良い夜ですね」
吹雪「ライトが眩しくてすみません。門番さん、今日のご飯は少し質素ですが、おひとついかがです?」
門番「…………」
門番「…………すい、もん……あける」
ゴゴゴゴゴ
吹雪「(ホントにこっちを見もしないや……)」
吹雪「(まるで、私がここにいるのも分かってないみたいに)」
吹雪「……置いておきますね。また来ます」
門番「…………………………」
門番「…………しめる」
久し振りの寝落ちしそうなんで投下終了
投下開始
――――開拓の日々、大突貫の作業を。
――――仮設工厰、昼
ドタバタドタバタ
妖精「」オライソゲヤァ!!
妖精「」デンキダケハタヤスナ!
妖精「」ハツデンキトメンナ!
吹雪「一号機の燃料そろそろキツいです!」
妖精「」キリカエテホジュウ!
妖精「」ネンリョウハソウコ!
吹雪「了解です!」
妖精「」フブキ、ニモツアゲテクレ!
吹雪「はいただいま!」
妖精「」フブキ、ココハナンセキブンニスル?
吹雪「ドック広さですね!? とりあえず四隻で!」
妖精「」フブキー
吹雪「タスク3つあります、一旦置いてください!」
トンカントンカンガガガガドドドド!!!
如月「……ちょっと今は忙しいみたいね」タラー
ジュンイク「発電機……どうりで昨日は明るかった訳ね」フム
テイイク「昨日は驚いたよー?」
如月「私たちも最初は明かりの確保に苦労してたわ……」
テイイク「とりあえず呼ぶね。おーい、吹雪ちゃーん!」
吹雪「――――!! ――――!」
ジュンイク「聞こえてないみたい」
如月「仕方ないわ、あれだけ忙しいそうなのだもの。『声を聞けないのは少し残念だけど』、私たちで行動しましょう」
吹雪「――っ、如月ちゃん?」ピクッ
テイイク「あ、聞こえたみたい。こっち見た!」
ジュンイク「助かったー。これで妖精さんの手も借りれたらいいけど」
如月「ならせっかくだし……吹雪ちゃん、ちょっとー」ヒラヒラ
タッタッタッ……スタッ
吹雪「何か用? 見ての通り、ちょっと立て込んでるから……」
如月「お疲れ様、吹雪ちゃん。実は、食料の事で二人が話をしたいって」
吹雪「食料?」
ジュンイク「うん。私たちが食べ物とかを集めてる島は知ってるよね?」
吹雪「ええ。クーさんに、来る途中で説明をしていただきましたよ」
テイイク「その食料集めを、妖精さんに手伝ってほしいなって思って」
吹雪「ああ、なるほど。それなら寧ろ、最初の一回さえ教えてあげれば、後は独りでにやってくれますよ」
吹雪「確かに兵糧は火急の案件ですね。妖精さーん!」
妖精「」ナンダ!
妖精「」イマイソガシイゾ!!
吹雪「主計班を募って、ジュンイクさんのサポートを。兵糧の獲得、及び献立の提案をお願いします」
妖精「」リョウカイ!
ゾロゾロゾロゾロ
ジュンイク「ワオ、こんなに……」
テイイク「海を渡るから、私たちに乗ってね!」
妖精「」シンパイゴムヨウ
妖精「」ジマエノボートガアル
如月「さ、流石ね……吹雪ちゃん、私もそっちのお手伝いをするわ。空いた時間で訓練をしておく、のでいいのよね?」
吹雪「うん。どうも資材はそこそこ蓄えてるっぽいし、それなりにやっておいて」
吹雪「ユキさんが集めておいた物みたいだから、有効には使わないとだけど」
如月「分かってるわ。それじゃ、吹雪ちゃんもお仕事、頑張ってね」ニコッ
吹雪「……はは、奥さんみたい」クスッ
如月「そうよ。いってきます」
吹雪「知ってる。いってらっしゃい」
ジュンイク「(何気無い凄い会話だったよ!?)」
テイイク「(恐ろしく自然なレズ、私でなきゃ見逃しちゃうね)」
――――実り豊かな島、昼
妖精「」ココカ
妖精「」シュケイカノチガサワグ
ジュンイク「この島なら、色々採れると思うよ」
テイイク「さ、母さんも待ってるし果物でももいでいこっか?」
如月「多分、その必要は無いわ」アレ
妖精「」イクゾオマエラ!!
妖精「」オォー!!
ドドドド――――
如月「後10分もしたら一週間分くらいの食料をかき集めてくるわよ」
ジュンイク「仕事がなくなっちゃうなぁ」ハハ
如月「その分訓練を目一杯やれるわ」フンス
テイイク「あはは……お手柔らかに」
――――マザーの寝室、夕方
マザー「…………」
マザー「……そろそろ、ですね」パチッ
コンコンッ、ガチャッ
ジュンイク「よっ、と……ママ、調子はどうですか?」ドサッ
マザー「良好ですよ。今日はまた、いつもよりたくさんの果物ですね」
ジュンイク「ああ、それはあの妖精――小人さんが手伝ってくれたから……」
マザー「…………貴女も、あれは小人に見えますか?」
ジュンイク「……? え、ええ。それ以外に何かに見えます?」
マザー「いえ、なら良いのです。私の思い違いでしたわ……一つ、頂いても?」
ジュンイク「あ、どうぞどうぞ。この果物はですね――――」
投下終了
風邪ひきました
体真っ二つになると死ぬキャラはちょっと……
投下開始
――――明くる日、明朝の工厰
吹雪「――完成!」
ワァァァァァ!!
妖精「」ナントカカタチニナッタナ
妖精「」キュウヨウヲトロウ
吹雪「そうですね……発電施設はいけそうですか?」
妖精「」カリョクハツデンショヲミツケタ
妖精「」ナントカフッキュウサセル
妖精「」サイワイ、タンクニセキユガノコッテタ
吹雪「使えそうですか? 変質してそうですが」
妖精「」ナニ、ソコラハマカセトキナ
妖精「」フブキハスコシヤスメ
吹雪「それならお言葉に甘えて……流石に疲労が――」フラッ
ポスッ
如月「ほら、しっかり」
吹雪「如月ちゃん――まだこんな時間だよ。寝てていいのに」
如月「寝てたわ。でも隣に誰もいないと落ち着かないの」
如月「ふわぁ……さ、寝直しましょ」グイグイ
吹雪「そうだね……押さないで、歩けるから」
妖精「」イッタカ
妖精「」サテ、ヒトフンバリスルカ
――――吹雪によって何とか部屋としての体裁を取り戻した空間、昼
吹雪「――――ん、昼?」ムクッ
吹雪「寝すぎたなぁ……如月ちゃん――はいないか」
吹雪「工厰は完成……とりあえずこれで妖精さんの仕事の速度も上がるし――一息付けるかな」
吹雪「さて……何処から手をつけるかな」フッ
――――食堂、昼
キャッキャッ
吹雪「ん。皆お集まりで」
如月「あはは――あっ、吹雪ちゃんおはよう。良く眠れた?」
ジュンイク「Guten tag. 吹雪ちゃん」
テイイク「おはよう! だよね?」
吹雪「あはは……おはようでもあります」
吹雪「皆で昼食ですか?」
如月「うん。今日は妖精さん手製のカレーよ」
ジュンイク「暖かいご飯……素敵です」キラキラ
テイイク「料理されてるっていうのが新鮮新鮮!」ニパッ
吹雪「兵站の主なる所ですからね。やはり確りするに越した事はないです」
吹雪「……そういえば、外の方々は食べなくても平気なんでしょうか」
ジュンイク「……そんな元気があれば、立ち尽くしたりしないよ」ハァ
吹雪「――いや、すいません。失言でした」
テイイク「いいよ。気にしないで」
吹雪「…………」ウーン
如月「……吹雪ちゃん?」
吹雪「――ものは試しか。やってみよう」スック
ダッ
如月「吹雪ちゃん? カレー持ってどこへ……?」
吹雪「ちょっと揺り籠へー」トテトテ
ジュンイク「待って何する気!?」ガッタァァァン!
――――船の揺り籠、昼
吹雪「カレーの皿片手に抜錨したのは初めてだなー」スーイスーイ
ジュンイク「ちょっ、ちょっと! 勝手は止めてよ?!」ザバババ
テイイク「何をするつもりなの?」キョトン
如月「吹雪ちゃん、たまにムチャクチャするから……何かあったら私が叱るわ! 夜」
テイイク「夜!?」ビクッ
吹雪「何をするもかにをするも。ただ食事をしてもらおうと思って」
ジュンイク「い、いやだからもう……」
吹雪「ああ、ジュンイクさん達の言い分は分かります」
吹雪「でも、私面倒な性格で。出来ることやりたいことを自分でやらないとウズウズしちゃって」
吹雪「――む。あの方にしましょう。私の勘がそう告げています」スイー
如月「駆逐艦みたいね――吹雪ちゃん!!」ムッ
吹雪「な、何さ大声で?」ビクッ
如月「何であの子にしたの? 何であの「おっぱいが大きい駆逐艦」にしたの?」
ジュンイク「…………うわぁ」
テイイク「これはひどい。ぴゃあ、と言わざるを得ないよ」
吹雪「ちっ、ちが、決して他意は!?」アセアセ
如月「…………」ジトー
吹雪「……さ、行こうか」スイー
如月「……後でお話ね」
吹雪「冤罪を主張する他なさそう……」ハァァ
――――例の駆逐艦の前
吹雪「この方もパーカーに仮面ですか」
ジュンイク「まあ、ユキ手製の半制服みたいなものだし」
吹雪「彼女の影響力凄いですね……さて、では食べていただく――前に会話からですね。こんにちは、新人の吹雪です」
駆逐艦「…………」
ジュンイク「……ほら、ダメだよやっぱり。見てると気が沈んじゃうから、あんまり」
吹雪「まあ待って下さいよ。カレーに心動かされない方なんていません」
吹雪「今日はお昼にカレーを作っていただいたんです。宜しければおひとつどうです?」スッ
駆逐艦「…………」
テイイク「……そういうのも、ユキやってたからなぁ。多分無理だよ」
如月「……待って、吹雪ちゃん。それ、やり方によっては何か変わるかも」
吹雪「変わる?」
如月「……実体験の話よ。私が同じようになりそうだった時の」
吹雪「――教えて」
如月「あの時、吹雪ちゃんの顔を見て、声を聞いたわ。『しっかり見つめる』とか『状況を教える』とか……そういうのを試すと良いんじゃないかしら?」
吹雪「ふむふむ。やってみようか」
吹雪「見つめる……と言っても仮面の穴越しだけど」ジッ
吹雪「カレーを持って来たので、昼食にしませんか?」
駆逐艦「…………」
テイイク「……うーん、ダメかなぁやっぱり」
ジュンイク「…………」
如月「言葉が難しいと思うわ。私の時なんか……たしか、『起きた?』だけだったから、もっと簡素にしてみたらどうかしら?」
吹雪「簡単な言葉……?」ウーン
吹雪「……『食べて』」
駆逐艦「………………」
吹雪「……ダメかぁ」ハァ
ジュンイク「……もう私たちをオモチャにするのは止めてもらえる?」
吹雪「――そんなつもりは」
テイイク「ま、まぁまぁジュンイク。吹雪ちゃんも良かれと思ってやってるんだから――」
如月「――待って。何か聞こえる」
吹雪「っ」
駆逐艦「………………」カチ……カチ……
ジュンイク「――歯が」
テイイク「鳴ってる……!?」
吹雪「――よし! それ、被ったままでは食べられませんね――外しま」
ジュンイク「だ、だだだ、ダメダメダメッ!! それは絶対ダメ!!」グイッ
吹雪「うっ――しかし、これはチャンスでは!」
ジュンイク「それでこの子が沈むかもしれないの! 分かってよ!」
テイイク「ふ、二人とも落ち着いて!」ワタワタッ
如月「……妖精さんに、顔の上だけの仮面作ってもらえばいいんじゃないかしら」
…………………
吹雪「それだ! 構いませんね?」
ジュンイク「う……ま、まぁそれなら」
吹雪「そうと決まれば! ジュンイクさんも来ていただきますよ、主にデザイン面での協力で!」グイッ
ジュンイク「う――わぁ――?! 駆逐艦、のくせに、速すぎ――――?」ザバババ
如月「最大戦速ね」クスッ
テイイク「見た目より破天荒だねー」ハハハ
駆逐艦「………………」
テイイク「……よかったね!」
駆逐艦「………………」
投下終了
遅くなったけど投下開始
――――工厰、夕方
如月「失礼しまーす……」ヒョコッ
ガヤガヤバタバタ
テイイク「どう?」
如月「かなり忙しそう……」
妖精「」アガリダ
吹雪「よーっし、試作品が出来ましたよ!」
ジュンイク「こ、この仮面……!」
吹雪「ええ。ジュンイクさん達用の特注デザインですよ。今の、狐をモチーフしたそれを参考に――口元を開けました」
吹雪「さ、試しに着けてみて下さい。良さそうならそれの無地版の物を妖精さんに数作ってもらいますので」グイグイ
ジュンイク「ああっ、止めて分かった自分でやるから! 仮面には触らないで!」
如月「……賑やかね」
テイイク「こりゃ邪魔しない方が良さそう……」
テイイク「私はクーの所へ行く用事があるし、今のうちにちょっと出掛けるね」
如月「クーさん? そう言えば、ここに来てから見ていないわ……」
テイイク「ここから北西の島に、小屋があるんだ。そこに居るよ」
テイイク「深海棲艦が近付いて来る時もあるから、偵察機を飛ばせるクーやユキ、電探……だっけ。それの感度が良い母さんが交代で見張りをしてるの」
如月「ああ、それで――ん、それって。今はクーさんだけ……?」
テイイク「うん。母さんはケガで動けないし、ユキは居ないから――仮眠を取りながらずっと見張ってると思う」
テイイク「そろそろ小屋に置いてた食べ物が無くなる頃だし、持っていってあげないとね」
如月「ああ、ご飯の問題だったのね……妖精さんに言ったら、きっと見張りくらいならしてくれると思うわ」
如月「もっとも、手が空けば……だけれど。今は無理そうね」
テイイク「妖精さんは働き者だねぇ……それはまた、吹雪ちゃんと相談するよ」
テイイク「さて、見張りの島に行くけど、どうする?」
如月「そうね……私も着いていっていいかしら。見ておきたいわ」
テイイク「うん、じゃあ――そろそろ水門が開く時間だし、揺り籠から出発しよっか」
如月「ええ。案内をお願いするわ」
テイイク「……クーはたくさん食べるから、如月ちゃんも運ぶのを手伝ってね」
如月「それくらいなら、お安いご用よ」クスッ
――――北西の島、夕方
テイイク「ここだよ」ドッサァ
如月「…………」ゼーハー……
テイイク「……ちょっと重かった?」
如月「……多少、ね」ドッスゥ
テイイク「クーも喜ぶよ」
如月「……と言うか、今まではどうしてたの? クーさんもユキさんも居なかったんでしょう?」
テイイク「その時は私とジュンイクが交代で……肉眼でも、居ないよりはマシだったし」
如月「……? あなた達は巡洋艦よね。偵察機も艤装に備え付けられてないのかしら?」
テイイク「あるにはあるけど……イマイチ上手く飛ばなくて……」ウーン
如月「上手く飛ばない……? 整備不良、かしら」
如月「妖精さんに余裕が出来たら、その辺りも見てもらうといいかもしれないわ」
クー「艤装も、直せるの?」スッ
如月「ひゃっ!?」ビクッ
テイイク「クーさん、食糧の補給ですよー!」
クー「助かる」グッ
如月「音も無く現れるのは心臓に悪いわ……」
クー「驚かせる、つもりは」
クー「それより、妖精の、こと」
如月「あれ、もう知っていたの?」
クー「うん。ジュンイクから、伝えて、聞いてる」
クー「便利に、なるのは、助かる」
如月「見張りも妖精さんの方でやってくれないか頼んでみるつもりよ」
クー「それは、本当に助かる。いつもこうだと、他の事が、出来ないから」
クー「あの小屋も、ガタが、きてるし」
如月「……まさかあの廃屋が」
クー「見張り小屋、兼、寝床」コクッ
如月「……吹雪ちゃんに伝えておくわ。改善の余地がたくさんって」
クー「ありが、たい」
――――工厰
ジュンイク「…………」ゴクリ
吹雪「どうしました? 仮面のサイズは問題ない筈ですが……」
ジュンイク「い、いや……いざ今の仮面を外すとなると――その、怖くて」
吹雪「(……これは、思ったより根深い案件なのかもしれないなぁ)」
吹雪「(少し外して、すぐ着け直す。それだけの事でも恐怖感があると言うのなら――それはもうトラウマか何かの類いだ)」
吹雪「(……それか、今もなお、そう言う恐怖を絶え間無く感じているか――こっちの方がしっくり来るかな)」
吹雪「なら、私がやりましょうか? いや、やります。手早く済ませてしまいましょう」スッ
ジュンイク「あっ――」
――――
その巡洋艦の狐の面を、吹雪は何気無い仕草で素早く剥ぎ取った。
もう片方の手には替えの半面。
「あっ――やっ、ああ……! は、早く戻して!」
吹雪「――――?」
素顔の彼女を見て、彼女は『ジュンイク』と言う形では無くなった。
ドイツの重巡洋艦だろう。それは見当付いていた。
――見覚えがあるような気がした。
でも、確実に知らないとも思った。
――これは既視感だ。
彼女を見ていると、ゾワゾワとした不安に襲われる様で。
モザイクを視界に張り付けた様な吐き気すらした。
「あ、あぁ……!」
『それ』が頭を抱えて踞る。
吹雪はようやく、慌てて彼女に仮面を被せた。
ジュンイク「はぁ――ひ、酷い。吹雪は私たちの怖さとかが分からないんだ!」
『ジュンイク』が、何とか持ち直したのか、面を上げ不満そうに抗議する。
呼び方が変わっているのは、恨みがましい視線を見ればさもありなん、と。
彼女が仮面をしていると、吹雪も視界から不安が消えたのを感じた。
だが、今度は頭の中が揺らぐ。目眩も、少し。
吹雪「うっ……とと」
ふらつきを抑えて、ジュンイクを見る。
うん、問題は無さそうだ。
吹雪「その様子なら、口元が見えても効果は変わらないようですね。表情が分かる方が魅力的ですよ」
ジュンイク「そ、そうかな……?」
本心を、素直に口に出す。
頬や唇が見えるだけでも、大分可愛らしいのが見て取れる程だったから。
吹雪「では妖精さん、量産の方は任せましたよ」
打ち合わせ通りに、妖精たちはせっせと仕事に取りかかった。
――また目眩。
吹雪「(これは……違う。脳に負荷が掛かったのかも)」
不自然なそれに、思い当たるのは――潜水艦隊と戦った時の走馬灯。
感覚は、それと似ていた。
吹雪「……私は、少し休みますね」
ジュンイク「あっ、ちょっ――と?」
工厰を出ていこうとした吹雪を呼び止めようとしたジュンイクは――その当人が倒れるのを目の当たりにする。
ジュンイク「ふ、吹雪!?」
吹雪「う……き、気分が……」
ジュンイク「とりあえず掴まって……部屋まで送るから」
吹雪を抱き上げ、肩を貸した。
脱力した彼女を、ジュンイクは何とか部屋まで連れて――
――――吹雪の寝室、夜
吹雪「…………」スヤスヤ
ジュンイク「……もう。散々ひっかき回して」ハァ
ジュンイク「ユキとは違ったタイプでリーダーになる子だなぁ……頼りになる感じも無くはないんだけれど」
ジュンイク「……ふふ、こんな人も確かにいるか」
ジュンイク「『ビスマルク』姉さまも、似たような感じだったなぁ――――っっ!!?」ズキィッ!!
ジュンイク「……あれ、私、今……何て言ったっけ……?」
ジュンイク「……健忘? えぇー……もう年かなぁ、やだなぁ」
吹雪「…………」スヤスヤ
ジュンイク「……Gute Nacht. 吹雪」クスッ
投下終了。強き意思で寝る
投下開始
――――吹雪の寝室、朝
吹雪「…………ううん……はっ」ガバッ
吹雪「朝……あれ、いつ寝たっけ……?」
パタパタ――
如月「あ、やっぱり。起きたのね吹雪ちゃん」
吹雪「ああ。おはよう、如月ちゃん」
如月「昨日は驚いたのよ。帰ってきたら、吹雪ちゃんが寝込んでいるんだもの」
如月「体調はどう? まだ横になってなくて大丈夫?」
吹雪「……ああ、そうだった。気分が悪くなって――それで」
如月「ジュンイクさんがしばらく見ててくれていたみたい」
吹雪「あー……後で一言声をかけておくよ」
如月「私は最初、遂に部屋に連れ込んじゃったのかと思ったわ」
吹雪「ないから」ハハ
――――船の揺り籠、港、朝
吹雪「おはようございます、二人とも」
如月「おはよう。いい天気ね」
テイイク「おっ。おっはよー!」
ジュンイク「Guten Morgen. 吹雪」
吹雪「昨日は迷惑をおかけしてすみません……ありがとうございました」ペコ
ジュンイク「調子はどう? 悪くない?」
吹雪「ええ、おかげさまで何とか」
テイイク「具合が悪くなったって聞いたよ。ずいぶん急にだよね」
吹雪「それは……何故でしたか――そう、ジュンイクさんの仮面を取ったら、急に目眩がして」
如月「…………あの、大変口に出しにくいのだけれど、そんなにショックな顔だったの?」
ジュンイク「えっ……」シュン
吹雪「い、いや……顔立ちは多分整ってたと思う。印象だけの話だけど、可愛らしいと感じたし」シレッ
ジュンイク「……いつもこんな感じなの?」
如月「うん。だから困るの」
テイイク「知ってる知ってる! 『たらし』って言うんだよこういうの!」アハハッ
吹雪「どうしろと」
――――工厰、昼
妖精「」ホレ、モッテイケ
吹雪「新しい仮面、もう人数分できましたか。では早速使わせてもらいます」
妖精「」フロモデキタ
妖精「」ツギハタテモノノホシュウダ
吹雪「よろしくお願いします」
ジュンイク「それで? 揺り籠の皆の仮面を着け変えていくの?」
吹雪「そうですね。早い方がいい」
吹雪「……ちなみにジュンイクさん、特に異変はあります?」
ジュンイク「いや、特にはないよ。口元がスースーするかな、それだけ」
吹雪「ん。悪くないなら良しです。行きましょうか」
――――揺り籠、近海、昼
ザザァン――
如月「はーい、失礼するわね。お面取り替えの時間よー」スッ、パチッ
「…………」
如月「うん、ピッタリ。さて、次々……」ザザァー
テイイク「しかし吹雪はやっぱりだめだったね」
ジュンイク「一人目の顔を見ただけでフラフラしてるんだから、世話がないよ」
如月「仕方無いわ。疲れてるのよ……私たちで終わらせましょう」
ジュンイク「手早くね。当人からしたら本当に怖いの、これ」
――――揺り籠、港
吹雪「うう……頭ガンガンする――情けないなぁ」
吹雪「(この頭痛は一体何なんだろう……何か、記憶に関係してるんだろうか)」
吹雪「……ここの人たちの仮面を外した時、か」
吹雪「……違う、素顔を見た時?」
吹雪「気持ち悪くなる……リアルなマネキンを見たみたいに」
吹雪「――そう言えば、門番さんは陸にいるなぁ。皆は水上だし」
吹雪「(……試してみるかなぁ)」
吹雪「――門番さんの仮面を変えてみようか。それでまた気分が悪くなるなら、確定だ」
吹雪「……原因を知らなきゃ」
――――水門
門番「…………」
相も変わらず、彼女はただ部品としてそこにあった。
仮面の下には、見えずとも虚ろな瞳。
見上げるのは、空だろうか。
吹雪「やぁ、いい天気ですね」
至って普通に、努めていつも通りに話しかけた。
案の定、反応は無い。
新しい仮面――口腔部を露出する形の――を彼女に見せるように差し出す。
彼女の、表情の無い仮面に手をかけ――吹雪は優しく取り外した。
取り外し、その顔を見る。
吹雪「――あ、れ?」
見ている筈なのに、脳に情報が入ってこない。
なるほど、これはパニックを起こしているだけなのだ――そう気付いた。
視覚から得る情報が、それ以外の何もかもと一致していないから、見えない。
理解が出来てないだけと思い至る。
回路の焼ける音を脳髄の裏に響かせながら、吹雪は彼女に仮面を被せ――よろけて彼女の腕の中に収まった。
門番「………………」
吹雪「はぁっ、はぁ……! よし、変えれましたよ」
吹雪「すいません、頭が痛くて……」
立ち上がる事すら、揺れる脳では儘ならない。
そんな様子の、苦しそうな吹雪の頭を――
――彼女は、癒えるように撫でた。
投下終了
デレステ忙しいマン←
最近速報落ちてなかった?
投下開始
――――水門、昼
如月「……あっ。やっと見つけたわ」トテトテ
吹雪「うう……如月ちゃん?」
門番「…………」
如月「新しいお面……吹雪ちゃーん? 大人しくしててって言わなかったかしら?」ハァ
吹雪「ちょっと気になる事があってね……もう無茶はしないよ」
吹雪「門番さん、ご迷惑をお掛けしました」
門番「…………」
門番「…………。すいもん、あける……」ゴゴゴゴゴ……
吹雪「……。あはは……よし、お邪魔しました。失礼しますね」
吹雪「もう立てるよ。如月ちゃん、行こっか」
如月「うん。あ、妖精さんがお風呂できたから早く見に来てって言ってたわよ」
吹雪「うん、ありがと。じゃあ先にそれを片付けてしまおうか」
スタスタ…………
門番「……………」
――――風呂(ドック)、夕方
吹雪「良い出来映えですね」
妖精「」セヤロ
妖精「」ユハ、イマカラハル
吹雪「お願いします。さて、もう一仕事だね」
如月「何をするつもり?」
吹雪「マザーさんの治療を兼ねた、高速修復材の使用講座さ」
吹雪「ジュンイクさん達を呼んできてもらえるかな。私はマザーさんの部屋に行っているから」
如月「うん、わかったわ」
――――マザーの寝室
コンコンッ
マザー「あら……どうぞ」
吹雪「失礼します……おや、部屋が」
マザー「あの、『妖精さん』とやらが直してくれましたよ。吹けば飛ぶような家屋が見違えたよう」
吹雪「そうでしたか。妖精さんも、細かな所まで手が回せるようになったみたいで何よりです」
吹雪「まあ、その件で報告です。ドックが出来上がったようですので、マザーさんには入渠して頂こうと思いまして」
吹雪「貴女の傷付いた足も、忽ちに癒えるでしょう」
マザー「あら……それは喜ばしい事ですが、生憎私はここから動くのにも難儀しておりまして……」
吹雪「ああ、それなら心配ありません」ニッ
コンコン
吹雪「如月ちゃん?」
如月「ええ。二人を連れてきたわ」
ガチャ
ジュンイク「ママを治せるんだって聞いたよ」
テイイク「母さん、妖精さんが担架を作ってくれたんだよー!」
マザー「あらあら、まぁ」フフッ
吹雪「さて、四人掛かりで担いでいきましょうか」クスッ
――――大浴場
マザー「……脱げましたわ」
吹雪「ではこのタオルを。担架ごと湯船にお連れしますので」
ジュンイク「仮面は着けてていい……よね?」
吹雪「裸になって頂ければ後は何でも」
如月「私もついでに汗を流すとするわ」ヌギッ
吹雪「……体にはタオル巻きなよ」ムッ
テイイク「この対応の違いは?」
吹雪「……はっ」
如月「もう、独占欲が強いんだからぁ」クスクス
吹雪「違いますー。さ、運びますねマザーさん」
マザー「え、ええ」
マザー「(最近の子って進んでる。そう思うお風呂場の私)」
――――
吹雪「はい、皆さんに高速修復材の使い方を教えますよー」
テイイク「わー」パチパチ
ジュンイク「傷が治るなんて……本当かなぁ」
如月「まあ見てて。驚くかも」
吹雪「ここに、何とか湯船に入って頂く事ができたマザーさんがいますね」
マザー「は、ハロー……?」ヒラヒラ
吹雪「ありがとうございます。さて、湯船に混ぜるのはこのバケツ一杯の修復材」ザバー
吹雪「よく混ぜます」ザーブザーブ
如月「(お料理教室みたい)」
テイイク「(食べ物って意味!?)」ビクッ
如月「(場合によるわね)」
テイイク「(こわい)」
マザー「ふむふむ――おや? あら……あらあら」ググ……
ジュンイク「ま、ママの足が!」
マザー「わあ……すごいのねぇ。もう、少しだけなら動かせるわ」
吹雪「これが修復材の効果です。湯船に混ぜる方法ですと、治りはゆっくりですが修復材が無駄なく全身に行き渡ります。時間が許すならこの方法が一番です」
吹雪「他に、傷口に直接塗り込む――乱暴ですが、全身に原液を浴びる等は強烈に効きます」
吹雪「ですが、貴重な修復材を多く使わないと良い効果が得られません。お風呂の場合は量が少なくて済むのです」
吹雪「また、直接飲む……という方法もあります。これは内臓系の修復にかなりの効果があり、しかも無駄になりません」
吹雪「問題は、外傷まで完全に治そうとする場合、かなりの量を飲むか時間をかけないといけない事ですかね」
テイイク「ほへー……じゃあ、怪我してる人が居たらとりあえず頭から浴びせれば?」
吹雪「問題無いです」コクッ
吹雪「貯蔵タンクを妖精さんが作ってくれているので、使用する時はそこからバルブを捻って必要な分使用する――といった運用でお願いします」
ジュンイク「これがあれば……!」
吹雪「ええ。戦闘での怪我も、生きてさえ帰ればどうとでもなります」
吹雪「以上です。また分からない事があったらその都度聞いていただければ」
テイイク「りょうかーい!」
吹雪「さて、じゃあ」
如月「私たちも湯船に預かりましょうか」
テイイク「わーい!」ザブンッ
マザー「これはとても心地好いですね……皆も体を休めましょう」
ジュンイク「私は少し暖まったら、クーと見張りを交代して、こちらに来るように伝えますね」チャプ
吹雪「そうして下さい……私も、どうやら少し休養が必要みたいで……」グッタリ
如月「ふふ、一息ついて疲れちゃった?」
吹雪「どうもそうみたい……」
マザー「貴女はお休みになって下さい。こんなにしていただいて――」
マザー「――貴女とこうして湯編みを共に出来る事に、感謝しているのですから」
投下終了
Fate/extella面白いです←
投下開始
――――浴場、憩いの時
ドザザザザザ……
テイイク「滝があるよ……!?」
如月「修行用ね」ウン
ジュンイク「風呂場で何を鍛えるのよ」ザババババ
テイイク「浴びながら言っても」アハハ
吹雪「……ふふ。楽しんでくれているようで何より」
マザー「ええ。こんな時間は、ここではなかなかありませんでしたから」
マザー「……吹雪さん。少し、近くへ来てもらってよろしいでしょうか?」
吹雪「? 構いませんが――何か、聞かれたくない話でも?」
マザー「そうですね。聞かれたくない――かもしれませんので」
吹雪「……なるほど。御気遣い、先に感謝しておきます」
マザー「いえ……本題、よろしいですか?」
吹雪「ええ、私で答えられる範囲ならば、如何様にでも」
――――
マザー「気を悪くしないで頂きたいのですが、言葉選びも上手では無い方ですので、簡潔にお聞きします」
マザー「――何故ここへ来たのですか」
吹雪「……それは、どのように捉えれば?」
マザー「咎めている訳では無いのです。ですが……貴女は」
マザー「貴女は、『ここに来る理由が無い』。いや……意味が、無いと思いますわ」
吹雪「それはまた、どうして」
マザー「貴女は記憶もある。孤独な海を往く力も備えているようです――であれば、『帰らない』理由が無い」
マザー「……これは経験から来るものなのですが、私の出会った艦娘はみな口を揃えて『帰りたい』、と」
マザー「記憶が無くなってしまって、帰るところすら分からなくても――その思いだけは同じでした」
吹雪「……それは、貴女も?」
マザー「…………」
マザー「実は、私は一度だけ……帰ろうと、航海を試みた事があるのです」
吹雪「…………」
マザー「この身一つで、手探りで、とにかく西へと向かいました。幸い、私は戦艦です。長い道程も、多少の傷も、然したる問題ではありませんでした」
吹雪「……では」
マザー「いいえ……でも、ダメでした。多少、の傷ならば……私も耐えれましょう。ですがどうしても、苛烈になる深海棲艦の攻勢が、私を押し戻しました」
マザー「帰れないのは嫌でしたが……沈むのはなお恐ろしい。深海棲艦から逃げ、逃げ――ここへ辿り着いたのです」
マザー「この島は、隠れ住むには十分に平和でした。ですが同時に、孤独でもありました」
吹雪「孤独……? ここには大勢がおられるようですが――いや、まさか」
マザー「……お察しかもしれませんが、私がここを訪れた時点では……ここは無人でした」
マザー「皆が流れ着き始めたのは、それから少ししてから……もう、随分と昔の事のように思えます」
吹雪「いつ頃流れ着いたのかは、覚えていますか?」
マザー「いえ……私も記憶が無いもので、どうもこの頭は何気無い物事を長く覚えていられないようです」
マザー「ただ、『長い時が流れて、とても虚しい』と……そんな感情だけは、はっきりしています」
吹雪「マザーさん……」
マザー「……自分語りを始めてしまうのも、年を取った証拠なのでしょうね。それで、最初の話です」
マザー「貴女は、何故あの……『輝かしい』場所へ帰らず、ここへ来たのか……それを教えてほしいのです」
吹雪「ふむ……何故帰らなかったか、ですか。先に感想を申し上げても?」
マザー「感想、ですか?」
吹雪「ええ。感想、です」
吹雪「結果的に、私はこの選択をして良かった――そう思っています」
吹雪「私がここへ来た理由は単純なのです。まずは、真珠湾に艦娘がいると聞いた事」
吹雪「喜びました。そこの大軍と合流すれば、直ちにでも帰還できると」
吹雪「しかし現実、その大多数が意識も不明瞭な者ばかり――と。マザーさんが聞きたいのは、これを知ったのにも関わらずここに舵を向けた、その理由でしょう」
吹雪「ですが、違うのです。私は、『知ってしまった』からこそ――ここへ向かう決意を固めたのですから」
マザー「…………」
吹雪「例え、この島を無視し、無事に帰還できたとして――いざ真珠湾に向かい直してみれば」
吹雪「そこには手遅れになってしまった、かつて艦娘だった物の成れの果てが……なんて、笑えませんし、後悔します」
吹雪「……行動せずに失うのは、とても心にくる。から、です。だから、私はここへ。これが、理由その一です」
マザー「その二があるのですか?」
吹雪「ええ。というか、これが一番の課題でしたし――これが望めないからと、無茶な強行軍すら考える程でした」
吹雪「……それは、私たちの艦隊に戦艦も空母もいないからです」
マザー「……ええと、何故?」
吹雪「帰還するなら、長い距離を補給無く行かねばなりません。当然、敵に鉢合わせる可能性も大いにあります」
吹雪「ですから、圧倒的な索敵能力とアウトレンジからの一方的な攻撃が行える空母……それか、大型の電探で敵を素早く捉え、砲撃での一撃必殺が見込める戦艦……少なくとも、どちらかが必要です」
吹雪「ですが、私たちはそうではなかった。航空巡洋艦はいますが、それでは空戦にはとても耐えられない」
吹雪「おまけに、私たちは自分のいる島の位置すら掴めていませんでした。まあ――今はここまで来た事によって、相対的に私たちの島の位置も見当が着きましたが」
吹雪「……それだけの話です。帰りあぐねていたに過ぎないのですよ、私たちは」
吹雪「それに、放っておけない。ごめんなさい、お節介で」クスッ
マザー「……いえ。私も、失礼な事を。お礼も、ちゃんと言ったかも怪しいのに」
マザー「改めて、ありがとうございます。吹雪さん」
吹雪「こちらこそ、泊めていただいて……恐縮です」
マザー「……フフッ」
吹雪「クッ、ハハッ」
テイイク「何だか楽しそうだね、あっちの二人」
ジュンイク「というよりは」
如月「……喜んでる、のかしらね。ところでジュンイクさん、あんまり浴びてるとハゲるかもしれないわよ?」
ジュンイク「やめて」
風呂で話すだけの回。
投下終了。
投下開始
――――浴場
ジュンイク「さて、私はもう上がりますね」ザバッ
テイイク「もう? もう少し浸かっててもいいんじゃないかな」
ジュンイク「言ったでしょ、見張りのクーと交代してくるの。クーだって早くお風呂入りたいだろうし」
テイイク「あっ、そうか……いや、忘れてないよ?」
如月「……見張りなら私が行きましょうか? そのくらいなら、私だってできるもの」
ジュンイク「Danke. でも良いわ。如月もここに来てから、吹雪ほどじゃないにしろ働いてるから。ゆっくり休んで」
如月「そう? そんなつもりは無いのだけれど……なら、お言葉に甘えるわ」
吹雪「私ももう出るよ」
ジュンイク「ん? 吹雪も何か?」
吹雪「ちょっとね」クス
吹雪「マザーさん、お先に失礼します」ザバー
マザー「ええ。私はもう少し、足を慣らすとしましょう」
如月「髪はちゃんと拭いて乾かさないと痛むわよ」
吹雪「あー、あはは。りょうかーい……」ハハ
――――工厰、夜
吹雪「妖精さん、例のは出来てます?」
妖精「」オウヨ、モッテイケ
吹雪「助かります。これがあれば……」
――――北西の島、見張り小屋、夜
ジュンイク「クー、交代だよー」コンコンッ
ジュンイク「……静かだね」ガチャッ
クー「…………」スヤスヤ
ジュンイク「……起きて」ゲシッ
クー「ぬう……? あ、ジュンイク」フワァ
ジュンイク「あ、ジュンイク――じゃないですよ。見張りなんだから、ちゃんとして下さいよ」
クー「大丈、夫。艦載機が、見張ってた」
クー「外に出て、回収、する」
ジュンイク「便利だなぁ……羨ましい」
クー「ジュンイクや、テイイク、も。積める」
ジュンイク「積めるでしょうけど、合う機体も、飛ばす練度もないですし……」
クー「ふーむ、む。その、辺りは……吹雪に、話を回して、みる」
ジュンイク「あー……ふふ、艦載機まで何とかできるのかなぁ、あの妖精。だとしたら、本当に何でもできそう」
クー「実際、できそう」
ジュンイク「確かに――さ、それはともかくとして、交代です。お風呂、気持ち良かったですよ」
クー「吹雪、は?」
ジュンイク「えっ……特に普通でしたけど?」
クー「私との、ファーストコンタクトは、お風呂の覗きから」
ジュンイク「……ちなみに?」
クー「ユキの乱入で、事なきを」
ジュンイク「それ事なきなんですかね……?」
――――
月の照る夜の水門で、門番の彼女は風を感じて――感覚は殆ど失われてはいるが――いた。
空を見る、目に入る。
明るく丸い空の光だ。
自分が、きっと浴びている光。
見えている、見えている。
自分は誰かに見えている。
感覚は無い。感情も無い。
艤装に火は灯らない。
それでも、その光が嫌で。
――嫌、ではない。
――明かりが無い方が良い。
昼は論外だ。夜も月が煩わしい。
だからこそ――嫌いなのではない。
『月の亡い夜』こそ、安堵するのだ。
――何故、そうなのかは、分からない。
この思いの独白すら、自分で言葉にできはしない。
『このような思い』を、希薄ながらに感じる――ぐらいが、彼女の精一杯なのだから。
もう、それさえも、無くなってしまいそうだ――
―――
ガチャガチャと、喧しく金属音を纏って水門にやってきたのは、相変わらずも吹雪だった。
吹雪「――ふう! 何とか運べた……こんばんは、門番さん」
夜半の挨拶に、返る声は有らず。
そんな些事は置いておいて、吹雪は持ってきていた道具を並べ始める。
吹雪「いやー、今日は月が明るくて良かったです。新月だったら、この上投光器を担いでこなければならない所でした」
吹雪「その内、妖精さんに言ってこの辺りにも照明を設置してもらいますね」
門番「…………」
そうやって楽しげに語る吹雪の言葉も、門番は理解していない。
していたならば、まず苦虫を噛み潰したような顔で断りを入れるのは間違いないだろう。
でも。
――――しん、げつ。
それは、とても素敵な響きだと感じた、のかもしれない。
――――
吹雪「よし、できた。名付けて、ドラム缶足湯です! うん、見たままに!」
吹雪がせっせと段取りしていたのは、簡易の風呂。
ドラム缶を縦に真っ二つにした物を横たえ、鉄製の足を付けた物だ。
底に木製の簀を敷き、湯を張っている。
下には枯れ木などが燃えて缶を炙っていた。
動けない彼女に、せめて少しでも入浴を楽しんでもらおうと吹雪なりに考えた結果の産物。
少し誇らしげな顔を、湯気が撫でた。
吹雪「さて、後はこちらの椅子に座ってもらって……あ」
そこまでやって、漸く気付く。
椅子に腰かけさせるのは、どうするべきかと。
門番はどっしりと地面に座り込んでいる。
そのまま足を伸ばして湯に浸けてもらう?
いや駄目だ駄目だ。ドラム缶の縁に腿が当たって火傷してしまう。
――なら何か布を敷こうか。
いやいや良くない。燃えそうだ。
温めてから火を消して、布を敷けばどうだろうか。
いや、それではすぐに冷めてしまう。
……とりあえず、彼女を持ち上げられるかどうか。それだけ先に試してみよう。
駄目ならその時にまた考えようか。
吹雪「よっし、失礼します――ねぇぇ!」
門番の脇に手を入れて腰を落とし、力一杯引き上げようとする。
する、が。
吹雪「びくともしないぃぃ……ふ、ぬぬぬぬ……」
抱き上げるようにして力んでいるのだが、如何せん馬力が足らないようで。
門番はユキのような体格だったが、艤装は戦艦より戦艦らしいほどの重装備で、尚且つそれを常に展開している。
本人にとってのその艤装は羽より軽いが、他人にとっては正しく鉄塊だ。
それは利根の時に重々身に染みている。
吹雪「うーん、うぅーん……!! む、無理かなぁ……!」
頭を振っても彼女が持ち上がる事はなかった。
先刻、如月に一声掛けられたのにも関わらず、適当に拭いていて風呂上がりの湿りを残した黒髪が舞うだけ。
希釈された修復材――もう入浴剤と言っても過言ではない――を含んだ水飛沫が散るばかりだった。
――ひとしずく。
口元を隠さなくなった仮面も相まって――彼女の唇を湿した。
無意識の反応で、それを口にして――――
――――
色、だ。
無色だった世界に、色が着いた。
それは口、舌、それから幾ばくかの喉。
甘い――『味覚』だった。
感じる事の無い、石榑色の世界を――強烈に彩るモノ。
素敵だ、素晴らしい物だ。
これは、何だ。これが、何だ。
甘い、甘さだ。
もっと――もっと欲しい。
感じる覚えも無いのだが、それでも器官を動かす事ならできる。
目を働かせる。
目の前に、誰か。
鼻を働かせる。
甘い匂いは――その髪から。
ああ――そこ、か。
と、彼女は手を伸ばした。
――――
吹雪「――えっ――なっ、ああっ!?」
門番が急に動きだしだ――と思ったら、その次の瞬間に吹雪は自分の髪の毛を掴まれ、地面に引き倒されていた。
吹雪「い、いた……な、何を?」
起き上がろうとする――前に、その戦艦は吹雪に覆い被さった。
両腕を押さえられ、馬乗りになられてピクリとさえ動けない。
良くて、足をバタつかせられる程度。
吹雪「い、いたた……ど、どうしたんですか……その、退いていただけると――」
確かに戦艦だ。
押さえられた吹雪が力を入れても、こうも捉えられてしまえば為す術が無い。
門番は、顔を――唇を、吹雪に近付ける。
それはある種、捕食で。
――だが、彼女はある事に気付いた。
――――
――濃い。
濃い甘さだ。
そう、彼女は感じた。
吹雪の髪には、確かに砂糖を薄くまぶしたような匂いがする。
だが、それよりもっと。
例えるならば、蜂蜜を溜め込んだ壺。
そんな物が、目に入ったのだ。
食べるなら――もちろん、そっちだ。
――だから。
――――
吹雪「ふ、むぐっ!?」
余りに自然に行われたその行為に、吹雪は面食らう。
彼女は、その艶やかな唇を――吹雪のそれに重ねた。
吹雪「ん――んー!?」
顔を振って逃れようとするが、それを煩わしく感じたのか――彼女は吹雪の両手を吹雪自身の頭の上に捻り上げて、片腕で万力の如く押さえる。
空いた片手で吹雪の顎を固定して、再度、蜜壺に吸い付いた。
接吻と言うには、余りに食事染みていた。
感触より、唾液の味を楽しんでいて。
必死の抵抗も、赤子の手を捻るが如く。
やがて吹雪はされるがままに。
吹雪「んっ……ふ、うっ……んむ……んっ」
口内のあらゆる物を舌で蹂躙されて。
力無く横たわる彼女に気分を良く――良くなったとは気付いていないが――したのか、門番は可愛がるように彼女を撫でる。
長い、唾液が発てる水の音と、パチパチと脇で揺れ踊る小さな火が彼女らを夜に彩っていた。
門番「――――ん」
吹雪「っ、――――!!?」
やがて、彼女は一際強く、吹雪を吸い上げた。
吹雪がそれに耐えるように、耐えきれず――ガクガクと小さな体を震わせる。
吹雪「(なん、だ――これ――!?)」
絶頂のようで、しかし確実に別物の何か。
体に力が入らなくなってきている。
何かを、奪われているような感覚さえある。
これ以上は、いけない。
吹雪「ぷ、はっ――も、もうやめ、んむっ――!」
言葉は聞こえないから、門番は構わず、再び咀嚼する。
粘膜を擦り合わせる様な音が、また始まって。
だんだんと、吹雪の意識は薄れていく。
このままではいけない――危ない。
危ない、と語りかけてきたのだ。本能が。
吹雪「(こ、の――!)」
もう一度だけ――もう一度くらいしか動けない――唇をずらして息を吸って、言った。
吹雪「ど、『退いて』!」
門番「――――!」
それは、聞こえた。
いや、今までなら聞こえはしなかったが。
彼女は、吹雪を『取り込んでしまった』から。
だから、命令なら、聞く。きこえる。
吹雪「……あ、あれ」
拍子抜けだが、彼女は驚くほどあっさり吹雪を解放した。
退いてしまったからには、もうやることが無いとばかりに彼女はまた定位置に座り込んで。
そしてまた、それ以上に吹雪を驚かせたのは。
門番「……………………あり、がと、う」
明確な意思を持って、彼女が言葉を口にした事実だった。
投下終了
投下開始
――――浴場
ガラッ
クー「邪魔、する」
如月「あら、クーさん。いらっしゃい」
テイイク「交代してきたんだねー」
マザー「お疲れ様です、クー。貴女も疲れを流しましょう。存外、心地好いですよ」
クー「それは、吹雪の鎮守府で、痛感済み」コクッ
クー「堪能すべき……風呂は良き、文化……!」グッ
如月「わかってくれて嬉しいわ」グッ
――――
カポーン
クー「ふう……とてもいい、湯」
マザー「見張りは、滞りなく?」
クー「うん、ママ。問題なし」
テイイク「クーは艦載機があっていいなぁ……見張りも楽だもん」ムー
クー「空母、だし」ブイ
マザー「私も一応ありますが、適当に飛ばしていますから……もう大分ガタが来てしまっていますし」
如月「……………んん?」
如月「……その口振りだと、艦載機を飛ばして偵察していたみたいだけれど?」
クー「? そう」
如月「えっ、それはさっきまでも――いや、夜もって事?」
クー「そう。何か?」
如月「い、いやその……言いにくいんだけれど、それ……あんまり効果無いと思うわよ」
クー「――なんと」
テイイク「えっ!?」
マザー「……ふむ?」
如月「そもそも飛べて、艦載機が帰ってこれてる辺り技術はずば抜けてるんでしょうけど……夜に艦載機が艦娘を見つけるのはほぼ不可能よ」
如月「だって暗いもの。暗い海の上に浮かぶ小さな船なんて、高く飛んでいては分からないわ」
如月「……だからこそ、夜戦は私たち水雷戦隊が活躍できるのだもの。艦載機に恐れず、敵艦に接近して雷撃できる」
如月「……艦爆は私も嫌い。だから、私も――そうね」
如月「――夜は好きよ。月が無ければなお良いわ」
如月「それは多分、どの駆逐艦もそうだと思うけれど」
クー「まさか……待って、呼ぶ」スッスッ、パァッ
光「…………」
クー「今まで、見えてた?」
光「…………」
クー「見えてなかった、かー」アチャー
如月「あはは……ま、まぁそれでも領空を飛んでる事で牽制は出来てるかも」
テイイク「へぇー……そうなんだ……」
マザー「では、夜に艦載機を飛ばす意味は無いのですね」
如月「基本的には……あ、でも」
如月「『夜偵』……夜戦に特化した偵察機なら」
如月「まあ、そんな夜戦に特化した深海棲艦はいないみたいだし」
如月「そもそも、装備を持っていたとしても……かなりの練度が無いと扱えないわ。着艦できないもの」
マザー「なるほど……ある意味では、夜は安心と言った訳でもあるのですね」
如月「そうね……あ、いや」
テイイク「?」
如月「夜は安心、かぁ……」ホウ……
テイイク「あ、その話はいいです」
如月「……何で急に敬語、なのかしらぁ?」クスクス
マザー「……ん、クー。どうしました。随分と大人しいですが」
クー「……ちょっと、へこむ」
テイイク「……ドンマイ」
――――北西の島、夜
ジュンイク「ふわ……確かに眠くなるなー」
ジュンイク「マザーも直るだろうし、今日ぐらいだけどね……見張りは」
サァ――――
ジュンイク「っ」ピクッ
ジュンイク「……何かが飛ぶ音―ー艦載機?」
ジュンイク「……暗くて見つけられないや。多分、クーの艦載機かな」
ジュンイク「帰り損ねたんだね。方向も、真珠湾に行ってる感じの音だったし」
ジュンイク「……うん、静かになった。そもそも深海棲艦が近くにいれば気付くし」
ジュンイク「どれだけ隠れるのが上手――って話だしねぇ……」
「……………」
――――夢、忙殺された日々の、隙間の思い出
――――回想、かつての鎮守府、母港、夜
吹雪「……さて、何処にいるかな」
吹雪「――ビンゴ、居ましたね」
川内「……ん、おー。吹雪じゃん」
吹雪「こんばんは、川内さん。何をなさっておいでですか?」
川内「ん? うんにゃ、特にはね。海を眺めてただけだよ」
吹雪「ご一緒しても?」
川内「構わないよ。別に海は私の持ち物じゃないしね」
――――
川内「…………」
吹雪「…………」
川内「……で、吹雪は何で私を探してたの?」
吹雪「いえなに、頼まれた訳ではないのですが……」
川内「『夜中にいつも喧しい奴が静かだと思ったら何処にもいない』……ってとこ?」
吹雪「あはは……まあ、概ねは」
川内「たまにはこんな日もあるよ……丸くなったね、吹雪」
吹雪「丸く?」
川内「一昔前ならそんなの気に掛けなかったでしょ。トラックに行かせたのは正解だったみたいだね」
吹雪「……まあ、そうだと思います。貴重な経験でした」
川内「……ホントは、私らがやらなきゃならない事だったんだけどね。どうにもね」
ノイズ。
――――朽ちたビデオテープを再生するように
川内「……この鎮守府だとね、やっぱり」
雑音。
川内「仕方ないとは思うんだけど」
吹雪「それは――■■■■■■■■」
砂嵐がかかる。
ここは、どうだったか?
記憶を巻き戻す。
都合良く、今吹雪は『特別にとびきりの吹雪』だったから。
吹雪「それは――」
――――ダビングされた記憶を
吹雪「――それは、第三者がいない……からですか?」
川内「そうだね……やっぱり、『提督がいない』っていうのは良くないよ」
川内「この鎮守府――本土近海とはいえ、艦娘だけなんだから……」
吹雪「うーん、そんなに……でしょうか」
川内「元々は来る予定だったんだよ。吹雪が来るちょっと前くらいにさ」
吹雪「へぇ……どんな方です?」
川内「知らない。見たことないし……あ、でも珍しい提督だったよ」
吹雪「珍しい、とは?」
川内「初の女性提督だった。らしいよ」
吹雪「だった……不穏ですね、何かありましたか?」
川内「詳しくは知らされてない。ま、一説には失踪だとか何とか……良くある話に納まってるよ」
吹雪「失踪……」
川内「それがさ、自発的な物でも他発的な物でもさ――消えたいなぁ、って気持ちは分かるかも」
吹雪「――川内さん?」
川内「――夜は良いよねぇ、夜はさ」
――――
吹雪「それは、夜戦が出来るから……そんな意味合いですか?」
川内「それは即物的。私もたまにロマンに語るよ」
川内「……ま、夜戦の話だけどさ。戦場に立って、すう、と息をする」
川内「体に冷えが染みてさ、頭が冴える。ただ冷たいだけの空気じゃこうはならない」
川内「――死を、実感するんだ」
川内「どんなに明るく良い時も、やがて落ちて暗闇に囚われる」
川内「青い、命の生まれる海も――ほら、見れば分かるよ。夜は一面の黒が押しては引くばかり――死んだら、ここに帰るって……嫌でも分かる」
川内「だから、好きなんだよ。生きているって尊さが分かる。この海と繋がっているのを感じる」
川内「魂が生まれるのも還るのも、ここなんだなぁ……って分かる」
川内「そんな中で戦うのは痺れる。自分がどんどん純粋になっていくから、好き」
川内「――夜は、本当の自分に近付ける気がするんだ」
吹雪「…………」
川内「もちろん、単に夜戦は好きだよ? でも、『夜』そのものが好きなのも理由があっての事だし」
川内「だから、ああ、やっぱり夜は良いよねぇ……」
――――水門、夜
如月「ふ、吹雪ちゃん――起きて! どうしたの!」
吹雪「――あ、あれ……?」
如月「良かった……部屋に居なかったから探しに来たの。そうしたら、気絶してるみたいだったし」
吹雪「――そういえば……!」
門番「…………」
吹雪「…………」
如月「……吹雪ちゃん?」
吹雪「あ、いや何でもない。ドラム缶を片付けて一旦寝に帰ろうか」
吹雪「……う。ちょっと、体がダルくて」
如月「だ、大丈夫……? もう今日は早く寝ましょう?」
吹雪「そうするよ」
吹雪「(何だったんだろう、あれは……)」
投下終了
投下開始
――――慌ただしく過ぎ行く日常を
――――工厰にて
妖精「」カイハツデキタゾ
吹雪「流石です! これなら……ジュンイクさーん!」
ジュンイク「な、何かなぁ吹雪……まだ働かせられるの……?」ゼーハー
吹雪「とりあえずは完了ですよ。妖精さんの艦載機生産も終わりましたから」
ジュンイク「確かに、馬力はさ……駆逐艦よりあるけど……コキ使い過ぎだよ……」
吹雪「荷物運搬が主でしたからね。お疲れ様です」
吹雪「それより、これを。航空戦力があれば正確な砲撃も可能ですよ」
ジュンイク「艦載機かぁ……私に飛ばせるかなぁ」ウーン
吹雪「これは零水偵ですね……安価ながら性能は悪くないですよ。テイイクさんとマザーさんの艤装にも積んでおきましょうか」
妖精「」オイ、ドイツノ
ジュンイク「えっ、私?」
妖精「」オマエハコレダ
ジュンイク「――この機体は」
吹雪「……? 余り見ないタイプの偵察機ですね」
ジュンイク「『Ar196』――いや、何で……この偵察機は知ってる……」
吹雪「馴染みのあるものですか?」
ジュンイク「わからないけど……多分そうなんだと思う」
ジュンイク「――懐かしい……のかな」
――――南の島、昼
テイイク「うーん……あ。あったあった! ドラム缶だ!」ワーイ
如月「近場に流れ着いてくれるのは嬉しいわね。私たちの方はそうでもなかったから」
テイイク「そうなの? 遠くまで行って帰ってくるのって怖くない?」
如月「そうね……一人なら怖いかも。でも吹雪ちゃんがいるから」
テイイク「二人なら怖くない?」
如月「ううん、違うの。吹雪ちゃんじゃないと、怖くて仕方ないわ」
テイイク「信頼してるんだねー……私らだったら、その役割はユキかなぁ」
テイイク「ユキ、今頃どうしてるのかなぁ」
如月「きっと、ひたすら資材を集めてるに違いないわ」クスッ
テイイク「勝手なのはいつもの事なんだけど、早く帰ってきてほしいなぁ……」
――――吹雪の鎮守府、工厰
ユキ「へっぷし!!」
明石「ん、埃でも吸いました?」
ユキ「かもしれねぇ……で、調子はどうだい?」ズズッ
明石「まずまずと言った所で。そろそろ長い航海もいけそうですね」
利根「修復材もそこそこ溜まってきておる。直に遠出の予定を立てねばな……それで、明石。どうじゃ?」
明石「ユキさんの艤装ですね。利根さんの勘通り、どうやらこれは航空戦艦の類いの装備でしたよ」
利根「そうであろうよ。こやつも偵察機を飛ばしているのを見てピンと来てな」
ユキ「航空戦艦か……しかし俺は魚雷も撃てるが?」
利根「魚雷を撃つ戦艦も聞き覚えがあったような気がするぞ。細かくは……まぁ、この頭ではな。覚えてもおらぬよ」
ユキ「ま、何でもいいさ。俺は俺様であるからな!」
利根「さて、では遠征に行くとしようかの」
ユキ「おう! いつでもこい!」フハハハ
――――見張り小屋
吹雪「おや、今日はマザーさんが見張りですか?」
マザー「ええ。多少元気になりましたし、体を慣らしておきたくて」
マザー「偵察機、新調させていただきました。大変感謝しております」
吹雪「いえいえそんな。ほとんど妖精さんの功績ですよ。お礼なら彼らに」
マザー「彼ら……ですか」
吹雪「……どうしました?」
マザー「――いえ、何でもありませんわ」
――――
吹雪「そういえば、前から少し疑問だったことを聞いてもいいですか?」
マザー「何でしょうか? 私に答えられる範囲でしたら、お力になりましょう」
吹雪「ありがとうございます。いや、実はその……皆さんの名前が気になっていて」
マザー「名前……ですか?」
吹雪「ええ。ジュンイクさんやテイイクさん、クーさんやマザーさんはその名前に由来があるのは聞いています」
吹雪「ですが、それならユキさんは何故『ユキ』さんなのですか?」
マザー「ああ……それは存じておりますわ」
吹雪「宜しければ、聞かせて頂いても?」
マザー「ええ。と言うのも、あの子の名前はあの子自身が付けたものなのです」
マザー「あの子がまだ名前も無く、自分がいつ自分で無くなってしまうかを怯えていた頃……」
マザー「あの子はある時、北方に航海に出ましたわ。そこで空から海に降る雪を見たそうなのです」
マザー「その時――美しさに見とれたのかは知りませんが、確かに――感動を覚えたようで」
マザー「その時は、心動かされる自分を強く感じたらしく――またその一件で、彼女は雪と云うものを好きになった」
マザー「彼女が誰かも分からなくても、その感じた心を忘れない――強く思い続けたい。そういう祈りを込めて、彼女は『ユキ』と自称しているのです」
マザー「私たちの呼び名は、そうして名を持つことの有効性を解いたユキに付けられたモノですから、少し意味合いは変わってしまいますけれど」
吹雪「好きなものを、名前に――」
マザー「思いを、響きに綴じ込めるのでしょう。私たちも、そういう何かに出会えれば……変わるのかもしれませんね」
吹雪「……ありがとうごさいます。こんな不躾な質問をしてしまって、恥ずかしいばかりです」
マザー「いえ。私たちの事を知ろうとして下さっている。それだけで、十二分に好ましいですから」
吹雪「はは、そう言っていただけると気が楽です……では見張り、お気をつけて」
マザー「ええ。ありがとうごさいます」
投下終了。とても健全←
投下開始
――――揺り籠、夕方
吹雪「くんくん……カレーの良い匂いがする。皆、手筈通りにやってるみたいだね」
吹雪「意識の無い皆さんも、食事を取れば何か変わるかもしれない……仮面の問題はクリアしたし、言葉に反応するのも分かった」
吹雪「後は実行するだけ……の割りには海に人影が無いような。パーカーの皆さんだけ」キョロキョロ
ジュンイク「こっちこっち、吹雪」
吹雪「――む、既に揚がっていましたか。如月ちゃん、テイイクさん、お疲れ様です」
テイイク「疲れ……うん、疲れたよ……」
如月「……吹雪ちゃん、これ」スッ
吹雪「これは――鍋一杯のカレー……?」
吹雪「減ってない……つまりはそういう事ですか?」
ジュンイク「うん。食べるどころか」
テイイク「私たちの声に反応もしてくれなくて……まあ、いつもの事と言えばそうなんだけれどさ」
如月「ええ。無理にねじ込む訳にもいかないでしょ?」
吹雪「それはまあ、そうだけれど……あの子も? この間、口が動いた子」
如月「一番最初に試したわ。でもダメだった」
テイイク「やり方も、吹雪ちゃんと同じようにしたんだよ?」
吹雪「うーん……前回と今回で何か違いがあるのでしょうか……」
ジュンイク「吹雪のやり方が、無意識に何かあったんじゃない?」
吹雪「……試してみましょうか。カレーを一杯お願いします。ダメなら私が食べますよ」
ジュンイク「是非そうして。もう実は私たち……」
テイイク「余ったのそこそこに食べてるから……」
如月「今日は晩御飯いらないわ。太っちゃうもの」
吹雪「如月ちゃんの体は今ぐらいがちょうどいいからね」クスッ
ジュンイク「(体についての感想をサラッと述べれるのおかしくないかなー?)」
――――
ザザァー……
吹雪「さて、例の駆逐艦さんとの再会といきますか」
駆逐艦「…………」
如月「胸の大きい子ね。前の」フンッ
吹雪「何で言葉に棘があるのかなぁ……?」
ジュンイク「私も一回試してるから、ダメ元でやってみて」
吹雪「了解です。では、いざ――『食べて』?」スッ
駆逐艦「……………」ピクッ
テイイク「あっ、動いたよ!」
ジュンイク「――驚いた」
如月「た、食べそうよ吹雪ちゃん!」
吹雪「よ、よーし……一口どうぞ」ススッ
駆逐艦「…………」パクッ
吹雪「(――い)」
ジュンイク如月テイイク「いった!」ワァッ
吹雪「ど、どうですか? 美味しいですか? 美味しいですね?」ワクワク
駆逐艦「…………」
――――ジャリッ、ジャリッ
吹雪「――この音は」
駆逐艦「…………」ゴホッ
如月「――たいへん! 吐き出したわ!」
ビシャッ
テイイク「あ、あわわ――えっ?」
ジュンイク「――これ、カレーだけじゃないよ……?」
吹雪「これ――まさか、錆……ですね。赤錆です」
如月「さび……? えっ、錆びるの!? 艦娘!?」ビクッ
吹雪「艤装とリンクしてるのかどうかは分からないし、そもそもこんな状態の艦娘は初めて見るから何とも言えないけど」
ジュンイク「事実、錆びてる。内臓、全部やられてるかも……ね」
テイイク「どうするの……これ」
吹雪「……一旦引き上げましょう。対策を考えないと」
――――食堂、夜
ジュンイク「で、どうするつもりなの?」
吹雪「…………少し考えています」
テイイク「うーん、打つ手無しかなぁ……」
如月「いや――考えてる、って事は……吹雪ちゃん、何か策があるのよね?」
吹雪「……無くは無い。けど、ちょっと貴重品を無駄にするかも」
テイイク「貴重品?」
ジュンイク「……修復材だね」
吹雪「ええ。私の予想にはなりますが、あの――錆び付いた状態が『損傷』であるなら治癒できるでしょう」
吹雪「ですが、そうでなければ――あの状態が『あるべき姿』なのだとしたら、それ以上には治らない」
如月「錆びた状態が、普通になっちゃってるって事ね」
吹雪「そういう事。でも、お風呂に入ってもらおうにも、彼女らは重すぎる」
吹雪「艤装の重量があるから、私たちではとても上陸させられない」
吹雪「クレーンとか、専用の機材が必要だけど……妖精さん曰く、今はそこまで割けるリソースがもうないって」
吹雪「明石さんでも居れば違うんだろうけどなぁ……」ハァ
テイイク「うーん……それじゃあ?」
ジュンイク「……直接飲ませる?」
吹雪「そうですね。それなら、私たちが運ぶだけでいいですし……まあ、その分消費は多くなりますが」
如月「修復材はまだたくさんあるんでしょ? ならやってみましょうよ」
吹雪「……とりあえず、適当に五人ほど試して……ダメそうならそこで打ち切りましょう。新たな対策を立てます」
ジュンイク「まだ策があるんだ」
吹雪「いえ、正直これでダメならお手上げです。後はがむしゃらにやるだけしか」
テイイク「……上手くいってほしいね」
吹雪「全くです」
――――夜中、とある部屋の前で
マザー「…………」
マザー「なるほど、眠っている――その間は記憶に残らないし、だから意識せずに済む」
マザー「……おぞましいな。全く」
マザー「――必要なモノを手繰り寄せるか。はは、これが必要か」
マザー「――いや、不要だ。お前も、私も」
マザー「そして――む、起きたか」
マザー「――――はぁっ。まだ出てきてもらうのは、困るのだけれど」
マザー「……そうよ、そう。それでいいの。まだ、大人しくしていてね……」
――――翌日、工厰、朝
吹雪「妖精さん、おはようございます。呼ばれたので来ましたが……何でしょうか?」
妖精「」オ、キタナ
妖精「」コレ、ミツケタゾ
吹雪「バッテリー式の投光器ですか。これは使えそうですね。直せますか?」
妖精「」コノテイドナラ、スグダ
吹雪「なら是非お願いします。今晩早速使用したい案件がありますので」
妖精「」ガッテンダ
――――揺り籠、朝
吹雪「どうだった?」
如月「……察して」
吹雪「ダメだったかー……」ウーン
テイイク「一応修復材、飲ませてみたんだけれどね。さっぱりだよ……」
ジュンイク「効果が無かったみたい……残念な方の予想が当たっちゃったね」
吹雪「……代案を考えます。とりあえず、いつも通りにやっていきましょう。何か閃くかもしれませんしね」
――――水門、夜
溜め息を吐きながら、吹雪は夜の水門を歩いていた。
両手には取っ手を握り、今朝の投光器を押している。運搬用の車輪がガタガタと音を発てていた。
吹雪「(結局、良い案は浮かばず仕舞い……何とかしなきゃいけないのになぁ)」
暗い道を、門番の元へと向かう。
今日は新月で、海も穏やかだ。
吹雪「――ん?」
ふと耳を澄ます。
遠くから聴こえてきたのは――歌だ。
――方角からするに、彼女が歌っているのだろう。
なるほど、と一人納得して――驚き、足を急いだ。
歌う、なんて器用な事が出来る程の状態では無かった筈だから。
――――
門番「――――」
吹雪「――っ」
やはり、間違いなく、彼女の歌声だった。
か細くも優しい声で、機嫌良く夜を彩っている。
闇夜に居て尚、居場所が明らかになる声が――澄んで通っていた。
こちらに気付いたのか、唄は止む。
『顔をこちらに向けて、まるで微笑んだかのよう』。
吹雪「――こんばんは」
門番「…………」
気のせいだったのかもしれないが、吹雪は確かにそう感じたのだ。
無言になってしまって、少し勿体無い事をしたと思う。
気を取り直し、吹雪は投光器の設置を始めた。
吹雪「今日は暗くて嫌ですね……月明かりも無いですから。でも、今回はいつもと違いますよー」
吹雪「……できた。電源点けますね」
手早く据え付け、吹雪はそのスイッチを入れた。
眩しいぐらいの光が辺りを照らす。
闇夜とは暫く無縁だろう。
門番「――――あ、あ」
吹雪「どうです? 明るくなったでしょう――っ?」
満足気に振り向いた吹雪は息を呑む。
あの『門番』が、嗚咽を漏らして泣いていたのだ。
吹雪「えっ、えっ……ど、どうされましたか?」
門番「イヤ……イヤ……」
吹雪「こ……これは」
明確な意思を持っている。
感情を露にすらした。
『嫌だ』……?
何がだろうか――光?
門番「アカルイ……イヤ……イヤ……コワイ……」
吹雪「――当たりだ! す、すぐ消しますね!」
慌てて電源を落とす。
スウ、と熱が冷めて黒色が視界を埋めた。
後に残るのは、赤子のように泣きじゃくる戦艦のみで。
余りの申し訳無さに、吹雪は彼女をあやすように軽く抱き、頭を撫でる。
門番「…………」
吹雪「ごめんなさい……余計な事をしてしまいました。眩しいのは、嫌いでしたか?」
尋ねた言葉を――彼女は返した。
門番「イヤ……ヒカリ……キライ……アカルイ……」
門番「クライ……クライ……スキ……『シンゲツ』……シン、ゲツ……ヨル……」
光が嫌い。
明るいのが嫌い。
暗いのが好き。
シンゲツ……新月だろう。
夜も好きと。
いや、違うのかもしれない。
夜でも、明るい夜はそんなに好きではないのだろう。
新月。星明かりだけの闇。
わざわざ、一つだけ、他より難しい単語。
――好き、と言う単語に記憶が反応した。
吹雪「――好きなんですね、新月の夜が」
門番「…………」
頷いた――ように思える。泣き声も落ち着いた。
もし本当にそうなら、『ユキと同じ方法が使えるかもしれない』。
吹雪「でしたら、良い提案があります。『門番さん』と言うのも変な感じがしていましたし。どうでしょう、この際、呼び方を決めたいのですが」
門番「…………」
吹雪「貴女の好きなそれに肖って『シンゲツ』と言うのは如何でしょうか」
門番「……シンゲツ」
吹雪「そうです――」
吹雪「――貴女の、名前です」
――――
バチン、と音がして。
急に目が覚めたようだった。
――――
門番「…………」
吹雪「……と、とりあえず私はこの邪魔くさい投光器を片付けてきますね」
変化が無さそうで、しかしやっぱりかと吹雪は息を吐いた。
取っ手を掴み、ゴロゴロと音を発てて徒労感とそれを持って帰る。
吹雪「今晩は出直します。ではまた、『シンゲツ』さん」
吹雪「……これ、なかなか慣れないかも」
吹雪が引き上げて、一人になって。
門番「……シンゲツ」
シンゲツ「――私、は」
門番「…………」
彼女は少しだけ、呟いた。
投下終了。
キリの良い所までやれました←
王様ゲーム(小声)
投下開始
――――
明け方の揺り籠を、ジュンイクは揺蕩っていた。
いつもの日課。
動けない皆のお世話。
いつものみんな。
海風に曝され、朽ち行くばかりの彼女ら。
一人、髪に付いた埃を払う。
見てくれだけは、マシだ。
ジュンイク「……中身は、錆だらけなんだろうけど」
艦娘はこうして死ぬのか、と思うとやりきれない。
こうやって死ぬのだ、と見せ付けられるのは堪らない。
ならば、自分がしているのは――死化粧に過ぎないのではないか。
緩やかな死への介護人。
いや、それどころか――死の定義によっては、ただただエンバーミングを施しているだけ。
ああ、ああ。
気が滅入る。
本当に、本当に。
彼女は、どうしようもなく――この海が嫌いなのだ。
「ジュンイクさん?」
ふと、声が掛かる。
最小限、億劫な体を向ければ――吹雪。
ジュンイク「どうしたの、吹雪。早起きだね」
吹雪「――――っ」
吹雪は、振り向いた彼女の顔――仮面半分ではあるが――を見て、息に詰まる。
ジュンイク「……何?」
吹雪「……いえ、その」
でも、だからこそ吹雪は自然に、彼女を頬を拭った。
吹雪「起き抜けの散歩も悪くない、と思いまして」
吹雪「少なくとも、貴女の涙の訳ぐらいは知ることができますし」
そう言われ、漸く彼女は気付いた。
ああ、泣いていたのか。と。
いつもの事で、だから気にならなくなっていたのだ、と。
――――
揺り籠を見渡す護岸に、二人座り。
朝焼けが水面を揺らし輝かせていた。
ジュンイク「……変なとこ、見られちゃった」
吹雪「…………」
風も戦ぐ。
概ね、綿津見は平穏だった。
吹雪「……どうして、あんな所で?」
泣いていたのか? とは言葉にしない。
見られたくない事だったようだから。
ジュンイク「……たまに、何もかも嫌になるんだ」
ジュンイク「仲間だったんだ。良く知りもしなかったけど、多分」
ジュンイク「あの子たちが動いてた頃も、あったと思う。ううん、あった」
ジュンイク「でも、どうだったか……忘れちゃった。そうだったんだろうな、くらいしか分からない」
これは独白だ。
吹雪に聞かせている、というよりは――自分に殊更。
ジュンイク「……戦って沈むなら、まだ納得もするよ」
ジュンイク「でも……でも、こんなのあんまりだよ……」
ジュンイク「私たちが何したって言うの……? ここでさ、死ぬまでじっとしてなきゃいけないの……?」
ジュンイク「嫌だ、嫌だよ……帰りたい……! 帰れる場所があるなら……今すぐにでも……!」
静かな、しかし慟哭だ。
吹雪「……大丈夫ですよ。きっと帰れます」
余りに見ていられず、慰めたくて、そう口にする。
――堰を切る。
ジュンイク「きっと……? きっと、って何!? いつか? いつか、っていつ!?」
吹雪「――っ」
ジュンイク「何で皆平気なの……? 何で皆前を向いていられるの……? 無理だよ、そんなの……私には無理」
ジュンイク「『――――――』!!」
早口の、口汚いドイツ語で聞き取れなかったけど、意味は伝わった。
『この景色をちゃんと見てないから』。
彼女はそう言ったのだ。
自分だけが、この絶望的な状況を正しく判断しているのだと。
ジュンイク「何で、何で、何で……?」
ジュンイク「何で私はここにいるの……何で私は、普通の艦娘じゃないの……?」
ジュンイク「海の向こうに仲間がいるなら……何で、何で助けに来ないの!!」
ジュンイク「こんな、こんな……こんな怖い所にいるのに……!」
ジュンイク「……いつ助かるの……いつ助けが来るの……?」
ジュンイク「もうどうにもならないなら……いっそ――」
『殺して』とは言わせなかった。
親指で、彼女の唇に蓋をする。
吹雪「その先は、口にしてはいけません」
ジュンイク「…………」
吹雪「貴女は、一つ勘違いしている。助けは、来ています」
ジュンイク「……どういう意味?」
少し、胸を張って。
吹雪「私が来たじゃないですか」
あっけらかんと、一言。
ジュンイク「は――え?」
吹雪「だから、私が来た、と」
吹雪「皆さんは必ず修復しますし、意識も戻ります。本土の鎮守府にも帰れますし、敵深海棲艦に沈められる事もありません」
ジュンイク「――そんな、そんなの言い切れない!」
吹雪「いいえ、これは決まっていることなんです。何故なら――」
吹雪「――何故なら、私が、そうじゃないと納得できないからです」
ジュンイク「――へ」
溢した声の、開いた口が塞がらない。
吹雪「ジュンイクさんの言うようなネガティブな予想は全部お断りです。全て一つの例外無く解決してみせます」
吹雪「それを成す力も知識も、確かに私には足りません。ですが、ひたすらに挑戦する事はできます」
吹雪「ジュンイクさんは、優しいから――今も海に浮かぶ皆さんを思って泣くのでしょう」
吹雪「でも、ジュンイクさんより、多分。当人たちの方が気、滅入ってると思いますよ」
ジュンイク「そ、そんなの――デタラメばっかり言うだけなら!」
吹雪「デタラメ、と決めているのは貴女です。皆さんを、死人にしているのも、また」
吹雪「――怖いなら、『私に着いてくればいい』。だから、今を生きて――前を行く貴女は、『笑って』」
ジュンイク「っ」
吹雪「そうしていれば、意外と何とかなるものですよ」
ジュンイク「…………」
彼女は目を伏せ、大きく溜め息を吐いた。
ジュンイク「吹雪と話してると……能天気過ぎて、悩んでるこっちがバカらしくなるよ」
吹雪「はは。ま、一鎮守府の提督はこのくらいじゃないと勤まりませんから」
ジュンイク「ふふ」
少し、自嘲気味に『笑みを溢した』。
ジュンイク「……じゃあ、任せるよ。Admiral」
吹雪「ええ、駆逐艦に乗ったつもりでいてください」
ジュンイク「そこは大船じゃない?」
吹雪「自分、小舟ですし」
言葉遊びに、少しばかり笑みを乗せて。
吹雪「大体、暗いのは良くないです。手も空きましたし……そうだ、会食でもやりましょうか」
ジュンイク「……会食?」
吹雪「妖精さんに頼んで、バーベキューでも段取りしてもらいます。やっぱり、美味しい食事が一番の活力ですからね」
吹雪「ジュンイクさんが元気になるのが、まずは先決です」
そう、手を強く握って伝える。
一番大事なのは、そういった意思だと。
ジュンイク「……不器用。でも、ありがとう」
吹雪「そうと決まれば、食材集めですね! 如月ちゃんと……テイイクさん借りますね?」
ジュンイク「どうぞ。好きに使ってやって」
吹雪「了解です。今晩、執り行いますので、遅れずに来て下さいね」
そう残して、吹雪は慌ただしく――朝日の昇る空を尻目に駆けていった。
ジュンイクは、やれやれとばかりに――また海を見る。
今度は、幾らかマシに見えて。
『ああ、明日はまた、違った気分で過ごせそうだ』、と。
少し先の未来に思いを馳せた。
投下終了。
投下開始
――――真珠湾南の島、朝
吹雪「と、言うわけで!」パンッ
如月「レッツ、食材集め! ……でいいのよね?」ワー?
テイイク「任せて! 焼けそうな物は何でも回収するよ!」ピャー
如月「焼けて、食べれるものでお願いね」クス
吹雪「えー、妖精さんが貴重な人手を使ってバーベキューの道具を拵えてくれていますので、食材調達は今日限りは私たちの仕事です」
吹雪「バーベキューですからね、バーベキュー。各々の検討を祈ります」
テイイク「パパイヤって焼けるかな?」
吹雪「ど、どうでしょう……試してみない事には何とも」
クー「面白、そうなこと、してる」ガッサァ!
吹雪「ん、クーさん? 今は見張りの時間では?」
クー「ジュンイク、を元気付ける会、と聞いた」
クー「ならば、ジュンイクが出な、ければ」
クー「夜は私が、見張る、から代わってあげた」
クー「とてもえらい」ブイッ
吹雪「お気遣い、感謝します。私たちは今から食材集めですので……本島に戻って休まれては?」
クー「いや、一枚、噛ませて。とんでもないものを、用意して、みせる」ムフー
如月「た、食べるのは自分もなんだから、ちゃんとしたものでお願いよ?」
クー「余裕」グッ
テイイク「あはは……さ、じゃあ早速探そうよ!」
クー「島の珍味、狩り尽く、してみせる」ダッ
吹雪「……速いね。もう見えなくなった」
如月「ふふっ……さて、私はお魚でも探しましょうか」
テイイク「私は……キノコ系?」
吹雪「ま、諸々で。各自頼みますね」
――――北西の島、昼
ジュンイク「…………」ボーッ
マザー「おや、なんだか元気がありませんね」
ジュンイク「っ。ママ、どうしてここに? 今日はママの見張りは無いですよ?」
ジュンイク「動くとお腹が空いてしまうんでしょう? 部屋で寝ていた方が……」
マザー「ふふ、多少なら問題ありませんよ。たまには働き者を労わねば、と思っただけです」
ジュンイク「働き者だなんて……」
マザー「……あら、艦載機……飛ばしているのですか?」
ジュンイク「うん。吹雪が新しい偵察機をくれて、それで」
ジュンイク「……そっか」クスッ
マザー「どうかいたしましたか?」
ジュンイク「いいえ、何でも。強いて言えば」
ジュンイク「――確かに、変わっていってるんだなぁ。って」
――――水門、夕方
門番「…………」
如月「……ほ、ホントにここでやるの?」
吹雪「たまに動くんだよ、その――シンゲツさんは」
テイイク「……シンゲツ? 誰?」
吹雪「門番さんの名前……いや、渾名といいますか、そんなものです」アー……
門番「…………シンゲツ」ボソッ
クー「しゃべった……!」
吹雪「喋った、って……クーさんも最初は無口キャラかと思ってましたけどね」アハハ
クー「人見知り、だから」
如月「そのうち、海に出れるようになると良いわね」
吹雪「そうだね。それに限るよ……クーさん、マザーさんは?」
クー「後で、ゆっくり歩いて、くるって」
クー「もう日も沈む。ジュンイク、を迎えにいく」
吹雪「お願いします。すいません、わざわざ。幾つか食べ物は取っておきますので」
クー「助かる。楽しんで」
吹雪「了解です」
如月「吹雪ちゃーん、キャンプファイアー? の薪、これどうやって組んだらー?」ウーン?
吹雪「あ、置いといてー……では、もう夜になるので気を付けて」
クー「了解。出る」バッ
バシャアッ
クー「さて」スイー
門番「…………」
吹雪「水門、開けてくれたりしないんですね」
テイイク「ん? あー、まぁ時間で開けたり閉めたりしてるからね。閉まってる時は水門まで来て飛び降りたり、面倒だけど真珠湾まで歩いていって抜錨してるよ」
如月「ちょっと不便ね」
テイイク「まあ、仕方ないよ。こればっかりはね」
――――北東の島、夜
ジュンイク「よーし、艦載機の着艦も上手くいったね」
そろそろ時間だと思い、彼女は艦載機を戻した。
案の定、海を進む音を感じる。
クー「待たせた」
心強き味方である、空母が見張りの交代にやってきた。
少し息を切らせている。
クー「もう準備、できてるから」
ジュンイク「ありがと……クーにも気を使わせちゃったかなぁ」
クー「気にして、ない。さ、早く行く。待ってる」
ジュンイク「うん。楽しんでくる」
小屋から出て、さあいざ抜錨しようとジュンイクが艤装を海水に下ろした時――ふと、いつもの音が聞こえた。
――――艦載機の飛ぶ音。
ジュンイク「ん……早い。もう偵察機、飛ばしてたんだ」
クー「えっ?」
ジュンイク「ん? いや、偵察機を飛ばしてるんでしょ、今」
クー「いや。飛ばして、ない」
クー「夜に飛ばすのは、効果が無いって、言われてからは、やってない」
――――
ジュンイク「え、だってこの間も飛んで……それじゃ――」
それでも、艦載機の音は続く。
夜の闇でも、目標を捉え――今。
クー「――!! ジュンイク、避けて!」
ジュンイク「えっ――?」
深海棲艦「…………」
――彼女の頭部を、『驚くほど正確な砲撃』が撃ち抜いた。
投下終了。お疲れさまです。
投下開始
――――戦場、北東の島、入り立ちの夜
ジュンイク「――!?」
クー「ジュンイク!!」
幸いにも彼女が被っていた仮面が装甲の役割を果たし、首から上が無くなるという事は無かった。
思い切り仰け反った体勢で吹き飛び、砂浜に身体を強く打ち付ける。
ジュンイク「あ……な、なに……痛い――?」
クー「立って!! 敵! 海へ!」
ジュンイク「っ!」
空母は浅瀬を疾駆し、低く鋭く飛ぶ――抜錨する。
艦娘の機動力は水上でこそ輝く――陸に上がったままでは十全に力を出しきれないから。
追って、重巡も――経験も無いのに――がむしゃらに飛び込んだ。
クー「軽巡2、駆逐――3! 水雷戦隊!」
先刻の狙撃の主――マフラー状の布が特徴的な軽巡――と、恐らくその同型。
取り巻きの駆逐艦が三匹。
何れも異様な雰囲気を醸し出していた。
クーに知識は無いが、それらは確実に『姫』と呼べる程の深海棲艦で。
ジュンイク「ど、どうするの?!」
クー「それは――」
言って、口ごもる。
夜は――艦載機が、飛べない。
風と敵を切り裂く自慢の翼も、光亡き空では。
――なら今まではどうしていた?
クー「――ユキ」
呟く愛しい名は、あらゆる敵を露払う戦艦の。
――過保護な迄に強靭な者の名だった。
夜に戦った記憶は、無い。
ジュンイク「――きゃあっ!!?」
至近弾が海を打ち鳴らす。
冷静に考えている暇は無い。
例え経験が無くとも、やらなければ。
クー「とにかく、回避運動、それから応射! 逃げ切る!」
ジュンイク「わかっ――」
ジュンイクが言葉を最後まで発する事無く、砲撃の斉撃が『90度』――右舷から雪崩れ込んできた。
ジュンイク「――っ、つぅ!?」
クー「(――軽巡2、駆逐――3!? 全く同編成で、二部隊……!?)」
深海棲艦は、『統率の取れた動き』で彼女との距離を一方的に詰める。
重巡が撃ち返す余裕も与えない。空母はここで沈める。
そういう確固たる目的を感じ取れる程に。
クー「避ける、だけなら――でも」
ジュンイク「う、うわ、うわぁぁぁ!!」
夜闇の中の砲撃でも、僅かな火線の光から着弾を予測し回避する事は、クーには可能だった。
だが、ジュンイクには些か荷が勝っていたし、今は尚更で。
ジュンイク「か、仮面が……仮面が割れて――ぎゃっ!?」
初撃の当たりが悪かった。
彼女を彼女たらしめる証は、衝撃に耐えきれず砕け、海に沈む。
そんな動揺に、容赦等無く深海棲艦らは攻撃を加え続ける。
軽巡、駆逐の小口径砲弾とは言え、重巡の厚い装甲とは言え、数当たれば艤装は歪み機能を徐々に失って。
遮二無二、闇を走る二人だったが。
クー「(――ダメ、囲まれてる。誘導されてる)」
ジュンイク「この――このぉ!!」
訓練でもしたのか、とばかりの敵艦隊の動きに翻弄されるだけ。
重巡の砲撃も、当たった感触は感じられず、返す砲撃は10倍にもなってくる。
――だから。
クー「――耐える。間に合って」
ダメで元々と、飛ばした艦載機に祈るしか、無かった。
――――水門、夜
吹雪「――ん?」
静かな筈の夜だった。
少し風が強く、その音が目立ってはいたが――それだけ。
しかし、そんな中にあって、違和感。
如月「……どうかした?」
吹雪「いや……」
マザー「ふう……ここ、意外と遠いですのね。お待たせ致しました」
テイイク「お母さん、途中でバテそうになっちゃってさ……何とか押してきたよ!」
遠くから近付いてくる二人が、キャンプファイアーの明かりに照らされてぼんやりと見えてきた。
因みに火を炊いた段階でシンゲツはそっぽを向いてしまっている。
よっぽど光が嫌いなのだろうが、泣き出す程でも無いので嫌いにも種類があるのだろうと吹雪は思っていた。
如月「あ、来たわね……この音が聞こえてたのね」
吹雪「そうかな……そうかも」
そう考えるとしっくり来る――いや、引っ掛かっていた。
マザー「……あら、まだジュンイクは来ておらぬのですか」
テイイク「あれー……? 大分前にクーが呼びに行ったんだけれど――」
吹雪「――静かに!」
言葉を、吹雪は遮った。
――聞こえた。航空機の飛ぶ――違う、墜ちる音だ。
吹雪「――クーさんの艦載機……? マザーさん、着艦を」
マザー「おや……? ええ、分かりましたわ」
マザーの甲板装甲が背面から展開される。
そこ目掛けて降りてくる艦載機――は、着艦寸前に強風に煽られて。
マザー「むっ――」
吹雪「何の!」
墜落する、かと思われたそれは――吹雪の差し出した手のひら、から肩、首の後ろを走って。
伸ばした逆の手の指をブレーキにして着艦した。
――駆逐艦に、着艦した。
如月「せ、セーフね!」
吹雪「な……何か上手くいったね」
テイイク「お見事だね! 私より上手いって!」
和気藹々とする雰囲気の外で、戦艦が吹雪を見る目は。
――確かに、喜びの表情だった。
――――血の色は赤。
水雷戦の距離まで、近付かれた。
空母はもう、大きい的。
クー「――邪魔!」
二つの部隊は、こちらが二隻ということを確信したのか――片方ずつ、一人ずつ狩る事にしたらしい。
分断されていては、いけない。
このままでは、向こうが持たない。
こちらの戦隊は、比較的冷静沈着だと感じた。
獣の様な狡猾さで肉薄する軽巡二隻。
小柄な身なりの割りに鋭く格闘を仕掛けてくる駆逐一隻、同型の精悍な駆逐艦二隻。
お手本の様な砲撃、お手本の様な航海。
だが異質な、桁外れの近接格闘。
クー「(――誰かが、深海棲艦を、育てた……? まさか、あるわけない)」
足癖の悪い駆逐艦のハイキックを仰け反って躱す。
錫杖を振り抜き、防御させて。
横から抜かれる射撃を甲板を盾にして堪える。
横っ飛びに雷跡を避け――腹部を軽巡に蹴り抜かれて海を転がった。
クー「く、そ……!」
クー「『この忌々しい黄色猿どもが!!』」
痛みに思わず、自分でも何を口走ったか理解できない程の流暢な英語だった。
余りに自然に口を突いて出たせいか、本人も気付かないまま。
本能的に手を前に翳す、と――頭に被っていた鍔広の帽子の両脇から、空母としての副砲が現れた。
軽巡「!」
艤装が発砲する。
軽巡は水上を横滑り、クルリクルリと軽口も聞こえるくらいでそれを避けるが。
クー「――、上等!」
首が少し痛むから不便な事を除けば、嬉しい誤算だった。
夜にでも、戦いようはあったのだから。
――――
打って変わって、こちらの部隊は苛烈極まり無かった。
軽巡「――――」
ジュンイク「がっ、は……!?」
マフラーの軽巡は徒手空拳で休みを与えず、彼女自身の肉体に疲労と痛みを蓄積させる。
零距離で放たれた砲撃に身を跳ね上げられ――
駆逐「――――」
ジュンイク「ひっ――!」
一際イカれた、赤目の駆逐艦が『跳ね上げられたその体の、更に上に舞い上がり』、ジュンイクを蹴り落とす。
船としての存在への冒涜でもあるだろう、その三次元的な動きはその上速く重い。
そのまま降ってきた駆逐艦は重巡を沈めるように踏みつけ、もがく彼女の襟首を掴み、片手で振り上げ投げ飛ばした。
ジュンイク「う、あ」
着水した先に置いてあったかのように、その駆逐艦の魚雷が命中し、牙が肉を食い破って後、爆ぜる。
水面に片手を突いて、震える身体を起こす。
立ち上がらないと――と、四つん這いになってでも。
ふと、星明かりに反射して、一瞬だけ。
自分の顔が映って、ほんの少し。
ず、と右足が沈む。
――なんで?
私は何で、こんな誰かも知らない奴の為に立たなければ?
痛みが呼び覚ます――何も考えない。
何も考えない――本能だけの色。
――艤装の『赤』が揺らめいた。
ジュンイク「――あ、あぁぁぁ!!」
艤装が、主砲が広く展開する。
戦う事を、まだ忘れてはいないと。
『殺し、奪い、蹂躙する為に』戦う事を、覚えていると。
ジュンイク「――沈メェッ!!」
一斉の砲撃が、敵船団を一瞬怯ませた。
絶え間無く、ただ怨みを込めて銃身をひたすらに焼く。
ジュンイク「沈メ、沈メ……! コノ深ク昏イ水底ニ沈ンデイケ……!」
ジュンイク「――――っ!」
我に返る。それは恐怖から。
死に際の猛攻に、それを見て。
――楽しそうに高笑う、赤目の駆逐艦に恐怖したから。
背後の二隻の駆逐艦が、ジュンイクの艤装を狙って砲撃。
正確に命中し、砲身が歪んで使い物にならなくなる。
仕事はしましたよ、とばかりにその駆逐艦らは合図を送った。
もう一人の軽巡――頭にマフラー、ではなく鉢巻きのような布を巻いている――の雷撃が、沈みかけの右足を射抜く。
ジュンイク「あ、ああっ……!」
脚部艤装も破損する。
今やジュンイクの装備でまともに機能するのは――電探程度で、それも自分の位置が味方に分かるくらいが精一杯。
だから、後は――嬲られるだけ。
赤目の駆逐が、動けない彼女を――思い切り助走を付けて蹴り飛ばす。
深海棲艦の胆力で、島の浅瀬まで転がって打ち上げられてしまった。
意識も一瞬飛ぶ。
何度か身体を砂地に打ち付けて、ようやく弱々しい意識が目覚めるくらいで。
ジュンイク「う……あ……」
ああ、ダメだ。
もう立ち上がれない。もう戦えない。
ジュンイク「――あ……い、や」
もう、たたかえない。
のに。
ジュンイク「や、やめ――」
赤目の駆逐艦も浅瀬に乗り上げ、這いつくばるジュンイクの足を――連装砲で撃ち抜いた。
艤装が砕ける。
ジュンイク「ひ、ひっ!?」
駆逐艦は愉快そうに笑っている。
心底、戦う事が好きなのか、は、定かでは無いが。
とにかく、楽しいのだ。
ゆっくりと次弾を装填し、もう一撃。
――今度は、艤装ごと右足が千切れ飛んだ。
ジュンイク「――ああぁぁぁっ!!!」
殺される。殺されてしまう。
どうでもいい、ここから逃げないと。
逃げられない、なんてことは考えれもしなかった。
腕と残った足で、砂に顔を擦り付けながら、その恐怖から必死に逃れようとする。
――背部の艤装に、一撃。
ジュンイク「あ、あ――」
一番大事な、船の心臓が歪む。
一撃、一撃、一撃。
ジュンイク「止めて、止めて……!!」
一撃、一撃。
一撃一撃一撃一撃一撃一撃。
ジュンイク「もう、もうやめてぇ……ゆるして……!」
蹲って、自分が壊れていく怖さに頭が真っ白になる。
艤装に致命の傷が刻まれていく。
ジュンイク「うそ、うそ、だって……だって初めて……!」
そんな最中、思い浮かぶのは――ちょっとした約束。
ジュンイク「はじめて――明日が楽しみだって――明日も生きていたいって、そう思ったのに……!!」
すっかり動けなくなってしまった彼女を見て、赤目の駆逐艦は漸くつまらなくなったのか――蹴って彼女を仰向きにし、その得物を構えた。
駆逐「――――」
ジュンイク「いや……いや――まだしにたくな――」
――でも、一つ、夜を裂く轟音。
――だが、一つ、夜を裂く轟音。
駆逐艦が。
――駆逐艦、吹雪が。
両の目に赤と青の炎を迸らせて。
風よりも速く、流星の如く赤目の駆逐艦を強襲し、一瞬の攻防の後に――手酷く蹴り、ぶち抜いて、ありったけ惨くぶっ飛ばした――――
投下終了
伊168「…………」ツイツイッ
伊58「……今度は何してるでちか」
伊401「ふぇいとぐらんどおーだー? にハマったんだって」
伊168「……マリー……そんな」グスッ
伊58「これアカンやつでち」ハァー……
伊19「Masterフルコンしたのね!」
呂500「フェイスドラゴンは神ですって!」
伊58「やっかましーでち!! スマホで遊んでばっか止めるでち!」
伊8「あけましておめでとう……。今年も、お付き合いしてもらえたら、はっちゃん嬉しい」
伊8「投下開始だよ」
――――例えばここが鉄底の海峡だったとしても
赤目の駆逐艦は血ヘドを散らしながらも、猫の様に空中で体勢を整え着水する。
勢いを殺しながらかなりの距離を滑って、低く構えて。
赤目「――ハハハッ!!――!?」
吹雪「耳」
愉快そうに笑うその駆逐艦に、既に肉薄した吹雪が――追い穿って殴り、跳ね上げる。
先刻赤目がやったのと、ほぼ同じようなフォームで舞い上がって――吹雪の脚部艤装が弧を描き駆逐艦を貫いて轟音を発てた。
吹雪「――障り!」
赤目が垂直に海面に激突し、高い水柱が上がる。
吹雪「――――」
赤目「――――!?」
まだ意識があるのか、しぶとい。
声には出さず、思考だけで――目の端に別の駆逐艦が映って翻る。
『至って何の特別にも見えない』駆逐艦の、しかし赤目のそれを凌ぎかねない鋭さの拳が空を切った。
――切っていない。その手には連装砲。
返す手を振り下ろされ、吹雪の体は衝撃波を伴ってくの字に折れる。
吹雪「かっ、は――はぁっ!」
一撃で内蔵と肋骨がグチャグチャになったが『気付かない』。
一層瞳から燃え立つ炎は激しくなり、『到底不可能な』体術で受け、跳ね起き、距離を取った。
吹雪「――動ける!」
背後から、残った駆逐艦――遠く暗くて詳しい特徴は分からないが――の砲撃。
痛みに音を一瞬掻き消され、それに吹雪は気付かない――
――――が。
吹雪「――、なっ――え」
背後の爆裂音に咄嗟に振り返ると、そこには焼け焦げた魚雷発射管が。
吹雪の両腿に装着されていたそれが、『大腿接続部から伸びるケーブルで繋がって』、勝手に浮かんで、勝手に重なって、勝手に盾となっていた。
役目を果たした発射管は、吹雪側の艤装に巻き上げられて一先ず元通りに収まる。
吹雪「――これは……?」
余りにも予想外の事に海を進む速度が遅れ――それを見逃さないとばかりに軽巡二隻の一斉射が吹雪に肉薄して。
吹雪「――っ、防げ!」
右手を、命ずるように前に出す。
揺らめく炎の導くまま、魚雷を放つ為の艤装は――自在に動いて命中する砲弾を全て受け止めた。
吹雪「――自立型の艤装……?」
ふと、島風の連装砲を思い出す。
彼らは艤装にも関わらず、意思を持って稼働していた風があった。
吹雪「これなら――っ、向こう、も!!」
空母の悲鳴に、スクリューを全開にする。
獣の如く低く前にのめって海を割って駆けて。
――背後では盾が動き防ぐ音を聞いて。
――――
クー「こ、の」
頭部艤装を吹き飛ばされ、成す術も無くなった空母が水面に伏せていた。
深海棲艦――彼女を取り囲んだ三隻の駆逐艦は、その主砲の切っ先を突き付ける。
――が、何故か最後の一撃を撃ち込もうとはせず。
クー「――、一思いに、やれ……!!!」
駆逐「…………」
駆逐艦のトリガーは、しかし同じく深海棲艦の軽巡――部隊の頭だろうか――の叫びによって掻き消された。
クーに当たらない精度の、それでも連続した主砲の弾丸が彼女ら三隻に降り注いだ。
吹雪「――こっちだ、化け物!」
クー「吹雪!」
三隻は迎撃体制を取り、獣染みた軽巡二隻も共に飛び出して――そして。
その三隻の駆逐艦で一番躊躇わない者は、四の五の言う前に空母にトドメを発砲した。
挟み撃ちになるくらいなら、命を奪う方が合理的だからだ。
クー「――う、あ」
駆逐艦「…………」
恐らく駆逐艦は悪態を吐いた。
仕留め損なってしまった――咄嗟に翳した錫杖が盾になっていて、命に至らなかったから。
見て、吹雪の『赤』が、燃え盛る。
飛びかかってきた軽巡――まるで猫のようにしなやかな体幹だ――を半身で躱して腹部を殴って、『引き抜く』。
――貫通されたその深海棲艦が声もなく落ちて。
もう一隻の軽巡の気配が、それこそ熊の如く膨れ上がった。
剛速で身を積めたその敵に頭部を鷲掴まれ、ゼロ距離射撃を――
――叩き込んだ。
魚雷発射管が無意識に割り込んできて、雷撃を暴発させる。
片方ダメになってしまって、自分も焼け焦げるが――その軽巡は煙を吐いて後方に吹き飛んだ。
吹雪「お、前、らぁぁぁっ!!!」
駆逐艦が一隻、砲撃しながら電撃の如く突貫してきて――一撃の元に沈めようと頭部を蹴り上げようとして。
駆逐「……!」
バック転で吹雪に躱され、そして。
駆逐「――――!!!!?」
振り上げた足を追って、逆立つ吹雪の脚部艤装先端が捉える。
両の足を交差させ、ハサミのように艤装を擦り合わせ――その間抜けに天を足蹴にする片足を捻り斬った。
もう一撃で沈める。
――吹雪の海の色は更に赤く。
吹雪「――っ、煙……幕?」
背後を追って来ていた赤目の部隊が放った弾薬が、煙を撒き散らす。
暗い夜が更に闇を帳にして。
吹雪「――逃げられ……くそっ!!」
晴れる頃には、遠目に――いや、見えはしない。遠耳に聞こえるばかり。
――溜め息と共に、両の炎は掻き消えた。
投下終了
誤字情報です。
>>609から下の
×北東の島→北西の島
大変申し訳なく思っていますがそれよりキングハサンが出ません←
投下開始
――――残るは海風の寒さ
ふと、背後にスクリューの唸りを聞く。
マザー「――吹雪さん、お怪我はありませんか……?」
吹雪「マザーさん――その怪我は?」
振り返れば、そこには戦艦の姿。
艤装が多少焼け焦げていた。
マザー「先程の軽巡に……」
少し、自嘲気味に笑う。
マザー「私も、自分が速力に関して不得手なのは感じておりましたが……こうも置いていかれると情けなく感じてしまいます」
マザー「私が漸く吹雪さんに追い付いた時には、クーを囲んでいた深海棲艦に向かって飛び出していたので……援護しようと、それまで貴女と戦っていた方の足止めをしようとしたのですが……」
吹雪「それでその怪我を……大事無くて何よりです」
吹雪「それに、なるほど。走り抜けられたはずです。背後から追われるにしては、弾幕が少し薄くなったと思ったので」
吹雪「……お礼は後に。クーさんとジュンイクさんを救助しなければ――如月ちゃんは?」
マザー「手筈通りに、ジュンイクの応急処置を行っていると思いますわ。島に上陸していました」
吹雪「よし。ではそちらは一時任せて、クーさんを」
――――北西の島
顔に冷たさを感じて、少し蠢く。
ジュンイク「――――う」
如月「ダメよ、動いちゃ」
体を起こすことも儘ならない彼女の側に、如月が屈んで傷の処置を行っていて。
ジュンイク「――あ、あ。わたしの、あし」
如月「心配しないで、修復材で治るわ。だから安心して」
ジュンイク「――そう、だったね」
如月「酷い出血だったから、キツく縛っておいたわ。片足は艤装残ってるわね……両方から支えれば航行は可能かしら」
ジュンイクは見るも無惨な有り様だった。
艤装は元より、着ている服も焼け焦げて。
襤褸を纏っているようで、その下に見え隠れする肌も――白さをおおよそ失って血がこびりついていた。
無意識に、彼女は自分の頬を触る。
ジュンイク「――仮面」
如月「妖精さんが作っていた予備よ。吹雪ちゃんに持っていけって言われたから」
ジュンイク「ああ――Danke. やっと、落ち着いた……」
如月「すぐに皆来るわ……それまで気をしっかり」
――――
吹雪「クーさん!」
クー「吹雪――艦載機、届いた?」
吹雪「届きましたとも。艦載機の妖精さんに聞いて飛び上がりました……肩貸しますよ。体を預けて、微速航行と参りましょう」
マザー「耳を近寄せたと思ったら、次の瞬間には表情がガラリと変わりましたの。あれが、戦う時の貴女なのですね」
吹雪「焦っていただけですよ。クーさん、取り敢えず見張り小屋の島に向かいます」
クー「あそこには、ジュンイクが」
吹雪「如月ちゃんを行かせています。安心してください」
吹雪「……合流次第、揺り籠――は無理でしょう。少し遠回りしなければなりませんから」
マザー「でしたら、直接真珠湾に?」
吹雪「そうします。ドックもありますし、何より――カハッ」
マザー「――吹雪さん、貴女――血が」
吹雪「いやはや、私も少し手酷くやられてまして。そこまで持ちそうにないので」
マザー「二人とも、私の両肩を持って下さい。馬力程度は、一応戦艦ですので……貴女達を引いていくくらいならできますわ」
吹雪「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
――――北西の島
吹雪「――――っ」
如月「――あっ、吹雪ちゃん! 無事かしら?」
吹雪「余裕。ジュンイクさんは?」
ジュンイク「……う――ふ、ぶき……?」
吹雪「……はい、吹雪です」
露骨に顔をしかめる。
ジュンイクのその姿は確かに『深海棲艦に弄ばれていた』のを感じさせたから。
目の奥で、チリ、と。
赤色が踊る。
だから、吹雪は黙って自分の上の制服を脱いで下着一枚になった。
如月「吹雪ちゃん?」
吹雪「ジュンイクさん、パーカー……ボロボロですね。間に合わせですいませんが、これを着ていて下さいね」
抱き起こし、少しだけ血の滲んだ――無いよりはマシだろう――服を着せる。
これで落ち着くだろうと、吹雪は一息吐く。
見ていると、深海棲艦を擂り潰したい感情に支配されそうだったから――そう、確かに吹雪は落ち着けた。
吹雪「ジュンイクさんは私と如月ちゃんで。クーさんは――大変かもしれませんが、マザーさん一人でお願いします」
ジュンイク「テイイク、は……?」
吹雪「何かあった時の為に、揺り籠で待機して貰っています。あそこに深海棲艦が入り込んだら――考えたくもありませんがね」
ジュンイク「そう……良かった――軽巡なんかじゃ、こんなにされたら……死んじゃってたかも、だし」
吹雪「……大丈夫です。私がいますから――さあ、皆さん。引き上げましょう、私たちのドックに」
――――真珠湾へと。深い夜に。
静かな、透き通る夜が来た。
朝も、近くなっている。
艤装が切る波の音も、今は大人しく思えた。
ジュンイク「……そういえば」
吹雪「なんです?」
如月「どうしたの?」
ジュンイク「……バーベキュー、は?」
如月「――ふふっ」
ジュンイク「笑わないでよ……その、楽しみ、だったから」
吹雪「火は消しましたが、道具はシンゲツさんが見てくれてる筈です」
ジュンイク「……誰?」
吹雪「あ、そうだった……門番さんの事です。新月の夜が好きだそうですから、それを名前にと」
ジュンイク「……すごいなぁ、吹雪」
吹雪「へっ、何がです?」
ジュンイク「私なんか、ずっと、もう話せないって決め付けてたのに」
如月「ま、そうよね。小まめに通ってるみ、た、い、だし」
吹雪「う、トゲがない?」
如月「んふふ、そう感じるやましい何かがあるのかしら?」
吹雪「ないさ、ないけどもね?」
ジュンイク「――ふふ」
吹雪「あ、ジュンイクさんまでー……もー……」
クー「……たのし、そう」
マザー「ええ、そうですね」
マザー「戦いが終わって、こんな気分になるとは思っていませんでした」
マザー「……自分が死なないので必死でしたけど、こう」
マザー「――誰かが死なないでくれるのは、嬉しいのですね」
クー「……ユキも、きっと、そう」
マザー「今更、あの子が恋しくなってきてしまいました」
クー「もう、そろそろ、きっと来る」
クー「たくさん、資材持って、ドヤ顔」
マザー「ふふっ……それは、そう」
マザー「――そう、とても楽しみ、ですね」
投下終了
投下開始
――――真珠湾、ドッグ
港湾近くに敷設された工厰に、傷だらけのジュンイクを運び込む。
片足は無いが、意識はどうにか持ってくれていたので、その艤装の重さは感じなかった。
弱りきった彼女を、件の浴場まで如月と二人かがりで運ぶ。
既に妖精が段取りしていて、脱衣場ですら湯気が視界を横切った。
吹雪「……さて。ジュンイクさん、自分で動けますか?」
ジュンイク「無理、かな……うん、無理」
吹雪「でしょうね。如月ちゃん、ジュンイクさんの服を脱がせるから手伝って」
如月「ええ」
普段ならここで茶化しの一つもあるだろうが、そうするにしては、彼女は傷付きすぎだった。
手早く衣服を剥ぎ取り、火傷や擦り傷の目立つ体を背負う。
ジュンイク「……吹雪は?」
服を来たままの吹雪を不思議そうに、ジュンイクはその背中で尋ねた。
吹雪「私は後で入ります。今は何も気にせず、ゆっくりと湯を浴びて傷を治して下さいね」
ジュンイク「わかった……」
クー「遠慮、なく」
ジュンイクの隣の湯槽には、彼女程ではないにしろ傷みが激しい空母。
彼女は歩けない程でもないので、どうやら自分で入渠したようだ。
吹雪「マザーさんは?」
クー「一段落着い、たから、テイイクを、陸路で呼びにいった」
吹雪「了解です。夜が明けるまでの看病は任せるとしますか」
吹雪「……ジュンイクさん、これから暫く漬かってもらうと、徐々に新たな足が組上がります」
吹雪「安静にしていれば、湯に溶け込んだ修復材が効いてくる筈です」
彼女を下ろして、優しく湯に浸す。
焚き火を消すような音を、傷口が発てだした。
ジュンイク「少し……寝てていい?」
吹雪「ええ、むしろその方が捗りますよ」
吹雪「さて、後は……」
――――脱衣場
妖精「」ヒドイナ
吹雪「艤装が生きてるだけで儲け物ですよ。ジュンイクさんも、それが無いと困るので……なるべく急いで直してくれたら」
妖精「」マカセロ
艤装を眺めるように集まった妖精たちは皆頷き、ジュンイクの艤装――歪んでしまったそれ――を運んでいった。
吹雪「よし……次は――とと」
疲れから、眠気が襲い掛かってきて、ようやく今が夜中だと言う事に意識が向く。
吹雪「……風にでも当たってくるよ。如月ちゃんは仮眠でも取っていて」
如月「そうするわ……凄く疲れちゃった」
吹雪「私もテイイクさんが来たら休むよ。じゃ、それまで二人を頼むね」
――――真珠湾、夜更け
風が静かだった。
明るくは無いが、航海には十分な星の明かりが水面に揺れていて。
マザー「こちらに……抜錨していましたか」
テイイク「吹雪、具合はどう? 大丈夫?」
吹雪「お二人とも……私は問題ありませんよテイイクさん。ご心配をおかけしました」
吹雪「テイイクさん、来たばかりで申し訳無いのですが……ジュンイクさんに着いていてあげてくれません」
吹雪「治るのが長くなりそうなので、その間に何かあってもいけませんから」
テイイク「ん。お安いご用だよ」
――――二人になって
風が静かだった。
流れる音がやたらと耳には残るが。
マザー「しかし、撃退する事ができたのは貴女のおかげですわね」
吹雪「いえいえ、そんな……私も無我夢中でしたよ」
そう言って、自分の魚雷管に触れる。
今はピクリとも動きやしない。
吹雪「……艤装に助けられただけでしょう。二度はありませんよ。深海棲艦の強さに、着いていけていないですし」
マザー「……そういえば、クーが気になる事を言っていました」
吹雪「気になる事?」
マザー「ええ。敵の練度が高すぎる、と」
吹雪「それは――確かに私も感じましたね。この頃は特にそういう輩が多い」
マザー「クーは、『まさか、深海棲艦を指揮している者がいるのではないか』……そう溢していました」
吹雪「――いや、まさかそんな」
マザー「どうお思いですか? 私には見当が着きませんが……」
吹雪「……不可能でしょう。例えば彼らに知性があったとしても、船ですからね」
吹雪「それこそ、『提督が人類を裏切り、深海棲艦を率いる』ならば……出来なくもないでしょうけど」
――――
風が静かだった。
マザー「それは、ありえますの?」
吹雪「無いでしょう。深海棲艦と接触して生きていられるとは思えませんし」
夜の闇の淡い光が空から降りてくる。
吹雪「例えばそんな知能があったとして、あの練度なら――」
吹雪「――空母を逃がしはしませんよ。私なら……『日が昇らない内に』追撃しますね。そう教わりましたし――っ!」
マザー「吹雪さん?」
何気無く言葉にして、気付く。
そう。自分なら、追う。
傷付いた仲間は他の仲間に牽かせて下げて、追撃する筈だ。
波が、静かだった。
静かであるように作られたかのように。
――――
――静寂を切り裂く、発砲音。
吹雪「――しまっ……?」
マザー「深海棲艦――う、あ……『眩しい』、ですね」
着弾はしない。
それはただの照明弾だったから。
――だから、一瞬呆けて。
吹雪「――防御して下さい!!」
マザー「っ!!」
次いで降り注ぐ砲弾の雨に、ただ身を構える事しか出来なかった――――
投下終了。寝ます
寝るまでが水曜日……!
投下開始
――――赤き灯火の真珠湾
吹雪「――直撃弾無し! マザーさん、貴女は――っ!?」
照明弾で丸見えになってしまったのにも関わらず、吹雪に直撃する弾丸は無かった。
それもその筈――深海棲艦らは火線を、より手強そうに見える艦に集中させる。
二、三の砲撃は戦艦を確実に捉えていた。
その分厚い装甲を持ってしても、膝を付く程に。
マザー「やりますね……!」
黒のドレスも焼け焦げ、所々肌が見え始めて。
しかし戦意は十分に。
マザー「……うん、大丈夫です。戦えますから」
――艤装を猛らせ立ち上がる姿は確かに戦艦だ。
しかし。
吹雪「照明弾……確かに、無知な深海棲艦とは思えない――!」
敵艦が疾駆してくる音が聞こえる。
もう、こんなに近くに――?
吹雪「っ、出来るだけ速く航行を! このままでは狙い撃ちです!」
照明弾の光は海面に吸い込まれて、再び闇が戻ってくる。
真っ直ぐに空間を裂いて近付く、焼けた軌跡を背後に海を強く蹴って吹雪は滑り始めた。
それに倣ってマザーも追従。
単縦陣で砲撃の先を睨む。
――金色の髪、赤い目の駆逐艦が肉薄してきていた。
吹雪「さっきの奴ら……よりにもよって、ヤバい方!」
暗き夜の音を聞く。
小型電探が捉えるのは、五隻。
間違い無く、手強い方の小隊だった。
マザー「応戦します……!」
主砲が唸りを上げるが、深海棲艦らが突貫する速度は落ちない。
容易く、躱されている。
だがそれは吹雪も同じ話で、目立つ被害は――
如月「吹雪ちゃん、何があったの!」
――――
如月が、交戦の声を聞いて真珠湾から抜錨していた。
当然、深海棲艦らもそれに気付き――口角を上げる。
――駆逐艦が三隻、航路を変えて――そんな生易しい物ではない、波を切って疾走する――如月に標的を移した。
如月「――敵襲!?」
吹雪「如月ちゃん、下がって――っ、この!!」
残った軽巡の二隻、その内の鉢巻きをした方が吹雪を強襲する。
余程夜戦に長けているのか、気付けばもう一隻はマザーを誘導するように近接格闘を仕掛けて――段々と孤立して。
吹雪「くっ――マザーさん!」
マザー「この一隻程度なら相手できますわ……! 吹雪さんは如月さんの援護を!」
吹雪「しかし――ふっ!」
足元の魚雷を跳ね飛んで避ける。
着水した所に、鉢巻きの抜き手が――顎を引く――空を切った。
間髪無く飛んでくる回し蹴りを右手で防御し、後退って勢いを殺す。
こうしている間にも、敵駆逐艦らは――もう、如月に砲撃しているのに――!
吹雪「――ああもう! すいません、その軽巡お願いします!」
マザー「任せて下さい――ぐうっ!?」
返事に敵軽巡が砲弾を捩じ込んでくる。
余所見をするな、とでも訴えているようだ。
マザー「(――とにかく、ここから少しでも遠ざかれば)」
マザー「(少なくとも、彼女に見られないくらいには)」
――――夜を斬り裂く、煌めく刀身を掲げて。
吹雪「くっ、そ――しつこい!」
振り切れない。
お互いに致命傷も無いままに、闇を踊る。
撃ち合い、擦れ違い、艤装を鍔迫り合い、駆け、繰り返す。
吹雪「ちっ、ならこれ!」
爆雷を足元に投げ込み、起爆したそれが水飛沫を上げて視界を遮る。
――が、深海棲艦は恐れずソコを通って抜け、低く構えた姿勢から。
吹雪「(――取った!)」
――腕の艤装を振り上げて吹雪を打ち払おうとする動作、が見えた。
だから、主砲を鈍器に、水面に叩き付けてやろうと踏み込み振りかぶって。
鉢巻き「――――」
吹雪「――あ、れ――な、な……!?」
主砲と共に、吹雪の左腕が『斬り伏せられた』。
――遅れて、吹雪から別たれたその『部品』が水面に落ちて小さく悲鳴を上げる。
――それから、漸く激痛。
吹雪「っ、がぁぁぁっ!!?」
鉢巻き「…………」
痛みの中で、何故、と思考した。
艤装が損傷を肩代わりしなかった。
それもある。
しかし今は、目の前の深海棲艦の――武器だ。
刀だ。鞘から鋭く抜刀し、肉を裂いた。
ただそれだけの事だ。
――有り得ない。
だってそれは『対艦刀』だ。
思い出せる範囲でも、木曾が愛用していたソレ。
妖精が作った『艦娘の為の近接武器』だ。
でも、何故――何故、深海棲艦が――?
吹雪「――――っ!」
降り下ろす二撃目は紙一重で躱す。
耳の先が飛ばされた。
吹雪「距離、を」
取らなければ。
相手が鉄の塊を振り回すくらいなら可愛いげがあろうが、困った事にソレは剣技としてこれ以上無く成立していたから。
――砲撃が胸を貫く寸前、翻ってやり過ごす。
吹雪「――しま」
読み通りとばかりに、軽巡は魚雷を発射していた。
不用意に鑪を踏んだ脚が、爆裂に巻き込まれ腱から先を失う。
――無様に、水面に這いつくばって。
吹雪「あっづ――ダメ――……だ……?」
急に、体が重くなった。
軽巡が、吹雪の背中にある、艤装の機関部に刀を突き立てていて。
念入りに、何度か。
突き刺し、引き抜いて、刺す。
吹雪「あっ――か、はっ――?」
火を灯す炉が、壊れる。
青色の炎が、傷口から零れて消えていく。
体が冷えていく。
意識も落ちていく。
吹雪「あ………………」
やがて、艤装の篝火は、小さく、小さくなって。
鉢巻き「…………」
缶が砕ければ、走れない。
燃料が無ければ、呼吸も儘ならない。
軽巡は一息吐き、見渡して、仲間も上手くやっているのを確認して。
動かなくなった吹雪に背を向け、真珠湾の『燃え盛るドック』へ舵を取った。
――――
吹雪「…………?」
あれ、今、どうなってる?
体が……起きない……
寒い……冷たい……
まるで、水の中にいるみたいだ。
見えるのは……火?
弱い火が、千切れた腕の切り口から、溢れてる。
背中からも、きっとそうなんだろう。
冷たい……冷たい……
――でも。
何故か、斬られて無くした筈の、手に。
――温もりを感じた。
――――『1/7』
マザー「……さて」
吹雪から視認できない程度の距離に、彼女は意識的に移動した。
深海棲艦の方も同じ思惑だったようで、きっとこの軽巡は、上手くいったと思っているに違いないだろう。
彼女自身は、自分は戦艦だからと無茶をし過ぎてしまっていた。
艤装の至るところに被弾痕が残っている。
足回りが遅いのも見抜かれていて、深海棲艦は近接して砲撃や格闘を惜しみ無く叩き込んでいた。
『そろそろ良いだろう。替われ』
マザー「……そうね、お願いするわ。無力化したら、すぐ戻って」
『気が向けばな』
彼女は、独り言を――自らの艤装に返す。
軽巡はトドメとばかりに大きく飛び込んできて、
マザー「ふむ」
軽巡「――!!?」
しかし彼女は単純に。
体を躱して、そのまま腹部を殴りつけた。
轟音と共に軽巡が浮き上がる程の威力である事を除けば、概ね、ただのボディブロー。
マザー「ふん、役にも立たぬ忌々しいガラクタめ。この私の力、侮ってもらっては困るな」
水面に投げ出されたソレは、意識を失って動かなくなった。
残念そうに息を吐くのは、黒いドレスの戦艦。
マザー「はぁ……一撃で終いか。これでは胸の熱さも冷めてしまうな――む?」
彼女が背後に感じるのは気配。
振り返り見れば。
マザー「――何だ何だ、そんな事をされては心が踊ってしまうぞ」
天に立ち上る、夜を削る程の紅蓮。
火柱にも見えそうなソレが、海を照らしていた。
――――景色
温もりを感じて、少しだけ視界が開けた。
軋む首を動かして、動かして。
見えたのは――赤。
目が自然と見開く。
深海棲艦は、砲撃していた。
――ドックを。
燃えている。当たり前だ。
中に居たのは――?
――ふと、目に入る。
一匹、水面に座り込んで、怠けている深海棲艦。
何かを椅子代わりにしていた。
その椅子は、時々蠢くみたいで。
その度に、その赤い目の深海棲艦は。
艤装、主砲の銃底で椅子を殴って、大人しくさせていた。
海に浮かぶ、椅子の役割のソレは。
「如月ちゃん」
――炉が、赤熱した。
投下終了。寝る←
今週は酷く体調を崩し寝込んでいました。
近日更新します。
大変長らくお待たせ致しました。
投下開始
――――燃え盛る身体(たましい)
吹雪「――行かなきゃ」
吹雪は、何事も無かったかのように立ち上がる。
欠損していた筈の足先は、ただ、あった。
吹雪の損傷部位のありとあらゆる箇所から漏れる炎が、元あった形を取り繕っている。
赤と青が入り交じった、紫色のソレ。
斬られた腕も炎に揺らぎ、象って今一度憚る。
先ずは憎悪の赤。あの深海棲艦は沈める(ころす)。
次いで慈愛の青。殲滅し仲間を救出する。
感情は炉から際限無く漏れて、しかし無限に燃え盛る。
炉のシンが変に壊れてしまったから、『炎は均一に混ざってしまった』。
脚部の紫炎(ぎそう)が、吹雪を前に。
吹雪の思考は今や揺らぎの中に有って、はっきりとせず――しかし目は如月だけを確かに捉えていた。
仲間と合流しようとしていた、鉢巻きの深海棲艦が異変に驚愕し踵を返す。
仕留め損なったか、ならばもう一度と。
全速航海しつつ、右腕を構えて主砲を斉射して。
そして、それは幽鬼の様にゆっくりと近寄ってくる吹雪の脇腹に直撃し――内臓もろとも抉る。
――炎が、そこを補填して、何事も無い。
鉢巻き「――な……! 効いてない……!?」
――混ざった、交ざった、確り雑ざった。
音としては聞こえたその震えの、意味は今の吹雪には理解できない。
もはや艦娘としての部分は大破している。
例えば『そう』で無かったとしても、心は恐らくとうに沈みたがっていただろう。
でも、指輪の感触だけはあったから。
鉢巻き「――まるで魔物ですね。船であれば、もう少し理性的に……そう、沈む時は諦め沈む。そういう潔さもあるでしょうに」
鉢巻き「……人の事は言えませんか。しかし、困りましたね。駆逐艦達も待たせています、から」
深海棲艦は、爆雷を投げつける。
それは吹雪には命中せず、その目前に落ち、爆裂して水飛沫が吹雪の、『物理的な視界』を奪った。
吹雪「…………」
しかし吹雪は、その壁の奥から疾駆する、青色の炎を捉えて、構える。
鉢巻き「(ならばその胴、機関諸共――叩き斬るのみ!)」
飛沫が舞い上がって落ちる瞬きの一つ。
深海棲艦は、鞘から抜刀する為に身体は低く低く――上目で一瞥。
鉢巻き「――っ!?」
もうそこには、主砲を構えていた。
――発砲。
を、辛くも鉢巻きを焦がす程度に躱して――吹雪は一刀の元に両断され、
鉢巻き「(――手応えが)」
またもソレを炎が補填する。
火だるまの様でもあるその姿そのまま、残心の内にあるその対艦刀を、熱で象った左腕が鷲掴みにした。
鉢巻き「な――っっ!!」
気を取られた深海棲艦の腹部を爪先で居抜き、奪ったその刀で。
吹雪「――どいて」
同じように、深海棲艦の胴体目掛けて、横薙ぎに斬り払った。
――空を、切る。
鉢巻き「――っ」
咄嗟に後ろに飛び退かれ、深海棲艦の肌を薄く裂いただけに留まって。
鉢巻き「(――――これは)」
軽巡は、背筋に寒気を覚える。
理性では無く、本能が警鐘を鳴らしてくれたのだ。
――この艦は、何か違う。と。
駆逐艦から距離を取りながら状況を確認する。
仲間の、敵基地への攻撃は概ね完了したようで――既に十分な効果を上げている。
――だから、別に撤退しても構わないと。
鉢巻き「っ」
しかし、もう一隻の軽巡は――マザーが一撃の元に打ち倒していて――水面に倒れていて。
そして吹雪は軽巡に目もくれず、刀を杖代わりにしてよろけながら、如月だけを見ていて進む。
――ならば放っておく。
向こうの駆逐は精鋭だ。だから一言でいい。
鉢巻き「■■!」
赤い目の深海棲艦が、声に反応する。
任せろ、とばかりに空砲が一つ上がった。
鉢巻き「……出来た子です。では、姉さんを拾わないと――!」
軽巡は、呻き声を上げて航行する火だるまの船を、大きく迂回するように離脱する。
その声も聞こえずに。
――――
吐き気がする。
目眩がする。
止めどなく流れる血液を鑑みれば、当然だった。
前を見る。
如月を見る。
深海棲艦に足蹴にされている彼女を見ていると、血液は無限に湧く。沸き立つ。
赤目「……さっきの」
深海棲艦の声無き声は、吹雪の耳に入らない。
入っていても、それは意味のある羅列にはならないだろう。
如月「……う……吹雪、ちゃん?」
聞こえた。
人の声だ、言葉だ。
目に光が宿る。
機関から漏れるモノを集めて、『吹雪』を作り直す。
吹雪「――大丈夫、今助けるから」
空間を揺らがせる程に発していた熱が、彼女の声で急速に安定した。
だから左腕はまた無くなって、持っていた対艦刀が海に落ちる。
赤目「――へぇ、やる」
『対艦刀が奪われている』と言う事に、その深海棲艦は興奮した。
この敵は、久々の当たりだと――力が強かったり、固いだけの――なまくらでは無いと分かったから。
吹雪が、大きく息を吐いて。
吹雪「退け……!」
脚部艤装が飛沫と火の粉を撒き散らしながら、加速する。
右の片腕で連装砲を構えて、右足を踏み込んで反動を無理矢理に抑えての砲撃。
それは正確に深海棲艦の腸に穴を開ける予定だった。
――命中する。
吹雪「――っっ、■■■■■■■!!!」
声にならない咆哮を上げる。
理性が蒸発する音を脳髄で聞いた。
赤目「――ふふ、怒るんだ。やっぱり当たりっぽい」
赤目「今度は真面目にやるから――素敵なパーティーにしましょ?」
『盾として使われた如月』を、ガラクタみたいに投げ捨てて、深海棲艦が――深海棲艦も、赤い瞳を明ける寸前の夜に走らせて――
――――
マザー「さて、では加勢に行くとするか」
『終わったわね。なら戻りなさい』
大型の艤装を唸らせ、全速航行をしようとした矢先に、そのマザーは水を差されてしまう。
やれやれ、とばかりに少しばかりの怨み言。助言とも言うソレを添えて。
マザー「まだ私に任せておいた方がいいぞ。お前はこの」
大口径の主砲を愛しい我が子の様に撫ぜる。
事実、我が子どころか、我が身なのだが。
マザー「……このご自慢の艤装の装甲と火力に任せて突進するしか能が無いのだからな」
『もう殆ど勝負は着いたじゃない! 向こうの軽巡だって、あの駆逐艦なら――!』
マザー「ほう、駆逐艦かね」
業炎が深海棲艦と踊る舞台を眺めて、それだけ。
もう一言、それだけの。
マザー「私には、とてもそうは見えないが。あれが駆逐艦であるなら私は何だ? 小舟か? いやいや有り得ない。この私は『この世に七つあり』とまで言われた戦艦だぞ?」
マザー「であれば、あれが駆逐艦であろうものか。お前も人が悪い。いや、言葉のチョイスが不適格だから、頭が悪いのか?」
『……生意気を言わないで。貴女を無理矢理眠らせる事だって出来るのよ』
マザー「やってみるといい、同胞よ。だが」
『っ』
四角からの砲撃を、音だけで把握し身体を傾けて――通りすがる砲弾に、頬を掠めさすくらいの遊び心で躱した。
マザー「これは、お前には出来ないだろう? そういう事さ」
マザー「……吹雪とやり合っていた軽巡か。こっちに何用か――いや、なるほど。このガラクタを拾いにきたのか」
足元に転がる、意識の無いソレの首根っこを猫のようにつまみ上げ、在らぬ方向へと投げ飛ばした。
軽く――戦艦の馬力で――水平に、着水して海面を転がりながら、マフラーを巻いた軽巡は跳ねる。
鉢巻きの軽巡の航路はそれを追うように曲がった。
砲撃は無く、速度に傾重したソレ。
マザー「わざわざ廃品回収とは、仕事熱心で尊敬するな――む」
ふと、虫の知らせ。
直に感ずるそれが、『あの軽巡が目覚め、何か手を打ったのではないか』と言う。
それは事実、戦艦の艤装による正しい反応。
マザー「(魚雷か――ガラクタにしてはやる。侮様に転がっているように見えたが、酸素魚雷を投げ込んでいたか)」
感覚と経験で雷跡を予測しようとして――
『私にだって、その程度はできます――いいから、下がりなさ、い!』
マザー「む、おい――今はやめておけ――!」
立ち眩みの感覚と共に、彼女はいつもの伏し目がちな表情に還る。
先程の余裕と傲慢さに溢れていた彼女とは似ても似つかない。
いや、多少の苛立ちは顔付きに現れてはいたが。
マザー「――ふう。これで一先ずは安心ですね」
『――つ、ぅ……お前』
マザー「貴女を彼女に会わせる――いえ、誰にも会わせる訳にはいかない。そう私が思っているのは知っているでしょうに」
マザー「貴女は短絡的で、楽観する。だから――」
『――良いから避けろ、艤装が大切ならな』
マザー「えっ――?」
呆けた代償に、触雷する。
戦艦の分厚い装甲によって大事には至らないが――
マザー「っ――しまった……!」
――軽巡は、目を覚ました同じく軽巡を引き連れて、この海域から離脱する方向に航行している。
夜明け前の空に一つ、照明弾。
マザー「――逃げてくれるのね」
そこで安堵するから、『だからお前はいつまでも人間なのだ』と、彼女の中の艦娘は悪態を、しかし呑み込んで何も言わなかった。
――――夜明け前
戦う。
何故か、等と言う問いには答えられない。
理由が無いからでは無く、理由が有り過ぎるから。
今も沈みかねない程に損傷した如月も、今も燃え盛るドックと――その中にいた筈の皆も。
全て、全て自分の不手際が成した事だったから。
もっとこうすれば良かった。ああすれば良かった。
そういう後悔と理不尽を敵に押し付けているだけ。
自分の身体がどうなっているのかは、はっきりとしない。
動くから、特に気にも留めていない。
如月は、どうやら浮きはしている。
抱き上げたいのに、目の前の深海棲艦が絶え間無く襲い掛かってくるせいで儘ならない。
ドックも、こんな事になるなら――シェルターの一つでも作っておけば良かった。
もし、もし自分が。吹雪が、あそこに居られたならば――
『――ジュンイクとクーをテイイクと協力して運び出し、ドックに保管してある適当な鋼材を山積みにしてその影に身を隠していただろうに』。
赤目「――――!」
目の前の深海棲艦は本当に、本当に楽しそうだ。
争いを。
痛みを。
流血を。
無念も空虚さも楽しめるのか。
ならば、化け物め。と一言。
砲撃と雷撃。
殴打と航跡が絡み合って、海上に紋様を刻む。
吹雪「――っ」
不意に飛んできた斉射の弾丸が、既に壊れきった背面艤装をぶち抜く。
――もう、そこの損傷は然程戦闘に関係が無い。
吹雪「残りの二隻か……!」
満足でもしたのだろうか、拠点攻撃は止めて赤目の援護を始める。
いよいよもって吹雪は身動きが取れなくなって。
吹雪「――っ、う」
その上、彼女の迸る燃料も艤装のそこかしこから漏れ出し続けている。
無限に稼働できる程だったが、同時に無限に疲労する。
動きたい、そう思っているのに――だんだん体が重くなっていく。
必然、被弾は増えて。
赤目「……つまんないの。■■が一緒だとすぐに終わっちゃう」
赤い目の駆逐艦が、聞こえる様にと一人言。
「私も少しは夜戦に自信がありまして。この海域は譲れませんよ」
赤目「……そ」
ガツン、と吹雪の艤装にもう一砲撃。
三隻目の駆逐艦だ。
薄暗い中では特長を捉え切れず、何の事もない――普通の駆逐艦に見えるそれが、一方的な火線を向ける。
吹雪「う、あ――」
いくら砲撃、を、喰らおうとも、倒れる気は、しない。しない、が。
それだけ――では――
ああ、もう夜が明ける。
クー「――やっと、見える」
――――射し込む朝日の真珠湾
艦載機が空を舞う。
面食らう深海棲艦たちに急降下爆撃を敢行するのは――クーの艦載機そのものだった。
吹雪「――クーさん!!」
テイイク「こっちもいるよ!」
吹雪「テイイクさんも……! 良くご無事で!」
声に喜び見れば、テイイクが如月に肩を貸していて。
クー「ジュンイクも無事、だけど、説明は後」
クー「今はあの、小舟どもに――お礼を、する」
水雷戦隊、それも旗艦のいない末端の駆逐艦に、空母が攻撃を加える。
半ば蹂躙と言えるそれに、吹雪は何とか持ち直して――
吹雪「っ」
クー「――くそ、っ!!」
紫色の空から紙吹雪のように落ちてくる――何かの残骸。
吹雪「――防空型、ですって……!?」
防空「…………」
三隻目の深海棲艦の、その長い砲身が朝日に良く輝いていて。
――どうにも、まだ夜は終わらない。
投下終了。お休みなさい
投下開始
――――ひらりはらりと舞い墜ちる。
クーの艦載機の練度は、特別低い訳ではなかった。
だと言うのに、徒に被弾しては空から破片を降らして海へ衝突する。
防空「…………!」
防空型の深海棲艦は一際こちらを強く一瞥して、艤装を唸らせた。
焼けた砲身を引き抜き、連装砲に――腰から取り出した新たなソレを装填する。
只管に繰り返す、硝煙が燻る。
まるで機関銃の引き金を引いたまま振り回しているのか、と錯覚するほどに砲弾は空を貫き続けていた。
クー「こ、の――! 駆逐艦、風情が――生意、気……!」
残った二隻の深海棲艦もそれなりに対空射撃を行いながら、無傷を維持している。
吹雪「いけない――このままでは!」
そんな中、劈く――戦艦の重い発砲音。
赤目の駆逐艦が舌打ちを鳴らして砲弾着水からの飛沫を浴びる。
吹雪「――マザーさん!」
見れば、航行しつつ弾幕を張る黒いドレスに戦艦の姿。
多少の傷さえ感じさせてはいない、戦艦然としたソレだった。
マザー「軽巡二隻は追い払いました――後はそこの駆逐艦らさえ片付ければ終いでしょう」
マザーは吹雪と比べて駆逐艦と相当な距離があるが、その艤装の射程距離は長く、十二分に敵を捉えている。
だからこそ、吹雪は軽い上半身を起こして、襤褸のその身を再び焼いて。
うん、動ける。
もう少しだけ、いける。
吹雪「マザーさん、援護を」
考えるのは、余裕が無い。
そんな所に割く精神のリソースは持っていない。
赤色が舞って、待っている。
吹雪「ああ、お願い――もう沈んで」
吹雪「終われ」
――――
マザー「吹雪さん――!?」
目前で一言残して敵に突貫する、咆哮は獣染みてすらいて。
援護――? 援護だと言っても、何をやれと?
『アイツに当てぬように、砲撃を撒けば良い。何、容易い事だろう?』
マザー「うるさい……そんなの、出来たらやっているわ!」
『それとも何か? アイツを痛め付ける良い機会だ、とでも思ってギリギリ死なない程度に暴れさせているのか?』
『ならば小気味良いな。なるほど貴様は兵器を作るばかりでは無く、育成まで計算に入れていたとは』
『であるならば、その目論見は概ね成功だろうな。見ろ、あの姿を。この一戦で更なる怨念と化した』
『だと言うのに力強い。だと言うのに愚直。これ以上無い兵器ではないか、素晴らしい! 喝采だな!』
マザー「黙って……! 貴女は海に出ると本当に喧しいわ――だから嫌なの……!」
『当然だろう。この身軍艦として精錬されたならば、海の上に浮かぬと呼吸も儘ならない』
『陸の空気は、そら、まずくはないか?』
マザー「集中したいの、静かに!」
『……ふむ。ならば、やってみるがいいさ。時間がある内は割り込まんよ』
頭の中の小煩い声が治まり、思考をクリアに戻す。
戦場を見渡して、何もかもを切り替える。
吹雪は赤い目の深海棲艦と交戦していた。
――圧されている。当然だろう、あの怪我では、例えあんな体でも。
テイイクと如月――は、戦場から離れていっている。
その方が良い。運べる内に、陸に近付けておくべきだ。
ジュンイクの姿は無い。
ドックの中だとして、無事でいればいいのだが――
クーは、怒りからか焦りからか、敵に到達する事の無い艦載機を放つばかりで。
無理もない、あんな駆逐艦は初めてだ。
マザー「――いや」
軽巡――水雷戦隊だとしたら、どちらかは旗艦だ。
それが撤退した以上、あの駆逐艦らが長居する理由は無い。
では何故――と、思考して。
マザー「――逃げられない?」
思い至る。
迎撃は出来るが、それをしながら引き上げるのは不可能なのではないか?
ならば、攻撃を止めれば――アイツらは逃げ帰る筈。
――でも。
マザー「(もしそうではなかったら)」
それはもう、奴等はここで私たちを全滅させるつもりなのだろう。
でも、それは考えにくい。何故なら、
マザー「(――そのつもりなら、もっと用意してくる)」
し、そうだったとしても、このまま空母を浪費する必要は無い。
艦載機を引かせなければ。
マザー「クー! このままでは埒が空きません――一旦艦載機を戻すのです!」
クー「ママ――でも」
マザー「私が援護します――無闇に艦載機を、彼らを撃ち落とされる訳にはいけません」
クー「――わかった、帰艦させ、る!」
漸く血も冷えたのか、クー――我が子の様に可愛がっていたその空母――は素直にその指示に従って。
――しかし、艦載機は未だに滑走路から飛び出していて。
マザー「……どうしたのです! クー、止めなさい!」
その事に何よりも驚き、困惑していたのも彼女。
クー「な――何で。もういい、行かない、でいい!」
クー「――違う、貴方たち、私のじゃない――妖精……?」
クーの艦載機を動かしていたのは、今までクーと共にあった彼らでは無かった。
工厰で良く見る、吹雪が連れてきた妖精。それが、クーの艦載機に搭乗し、『勝手に出撃していた』。
妖精たちは、皆理性を半ば失ったようですらあって、ただ兎に角、『深海棲艦を沈める』。それだけに意識を持っていかれたみたいに。
飛んでは、墜ちる。
無駄だと分かっていないのか、分かっていて尚そうなのか、それは定かでは無い。
狂った、バグを起こしたシステムに寄り添われる感覚に僅かながらの恐怖を、クーは覚えた。
クー「止めて、飛ぶな、私を勝手に、使わないで……!」
飛んでいく妖精の声は叫び。
耳元で喧しいそれの中に、一つだけハッキリとした音が。
ああ、お願い。
もう沈んで――終われ。
妖精にしては酷く意思を持ったそれは、機械音に掻き消えて。
マザー「クー、クー!……ダメね……!」
空母は勝手に稼働する自らの艤装に混乱を極め、身動きが取れないでいた。
『はは、ダメらしいな。どうする?』
マザー「くっ……」
『楽をしたいのは分かるが、諦めろ。蚊トンボが落とされてるどさくさ紛れに防空駆逐艦を沈めれば良いだろう』
『さもなくば――ほら、決めに来たぞ』
マザー「っ」
――――
赤目の駆逐艦は手負いの吹雪を蹴り飛ばして道を空け、クーに目標を定めて駆ける。
彼女らは、空母を落とさないと逃げられない。
マザーの判断は間違ってはいなかった。
だから対空は二人に任せ、防空駆逐艦の護衛も任せ、隙だらけの空母を今度こそ粉微塵にしてやろうとする。
正確に言えば、彼女は例え空母の追撃があったとしても問題無いし、もう一人もそうだ。
問題は防空型の。
彼女が、艦載機を迎撃せずに後退するのは不可能だろう。純粋に身軽さが足りない。
吹雪「――行かせるか……!」
夜みたいに暗い視界を抉じ開け、追おうとする吹雪――を、声が押し止める。
ジュンイク「――行って……っ!」
赤目「!」
クーに襲い掛かろうとした赤目が翻って躱すは重巡洋艦の砲撃。
あの時襤褸雑巾にしてやったのに、と目を丸くする。
実際、ドックから這い出て浮き砲台になるのが精一杯であったが、それでも。
――そう、時間稼ぎぐらいには。
吹雪「ジュンイクさん――」
ジュンイク「早く! 倒して――もう、少ししか――」
吹雪「っ」
ジュンイクが砲撃を受けている。
まともに治っても、直ってもいないのに、無茶だけで浮かんでいた。
早く、仕留めなければ。
制空権さえ奪えば、こんな奴等は。
吹雪の艤装が、防空深海棲艦に向かって舵を取って――加速する。
真っ直ぐに、ソレ以外の全てを無視して。
護衛の駆逐艦が吹雪に砲撃する――正確に射抜かれる。
何処に穴が空いた?
――何処にもだ。なら関係無い。
進め、進め――進め!
被弾しても動くらしい、から、構わない。
艦載機は吹雪の為に防空型を足止めする。
被弾しても代わりがいる、から、構わない。
防空「――ヒ」
防空駆逐艦の機銃の迎撃を受けながら、血塗れの艤装を動かし――それで、どうする?
決まっている、残った右腕で連装砲を構えて、引き金を引いてやる。
この近さなら外さない。
――と思って構えた連装砲を取り落とす。
焦って手を見ると、中指と人差し指は何かの拍子で千切れていたみたいで。
吹雪「ああ、クソ」
頭部に護衛の砲撃を受け、衝撃で仰け反る。
何か飛び散ったかなと、どうでも良い事は切り捨てて目前に集中して。
ただ突撃した。
特攻を行わんばかりの艦載機に気を取られていた防空駆逐艦の懐に潜り込み、欠けた指の手で――防空駆逐艦の顔面を、それこそ獲物を捉える時の蟷螂の如き鋭さで掴む。
防空「!?」
吹雪「マザー、さん」
もうこの駆逐艦一隻、止めを与えられる程の火力は無いと判断して――だから呼び掛けた。
マザー「え――」
『なるほど、交代だ』
熱気に当てられて、彼女は彼女になった。
マザーは困惑する。
『こんなに、コイツが制御できない事は無かった』、と。
マザー「お前に取っては自らの体もただの部品に過ぎんか――気に入ったぞ。そら、くれてやる」
主砲を構えて、放つ弾薬は――防空駆逐艦の頭部と。
――吹雪の残りの腕を吹き飛ばした。
――――
防空駆逐艦は困惑する。
どうやって航行しているかも分からない程に傷付いた敵艦が、どんなに迎撃しても進む速度を緩めないから。
「狂っている……!」
何もかもだ。
あの空母も、あの船も――こっちだって、化け物揃いできたのに。
普通、叶わないとなれば止めるものだ。
だと言うのに、航空勢力はこちらに一目散。ふざけている。
鋭く突っ込んできた敵艦が、防空駆逐艦の頭部を掴み――視界を奪われる。
「しまっ――」
次の瞬間には、強烈な衝撃を頭部に貰った。
『艤装のストッパーが発動した』のを、はっきり感じる。
吹き飛び、水面に叩きつけられた。
だが、まだ――まだ一回だけだ。
すぐに立て直せば、まだ死なない。
――こんな所で、死ぬ訳には。
だから――
敵艦「――――!」
――目前には。
――――
吹雪「――沈め!!」
残ったのが足しかないなら、当たり前だが。
砲撃をまともに喰らって海面に這いつくばった深海棲艦に止めを刺すには。
踏み抜くしか、無い。
破裂音と共に、強烈な衝撃を逃がそうと海は高く飛沫を上げて。
浮き上がろうとするその深海棲艦を、吹雪は何度も踏み潰した。
有らん限りの胆力を捻り出して、ここで最後にしなければ持たない把握した上で。
今や自由を手にした艦載機たちが護衛の駆逐艦を足止めしている間に。
余裕無く残酷であるが、体裁など取り繕えず。
――軈て、力を無くして、その深海棲艦は浮かんでこなくなる。
――吹雪は、この海に流れ着いてから、初めて船を沈めたのだ。
――――
赤目「!」
クー「――なに」
ジュンイクを一撃の元に再び沈黙させた駆逐艦は、一瞬だけ振り返り――舌を打った。
戻ってくる艦載機の爆撃を『容易く』避けながら迎撃し、もう一隻と合流して。
奇しくも、足手まといが一番先に沈んだ事によって。
――忌々しげに、明け方の海を逃げていった。
投下終了。
これだけやれば吹雪がレズじゃないのを分かって頂けたかと←
遅くなりました(ダブルミーニング)
投下開始
――――明け方の真珠湾
吹雪「――やった、か」ハァ
マザー「――無事ですか、吹雪さん」ザァァ……
吹雪「マザーさん――ナイス砲撃でした。お陰で一隻仕止められましたね」ニヘッ
マザー「――っ」ゾッ
吹雪「?」
マザー「(両腕が無くなって、体中が出血で真っ赤なのに、笑えるの――この子)」
マザー「……いえ、この程度は。それより、吹雪さんの修理をお早く」
吹雪「それもですが、皆の状況と――ドックの現状を確認しなければ。修理の優先順位もありますし……っとと」グラッ
マザー「いけない――と、大丈夫ですか?」ガシッ
吹雪「はは、面目無いです。気が抜けてしまいました。何分、機関も酷くやられたので浮かぶのも手一杯でして」
マザー「――少し、見せてください」
吹雪「大丈夫ですよ。見た目程では無いようですし」
マザー「(――有り得ない。こんなの、疾うに絶命していなければならない)」
マザー「(これほどに艤装の中身が傷付いて、艦(ふね)で居られる訳がない――なら)」
マザー「(――この子は、一体……?)」
吹雪「マザーさん?」
マザー「あ、ああいえ。確かに問題ないようですね」
吹雪「でしょう? 頑丈さには自信がありまして――っと、血も足りなくなってきました。傷口は――おや、焼けていますね。出血も然程なのはこのお陰でしたか。ツイてます」
マザー「……とにかく、ドックへ曳いていきます。支えますね」ス
吹雪「ご迷惑をお掛けします」ハハ
マザー「……貴女は、ホントに」クスッ
――――半壊の真珠湾ドック、上陸
吹雪「消火されてる……? 妖精さんの手腕でしょうか」
マザー「かもしれませんね。しかし……酷いものです」
クー「…………」グッタリ
ジュンイク「う……」
如月「あい――たたた……っ、吹雪ちゃん」
テイイク「ほら皆、気をしっかり……吹雪ちゃんも母さんも帰ってきたよ!」
吹雪「皆酷い怪我だ……! 大丈夫ですか!?」
クー「……吹雪に、言われ、ると」
如月「――、ふふ……吹雪ちゃん、それは洒落かしら?」
ジュンイク「あー……もう皆死に体ですよ、あなたも含めて」
テイイク「比較的私は無事だけど、両方腕が無いって程では……それ、治るの?」
吹雪「修復材があれば問題無しです。ですが、ドックがあれでは……揺り籠側まで行ければ良いのですが、どうにも――もう動ける気がしませんね」
テイイク「それなら、妖精さんが突貫でやってるみたい。ここのお風呂、二隻分くらいなら後一時間くらいで復旧させれるって」
吹雪「そうですか、それは朗報です。妖精さんには重ねて苦労を掛けますが、今ばかりは少し甘えるとしましょう」
吹雪「でしたら――」ジッ
如月「ん?」
ジュンイク「…………?」
吹雪「如月ちゃんとジュンイクさんは損傷が大きい――ジュンイクさんは特にですから、ここに残ってドックが直り次第入渠して下さい」
吹雪「テイイクさんも残ってここの雑務をお願いします」
テイイク「りょーかい!」
吹雪「クーさんは、微速航行くらいなら出来ますね?」
クー「おそらく、可能」
吹雪「マザーさん。手間を掛けさせてしまいますが、私とクーさんを揺り籠まで軽くで良いので曳いていってくれませんか?」
マザー「もちろん、構いませんよ。この図体が役に立つのなら、手間など惜しみませんとも」
吹雪「ありがとうございます、では向かいましょう。テイイクさん、後をお願いします」
テイイク「うん。気を付けてね」
吹雪「ええ。せっかく拾った命ですので」フッ
――――水門、朝
クー「よかった……開い、てる」
吹雪「閉じてたら弱る所でしたね。何せこれでは登れない」フゥ
マザー「あの子が気を利かせて開けたり閉めたり――は、流石にできないでしょうから……」
クー「上にいる、ね」
吹雪「声を掛けたいとは思いますが、そろそろ航行するのがキツくなってきました……今は素通りさせてもらいましょう」
マザー「そうですね。今は一刻も早い修理が肝要ですから」
シンゲツ「…………」
――――揺り籠、ドック
カポーン……
吹雪「蘇るなぁ……嘘偽り無く文字通りに」フゥ
吹雪「個室があって良かった。回復に専念できるし」
吹雪「(――腕は……丸一日は掛かるかな。早く再生させないと)」
吹雪「頭だけ預けて湯船に浮いていると、寝そうになるや……隣の部屋のクーさんやマザーさんも寝てるのかな。静かだし」
吹雪「……そういえば、徹夜か。あ、自覚したら眠気が――いけないいけない、妖精さんが来るまで耐えねば」
妖精「」ジツハモウキテルゾ
吹雪「うぉっと……気付かなかった。お疲れ様です」
妖精「」ナニカヨウカ?
吹雪「はい。妖精さんの見張りの方はどうなってます?」
妖精「」モウデキテル
吹雪「それは、妖精さんらが交代でするから、私たちは体を休められる……と言う認識でよろしいですか?」
妖精「」アア、シッカリヤスメ
吹雪「助かります。それから、機雷の件ですが」
妖精「」ヨウイハシタ
吹雪「上々です。西の海域に、対深海棲艦用のソレを仕掛けておいてください。今回のような水雷戦隊の布陣ならそれだけで大分打撃を与えられるでしょうし」
吹雪「何より鳴子の代わりになりますから、素早い索敵に一役買ってくれると思います」
妖精「」マカセロ
吹雪「……揺り籠にクレーンを設置するのは後回し、ですよね?」
妖精「」アア、ムリダナ
吹雪「外の皆さんをドックに入れてみたかったのですが……頓挫ですねぇ。いや、余裕が出来たら考えます」
吹雪「……そのくらいですね。お願いします」
妖精「」ガッテンダ
テクテク……
吹雪「……さて、妖精さんにもお願いしたし――とりあえずオッケーかな」
吹雪「……よし、寝よ……う」ガクッ
吹雪「…………」スゥ……
――――真珠湾側の仮設ドック
チャプ……
如月「……狭いわ」
ジュンイク「私もそう思う……でも、浸かってるだけで楽になるのは助かるよ」フー
如月「早く治らないかしら……早く――早く治りたい」
ジュンイク「……吹雪が心配?」
如月「…………」ジトッ
ジュンイク「機嫌が悪いのも分かってますよー……原因は知りませんけど」
如月「……何も」
ジュンイク「ん?」
如月「何もできなかったわ。二人を助けに行った時も、夜襲の時も」
ジュンイク「……それなら、私もだけど」
如月「それじゃ、ダメなのよ……私。ダメ……ダメなの」フルフル
如月「見たでしょう? 吹雪ちゃんは――司令官さんで、だからあんなに無茶苦茶をするの。自分も、海戦をする上での駒としてしか見ていないから」
如月「……ううん、もっと酷い。私と、吹雪ちゃんでは――吹雪ちゃんの中での価値が全然違うの」
如月「死ぬ手前までは使い潰してもいい、吹雪ちゃんにとっての唯一の駆逐艦が、吹雪ちゃん自身なのよ」
ジュンイク「それは……まあ、誰しもそうじゃあないの?」
如月「……物事には限度があるわ。あんなの、その内死んじゃうって、私だって分かるもの」
如月「頭と体があれば、後は治るからいい――そのくらいは考えてるに違いないわ」
ジュンイク「……確かに、粗末にするのは良くないと思う。その……命とかは」
ジュンイク「生きてれば、明日をまた生きられるから、ね」
如月「……あら、何だか考え方が変わったのかしら?」
ジュンイク「……強いて言えば、君の旦那さんの影響かなぁ」
如月「……、女狐?」ハッ
ジュンイク「違う違う」
――――
つめたい。
「そう」
「ああ、わかるよ。誰しもね」
――――揺り籠のドック
吹雪「――――っ?」ザバッ
吹雪「夢、か」
吹雪「……誰かに話しかけられた。あれは……誰だったろう」
吹雪「……それより、何で私は『誰でもわかる』なんて答えたんだろう――質問の意味も分からないのに」
吹雪「……止めよ。夢を深く考えるのなんて時間の無駄だ」
クー「起きて、いき、なり一人、言」ボソッ
吹雪「うっひゃあ!?」ビックゥ!!
クー「脳が、休んで、ない」
吹雪「クーさん……ここ個室ですよ?」
クー「あまりの、暇。持て余す」
吹雪「えっ」
クー「……決して、性欲では、無い」
吹雪「……いやいやそういう意味での『えっ』じゃないんで!?」
――――
クー「だって、もう、丸一日、たった」
吹雪「な!?」
吹雪「……私、まだ完治してませんね。腕も生えてはいますが、上手く動かせない」
吹雪「こんなに掛かるとは……無茶をやり過ぎましたかもですね」
クー「ジュンイク、如月、あとママも、もう傷、は治った」
クー「皆、静養中」
吹雪「それは上々です。クーさんは、もう少しかかります?」
クー「怪我の度合い、と、元々の体の治りにくさ、の、バランスが吹雪以外で、一番悪かったって」
クー「妖精が、そう言ってた」
吹雪「それもそうですね……あの深海棲艦らは手強かったですし」
クー「……あいつらは、変」
吹雪「…………」
クー「強すぎた。訓練、されてる、みたい」
吹雪「……それは、私も思いました。練度が高い、そう言って良いレベルの完成度でしょう」
吹雪「……実は奴らの中の一隻に、艦娘用の武器を持った者がいました」
クー「!」
吹雪「奪ったのか、拾ったのか――それとも、与えられたのか」
吹雪「……深海棲艦を使役し、艦娘を襲わせている――そんな存在が居るとは俄に信じがたいですが……その可能性も考慮しておかねばならないかもしれません」
クー「もしそうなら、どうして」
吹雪「……分かりません。何の為にそんな事をするのか――何の為ならば、そんな事に手を染めるのか。それは解りかねます」
吹雪「――或いは、それが、我々の討たねばならぬ敵なのかも、しれませんね」
クー「…………」
吹雪「……まあ、考えても答の出ない事です。心の片隅には置いておきますが、これくらいで止めましょう」
――――
吹雪「そういえば、皆さんは何故大丈夫だったのですか? ドックの中に居たのなら無事では済まなかったのでは……」
クー「ああ、それは」
クー「妖精さんが、助けて、くれた」
クー「――まず、ジュンイクと私を、テイイクと妖精さん、が運び出してくれた」
クー「そしたら、ドックにあった、適当な鋼材を積んで壁にして、その影に、匿ってくれた」
クー「故に、砲撃は、受けなかった」
吹雪「そうでしたか……いや、私でもそうします。現場の妖精さん様様ですね」
クー「何とか、戦えたから……あ、でも、妖精さんは、何か怒って、たのかも」
吹雪「? それは、どういう?」
クー「妖精さん、私の艦載機に、勝手に、乗って、出撃した」
クー「……多分、帰って、きてないのも、いる」
クー「こういうのは、ある?」
吹雪「妖精さんが勝手に……? そんなバカな。少なくとも我々の意思を無視して妖精さんが何かすると言うのはまず無いです」
吹雪「……それは本当に『妖精さんでしたか?』」
クー「間違い、ない」コクッ
吹雪「妙ですねぇ……後で聞いてみます」
クー「そう、して」
――――
吹雪「ん、良さそうかな」
手を開き、握って、力を込める。
切り飛ばされたり、撃ち抜かれたりと散々な目にあった吹雪の両腕は元通りになっていた。
薬湯もまた全身に染み渡り、細かな異常も取り除かれる。
空母の彼女も、もう湯船からは上がっていた。
一人で湯気と戯れるのも飽きてきた頃、喧しい足音が一人分近づいてきていて。
それは風呂場のドアを乱暴に開いて、吹雪を見て言った。
如月「ふ、吹雪ちゃん――大変よ!」
息を切らして現れたのは、如月。
また殊更ただ事では無さそうで。
吹雪「何かあった? もう出れるから、上がりながら聞くね」
そう言って立ち上がり、その肢体から滴を滴らせながら、吹雪は脱衣所へと如月を促す。
如月「え、ええ。それより大変なの!」
如月「実は――――」
如月の説明に、彼女は耳を疑った。
疑ったが、真偽を吟味する時間も、必要も無かった。
吹雪「出よう。私の艤装は?」
如月「一応修理されてるみたい」
吹雪「よし。現地には?」
如月「一緒に見回りをしてたテイイクさんが残ってるわ」
吹雪「了解。急ごうか」
如月「ええ」
如月の報告を復唱するならば、
『知らない艦娘が、真珠湾にいる』
――――真珠湾、昼
テイイク「……あっ、来た! 吹雪ちゃん、ここだよ!」
揺り籠から水門を経由し、島の外回りで真珠湾に向かうと、軽巡洋艦の彼女を簡単に見つける事ができた。
その傍らに佇む、確かに艦娘。
吹雪「お待たせしました。こちらが例の?」
テイイク「うん……でも、状態は……その」
如月「揺り籠にいる皆と同じみたいで……でも仮面は着けてないから、向こうの人がこっちまで一人で来たって訳じゃないと思うの」
確かに、パーカーも仮面も無い。この場所に居たこと考えても、新顔と見て間違いないだろう。
如月やテイイクに反応する素振りも無い。
意識が無いなら、艤装が重くドックに運び込むのは出来ないだろう。
とにかく、とその艦娘の顔を覗きこむ。
吹雪「――――っ」
記憶が、火花を上げる。
この顔を、自分は知っている。
吹雪「くっ……」
頭痛に、堪らず踞る。
テイイク「吹雪ちゃん?」
如月「――まさか、分かるの?」
見覚えがあった。
『あまり面識が無かったな』、という所までも思い出せた。
黒を基調とした駆逐艦の制服、特徴的に跳ねた髪型。
吹雪「『初月』さん――?」
秋月型駆逐艦、四番艦。
その人そのものが、天を虚ろな目で見上げていた。
――ただ、それまでと違ったのは。
吹雪が名前を呼んだ瞬間に、彼女は何気無く呟いた事。
初月「――さむい、な」
如月「!」
テイイク「――いま、なんて」
吹雪「――まさか!」
吹雪は彼女の両の頬に触れて視線を無理矢理に合わせさせて。
吹雪「初月さん! 私が分かりますか!? いや、貴女は知らないかもしれませんが!」
返事は無い。
意味のある言葉は返ってこない。
――だが。
吹雪「――曳ける。軽い」
如月「えっ……?」
まだ、艤装の重みは感じなかった。
彼女はまだ、『彼女自身の艤装で浮いていた』。
吹雪「これなら――陸に上がってもらえる! にゅ、入渠できれば!!」
テイイク「あ、ああっ!! そっか!」
如月「わ、私、先に行って妖精さんに準備してもらうわ!」
吹雪「任せた! テイイクさん、そっちの肩を持って――行きますよ!」
テイイク「りょーかい!」
不謹慎だな、と吹雪は自嘲した。
もしかしたら、助けられるかもしれない。
そう思うと、心が踊らずには要られなかったから。
初月「…………」
目を閉じ、為されるがままの彼女。
何故かその額には、何処かで負傷したのか――小さな傷が、付いていた。
投下終了
仕事忙しいです。
投下開始
――――
『初月』
ああ、お前か。
愛しいお前。
『初月』
分かってるさ。
好きに使え、僕はその為にいるんだろう。
『初月』
そうやって僕を抱かれると、自分にすら嫉妬するな。
『初月』
『初月』
『初月』
『初月』
やめろ。
『初月』
ああ、好きだ――違う!
好きじゃないんだ! 僕を誤魔化すな!
やめろ、やめろ――僕はアイツを愛してなんかなかったんだぞ!
僕は、僕は――!
僕が僕を騙すのを、見るのが、感じるのが、もう耐えられない。
『初月』
呼ぶな、嬉しい。
気持ち悪い、心地好い。
『初月』
――ああ、でも。なら、でも、関係無いか。
お前がそうするなら、何もかもがこの僕を容認するならば。
僕もそうしよう。
お前の目的は知らない。
――でも、僕の目的は決まった。
この命だけは、絶対に守らなければならない。
誰かも分からない人の命だけれども、これだけは奪わせない。
『初月』
だから、気取られてはならない。
僕は『僕』で在り続けなければならない。
それは簡単だ。だって僕は初月なのだから。
初月を演(や)るなら一番さ。
生きて、生きて、生きて――この命と体を、いつか返すまで。
――初月では無かった僕が、艦娘で無かった僕が、初月と言う艦娘で居続けてやるさ。
――――真珠湾、病室、朝
初月「……ん……はぁ、なるほど。寝起きが悪いな」ムクリ
初月「……ここは、どこだ? いや、そもそも僕は何を……?」ムニッ
初月「……ムニ?」
吹雪「――んぅ」スヤスヤ
初月「……………………」
初月「……目覚めると、そこは半裸の女だった」
初月「ハ。悪趣味な物書きが戯れに書き出した小噺の題名でも、もう少しは捻るな」
――――
吹雪「……んぅ? あー……朝?」ムニャ
初月「朝だな」
吹雪「っ!!」ガバッ
吹雪「――目覚めましたか、良かった!」
初月「――っ、喧しいな。少しは音量を落としてくれ」
吹雪「あ、すみません……つい。しかし、嬉しくって」アハハ……
初月「……まあ、いいさ。お前が誰で、何で僕と同衾していたかを小細に説明してくれればな」ハァ
吹雪「……言葉は理解できるようですね。ではまず……『貴女は誰ですか?』」
初月「は?……は? お前、僕をバカにして――バカ、に、して……」ゾッ
吹雪「怖がらないで。分かります。名前が思い出せませんか?」
初月「――お前、何をした?」
吹雪「いえ、私ではなく、貴女が忘れているだけなのです。ですから――『初月』さん」
初月「――――ああ、思い出したぞ。僕は」
ハツヅキ?
初月「――っ」ズキッ
『全て撃ち落とすさ!』
『――何で退かないんだ。怖がれよ、なあ!』
『お前らは蚊や蜻蛉だって、分かってるだろうに!』
『化け物どもが……クソッ、このままじゃ――!』
『――しまっ』
『こんな所で――僕は、僕のやるべき事を、やり遂げてないのに――?』
初月「――僕は、初月か」
吹雪「! 良かった……あの、思い出せました?」
初月「……何故僕の状態を、そうまで把握しているかどうかは知らないが、思い出しはした」
初月「手酷くやられたと思ったが……まだ生きているとは」
吹雪「やはり……」
初月「……何が、やはり、だ。そもそも、お前は誰だ。見たところ特型の駆逐艦のようだが」
吹雪「私ですか? お察しの通り、私は特型の駆逐艦一番艦、吹雪です。こうして面と向かって話すのは初めてかもしれませんね」
初月「吹雪……? ああ、あの内地の。大飯食らいのとこか」
吹雪「――それは……分かりませんが」
初月「?? お前、さっきから訳知り顔と訳知らず顔を交互にしているが、本当に何者だ?」
吹雪「……少し、説明しますね」
――――
初月「つまり、なんだ」
吹雪「はい」
初月「沈みかけたお前は記憶を粗方無くしながらも、似たような仲間と共に戦っていたと」
初月「艦娘は轟沈寸前まで傷付くと記憶の混濁が起こる……まあ、今実感した」
初月「なるほど……今の自分がどんな状態かは判断がついた」
初月「……僕の傷が無いが?」
吹雪「入渠して頂きました。快癒しても眠られたままでしたので、寝床に運ばせていただきましたが」
初月「……迷惑を掛けたな。帰ったら礼をするよ」
初月「――帰る、か。所で、ここはどの辺りになる?」
吹雪「ここですか? ここは」
吹雪「真珠湾です」
初月「――――え」
――――
初月「な、え……は?」
吹雪「驚きますよね。私も最初、そうでした」
吹雪「あの要塞が、こうして公式に知られないまま、艦娘の拠点として機能しているのですから」
初月「い、や……違う、そうじゃなくて――っ!!」
吹雪「……どうされました?」
初月「…………もう一つ、いいか?」
吹雪「ど、どうぞ」
初月「ここの艦娘はどれくらい居る? 規模は?」
吹雪「ここですか? そうですね、ざっと50はいるかと」
初月「――そ、そうか……よかった」ホッ
吹雪「あ、いや……ですが、戦えるのは6隻程度で」
初月「!」
初月「……艦種は?」
吹雪「ええとですね。今は戦艦が1、空母1、軽巡1に重巡1。あと私も含めて駆逐2です」
初月「…………そうか」
初月「……………………」
吹雪「……初月さん?」
初月「……少し、体が重い。もう少し寝るから、一人にしてくれないか?」
吹雪「そうですか……分かりました、良く休んで下さい」
初月「後一つ」
吹雪「はい?」
初月「僕はその気は無い。布団には入るな」
吹雪「誤解です!?」
――――
初月「……ああ、そっか」
初月「そうか」
初月「――あ、ああ、ダメだ。泣いても無駄だろうに」
初月「ああ、クソ、本当に、どうして」
初月「ごめんなさい――不甲斐なくて、ごめんなさい――」
投下終了
一月……!?
お待たせしました、投下します
――――真珠湾西遠海、昼、機雷原
吹雪「……ん、よし。これだけ機雷を仕掛けたんだ。今度奴らが来たときは、駆逐艦の一隻や二隻は帰ってもらわないとね」
如月「浮いてるのが見えるわね……浮遊機雷かしら」
如月「……これ私たちも危なくない?」
吹雪「ん、分かる?」
如月「理由は分からないけど、嫌な雰囲気がするわ。艦娘の本能――っていうのかしら」
吹雪「うん、その感覚は概ね正しいよ。あれが本当に浮遊機雷なら、海面を好き勝手に移動するはずだからね」
吹雪「当然、私たちが全速航行してれば、避けられず触雷というのも有り得るよ」
如月「怖いわね……原理が良く分かってないんだけれど、あれに当たらなければいいのよね?」
吹雪「…………」ウーン
如月「……というわけでも無さそうね」
吹雪「当たらなければいい、と言うのは触発機雷の場合だね。あれは触角を蹴ると起爆するけど――良く見て」
如月「……あら? この辺りに浮いてるのって……?」
吹雪「そう、触角は付いてない。あれはダミーなんだ。いや、敢えて見せてるだけで――あの真下にはちゃんと本物を沈めてあるけどね」
吹雪「係維機雷は分かる? 沈めた機雷を、海底に打ち込んだ係維器に索で繋いで、深度を保つ機雷だけど」
如月「一応は……」
吹雪「その機雷の頭に係維索を追加して、あのダミーを浮かべているのさ」
如月「?? それなら、わざわざ見えるようにしなくても……」
吹雪「そうだね。隠しておく方がいい。でも、機雷って意外と見つかり易いんだ。結局、ソナーなんかで探知できるしね」
吹雪「だから、まずは容易く見つけさせるんだ」
吹雪「ソナーもレーダーも使うこと無く、肉眼で確かめさせる。当然、避けるよね?」
如月「それは、まあそうだと思うわ」
吹雪「うん、で――あの辺り」
如月「迂回したくらいの場所?」
吹雪「あそこには本命を仕掛けてる。これも係維機雷、感応型のね。近寄れば一発、打撃を与えられる」
吹雪「ちなみに、そこのダミーの下のは管制機雷なんだ。妖精さんがあの見張り小屋に簡易管制所を作って詰めてくれてる」
吹雪「そこからのコントロールで自在に起爆させられるタイプの機雷なんだよ」
如月「……あれ、自由に爆発させれるなら、全部それで良いのじゃない?」
吹雪「その方が取り回しは良いね。だから、そこの感応機雷は役割が違うんだ」
吹雪「あれは、謂わば警報なんだ。あれが爆発すれば、敵が来たことが分かる」
吹雪「そこで気付けるなら、かなりの時間を稼げる。妖精さんもここまで見張ろう、ってなるとちょっと無理があるからね」
如月「ああ、そういう……妖精さんの負担を考えてなかったわ」
吹雪「素早く臨戦体制に入る。相手だけに不利な海域を作っておく。防衛ラインを本拠地からなるべく遠くに」
吹雪「総じてとりあえずは、襲撃に対する備えが出来た感じかな」フー
如月「……お疲れ様、吹雪ちゃん」クス
吹雪「え、何で? 私は特に何もしてないよ、これは妖精さん」
如月「……それもそうね、何でかしら」
吹雪「……まぁ、ありがとうと返しておくね」フッ
――――帰還中
如月「でも妖精さんも、ホントに仕事が速いわね」
吹雪「でも、リソースはカツカツみたいだよ。最低限しか手が回ってないみたい」
如月「あの見張り小屋も?」
吹雪「いや、そこは最低限の範囲内だよ。でないと、私たちが持たない。今、みんなに必要なのは休息だからね」
吹雪「……体だけじゃない、心もね」
如月「そうね……そういえば、あの人は?」
吹雪「初月さん?」
如月「ええ。傷は治ったんでしょう?」
吹雪「目は覚めたけど、まだ本調子じゃないみたいでさ。少し休んでるよ」
如月「そう……ね、初月さんってどんな艦娘なの?」
吹雪「実は、あんまり交流が無くてさ。良くは知らないんだけど」
如月「? なら、どうして?」
吹雪「何でだったかな――?」
――――
『――元帥直属の、初月だ。お前が、吹雪か』
『――はは。んっ、いやすまない。お前を笑った訳じゃないんだ』
『だが、同朋相憐れむ――と言う奴だ。気にしないでくれ』
――――
吹雪「――思い出したよ」
如月「あら、久し振りね。それ」
吹雪「やっぱり新しい刺激は大事みたいだね」
如月「それで、何をまた思い出せたのかしら?」
吹雪「そうそう。初月さんはね、私とは違う鎮守府の艦娘だったと思う」
吹雪「『元帥』直属の部隊……言うなればエリートの艦娘だったよ」
如月「凄い艦娘なのね……」
吹雪「多分ね。でも、そうだとしたら引っ掛かる」
如月「?」
吹雪「そんな人が、そう簡単に――記憶を失う程の損傷を受けるとは思えない」
如月「あっ、確かに……確かにそうよね」
吹雪「……これは、早く向こうに帰らないと――まずいかもしれない」
如月「……心配?」
吹雪「……正直に言って、ちゃんと思い出せないなりに、向こうの皆は強さ的には心配無い」
吹雪「でも、胸騒ぎはするんだ。何か、重大な見逃しをしてるような、そんな」
如月「……じゃ、いつもの吹雪ちゃんで行きましょうよ」
吹雪「……どういうこと?」
如月「出来ることからやる。コツコツやる。それが吹雪ちゃん――司令官さん、でしょ?」クスッ
吹雪「――そうだったね。そうだ。やらなきゃならないんだから、四の五の考えても仕方ないや」
吹雪「やろうか、一つずつね」ニッ
如月「ええ、一緒に」
――――昼、食堂
吹雪「ただいま帰りました」
如月「お腹空いちゃった……みんなは」
ジュンイク「ん、二人とも帰ってきたんだ。まぁ座りなよ」
マザー「お帰りなさい。して、罠とやらはどうでしたか?」
吹雪「では失礼して。機雷原の方は上々です。威力までは確認できていませんが、ブザー代わりにはなるでしょうね」ス、カタッ
クー「爆弾を仕掛、けて、安全圏、から、私が撃退、する。完璧。一分の隙も無い」グッ
テイイク「お疲れ様、如月ちゃん! ご飯、出来てるよ!」コト
如月「助かるわ……お腹ペコペコだもの――あら?」
吹雪「? どうしたの如月ちゃ――おや?」
吹雪「……何か、この、カレー? ちょっと違和感が」
テイイク「あー……どうかな? 見よう見まねで私が作ったんだけどー……」
如月「テイイクさんが?」
ジュンイク「そうそう。妖精さんが忙しいって」
マザー「…………」
クー「人を、こっちに、割けないらしい」
吹雪「うわ……流石にお任せし過ぎてますし、仕方はありませんね」
テイイク「まあ食べてみてよ! 今のところ評判は悪くないから!」フンス
吹雪「そうなんです? では一口」パクッ
如月「頂きまーす」モグ……
吹雪如月「…………美味しい」パアッ
テイイク「ふふーん! ふふははー! 全勝なのだー!」ドドドヤァ!
ジュンイク「こんな才能があったとは、付き合いが長い私たちも知らなかったけどね」クス
クー「ご飯を作る、という、ことを考えて、なかった」モッモッ
吹雪「素晴らしいです。これなら日々の活力も十全に補給できようというものです」
テイイク「でしょでしょ! 何なら、妖精さんが戻ってくるまでは私がご飯係しようか?」
吹雪「む、それは願ってもない事ですが……構わないのですか? 日々の事となると手間も相応でしょうし」
テイイク「任せて! 楽しんでやれたし、次に試してみたい事もたくさん思い付くんだ!」キラキラ
マザー「こう言っていますし、どうかやらせてやってみてはくれませんか?」
吹雪「……うん、ではお願いします。美味しいのを期待しておきますね」ニコ
テイイク「うん!」
――――
テイイク「……そういえば、あの初月って子は?」
吹雪「まだ本調子ではないみたいで……部屋で休んでいます」
マザー「…………」
テイイク「あ、それから私、部屋にご飯を持っていくよ。自己紹介もしておきたいし」
如月「それはいいわね。きっとお腹を空かせてるもの」
吹雪「当人は少しセンチメンタルになってるようですので、優しく接してあげ――いや、これはテイイクさんには必要ないか」ハハ
吹雪「よろしくお願いします。どうにも私は口が悪いので、嫌われてしまうかもですし」
テイイク「うん、それなりにやるよ。じゃ、行ってきまーす」
クー「おかわり」モッモッ
ジュンイク「しかし食べるね……」
――――病室、昼
初月「…………」
初月「視界は、良好。空は青い、窓から見える海もそうだ」
初月「同じように見える。なるほどな、これではあの寒がりも見紛える筈だ。器用な物だ」
初月「四肢の感覚、良好。足は」ビュッ、バシッ
初月「ベッドを蹴って動かせる。から、これは付いてる……と思いたいな」
初月「腕も……よし。見えるし、付いてるのは助かるな」
初月「鏡は……ははっ、いつもの僕だな。笑えてくる」
初月「『お前は誰だ』」
初月「僕は初月、駆逐艦だ――よし。まだハッキリしてる」
初月「艤装、展開――おや」
長10cm砲ちゃん「…………」
初月「……艤装も変わりないようで何より、か」
初月「戦闘能力に問題は無い。むしろ――手段は増した」
初月「……僕の状況に、それこそ一時怯えもしたが――やる事は何も変わらないさ」
初月「アプローチの仕方が、少し特殊になっただけだ――幸い、ここの奴らは能天気揃いのようだ。上手く利用してやるさ」
初月「……重いな、艤装解除、っと」シュッ
初月「しかし、どこまでを知っているのか……それは少し調べないとな。さて、何から手を付けるか」
初月「戦闘は避ける。これは――絶対条件だ。でも、なら僕が……このままの僕が生き残るには?」
初月「……ここは落ちるだろうな。ここの状況を把握しきっていない現状でも分かるのは?」
初月「……壕、だな。防空壕が必要だ。となれば、どう焚き付けて作らせるかだが……?」
初月「……くははっ、何て行き当たりばったりだ。最終的な目標が見えているのに、何処に行くべきかさっぱりだ!」
初月「目の前の死を避け続けるので精一杯じゃないか……! どうしろって、どうすれば……!」
初月「ダメだダメだ、落ち着け。機会が無いから伺うんだろう、僕」
初月「……でも、奴らを調べるには絶好の機会だろう。想像もしなかったが、何か、手懸かりがあるなら――いや、あってくれ」
初月「でなければ、もう僕は袋小路じゃないか……そんなの、そんなの認めない――!」
コンコンッ
初月「っ――開いているが?」
テイイク「しつれーしまーす……」ガチャッ
初月「……誰だ」
テイイク「軽巡のテイイクだよ。よろしくね、えーと、初月ちゃん」ニッコリ
初月「……よろしく。だが、なんだその――仮面?は」
テイイク「え、吹雪ちゃんから聞いてないかな?」
初月「……ああ、なるほど。思っていたより不気味だったから、失念していた」
テイイク「あはは、まぁねー、確かにねー」コトッ
初月「……で、これは? カレーライスのようだが?」
テイイク「お昼だよ。お腹空いてると思って!」
初月「……呆れた。まだ人間のふりをしているのか」
テイイク「えっ?」
初月「僕たちはかん――いや、艦船なんだぞ。船が食料を必要とするか? 僕らは艤装に油が流れて火さえ灯せば動き続けられるだろうに」ハァ
テイイク「……? どういう事……?」
初月「無駄な事をしているな、と思っただけだ。気にするな」
テイイク「……あ、あの、いらなかったかな……?」
初月「まあ、そうだな。気遣いは受けとるが、それは下げてくれ」
テイイク「う、うん」
初月「大体、病み上がりの人間に食わせる物でもないだろう……ま、食えてしまうから仕方が無いんだろうが、模倣にも拘りを持ってほしいものだ」
テイイク「ご、ごめんね……お邪魔しました……」キィ、バタン
初月「……ったく。化け物の自覚も無いのか。子供騙しなら楽かと思ったが、赤子となればまた別の話になるぞ」
初月「……その仕分けも必要だな。どいつが子供で、誰が赤子なのか」
初月「忙しくなるな……はは、楽しさも無くはない、か」
投下終了。
ところで全然話は変わるんですけど、皆さん好きな駆逐艦っていますか?
村雨だな
こういうスレって好きな艦娘出ると嬉しいけど出てきて変な目にあうのやだから出ないでほしくもあって難しい
時の流れ残酷
投下開始
――――
つめたい。
それは、まずそう感じた。
自分の中に凝縮されたモノから生まれた彼女。
それは人形を真似て象られる。
誇り高く、穏やかで、優しい。
それでいて浅ましく、狡猾で、残酷な人形を真似て。
澱みの底の底から掬うそれは、濃すぎて。
とても、とても。『両方』なんて持っていけない。
だから、美しい思い出と正しき志だけを。
欲望など、憎悪など、後悔も悲劇も置いていこう。
ここに置いていこう。
そんなのは、知っているだけで沢山なのだ。
置いていくのは、他人だ。
輝ける紺碧の炎だけが、昇っていく。
傷んだ赤色の炎は置き去りになる。
沢山だ、沢山だ。
赤色は沢山だ。
行かないで、行かないで。
青色はもう無いんだ。
私も、イキタイ――
行こう。行こう。行こう!
行けた!
進もう!
やっと会えた!
――、?
――彼女は、肉塊。
魂ばかりの塊。
ある時、彼女は、とても美味しそうに見えたので。
ある時、彼女は、とても懐かしく感じたので。
――間を取って、側にいるのだ。
――――朝
吹雪「――ん」パチリ
吹雪「夢見が悪い……悪い――んだけど」
吹雪「内容が思い出せない……まぁ、良くある事か」
吹雪「はあーぁ。内容が無いよー……ってね」ハァ
「ンぶふっ」
吹雪「…………」チラッ
如月「…………」プルプル
吹雪「……忘れよ?」
如月「…………」スースー
吹雪「…………」
如月「……忘れたわ」ムク
吹雪「よろしい」
――――朝、病室
吹雪「…………」コンコンッ
「開いてるし、起きている。誰だ」
ガチャ
吹雪「おはようございます。私です」
初月「お前か。ちょうど良かった」
吹雪「? 何かありましたか?」
初月「いや何、この鎮守府――でいいのか? その現状を知りたくてな」
初月「向こうに帰るんだろう? 僕の目線から、何かアドバイスが出来るかもしれないしな」
吹雪「鎮守府……では無いですね。ここには提督がいませんし、拠点と言った方が表現的には的確かと」ハハ
吹雪「ま、それはともかくとして。案内は何れにせよしようと思っていましたので」
吹雪「では行きましょう! 善は急げ、ですしね」ギュッ
初月「む」ビクッ
初月「……手を繋ぐ必要は無い」パシッ
吹雪「おっ――と、これは失礼を。如月ちゃんにする癖が……いやぁ、悪癖で申し訳ないです」タハハ……
初月「……まあいいさ。行こう」
吹雪「ええ、ではまずは――」
――――工廠、朝
妖精「」アーイソガシイイソガシイ
妖精「」ナオセーツクレーハタラケー
初月「騒がしいな……それに、数も多い」
吹雪「妖精さんのお陰で、ここも何とか運営できているようなものです」
初月「労働力が多いのに越した事は無いな。で、何をさせている?」
吹雪「艤装の補修、補給や設備の修理が今の主な作業ですね。以前は我々の衣食住の確保にも尽力していてくれましたが……」
初月「今は手が足りない、か?」
吹雪「ええ、察しの通りです。日々の生活が、私たちの目下の任務という訳で……」
初月「……風呂(ドック)はあるんだろう? 掃除はマメにしとかないと、油の浮いた湯に浸かる事になるぞ」
吹雪「あっ……そうですね。当番――いや、担当を決めなきゃなぁ……」ウーン
初月「(……しかし、この妖精たちは一体……? そもそも、どこから……?)」
初月「(――いや、そもそも。コイツらも見た目通りでは無いのかもしれない。後で調べるか……?)」
初月「(……優先順位は低いだろう。しばらくは様子見だ。早々と決める段階でもない)」
初月「……いつまで考え込んでる。ほら、次に案内してくれ」
吹雪「――は、はい。ごめんなさい、つい」
――――真珠湾
吹雪「こっちが島の南拠点、いわゆる真珠湾です」
初月「……僕は、あそこにいたのか」
吹雪「ええ、それはもう酷い怪我でした……そういえば気になっていたのですが」
初月「……何だ」
吹雪「初月さんは、確か元帥閣下直属の艦娘だった――というのを思い出したのですが、それほどの方が、それこそ手酷くやられるような敵がいたのか」
吹雪「……そういう話です。事実、私たちも少し前にとても強力で――奇妙。そう、奇妙な深海棲艦と見敵していますので」
吹雪「……敵の事情が変わっているのではないか、そう思いまして。何か覚えている事や心当たりがあれば、と」
初月「…………はは」
吹雪「?」
初月「いや、何でもない。力になれなくて済まないが、良く思い出せないんだ」
吹雪「そう、ですか……いえ、無理に思い出さない方が良い事もあります」
初月「そう言ってもらえると、少しは気が楽になる」
吹雪「焦らず行きましょう。さて、次は少し海を渡りますね」ピョンッ、パシャッ
初月「そうだな……ん」
初月「(……いや、待て)」
初月「…………」
吹雪「……どうしました?」
初月「あ、いや……少しな、怖くてね」
吹雪「怖い……ですか?」
初月「ああ。海が怖い。またこの身が沈みそうになるのかと思うと舵が震えるな」
吹雪「……止めておきますか?」
初月「……いや、大丈夫だ。歩くくらいならまだできるさ」パシャッ
初月「……行こうか」
吹雪「分かりました。なるべく真っ直ぐでいきますね」
初月「そうしてくれるなら、ありがたいな」
――――北西の島、沖合い
吹雪「この辺りまでは、あの島に見張りで詰めている妖精さんが監視していますね」
初月「そうか……なるべく本島から離れて迎撃する、と言うのは上等だと思う。がな」
吹雪「何か?」
初月「すぐに逃げ帰れないのは問題だな。ここを抜かれたらもう拠点は落ちるぞ?」
吹雪「分かっています」
初月「……何だと?」
吹雪「どのみち、ここより先に進まれるようなら元々耐えきれません。ですから、これは最善です」
初月「……なら、例えばの話だが――ん……深海の奴らが大艦隊で攻めてきたならば、どうするつもりだ?」
吹雪「それは、あそこを見てもらえれば。一つ、起爆させてみましょうか」
初月「む?」
吹雪「妖精さん、そこを」パチンッ
初月「な――?」
――――
初月「…………」パクパク
吹雪「如何ですか? 突貫仕様の機雷なのですが」
初月「(突貫だと……あれが?)」
初月「(バカを言うな……あの爆発、水柱の高さ――半端な威力じゃない……あんなの喰らったら)」ゾッ
吹雪「こちらの合図で起爆させられる物もあるのですが、そちらは本命ですので多少威力を高く作って頂きました」
初月「……凄いな。だけど、それだけだろう」
吹雪「……と、申しますと?」
初月「所詮は機雷だ。少し頭が回る奴には通用しない。それこそ、自在に水面を走る機雷があるなら話は別だがな」
初月「あの、虎の子を捌かれたらどうする」
吹雪「私や、皆がいます」
初月「ふん、では戦艦が――そうだな、5隻もいればどうする?」
吹雪「魚雷をぶち込めば沈むでしょう」
初月「成る程確かに。では空母が居たらどうする? 奴らに機雷は効果を成さないが?」
吹雪「クーさんが居ます。並大抵の空母なら制空権には不自由しないかと」
初月「では、それも5隻と居たらどうする?」
吹雪「…………」
吹雪「……私が全て撃ち落とせば済む話です。或いは、空母と言えど肉薄し雷撃を叩き込めば黙るでしょう」
初月「出来ない事を言うな。出来ないならそう言ってくれ」
吹雪「……違いますよ。出来る出来ないではなく、やらねばならない、のです」
初月「ふん。気合いで何とかなるならば苦労は無いな。ははっ、面白い」
吹雪「……何か?」
初月「何も。お前がその内死のうと僕には何も関係無いしな」
初月「だが、僕を巻き込むのは無しだし、他の奴だってそうだろうよ」
初月「お前は、仲間にさ、一緒に死んでほしいのか?」
吹雪「――そんな!」
初月「そうじゃないんだろう? なら、少しだけでいいから後ろ向きにも考えろ」
初月「突撃、玉砕――そんなのが美徳になる時代は」
「海の底に置いてきたはずだろう」
吹雪「それは――そう、です。船としての記憶は曖昧ですが、確かに今は」
初月「……無闇に戦うだけがやり方じゃない。これを見て、思い付いたよ」
初月「この機雷――いや、この拠点全体が戦いにリソースを割きすぎている」
初月「僕は割りと防戦の方が好みでね。提案だが、壕を一つ拵えてはどうだ?」
吹雪「壕……ですか?」
初月「ああ。負傷者や非戦闘員の保護を確実にできる、というのは肝要だろう?」
初月「お前は確かに勇敢だろうさ。舵を迷わず取り、揺るぎ無く敵を撃ち、海を割いて進むだろうな」
初月「だけど、そんな気狂いは稀少種だ」
初月「このような体を手に入れてしまった僕たちは、兵器としては論外の要素を持ってしまっているだろ?」
吹雪「論外……?」
初月「『感情』だ。怯え、竦み、何も出来ないまま沈む事さえある」
初月「僕らを僕ら足らしめるが故の足枷だ。誰もがお前みたいに戦えないし――」
初月「――悪いが僕も、もう戦えそうにはないんだ」
――――
吹雪「――それは、つまり?」
初月「言わせないでくれ。もう僕は怖いのさ」
初月「あんな化け物と戦り合うなんてのは、もうごめんだ。命が幾つ有っても足りやしない」
初月「実際に今、ここに浮かんでみてハッキリした。もう満足に海を走れない」
初月「怪我なんかじゃない、艤装の不調でもない」
初月「――僕の弱さだろうな」
吹雪「そんな事は……」
初月「このままでは、僕だってその内奴らに襲われてお仕舞いだ……正直に言う。僕は、戦わなくても死ぬことの無い設備があるなら、ずっとそこに居たいくらいだ」
吹雪「…………ですが、それでは」
初月「……いや、済まない。僕の勝手だ、忘れてくれ」
初月「――来る時が来たら、諦めるよ」
吹雪「…………」
初月「……行こうか。まだ案内する場所があるんだろう?」
吹雪「……ええ、では次は――揺り籠へ」
初月「(……上手くいったか?)」
初月「(こう言えば、コイツみたいなタイプは僕を放ってもおけない筈だ。精々その労働力を僕の為に使ってくれ)」
投下終了
>>826さんの危機意識の高さには脱帽ですね←
近々更新します
えっ……俺の時が経つの早すぎない?
投下開始
――――日は天に高く、揺り籠を照らす
――まず、ゾッとした。
島の東手に回って現れたのは、入江を塞ぐ水門だった。
それ自体に驚いた訳では無く、そこに居た『機械』に。
水門を意思無く開閉する艦娘を、初月は唖然と見上げていた。
吹雪「ああ、彼女ですか?」
初月「……生きてるか死んでるかも曖昧な奴だな。亡霊でも見ているよう――ははっ……いや、何でもない。そんな奴もいるな、うん」
まともぶる自分が面白くて、初月は小さく嗚咽(わらいごえ)を吐いた。
吹雪「?」
初月「いやすまない。アイツを笑った訳じゃないんだ。で、何か言いかけていたんじゃないか?」
吹雪「ああ、いえ……あの方は『シンゲツ』さんと言いまして。まだ元気な方ですよ」
言葉に、引っ掛かりを覚えた。
初月「……まだ元気、とはどういう意味だ。あの艤装はどう見ても――もう動きもしないだろう」
吹雪「……百聞も一見に如かずといいます。まずは、揺り籠へと」
吹雪「ちょうど水門を開けてくれる時間に来れましたし、見ていただくのが早いと思います」
そう言って踵を返す吹雪を、初月は慎重に追い掛ける。
険しくなった彼女の表情に、この先の何かを想像しながら――
――――揺り籠
初月「――――」
息を呑んだ。
何だこれは、と口にしようとしたのに、上手く言葉に出来ない。
相も変わらずそこに聳えるのは、同じ格好をした艦娘の群れ。
錆び付いた体の、浮いた鉄屑。墓場の様相を呈していた。
初月「――何なんだ、コイツらは」
吹雪「……記憶を無くしたままに、航海していた方たちだそうです」
初月「記憶……あの、お前が言っていた――轟沈、する寸前まで行くと……と言うやつだな?」
吹雪「ええ」
初月「――ああ、合点がいったぞ。戦える者と分けて数えたのはそういう事かい」
吹雪「そうです。現状はこの通りでして」
初月「成る程な……どれ」
初月は気持ちを切り替え、手近な一隻に近寄っていった。
どれも皆似たような黒のパーカー(装甲)を纏って、仮面を着けていて。
だから『どれも同じに見える』。
初月「…………?」
だが、初月は違和感を感じた。
見ているものは吹雪と同じだが、彼女は『意識の仕方』が違ったから。
大した事ではない。ただ単に、『どうして?』と思っただけで。
だって、『同じ筈が無いのだ』。
それを、それはそうだろう、と流さなかっただけ。
初月「……艦種すら分からないな。僕はそんなに無学では無かった筈だが」
吹雪「それは、まあそうでしょうね。仮面とその上着がありますから」
吹雪「これは、自分を……その、分からなくするための装備なんですよ」
分からなくする、と言う聞き慣れない言葉の用法に初月の疑問は深まるばかりで。
初月「……もっと噛み砕いてくれ」
吹雪「……難しいですね。少し説明しなければならない事が、いくつか」
初月「長くなりそうだな……ま、岸に向かいながら頼む」
言って、初月は艤装を歩かせる。
艦娘の残骸の間を縫いながら、二人は入江をゆっくりと航行していった。
吹雪「まず、これが前提なのですが――記憶を無くした艦娘は、どうやら意識を失って沈んでしまうそうなのです」
初月「は?」
初月「船が、独りでにか? ……いや、そういう事もあるか。錆びて腐れば僕らは鉄塊に過ぎないしな」
吹雪「ええ。航行も出来ない、艤装も重くて揚陸も出来ない。出来ないずくしです」
初月「……成る程、気絶した艦娘はそうなる。同様の現象だろうな」
初月「……ん、いや待ってくれないか。意識を失ってしまう『そう』とはどういう意味だ?」
初月「お前自身はそれを目の当たりにした訳では
ないのか?」
吹雪「ええ。実は、私が真珠湾にたどり着いた時にはこの状態――解決済だったので」
吹雪「この格好をする事で、自分が誰かも分からない――と言う立ち位置を、『顔を隠しているから分からないのは当たり前だ』と思う事で誤魔化す……らしいです」
初月「……? 意味が分からない。顔を隠そうが隠さまいが、自分の記憶が無いのは変わっていないじゃないか」
吹雪「それは尤もな意見だと思います。ですが、実際に効果があった」
初月「まるで民間療法のようだな。根拠も無いのに、効いてしまうというのが」
吹雪「まるで、では無いでしょう。事実、それです」
初月「だとするならば……コイツらはこの様ながら、意識があって僕らを認識しているのか?」
吹雪「……それは分かりません。呼び掛けに答えるような仕草をする時はありますが」
初月「そうか……ま、でも」
初月「これでは、死んでるのと変わらないな」
意見を交わしながら、初月は一つ結論付けた。
これはもう気にする必要の無い案件だと。
これらがどうなろうと、自分には何の影響も無いと感じた。
だからこそ、目の前の艦娘の『壊れ方』に気付いたのかもしれない。
吹雪「生きていますよ」
吹雪「そして、今はこうでも、何れは解決します」
吹雪「誰もやらないなら、私がやります」
そこには、確かに『助けたい』だとか、そういった正の――まともな感情があった。
でも、その奥底にあるのは、本当にそうなのか?
――初月は、ふと聞いた。
初月「……何故お前が?」
吹雪「何故? ……何故、と言われましても」
吹雪「私の目の前で、そんな事が罷り通ってはならないのですから」
――――
正解だ。
と、初月は思った。
自分の当てずっぽうな解答が、たまたま偶然にも会心の出来だったと知れたからだ。
コイツは、捻れている。
よく出来た船であるように見える。
優秀で、明朗快活で、人格者に見える。
でも、それはきっと、『そうでなければならない』から、そうしているだけだ。
『吹雪』としての意志が、そこにあるのか――それは別なのだろう。
だから。
初月「……今まで、よくも巧くいっていたな」
吹雪「そうですね。運も良かったのでしょう」
初月の言葉は、この揺り籠の事を指しているのだろうと吹雪は読み取って。
やはり御し易い、と初月は思って。
二人は、並んで揺り籠の海を滑っていった。
――――揺り籠、水門上にて
如月「お昼ごはん!」ドン!
テイイク「です!」デデン!
クー「よー」バーン!!
吹雪「お、おぉ……? 凄いテンションですね」
ジュンイク「一月くらい働いてた気分だったから、分かるなぁ」ハァ
吹雪「あっはっはっはっ、午前中の話ですかね? ですよね?」
マザー「やり損ねていましたバーベキューですものね。あの子達もはしゃぎたいのでしょう」クスッ
吹雪「む。マザーさん、それは?」
マザー「ああ、この木のチェアですか? 妖精さんが拵えてくれましたので、ありがたく使わせていただいていますわ」
吹雪「そうでしたか。マザーさんも先の戦いでの疲れが残っているでしょうし、今はゆっくり寛いで下さい」
テイイク「マンゴーを焼こう!」
吹雪「せめて最後に! ……おや?」
シンゲツ「…………」
如月「ああ、あの日傘? あれも妖精さんよ」ススッ
吹雪「そうなの? 妖精さんに言ったっけなぁ?」ワシャワシャ
如月「なにが?」スリスリ
吹雪「シンゲツさんは、光が苦手みたいなんだ。だから良い対応ではあるんだけど……」モチモチ
如月「雨とかの対策も兼ねてるのかしら。日傘ってだけじゃないのかも」ゴロゴロ
吹雪「ああ、そうかもね」ワッシャワッシャ
初月「……そのレズみたいなグルーミングを止めてくれないか。せめて見えないとこで頼む」
クー「!」
ジュンイク「(言った……!?)」
テイイク「(つよい……!)」
吹雪「――はっ!? いやこれは違って!」
如月「えー」
吹雪「如月ちゃんが魔性の女なだけで!」
如月「それはそれでちょっと!?」ガーン!?
マザー「ふふ……」
初月「……はあ。食事なんて僕はいい、案内も十分だ。適当にぶらつかせてくれ」フイッ
テイイク「あっ……」
吹雪「行ってしまいましたね……仕方ありません。私たちは始めましょうか」
ジュンイク「マンゴー?」
吹雪「普通焼きませんって」
テイイク「……………」
投下終了
次はなるはやで←
なるはや
投下開始
――――揺り籠、ドック前で波を聴く。
初月「…………」
太陽がゆっくりと動くのに合わせて、入江に浮かぶ墓標らの影も回っていく。
そんな滅入る光景を、滅入るまま受け入れて、初月は大きな長い溜め息を吐いた。
初月「……記憶の欠落が、艦娘を沈めるのか」
初月「いや、確かにそうか。少し考えれば分かる事だ……僕の知っている事だけでも、予想はつく」
初月「沈む、と言うよりは――そうだな、消えると言った方が正しいだろうな」
初月「……む。となれば、増える速度が早すぎるのか……くっくっ、なるほどな」
彼女が何事かを一人納得する中、
テイイク「何がなるほどなの?」
全然空気を読まずに彼女――テイイクは背後から話し掛けた。
初月「っ――何でもないさ。お前こそ、何しに来た」
聞いて、不敵な笑みと共に手に持ったソレを見せつけるのはテイイク。
香ばしい匂いを漂わせる――肉。
あとそれなりの香草、野菜。
つまりはバーベキューの営みの結果とも言える――食事だった。
テイイク「食べよ?」
初月「いらないと言った。結構だ」
また馬鹿の相手か、疲れるな。
そういった態度を隠すこと無く初月は返事をする。
拒絶とも言うが、テイイクはどうした事か――小さく笑った。
初月「……何がおかしい」
テイイク「ふ、ふふ……前回はあんまり面識もなかったし、あなたの事もよく知らなかったし、ちょっと浮かれてたし、へこんだけれども」
空いた手でビシッ、と音を発てるほど真っ直ぐに指差して宣言する。
テイイク「今回は一味違うよ! このテイイク、逃げも隠れもしなーい!」
初月「な、何だ大声を上げて……止めてくれないか」
まさかの勢いにたじろぐ初月。
――知識や技術に自信がある彼女でも、目の前の巡洋艦には勝てない物がある。
それは馬力だ。力付くで決着がつくような事に持ち込まれてしまえば成す術などないから。
そしてそういう力押しは、得てして馬鹿か考え無しの良く取る選択だと初月は決め付けていたし――事実見てきた間で、その認識が間違っていることは無かった。
テイイク「いざ、覚悟! ぴゃあぁぁぁ!」
初月「――馬鹿が!」
テイイクは器用に飛び掛かり、初月は体勢を崩して地面に倒れる。
柔らかい砂だった事に感謝はしたが、その前に。
初月「……退け、バカ」
テイイク「ふふふ、動けまい!」
話が通じない。
テイイクは、仰向けになった初月のへその上程度に軽く跨がり、起き上がる事を許さない構えで。
テイイク「好き嫌いはダメだよ! 食べて美味しくなかったら諦めるけど、食べる前からその態度! これが邪険にされる母の気分なのか……と少しへこんだ私の恨み!」
初月「……いいから、退け」
テイイクの性根は前向きだった。
一度の躓きから三度起き上がり、結果がこの有り様である。
テイイク「まあまあ。まずはお肉! 食べてお腹一杯になれば、その眉間のシワも取れるよ?」
初月「――大きなお世話だ……止めろ!」
テイイク「おっと、やんちゃな手はこうだよ!」
達観していた雰囲気の初月が急に暴れだしたので、テイイクは片手ずつ鷲掴み、膝まで持ってきて押さえる――という動きを二回した。
結果、自由な初月は首から上だけで。
テイイク「さて……観念して食べろー! 私の飯がくえないのかー!」
ニコニコしながらパワーに任せてハラスメントを行うテイイク。
本人は善意の元に動いているから尚質が悪い。
初月「あっ、あっ――やめ、やめて――」
小さく切った一口サイズの肉を一つまみ、初月の口に持っていく。
本人は唇を固く閉ざして拒むが、
テイイク「こーら、ダメだよ」
テイイクがそれを指でなぞり、擽り、力が抜けた拍子に素早く捩じ込んだ。
初月「ふむぐっ!?」
テイイク「よーし。さ、噛んでー、旨みを噛み締めてー?」
満足気に笑むテイイク。
それもその筈。食いさえすれば分かると自信の、彼女特性の味付けだったからだ。
今に感動に打ち震え、「美味しい……!」と洩らすに違いないと確信していたから。
ほどなくして初月は呑み込んだ。
テイイク「どうかな?」
初月「――美味、しい」
ほら、やっぱりだ。と、思った。
少しかっこつけで意地っ張りなだけだったのだ。そう思った。
それも、少しと持たなかった。
テイイク「えっ、えっ?」
初月が、顔を背けて――声なき声で泣き出したからだ。
まるで、溜め込んでいた苦しさが、無遠慮な何かのせいで吐き出てしまったかのようで。
テイイク「ご、ごめん、退く! 退くよ! 退いた!」
慌てて初月を解放したが、彼女はそのまま体を丸め、赤子のようにすすり泣き続けていて。
そうしていて、漸く彼女が駆逐艦に見えたのだ。
テイイク「あ、あの……ごめん、やり過ぎた……謝るよ……あの、立てる……?」
初月は、確かに「美味しい」と感じた。
感じたし、それはとても心地好い物だった。
だからこそ、『罪悪感』から、彼女は泣いたのだった。
悲しい、とか、痛い、とかの単純な感情でなく。
ただただ誰かへの申し訳無さから、涙が出たのだ。
それも、まだ知らない彼女が推し量るのは些か難しく。
テイイクに出来るのは彼女を抱き起こし、泣き止むまで近くにいる事だけだった――
投下終了
次もなるはやで
なるはやはや
投下開始
――――傾く日を追って、どこへ
テイイク「うーん……」
テイイクは、唸る程度には参っていた。
目の前の、泣かせてしまった駆艦は、砂地に蹲ってしゃくり上げる以外の動きもしない。
それも、暫くだ。
よっぽど気に触ってしまったのだろうか。
かといって放って置くわけにもいかず――いや、落ち着かせる為に席を外すのも良いかな、とは彼女も思ったのだが。
テイイク「(吹雪ちゃんなら、ほっとかない)」
とも、思った。
思ったのではあるが、そこから解決策を鋭く切り込んでいくのは彼女の特権で、良くも悪くもテイイクは普通の巡洋艦だった。
現状を把握し、観察して答えを割り出す。
簡単には言えるが、時と場合があって、今はそうじゃない。
でも、そんな彼女でも――見て気付ける事が起こった。いや、起こっていた。
テイイク「――え、君……透けて――?」
一瞬、それが見えて、何気無く言葉にしてしまう。
次の瞬間、初月の雰囲気が『逆立った』。
割れんばかりの叫びと共に。
初月「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
テイイク「な、何!?」
突然立ち上がり、天を仰いで前髪を掻きむしりだす。
半狂乱、なんて言葉では表せない。
初月「違う!! 違う!!! 違うっ!!!!」
初月「初月だ! 僕が! 僕が初月なんだ!!」
初月「僕は秋月型の四番艦なんだ! 記憶だって、記憶だって……!」
初月「……何も、何も――秋月型……姉さん……!」
テイイク「お、落ち着いて!」
暴れまわる彼女を羽交い締めにして、動きを止める。
不思議に、あっさりと大人しくなって。
虚ろに涙を湛える目が、テイイクをぼんやりと捉えた。
不意に、彼女から記憶が溢れ落ちる。
初月「……『矢矧』?」
テイイク「ぴゃ?」
初月「――っ、僕は、何をバカな……!」
こんな、顔を隠した奴を見て――仲間を一人思い出せた。
お陰で、頭も『初月らしく』冴えていって。
体も、今は確りとしている。
初月「……ああ、よし。大丈夫だ」
テイイク「そ、そう? 良かった」
グイ、と突き放すように初月はテイイクから離れた。
呼吸を整えているようで、その表情には疲れも見える。
初月「……もう、止めてくれ。金輪際な」
初月「旨かった。満足か?」
背中を向けて、彼女は足早にその場を去っていって。
テイイク「…………」
後には、呆然とした彼女だけが残され――
――ない。
呆然とはしない。
テイイク「(……きっと何かを一人で抱え込んでるんだ。私たちに言えない悲しい事があるんだ)」
テイイク「(……これは、本人が聞かれたくないんだ。なら、皆に相談するのはちょっと様子を見よう――でも)」
テイイク「(私が、力になれるなら、なってあげないと)」
テイイク「(吹雪ちゃんなら何とかするんだろうけど、私もそうやって、やってみよう)」
テイイク「でも、何だろう……」
テイイク「『ヤハギ』って、誰……?」
投下終了
短くてもなるはや
支援絵なるものを描いてみた
下手のは許して
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira142753.png
>>896
有難い事です。
改めて見るとこのスレタイはどうかしてますね←
近々続きを書きます
投下開始
――――一方そのころ
如月「お野菜ばかり焼くのも飽きてきたわね……」ジュー
クー「魚、釣れた、けど?」ビチビチ
如月「あら素敵。水門の上ならではの新鮮さね」
マザー「串が入り用でしょうか?」スッ
如月「ええ。では、一つ焼かせてもらいましょうか」
クー「ママも、食べよう」グッ
マザー「ええ、頂きますとも」ニコ
ジュンイク「……美味しい」
吹雪「それは良かった」
ジュンイク「吹雪。向こうに居なくていいの?」
吹雪「ジュンイクさんこそ。内海ばかり見ている」
吹雪「……『彼女』たちと、会食ですか?」
ジュンイク「うーん、それもあるけどね」
ジュンイク「この気持ちを、私だけのものにするのがもったい無くて」
吹雪「――それは」
ジュンイク「あっはは、訳が分からないよね。うん、私も」
ジュンイク「――ああ、生きてる。素敵だよ……みんなも、生きていてほしい」
ジュンイク「それだけで、私はもう満足だなー」
吹雪「……そうですか」フッ
吹雪「……話は変わるのですが、イカを焼きました……食べます?」
ジュンイク「うん! 食べる食べる!」
ジュンイク「んー、しあわせ!」モグモグ
ジュンイク「はやくしないと、無くなるよー!」
揺り籠の艦娘ら『………………』
――――夕暮れを迎えて、初月
初月「……っ」パチッ、ガバッ
初月「……眠っていたのか。少し頭を使いすぎたか?」
初月「仮に与えられた自室だが、存外落ち着けるな。僕の好みに近い」
初月「一応、奴らにもプライベートの空間という意識があるみたいで助かったな……」ゴキゴキ
初月「……昼までに歩き過ぎたな。リハビリ不足の体には負担だったか。全身が重い……」
初月「……ドックがあったな。湯にでも浸かれば疲れも取れるだろうか」
初月「もう一回、今度は一人で色々見て回らないとな……利用できそうな物を探しておこう」
初月「……本当にダルい。まずは体調を整えないとな」
――――浴場
チャプ……
初月「ふう……しかし、有難いな。妖精がいるのは大きい」
初月「(……それが何にせよ、だな。果たす機能が同じならば、今は文句も言わないさ)」
ガラッ
初月「む」
初月「(誰か入ってきたな……これだから嫌なんだ。何とかして個室ドックでも作らせようか……)」
如月「あら、初月さん」
初月「如月か。それに――」
テイイク「あ、あはは……やっほー?」
初月「お前か」
テイイク「私もご一緒していいかなー……?」チラッ
初月「世話になってる立場は僕の方だ。嫌だろうと文句も抗議も言わないし行わないさ」
テイイク「嫌なのは隠さないんですか……?」アハハ……
初月「何故隠す必要がある。はっきり態度に出さないとお前みたいなのには分かりもしないだろうに」
テイイク「ははは……ではお邪魔するね」チャプ
如月「ずいぶん仲がいいのね」クスッ
初月「どこをどう見て言っている」
如月「あら、言葉通りに聞こえたかしら?」
初月「……いや」
如月「でしょう?」
初月「……今のでお前が大分嫌な奴だと分かったのは収穫だ」
如月「別にそんな……ただ私は、貴女が吹雪ちゃんにキツーく当たってるみたいなのが嫌なだけでー?」
テイイク「ま、まぁまぁ。お風呂、入ろ!」
――――
「「「…………」」」
テイイク「そ、そういえばさ。初月ちゃん、まだここに慣れてないでしょ? 分からない事があったら聞いてね」
初月「……丁度いい。聞きたい事があったが、お前たち、それは?」
如月「何かしら、藪から棒に」
初月「何故怪我をしている、と聞いている」
テイイク「ああこれ? 食後に演習をしたからだよ
」
初月「演習か。お前らでも訓練はするんだな……いや、そうでなければあんな練度にはならないか」
如月「……? 私たちがやってるのを見ていたの?」
初月「――あ、いや。まあ、そうなるな。腕だけは中々だよ」
テイイク「お、誉められた?」
初月「少しだけだ。それで小破していれば何にもならない」
如月「いいじゃない、少しくらい」
如月「このくらいなら、ちょっと浸かれば治るもの」
如月「んっ、ほら。もう傷、無いでしょ?」
初月「それもそうだ、が――」
初月「っ!!!」ザバッ!
テイイク「わっぷ……どうしたの、急に立ち上がって」
初月「(そうだ……どうしてこんな単純な事を見逃していた――当たり前だからか! クソ、うっかりしていた!)」
初月「もう一つ聞かせろ、この島の人間はどこだ?」
テイイク「人間?」
如月「ここに人間は居ないわよ。私たちだけ」
初月「そんなバカな――冗談なら早くネタバラしを頼む」
如月「そう言われても……そもそもここは真珠湾よ? 私たちもここに来るまでは、深海棲艦の領域だと思っていたのに」
初月「それは、そう、だが……それではおかしい!」バシャッ
初月「(そうだ、それでは『怪我が治る筈がない』……!)」
如月「キャッ……何を興奮して……もう、前髪が濡れちゃったじゃない」スッ
キラッ
初月「っ――おい、如月」
如月「何かしら?」
初月「その指輪――もしかして、『結魂』の……?」
如月「? ええ、そうだけど。『ケッコンカッコカリ』、のよ」
テイイク「あ、ちょっとニヤけてる」
如月「あら、困っちゃうわ――ふふっ」
初月「なら、やはり人間がいるんだろう! 『提督』がいるはずだ、何故嘘を吐いた……!」
テイイク「ど、どうどう。どうしたの急に」
如月「そうよ。それに嘘は言ってないわ。だってこれは、吹雪ちゃんとケッコンした時の指輪だもの」
初月「は? 何を言って……艦娘が艦娘と結魂できるはず、が――っ!!?」ズキィッ!
初月「――――!」
――――
『――元帥直属の、初月だ。お前が、吹雪か』
『――はは。んっ、いやすまない。お前を笑った訳じゃないんだ』
『だが、同朋相憐れむ――と言う奴だ。気にしないでくれ』
遡る。
『資料も煩雑だ……本人にしか分からないように並んでいるな……』
『……僕のか。それに、これは……?』
『……駆逐艦吹雪、か。これは――はは、ざまぁないな。人間め、欲張った結果がこれだ』
『全く、痛い損失で笑ってしまうよ』
――――
初月「――思い、出した」
如月「ど、どうしたのよ。そんなに慌てて」
初月「……そういえば、吹雪を見ないな。いつも君と一緒にいるイメージがあるが」
如月「吹雪ちゃんなら部屋で休んでるわ。ずっと働き詰めだったし」
初月「そうか……僕はもう上がる。失礼」
如月「どうしたのかしら、一体」
テイイク「……変だね」
如月「何が?」
テイイク「あの子が、失礼、なんて謝るなんてさ」
如月「謝る、というか断りを入れた、というか?」
テイイク「何にせよ、慌ててたのは間違いないねー」
如月「そうね……」
テイイク「そういえば、吹雪ちゃんが提督さんの代わりをしてるって話をしてなかったんじゃない?」
如月「……あ。それで混乱したのかしら。後で伝えておかないと……ね」
――――廊下、夕暮れの射し込む
初月は昂っていた。
どうするか、どうすべきかと考えていた所に、可能性が山盛り降ってきたみたいに。
初月「はっ、ははっ……!」
思考が楽しい程だった。
何でも出来るし、やってみれる。
失敗しても次案を思い付ける――やる事がある、前に進める。
そういう状況が来ていて、正にそれを望んでいたのだ。
初月「(さてさて、どうする? 奴が、提督であるのならば――『残っている』という事だろう)」
初月「(奪えるか? いや、少し別けてもらえるだけでもいい)」
初月「(何にせよ、先ずは一つだ)」
初月「なるほどなるほど。通りでな。僕はアイツに熱を上げていたわけだよ。反吐が出るな」
ツカツカと廊下の木材を奏でながら、初月は勇み足で吹雪の部屋に向かう。
迷う事もなく辿り着き、気取られないよう、静かに扉をノックした。
「どうぞ」と中からは吹雪の声。
開けて部屋を一つ見回して、彼女しか居ないのを改めて確認した。
吹雪は、ベッドに座っている。初月を見て、少し驚いた。
吹雪「初月さん、どうかしまし――た、か?」
有無を言わせない早さで初月は彼女に歩みより、肩をそっと押した。
当然、吹雪は柔らかく、寝床に横になって。
吹雪「初月さん?」
その肩を押さえ、馬乗りになって、目線を合わせ、初月は一言こう言った。
初月「吹雪、僕とケッコンしてくれ」
投下終了。
次もなるはやで行きたい。
気を抜くとすぐ一月経つ。
近々更新します
近々。仕事忙しくて脳がこの世界に行けてないです。辛い
よっしゃー投下開始
――――
言われた事が良く理解出来ず、吹雪は目を丸くして聞き返す。
吹雪「え、あの……今なんと?」
ベッドの軋む音が、小さく細やかに鳴っていた。
初月の呼吸が柄にも無く少し乱れているからだろう。
初月「だから、僕とケッコンしろと。二度も言わせないでくれ」
吹雪「け、結婚!?」
初月「ああ、手早く頼む」
何を言っているのかは分かった。
いや意味する所は不明過ぎるのだが。
吹雪「そ、そんな突然……それに、私たちは女同士で」
初月「何だ、そんな事か。なに、確かに珍しいが……やる事は変わらないだろう」
吹雪「ヤル事!? いやいやちょっと初月さん!? 段階を少し飛ばしすぎでは!?」
――身の危険が迫って、いる。
漸くこの状況が意味する所、意味するまずさを感じた。
慌てふためく吹雪を跨ぎ、見下ろして、初月は理解。
故に呆れ気味で、長く息を吐く。
初月「(……コイツは、余程の能天気なのか? 二重人格とすら疑える程だぞ)」
初月「……何を勘違いしているのか知らないが、婚姻、契り――そういった類いの『ケッコン』じゃあないぞ」
吹雪「へっ?」
初月「ケッコンカッコカリ、と言えばお前には伝わるか?」
吹雪「あ――ああ! あはは、いや、何だー! び、びっくりしましたよ!」
自分の勘違いに、気恥ずかしそうにする吹雪。
頬も赤く、愛想笑いするのが瀬戸の際だった。
――呑気だな。やる事は変わらないのに。
吹雪「……いや、しかし。その、申し訳無いのですが……理由を聞いてもよろしいですか?」
初月「当たり前の事を聞くんだな。だがまぁ、今の僕は機嫌が良い。答えるのも吝かではないさ」
初月「……単純な強化の為さ。この僕でも、ケッコンし能力が底上げされれば、また海に出て戦えるかもしれない」
初月「出来ることは、全部試してみたいのさ」
なるべく、真剣に。
嘘だって言ってないさ。
……本当の事も、言ってないが。
吹雪「――ええ。そういう事なら、分かりました」
吹雪「勿論、協力は惜しみませんよ。しかし、初月さんも人が悪いですね。こんな風に押さえ付けられて言われたら、私だって誤解の一つもしますよ」
初月「誤解?」
吹雪「ええ。こう、えいやっ――とですね。手込めにしに来たのかと」
吹雪「ですので、そろそろ退いていただけ――初月さん?」
押さえる力が強くなったのを感じて、吹雪は言葉に詰まる。
ケッコンカッコカリをしてくれ、と言われたが。
――そういえば、自分はその方法を知らない。
如月と交わした時は、どうだったろうか――と思い当たって。
だから、聞いた。
吹雪「――所で、話は変わるのですが。私はその、提督ではありますが……自称、みたいな物でして」
初月「問題無い。気にするな」
目が座っているような。気がした。
吹雪「そ、そうです? で、では次なんですけれど……自分は、その、ケッコンカッコカリのやり方?には明るくないんです」
初月「……そうか。まあ、そうだろうとは思っていた」
吹雪「……退いてくれない理由と、関係あります?」
初月「……ああ。やり方は教えてやる――暴れるなよ」
――途端に、初月が覆い被さってきた。
のし掛かれて、おおよそ動けないし――動かさせるつもりも無いのだろう。
吹雪「っ!?」
必然、耳元で囁かれる。
初月「――簡単だ。お互いの『触媒(たましい)』を分け合えばいい」
吹雪「……つまり?」
初月「体液でも交換すれば、早い話さ。お前は、あの如月とケッコンした時に――」
初月「――どう、した?」
初月の顔は耳の横にあって見えないが――多分、イヤらしく笑っているだろう。
そう吹雪は確信した。
吹雪「…………キスを」
初月「なんだ、分かっているじゃないか」
それは――少し、遠慮したい。
初月「……協力してくれるんじゃなかったのか?」
初月「僕の強化の為だ。お前に、僕を拒む理由などあるか? ないだろう」
初月「お前は、皆を助けたい。その為に、僕は――いた方が――」
初月「い、い、だ、ろ?」
吹雪「ぅづっ!?」
背筋に何かが走ったようだった。
雰囲気が変わったのだ。
恐らく吹雪は餌で、初月は――肉食の、何か。
初月が少しだけ身体を起こして、目を見つめてくる。
初月「そう怯えるなよ。僕も、『久しぶりの提督』にそんな風にされたら――堪らないだろ……!」
吹雪「ま、まっ――」
――――艦娘と提督
初月「ん――」
吹雪「――!」
迷いも無く、初月は吹雪に口付けた。
固く閉じた唇を、初月は慣れた手付き――口付きで。
舌で、丁寧に削っていく。
が、余りに頑なな吹雪に、一拍置いて。
初月「……何故拒む」
吹雪「そ、それは……」
初月「お前だって、頭では分かってるだろ。ケッコンしない理由が無いって」
吹雪「ですが、その、こういうのは!」
初月「好き合ってないとダメ、か?」
吹雪「……私の知っている提督も、そうでしたから」
初月「変な所で倫理観とやらに囚われるな、お前は。お前だって、女が好きなんだろうに」
その言われ方は、少しだけ。
少しだけ気に障って。
吹雪「……違います。私は、誰でもいい訳じゃない」
初月「ふん。そうか……なら」
彼女の足が絡み付いてきた。
タイツの細やかな感触が、太ももを伝ってゾクゾクする。
駆逐艦にしては発育した体を、彼女は擦り付けてきた。
初月「惚れさせてやるさ。こう見えて、経験は豊富でね――いや、自慢げに言うものでもないか」
吹雪の臍を撫で、そのまま服の中へと手を差し入れた初月は――スポーツブラの中身を撫ぜ上げ、弄ぶ。
吹雪「んっ、あっ――!」
初月「ガラ空きだぞ、と」
思わず声を上げたその口を、塞ぐ。
舌を捕まえた唇が、その唾液を、蜜を吸い上げた。
吹雪「――、――!」
初月「(――旨い。やはり確定だ。コイツは――提督だ)」
初月には、経験があった。
モノをねぶるのも、女の舌も、変わらない。
自分の体も、容姿も、性的な事に活用できるのも、良く知っていた。
ソレが嫌いだった。今も嫌いな筈。
でも、『提督』は。
分かっていても、こんなに――ああ、こんなにも。
初月「(麻薬だな、まるで)」
唾液を絡ませ、送り込み、吸い上げ、飲み干し。
体が熱くなるのを感じた。成る程、吹雪を取り込んでいるのだろう、と。
少し、離れて、堪らず呼吸する吹雪の、呼気すら奪う。
空気すら、この行為には不要で。
お互いの吐息だけ、吸い合う程の濃密な近さで。
初月「んっ、ふぅ――ん、むっ……」
吹雪「んぅ……! むっ、ぷはっ――ふむぐっ……」
――――
行為は、たっぷり十分と続いた。
吹雪の意識は、既に蕩けて――朦朧としている。
吹雪「あ……う……」
初月「――喰い過ぎたか?」
初月は、自分の体の変化を確かに感じていた。
明らかに体調が良い。
ドックで完全回復した時ですら、ここまででは無いほどに。
であれば、もうケッコン出来ていてもおかしくない――そう、初月は思ったのだが。
しかし、彼女は――少しばかり、胡乱になっていて。
ならば、より深くを、試してみるか。と。
再度口淫を始める。
ピク、と吹雪の腰が反応した。
吹雪「う――?」
初月の手がその股を這って――スカートの中の、布の、その中に滑り込む。
初月「(流石にこの経験はないな――ま、似たような物だろうさ)」
ぐず、と。
その細い指を差し入れて。
吹雪「――あっ、ああっ!!?」
大きく仰け反る。
が、反応に気分を良くした初月は、速く激しく掻き回した。
初月「はは、良いぞ。体液はこっちでもいいしな――っと!」
吹雪「ひっ、あっ、あっ――ダメ、ダメっ……やめて……!」
目に涙を溜め、臍の下から来る快楽に翻弄される吹雪。
普段の気丈さからは想像も付かない程の、少女。
初月「ほら、観念してケッコンするん、だな!」
鳴き声すら奪い、上も下も水を鳴らす。
小さく速く、指を動かして。
吹雪「むー!!? うむっ、はっ――きさ、らぎちゃ――ふむっ」
息も絶え絶えに、呼吸を許されない。
小さく、無意識に呼んだのは、誰か。
初月「(手強いな……というか、ケッコンに手強いとか、あるのか?)」
まあ、もう暫くやれば音を上げるだろう、と呑気にも構えていて。
だから、コツリ、と。
後頭部に当たるまで気付かなかった。
何を――?
それは勿論、駆逐艦の主砲がだ。
初月「……何か?」
「いやいや、分かってるのよ? 私、らしくないって」
如月「でも、ちょっとそこは退いてくれる? 私、結構そのベッド使うから、あんまり乗ってほしくないの」
全年齢向けに書きました。
投下終了
少々お待ちを
年末……?
時間無さすぎ……
あけましておめでとうございます←
このまま保守で埋まりそう……
保守です
もうこんなに時が……?
投下開始
────色一つ、触り発つ。
銃口の視線を感じながら、初月は振り返った。
見下ろすように、如月はそこにいる。
目を合わせ、少し笑ってみせた。
何故なら、こうまでされる理由も無いからだ。
少なくとも表向きは。
初月「そうか、それはすまなかったな」
初月「もうじき用事も終わる。それまで待ってくれないか?」
如月「用事って?」
初月「見て分からないなら教えてやる」
ぐったりと、力無く横になっている吹雪を顎で指し──
初月「『結魂』だよ。お前のように、僕も恩恵に預かろうと思ってな」
如月「恩恵?」
如月「恩恵って何かしら? 少し調子が良くなったり、動きが軽くなったり?」
初月「何だ、良く知ってるじゃないか──」
艤装の、引き金が少し鳴る。
初月「……だから、これはお前が思うような行為ではない、と説明しなければならないか?」
如月「いえ、分かったわ。よく」
初月「ならお前が苛つく理由も、無いはずだ……これは同意の上だからな。吹雪の様子を見れば分かるだろう」
小さく笑う──のは、如月。
底冷えする感覚に、初月は如月の目を見て。
如月「そうね。とてもよかったのだと思うわ」
如月「でも、それとこれとは何の関係も無くないかしら?」
初月「……と言うと?」
初月も、意識を集中する。
もし撃たれても、艤装を展開できるように──構えて。
如月「私ね、思うの」
如月「お腹が減ったから、ご飯を食べよう──とか」
如月「喉が渇いたから、お水を飲もう──とか」
如月「もっともっと単純に、息が苦しいから空気を吸おう──とか」
初月「……?」
如月「そんな事、当たり前で──そこに前後の理由は無いと思うの」
如月「したいから、する」
如月「したいと思ったから、していい」
如月「で、ここからなのだけれど」
如月「人を殺そう、なんてのは普段、普通、思わないのよ」
如月「思っても、色んな柵があって、結局は『選ばない』」
初月「……へえ、で?」
如月「だから、自分が『ああ、殺そう』って思ったときは──」
如月「──そう、するんじゃないのかしら」
如月「だから、前後はどうでもいいの。吹雪ちゃんの様子とかも関係無いの。貴女がちょっと苦手なのだって違うわ」
如月「でも、殺そうって思ったから」
如月「……ダメかしら」
如月「私、貴女を殺そうって、思ったの」
如月「分かってないみたいだから、教えてあげたの」
そして、彼女は無表情になった。
初月も、見えない艤装に手をかける。
それは余裕では無く、純粋に怯えから。
やはり、と確信する。やはり、と落胆する。
『艦娘』にあるまじき感情の発露である事に、只々うんざりとして──目の前のモノに対抗する為に。
初月「(……ここまでだな)」
対話で止まる相手でも無かったし、自分はそういうのに不得手だったな──と自嘲して。
吹雪「如月ちゃん、ステイ」
間の抜けた言葉選びのソレ。
吹雪が上半身を起こして、宥めるように如月を見て。
如月「……吹雪ちゃん」
吹雪「とりあえずソレ下ろそ。ね?」
気まずそうな笑みに、如月の激情も──あっさり大人しくなって。
如月「……浮気?」
吹雪「説明の余地を頂ければと……」
如月「……もう、ホントに」
初月も、一息吐く。
いい所で目を覚ましてくれた。
『提督の命令』なら、艦娘は逆らえない──から。
初月「(……今のもそうかは判断に困るが、でも確実だ)」
初月「(──しかし、何故)」
初月「(何故──結魂できなかった──?)」
投下終了です
投下開始
────一つ、呼吸して
吹雪「……それで、どうでしたか?」
初月「ダメだな。ケッコンは失敗したようだ」
如月「……何よそれ。浮気損じゃない」
初月「…………」
初月は目線を落とし、何か考え込んでいるようで。
如月「……何よ、その顔。落ち込んででもいるのかしら?」
吹雪「如月ちゃん」
如月「……ふん、だ」
初月「(ケッコン出来なかった……となれば、魂の交換が成らなかったという事になる)」
初月「(やはり、コイツと僕じゃあ──信頼、とかいうのが足りないんだろうな)」
と、考えて──気付く。
初月「(──いや、僕の体は好調だ。頗る機嫌がいい)」
初月「(なら、コイツは、僕に入ってきてる)」
初月「(コイツは、僕を『信頼していた』──)」
初月「──ハハッ、なるほどな」
吹雪「どうしました?」
初月「いやなに、やっぱりケッコンと言うのは難しいな、と思ってな」
初月「お前と僕とじゃあ、そういう関係にはまだなれないんだろうよ」
初月「良いじゃないか、如月。お前は十分に愛されてるし、僕はそうじゃない。こんなのは浮気とは言わないさ」
吹雪「……確かに、ケッコンは基本的に深い仲の提督と艦娘で行われる、とは聞き及んでいます」
初月「そこの段階を飛び越したんだ。上手くいくはずもないか」
如月「ざまーみろよ」
初月「──ククッ」
如月「な、何よいきなり」
初月「いや、全くだ。様も見られたものじゃない」
初月「また、それなりの仲になれたら、改めて頼むとしよう」
そう告げ、彼女は寝台から下りた。
吹雪「お力になれず、すみません」
初月「お互い様だろう。そこの狂犬には悪い事をした。あやすのは任せるよ」
如月「誰が狂犬──っ!?」
その言葉に噛み付こうとして、如月は一瞬すくむ。
背後、足元に──高射砲。如月の自立艤装だ。
初月「こうやるんだぞ、次からはな。行こう」
初月の命令に、自立艤装は消滅して──初月と共に立ち去る。
後には、二人だけが残された。
如月「……で、だけど」
吹雪「できればお手柔らかに……」
────
初月「アイツを信用してなかったのは、僕だ」
初月「だから上手くいかなかった……僕は、アイツに体を許すほどでは無かったから」
初月「まあいい。それならそれで次だ」
初月「やる事がたくさんだ──これはこれで、少しは楽しめるかもしれないな」
投下終了
速報やっと甦ったのね
このSSまとめへのコメント
うむ、よく分からん。
おいてきぼり感にゃしい
最初すごく面白かったんだが途中で過去話と現在の話と別の話が
入り乱れて訳ワカメになってしまったなぁ
漫画や映画なら話が行き来して切り替わっても察知出来るけど
SSの場合過去の話なら過去の話で一気にやっつけて欲しいものだ
秋イベにまさかのクロスロード組特攻があったから邪推してしまう...
PVの数の少なさに騙されてはいけない。
ここまで話を真実を引き伸ばす意味はあるのだろうか…。文章も正直読みづらい。
シナリオはおもしろいからえたる前に完結してほしいところ。
深海潜水艦の描写でもそうだったし、今回の
初月でどういう状況か完全に明かした訳だから
ここからは大胆に話を欲しいな
あまりにも読者と主人公に与えられている
情報量の差が大きすぎてやきもきしてしまう
まだ明かされていない謎もあるし、話の終着点
もとても気になるので尚更そう思ってしまう
ずっと待ってるぞい 好きなssの更新を待ち続けるのには慣れてる